インターネットの眼科応用シリーズインターネットの眼科応用シリーズ第35章医療のIT化で可能になること⑤─遠隔医療・遠隔診断の可能性─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科遠隔医療・遠隔診断の歴史本シリーズでは毎号,インターネットの眼科応用についてご紹介してきましたが,残る連載も今回を含めてあと2回となりました.ぜひ最後までお付き合いください.本章では,インターネットを用いた遠隔医療・遠隔診断の現状と可能性について紹介します.将来,眼科医療が変わるイノベーションを含んでいます.まず,インターネットを用いた遠隔医療・遠隔診断の歴史を紹介しますと,大きく分けて以下の4つの潮流があります.括弧内は情報伝達の組み合わせを示します.①遠隔地で撮影された画像を読影する遠隔診断(医師-医師)②遠隔地の患者を手術する遠隔医療(医師-患者)③遠隔地の医師同士が診療情報を議論するインターネット上の研究会(医師-医師)④遠隔地の患者を診察,問診する遠隔医療(医師-患者)上記①と②は事業として成立し世の中に定着しましたが,③と④は一部の例外を除いて事業としては未成熟です.この違いに焦点を当てて話を進めます.まず①の遠隔診断ですが,その歴史は1990年代のアメリカの放射線科医によって始まりました.わずか数年間に数々の遠隔診断会社が設立されました.そのなかでも,VirtualRad社は夜間の救急の症例はインド在住の医師が読影するなど,グローバルな視野でインターネットの即時性を活用したサービスを提供しています.インターネットを用いた遠隔診断は,社会的ニーズもあり継続性のあるサービスといえます.日本においても,放射線科医の佐藤俊彦らによって1997年に設立された株式会社ドクターネットは,国内最大規模の遠隔診断企業です.彼らは,10人の読影医が集まれば遠隔診断事業を始められることを証明しました.医師が起業して成功し(67)た数少ない事例といえます.同じシステムを応用すれば,眼科医が遠隔地の患者の眼底写真を読影することが可能です.また,日本の高い読影技術を海外に輸出することも可能です.②の遠隔手術はどうでしょう.ダヴィンチとよばれる遠隔手術ロボットは,遠隔地の医師と患者を繋ぎます.ダヴィンチのシステムを用いてアメリカの医師が大西洋を越えてヨーロッパの患者を手術することが可能です.このシステムの開発は,負傷した兵士を遠隔地から手術する軍事利用目的から始まりました.DARPA(国防高等研究計画局)というアメリカ国防総省の機関が推進し,1990年にスタンフォード研究所が試作品を完成させました.そして,1995年にスタンフォード研究所から特許ライセンスを受け設立されたIntuitiveSurgical社は,2000年に上場を果たし,2008年の売上高が8億7,500万ドル,世界中で1年間に約14万回使用され,2008年12月31日現在で合計1,111台が普及するまでに成長しました〔825台(米国),194台(欧州),92台(その他)〕1).現在では,インターネットで遠隔地を繋ぐ遠隔手術というよりは,ロボットで操作することによる操作性の向上が重視されて前立腺癌の手術に多用されています.ロボット内で動かした手の動きを縮小して病巣に伝えることができる,という繊細さがアメリカでは受け入れられているそうです.これは,硝子体手術の膜処理に応用できるシステムかもしれません.遠隔医療・遠隔診断の可能性③のインターネット上の研究会については日本がさまざまな先駆的な試みを世界に発信しています.吉田晃敏らにより,旭川医科大学の手術室からスケペンス眼研究所へ硝子体手術ライブが行われ,症例検討を行ったのが1996年.三重大学の村瀬澄夫らが世界で初めて,投稿,査読,議論する場をすべてインターネット上で行う国際あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117290910-1810/11/\100/頁/JCOPY学会を開催したのが1998年でした.2007年には旭川医科大学を中心に「3カ国同時開催3D-HDバーチャル眼科シンポジウム」が開催されました2).現状では,この③のモデルは実験的な試みにとどまり事業として継続しにくいようですが,その解決方法はインターネットの潮流にあります.2010年にはGoogleのPVをフェースブックが越えた,というIT業界において画期的な出来事がありました.