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リファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(91)693《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):693.695,2011cはじめに2008年に抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチンがリファマイシン系薬剤としてわが国で承認された.リファブチン特有の副作用の一つとしてぶどう膜炎があげられている.海外では1992年から承認されていたこともあり,リファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告1)と眼科医からの報告2)があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.I症例患者:80歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:2003年10月に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術施行.心房細動にて塩酸ベラパミル,アスピリン内服中であった.2003年,肺非定型抗酸菌症に対して内科にてリファンピシン,クラリスロマイシン,エタンブトールによる治療を開始した.その後,排菌が持続し,投薬が長期化したため,〔別刷請求先〕飯島敬:〒252-0374相模原市南区北里1丁目15番1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KeiIijima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0374,JAPANリファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎飯島敬市邉義章清水公也北里大学医学部眼科学教室Rifabutin-associatedHypopyonUveitisKeiIijima,YoshiakiIchibeandKimiyaShimizuDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチン(RBT)がリファマイシン系薬剤としてわが国でも使用されている.本剤の副作用の一つにぶどう膜炎があり,海外からの報告は散見される.国内では呼吸器内科医からの報告と眼科医からの報告があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.症例は80歳,女性.6年前に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術が施行されていた.肺非定型抗酸菌症に対してのRBT内服約2カ月後に右眼霧視を自覚.前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認め,ステロイドの点眼を開始したところ2日後に前房蓄膿は消失したが,右眼発症の10日後に左眼にも発症.RBTによる副作用も考え投与を中止した.中止後から視力は改善していき,発症40日目に前房の炎症はほぼ消失した.RBTの使用中は前房蓄膿を伴う両眼性非肉芽腫性ぶどう膜炎に注意する必要がある.Wereportacaseinwhichhypopyonuveitisappearedduringtreatmentwithrifabutin(RBT)andclarithromycinformycobacteriumaviumcomplex(MAC)pulmonaryinfection.Thepatient,an80-year-oldfemalewhohadbeentakingRBTfor2months,presentedwithblurringinherrighteye.Slit-lampexaminationoftheeyeatthattimeshowedmarkedhypopyon,whichresolvedwithin48hoursoftopicalsteroidadministration.Tendaysaftertheonsetofuveitisintherighteye,thepatientnotedblurringinherlefteye,andslit-lampexaminationshoweduveitisinthateye.ThevisualacuityanduveitisinbotheyesimprovedafterRBTwasdiscontinued.Therewerenoabnormalitiesineithertheopticnerveorretina.Cautionisnecessarywhentreatingbilateralnon-granulomatoushypopyonuveitiswithRBT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):693.695,2011〕Keywords:リファブチン,前房蓄膿,ぶどう膜炎.rifabutin,hypopyon,uveitis.694あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(92)2008年8月,投薬をすべて中止した.しかし,2009年10月に肺病変の悪化を認め,投薬を再開した.このとき,抗菌力向上を目的として,リファンピシンからリファブチンに切り替えた.再治療開始約2カ月後,右眼の霧視を自覚し当院眼科初診となった.初診時,視力は右眼矯正(0.9),左眼矯正(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼14mmHg.右眼に前房蓄膿を伴う非肉芽腫性の虹彩炎を認めた(図1).眼底は散瞳不良のため観察が困難であったが,Bモードエコー上,明らかな硝子体混濁はなかった.限界フリッカー値は両眼30Hz台前半,角膜内皮細胞密度も両眼2,400/mm2台後半と左右差なく,Humphreyの静的視野検査(HFA30-2)でも両眼左右差なく特記すべき所見はなかった.血液検査ではHSV(単純ヘルペスウイルス)のIg(免疫グロブリン)MとHLA(ヒト白血球抗原)でB51が陽性以外に特記すべき異常はなかった.初診時,感染性眼内炎も疑い右眼より前房水を採取しておいたが,培養では細菌,真菌ともに陰性であった.その他,頭部造影MRI(磁気共鳴画像)でも異常所見は認めず,眼外所見として皮疹や口内炎も認めなかった.II経過発症2日目から0.1%ベタメタゾンの点眼を開始した.開始2日目,角膜にDescemet膜の皺襞が出現し,右眼矯正視力は0.3に低下したが,前房蓄膿は急激に消失していた.右眼発症10日後に左眼の霧視を自覚.患者本人の自己判断で0.1%ベタメタゾンの点眼を開始し,左眼発症4日後に来院した.左眼矯正視力は0.15と低下し,前房蓄膿はないものの,前房の炎症とDescemet膜の皺襞を認めた.発症形式からリファブチンによるぶどう膜炎が考えられたため,初発の右眼発症23日目に内科医に相談し,肺非定型抗酸菌症の状態が安定していることを確認してリファブチン,クラリスロマイシン,エタンブトールの投与を中止した.その後,視力と炎症所見は改善し,リファブチン投与中止後40日目に右眼矯正は1.0,73日目に左眼矯正は0.9に改善した.両眼,Descemet膜の皺襞や前房の炎症はほぼ消失した.経過中,眼底,OCT(光干渉断層計)には異常を認めなかった.その後1カ月現在,再発は認めていない.III考按前房蓄膿をきたすぶどう膜炎としてBehcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎,仮面症候群(悪性リンパ腫),そして眼内炎(内因性,外因性)などがあげられる.本例は発症6年前に白内障手術を受けているので遅発性眼内炎の可能性もあり,初診時,ただちに前房水培養を施行したが結果的には陰性であった.急激な発症や短期間での前房蓄膿消失からも否定的である.Behcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎は年齢や性別,また前者に対しては皮疹や口内炎などの眼外症状がなく可能性は低いと思われるが,HLA-B51は陽性で完全に否定することはできない.仮面症候群(悪性リンパ腫)は頭部造影MRIなどより否定的であった.海外では1992年から承認されていたこともありリファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告が最初である1)が,眼科医からの詳細な報告は2報ある2,7).石口らの報告はフィリピン人の後天性免疫不全症表1過去の報告文献HIV症例(数)発症までの投与期間僚眼発症前房蓄膿前房蓄膿消失時間視力回復までの期間KelleherP(1996)陽性10平均2カ月4/10例あり3/10例あり不明平均8日DanielA(1998)陰性11.5カ月ありあり1日6週BhagatN(2001)陰性32週~9カ月ありあり1~2日1~3週FinemanSM(2001)陰性22週~2カ月なしあり数日4週~18カ月石口(2010)陽性12カ月ありあり1日3カ月福留(2010)陰性22~3カ月なしあり2日1カ月本症例陰性12カ月ありあり2日6週HIV:ヒト免疫不全ウイルス.図1右眼前眼部(リファブチン投与開始後2カ月)(93)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011695候群患者2)で,福留らの報告は日本人の後天性免疫不全症候群を合併していない2例である7).福留らの報告と本例は発症期間や経過はほぼ同様であるが,僚眼に発症していない点が異なっていた.他の報告と同様に僚眼発症にも注意する必要があると思われる.発症機序としては中毒性が考えられている.過去の症例報告をまとめると,片眼ずつ発症し,前房蓄膿を伴うが早期に消失して視力回復も早いことが特徴であり3~7)(表1),本症例でも同様であった.発症頻度は体重当たりの投与量に依存するとされている.過去の文献によると,リファブチンを1日600mg投与した場合のぶどう膜炎発症頻度は,体重65kg以上で14%,55kgから65kgの間で45%,55kg未満で64%と報告されている8).さらにクラリスロマイシンと併用した場合,血中濃度が1.5倍以上に上昇し9),発症頻度は高くなる6,10).過去の報告によると,クラリスロマイシン併用時のリファブチン初期投与量は150mg/日,6カ月以上の経過で副作用がない場合は300mgまで増量可としている11).本症例はリファブチン150mg/日と少量であったが,本症例患者の体重が30kgと少なくクラリスロマイシンを併用していたため,副作用が出現しやすい状況にあったと考えられる.また,本症は0.1%ベタメタゾンの点眼が有効で,視力や所見が改善した可能性もあるが,リファブチンの投与を中止してからの視力改善が著明であったことから薬剤性の要素が大きいと考える(図2).薬剤性の眼副作用は前述したように過量投与によるものをしばしば経験する.高齢者の場合,体重が低いことや,腎機能,肝機能低下によって血中濃度が上がり,副作用が起きやすい状況にある場合が想定される.今まで薬剤性の眼副作用といえば視神経や網膜に関する報告が多いが,今後はぶどう膜炎にも注目する必要があろう.IV結語リファブチン投与中に前房蓄膿を伴い片眼ずつ発症する両眼性急性非肉芽腫性ぶどう膜炎を経験した.リファブチンは特有の副作用としてぶどう膜炎があげられ注意が必要である.文献1)永井英明:ミコブティンRカプセル.呼吸28:151-155,20092)石口奈世里,上野久美子,原栁万里子ほか:リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎を生じた後天性免疫不全症候群患者の1例.日眼会誌114:683-686,20103)BhagatN,ReadRW,RaoNAetal:Rifabutin-associaterdhypopyonuveitisinhumanimmunodeficiencyvirus-negativeimmunocompetentindividuals.Ophthalmology108:750-752,20014)FinemanSM,VanderJ,RegilloCDetal:HypopyonuveitisinimmunocompetentpatientstreatedforMycobacteriumaviumcomplexpulmonaryinfectionwithrifabutin.Retina21:531-533,20015)JewlewiczDA,SchiffWM,BrownSetal:Rifabutin-associateduveitisinanimmunosuppressedpediatricpatientwithoutacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol125:872-873,19986)KelleherP,HelbertM,SweeneyJetal:UveitisassociatedwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteriumaviumintradellulareinfectioninAIDSpatients.GenitourinMed72:419-421,19967)福留みのり,佐々木香る,中村真樹ほか:リファブチン関連ぶどう膜炎の2例.臨眼64:1587-1592,20108)ShafranSD,ShingerJ,ZarownyDPetal:Determinantsofrifabutin-associateduveitisinpatientstreatedwithrifabutin,clarithromycin,andethambutolforMycobacteriumaviumcomplexbacteremia.Amultivariateanalysis.CanadianHIVTrialsNetworkProtocol010StudyGroup.JInfectDis177:252-525,19989)HafnerR,BethalJ,PowerMetal:Toleranceandpharmacokineticinteractionsofrifabutinandclarithromycininhumanimmunodeficiencyvirus-infectedvolunteers.AntimicrobAgentsChemother42:631-639,199810)BensonCA,WilliamsPL,CohnDLetal:ClarithromycinorrifabutinaloneorcombinationforprimaryprophylaxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS.Arandomized,double-blind,placebo-controlledtrial.TheAIDSClinicalTrialsGroup196/TerryBeirnCommunityProgramsforClinicalRsearchonAIDS009ProtocolTeam.JInfectDis181:1289-1297,200011)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─2008暫定.結核83:731-733,2008小数視力初発0日2週4週6週8週10週12週14週16週経過期間0.11:VD:VS(0.2)(0.15)(1.0)(0.9)投与中止後から徐々に改善初発23日目RBT投与中止図2視力の経過***

眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)689《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(5):689.692,2011cはじめに現在,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術は世界中で幅広く行われている.特に,laserinsitukeratomileusis(LASIK)の有効性は非常に高い1).一方で,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術後の合併症の一つである角膜感染症が問題となってきている.LASIK後の角膜感染症の頻度は0.03%から0.31%と報告されていて,頻度は少ないが,重篤な視力障害を後遺症とする感染症をひき起こすことがある2~6).特に,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)角膜炎は治療に抵抗性であり,たとえ治療が奏効しても角膜混濁を残して視力低下を招くため7),患者のqualityofvisionは著しく低下する.Solomonらは屈折矯正手術後に生じたMRSA角膜炎の文献的検索を行い,12例中9例が医療従事者であることを指摘した7).また,わが国ではNomiらがepi-〔別刷請求先〕北澤耕司:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討北澤耕司*1,2外園千恵*2稗田牧*2星最智*2,3木村直子*2坂本雅子*4木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*3藤枝市立総合病院眼科*4一般財団法人阪大微生物病研究会Methicillin-resistantStaphylococcusaureusCarriersamongOphthalmicMedicalWorkersKojiKitazawa1,2),ChieSotozono2),OsamuHieda2),SaichiHoshi2),NaokoKimura2),MasakoSakamoto4)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMuncipalGeneralHospital,4)ResearchFoundationforMicrobialDiseasesofOsakaUniversity目的:眼科医療従事者を対象に鼻前庭の培養検査を行い,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌率について検討した.方法:対象は京都府立医科大学眼科(KPUM)およびバプテスト眼科クリニック(BEC)に勤務する医師およびコメディカルで,内訳はKPUMが医師38名とコメディカル4名,BECが医師6名,コメディカル30名の計78名である.培養用スワブを用いて鼻前庭より検体を採取し,BECではさらに片眼の結膜.培養を行った.結果:KPUMでは医師2名(4.8%),BECでは医師1名と看護師1名,合計2名(5.6%)の鼻前庭よりMRSAを検出した.両施設を合わせた眼科医療従事者では4名/78名(5.1%)の保菌率であった.結膜.にMRSAが検出された例はなかった.一般健常人と比較して,眼科医療従事者のMRSA保菌率は高かった.結論:大学病院,眼科専門クリニックのいずれもMRSA保菌者が存在した.保菌率は約5%であり,一般健常人より高かった.Weinvestigatedtherateofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)carriersamongophthalmicmedicalworkers.Thesubjectscompriseddoctors(38)andmedicalstaff(4)atKyotoPrefecturalUniversityofMedicine(KPUM),anddoctors(6)andmedicalstaff(30)atBaptistEyeClinic(BEC).Samplescollectedfromthenasalcavitybyswab,aswellasfromthelateralconjunctivalsacintheBECgroup,werecultured.MRSAwasfoundinthenasalcavityin2doctors(4.8%)intheKPUMgroupand1doctorand1nurse(5.6%)intheBECgroup.MRSAwasnotfoundintheconjunctivalsacofanysubject.TherateofMRSAcarriersamongophthalmichealthcareworkerswassignificantlyhighincomparisonwithhealthypersons.MRSAcarrierswerefoundamongophthalmicmedicalworkersinboththeuniversityhospitalandtheophthalmicspecialclinic;therateofMRSAcarrierswasalmostthesameinbothgroups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):689.692,2011〕Keywords:眼科医療従事者,MRSA,保菌率,鼻前庭,結膜.ophthalmicmedicalworkers,MRSA,rateofcarrier,nasalcavity,conjunctivita.690あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(88)LASIK後のMRSA角膜感染症の2症例中1症例が医療従事者であったと報告しており8),患者が医療従事者であることは屈折矯正手術後角膜感染症のリスクファクターであると考えられる.病院全職員9.11)や療養型病院12),耳鼻科病棟13)を対象とした医療従事者のMRSA保菌率の報告はあるが,眼科医療従事者を対象としてMRSA保菌率を調べた報告は,筆者らの知る限りない.そこで今回,眼科医療従事者を対象に鼻前庭と結膜.の培養検査を行い病院別,職種別に比較,さらに一般健常人の鼻前庭のMRSA保菌率を比較,検討したので報告する.I対象および方法対象は京都府立医科大学眼科(KPUM)およびバプテスト眼科クリニック(BEC)に勤務する医師またはコメディカルである.内訳はKPUMが医師38名とコメディカル4名(看護師3名,医療介助1名),BECが医師6名,コメディカル30名(看護師16名,視能訓練師8名,医療介助6名)の計78名であり,糖尿病やアトピーなど,基礎疾患を有するものはいなかった.KPUMは男性21名,女性21名,BECは男性5名,女性31名であった.平均年齢はKPUMが33.2±7.7歳,BECが34.2±7.8歳,KPUMとBECの両施設では33.7±7.7歳であった.十分なinformedconsentを行い,同意を得たうえで,KPUMでは2005年12月,BECでは2009年12月に検査を施行した.KPUMでは培養用スワブを用いて鼻前庭より検体を採取し,MRSAチェックR(ニッスイプレートMSO寒天培地)を用いて培養を行った.この培地では通常の培地と比べて,MRSAとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)以外の菌の発育を抑制するためコロニーが観察しやすく,48時間培養で菌の検出が可能であるといったメリットがある.MRSAチェックRにおいてコロニーを確認できた陽性者より,再度検体を採取して阪大微生物病研究会にて細菌培養を実施,オキサシリンの最小発育阻止濃度(MIC)を測定してMRSAの有無を判定した.BECでは培養用スワブを用いて鼻前庭と片眼の結膜.より検体を採取した.その検体を採取同日に京都微生物研究所に送付して細菌培養を行い,オキサシリンのディスク法でMRSAの有無を判定した.得られた結果をもとに,1)病院別にMRSA保菌率を比較,2)職種別にMRSA保菌率を比較,3)既報における一般健常人の鼻前庭のMRSA保菌率と比較,検討した.II結果KPUMでは医師2名(4.8%),BECでは医師1名と看護師1名,合計2名(4.1%)の鼻前庭よりMRSAを検出し,検出者はいずれも無症候性の保菌者であった.大学病院と眼科専門クリニックのMRSA保菌率は同程度であり(図1),また,BECとKPUMの両施設を合わせた眼科医療従事者では4名/78名(5.1%)の保菌率であった(図1).結膜.にMRSAが検出された例はなかった.さらに職種別の保菌率を検討したところ,医師3名/44名(6.8%),看護師1名/19名(5.3%),その他のコメディカル0名/15名(0.0%)であり,医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向にあった(図2).過去の文献によると,一般健常人のMRSA保菌率は1.1.1.98%14.16)である.これらの報告と今回の保菌率を比較したところ,どの報告と比較しても眼科医療従事者は一般健常人より保菌率は高かった.また,最もn数の多い小森ら14)の報告と比較して,眼科医療従事者のMRSA保菌率は一般健常人より有意に高かった(p=0.005)(表1).表1眼科医療従事者と一般健常人の鼻前庭MRSA保菌率の比較陽性陰性保菌率(%)今回(眼科医療従事者)4745.1小森ら(一般健常人)87151.1Abuduら(一般健常人)42741.4Kennerら(一般外来患者)84041.98眼科医療従事者は一般健常人と比較するとMRSA保菌率は高く,最もn数の多い小森らの報告と比較すると有意に眼科医療従事者でのMRSA保菌率が高かった(*p=0.005,c2検定).*n=42n=36医師3名看護師1名(5.1%)n=78医師1名看護師1名(5.6%)KPUMBEC両施設医師2名(4.8%)図1鼻前庭MRSA保菌率(KPUM,BEC)KPUMでは医師2名(4.8%),BECでは医師1名,看護師1名(5.6%)のMRSA保菌率であった.眼科医療従事者全体(KPUM+BEC)では5.1%の保菌率であった.医師n=443名(6.8%)その他1名(5.3%)n=15看護師n=190名(0%)図2眼科医療従事者の職種間別MRSA保菌率医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向にあった.(89)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011691III考按今回の検討により,大学病院,眼科専門クリニックのいずれもMRSA保菌者が存在し,保菌率は約5%でほぼ同程度であった.Abuduらはバイミンガル在住で16歳以上の健常人の鼻前庭培養を行い,MRSAの保菌率が1.5%(4名/274名)であったことを報告した15).Kennerらは健康な外来患者404名の鼻前庭培養を行い,MRSA保菌率が1.98%(8名)であったことを報告した16).小森らは医療従事者でない一般健常人723名の鼻前庭培養を行い,MRSA保菌者が8名(1.1%)であったと報告した14).したがって今回得られた保菌率は過去の一般健常人の報告(1.1.1.98%)と比較した場合,いずれの報告よりも高く,最もn数の多い小森らの報告14)と比較すると有意に眼科医療従事者でのMRSA保菌率が高かった(p=0.005,c2検定)(表1).一方,病院内全職員を対象としたMRSA保菌調査では7.7.9.4%9.11),療養型病院における医療スタッフのMRSA保菌率は7.9%12)という報告がある.今回得られた眼科医療従事者の鼻前庭MRSA保菌率は,他科領域の報告と比較して高くはないといえる.しかし,眼科は他の診療科と比較して悪性腫瘍や低栄養状態など,全身の免疫不全を伴う患者が少ないことを考慮すると眼科医療従事者のMRSA保菌率が4.1.4.8%であったことは,決して低い保菌率ではないと考えられた.職種別のMRSA保菌率は医師3名/44名(6.8%),看護師1名/19名(5.3%),その他のコメディカル0名/15名(0%)であり,医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向であった.伊藤らは病院職員547名に対して鼻前庭MRSA保菌率を調査しており,医師5名/81名(6.2%),看護師12名/337名(3.6%),その他のコメディカル1名/129名(0.8%)であり,患者との接触が多い職種ほど保菌率の高いことを指摘した10).MRSAは医療従事者を介する交差感染によって伝播していく.手洗いの適正な手技の習得ならびに院内感染の意識を高めることでMRSA患者検出率および新規MRSA患者の検出率を下げることができるため17,18),眼科医療従事者においても標準予防策を徹底し,MRSAの伝播を防ぐことが必須であると考える.今回の研究で示したように,眼科を含めた医療従事者ではMRSA保菌率が高い.過去の報告から,屈折矯正手術患者が医療従事者である場合は術後のMRSA感染に注意が必要である.また,標準予防策をとって眼科医療従事者におけるMRSA保菌率を下げることは,医療従事者自身の健康を守るためにも重要と思われる.今回検出したMRSAについて,抗菌薬の感受性試験や遺伝子型の検討はできていない.最近,市中獲得MRSAが報告され,これは病院獲得型に比べ毒素の産生性が強いと報告されている19).市中獲得型か病院獲得型かなどを含め,眼科医療従事者が保菌するMRSAの分子疫学的特徴について検討し,さらにDNA解析を行い,感染経路について検討することが今後の課題である.IV結論大学病院の眼科,眼科専門クリニックの医療従事者ではいずれもMRSA保菌者が存在し,保菌率は4.5%であった.一般健常人と比較すると,眼科医療従事者のMRSA保菌率は高く,標準予防策を徹底する必要がある.文献1)SchallhornSC,FarjoAA,HuangDHetal:WavefrontguidedLASIKforthecorrectionofprimarymyopiaandastigmatism.AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology115:1249-1261,20082)LlovetF,RojyasV,InterlandEetal:Infectiouskeratitisin204,586LASIKprocedures.Ophthalmology117:232-238,20103)MoshirfarM,WellingJD,FeizVetal:Infectiousandnoninfectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusisoccurrence,management,andvisualoutcomes.JCataractRefractSurg33:474-483,20074)deOliveiraGC,SolariHP,CiolaFBetal:CornealinfiltratesafterexcimerlaserphotorefractivekeratectomyandLASIK.JRefractSurg22:159-165,20065)SolomonR,DonnenfeldED,AzarDTetal:Infectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusis:resultsofanASCRSsurvey.JCataractRefractSurg29:2001-2006,20036)KarpCL,TuliSS,YooSHetal:InfectiouskeratitisafterLASIK.Ophthalmology110:503-510,20037)SolomonR,DonnenfeldED,PerryHDetal:MethicillinresistantStaphylococcusaureusinfectiouskeratitisfollowingrefractivesurgery.AmJOphthalmol143:629-634,20078)NomiN,MorishigeN,YamadaNetal:Twocasesofmethicillin-resistantStaphylococcusaureuskeratitisafterEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,20089)酒井道子,阿波順子,那須郁子ほか:一施設全職員を対象としたMRSA検出部位と職種間の相違についてDNA解析を用いた検討.ICUとCCU29:905-909,200510)伊藤重彦,大江宣春,草場恵子ほか:病院職員のMRSA鼻前庭内保菌率調査とムピロシンによる除菌.環境汚染17:285-288,200211)WarshawskyB,HussainZ,GregsonDBetal:Hospitalandcommunitybasedsurveilanceofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus:previoushospitalizationisthemajorriskfactor.InfectControlHospEpidemiol21:724-727,200012)千葉直彦,久保裕義,横山宏:療養型病院におけるMRSA検出状況.山梨医学33:79-83,200513)土井まつ子,仲井美由紀,藤井洋子ほか:異なる病棟から分離されたMethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)株の疫学的検討.環境感染15:207-212,2000692あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(90)14)小森由美子,二改俊章:市中におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の鼻前庭内保菌者に関する調査.環境感染20:164-170,200515)AbuduL,BlairI,FraiseAetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA):acommunity-basedprevalencesurvey.EpidemiolInfect126:351-356,200116)KennerJ,O’ConnorT,PiantanidaNetal:Ratesofcarriageofmethicillin-resistantandmethicillin-susceptibleStaphylococcusaureusinanoutpatientpopulation.InfectControlHospEpidemiol24:439-444,200317)斉藤真一郎,高橋真菜美,澤井孝夫ほか:MRSA多発病棟における定期的な手指消毒トレーニングの効果に関する検討.医療の質・安全学会誌2:152-156,200718)PittetD,HugonnetSHarbarthSetal:Effectivenessofahospital-wideprogrammetoimprovecompliancewithhandhygiene.Lancet356:1307-1312,200019)伊藤輝代,桑原京子,久田研ほか:市中感染型MRSAの遺伝子構造と診断(最新の知見).感染症学雑誌78:459-469,2004***

