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序説:眼感染症治療戦略アップデート2011

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とよばれ,院内感染などで最も恐れられる病原菌の一つとなっている.もし,すべての抗菌薬が効かないスーパー細菌が発生した場合,われわれに有効な防御手段はないのである.最近の感染症対策では,抗菌薬を使いすぎないこと,患者の適切な選択隔離を行うこと,院内感染を予防するために常にサーベイランスを行うことなどが推奨され,従来の対応とは大きく変化しているのはご承知のとおりである.眼科領域においても話は同様である.MRSAによる感染は日常茶飯事であり,ニューキノロンの汎用により,コリネバクテリウムやコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などで耐性化が進んでいる.眼球は眼表面を介して外界と接するほか,免疫学的にも不全な臓器であるため,感染症はより身近で深刻な問題である.たとえば,コンタクトレンズのような便利な屈折異常矯正デバイスが普及すればアカントアメーバのような感染症が現れ,白内障手術で角膜切開トレンドになると眼内炎が増加するなど,病原体自身の変貌に加えて,眼科治療手技自体の変革が感染症対策をより複雑化している傾向がある.最近の硝子体内注射や小切開硝子体手術などの普及に伴う眼内炎の問題もここに含まれよう.そこで本特集では,「眼感染症治療戦略アップデ数百万年前,人類が森を出て平地に降り立ったときから,新たな環境で生息している未知の病原微生物との戦いが始まった.事実,人類が狩猟採取社会から部族的集団定住社会に移行して以後,第二次世界大戦に至るまで,感染症による死亡数は戦争や飢餓による死亡数を上回っていた.優れた抗生物質の開発により,感染症による死者数は大幅に減少したものの,現代の高度な医学をもってしても,インフルエンザ,エイズ,O-157(病原性大腸菌),そして口蹄疫などの新興病原微生物の脅威を克服できてはいない.「人類の歴史は,感染症との闘いである」と称される所以である.サルバルサン606やペニシリンの発見を契機として,感染症は効果的な抗微生物薬の開発により制圧可能であるとの考えが支配的となった.確かに,従来は治療が困難であった緑膿菌感染症,真菌感染症,ある種のウイルス感染症のコントロールは比較的容易となっているが,その一方で,抗菌薬の濫用のなか,耐性菌の出現が深刻な医療問題をひき起こしている.その好例は黄色ブドウ球菌であろう.当初,ペニシリンGが有効であったものの,すぐにペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が現れ,その後も突然変異やプラスミドの獲得などにより,多種類の抗菌薬に耐性をもつまでに進化し,現在ではMRSA(1)309*TaijiSakamoto:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学**YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)●序説あたらしい眼科28(3):309.310,2011眼感染症治療戦略アップデート2011TherapeuticTacticsforOcularInfection:2011Update坂本泰二*大橋裕一**310あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(2)ート2011」と題し,外眼部から内眼部まで,各専門分野における最新の感染症対策を,その領域のエキスパートの先生方にご解説いただいた.外眼部では,まず鈴木智先生に日常診療で重要な眼瞼炎をご担当いただき,細菌,ウイルスに分けてご解説いただいた.特に,マイボーム腺炎(後部眼瞼炎)に伴う角膜病変については,診療の盲点として十分に理解しておくべきである.つぎに,最も頻繁に遭遇する急性結膜炎については,中川尚先生より,細菌,ウイルス,クラミジア結膜炎の所見の取り方,診断のコツ,薬剤選択などについて,実戦的に,わかりやすくご教示いただいた.また,児玉俊夫先生には涙.炎と涙小管炎を詳細にご解説いただいた.特に後者では,片眼性の難治性結膜炎の存在が発見の鍵である点を銘記しておきたい.さらに,井上智之先生にはウイルス性角膜炎をテーマに基本的な治療方針をご解説いただいたが,そのなかでは,サイトメガロウイルスなど他のヘルペスウイルス群による角膜内皮炎の存在が注目された.最後に,21世紀に入り急増したコンタクトレンズ関連角膜感染症を福田昌彦先生にご担当いただいた.レンズケアの啓発の重要性に加え,アカントアメーバや緑膿菌に代表される重症角膜感染症について十分に理解しておきたいところである.内眼部では,まず喜多美穂里先生に転移性眼内炎をご担当いただいた.ぶどう膜炎と看過することなく,糖尿病,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)など患者背景などからまず本症を疑うことが重要であるとのご指摘は当を得たものである.つぎに,井上真先生には術後眼内炎をテーマに,白内障術後眼内炎におけるESCRSスタディの成績(抗菌薬の前房内投与の有用性),小切開硝子体術後の眼内炎の発症メカニズムなど,最新のトピックスとその論点を詳細にレビューいただいた.また,上野千佳子・五味文先生には,硝子体内注射という新たな治療手段の登場に伴って浮上した眼内炎の問題を取り上げていただいた.頻度こそ高くないが視機能低下に直結するため,十分な備えのもとで処置を行うスタンスが重要である.最後に,ぶどう膜炎の原因疾患として重要な位置を占めつつあるウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎)を竹内大先生にご担当いただいた.ヘルペスウイルス群,レトロウイルス群によるものに分けてその診断法と治療法をご解説いただいたが,サイトメガロウイルスによる虹彩毛様体炎がここでも大きなトピックスとなっているようである.「変わらずに生き残るには,変わらなければならない」という言葉が流行したが,これは眼感染症についても同様である.以前と変わりのない(安全な)眼科診療を行っていくために,われわれも臨機応変に対応し,感染症対策をアップデートしていくべきである.本企画がそのための有益な情報を提供することを信じてやまない.

著明な視力回復がみられた外傷性眼球脱臼の1 例

2011年2月28日 月曜日

300(14あ6)たらしい眼科Vol.28,No.2,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(2):300.302,2011cはじめに眼球脱臼とは,眼球が眼窩中隔の外に出て,視神経・外眼筋・球結膜などの眼球付着物がある程度付着保存されているものと定義されている1).突発的な外傷あるいは自傷行為が原因の外傷性眼球脱臼については,国内外ともに報告は少なく,ほとんどが1例報告である1~9).海外の報告例では光覚消失6),眼球癆7,8)や眼球摘出9)など,その視力予後は不良なものが大多数を占めている.今回筆者らは,外傷性の眼球脱臼で受診時に光覚を消失していたにもかかわらず,最終的に良好な視力回復が得られた症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.主訴:左眼球突出,視力低下.現病歴:2009年11月30日19時ごろ,飲酒後に風呂場で転倒.浴槽の角に左眼を強打し視力低下を自覚した.近医を受診したところ左眼球脱臼を認めたため,同日23時に当院救急外来に搬送された.既往歴:アルコール性肝障害.初診時眼科所見:視力;RV=0.7(1.2×+1.25D(cyl.0.75DAx60°),LV=光覚なし.左眼直接対光反射消失.左眼球は上下眼瞼縁を越えて露出しており,耳側および鼻側の結膜裂傷を認めた(図1a,b).前眼部で左角膜びらんを認めたが,中間透光体は異常なかった.左眼網膜色調は良好であった.Computedtomography(CT)で,外直筋の眼球付着部での断裂が疑われた.視神経断裂の有無は,CTでは詳細不明であった.眼窩骨折は認められなかった(図1c).臨床経過:外来処置室において,1%キシロカインRで眼〔別刷請求先〕原克典:〒693-8501出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KatsunoriHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya-cho,Izumo,Shimane693-8501,JAPAN著明な視力回復がみられた外傷性眼球脱臼の1例原克典谷戸正樹児玉達夫高井保幸太根ゆさ松岡陽太郎大平明弘島根大学医学部眼科学講座MarkedRecoveryofVisioninaCaseofTraumaticGlobeLuxationKatsunoriHara,MasakiTanito,TatsuoKodama,YasuyukiTakai,YusaTane,YotarouMatsuokaandAkihiroOhiraDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine光覚消失後に良好な視力回復が得られた,外傷性眼球脱臼の1例を経験した.症例は70歳,男性.飲酒後に風呂場で転倒した際に浴槽の角で左眼を打ち付け,左眼球脱臼をきたした.当院受診時,左眼は光覚なく,対光反射は消失していた.受傷後4時間で眼球を整復し,翌日からステロイドパルス治療を行った.受傷後5カ月で左眼視力は1.2に回復した.左視神経乳頭近傍の網脈絡膜萎縮と,それに一致する視野欠損を残した.良好な視力予後に寄与する要因として,①早期の脱臼整復,②視神経断裂・網膜中心動脈閉塞がない,③ステロイドパルス治療の可能性が考えられた.A70-year-oldmale,whiletakingabath,struckthecornerofthebathtubwithhisface,causingglobeluxationofhislefteye.Intheinitialexaminationatemergencyroom,visualacuitywasnolightreception,andtheleftpupildidnotrespondtolightstimulation.Thepatientunderwentrepositioningofhisleftglobe4hoursaftertheinjury,thenreceivedintensivesteroidtherapyfor3days.At5monthsaftertheinjury,visualacuityhadrecoveredto1.2.Fundusandvisualfieldexaminationsrevealedparapapillaryretinochoroidalatrophyandcorrespondingscotomainhislefteye.Promptrepositioningoftheeyeglobeaftertheinjury,absenceofopticnerveavulsionandcentralretinalarteryocclusion,anduseofsteroidmedicationarepossibleexplanationsofthegoodvisualacuityprognosisinthiscase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):300.302,2011〕Keywords:外傷性眼球脱臼,眼球整復,網脈絡膜萎縮,視力回復,ステロイドパルス.traumaticglobeluxation,repositioningofeyeglobe,retinochoroidalatrophy,recoveryofvision,steroidpulsetherapy.(147)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011301球周囲と眼窩内に浸潤麻酔を行った後,デマル(Desmarres)鈎を用いて眼瞼縁を眼球前方に牽引し,眼球整復を行った(図1d).受傷から整復までに要した時間は約4時間であった.整復直後に左眼視力は光覚ありとなったが,上外転障害を認めた.整復後に撮影したMRI(磁気共鳴画像)では,左眼球がやや内転位を呈し,左外直筋の眼球付着部付近での連続性が不明瞭となっていた.視神経に関しては,眼窩内での連続性は保たれていたが,眼窩尖端部から視神経管レベルでの左視神経描出が対側に比べ不良であり,同部位での損傷が示唆された.受傷翌日,手術室において左眼外直筋整復術を図1症例の経過観察a,b,c:初診時の顔写真(a:正面,b:左側面)と頭部CT(c).左眼眼球脱臼を認める.d:整復術直後の顔写真.眼球脱臼は整復されている.e,f:受傷後5カ月の左眼眼底写真(e)とGoldmann視野(f).視神経乳頭近傍の網脈絡膜萎縮とそれに一致する暗点を認める.acebdf302あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(148)試みた.術中,上直筋の断裂を認めたが断端は確認できなかった.外直筋は不全断裂の状態で,挫滅が高度なため縫合処置を行えなかった.術後,左眼視力は手動弁であった.整復術当日よりプリドールR1,000mg/日で,ステロイドパルス治療を3日間施行した.受傷5日目に左眼矯正視力は0.03に改善した.Goldmann視野検査で,左眼の視野狭窄,Mariotte盲点に連続する絶対暗点,および中心比較暗点を認めた.9方向眼位では,上外転障害のため,正面視で軽度内下転位となっていた.その後,左眼矯正視力は受傷4週後に0.4,8週後に0.6,12週後には1.0と回復していった.受傷5カ月後,左眼矯正視力1.2まで改善した.左内斜視は残存していた.眼底検査で,左視神経乳頭下耳側に網脈絡膜萎縮がみられた(図1e).Goldmann視野検査では,網脈絡膜萎縮に一致した暗点を認めた(図1f).網脈絡膜萎縮は,同部位の支配血管である短後毛様動脈の障害に起因すると考えられた.視力回復に伴い,複視の症状が出現した.Worth4灯検査で遠見,近見ともに同側性複視の所見がみられたが,日常視においては,近見でのみときどき複視を自覚した.網脈絡膜萎縮に一致した暗点が,複視の自覚を軽減している可能性が考えられた.頭位の異常なく,プリズム眼鏡装用による自覚症状の改善は認めなかった.II考按1983年以降,わが国で発表された外傷性眼球脱臼症例の報告は5例ある(表1)1~5).そのうち1例は眼球摘出,3例は最終視力で光覚を消失しており,1例のみに1.0の視力回復を認めている.これらの症例報告の受傷状況と今回の症例から,外傷性眼球脱臼で,良好な視力予後に寄与する要因として,つぎの3点の可能性が考えられた.1つ目は,受傷早期に脱臼整復を行うことである.視力予後の良かった外江らの症例では受診後ただちに整復を行っていた3).筆者らの症例でも受傷後約4時間と比較的早い時期での整復を施行していた.ただし,光覚を消失した症例も比較的早期に脱臼整復を行っており,整復におけるcriticaltimeは明らかでなく,今後の症例の蓄積が待たれる.2つ目は,受傷時に視神経断裂や網膜中心動脈閉塞症のように高度な視機能障害が存在していないことである.視力予後が不良であった4例のうち,3例に網膜中心動脈閉塞症が確認され,1例で視神経断裂が併存していた.3つ目は,ステロイド治療の有無である.5例中4例でステロイド加療は行われていなかった.筆者らの症例では,眼球整復後にステロイドパルス治療を施行している4).ステロイド治療の有効性については症例報告が限られているため断定はできないが,外傷時の視神経および視神経周囲の炎症性浮腫の軽減と,それに伴う循環改善が良好な視力予後に寄与したと考えられた.過去の報告例では加療にもかかわらず,ほとんどが失明している.光覚なしから矯正視力1.2まで回復した筆者らの症例は非常にまれであったと考えられる.受傷時の眼窩内損傷の程度は偶発的であるが,受傷後ただちに眼球を整復し,ステロイドパルス療法を行うことが,良好な視力予後に寄与する可能性がある.文献1)福喜多光一:外傷性眼球脱臼の1例.臨眼81:777-780,19872)福原晶子,大原輝幸:眼球保存できた外傷性眼球脱臼の1例.臨眼82:1505-1508,19883)外江理,上野山さち,雑賀司珠也ほか:外傷性眼球脱臼の1例.臨眼46:1172-1174,19924)鈴木由美,川久保洋,島田宏之ほか:外傷性眼球脱臼の1例.眼科38:605-609,19965)鈴木崇弘,山家麗,赤塚一子ほか:外傷性眼球脱臼に対し眼球整復術を施行した1例.臨眼57:833-835,20036)BajajMS,PushkerN,NainiwalSKetal:Traumaticluxationoftheglobewithopticnerveavulsion.ClinExperimentOphthalmol31:362-363,20037)KiratliH,TumerB,BilgicS:Managementoftraumaticluxationoftheglobe.Acasereport.ActaOphthalmolScand77:340-342,19998)AlpB,YanyaliA,ElibolOetal:Acaseoftraumaticglobeluxation.EurJEmergMed8:331-332,20019)LelliGJJr,DemirciH,FruehBR:Avulsionoftheopticnervewithluxationoftheeyeaftermotorvehicleaccident.OphthalPlastReconstrSurg23:158-160,2007表1わが国での外傷性眼球脱臼の報告報告年報告者年齢・性別眼底所見受傷機転受診時視力退院後視力整復までの時間ステロイド治療1987福喜多ら15歳・男性CRAO木の枝LS(.)LS(.)約3時間(.)1988福原ら10歳・女性CRAO転倒LS(.)LS(.)受傷当日(.)1992外江ら10歳・男性特記異常なし鉄棒0.03(n.c.)0.7(1.0)受診後ただちに(.)1996鈴木由美ら27歳・男性CRAO鉄パイプLS(.)眼球摘出(+)2003鈴木崇弘ら58歳・女性視神経断裂ハンドルに殴打LS(.)LS(.)受傷当日(.)2011原ら(本報)70歳・男性特記異常なし転倒LS(.)0.5(1.2)約4時間(+)CRAO:centralretinalarteryocclusion,LS:光覚.

