0910-1810/11/\100/頁/JCOPY伸長とともに,中高年齢者の良好な視力保持への期待も高まっている.情報化により社会の医療に対する要求や期待もより高いものとなりつつある.従来,老視は近用眼鏡,二重焦点レンズ,あるいは累進屈折力レンズで対処されてきた.現在ではそれらに加I老視の定義・診断基準作成の経緯手術手技の向上,医療器具の改良などにより,白内障手術ならびにレーザー角膜屈折矯正手術における屈折矯正の精度は急速に進歩してきた.同時に,寿命の急激な(81)985*TakeshiIde:南青山アイクリニック/慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井手武:〒107-0062東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニックあたらしい眼科28(7):985?988,2011c総説老視の定義と診断基準2010DefinitionandDiagnosticCriteriaofPresbyopia2010井手武*(老眼研究会**)**老眼研究会:不二門尚・前田直之(大阪大学),大鹿哲郎(筑波大学),ビッセン宮島弘子(東京歯科大学水道橋病院),黒坂大次郎(岩手医科大学),井手武・戸田郁子(南青山アイクリニック/慶應義塾大学),荒井宏幸(みなとみらいアイクリニック),岡本茂樹(岡本眼科クリニック),稗田牧(京都府立医科大学),魚里博(北里大学),根岸一乃・坪田一男(慶應義塾大学)(順不同)老視治療に対する医学的・社会的要求は高まりつつある.しかしながら現在,医師と患者,ならびに研究者間で議論するうえでの明確な定義,診断基準が定められていない.そこで,今後の患者説明や研究の統一性を考え,またわが国におけるこの分野の発展をより科学的に充実したものとするために,老視の定義と診断基準を検討し提案することとした.定義については“Age-RelatedLossofAccommodation”すなわち「加齢による調節幅の減退」とした.同時に,老視は近見視力向上の介入が必要な状態と考え疾患とした.診断基準は,患者の症状と診断との間に乖離を生じないよう,「臨床的老視」と,「医学的老視」の2つを作成した.前者は自覚症状を有し「40cm視力が0.4未満」.後者は,自覚症状と無関係に「片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満」とした.Althoughtheneedforpresbyopiacarehasincreased,asyetnocleardefinitionorcriteriahavebeenestablishedthatwouldenablediscussionofpresbyopiabetweenophthalmologistsandtheirpatients,orwithresearchers.Toalleviatethissituation,thePresbyopiaSocietyinJapansoughttoestablishaunifieddefinitionanddiagnosticcriteriaforpresbyopia.Ourgroupdefinespresbyopiaas“age-relatedlossofaccommodation.”Additionally,toavoiddiscrepanciesbetweenpatients’complaintsandthesecriteria,wedevelopedtwoseparatedefinitions:clinicalandmedicalpresbyopia.Bothassumethatthepatientisfreefromanydiseasesthatcouldaffectaccommodation,apartfromaging.Clinicalpresbyopiaisdefinedasbilateraldecimalnearvisionoflessthan0.4at40cm,withthepatient’scomplaint.Medicalpresbyopiaisdefinedasunilateralaccommodationoflessthan2.5diopters,regardlessofsubjectivecomplaints.Significantly,thisenablesthediagnosisofpresbyopiawithouttheneedforspecialinstrumentsortechniques.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):985?988,2011〕Keywords:老視,調節,定義,診断基準,近見視力.presbyopia,accommodation,definition,diagnosticcriteria,nearvision.986あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(82)えて,二重焦点コンタクトレンズ,伝導性角膜形成術(conductivekeratoplasty)などの角膜での治療や,多焦点眼内レンズ,調節型眼内レンズなどの水晶体での治療,あるいはモノビジョン法などが行われるようになってきた.さらに近年ではフェムト秒レーザーにより,角膜や水晶体に介入して老視を治療する概念なども導入され,さまざまな新しい老視治療への取り組みが始まっている1~5).