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黄斑部毛細血管拡張症

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYや臨床的背景の差などによりAとBのサブタイプに分けられていた.それに加えて最も頻度の多いGroup2AIJRTは病期の進行程度により5つのステージに分類されていた.このGass分類は病態の差異を的確に捉えた非常に優れたものであったが,やや複雑で馴染みにくいものであるのも事実であった.2006年にYannuzziら3)は光干渉断層計(OCT)の所見も踏まえて3年間,36症例の検討を行った.その結果として,Gass分類をよりシンプルに単純化した新分類を提唱し,それらを総称してIdiopathicMacularTelangiectasia(IMT)と命名した.表1にGass分類およびYannuzzi分類の概略を示す.Yannuzzi分類におけるType1IMT(aneurysmaltelangiectasia),Type2IMT(perifovealtelangiectasia)はGass分類におけるGroup1IJRT,Group2IJRTにそれぞれ相当する.はじめに黄斑部毛細血管拡張症とは読んで字のごとく,特発性に黄斑部網膜の毛細血管拡張所見を呈する疾患群の総称である.日常臨床でも一定の確率で遭遇する疾患であるが,一般にその臨床像や病態が広く正しく理解されているとは言い難く,類似の所見を示す疾患と混同されているケースも少なくないと思われる.臨床所見による分類は1982年にGassら1)が初めて報告し,1993年に自身らがそれを改訂したものが長年広く用いられてきた2).同分類においてはIdiopathicJuxtafoveolarRetinalTelangiectasis(IJRT)という名称が用いられ,28年間に及ぶ140例という膨大な症例数の検眼鏡的所見およびフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)所見に基づき大きくGroup1IJRT,Group2IJRT,Group3IJRTに分けられ,さらに各グループが重症度(51)205*HidekiKoizumi:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕古泉英貴:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):205.212,2011黄斑部毛細血管拡張症IdiopathicMacularTelangiectasia古泉英貴*表1黄斑部毛細血管拡張症の分類Gass分類(1993年)呼称:IdiopathicJuxtafoveolarRetinalTelangiectasis(IJRT)(n=140)Yannuzzi分類(2006年)呼称:IdiopathicMacularTelangiectasia(IMT)(n=36)Group1A:VisibleandexudativeIJRT(n=31)Type1:AneurysmalTelangiectasia(n=10)Group1B:Visible,exudative,andfocalIJRT(n=8)Group2A:OccultandnonexudativeIJRT(n=92)(進行程度によりStage1からStage5に分類)Type2:PerifovealTelangiectasia(n=26)(nonproliferativestageとproliferativestageに分類)Group2B:JuvenileoccultfamilialIJRT(n=2)Group3A:OcclusiveIJRT(n=3)Group3B:OcclusiveIJRTassociatedwithcentralnervousType3:OcclusiveTelangiectasia(n=0)systemvasculopathy(n=4)206あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(52)やそれより周辺部にも類似の網膜血管病変を認めることがあり,同様に網膜血管拡張および血管瘤とそれに伴う滲出性変化のみられるCoats病やLeber粟粒状血管腫などと同じスペクトラム上にあるものと考えられている2,3).FAでは耳側縫線を巻き込む拡張した傍中心窩毛細血管および毛細血管瘤がより明らかとなり,造影後期には.胞様黄斑浮腫など著明な蛍光漏出所見を示す(図2).OCTでもFA所見に合致した網膜厚の増加および水分貯留による.胞様変化がみられる(図3).Gass分類のGroup2AIJRTにおける5つのステージもnonproliferativestage,proliferativestageの2つに大きくまとめられた.さらにGass分類のGroup3IJRTに該当する群をType3IMT(occlusivetelangiectasia)と命名したが,実際のYannuzziらの検討では該当する症例は見当たらず,頻度がきわめて少ない特殊例であるなどの理由からこのタイプを分類から除外することが提案されている.本稿ではIMT,その中でも特にわが国での頻度の高いType1IMT,欧米での頻度が高く多施設研究や最新の画像診断により急速に病態の理解が進んでいるType2IMTにフォーカスを当て,各病型タイプの臨床像,鑑別診断のポイント,そして現状での治療戦略につき概説する.IType1IMT:AneurysmalTelangiectasia(Gass分類のGroup1IJRTに相当)1.臨床所見,画像診断所見,自然経過片眼性がほとんどであり(94%),性別では男性が90%を占める2).平均発症年齢は40歳前後であり,わが国ではこのタイプが多いとされている.検眼鏡的にも大小さまざまの毛細血管瘤が確認できる場合もある.血管異常はおもに中心窩耳側を中心にみられ,典型的には病変の周囲に輪状の硬性白斑の析出を伴う著明な黄斑浮腫を認める(図1).傍中心窩の病変だけでなく中間周辺部図2Type1IMTのFA所見初期(左)には多数の血管瘤と毛細血管拡張,後期(右)には旺盛な蛍光漏出を認める.図1Type1IMTのカラー写真中心窩近傍に複数の血管瘤とその周囲に輪状の硬性白斑を認める.(53)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011207なり耳側縫線を巻き込んだ病変分布をとりやすいこと,またBRVOのような動静脈交差部を起点とした病変分布をしないことなどがあげられる.3.治療従来から行われている古典的な光凝固による血管瘤の直接凝固が基本と考えられ,滲出性変化の軽減と視力改善が期待できる2).しかし血管瘤の部位によっては中心窩無血管領域にきわめて近接しているためすべての病変部位の凝固は困難なこともある.最近はインドシアニングリーン蛍光眼底造影が治療対象となる血管瘤の描出に役立つという報告もある4).トリアムシノロン5)や抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体6)の局所注射に関しての報告も散見されるが,安全性および有効性に関していまだコンセンサスが得られておらず,さらに多数例および長期間の治療成績の検証が必要であろう.IIType2IMT:PerifovealTelangiectasia(Gass分類のGroup2IJRTに相当)1.臨床的背景とステージ分類欧米で最も多いタイプである2,3).Type1IMTとは異なり,頻度に性差はみられない.ほぼ全例が両眼性であるが,どちらか一方の眼のみしか症状がないことも多い.平均発症年齢は約55歳である.このタイプでは最近MacTel(MacularTelangiectasia)プロジェクトとしもちろん黄斑浮腫が視力低下のおもな原因となるがその程度はさまざまであり,Gassらの症例での初診時視力の中間値は小数視力換算で(0.5)であった2).症例によっては無治療でも良好な視力経過をたどり,なかには黄斑浮腫の自然消失例もみられるが,進行性の視力低下がみられる場合は治療の対象となる.2.鑑別診断鑑別診断としては二次的な黄斑部毛細血管拡張をきたしうる疾患,すなわち網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,放射線網膜症などがあるが,黄斑分枝での網膜静脈分枝閉塞症(BRVO),そのなかでもすでに網膜出血の吸収された慢性期の症例が最も見誤りやすい.両者を鑑別するにあたって重要な点はType1IMTではBRVOと異図3Type1IMTのOCT所見.胞様の水分貯留に伴い網膜の肥厚所見を認める.図4Type2IMT(Stage1)カラー写真(左)では特記すべき所見を認めない.FA後期(右)で中心窩耳側に淡い蛍光漏出を認める.208あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(54)Stage2(図5):黄斑部網膜の透明性の低下や網膜表層のクリスタリン様物質といったType2IMTに特徴的な所見が認められるようになる.FAでも造影初期からの中心窩耳側を中心とした毛細血管拡張所見および淡い蛍光漏出を認める.Stage3(図6):FAでの毛細血管拡張はさらに明瞭となり,拡張した網膜細静脈が急に途絶したような所見(rightanglevenules)がみられるようになる.このrightanglevenulesは拡張した深層毛細血管網に急峻な角度で連続する網膜血管を反映していると考えられる.てワールドワイドの多施設研究が行われるなど,急速に病態に対する理解が進んできている.家族発症例もいくつか報告されており7),遺伝子学的研究も進められている.耐糖能異常との関連を示唆する報告もある8)が,その結論はいまだ明らかでない.Gass分類2)では検眼鏡的所見およびFA所見に基づき,病期の進行程度により以下の5つのステージに分類している.Stage1(図4):検眼鏡的にはほぼ正常所見であり,FA後期に傍中心窩にわずかな蛍光漏出を認めるのみである.この時期には通常無症候性である.図5Type2IMT(Stage2)カラー写真(左)では網膜の透明性低下(矢頭),クリスタリン様物質(黄矢印)といった特徴的所見が出現している.FA初期(右)でも毛細血管拡張所見は明らかとなる.図6Type2IMT(Stage3)カラー写真(左)では網膜血管が急に途絶したようにみえるrightanglevenules(矢印)の所見を認める.FA(右)でも毛細血管拡張はさらに明瞭となり,rightanglevenulesと連続しているのがわかる.(55)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011209生血管を伴うproliferativestage(Gass分類のStage5に相当)にシンプルに分類している.Type2IMTではType1IMTと異なり検眼鏡的に明らかな毛細血管瘤や硬性白斑などは通常認めず,病初期の診断はややむずかしい.FAでの毛細血管拡張や蛍光漏出の程度もType1IMTと比較してマイルドである.後述するがType2IMTにおける視機能低下の原因は毛細血管からの漏出よりもむしろ網膜の萎縮性変化によるものが主体と考えられるようになってきている.Stage4(図7):拡張した毛細血管網は網膜外層に向かって進展し,反応性に生じた網膜色素上皮細胞の遊走による色素塊がrightanglevenulesの近傍を中心にみられるようになる.Stage5(図8):Stage4における網膜外層方向へ毛細血管網の侵入と増殖はさらに進行し,その結果として網膜下に新生血管を認めるようになる.Yannuzzi分類3)ではこれらの5つのステージを大きく網膜下新生血管を伴わないnonproliferativestage(Gass分類のStage1からStage4に相当)と網膜下新図7Type2IMT(Stage4)カラー写真(左)では色素沈着を認める.右は同症例のFA.図8Type2IMT(Stage5)カラー写真(左)では網膜下新生血管(矢印)とその周囲に網膜下出血を認める.FA(右)でも網膜下新生血管(矢印)からの蛍光漏出がみられる.210あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(56)見としては,①網膜厚はほとんど増加せずむしろ減少することも多い,②視細胞内節外節接合部(IS/OS)ラインの消失,③FAでの蛍光漏出部位と一致しない中心窩および網膜内層の.胞様変化,などがあげられる(図9)9~12).これらのOCT所見より,Type2IMTの病態は毛細血管からの漏出によるものよりも網膜の萎縮性変化が主体であり,毛細血管の変化は二次的なものではないかと考えられるようになってきた.特にMuller細胞の異常との関連が示唆され13,14),他の非侵襲的イメージング法によりその仮説はさらに支持されるようになってきている.すなわち,Type1IMTとType2IMTは背景に存在する病態から考えてもまったく異なる疾患と考えて差し支えない.共焦点走査レーザー検眼鏡の青色光(波長488nm)を用いた観察では黄斑部に特徴的な横楕円形の反射増強領域が認められ,その領域はFAでの毛細血管拡張所見よりも広い範囲でみられることもType2IMTでの毛細血管変化は二次的な現象である可能性を示唆するものである(図10)15).眼底自発蛍光を用いた研究でも黄斑色素密度の減少がみられ,毛細血管やOCTでの形態変化に先行するため診断的価値が高く,病状の進行のモニタリングにも有効であるとされている16,17).2.最近の画像診断の進歩と病態について近年のOCTによるType2IMTの研究はその病態の理解を飛躍的に進歩させたといえる.特徴的なOCT所図9Type2IMTのOCT所見カラー写真(左上)では中心窩に.胞様所見を認める.FA(右上)では中心窩耳側に蛍光漏出がみられる.OCT(下)では中心窩に.胞様変化(黄矢印)および視細胞内節外節接合部(IS/OS)ラインの消失(矢頭間)がみられるが,網膜の肥厚所見は認めない.OCTでの.胞様変化はFAでの蛍光漏出と部位の一致がみられないことに注目.図10Type2IMTの共焦点走査レーザー検眼鏡所見FA(左)では中心窩耳側に蛍光漏出を認めるが,共焦点走査レーザー検眼鏡の青色光を用いた観察(右)ではより広範囲に特徴的な横楕円形の反射増強領域を認める(矢頭).あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112113.視機能障害の特徴Type1IMTのような網膜厚の増加所見がみられないにもかかわらず,Type2IMTでは有意な視機能障害を認める.病初期は軽度の変視症のみであるが,網膜外層萎縮などに伴い中心視力は比較的保持されていても傍中心窩に進行性の感度低下が生じる12,18).そのため読書能力の著明な減少が起こりうることが特徴である19).さらにproliferativestageでは滲出性変化や出血に伴い急激な視力低下も起こりうる.4.鑑別診断NonproliferativestageではType1IMTと同様に糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,放射線網膜症などとの鑑別が必要である.これらの網膜血管病変との鑑別にはOCT所見が非常に有用であり,Type2IMTでは網膜厚の増加のない萎縮性変化が特徴的である.網膜の透明性低下やクリスタリン様物質,rightanglevenulesやその周囲の色素沈着などType2IMTに特徴的な所見があれば診断の助けになる.また中心窩に.胞様変化を示す症例は特発性黄斑円孔との鑑別が必要であり,実際にType2IMTでも全層黄斑円孔の所見を示すこともある13)ため注意が必要である.重要なこととして,検眼鏡的に一見正常に見えるにもかかわらず変視症が存在する症例では,必ず病初期のType2IMTも鑑別診断に入れておくべきである.Proliferativestageでは加齢黄斑変性との鑑別が必要であるが,通常Type2IMTでは加齢黄斑変性でよくみられるドルーゼンや網膜色素上皮.離を伴わない.5.治療NonproliferativestageにおいてはType1IMTと異なり光凝固は無効である2).視機能障害の原因が血管からの漏出性変化よりもむしろ萎縮性変化が主体であることを考えると驚くことではない.アバスチンRなどの抗VEGF薬の硝子体内注射はFAでの蛍光漏出を一過性に減少させる20)が,毛細血管拡張および漏出はむしろ二次的な変化であるという病態の本質から考えると現状では積極的な使用には疑問が残る.すなわち現状ではnonproliferativestageに対する治療の決定打は存在しないと考えてよい.Proliferativestageでは網膜下新生血管からの滲出性変化の改善に抗VEGF薬の硝子体内注射が有効と考えられる21).しかしエビデンスは強くないため,今後の十分な検証が必要である.IIIType3IMT:OcclusiveTelangiectasia(Gass分類のGroup3IJRTに相当)Gass分類において最も頻度の少ない一群であり,両眼性に中心窩周囲の毛細血管網の閉塞所見が進行性にみられ,その周囲の毛細血管拡張所見および淡い漏出所見を認める(図11)2).通常血管閉塞を起こしうる全身疾患あるいは家族性の中枢神経疾患を認める.しかし病態の正確なメカニズムは不明である.Yannuzziらの検討3)ではこのタイプに該当する症例は存在せず,また全身疾患を伴うことから特発性という概念からは異なること,その病態が毛細血管拡張よりも血管閉塞が主体であること,さらにその罹患頻度がきわめて少ないと考えられることからこのタイプを分類から除外することが提案されている.おわりに本稿ではIMTの診断と病態,鑑別診断,そして治療につき概説した.“血管拡張症”とひとまとめにされて(57)図11Type3IMTのFA所見黄斑部毛細血管の著明な閉塞所見,およびその周囲の血管拡張と淡い蛍光漏出を認める.(RichardF.Spaide先生のご厚意による)212あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011いるこの疾患群が,病型タイプにより実はまったく異なる病態生理を背景にもっていることが読者の皆様にリアルに伝われば筆者にとって望外の喜びである.文献1)GassJD,OyakawaRT:Idiopathicjuxtafoveolarretinaltelangiectasis.ArchOphthalmol100:769-780,19822)GassJD,BlodiBA:Idiopathicjuxtafoveolarretinaltelangiectasis.Updateofclassificationandfollow-upstudy.Ophthalmology100:1536-1546,19933)YannuzziLA,BardalAM,FreundKBetal:Idiopathicmaculartelangiectasia.ArchOphthalmol124:450-460,20064)HiranoY,YasukawaT,UsuiYetal:Indocyaninegreenangiography-guidedlaserphotocoagulationcombinedwithsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonideforidiopathicmaculartelangiectasia.BrJOphthalmol94:600-605,20105)LiKK,GohTY,ParsonsHetal:Useofintravitrealtriamcinoloneacetonideinjectioninunilateralidiopathicjuxtafovealtelangiectasis.ClinExperimentOphthalmol33:542-544,20056)GamulescuMA,WalterA,SachsHetal:Bevacizumabinthetreatmentofidiopathicmaculartelangiectasia.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1189-1193,20087)GilliesMC,ZhuM,ChewEetal:Familialasymptomaticmaculartelangiectasiatype2.Ophthalmology116:2422-2429,20098)ChewEY,MurphyRP,NewsomeDAetal:Parafovealtelangiectasisanddiabeticretinopathy.ArchOphthalmol104:71-75,19869)KoizumiH,IidaT,MarukoI:Morphologicfeaturesofgroup2Aidiopathicjuxtafoveolarretinaltelangiectasisinthree-dimensionalopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol142:340-343,200610)GaudricA,DucosdeLahitteGetal:Opticalcoherencetomographyingroup2Aidiopathicjuxtafoveolarretinaltelangiectasis.ArchOphthalmol124:1410-1419,200611)PaunescuLA,KoTH,DukerJSetal:Idiopathicjuxtafovealretinaltelangiectasis:newfindingsbyultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.Ophthalmology113:48-57,200612)MarukoI,IidaT,SekiryuTetal:Earlymorphologicalchangesandfunctionalabnormalitiesingroup2Aidiopathicjuxtafoveolarretinaltelangiectasisusingspectraldomainopticalcoherencetomographyandmicroperimetry.BrJOphthalmol92:1488-1491,200813)KoizumiH,SlakterJS,SpaideRF:Full-thicknessmacularholeformationinidiopathicparafovealtelangiectasis.Retina27:473-476,200714)KoizumiH,CooneyMJ,LeysAetal:Centripetalretinalcapillaryproliferationinidiopathicparafoveolartelangiectasis.BrJOphthalmol91:1719-1720,200715)CharbelIssaP,BerendschotTT,StaurenghiGetal:Confocalbluereflectanceimagingintype2idiopathicmaculartelangiectasia.InvestOphthalmolVisSci49:1172-1177,200816)HelbHM,CharbelIssaP,VANDERVeenRLetal:Abnormalmacularpigmentdistributionintype2idiopathicmaculartelangiectasia.Retina28:808-816,200817)WongWT,ForooghianF,MajumdarZetal:Fundusautofluorescenceintype2idiopathicmaculartelangiectasia:correlationwithopticalcoherencetomographyandmicroperime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強度近視の黄斑疾患