細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究)

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(77)679《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(5):679.687,2011c細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究)小早川信一郎*1井上幸次*2大橋裕一*3下村嘉一*4臼井正彦*5COI細菌性結膜炎検出菌スタディグループ*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学*3愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学*4近畿大学医学部眼科学教室*5東京医科大学Five-YearTrendSurveyinJapan(MulticenterStudy)ofBacterialConjunctivitisIsolatesandTheirDrugSensitivityShinichiroKobayakawa1),YoshitsuguInoue2),YuichiOhashi3),YoshikazuShimomura4),MasahikoUsui5)andCore-NetworkofOcularInfectionStudyGroupofIsolatefromBacterialConjunctivitisinJapan1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMeidicine,5)TokyoMedicalUniversityわが国における細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の現状を把握するため,2004年11月から2009年12月までの5年間,全国27施設を受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された症例615例を対象に,結膜から検体を採取後,阪大微生物病研究会に送付して培養を行い,症例背景(年齢,地域,受診施設など),検出菌種,薬剤感受性についてその経年変化を検討した.症例背景では,調査年による大きな差はみられず,年齢においては高齢者が多数を占めた(65歳以上45.9%).全被験者615例より検体採取が可能であり,1,156株の細菌が検出された.検出菌の内訳は,Staphylococcusepidermidis19.3%,Propionibacteriumacnes14.4%,Streptococcusspp.13.0%,Staphylococcusaureus10.8%などで,調査期間を通じてグラム陽性菌が約60%,グラム陰性菌が約20.25%,嫌気性菌が約15.20%検出され,地域にかかわらず同様の傾向を示した.薬剤感受性は累積発育阻止率曲線で比較した場合,全菌種を合わせるとレボフロキサシン(LVFX)と塩酸セフメノキシム(CMX)の感受性が高かった.菌種別のLVFXに対する薬剤感受性では,S.aureus(MSSA〔メチシリン感受性黄色ブドウ球菌〕)とP.acnesは高い感受性を示したが,Corynebacteriumspp.に対する感受性は低かった.薬剤感受性は5年間を通じて大きな変化を認めなかった.ToinvestigatethecurrenttendencyinJapanregardingbacterialconjunctivitiscasesandthedrugsensitivityoftheisolatedbacteria,conjunctivalswabsweretakenfrompatientswithsuspectedbacterialconjunctivitisat27institutionsnationwidebetweenNovember2004andDecember2009.TheswabbedsamplesweresenttotheResearchInstituteofMicrobialDiseasesatOsakaUniversity,whereweinvestigatedpatientbackground(e.g.,age,area,institution),isolatedbacterialstrainsanddrugsensitivityduringthatperiod.Therewerenosignificantchangesinbackgroundthroughoutthesurveyperiod.Agedpatientsaccountedforalargeportionofthecases(45.9%ofthepatientswereover65yearsold).Swabswerecollectedfrom615patients,and1,156bacterialstrainswerecollected.Ofthosestrains,19.3%wereStaphylococcusepidermidis,14.4%werePropionibacteriumacnes,13.0%wereStreptococcusspp.and10.8%wereStaphylococcusaureus.Ofthestrainsfoundduringthesurveyperiod,approximately60%weregram-positive,20-25%weregram-negativeand15-20%wereanaerobic,regardlessofarea.Whendrugsensitivitywascomparedusingcumulativegrowthinhibitioncurves,thosestrainsshowedhighsensitivitytolevofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX),overall.S.aureus(MSSA〔methicillinsensitiveStaphylococcusaureus〕)andP.acnesshowedhighsensitivitytoLVFX;however,Corynebacteriumspp.showedlowsensitivity.Therewerenosignificantchangesindrugsensitivitythroughoutthe5-yearperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):679.687,2011〕〔別刷請求先〕小早川信一郎:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:ShinichiroKobayakawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,7-5-23Omori-Nishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN680あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(78)はじめに細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択・投与方法は,起炎菌を検出したうえでその細菌に最も感受性のある薬剤を選択することである.しかし日常臨床では,患者の苦痛の早期軽減や社会生活への影響を考慮して,起炎菌の検出を待たずに治療を行う場合がほとんどであり,起炎菌の同定を行う前に汎用されている抗菌点眼薬を処方するのが現状である.一方,細菌の抗菌薬感受性には経年変化が認められること,近年メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌による感染症の拡大に伴い,耐性菌対策が必須であることから,日常臨床における抗菌薬選択の重要性は高く,細菌性結膜炎の起炎菌の動向を把握しておくことは意義あることと思われる.そこで,筆者らCore-NetworkofOcularInfection(COI)のメンバーは,多施設における細菌性結膜炎の検出菌の動向と薬剤感受性の現状を把握し,今後の抗菌薬投与の指標となる有益な情報を得るために,新たな共同研究組織であるCOI細菌性結膜炎検出菌スタディグループを組織した.そして,2004年11月より2009年までの5年間,全国27施設を受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された症例615例を対象に,結膜から検体を採取して同一施設で培養を実施し,症例背景(年齢,地域,受診施設),検出菌種,薬剤感受性について検討を行った.初年度の結果についてはすでに報告した1)が,今回,5年間の予定調査期間を終了したので,その結果を報告する.I対象および方法対象は,全国の約27施設(大橋眼科[北海道],くろさき眼科[新潟県],栃尾郷病院[新潟県],阿部眼科[秋田県],東京医科大学[東京都],東京医科大学八王子医療センター[東京都],東邦大学[東京都],とだ眼科[埼玉県],鹿嶋眼科クリニック[茨城県],いずみ記念病院[東京都],上沼田クリニック[東京都],ルミネはたの眼科[神奈川県],稲田登戸病院[神奈川県],いこま眼科医院[石川県],バプテスト眼科クリニック[京都府],大橋眼科[大阪府],岡本眼科クリニック[愛媛県],愛媛大学[愛媛県],鷹の子病院[愛媛県],町田病院[高知県],魚谷眼科医院[鳥取県],大分県立病院[大分県],新別府病院[大分県],NTT西日本九州病院[熊本県],熊本赤十字病院[熊本県],熊本大学[熊本県],中頭病院[沖縄県].ただし,研究参加年数が4年以下の施設も含む.)を,初年度(第1回:2004年11月,第2回:2005年2月,第3回:2005年5月,第4回:2005年8月),2年度(第5回:2006年2月,第6回:2006年11月),3年度(第7回:2007年11月),4年度(第8回:2008年11月,第9回:2009年2月),5年度(第10回:2009年11月.12月)の各調査期間に受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された患者である.症例総数は615例(男性266例,女性344例,不明5例)で,年齢は生後0~99歳(平均年齢52.2歳)で,年齢不明を除き50.2%(309名)が60歳以上であった(図1).また,7.2%(44例)がコンタクトレンズ(CL)を装用していた.患者から同意を得た後,症状の重いほうの片眼の結膜を擦過して採取した検体を,輸送用培地「AMIESCARBON」を用いて阪大微生物病研究会(阪大微研)に送付し,好気・嫌気培養を行い,細菌の分離・同定を行った.そして,検出菌,地域別の検出菌,施設別の検出菌,年齢別の検出菌,季節別の検出菌,CL装用の有無による検出菌のそれぞれの内訳を検討した.また,検出菌に対して日本化学療法学会の標準法により,レボフロキサシン(LVFX),ミクロノマイシン(MCR),エリスロマイシン(EM),クロラムフェニコール(CP),スルベニシリンナトリウム(SBPC),塩酸セフメノキシム(CMX)の6剤の最小発育阻止濃度(MIC)を測定し,その結果を累積発育阻止率曲線で表した.なお,調査期間中,MCRの製造中止に伴い,4年度からはトブラマイシン(TOB)に変更した.さらに,今回の研究では,結膜炎以外の外眼部疾患を有する症例および参加施設の受診以前に抗菌薬が投与されていた症例は除外した.II結果1.細菌分離率全症例615例のなかで細菌が分離されたのは587例(細菌陽性率95.4%)であり,男性263例,女性319例で,年齢は生後0~99歳(平均年齢52.2歳)であった.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):000.000,2011〕Keywords:多施設共同研究,細菌性結膜炎,検出菌,薬剤感受性.multicenterstudy,bacterialconjunctivitis,bacterialisolates,drugsensitivity.20~29歳40~49歳10~19歳1390~99歳17不明141歳未満274230~39歳533360~69歳911~9歳80~89歳618070~79歳12150~59歳63図1症例の年齢分布(期間合計)(79)あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116812.検出菌の種類と頻度細菌が分離された587例から1,156株の細菌が検出された(1症例当たり1~8株).初年度から5年度までのすべての検出菌のうち最も多かったのは,Staphylococcusepidermidis(S.epidermidis)223株(19.3%),ついでPropionibacteriumacnes(P.acnes)166株(14.4%),Streptococcusspp.150株(13.0%),Staphylococcusaureus(S.aureus)125株(10.8%),Corynebacteriumspp.122株(10.6%),Haemophilusinfluenzae53株(4.6%),Moraxellaspp.40株(3.5%)であった(図2).S.aureus125株中,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が99株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が26株であった.嫌気性菌は178株で,そのうちの169株がPropionibacteriumspp.であった.グラム陽性菌が全体の63.6%を占めていた.経年変化では,初年度は,検体総数が429株でS.epidermidisが102株(23.7%)と最も高頻度に検出され,ついでS.aureus66株(15.4%),Streptococcusspp.59株(13.8%),P.acnes40株(9.3%)の順であった.2年度から5年度まではP.acnesが最も多く,次いでS.epidermidisの順であったが,5年間を通して大きな傾向の変化は認められなかった(図3).グラム染色別の検出菌の内訳・経年変化については,初年度,グラム陽性球菌が59.2%(254株)と最多であったが,2年度50.2%(87株),3年度47.9%(82株),4年度45.1%(84株),5年度42.6%(84株)と,初年度から5年度まで検出菌の約50%はグラム陽性球菌で占められていた(図4).グラム陽性球菌は5年間を通して最も多く検出されていたものの,経年的には検出比率が減少した.3.地域別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)地域別(北海道・東北,関東,中部,関西,中国・四国,九州・沖縄)検出菌の内訳・経年変化は,グラム陽性球菌が地域・年度を問わず高頻度であった.初年度は,関西地域でグラム陰性菌が少なく,関西・関東で嫌気性菌の比率がやや高かった.しかし,2年度以降は地域間で参加施設の偏り(施設数,施設のタイプ)が生じたために,地域によってはばらつきがみられたものの,全体的な検出菌の頻度については,経年的,地域的に大きな差は認められなかった(図5).4.施設別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)全症例615例の施設別内訳は,大学病院57例,総合病院127例,眼科クリニック431例であった.施設別の検出菌内訳・経年変化は,5年間を通じ,眼科クリニック,総合病院ではグラム陽性球菌の割合が突出していた.大学病院では,検体数が少ないため,各検出菌の頻度に大きなばらつきがみられ,一定の傾向を得ることはできなかった(図6).5.年齢別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)全症例615例中の年齢別内訳をみると,65歳以上は282例(45.9%)であり,細菌性結膜炎の半数を高齢者が占めた.各年代(14歳以下,15~64歳,65歳以上)における検出菌の内訳・経年変化をみると,各年代を通じてグラム陽性球菌が最も高頻度であり,5年間を通してその傾向は変わらなかったものの,15歳以上の年代ではグラム陽性球菌の割合が経年的に減少しており,特に3年度以降ではその検出比率は半数を切っていた(図7).0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度3729271021110121650341216941113142822202134201820301091413186105102278441733182517662839302940052122859■:Staphylococcusepidermidis■:MSSA■:MRSA■:その他のStaphylococcusspp.■:Streptococcusspp.■:Corynebacteriumspp.■:その他の好気性グラム陽性菌■:Haemophilusinfluenzae■:Moraxellaspp.■:その他の好気性グラム陰性菌■:Propionibacteriumacnes■:その他の嫌気性菌図3検出菌の経年変化(主要菌種別)MSSA9%その他の好気性グラム陰性菌14%その他の嫌気性菌1%MRSA2%その他の好気性グラム陽性菌6%Staphylococcusepidermidis19%その他のStaphylococcusspp.4%Streptococcusspp.13%Propionibacteriumacnes14%Moraxellaspp.3%Haemophilusinfluenzae5%Corynebacteriumspp.10%図2検出菌の種類(期間合計)0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度84848287254392223253546363431962844323044■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図4検出菌の内訳・経年変化(グラム染色別)682あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(80)6.季節別の検出菌内訳・経年変化初年度に季節を4回に分けて行った調査では,2月にグラム陽性桿菌が少なく,嫌気性菌が多かった.冬期に多いとされるHaemophilusinfluenzaeであるが,11月に6株,2月に6株,5月に6株,8月に4株検出されており,季節による大きな変化はみられなかった.なお,こうした初年度の結果1)を受け,2年度以降では季節別の比較は行わなかった(図8).7.CL装用の有無との関連性CLは88.5%が装用しておらず,装用者は7.2%にとどまった.CL装用の有無でグラム陽性菌と陰性菌の比率に大きな差はなかったが,CL装用者にグラム陽性桿菌が少なく,嫌気性菌が多い傾向を認めた(図9).8.薬剤感受性結膜炎由来臨床分類株である全検出菌1,156株(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)に対するLVFX,MCR,TOB,EM,CP,SBPC,CMXの抗菌力を,累積発育阻止率曲線で示した(図10).全体としてのMIC80,MIC90はLVFX,CMXがその他の薬剤と比べて低い値となっており,結膜炎の主要な起炎菌に対する高い感受性が認められた.