自然寛解したMacular Microhole の1 例

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)297《原著》あたらしい眼科28(2):297.299,2011cはじめにMacularmicroholeとは中心窩に小さいhole様の赤色点が認められる病態であり1988年に最初に報告された1).急に発症するが進行せず円孔の大きさは変わらないことより特発性黄斑円孔とは別の疾患と考えられている2).特発性黄斑円孔に比べてまれな疾患であるが光干渉断層計(OCT)の進歩,普及により黄斑の形態が微細に観察可能になったため近年報告が増加している.今回筆者らは経過観察により自然寛解したmacularmicroholeを経験したので報告する.I症例53歳女性,ハンダ付けの仕事をしている.左眼中心部の見えにくさを主訴として2009年9月に当院初診した.右眼視力1.5(矯正不能),左眼視力1.2(矯正不能),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHgであった.両眼の前眼部に異常なく,検眼鏡で両眼底に異常を認めなかった.Spectraldomain方式のOCT(3DOCT-1000,TOPCON,以下SDOCT)でも黄斑に特に異常を認めなかったが,中心窩周囲に硝子体の付着を認め中心窩陥凹は平坦で少し浅くなっていた(図1A).1カ月後左眼の中心窩にoperculumを伴わない黄色の輪状の変化が出現し,SD-OCTでは中心窩の陥凹がさらに減少していた.視細胞内節外節接合部(IS/OS)は保たれているがその下の層が不整になっていた(図1B).初診時より5カ月後には左眼の中心暗点を自覚するも視力1.5で検眼鏡所見は変化なかった.SD-OCTでは網膜内層面の平坦化はやや改善し外境界膜は正常であるが約100μmのIS/OSとその外層の裂隙が観察された(図1C).その2カ月後にはわずかなIS/OSの挙上は残っているが,網膜外層の裂隙は消失して中心窩の陥凹は正常化した.中心窩の硝子体の付着は明らかではなかった(図1D).自覚症状は改善し中心窩の〔別刷請求先〕原和之:〒730-8518広島市中区基町7-33広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:KazuyukiHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital,7-33Motomachi,Naka-ku,Hiroshima-shi730-8518,JAPAN自然寛解したMacularMicroholeの1例原和之寺田佳子細川海音難波明奈広島市立広島市民病院眼科ACaseofSpontaneousResolutionofMacularMicroholeKazuyukiHara,YoshikoTerada,MioHosokawaandAkinaNambaDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital今回,光干渉断層計(OCT)により黄斑外層に小さい裂隙を認めるmacularmicroholeを経験した.53歳女性が左眼の見えにくさを自覚して受診した.検眼鏡では中心窩に黄色の輪状変化を認めた.Spectral-domainOCTで網膜内層面の平坦化と網膜外層に小さい裂隙を認めた.経過観察により網膜外層の裂隙は消失し自覚症状は改善した.硝子体牽引の減少により自然寛解したmacularmicroholeと診断した.今回の症例にみられたmacularmicroholeは黄斑円孔と同様に硝子体の牽引が関与した疾患であると考える.Weexperiencedacaseofspontaneousresolutionofamacularmicroholeintheouterretina.Thepatient,a53-year-oldfemale,presentedwithblurredvisioninherlefteye.Biomicroscopyoftheeyedisclosedayellowringinthefovea.Spectral-domainopticalcoherencetomograph(OCT)revealedasmalldefectintheouterretinaandflatteningoftheinnersurfaceofthefovea.Twomonthslater,thedefectintheouterretinahadresolvedspontaneouslyandvisualsymptomshadimproved.Wesurmisethatthemacularmicroholeseeninourpatientmayhavebeenduetovitreoustraction,likeamacularhole.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):297.299,2011〕Keywords:macularmicrohole,光干渉断層計,fovealredspot.macularmicrohole,opticalcoherencetomograph(OCT),fovealredspot.298あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(144)輪状変化は消失した.II考按Macularmicroholeは以前より知られていた病態であるがOCTによる観察は最近になって散見される.Zambarakjiらは臨床的にmicroholeの形態を認める症例をtime-domain方式のOCTで観察すると18眼中15眼で網膜外層または色素上皮層の欠損を認め,全層の円孔を認める症例はなかった3)としている.OCTの出現前にmicroholeとされていた病態が全層の網膜欠損であったのか不明であり,初期の報告のような全層の欠損とZambarakjiらの報告した網膜外層だけの欠損が同じ疾患であるかは疑問である.全層の欠損を伴わないmicroholeをfovealredspotとよび,その多くはmacularmicroholeの治癒した状態ではないかという意見もある4).Macularmicroholeの定義は混乱した状態であり,いくつかの疾患が含まれている可能性がある.今回の症例は網膜全層ではなく網膜外層のIS/OSの裂隙であった.Microholeの発生前のSD-OCTでは異常が認められなかったので以前に特発性黄斑円孔のような全層の欠損があり,その治癒過程で網膜外層の裂隙が残っていた可能性は否定的である.また,日光網膜症でも同様のOCT所見を示すことが知られているが,日光を注視した既往はなかった.同様に網膜外層だけの欠損を両眼に認めた報告5)があるが,視力は低下しており1年後にも欠損は残っていた.この文献の症例では中心窩の陥凹は正常であったので硝子体の牽引が病態に関与しているとは考えにくく,網膜外層の欠損をひき起こす原因がほかにもある可能性がある.Microholeの寛解時にはWeissringの形成は確認できなかったが硝子体の変性は進行していた.SD-OCTでは判別困難であったが図1C,Dでは硝子体面は確認できず硝子体.離が疑われた.中心窩内面の平坦化がmicroholeの寛解とともに減少して正常な陥凹に改善していることより,今回の症例では中心窩への硝子体牽引の減少が網膜外層の裂隙の寛解に寄与していると考えた.過去の報告でも,Laiらは全層の網膜欠損であるmicroholeが自然に閉鎖した症例を報告しており,硝子体の中心窩への牽引の解除が関与しているとしている6).黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群もmicroholeと同様に中心窩への硝子体の牽引が発症に関与していると考えられるが,最終的に網膜の形態に差ができる原因は不明である.Stage1の黄斑円孔の形成過程をOCTで連続的に観察した報告では,最初に中心窩で網膜内層,外層間に分離が生じその後,小さい三角形の中心窩.離が形成されるとしている7).網膜が分離したために中心窩が挙上されやすくなり残った中心窩下の円柱状の構造物(Mullercellcone)に牽引が集中して外層だけではなく全層の裂隙に進行した可能性がある.硝子体の牽引力,付着部位の差だけではなく最初に網膜分離が起こるかどうかで最終的な形態に差が出るのかもしれない.硝子体の牽引の軽減により自然寛解したと思われる網膜外層のmacularmicroholeを経験した.Macularmicroholeの発症機序の一つとして硝子体の中心窩への牽引が考えられるが,黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群と相違をもたらす原因については不明である.さらに高解像度のOCTによる発症初期の連続的観察が望まれる.文献1)CarinsJD,McCombeMF:Microholesofthefoveacentralis.AustNZJOphthalmol16:75-79,19882)ReddyCV,FolkJC,FeistRMetal:Microholesofthemacula.ArchOphthalmol114:413-417,19963)ZambarakjiHJ,SchlottmannP,TannerVetal:Macularmicroholes:pathogenesisandnaturalhistory.BrJOphthalmol89:189-193,20054)JohnsonMW:Posteriorvitreousdetachment:Evolutionandcomplicationsofitsearlystages.AmJOphthalmol149:371-382,2010図1SD.OCT所見A:初診時.B:1カ月後.中心窩の陥凹が減少している.C:5カ月後.網膜外層に裂隙を認める.D:7カ月後.裂隙は消失した.ABCD(145)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112995)照井隆行,近藤峰生,杉田糾:Macularmicroholeが疑われた症例の他局所網膜電図所見.眼臨紀2:739-742,20096)LaiMM,BresslerSB,HallerJAetal:Spontaneousresolutionofmacularmicrohole.AmJOphthalmol141:210-212,20067)TakahashiA,NagaokaT,IshioSetal:Fovealanatomicchangesinaprogressingstage1macularholedocumentedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology117:806-810,2010***

乳頭浮腫型Vogt-小柳-原田病の1 例

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)293《原著》あたらしい眼科28(2):293.296,2011cはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)は全身のメラノサイトに対する特異的な自己免疫疾患であり,ぶどう膜炎などの眼症状と感音性難聴,無菌性髄膜炎などの眼外症状を呈する1).交感性眼炎との相違は穿孔性眼外傷,あるいは内眼手術の既往の有無のみである2).国際診断基準として,両眼性であり,病初期にはびまん性脈絡膜炎を示唆する所見,すなわち限局性の網膜下液あるいは胞状滲出性網膜.離が示されている.これが明確でない場合にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FAG)による限局性の脈絡膜還流遅延,多発性点状漏出や大きな斑状過蛍光,網膜下蛍光貯留または乳頭蛍光染色,および超音波によるびまん性脈絡膜肥厚が眼所見として必要である.今回,早期に視神経乳頭の発赤・腫脹は明らかであったが眼底検査では滲出性網膜.離はみられず,後に著明となりVKHと確定診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:糖尿病.〔別刷請求先〕平田菜穂子:〒232-8555横浜市南区六ツ川2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:NaokoHirata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama-city,Kanagawa232-8555,JAPAN乳頭浮腫型Vogt-小柳-原田病の1例平田菜穂子*1林孝彦*2山根真*3水木信久*4竹内聡*2*1横浜南共済病院眼科*2横須賀共済病院眼科*3横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科*4横浜市立大学附属病院眼科ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasewithPapillitisNaokoHirata1),TakahikoHayashi2),ShinYamane3),NobuhisaMizuki4)andSatoshiTakeuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokosukaKyosaiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter,4)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityHospitalVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)の典型例では頭痛や内耳症状などの全身症状,両眼性の汎ぶどう膜炎,滲出性網膜.離,視神経乳頭浮腫がみられる.しかし,乳頭浮腫型VKHは視神経所見の出現後数週間を経た後に前房内の炎症所見や滲出性網膜.離が出現するので病初期には確定診断が困難であることが多い.今回,初診時の眼底検査では網膜下液が明らかではなく眼外の自覚症状もなかったが,約2週間後に網膜下液がみられたことから乳頭浮腫型VKHと考えられる症例を経験した.ただし,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)ではわずかな網膜下液や脈絡膜皺襞を認めていたことから,従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例でもOCTでは初期より網膜・脈絡膜に変化がみられる可能性があり,早期診断・治療に有用と考えられる.IntheclassictypeofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH),headache,innerearsymptom,panuveitis,exudativeretinaldetachmentandneuritisaresystemicallymanifested.InthistypeofVKH,becauseanteriorchamberinflammationandexudativeretinaldetachmentoccurtwoweeksaftertheappearanceofneuritis,definitediagnosisisdifficultinthefirststageofthesickness.WesawthetypeofVKH.However,slightexudativeretinaldetachmentandchoroidwrinklingappearunderopticalcoherencetomography(OCT)inthefirststage;therefore,thetypereportedinthepasthasthesamepossibility.ThesefindingsthereforeshowthatOCTisusefulforearlydiagnosisandtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):293.296,2011〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,乳頭炎,うっ血乳頭,滲出性網膜.離,光干渉断層計.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,papillitis,chokeddisk,exudativeretinaldetachment,opticalcoherencetomography.294あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(140)現病歴:平成20年4月末に左眼視力低下を自覚し4月28日に近医を受診した.視力は右眼(0.8×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.2×.2.0D(cyl.3.00DAx120°),特記すべき所見はなかった.5月16日,視力変化はなかったが両視神経乳頭からの出血・発赤腫脹が出現したため,横須賀共済病院眼科(以下,当院)へ紹介され,5月20日受診となった.初診時所見:視力は右眼0.5(0.7×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼0.3(0.4×.2.0D(cyl.3.00DAx120°),眼圧は右眼11mmHg,左眼11mmHgであった.両眼に相対的瞳孔求心路障害はなく,中心フリッカー値(criticalflickerfrequency:CFF)は右眼35Hz,左眼34Hz,前房内炎症細胞は右眼±,左眼±,両眼視神経乳頭からの出血・発赤腫脹があり,Goldmann視野検査では両眼にMariotte盲点が拡大していた.うっ血乳頭の可能性も考え,頭部computedtomography(CT)を施行したが特記すべき所見はなかった.翌日21日,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では両眼にわずかな網膜下液の貯留や脈絡膜皺襞があり,視神経乳頭が腫脹していた(図1).FAGでは早期より両眼の視神経乳頭から漏出を認め,視神経乳頭炎を考えたABCD図1初診翌日の眼底写真とOCT所見A:5月21日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.視神経乳頭からの出血・発赤腫脹(破線矢印)を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.視神経乳頭の腫脹(破線矢印),網膜下液の貯留(実線矢印)を認めた.ABCD図2初診翌日,10日後のFAG所見A:5月21日右眼のFAG.B:同日左眼のFAG.視神経乳頭からの漏出(実線矢印)を認めた.C:5月30日右眼のFAG.D:同日左眼のFAG.さらに後極に蛍光漏出・貯留(破線)を認めた.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011295(図2A,B).VKHも疑われたが所見が強くないことから経過観察とした.経過:5月23日,自覚症状に変化はなく,視力は右眼(0.8×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.5×.2.0D(cyl.3.00DAx120°)と改善し,所見に変化はなかった.しかし5月30日,右眼(0.3×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.4×.2.0D(cyl.3.00DAx120°)と低下,CFFは右眼32Hz,左眼33Hz,前房内炎症細胞は右眼±,左眼+と若干増加,視神経乳頭からの出血・発赤腫脹は変わらず,後極に滲出性網膜.離が出現した.OCTでは網膜下液が増加し(図3),FAGでは後期に後極の網膜下に蛍光漏出・貯留が出現した(図2C,D).VKHが強く疑われ,髄液検査を行ったところ,細胞数6/μl,単核球6/μl,多形核球1/μl以下と単球優位の細胞数が増加しており,VKHと診断した.なお,採血検査にて炎症反応はなかった.同日よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン点滴500mg/日3日間,以後プレドニゾロン内服40mg/日から漸減),および局所療法(ベタメタゾンリン酸エステルナABCD図3初診時より10日後の眼底写真とOCT所見A:5月30日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.さらに滲出性網膜.離(破線)を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.網膜下液(実線矢印)の増加を認めた.ABCD図4初診時より20日後の眼底写真とOCT所見A:6月10日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜下液の改善傾向を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.網膜下液(実線矢印)の減少を認めた.296あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(142)トリウム点眼両眼4回/日,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼両眼3回/日)を開始した.6月2日(治療開始3日目)には視神経乳頭の腫脹・黄斑部の網膜下液が減少した.6月10日(11日目)には右眼(0.6×.2.00D(cyl.2.50DAx30°),左眼(0.5×.3.00D(cyl.2.25DAx145°),視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜下液は著明に改善した(図4).6月25日(26日目)には右眼(0.6×.2.50D(cyl.1.50DAx25°),左眼(0.5×.3.00D(cyl.2.25DAx150°),視神経乳頭の腫脹は消失し,網膜下液はわずかになった.8月8日(70日目)には右眼(0.9×.2.50D(cyl.1.50DAx25°),左眼(0.8×.2.75D(cyl.2.00DAx150°),視神経乳頭の発赤はさらに低下,前房内炎症細胞と網膜下液は消失した.経過中,眼外症状は出現しなかった.II考按VKHに対するステロイド大量療法(プレドニゾロン点滴200mg/日2日間,150mg/日2日間,100mg/日2日間と漸減)とパルス療法(メチルプレドニゾロン点滴1,000mg/日3日間投与後,プレドニゾロン内服40mg/日14日間,30mg/日14日間と漸減)の比較では治療後の視力・炎症は同等であり,再発,遷延例の頻度に有意差はなかった3)が,大量療法では夕焼け状眼底を呈する頻度が有意に高く4),この場合コントラスト感度の低下傾向や色覚異常の出現報告がある5).また,ステロイドパルス1,000mgと500mg投与例ではその後消炎に要したステロイド内服投与期間,総投与量に有意差がなかったとの報告6)があり,今回ステロイドパルス療法(点滴500mg/日3日間の後内服漸減投与)を施行した.VKHの典型例では頭痛や内耳症状などの全身症状,両眼性の汎ぶどう膜炎を起こし,乳頭浮腫,虹彩炎,滲出性網膜.離,視神経乳頭浮腫が出現する.乳頭浮腫型と後極部型に分類され,乳頭浮腫型では頭痛,髄液細胞数増多,難聴を伴う例が多く7),視神経所見の出現後数週間を経て前房内の炎症所見や滲出性網膜.離が出現するので,全身症状が明確でない場合は,特に病初期での確定診断は困難であることが多い8,9).乳頭浮腫型VKHの鑑別疾患として,頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭があげられる.この原因としては,脳腫瘍などの頭蓋内占拠性病変だけではなく,静脈洞血栓症や肥厚性硬膜炎などがあげられる.前者の診断にはmagneticresonanceangiographyやvenography,後者には冠状断での造影magneticresonanceimagingを行う必要がある.その他,髄膜炎後の頭蓋内圧亢進や,肥満や薬剤による良性頭蓋内圧亢進も原因となりうる10)が,これらを鑑別するための必要な検査を即座にすべて行うことは困難である.本症例では早期に視神経乳頭の発赤・腫脹が明らかであったため,最も頻度の高い頭蓋内占拠性病変の可能性を考え頭部CTを行ったが,特記すべき所見はなかった.翌日OCTで網膜下液の貯留があり,VKHの可能性が高いと判断できた.初診時の細隙灯顕微鏡検査も用いた詳細な眼底検査では滲出性網膜.離は明らかでなく,約2週間後に網膜下液が出現したことから,従来の考えでは乳頭浮腫型VKHに分類される.ただし,後極部型を含めた急性期のVKHに対するOCTで脈絡膜皺襞の報告があるように11),本症例のOCTでもわずかな網膜下液や脈絡膜皺襞を認めていることから,従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例でもOCTでは網膜・脈絡膜に変化を生じていた可能性が考えられた.また,今回の症例では網膜下液や脈絡膜皺襞は消失したが,最終的に残存していながら視力が改善した報告もある12)ことから,VKHの経過中に生じる視力低下の原因は脈絡膜皺襞ではなく,網膜下液貯留によるものだと考えられた.OCTにより従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例も非侵襲的に滲出性網膜.離などの網膜・脈絡膜の変化を捉えることが可能であり,早期診断・治療に役立つと考えられる.文献1)杉浦清治:Vogt-小柳-原田病.臨眼33:411-421,19792)北市伸義,北明大州,大野重昭ほか:交感性眼炎.臨眼62:650-655,20083)赤松雅彦,村上晶,沖坂重邦ほか:最近6年間に経験した原田病の臨床的検討.臨眼39:169-173,19974)北明大州,寺山亜希子,南場研一ほか:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,20045)瀬尾亜希子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討─特に夕焼け状眼底との関連.臨眼41:933-937,19876)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科25:851-854,20087)大出尚郎:視神経炎と誤りやすい網膜症・視神経網膜症.あたらしい眼科20:1069-1074,20038)峠本慎,河原澄枝,木本高志ほか:乳頭浮腫型原田病の臨床的特徴.日眼会誌107:305,20039)RajendramR,EvansM,KhranaRNetal:Vogt-Koyanagi-Haradadiseasepresentingasopticneuritis.IntOphthalmol27:217-220,200710)中村誠:乳頭が腫れていたら.あたらしい眼科24:1553-1560,200711)GuptaV,GuptaA,GuptaPetal:Spectral-domaincirrusopticalcoherencetomographyofchoroidalstiriationsseenintheacutestageofVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol147:148-153,200912)NodaY,SonodaK,NakamuraTetal:AcaseofVogt-Koyanagi-Haradadiseasewithgoodvisualacuityinspiteofsubfovealfold.JpnJOphthalmol47:591-594,2003***

