0910-1810/11/\100/頁/JCOPYなるはずであるが,ときに30cm以上となることもあり,過矯正レンズ処方の発見に有用である(眼鏡処方時も有用).調節力とは,遠点と近点における屈折の差をいい,一般的(眼前を正の値として扱う方法)には以下の式で算出され,単位はジオプトリー(diopter:D)で表記される.調節力(D)=1/近点(m).1/遠点(m)遠点は無調節状態にて明視している点であり,近点は最大調節時に明視できる最も近い点と定義される.屈折はある物体が網膜に鮮明に結像しているとき,物体までの距離の逆数をいう.すなわち遠点の逆数が屈折(屈折値),近点の逆数が調節(調節力)と考えることができる.調節力は眼の主点(角膜後方1.5mm)からの計算が理想であるが,臨床的には角膜頂点が基準とされることもある.なお,正視眼や完全屈折矯正にて遠方矯正された眼では,理論的に遠点が無限遠(∞)であるため,1/近点(m)でのみ算出される.下記の近点計の測定範囲には限界があるため,視標を40cmの位置で見せても明視できない場合は+4.0Dを付加し,遠点を眼前25cmとして測定するとよいが,調節力の計算時には1/遠点(m)にて算出された値から+4.0Dを減じることに注意する.文献1),2)には調節力の算出方法とともに下記の近点計による測定方法が詳細に記載されており,一読を勧める.はじめに調節とは,種々異なる距離にある物体を,網膜に鮮明に結像させる眼の機能である.おもな作用部位は「毛様体筋の収縮と水晶体の弾性による屈折変化」というHelmholtzの機序からもわかるように毛様体筋と水晶体である.そのため調節の測定方法は毛様体筋と水晶体を評価することになるが,大別して調節近点と調節遠点による調節力(調節幅),調節が誘発されるまでの調節速度(調節緊張時間・調節弛緩時間)をそれぞれ測定する自覚的検査と,眼に赤外線を入射して網膜の反射光から調節反応を測定する他覚的検査に分類される.以下に調節の代表的な測定機器を自覚的検査と他覚的検査に分類し,その概要と筆者らが実際に行っている測定方法について述べる.I自覚的検査調節は屈折とも関連していることから,特に自覚的検査では正確な完全屈折矯正のもとで測定を行う.逆の発想からすると,不適切な矯正状態では年齢不相応の調節近点距離や調節速度が検出される.近点距離測定は簡便であり,日常臨床において調節異常をきたす種々の疾患や近見障害,眼精疲労や老視などの対象患者のみならずルーチンとしたい検査法である.筆者らは患者自身の眼鏡やコンタクトレンズを装用させて(完全矯正と仮定),その上から+4.0Dを付加して遠点距離も併せて測定している.理論的には25cm(多少のずれは誤差範囲)と(7)609*KenAsakawa&HitoshiIshikawa:北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻〔別刷請求先〕浅川賢:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻特集●老視アップデートあたらしい眼科28(5):609.613,2011調節の測定方法MethodsandInstrumentsforMeasuringAccommodation浅川賢*石川均*610あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(8)特性,視標の動きに対する屈折変化を測定する動的特性がある.いずれも得られる波形や結果が異なり,患者個人の症状や状態に適した特性による測定が重要となる.1.アコモドメータAA.2000アコモドメータAA-2000(ニデック,図1)は赤外線オプトメータにより,調節安静位,調節微動,調節ラグを含めた調節反応の測定が可能である5,6).調節安静位とは被検者の屈折値(調節遠点)に対して約1.5D近方に位置しており,眼自律神経系の平衡状態と定義される.本機器における調節安静位は,暗室にて内部視標を消灯するdarkfocus,または明室にて調節遠点に+8.0Dを付加(雲霧)するemptyfieldにて測定を行う(下記の基準位置を参照).