0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(91)693《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):693.695,2011cはじめに2008年に抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチンがリファマイシン系薬剤としてわが国で承認された.リファブチン特有の副作用の一つとしてぶどう膜炎があげられている.海外では1992年から承認されていたこともあり,リファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告1)と眼科医からの報告2)があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.I症例患者:80歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:2003年10月に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術施行.心房細動にて塩酸ベラパミル,アスピリン内服中であった.2003年,肺非定型抗酸菌症に対して内科にてリファンピシン,クラリスロマイシン,エタンブトールによる治療を開始した.その後,排菌が持続し,投薬が長期化したため,〔別刷請求先〕飯島敬:〒252-0374相模原市南区北里1丁目15番1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KeiIijima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0374,JAPANリファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎飯島敬市邉義章清水公也北里大学医学部眼科学教室Rifabutin-associatedHypopyonUveitisKeiIijima,YoshiakiIchibeandKimiyaShimizuDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチン(RBT)がリファマイシン系薬剤としてわが国でも使用されている.本剤の副作用の一つにぶどう膜炎があり,海外からの報告は散見される.国内では呼吸器内科医からの報告と眼科医からの報告があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.症例は80歳,女性.6年前に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術が施行されていた.肺非定型抗酸菌症に対してのRBT内服約2カ月後に右眼霧視を自覚.前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認め,ステロイドの点眼を開始したところ2日後に前房蓄膿は消失したが,右眼発症の10日後に左眼にも発症.RBTによる副作用も考え投与を中止した.中止後から視力は改善していき,発症40日目に前房の炎症はほぼ消失した.RBTの使用中は前房蓄膿を伴う両眼性非肉芽腫性ぶどう膜炎に注意する必要がある.Wereportacaseinwhichhypopyonuveitisappearedduringtreatmentwithrifabutin(RBT)andclarithromycinformycobacteriumaviumcomplex(MAC)pulmonaryinfection.Thepatient,an80-year-oldfemalewhohadbeentakingRBTfor2months,presentedwithblurringinherrighteye.Slit-lampexaminationoftheeyeatthattimeshowedmarkedhypopyon,whichresolvedwithin48hoursoftopicalsteroidadministration.Tendaysaftertheonsetofuveitisintherighteye,thepatientnotedblurringinherlefteye,andslit-lampexaminationshoweduveitisinthateye.ThevisualacuityanduveitisinbotheyesimprovedafterRBTwasdiscontinued.Therewerenoabnormalitiesineithertheopticnerveorretina.Cautionisnecessarywhentreatingbilateralnon-granulomatoushypopyonuveitiswithRBT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):693.695,2011〕Keywords:リファブチン,前房蓄膿,ぶどう膜炎.rifabutin,hypopyon,uveitis.694あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(92)2008年8月,投薬をすべて中止した.しかし,2009年10月に肺病変の悪化を認め,投薬を再開した.このとき,抗菌力向上を目的として,リファンピシンからリファブチンに切り替えた.再治療開始約2カ月後,右眼の霧視を自覚し当院眼科初診となった.初診時,視力は右眼矯正(0.9),左眼矯正(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼14mmHg.右眼に前房蓄膿を伴う非肉芽腫性の虹彩炎を認めた(図1).眼底は散瞳不良のため観察が困難であったが,Bモードエコー上,明らかな硝子体混濁はなかった.限界フリッカー値は両眼30Hz台前半,角膜内皮細胞密度も両眼2,400/mm2台後半と左右差なく,Humphreyの静的視野検査(HFA30-2)でも両眼左右差なく特記すべき所見はなかった.血液検査ではHSV(単純ヘルペスウイルス)のIg(免疫グロブリン)MとHLA(ヒト白血球抗原)でB51が陽性以外に特記すべき異常はなかった.初診時,感染性眼内炎も疑い右眼より前房水を採取しておいたが,培養では細菌,真菌ともに陰性であった.その他,頭部造影MRI(磁気共鳴画像)でも異常所見は認めず,眼外所見として皮疹や口内炎も認めなかった.II経過発症2日目から0.1%ベタメタゾンの点眼を開始した.開始2日目,角膜にDescemet膜の皺襞が出現し,右眼矯正視力は0.3に低下したが,前房蓄膿は急激に消失していた.右眼発症10日後に左眼の霧視を自覚.患者本人の自己判断で0.1%ベタメタゾンの点眼を開始し,左眼発症4日後に来院した.左眼矯正視力は0.15と低下し,前房蓄膿はないものの,前房の炎症とDescemet膜の皺襞を認めた.発症形式からリファブチンによるぶどう膜炎が考えられたため,初発の右眼発症23日目に内科医に相談し,肺非定型抗酸菌症の状態が安定していることを確認してリファブチン,クラリスロマイシン,エタンブトールの投与を中止した.その後,視力と炎症所見は改善し,リファブチン投与中止後40日目に右眼矯正は1.0,73日目に左眼矯正は0.9に改善した.両眼,Descemet膜の皺襞や前房の炎症はほぼ消失した.経過中,眼底,OCT(光干渉断層計)には異常を認めなかった.その後1カ月現在,再発は認めていない.III考按前房蓄膿をきたすぶどう膜炎としてBehcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎,仮面症候群(悪性リンパ腫),そして眼内炎(内因性,外因性)などがあげられる.