眼科領域においては“TheLastMajorChallenge”という表現もされるほど,将来が期待される老視治療だが,「老視とは何か?」という基本的な考え方や,老視発症機序において大きな役割を占める調節の機構についてもいまだ諸説あり,見解の一致を得ていない6).老視の定義や診断基準でさえ専門家の合意を明確に得たものが存在しないなかで,診断・治療・研究が行われている現状である7).定義と診断基準が確立されない限り,治療の有効性を客観的に評価することはできない.また,眼科として統一見解がない状態では,施設や眼科医ごとに対応が異なり,患者に不安や不満を生じさせてしまう危惧さえある.このような経緯から,2008年に老眼研究会が設立され,議論の末,2010年6月の研究会において,老視の定義・診断基準について下記の内容で合意が得られた.本稿では,2010年11月時点での老眼研究会が提案する老視の定義・診断基準について説明する.II老視の定義・診断基準作成にあたっての留意点以下の点に留意して作成を行った.1.国際レベルを目指した老視の定義世界において,AmericanAcademyofOphthalmologyによる定義8)“Age-RelatedLossofAccommodation”など,いくつかの定義はみられるものの,国際的な合意を得た定義はいまだ存在していない.将来的に本研究会の定義が国際的にも受け入れられることを視野に入れて討議し,定義を作成することとした.2.診断基準における検査法老視の診断に用いる検査法として,瞳孔反応,毛様体筋の動きや,水晶体の位置などを観察できる機器など,さまざまな専門的方法が存在する.しかし,いかに優れた検査法であっても,限られた施設でしか行うことができなければ,疾患の性質上診断基準の価値をもたないと考え,今回の診断基準には,2010年時点で一般の眼科施設に普及している,あるいは入手可能な検査機器で行える検査法を用いることとした.さらに簡便法を追加して,広く一般の眼科施設において特殊機器を用いることなく診断できるように配慮した.今後,新たな検査法が進歩・普及すれば,診断基準における検査法の変更も随時検討していくことが望ましい.3.診断基準と閾値老視はこれまで,主訴や自覚的検査を元に診断がなされていた.そのため,個々の検査の感度・特異度は十分ではなく,再現性にも問題がある.汎用に使用されている調節幅や近見視力の閾値についても,これまで国際的に合意の得られた基準はない.本来は科学的根拠に基づいて定めるべきであるが,まずは本研究会で仮に定めることとした.今後の老視研究の進展によって閾値や基準は見直していく必要がある.III老視の定義と診断基準老眼研究会によって合意の得られた老視の定義は,「加齢による調節幅の減退(Age-RelatedLossofAccommodation)」である.眼科医の間ではこれで問題はないが,一般の人々には難解と考えられることから,一般社会に向けた定義として,「老視とは加齢によりはっきり見える範囲が狭くなった状態」と定めた.また,老視は対処しなければ日常生活に差し支える状態であり,何かしらの介入が必要であることから,疾患と考えることとした(表1).老視の診断基準に自覚症状を含めることは可能であるが,主訴のみ採用するのか,医師が質問するのか,あるいは問診表を使用するのかによって,自覚症状は左右されることが予測される.また,他覚的検査の結果が同一でも,自覚症状は患者ごとに異なる可能性があるが,まずは他覚的検査法のみで診断基準を暫定的に作成することとした.表1老視の定義加齢に伴って調節幅は減退する病態(Age-RelatedLossofAccommdation)老視は疾患である(83)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011987今回定めた診断基準は,若年性白内障や調節麻痺を惹起する疾患など加齢以外で調節が減退する疾患を有さず,矯正視力1.0以上を有する者において,通常の視力検査の照明条件下,片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満.もしくはアコモドメータなどを保有していない施設を考慮し,簡便法として片眼完全矯正下で40cm視力が0.4未満の条件を満たすものとした.この診断基準のポイントは,医学的老視の診断には調節幅を測定する必要があることを明確にし,簡便法として近見視力を採用した点である.なお,近見に40cmを用いているのは,欧米では16インチで近見距離を規定しており,これをcm換算すると40.6cmであることから,40cmと定めた9~11).加えて旧来の30cm近見視力表でも対応できるように換算表も提示することとした(表2).片眼完全矯正下で調節幅が減退しても,老視の自覚症状をもたない者もいる.そのような者に対して「あなたは困っていなくても老視だ」と診断するのは現実的でないとの見地から,表3のように「臨床的老視」の診断基準を別に設けることとした.大きな違いは,医学的老視は「片眼完全矯正下の検査で,自覚症状の有無に関係なく調節幅の減少を示す」,臨床的老視は「遠見に関して日常と同じ視力条件において,両眼検査で近見視力の低下を自覚症状として有する」ということである.このような,日常生活と同じ条件で測定した両眼遠見視力を生活視力と定義した.医学的老視には調節幅の測定が必要であるが,アコモドメータなどを保有していない施設を考慮し,簡便法として近見視力を設定した.