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYして考えるほうが理解しやすい.また,同じ患眼でも,時間がたつにつれ,異なる形態に変化することもある.この3疾患は,似ているようで,手術成績などかなり非なるところがあるため,鑑別には注意を要する.II中心窩分離症強度近視眼の黄斑部に牽引力がかかり,網膜形態が異常をきたす.この最初の段階が中心窩分離症である.本疾患は網膜が牽引性に分離し,ときに網膜.離まで至る疾患で,通常黄斑円孔はみない.分離が生じるレベルは,外側では外網状層付近,内側では内境界膜と神経節細胞の間もしくは内網状層付近である.網膜分離だけで,視細胞が比較的健常に維持されている間は,絶対暗点とはならないが,変視を訴えることが多い.分離している部位の層間は主としてMuller細胞からなる細い支柱様組織でつながっており,これはcolumnとよばれるはじめに強度近視は眼軸の延長に伴い,多くの特異的黄斑合併症を生じ,そのなかには中心窩分離症,黄斑円孔,黄斑円孔網膜.離,近視性脈絡膜新生血管などが含まれる.従来,その診断や加療は非常に困難であったが,光干渉断層計を筆頭とする画像診断機器の進歩に伴い,比較的容易にその病態を捉えることが可能になった.また,治療手段も新しい診療技術の開発・普及に伴い,なかには視力が改善する症例が増えてきている.本稿では,これらとっつきにくい近視性黄斑合併症について,解説する.I中心窩分離と黄斑円孔そして黄斑円孔網膜.離近年の研究に伴い,この3つの疾患は完全に独立したものではなく,黄斑牽引症候群に含まれるサブタイプと(43)197*YasushiIkuno:大阪大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕生野恭司:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学研究科眼科学特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):197.203,2011強度近視の黄斑疾患MyopicMacularComplications生野恭司*図1典型的な中心窩分離症の眼底写真と光干渉断層計所見網膜に分離を生じており,分離した網膜の層間はcolumnとよばれる細く引き伸ばされたグリア細胞によって架橋されている.198あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(44)う中心窩.離型(Fovealdetachment)の2種類に分類している2)(図2).通常は網膜分離型から始まり,中心窩.離型に進展して,最終的に黄斑円孔を生じる.網膜分離型でとどまる時間は比較的長いが,一旦中心窩.離型に進行した場合,黄斑円孔を生じるまでの期間は数カ月~数年と大きなばらつきがある(図3).中心窩分離症(図1).中心窩分離症の形態はバリエーションに富み,網膜分離以外にも,偽黄斑円孔,そして.胞様変化を伴うものまで,さまざまな形態がある1).治療や病態を論ずるうえで,筆者らは簡便な方法として,中心窩の網膜.離を伴わない網膜分離型(Retinoschisis)と中心窩.離を伴図2網膜視細胞の状態による中心窩分離の分類上:網膜視細胞を表すIS/OSjunction(内節外節境界接合部)のラインが網膜色素上皮に接着している(矢印)網膜分離型(Retinoschisis)タイプと,下:そのラインが明らかに色素上皮から.離している(矢印)中心窩.離型(Fovealdetachment)タイプの2種類がある.図3網膜分離症に小さな黄斑円孔を合併した後,急速に黄斑円孔網膜.離に進行した1例の眼底写真と光干渉断層計所見左:来院した際は小さな黄斑円孔を認めるのみだった(矢印)が,右:その後急速に進行し,2週間後入院時には広範な黄斑円孔網膜.離にまで進行した.(45)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011199境界膜.離を終えた後は眼内液-空気置換を行い,最終的に長期滞留ガス〔20%SF6(sulfurhexafluoride)〕を用いてガスタンポナーデを行う.内境界膜.離とガスタンポナーデの必要性については議論のあるところであるが,中心窩分離は往々にして牽引を示唆する内境界膜.離を併発している(図5)ことから,筆者は通常内境界膜.離を行っている.がしかし,網膜が非常に菲薄化している場合などは,内境界膜.離によって黄斑円孔のリスクが高く,黄斑部周囲網膜のみ.離して,中心窩近傍には触れないように心がける.III近視性黄斑円孔と黄斑円孔網膜.離近視の黄斑円孔に対する硝子体手術の報告には,100%近く閉鎖するとしたものと,20.40%とするものの2通りがある.後者は最近の報告に多く,大概は分離症をからの黄斑円孔は,後述するが非常に予後不良であり,できるかぎり,黄斑円孔が生じる前すなわち,中心窩分離症の間に手術を行うのが望ましい.網膜分離型は中心窩下視細胞が比較的健常に保たれているため,視力は中心窩.離型に比して良好である.その反面,硝子体手術によって網膜を復位させても,視力回復の程度は中心窩.離型と比べて小さい.中心窩.離型は逆に,中心窩の視細胞が障害されているので,手術による改善の幅は大きいが,最終視力は網膜分離型と比して芳しくない.また,中心窩が.離すると術中に黄斑円孔を形成しやすい.このことから,手術による効果という面からは中心窩.離型を積極的に手術すべきだが,患者のメリットという点では,むずかしい点も多い.中心窩分離症の原因は網膜への牽引で,要因としては硝子体皮質,網膜前膜,網膜血管牽引,内境界膜がある.後部ぶどう腫の形成に伴い,網膜は後方に牽引されるが,これらの要素が網膜を前方に牽引し,最終的に網膜が分離する.通常は硝子体手術による牽引力の除去が治療となる.実際にはトリアムシノロンで硝子体を可視化した後に,硝子体鑷子などを用いて網膜表面に癒着した後部硝子体膜を除去する.この際,強度近視の網膜は特に菲薄化しており,容易に裂孔を生じやすい.特に血管アーケード付近は網膜硝子体癒着が強いため,細心の注意を払って後部硝子体.離を広げる.もし,あまりに癒着が強い場合は,そこから先の後部硝子体.離の拡大をあきらめる.筆者らは網膜毒性なども考えてブリリアントブルーGを内境界膜染色に用いている(図4).内図425ゲージシステムを用いた中心窩分離に対する硝子体手術の術中所見左:硝子体カッターを用いて可視化した後部硝子体を網膜から.離し,右:ブリリアントブルーGで内境界膜を染色した後,硝子体鑷子を用いて丁寧に.離している.図5強度近視眼に往々にしてみられる内境界膜.離(ILMdetachment)所見内境界膜の非伸展性により,後部ぶどう腫の形成に追随できない内境界膜が,網膜の神経節細胞層から.離する(矢印).中心窩には典型的な中心窩.離(*印)を伴う分離症がみられる.200あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(46)度近視患者の社会的失明の大きな原因となっている.近視性CNVの発症による視力低下も重要だが,本疾病は大きな瘢痕病巣を残し,それが長期的に拡大するため,視力は徐々に低下する.5.10年程度観察すると,ほとんどの近視性CNV症例は視力0.1を切り,それ以下になるとされている4).瘢痕病巣の拡大には年齢,CNVの大きさなどが関連するとされており,そのため,できるだけCNVを拡大しないようにしなければならない.近視性CNV発症の原因は今のところすべて解明されているわけではない.しかしながら,lacquercrackとの関連は古くから指摘されている.Lacquercrackは眼球の伸展に伴い生じるBruch膜および網膜色素上皮レベルの裂隙で,ときとして網膜下出血を伴う.この単純網膜下出血は特に20.40歳代の若年者に多いが,近視性CNVとの鑑別が必要となるということで非常に重要である.また,最近の画像診断機器の進歩から,近視性CNVの症例では中心窩付近にインドシアニングリーン蛍光造影で脈絡膜循環遅延を起こしている症例が有意に高いこと,そして脈絡膜厚が光干渉断層計で薄いことが報告されていることは発症機序を考えるうえで非常に興味深い5,6).CNVの発症には加齢黄斑変性同様,血管伴っている.近視には2種類の黄斑円孔があり,一つは非近視性の特発性黄斑円孔のごとく,円孔網膜端には.胞様変化だけで,牽引による明らかな解剖学的異常を伴っていないもの.もう一つは明らかに周囲網膜に分離を伴うものである(図6).後者のほうが一般に,高齢でかつ円孔閉鎖が得られにくい3).そのため,術後視力ならびに視力改善は劣る.網膜分離や網膜.離を伴っている場合,強い牽引力が網膜に働いているため,比較的早期に黄斑円孔網膜.離へと進行する.一旦黄斑円孔網膜.離まで進展すると,網膜の可動性などから,硝子体手術操作は容易とはいえない.そのためできれば,網膜.離を合併する前の段階で手術を行うのが望ましい.近視性黄斑円孔に対する硝子体手術は,中心窩分離症に対する硝子体手術と同様,トリアムシノロンで硝子体を可視化,除去した後に,後部硝子体.離を作製し,内境界膜.離ののち円孔閉鎖を促進するため,長期滞留ガス〔14%C3F8(perfluoropropane)など〕を用いガスタンポナーデを行う.IV近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)強度近視による脈絡膜新生血管(近視性CNV)は,強術前術後図6強度近視に生じる2通りの黄斑円孔の術前(上)と術後(下)光干渉断層計所見左:網膜分離を伴わない平坦な黄斑円孔は,円孔周囲に.胞様変化のみを認め(矢印),手術により閉鎖しやすく,通常の非近視性黄斑円孔と同様の手術成績が得られる.右:網膜分離(*印)を伴う近視性黄斑円孔の症例は一般に後部ぶどう腫が深く,網膜に牽引力が残存しやすい.硝子体手術を行っても円孔閉鎖は得がたく,解剖学的にも機能的にも予後は不良である.(47)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011201後述する抗血管新生療法でも抗VEGF薬が大きな効果を上げている.診断には検眼鏡的所見のほかにフルオレセイン蛍光眼内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が大きく関わっているとされている.近視性CNVで前房内VEGF濃度の上昇が報告されているほか,図7近視性CNVの特徴的な蛍光眼底所見左上:眼底写真でははっきりしないが,左下:フルオレセイン蛍光造影では,CNVから旺盛な蛍光漏出を認め(矢印),CNVが現在活動性を有することが示唆される.右上:共焦点インドシアニングリーン蛍光造影では,lacquercrack(白矢印)が線状の低蛍光として描出され,CNVの位置(黒矢印)も,それにほぼ一致している.右下:光干渉断層計では典型的なclassic型新生血管を示す.近視性CNV単純出血図8近視性CNV(上)と単純網膜下出血(下)のフルオレセイン蛍光造影および光干渉断層計所見の比較近視性CNVでは過蛍光を認め(白矢印),光干渉断層計では網膜色素上皮を穿破して脈絡膜からCNVが網膜下に成長している様子がわかる.CNVの表面にはフィブリンが析出(黒矢印)しており,網膜下液もみられる(白矢印).またCNV内部の反射は比較的不均一である.一方で単純網膜下出血のほうは,逆に低蛍光を示し(白矢印),光干渉断層計では内部が比較的均一で,フィブリン反応などをみない.また通常網膜下液がみられることもほとんどない.202あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(48)の面で効果的であるという論文が散見され,押しなべて2段階以上視力改善する可能性は60.70%,3段階以上は約40%であるとされている.ただし,抗血管新生療法を行っても,CNVのサイズが大きいものや,陳旧化したものでは効果が低い.したがって,できるだけ新鮮なうちに診断を行い,治療を開始することは非常に重要である.近視性CNVに伴う晩期の萎縮性変化は抑制することが不可能なので,今後はCNVの沈静化よりもむしろ,再発の問題や萎縮性変化の病態とその抑制法に興味の焦点が移ると考えられる.おわりに強度近視に伴う黄斑合併症は画像診断の進歩により,ようやく理解が始まったところである.このような進歩はわれわれに恩恵をもたらすと同時に,正しく診断するという責任を負わされることになる.本稿が読者らの強度近視における診断の一助になれば望外の喜びである.文献1)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:Macularretinoschisisinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol133:底撮影が必須である.先述した単純網膜下出血では,出血による蛍光色素遮断がみられるが,過蛍光は基本的にみられない.ところが近視性CNVでは過蛍光となり,造影後期には色素の漏出がみられる(図7).また光干渉断層計も診断に有用なツールである.単純出血の場合,網膜下に出血の比較的均一な像がみられるだけであるが,近視性CNVの場合,CNVから滲出した網膜下液やCNVの先端付近にフィブリン析出がみられる(図8).したがって近視性CNVの診断には蛍光眼底撮影だけでなく,光干渉断層計も撮影して総合的に判断しなければならない.光凝固は匐行性網脈絡膜萎縮によって長期的な視力低下をきたすため,現在は用いられることがほとんどない.ベルテポルフィンを用いた光線力学的療法は,諸外国の一部で近視性CNVに認可されていたが,わが国では保険認可されていない.抗血管新生療法は,長期的にみても効果が高い7)ことから,現在広く使用されている(図9).LucentisRは,近視性CNVに対し,わが国では保険適用がないため,実際はかなり多くの場合,AvastinRの硝子体内注射(適応外使用)が用いられていると考えられる.AvastinRは光線力学的療法より視力施行前施行後3カ月図9Bevacizumab(AvastinR)の硝子体注射前後の近視性CNVの変化施行前(上)は,フルオレセイン蛍光造影で高度の蛍光漏出がみられ(白矢印),光干渉断層計ではCNV上にフィブリン反応(黒矢印)や網膜下液(白矢印)がみられる.これは活動性が高い典型的な近視性CNVの臨床所見である.Bevacizumab(1mg)の硝子体注射後3カ月の同所見(下)では,蛍光漏出が著明に減少し(白矢印),光干渉断層計でも網膜下液が消失した.視力は(0.3)から(0.8)に改善した.あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011203794-800,20022)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Fovealanatomicalstatusandsurgicalresultsinvitrectomyformyopicfoveoschisis.JpnJOphthalmol52:269-276,20083)JoY,IkunoY:Retinoschisis:apredictivefactorinvitrectomyformacularholeswithoutretinaldetachmentinhighlymyopiceyes.AmericanAcademyofOphthalmologyAnnualMeeting,Chicago,IL.Oct17,20104)YoshidaT,Ohno-MatsuiK,YasuzumiKetal:Myopicchoroidalneovascularization:a10-yearfollow-up.Ophthalmology110:1297-1305,20035)WakabayashiT,IkunoY:Choroidalfillingdelayinchoroidalneovascularisationduetopathologicalmyopia.BrJOphthalmol94:611-615,20106)IkunoY,JoY,HamasakiTetal:Ocularriskfactorsforchoroidalneovascularizationinpathologicmyopia.InvestOphthalmolVisSci51:3721-3725,20107)IkunoY,NagaiY,MatsudaSetal:Two-yearvisualresultsforolderAsianwomentreatedwithphotodynamictherapyorbevacizumabformyopicchoroidalneovascularization.AmJOphthalmol149:140-146,2010(49)

黄斑疾患の小切開硝子体手術(MIVS)

