‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス 98.眼トキソカラ症に対する 硝子体手術(初級編)

2011年7月31日 日曜日

1006あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(102)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY●眼トキソカラ症眼トキソカラ症は,イヌ回虫(Toxocaracanis)の感染により生じるぶどう膜炎である.本疾患の感染経路は,イヌの腸管内にイヌ回虫が寄生し,その排泄物中の虫卵をヒトが経口摂取することで,人体の腸管内で孵化し第1期幼虫となる.その後,血行性に脳,肺,眼球などに散布し第2期幼虫となる.イヌ回虫は人体内では本来のlifecycleを全うできず,第2期幼虫のまま死滅するが,虫体から放出される毒素によりぶどう膜炎症状を呈する.●眼トキソカラ症の臨床像Wilkinsonらの分類が広く用いられており,眼底所見から以下の3つに分類される.1)眼内炎型(diffusenematodeendophthalmitistype)年少児に多く強い硝子体炎を起こし,白色瞳孔をきたすこともある.劇症型では,網膜?離や血管新生緑内障を合併し失明に至ることもある.わが国での報告例は少ない.2)後極部肉芽腫型(posteriorpolegranulomatype)眼底後極部に孤立した白色肉芽腫病変をきたす.時間が経過すると瘢痕化して硝子体索状物や牽引性網膜?離をきたすことがある.3)周辺部肉芽腫型(peripheralinflammatorymasstype)眼底周辺部に孤立した白色の塊状病変をきたす.後極部肉芽腫型と同様に,硝子体に索状物を形成し,牽引性網膜?離や,ぶどう膜炎による硝子体混濁をきたすことがある.わが国ではこのタイプの報告例が多い.●眼トキソカラ症の硝子体手術適応上記のいずれのタイプでも硝子体混濁,牽引性網膜?離,続発性黄斑上膜をきたした場合には硝子体手術の適応となることがある.ぶどう膜炎による硝子体混濁に対してステロイドの全身投与が奏効することもあるが,混濁が遷延する場合に硝子体手術を施行する(図1a,b).牽引性網膜?離に対しては,硝子体索状物の除去,強膜バックリング手術などで対応する.続発性黄斑上膜に対してはmembranepeelingを施行するが,特発性に比較して,広範囲かつ癒着が強固なことが多い(図2).硝子体手術時に採取した硝子体ゲルを用いて抗トキソカラ抗体を測定すれば診断に役立つ1).文献1)池田恒彦,田野保雄,細谷比左志ほか:眼底周辺部に隆起性線維血管性増殖病変を呈する眼寄生虫症.臨眼42:787-792,1988硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載98眼トキソカラ症に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2続発性黄斑上膜視神経乳頭から血管新生緑内障にかけて広範囲に続発性黄斑上膜を認める.図1ぶどう膜炎症状を呈した周辺部肉芽腫型a:硝子体混濁のため,眼底の視認性は不良だが,鼻側周辺部に隆起性病変を認める.矯正視力は(0.02).b:硝子体手術後の眼底.視神経乳頭から鼻側周辺部に向かう網膜皺襞と鼻側周辺部の隆起性病変を認めるが,硝子体混濁は消失し,矯正視力は(0.5)に改善した.ab

眼科医のための先端医療 127.クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110010910-1810/11/\100/頁/JCOPY結核性眼炎症疾患の診断結核による眼病変には角膜実質炎やフリクテン様結膜炎,前部ぶどう膜炎,粟粒結核や結核腫,網膜静脈炎に代表される後部ぶどう膜炎があげられます1~4).その他にも,結核菌に対する宿主の免疫反応により多彩(非特異的)な眼所見(強膜炎,地図状脈絡膜炎,視神経網膜炎,硝子体混濁など)を呈することがあります.2002年に施行された全国の大学付属病院を対象としたぶどう膜炎の疫学調査によると,ぶどう膜炎全体に占める結核性ぶどう膜炎の割合は0.7%,当院の統計でも4.3%を占めており,依然としてわが国における代表的な感染性ぶどう膜炎といえます5,6).通常,結核と確定診断するためには病巣部からの菌体の証明が必要となりますが,結核性眼疾患(特に後部ぶどう膜炎など)に対してこの原則をあてはめようとした場合,ほとんどの症例においてその確定診断は現実的にほぼ不可能となります.過去に結核患者との接触歴があること,活動性の結核や結核の既往があること,さらに特徴的な眼所見を呈していれば診断は比較的容易ですが,ツベルクリン反応(ツ反)が強陽性でありながら眼外結核が明らかでない場合,診断に苦慮することも少なくありません.そこで現時点での結核性眼炎症疾患の診断は,1)肺結核などの眼外結核が存在する,2)結核に対する免疫反応が陽性,3)典型的な結核眼病巣の存在,4)既知のぶどう膜炎を否定できる眼および全身所見,5)抗結核療法の治療効果,などから総合的に判断することになります1,2).新たな結核感染診断法クオンティフェロンTBの登場従来,結核感染の有無には先ほど述べたツ反が用いられてきました.ツ反に用いられているpurifiedproteinderivative(PPD)は加熱滅菌した結核培養液から部分精製した蛋白成分ですが,PPDには数百種類もの異なった結核菌抗原が含まれており,その大部分がBacillusCalmette-Guerin(BCG)や非定型抗酸菌と高い類似性を有しています.そのためBCG接種や非定型抗酸菌感染によってもツ反が陽性化してしまうなど特異度の点で問題がありました.1990年代後半にはいり,結核菌の遺伝子解析や抗原解析の進展に伴いAndersonらによってBCGには存在しない結核特異抗原であるESAT-6とCFP-10の2つの蛋白抗原が同定されました7).この2つの抗原を使用した新たな結核感染診断法がクオンティフェロン(QuantiFERONR-TB:QFT-2G)です.末梢血から採取したリンパ球を試験管内でESAT-6抗原とCFP-10抗原で刺激培養し(18?24時間,37℃),培養上清中に分泌されたインターフェロン-gをELISA(enzymelinkedimmunosorbentassay)法にて測定することで結核感染を判定します.これまでのQFTの感度,特異度に関する報告をみますと,Moriらは肺結核確定患者を陽性群,健常人ボランティア(看護学生)を陰性コントロールとしてツ反とQFTの感染診断における有用性について比較検討を行いました8,9).その結果,ツ反の感度は92%,特異度は17%であったのに対してQFTでは感度89%,特異度98%という結果となり,QFTは感度の点ではツ反にやや劣るものの,特異度についてはツ反よりも圧倒的に優れていることを報告しました.この結果はQFTが陽性の場合は,ほぼ間違いなく結核に感染していることを意味しています.その一方で,感度が89%ということはQFTが陰性でも結核に感染している危険性が10%程度存在するため,結果の解釈には十分な注意が必要となります.現在,QFTは肺結核や肺外結核の診断だけでなく,結核接触者の検診,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者などの潜在性の結核感染のスクリーニングにも用いられています.結核性眼炎症疾患へのQFTの応用これまでの眼科領域におけるQFTに関する報告をみますと,2008年にMackensenらが21例の地図状脈絡膜炎の症例のうち,11例でQFTが陽性であることを報告し,地図状脈絡膜炎における結核感染との関連を指摘(97)◆シリーズ第127回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊慶野博(杏林大学医学部眼科)クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?1002あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011しています10).さらに2009年にAngらはシンガポールの157名のぶどう膜炎患者に対してツ反とQFTを施行し,両者の結核性ぶどう膜炎に対する感度,特異度について検討しました.その結果,特異度についてはツ反が72.7%に対してQFTは81.8%とQFTのほうが高く,感度についてはツ反が95.5%,QFTは90.9%という結果を報告しました11).この結果は結核性ぶどう膜炎でも肺結核と同様,QFT単独では約10%の確率で結核感染を見落とす可能性があることを意味します.この点については筆者らも結核性眼疾患を疑った場合はQFT単独ではなくツ反とQFTを組み合わせて検査をすることの重要性を強調しています.最近,筆者らの施設においてステロイド点眼で改善しない強膜炎で胸部X線では異常を認めなかったもののツ反は強陽性,さらにQFTも陽性のため結核感染を疑い抗結核薬を開始したところ,炎症の改善を認めた症例を経験しました(図1)12).もしQFTを施行せず,ツ反強陽性の結果のみだった場合,BCG接種による影響も否定できないため抗結核療法を開始すべきか判断に迷うところです.結核性眼炎症疾患を疑った場合,眼所見,全身所見,ツ反に加えQFTの結果も併せて総合的に判断していくことが重要と考えます.QFTの問題点と今後の展開QFTはBCG接種に影響されることなく結核感染の有無を判定できる優れた検査法ですが,結果の解釈には注意すべき点があります.QFTは結核感染の有無を判定するものであって,現在の結核の活動性の指標になりうるものではありません9).また,上述したようにQFTの感度はツ反ほど高くないため,QFTの結果が陰性であった場合でも結核の感染を完全に否定することはできません.この点については,これまでQFT-2Gで用いられていたESAT-6,CFP-10の抗原に加えて,別の結核抗原であるTB7.7が追加されたQFT-3Gが国内でも使用可能となり,今後QFTの感度の改善が期待されます.現在,QFTは関節リウマチなどの難治性自己免疫疾患に対するTNF(腫瘍壊死因子)-a阻害薬などの生物学的製剤投与予定者の結核スクリーニングや抗結核薬予防投与の適応の決定などにも広く応用されています.眼科領域でもBehcet病難治性網膜ぶどう膜炎に対して抗TNF-a抗体であるインフリキシマブが2007年1月より保険適用となりました.インフリキシマブ投与による潜在性結核の再燃は最も重篤な副作用の一つであり,この点においても眼科領域におけるQFTの重要性は今後ますます高まるものと思われます.文献1)安積淳:結核性眼疾患.日本の眼科70:1043-1046,19992)後藤浩:結核性ぶどう膜炎の現状と診断,治療上の問題点.眼紀52:461-467,20013)MorimuraY,OkadaAA,KawaharaSetal:TuberculinskintestinginuveitispatientsandtreatmentofpresumedintraoculartuberculosisinJapan.Ophthalmology109:851-857,20024)GuptaV,GuptaA,RaoNA:Intraoculartuberculosis─Anupdate.SurvOphthalmol52:561-587,2007(98)図1結核性強膜炎の1例68歳,男性.胸部X線では異常は指摘されなかったがツベルクリン反応陽性,QFT陽性を示したため結核性強膜炎を疑い抗結核療法を開始,充血の改善を認めた.a:治療前,b:治療後(12カ月).ab(99)あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110035)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20076)KeinoH,NakashimaC,WatanabeTetal:FrequencyandclinicalfeaturesofintraocularinflammationinTokyo.ClinExperimentOphthalmol37:595-601,20097)AndersonP,MunkME,PollockJMetal:Specificimmune-baseddiagnosisoftuberculosis.Lancet356:1099-1104,20008)MoriT,SakataniM,YamagishiFetal:Specificdetectionoftuberculosisinfection:aninterferon-gamma-basedassayusingnewantigens.AmJRespirCritCareMed170:59-64,20049)鈴木克洋:クオティフェロンTB-2G(QFT)の有用性.呼吸と循環57:299-303,200910)MackensenF,BeckerMD,WiehlerUetal:QuantiFERONTB-Gold─Anewteststrengtheninglong-suspectedtuberculousinvolvementinserpiginous-likechoroiditis.AmJOphthalmol146:761-766,200811)AngM,HtoonHM,CheeSP:Diagnosisoftuberculousuveitis:clinicalapplicationofaninterferon-gammareleaseassay.Ophthalmology116:1391-1396,200912)TakiW,KeinoH,WatanabeTetal:Interferon-gammareleaseassayintuberculousscleritis.ArchOphthalmol129:368-371,2011☆☆☆■「クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?」を読んで■結核は,全世界人口の3人に1人が感染していると考えられ,また年間900万人の新規患者と180万人もの死亡者を出している感染症です.単一病原菌によるものでは最悪の感染症といえます.日本では結核患者が増加したため,1999年に結核緊急事態宣言が出されましたが,2008年においても新登録結核患者数は24,760人,また死亡者数は2,216人を数え,先進国のなかにおいては中蔓延国に位置付けられています.特にアジアは,世界の結核の半分以上が発生している地域とされており,アジアとの国際交流が盛んになっている現状を考えると,結核は現在最も重要な感染症の一つといえます.過去30年,イソニコチン酸ヒドラジッドやリファンピシンなどのきわめて効果の強い抗結核薬が開発され,先進国では結核患者数は激減しました.しかし,抗結核薬には必ず副作用があります.エタンブトールによる視神経障害は有名ですが,比較的副作用の少ないものでも,長期間服用することで臓器障害を起こすことはまれではありません.一方,抗結核薬が広く使われるようになり,薬剤耐性結核菌の問題も出てきました.米国では,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)による結核患者に薬剤耐性結核菌が広がり,大きな問題となりました.近い将来,まったく新しい抗結核薬が誕生する可能性が低いことを考えると,抗結核薬の治療は必要なケースに限るべきでしょう.従来,結核診断は1932年にSeibertによって開発されたPPD(ツベルクリンテスト)が用いられてきました.慶野博先生が本稿でわかりやすく解説されているように,PPDには感度は高い反面,特異性が低いという問題があります.集団から結核患者を拾い出すためには,感度が高いPPDは有用ですが,本当に抗結核薬治療が必要な患者を選択するには不十分なのです.このことがわかると,なぜ特異性が高いクオンティフェロン(QFT)が世界中の医師から待ち望まれたのかが理解できると思います.眼科領域においては,結核菌感染症はさまざまな表現型を示します.そのため,確定診断がつかずに漫然と抗結核薬を使用することがありましたが,それは薬剤耐性結核菌を増やす原因となった可能性があります.また逆に,抗結核薬が使われずに治療が成功しなかったケースも少なくありません.QFTにより,結核菌感染症患者を正確に診断することは,眼科領域では特に大切であるといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