全検出菌に対する各薬剤の抗菌力の経年変化を,累積発育0%20%40%60%80%100%■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度九州・沖縄中国・四国関西中部関東北海道・東北51311631148112860117819542091024347231414627242892914315924881032510833106237139740362111472111030755789349145104017121494134341435795372513834622842148181176図5地域別検出菌の内訳・経年変化(グラム染色別)0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度65歳以上15~64歳14歳以下26411513216262025932832194729402110125247761810541932016198521276827131391517121213012132316628392244■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図7年齢別の内訳・経年変化(グラム染色別)0%20%40%60%80%100%■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度眼科クリニック総合病院大学病院78645867144612161986148124371816182114561100213383432284952234020072337232324435510044210図6施設別(眼科クリニック,総合病院,大学病院)検出菌の内訳・経年変化0%20%40%60%80%100%2004年11月2005年2月2005年5月2005年11月6942529115811130151239562211■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図8季節別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)(81)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011683阻止率曲線で示した(図11~17).LVFXは5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図11).MIC80,MIC90は低値を示しており,全検出菌に対する高い感受性が認められた.MCR(初年度~4年度)およびTOB(4~5年度)は5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図12~13).EM,CP,SBPCについても5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンであった(図14.16).CMXは5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図17).MIC80,MIC90は低値を示しており,全検出菌に対する高い感受性が認められた.つぎに,細菌性結膜炎に対して最も広く使用されているLVFXの主要検出菌に対する抗菌力について,累積発育阻止率曲線で示した(図18~22).S.epidermidis221株(初年度100株,2年度27株,3年度29株,4年度37株,5年度28株)では,年度間にて多少の変動は認められるものの,LVFXはS.epidermidisに対する高い感受性を5年間を通して維持していた(図18).P.acnes166株(初年度40株,2年度29株,3年度30株,4年度39株,5年度28株)およびS.aureus(MSSA)101株(初年度50株,2年度16株,3年度12株,4年度10株,0%20%40%60%80%100%なしあり■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度5年度4年度3年度2年度初年度初年度79807383227235416372217253300400443429298611027274127303613406図9CL装用の有無による検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml):LVFX:EM:SBPC:TOB:MCR:CP:CMX累積発育阻止率RangeMIC80MIC90LVFX≦0.06~128<28MCR≦0.06~128<32128TOB≦0.06~128<64128EM≦0.06~128<128128<CP≦0.06~128816SBPC≦0.06~128<1632CMX≦0.06~128<28図10全検出菌1,156株に対する全薬剤の累積発育阻止率曲線100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度LVFX:2年度LVFX:3年度LVFX:4年度LVFX:5年度LVFXRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<482年度≦0.06~128<283年度≦0.06~128<124年度≦0.06~128<285年度≦0.06~128<416図11全検出菌1,156株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度MCR:2年度MCR:3年度MCR:4年度MCRRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<321282年度≦0.06~128<32643年度≦0.06~128<16644年度≦0.06~128<32128<図12全検出菌959株に対するMCRの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株)684あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(82)5年度11株)では,5年間を通して左に強くシフトした同様の曲線を描いており,P.acnesおよびMSSAに対するLVFXのきわめて高い感受性が示された(図19,20).Streptococcusspp.150株(初年度59株,2年度21株,3年度20株,4年度22株,5年度28株)は,曲線が左にシフトしており,Streptococcusspp.に対するLVFXの高い感受性が示された(図21).Corynebacteriumspp.118株(初年度30株,2年度20株,3年度18株,4年度20株,5年度30株)では,LVFXの感受性は低かったものの5年間の変化はほとんど認められず,LVFXに対する耐性化は進行していないと考えられた(図22).III考按細菌性結膜炎は,眼感染症のなかで最も高頻度に発症する疾患であるが,日常診療で結膜炎症例の起炎菌を確定することは困難である.今回のスタディは5年間にわたる全国多施設による細菌性結膜炎の細菌の検出状況と薬剤感受性の検討であり,2007年の本スタディグループの報告1)に引き続き,細菌性結膜炎の現状把握と今後の適切な治療薬選択につながる臨床上有用な情報と考えられる.眼感染症における多施設100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:4年度TOB:5年度TOBRangeMIC80MIC904年度≦0.06~128<128128<5年度≦0.06~128<3264図13全検出菌383株に対するTOBの累積発育阻止率曲線(全菌種:4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度EM:2年度EM:3年度EM:4年度EM:5年度EMRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<128<128<2年度≦0.06~128<1281283年度≦0.06~128<641284年度≦0.06~128<128<128<5年度≦0.06~128<64128図14全検出菌1,156株に対するEMの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度CP:2年度CP:3年度CP:4年度CP:5年度CPRangeMIC80MIC90初年度0.25~64882年度0.25~128883年度≦0.06~1288164年度≦0.06~1288325年度≦0.06~128832図15全検出菌1,156株に対するCPの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度SBPC:2年度SBPC:3年度SBPC:4年度SBPC:5年度SBPCRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<16642年度≦0.06~128<8163年度≦0.06~128<161284年度≦0.06~128<16325年度≦0.06~128<1632図16全検出菌1,156株に対するSBPCの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)(83)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011685スタディとしては,眼感染症学会による感染性角膜炎サーベイランス2,3)があり,感染性角膜炎診療ガイドライン4)の礎となった.本スタディは同一の全国多施設において5年間細菌性結膜炎の動向を観察した結果であり,意義深いものと考えられる.まず5年間にわたる細菌性結膜炎の細菌の検出状況についてであるが,起炎菌の累積頻度は,S.epidermidis(19.3%),P.acnes(14.5%),Streptococcusspp(.13.0%),S.aureus(10.8%),Corynebacteriumspp(.10.5%),Haemophilusinfluenzae(4.6%),Moraxellaspp.(2.7%)であり,S.aureusではMSSAが79%,MRSAが21%であった.西澤らは検出菌データの多いものから順に,S.epidermidis,S.aureus,Streptococcusspp.,Propionibacteriumspp.,Corynebacteriumspp.,Haemophilusinfluenzaeとレビューしている1,5~10)が,本スタディとほぼ同様の結果を示しており,わが国における細菌性結膜炎の検出菌はこれら7菌種が4分の3を占めているものと推測される.また,細菌性結膜炎は世代により検出菌と臨床経過が異なり,小児ではHaemophilus100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度CMX:2年度CMX:3年度CMX:4年度CMX:5年度CMXRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<2162年度≦0.06~128<483年度≦0.06~128<2164年度≦0.06~128<145年度≦0.06~128<216図17全検出菌1,156株に対するCMXの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~40.50.52年度0.25~80.50.53年度≦0.06~20.50.54年度≦0.06~20.50.55年度≦0.06~10.50.5図19P.acnes166株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度40株,2年度29株,3年度30株,4年度39株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~128<482年度0.13~8883年度0.13~128<444年度0.13~128485年度0.13~128<832図18S.epidermidis221株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度100株,2年度27株,3年度29株,4年度37株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<0.5162年度0.13~160.583年度≦0.06~0.250.250.254年度0.13~0.50.50.55年度0.13~128<0.52図20S.aureus(MSSA)99株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度50株,2年度16株,3年度12株,4年度10株,5年度11株)686あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(84)influenzaeや,S.pneumoniaeが多く,高齢者ではS.aureusやCorynebacteriumspp.が多いとされる5).本スタディでも,14歳以下では初年度にグラム陰性菌が32%を占め,その約半数がHaemophilusinfluenzaeであったが,その後経年的にグラム陰性菌の割合は減少した.また,各年代を通じてグラム陽性球菌が最も高頻度であり,5年間を通してその傾向はかわらなかったものの,15歳以上の年代ではグラム陽性球菌の割合が経年的に減少していた.つぎに検出菌における地域差については,経年変化や地域別に一定の傾向はみられなかった.施設別では,眼科クリニック,総合病院ではグラム陽性球菌の割合が多く,大学病院では嫌気性菌が多いものの,各検出菌の頻度に大きなばらつきがみられ,一定の傾向はなかった.CL装用の有無については,88.5%が装用しておらず,装用者は7.2%にとどまり,CL装用の有無でグラム陽性菌と陰性菌の比率に大きな差はなかった.以上より,2007年の報告と同様,今日の細菌性結膜炎の主要検出菌は,S.epidermidis,S.aureus,Streptococcusspp.,Corynebacteriumspp.,Haemophilusspp.と推察された.全検出菌に対する薬剤感受性(MIC80,MIC90)は,LVFX,CMXがその他の薬剤と比べて低い値となっており,結膜炎の主要な起炎菌に対する高い感受性が認められた.また,この5年間の調査期間中に,細菌性結膜炎の主要検出菌に対する薬剤感受性に大きな変化がみられなかったことから,急速な菌の変化,耐性化の進行は生じていないと考えられた.本来,細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択,投与方法は,起炎菌を検出したうえで検出された細菌に対する最も抗菌力の強い薬剤を選択し使用することに尽きるが,日常臨床では,患者苦痛の軽減,qualityoflife(QOL)低下の防止,感染拡大の阻止,病態の遷延化・難治化の阻止を治療の要点とし,起炎菌の検出を待たずに早期治療開始の必要性が迫られる.これらの事情を考慮すると,広域の抗菌スペクトルを示し,他の抗菌点眼薬と比較して高い感受性から,細菌性結膜炎の日常診療においてLVFX,CMXを第一選択としてよいと思われる.以上のように,今回の5年間にわたる調査により,細菌性結膜炎の検出菌の急速な変化や耐性化は進行していないことが明らかとなったが,初年度の報告の考按で示したごとく,多剤耐性菌の出現や菌交代現象の要因としてあげられている抗菌薬の過剰投与や広域スペクトルを有する薬剤の濫用の弊害を常に念頭に置き,上記のような広域抗菌点眼薬の投与は必要最低限にとどめるべきであると考える.COI細菌性結膜炎検出菌スタディグループ(50音順)注記:所属が眼科の場合は部門を省略,所属は調査参加当時のもの青木功喜(大橋眼科/札幌),浅利誠志(大阪大学医学部附属病院感染制御部),阿部達也(くろさき眼科),阿部徹(阿部眼科),有賀俊英(札幌社会保険総合病院),生駒尚秀(いこま眼科医院),稲森由美子(横浜市立大学),井上幸次(鳥取大学),魚谷純(魚谷眼科医院),薄井紀夫(総合新川橋病院),臼井正彦(東京医科大学),内尾英一(福岡大学),宇野敏彦(愛媛大学),卜部公章(町田病院),大橋勉(大橋眼科/札幌),大.秀行(大橋眼科/大阪),大橋裕一(愛媛大学),岡本茂樹(岡本眼科クリニック),奥村直毅(京都府立医科大学),亀井里実(バプテスト眼科クリニック),亀井裕子(東京女子医科大学東医療センター),川崎尚美(岡本眼科100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128442年度0.5~64223年度0.5~2114年度0.5~2225年度0.5~6412図21Streptococcusspp.150株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度59株,2年度21株,3年度20株,4年度22株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:3年度:5年度:2年度:4年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~128<641282年度≦0.06~128<32643年度≦0.06~128<32644年度≦0.06~128<641285年度≦0.06~128<64128図22Corynebacteriumspp.118株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度30株,2年度20株,3年度18株,4年度20株,5年度30株)(85)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011687クリニック),岸本里栄子(大橋眼科/札幌),北川和子(金沢医科大学),木村格(岡本眼科クリニック),久志雅和(中頭病院),小鹿聡美(東京医科大学),小嶋健太郎(京都府立医科大学),古城美奈(バプテスト眼科クリニック),小早川信一郎(東邦大学医療センター大森病院),坂本雅子(阪大微生物病研究会),渋谷翠(東京医科大学),島袋あゆみ(琉球大学),下村嘉一(近畿大学),白石敦(愛媛大学),鈴木崇(愛媛大学),外園千恵(京都府立医科大学),瀧田忠介(大分県立病院),田中康一郎(鹿嶋眼科クリニック),田中裕子(愛媛大学),中井義典(バプテスト眼科クリニック),中川尚(徳島診療所),中村行宏(NTT西日本九州病院),西崎暁子(バプテスト眼科クリニック),橋田正継(町田病院),橋本直子(岡本眼科クリニック),秦野寛(ルミネはたの眼科),原祐子(愛媛大学),檜垣史郎(近畿大学),東原尚代(京都府立医科大学),平野澄江(岡本眼科クリニック),福田正道(金沢医科大学),松本光希(NTT西日本九州病院),松本治恵(松本眼科),箕田宏(とだ眼科),宮嶋聖也(熊本赤十字病院),宮本仁志(愛媛大学医学部附属病院診療支援部),山口昌彦(愛媛大学),山崎哲哉(町田病院),横井克俊(東京医科大学)文献1)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20072)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.日眼会誌110:961-972,20063)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeffectの比較.日眼会誌110:973-983,20064)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20075)西澤きよみ,秦野寛:わが国の細菌性結膜炎の起炎菌は?あたらしい眼科26(臨増):65-68,20096)宮尾益也,本山まり子,坂上富士男ほか:新潟大学眼感染症クリニックでの10年間の検出菌.臨眼45:969-973,19917)松井法子,松井孝治,尾上聡ほか:細菌性結膜炎の検出菌についての検討.臨眼59:559-563,20058)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,19899)西原勝,井上慎三,松村香代子:細菌性結膜炎における検出菌の年齢分布.あたらしい眼科7:1039-1042,199010)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,2001***