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY殖糖尿病網膜症と異なり,患者の満足度を向上させることが,黄斑疾患の硝子体手術には要求される.この点において,MIVSは20ゲージ硝子体手術に比較して優っている.MIVSでは,一般に手術時間の短縮,術後異物感の軽減,早期視力回復が利点として報告されている.結膜,強膜の切開が最小限で縫合を要さないため,術後炎症や異物感が少ない.術後1週間では結膜の充血もわずかであり,注意深く観察しないと手術を行った眼との区別をつけることができない(図1).縫合による惹起乱視がないため早期視力改善が得られる3).当科のデータでも,25ゲージ手術では術後角膜乱視が少なく,黄斑はじめに硝子体手術は1970年代に考案された当初,約2mmの創を使用して行われた.その後,20ゲージの3ポート硝子体手術が長期にわたり行われてきた.2002年に25ゲージカニューラシステムが開発され,硝子体手術創は約0.5mmと非常に小さなものとなった1).その後,器具の剛性不足の欠点を改善した23ゲージシステムが開発された2).これらの25ゲージ,23ゲージ硝子体手術は従来の20ゲージ硝子体手術に対し,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)とよばれ,近年硝子体手術の主流となっている.多くの症例に対してMIVSが広く適応となりつつあるが,当初MIVSの適応は黄斑疾患のみとされていた.周辺部硝子体を残すことで創の自己閉鎖を得ていたことや,硝子体カッターの低い効率性や剪刀などの器具の不足など,MIVS器具の未完成がその原因であった.しかし,これらの問題は器具や術式の進歩に伴い解決され,MIVSはほぼすべての症例に対応できるようになった.そして,黄斑疾患はMIVSの最も良い適応といえるようになった.本稿では,黄斑疾患に対するMIVSの特徴と,手術準備,手技について述べていきたい.IMIVSの黄斑疾患に対する特徴1.MIVSの利点黄斑疾患の硝子体手術は,術後の視機能を向上させることを目的とした治療である.このため,網膜.離や増(37)191*ShinYamane&KazuakiKadonosono:横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科〔別刷請求先〕山根真:〒232-0024横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):191.196,2011黄斑疾患の小切開硝子体手術(MIVS)MicroincisionVitrectomySurgeryforEyeswithMacularDiseases山根真門之園一明*図1MIVS翌日の前眼部所見わずかに直線状の強膜創(矢印)がみられるが,充血や出血はほとんどみられない.192あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(38)期の比較的早期に手術治療を受ける傾向にあり,良好な視機能を保てるようになっている(図3).2.MIVSの欠点MIVSの最大の欠点は器具の剛性が低いことである.しかし,剛性度は,最近ではかなり改善されている.シャフトを短くし,スリーブを付けて剛性を高めた器具は非常に有用である.器具に同じ負荷をかけてたわみ量をみた実験では,通常のシャフト長のものに比べ,シャフト長が短いものでは約半分,さらにスリーブを付けたものでは約4分の1となっており,シャフトを短くすることで,剛性が上がっていることがわかる(図4).照明系の問題もあるが,これは近年のキセノン光源およびシャンデリア照明装置の開発により,ほぼ克服された.3.合併症合併症として注意する必要があるのは術後低眼圧である.通常MIVSでは無縫合で終了するが,終刀時に強膜創からの漏出が認められれば迷わず縫合する必要がある.術後低眼圧となっても,ほとんどの場合数日以内に無治療で正常眼圧に戻る.なお,良好な自己閉鎖を得るには強膜創を斜め刺入で作製することが大切であるが,極端に行うと鋭角挿入によりカニューラの先端が硝子体上膜術後に20ゲージ手術に比べ早期から視力が回復していた(図2)4).手術侵襲を少なくするには,創が小さいだけでなく術中の灌流量が少ないことも重要であり,灌流量の少ないMIVSでは眼内組織に対しても低侵襲であるといえる.術後の炎症が少ないことは入院期間の短縮化を可能とし,近年の術後俯き期間の短縮化の傾向と相まって,MIVSの黄斑疾患への適応は急速に拡大している.実際,近年黄斑上膜,黄斑円孔など代表的な黄斑疾患は,MIVSにより治療される頻度が非常に高い.さらに,手術侵襲や合併症のリスクが低いことから,病術前1.00.50.40.1視力1カ月20ゲージ6カ月術前p<0.0011カ月25ゲージ6カ月図2特発性黄斑上膜術前後の視力(n=67)術後1カ月では20ゲージ群に比べ25ゲージ群で有意に視力が改善している.術後6カ月では両群間に視力の差はない.図3黄斑上膜に対するMIVS術前は視力VD=(0.9)と良好だが,黄斑の牽引があり歪みを自覚している(左).術後1カ月で視力はVD=(1.0),黄斑の形態が改善し歪みの自覚もほぼ消失している(右).(39)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011193を促進させるという考えもある.術後眼内炎は頻度が低いが重大な合併症である.MIVSでは無縫合のため術後眼内炎の頻度が高くなるのではないかと懸念された.そこで国内の27施設におけるMIVSと20ゲージ硝子体手術後の眼内炎の頻度が比較された6).その結果,眼内炎の頻度はMIVS後では0.054%(14,838眼中8眼),20ゲージ手術後では0.034%(29,030眼中10眼)であり,両群間に差はみられなかった.MIVSが20ゲージ硝子体手術に比較してより術後眼内炎を併発しやすいということはないが,その発症率は3,000眼に1眼程度といわれており,今後ともMIVSの術後管理には細心の注意が必要である.そのほかの合併症として,術後網膜.離が重要である.MIVSでは創が小さいことに加え,カニューラシステムを用いていることもあり,20ゲージ手術と比較して強膜創へ硝子体が嵌頓しにくい.そのため周辺部裂孔を生じにくい傾向にある.特に黄斑疾患では周辺部硝子体隔清を厳密に行う必要はないが,カニューラの先端に腔に入らずに脈絡膜.離を合併する可能性があり注意が必要である.創の閉鎖はガスタンポナーデを行ったほうが良好であることは以前から知られており,術後眼内炎の報告もそのほとんどがガスタンポナーデを行っていない症例である.筆者らは前眼部光干渉断層計を用いて,MIVS術後の強膜創閉鎖率を確認したところ,ガスタンポナーデを行った眼で有意に創閉鎖が良好であった(図5)5).このようなことから,ガスタンポナーデの必要がない症例でも少量の空気置換を行い,術後早期の創閉鎖図4器具の剛性3種類の鉗子に同じ負荷をかけた場合のしなり量の比較.シャフト長32mm(左)では大きくしなるが,シャフト長27mm(中)では約半分のしなりであり,シャフト長27mmにスリーブをつけると約4分の1までしなりが軽減される(右).1日強膜創閉鎖率(%)3時間10090807060504030201003日術後期間:ガス注入眼:ガス非注入眼7日14日図5MIVS後強膜創閉鎖率前眼部光干渉断層計で観察すると,細隙灯顕微鏡ではわからない強膜間隙(矢印)がみられる(上).ガス注入眼では非注入眼に比べ,術後7日まで有意に強膜創閉鎖率が高かった(下).表125ゲージおよび20ゲージ硝子体手術後網膜.離の頻度25ゲージ20ゲージp値*症例数(眼)6875術中裂孔(眼)350.72術後裂孔(眼)221.00術後網膜.離(眼)121.00両群間に術中裂孔,術後裂孔,術後網膜.離の頻度に差はなかった.*Fisherの直接確率.194あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(40)性を高めた鉗子を用いると,操作性が向上し安全に手術を行うことができる.III手術の実際1.黄斑上膜黄斑上膜の手術では黄斑上膜および内境界膜の.離がポイントとなる.広角観察システムを用いている場合でも,後極部用接触レンズを使用したほうが黄斑の視認性は優れている.黄斑上膜の.離は鉗子にて直接把持してもよいが,網膜を誤って把持しないようきっかけを作製してから鉗子で.離するほうが安全である..離のきっかけを作製する際には,鋭針の先端を曲げたマイクロフックニードルを用いてもよいが,筆者は先端を曲げずに鋭針をそのまま用いている.マイクロフックニードルのように強く引っ掛けることはできないが,逆に誤って網膜内層を傷つけにくい.鋭針の先で軽く黄斑上膜を引っ掛けるようにして鉗子で把持するきっかけを作製する(図7).黄斑上膜を除去した後,内境界膜.離も行っておく.内境界膜.離は必ずしも必要ではないが,黄斑上膜の再発予防に有用である.内境界膜は基底膜なので,細胞増殖の足場になりやすい.実際,内境界膜.離部を囲うように黄斑上膜が再発することがある.内境界膜.離にはインドシアニングリーンやブリリアントブルーGなどの染色剤が有用である.黄斑上膜を.離すると,一嵌頓した硝子体は切除するべきである.MIVSの開発当初は,意図的に周辺部硝子体を嵌頓させて創閉鎖を得ていた.その時代に行われた研究では,MIVSと20ゲージ手術の比較で,術後網膜.離の発症率に差はなかった(表1).しかし,長期的には嵌頓硝子体による裂孔併発の可能性はあり,ポート付近の硝子体切除は黄斑疾患であっても行ったほうがよい.IIMIVSに必要な手術環境これからMIVSを導入する場合,どのような準備が必要であろうか.キセノン光源は必須といえる.照明系の進歩により,MIVSにおいてもより安全に手術を行うことが可能となった.広角観察システムとして非接触レンズシステムと接触レンズシステムがある.広角観察システムを用いれば周辺硝子体切除は容易である(図6).MIVSでは器具の剛性の問題から眼球を傾けながらの手術にはあまり向いていないが,広角観察システム手術は眼球を傾けずに行うことが可能となる.黄斑疾患においては黄斑上膜や内境界膜の.離が重要であるが,MIVSでは鉗子の剛性が低いと操作性が悪く.離操作はむずかしくなる.先述のようなシャフトの剛図6広角観察システムによる眼底観察広角観察システムとシャンデリア照明を用いることで,条件が良ければ鋸状縁から毛様体扁平部の一部まで眼底全体を同時に観察できる.図7黄斑上膜の.離25ゲージ鋭針の先端を引っ掛けるようにして立ち上げる.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011195システムを用いると網膜を全体的に捉えることができ,牽引がかかったり裂孔を生じた際に見落としが少ない.内境界膜.離は鋭針の先で軽く内境界膜に触れ,切るようにして把持するきっかけを作製して行う.神経線維層の障害を起こした場合を考慮して,なるべく耳側から.離を開始するとよい.ただし,右利きの術者の場合,左眼では耳側へのアプローチがむずかしくなるので,無理をせずやりやすい部位から行ったほうが結果的に低侵襲となる.3.黄斑浮腫糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する手術でも黄斑円孔手術と大きく変わることはない.ただし,糖尿病眼では術後の前部硝子体線維血管増殖を予防するために周辺部硝子体切除を十分に行うべきである.MIVSでは結膜を切開しないので強膜圧迫がむずかしく,特に鼻下側の結膜.が狭い場合には周辺硝子体切除がむずかしいことがある.このような場合は結膜に放射状切開を加え,そこから圧迫子を結膜下に入れるとよい.通常結膜は縫合する必要はない.もちろん広角観察システムを用いれば周辺処理はより容易である.部内境界膜も一緒に.離されることが多く,染色することでその境界がわかりやすくなる(図8).間違っても内境界膜が除去された部位を鉗子で把持するようなことがないようにしたい.なお,黄斑上膜はこれらの染色剤では染色されないので,黄斑上膜の除去後に内境界膜を染色する必要がある.2.黄斑円孔黄斑円孔の手術は基本的に黄斑上膜の手術とよく似ているが,人工的後部硝子体.離の作製を必要とすることが多い.後部硝子体.離作製はstage3までの黄斑円孔で必要であるが,硝子体カッターの吸引量が少ないので,20ゲージの場合に比べ若干むずかしいと感じることもあるかもしれないが,視神経乳頭付近から問題なく後部硝子体.離を起こすことができる.トリアムシノロンを用いて硝子体を可視化すればより容易に行える.ただし,トリアムシノロンが円孔底に残ってしまうと網膜色素上皮萎縮の原因となる可能性があるので,視神経乳頭付近のみに少量散布してすべて吸引するようにするとよい(図9).MIVSでは吸引量が少ないので後部硝子体.離作製時に医原性網膜裂孔を生じにくいが,黄斑円孔症例では硝子体と網膜の癒着が強いことがあり注意が必要である.後部硝子体.離を作製する際には,広角観察図8内境界膜.離黄斑上膜.離後にインドシアニングリーンにて染色すると,内境界膜の残っている部位のみが染色される.図9後部硝子体.離の作製少量のトリアムシノロンアセトニドを散布し,硝子体カッターで後部硝子体.離を起こす.196あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(42)3)OkamotoF,OkamotoC,SakataNetal:Changesincornealtopographyafter25-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomyversusafter20-gaugestandardvitrectomy.Ophthalmology114:2138-2141,20074)KadonosonoK,YamakawaT,UchioEetal:Comparisonofvisualfunctionafterepiretinalmembraneremovalby20-gaugeand25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol142:513-515,20065)YamaneS,KadonosonoK,InoueMetal:Effectofintravitrealgastamponadeforsuturelessvitrectomywounds:Three-demensionalcornealandanteriorsegmentopticalcoherencetomographystudy.Retina,inpress6)OshimaY,KadonosonoK,YamajiHetal:Multicentersurveywithasystematicoverviewofacute-onsetendophthalmitisaftertransconjunctivalmicroincisionvitrectomysurgery.AmJOphthalmol150:716-725,2010おわりに視機能向上を目的とする黄斑疾患の硝子体手術においては,MIVSはとても良い適応であり,網膜硝子体手術における低侵襲手術の代名詞ともいえる.それゆえに,少なからず存在する術後眼内炎をはじめとする術後合併症に対する適切な対策を講ずることは,今後ますます重要な課題となるであろう.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1813,20022)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrectomy.Retina25:208-211,2005