本例は発症6年前に白内障手術を受けているので遅発性眼内炎の可能性もあり,初診時,ただちに前房水培養を施行したが結果的には陰性であった.急激な発症や短期間での前房蓄膿消失からも否定的である.Behcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎は年齢や性別,また前者に対しては皮疹や口内炎などの眼外症状がなく可能性は低いと思われるが,HLA-B51は陽性で完全に否定することはできない.仮面症候群(悪性リンパ腫)は頭部造影MRIなどより否定的であった.海外では1992年から承認されていたこともありリファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告が最初である1)が,眼科医からの詳細な報告は2報ある2,7).石口らの報告はフィリピン人の後天性免疫不全症表1過去の報告文献HIV症例(数)発症までの投与期間僚眼発症前房蓄膿前房蓄膿消失時間視力回復までの期間KelleherP(1996)陽性10平均2カ月4/10例あり3/10例あり不明平均8日DanielA(1998)陰性11.5カ月ありあり1日6週BhagatN(2001)陰性32週~9カ月ありあり1~2日1~3週FinemanSM(2001)陰性22週~2カ月なしあり数日4週~18カ月石口(2010)陽性12カ月ありあり1日3カ月福留(2010)陰性22~3カ月なしあり2日1カ月本症例陰性12カ月ありあり2日6週HIV:ヒト免疫不全ウイルス.図1右眼前眼部(リファブチン投与開始後2カ月)(93)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011695候群患者2)で,福留らの報告は日本人の後天性免疫不全症候群を合併していない2例である7).福留らの報告と本例は発症期間や経過はほぼ同様であるが,僚眼に発症していない点が異なっていた.他の報告と同様に僚眼発症にも注意する必要があると思われる.発症機序としては中毒性が考えられている.過去の症例報告をまとめると,片眼ずつ発症し,前房蓄膿を伴うが早期に消失して視力回復も早いことが特徴であり3~7)(表1),本症例でも同様であった.発症頻度は体重当たりの投与量に依存するとされている.過去の文献によると,リファブチンを1日600mg投与した場合のぶどう膜炎発症頻度は,体重65kg以上で14%,55kgから65kgの間で45%,55kg未満で64%と報告されている8).さらにクラリスロマイシンと併用した場合,血中濃度が1.5倍以上に上昇し9),発症頻度は高くなる6,10).過去の報告によると,クラリスロマイシン併用時のリファブチン初期投与量は150mg/日,6カ月以上の経過で副作用がない場合は300mgまで増量可としている11).本症例はリファブチン150mg/日と少量であったが,本症例患者の体重が30kgと少なくクラリスロマイシンを併用していたため,副作用が出現しやすい状況にあったと考えられる.また,本症は0.1%ベタメタゾンの点眼が有効で,視力や所見が改善した可能性もあるが,リファブチンの投与を中止してからの視力改善が著明であったことから薬剤性の要素が大きいと考える(図2).薬剤性の眼副作用は前述したように過量投与によるものをしばしば経験する.高齢者の場合,体重が低いことや,腎機能,肝機能低下によって血中濃度が上がり,副作用が起きやすい状況にある場合が想定される.今まで薬剤性の眼副作用といえば視神経や網膜に関する報告が多いが,今後はぶどう膜炎にも注目する必要があろう.IV結語リファブチン投与中に前房蓄膿を伴い片眼ずつ発症する両眼性急性非肉芽腫性ぶどう膜炎を経験した.リファブチンは特有の副作用としてぶどう膜炎があげられ注意が必要である.文献1)永井英明:ミコブティンRカプセル.呼吸28:151-155,20092)石口奈世里,上野久美子,原栁万里子ほか:リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎を生じた後天性免疫不全症候群患者の1例.日眼会誌114:683-686,20103)BhagatN,ReadRW,RaoNAetal:Rifabutin-associaterdhypopyonuveitisinhumanimmunodeficiencyvirus-negativeimmunocompetentindividuals.Ophthalmology108:750-752,20014)FinemanSM,VanderJ,RegilloCDetal:HypopyonuveitisinimmunocompetentpatientstreatedforMycobacteriumaviumcomplexpulmonaryinfectionwithrifabutin.Retina21:531-533,20015)JewlewiczDA,SchiffWM,BrownSetal:Rifabutin-associateduveitisinanimmunosuppressedpediatricpatientwithoutacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol125:872-873,19986)KelleherP,HelbertM,SweeneyJetal:UveitisassociatedwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteriumaviumintradellulareinfectioninAIDSpatients.GenitourinMed72:419-421,19967)福留みのり,佐々木香る,中村真樹ほか:リファブチン関連ぶどう膜炎の2例.臨眼64:1587-1592,20108)ShafranSD,ShingerJ,ZarownyDPetal:Determinantsofrifabutin-associateduveitisinpatientstreatedwithrifabutin,clarithromycin,andethambutolforMycobacteriumaviumcomplexbacteremia.Amultivariateanalysis.CanadianHIVTrialsNetworkProtocol010StudyGroup.JInfectDis177:252-525,19989)HafnerR,BethalJ,PowerMetal:Toleranceandpharmacokineticinteractionsofrifabutinandclarithromycininhumanimmunodeficiencyvirus-infectedvolunteers.AntimicrobAgentsChemother42:631-639,199810)BensonCA,WilliamsPL,CohnDLetal:ClarithromycinorrifabutinaloneorcombinationforprimaryprophylaxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS.Arandomized,double-blind,placebo-controlledtrial.TheAIDSClinicalTrialsGroup196/TerryBeirnCommunityProgramsforClinicalRsearchonAIDS009ProtocolTeam.JInfectDis181:1289-1297,200011)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─2008暫定.結核83:731-733,2008小数視力初発0日2週4週6週8週10週12週14週16週経過期間0.11:VD:VS(0.2)(0.15)(1.0)(0.9)投与中止後から徐々に改善初発23日目RBT投与中止図2視力の経過***