緑内障:ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇に対して留意したい点眼治療

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119990910-1810/11/\100/頁/JCOPY●プロスタグランジン(PG)関連眼圧下降点眼薬(PG点眼薬)PG点眼薬はその優れた眼圧下降作用から,ファーストラインの抗緑内障点眼薬としての地位を固めているが,PGが眼炎症のメディエータとしての役割を担っているため眼炎症を惹起する可能性がある.炎症の既往のない緑内障眼において眼炎症が惹起される頻度は1?4.9%程度とされ,少数の症例報告しかない1).自験例と過去の報告をレビューし臨床的特徴について検討した結果(表1),ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストに関して計34眼の報告があり,aqueouscellulargradingscale1+以下のものが65%,角膜後面沈着物を伴うものが14.7%と前房炎症の程度は軽度なものが主であり,炎症惹起前後での平均眼圧較差は?0.78±5.3mmHgと多くは炎症惹起後の眼圧上昇を認めなかった2).治療に関しても,ステロイド点眼薬の併用例が65%あったが,PG点眼薬中止のみで消炎したものが35%であり,消炎までの平均期間は18.4日と速やかに消炎が得られやすいことがわかった2).炎症コントロール下のぶどう膜炎続発緑内障においても,注意深い経過観察のもと使用してもよいとする報告も近年徐々になされ始めている3).しかしこのように,炎症の既往がないにもかかわらずPG点眼薬でぶどう膜炎が惹起される症例が少なからず存在することは確かなことであり,ぶどう膜炎眼に対しての使用の際には,炎症増悪のリスクを十分に理解しておくことが重要である.また現時点で,筆者の知る限り,活動性の炎症眼に対してPG点眼薬を使用した場合の炎症・眼圧の変化に関するエビデンスは存在しない.●ピロカルピン点眼薬ピロカルピン点眼薬は毛様体血液房水柵に影響を与えフレア値を上昇させるため,炎症を伴う眼疾患の際には使用を控える必要があることは広く知られている.しかし,原田病などのぶどう膜炎に伴い生じる毛様体浮腫・毛様体前方回旋に伴って急性閉塞隅角を呈している場合は要注意である.ぶどう膜炎に合併する浅前房と気がつかずに,原発閉塞隅角症と同様にピロカルピン投与・レーザー虹彩切開術を施行してしまうと,眼圧が下降しないばかりか,その後の炎症管理・眼圧管理がきわめて不良となってしまうことも多い.安易な診断は厳に慎むべきであり,多くは問診や僚眼の炎症所見の有無などからその存在を疑うことができ,正確な鑑別のためには,眼底の漿液性網膜?離の有無の確認や,可能な施設であればUBM(超音波生体顕微鏡)による隅角および毛様(95)●連載133緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也133.ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇に対して留意したい点眼治療岩尾圭一郎*1,*2*1BascomPalmerEyeInstitute,UniversityofMiamiMillerSchoolofMedicine*2佐賀大学医学部眼科ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇では,緑内障の主力治療薬であるプロスタグランジン関連眼圧下降点眼薬は眼炎症を増悪する可能性があるし,原田病に伴う浅前房の際にピロカルピン点眼を使用してはならない.ステロイド点眼消炎治療によりステロイド緑内障を呈した場合,トラベクロトミーも選択肢の一つである.表1プロスタグランジン関連眼圧下降薬投与により惹起された前部ぶどう膜炎性別(眼)男性13(38.0%),女性21(62.0%)発症年齢(歳)46?86平均71.7±8.2緑内障病型(眼)原発開放隅角緑内障19落屑緑内障6発達緑内障1病型不詳8手術既往(眼)緑内障手術7白内障手術15PG以外の眼圧下降点眼数(剤)0?3平均0.97±0.90発症までの期間(日)1?1,851平均149.4±338.8発症前眼圧(mmHg)21.3±5.9発症時眼圧(mmHg)20.7±8.5炎症前後の眼圧差(mmHg)?0.78±5.3角膜浮腫(眼)3(8.8%)前房炎症(眼)3+2+1+Trace2(5.9%)10(29.4%)10(29.4%)12(35.3%)角膜後面沈着物(眼)5(14.7%.豚脂様2,詳細不明3)隅角・虹彩結節(眼)2(5.9%)消炎のためのステロイド点眼(眼)22(64.7%)消炎までの期間(日)18.4±14.8(文献1より改変)1000あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011体の観察を行うべきである.アトロピン点眼とステロイド全身投与により,毛様体浮腫の軽減に伴い前房深度は正常化する(図1).●副腎皮質ステロイド点眼薬ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇がみられる場合の加療の基本は,まずは消炎の徹底である.点眼を中心としたステロイド局所投与や全身投与が治療の根幹を担うが,ステロイド誘発眼圧上昇がしばしば問題となる.詳細は他の記載に譲るが,ステロイドの強度や投与経路,使用期間,休薬・強度変更による眼圧変化,炎症の程度との兼ね合いなどから総合的に判断する.可能であればステロイド薬の休薬・変更を行うが,困難な場合は眼圧下降点眼を追加併用することになり,アドヒアランスの低下や希釈効果から十分な効果が得られないこともある.保存的治療が奏効しない場合,視野進行の状態によっては観血的治療を選択せざるを得ない.ステロイド緑内障は典型的な房水流出抵抗が増大する続発緑内障であり,流出路手術の良い適応である.一方で,活動性のぶどう膜炎眼に対するトラベクロトミーの効果は限定的であることも知られているため,トラベクレクトミーが選択されることが多い.では,ぶどう膜炎存在下のステロイド緑内障に対しての,トラベクロトミーの効果はどの程度であろうか?ステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの効果に関する多施設調査で,18mmHg未満(96)に眼圧管理できる割合はトラベクレクトミーのほうが勝っているが,21mmHg未満に眼圧管理ができる割合はトラベクレクトミーと同程度であることが明らかになった(図2)4).またこの調査では,点眼のみで誘発されたステロイド緑内障は予後がよいことが示唆され,ぶどう膜炎治療時に生じたステロイド緑内障に対しトラベクロトミーを行った場合,原疾患がぶどう膜炎であることは眼圧予後のリスク因子にはなっていなかった4).一般的にぶどう膜炎患者は若年であることも多く,今後もステロイド点眼を長期間継続する可能性があり,それに伴う濾過胞感染のリスクを考えた場合,視野に余力があり炎症管理が良い場合にはトラベクロトミーも選択肢の一つになりうる.文献1)WarwarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Ophthalmology105:263-268,19982)山本聡一郎,岩尾圭一郎,平田憲ほか:プロスタグランジン関連眼圧下降薬で惹起された前部ぶどう膜炎.あたらしい眼科28:571-575,20113)MarkomichelakisNN,KostakouA,HalkiadakisIetal:Efficacyandsafetyoflatanoprostineyeswithuveiticglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol247:775-780,20094)IwaoK,InataniM,TaniharaH;onbehalfofTheJapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:SuccessRatesofTrabeculotomyforSteroid-InducedGlaucoma:aComparative,Multicenter,Retrospective,CohortStudy.AmJOphthalmol151:1047-1056,2011ABCD図1原発閉塞隅角症と誤られた原田病の1例A:紹介時の前眼部写真.耳上側にレーザー虹彩切開術がなされている(矢印).B:眼底は視神経乳頭の発赤と漿液性網膜?離が認められる.C:ステロイド治療前のUBM所見.毛様体浮腫を高度に呈しており(赤矢印),虹彩水晶体隔膜の前方移動が認められる.D:ステロイド大量療法後所見.毛様体浮腫は改善し,散瞳薬使用にも関わらず隅角は開大し,虹彩水晶体隔膜は後退している.AB100806040200012術後経過年345累積生存確率(%)100806040200012術後経過年345累積生存確率(%)p=0.3636(log-ranktest)p=0.0352(log-ranktest):トラベクレクトミー:トラベクロトミー:トラベクレクトミー:トラベクロトミー図2ステロイド緑内障(ぶどう膜炎続発緑内障に限らない)に対するトラベクロトミーの効果A:21mmHg以上を不成功と定義した場合,トラベクロトミーとトラベクレクトミーの累積生存確率に有意な差はない.B:18mmHg以上を不成功と定義した場合,トラベクレクトミーの累積生存確率は,トラベクロトミーに比較して有意に良好である.(文献4より改変)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入後のLASIKによる タッチアップ