しかし,医学的老視の診断基準には調節幅で判断するという根底が存在するので,簡便法で近見視力が基準を満たしていても,理論的に調節幅が狭い場合には医学的老視と診断する.以下に例を呈示する.白内障手術時に多焦点眼内レンズを挿入し,両眼での40cm近見視力が0.4以上,日常生活に満足している場合では,老視の自覚症状はなく,近見視力も0.4以上であるので臨床的老視ではない.しかし調節幅を上げているわけではないので医学的老視であることになる(簡便法で近見0.4以上だとしても理論的に調節力を上げているわけではないので医学的老視とする).つぎの例として,不同視,あるいは白内障手術やLASIK(laserinsitukeratomileusis)などによりモノビジョンの状態である場合,両眼での40cm近見視力0.4以上,日常生活に満足している患者では,自覚症状はなく視力も0.4以上であるので臨床的老視と診断されない.しかし片眼の調節幅が2.5D未満であれば医学的老視と診断される.IVまとめ本研究会において,老視の定義・診断基準を提案した.会員間で議論が分かれた点もあり,すべてにおいて完全合意がなされてはいないが,今回の定義と診断基準は世界の趨勢と矛盾せず,そのスタートラインとしての役割は十分に果たしうると考える.老視治療は今後急速に進み,普及していくものと予測される.臨床的老視と医学的老視の2つの診断基準,および医学的老視の診断基準における簡便法が,今後の老視研究の活性化に有意義なものとなることを期待する.表230cm視力表から40cm視力表における視力値換算表─30cmの近点視力表を40cmで使用したときの視力値─30cm視力表の視力40cm換算近見視力0.10.130.20.270.30.400.40.530.50.670.60.800.70.930.81.070.91.2011.331.21.601.52.0022.67表3医学的老視と臨床的老視医学的老視臨床的老視測定条件片眼完全矯正下両眼生活視力自覚症状有無は問わない近見視力障害有り診断基準調節幅2.5D未満*40cm視力0.4未満*医学的老視は基本は調節幅2.5D未満であるが,アコモドメータなどを有さない場合に簡便法として40cm視力0.4未満を用いてもよい.988あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(84)文献1)RuizLA,CepedaLM,FuentesVC:Intrastromalcorrectionofpresbyopiawithafemtosecondlasersystem.JRefractSurg25:847-854,20092)DuTT,FanVC,AsbellPA:Conductivekeratoplasty.CurrOpinOphthalmol18:334-337,20073)RehanyU,LandaE:Diodelaserthermalkeratoplastytocorrecthyperopia.JRefractSurg20:53-61,20044)AlioJL,ChaubardJJ,CalizAetal:CorrectionofpresbyopiabytechnovisioncentralmultifocalLASIK(presby-LASIK).JRefractSurg22:453-460,20065)ScottA:Accommodativeintraocularlensesforage-relatedcataracts.IssuesEmergHealthTechnol85:1-6,20066)GlasserA,KaufmanPL:Themechanismofaccommodationinprimates.Ophthalmology106:863-872,19997)TsubotaK,BoxerWachlerBS,AzarDTetal:HyperopiaandPresbyopia.MarcelDekkerInc.,NewYork,NY,20038)RefractiveErrors&RefractiveSurgeryPreferredPracticePattern.AmericanAcademyofOphthalmologyhttp://one.aao.org/ce/practiceguidelines/ppp_content.aspx?cid=e6930284-2c41-48d5-afd2-631dec586286(Accessed10thOct2010)9)http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/06/slides/2006-4225s1_08_VisionCare%20Presentation%20to%20Panel%20July%2014%202006.htm(Accessed10thOct2010)10)PetermeierK,GekelerF,SpitzerMSetal:ImplantationofthemultifocalReSTORapodiseddiffractiveintraocularlensinadultanisometropicpatientswithmildtomoderateamblyopia.BrJOphthalmol93:1296-1301,200911)PeposeJS:Maximizingsatisfactionwithpresbyopia-correctingintraocularlenses:themissinglinks.AmJOphthalmol146:641-648,2008☆☆☆