網膜静脈閉塞症黄斑浮腫の治療

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIBRVOの黄斑浮腫1.自然経過BRVOの黄斑浮腫では出血の吸収や黄斑浮腫の自然軽快によって無治療でも視力改善がみられることはまれではない.1980年代に行われた多施設共同前向き無作為化試験であるBVOS(Branchveinocclusionstudy)1)では3カ月の経過観察が推奨されている.BRVOの黄斑浮腫の自然経過での視力予後は初診時の状態に大きく関係している.Rehakら2)のreviewによれば自然経過では初診時視力が20/50(0.4)以上のものでは最終視力が20/50以上であったものが約90%で,20/200(0.1)以下となったものは0~5%程度である.逆に初診時視力が20/200以下のものでは最終視力が20/50以上になはじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)では高率に黄斑浮腫を合併し,視力低下,変視症など視機能低下のおもな原因となる.RVOに合併した黄斑浮腫に対して長年にわたり,さまざまな治療が試みられてきたが,有効性が確実とされているのは網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)に対する黄斑光凝固のみであり,それも十分満足な治療効果を上げているとは言い難く,いまだに治療方法は確立されていない.しかし,最近では硝子体手術,ステロイドや抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬など,新しい有望な治療が開発されてきている.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による黄斑浮腫の定量的診断が可能になったことも治療法の検討に大いに貢献している.本稿では,網膜静脈閉塞症黄斑浮腫の治療に関してのこれまでと現在の概要を述べる.いうまでもないことだが,RVOにはBRVOと網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)がある.BRVOとCRVOでは発症機序,自然経過,治療に対する反応などが異なるため,本来分けて考えるべきである.網膜静脈の上半分あるいは下半分が閉塞するhemi-CRVOとよばれる状態もあるが,閉塞部位と血流の状態によってBRVOあるいはCRVOに準じて扱えばよい.(29)183*MunenoriYoshida:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕吉田宗徳:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):183.190,2011網膜静脈閉塞症黄斑浮腫の治療TreatmentforMacularEdemaDuetoRetinalVeinOcclusion吉田宗徳*表1BRVOにおける初診時視力と最終視力の関係最終視力20/200以下の症例の初診時視力著者>20/50<20/200c2検定(p<0.05)GutmanMagargal5%(1/20)0%(0/35)50%(6/12)83%(24/29)SignificantSignificant最終視力20/50以上の症例の初診時視力著者>20/50<20/200c2検定(p<0.05)GutmanMagargal90%(18/20)89%(31/35)33%(4/12)14%(4/29)SignificantSignificant最終視力は初診時の視力と強い相関を示す.(文献2より改変)184あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(30)を亢進させる因子を取り除き,術後も硝子体が房水に置換されることにより,それらの物質が蓄積しにくくなる,3)硝子体が房水に置き換わって硝子体腔の酸素分圧(PaO2)が上昇し,網膜血管を収縮させる,などの機序が考えられている.このような硝子体手術は有効であるとの報告が多くみられ2),筆者の経験でも有効例が多く存在する.しかし,今のところ症例数や無作為化などのスタディデザインに問題があり,十分なエビデンスの確立に至っていない.そのほかBRVOに対する硝子体手術として行われている手術に網膜動静脈交差部血管外膜切開術(A-Vsheathotomy)がある.動静脈交差部では動脈と静脈は外膜を共有しており,BRVOでは動脈硬化などによって外膜を介して静脈に変形が加わり,血栓が起こりやすくなっていると考えられる.A-Vsheathotomyは硝子体手術を行い,ナイフを用いて動静脈の外膜を切開し,動脈と静脈を切り離す手術である.一見大変むずかしい手術のようだが,コツをつかめばそれほど困難ではなく,合併症も少ない.この手術に関しては著効するという報告とほとんど効果がないという報告のどちらも存在し,いまだに決着していないが,筆者らは有効性を疑問視しており,最近では行っていない.c.薬物治療薬物治療はこの数年BRVOによる黄斑浮腫の治療で最も進歩した部分と思われる.特に硝子体への薬剤注入が行われる.ステロイドと抗VEGF薬の硝子体内投与は近年広く行われるようになってきていて,国内でも今後の市販化に向けての治験が続々と行われつつある.これらの薬剤が出そろってくるころにはBRVOの黄斑浮腫治療の主流になることが予想される.1)ステロイドステロイドではトリアムシノロンアセトニド(TA)が最も多く使用されている.TAの硝子体内注射は4.8mg程度が投与されることが多い.TAの硝子体内注射によって多くの症例で黄斑浮腫の軽減がみられ,視力も改善する(図1)ことが多いように思われ,実際そのような報告が多数存在する.しかし一方,SCOREstudyとよばれる多施設研究では411例に対して標準治療(黄斑光凝固あるいは経過観察)と1mgあるいはるものは14~33%であり,最終視力が20/200以下のものは50~83%である(表1).この結果から自然経過での改善,悪化率をいうことはできないが,おそらく初診時0.4以上のものは自然経過で極端な悪化をみることはまれであることがわかる.逆に初診時視力が0.1以下のものは自然経過では改善を期待することはむずかしい.どの時点で治療に踏み切ればよいかということは重要かつ困難な問題である.BVOSでいわれているように3カ月待つとすると,確かに自然軽快する症例も出てくるが,逆に悪化する例もあるし,よりよい視力予後を求めるのならばより早く治療を開始したほうがよいのではないかとの考えもある.今後の研究で明らかにされなければならない問題であり,今のところ筆者は初診時視力が0.5以上のものは3カ月経過観察とし,その間に改善のないものは治療,初診時視力が0.4以下のものは3カ月にこだわらず早めに治療を考えることを基本方針としている.2.黄斑浮腫の治療a.黄斑光凝固BVOSでは3カ月以上続いた黄斑浮腫で視力20/40(0.5)以下の症例で黄斑格子状(grid)光凝固が有効であったと結論している.光凝固を施行するにあたっては蛍光眼底造影を行い,視力低下の原因となる黄斑虚血や中心窩出血などがない場合漏出部位に対し光凝固を行うよう勧めている.しかし,この結果では視力2段階以上の改善率が治療群63%,非治療群36%で,治療群の視力改善度は平均1.33ラインであり,対照群の0.23と比べて有意差はあるが,十分なものとはいえない1).ここでいう光凝固とは,あくまでも黄斑への格子状光凝固であり,出血部位,もしくは虚血網膜への光凝固ではない.b.硝子体手術BRVOに対する硝子体手術は人工的後部硝子体.離を作製し,硝子体を切除する単純硝子体切除が基本である.さらにそれに内境界膜(ILM).離を併施する場合もある.硝子体手術が奏効する理由として,1)黄斑部への硝子体牽引が解除できる,2)硝子体中に高濃度で存在すると考えられるVEGFなどの炎症や血管透過性(31)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011185a:治療前.静脈閉塞領域および黄斑部に強い浮腫がみられる.b:TA4mg硝子体内注射後2カ月.浮腫はほとんど消失した.図1BRVOの黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド(TA)の治療効果186あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(32)心窩網膜厚も有意に改善したと報告している7).抗VEGF薬の場合,ステロイドと比較すると眼圧上昇や白内障の合併は有意に少ないが,効果の持続がほぼ1カ月程度しかないため,再発を防ぐには頻繁に再投与を行わなければならないのが大きな欠点である.今後,再投与の時期や基準をさらに検討する必要があるだろう.ステロイドと抗VEGF薬のどちらを使用すべきか,現時点では決めることがむずかしい.治療効果にはさほどの差はないのではないかと考えると,眼圧上昇のリスクが高い患者,白内障を避けたい若年者では抗VEGF薬,治療回数が負担になる患者にはステロイドがよいかもしれない.3.網膜光凝固に関して黄斑浮腫の治療とは直接関係ないが,BRVOに対する光凝固に関して少し述べる.BRVOの治療では,従来静脈閉塞域に網膜光凝固が行われてきた.これは網膜の無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)に対する治療として,あるいは浮腫の軽減,出血の吸収促進などの目的で行われたものであるが,早期の光凝固はあまり治療的には意味がないばかりか,レーザーが出血に吸収されて網膜内層を傷害するし,炎症を惹起してかえって黄斑浮腫を増悪させることがあるので行うべきではない.しかし,広範なNPAのある症例(目安として直径が5乳頭径以上)では高率に網膜新生血管を生じ,硝子体出血の原因となるため,その予防としての光凝固は考慮してもよい.一般にはNPAがあっても新生血管が生じるまでは経過をみてもよいとされているが,光凝固で新生血管のリスクは40%から20%と半分に下げられるので,特に高齢者などで頻繁に経過をみられない可能性がある場合には光凝固を考慮すべきではないかと考えている.先にも述べたが,あまり早期に光凝固をすることは害になるばかりである.新生血管が生じる時期は大半の例でBRVOの発症後6.12カ月してからなので,その間にまず黄斑浮腫をしっかりと治療し,一段落したところで光凝固を検討するのがよい.虚血部位の判定には蛍光眼底造影(FA)が必要だが,FAもあまり発症初期よりは少し出血が吸収してからのほうがNPAの判定が容易である.4mgのTA硝子体注射治療を比較している.それでは12カ月後の結果において3つの群の間に有意差はなかったとしている3).もう一つのステロイド薬として,デキサメタゾンの硝子体インプラントがある.これは水溶性ステロイドであるデキサメタゾンを基材と結合させ,固形のペレット状にしたもので,眼内で徐々に崩壊し,長期にわたって少しずつデキサメタゾンを放出する.この薬剤は22ゲージの太さをもつ専用の挿入器によって投与される.これは米国ではすでにOzurdexRとして市販されていて,わが国でも治験の最終段階を実施中である.論文になっている海外での治験(GENEVAstudy830例)の結果をみると,デキサメタゾンインプラントの投与(350μgあるいは700μg)によって,投与後30.90日において有意にシャム治療(注射のまねをする)に対して視力改善効果がみられ,視力悪化例は減少した.視力改善までの日数も短縮したとあり4),期待できるのではないかと思われる.どちらの薬剤を使用するにせよ,ステロイド硝子体内注射は合併症として白内障と眼圧上昇をかなりの割合で起こす.筆者らの施設でのTA4mg投与例での検討(対象はBRVOに限らない)では,中等度以上の眼圧上昇は21%の症例で起こった5).眼圧上昇は一時的で,ほとんどが点眼でコントロール可能であった.眼圧上昇は投与後1.2カ月してから起こることも多いので,経過観察は重要である.後.下白内障の進行は18%でみられ1年後に白内障手術が必要となった例が11%あった6).2)抗VEGF薬BRVOの黄斑浮腫に対して抗VEGF薬は効果があるとされる.ベバシズマブ(AvastinR)を用いた研究では視力改善,黄斑浮腫の軽減効果が報告されている2).ある報告によればその程度はTAとほぼ同等であった.ラニビズマブ(LucentisR)を用いたBRVOの黄斑浮腫に対する海外での治験第3相試験の結果が最近発表された.BRAVOとよばれるこの治験ではラニビズマブによる治療後6カ月のETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)視力が16.6文字あるいは18.3文字改善(それぞれラニビズマブ0.3mgまたは0.5mg投与)であって,自然経過の7.3文字よりも有意に改善し,中(33)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011187底造影で10乳頭面積以上のNPAがあるものを虚血型とすることが多いが,同じ虚血型でもNPAが広いもののほうがより予後不良である.虚血型CRVOの特徴として視力が悪い(0.1以下),出血が多い,黄斑浮腫が強い,求心性瞳孔反応障害(RAPD)陽性,ERG(網膜電図)のb波低下(60%以下),Goldmann視野計での視野異常などがあり,このような所見をみたらただちに蛍光眼底造影を行うべきである.初診時CRVOの3/4は非虚血型であるが,非虚血型CRVOのうち1/3は3年以内に虚血型に移行するので注意しなければならない(図2).虚血型CRVOではかなり高率(16.52%)に隅角・虹彩ルベオーシスを起こし,血管新生緑内障の危険がある.血管新生緑内障になると予後はきわめて不良である.3.黄斑浮腫の治療CRVOの黄斑浮腫の治療に関しては,BRVOとアプローチはほぼ同じであるが,結果はやや異なる.a.黄斑光凝固最も有名な研究であるCVOS(CentralVeinOcclusionStudy)によればBRVOとは異なり,CRVOでは黄斑部光凝固施行群と非施行群で治療後の視力に有意差はなかった.IICRVOの黄斑浮腫1.CRVOの自然経過CRVOの場合にも自然経過ではBRVOと同様に初診時の視力が最終視力と相関する.初診時視力が20/200(0.1)以下の症例では80%が最終視力も20/200以下にとどまる.初診時視力が20/50(0.4)以下の症例では視力が改善する率が19%であるのに対し,悪化率は37%に上る(表2).BRVOと同じく,視力0.5ぐらいが経過観察するかどうかの分かれ目になるだろう.また,両眼発症,若年発症例などでは糖尿病,過粘稠症候群,抗リン脂質抗体症候群などの全身疾患,緑内障,網膜血管炎などの眼科的異常の合併にも気をつける.2.虚血型と非虚血型CRVOCRVOは網膜虚血の強い虚血型CRVOとあまり網膜虚血の強くない非虚血型CRVOに分けられる.蛍光眼表2CRVOにおける初診時と最終視力の関係初診時視力最終視力<20/20080%が<20/200以下20/50~20/20019%改善44%不変37%悪化(文献8より改変)ab図2経過観察中に非虚血型から虚血型CRVOに変化した症例a:初診時.網膜無灌流域はみられない.b:6カ月後.広範な網膜無灌流域がみられる(矢印).188あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(34)し,篩状板,強膜輪の減張を行うのが目的である.その後の研究でRONの減張効果そのものが疑問視され,今ではあまり行われていない.c.薬物治療1)ステロイドSCOREstudyではCRVO271眼に対し,TA1mg,4mgを硝子体注射した群と標準治療(この場合は経過観察のみ)群を比較し,12カ月の時点で15文字以上の視力改善のみられた症例の比率を比較している.その結果は27%,26%,7%で,治療群で有意に改善率が高かった8).デキサメタゾンインプラントのGENEVAstudyではCRVO437例を対象とし,デキサメタゾンインプラントによる治療成績を検討しているが,やはり治療後30.90日では治療群で有意に改善がみられた4).2)抗VEGF薬ベバシズマブ,ラニビズマブで治療した結果はおおむb.硝子体手術BRVOと同じように単純硝子体切除+後部硝子体.離作製(+ILM.離)は黄斑浮腫の軽減に効果があると考えられる.しかし,視力の改善効果は限定的なようである.硝子体手術のオプションとして放射状視神経乳頭切開術(radialopticneurotomy:RON)がある.これは硝子体手術時にナイフを用いて視神経乳頭の一部を切開図3CRVOの黄斑浮腫に対するアバスチンの治療a:治療前OCT像.著明な黄斑浮腫がみられる.矯正視力VA=(0.06).b:治療1週間後.浮腫は明らかに軽減している.VA=(0.05).c:治療5週間後.浮腫が少し再発.VA=(0.1).d:治療8週間後.さらに浮腫が悪化傾向.再治療.VA=(0.09).e:再治療後1週間.浮腫が改善.VA=(0.2).f:再治療後5週間.浮腫変化なし.視力やや改善.VA=(0.3).abcdefあたらしい眼科Vol.28,No.2,2011189ね良好であることが報告されている.筆者らの経験でもベバシズマブは著効例が多かったが,頻回に再治療しないと再発してしまうのが問題である(図3).CRUISEstudyとよばれる研究では392例のCRVOによる黄斑浮腫症例を対象とし,ラニビズマブによる治療後6カ月の結果を報告している.この結果ではラニビズマブ0.3mg,0.5mg,シャム群において6カ月後の平均ETDRS視力がそれぞれ12.7文字,14.9文字,0.8文字の改善となり,治療により2.3段階程度の改善がみられたことになる9).現在,VEGF-trapeyeRとラニビズマブがCRVOの黄斑浮腫の治療薬としてわが国で認可を受けるべく治験が行われている.3)組織プラスミノーゲン活性化因子(tissue-plasminogenactivator:t-PA)t-PAはプラスミノーゲンを活性化し,生成されたプラスミンがフィブリンを溶解するため,血栓溶解の働きをもつ.最近t-PA,特に新世代のt-PAがCRVOの黄斑浮腫に対して有効であるとの報告がある.しかし,t-PAの作用機序には不明な点もあり,治療効果に関してもまだ十分なエビデンスがあるとはいえない4.その他の治療CRVOの黄斑浮腫に対するその他の治療として,網膜静脈に直接t-PAを注入する方法や,レーザーなどによって網膜と脈絡膜の静脈を吻合させる方法などがある.これらの治療は有効であるとする報告もあるが,わが国ではあまり行われていない.5.虚血型CRVOに対する光凝固についてこれも直接黄斑浮腫の治療とは関係ないが,大切なことなので述べておく.CVOSでは虚血型CRVOに対して汎網膜光凝固(PRP)を行っても完全には隅角新生血管を予防できないこと,隅角新生血管ができてしまってもすぐに光凝固を行えば新生血管が消退する例がかなりあり,結果的に予防的なPRPを行っても行わなくても血管新生緑内障(NVG)の発症率に有意差がないので,活動性のある隅角新生血管を認めたときのみ光凝固を行うのがよいと述べている10).しかし,CVOSのような条件で良い結果を得るにはかなり頻回に隅角検査をする必要があると思われる.日常診療では,特に高齢者など十分な頻度で隅角検査ができず,知らないうちに悪化させる可能性もある.しかも,いったんNVGになると予後が非常に悪い.有意差はないものの予防的光凝固を行ったほうがNVGの発症は少ないわけでもあり,虚血型と診断した時点で早めに予防的な光凝固を施行しておいたほうがよいのではないかと考えている.ただ,今後抗VEGF薬での治療が一般的になると,抗VEGF薬で治療を続ければ相当の虚血があっても隅角新生血管や血管新生緑内障に進展しない可能性もある.今後の研究結果が待たれる.おわりにRVOの黄斑浮腫の治療の現状をみてきたが,現時点ではまだ治療法が十分確立しているとはいえない.今後も薬物治療を中心に,治療方針にかかわるような新しいエビデンスの構築がなされていくのは確実であろう.しばらくはこの分野から目が離せない.RVOにおいて黄斑浮腫は視力障害のおもな原因であるが,黄斑浮腫の治療のみにとらわれることなく,RVOという疾患全体をしっかりケアすることも忘れてはならない.文献1)Argonlaserphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclusion.BranchVeinOcclusionstudygroup.AmJOphthalmol98:271-282,19842)RehakJ,RehakM:Branchretinalveinocclusion:pathogenesis,visualprognosis,andtreatmentmodalities.CurrEyeRes33:111-131,20083)ScottIU,IpMS,VanVeldhuisenPCetal:Arandomizedtrialcomparingtheefficacyandsafetyofintravitrealtriamcinolonewithstandardcaretotreatvisionlossassociatedwithmacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusion:theStandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)studyreport6.ArchOphthalmol127:1115-1128,20094)HallerJA,BandelloFB,BelfortJrRetal:Randomized,sham-controlledtrialofdexamethasoneintravitrealimplantinpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.Ophthalmology117:1134-1146,20105)永井博之,平野佳男,吉田宗徳ほか:硝子体内薬物注射に伴う合併症の検討.臨眼64:1099-1102,20106)吉村将典,平野佳男,野崎実穂ほか:トリアムシノロン局(35)190あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011所投与後の後.下白内障の発症頻度.日眼会誌112:786-789,20087)CampochiaroPA,HeierJS,FeinerLetal:Ranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion.Ophthalmology117:1102-1112,20108)TheCentralVeinOcclusionStudyGroup:NaturalHistoryandClinicalManagementofCentralRetinalVeinOcclusion.ArchOphthalmol115:486-491,19979)IpMS,ScottIU,VanVeldhuisenPCetal:Arandomizedtrialcomparingtheefficacyandsafetyofintravitrealtriamcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithmacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:theStandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)studyreport5.ArchOphthalmol127:1101-1114,200910)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion.Ophthalmology117:1124-1133,201011)Arandomizedclinicaltrialofearlypanretinalphotocoagulationforischemiccentralveinocclusion.TheCentralVeinOcclusionStudyGroupNreport.Ophthalmology102:1434-1444,1995(36)