インタビュー:西田 幸二先生

2011年5月31日 火曜日

(71)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011673さまざまなご指導を受けました.それから斉藤喜博先生には網膜の勉強を,さらに,岡本茂樹先生には白内障とか角膜の勉強をと,総合的にいろいろな勉強をさせていただきました.木下すごくいいメンバーですね.西田そうですね,非常にお世話になって,本当に臨床の能力はその時にかなり培われたと思います.そのあと木下先生が京都府立医科大学眼科の教授になられたときに,一緒に連れて行っていただいて,角膜の専門家になりたいという思いで,鍛えていただきました.本当にその時のおかげで今があると思っています.それから1998年にアメリカに留学をしました.それまでの京都府立医科大学での5年間が非常に面白く,充実しておりましたのでなかなか留学する気になれなくて,ついつい遅くなってしまったんですけれども,アメリカ,サンディエゴのソーク研究所という基礎の研究所で神経幹細胞(stemcell,ステムセル)の研究をしておりました.1年半の留学を終えから京都府立医科大学で半年間お世話になり,そのあと田野先生に声をかけていただいて大阪大学に戻り,2006年までご指導を受けました.その当時,大阪大学では再生医学の研究を始めたいという思いでした.木下先生から以前に,角膜上皮のステムセルの研究についていろいろ教えていただいたのですが,そのステムセルの研究が非常に面白く,それを臨床に役立てるという思いと,留学したときの「神経幹細胞の研究」のおかげでより深くステムセル研究を掘り下げることができたので,大阪大学に戻って再生医学の研究を始めたわけです.それから2006年に東北大学に教授として赴任し,そして今回,大阪大学に戻ってきたというような経緯です.木下西田先生,この度は大阪大学眼科学教室教授にご就任,おめでとうございます.西田どうもありがとうございます.木下大阪大学の眼科は非常に歴史のある教室ですが,われわれの知っているところでは眞鍋禮三先生の頃からということになります.最初に,大阪大学眼科についての,歴史と言うかバックグラウンドと言うか,そういうことを簡単にご紹介いただけますか.西田私が知っているのは眞鍋先生の時代からです.私が入局した1988年当時の教授が眞鍋先生で,1991年に眞鍋先生が退官された後を田野保雄先生が引き継がれ,昨年4月1日付で私が9代目の教授に就任いたしました.木下(西田)先生の1988年からこれまでのなかで,特に自分として頑張ってやってこられたというような事についての足跡を教えてもらえますか.西田はい,いま申しあげたとおり私は1988年に眼科に入局しました.当時のポリクリという制度の中で,何科を選んだらよいのかよくわからない状況でしたが,眼科をまわった時の硝子体手術のマイクロサージェリーが魅力的に見えまして,そういったマイクロサージェリーのプロフェッショナルになりたいという思いで眼科の門を叩きました.その当時,丁度,木下先生が医局長として大阪労災病院から帰ってこられて,眞鍋教授の下,大阪大学は角膜の全盛時代というような時期で,当初は硝子体手術をしたいと思って入局したのですが,自然に角膜の疾患に興味を持ち,角膜を専門としたいと思うようになりました.大阪大学に1年間在籍した後,大阪厚生年金病院で3年間お世話になりましたが,その間,部長が3人変わりました.中谷一先生,清水芳樹先生,そして桑山泰明先生と,いずれも緑内障の専門の先生で,緑内障についてインタビュー木下茂本誌編集主幹のインタビューに答えてShigeruKinoshita大阪大学大学院教授(眼科学)西田幸二先生KoujiNishida674あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(72)連携が難しい時代になっていますが,教育という観点からみると大学と関連病院が連携して広い視野をもった医師,地域医療を支える医師を育てていかなければならないと思いますし,そのための何か良いシステムを作りたいということ,それと同時にサブスペシャルティを育てるということが大学の一つの大きな使命だと考えています.研究指導に関しては,臨床教室では大学院を指導する良いシステムがなかなかないので,それをわれわれMDが,臨床に携わりながら行うという非常に難しい役割を担っているわけです.だから,研究指導する良いシステムを考えていかなければならないと思っています.少し抽象的ですけど.木下先生は東北大学で相当に経験を積んできて,今度,母校の馴染んだ環境でそれを応用することになりますので,東北大学の経験が生きるだろうなぁと,思っています.西田自分でも,5年近く前に東北大学に赴任してホントに沢山のことを勉強させていただきました.だからその経験を生かしたいと思います.木下それでは,自分のモットーを含めて,抽象的といわれた面を少し補足して説明してもらえませんか.西田先生ご存じのように大阪大学は角膜・網膜・緑内障とか,領域に関係なく非常に臨床が強く,それぞれのサブスペシャリティが非常に優秀で,臨床的に有能な人材が揃っているというように思いますので,こういう総合的な臨床医学を継続し伸ばしていきたいと考えております.研究面では臨床に役立つ研究ですね.それを進めていきたいなぁと思っています.臨床に役立つ研究,特に今木下西田先生はとにかく昔からあんまり寝なくて,夜中まで研究をして,それで朝眠たい顔をして出てくるというか.ともかく,ハードワーカーでしたよね.西田そうですねぇ.とにかく面白かったので自分としては夜中でも継続できたと思っています.木下特に細胞工学センターと共同研究をしていた時は,夜遅くにでも大阪大学と行ったり来たりでしたね.西田細胞工学センターに行っていたのは1992年.1994年にかけてだったと思います.その時に基礎研究の教室を初めて見たのですが,大変なカルチャーショックで,いかに基礎研究の教室が進んでいるかということにホントにびっくりしました.特にその当時はまだインターネットが今みたいに一般的ではなかったのが,細胞工学センターではインターネットがすでに非常に発達していて,データのやり取りがアメリカと即座にできるという環境を目のあたりにして,是非これを自分の教室に持って帰りたいという思いもあって通っていたんです.そこで勉強するというのもあったんですけど….木下次に,これからのこととして教育・臨床・研究についての自分の思っている理念もあるでしょうし,方針もあると思うんですけど,それはいかがですか?西田自分の立場としてやっぱり教育というものに力を入れないといけないと思っています.人を育てるというのが非常に大事で,われわれの教室,臨床の教室では医師を育てるということと,それから眼科学を発展させることができるリーダーとなるべき人を育てるという,2本の柱があると思います.良い医師を育て,地域医療を維持するというのは非常に大切ですので,そのためには関連病院を含めた研修医の“研修医教育システム”をさらに充実,確立していきたいと思っています.スーパーローテイトが導入されて,なかなか病院との西田幸二先生プロフィール1988年大阪大学医学部卒業1989年大阪厚生年金病院眼科医員1992年京都府立医科大学眼科助手1998年ソーク研究所(米国,サンディエゴ)研究員2000年大阪大学大学院医学系研究科眼科助手2001年大阪大学大学院医学系研究科眼科講師2004年大阪大学大学院医学系研究科眼科助教授2006年東北大学大学院医学系研究科眼科教授2010年大阪大学大学院医学系研究科眼科教授現在に至る専門:角膜,角膜移植,再生医学,幹細胞生物学木下茂先生西田幸二先生(73)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011675何かあれば….今も趣味はゴルフですか?西田いえ,ゴルフは全然やっていないです.木下ゴルフはすごく上手だったのに,もうやってないのですか?西田やっていないです.非常に個人的な事になりますが,子供が小さいので,今は子供と遊ぶことが,一番癒される感じです.それが趣味ですね.木下なるほどね,わかりました.本当にありがとうございました.これからも大いにご活躍ください.西田どうもありがとうございました.は治すことのできないような病気を治す,イノベーティブな独創的な研究に挑戦していきたいと思っています.木下自分のモットーといいますか,こういう事を大切にしているというのがあれば教えていただけますか?西田急に言われてもなかなか難しいですけれども.やっぱり新しいものを生み出すことができるということ,そのために一つ大切なこととして,過去の歴史をよく学ぶ,先人の偉業をしっかり学ぶことで,初めて何が新しいのかがわかってくるのではないか,と思っています.木下あと,もう一つ趣味とかですね,家族のことで☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2011Vol.28月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2011Vol.24■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌(4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/インターネットの眼科応用他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