網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術およびトリアムシノロン硝子体内投与の短期効果についての検討

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)287《原著》あたらしい眼科28(2):287.292,2011cはじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,随伴する黄斑浮腫によりしばしば視力低下をきたす.BRVOに対する治療として,新生血管の抑制を目的とする網膜光凝固術1)や,黄斑浮腫に対する光凝固治療の有効性2)が示され,広く行われてきた.近年BRVOに伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術3~6),トリアムシノロン7)や他の薬物(組織プラスミノーゲンアクチベータ8),ベバシズマブ9,10)など)硝子体内投与などの治療の有効性が多数報告されている.一方,自然経過により黄斑浮腫が軽減し視力改善する症例もある11~14)ことから,BranchVeinOcclusionStudy1,2)では治療開始前に3カ月間の経過観察を行うようにしている.また,opticalcoherencetomography(OCT)の普及により,BRVOに伴う黄斑浮腫の定量および形態の変化が観察できるようになってきている15).今回,BRVOに対する硝子体手術およびトリアムシノロンアセトニド硝子体内投与(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)の短期の効果について,自然経過と比較し検討した〔別刷請求先〕神尾聡美:〒999-3511山形県西村山郡河北町谷地字月山堂111山形県立河北病院眼科Reprintrequests:SatomiKamio,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KahokuPrefecturalHospitalofYamagata,111Gassanndo,Yachiaza,Kahokucho,Nishimurayama-gun,Yamagata999-3511,JAPAN網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術およびトリアムシノロン硝子体内投与の短期効果についての検討神尾聡美*1山本禎子*2三浦瞳*2桐井枝里子*2山下英俊*2*1山形県立河北病院眼科*2山形大学医学部眼科学講座VitrectomyandTriamcinoloneAcetonideforMacularEdemawithBranchRetinalVeinOcclusionSatomiKamio1),TeikoYamamoto2),HitomiMiura2),ErikoKirii2)andHidetoshiYamashita2)1)DepartmentofOphthalmology,KahokuPrefecturalHospitalofYamagata,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YamagataUnivercitySchoolofMedicine目的:網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対する硝子体手術,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射(IVTA)の効果について自然経過と比較検討した.対象および方法:BRVOに伴う黄斑浮腫症例102例118眼(硝子体手術群37眼,IVTA群29眼,経過観察群52眼).術前,術後1~3カ月の視力,網膜厚を検討した.結果:網膜厚は硝子体手術群とIVTA群で術後1カ月から,経過観察群で2カ月から減少した.視力はIVTA群で術後1カ月,硝子体手術群で術後2カ月から改善したが,経過観察群では3カ月後まで改善しなかった.結論:硝子体手術,IVTAは黄斑浮腫および視力を早期に改善させる効果がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyofvitrectomyandintravitrealtriamcinoloneacetonide(IVTA)forbranchretinalveinocclusion(BRVO),incomparisonwithnaturalprogress.ObjectandMethods:Of118eyes(102patients)withBRVO-associatedmacularedema,37weretreatedbyvitrectomy,29byIVTAand52(controls)werenottreated.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andretinalthickness(RT)weremeasuredatenrollmentand1,2,and3monthsthereafter.Results:RTwasdecreasedat1monthaftervitrectomyandIVTA,andat2monthsafterinthecontrols.BCVAwasimprovedat1monthafterIVTAandat2monthsaftervitrectomy,butshowednoimprovementat3monthsinthecontrols.Conclusion:VitrectomyandIVTAaremoreeffectivethanthenaturalcourseforearlyimprovementofRTandBCVA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):287.292,2011〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,硝子体手術,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射,自然経過,光干渉断層計(OCT).branchretinalveinocclusion,vitrectomy,intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection,naturalcourse,opticalcoherencetomograph(OCT).288あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(134)ので報告する.I対象および方法本研究は山形大学医学部倫理委員会の承認をうけた.対象は2004年1月から2006年9月までに山形大学医学部眼科でBRVOに伴う黄斑浮腫を認め,評価開始時矯正小数視力0.5以下であった症例102例118眼である.男性44眼,女性74眼,年齢は44.82歳,平均65.6(±9.7)歳であった.治療法は,硝子体手術を施行した症例37眼(以下,vitrectomy群),IVTAを施行した症例29眼(以下,IVTA群),自然経過観察52眼(以下,経過観察群)であった.治療法のフローチャートを図1に示す.治療法の選択については,患者本人と相談のうえ選択した.治療前に自然寛解の可能性のあることが報告されている11~14)ことをもとに患者に説明して,3カ月間経過を観察した期間および治療を希望しなかった症例を経過観察群とし,3カ月経過観察後に症状が改善せず治療を希望した場合にはいずれかの治療を行った.発症から3カ月未満で治療を行った症例はvitrectomy群で11眼,IVTA群で2眼であった.Vitrectomy群では,経毛様体扁平部硝子体切除術を施行し,白内障を認めた症例では超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.Vitrectomyの術中に黄斑浮腫の治療目的でトリアムシノロン4mgを注入した症例は28例で,それ以外は黄斑部の残存硝子体の有無を確認し除去する目的でごく微量のトリアムシノロンを網膜表面に塗布し,確認後は吸引除去した.IVTA群では,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)4mgを30ゲージ針にて硝子体内に注入した.IVTA群においては治療前にリン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンRA)の6回/日点眼を3週間行い,眼圧が有意に上昇した症例は除外した.経過観察群については初診から3カ月の経過観察中に治療の希望があり治療を行ったものは対象から除外した.除外して治療された症例は治療群のなかには含まれない.また,発症推定時期から1年以上経過している陳旧例は対象から除外した.評価項目は,術前または観察開始時,1カ月,2カ月,3カ月後の視力および網膜厚,評価開始時の年齢,性別,発症推定時期から治療または観察開始までの期間,血管閉塞部位,閉塞領域,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)での虚血の有無,黄斑部虚血の有無とした.なお,FAにて5乳頭面積以上の虚血があったものを虚血型とした.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に換算し,視力の平均はlogMAR視力の相加平均で算出して評価した.視力変化に関してはlogMAR視力で0.3以上の変化を改善または悪化と定義した.網膜厚はOCTのretinalmapプログラムを使用し,中心窩平均網膜厚の値を用いた.網膜厚変化は術前網膜厚の20%以上の減少または増加を改善または悪化と定義した.また,各群での視力および網膜厚の改善率の変化について比較検討した.視力(網膜厚)改善率は「[治療後の視力(網膜厚).術前または観察開始時の視力(網膜厚)]/術前または観察開始時視力(網膜厚)の絶対値」と定義した.有意差検定には,平均値にはMann-WhitneyUtest,Kruskal-Wallistest,Kolmogorov-Sminov検定にて正規分布を示すデータに対しては一元配置分散分析,比率はFisherBRVOと診断黄斑浮腫ありVA≦0.5早期治療を希望3カ月間の経過観察希望経過観察群n=52Vitrectomyn=27IVTAn=23改善なしn=41改善または治療希望なしn=11Vitrectomyn=10*IVTAn=6*Vitrectomy群n=37IVTA群n=29図1治療のフローチャート*:治療後3カ月以上経過観察可能であった症例.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011289直接法,また,各群の視力および網膜厚の推移については分散分析を用いた.有意確率は0.05未満を有意と判断した.II結果各群の術前観察開始時の状態を表1に示す.治療または観察開始までの期間が経過観察群で有意に短い(p<0.001)が,その他の因子では3群間に有意差を認めなかった.治療および観察開始から3カ月後の各群の視力変化を図2に示す.Vitrectomy群は改善18眼(48.6%),不変16眼(43.2%),悪化3眼(8.1%),IVTA群では改善15眼(51.7%),不変14眼(48.3%),悪化0眼,経過観察群では改善11眼(21.2%),不変34眼(65.4%),悪化7眼(13.5%)であり,vitrectomy群およびIVTA群では経過観察群に比較し改善例が多かった(vitrectomy群p=0.006,IVTA群p=0.001).3カ月後の網膜厚変化を図3に示す.Vitrectomy群では改善18眼(48.6%),不変16眼(43.2%),悪化3眼(8.1%),IVTA群では改善17眼(58.6%),不変12眼(41.4%),悪化0眼,経過観察群では改善30眼(57.7%),不変19眼(36.5%),悪化3眼(5.8%)であり,3群間で有意差は認められなかった.つぎに,視力および網膜厚の推移を図4a,bに示す.3群の視力の推移では,IVTA群が治療後1カ月(p=0.001),vitrectomy群が治療後2カ月で有意に治療前に比較し視力が改善した(p=0.007)のに対し,経過観察群では最終観察時点の3カ月目においても改善しなかった.網膜厚の推移では,IVTA群およびvitrectomy群で治療後1カ月の時点で有意に減少した(IVTA群:p=0.001,vitrectomy群:p=0.012)のに対し,経過観察群では1カ月目181511161434037100%80%60%40%20%0%Vitrectomy(n=37)IVTA(n=29)経過観察(n=52)**□:改善■:不変■:悪化*p<0.01Fisher直接法図2視力(3カ月後)グラフ内の数字は眼数を示す.IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonide.181730161219100%30380%60%40%20%0%Vitrectomy(n=37)IVTA(n=29)経過観察(n=52)□:改善■:不変■:悪化図3網膜厚(3カ月後)グラフ内の数字は眼数を示す.IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonide.表1術前または観察開始時所見Vitrectomy群n=37IVTA群n=29経過観察群n=52p値観察開始時視力0.75±0.260.72±0.380.61±0.320.226*観察開始時網膜厚(μm)447.3±155.0458.6±114.7503.8±119.60.071年齢(歳)66.3±9.866.0±7.964.8±10.00.562性(女性/男性)2.11.641.890.951観察開始までの期間3.8±2.25.7±2.21.7±1.4<0.001*虚血型(%)37.844.844.20.951黄斑部虚血(%)21.620.719.20.650閉塞部位上(%)下(%)黄斑枝(%)54.135.110.855.234.510.349.035.615.40.688第1分枝閉塞(%)59.555.248.00.759第2分枝閉塞(%)29.734.536.60.837Kruskal-Wallistest*:one-wayANOVA.290あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(136)ではほとんど減少せず2カ月から減少した(p<0.001).つぎに,各群での視力および網膜厚改善率の推移を比較検討した(図5a,b).IVTA群は経過観察群に比べ視力改善率は術後1カ月から3カ月まで有意に高かった(術後1カ月p<0.001,術後2カ月p=0.001,術後3カ月p=0.04).Vitrectomy群では術後1カ月,2カ月では経過観察群に比べ有意に改善率が高く(術後1カ月p=0.025,術後2カ月p=0.015),術後3カ月では改善率が高い傾向にあった(p=0.09).Vitrectomy群とIVTA群間では術後3カ月まで改善率に有意差を認めなかった.一方,網膜厚改善率では術後1カ月でvitrectomy群,IVTA群とも経過観察群に比べ有意に改善率が高かった(vitrectomy群p=0.016,IVTA群p<0.001)が,術後3カ月では経過観察群との間に有意差は認められなかった(vitrectomy群p=0.881,IVTA群p=0.621).IVTA群とvitrectomy群を比較すると,IVTA群はvitrectomy群に比べ術後1カ月で有意に改善率が高かった(p=0.048)が,術後3カ月では有意差を認めなかった(p=0.43).術後合併症の発生の内訳を表2に示す.IVTAで術後21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(6.9%)に認めたが,眼圧上昇は最高20mmHg台後半であり,点眼治療にて改善した.術後細菌性眼内炎,網膜裂孔および網膜.離は3群とも認められなかった.表2術後合併症Vitrectomy群IVTA群経過観察群眼圧上昇(≧21mmHg)02眼(6.9%)0細菌性眼内炎000網膜.離000網膜裂孔0000.60.50.40.30.20.10013平均網膜厚改善率+SD経過観察期間(月)****:Vitrectomy:IVTA:Control図5b網膜厚改善率*p<0.05,**p<0.01Mann-WhitneyUtest.(3群間で有意差のあったものを*,**で表示)0123経過観察期間(月)***************7006005004003002001000中心窩平均網膜厚(μm)+SD:Vitrectomy:IVTA:Control図4b網膜厚*p<0.05,**p<0.01ANOVA(Bonferroni).(治療前または経過観察時視網膜厚と術後網膜厚との間に有意差のあったものを*,**で表示)0123経過観察期間(月)1.210.80.60.40.20-0.2平均視力改善率+SD*******:Vitrectomy:IVTA:Control図5a視力改善率*p<0.05,**p<0.01Mann-WhitneyUtest.(3群間で有意差のあったものを*,**で表示)1.210.80.60.40.200123経過観察期間(月)平均logMAR視力+SD**********:Vitrectomy:IVTA:Control図4a視力**p<0.01ANOVA(Bonferroni).(治療前または経過観察時視力と術後視力との間に有意差のあったものを**で表示)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011291III考按これまで,BRVOの治療には光凝固1,2),硝子体手術3~6),薬物治療(トリアムシノロン7),組織プラスミノーゲンアクチベータ8),ベバシズマブ硝子体内投与9,10)などの有効性が報告されている.一方でBRVOは症例により自然経過が大きく異なる疾患であり,自然経過により視力および網膜厚の改善を認める症例がしばしば認められる11~14).光凝固治療はBranchVeinOcclusionStudy1,2)の大規模臨床研究によりその有効性がすでに報告されているが,最近の治療による視力および網膜厚の改善が,治療によって改善しているのか自然経過で改善しているのかを判断することはむずかしく,治療によって改善したように思われる症例のなかには,自然経過で改善したものが含まれている可能性がある.以上の理由から,最近の治療法による結果とコントロールを比較することが必要であると考えられる.しかし,光凝固治療の有効性がすでに報告されている現在,本疾患の多数の症例において無治療で長期経過を観察することは倫理的にも非常に困難であり,無治療群をランダムに振り分けるのはさらに問題がある.しかし,BranchVeinOcclusionStudyの研究においても,治療介入に入る前に発症後3カ月は自然経過を観察していることから,3カ月間の経過観察は現在のところ倫理上問題が少ないと考えられる.したがって,治療群と経過観察群との比較を行う場合は,検討期間を自然経過観察期間の3カ月に合わせざるをえないため,今回の検討は3カ月間という短期間の観察となった.また,過去のBRVOの自然経過の報告ではOCTを用いた網膜厚の詳細な経過観察は行われていない.以上の理由から,本研究では3カ月といった短期間ではあるが,自然経過を観察した群と最近の新しい治療法を行った群の視力および網膜厚について比較検討を行った.その結果,治療および観察開始後3カ月の時点で視力が改善したのは硝子体手術では48.6%,IVTAでは51.7%であったが,経過観察群では21.2%のみでありvitrectomy群およびIVTA群に比較し有意に経過観察群で不良であった.一方,網膜厚の改善は,硝子体手術で43.2%,IVTAで58.6%の症例で認められ,経過観察群でも57.7%で改善した.この理由は,経過観察群のなかには,予後がきわめて良好で,観察開始後3カ月で視力が著しく改善する症例もあるが,ほとんどの症例が自然経過では浮腫の減少速度が治療群に比較して緩除であり,このために経過観察群では3カ月の経過観察期間内で十分な視力改善が得られなかったと考えられる.また,経過良好例がある一方,まったく浮腫は軽減せず,逆に一時的に浮腫が増強し視力も増悪する症例もあり,このような症例に対しては3カ月経過観察後に早急に治療を開始すべきであると考えられる.視力改善率は,術後1カ月から2カ月ではIVTA群およびvitrectomy群が経過観察群に比べて有意に高く,術後3カ月ではIVTA群は経過観察群より高く,vitrectomy群は経過観察群に比較し高い傾向にあった.この結果から,経過観察群に比較し治療群は早期から視力が改善しており,IVTAや硝子体手術などの治療法は少なくとも短期的には有効な治療法と考えられた.網膜厚改善率では経過観察群が観察開始後1カ月ではほとんど改善していないのに対し,IVTA群およびvitrectomy群では有意に高い改善率を認め,視力改善と同様に治療をすることによって早期から網膜厚が改善することがわかった.また,網膜厚の改善率は,観察開始後1カ月の時点で,vitrectomy群に比較しIVTA群で有意に高い改善率であった.この結果はIVTAでは硝子体手術より早く浮腫が減少することが示され,視力予後の点からIVTAが望ましい可能性も考えられる.しかし,IVTAでは投与後3~6カ月で再発が多いことが報告されている7).もし,再発した場合,再度のIVTAあるいは他の治療を行うことになるが,再発をくり返した場合は最終視力にどのように影響するかは不明であり,硝子体手術とIVTAの効果の優劣に関してはさらに長期の経過を観察する必要がある.今回の検討では,治療後の合併症として,IVTA群で2眼(6.9%)に眼圧上昇が認められた.IVTAによる術後眼圧上昇の報告によると,約26%で21mmHg以上の眼圧上昇が認められ16),トリアムシノロンの薬剤効果は約8~9カ月継続するため,少なくとも6カ月以上の経過観察が必要17)とされている.今回検討した症例では認められなかったが,IVTAでは,術後眼内炎の発生の可能性18,19),硝子体手術では術中網膜裂孔や術後網膜.離の発生の可能性20,21)などが存在するため,治療にあたっては十分な説明と術後管理が必要であると思われた.黄斑浮腫は遷延化すると.胞様黄斑浮腫の形態をとることが多い.組織学的な.胞様黄斑浮腫の形成メカニズムは,黄斑浮腫の遷延化によりMuller細胞の細胞内浮腫が生じ,引き続いてMuller細胞の細胞構造が破壊されると細胞間液の吸収が遅延することで形成されると考えられている22).したがって,黄斑浮腫が長期に及ぶと不可逆的な組織変化および機能障害が生じ,浮腫が消失しても視力が改善しない可能性があることから,早期に浮腫を改善することは視力予後を良好にする可能性がある.しかし,どれくらい早期に浮腫を改善させることが長期的な視力予後に影響するかについては,さらに症例数を増やし,長期間の治療経過を観察しなければならない.また,発症後3カ月間は無治療で経過観察するという治療方針が長期的な視力予後に影響するかについても,より長期の観察を行う必要がある.今回の検討では,経過観察群は治療群に比較して観察開始までの時間が少なく,観察開始時での視力が比較的良好な症292あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(138)例が多い傾向があった.経過観察群には,初診時より視力が良好で浮腫も軽度な症例,あるいは短期間で視力および浮腫が改善した症例が多く含まれている可能性がある.本検討が治療方針を患者の希望により決定しており,無作為割り付け試験でない以上,経過観察群と治療群の間に何らかのバイアスが入ることは否めない.しかし,経過観察群で予後が良い症例を多く含んでいる可能性があるにもかかわらず,経過観察群と比較し治療介入群で有意に視力改善度は大きかった.この結果から考えて,IVTAや硝子体手術は視力の改善という点において短期的には有効であると考えられた.以上の結果より,3カ月間の経過観察において,自然経過観察に比較しIVTAや硝子体手術などの治療は,早期から浮腫を軽減させ視力が改善することがわかった.また,短期的には浮腫の軽減は硝子体手術に比べIVTAでより早期から認められたが,IVTAは再発もあるので,最終的な視力予後を知るためには長期での検討が今後必要であると思われた.文献1)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserscatterphotocoagulationforpreventionofneovascularizationandvitreushemorrhageinbranchveinocclusion.ArchOphthalmol104:34-41,19862)TheBranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclusion.AmJOphthalmol98:271-282,19843)OperemcakEM,BruceRA:Surgicaldecompressionofbranchretinalveinocclusionviaartriovenouscrossingsheathotomy:aprospectivereviewof15cases.Retina19:1-5,19994)TachiN,HashimotoY,OginoN:Vitrectomyformacularedemacombinedwithretinalveinocclusion.DocOphthalmol97:465-469,19995)YamamotoS,SaitoW,YagiFetal:Vitrectomywithorwithoutarteriovenousadventitialsheathotomyformacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol138:907-914,20046)熊谷和之,荻野誠周,古川真理子ほか:網膜静脈分枝閉塞症に併発する黄斑浮腫に対する硝子体手術.日眼会誌106:701-707,20027)ChenSD,SundaramV,LochheadJetal:Intravitrealtriamcinoloneforthetreatmentbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol141:876-883,20068)MurakamiT,TakagiH,KitaMetal:Intravitrealtissueplasminogenactivatortotreatmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol142:318-320,20069)RabenaMD,PieramiciDJ,CastellarinAAetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofmacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusion.Retina27:419-425,200710)StahlA,AgostiniH,HansenLLetal:Bevacizumabinretinalveinocclusion-resultsofaprospectivecaseseries.GraefesArchClinExpOphthalmol245:1429-1436,200711)FinkelsteinD:Ischemicmacularedemarecognitionandfavorablenaturalhistoryinbranchveinocclusion.ArchOphthalmol110:1427-1434,199212)綾木雅彦,桂弘:網膜静脈分枝閉塞症の自然経過と視力予後.臨眼39:1347-1351,198513)飯島裕幸:網膜静脈分枝閉塞症の自然経過.眼科手術16:5-10,200314)平見恭彦,高木均,西脇弘一ほか:網膜静脈分枝閉塞症自然経過の視力予後.臨眼56:75-78,200215)SpaideRF,LeeJK,KlancnikJKJretal:Opticalcoherencetomographyofbranchretinalveinocclusion.Retina23:343-347,200316)RothDB,VermaV,RdaliniTetal:Long-termincidenceandtimingofintraocularhypertensionafterintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.Ophthalmology116:455-460,200917)RheeDJ,PeckRE,BelmontJetal:Intraocularpressurealterationsfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonide.BrJOphthalmol90:999-1003,200618)WestfallAC,OsbornA,KuhlDetal:Acuteendophthalmitisincidence:intravitrealtriamcinolone.ArchOphthalmol123:1075-1077,200519)JonischJ,LaiJC,DeramoVAetal:Increasedincidenceofsterileendophthalmitisfollowingintravitrealpreservedtriamcinoloneacetonide.BrJOphthalmol92:1051-1054,200820)SjaardaRN,GlaserBM,ThompsonJTetal:Distributionofiatrogenicretinalbreaksinmacularholesurgery.Ophthalmology102:1387-1392,199521)TanHS,MuraM,SmetMD:Iatrogenicretinalbreaksin25-gaugemacularsurgery.AmJOphthalmol148:427-430,200922)YanoffM,FineBS,BruckerAJetal:Pathologyofhumancystoidmacularedema.SurvOphthalmol28:505-511,1984***