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119970910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)屈折型ArrayR(保険適用)は2002年にわが国で認可され,2007年に屈折型ReZoomR(AMO社)が,2008年に回折型ReSTORR(Alcon社),回折型TECNISTM(AMO社)が先進医療として認可された.近年の白内障手術は,種々のIOLが開発され屈折矯正手術の一つといえるほど,術後視力を追求することができる時代になった.さらに多焦点眼内レンズ手術は,従来の白内障手術治療よりも付加価値の高い手術治療であり,先進医療となったことで老視の治療も兼ねた屈折矯正手術と位置付けることができ,患者の期待もさらに高くなっている.そのため,乱視の少ない症例など適応を絞り手術を行う場合が多い.しかし,LASIK(laserinsitukeratomileusis)1,2)や角膜輪部減張切開(LRI)3,4)を行うことで,手術適応が広がると考えられる.患者に,術後に屈折誤差や乱視が残る場合はLASIKによるタッチアップを行う選択肢があることをあらかじめ説明しておくと,スムーズに矯正治療ができる.また,LASIKを行っている施設に紹介したり,オープンで利用するのも一つの方法だと思われる.●当院でのアプローチ当院では,角膜耳側切開による白内障手術を行い,乱視の強い症例では術中にLRIを施行している.当院における多焦点IOL症例の約30%にLRIが行われている(藤本可芳子:第64回日本臨床眼科学会インストラクションコースIC-55で発表,2010).術後乱視や屈折異常が残れば,LASIKによるタッチアップを行っている.使用機種は,NIDEK社製EC-5000(ソフトバージョンは常時更新)とマイクロケラトームMK-2000を使用し,EC-5000の照射パターンは,OPD-CustomAblationで,いわゆるトポグラフィリンクのカスタムアブレーションを行っている.多焦点IOLの場合,全屈折の収差測定がむずかしく,評価がまだ十分に行われていないので,角膜上の屈折矯正治療を行っている.実際に,多焦点IOL術後にどのくらいLASIKタッチアップが必要であったかを確認すると,2002年3月から2010年7月まで多焦点IOL手術を施行した694眼のうち,LASIKタッチアップを行ったのは2007年3月から2010年12月までで22例32眼と多焦点IOL手術件数の約5%であった.タッチアップは多焦点IOL術後,3カ月以上経過し屈折値が安定してから行った.通常のLASIKよりも高齢者に行うことが多かったが,手術中,術後の合併症は認めていない.以下にタッチアップ症例を例示する.●症例〔症例1〕26歳,女性.アトピー性白内障で左眼に回折型多焦点IOLを挿入,術後1カ月後の視力は,(93)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載134監修=木下茂大橋裕一坪田一男134.多焦点眼内レンズ挿入後のLASIKによるタッチアップ藤本可芳子フジモト眼科多焦点眼内レンズで良好な術後遠近裸眼視力を得るには,術後の屈折誤差を少なくすることが必要である.術後に屈折誤差がある場合は,タッチアップ(追加矯正)が必要である.LASIK(laserinsitukeratomileusis)によるタッチアップの実際を紹介する.術前術1カ月後図1症例1(左眼):タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィ(上)と角膜収差(下)998あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011LV=(0.8p×IOL()1.2×sph+1.00D(cyl?0.50DAx20°×IOL)NLV=(0.5×IOL()1.0×sph+1.00D(cyl?0.50DAx20°×IOL)手術3カ月後にタッチアップを施行した.矯正量は+1.0D(cyl?0.5DAx30°で,角膜切除量は17.5μmであった.術後1カ月視力は,LV=(1.0×IOL()1.0×sph+0.50D(cyl?0.50DAx70°×IOL)NLV=(1.0×IOL),1年後LV=(1.5×IOL()n.c.),NLV=(1.0×IOL)(n.c.)であった.タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィと角膜収差を図1に示す.〔症例2〕51歳,女性.両眼強度近視のため,IOL製造範囲で適切な度数がなく,屈折型多焦点IOL+6Dを挿入,術後1カ月後の視力は,RV=(0.8×IOL()1.0×sph?0.50D(cyl?1.00DAx180°)LV=(0.6×IOL()0.9p×sph+0.50D(cyl?2.00DAx10°)NRV=(0.3×sph?0.75D(cyl?1.00DAx175°)NLV=(0.3×sph±0D(cyl?2.00DAx180°)手術3カ月後にタッチアップを施行した.矯正量は右)sph?1.0D(cyl?1.0DAx175°,最大深度33.6μm,左)sph±0D(cyl?1.5DAx180°,最大深度35.8μm.タッチアップ1カ月後の視力は,RV=(0.8×IOL()1.0×sph+0.50D(cyl1DAx1°×IOL)LV=(0.8×IOL()0.9×sph±0D(cyl?0.50DAx50°×IOL)NRV=(0.5×IOL)(0.7×sph+2.5D×IOL)NLV=(0.6×IOL)(0.7×sph+2.5D×IOL)タッチアップ1年後は,RV=(1.0×IOL)(n.c.)LV=(1.0p×IOL)(n.c.)NRV=(0.6×IOL)(0.7×sph+2.00D×IOL)NLV=(0.7×IOL)(0.8×sph+2.00D×IOL)タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィと角膜収差を図2に示す.両症例とも現在,眼鏡を使用せず裸眼で生活が可能である.LASIKを行うことで,通常高次収差が増加するといわれているが,今回の症例では,術前後で角膜収差の有意差はみられなかった.文献1)中村邦彦:多焦点IOL術後のタッチアップ.あたらしい眼科25:331-332,20082)大谷伸一郎,宮田和典,阪上祐志ほか:白内障手術における乱視矯正同時手術適応.IOL&RL15:142-145,20013)ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,20084)福山会里子:白内障手術における乱視矯正.IOL&RS21:485-491,2007(94)術前術1カ月後右眼左眼右眼左眼図2症例2:タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィ(上)と角膜収差(下)