眼研究こぼれ話 17.網膜の構造<下> 黄斑部に頼る視力

2011年5月31日 火曜日

(69)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011671網膜の構造㊦黄斑部に頼る視力網膜には,特別に視力の鋭利な場所がある.この場所は眼球後極部の光学的な中心に一致しているのが普通である.この場所では,視細胞以外の細胞は,周りに押しやられ深い凹(くぼ)みを作っていて,中心窩(か)と呼ばれている.また,この部位一帯が黄色く見えることから,黄斑(はん)部とも言う.読書とか,テレビを見る場合に必要な視力はこの黄斑部の機能に頼っている.高空を飛びながら地上の小動物をねらうワシの眼の網膜を見ると,たいへんに深い中心窩があって,その周りの視細胞は桿(かん)状細胞からなっている.このような構造は,するどい視覚を持っていることを示している.最近,日本がグラマン社から購入した飛行機の名前,「ホーカイ」はタカの鋭い眼からもじったアイオワ人のニックネームでもある.一方,中心窩のない犬の眼はあまり鋭くないと言われている.最近流行のフリスビーをうまくキャッチする犬もいるが,私の犬はあまり物がはっきりと見えるふうはない.視覚よりも臭覚とか,接触に頼っているらしい.犬,または他の中心窩のない網膜を持った動物は,鋭利な注視点がないかわり,物体の運動によって,はっきりと物を見る能力がある.私のなまけ犬も日なたぼっこをしながら,眼の前を走るアリをじっと眼で追いかけるのを楽しみにしている.同様にカエルは静止しているものは見えない.非常にゆっくりと近よるヘビをカエルはのみ込まれる前に見つけることができないのである.また,動かないえさを与えると,カエルは見つけることができないので餓死する.面白いことは,水面すれすれを泳いでいるある種の魚は空中を飛んでいる虫と,水中を泳いでいる小魚,プランクトンを同時に見つけるため中心窩が二つある.空中用,水中用の二つである.また,鳥類のように眼が両側を向いている動物では,黄斑部が後極部になく,横にはずれている.ちなみにこのような鳥は,近い前方の遠近感を作るために,頭を前後に動かせている.鶏やハトが盛んに首を前後に振りながら,えさをとっているのは見馴(な)れた景色である.この黄斑部がどうして黄色いのか,いまだにはっきりした答えが出ていない.下等動物では,黄色の色素を抽出した報告はあるが,人間ではこのような実験は行われていない.ちなみに,下等動物の眼に黄斑部は存在しない.役目としては,網膜に入って来る紫外線を吸収するフィルターのためだと言われている.ある細胞学者はこの部にある神経細胞が含んでいる一種の脂肪が黄色であろうと考えている.ところが,緑内障で神経細胞がなくなった患者の網膜でも,黄斑部の色が残っているのはおかしい.最近この不思議を解決してみたいと思って,たくさん0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑰▲人間網膜の中心窩部の横断.約300倍に拡大.下方の黒い線は色素細胞層.672あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011眼研究こぼれ話(70)の人間の眼を,ちょうど黄斑部側面の切り口が見えるようにし,拡大して調べてみた.面白いことに,神経細胞のはるか(といっても0.1ミリ位)下方にある視細胞から出ている線維の層が黄色であることがわかった.ところが,この層には黄色である細胞学的理由が一つもない.もしかすると,密集している細い線維の束が光の干渉で,黄色く見えるのではないかと思われるようになった.この部位が何故(なぜ)黄色いかと,眼を黄色くして調べている人も,そんなことには一つも関心のない人も,同様に健全な視力を楽しんでいるのである.このような一見役に立ちそうもない,まどろこしい研究も,やはりいつかは,なにかのお役に立つことがあると願っている.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆むずかしい統計がよくわかる!眼科での新薬開発の臨床治験データを例に解説!統計学米虫節夫(近畿大学農学部教授)【編著】寺嶋達雄(参天製薬株式会社臨床開発本部)・榊秀之(千寿製薬株式会社前臨床グループ)【著】A4変型総172頁図表243点定価(本体6,000円+税)Ⅰ序説1.症例報告から法則性の発見へ/2.臨床試験実施時のポイント/3.統計解析ソフトについてⅡデータのまとめ方1データの4尺度/2誤差の4条件/3中心的傾向の示し方/4ばらつきの数量的示し方/5ヒストグラムと分布Ⅲ検定と推定の考え方1計量値の分布:正規分布/2検定と推定の考え方/3母平均に関する検定と推定Ⅳ2つの平均値の比較12つの平均値に関する検定と推定(パラメトリック法)/22つの平均値に関する検定(ノンパラメトリック法)Ⅴ3つ以上の平均値の比較13つ以上の平均値に関する検定(パラメトリック法)/23つ以上の平均値に関する検定(ノンパラメトリック法)Ⅵ計数値1計数値の分布/2計数値に関する検定と推定Ⅶ多重比較13つ以上の平均値に関する多重比較-多重比較の考え方-/23つ以上の平均値に関する多重比較(パラメトリック法)-分散分析後の検討-/33つ以上の平均値に関する多重比較(ノンパラメトリック法)-KruskalーWallis検定後の検討-Ⅷ2つの変量間の関係1相関分析/2単回帰分析Ⅸ練習問題(問題1~11)【付録】統計的方法に関するJISとISOの動向■内容■医学におけるわかりやすい〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-0-69315電話(03)3811-0544株式メディカル葵出版会社

インターネットの眼科応用 28.ソーシャルメディアと医療

2011年5月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116690910-1810/11/\100/頁/JCOPYソーシャルメディアの光と影インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.インターネット上での情報交流が,世の中の現実世界を動かす力をもつようになりました.中東の政変や,震災での情報収集の際に,FacebookやTwitterといったソーシャルメディアが活躍しました.アラブ世界で独裁者を放逐したのは,間違いなくソーシャルメディアの力でした.震災後の被災地の情報不足を補ったのも,間違いなくソーシャルメディアでした.テレビや電話などの情報インフラが遮断されると,人間社会は村で完結されますが,インターネットはその壁を越えます.本章では,ソーシャルメディアの光と影の部分から,医療への応用の可能性について紹介したいと思います.ソーシャルメディアとは,「インターネット上に発信された映像,音声,文字情報などのコンテンツを,当該コミュニティサービスに所属している個人や組織に伝えることによって,多数の人々や組織が参加する双方向的な会話へと作り替え,実社会への影響をもつメディア」と定義されます.ソーシャルメディアは知識や情報を大衆化し,大衆をコンテンツ消費者側からコンテンツ生産者の側に変えます1).ソーシャルメディアが活性化するには,誰でも議論に参加できる共通テーマと,参加したいというモチベーション,そして参加するための場所が揃っていることが重要です.そのことは,中東の政変と震災によって示されました.ソーシャルメディアを建設的な言論空間として育てていくためにはどうすれば良いか,私たちは実体験から学んでいます.新しく生まれた,ソーシャルメディアは,社会のさまざまな問題に解決策を見出す可能性をもちます.ウィキリークスやフェイスブックなどのウェブサービスによって,個人の情報発信から体制側に不都合な出来事が発生し,極端な事例では政権崩壊までひき起こします.日本でも“sengoku38”氏によって,中国漁船衝突映像がYouTubeに公開されました.ソーシャルメディアは政府の不正に対抗するツールとなります.ソーシャルメディアは,中東の政変や震災での情報共有のように,実社会に建設的な影響力をもちました.これは,ソーシャルメディアの光の部分と言えます.一方,ソーシャルメディアは影ともなりえます.ソーシャルメディアは反体制活動の強力なツールになりえますが,逆に体制側が活動家を取り締まり,抗議運動を弱めるための強力なツールにもなります.チュニジア・エジプトでの革命を反面教師として,反体制派を攪乱するツールとして,ソーシャルメディアを利用する国家が登場しています.そのような国では,国家がソーシャルメディアを監視しています.政府側の人間が反体制側の人間であるかのように情報を発信し,反体制側の人間に接触し,彼らを摘発します.情報統制がなされている中国では,政府に批判的な意見を書き込めば,それがリアルタイムで察知されて,監視,逮捕されてしまうようなシステムが構築されており,市民の側が「監視されているかもしれない」という恐怖から言論活動を控えてしまいます2,3).通常の民主主義国家にもソーシャルメディアの影があります.IT・セキュリティ系研究者にTwitterのボットを製作してもらい,優劣を競うという,“WebEcologyProject”というプロジェクトがあります.そのボットは「人間であるかのようにふるまい,他のユーザーに影響を与える」という行動をします.ソーシャルメディアを通じて多くの人々に影響力を行使できるかどうかの社会実験です.仮に,全自動で動くプロパガンダ・ボットのようなプログラムができたとして,それが(実在の(67)インターネットの眼科応用第28章ソーシャルメディアと医療武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ670あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011言論家のように)人々の思想や行動に影響を与えられれば,ごく少ない資源で社会を意のままに操ることができる,ということです.実際に上記の実験では,開発されたボットを実在する人間だと誤解して,フォローしただけでなく会話までしてしまうユーザーがいました.政府に批判的な人々に対して影響力を行使するために,彼らの仲間を装ったアカウント(もしくはボット)をソーシャルメディア上に作成して,世論を形成することが理論上,可能になります2).ソーシャルメディアは,一部の人間が大衆を管理・操作するツールとして使われる可能性をもちます.ソーシャルメディアの影の部分,といえます.ソーシャルメディアと医療世界を席巻するソーシャルメディアは,医療とどのように融合するでしょう.この二つの相違点は,情報の正確性に対する考え方です.ソーシャルメディアは,情報の信頼性より即時性を重視します.それに対し,医療情報の流通は,即時性よりも信頼性を重視します.共通点もあります.ソーシャルメディアの情報発信源は,人です.企業や放送局ではありません.医療の情報伝達は,教科書,耳学問,セミナーなど,形態はさまざまですが,DoctortoDoctorの情報伝達が一番信頼性をもちます.人を介する,という点では,ソーシャルメディアと医療の親和性は高いと考えます.ただ,ソーシャルメディアが医療に活用された例はほとんどありません.私が有志と運営しているMVC-onlineという,医師限定の会員制のサイトは,数少ない医療系のソーシャルメディアといえます.海外での事例を紹介します.メイヨー・クリニック(MayoClinic)は,19世紀に設立された,ミネソタ州ロチェスター市に本部を置く,常に全米で最も優れた病院の一つに数えられている総合病院です4).彼らはソーシャルメディアをうまく医療に活用している先駆者です.インターネットを,病院の告知媒体として利用するのではなく,医師から患者へ医療情報を伝える執筆媒体,さらには,医師と患者,患者同士の双方向性のある媒体として位置づけています.ソーシャルメディアが活性化するには,共通のテーマが必要です.このソーシャルメディアからは,「健康を保ちたい」「病状を良くしたい」「病気を理解し,受け入れるにはどうすれば良いか」という,医師,患者が共同して病気に向き合うメッセー(68)ジを感じます.MayoClinicのソーシャルメディアの取り組みは多岐にわたり,ブログ・YouTube・Twiiter・Facebookなどを活用しています.①Blog:「MayoClinicNewsBlog」は,医学・科学分野の研究結果を紹介しています.心臓疾患の予兆を調べるテストなども掲載されています.②YouTube:医師の自己紹介を中心に500件を超える動画が掲載されています.患者の体験談や,禁煙がもたらす健康への影響を説明したビデオなども投稿されています.③Twiiter:@mayoclinicアカウントを用意しています.フォローワーは9,000名.④Facebook:公式ページが用意されています.ファンは1万人を超えています.投稿には,退院患者からの感謝や質問などがあり,これに対して実名の医師・スタッフが回答しています.またFacebook内で,スタッフの募集などのリクルーティング活動もしています.MayoClinicは,インターネットを巧みに医療に応用しています.上記以外にもその試みは多岐にわたり,次章で改めて紹介します.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A22)http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2011/04/post-1966.html3)EvgenyMorozov,AllenLane“TheNetDelusion:HowNottoLiberateTheWorld”4)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF

硝子体手術のワンポイントアドバイス 96.膨張性ガスによる眼圧の推移(初級編)

2011年5月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116670910-1810/11/\100/頁/JCOPY●硝子体手術時の膨張性ガス濃度の調整硝子体手術ではガスタンポナーデ時にしばしば六フッ化硫黄(SF6)や八フッ化プロパン(C3F8)などの膨張性ガスを使用する.眼内をこれらのガス混合気体で充満させた場合,眼圧上昇をきたさないで,最も長期に眼内に滞留する濃度はSF6が約20%,C3F8が約12.14%とされている.よって硝子体手術終了時のガス濃度の調整には慎重を期する必要がある.インフュージョンポート抜去後に100%の膨張性ガスをワンショットで注入する場合には,その時点の眼内の空気量を推測したうえで,適量の膨張性ガスを注入する必要がある.通常,正視眼では硝子体腔内の容積は約4mlであるが,近視眼あるいは水晶体の有無などで,容積は大きくなる.インフュージョンポート抜去前に,別の大きめの注射筒に上記の濃度で膨張性ガスを作製しておき,灌流圧を低くした状態で眼内を灌流する方法は比較的正確な濃度調整が可能となる.●硝子体手術なしで膨張性ガスをワンショットで注入する場合の眼圧変動黄斑円孔網膜.離あるいは加齢黄斑変性などで黄斑部網膜下血腫をきたした症例では,硝子体手術を施行せずに,硝子体腔内に膨張性ガスをワンショットで注入し,その後伏臥位を保持させることがある.この場合は,通常100%SF6を0.5ml,100%C3F8を0.3ml程度注入することが多い.注入量が0.5mlであれば,注入直後の眼圧は50.60mmHgに上昇するが,房水流出率が正常の眼球であれば,通常30分以内で30mmHg以下に低下する.しかし,なかには隅角線維柱帯に何らかの病変を有し,房水流出抵抗が高くなっている症例では,眼(65)圧の下降が十分に得られない.その結果,網膜中心動脈閉塞症などの重篤な合併症をきたす危険性があるため,前房穿刺で適宜眼圧をその場で下降させておくべきである.もう一つの問題は,膨張性ガスによるその後の眼圧上昇である.一般にSF6は硝子体腔内に注入後8.10時間で約2倍の体積に膨張するとされている.注入量が0.5mlと少量であれば,8.10時間の経過中にSF6自体の膨張が眼圧に与える影響は少ない(図1)が,量が多いと影響を受ける.正常眼の房水流出率を約0.28×10.3ml/min/mmHgとすると,眼圧が15mmHgの場合,8時間で眼外へ約2.0mlの房水を排出することができる.さらに逆算すれば,房水流出率が正常であれば,100%SF6を1.0mlまでワンショットで注入しても,SF6の膨張による眼圧上昇は避けられることになる1).しかし,これはあくまでも房水流出率が正常であると仮定した場合の話で,もともと隅角癒着や線維柱帯の器質的な変化により房水流出率が低下している症例では,非常に危険である.筆者は100%SF6を落屑症候群の症例に0.6ml注入したところ,翌日に網膜中心動脈閉塞症をきたした苦い経験がある.よってSF6などの膨張性ガスを100%濃度にしてワンショットで注入する場合には,やはり0.5ml以下にしておいたほうが無難である.文献1)池田恒彦,田野保雄:ガスタンポナーデ時の眼圧の推移について.眼紀39:606-609,1988硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載96膨張性ガスによる眼圧の推移(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1100%SF60.5mlを硝子体腔内にワンショットで注入した場合の眼圧の推移SF6自体が徐々に膨張する8.10時間の間は,房水流出率が正常であれば,眼圧に与える影響は通常少ない.12345678605040302010経過時間(hr)眼圧(mmHg)

眼科医のための先端医療 125.視細胞における繊毛の長さの制御異常は網膜変性をひき起こす ―繊毛の長さを調節するキナーゼMak―

2011年5月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116650910-1810/11/\100/頁/JCOPY視細胞病変に関わる繊毛関連因子多くの種類の細胞には繊毛とよばれる微小管を基盤とした構造が細胞表面に存在し,細胞外からのシグナルをキャッチするアンテナとして機能しています.網膜視細胞にも繊毛が存在しており,外節軸糸と結合繊毛により構成されています(図1左).視細胞の外節は繊毛が発達した構造であり1),光センサーとして働いています.ロドプシンなどの光感知蛋白質は繊毛を経由して外節へと運ばれますが,繊毛における蛋白質の輸送機構はintraflagellartransport(IFT)とよばれています.興味深いことにIFTに関わる蛋白質や微小管結合蛋白質retinitispigmentosa1(RP1)をはじめとするいくつかの繊毛に存在する蛋白質の変異は視細胞の細胞死をひき起こし,網膜色素変性症などの視機能の低下や失明を伴う疾患をひき起こすことが知られています2,3).Makによる視細胞の繊毛の長さの制御筆者らは視細胞で特異的に発現する遺伝子を同定するためにマイクロアレイによるスクリーニングを行い,機能未知のセリン・スレオニンキナーゼmalegermcellassociatedkinase(Mak)が視細胞に特異的に発現することを見いだしました4).まずMakの視細胞での局在を調べたところMakは繊毛に局在していることがわかりました.Makの生体内での機能を調べるために,筆者らはMak欠損マウスの解析を行いました.Mak欠損マウスの網膜を観察すると,網膜色素変性症に似た視細胞の脱落が起こることがわかりました.Mak欠損マウスの視細胞の繊毛を調べると野生型マウスと比較してその長さが過剰に伸びていました(図1).さらに生後14日目のMak欠損マウスでは通常では外節に局在するロドプシンが細胞体にも蓄積していることがわかりました.これらのことからMak欠損マウスでは繊毛が過剰に伸びることによってIFTの障害が起き,ロドプシンなどの本来ならば外節へと運ばれるべき蛋白質が輸送されにくくなり,細胞死がひき起こされる可能性が示唆されました.MakとRP1による繊毛の長さ調節Mak欠損マウスの解析から,Makは視細胞の繊毛の長さを制御することがわかりました.この繊毛の長さの制御はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?筆者らは視細胞の繊毛においてMakとRP1が共局在することを見いだしました.RP1の変異マウスでは繊毛の長さが短くなることが知られています5)ので,筆者らはMakとRP1の機能に関連があるのではないかと考えました.まずMakとRP1を培養細胞に発現させたところ,これら2つの因子は拮抗的に繊毛の長さを調節することが明らかとなりました.また,生化学的な実験によりMakはRP1と相互作用し,RP1をリン酸化することがわかりました.これらの結果から,MakはRP1の機能を制御することによって視細胞の繊毛の長さを調節することが明らかとなりました.繊毛の長さ維持と視細胞の細胞死Mak欠損マウスは,進行性の視細胞の脱落を示す網膜色素変性症のモデルマウスであり,同時にMak欠損マウスにおいては視細胞の繊毛の過剰な伸長が見られま(63)◆シリーズ第125回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊茶屋太郎*1佐藤茂*2古川貴久*1(*1大阪バイオサイエンス研究所発生生物学部門第4研究部/*2東大阪市立総合病院眼科)視細胞における繊毛の長さの制御異常は網膜変性をひき起こす─繊毛の長さを調節するキナーゼMak─図1野生型マウスとMak欠損マウスの視細胞の繊毛視細胞の繊毛は外節軸糸と結合繊毛により構成される.Mak欠損マウスでは繊毛が過剰に長くなりIFTに障害が生じることによって細胞死がひき起こされると考えられる.野生型マウスの視細胞Mak欠損マウスの視細胞外節外節軸糸結合繊毛内節繊毛が過剰に長くなる細胞死視物質が細胞体に蓄積666あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011した.このような視細胞の繊毛が伸びる表現型は,これまでで初めての報告であり興味深い点です.Mak欠損マウスとは対照的に繊毛の長さが短くなるRP1変異マウスでも視細胞の細胞死がひき起こされる6)ことから,繊毛の適切な長さの維持が視細胞の生存に必要であることが示唆されます.今回筆者らが報告したMakの機能解析は網膜色素変性症の病態メカニズムの解明に貢献すると考えられ,これらの疾患に対する診断や治療法の確立に向けての足掛かりになる可能性が期待されます.文献1)TokuyasuK,YamadaE:Thefinestructureoftheretinastudiedwiththeelectronmicroscope.IV.Morphogenesisofoutersegmentsofretinalrods.JBiophysBiochemCytol6:225-230,19592)HartongDT,BersonEL,DryjaTP:Retinitispigmentosa.Lancet368:1795-1809,20063)FliegaufM,BenzingT,OmranH:Whenciliagobad:ciliadefectsandciliopathies.NatRevMolCellBiol8:880-893,20074)OmoriY,ChayaT,KatohKetal:Negativeregulationofciliarylengthbyciliarymalegermcell-associatedkinase(Mak)isrequiredforretinalphotoreceptorsurvival.ProcNatlAcadSciUSA107:22671-22676,20105)LiuQ,ZuoJ,PierceEA:Theretinitispigmentosa1proteinisaphotoreceptormicrotubule-associatedprotein.JNeurosci24:6427-6436,20046)GaoJ,CheonK,NusinowitzSetal:Progressivephotoreceptordegeneration,outersegmentdysplasia,andrhodopsinmislocalizationinmicewithtargeteddisruptionoftheretinitispigmentosa-1(RP1)gene.ProcNatlAcadSciUSA99:5698-5703,2002(64)■「視細胞における繊毛の長さの制御異常は網膜変性をひき起こす」を読んで■─繊毛の長さを調節するキナーゼMak─今回は茶屋太郎先生らが,視細胞に繊毛があること,その長さを調節する遺伝子が特定されたこと,その異常が網膜色素変性をひき起こすことをわかりやすく解説してくださいました.視細胞に繊毛があることを臨床医として知識で知っていても日常診療のなかで自覚することはほとんどありませんが,網膜色素変性の患者さんは頻繁に診察する機会があります.網膜色素変性は多くの遺伝子異常によりひき起こされる疾患であり,その原因遺伝子は多く同定されています.今回の茶屋先生の紹介されたたいへん美しいお仕事は,ヒトの疾患である網膜色素変性が機能のわかっている遺伝子の異常としてとらえられたことに意義があります.すなわち,視細胞の繊毛の長さを規定する遺伝子Makが網膜色素変性症の病態メカニズムの解明に貢献することが考えられ,診断や治療法の進歩に貢献する可能性があることが総説のなかでも述べられています.ぜひ,この研究から網膜色素変性の新しい治療法がつくり出されることを切に願うものです.このような研究のもう一つの意義は,視細胞の機能,構造の研究にMakと視細胞繊毛の長さの関連の研究はとても貢献するということです.視細胞の繊毛は解剖の教科書には触れられていますが,その長さの異常が遺伝子異常により起こることが解明されたのですから,構造と機能,そしてその異常としての疾患の分子病態などが非常に特徴的な細胞構造の研究から明らかになりつつあることがわかります.特に繊毛の長さを規定する遺伝子が存在し,網膜の視機能にきわめて重要な影響を与えるということは生命科学的な基本的な知見を豊かにすることにもつながり,細胞生物学の進歩に貢献すると考えられます.このように視細胞に特殊と思われている構造体の研究から非常に応用性の高い,生命科学的な基本的な知見が積み上げられること,それが疾患の病態解明という形で人類に貢献しつつ生命科学を進歩させるというのは今後の眼科,視覚科学のもつ無限の可能性を確信させるにたる素晴らしいご業績と考えます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