糖尿病黄斑浮腫の治療

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY性炎症や硝子体牽引が複雑に絡み,複雑な病態を呈していると予想されている.実際,糖尿病黄斑浮腫では蛍光眼底造影においても,光干渉断層計(OCT)像においても,さまざまなパターンをとることが知られており,このことが治療選択をさらにむずかしくしている.本稿では糖尿病黄斑浮腫の病態を念頭に,現時点で最良というべき治療法の選択について述べてみたいI糖尿病黄斑浮腫の病態糖尿病黄斑浮腫という網膜組織での浮腫が起こるためには,網膜黄斑部に水分の異常な停滞が認められなくてはいけない.このためには1.黄斑部での水分の供給過剰2.黄斑部での水分の排出障害3.黄斑部の器械的進展による水分うっ滞のいずれかあるいは全部が起こっていると考えられる.組織への水のあふれ方を風呂釜に例えると1.蛇口からの水量が増えてあふれる2.排水管が詰まってあふれる3.風呂釜が壊れてあふれるということになる(図1).それでは,それぞれの起こりうる病態について考えてみよう.1.黄斑部での水分の供給過剰水道の蛇口からの水量が増えることだが,黄斑部へのはじめに糖尿病網膜症の病態が,高血糖による血管内皮細胞の慢性障害によって網膜内の微小循環障害がもたらされ,その結果ひき起こされた網膜虚血が構造的に脆弱な新生血管を出現させ,新生血管の破綻と器質化が増殖性変化を進行させるということが判明して以来,網膜虚血を解除する目的で網膜光凝固が広く普及し,糖尿病網膜症の増殖網膜症への進行を予防することが可能となってきた.また,やむを得ず増殖網膜症に進行したとしても,硝子体手術によって解剖学的復位を得ることができるようになり,糖尿病網膜症による失明は予防できる時代になっている.一方,網膜症は中等度であり失明に至ることはほとんどないものの,網膜のなかでも中心視力を司る黄斑部に浮腫を生じることで高度の視力低下をひき起こす糖尿病黄斑浮腫の存在がクローズアップされるようになってきた.糖尿病黄斑浮腫とは“糖尿病網膜症を基礎疾患として黄斑部に生じる組織浮腫”のことである.周知のごとく黄斑部は網膜のなかでも神経が密集し,視力に直接影響する部位であるため,黄斑部での浮腫は直接視力低下に結びつく.したがってその治療はわれわれ眼科医にとっての最重要課題というべきものであるが,その発症機序は不明な点が多く,現時点でも決定的なものはない.網膜全体ではなく黄斑部にのみ浮腫が出現することは,黄斑部の組織特異性が影響しているものと考えられるが,さらに糖尿病網膜症という網膜微小循環障害と慢(19)173*MasahikoShimura:NTT東日本東北病院眼科〔別刷請求先〕志村雅彦:〒984-8560仙台市若林区大和町2-29-1NTT東日本東北病院眼科特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):173.182,2011糖尿病黄斑浮腫の治療Up-To-DateTreatmentsforDiabeticMacularEdema志村雅彦*174あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(20)き起こすような状態では,黄斑部網膜が牽引性肥厚を呈し浮腫を誘導する.このように糖尿病黄斑浮腫はさまざまな病態が複雑に絡んでいる可能性があるため,個々の病態について把握してからでなければ適切な治療選択はできない.一方,われわれ眼科医にとって黄斑浮腫の診断に有用な検査は,循環動態を把握する蛍光眼底造影検査(FA)と,形態異常を描出するOCTの2つである.したがってこの2つを組み合わせて,いかに糖尿病黄斑浮腫の病態を捉えるかが治療のカギとなってくる1).II糖尿病黄斑浮腫の蛍光眼底造影像糖尿病黄斑浮腫の蛍光眼底造影像の特徴は蛍光漏出が黄斑部に認められることであり,大きく分けて以下の3パターンになる(図2).1.局所漏出2.びまん性漏出3.花弁状漏出(中心窩)および蜂巣状漏出(傍中心窩)である2)局所漏出は,網膜血管の局所から血漿成分が漏出した状態であり,網膜毛細管瘤の存在を示唆するものと考えられる.このような病態に対しては網膜毛細管瘤への直接的な局所光凝固が有効であるとされている.びまん性漏出は,網膜血管内皮のバリア破綻による網膜血管の透過性亢進,あるいは炎症に伴う網膜組織への水分貯留を示唆するものと理解されている.いわゆるびまん性黄斑浮腫とよばれるタイプであり,格子状光凝固は有効とされているものの,臨床的に満足のいくレベル水道すなわち血管は大きく分けて2つしかない.網膜血管と脈絡膜血管である.いずれの血管もbloodretinalbarrierとよばれる血液眼関門によって供給調整がされている.これが破綻すると黄斑部に水分が異常に流れ込み黄斑浮腫を呈するのであるが,糖尿病による高血糖によって網膜血管の内皮細胞が障害され,バリア機能を有する内皮細胞間隙が破壊される「血管透過性亢進」と,糖尿病網膜症に伴う新生血管や微小毛細管瘤といった「異常血管からの漏出」がこれに当たる.脈絡膜血管そのものが糖尿病によって影響を受けることは多くはないが,脈絡膜と網膜の間に存在するバリア機能を有する網膜色素上皮の機能が低下して「漿液性網膜.離」を伴う浮腫を呈することがある.2.黄斑部での水分の排出障害下水管の詰まった状態であるが,これには障害された血管から漏出した血漿蛋白が黄斑部の組織間隙の膠質浸透圧を上昇させ,さらに水分を引き込んで浮腫が増悪する場合と,慢性炎症による網膜細胞膜への機能的障害によって細胞浮腫が惹起され,細胞間質の膨化が浮腫を増強させる場合が考えられる.また,網膜色素上皮細胞は網膜内に貯留した水分を脈絡膜側に排出するポンプ機能を備えているが,このポンプ機能が低下することで浮腫が増強する場合もある.3.黄斑部での器械的進展による水分うっ滞風呂釜そのものの構造が器械的に変動するような状態である.すなわち糖尿病網膜症によって硝子体が器質化し,後部硝子体膜と黄斑部網膜の癒着を伴って牽引をひabc図1風呂釜から水が漏れるには(黄斑浮腫が起こるには)…a:給水量が増える(血管からの漏出),b:排出量が制限される(ポンプ機能の障害),c:風呂釜が壊れる(器質的な変化).(21)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011175亢進というよりは組織での水分貯留を主体とする病態と考えられるため,抗VEGF抗体よりは抗炎症ステロイドが有効であると考えられる.III糖尿病黄斑浮腫のOCT像糖尿病黄斑浮腫のOCT像の特徴もまた,以下の3パターンに大別される(図3).1.スポンジ状浮腫2..胞様浮腫3.漿液性.離である3).とは言いがたい.いくつかの病態を合併していることも多く,単一の病態を反映しているとは考えにくいため治療に苦慮することが多いが,近年では硝子体手術や硝子体内薬物投与によってある程度の改善が報告されている.花弁状漏出は黄斑部中心窩における外網状層での水分貯留でありMuller細胞をはじめとする網膜細胞の浮腫を,蜂巣状漏出は傍中心窩の内網状層,いわゆるHenle線維層での水分貯留を反映しているとされるが,ともに境界明瞭な貯留パターンを示すことから,細胞あるいは細胞間隙での水分停滞と考えられている.血管透過性のabcd図2FA画像による糖尿病黄斑浮腫の分類a:局所漏出,b:びまん性漏出,c:花弁状漏出,d:蜂巣状漏出.abc図3OCT画像による糖尿病黄斑浮腫の分類a:スポンジ状浮腫,b:.胞様浮腫,c:漿液性.離.176あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(22)この3パターンのほかに硝子体牽引が認められる糖尿病黄斑浮腫もあるが,自然経過による後部硝子体.離の結果,解除されることもある.前述したとおり,もちろん糖尿病黄斑浮腫はさまざまな病態が絡み合うため,複合した浮腫として捉えられることが多く,臨床現場で明確に分類できることは少ない(図4).したがって,病態の主たる特徴を捉えるのに有用と考えるべきである.IV糖尿病黄斑浮腫の治療糖尿病黄斑浮腫の治療には現在外科的治療法と保存的な治療法がある.外科的治療法1.局所光凝固2.格子状光凝固3.硝子体手術保存的治療法1.トリアムシノロンアセトニド(以下,トリアムシノロン)・局所投与スポンジ状浮腫は,黄斑浮腫のなかで最も頻繁に認められる形態であり,糖尿病黄斑浮腫では60.90%の症例に認められる.傍中心窩から周中心窩にかけ,内網状層には小さな,外網状層には比較的大きな.胞様間隙が認められるため,網膜血管のバリア破綻から組織間隙への水分貯留の移行段階と思われる..胞様浮腫は,Muller細胞に代表される網膜内の細胞が極度に腫脹,あるいは網膜全層に著しく水分貯留が起きている病態と考えられる.網膜血管の透過性亢進が病変の主体とは考えにくく,スポンジ状浮腫を伴えば遷延化した病態が,伴わなければ急激に水分貯留がひき起こされる病態が考えられる.漿液性.離は網膜色素上皮(RPE)細胞のバリア機能の破綻による脈絡膜側からの水分漏出も考えられるが,糖尿病黄斑浮腫では細胞間隙の水分がRPEのポンプ機能によって吸収される過程で機能不全を起こしたものと考えられる.したがって,多くの場合スポンジ状浮腫や.胞様浮腫を伴っており,単独で出現することはまれである.abcde図4実際の臨床現場でみられる典型的な糖尿病黄斑浮腫のOCT画像と治療方針a:スポンジ状浮腫+.胞様浮腫.トリアムシノロンTenon.下投与.b:スポンジ状浮腫+漿液性.離.アバスチンR硝子体内投与.c:スポンジ状浮腫+.胞様浮腫+漿液性.離.トリアムシノロンTenon.下+アバスチンR硝子体内投与.d:牽引性浮腫.硝子体手術(内境界膜.離)e:牽引性浮腫+スポンジ状浮腫+.胞様浮腫.硝子体手術(内境界膜.離)+トリアムシノロンTenon.下投与.(23)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011177細胞を活性化させ視機能を改善させるという説,熱障害を受けた網膜から反応性に神経保護因子などが分泌され浮腫が改善するという説などが考えられているが,その治療メカニズムがいまだにわかっていない治療法でもある.光凝固が不可逆的な障害を網膜にもたらすことを考えると,現時点では第一選択とはなりにくいが,その簡便さゆえ,世界的にはいまだに第一選択とされている.しかし,浮腫組織への照射は光凝固出力を上げる必要があり,術後の網膜萎縮や炎症誘発のため,視機能,特に視野感度が低下する危険性が指摘されている.このような症例に対し,マイクロダイオードレーザーを用いて出力を極力抑える照射法や,視神経乳頭-黄斑神経線維を回避して照射する照射法,後述する保存的治療を先行し浮腫を消退させてから格子状光凝固を照射する方法など,術後の視機能低下を予防しようという試みがなされている.特にトリアムシノロンをTenon.下に投与して黄斑浮腫を改善させてから格子状光凝固を施行すると,照射出力を有意に低下でき,術後の視野感度低下を予防しうることが報告されている4).保存的治療では再発をくり返し十分な治療効果が得ら2.抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体(アバスチンR)局所投与1.外科的治療法a.局所光凝固網膜毛細管に発症した微小血管瘤を直接凝固することで,この部位からの漏出を抑制し黄斑浮腫を改善させる目的で行う.いわゆるcircinateretinopathyとよばれる放射状に硬性白斑が認められる糖尿病黄斑浮腫に有効である.黄斑浮腫が著明な場合は光凝固しにくいため,可能であれば浮腫が軽微な状態,すなわち視力低下が起こる以前において積極的に施行されるべきである.微小血管瘤は直視下では発見しにくいため,蛍光眼底造影の早期像を参考にするとよい(図5).b.格子状光凝固最も古くから用いられていた糖尿病黄斑浮腫の治療法であり,エビデンスを有する唯一の治療法でもある.脈絡膜から視細胞への栄養供給を司る網膜色素上皮に熱傷害を加えて,血液-網膜柵を障害することで視細胞への栄養供給を増やすという説,浮腫によって虚血状態に陥った視細胞を選択的に破壊して減らすことで残存する視abcd図5微小血管瘤への直接局所光凝固a:放射状の硬性白斑を伴う糖尿病黄斑浮腫.b:網膜微小毛細管瘤からの局所漏出を示す.c:蛍光眼底造影(FA)早期像にて漏出点が明瞭に描出されている.d:選択的局所光凝固後.178あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(24)一方,硝子体の除去は眼内の酸素分圧を上昇させることも判明し虚血の改善という点においても有効であることがわかってきた.特に硬性白斑が黄斑部に集簇しているような症例では硝子体手術が有効であることが知られている.重症例では網膜切開のうえ,網膜下の硬性白斑除去を施行することもあるが,技術的難易度は高い(図7).さて,糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は普及された結果,術中に得られた硝子体サンプルの解析によってVEGFやIL(インターロイキン)-6,MCP(monocyteれない慢性化した糖尿病黄斑浮腫に試みる治療法として有効と思われる(図6).c.硝子体手術黄斑部が器械的に牽引を受けて浮腫を呈している場合は,外科的に牽引を解除する必要がある.硝子体手術は小切開無縫合の時代になり,黄斑部領域へのアプローチが容易になってきた.OCT像で牽引が著明な場合,あるいは網膜表面に線維膜が張って中心窩が失われているような場合は積極的に硝子体手術を施行してよいと思われる.技術的に可能であれば内境界膜.離を施行することで,黄斑部での牽引解除を確実にすることができる.図6治療に難渋していた糖尿病黄斑浮腫に対する格子状光凝固過去にアバスチンR硝子体内投与3回,トリアムシノロンTenon.下投与1回.格子状光凝固前VA=(0.2)CMT=478μm格子状光凝固(byPASCAL)格子状光凝固6カ月後VA=(0.5)CMT=181μmあたらしい眼科Vol.28,No.2,2011179chemotacticprotein)-1といった血管新生や炎症に関するサイトカインが高値を示すことが判明してきた.その結果,これらのサイトカインの活性を抑えることで糖尿病黄斑浮腫を保存的に治療しようとする試みがなされている.2.保存的治療法a.トリアムシノロン局所投与前述したように糖尿病黄斑浮腫では炎症性サイトカインが高値を示しているため,その病態の背景に炎症が存在することが考えられる.実際,抗炎症ステロイドである顆粒状のトリアムシノロンを硝子体内,あるいはTenon.下への局所投与の有効性が多くの施設で証明されてきた.硝子体内投与では27ゲージ針を用いて4mg/0.1mlを注入し,Tenon.下への投与は21ゲージ鈍針を用いて20mg/0.5mlを黄斑部強膜の近傍へ注入する.もともとはぶどう膜炎などの炎症性疾患に有効であったが,近年では糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性に対しても有効であるとの報告が相次いでいる.抗炎症ステロイドが黄斑浮腫を改善するという事実は,黄斑浮腫という病態が炎症性疾患の側面を有していることを裏付けるものと考えられる.一方,あらゆる黄斑浮腫を改善させるというわけではなく,同じ疾患でも著効する症例と無効な症例がある.臨床研究では,OCT上,.胞様浮腫を呈する病態に有効性が高いことが判明している.これは,Muller細胞をはじめとする網膜内の細胞機能の低下や細胞間隙の水分貯留は炎症に起因する部分が多いことを示していると思われる.実際,虚血による細胞膜のポンプ機能低下をステロイドは保護するという基礎研究データも存在する.一方でトリアムシノロンが直接VEGFの分泌を抑制してバリア機能を維持するとする報告もあり,その薬理機序には不明な点も多い.トリアムシノロン投与は外来でも可能であり簡便であること,また即効性が高いことから臨床現場では積極的に投与されているが,残念なことに浮腫抑制効果が一時的な効果しかなく,投与後3.6カ月ほどで再燃することが多い.したがって,トリアムシノロンの投与そのものが根本的な治療法とはならず,あくまでも黄斑浮腫への対処療法と位置づけられている.したがって現在,反復投与の適応や外科的治療法との組み合わせが模索されている.(25)Pre-opeVA=(0.06)Post-1wkVA=(0.08)Post-3MVA=(0.15)a:術前b:術後1週間c:術後3カ月図7中心窩下硬性白斑を伴う糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術(硝子体切除,内境界膜.離,網膜下洗浄)180あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011ステロイドの合併症としての白内障進行や眼圧上昇は硝子体内投与では著明であり,さらに顆粒の残存による硝子体混濁や感染による眼内炎の発症の危険性を考慮すると硝子体内投与は減少傾向にある.その点,Tenon.下投与は安全に有効性を実感することができる.ただし,トリアムシノロンのTenon.下投与時の薬液漏れは有意に眼圧上昇をひき起こす可能性があり,正しく投与しなくてはならない5).コツは結膜を切開してTenon.を確実にさばき,強膜を露出させて投与針を確実に挿入することである(図8).b.抗VEGF抗体局所投与抗VEGF抗体の眼内注入は当初黄斑浮腫治療を目的としたものではなかった.近年の細胞生物学的研究の進歩によって眼内血管新生の責任分子がVEGFであることが明らかになり,眼内血管新生の抑制を目的として眼内投与が開始された.抗VEGF抗体にはpegaptanib(マクジェンR)やranibizumab(ルセンティスR)がわが国では認可されているが,加齢黄斑変性のみにしか適応をもたないため,糖尿病黄斑浮腫治療に用いることはできず,その他の疾患においては,転移性結腸癌を適応としながら眼内使用が未認可のまま世界的に広まったbevacizumab(アバスチンR)がおもに用いられている.したがって糖尿病黄斑浮腫の治療には,現時点ではアバスチンRが用いられている.VEGFが黄斑浮腫治療のターゲットとなった背景には,黄斑浮腫症例に対する硝子体手術から得られた硝子体中VEGF濃度の上昇という臨床的な知見と,血管内皮細胞に存在する2つのVEGF受容体の働きによって炎症細胞を誘導し(VEGFR-1),MCP-1やICAM-1(intercellularadhesionmolecule-1)を活性化させて血管内皮細胞を遊走・分裂させる(VEGFR-2)ことで血管内皮細胞のバリア機能を破綻させている可能性があると判明したためである.さて,臨床現場で使用されるアバスチンRは1.25mg/0.05mlあるいは2.5mg/0.1mlを30ゲージ針を用いて清潔操作にて硝子体内に注射する.眼内での活性は4.5週間と考えられており,活性がなくなれば浮腫抑制効果はなくなると考えられる.したがってトリアムシノロン同様,黄斑浮腫への対症療法でしかなく,反復投与を要することが多い.糖尿病黄斑浮腫に対する浮腫軽減効果はトリアムシノロン投与との比較において限局的であり,有効期間も短い.生物活性製剤である抗体という特性と,多彩な原因が複雑に絡む糖尿病黄斑浮腫に対してVEGFの抑制に限定する治療であることを考えると妥当な結果であるが,トリアムシノロンと異なり眼圧を上昇させたり,白内障を進行させることがないという利点を有する.アバスチンR投与のよい適応症例は,びまん性かつスポンジ状浮腫の症例で,黄斑浮腫発症からの期間が短いほど有効性が高い.これは黄斑浮腫の発症機転を考えたとき,そのきっかけとなる血管壁の障害はおもにVEGFの増加に起因しているためであると思われる.浮腫発症から相当期間経た病態では,VEGFによる血管障害よりも,慢性化した病態として炎症性変化や器質性変化が主体となるためアバスチンRの効果が認められにくいと考えられる.ただし,浮腫発症時期を特定することは容易ではないため,アバスチンRを試験的に投与し,その効果を検証することで逆に発症時期を推定する(26)abc図8右眼糖尿病黄斑浮腫症例へのトリアムシノロンTenon.下投与の実際例a:上耳側結膜に切開を入れ,b:Tenon.を捌いて強膜を露出させ,c:強膜壁に沿って注入針を挿入する.あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011181という考え方もできる..胞様浮腫に対しては非常に有効な症例と,あまり有効でない症例の差が激しい.しかし,その回復過程をみると,いずれもスポンジ状浮腫が改善してから.胞様浮腫が回復を示していく.このことは.胞様浮腫がスポンジ状浮腫に比べてより進行した浮腫であることを示している可能性がある.漿液性.離を有する糖尿病黄斑浮腫に対しては,アバスチンRの浮腫改善効果はあまり認められない.これはトリアムシノロンも同様であり,漿液性.離を伴う糖尿病黄斑浮腫の治療のむずかしさを示している.漿液性.離の存在は予後不良を意味しているのかもしれない.アバスチンRもトリアムシノロンも投与しても漿液性.離が残存する症例に対しては硝子体手術が有効を示すことがある.アバスチンRを含め抗VEGF抗体治療はステロイド治療と異なり白内障の進行や眼圧の上昇という大きな合併症が報告されておらず,浮腫軽減効果をもう少し工夫する必要こそあるが,今後,各製薬会社が眼疾患領域で開発を競う分野であることは間違いない.しかしながら,VEGFが本来有する正常血管や神経細胞の恒常性維持の生理的作用も抑制することで,全身状態のコントロール不良な黄斑浮腫症例に対して施行した場合,黄斑虚血を起こす症例も報告されている.また,依然としてオフラベルの使用であるため,投与にあたっては十分注意が必要である.以上の議論を踏まえたうえで現時点での糖尿病黄斑浮腫に対する治療プロトコールの一案を図9に提示する.おわりに糖尿病黄斑浮腫は蛍光眼底造影(FA)によって,さまざまな循環動態の異常を示すことが知られていたが,OCTの出現によって,その形態もまたさまざまであることがわかってきた.同時に,トリアムシノロンとアバスチンRの登場は一時的にせよ浮腫の劇的な改善をもたらすことがわかり,糖尿病黄斑浮腫の病態解明と治療は近年飛躍的な進展をみせている.今後は,より詳細な分類をすることで治療選択の最適化を目指す方向にあるが,忘れてはならないことがある.「糖尿病黄斑浮腫はなぜ起こるか…それは糖尿病だから」ということである.糖尿病という全身疾患の把握なくして病態の解明にはつながらない.そういう意味で糖尿病黄斑浮腫の患者をみたら,最初に行うべきはFAでもOCTでもなく,糖尿病専門医との情報共有を行うことはいうまでもない.(27)局所光凝固硝子体手術経過観察OCT分類アバスチンR硝子体内投与アバスチンR硝子体内投与トリアムシノロンTenon.下投与トリアムシノロンTenon.下投与格子状光凝固……………………………………………………………………………………………………………………………………………….図9糖尿病黄斑浮腫の治療プロトコール182あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011文献1)志村雅彦:黄斑浮腫の治療.臨眼64:827-835,20102)OtaniT,KishiS:Correlationbetweenopticalcoherencetomographyandfluoresceinangiographyfindingsindiabeticmacularedema.Ophthalmology114:104-107,20073)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688-693,19994)ShimuraM,NakazawaT,YasudaKetal:Pre-treatmentofposteriorsubtenoninjectionoftriamcinoloneacetonidehasbeneficialeffectsforgridpatternphotocoagulationagainstdiffusediabeticmacularedema.BrJOphthalmol91:449-454,20075)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Drugrefluxduringposteriorsubtenoninfusionoftriamcinoloneacetonideindiffusediabeticmacularedemanotonlybringsinsufficientreductionbutalsocauseselevationofintraocularpressure.GraefesArchClinExpOphthalmol247:907-912,2009(28)