眼底所見と対比した放射線および糖尿病網膜症の網膜の病理学的観察

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)277《原著》あたらしい眼科28(2):277.285,2011c眼底所見と対比した放射線および糖尿病網膜症の網膜の病理学的観察木村毅*1溝田淳*2安達惠美子*3*1きむら眼科*2帝京大学医学部眼科学講座*3千葉大学大学院医学研究院視覚病態学Clinico-pathologicalChangesoftheRetinainRadiationandDiabeticRetinopathyTsuyoshiKimura1),AtsushiMizota2)andEmikoUsami-Adachi3)1)KimuraOphthalmologicInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,TeikyoUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicine,ChibaUniversity目的:眼底所見の類似する放射線網膜症(以下,RR)と糖尿病網膜症(以下,DR)の網膜の臨床病理学的研究を行い,両者を対比検討する.さらに両者に共通な毛細血管瘤の形態を観察しその成因を考察する.方法:実体顕微鏡,光学および電子顕微鏡観察.症例:(1)RR.54歳,男性.1977年7月,篩骨洞癌のため左眼を含む照射野に総量10,000rdsのコバルト照射を施行,1年後左眼球摘出を施行,実体顕微鏡下にRRが認められた.(2)DR.68歳,女性.コントロール不良の糖尿病患者.1976年左眼白内障術後,絶対緑内障を併発,やむなく左眼球摘出を施行した.実体顕微鏡下にてDRが認められた.結果:RRの眼底では乳頭から黄斑部にかけて浮腫状網膜混濁を認めるが,この本態は神経線維層内の神経線維の腫大,変性であった.そして内,外顆粒層,網状層,視細胞層の配列の不整や細胞要素の変性は両者にみられ,多様であるがそれぞれの特異性はなかった.血管内皮細胞の変化は扁平化,有窓化が両者にみられ血管閉塞も観察される.毛細血管瘤壁の構造は毛細血管類似であったが,なかには基底膜がきわめて菲薄で,内皮細胞は丈が高く,核が大きく幼若とみなされるものもあった.これらは血管瘤以外の毛細血管と異なり,基底膜に沿って並列に増殖した内皮細胞と推測された.結論:RRもDRも網膜各層の不整や細胞質内小器官の広範囲な変性など病態は多様性に富むが,それぞれの変化に特異性はなかった.血管内皮細胞の変性は顕著であった.毛細血管瘤壁には内皮細胞,その菲薄な基底膜ともに幼若なものとみなされるものも観察され,それらは基底膜に沿った増殖が推測された.Clinico-pathologicalchangesoftheretinawereexaminedinoneeyewithradiationretinopathy(RR;case1,54yearsold,male)andoneeyewithdiabeticretinopathy(DR;case2,68yearsold,female).Lightandelectronmicroscopyandbinocularmicroscopywereperformedonthetwoeyes.Theeyeincase1hadbeentreatedformalignantorbitaltumorwithX-irradiation(cobalt)of10,000radsdeliveredtothetumorarea,includingthefelloweye,overaperiodof3months.After1yeartheeyewasenucleatedandbinocularmicroscopyofthefundusrevealedRR,showingretinaledema,hemorrhages,softexudatesandmicroaneurysms.Theeyeincase2wasobtainedfromabsoluteglaucoma.BinocularmicroscopyshowedDR.Histopathologicalexaminationoftheretinasinthesecasesdisclosedthatthecytoplasmicorganellesinthecellsofthenervefiberlayer,innerandouterplexiformlayers,nuclearlayersandphotoreceptorshaddegeneratedanddecreased.Thenucleiofthosecellsappearedtoberelativelyresistanttoirradiation.Damagetotheendothelialcellsinretinalvesselswasprominent.Theseendothelialcellswerethinandfenestrated;somewerelost.Theendothelialcellsinthewallsofmicroaneurysmshadnumerouscytoplasmicorganelles,largenucleiandthinbasementmembranes.Thesefeaturessuggestthatthesecellswereyoungtypeandhadproliferatedinlinearfashionalongthebasementmembrane.Asaresultofthisproliferation,thecapillarylumenappearedtoenlarge.TheRR-relatedpathologicalchangesintheretinaweresimilartothoseofDR;itwasimpossibletodifferentiatethefindingsofRRfromthoseofDR.Theendothelialdamageappearedtohavecausedsecondarychangesintheretina.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):277.285,2011〕〔別刷請求先〕木村毅:〒421-0206焼津市上新田829-1きむら眼科Reprintrequests:TsuyoshiKimura,M.D.,KimuraOphthalmologicInstitute,829-1Kamishinden,Yaizu-shi,Shizuoka-ken421-0206,JAPAN278あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(124)はじめに放射線網膜症(以下,RR)と糖尿網膜症(以下,DR)は眼底所見がやや類似している.これらの網膜症の患者眼での病理組織学的観察は,トリプシン消化法による血管樹伸展標本が多く1)光学および電子顕微鏡(以下,光顕,電顕)を用いた研究は少ない2.4).特に眼底所見と対比した臨床病理学的報告はきわめて少ない5).今回眼底所見と対比したRRの網膜病変をDRのそれと比較し,光顕,電顕的観察からそれぞれ多様性に富む網膜病変と顕著な血管変化について検討した.そして毛細血管瘤の形態について観察しその成因についても考察する.I症例1.RR(症例1)54歳,男性.1977年7月弘前大学医学部附属病院耳鼻咽喉科にて篩骨洞扁平上皮癌と診断された.その後,同病院放射線科にて左眼を含む照射野に3カ月間総量10,000rdsのコバルト照射を受けた.照射前の検眼鏡所見ではScheie1の網膜動脈硬化症以外に異常所見はみられなかった.照射後より左眼角膜炎を併発,1年後重篤な角膜潰瘍のため眼痛,高度の視力障害を訴えやむなく左眼球摘出を施行した.摘出後の眼球は切半し前眼部は角膜,虹彩,水晶体が癒着し一塊となっていた.後極部は実体顕微鏡による眼底所見では図1に示したごとく,乳頭から黄斑部にかけての浮腫状混濁,綿花様白斑,網膜出血,毛細血管瘤などがみられ,RRの眼底所見であった.2.DR(症例2)68歳,女性.10年来コントロール不良の糖尿病に罹患.1976年糖尿病白内障のため某病院眼科にて左眼白内障手術を受けた.術後,左眼緑内障を併発.5年後弘前大学医学部附属病院眼科にて諸種治療にもかかわらず高度の視力障害,眼痛を訴え絶対緑内障の診断でやむなく左眼球摘出を施行した.摘出眼球は赤道部で切半し,後極部網膜の実体顕微鏡観察では網膜小出血,毛細血管瘤,硬性白斑が認められた.右眼の検眼鏡観察でも同様の網膜病変が認められDRと診断された.以上の症例は2例とも眼球摘出前,治療,研究に対するインフォームド・コンセントを行い同意を得たうえで施行している.II方法症例は1,2とも摘出眼球は前眼部と後極部に切半し0.1Mリン酸バッファーを含む2.5%グルタールアルデヒド溶液に前固定.実体顕微鏡による眼底写真撮影後,毛細血管瘤その他検索部位の病変部を小片に分離した.そして0.1Mリン酸バッファーを含む1%四酸化オスミウムで後固定,エタノール系列で脱水後エポン包埋しPorterBlumミクロトームにて1μmの準超薄切片,超薄切片を作製した.準超薄切片は1%トルイジンブルー染色を施行し,光顕用標本とし,超薄切片は酢酸ウラン,クエン酸鉛の二重染色後,日立電子顕微鏡にて観察した.III結果1.RR(症例1)図1のaのRRの眼底写真における綿花様白斑部とその近くの動脈の光顕所見を図2に示した.トルイジンブルーに濃染するcytoidbodyの集落と著しい神経線維の腫大がみられる.そして網膜各層配列の不整がみられる.この綿花様白斑の付近の動脈は内皮下組織が肥厚し内腔は狭細となっている.内皮細胞は扁平化している.図3はこの動脈壁の電顕所見である.肥厚した内皮下組織には高電子密度の小顆粒状物質の蓄積がみられ,扁平化した内皮細胞には有窓化が認められる.図4は図1のbにおける神経線維層であるが,神経線維は腫大し細胞質内小器官は変性,崩壊している.Densebodyもしばしば認められる.漿液の貯留も細胞間に少ないが存在する.図5はこの症例の小静脈の所見である.内皮細胞は扁平化し,外膜はやや肥厚している.このような内皮細胞は毛細血管にも広くみられる.図6は外層の視細胞層であるが,この部位では比較的細胞配列は良いが細胞質内小器官が広範囲に変性している.外境界膜には顕著な変化はみられ〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):000.000,2010〕Keywords:放射線網膜症,糖尿病網膜症,網膜毛細血管瘤,網膜血管病,電子顕微鏡.radiationretinopathy,diabeticretinopathy,retinalmicroaneurysm,retinalvasculardisease,electron-microscopy.図1RR(症例1)の実体顕微鏡による眼底写真乳頭から黄斑部にかけての浮腫状網膜混濁,網膜出血,綿花様白斑が認められる.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011279図2図1のa部位の綿花様白斑部と動脈の光顕所見右側の綿花様白斑部ではトルイジンブルーに濃染される偽核をもつcytoidbodyの集落と神経線維の腫大が認められる.左側の動脈は内皮下組織(*印)の肥厚のため内腔は狭搾しており内皮細胞は扁平化している.(トルイジンブルー染色,×200)図3図2の部位の動脈の電顕所見肥厚した内皮下組織(*印)には左上挿図のごとく高電子密度の小顆粒状物質の蓄積が認められる.内皮細胞は有窓化(右下挿図)している.中膜筋層には顕著な変化は認められない.DB:高電子密度物質,G:グリア細胞,S:平滑筋細胞.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色)280あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(126)図4図1のb部位の神経線維層の電顕所見神経線維は腫大し細胞質内小器官は変性,崩壊している.Densebodyもしばしばみられる.細胞間質の漿液の貯留は比較的少ない.ILM:内境界膜,NF:神経線維.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)図5RR(症例1)の神経線維層内の小静脈の所見内皮細胞は扁平化しており外膜はやや肥厚している.L:内腔.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)(127)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011281図6図5と同一症例の視細胞層の所見細胞配列は比較的良いが,細胞質内小器官は広範囲に変性している.外境界膜(ELM)には異常はみられない.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)図7DR(症例2)の網膜の光顕所見内層の層構造はほとんど消失しておりグリア細胞によって置換されている.外層の層構造は不整である.矢印は毛細血管瘤.V:硝子体.(トルイジンブルー染色,×200)282あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(128)ない.2.DR(症例2)図7は症例2の網膜の光顕所見である.網膜内層の層構造は消失しグリア細胞(Muller細胞)によって置換されている.外層は部位によって残存している.このような層構造の配列の乱れや消失は同一症例の網膜でも部位によってさまざまで多様性に富んでいる.図8は別の網膜部位である.内顆粒層,内網状層などの細胞要素の核,胞体,突起などに著変はない.細胞質内小器官の変性は広範囲に認められる.図9は同症例の網膜の光顕所見であるが,この部位では網膜下腔の形成が認められる.そして各層の配列は不整であり,内節,外節は変性,消失している.図10はこのような部位の外層の電顕所見であるが,内節は萎縮しミトコンドリアの変性がみられ外節は消失している.図11は同症例の毛細血管閉塞所見で内腔はMuller細胞突起が充満し基底膜も崩壊過程である.図12は毛細血管と毛細血管瘤との移行部付近の毛細血管像であり,内皮細胞はpinocytosisなど活性な所見を呈している.基底膜はやや肥厚し空胞形成がみられ,本例に普遍的な毛細血管基底膜を示している.図13は症例2の毛細血管瘤の電顕所見である.この所見で最も顕著なところはその菲薄な基底膜で空胞形成も認めないことである.このような基底膜は血管瘤を形成していない毛細血管にはみられない形態であった.そして内皮細胞は丈が高く核が胞体の割に大きく細胞質内小器官に富んでいる.内皮細胞は連続して基底膜に沿っており,管壁の内外に遊離したものは認められなかった.IV考按1.網膜病変の多様性RRの眼底変化は照射後通常数カ月から5年くらいまでに出現する.これらの変化は網膜出血,浮腫,毛細血管瘤などでDRに類似している.本例でも認められる乳頭および網膜浮腫は大部分神経線維の腫大,変性に由来するものであり,本質的には綿花様白斑と同じ性状のものである.その他漿液の貯留もしばしばみられる.このような変化は視束内神経線維も同様に障害される.神経線維の変性,崩壊はRRのみでなく,症例2のDRにも広くみられるが,この例は絶対緑内障眼のため,その影響も大きいことが考えられる.RRとDRも網膜の層構造の不整や細胞要素の変化は部位によってさまざまで多様性に富んでいる.そして各細胞の細胞質内小図8DR(症例2)の内顆粒層,内網状層(IP)の所見この部位では細胞の胞体,突起は比較的良いが各細胞質内小器官は広範囲に変性している.核は顕著な異常はみられない.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)図9図7と同一症例の別の部位の光顕所見網膜各層の配列は不整で外節はほとんど消失している.マクロファージを含む網膜下腔(SR)が認められる.(トルイジンブルー染色,×200)(129)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011283図11DR(症例2)における毛細血管閉塞所見内腔は侵入したMuller細胞(M)によって閉塞され,残存する基底膜も崩壊過程となっている.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)図12DR(症例2)毛細血管瘤との移行部近くの毛細血管所見内皮細胞(E)はpinocytosis(矢印)などやや活性の所見を呈している.基底膜(BM)は軽度に肥厚し空胞形成が認められる.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)図10図9の内節(IS)の電顕所見内節は萎縮しミトコンドリアは変性している.外節は消失している.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,bar=1μm)284あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(130)器官の変性は広範囲であり,特に視細胞内節,外節の変性は顕著である.このような変化の多様性は両者に共通であり,それぞれの変化に特異性がなく,病態だけではRRとDRの区別は不可能である.2.網膜血管の変化図2に示した動脈壁の内皮下組織の肥厚であるが,この所見は硬化性変化とは異なる.弾性板のない網膜動脈では硬化性変化として一般にみられるアテローム変性による内膜肥厚はなく,中膜筋層の変化が主体である.中膜における膠原線維,プロテオグリカンの増加,平滑筋細胞の変性,崩壊を硬化の主病変とする6).図2,3の動脈壁にはそのような所見はなく,肥厚した内皮下組織に高電子密度の物質の蓄積があるのみである.この動脈内皮細胞は有窓型であり透過性亢進状態を表している.このような有窓型内皮細胞は硝子体内増殖組織内の血管にみられることはよく知られている7)が,病的状態では網膜動脈,静脈,毛細血管にも存在する8).このような内皮細胞の扁平化はDRにもRRにも認められることが報告されている5).そしてこれらの病変はすべての血管に及んでいるが,小血管ほど障害は著しく,内皮細胞障害から内腔へのグリア細胞侵入による血管閉塞所見が認められる.そして最終的には基底膜も崩壊する.近年,DRにおいて白血球が血管内皮細胞に密着して内皮細胞増殖因子を誘導するとする説9)が提唱されているが,今回の観察では血管内外に白血球増多は認められなかった.3.網膜毛細血管瘤つぎにRRにもDRにもみられる毛細血管瘤の構造についての記載は少ないが電顕的研究が報告されている2,4,10).しかし毛細血管瘤の成因に関しては一致した見解はない.現在までのうち最も注目され定説化されている説として毛細血管周皮細胞の変性,崩壊のためその部位が血流の圧力によって膨隆し,血管瘤を生ずるとするトリプシン消化法による血管樹伸展標本からの記載がある1).しかし,標本がトリプシン消化法によるものであり,周皮細胞に支持組織としての役割があるかどうか証明されておらず,周皮細胞の変性,崩壊は腎性高血圧網膜症でも多く認められ6),DRに特異的なものではない.本症例(DR)の血管瘤以外の毛細血管では内皮細胞はやや扁平な部位が多いが,基底膜は空胞形成のある通常の成人網膜毛細血管基底膜とほぼ同様である.このような毛細血管が血管瘤を形成すると,内腔拡張とともに図13に示したごとく内皮細胞は丈が高く基底膜は菲薄になり空胞形成はみられない.このような基底膜は既存のものが薄く伸展した状態とは考えにくく,内皮細胞の形態とともに幼若なものと図13DR(症例2)の毛細血管瘤の電顕所見内皮細胞(E)は丈が高く核が胞体に比べて大きい.基底膜(矢印)はきわめて菲薄で空胞形成はみられない.これらの内皮細胞は幼若なタイプとみなされ,内皮細胞が基底膜に沿って並列に増殖したかにみられる.挿図は毛細血管から急激に内腔が拡張し毛細血管瘤に移行する光顕所見.E:内皮細胞,P:周皮細胞.(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,挿図はトルイジンブルー染色,×400)(131)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011285みなされる.したがって内皮細胞は基底膜に沿って並列に増殖し,それによって内腔が拡張したものと推測される.本例の毛細血管瘤内皮細胞がすべて同じ形態をもつわけではないので,期間が経過すれば内腔はそのままでも内皮細胞も通常のものになると考えられる.以上の観察から,①RRもDRも網膜の層構造の不整や細胞要素の変性など病態が多様性に富んでいるが,それぞれの特異性はみられない.さらに各層を構成するどの細胞要素にも広範囲に細胞質内小器官の変性がみられる.②両者とも血管内皮細胞の変性がみられ,検眼鏡による網膜病変は二次的変化と考えられる.③毛細血管瘤のなかにはその形態が他の毛細血管のそれと異なり,菲薄な基底膜をもち丈の高い,核の大きな内皮細胞を有するものもあった.これらの内皮細胞は幼若なタイプとみなされ,基底膜に沿って並列に増殖する結果,内腔が拡張すると推測された.文献1)CoganDG,ToussaintD,KuwabaraT:Retinalvascularpatterns.IV.Diabeticretinopathy.ArchOphthalmol66:366-367,19612)KimuraT:Ultrastructureofcapillariesinhumandiabeticretinopathy.JpnJOphthalmol18:403-417,19743)KimuraT:Electronmicroscopyofhumanretinalhaemorrhagesinhypertensionanddiabetes.JpnJOphthalmol16:266-282,19724)YamashitaT,RosenDA:Electronmicroscopicstudyofdiabeticcapillaryaneurysm.ArchOphthalmol67:785-790,19625)ArcherDB,AmoakuWM,GradinerTA:Radiationretinopathy─Clinical,histopathological,ultrastructuralandexperimentalcorrelations.Eye5:239-251,19916)KimuraT,MizotaA,FujimotoN:Lightandelectronmicroscopicstudiesonhumanretinalbloodvesselsofpatientswithsclerosisandhypertension.AnnOphthalmol26:151-158,20067)木村毅,ChenCC,PatzA:硝子体内増殖組織の光学および電子顕微鏡的研究.日眼会誌83:255-265,19798)木村毅,松橋英昭,石井敦子:人眼網膜血管における透過性亢進の形態学的研究.特に有窓型内皮細胞とアテローム変性の存在について.日眼会誌87:1199-1211,19829)石田晋,山城健児,臼井智彦:網膜浮腫,虚血,血管新生を制御する白血球の重要性について.日眼会誌108:193-201,200410)宇賀茂三,清水敬一郎,林正雄:糖尿病罹患網膜における毛細血管瘤の電子顕微鏡的観察.日眼会誌81:1716-1722,1977***