緑内障:光干渉断層計(OCT)による緑内障進行評価

2011年5月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116610910-1810/11/\100/頁/JCOPY●緑内障進行評価の意義緑内障による網膜神経節細胞の障害は,眼底検査によって視神経乳頭や網膜の形態変化として観察され,自覚症状として視野障害をきたし,ゆっくりと不可逆的に進行する.進行速度は症例によって大きく異なり,眼圧下降を主とした治療による進行抑制効果は予測できない.緑内障の進行を評価することは疾患の予後を予測し,治療効果を評価することであり,緑内障診療と臨床研究には必須のプロセスである.現在まで,緑内障の進行評価はおもに自動視野計の検査結果をもとに行われてきた.視野は緑内障眼の視機能を直接反映し,過去の長期間のデータを利用できるメリットがある.一方で,視野検査は自覚的検査であり結果の変動が大きく,比較的長い検査時間と被検者の協力を必要とするため,検査を頻繁に行うことはむずかしい.視野をエンドポイントとした臨床研究には長い観察期間が必要で,臨床の場面では信頼性のある視野検査結果が得られないために進行評価が困難な患者も少なくない.これに対し,光学的機器によって視神経乳頭や網膜の経時的な形態変化を解析する方法は,再現性や客観性に優れることが期待されている.形態変化は神経節細胞の細胞死や機能障害の変化と必ずしも一致しているわけではなく,初期の機器では測定精度や再現性の問題があり,特に進行評価においては信頼性が十分とはいえなかった.しかし近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が従来のタイムドメイン(TD)-OCTからスペクトラルドメイン(SD)-OCTに進歩し,緑内障の診断においてこれまでの画像解析装置より優れた能力をもつことが報告されている.緑内障進行評価においても,今後SD-OCTの有用性が期待される.●OCTによる進行評価の方法SD-OCTによる緑内障眼の評価方法として,①視神経乳頭(ONH)周囲の神経線維層(NFL)解析,②ONHの形状解析,③黄斑部網膜の解析,の3つが行われている(表1).ONH周囲のNFL厚を解析して神経線維層欠損を検出する方法はTD-OCTによる緑内障診断方法として確立されており,測定速度が大幅に高速化したSD-OCTでは,輪状の範囲を短時間で,あるいはONHを含んだ広い範囲を面状に撮影することができる.解像度の向上に加え,眼球運動などによる測定誤差の減少,広範囲の撮影によりONH位置を撮影後に同定することで再現性が向上し,診断における有用性が報告されてい(59)●連載131緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也131.光干渉断層計(OCT)による緑内障進行評価青山裕加間山千尋東京大学医学部附属病院眼科スペクトラルドメインOCTの進歩により視神経乳頭周囲の神経線維層厚,視神経乳頭の形態,黄斑部網膜内各層の層厚を詳細に評価することが可能になり,良好な再現性と視野検査結果との相関が認められている.今後さらに十分な検討が必要であるが,緑内障の診断に加え進行評価においてもOCTが利用できる可能性がある.表1SD.OCTによる緑内障性視神経症の評価方法と,考えられるメリット・デメリット緑内障性視神経症の評価方法メリットデメリットONH周囲網膜の解析ONHに収束するすべての神経線維を評価でき,緑内障に特徴的な眼底写真上のNFLDや視野障害との一致が確認しやすい大血管や近視眼におけるONHの傾斜の影響を受けやすいONHの形状解析ONH周囲の網膜と同時にデータを得られる個体差が大きく,微細な変化に対して鋭敏ではない黄斑部網膜の解析血管など個体差の影響が小さく,視野障害出現以前の障害を鋭敏に評価できる可能性がある緑内障以外の黄斑疾患や加齢変化の影響を受けやすく,黄斑部を通らない神経線維の障害は評価できないONH:視神経乳頭,NFLD:神経線維層欠損.662あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011る1~3)が,進行評価の検討は不十分である.また,SDOCTでONHを含めた広範囲の撮影をすることで,上記のようなNFL厚に加えてONHのトポグラフィが同時に得られ,Heidelbergretinatomograph(HRT)で行われるようなONHの形状解析が可能となるが,病期との相関はNFL厚に劣る傾向があり,進行評価における有用性は高くないと思われる.これらに加えSD-OCTにより初めて,黄斑部を広範囲に解析し網膜内のNFLや神経節細胞層などの層厚を評価することが可能となった(図1).緑内障で黄斑部に視野障害が出現するのは比較的進行例であるが,むしろ明らかな視野障害のないpreperimetric期とよばれるごく早期の段階から層厚の減少が認められ,層厚と視野の感度が相関することが報告されている4,5).筆者らの行った検討でも黄斑部網膜内各層の層厚は,網膜全層や外層を除き緑内障の病期,視野のmeandeviation値と良好な相関を示し,特にNFLやNFL・神経節細胞層・内網状層の和(GCC)で相関が強かった(図2).●今後の展望OCTの進歩によって緑内障性視神経障害のより詳細な評価が可能になり,特に視野による評価の困難な症例や,preperimetric期を含む早期例では視野に代わる検査になりうる可能性がある.一方で長期にわたってOCTによる進行評価を行うには,データの再現性の確認や白内障,硝子体牽引などの加齢変化の影響,また病期を通じての視野と対応した進行様式の検討が十分になされる必要がある.病期や症例に応じてONH周囲と黄斑部のデータを併用することが有用と考えられ,今後ハードとソフトのさらなる進歩が期待できるが,長期の進行評価にはそれまで蓄積されたデータとの互換性を確(60)保する必要もある.文献1)SungKR,KimDY,ParkSBetal:ComparisonofretinalnervefiberlayerthicknessmeasuredbyCirrusHDandStratusopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:1264-1270,20092)ParkSB,SungKR,KangSYetal:ComparisonofglaucomadiagnosticCapabilitiesofCirrusHDandStratusopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol127:1603-1609,20093)LeungCK,LamS,WeinrebRNetal:Retinalnervefiberlayerimagingwithspectral-domainopticalcoherencetomography:analysisoftheretinalnervefiberlayermapforglaucomadetection.Ophthalmology117:1684-1691,20104)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20105)ChoJW,SungKR,LeeSetal:Relationshipbetweenvisualfieldsensitivityandmacularganglioncellcomplexthicknessasmeasuredbyspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:6401-6407,2010図2緑内障の病期(上),視野のmeandeviation(MD)値と黄斑部網膜内各層厚(下)の相関神経線維層,神経節細胞層を中心とした黄斑部網膜内各層の層厚は,視野障害のないpreperimetric期を含む緑内障の病期や,視野のMD値と良好な相関を示す.350300250200150100500RetinaOuterretinaGCCGCL+GCLIPLNFLPreperimetric初期中期後期正常緑内障層厚(μm)50-5-10-15-20-25MD(dB)RetinaOuterretinaGCCGCLGCL+IPLNFL350300250200150100500層厚(μm)図1SD.OCTによる黄斑部網膜内の層厚の解析黄斑部を広範囲にスキャンし,網膜内の各層を区別して層厚を自動的に測定することができる.

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ眼の調節力

2011年5月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116590910-1810/11/\100/頁/JCOPY後房型有水晶体眼内レンズ(phakicIOL;VisianICLTM:STAARSurgical社)は,2010年2月2日に厚生労働省より正式に認可を受けた.これまで屈折矯正手術のスタンダードであるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)に比較して,高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が報告されている1,2).理由としては,第一にLASIKは角膜中央部の切除により,prolateからoblateへの角膜形状変化に伴い球面収差が増加することやフラップ作製や照射ずれによりコマ収差が増加すること,第二にphakicIOLでは瞳孔面上で矯正を行うため,網膜像の倍率変化を生じにくいことが考えられる.角膜創傷治癒反応も受けにくいため,予測精度・安定性もきわめて良好である3).当初高度近視における屈折矯正方法として注目されていたが,中等度近視まで適応が拡大しつつある.通常の眼内レンズ挿入術と異なり,本術式は水晶体を温存する手術手技であり,調節機能への影響は少ないと考えられてきたが,毛様溝に固定されるレンズであり,調節能に影響を及ぼす可能性が否定できない(図1).しかしながら,これまでICLTM術後の調節機能は検討されていない.今回筆者らは,ICLTM挿入術を施行した症例40例69眼(年齢36.0±10.2歳,術前屈折度数は.10.1±3.5D,平均±標準偏差)を対象として,術前および術後1,3,6,12カ月の時点において,定屈折近点計(D’ACOMO,WOC社)により自覚的調節力を各5回ずつ測定した.(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載132監修=木下茂大橋裕一坪田一男132.後房型有水晶体眼内レンズ眼の調節力神谷和孝北里大学医学部眼科後房型有水晶体眼内レンズ挿入術後は一過性に調節力は減少するが,経過とともに回復する.本機序としてレンズ固定に伴う毛様体筋への一過性の機能低下が示唆された.また,本レンズ挿入眼においても,高齢者や白内障の発症は調節力低下の要因となり得る.図1後房型有水晶体眼内レンズ(ICLTM)のシェーマ水晶体を温存する手術手技であるが,直接毛様溝にレンズが固定されるため,調節能に影響を及ぼす可能性がある.6.36D***4.89D4.98D5.16D5.72D調節力(D)術前1カ月3カ月6カ月1年1086420図2調節力の経時的変化ICLTM挿入術後に一過性に調節力は減少するが,経過とともに回復する.*p<0.05.Pearsonの相関係数,r=-0.665,p<0.01調節力(D)年齢(歳)2030405060151050図3ICLTM術後の調節力と年齢ICLTM挿入眼においても,加齢に伴い調節力は有意に低下する.660あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011その結果,調節力は術前6.36±3.94Dから術後1,3,6,12カ月で,それぞれ4.89±2.72,4.98±2.67,5.16±2.72,5.72±2.85Dと有意に変化した(p=0.02,ANOVA)(図2).術前と術後1,3,6カ月の調節力に有意差を認めた(p=0.004,0.007,0.01,Fisher’sLSDtest)4).ICLTM術前および術後1年における年齢と調節力は有意な負の相関を認めた(Pearsonの相関係数,r=.0.665,.0.803,p<0.01)(図3)4).今回の結果より,ICLTM挿入術後は一過性に調節力は減少するが,経過とともに回復することが明らかとなった.もともとの研究の発端は,ICLTM術直後に遠方視力が良好であるにもかかわらず,近方視に不満を訴える症例が散見され,時間経過とともに不満が消失する印象をもったことにある.本結果から,時間経過とともに改善することを客観的に示せたので,患者や医師にとっても有益な情報であると考える.本機序としてレンズ固定による毛様体筋への一過性の機能低下が示唆された.また,ICLTM挿入眼においても年齢は調節力低下の要因となることが示された.各年代別の調節力は20.50歳代でそれぞれ8.06,5.42,3.42,2.24Dであった(図4).自験例における白内障術後の眼内レンズ挿入眼の調節力が2.01Dであることから考えると,50歳代以降の症例に対するICLTM手術は水晶体を温存するメリットは少ない.さらに,経過観察中に白内障を発症した症例2眼と非発症の67眼の平均調節力はそれぞれ2.15,5.82Dであった(図5).よって白内障を発症した眼では,視力低下の有無にかかわらず,調節力が低下しやすいと考えられた.一方,レンズサイズと調節力には有意な相関を認めなかった(Spearmanの順位相関係数,r=.0.19,p=0.13)(図6).適切なレンズサイズを選択すれば,調節力に有意な影響を与えないことが示唆された.文献1)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:One-yearfollowupofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopicastigmatism.Ophthalmology2010Jul1.[Epubaheadofprint]2)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollowupofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20093)IgarashiA,KamiyaK,ShimizuKetal:Visualperformanceafterimplantablecollamerlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,20094)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:Timecourseofaccommodationafterimplantablecollamerlensimplantation.AmJOphthalmol146:674-678,2008(58)Pearsonの相関係数,r=-0.802,p<0.001調節力(D)年齢(歳)2030405060151050図4各年代におけるICLTM術後,白内障術後の調節力の比較50歳代ではICLTM術後の調節力が,白内障術後のそれとほぼ変わらない.0246810121411.51212.5調節力(D)ICLTMサイズ(mm)Spearmanの順位相関係数,r=-0.19,p=0.13図6ICLサイズと調節力ICLTMサイズと調節力は有意な相関を認めない.2眼(3%)67眼(97%)2.15D5.82D86420調節力(D)白内障(+)白内障(-)図5白内障の発症の有無による調節力の比較白内障発症眼では調節力が低下しやすい.