加齢黄班変性の治療

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在,わが国でおもに治療として用いられている光凝固療法,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)と抗VEGF療法について述べる.I光凝固療法レーザー光凝固療法は従来から行われている方法で米国のMacularPhotocoagulationStudyによりその有効性が確かめられ4,5),近年まで長い間治療の中心的存在であった.しかし,後述する光線力学的療法や抗VEGF療法などの新しい治療法の開発により適応症例は減少している.この光凝固療法はCNVを直接レーザーにて凝固するため,中心窩外や傍中心窩のCNVに対しては非常に有効であり,視力を向上させる効果もある.しかし,ほとんどの症例でCNVは中心窩下に認められることが多く,中心窩を含んで凝固すると著しい視力障害や中心暗点ができることは避けられないためレーザー光凝固が適応となる場合はきわめて少ない.実際には,中心窩外にあるCNVに対してCNVの辺縁を200μmのスポットサイズで,0.3~0.4秒,波長は黄色もしくは橙色で白色凝固斑が強くでるパワーで(250~350mW)凝固する.凝固斑は隣同士が少し重なりあうようにし,辺縁を凝固した後にその中を凝固する.CNVの凝固不足を確認するために光凝固後,2~4週間後に蛍光眼底造影を行い,凝固状態を確認し,不足しているようであれば追加凝固を行う(図1).はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,欧米をはじめとする先進諸国において中高齢の中途失明の主原因であり,近年ますます増加傾向にある.わが国においても近年増加傾向を示しており,福岡県久山町の地域住民を対象に行われている久山町スタディでは,その有病率は1998年からの9年間で0.9%から1.3%に増加していた.9年間でのAMD発症率は1.4%(男性2.6%,女性0.8%)で,特に男性においては欧米並みの発症率で,今後もさらに患者数の増加が危惧されるところである1,2).AMDは滲出型と萎縮型に大別されるが,滲出型は脈絡膜より発生する脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が網膜下および神経網膜に伸展し,CNVからの出血や滲出によって視力低下を招く予後不良のタイプである.萎縮型は脈絡膜血管が透見できる円形および楕円形の網膜色素上皮の低色素,無色素および欠損部位が認められるもので,緩徐に進行し網膜萎縮に至る.現在,萎縮病巣に対する治療法はない.滲出型に対する治療は,種々の治療が試みられてきたが,特効的に完治するものはいまだになく,行われなくなった治療も少なくはない.AMDのみならず,眼内血管新生には血管内皮細胞の分裂・増殖に大きな役割を果たす血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が重要な働きをしていることが知られている3).AMDの治療はその原因となっているCNVを閉塞,消退させることが目標となる.そこで,(11)165*YujiOshima:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕大島裕司:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):165.171,2011加齢黄斑変性の治療TreatmentofAge-RelatedMacularDegeneration大島裕司*166あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(12)わが国でのPDTの適応は中心窩下にCNVが存在するAMDである.眼底検査,蛍光眼底造影〔フルオレセイン蛍光造影(FA)およびインドシアニングリーン蛍光造影(IA)〕を行い病型診断,病巣最大径(greatestlineardimension:GLD)を測定,レーザー照射範囲を決定する.GLDには,CNV(classicおよびoccult),出血,網膜色素上皮.離(PED),蛍光ブロックとなる病変,および瘢痕病巣を含めたすべての病巣が含まれる.実際のレーザー照射範囲はすべての病巣をカバーするためにGLDに1,000μmを加えた範囲で行う.また視神経乳頭から200μm以上離れた範囲までしか照射してはいけない.PDTは治療後,3カ月ごとに治療効果判定を行い,CNVからの蛍光漏出が認められた場合は再治療を行う.ベルテポルフィンを用いたPDTは比較的安全な治療法であるが,重篤な副作用として治療後7日以内に起こる重度視力障害(3.2%)6)や背部痛,頭痛,アレルギー反応などがある.ベルテポルフィンが血管外漏出したときは,その部位の光化学反応のため光線遮断をしなければ重度の熱傷となる.また,妊娠,ポルフィリン症,ベルテポルフィン過敏症はPDTの禁忌である.日本人を含めアジア人のAMDにはポリープ状脈絡膜II光線力学的療法光線力学的療法(PDT)とは,滲出型AMDのCNV閉塞を目的とした光感受性物質ベルテポルフィン(ビスダインR)を用いた治療法でわが国でも2004年に臨床使用が開始された.ベルテポルフィンを患者の静脈内に投与し,その15分後,ベルテポルフィンがCNVに集積したところで正常組織には影響を与えない弱い出力のレーザーを照射し,CNVを閉塞させるという治療法である.CNVには低比重リポ蛋白(LDL)に対する受容体が存在する.ベルテポルフィンは,LDLと特異的に結合するため,静注後にCNVに集積し,そこに低出力のレーザーを照射することで,ベルテポルフィンが活性化され,活性酸素が発生し血栓形成が起こる.このCNV内の血栓により新生血管のみを閉塞させるのがこの治療の原理である.この治療はPDT講習会受講終了認定医によって行われ,臨床使用開始当初は入院設備のある施設で行われていたが(光感受性物質のため初回治療は48時間の入院が課せられていた),現在は日光や強い光からの保護を行えば,入院の義務はなく外来での加療が可能である.ポリープ状病巣漿液性網膜.離網膜下液減少凝固部瘢痕FAIAFAIA(0.9)(0.9)治療前治療2週間後図1中心窩外PCVに対して光凝固を施行した症例55歳,男性,視力(0.9).左眼中心窩外方にPCV,漿液性網膜.離を認めた.ポリープ状病巣に対して光凝固施行.治療2週間後には異常血管網は残存するものの,ポリープ状病巣は消失,網膜下液も減少した.(13)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011167PDTは3カ月ごとに再治療の必要性を検討し,必要であれば追加投与を施行する.わが国で行われたJATstudy(JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial)によると1年間で平均2.8回,最高4回の治療が必要であったと報告している.PDTはAMDの治療に有効であることは言うまでもないが,欧米の報告によるとPDTは自然経過と比較して良好な視力は保たれるものの,PDTを施行しても徐々に視力低下がみられ,視力低下が緩徐になるにすぎないと報告している.つまりPDTを施行しても病状の進行は食い止めることができるが,視力の改善までは困難である(図2).III抗VEGF療法血管内皮増殖因子(VEGF)は,分子量約20kDaのサブユニットが結合した二量体構造の蛋白質で,その働きは正常血管の発育や病的血管新生,血管透過性亢進に大きく関与している.VEGFにはその分子量の違いから5つのアイソフォームが存在し,眼内ではVEGF121とVEGF165がおもに産生されている.血管内皮細胞にはVEGFの受容体であるVEGFR-1とVEGFR-2が発現しているが,血管内皮細胞増殖や血管透過性亢進作用は血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)が多く,欧米人に適応したPDTの治療指針は当てはまらない.そのため眼科PCV研究会は日本人に適したPDTガイドラインを作成している.それによるとわが国ではpredominantlyclassicCNV,occultwithnoclassicCNV,minimallyclassicCNVのいずれのFA分類でも適応があり,IAにてPCVが認められればPDTの良い適応となる.視力に関しては0.1以上0.5以下が推奨されているが,その範囲外であっても適応外となるわけではない7).PDTは臨床使用開始以来累計5万例以上の症例に行われ,現在でも多く行われている治療である.わが国におけるPDTの成績は欧米に比べて良好で,平均視力は治療後12カ月間あるいは24カ月間にわったて治療前と同様に維持され,12カ月目の視力変化をみると,改善と不変を合わせた視力維持率が80%であることが知られている.わが国ではすべての病変のタイプに対してPDTは有効であり,特にアジア人に多くみられるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)では治療後平均視力が他の病型より有意に高いことが知られている8).FAIAFAIAポリープ状病巣漿液性網膜.離網膜下液消失ポリープ状病巣消失(0.5)(1.0)ポリープ状病巣治療前治療後1年図2PCVに対して光線力学療法を施行した症例73歳,女性,視力(0.5).右眼黄斑部に網膜下出血,漿液性網膜.離を認め,蛍光眼底造影でポリープ状病巣を認めた.PDTを施行し,1年後には視力(1.0)と改善,ポリープ状病巣,網膜下液も消失していた.168あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(14)可され,臨床使用が可能となった薬剤である.視力改善が認められることより,現在最も多く利用されている抗VEGF薬である.使用方法は1回0.5mgを1カ月に1回,硝子体内に毎月投与する.数々の臨床試験にて最も効果が得られた初回から連続3回投与までの3カ月間を導入期とよび,その後を維持期とよぶ.海外で行われた大規模臨床試験である,MARINA試験やANCHOR試験では,毎月投与を24カ月間行い,無治療群(sham群)やPDT単独治療群に比べて有意に視力が維持され,しかも治療前のベースラインより視力改善が得られたと報告している10,11).わが国で行われたEXTEND-Iとよばれる臨床試験でも連続12カ月の投与を行い,治療前に比べて有意な視力改善が認められている12)(図3).これらの臨床試験では毎月投与を行っているが,実際に毎月投与し続けることは,経済的にも,また局所および全身合併症を発症するリスクを高めることになり不可能である.そこで維持期において投与間隔を延ばす種々の臨床試験が試みられている.PIER試験やEXCITE試験では導入期3回連続の後,3カ月ごとの投与を行い,無治療群や毎月治療を行った群と比較しているが,3カ月ごとの投与では無治療に比しては良好であるが導入期の視力改善効果は維持できていない.これにより3カ月ごとの治療では不十分である症例が存在することが示された13).PrONTO試験やSUSTAIN試験では,維持期に毎月経過観察を行い,視力やOCT,眼底所見の変化におもにVEGFR-2を介している.VEGF165がVEGFR-2とその補助受容体であるneuropilin-1と結合し,共発現させるとVEGF165によるVEGFR-2のシグナルがさらに増強し,血管内皮細胞分裂が亢進する.このため,VEGF165はVEGF121よりも強力な病的新生血管に関与していると考えられている.AMDにおいては網膜色素上皮(RPE)および周辺組織,そしてCNVから高濃度のVEGFが分泌されていることが知られており,AMD患者の硝子体液,血清中,そして手術で摘出した網膜下新生血管膜にもVEGFが有意に多く認められている9).そこで,その血管新生の主役をなすVEGFを標的とした薬物療法が抗VEGF療法である.AMDの本態であるCNVの進行,活動性を低下させるために,そのVEGFを抑える抗VEGF薬を眼内に注射(硝子体注射)して治療する.現在わが国で用いることができる薬剤はペガプタニブ(マクジェンR)とラニビズマブ(ルセンティスR)である.これら2剤がわが国で使用可能となるまで,Off-label使用ではあるが,大腸癌に対する抗がん剤として用いられているベバシズマブ(アバスチンR)も施設によって使用されていた.ベバシズマブとラニビズマブはVEGFに対するマウスモノクローナル抗体をヒト化したものである.ベバシズマブはほぼ抗体全長(分子量は約150kDa)であるのに対し,ラニビズマブはその抗体のFab断片を基本構造として作製された製剤(分子量50kDa)である.両者とも中和抗体であるのでVEGFのすべてのアイソフォームを非選択的に抑制するが,ラニビズマブのほうがベバシズマブより分子量が小さいために組織親和性が良いと考えられていた.ペガプタニブは病的アイソフォームと考えられているVEGF165のみを選択的に阻害するアプタマー製剤である.アプタマーとは特定分子と特異的に結合する核酸分子やペプチドであり,この場合,VEGF165と特異的に結合するRNA分子製剤である.現在,わが国で使用できるラニビズマブとペガプタニブについて述べる.1.ラニビズマブ(ルセンティスR)ラニビズマブは分子量約50kDaの抗ヒトVEGFモノクローナル抗体のFab断片でVEGFへの親和性を高める塩基配列が付加されている.わが国では2009年に認+8.1p=0.0006+9.0p<0.0001+9.5p=0.0001+10.5p<0.0001:Ranibizumab0.3mg(n=35):Ranibizumab0.5mg(n=41)0123456789101112151050視力の平均変化(文字数)(月)図3ラニビズマブのわが国での臨床試験における視力の平均変化量の推移ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群ともに6カ月,12カ月間を通して有意に視力が改善している.(文献12より)(15)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011169的に判断して追加投与を決定する16).わが国では海外のAMDと違い,滲出型AMDのなかでPCVの占める割合が多いことはよく知られている.PCVに対するラニビズマブ単独療法の治療結果の報告は徐々に増えてきている.それらの報告によると,網膜下液や出血などの滲出性病変は高率に減少するが,ポリープ状病巣や異常血管網などの血管病変が完全に消失する症例は3分の1程度で,病巣の完全消失には不向きである17).しかし,滲出性病変の消失により視力改善が得られる症例も多く,急性期病変や視力良好なPDT困難な症例の治療には適していると考える.0.5以下の視力不良PCVに対してはラニビズマブ併用PDTを行う施設もでてきており,視力改善と治療回数減少を目標にしある一定の基準を設け悪化が認められれば投与を行うという,必要時加療という手法が用いられた.これらの結果によると,導入期に得られた視力を比較的維持することが可能であったと報告している14,15).現在はこの手法を用いて必要時に加療する施設が多いようである.わが国では,ラニビズマブ治療指針策定委員会により維持期における追加投与基準が作成されている.これも必要時加療の手法が用いられている.その基準によると,前回来院時の視力を基準としてETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)視力検査表の文字数に換算してほぼ5文字超の悪化に相当する少数視力の視標が判別できない場合,出血あるいは滲出性変化がある場合,追加投与が推奨されるが,最終的には眼科医が総合治療前3カ月後12カ月後(0.15)(0.9)(1.0)FAIAFAIAFAIACNV漿液性網膜.離CNV網膜下液消失瘢痕化図4滲出型加齢黄斑変性(minimallyclassicCNV)に対してラニビズマブ治療を行った症例61歳,女性,視力(0.15).右眼黄斑部に網膜下出血,漿液性網膜.離,脈絡膜新生血管を認めた.ラニビズマブ硝子体投与を導入期に3回行い,導入期終了時には視力(0.9)に改善し,網膜下液は消失していた.その後1年間で追加治療なく,視力維持,病巣も瘢痕化している.170あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(16)ズマブ,ベバシズマブ,PDTなどにより得られた視力改善効果の維持期に6週間ごとにペガプタニブを投与し視力を維持するというものである.6週ごとの投与により,合併症のリスクを減らし,安全に視力を維持することが目標である.このスタディによると導入期で得られた視力が1年後に維持することが可能だったことを示している(ETDRSで65.5文字が1年後に61.8文字).このスタディでは悪化時にはラニビズマブやPDTなどの導入期に施行した治療を再度行うことにしている(Booster治療とよばれる)が,約半数はBooster治療を行わずに済んだと報告している20).現在わが国においても同様のプロトコールでスタディが行われており(LEVEL-Jスタディ),結果が待たれるところである.3.抗VEGF治療の副作用抗VEGF治療は眼球に直接注射する硝子体注射を行うため,その手技に伴う水晶体損傷,網膜.離,硝子体出血,感染性眼内炎などの重篤な合併症をひき起こす危険性は十分に考えなければならない.眼合併症としてぶどう膜炎,急激な視力低下,網膜色素上皮裂孔などの報告がある.またVEGFを阻害することによる,その長期的眼合併症はいまだ不明な点が多い.色素上皮より分泌されるVEGF121およびVEGF164は,脈絡膜の恒常性維持に重要な働きをすることが知られており,マウスを用いた基礎実験ではあるがVEGFを長期間阻害すると脈絡膜毛細血管および網膜外顆粒層の萎縮をもたらすとの報告がある21,22).このことからも,長期的投与に関しては今後,慎重に検討していかねばならないと考える.全身合併症としては高血圧,深部静脈閉塞,脳梗塞,心筋梗塞などの血管イベントが危惧されている.海外で行われた大規模臨床試験(MARINA,ANCHOR,FOCUS)を用いたメタアナリシスの報告23)ではラニビズマブ投与と脳卒中の関連があるとしているが,わが国で行われた臨床試験(EXTEND-1)では脳出血(2.4%)との有意な関連は認められなかった.最近の海外からの報告によるとPDT,ラニビズマブ,ペガプタニブ,ベバシズマブの間で心血管および脳血管イベントなどの全身合併症の発症に有意な差はないとしている24).しかし,加齢黄斑変性の患者は高齢者が多く,もともと心血管障害のリている(図4).2.ペガプタニブペガプタニブはVEGF165のみを選択的に阻害するアプタマー製剤で,わが国では2008年に臨床使用が可能となった,初めての加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療薬である.使用方法は1回0.3mgを6週間に1回,硝子体内投与を行う.ラニビズマブに比べて投与間隔が長く,導入期3カ月では2回の注射を行う.ペガプタニブはVEGF121には結合せず,病的血管新生を司るといわれているVEGF165のみを選択的に阻害するため,生体に対する安全性が高いと推察されていた.欧米で行われた大規模臨床試験であるVISION試験では,ペガプタニブ投与量を0.3mg,1.0mg,3.0mgと無治療(sham群)に分け1年間投与を行った.1年後に視力が維持されたのは0.3mg群で無治療に比べて有意に高かったとしている18).わが国での臨床試験の結果でも0.3mg投与で視力変化は治療前と比べて維持が認められ,その維持効果はほぼPDTと同等であったと推測されている.しかし,視力改善効果は認められず,治療の目標としては視力が低下するリスクを下げ,視力を維持することにとどまる19)(図5).そこで,その視力維持効果に目を付けて行われている臨床試験がLEVEL試験である.これは導入期にラニビ2520151050-5-10-15-20-25-300612182430ベースラインからの視力の平均変化量図測値にはLastObservationCarriedForward(LOCF)法を用いた.図中のバーは標準偏差を表す.:0.3mg群:1mg群視力の平均変化(文字数)36424554(週)図5ペガプタニブのわが国での臨床試験における視力の平均変化量の推移ペガプタニブ0.3mg群,1mg群ともに1年間にわたって平均視力を維持している.(文献19より)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011171スクが高いことが予想される.そのため脳出血などの既往がある患者に対しては,慎重な投与が必要である.おわりにAMDはわが国でも今後ますます増加することが予測される疾患である.抗VEGF療法をはじめとする種々の新しい治療法の登場により,以前に比べて視力維持が可能な症例も増加してきている.しかし,いまだに根治的な治療法はなく,良好な視力を維持するためには,早期に診断,治療することが大切である.今後さらなる新しい治療法の開発に期待したい.文献1)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopulation:theHisayamastudy.BrJOphthalmol85:1153-1157,20012)MiyazakiM,KiyoharaY,YoshidaAetal:The5-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculopathyinageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthalmolVisSci46:1907-1910,20053)CampochiaroPA:Retinalandchoroidalneovascularization.JCellPhysiol184:301-310,20004)Maculaphotocoagulationstudygroup:Argonlaserphotocoagulationforsenilemaculardegeneration.Resultsofarandomizedclinicaltrial.ArchOphthalmol100:912-918,19825)Maculaphotocoagulationstudygroup:Argonlaserphotocoagulationforneovascularmaculopathy.Five-yearresultsfromrandomizedclinicaltrials.MacularPhotocoagulationStudyGroup.ArchOphthalmol109:1109-1114,19916)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithverteporfininJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol136:1049-1061,20037)Tano,Y,OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,20088)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearout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加齢黄班変性の分類と診断