トーリック眼内レンズ用リファレンスマーカーの試作

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(119)273《原著》あたらしい眼科28(2):273.276,2011cはじめにトーリック眼内レンズであるAcrySofRToricはこれまでの眼内レンズ(IOL)に円柱度数が追加された構造となっており,IOLの弱主経線上に目印が付いている.この目印を角膜の強主経線に合わせるように挿入することにより角膜乱視を軽減させる.ただし,実際には,角膜の強主経線に加えて角膜切開の位置と自身の惹起角膜乱視によってIOLを固定する軸角度が決定される.この軸角度は,Alcon社のwebsite上のアプリケーションに入力することによって算出される.算出された軸角度が角膜上のどの位置に当たるのかをIOLを挿入する前に測定する必要があるが,Swamiらの報告にあるように仰臥位では眼球が回旋するため1),術中の顕微鏡下における眼球の位置を基準にして軸角度を測定すると軸ずれを起こす可能性がある.このため,座位での基準点を術前に計測しておく必要がある.現在,基準点を作製する方法にはリファレンスマーカーを用いる方法と前眼部写真を用いる方法がある2).今回筆者らは,トーリックIOL挿入術に使用〔別刷請求先〕安宅伸介:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町1-4-3大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ShinsukeAtaka,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3Asahimachi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANトーリック眼内レンズ用リファレンスマーカーの試作安宅伸介矢寺めぐみ山口真白木邦彦大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学NewInstrumentforToricIntraocularLensImplantationShinsukeAtaka,MegumiYatera,MakotoYamaguchiandKunihikoShirakiDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:トーリック眼内レンズ挿入術に使用する基準点作製マーカーの先端部が円状のマーカーを試作し,従来の半円状のマーカーと比較検討した.方法:トーリック眼内レンズ挿入予定の白内障手術患者8例9眼に対して,連続症例4例4眼では従来の半円状のマーカーを用いて,その後の連続症例4例5眼では今回試作した円状のマーカーを用いて,手術室にて座位での基準点を角膜輪部に作製した.各マーカーで作製した0°と180°の基準点に角度ゲージの0°と180°を合わせて,角度ゲージ内縁と角膜輪部との位置ずれについて検討した.結果:従来のマーカーを使用した全4眼でマーカーの大きさと角膜径が異なっており,角度ゲージ内縁と角膜輪部に位置ずれが生じた.一方,今回試作したマーカーでは,5眼すべてで位置ずれはみられなかった.結論:従来の半円状のマーカーより今回試作した円状のマーカーのほうで位置ずれが生じにくく,確実に基準点を作製することができる.Purpose:Tocompareanordinaryhalf-circlemarkerandanewreferencemarkercomprisinganentirecircle,whichwedevelopedformanagingtoricintraocularlensimplantation.MaterialsandMethod:Subjectsofthisretrospectivestudycomprised9eyesof8consecutivepatientswhounderwenttreatmentforcataractwithmyopicorhyperopicastigmatism.Preoperatively,eacheyewasmarkedatthelimbuswithanordinaryhalf-circlemarker(4eyes)orthenewentirecirclemarker(5eyes)whilethepatientwasseatedupright.Duringcataractsurgerywematchedthe0and180degreepositionsofadegreegaugetothe0and180degreereferencepointsmadewitheachmarker;wethenevaluatedthepositionalrelationshipbetweenthegaugeandthecorneallimbus.Result:Inalleyesmarkedusingtheordinarymarker,thedegreegaugepositionshifteddownwardbeyondthelowerlimbus.Incontrast,inalleyesmarkedusingthenewmarker,thedegreegaugepositiondidnotshiftinanydirection.Conclusions:Sinceournewmarkerdidnotdeviatefromthecenterofthecornea,wewereabletomarkreferencepointsmoreeasilywiththenewmarkerthanwiththeordinarymarker.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):273.276,2011〕Keywords:トーリック眼内レンズ,リファレンスマーカー,白内障手術.toricintraocularlens,referencemarker,cataractsurgery.274あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(120)するリファレンスマーカーを試作し,基準点のずれに関して現在使用されているマーカーと比較したので報告する.I対象および方法対象は大阪市立大学眼科において2009年12月にトーリック眼内レンズを希望した白内障患者連続症例8例9眼である.初めの4例4眼に従来の先端部が半円状のマーカー(9-840-1Duckworth&Kent社:従来のマーカー)を使用し,試作した先端部が円状のマーカー(P4040Duckworth&Kent社:試作したマーカー)が使用可能となった時点で4例5眼には試作したマーカーを用いた(図1).従来のマーカーは,半円状の各断端部と中央部の3カ所に角膜との接触部があり,3点にマーキングできるようになっている.試作したマーカーは,従来のマーカーの先端部を2つ合わせた円状になっており,90°間隔に4点をマーキングできるようになっている.まず,手術室にて座位で眼瞼を広げて,従来のマーカーでは接触点が角膜輪部の0°,180°,270°の部位にくるように,試作したマーカーでは接触点が角膜輪部の0°,90°,180°,270°の部位にくるように眼球に接触させて,ピオクタニンで基準点を角膜輪部に作製した.その後,顕微鏡下にて角膜外縁に角度ゲージ(9-705R-1Duckworth&Kent社)を合わせ,0°,180°にマーキングされた位置と角度ゲージの中心とのなす角度(図2)を測定し,各マーカーの軸ずれをMann-Whitney’sUtestにて検定し,p<0.05を従来のマーカー新しいマーカー図1従来のマーカー(9-840-1Duckworth&Kent社)(左)と今回試作したマーカー(安宅氏リファレンスマーカーToric用P4040Duckworth&Kent社)(右)6時12時図2測定した角度マーカーで作製した水平方向の基準点と角膜外縁に合わせた角度ゲージの中心とのなす角度(12時方向)を測定した.従来のマーカー新しいマーカー図3従来のマーカーと試作マーカーで作製した基準点従来のマーカーを用いた術中写真:左上:基準点がずれている(矢印).左下:角度ゲージを0°と180°に合わせると,ゲージがずれる.試作したマーカーを用いた術中写真:右上:基準点はずれていない.右下:角度ゲージはずれない.(121)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011275統計学的な有意差ありと判定した.II結果従来のマーカーでの基準点は0°,180°,270°の3カ所での作製であったが,試作したマーカーでは90°の位置にも基準点を作製できた(図2).従来のマーカーで作製した水平2カ所の基準点に角度ゲージの0°と180°を合わせると,4眼すべてにおいて角度ゲージ内縁が角膜輪部から下方にずれていた(図3).また,0°,180°にマーキングされた位置と角度ゲージの中心とのなす角度は,それぞれ185°,190°,195°,200°であり,5.20°の位置ずれ(平均12.5±6.5°)がみられた.一方,試作したマーカーでは,180°が3眼,185°が2眼であり,すべてが5°以内の位置ずれ(平均2.0±2.7°)であり,有意差がみられた(p=0.02).III考按現在使用されているマーカー(9-840-1Duckworth&Kent社,AE-2793SASICO)は,いずれも先端部が半円状になっている.各メーカーの説明書には,0°,90°,180°の角膜輪部にマーキングできると記載されているが,座位でマーキングした場合には,90°ではなく,270°の位置となる.一方,試作したマーカーは先端部が円状になっているため,90°にも基準点を作製できる.このため,上方切開の術者では,仰臥位により眼球が回旋していても,90°に目安があるため,正確な切開位置を確認できる.90°に目安がない場合では,眼球が回旋すると,上方切開の術者では,角度ゲージで確認しないかぎり90°から切開しているつもりであっても,実際には異なった場所に切開している可能性がある.従来のマーカーは6時を中心とした下半分の半円状になっているため,下方の角膜とマーカーの曲線を同心円状に合わせることによって270°の基準点は比較的正確にマーキングできる.しかし,0°と180°の位置決めでは,各症例において角膜径とマーカーの直径との差に配慮しながら目分量でマーキングすることになる.もし,配慮なく下方の角膜輪部に半円状マーカーを合わせて基準点を作製したと仮定すると,マーカーの直径と角膜径が等しい場合には,角膜輪部上の0°と180°にマーキングができるが,マーカーの直径と角膜径が異なると,マーカーの接触部が角膜輪部上の0°と180°からずれてしまう.マーカーの直径より角膜径が大きい場合では,本来の基準点より下方に,逆にマーカーの直径が角膜径より小さい場合には,基準点より上方にマークすることになり(図4),基準点が角膜径に影響する.今回使用した従来のマーカーの内径は9mm,外径が10.8mmであり,日本人の平均角膜径が約12mmであることから3),マーカーの直径より角膜径のほうが大きくなるケースが多くなることが考えられるため,下方角膜を目安にした場合,実際の基準点より下方にマークしてしまう傾向にあると思われる.したがって,従来のマーカーを用いる場合には,下方の角膜のみを目安にすると位置ずれを起こす危険性があるため,角膜外縁全体が見えるように開瞼し,角膜との位置関係を確認しながらマーキングしなければならない.今回の検討で,従来のマーカーで角膜輪部に作製した0°と180°の基準点に角度ゲージの0°と180°に合わせると,垂直方向の位置ずれのために角度ゲージと角膜輪部の2つの円が同心円状に重ならなかった症例がみられた.角膜輪部にマーカーを合わせるということは非常に単純な操作のはずであるが,マーキングに問題があったと思わせるような結果になることもあり,特に0°と180°を結ぶラインの再現性に問題があると思われた.ただし,このように強いずれが生じた場合でも,水平方向にマーキングした2点を眼球が回旋した方(×0.9)(×1.0)abc(×1.1)図4従来マーカーと角膜径の関係a:マーカーの直径>角膜径,b:マーカーの直径=角膜径,c:マーカーの直径<角膜径.下方角膜を目安とした場合:マーカーの直径と角膜径が等しい場合には,0°と180°にマーキングができるが,マーカーの直径より角膜径が大きい場合では,基準点より下方に,マーカーの直径が角膜径より小さい場合には,基準点より上方にマークしてしまう可能性がある.276あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(122)向を考慮したうえで平行移動させることによって角膜輪部と角度ゲージを合わすことは可能であり,乱視軸に重大な影響を及ぼすことはないと思われる.しかし,術中に再度位置決めをしなければならず,術中の操作が一つ増えてしまうことで手術が煩雑になってしまうことが問題と考える.これに対して,試作したマーカーは,先端部が円状になっているため,角膜径がマーカーより小さい場合にはマーカーの中に角膜が入るように,また逆に,角膜径がマーカーより大きい場合には角膜の中にマーカーが入るようにマーカーを角膜に合わせて基準点を作製することになり,角膜外周全周を目安にしながらマーキングできる(図5).わずかに大きさの異なる2つの円を同心円状に重ねることは目分量であっても比較的簡単かつ正確にできることから,試作したマーカーは角膜径に影響されにくいと考える.大きさも,外径が10.8mmの円状で,4点のマーカー部も12.75mmであり(図6),ソフトコンタクトレンズの直径が13.14.5mmであることを考慮しても大きすぎてマーキングできない大きさではないと考えている.以上により,どちらのマーカーともに角膜外縁が見えるように開瞼しなければならないのであれば,先端部が円状のマーカーのほうが半円状のマーカーより簡便かつ正確にマーキングができることにより,精度の高い手術を可能にするため,試作したマーカーが従来のマーカーより優れていると考える.文献1)SwamiAU,SteinertRF,OsborneWEetal:Rotationalmalpositionduringlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol133:561-562,20022)HashemAN,ElDanasouryAM,AnwarHM:Axisalignmentandrotationalstabilityafterimplantationofthetoricimplantablecollamerlensformyopicastigmatism.JRefractSurg25:939-943,20093)杉紀人,牧野伸二,小幡博人ほか:日本人成人の眼球形状の左右差.眼臨紀1:338-343,2008(×0.9)ab(×1.0)c(×1.1)図5試作マーカーと角膜径の関係a:マーカーの直径>角膜径,b:マーカーの直径=角膜径,c:マーカーの直径<角膜径.マーカーと角膜外縁が同心円状に重なるようにマーキングするため,試作したマーカーは,角膜径に影響されにくい.f12.75f10.80f9.00f8.50(単位mm)図6試作したマーカーの略図***