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズの度数ずれ

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119950910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)挿入術後患者において,術後の度数ずれ(残余屈折異常)は不満の主原因の一つであることが報告されている1).多焦点IOLの場合は,眼鏡装用率を下げることが使用の主目的であるため,残余屈折異常による裸眼視力不良は不満の主原因となるのは当然である.また,残余屈折異常があると,グレアやハローなども強くなるため,これも不満の原因となる.以下,多焦点IOL挿入術後の残余屈折異常への対処法について述べる.インフォームド・コンセント生体計測の精度および手術手技の改良により,近年,IOL度数予測精度は以前よりも向上し,手術による惹起乱視は減少しているが,皆無ではない.多焦点IOL使用の際には,術前に「術後残余屈折異常はある程度避けられないものである」ことを説明し,術後対処が必要になる可能性があることについて,あらかじめ同意を得ておくことは非常に重要なステップである2,3).術前にすでに「術後の対処」は始まっているといっても過言ではない.球面誤差への対処球面値の誤差は,裸眼視力に影響し,患者の不満の原因となる.多焦点IOLを希望する患者では,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正を好まない場合も多いので,保存的方法で満足が得られない場合は,再手術も考慮する2,3).エキシマレーザーのある施設では適応があればlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術による矯正が有効である4).エキシマレーザーがなく,度数ずれの程度が大きい場合は,IOLを交換する.IOLを交換する場合には惹起乱視により,術後裸眼視力が低下しないように,切開位置や創の縫合などに留意する.筆者らは,多焦点IOL挿入患者の場合,術後の球面誤差は±0.5D以内を目標とすべきであると考えている.乱視への対処法術後乱視は裸眼視力に影響し,特に倒乱視は0.5Dを超えると,視力が良好であっても患者が見えにくさを訴えることがある.エキシマレーザーをもつ施設では,LASIKなどの屈折矯正手術が有効である4).エキシマレーザーがないなどの場合は,輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)が有効である5)との報告もある.治療時期多焦点IOLは遠近2つの像が同時に網膜上に映るいわゆる同時視型であり,多焦点IOLが視機能の最大のポテンシャルを発揮するためには数カ月必要である6)こと,順応する能力とその期間は人によってさまざまで,トレーニングにより増強される7)と報告されている.順応するまでの間は,残余屈折異常の影響がなくても,近方視力が不良であったり,見え方に違和感を覚えたりすることがあるので,残余屈折異常の度数が小さく,患者の不満の程度が軽ければ,しばらく経過観察をする.逆に残余屈折異常を眼鏡矯正することにより,遠近の視力が明らかに向上し,自覚的な見え方も改善するのであれば,インフォームド・コンセントのうえで術後の追加治療を考慮する.特に治療としてLASIKを選択する場合は,術後屈折の安定とフラップ作製時の眼球圧迫に耐えうる白内障手術の切開創閉鎖のため,多焦点IOL挿入術後3カ月以上経過してからLASIKを行うという報告がある8,9).筆者らの施設は,原則として術後3カ月間は保存的な経過観察期間をとるようにしている.(91)●連載⑲多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子19.多焦点眼内レンズの度数ずれ鳥居秀成根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科多焦点眼内レンズ挿入術後の度数ずれ(残余屈折異常)は不満の主原因となりえる.対処法としては,眼鏡やコンタクトレンズによる保存的治療と,眼内レンズ交換,輪部減張切開術,エキシマレーザー手術などの観血的治療がある.観血的治療は,術後屈折の安定や多焦点機構順応期間も考慮して術後しばらく経過観察してから行うべきである.996あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011症例表1に,多焦点IOL挿入後の度数ずれに対しLASIKを行った当科の代表症例を示す.LASIK術後の高い満足度が得られた.トポグラフィ(図1)でLASIK術後角膜乱視が軽減していることがわかる.文献1)WoodwardMA,RandlemanJB,StultingRD:Dissatisfactionaftermultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:992-997,20092)根岸一乃:【多焦点眼内レンズ】特性と合併症への対処.眼科52:773-777,20103)根岸一乃:【新しい時代の白内障手術】高機能眼内レンズ高機能レンズ時代のインフォームド・コンセント.臨眼64(増刊):204-210,20104)MuftuogluO,PrasherP,ChuCetal:Laserinsituker-(92)atomileusisforresidualrefractiveerrorsafterapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:1063-1071,20095)MuftuogluO,DaoL,CavanaghHDetal:Limbalrelaxingincisionsatthetimeofapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantationtoreduceastigmatismwithorwithoutsubsequentlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg36:456-464,20106)KaymakH,FahleM,OttGetal:IntraindividualcomparisonoftheeffectoftrainingonvisualperformancewithReSTORandTecnisdiffractivemultifocalIOLs.JRefractSurg24:287-293,20087)PeposeJS:Maximizingsatisfactionwithpresbyopia-correctingintraocularlenses:themissinglinks.AmJOphthalmol146:641-648,20088)ビッセン宮島弘子:【多焦点眼内レンズ】多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,20089)中村邦彦:【新しい時代の白内障手術】高機能眼内レンズ屈折誤差への対応球面度数と乱視両方のずれ.臨眼64(増刊):196-203,2010☆☆☆表1代表症例(56歳,男性)IOL術前視力(多焦点IOL挿入3カ月後)目標矯正量LASIK後視力(1カ月後)右眼AMOZMA00遠方VD=1.0(1.5×+0.75D(cyl?1.50DAx165°)近方VD=0.6(1.0×+0.75D(cyl?1.50DAx165°)+1.50D(cyl?1.50DAx170°遠方VD=1.6(2.0×+0.50D(cyl?1.00DAx45°)近方VD=1.0(n.c.)左眼AMOZMA00遠方VS=0.8(1.5×+0.50D(cyl?1.25DAx175°)近方VS=0.9(1.0×+0.50D(cyl?1.25DAx175°)+0.50D(cyl?1.25DAx175°遠方VS=1.6(n.c.)近方VS=1.0(n.c.)図1代表症例のトポグラフィA:LASIK術前,B:LASIK術後.LASIK術後角膜乱視が軽減していることがわかる.AB

眼内レンズ:半円式CCC マーカー

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119930910-1810/11/\100/頁/JCOPY白内障手術は近年劇的に進歩してきている.混濁した水晶体を摘出する開眼手術の時代は終わりを告げ,より人体に近い状態にするためにマルチフォーカル眼内レンズや屈折矯正の意味合いをもつトーリック眼内レンズ,そして近年では調節力眼内レンズなどさまざまな眼内レンズが登場している.眼内レンズの付加機能を最大限に活用するためには眼内レンズの安定性と後発白内障の予防が最も重要であることはいうまでもない.これらの条件を満たすためには白内障手術時におけるcontinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)は非常に重要な意味をもつ.眼内レンズのシャープエッジが後発白内障予防に有効であることが報告されている1)が,シャープエッジの効果を最大限に引き出すためにはCCCの大きさと形が重要である.近年ではフェムトセカンドレーザーによりCCCを作製するという方法も報告されてきているが,まだまだ発展途上であり普及するまではしばらく時間を要するであろうと思われる.CCCを作製する際に,正確な大きさと形を規定するには経験的な部分に頼ることが多いが,極大散瞳症例などはCCCの大きさをイメージしにくい場合がある.そ(89)のため,適切なCCCを作るためには作製前のマーキングが有効であると考えられる.現在,市販されているCCCマーカーで頻用されているのは角膜にマーキングをするものである2)が,角膜へのマーキングは前房深度や角膜形状の違いにより実際に水晶体にできる大きさとは異なる.また,CCCを作製する際に眼球が動くことにより水晶体へのトレースがしにくい場合もある.そして,角膜への染色はその後の操作に多少なりとも透見性の低下などのやりにくさを感じることもある.これらの問題を解決するには水晶体へのマーキングが最善であると考えられる.過去の報告ではPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のリングを水晶体表面に留置しながらCCCを作製する方法がある3,4)が,手技が煩雑であり,またPMMA製であるために使い捨てであり,一般的に用いるのはなかなか困難である.そこで,筆者らは前房内で6mm前後の円をマーキングするためには半円を2つ組み合わせることで可能であろうと考えた.半円であれば小切開からでも器具の挿入が容易であり,手技も煩雑でない.まず,3時方向のサイドポートからヒーロンVTMを鈴木久晴*1志和利彦*2小原澤英彰*1高橋浩*2*1日本医科大学武蔵小杉病院・眼科*2日本医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎299.半円式CCCマーカーContinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)は現在の水晶体再建術では非常に重要な部分を占めている.マーカーはCCCの正確な大きさと形を規定するために有効であるが,現在使用されているものは角膜へマーキングするものが主流である.筆者らは,半円を2つ組み合わせることで水晶体上に直接マーキングができる器具を開発したので,その使用法と経験を報告する.図1半円を水晶体面に押し付ける.図2もう一方の半円を水晶体面へ押し付ける.図3前?鑷子にてCCCを作製する.注入後,2.8mmの強角膜切開創を作製し,半円式のCCCマーカーの水晶体に接触する面のみにピオクタニンを塗布し,軽く乾燥させた後に前房内に挿入する.水晶体上に半円をマーキングした(図1)のちに,器具の反対側についたもう一方の半円により同様にマーキングし(図2),2つの円を組み合わせることにより円を作製する.その後,前?鑷子を用いてCCCを作製する(図3).ピオクタニンを塗布後に軽く乾燥させる理由は,器具の挿入時に切開創で色素が取れてしまう場合があるからである.ただし,ピオクタニンによる前?の染色が不完全であっても,水晶体へある程度圧痕ができるという点と,CCC作製直前に散瞳した虹彩と,CCCの大きさの関係をイメージすることができるため,適切なCCCを作製する際に有効であると考える.現在まで,筆者らは5.5mmと6mmの半円式CCCマーカーを使用しているが,全例でCCCは眼内レンズに対してcompletecoverとなりCCCの大きさも適切なサイズとなっている.5.5mmの半円式CCCマーカーは染色もしくは圧痕上をトレースするようにCCCを作製していく.この際に水晶体への圧痕がある程度維持できている場合は,CCCの切開線がその溝に落ち込むような感覚でCCCのラインを作製することができる.また,6mmのマーカーの場合はマーキングのやや内側を狙ってCCCを作製していく.現在では,当施設では2.8mm強角膜切開を中心に手術をしているが,2.4mmの切開創において5.5mmのマーカーが挿入可能であることも確認している.最後に半円式CCCマーカーの使用上のコツであるが,半円の外側を切開創の端に沿うような形で挿入していくと容易に挿入できる.また,取り出す際に多少切開創に引っ掛かる感覚があっても,あわてずに左右にゆっくりと振りながら引いてくると容易に取り出すことができる.そして,使用する粘弾性物質はヒーロンVTMなどの眼内滞留性の優れたものを使用することをお勧めする.文献1)NishiO,NishiK,WickstromK:Preventinglensepithelialcellmigrationusingintraocularlenseswithsharprectangularedges.JCataractRefractSurg26:1543-1549,20002)WallaceRBIII:Capsulotomydiametermark.JCataractRefractSurg29:1866-1868,20033)JasinskasV,GaldikasA,ZemaitieneR:Novelcapsulotomydiametermarkingcapability.JCataractRefractSurg31:1675,20054)TassignonM-J,RozemaJJ,GobinL:Ring-shapedcaliperforbetteranteriorcapsulorhexissizingandcentration.JCataractRefractSurg32:1253-1255,2006