フェースブックに代表されるソーシャルメディアのもつ力については今までにも紹介してきました.中東の政変が良い例です.インターネットは近年,交流という使われ方をします.インターネットが当事者間を「繋ぐ」だけでは③のモデルは事業化できません.インターネットを「繋ぐ」だけでなく,「共有する」ツールとして活用して,人の集まる媒体を作る必要があります.人が集まる流れを創ることは,実世界においてもインターネットの世界においても,事業が成立するために必要です.④の遠隔医療を事業化するにもソーシャルメディアの活用が必要です.たとえば,フェースブックのようなソーシャルメディアのうえでクリニックを開業することは,日本では医師法に抵触する恐れがありますが,慎重にサービスを限定すれば可能です.現にアメリカではインターネット相談と往診のみを提供するオンラインクリニックが誕生しています.さらにアメリカでは,ソーシャルメディアに発展した医師限定のソーシャルネットワーキングサービス「Sermo」とよばれるサービスがあり,上場も果たしました.アメリカでは実験的な試みを受け入れ,評価する仕組みがあるのでしょう.最後に,遠隔医療を事業化させるイノベーションを一つ紹介します.自動診断ソフトは,第20章でも紹介しましたがスタンフォード大学から始まりました.1970年代のことです.「MYCIN」と名付けられたこの人工知能システムは,感染症患者に対してベストの抗生物質の選択をします.スタンフォード大学で試用され優れた性能を示しました3.5).また,近年,悪性腫瘍に関する自動診断ソフトが商用化されました.横浜国立大学大学院環境情報研究院の有沢博らは,陽電子放射断層撮影装置(PET)とコンピュータ断層撮影装置(CT)の画像を組み合わせて,99.3%の精度で癌細胞を発見できる自動診断システムを開発しました.画像を読み取る読影医の診断ノウハウをデータベース化し,独自開発のプログラム言語とアルゴリズムを用いてシステムを構築しました6).2009年法政大学理工学部応用情報工学科の彌冨仁らは,悪性黒色腫の診断を自動化する技術を確立しました.疑わしい皮膚組織の写真データをインターネット上のソフトを用いて診断するシステムで,約85%程度の高い診断精度を実証しています.霰粒腫と断定しにくい腫瘍の補助診断に役立つ可能性をもちます7).われわれ眼科医が臨床の現場で疑わしい眼瞼腫瘍を発見したら,その画像を自動診断ソフトに転送し診断を仰ぐことが可能になるかもしれません.患者自身が直接,画像相談することも可能でしょう.さらに,眼底疾患を眼底写真から診断するソフトが登場すると,われわれ眼科医は仕事を失う可能性がありますが,これは医師がより高度な医療のみを担えるようにする前向きなイノベーションかもしれません.もちろん,自動診断ソフトの普及には,自分の診断をインターネットに委ねてよい,とする患者側の意識の変容も必要です.自動診断ソフトの普及によって,④の遠隔医療は大きく発展する可能性をもちます.インターネットを用いた遠隔医療と遠隔診断には,4つの潮流があることを紹介しました.これらが継続して育つことと,この4つ以外のモデルが生まれることを期待しています.文献1)http://www.intuitivesurgical.com/index.aspx2)http://astec.asahikawaidai.jp/history.html3)http://ja.wikipedia.org/wiki/Mycin4)YuVL,BuchananBG,ShortliffeEHetal:Evaluatingtheperformanceofacomputer-basedconsultant.ComputProgramsBiomed9:95-102,19795)SotosJG:MYCINandNEOMYCIN:twoapproachestogeneratingexplanationsinrule-basedexpertsystems.AviatSpaceEnvironMed61:950-954,19906)http://www.dogaiken.com/2/post_225.html7)http://www.diginfo.tv/2009/11/13/09-0283-r-jp.php☆☆☆1730あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(68)