緑膿菌性角膜潰瘍におけるドリペネム水和物の使用経験

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)267《原著》あたらしい眼科28(2):267.271,2011cはじめにコンタクトレンズ(CL)に関連した角膜感染症の原因微生物のなかで細菌性のものとしては緑膿菌による感染が最も多い1~3).緑膿菌性角膜潰瘍の治療ではニューキノロンおよびアミノグリコシドの局所投与が主体となるが,重症の角膜潰瘍では点眼を補う目的で点滴投与などの全身投与が行われている.しかし緑膿菌に対して優れた抗菌活性を有する抗菌薬はさほど多くはみられず,また抗菌力が強いとされるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)は副作用の点で第一選択薬とはなりがたい.そのような現状において2005年に発売され〔別刷請求先〕清水一弘:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhiroShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsukicity,Osaka569-8686,JAPAN緑膿菌性角膜潰瘍におけるドリペネム水和物の使用経験清水一弘勝村浩三服部昌子山上高生向井規子池田恒彦大阪医科大学感覚器機能形態医学講座眼科学教室ClinicalExperiencewithDoripenemHydrateinPseudomonasaeruginosa-relatedCornealUlcerKazuhiroShimizu,KouzouKatsumura,MasakoHattori,TakaoYamagami,NorikoMukaiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeコンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症の原因菌として緑膿菌が多いが,緑膿菌に対して活性を有する抗菌薬は少ない.緑膿菌性角膜潰瘍治療ではニューキノロンおよびアミノグリコシドの局所投与が主体となるが,点眼を補う目的で薬物動態-薬力学(PK-PD)理論に基づきドリペネム水和物(DRPM)1日3回投与を試みたので報告する.2008年5月から6カ月間に角膜潰瘍で治療を受けた34眼中,病巣より緑膿菌が検出され入院を要した5例5眼(25~43歳)に抗菌点眼液に加えDRPM250mgの1日3回投与を行った.全例で有害症状は認められなかった.DRPMは角膜潰瘍に適応症を有し,眼組織移行性も良好で緑膿菌に対する抗菌活性はカルバペネム系抗菌薬で最も強い.また,デヒドロペプチダーゼ-Iに安定なことからカルバペネム系抗菌薬でみられる腎障害が他薬剤に比べても少ない.緑膿菌感染に対し抗菌力が強く安全性も高いDRPMは眼科領域においても安全である.AlthoughPseudomonasaeruginosaisthemaincauseofcontactlens(CL)-relatedcornealinfection,fewdrugshaveantibacterialactivityagainstP.aeruginosa.AlthoughanewquinoloneoraminoglycosideantibioticislocallyappliedtotheeyesinthecurrentstandardtreatmentofPseudomonascornealulcer,wehaveattemptedathreetimes-daily(TID)regimenofdoripenemhydrate(DRPM),basedonpharmacokinetic-pharmacodynamic(PK-PD)theory,tosupplementtheeffectofanantibioticophthalmicsolution.Weherebyreportourstudyresults.Wetreated34eyeswithcornealulcerduring6monthsbeginningMay2008,anddetectedP.aeruginosainthelesionsin5eyesof5patients(age:25to43years),whorequiredhospitalization.WeadministeredDRPM250mgTIDtothe5patients,inadditiontoanantibioticophthalmicsolution.Theclinicalefficacyratewas100%,andnoneofthesepatientshadadversereactions.DRPMisindicatedforthetreatmentofcornealulcer,andamongthecarbapenemantibioticshasthemostpotentantibacterialactivityagainstP.aeruginosa,withgoodpenetrationfromthebloodstreamintooculartissues.Sinceitisstableagainstdehydropeptidase-I,itlessfrequentlyinducesrenalimpairment,whichisoftencausedbyothercarbapenemantibiotics.DRPM,withitspotentantibacterialactivityagainstP.aeruginosainfectionanditsgoodsafetyprofile,canbesafelyusedinthefieldofophthalmology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):267.271,2011〕Keywords:緑膿菌,角膜潰瘍,カルバペネム系抗菌薬,コンタクトレンズ,ドリペネム水和物.Pseudomonasaeruginosa,corneaulcer,carbapenemantibiotics,contactlens,doripenemhydrate.268あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(114)たドリペネム水和物(DRPM)は他科感染症領域において緑膿菌に対して抗菌力のある薬剤と認知されている4)が,比較的新しい薬剤であるため眼科領域における報告は少ない.今回,緑膿菌性角膜潰瘍治療において,薬物動態-薬力学(pharmacokinetics/pharmacodynamics:PK/PD)理論に基づくDRPM水和物1日3回投与を行った5例を経験したので報告する.I対象および方法1.対象2008年5月から6カ月間に大阪医科大学眼科(以下,当院)で角膜潰瘍の治療を行った34眼中,病巣より緑膿菌が検出され,なおかつ入院を要した重症の5症例.対象症例の内訳は女性3名,男性2名,年齢は24~43歳,全員が2週間頻回交換型CL装用者であった(表1).CLケアに問題がある症例が多くみられた.〔症例1〕24歳,女性.両眼の違和感と右眼の視力低下で近医受診,その日のうちに当院紹介受診.右眼の角膜膿瘍と周囲のすりガラス状混濁,眼脂の付着など緑膿菌感染に特徴的な所見がみられた(図1).左眼にも充血がみられた.塗抹・培養・CL保存液のすべての検体から緑膿菌が検出された.CLのケース交換はしていなかったとのこと.右眼初診時視力5cm手動弁.一般血液検査で白血球11,670/μl,生化学検査でCRP(C反応性蛋白)1.83mg/dlと上昇.基礎疾患なし.〔症例2〕31歳,女性.右眼眼痛で近医受診,翌日に当院紹介受診.右眼の輪状膿瘍と前房蓄膿,粘性眼脂の付着がみられた.病巣およびCL保存液から緑膿菌検出.右眼視力(0.2).基礎疾患なし.一般血液検査および生化学検査異常なし.〔症例3〕43歳,女性.右眼眼痛で近医受診,2日目に当院紹介受診.右眼に輪状膿瘍とその周囲のすりガラス状混濁,前房蓄膿がみられた.病巣およびCL保存液から緑膿菌検出.CLは毎日洗浄するも丁寧に擦り洗いはしていなかったとのこと.右眼視力(0.03).一般血液検査で白血球11,420/μl,生化学検査でCRP0.75mg/dlと上昇.〔症例4〕33歳,男性.右眼眼痛,充血にて来院.CLの昼夜連続装用が多く,近医で角膜上皮障害を指摘されていた.右眼の角膜膿瘍と周囲のすりガラス状混濁がみられた.病巣およびCL保存液から緑膿菌検出.右眼視力(0.01).基礎疾患なし.一般血液検査および生化学検査異常なし.〔症例5〕27歳,男性.右眼眼痛で近医受診,翌日に紹介受診.右眼の輪状膿瘍とその周囲のすりガラス状混濁がみられた.視力は30cm手動弁.基礎疾患なし.一般血液検査および生化学検査異常なし.図1症例1の右眼前眼部写真角膜膿瘍と周囲のすりガラス状混濁がみられる.視力は5cm手動弁.10日間の点滴の追加治療にて白血球・CRPとも正常化し,視力は(0.2)で瘢痕治癒した.表1対象症例の内訳症例鏡検培養CLケースから検出治療前視力治療後視力所見治療期間1G(.)菌緑膿菌緑膿菌5cm手動弁(0.2)角膜膿瘍とすりガラス状混濁,白血球・CRP上昇27日間2G(.)菌G(+)菌緑膿菌Corynebacterium緑膿菌(0.2)(0.9)輪状膿瘍,前房蓄膿28日間3G(.)菌緑膿菌緑膿菌(0.03)(0.3)輪状膿瘍,前房蓄膿,白血球・CRP上昇,すりガラス状混濁40日間4G(.)菌G(+)菌緑膿菌Coryneformbacteria緑膿菌(0.01)(0.3)角膜膿瘍とすりガラス状混濁43日間5G(.)菌緑膿菌緑膿菌30cm手動弁(0.7)輪状膿瘍,すりガラス状混濁28日間G(+):Grampositive,G(.):Gramnegative.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112692.方法初診日当日に細隙灯顕微鏡検査で角膜の輪状膿瘍とその周囲のすりガラス状混濁および粘性の眼脂など臨床的特徴から緑膿菌感染にほぼ間違いないと診断できた対象患者5症例に対し,塗抹・培養検査を施行後に入院のうえ,治療としてガチフロキサシン(GFLX)およびトブラマイシン(TOB)抗菌点眼液を1時間ごとに夜間就寝時を除いて頻回点眼した.さらに抗菌点眼液に加え初診日当日(入院日)よりDRPM250mgの1日3回点滴投与を行い安全性の検討を行った.DRPMの全身投与は症例1~5まで各々10日間,6日間,11日間,8日間,6日間,平均8.2日間行った.全例で初診時に病巣から採取した検体の塗抹・培養検査および薬剤感受性試験を行った.薬剤感受性試験は広域スペクトル型ペニシリンのアンピシリン(ABPC)とピペラシリン(PIPC),第1世代セフェム系のセファゾリン(CEZ),第3世代セフェム系のセフォタキシム(CTX),セフタジジム(CAZ),カルバペネム系のIPM,メロペネム(MEPM),DRPM,アミノグリコシド系のゲンタマイシン(GM),アミカシン(AMK),TOB,フルオロキノロン系のレボフロキサシン(LFLX),GFLX,テトラサイクリン系のミノサイクリン(MINO)の14薬剤について行った.点滴開始前に一般血液検査および生化学検査を施行し,必要に応じて追跡調査した.II結果症例1~5は各々入院期間19日間,8日間,25日間,10日間,7日間,平均13.8日間.瘢痕治癒まで各々27日間,28日間,40日間,43日間,28日間,平均33.2日間を要した.5症例のなかで最も治療期間が長かった症例3においてはDRPM投与前の一般血液検査で白血球11,420/μl,生化学検査でCRP0.75mg/dlと上昇していたが,DRPM投与5日後には白血球8,300/μl,生化学検査でCRP0.45mg/dlと改善傾向がみられ,14日後には白血球7,530/μl,生化学検査でCRP0.11mg/dlと白血球数およびCRP値とも正常化した.DRPM投与中には全例でアレルギー反応など全身的副作用は生じなかった.視力に関して各症例の初診時と治療後の瘢痕治癒時の矯正視力の経過をみたところ,各々,症例1は5cm手動弁→(0.2),症例2は(0.3)→(0.9),症例3は(0.03)→(0.3),症例4は0.01(矯正不能)→(0.3),症例5は30cm手動弁→(0.7)と全例改善傾向を示した.薬剤感受性試験の結果,全例ともカルバペネム系のDRPM,IPM/CS,MEPM,アミノグリコシド系のGM,TOB,ニューキノロン系のLFLX,GFLXなどの感受性が高かった.点眼液との併用で全例で瘢痕治癒に持ち込めた.III考按CL関連角膜感染症の多くはCLケアに問題があるといわれている5)が,なかでも緑膿菌性角膜感染症は点眼液のみで透明治癒する軽症例から角膜に瘢痕が残存したり,なかには角膜穿孔に至る重症例まで存在する.緑膿菌性角膜潰瘍にはアミノグリコシドの局所投与が有効であるが,角膜混濁などによる著しい視力低下などの後遺症の発現が予想される重症例においては入院による点滴治療が望ましいと考えられる.現状でも多くの施設で重症の角膜潰瘍に対しては抗菌薬の点滴治療を施行されているが,点滴をせずに視力障害が残った場合,十分な治療を行わなかったと判断される可能性もある6).頻回点眼のほうが角膜内濃度の上昇に有効であるが,夜間は点眼は困難となるため,それを補うため点滴を行うことは妥当であったと考えられる.このような現状において多種存在する抗菌薬のなかから全身投与を行うとすれば何が適当か検討する必要があると考えた.今回はDRPMの眼科領域での使用に問題が生じないかの判定を主眼としたため症例を限定し,①角膜潰瘍の病巣部より緑膿菌が検出された,②基礎疾患など全身的には問題のない症例,③ニューキノロン(GFLX)およびアミノグリコシド系(TOB)抗菌点眼液を各1剤投与されている以外に点眼液を使用されていない症例を対象とした.緑膿菌性角膜潰瘍におけるニューキノロンおよびアミノグリコシドの抗菌点眼液の頻回点眼は,治療としてゴールデンスタンダードとなっている7)ため,すでに投与されている場合は継続投与とした.視力に関しては全例で角膜潰瘍は消失するも角膜上皮下および実質層に角膜混濁が残存し,瘢痕治癒に至ったため矯正視力(1.0)以上を獲得することはできなかったが,5症例とも初診時より改善した.5cm手動弁~(0.2)であった5症例の治療前視力が治療後は(0.2)~(0.9)となり,5症例すべてで改善した.治療前視力のよかったほうが治療後の視力がよい傾向にあった.教科書などにも緑膿菌性角膜潰瘍の治療に関して推奨される薬剤の処方例が掲載されているが,点滴に関しては特に統一性はなく医師の経験に基づいて投与されていることが多いようである.このような現状において抗菌薬の全身投与を行うなら適応症と適応菌種を考慮して投与することが望ましいと思われた.角膜潰瘍を適応症として取得しているおもだった注射用抗菌薬にはカルバペネム系のIPM/CS,DRPM,セフェム系の塩酸セフォゾプラン(CZOP),セフトリアキソンナトリウム(CTRX),モノバクタム系のアズトレオナム(AZT)などがあり,よく使用されているセフェム系のCAZは緑膿菌を適応菌種として認められているが,角膜潰瘍の適応症は認められていない.そのなかで緑膿菌にも適応菌種を持ち合わせて270あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(116)いるのはIPM/CS,DRPM,CZOPだけである(表2).近年抗菌薬の臨床効果と相関を示すPK/PD理論に基づく投与法が推奨されており,カルバペネム系抗菌薬の臨床効果は原因菌の最小発育阻止濃度(minimalinhibitoryconcentration:MIC)を血中濃度が上回る時間すなわちtimeaboveMIC(%)を40%以上獲得することで最大殺菌作用が得られるといわれている8)(図2).キノロンなどは濃度依存性に効果を発揮するが,カルバペネム系は時間依存的に殺菌効果がある(表3).特に抗菌力が強いとされているIPM/CS,DRPMが入るカルバペネム系は時間依存的に殺菌作用があることから2回投与よりも3回投与にして投与間隔を短くすることでより高い臨床効果が期待できるとされている9).DRPMのデヒドロペプチダーゼ-I(DHP-I)に対する代謝安定性に関しては,IPM/CSは腎臓に多く存在するDHP-Ⅰという酵素により速やかに分解されてしまうが,DRPMは90分後で20%しか分解されず安定性が高くなっている10)(図3).DHP-Iによって生じた分解産物により腎毒性が生じるといわれている11)ためで,DHP-Iに安定なDRPMはカルバペネム系抗菌薬のなかでも腎障害が少ないのも特長である.大阪医科大学眼科の緑膿菌31株に対するおもだった薬剤のMICを比較した結果において,全例で瘢痕治癒に持ち込めたことより点眼も含めた抗菌薬の臨床効果における有効率は高いと考えられる.今回の症例の薬剤感受性試験の結果もアミノグリコシド系のGM,TOB,ニューキノロン系のLFLX,GFLXは良好で,緑膿菌に対する薬剤感受性は従来いわれているのと同様の結果を得た.さらに注射薬ではIPM/CS,MEPM,DRPMの感受性が良好で,カルバペネム系の緑膿菌に対する抗菌力の強さが改めて示された.症例1と3においては点滴施行前に角膜潰瘍に伴った炎症によると思われる白血球数上昇とCRP高値がみられたが,点滴施行によっても悪化することはなく,消炎とともに数値の改善がみられたことより肝臓,腎臓機能を含めた全身への影響は少ないと考えられた.また,DRPM投与中にアレルギー反応など全例で全身的な副作用は生じなかった.対象症例が角膜潰瘍を患っているものの基礎疾患がなく高齢者のいない群であることも考慮する必要があるが,CL関連角膜潰瘍罹患者層の背景はおおむね同じ年代の健康者と考えられるため,この一群の疾患に使用するなら安全と考えてよいと思われる.DRPMは緑膿菌に最も優れた抗菌力を示し,眼科領域にも適応症が取れており,組織移行が良く12),腎毒性が少ない時間血中濃度Cmax(最高血中濃度)MICTimeaboveMICTAM)Cmax/MICAUCAUC/MIC(血中濃度時間曲線下面積)(MIC以上の持続時間)(CmaxとMICの比)(AUCとMICの比)図2PK.PDパラメータ1008060402000306090反応時間(min):DRPM:MEPM:IPM残存率(%)図3ヒト腎由来DHP.Iに対する代謝安定性(invitro)加水分解活性:0.500U/ml(GDPA基質).表3抗菌薬の効果と相関するPK.PDパラメータ抗菌薬臨床効果と関連が強いPK/PDパラメータ抗菌活性の特徴キノロン系薬ケトライド系薬アミノグリコシド系薬AUC/MICCmax/MIC濃度依存性の殺菌作用ペニシリン系薬セフェム系薬カルバペネム系薬TimeaboveMIC(TAM)時間依存性の殺菌作用表2注射用抗生物質製剤の適応症と適応菌種薬剤名角膜潰瘍緑膿菌PIPC.+CPR.+CZOP++CFPM.+SBT/CPZ.+IPM++MEPM.+PAPM.+BIPM.+DRPM+++:適応症+:適応菌(117)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011271ことが特長と思われる.今回はニューキノロンおよびアミノグリコシドの局所投与や他の点滴薬剤との比較検討を行ったわけではないので明らかな有効性は論じられないが,健康人に投与する限り重大な合併症をひき起こす可能性は少ないものと思われる.対象症例が10~40歳代のCLユーザー層であったため,より高齢者にDRPMが安全かどうかはさらなる検討が必要と思われる.以上のことより緑膿菌感染に対して抗菌力が強く,比較的安全性も高いため緑膿菌性角膜潰瘍の重症例に点滴を行うとすればDRPMも選択肢の一つと考えられた.本論文の要旨は第46回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)秦野寛:コンタクトレンズと細菌感染.日コレ誌38:122-124,19962)中村行宏,松本光希,池間宏介ほか:NTT西日本九州病院における感染性角膜炎.あたらしい眼科26:395-398,20093)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,20094)吉田勇,藤村享滋,伊藤喜久ほか:各種抗菌薬に対する2004年臨床分離好気性グラム陰性菌の感受性サーベイランス.日化療会誌56:562-579,20085)宇野俊彦:コンタクトレンズケア.日本の眼科80:699-702,20096)深谷翼:判例にみる眼科医療過誤(その2)細菌性(緑膿菌性)角膜潰瘍と医師の治療上の過失.眼臨80:2430-2433,19867)井上幸次,日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20078)DrusanoGL:Preventionofresistance:agoalfordoseselectionforantimicrobialagents.ClinInfectDis36:42-50,20039)CraigWA:Pharmacokinetic/pharmacodynamicparameters:rationaleforantibacterialdosingofmiceandmen.ClinInfectDis26:1-10,199810)山野佳則,川井悠唯,湯通堂隆ほか:Doripenemのヒトdehydropeptidase-Iに対する安定性.日化学療会誌53:92-95,200511)灘井雅行,長谷川高明:腎における薬物の排泄機構.医学のあゆみ215:495-500,200512)大石正夫,宮永嘉隆,大野重昭ほか:Doripenemの眼組織移行性と眼科領域感染症に対する臨床効果.日化療会誌53:313-322,2005***

ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)261《原著》あたらしい眼科28(2):261.265,2011cはじめに眼表面における分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,結膜上皮組織内の杯細胞において生合成・貯蔵される高分子糖蛋白質であり,豊富なシステイン残基をもつ4つのドメインと大量の糖鎖と結合しているtandemrepeatドメインから成っている.大量の糖鎖は,ブラシ状にコア蛋白質に結合〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用七條優子阪元明日香中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターEffectofDiquafosolTetrasodiumonMUC5ACSecretionbyRabbitConjunctivalTissuesYukoTakaoka-Shichijo,AsukaSakamotoandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.結膜組織からの分泌型ムチン(MUC5AC)量に及ぼすP2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの影響を検討する目的で,MUC5ACに特異的なenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)を確立し,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5AC量に及ぼすジクアホソルナトリウムの影響を検討した.また同時に,ヒアルロン酸ナトリウムのMUC5AC分泌に対する作用についても検討した.今回のELISA法に用いた抗MUC5AC抗体(Clone45M1抗体)は,過ヨウ素酸シッフ反応と同様に結膜杯細胞で陽性反応を示し,結膜組織に存在する250kDa以上の蛋白質と親和性の高いことが示された.また,本ELISA法において,結膜組織培養上清液中のMUC5AC量と反応最終検出値との相関性は高く(相関係数0.99),非特異的反応は認められなかった.さらに,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのMUC5ACの分泌を濃度依存的に促進したが,ヒアルロン酸ナトリウムは影響しなかった.以上の成績から,ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌量は,抗MUC5AC抗体を用いて定量的に測定できることが明らかとなった.また,ジクアホソルナトリウムは,結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用を有するのに対し,ヒアルロン酸ナトリウムは本作用を示さなかった.ToinvestigatetheeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumonthesecretorymucin(MUC5AC)secretionbyconjunctivaltissues,weestablishedtheenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)forMUC5AC.WethenexaminedtheeffectofdiquafosoltetrasodiumonMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctiva.Inaddition,westudiedwhetherhyaluronicacidinducedMUC5ACsecretion.Glycoproteininrabbitconjunctivalgobletcellsshowedpositivereactivityforstainingwithanti-MUC5ACantibody(Clone45M1antibody),aswellasforPeriodicacid-Schiffstaining.ThemolecularweightoftheClone45M1antibody-bindingproteinsintheconjunctivaltissuewasgreaterthan250kDa.OntheELISAsystem,MUC5ACconcentrationwashighlycorrelatedwiththefinalreactionvalue(correlationfactor=0.99),andnon-specificreactionwasnotobserved.Theadditionofdiquafosoltetrasodiumtoculturedrabbitconjunctivaltissuesresultedinaconcentration-dependentincreaseinMUC5ACsecretion;theadditionof0.1%hyaluronicaciddidnot.Fromtheseresults,weestablishedamethodofusingELISAtoquantitativelymeasureMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctivaltissues,usingtheClone45M1antibody.Furthermore,diquafosoltetrasodiumhadastimulatoryeffectonMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctiva,buthyaluronicaciddidnot.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):261.265,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,MUC5AC分泌,ELISA,ウサギ結膜組織.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,MUC5ACsecretion,ELISA,rabbitconjunctivaltissues.262あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(108)し,ブラシ状部位の一つ一つがジスルフィド結合で重合しているため,MUC5ACは,非常に粘性の高い糖蛋白質であり,膜結合型ムチンと協働して眼表面の涙液保持などに対して重要な役割を担っている1).ドライアイ症状を示すSjogren症候群2)や炎症が強いアレルギー性結膜炎3)のように炎症が慢性化している症例では,結膜上皮におけるMUC5ACの発現が低下しており,MUC5ACの蛋白質レベルでの減少が眼表面の涙液保持の低下,強いては涙液層破壊時間を短縮していると考えられている4).また,ドライアイ患者に精製ムチン溶液を点眼することで,角結膜上皮障害が改善することも報告されている5).したがって,ドライアイ症状の一つである眼表面の涙液保持の低下を改善するためには,眼表面にMUC5ACを補給する必要があると考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは,その薬理作用(角膜上皮伸展作用および保水作用)により,角結膜上皮障害改善薬として幅広く使用されてきた.しかし,ムチンの被覆度が低下している症状に対しての効果が弱いと考えられている6).P2Y2受容体作動薬であるアデノシン三リン酸(ATP)あるいはウリジン三リン酸(UTP)は,ヒト結膜組織からのムチン分泌を促進することが報告されており7),UTPと同程度のP2Y2受容体作動作用を示すジクアホソルナトリウムも,正常ウサギ8)および正常ラット9)の結膜組織から糖蛋白質の分泌を促進することが報告されている.そこで,今回,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5ACを定量的に評価できる系(enzyme-linkedimmunosorbentassay:ELISA)を構築し,その系を用いてジクアホソルナトリウムの結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用について,ヒアルロン酸ナトリウムと比較検討した.I実験方法1.被験溶液の調製法ジクアホソルナトリム(ジクアホソル,ヤマサ醤油)およびヒアルロン酸ナトリウム(キューピー)は,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR:111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMD-glucose)にて溶解した.2.ウサギ結膜摘出雄性日本白色ウサギ(北山ラベス)にネンブタール注射液(大日本住友製薬)を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.ケイセイ替刃メスを用いて眼窩周囲に切り込みを入れ,眼窩との結合組織を.離させ,ハサミを用いて外眼筋および視神経を切断し,結膜およびその周辺組織部分を分離・摘出した.なお,本研究は,「動物実験倫理規程」,「動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.抗MUC5AC抗体(Clone45M1)の特異性a.組織学的検討摘出した結膜組織を10%中性ホルマリン(pH7.2.7.4)にて室温で浸漬固定した.パラフィン包埋を行った後,約3μmの連続切片を薄切した.過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色および抗MUC5AC抗体(Clone45M1:マウス抗ヒトMUC5AC抗体,NeoMarkers),ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG(免疫グロブリンG)抗体(DAKO)およびジアミノベンチジン(DAKO)を用いて高分子ポリマー法による免疫組織化学的染色を行った.免疫染色の特異性は,陰性対照抗体として抗マウスIgG抗体(DAKO)を反応させて確認した.b.ウェスタンブロット摘出した結膜組織に組織溶解液(10mMTris,1mMEDTA,1%蛋白分解酵素阻害剤)を加え,ホモジナイズし,遠心(5,000rpm,2分)操作により,上清(ウサギ結膜組織溶解液)を回収した.ウサギ結膜組織溶解液をlaemmlisamplebuffer(Bio-Rad)と混合し,95℃,5分間加熱処理した後,4.20%ポリアクリルアミドゲル(第一化学)にて電気泳動し,PVDF膜にブロッティングを行った.洗浄液(0.05%Tween20含有TBS),ブロッキング液(イムノブロックR:DSファーマバイオメディカル),抗MUC5AC抗体およびHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(ThermoScientific)によりウェスタンブロットを行った.最終,ECLTMwesternblotdetectionreagent(GEHealthcare)に浸して反応させ,Filmに感光して現像した.4.MUC5ACELISA法96穴マイクロプレートに検量線用サンプルおよび被験薬を作用させたウサギ結膜組織培養上清液を添加し,固相化した.その後,Arguesoらの方法2)を参考に,抗MUC5AC抗体,HRP標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(GEHealthcare)に続き,tetramethylbenzidine溶液(Sigma)と反応させた後,マイクロプレートリーダーにて波長450nmの吸光度を測定した.なお,検量線用サンプルとして,ウサギ結膜組織を24時間培養した上清液を1,000AU/mLとした2倍公比の希釈列サンプルを用いた.5.ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌量の測定ウサギより摘出した眼瞼結膜周囲の皮膚組織をハサミで切除し,結膜組織を広げ,4mm径トレパン(貝印)で打ち抜いて結膜組織片を作製した.BR中に,結膜組織片を入れ,5%CO2,37℃にて30分間安定化させた.被験溶液が入った48穴プレートに安定化させた組織片を入れ,5%CO2,37℃,90分間培養した.培養上清液中のMUC5AC量は,「4.MUC5ACELISA法」にて測定した.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112636.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,ジクアホソルの作用は,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定法,ヒアルロン酸ナトリウムの作用は,薬剤無添加群とのStudentのt検定法にて,5%を有意水準として解析した.II結果1.抗MUC5AC抗体の特異性抗MUC5AC抗体(Clone45M1)が反応する蛋白質の結膜組織での局在および蛋白質分子量分布を検討する目的で,ウサギ結膜組織をClone45M1抗体を用いた免疫染色,ウサギ結膜組織溶解液をウェスタンブロットにて解析した.図1に示すように,PAS染色(図1a)およびClone45M1抗体を用いた免疫染色(図1b)での陽性部位は,結膜の杯細胞中の粘液に認められた.また,陰性対照標本では,陽性部位が認められなかった(図1c).図2に示すように,ウサギ結膜組織中で,Clone45M1抗体と反応する蛋白質の分子量は,250kDa以上であった.2.MUC5ACのELISA法の特異性本ELISA法における抗MUC5AC抗体(Clone45M1)の特異性について,ウサギ結膜組織培養上清液から調製した検量線用サンプルを用いて検討した(図3).検量線用サンプル中のMUC5AC濃度に依存してELISA法における免疫反応および酵素基質反応により検出される吸光度(反応最終検出値)は上昇し,二者間に良好な相関性が認められた(相関係数=0.99).一方,抗MUC5AC抗体を反応させない場合は,高濃度のMUC5ACを含有しているサンプルにおいても,吸光度の上昇は認められなかった.3.ジクアホソルのウサギ結膜組織におけるMUC5AC分泌促進作用-ヒアルロン酸ナトリウムとの比較-図4に示すように,ジクアホソルの添加により培養時間90分の条件で,MUC5ACの分泌は濃度依存的に促進され,その作用は,10μM以上のジクアホソルで薬剤無添加群に比べて有意であった.一方,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムabc図1結膜上皮組織のPAS染色および抗MUC5AC抗体による免疫染色像a:PAS染色.b:抗MUC5AC抗体(Clone45M1)による免疫染色.c:抗マウスIgG抗体による免疫染色(陰性対照).○:抗MUC5AC抗体(+)□:抗MUC5AC抗体(-)MUC5AC(AU/mL)吸光度(450nm)2.521.510.501101001,000図3ウサギ結膜組織由来MUC5ACと吸光度の回帰曲線各値は2例の平均値を示す.12kDa2501501007550図2ウサギ結膜組織中の抗MUC5AC抗体と親和性を示す蛋白質の分子量分布レーン1:マーカー,レーン2:ウサギ結膜組織溶解液.264あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(110)はまったく影響を及ぼさなかった.III考按今回,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5AC量を定量的に測定できるELISA法を確立した.ELISA法に用いた抗MUC5AC抗体(Clone45M1抗体)は,ウサギ結膜組織を用いた免疫染色の検討により,PAS陽性部位と同様にウサギ結膜上皮組織の杯細胞内糖蛋白質と結合し,結膜組織溶解液を用いたウェスタンブロットの検討により,250kDa以上の高分子蛋白質と特異的に結合することが明らかとなった.したがって,Clone45M1抗体は,ウサギ結膜組織内のMUC5ACに特異性が高いと考えられる.つぎに,本ELISA法の反応性を確認したところ,MUC5AC含有サンプルとELISA最終検出値間に良好な相関性が得られ,Clone45M1抗体を除く,他の要因による非特異的反応性も認められなかった.したがって,本ELISA法は,MUC5ACに特異性が高く,かつ定量評価可能であると考えられた.さらに,本ELISA法を用いて,ジクアホソルのMUC5AC分泌に対する作用を検討した結果,ジクアホソルは,ウサギ結膜組織からのMUC5ACの分泌を濃度依存的に促進し,その反応性は,10μM以上で薬剤無添加群に比べて有意であった.ジクアホソルのムチン分泌促進作用の反応は,ヒト結膜組織を用いたATPおよびUTPの反応性にほぼ類似しており7),ヒトとウサギ間の種差はほとんどないと考えられる.また,Fujiharaらは,ジクアホソルの点眼がウサギドライアイモデルにおける角膜上皮障害を改善することおよび本改善作用には,結膜上皮層からのPAS陽性蛋白質の分泌促進が関与している可能性を報告している8).したがって,ジクアホソルは,MUC5ACの分泌促進作用を介してドライアイ患者に認められる涙液安定性の低下,ひいては涙液保持の低下などの眼表面の異常を正常化し,角結膜上皮障害の改善作用を示すと考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは,三次元的な網目構造を形成し,大量の水分を保持できることより眼表面での保水性10)およびフィブロネクチンとの結合を介した角膜上皮細胞の接着,伸展作用11)により,ドライアイ患者に対する治療効果も認められ12),角結膜上皮障害の治療薬として汎用されている.しかし,今回の結果からも明らかにされたが,ヒアルロン酸ナトリウムには,ムチン分泌を促進する作用が認められず,眼表面にムチンが被覆していないドライアイ患者では,満足した治療効果を得ることができない可能性が考えられる.今回,ジクアホソルが,ヒアルロン酸ナトリウムでは認められないウサギ結膜杯細胞からのMUC5ACの分泌を促進することを明らかにした.このことは,ジクアホソル点眼液が新規作用機序により,現在ヒアルロン酸ナトリウム点眼液では,効果不十分とされている症例に対しても有効性を示す可能性があり,新規のドライアイ治療薬としての効果が期待される.謝辞:本研究に協力いただきました堂田敦義博士,勝田修博士,篠宮克彦氏に深謝いたします.文献1)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19972)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20023)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandMUC5ACalterationsinatopicpatientswithcornealshieldulcers.CurEyeRes30:897-908,20054)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20085)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,20026)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,19957)JumblattJE,JumblattMM:RegulationofocularmucinsecretionbyP2Y2nucleotidereceptorsinrabbitandhumanconjunctiva.ExpEyeRes67:341-346,19988)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20020110MUC5AC(AU/mL)ジクアホソル(μM)1001,0000.1HA(%)*****NS4003002001000図4ウサギ結膜組織からのジクアホソルおよびヒアルロン酸ナトリウム(HA)のMUC5AC分泌に及ぼす影響各値は4例の平均値±標準誤差を示す.ジクアホソルおよびHAは,90分間反応させた.*:p<0.05,**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).NS:有意差なし,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Studentのt検定)(111)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112659)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200110)NakamuraM,NishidaT,HikidaMetal:Combinedeffectsofhyaluronanandfibronectinoncornealepithelialwoundclosureofrabbitinvivo.CurrEyeRes13:385-388,199411)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,199312)YokoiN,KomuroA,NishidaKetal:Effectivenessofhyaluronanoncornealepithelialbarrierfunctionindryeye.BrJOphthalmol81:533-536,1997***