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ処方前検査 ─眼瞼形状などの検査はここまで必要

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119910910-1810/11/\100/頁/JCOPYコンタクトレンズのフィッティングには,角膜や結膜の形状だけでなく,眼瞼の形状や,瞼裂幅,眼瞼圧,瞬目の状態などが影響する.検査は視診となる.診察室に入ってきた患者の眼をしっかりと観察し,レンズの選択を考える必要がある.①瞼裂幅瞼裂幅が大きい場合は,角膜径も大きいことが多く,大きな直径のレンズを選択する.逆に瞼裂幅が小さい場合は,角膜径も小さいことが多く,小さな直径のレンズを選択する.②眼瞼形状上がり目(つり目)ではレンズが内方へ回旋しやすくなり,下がり目(たれ目)ではレンズが外方へ回旋しやすくなる.正面視で下方球結膜が露出している,いわゆる下三白眼(図1)では,レンズが下方へ偏位しやすくなる.大きな直径のレンズを選択するなどの工夫が必要である.③眼瞼の厚み上眼瞼が厚く,上眼瞼を反転するとき,抵抗が強いような症例では眼瞼圧が高い.このような症例では,上眼(87)瞼がレンズをくわえ込んでレンズが上方に偏位しやすいので,センタリングがむずかしい.また,上方のエッジ部が圧迫されやすいので,角結膜に圧痕が付かないよう,特に上方の観察を注意深く行う.標準の直径のレンズで上手くいかないときには,直径,ベースカーブに工夫が必要で,トライ&エラーで行う.逆に,下眼瞼が厚く,張り出しが強い症例では,レンズのエッジが眼瞼を刺激しやすく,異物感が出やすくなるため,小さめの直径のレンズを選択する.④瞬目の状態瞬目が少ない,あるいは瞬目が浅い状態では,レンズが乾燥しやすく,レンズの静止位置(レストポジション)が偏位したまま,固着する場合がある.意識的に,深い瞬目をしっかりするように指導し,場合によっては,人工涙液の点眼を併用する.眼瞼の厚みや形状によっては,直径やベースカーブを工夫しても,レンズの静止位置が上方に偏位する場合や,逆に下方に偏位して,固着する場合も多い.サンコンタクトレンズ社では,レンズ調整によってコンタクトレンズの静止位置を安定させるよう,自社レンズを加工するサービスがある.また,カスタムレンズのオーダーの際には,眼瞼の形状に関する情報を送り,そのデータを参考にレンズが作製される.【レンズが下方偏位する場合】MZ加工:レンズ前面の周辺部に,リング状の溝加工をすることにより,レンズの表面と上眼瞼との涙液メニスカスを増すことで,レンズを上方へ引き上げやすくする.ただし,場合によっては異物感を感じたり,溝の部分に汚れが付きやすくなるので,注意が必要である(図2,3).【レンズが上方偏位する場合】フロントカット:レンズ前面のフロントベベルを薄く加工することで,上眼瞼の,レンズのくわえ込みによる月山純子医療法人博寿会山本病院眼科/近畿大学医学部眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】325.コンタクトレンズ処方前検査─眼瞼形状などの検査はここまで必要図1下三白眼レンズが下方に偏位しやすい.992あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(00)影響を少なくし,上方への引き上げを抑える(図4,5).(図2?5はサンコンタクトレンズ社より提供.)図4上眼瞼のくわえ込みにより,レンズが上方に偏位する場合(左)フロントカット後(右).フロントカットの施行で,上眼瞼のくわえ込みを少なくすることにより,レンズの静止位置が中央で安定.図2レンズが下方に偏位する場合(左)MZ加工後(右).MZ加工により,レンズの静止位置が中央で安定.図3MZ加工周辺部のレンズ前面に溝を入れる.エッジエッジリフトフロントベベルIC内面非球面ベベルフロントカーブベースカーブIC=IntermediatecurvePC=PeripheralcurvePC図5フロントカットフロントベベルの厚みを薄くする.エッジエッジリフトフロントベベルPCIC内面非球面ベベルフロントカーブベースカーブIC=IntermediatecurvePC=Peripheralcurve

写真:関節リウマチの化学療法中にみられた虹彩悪性リンパ腫

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119890910-1810/11/\100/頁/JCOPY(85)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦326.関節リウマチの化学療法中にみられた虹彩悪性リンパ腫西田雅宏*1山口昌彦*2*1愛媛県立中央病院眼科*2愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)図1虹彩悪性リンパ腫の初診時前眼部所見(49歳,女性)4時から8時にかけて著明な虹彩の膨隆がみられ,無数の角膜後面沈着物が認められる.下方の前房はほぼ消失し瞳孔の変形と偏位が生じている.①②④③図2図1のシェーマ①:瞳孔の変形・偏位.②:角膜後面沈着物.③:前房消失.④:虹彩膨隆.図3前眼部OCT(光干渉断層計)所見7時の断面で,二峰性の著明な虹彩腫瘤がみられ,周辺部側は角膜内皮と接触している.図4図1の治療後13カ月の前眼部所見麻痺性散瞳は残っているが,虹彩は平坦化し再発は認められない.990あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(00)眼内悪性リンパ腫は原発性と続発性に分けられ,原発性は中枢神経悪性リンパ腫の一亜型で,後眼部を中心とした硝子体網膜に病巣を形成しやすく,仮面症候群と称されてぶどう膜炎との鑑別がしばしば問題になる.続発性は全身悪性リンパ腫からの転移で,前眼部を中心としたぶどう膜に病巣を形成しやすいといわれている1)が,虹彩に転移した報告はまれである2).症例は49歳の女性.関節リウマチ(RA)に対して,メトトレキサート(MTX,リウマトレックスR)内服と2カ月ごとにインフリキシマブ(レミケードR)の点滴治療を受けていた.産婦人科で子宮悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)のため子宮全摘術を受けたが,その約3カ月後,左眼に角膜後面沈着物と前房内細胞2+を認め,近医でステロイド点眼による加療を受けたが軽快しないため当科受診となった.初診時(2010年2月17日),左眼角膜後面沈着物,前房内細胞,下方虹彩の隆起性病変を認め,前眼部OCT(光干渉断層計)で7時部の虹彩腫瘤とUBM(超音波生体顕微鏡)で毛様体病変を確認できた(図1).前房水の病理学的検索にて腫瘍細胞は認められなかったが,PET-CT(陽電子放射物断層撮影-コンピュータ断層撮影)で左眼前眼部の集積,前房水のインターロイキン(IL)-10/IL-6比が31.86(IL-10=2,326pg/ml,IL-6=73pg/ml)と高値であり,病歴から考えて悪性リンパ腫の虹彩転移が強く疑われた.その後,患者側の事情により経過観察していたが,4月14日,腫瘤は増大し,視力(0.3)と低下してきたため,リツキシマブ(リツキサンR)による治療を計6クール施行した.治療後,虹彩腫瘤は速やかに縮小し,麻痺性散瞳は残存するものの,視力(1.5)に回復した(図3).近年,RAに対するMTX投与中にMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)が発症することが問題になっている.0.5?5年間(平均約3年間)の投与で発症するといわれており,通常の悪性リンパ腫と異なり,リンパ節外発症が40?50%で,病理学所見はびまん性大細胞型B細胞とHodgkinリンパ腫が多いとされている3).また,本症例ではMTXに加え,レミケードRも投与されていた.レミケードRはキメラ型抗腫瘍壊死因子a(TNFa)抗体でRA,クローン病などの治療に用いられている.眼科領域ではBehcet病のぶどう膜炎に適応がある.実際にレミケードR投与中に悪性リンパ腫などを発症した報告例があり3),発生頻度はリウマチ学会などで現在調査中である.近年,RAに対する化学療法の進歩にはめざましいものがあるが,本症例のように虹彩を含めたぶどう膜における悪性リンパ腫の発症があることも知っておく必要があると思われる.MTX-LPDの治療としては,MTXを中止すれば約30?40%自然退縮することがある4)が,臨床症状の改善が認められない場合は,リツキシマブなどによる化学療法の適応になる.文献1)安積淳:眼内リンパ腫.眼科プラクティス16:224-229,20072)松井敬子,鎌尾知行,安積淳:血管新生緑内障で初診した転移性眼内悪性リンパ腫の1例.日眼会誌109:434-439,20053)GaulardPetal:Otheriatrogenicimmunodeficiencyassociatedlymphoproliferativedisorders.WHOClassificationofTumoursofHaematopoieticandLymphoidTissues,p350-351,IARCPress,Lyon,20084)高橋恵美子:他の医原性免疫不全関連リンパ増殖異常症.WHO血液腫瘍分類?WHO分類2008をうまく活用するために?,p549-552,医薬ジャーナル社,2010