調節ラグとは調節刺激と調節反応のズレのことであり,網膜の約1.0D後方に位置するが,焦点深度の量に対応する.そのため瞳孔径に依存するが,視標が近方に近づくほど,調節ラグは大きく,調節刺激に対する調節反応(量)は小さくなる.測定モードには動的特性を測定するステップ(Step)制御と準静的特性を測定する等速度(Linear)制御とがある(図2).視標はBadal光学系による内部視標を用いており,任意の位置に呈示することが可能である.他覚的な調節反応の全般が測定可能であるが,光学的な内部視標とともに1.石原式近点計,VDT近点計,定屈折近点計(D'ACOMO)石原式近点計(はんだや)は最も代表的な測定機器である.完全屈折矯正下にて被検者の主点を近点計に備わっている目盛の0mm(角膜頂点を目盛1.5mm)に合わせる.外部視標を明視可能な位置から,検者が手動にて徐々に眼に近付けていき,ぼやけて見えた点をcm単位にて読み取り,調節近点とする.VDT近点計(トーメーコーポレーション),D’ACOMO(ワック)とも測定原理は石原式近点計と同様であるが,VDT近点計は等速度(cm/秒)にて,D’ACOMOは定屈折(D/秒)にて視標が移動する.定屈折の最適な速度は報告により異なるが,筆者は0.2D/秒(middle:MID)の視標速度を使用している.2.アコモドポリレコーダHS.9GアコモドポリレコーダHS-9G(コーワ)は等速度(低速:2.5cm/秒,高速:5.0cm/秒)による調節近点,調節遠点に加えて調節速度,すなわち調節緊張時間,調節弛緩時間を測定することができる.調節緊張(弛緩)時間とは遠方(近方)の視標を注視している状態から近方(遠方)の視標が明視されるまでの時間である.すなわち焦点が合うまでの時間を計測することになるが,正常値は調節緊張時間では約1秒,調節弛緩時間では約0.6秒とされ,不適切な矯正状態のみならず加齢でもこれらの時間は延長する.測定モードには近点モード,遠点モード,アコモドモードがあり,調節速度を測定する際にはアコモドモードを用いる.測定原理は任意の位置に呈示可能な遠方視標(光学的無限遠~40cm)と近方視標(40cm~5cm)とが,同一光軸上に5秒間隔にて交代に呈示され,交代した直後にぼやけて見える視標が鮮明に見えた点を求める.II他覚的検査他覚的検査では調節の特性を考慮することが正確な評価につながる4).特性には視標を眼前一定の距離に呈示して,静止している視標を注視するときの屈折変化を測定する静的特性,静的特性が損なわれない速度(0.2D/秒)での視標の動きに対する屈折変化を測定する準静的図1アコモドメータAA.2000(川守田拓志,魚里博:調節力の測定.専門医のための眼科診療クオリファイ,中山書店,2009より)(9)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011611際の他覚的屈折値を,高速Fourier変換により分析することで調節微動高周波成分出現頻度(highfrequencycomponent:HFC)を測定し,FK-map(fluctuationofkineticrefraction-map)として評価する.FK-mapは横軸に視標位置,縦軸に調節反応量,さらに縦軸の色はHFCの頻度(緑は低く,赤は高い)を示す三次元グラフとして表示される(図4).毛様体筋の活動状態を示すHFCは毛様体筋の疲労を捉えられることから,慢性疲単眼視での測定であるため,調節しにくく日常視から遠い.筆者は基準位置(測定開始時の視標の呈示位置)として,ステップ制御ではレンズ交換法により得られた等価球面屈折値に.0.5Dを付加した値,等速度制御では+2.0D(基礎研究の場合)もしくは+8.0D(臨床評価の場合)を付加(雲霧)した値に設定している.また,同機器に赤外線電子瞳孔計を組み合わせ,調節刺激時の調節反応と瞳孔反応の同時記録を行っている.2.Speedy.iKmodel,AA.1静止している視標を注視している際にも調節は一定値とはならず,調節微動と称される振幅0.3D程度の微細な揺れがみられる.