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに加齢黄斑変性は近年わが国でも急激に増加し,疫学研究や新しい治療が盛んに行われ,疾患分類と診断の重要性が増している.本稿では,従来のものを含めて加齢黄斑変性の分類を整理するとともに,2008年にわが国で公表された加齢黄斑変性の分類と診断基準,最近提唱されたFreundらによる分類について述べる.I加齢黄斑変性の分類加齢黄斑変性の分類は目的別にさまざまな分類が用いられてきた(表1).欧米では脈絡膜新生血管(CNV)の位置による分類,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)によるCNVの明瞭度による分類,加齢黄斑症と加齢黄斑変性の国際分類,光線力学的療法(PDT)のための病変タイプ分類,新生血管の病理学的分類(Gass)などが目的に応じて使用されている.一方,わが国では主な眼底所見を呼称に取り入れた厚生省研究班による暫定分類が1992年に報告され,2008年に新しい分類と診断基準が公表された.この新しい分類は,1995年に報告された国際分類1)をベースとして,厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班内の加齢黄斑変性診断基準作成ワーキンググループによって作成されたもので,わが国独自のものである2).この分類では,加齢黄斑変性は前駆病変と加齢黄斑変性に大別され,さらに前駆病変はドルーゼンと網膜色素上皮異常に,本格病変としての加齢黄斑変性は滲出型と萎縮型に分類されている.また,滲出(3)157*KanjiTakahashi:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕髙橋寛二:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学附属枚方病院眼科特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):157.163,2011加齢黄斑変性の分類と診断ClassificationandDiagnosisofAge-RelatedMacularDegeneration髙橋寛二*表1加齢黄斑変性の今までの分類と用語欧米1.脈絡膜新生血管の位置による分類中心窩下subfoveal,傍中心窩juxtafoveal,中心窩外extrafoveal2.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)による脈絡膜新生血管の明瞭度による分類ClassicCNV(well-definedCNV)OccultCNV(ill-definedCNV)3.加齢黄斑症と加齢黄斑変性の国際分類(1995)Earlyage-relatedmaculopathy早期加齢黄斑症Lateage-relatedmaculopathy後期加齢黄斑症(Age-relatedmaculardegeneration加齢黄斑変性)4.FAによる光線力学的療法のための病変タイプ分類PredominantlyclassicCNVMinimallyclassicCNVOccultwithnoclassicCNVLate-phaseleakageofundeterminedsourceFibrovascularPED5.新生血管の病理学的分類(Gass)Type1(subRPE)CNVType2(subretinal)CNV日本老人性円板状黄斑変性症の暫定診断基準案(厚生省特定疾患網膜脈絡膜萎縮症調査研究班,1992)1.初期病巣1)漿液性網膜.離2)大型の網膜色素上皮.離2.網膜下出血3.円板状病巣4.瘢痕病巣158あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(4)類似の像を呈する.この分類によって,わが国では,滲出型加齢黄斑変性は,典型例であるtypicalAMD,特殊型であるPCV,RAPの3病型に分類される.現在わが国では,この分類が最も広く用いられている.IIわが国の加齢黄斑変性の診断基準(表3)わが国における2008年の診断基準は,1.前駆病変,2.滲出型加齢黄斑変性,3.萎縮型加齢黄斑変性,4.除外規定の4項目からなる.以下にそのポイントを列記する.1)年齢,病変の存在範囲この診断基準では,久山町研究をはじめとする多くの疫学研究で50歳以上が基準として用いられていることから50歳以上と規定された.病変の存在範囲は傍乳頭病変も含まれるよう,国際分類のoutermacula(中心窩を中心とする6,000μm以内)と定められている.型加齢黄斑変性の特殊型として,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)が正式に加えられた(表2,図1).特殊型の2疾患は,Yannuzziが1990年3)と2001年4)に提唱した疾患概念で,加齢性変化を基盤として黄斑部に発生した新生血管によって出血・滲出をきたす疾患であり,臨床像も通常の滲出型加齢黄斑変性(わが国では「狭義AMD」とよばれることが多い.ここではtypicalAMDとよぶ)と表2加齢黄斑変性の分類(2008年)1.前駆病変1)軟性ドルーゼン2)網膜色素上皮異常2.加齢黄斑変性1)滲出型加齢黄斑変性*2)萎縮型加齢黄斑変性*滲出型加齢黄斑変性の特殊型①ポリープ状脈絡膜血管症②網膜血管腫状増殖網膜内新生血管ポリープ状病巣PCVRAP.出型加齢黄斑変性軟性ドルーゼン網膜色素上皮異常地図状萎縮typicalAMD前駆病変萎縮型加齢黄斑変性図1加齢黄斑変性のわが国での分類と典型的眼底および造影所見PCV:ポリープ状脈絡膜血管症,RAP:網膜血管腫状増殖.typicalAMDの造影はFA,PCV,RAPの造影はインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)所見.(5)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011159している.日本人では従来から漿液性PEDが滲出型加齢黄斑変性に移行しやすいとの報告があり,いわゆる小型のPEDが前駆病変に含められている.3)滲出型加齢黄斑変性新しい診断基準の最も重要なポイントは,滲出型加齢黄斑変性の確診例と診断するための主要所見である.すなわち,①CNV,②漿液性PED(直径1乳頭径以上),③出血性PED,④線維性瘢痕の4つを主要所見とし,そのうち少なくとも1つを満たせば滲出型加齢黄斑変性の確診例と診断できる(図2).これらの項目はすべて滲出型加齢黄斑変性に特異度が高い所見であり,この診断基準によって眼底所見のみで診断が可能である.ただし,CNVは,眼底所見(灰白色または橙赤色隆起病巣)でも診断できるが,蛍光眼底造影所見〔FAまたはインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)〕によっても診断できる.ここでいう漿液性PEDは直径1乳頭径以上の大きいものであり,CNVを伴わない漿液性PEDも含める.この規定は「滲出型=CNVの存在」という従来の概念とは異なるので注意を要する.なお,この診断基準では,滲出性変化や出血は続発性変化とみなし,主要所見ではなく「随伴所見」と規定していることにも注意を要する.4)萎縮型加齢黄斑変性萎縮型加齢黄斑変性の規定は,脈絡膜血管が透見でき2)前駆病変前駆病変には軟性ドルーゼンと網膜色素上皮異常がある.軟性ドルーゼンは直径63μm以上のものが1個以上みられれば前駆所見と診断する(図1).これは視神経乳頭縁の網膜静脈径(125μm)の1/2を超える大きさである.網膜色素上皮異常は①網膜色素上皮の色素脱失,②同色素むら,③同色素沈着,④直径1乳頭径未満の漿液性網膜色素上皮.離(漿液性PED)の4種の病変を指表3加齢黄斑変性の診断基準(厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮調査研究班,加齢黄斑変性診断基準作成ワーキンググループによる)年齢50歳以上の症例において,中心窩を中心とする直径6,000μm以内の領域に以下の病変がみられる.1.前駆病変軟性ドルーゼン*1,網膜色素上皮異常*2が前駆病変として重要である.2.滲出型加齢黄斑変性主要所見:以下の主要所見の少なくとも一つを満たすものを確診例とする.①脈絡膜新生血管*3②漿液性網膜色素上皮.離*4③出血性網膜色素上皮.離*5④線維性瘢痕随伴所見:以下の所見を伴うことが多い.①滲出性変化:網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン),硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離②網膜または網膜下出血3.萎縮型加齢黄斑変性脈絡膜血管が透見できる網膜色素上皮の境界鮮明な地図状萎縮*6を伴う.4.除外規定近視,炎症性疾患,変性疾患,外傷などによる病変を除外する.(付記)*1軟性ドルーゼンは直径63μm以上のものが1個以上みられれば有意とする.*2網膜色素上皮異常とは網膜色素上皮の色素脱失,色素沈着,色素むら,小型の漿液性網膜色素上皮.離(直径1乳頭未満)をさす.*3脈絡膜新生血管は,検眼鏡所見または蛍光眼底造影によって診断する.検眼鏡所見として,網膜下に灰白色または橙赤色隆起病巣を認める.蛍光眼底造影はフルオレセイン蛍光眼底造影またはインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見に基づく.*4漿液性網膜色素上皮.離は,直径1乳頭径以上のもので,脈絡膜新生血管を伴わないものも含める.*5出血性網膜色素上皮.離は大きさを問わない.*6網膜色素上皮の地図状萎縮は大きさを問わない.1.脈絡膜新生血管3.出血性網膜色素上皮.離2.漿液性網膜色素上皮.離4.線維性瘢痕図2滲出型加齢黄斑変性の主要所見160あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(6)であり,genotypeについても考慮すべきとしている.これは,CNV抜去術が行われた時代にGassが提案したCNVの病理学的分類(type1:網膜色素上皮下新生血管,type2:網膜下新生血管)に加えて,RAPでみられるtype3(網膜内新生血管)をプラスしたもので,新生血管をこの呼称で統一することによって,病態生理を含めた分類ができるとしている.少し偏った示唆も含んでいるようであるが,病態生理に関しては,筆者らの考えと重なる事項が多く,以下にその考え方を紹介する.1)Type1neovascularization(図3)Type1neovascularization(1型新生血管)は,従来のFA分類ではoccultまたはpoorlydefinedCNVとよばれ,加齢黄斑変性の新生血管のなかで最も頻度が高いもので,lateleakageofundeterminedsourceとvascularizedPEDに分類される.IAでは後期に軽度の過蛍光を示すplaqueとして捉えられ,造影に同期したSD(spectoraldomain)-OCTでは,新生血管はBruch膜とRPEの間に検出されると述べている.多くの眼で1型新生血管は発見されにくく,滲出がない限り視力低下は少なく,年余にわたって緩慢に発育する.GrossniklausやGreenらは,この型の新生血管は網膜外層の虚血に対して代償的に発生したものとの仮説を立てている5).る網膜色素上皮の境界鮮明な地図状萎縮を伴うものとし,地図状萎縮の大きさは問わないとしている.「脈絡膜血管が透見できる」には,網膜色素上皮の強い萎縮に脈絡毛細血管板,視細胞の萎縮を伴う意味を含んでいる.地図状萎縮は通常大きいドルーゼンが自然消失したあとに生ずることが多く,長期間のドルーゼン存在が関与した病変といえる.5)除外規定除外規定は,加齢以外の要因で起こる近視性血管新生黄斑症,特発性脈絡膜新生血管,網膜色素線条症に伴う血管新生黄斑症,外傷性脈絡膜破裂などの続発性血管新生黄斑症を確実に除外する必要があるため設けられており,このような類縁疾患の除外は重要である.IIIFreundらによる分類の提唱最近,Yannuzziの流れを汲むFreundらは,雑誌Retinaに掲載された総説において,従来から欧米で主流であったFAによる分類はもはや十分ではなく,加齢黄斑変性の新生血管に関して新しい分類の必要性を提起している5).すなわち,少なくともFA,光干渉断層計(OCT),必要ならIAも用いた総合的画像診断によって,新生血管の解剖学的局在を明らかにした分類を行うべき橙黄色のRPE隆起CNV新生血管の反射RPEのドーム状隆起Bruch膜漿液性網膜.離FAIA図3滲出型加齢黄斑変性―TypicalAMD,occultwithnoclassicCNV(fibrovascularPED)(Freundらの提唱するType1neovascularization,IA写真の緑ラインはOCTのスキャン部位)(7)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011161に,PCVの病変はRPE直下に存在するとしている.PCVはより成熟した新生血管組織であるため,抗VEGF療法に対してより反応しにくく,多数回の薬物投与を要することに触れている.PCVで抗VEGF療法に反応する症例では,異常血管からの透過性が抑制されているのみで新生血管の退縮はきたしにくいと述べている.3)Type2neovascularization(図5)Type2neovascularization(2型新生血管)はBruch膜,RPEを貫いて網膜下で発育する新生血管で,従来のFA分類ではwell-definedまたはclassicCNVに合致する.通常軽度の低蛍光の背景のなかに新生血管が検出でき,IAでは脈絡膜背景蛍光のため検出しにくいとしている.2型新生血管は通常1型新生血管に伴って発生し,13%のみが純粋な2型新生血管であるという.SD-OCTではRPEの高反射層の上で視細胞外節の下にみられ,IS/OS(内節外節境界接合部)の欠損や網膜内浮腫,.胞様変化がみられやすい.抗VEGF療法に対する反応は良好で,新生血管が消失しやすいが,大きい病巣や成熟した病巣では線維化が残りやすいとしている.1型新生血管では,CMEよりも漿液性網膜.離が発現しやすく,新生血管は十分成熟しているので,抗VEGF(血管内皮増殖因子)療法による治療効果が不完全であるとしている.最近のEDI(enhanceddepthimaging)-OCTによる観察から,新生血管は常にRPEの基底側に接してみられると述べている.2)Polypoidalchoroidalvasculopathy(PCV)(図4)この総説ではPCVは1型新生血管から生ずる亜型であるとし,従来唱えられていた脈絡膜血管原発の疾患ではないことから,choroidopathy(脈絡膜症)ではなく,neovasculopathy(新生血管症)とよぶべきであると明記している.この考えは筆者らが当初から主張してきた説と完全に合致している6).造影と同期したSD-OCTでは,ポリープ状病巣を含めてPCVの血管病変は,1型新生血管と同様にRPEとBruch膜の間に存在し,Bruch膜下,すなわち脈絡膜内に存在するものではないとしている.PCVパターンは長期間存在した1型新生血管にみられやすく,より成熟した血管からなると述べている.PCVがアジア人やアフリカ系アメリカ人に多いのはRPEが弾力性に富んでおり,新生血管はRPEを破って発育するよりも水平方向に向かって発育するためとしている.SD-OCT所見から,1型新生血管と同様橙赤色隆起病巣ポリープ状病巣異常血管網FAIAポリープ状病巣異常血管網漿液性網膜.離(doublelayersign)図4ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)異常血管網の部の所見(doublelayersign)はType1neovascularizationとまったく同じ所見を呈す.Freundらは1型新生血管の亜型であるとしている.162あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(8)管と吻合を形成して増殖反応を起こすとしている.そのため,網膜血管のない中心窩無血管野には生じない.SD-OCTが普及した現在,Yannuzziが提唱したステージ分類は価値のあるものではなくなっており,3型新生血管でみられるPEDはすでに存在する1型CNVから生じたものであると断言している.治療として,3型新生血管は抗VEGF療法にきわめて鋭敏に反応し,1回の薬物投与で病巣が消失するものもあるが,視細胞欠損のために視力が上昇しにくいことがあり,光凝固やPDT4)Type3neovascularization(図6)Type3neovascularization(3型新生血管)は網膜内新生血管であり,従来RAPとよんでいたものに合致する.欧米では滲出型AMDの10~15%を占めるもので,網膜循環由来または脈絡膜循環由来のどちらから生じてもよく,網膜-脈絡膜血管吻合(RCA)の形をとるものとしている.網膜内出血と.胞様黄斑浮腫(CME)が高頻度にみられ,高率に両眼性になる.3型新生血管は視細胞欠損部の網膜深層血管から生じやすく,1型新生血classicCNVFAIAoccultCNVplaque図5滲出型加齢黄斑変性―TypicalCNV,minimallyclassicCNV(Freundらの提唱するType2neovascularization)この例では網膜色素上皮下新生血管と併存している.網膜内新生血管CME(RAP病巣)PEDBruch膜serousPEDRAP病巣FAIA色素上皮下新生血管集合性軟性ドルーゼン網膜表層出血図6網膜血管腫状増殖(RAP)(Freundらの提唱するType3neovascularization)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011163単独療法は注意を要し,トリアムシノロン併用PDTも中心窩萎縮のため視力が改善しなかったと述べている.3型新生血管は成熟すると抗VEGF療法に抵抗を示し,より多数回の薬物投与を要するとしている.以上,加齢黄斑変性の分類のまとめとわが国での診断基準,欧米での最近の分類の提唱について述べた.病態の理解を含めた診断の重要性について,読者の先生方に気づいていただければ幸いである.文献1)TheinternationalARMepidemiologicalstudygroup:Aninternationalclassificationandgradingsystemforagerelatedmaculopathyandage-relatedmaculardegeneration.SurvOphthalmology39:367-374,19952)髙橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎ほか:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,20083)YannuzziLA,SorensonJ,SpaideRFetal:Idiopathicpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina10:1-8,19904)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.Retina21:416-434,20015)FreundKB,ZweifelSA,EngelbeltM:Doweneedanewclassificationforchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Retina30:1333-1349,20106)UyamaM,MatsubaraT,FukushimaIetal:IdiopathicpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.ArchOphthalmol117:1035-1042,1999(9)

序説:黄斑疾患アップデート

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY視力予後に直接関わってくる.その治療にはレーザー光凝固,トリアムシノロン,抗VEGF薬,硝子体手術などさまざまな治療が試みられているが,現時点でも決定的なものはない.それは,その発症には多くの病態が関与していることが理由として考えられる.志村雅彦先生(NTT東日本東北病院)には糖尿病黄斑浮腫について,フルオレセイン蛍光造影と光干渉断層計(OCT)所見から病態を述べていただき,それに沿った治療方針を示していただいた.吉田宗徳先生(名古屋市大)には網膜静脈分枝閉塞症と網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫に関し,その自然経過と治療の変遷を総括していただいた.現在,これらの黄斑浮腫に対しては,わが国でも薬物治療の臨床試験が行われており,今後も注目される領域である.硝子体手術には,近年,小切開硝子体手術(MIVS)という大きな波が押し寄せた.黄斑疾患は硝子体手術の対象の多くの部分を占めているが,術後の視機能と患者の満足度を向上させるには低侵襲のMIVSが適している.山根真・門之園一明先生(横浜市立大)には,黄斑疾患のMIVSを実施するに際しての利点と注意点,さらには代表的疾患の実際まで幅広く解説していただいている.近年のテクノロジーの進歩に伴うOCTなどの眼最近の黄斑疾患診療は著しい変化と進歩を見せている.それは診断と病態理解,薬物療法,外科手術のどの領域においても一斉に起こっている.本特集では,代表的な黄斑疾患のトピックスを,それぞれの分野で活躍されている先生方にわかりやすく述べていただいた.読者の皆さんには,黄斑疾患診療の最前線に触れて知識をアップデートしていただけるものと考える.そして,どの項でも共通して述べられているのは,正確な診断から病態を理解して,それに沿って治療戦略を立てることの重要性である.加齢黄斑変性の診療は,この数年で最も大きく変わった領域といえる.分類・診断と治療について,それぞれ髙橋寛二先生(関西医大)と大島裕司先生(九州大)にまとめていただいた.2008年に作成された新しい分類は,わが国の実情に即したもので,滲出型加齢黄斑変性の特殊型としてポリープ状脈絡膜血管症と網膜血管腫状増殖が加えられている.また,同時に紹介されているFreundらの分類は,治療反応を含めた脈絡膜新生血管の病態生理の理解に役立つものであろう.抗VEGF薬が登場して加齢黄斑変性治療は大きく変わったが,両先生の診断・治療に関する2篇から,加齢黄斑変性診療の流れをつかむことができ,今後の方向性が見えてくる.黄斑浮腫は,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症での(1)155*TomohiroIida:福島県立医科大学眼科学講座**TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野●序説あたらしい眼科28(2):155.156,2011黄斑疾患アップデートAdvancesinDiagnosisandTreatmentofMacularDiseases飯田知弘*石橋達朗**156あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(2)底画像診断学の進歩は著しく,生体において非侵襲的あるいは低侵襲的に組織や細胞からの情報を得ることを可能とした.これにより,多くの黄斑疾患の病態理解が発展して,新しい概念の追加や解釈の修正が行われ,同時に日常診療をも一変させてきている.その代表として,強度近視,黄斑部毛細血管拡張症,視細胞外節病などがあげられる.強度近視の黄斑合併症は日常診療で見逃してはならない病変であり,生野恭司先生(大阪大)に診断と病態からみた治療方針につきわかりやすく解説していただいた.黄斑部毛細血管拡張症は頻度は比較的多いが,よく理解されていなかった疾患である.古泉英貴先生(京都府医大)には,最近の疾患概念の進歩,診断と病態,治療を述べていただいており,広くこの疾患の理解が進むきっかけになるものと思う.そして,岸章治先生(群馬大)は,視力の根源である視細胞外節を主病巣とする病態を視細胞外節病という新しい概念でまとめられている.脈絡膜循環を臨床的に評価する方法としてはインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)が広く用いられてきたが,脈絡膜構造の画像診断法に関しては,これまで臨床的に活用できる解像度をもつ方法はなかった.最近,OCTを用いて脈絡膜の形態変化,場合によっては強膜も含む眼底深部を三次元的に評価することが可能となってきた.そうした各種黄斑疾患における脈絡膜OCT観察について丸子一朗先生・飯田知弘(福島県医大)が述べた.本特集で取り上げたテーマはどれも黄斑疾患のトピックである.読者の先生方には,その世界を堪能していただきたい.