総説:老視の定義と診断基準2010

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY伸長とともに,中高年齢者の良好な視力保持への期待も高まっている.情報化により社会の医療に対する要求や期待もより高いものとなりつつある.従来,老視は近用眼鏡,二重焦点レンズ,あるいは累進屈折力レンズで対処されてきた.現在ではそれらに加I老視の定義・診断基準作成の経緯手術手技の向上,医療器具の改良などにより,白内障手術ならびにレーザー角膜屈折矯正手術における屈折矯正の精度は急速に進歩してきた.同時に,寿命の急激な(81)985*TakeshiIde:南青山アイクリニック/慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井手武:〒107-0062東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニックあたらしい眼科28(7):985?988,2011c総説老視の定義と診断基準2010DefinitionandDiagnosticCriteriaofPresbyopia2010井手武*(老眼研究会**)**老眼研究会:不二門尚・前田直之(大阪大学),大鹿哲郎(筑波大学),ビッセン宮島弘子(東京歯科大学水道橋病院),黒坂大次郎(岩手医科大学),井手武・戸田郁子(南青山アイクリニック/慶應義塾大学),荒井宏幸(みなとみらいアイクリニック),岡本茂樹(岡本眼科クリニック),稗田牧(京都府立医科大学),魚里博(北里大学),根岸一乃・坪田一男(慶應義塾大学)(順不同)老視治療に対する医学的・社会的要求は高まりつつある.しかしながら現在,医師と患者,ならびに研究者間で議論するうえでの明確な定義,診断基準が定められていない.そこで,今後の患者説明や研究の統一性を考え,またわが国におけるこの分野の発展をより科学的に充実したものとするために,老視の定義と診断基準を検討し提案することとした.定義については“Age-RelatedLossofAccommodation”すなわち「加齢による調節幅の減退」とした.同時に,老視は近見視力向上の介入が必要な状態と考え疾患とした.診断基準は,患者の症状と診断との間に乖離を生じないよう,「臨床的老視」と,「医学的老視」の2つを作成した.前者は自覚症状を有し「40cm視力が0.4未満」.後者は,自覚症状と無関係に「片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満」とした.Althoughtheneedforpresbyopiacarehasincreased,asyetnocleardefinitionorcriteriahavebeenestablishedthatwouldenablediscussionofpresbyopiabetweenophthalmologistsandtheirpatients,orwithresearchers.Toalleviatethissituation,thePresbyopiaSocietyinJapansoughttoestablishaunifieddefinitionanddiagnosticcriteriaforpresbyopia.Ourgroupdefinespresbyopiaas“age-relatedlossofaccommodation.”Additionally,toavoiddiscrepanciesbetweenpatients’complaintsandthesecriteria,wedevelopedtwoseparatedefinitions:clinicalandmedicalpresbyopia.Bothassumethatthepatientisfreefromanydiseasesthatcouldaffectaccommodation,apartfromaging.Clinicalpresbyopiaisdefinedasbilateraldecimalnearvisionoflessthan0.4at40cm,withthepatient’scomplaint.Medicalpresbyopiaisdefinedasunilateralaccommodationoflessthan2.5diopters,regardlessofsubjectivecomplaints.Significantly,thisenablesthediagnosisofpresbyopiawithouttheneedforspecialinstrumentsortechniques.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):985?988,2011〕Keywords:老視,調節,定義,診断基準,近見視力.presbyopia,accommodation,definition,diagnosticcriteria,nearvision.986あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(82)えて,二重焦点コンタクトレンズ,伝導性角膜形成術(conductivekeratoplasty)などの角膜での治療や,多焦点眼内レンズ,調節型眼内レンズなどの水晶体での治療,あるいはモノビジョン法などが行われるようになってきた.さらに近年ではフェムト秒レーザーにより,角膜や水晶体に介入して老視を治療する概念なども導入され,さまざまな新しい老視治療への取り組みが始まっている1~5).眼科領域においては“TheLastMajorChallenge”という表現もされるほど,将来が期待される老視治療だが,「老視とは何か?」という基本的な考え方や,老視発症機序において大きな役割を占める調節の機構についてもいまだ諸説あり,見解の一致を得ていない6).老視の定義や診断基準でさえ専門家の合意を明確に得たものが存在しないなかで,診断・治療・研究が行われている現状である7).定義と診断基準が確立されない限り,治療の有効性を客観的に評価することはできない.また,眼科として統一見解がない状態では,施設や眼科医ごとに対応が異なり,患者に不安や不満を生じさせてしまう危惧さえある.このような経緯から,2008年に老眼研究会が設立され,議論の末,2010年6月の研究会において,老視の定義・診断基準について下記の内容で合意が得られた.本稿では,2010年11月時点での老眼研究会が提案する老視の定義・診断基準について説明する.II老視の定義・診断基準作成にあたっての留意点以下の点に留意して作成を行った.1.国際レベルを目指した老視の定義世界において,AmericanAcademyofOphthalmologyによる定義8)“Age-RelatedLossofAccommodation”など,いくつかの定義はみられるものの,国際的な合意を得た定義はいまだ存在していない.将来的に本研究会の定義が国際的にも受け入れられることを視野に入れて討議し,定義を作成することとした.2.診断基準における検査法老視の診断に用いる検査法として,瞳孔反応,毛様体筋の動きや,水晶体の位置などを観察できる機器など,さまざまな専門的方法が存在する.しかし,いかに優れた検査法であっても,限られた施設でしか行うことができなければ,疾患の性質上診断基準の価値をもたないと考え,今回の診断基準には,2010年時点で一般の眼科施設に普及している,あるいは入手可能な検査機器で行える検査法を用いることとした.さらに簡便法を追加して,広く一般の眼科施設において特殊機器を用いることなく診断できるように配慮した.今後,新たな検査法が進歩・普及すれば,診断基準における検査法の変更も随時検討していくことが望ましい.3.診断基準と閾値老視はこれまで,主訴や自覚的検査を元に診断がなされていた.そのため,個々の検査の感度・特異度は十分ではなく,再現性にも問題がある.汎用に使用されている調節幅や近見視力の閾値についても,これまで国際的に合意の得られた基準はない.本来は科学的根拠に基づいて定めるべきであるが,まずは本研究会で仮に定めることとした.今後の老視研究の進展によって閾値や基準は見直していく必要がある.III老視の定義と診断基準老眼研究会によって合意の得られた老視の定義は,「加齢による調節幅の減退(Age-RelatedLossofAccommodation)」である.眼科医の間ではこれで問題はないが,一般の人々には難解と考えられることから,一般社会に向けた定義として,「老視とは加齢によりはっきり見える範囲が狭くなった状態」と定めた.また,老視は対処しなければ日常生活に差し支える状態であり,何かしらの介入が必要であることから,疾患と考えることとした(表1).老視の診断基準に自覚症状を含めることは可能であるが,主訴のみ採用するのか,医師が質問するのか,あるいは問診表を使用するのかによって,自覚症状は左右されることが予測される.また,他覚的検査の結果が同一でも,自覚症状は患者ごとに異なる可能性があるが,まずは他覚的検査法のみで診断基準を暫定的に作成することとした.表1老視の定義加齢に伴って調節幅は減退する病態(Age-RelatedLossofAccommdation)老視は疾患である(83)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011987今回定めた診断基準は,若年性白内障や調節麻痺を惹起する疾患など加齢以外で調節が減退する疾患を有さず,矯正視力1.0以上を有する者において,通常の視力検査の照明条件下,片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満.もしくはアコモドメータなどを保有していない施設を考慮し,簡便法として片眼完全矯正下で40cm視力が0.4未満の条件を満たすものとした.この診断基準のポイントは,医学的老視の診断には調節幅を測定する必要があることを明確にし,簡便法として近見視力を採用した点である.なお,近見に40cmを用いているのは,欧米では16インチで近見距離を規定しており,これをcm換算すると40.6cmであることから,40cmと定めた9~11).加えて旧来の30cm近見視力表でも対応できるように換算表も提示することとした(表2).片眼完全矯正下で調節幅が減退しても,老視の自覚症状をもたない者もいる.そのような者に対して「あなたは困っていなくても老視だ」と診断するのは現実的でないとの見地から,表3のように「臨床的老視」の診断基準を別に設けることとした.大きな違いは,医学的老視は「片眼完全矯正下の検査で,自覚症状の有無に関係なく調節幅の減少を示す」,臨床的老視は「遠見に関して日常と同じ視力条件において,両眼検査で近見視力の低下を自覚症状として有する」ということである.このような,日常生活と同じ条件で測定した両眼遠見視力を生活視力と定義した.医学的老視には調節幅の測定が必要であるが,アコモドメータなどを保有していない施設を考慮し,簡便法として近見視力を設定した.しかし,医学的老視の診断基準には調節幅で判断するという根底が存在するので,簡便法で近見視力が基準を満たしていても,理論的に調節幅が狭い場合には医学的老視と診断する.以下に例を呈示する.白内障手術時に多焦点眼内レンズを挿入し,両眼での40cm近見視力が0.4以上,日常生活に満足している場合では,老視の自覚症状はなく,近見視力も0.4以上であるので臨床的老視ではない.しかし調節幅を上げているわけではないので医学的老視であることになる(簡便法で近見0.4以上だとしても理論的に調節力を上げているわけではないので医学的老視とする).つぎの例として,不同視,あるいは白内障手術やLASIK(laserinsitukeratomileusis)などによりモノビジョンの状態である場合,両眼での40cm近見視力0.4以上,日常生活に満足している患者では,自覚症状はなく視力も0.4以上であるので臨床的老視と診断されない.しかし片眼の調節幅が2.5D未満であれば医学的老視と診断される.IVまとめ本研究会において,老視の定義・診断基準を提案した.会員間で議論が分かれた点もあり,すべてにおいて完全合意がなされてはいないが,今回の定義と診断基準は世界の趨勢と矛盾せず,そのスタートラインとしての役割は十分に果たしうると考える.老視治療は今後急速に進み,普及していくものと予測される.臨床的老視と医学的老視の2つの診断基準,および医学的老視の診断基準における簡便法が,今後の老視研究の活性化に有意義なものとなることを期待する.表230cm視力表から40cm視力表における視力値換算表─30cmの近点視力表を40cmで使用したときの視力値─30cm視力表の視力40cm換算近見視力0.10.130.20.270.30.400.40.530.50.670.60.800.70.930.81.070.91.2011.331.21.601.52.0022.67表3医学的老視と臨床的老視医学的老視臨床的老視測定条件片眼完全矯正下両眼生活視力自覚症状有無は問わない近見視力障害有り診断基準調節幅2.5D未満*40cm視力0.4未満*医学的老視は基本は調節幅2.5D未満であるが,アコモドメータなどを有さない場合に簡便法として40cm視力0.4未満を用いてもよい.988あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(84)文献1)RuizLA,CepedaLM,FuentesVC:Intrastromalcorrectionofpresbyopiawithafemtosecondlasersystem.JRefractSurg25:847-854,20092)DuTT,FanVC,AsbellPA:Conductivekeratoplasty.CurrOpinOphthalmol18:334-337,20073)RehanyU,LandaE:Diodelaserthermalkeratoplastytocorrecthyperopia.JRefractSurg20:53-61,20044)AlioJL,ChaubardJJ,CalizAetal:CorrectionofpresbyopiabytechnovisioncentralmultifocalLASIK(presby-LASIK).JRefractSurg22:453-460,20065)ScottA:Accommodativeintraocularlensesforage-relatedcataracts.IssuesEmergHealthTechnol85:1-6,20066)GlasserA,KaufmanPL:Themechanismofaccommodationinprimates.Ophthalmology106:863-872,19997)TsubotaK,BoxerWachlerBS,AzarDTetal:HyperopiaandPresbyopia.MarcelDekkerInc.,NewYork,NY,20038)RefractiveErrors&RefractiveSurgeryPreferredPracticePattern.AmericanAcademyofOphthalmologyhttp://one.aao.org/ce/practiceguidelines/ppp_content.aspx?cid=e6930284-2c41-48d5-afd2-631dec586286(Accessed10thOct2010)9)http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/06/slides/2006-4225s1_08_VisionCare%20Presentation%20to%20Panel%20July%2014%202006.htm(Accessed10thOct2010)10)PetermeierK,GekelerF,SpitzerMSetal:ImplantationofthemultifocalReSTORapodiseddiffractiveintraocularlensinadultanisometropicpatientswithmildtomoderateamblyopia.BrJOphthalmol93:1296-1301,200911)PeposeJS:Maximizingsatisfactionwithpresbyopia-correctingintraocularlenses:themissinglinks.AmJOphthalmol146:641-648,2008☆☆☆