調節微動は1.0~2.3Hzの高周波成分と0.6Hz未満の低周波成分とに大別される.高周波成分は水晶体やZinn小帯などの振動,毛様体筋の活動状態を示し,ぼやけの検出など調節制御系に対する補助的な役割をもつとされている.一方,低周波成分は調節自体により生じた単なる生体のノイズと考えられているものの,最近では発生源を含めたさまざまな検討がなされている7,8).調節微動はSpeedy-iKmodel(ライト製作所,図3)やAA-1(ニデック)により測定されるが,その原理は他覚的等価球面屈折値に+0.5Dを付加(雲霧)し,その値から0.5D間隔で内部視標を移動させた瞳孔反応1D調節反応調節微動調節ラグ視標(-)dptr↑→t10700調節反応瞳孔反応視標調節安静位調節ラグ(-)dptr↑→t700ab図2アコモドメータAA.2000による測定波形(いずれも正常者例)横軸に時間(秒),縦軸の左側に他覚的屈折値(D),縦軸の右側に瞳孔面積(mm2)としている.a:ステップ制御の測定波形では基準位置に呈示されていた視標(黒)が5秒後に眼前10cmまでステップ状(瞬間的)に移動し,短い時間(潜伏時間)を経て,屈折値がマイナス側へ移行している.10Dの調節負荷に対して調節微動(点線内)がみられ,実際の調節反応(青)は少なく,調節ラグ(矢印)が大きくなっており,瞳孔面積(赤)は縮小している.b:等速度制御の測定波形では基準位置から調節反応の実測波形の交点までは調節安静位(点線内)の状態であり,4D負荷に対して調節ラグ(矢印)とともに,縮瞳がみられる.図3Speedy.iKmodel(川守田拓志,魚里博:調節力の測定.専門医のための眼科診療クオリファイ,中山書店,2009より)612あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(10)3.両眼開放型オートレフラクトメータWAM.5500&WCS.1両眼開放型オートレフラクトメータWAM-5500&WCS-1(グランド精工,図5)は両眼開放での屈折値測定機能に加え,瞳孔径の同時測定が可能な機器である.測定モードのA.M.MODEは,他覚的等価球面屈折値とともに瞳孔径が0.1mm間隔にて2~8mmまで評価でき,オプションソフトのWCS-1を使用することで,連続高速測定であるHISPEEDMODEとなり,0.2秒ごとの値が評価可能となる.外部視標を任意の位置に呈示することができ,ハーフミラーによる両眼開放の日常視に近い測定条件である.III測定の注意点調節を評価する際には,検査室の環境照度(明室・暗室),視標の特性(図形か文字か・大きさ・線の幅・輝度・コントラスト),視標の呈示方法,測定条件が両眼視(両眼開放)か単眼視かの違い,周辺視野の手掛かりなど,さまざまな要因により値が変化することを把握しておく必要がある10).すなわち調節を測定する方法や機労症候群(chronicfatiguesyndrome:CFS)や眼精疲労,IT眼症の診断,評価に有用9)とされる.AccommodationAccommodationL.csvDistanceoftargetsDistanceoftargetsab図4FK.mapFK-mapは横軸に視標位置,縦軸に調節反応量を示し,縦軸の色はHFCの頻度を示す三次元グラフとして表示される.a:正常者(25歳,男性)の供覧例では他覚的等価球面屈折値が.4.93Dであり,0.5Dごとの調節負荷に伴い調節ラグを認め,正確な調節反応を示している.また最大の3D負荷時(map上の.7.93D)では調節反応量が増加し,HFCの頻度が高く暖色系に変化している.b:調節けいれん(27歳,女性)の供覧例では視標呈示位置に関係なく屈折値が不安定であり,HFCは著しい高値を示している.図5両眼開放型オートレフラクトメータWAM.5500&WCS.1(11)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011613おわりにこれまで調節の測定方法について測定機器およびその注意点を述べてきたが,検査において最も重要な“視標のぼやけ”に関しては,その感覚が個人個人で異なり,先述した視標の特性を踏まえ測定条件の最適化には議論の余地がある.