眼瞼下垂におけるMargin Reflex Distance と上方視野と瞳孔との関係

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)257《原著》あたらしい眼科28(2):257.260,2011cはじめに高齢化社会において眼瞼下垂は増加傾向にあり,視力低下や上方視野狭窄によるqualityoflife(QOL)低下1)につながるため積極的に外科的治療が行われる.眼瞼下垂手術は整容的な目的のみならず,眼科領域では視機能,特に上方視野障害の改善を目的として手術が行われている2).眼瞼下垂手術の術前術後の評価方法として,近年は単眼視下での角膜反射から上眼瞼縁までの距離の測定値であるmarginreflexdistance(MRD)3,4)を一般的に用いて評価が行われている.そこで,MRDと上方視野および瞳孔径の関係を検討したので報告する.I対象および方法2007年4月から2009年12月までに神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科に眼瞼下垂手術希望で来院した患者53名106眼のMRD測定および上方視野測定と瞳孔径測定を行〔別刷請求先〕原直人:〒221-0835横浜市神奈川区鶴屋町3-31-6神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科Reprintrequests:NaotoHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaDentalandMedicalClinic,3-31-6Tsuruya-cho,Kanagawa-ku,Yokohama-city221-0835,JAPAN眼瞼下垂におけるMarginReflexDistanceと上方視野と瞳孔との関係小手川泰枝*1原直人*1鈴木裕美*1大野晃司*1望月浩志*2君島真純*1向野和雄*1*1神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科*2北里大学大学院医療系研究科眼科学RelationsBetweenMarginReflexDistance,SuperiorVisualFieldandPupilDiameterinBlepharoptosisPatientYasueKotegawa1),NaotoHara1),HiromiSuzuki1),KoujiOhno1),HiroshiMochizuki2),MasumiKimishima1)andKazuoMukuno1)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaDentalandMedicalClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity角膜反射から上眼瞼縁までの距離であるmarginreflexdistance(MRD)は,眼瞼下垂の手術適応や手術効果の判定に用いられている.このMRDと上方視野および瞳孔径の関係を検討した.MRDおよび瞳孔径の測定はNONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真をもとに計算し,上方視野の測定はGoldmann視野計を用い上眼瞼挙上せず測定した.その結果,上方視野の値とMRDの測定値の間に正の相関が認められた.MRDが2.0~3.0mmで上方視野25~35°が得られることがわかり,眼瞼下垂の程度を上方の視野狭窄という機能障害として評価ができた.さらにMRDが小さくなると縮瞳する傾向がみられた.Marginreflexdistance(MRD),whichisthedistancebetweenthepapillarylightreflexandtheuppereyelidmargin,itwasusingthedecisionsandtheefficacyofblepharoptosissurgery.WeevaluatedrelationshipbetweenMRD,uppervisualfieldandpupildiameter.WecalculatedMRDfortheanteriorsegmentphotographbyspecularmicroscopyandthesuperiorvisualfieldusingtheGoldmannperimeter,withoutelevationofupperlidandskin.ThesuperiorvisualfieldandMRDweresignificantlyrelated;miosiswascausedbyMRDdecrease.Thisreportshowsthatblepharoptosisisappreciablebyfunctionallesionforsuperiorvisualfielddefect,andrecognizedthat25to35degreesofsuperiorvisualfieldwasprovidedinMRDfrom2.0to3.0mm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):257.260,2011〕Keywords:眼瞼下垂,marginreflexdistance(MRD),上方視野,瞳孔径.blepharoptosis,marginreflexdistance(MRD),superiorvisualfield,pupildiameter.258あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(104)った.上方視野の測定には,GoldmannPerimeter(HAAGSTREIT社製)(以下,Goldmann視野計)を用いた.片眼ずつガーゼ遮閉を行い,前頭筋の使用を抑制するため閉瞼した状態で顎台に顔を乗せ,額を額当てにつけた後に開瞼させ,上眼瞼の挙上および開瞼努力の指示は行わず,正面の黒い固視目標を固視させた.暗室でGoldmann視野計V-4e視標を用い周辺視野測定を行った.上方90°方向と耳側135°および45°と鼻側135°および45°のプロット位置の平均値をGoldmann視野計での上方視野測定値とした(図1).固視目標が見えない場合は上方視野を0°とした.MRDの測定は,新しい試みとしてNONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真をもとに計算を行った.測定は400luxの室内で行い,上方視野測定時と同様に前頭筋の使用を抑制するように顎台に顎を乗せ,上眼瞼の挙上および開瞼努力の指示は行わずに,測定画面の中央部分に被験者の瞳孔が位置するように調整した.その後,内部の視標を固視させストロボ撮影を片眼ずつ行った.前眼部写真の角膜反射を瞳孔中心として上眼瞼縁までの距離を測定し,撮影した前眼部写真の3mmスケールからMRD(mm)を算出した.同様に角膜反射を通る瞳孔横径を3mmスケールから算出し瞳孔径(mm)とした(図2).眼瞼下垂のため角膜反射が得られない場合と角膜反射を通る瞳孔横径が測定できなかった場合は,それぞれMRDを0mm,瞳孔径は測定不可とした.今回は,上眼瞼縁が撮影した前眼部写真から判定できなかった皮膚弛緩症症例については,対象から除外した.検定にはSpearmanの順位相関を用いて,MRDと上方視野,MRDと瞳孔径のそれぞれの相関関係を検定した.II結果全症例53名の平均年齢は63.7±10.7歳(21~82歳)で女鼻側135°=38°上方90°=30°耳側45°=35°鼻側38°+上方30°+耳側35°3=34.3°(上方視野測定値)図1上方視野の計算上方視野測定は暗室でGoldmann視野計のV-4e視標を用い行った.測定は片眼ずつ行い,得られた周辺視野の90°および135°,45°方向のプロット位置の平均値を上方視野測定値とした.また,正面の固視目標が見えない場合は上方視野を0°とした.MRDの計算式瞳孔径の計算式角膜反射から上眼瞼縁の距離(A)×3(mm)3mmスケールの写真上での実測値(B)角膜反射を含む角膜横径(C)×3(mm)3mmスケールの写真上での実測値(B)図2MRDと瞳孔径の計算方法NONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真の角膜反射から上眼瞼縁までの距離(A)(MRD)と角膜反射を通る瞳孔横径(C)と3mmスケールの実測値(B)を用いて,図に示す計算式でMRD(mm)と瞳孔横径(mm)を算出した.角膜反射の得られなかったものに関しては,MRDを0mmとした.また,同様に瞳孔横径も角膜反射が得られない場合もしくは角膜反射を通る左右の瞳孔縁が確認できない場合は測定不可とした.(105)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011259性47名,男性6名であった.症例のうち挙筋機能(levatorfunction:LF)の測定を行っていた41名82眼の平均LFは12.5±2.5mmであり,そのうちLFが10mm以下であったものは8名6眼であった.106眼の平均MRDは1.75±1.22mm(0~4.91mm),平均上方視野は25.5±12.1°(3.0~54.0°)であった.瞳孔横径が測定可能であった43名75眼の全平均瞳孔径は4.30±0.62mm(2.4~6.0mm)であった.MRDと上方視野には相関関係を認め(r=0.925,p=0.0001),MRDが大きくなると上方視野は広くなった(図3).MRD0.5mm以下で上方視野10°以下,MRD1.0~1.5mmで上方視野約20~25°,MRD2.0~2.5mmで上方視野約30°,MRD3.0~3.5mm以上で上方視野35°以上であった(表1).全症例のMRDと瞳孔径に相関関係を認め(r=0.339,p=0.002),MRDが小さくなると瞳孔径も小さくなる傾向を示した(図4).III考察眼瞼下垂の術前評価方法としては,MRDを用いた評価方法5~7)が報告されている.MRDと瞳孔径に関しては,MRDが小さくなると瞳孔径も小さくなる傾向を示した.術前にMRDから上方視野が予測可能であることは有用であると考えられた.術前は,MRDから上方視野狭窄による視機能障害としての評価が可能になり,Goldmann視野計を用いていない施設においてもMRD測定値から眼瞼下垂手術前後の上方視野評価ができることは有用である.MRDと上方視野の研究には自動視野計とGoldmann視野計を用いたものがある.自動視野計での上方視野測定では手術後MRD3.5mm以上の場合で最も上方視野改善を示したとする報告8)や,MRD2.5mm以下になると上方視野はGoldmann視野計のIII4-e視標で12°,自動視野計の10dB視標で30%障害されることが報告されている1).筆者らは,Goldmann視野計のV4-e視標で測定を行っており,過去の報告よりも明るい視標で上方視野を評価したため,MRD2.5mmで上方視野30°と,より広い上方視野結果となったと考える.一方でGoldmann視野計での上方視野測定の方法は,自動視野計に比べ短時間で検査手技も容易で高齢者にも適しており9),手術適応と手術効果の判定についてV4-e視標を用いて報告2)されていることからも,本研究における上方視野評価にGoldmann視野計を用いたことは,提示視標の選択に問題はなかったと考えられた.今回の症例のうち,皮膚弛緩症で前眼部写真より上眼瞼縁が判定できなかった症例を検討の対象から除外した.皮膚弛緩症例は,皮膚弛緩による見かけ上のMRDと真のMRDに差異があり,当然皮膚が弛緩していることにより見かけ上のMRDは小さく2),上方視野は障害されていることが考えら表1MRD別上方視野の平均値MRD(mm)平均上方視野(°)<0.510.0±4.7(中央値:8.7)~1.019.4±4.5(中央値:18.3)~1.523.4±6.6(中央値:25.7)~2.027.0±5.5(中央値:27.8)~2.531.4±3.1(中央値:30.1)~3.038.5±3.5(中央値:38.3)~3.540.4±5.2(中央値:40.3)3.5<45.7±4.6(中央値:46.0)Marginreflexdistance(mm)瞳孔径(mm)n=75r=0.339p=0.00276543200.511.522.533.544.555.5図4MRDと瞳孔径53名106眼のうち瞳孔径が測定可能であった43名75眼のMRD(mm)と瞳孔径(mm)を示す.横軸がMRD(mm),縦軸が瞳孔径(mm)で,MRDが小さくなると瞳孔径は縮瞳する傾向を認めた(r=0.339,p=0.002).60555045403530252015105000.511.522.5Marginreflexdistance(mm)上方視野(°)33.544.555.5n=106r=0.925p=0.0001図3全症例におけるMRDと上方視野全53名106眼のMRD(mm)と上方視野(°)を示す.横軸がMRD(mm),縦軸が上方視野(°)で,MRDが小さくなると上方視野は有意に狭くなった(r=0.925,p=0.0001),おおよそ角膜反射が得られないMRD0.5以下の場合は上方視野が10°以下で,MRD1.0~1.5mmで上方視野20~25°,MRD2.0~2.5mmで上方視野30°,MRD3.0mm以上で上方視野35°以上であった.260あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(106)れる.今後,皮膚弛緩症患者における見かけ上のMRDと真のMRDで上方視野測定の検討が必要と考えられた.文献1)FedericiTJ,MeyerDR,LiningerLL:Corelationofthevision-relatedfunctionalimpairmentassociatedwithblepharoptosisandtheimpactofblepharoptosissurgery.Ophthalmology106:1705-1712,19992)西本浩之,北原美幸,堤瑛理ほか:眼瞼下垂手術におけるGoldmann視野計による視野評価とその有用性.眼科手術22:221-224,20093)川本潔:スムースな開瞼と閉瞼を意識した眼瞼下垂手術.眼科手術20:359-363,20074)MeyerDR,LinbergJV,PowellSRetal:Quantitatingthesuperiorvisualfieldlossassociatedwithptosis.ArchOphthalmol107:840-843,19895)RubinPA:Eyelidpositionmeasurement.Ophthalmology112:524,20056)EdwardsDT,BartleyGB,HodgeDOetal:EyelidpositionmeasurementinGraves’ophthalmopathy:Reliabilityofaphotographictechniqueandcomparisonwithaclinicaltechnique.Ophthalmology111:1029-1034,20047)CoombesAG,SethiCS,KirkpatrickWN:Astandardizeddigitalphotographysystemwithcomputerrizedeyelidmeasurementanalysis.PlastReconstrSurg120:647-656,20078)HackerHD,HollstenDA:Investigationofautomatedperimetryinevalutionofpatientsforupperlidblepharoplasty.OphthalmicPlastReconstrSurg8:250-255,19929)RiemannCD,HansonS,FosterJA:Acomparisonofmanualkineticandautomatedstaticperimetryinobtainingptosisfields.ArchOphthalmol118:65-69,2000***