正常と紛らわしい網膜・黄斑ジストロフィの診断

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに視機能低下の病因は,細隙灯検査や眼底検査で一見して診断できるものから,種々の検査を行うことにより初めて診断にたどり着くものまでさまざまである.眼底所見が正常な患者の視機能低下の原因は,表1に示すように角膜,水晶体,硝子体,網膜,視神経,頭蓋内までのさまざまな異常から生じる可能性があり,筆者らはさまざまな検査によりその診断を行っている.このなかでも,眼底が一見正常に見える網膜・黄斑ジストロフィは診断に苦慮する疾患群といえる.本稿では,眼底正常な網膜疾患をどのように診断していくかを,検査のポイントと症例をあげながら述べる.I網膜疾患を疑う前に原因不明の視力低下との訴えで受診する患者を診察した際,網膜疾患を鑑別する前に他の網膜疾患以外を鑑別することが大切である.名古屋大学病院(以下,当院)でしばしば経験する疾患としては,若年者での円錐角膜,意外に多いのがスリットで見落としがちな核白内障である.前?下白内障や後?下白内障は診断に苦慮することは少ないが,核白内障は見落とされることもあるので注意したい.当院では,角膜不正乱視の影響や白内障の影響を他覚的に評価するために,ウェーブフロントアナライザーを用いて角膜形状測定および波面収差測定を行っている.視神経疾患,頭蓋内疾患は,最も網膜疾患との鑑別が必要となっ(71)975*ShinjiUeno:名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座〔別刷請求先〕上野真治:〒466-0065名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):975?984,2011正常と紛らわしい網膜・黄斑ジストロフィの診断DiagnosisofRetinalandMacularDystrophywithNormalFundus上野真治*表1眼底正常で原因不明の視力低下の鑑別1.前眼部中間透光体の異常円錐角膜白内障2.網膜の異常眼底正常な錐体ジストロフィMiyake病(occultmaculardystrophy)無色素性網膜色素変性眼底正常な杆体ジストロフィ眼底変化の認められない初期のStargardt病ビタミンA欠乏症AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)Cancerassociatedretinopathy(CAR:腫瘍関連網膜症)Melanomaassociatedretinopathy(MAR:メラノーマ関連網膜症)自己免疫網膜症杆体一色覚先天性停在性夜盲3.視神経疾患球後視神経炎虚血性視神経症常染色体優性視神経萎縮4.頭蓋内疾患,耳鼻科疾患下垂体腫瘍などの脳腫瘍脳梗塞鼻性視神経症5.その他弱視心因性視力障害詐盲976あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(72)し,黄斑部が障害されていなければ低下しない.すなわち視力が良い場合に網膜疾患が見落とされやすいことを考慮しておかなければいけない.視野検査は網膜障害の範囲を知るうえで重要な検査である.網膜変性が局所的な場合では,視野検査で障害部位を正確に知ることができる.障害が網膜全体にある場合は全体の感度低下をきたすが,Goldmann視野で評価する際,V-4のイソプターは比較的保たれていても,I-4のイソプターが狭くなることが多い.またGoldmann視野の検査条件では,錐体機能が正常な場合,杆体機能が障害されても異常が出にくい点にも注意しておきたい.色覚は錐体機能を評価する重要な検査法の一つであり,錐体ジストロフィや杆体一色覚などの疾患の鑑別に有用である.暗順応検査は杆体機能の経時変化を評価できるため,夜盲をきたす疾患の診断に有用である.3.造影検査,眼底自発蛍光蛍光眼底造影検査(FA)は網膜変性疾患では網膜色素上皮の萎縮をwindowdefectという形でとらえることが診断の根拠になるだけでなく,血流障害による網膜機能不全の鑑別にも役立つ.網脈絡膜の血流の充盈遅延や,網膜の無灌流領域がある糖尿病や動脈硬化性の全身疾患を有する患者において,眼動脈の閉塞などを鑑別できる.Stargardt病ではダークコロイドとよばれる脈絡膜の蛍光がブロックされる所見があり,初期のStargardt病にて眼底異常を示さない段階での診断に非常に有用となる(図1).最近,造影剤を使わない非侵襲的な検査として眼底自発蛍光を診断に利用する施設も増えてきている.この検査はおもに網膜色素上皮中のリポフスチンの発する蛍光の有無および多寡から網膜色素上皮の状態を推測するものである.通常の眼底検査ではとらえられない異常をとらえることができ,今後診断機器の一つとして有用なものになる可能性がある(図2).Adaptiveopticsを用いた視細胞形態の評価なども将来的に有用な検査となる可能性がある.4.OCTOCTは網膜・黄斑ジストロフィの診断には必須の検てくる.網膜疾患は診療機器の進歩により現在ではほとんどの場合において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)やERG(網膜電図)などを組み合わせて異常を検出することができるため,これらの検査を用いた除外診断と,瞳孔反応,視野,限界フリッカ値などの一般検査,MRI(磁気共鳴画像)などの画像所見,VEP(視覚誘発電位)を用いた電気生理検査,Leber病や優性視神経萎縮などでは遺伝子検査などを活用して視神経疾患,頭蓋内疾患の診断をしている.II網膜疾患診断のための検査1.問診患者を診察する前に問診を行うが,この問診でさまざまな重要な情報を得ることができる.まず問診では,視機能障害が停在性か進行性か,またその進行が急激なのか緩徐なのかを確実に聴取する.急激な発症の場合はAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)やCAR(cancer-associatedretinopathy)などの疾患を考慮しなくてはいけない.発症の好発年齢が疾患によって異なるので発症時期がいつ頃からかということも診断の一つのポイントになる.遺伝性網膜疾患を疑う場合は,家族歴の聴取が大切である.たとえばoccultmaculardystrophy(Miyake病)などでは,症状が軽微な患者が家系にいることもあり,疑わしい症例は検査に来ていただくことも必要である.停在性夜盲などの伴性劣性遺伝の多い疾患では,家族歴などを聴取することにより診断がつきやすくなる.また,杆体系の異常がある場合は夜盲を訴え,錐体系の異常の場合には昼盲や色覚の異常を訴えるので,これらは問診の際の重要なポイントである.糖尿病や膠原病などの全身疾患の有無は,視機能障害の原因が虚血や炎症などのよるものか鑑別となりうる.消化管の手術を受けた患者はビタミンAの欠乏に注意しなければいけない.また,ジギタリスやクロロキンなど投薬によっても網膜機能障害を生じるため,どのような投薬を受けているかも把握しておく必要がある.2.視力,視野,色覚,暗順応検査網膜疾患において,視力は黄斑部が障害されれば低下(73)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011977できる.Occultmaculardystrophy(Miyake病)など,元来は眼底が正常で局所ERGでしか診断ができないといわれていた疾患も,最近のOCTではCOSTラインやIS/OSラインとよばれるレベルでほとんどの症例において異常が認められることが報告されている(図3B)1,2).中心窩のわずかな形態異常の場合,局所ERGでは異常をとらえられないが,OCTではとらえられるような疾患もみ査機器となっている.OCTの解像度が近年著しく改善され,わずかな構造の異常もとらえられるようになっている.図3AにZeiss社製のCirrusOCTで記録した正常者のOCT画像を示す.視細胞-色素上皮レベルでは,外境界膜(ELM),視細胞内節外節境界(IS/OS),錐体外節先端(coneoutersegmenttip:COST),網膜色素上皮(RPE)というような微細な構造物をとらえることがabcd図1Stargardt病の10歳,女児視力:右眼矯正0.6,左眼矯正0.4.a,b:眼底所見はわずかに黄斑部の反射の異常を認めるのみ.c,d:FAでは脈絡膜の蛍光がブロックされたdarkchoroidとよばれる所見がStargardt病の特徴である.また黄斑部には網膜色素上皮萎縮に伴うwindowdefectがみられる.ab図2視力低下にて受診した9歳,男児眼底自発蛍光検査にて黄斑部の異常がみられる.視力両眼矯正0.4.a:眼底はほぼ正常所見.b:萎縮した黄斑部に一致して,低蛍光領域の拡大と斑状の過蛍光がみられる.978あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(74)方法の他に,より精密に杆体系と錐体系の機能を分離して評価する方法がある3).局所ERGを記録する方法にはおもに2つの方法があり,三宅らによって開発された局所ERG4)と米国のSutterら5)が開発した多局所ERGのシステムがある.ERGは眼底に異常のない網膜,黄斑ジストロフィの診断のカギとなる検査なのでここでは,普通のERG,国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV)プロトコールに従った杆体と錐体系を分離したERG,局所ERGにつき少し詳述させていただく.a.暗順応下の強いフラッシュ刺激によるERG最も重要で診断的価値の高いERGで,トーメー社製のフラッシュERGが一般的で多くの施設で利用されている.眼科臨床に最もよく用いられる応答であり,通常ERGといえばこの反応のことを意味する場合が多い.暗順応後に,カメラのストロボのような強いフラッシュ刺激もしくはLED(発光ダイオード)内蔵電極の場合はコンタクトレンズ自体が発光し,網膜の最大電気反応を記録するERGである.これによって得られる反応は錐体系と杆体系の混合反応である.ただ,網膜は杆体系の細胞が錐体系の細胞の数よりも圧倒的に多いので,正常の反応の場合,ほとんどが杆体系の記録である.この方法で記録されるERGでは,陰性波のa波,それに続く陽性波のb波,それにb波の上行脚にみられる律動用小波,の3つの成分が評価の対象となる.a波の起源は視細胞,b波の起源はおもに双極細胞であり,律動様小波の起源は網膜内網状層付近(アマクリン細胞など)と考えられている.この反応には網膜神経節細胞の電位はほとんど含まれていないので,視神経疾患ではこのERGでの異常は基本的に認められない.網膜色素変性のように視細胞レベルで障害が著しい場合は,ERGが著しく減弱したり,すべての成分が消失して消失型となる.遺伝性網膜疾患で覚えておくべき波形は,a波の振幅は正常だがb波の振幅がa波より小さくなる陰性型(negative-type)で,疾患には,先天停在性夜盲,先天網膜分離症などがある.