調節は自律神経系のみならず高次レベルによっても支配されていることから,検査に対する被検者の努力や集中力(協力性),検査日の心身状態なども結果に反映され,変動や個体差が大きい.そのため結果の正確性や再現性を向上させるには,明視努力を促す検者の声かけが非常に重要である.また,練習効果も明らかであり,実測値に影響しない程度の検査練習もときに必要である.さらに調節は独立した系としてフィードバック制御であると同時に近見反応のプログラム制御として輻湊や瞳孔反応(縮瞳)とも互いに関連している.この密接な関連により,調節の評価は単純に処理できないことが多い.すなわち輻湊や開散,ひいては眼位や両眼視機能に関しても考慮せねばならず,臨床的意義や研究価値は大きいが,診断や評価には慎重を要する.文献1)内海隆:調節検査法─そのトピックスといくつかの留意点について─.日視会誌17:189-194,19892)松田育子,小島ともゑ,不二門尚:老視に対する新しいアプローチ─調節検査の基本と実際─.あたらしい眼科22:1029-1034,20053)鈴村昭弘:調節検査.眼科19:861,19774)鵜飼一彦,石川哲:調節の準静的特性.日眼会誌87:1428-1434,19835)渥美一成:アコモドメーター.神眼7:241-244,19906)近江源次郎,木下茂:赤外線オプトメーターによる調節障害のパターン分類─調節障害の準静的特性による臨床的分類.眼紀41:2062-2063,19907)梶田雅義:眼位異常と調節異常.あたらしい眼科21:1173-1178,20048)中山奈々美,川守田拓志,魚里博:調節微動と外斜位の偏位量との関係.視覚の科学26:110-113,20059)岩崎常人:眼精疲労の測定方法と評価CFFとAA-1.眼科51:387-395,200910)浅川賢,石川均,吉冨健志:近見反応─測定機器と方法─.神眼21:286-292,2004器にはさまざまな利点,欠点があり,原理や測定条件を把握しておかなければ,思わぬ間違いを生じる.検査室の照度は報告によって100~500lxと異なるが,筆者は約300lxの明室としている.照度計を常備しておき,測定時には計測調整するとよい.視標は*のような図形や“ひらがな”が良いとされるが,調節量(力)は視標(視角)が大きく,視標の線の幅が狭くなるほど増加し,視標が低輝度,高コントラストであるほど減少(低下)するとされている.筆者はコントラスト90%以上の*図形と小数視力0.4のLandolt環を用いている.視標の呈示方法には実空間での外部視標(実視標)とBadal光学系による内部視標があるが,内部視標では近方負荷時も視標の大きさや照度が変化しないため,近接感が得られず調節しにくい.両眼視(両眼開放)での測定では単眼視よりも輻湊による影響(輻湊性調節)により容易となり,調節量(力)は見かけ上増加する.すなわち外部視標を用いた両眼視(両眼開放)の測定条件では,視標の接近に伴い両眼視差を生じ,実空間において視標の大きさが変化することで遠近感や立体感が得られる.一方,単眼視の内部視標では,立体感のみならず融像を含めた両眼視機能や輻湊の関与が消失すること,瞳孔径も単眼視にてより散大し,網膜照度や結像特性が変化することから,日常視を踏まえた調節の評価に関しては今後も検討が必要である.なお,瞳孔径は小さくなると焦点深度が深くなり,自覚的な調節力は大きくなるため,測定開始時の瞳孔径も明記しておくとよい.その他にも近視眼ではコンタクトレンズ,遠視眼では検眼レンズ(眼鏡)のほうが調節力を多く必要とするように,コンタクトレンズと検眼レンズでは理論的に必要調節量が異なるが,検査時の完全屈折矯正ではいずれかに統一すればよい.筆者は検眼レンズにて統一し,乱視は明視域を拡大させる可能性から完全矯正とするが,.0.75D以下の乱視は収差の影響を考慮して等価球面値に補正している.