欠点としては,局所的な異常はとらえられないこと,錐体にのみ異常がある場合にはこのERGでは異常がとらえきれない場合もあるということである.つかってきている.緑内障や視神経疾患において網膜視神経線維や網膜神経節細胞層の厚みが変化することが知られており,網膜疾患と視神経疾患の鑑別にも有用である.5.ERGERGは,眼科臨床においてさまざまな網膜疾患の診断に有用であるが,特に網膜ジストロフィの診断には必須の検査である.網膜ジストロフィには錐体ジストロフィや杆体ジストロフィなど錐体と杆体が分離して変性するもの,黄斑変性などの一部が変性するものなどがある.ERGは杆体や錐体の機能を区別して評価でき,局所ERGなどでは網膜の部位別の機能が評価をすることにより網膜ジストロフィの正しい診断が行える.ERGにはいくつかの記録法があるが,網膜全体から発生する電位を記録する,いわゆる全視野ERG(full-fieldERG)と,網膜の局所の電位を記録する局所ERGや多局所ERGに区別される.全視野ERGは,一般臨床でよく用いられている暗順応後にフラッシュ刺激にて記録されるabcdABef図3Zeiss社製のCirrusOCTで記録した正常者のOCT(A)とMiyake病の患者のOCT(B)a:ELM(外境界膜),b:IS/OS(視細胞内節外節境界),c:COST(coneoutersegmenttip,錐体外節先端),d:RPE(網膜色素上皮).e:Miyake病の患者では,ELMとIS/OSが中心で不明瞭となっている.f:COSTとRPEは一体化している.(75)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011979いような速い点滅光刺激を使用して記録した応答である.30Hz付近の刺激周波数が推奨されている.c.局所ERG全視野ERGで異常が認められない場合,黄斑などに限局した機能障害が存在するかを見きわめる大切な検査である.特にMiyake病やAZOORなどの眼底所見がほぼ正常の疾患で網膜の局所が障害される疾患の診断には不可欠である.OCTの結果と照らし合わせることで,機能と形態の両方を評価でき非常に有用な検査である.現在臨床では,局所ERGと多局所ERGの2つの記録法がある.1)局所ERG眼底を赤外線カメラで観察しながら目的とする部位を確実に刺激できるだけでなく,錐体ERGのa波,b波,律動揺小波などの全成分の記録ができる.固視不良の患者にもモニターを見ながら刺激部位を合わせることができ,信頼のおける反応が得られる6).局所ERGの反応は背景光をつけた状態で記録しており錐体の機能を評価している.2)多局所ERG多局所ERGの刺激には,TVモニターの多数の六角形が使われる(図5a).この六角形は検査中に,ランダb.錐体系と杆体系の分離記録網膜変性には杆体優位に異常が生じる場合,逆に錐体優位に異常が生じる場合がある.このような場合には,杆体系と錐体系の機能を分離して評価しなければならない.そのため,ISCEVでは,これらの反応を記録するための推奨刺激条件を定めている3)(ISCEVStandardERG).これらのERGは,トーメー社から現在発売されているERG装置で記録可能である(図4).1)杆体応答暗順応後に,弱い光刺激を用いて記録する応答である.錐体は反応せず,杆体系細胞のみが反応するために,この条件で杆体応答のみを分離することができる.2)杆体-錐体混合(最大)応答暗順応後に,強めの光刺激を網膜に照射して記録する応答である.この条件で記録されるERGは,上に述べた「強いフラッシュ刺激によるERG」と基本的に同じ波形をしている.3)錐体応答錐体の応答だけを記録するために背景光をつけて杆体を抑制して記録したERGである.4)30HzフリッカERG錐体の応答だけを記録するために,杆体が追従できな1342図4トーメー社製LE4000にて記録した杆体系と錐体系のERG1:杆体反応,2:50cd・s・m?2で記録した最大応答,3:錐体応答,4:30HzフリッカERG.980あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(76)主訴:両眼の視力低下.眼病歴:徐々に進行する両眼の視力障害のため近医眼科受診.強いフラッシュ刺激によるERGにて反応が減弱しており精査目的で当院受診.仕事は運転手だが,仕事,普段の生活でも大きな問題を感じてはいない.夜は少し苦手と以前から感じていた,昼盲はない.ビタミンAを含む採血データに異常は認められず,全身状態に問題はなかった.既往歴:家族歴に特記すべきものなし.視力:両眼矯正1.0.細隙灯所見:軽度の白内障を認めるのみ.眼底所見・蛍光眼底造影:明らかな異常を認めないムに白か黒のどちらかに変化する.各局所ERGは相互相関という数学的手法により抽出される.多局所ERGのメリットは,短時間に網膜の多数の部位の反応を記録できる点である.表示は各部位の個々のERG波形とトポグラフィが示され,振幅の異常をわかりやすくしてある.AZOORやMiyake病のような網膜の局所的な障害を呈する疾患の診断に適している(図5d,e).III眼底正常な網膜ジストロフィの症例最後に症例を2例提示する.〔症例1〕59歳,女性.右眼左眼100ms100ms200nV200nVabcde1μV100ms図5正常者とAZOOR患者の多局所ERGa:VERISによる103点の刺激条件.b:正常者の多局所ERGの波形.c:bのトポグラフィ.d:両眼の中心型のAZOORの患者の多局所ERGの波形.両眼の中心の振幅が減弱している.e:dのトポグラフィ.(77)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011981abcd図6症例1の所見a,b:右眼,左眼の眼底写真.c,d:蛍光眼底造影.眼底,蛍光眼底造影では大きな異常はない.e:網膜全体の菲薄化と周辺部でのIS-OSを含む視細胞レベルで異常所見を認めた(→).eILMRPE982あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(図6a?d).OCT:網膜全体の菲薄化と周辺部でのIS-OSを含む視細胞レベルで異常所見を認めた(図6e).Goldmann視野:ほぼ正常(図6f).ERG:ISCEVプロトコールのERG.杆体はほぼ消失,杆体-錐体混合(最大)応答では緩やかな陰性波が認められるのみで大幅に減弱していた.錐体機能を評価する錐体応答と30HzフリッカERGは振幅は低下しているものの杆体ERGに比較して残存していた(図6g).黄斑部局所ERG:黄斑部の局所ERGは正常下限であった(図6h).診断:視力や視野検査,眼底検査では異常をとらえることができない.OCTより視細胞の障害をきたしており,眼底に異常のない網膜変性疾患であることがわかる.ERGの結果より,杆体系が錐体系より優位に障害されている.黄斑部局所ERGは保たれており,黄斑部の視機能がよく視力が維持されている.杆体-錐体ジストロフィと診断し,現在も経過観察中である.(78)????????????????????????????????????????????????????????????f????????gh(図6つづき)f:Goldmann視野計では明らかな異常は認められない.g:杆体と錐体を分離したERG記録(トーメー社製LE2000).杆体系のERGである杆体反応(1),最大応答(2)振幅が著しく減弱しているのに対し,錐体系のERGである錐体応答(3)と30HzフリッカERG(4)は振幅が正常の半分ほどの減弱にとどまっている.h:黄斑部局所ERGの反応は正常範囲内であった.(79)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011983abcdea,b:右眼,左眼の眼底写真.c,d:蛍光眼底造影.眼底,蛍光眼底造影では大きな異常はない.e:COSTとRPEが一体化している.杆体応答30HzフリッカNormalPatient最大応答錐体応答100μV50ms200μV25ms100μV25ms25μV25msff:杆体と錐体を分離したERG記録(全視野ドームを使用).杆体系のERGである杆体反応,最大応答は,ほぼ正常.錐体系のERGである錐体応答と30Hzフリッカは振幅が大幅に減弱している.図7症例2の所見984あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011〔症例2〕62歳,女性.主訴:視野異常,昼盲.現病歴:中心に近い視野が欠損しており,明所ではものが見にくいことを自覚し近医受診.ERGにて異常を認めたため当院紹介となる.視力:両眼矯正1.0.Humphrey視野にて全体的な感度低下.細隙灯所見:軽度の白内障を認めるのみ.眼底所見:正常で蛍光眼底造影検査も異常を認めなかった(図7a?d).OCT:COSTとRPEが一体化している(図7e).ERG:ISCEVプロトコールのERGでは杆体と,杆体-錐体混合(最大)応答は正常反応であった.錐体機能を評価する錐体応答と30HzフリッカERGは消失していた.局所ERGも平坦型であった(図7f).診断:眼底正常の錐体ジストロフィ.この疾患は杆体機能と錐体機能を分離して反応を記録することによって診断できる疾患である.通常,錐体ジストロフィは黄斑変性をきたし視力が低下するが,この症例のように眼底が正常で,中心窩の錐体細胞の形態が保たれていて視力が良好な症例もある.文献1)KondoM,ItoY,UenoSetal:Fovealthicknessinoccultmaculardystrophy.AmJOphthalmol135:725-728,20032)ParkSJ,WooSJ,ParkKHetal:Morphologicphotoreceptorabnormalityinoccultmaculardystrophyonspectraldomainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:3673-3679,20103)MarmorMF,FultonAB,HolderGEetal:ISCEVStandardforfull-fieldclinicalelectroretinography(2008update).DocOphthalmol118:69-77,20094)MiyakeY,ShiroyamaN,OtaIetal:Localmacularelectroretinographicresponsesinidiopathiccentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol106:546-550,19885)SutterEE,TranD:ThefieldtopographyofERGcomponentsinman─I.Thephotopicluminanceresponse.VisionRes32:433-446,19926)三宅養三:黄斑部疾患の基礎と臨床.黄斑部局所ERGの研究.日眼会誌92:1419-1449,1988(80)