診断に苦慮したLeber 遺伝性視神経症の1 例

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)139《原著》あたらしい眼科28(1):139.143,2011cはじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropathy)は1871年にLeberによってはじめて報告された遺伝性視神経疾患である1).おもに10歳代から30歳代にかけての男性に多く,両眼性の急性または亜急性の視力低下で発症し,左右発症時期の差はあっても最終的には両眼の視神経萎縮へと進行する2).以前は臨床所見と家族歴によって診断され,確定診断は容易ではなかったが,1988年Wallaceら3)によりNADH(ジハイドロニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)デヒドロゲナーゼのサブユニット4領域にあるミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基配列11778番目に位置するグアニンのアデニンへの変換(以下,11778番変異)〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN診断に苦慮したLeber遺伝性視神経症の1例南野桂三*1安藤彰*1竹内正光*2髙橋寛二*3小池直子*1小林かおる*1秋岡真砂子*1河合江実*1白紙靖之*4森秀夫*5西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2竹内眼科医院*3関西医科大学附属枚方病院眼科*4しらかみ眼科*5大阪市立総合医療センター眼科AnAtypicalCaseofLeber’sHereditaryOpticNeuropathyKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasamitsuTakeuchi2),KanjiTakahashi3),NaokoKoike1),KaoruKobayashi1),MasakoAkioka1),EmiKawai1),YasuyukiShirakami4),HideoMori5)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)TakeuchiEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital,4)ShirakamiEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospitalLeber遺伝性視神経症はミトコンドリアDNAの異常により発症する遺伝性視神経疾患で,若年男性に多く最終的に両眼の視神経萎縮に至る.筆者らは56歳の男性で家族歴がなく副鼻腔炎の手術既往があるため鑑別に苦慮したが,最終的に遺伝子検査によってLeber遺伝性視神経症と判明した1例を経験した.本症例は両眼の緑内障で治療を受けるも比較的急速に視野障害が進行し,視神経炎を疑われて紹介された.診断に苦慮した原因として,56歳とLeber遺伝性視神経症の好発年齢よりも高齢であったこと,8人兄弟であるが本人のみ異母兄弟であることが後ほど判明したこと,緑内障性視神経萎縮のため乳頭発赤などLeber遺伝性視神経症の初期変化が明瞭に認められなかったことなどが考えられた.視神経炎症状を呈し,診断がつかない症例ではLeber遺伝性視神経症を考慮する必要がある.A56-year-oldmalewasreferredtoourhospitalforsuspectedopticneuritis.Hehadbeentreatedforglaucoma,withnohistoryofsinusitisorfamilyhistory.Best-correctedvisualacuity(BCVA)was0.02and0.08inhisrightandlefteye,respectively.Visualfieldexaminationdisclosedcentralscotomaintherighteyeandsuperonasalvisualfielddefectintheleft.MitochondrialDNAanalysisrevealedpointmutationat11778,leadingtoadiagnosisofLeber’shereditaryopticneuropathy(LHON).Thepresentcasewasdifficulttodiagnosebecauseoftheelderlyage(56years)ascomparedtothepredominantonsetageofLHON,ahalf-brotherin8brothers,andthefactthathyperemiaoftheopticdisc,acharacteristicinitialchangeofLHON,hadnotbeenobservedduetoglaucomatousopticatrophy.LeftBCVArecoveredto0.5morethanoneyearlater,perhapsasaresultofcomparativeconservationofthemacularnervefibers.Whenapatientwithblurredvisionofuncertainetiologyisexamined,itisimportanttoruleoutLHONregardlessofpatientageandhyperemiaoftheopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):139.143,2011〕Keywords:Leber遺伝性視神経症,緑内障,遺伝子診断,視力回復,黄斑線維束.Leber’shereditaryopticneuropathy,glaucoma,analysisofmitochondrialDNA,recoveryofbestcorrectedvisualacuity,macularnervefivers.140あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(140)がLeber遺伝性視神経症と特異的に関連する事例が報告され診断に応用されるようになった.現在までに11778番塩基変異以外にもLeber遺伝性視神経症の発症に強く関与する,いわゆるprimarymutationはmtDNAの6カ所以上報告されている4~6).そのうちの3460番変異,11778番変異,14484番変異の3つの変異でLeber遺伝性視神経症の90%近くを占め7,8),わが国では90%が11778番変異を有する9).今回筆者らは56歳の男性で,初診時に他院で両眼の緑内障の診断がついており家族歴がないことや副鼻腔炎の手術の既往があることから臨床診断に苦慮したが,最終的に遺伝子検査で11778番変異がみられLeber遺伝性視神経症と診断した1例を経験した.I症例患者:56歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:平成20年6月頃から両眼の視力低下を自覚して近医(内科)を受診,視野欠損を疑われ,平成20年6月6日に総合病院眼科を紹介となる.そこでの初診時視力は両眼とも矯正視力1.0以上あり,初診時眼圧は両眼とも24mmHgであった.眼底所見では両眼とも視神経乳頭の高度な陥凹拡大(両眼ともC/D比〔陥凹乳頭比〕0.8~0.9)と右眼に黄斑部を含む神経線維層欠損(NFLD),左眼に上下のNFLDを認めた.視野検査では両眼ともNFLDに一致した視野欠損を認めたことから,両眼原発開放隅角緑内障と診断され,緑内障点眼(ラタノプロスト点眼を両眼に1回/日)を処方され,6月24日の再診時に眼圧が右眼16mmHg,左眼15mmHgであった.十分に眼圧下降が得られたと判断され,定期的な経過観察のため近医を紹介された.この近医で平成20年の7月に2回定期診察されたが,両眼とも矯正視力は1.0以上あり,眼圧も右眼は17~19mmHg,左眼は16mmHgであった.しかし,視力低下の自覚が強くなり,患者本人が別の近医を平成20年8月1日に受診した.その近医での初診時視力は右眼矯正0.1,左眼矯正0.9,眼圧は前医の緑内障点眼使用下で右眼17mmHg,左眼16mmHgであった.ここでも両眼の視神経乳頭の陥凹拡大(両眼ともC/D比0.9)とNFLD以外の異常所見は認められず,両眼原発開放隅角緑内障と診断された.以後経過観察中に緑内障点眼を追加された(ブリンゾラミド点眼を両眼に2回/日)が,さらに自覚症状が悪化し(視力は9月3日では右眼矯正0.08,左眼矯正0.6,10月24日では右眼矯正0.02,左眼矯正0.2,10月31日では右眼矯正0.03,左眼矯正0.06),急速な視野の進行と視力低下を認めたため11月1日に関西医科大学附属滝井病院を紹介受診となる.既往歴:19歳時に副鼻腔炎に対して手術加療.生活歴:喫煙歴,飲酒歴なし.嗜好に特記すべきことなし.家族歴:両親,8人兄弟(男性3人,女性5人)に眼科疾患なし.初診時所見:視力はVD=0.02(0.02×sph+1.0D(cyl.2.0DAx80°),VS=0.08(0.08×sph.0.5D(cyl.0.5DAx90°),眼圧はラタノプロスト点眼およびブリンゾラミド点眼を両眼に使用して右眼14mmHg,左眼12mmHgであった.中心フリッカー値は右眼10.6Hz,左眼17.8Hzと低下していたが,瞳孔反応は正常で相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)はみられなかった.両眼とも前眼部および中間透光体に異常なく隅角はShaffer分類Grade3~4であった.眼底は両眼とも視神経に高度な視神経乳頭の陥凹拡大(両眼ab図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも高度な視神経乳頭陥凹拡大と右眼には黄斑線維束を含むNFLD,左眼には上下にNFLDがみられる.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011141ともC/D比0.9)とNFLDが認められた(図1).視野検査で右眼の中心暗点と左眼の鼻上側の視野欠損が認められた(図2).経過:頭部コンピュータ断層撮影(CT)では占拠性の頭蓋内病変や副鼻腔炎所見はみられず,磁気共鳴画像(MRI)〔STIR(shortinversiontimeinversion-recovery)法〕では視神経の高信号は認められなかった.視覚誘発反応画像システム(VERIS)では右眼に軽度の感度低下を認めたが,急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)やoccultmaculardystrophyなどを疑う所見は認められなかった(図3).血液検査では白血球8,000/μl,赤血球417×104/μl,赤沈13mm/hr,C反応性蛋白(CRP)0.02mg/dl,抗核抗体陰性,リウマチ因子3IU/ml,TP(トレポネマ・パリズム)抗体陰性,ACE(アンギオテンシン変換酵素)19.9IU/l,ビタミンB14.5μg/dl,ビタミンB212.7μg/dl,ビタミンB12590pg/mlと正常で炎症性疾患や栄養障害性視神経症は否定的であった.フルオレセイン蛍光眼底造影所見では,両眼とも血流障害や視神経の過蛍光などの所見は認められなかった(図4).臨床経過ab図3VERIS(平成20年11月6日)a:右眼,正常.b:左眼,軽度の感度低下.ab図2Goldmann視野(初診時)a:左眼.上下のビエルム領域の暗点がつながり,内部イソプターが穿破したために生じたような鼻上側の視野欠損がみられる.b:右眼.中心暗点がみられる.142あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(142)や臨床所見から球後視神経炎が示唆されたため,11月27日に入院のうえステロイドパルス療法を施行したが効果は認められなかった.入院中に再度家族歴を問診しなおしたところ,8人兄弟であるが本症例のみ異母兄弟であることが判明したため,ミトコンドリア遺伝子検査を行い,mtDNA11778番塩基対に点突然変異が認められLeber病と診断した.コエンザイムQ10とビタミンB12の内服およびラタノプロスト点眼とブリンゾラミド点眼を続け,平成21年12月8日の視力は右眼矯正0.05,左眼矯正0.2,平成22年2月9日の視力は右眼矯正0.05,左眼矯正0.5,平成22年5月11日の視力は右眼矯正0.09,左眼矯正0.8,平成22年7月6日の視力は右眼矯正0.06,左眼矯正1.0と左眼視力は経時的に回復した.II考按Leber遺伝性視神経症はおもに10歳代から30歳代にかけての男性に両眼性に急性または亜急性の視力低下で発症する2)が,今回筆者らは56歳で発症した1例を経験した.本症例では当初視神経炎,虚血性視神経症,遺伝性視神経症,中毒性視神経症,栄養障害性視神経症,鼻性視神経症,AZOORなどを疑ったが生活歴や家族歴から遺伝性視神経症,中毒性視神経症は考えづらく,虚血性視神経症,栄養障害性視神経症,鼻性視神経症,AZOORなどの鑑別のためにCT,MRI,VERIS,血液検査,フルオレセイン蛍光造影(FA)を施行したが確定診断には至らなかった.最終的に遺伝子検査により診断が確定したが,好発年齢から外れていることや,視神経乳頭陥凹拡大が高度でLeber遺伝性視神経症で特徴的とされる視神経乳頭発赤と乳頭周囲の毛細血管拡張などの所見が検眼所見やFA所見でも明らかではなく,8人兄弟で本人が異母兄弟であることがわからなかったため診断に苦慮した.総合病院眼科初診時では視力は両眼とも矯正1.0,眼圧は右眼24mmHg,左眼24mmHgと高く視神経乳頭陥凹拡大もC/D比0.8~0.9と高度で,視野も右眼中心暗点と左眼鼻上側の視野欠損がみられ,両眼ともNFLDの部位と一致することから緑内障があったことは間違いないと思われる.このためLeber遺伝性視神経症の初期変化を捉えられなかった可能性が高い.自覚症状がでてからすぐに眼科を受診してacbd図4フルオレセイン蛍光眼底造影写真(初診時)a:右眼早期(50秒),b:左眼早期(56秒),c:右眼後期(5分57秒),d:左眼後期(5分50秒).両眼とも視神経乳頭からの蛍光漏出や網膜血管,網膜に異常を認めない.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011143視力が良好であったことからも眼科初診時がLeber遺伝性視神経症の萎縮期であった可能性は低い.現在までにわが国でのLeber遺伝性視神経症を伴うmtDNAの点変異と緑内障の相関を調べた報告では両疾患が合併する可能性はまれであり10),本症例は緑内障にmtDNAの点変異を伴い,Leber遺伝性視神経症を発祥していることから疫学的にまれな症例と思われる.しかしLeber遺伝性視神経症の萎縮期には視神経乳頭の陥凹が認められHeidelbergretinaltomography(HRT)の緑内障判定プログラムで73%が緑内障と判断されるという報告があり11),本症例のように緑内障にLeber遺伝性視神経症が合併している場合は慎重な判断が必要である.Leber遺伝性視神経症の特徴として黄斑線維束のNFLDがあげられるが,本症例では右眼には黄斑線維束を含む高度なNFLDが存在し,左眼には視神経乳頭の上下の高度なNFLDが存在するが黄斑線維束には明らかなNFLDは認められなかった.Leber遺伝性視神経症における視力回復は,Mariotte盲点につながる傍中心暗点の一部に感度のよい領域が出現して,ごく狭い限られた部分で感度が回復する.このような中心暗点はfenestratedcentralscotomaとよばれている12).本症例では,確定診断後に1年以上経過してから左眼の視力が矯正1.0まで改善している.これは左眼には黄斑線維束に高度なNFLDが存在しないことから,黄斑部の神経線維層が比較的保たれ,左右でNFLDの部位と程度に差があり視力予後に影響したと考えられた.11778番変異に伴うLeber遺伝性視神経症の視力回復はきわめてまれであり9),本症例は予後良好であったといえる.今回,現病歴,既往歴,生活歴,家族歴,臨床所見から鑑別診断が困難であった11778番変異によるLeber遺伝性視神経症の症例を経験した.Leber遺伝性視神経症の好発年齢は若年であるが,Mashimaらはわが国におけるLeber遺伝性視神経症について11778番変異である69人の年齢分布では4~50歳(平均24.6歳)であったと報告している9).本症例のように56歳のLeber遺伝性視神経症発症はまれなものと考えられるが,視神経炎症状を呈し確定診断がつかない場合はLeber遺伝性視神経症を考慮する必要があると思われた.文献1)LeberT:Ueberhereditareundcongenital-angelegteSehnervenleiden.GraefesArchClinExpOpthalmol2:249-291,18712)HottaY,FujikiK,HayakawaMetal:ClinicalfeaturesofJapaneseLeber’shereditaryopticneuropathywith11778mutationofmitochondrialDNA.JpnJOphthalmol39:96-108,19953)WallaceDC,SinghG,LottMTetal:MitochondrialDNAmutationassociatedwithLeber’shereditaryopticneuropathy.Science242:1427-1430,19884)BrownMD,WallaceDC:SpecutrumofmitochondrialDNAmutationsinLeber’shereditaryopticneuropathy.ClinNeurosci2:138-145,19945)LamminenT,MajanderA,JuvonenVetal:Amitochondrialmutationat9101intheATPsynthase6geneassociatedwithdeficientoxidativephosphorylationinafamilywithLeberhereditaryopticneuropathy.AmJHumGenet56:1238-1240,19956)DeVriesDD,WentLN,BruynGWetal:GeneticandbiochemicalimpairmentofmitochondrialcomplexIactivityinafamilywithLeberhereditaryopticneuropathyandhereditaryspasticdystonia.AmJHumGenet58:703-711,19967)HowellN:PrimaryLHONmutations:Tryingtoseparate“fruyt”from“chaf”.ClinNeurosci2:130-137,19948)MackeyDA,OostraRJ,RosenbergTetal:PrimarypathogenicmtDNAmutationsinmultigenerationpedigreswithLeberhereditaryopticneuropathy.AmJHumGenet59:481-485,19969)MashimaY,YamadaK,WakakuraMetal:SpectrumofpathogenicmitochondrialDNAmutationsandclinicalfeaturesinJapanesefamilieswithLeber’shereditaryopticneuropathy.CurrEyeRes17:403-408,199810)InagakiY,MashimaY,FuseNetal:MitochondrialDNAmutationswithLeber’shereditaryopticneuropathyinJapanesepatientswithopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol50:128-134,200611)MashimaY,KimuraI,YamamotoYetal:OpticdiscexcavationintheatrophicstageofLeber’shereditaryopyicneuropathy:comparisonwithnormaltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol241:75-80,200312)StoneEM,NewmanNJ,MillerNRetal:VisualrecoveryinpatientswithLeber’shereditaryopticneuropathyandthe11778mutation.JClinNeuro-opthalmol12:10-14,1992***

非球面眼内レンズ(Nex-Acri AA Aktis N4-18YG)挿入眼の視機能

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(135)135《原著》あたらしい眼科28(1):135.138,2011cはじめに現在,水晶体再建術は視力の改善のみでなく,より優れた視機能を得られることが望まれている.そのためにより安全で迅速な手術実績とともに,従来の眼内レンズ(IOL)から付加価値を有したIOLも開発されている.近年,他覚的評価方法として波面解析が導入されたことにより,屈折異常を波面収差という概念で捉えることが可能になった.すなわち,波面収差成分が視機能へ与える影響が着目されるようになり,特に高次収差の補正に関する重要性が認識されるようになった.諸家の報告によれば,正常な若年者の角膜は正の球面収差を有し,水晶体は負の球面収差をもつ.加齢により角膜の球面収差はほとんど変わらないが,水晶体の球面収差は正方向へ増加するため眼球全体の球面収差は増加し,その結果,視機能は低下していくことが示唆されている1,2).従来の球面IOLではその形状から加齢した水晶体同様,正の球面収差を有するため,埋植により眼球全体の球面収差を増加させる.このように従来の球面IOLでは高次収差を補正することは不十分であったが,波面収差を考慮して開発され〔別刷請求先〕太田一郎:〒462-0825名古屋市北区大曽根三丁目15-68眼科三宅病院Reprintrequests:IchiroOta,M.D.,MiyakeEyeHospital,3-15-68Ozone,Kita-ku,Nagoya-shi462-0825,JAPAN非球面眼内レンズ(Nex-AcriAAAktisN4-18YG)挿入眼の視機能太田一郎三宅謙作三宅三平武田純子眼科三宅病院VisualFunctionafterImplantationofNex-AcriAAAktisN4-18YGAsphericalIntraocularLensIchiroOta,KensakuMiyake,SampeiMiyakeandJunkoTakedaMiyakeEyeHospital目的:非球面眼内レンズ(IOL)挿入眼と球面IOL挿入眼の視機能について比較した.方法:白内障手術に続き片眼に非球面IOL(N4-18YG),僚眼に球面IOL(N4-11YB)を無作為に挿入した.術後6カ月で裸眼視力,矯正視力,高次収差〔解析領域5mmf,ゼルニケ(Zernike)6次〕,コントラスト感度,後発白内障,IOLの位置異常(偏位,傾斜)について観察した.結果:対象とした21名42眼では,非球面IOLにおける球面収差は球面IOLに比較して有意に少なかった(p<0.05).暗所でのコントラスト感度は非球面IOLが高かった(p<0.05).結語:非球面IOL(N4-18YG)は球面IOLに比較し,より高い光学性能および視機能を供する.Purpose:Tocomparethevisualfunctionofeyesthatunderwentasphericalorsphericalintraocularlens(IOL)implantation.Methods:Inthisprospective,randomizedstudy,patientsscheduledtoundergocataractsurgeryreceivedtheNex-AcriAAAktis(N4-18YG)asphericalIOLinoneeyeandtheN4-11YBsphericalIOLinthefelloweye.At6monthspostoperatively,uncorrectedvision,best-correctedvisualacuity,higherorderaberration(5mmzone,6thZernikeorder),contrastsensitivity,posteriorlenscapsuleopacity,IOLtiltanddecentrationwerecompared.Results:Enrolledinthisstudywere42eyesof21subjects.Postoperativery,sphericalaberrationwassignificantlylowerineyeswithasphericalIOLthanineyeswithsphericalIOL(p<0.05).TheeyeswithasphericalIOLhadsignificantlyhighercontrastsensitivityunderlow-mesopicconditions(p<0.05).Conclusion:TheNex-AcriAAAktisasphericalIOLprovidesbetteropticalandvisualqualitythandoesthesphericalIOL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):135.138,2011〕Keywords:非球面眼内レンズ,視機能,収差,コントラスト感度,偏位.asphericalintraocularlens,visualfunction,aberration,contrastsensitivity,tiltanddecentration.136あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(136)た非球面IOLNex-AcriAAAktisN4-18YG(NIDEK社)(以下,Aktis)は角膜の球面収差を補正し,眼球全体での球面収差を減少させるように設計されている.また,Aktisは従来の非球面IOLの光軸上での球面収差補正ではなく視軸上での補正という新しいコンセプトで開発され,従来の非球面IOLで危惧されていた偏位した場合の結像力の低下をより軽減するように設計されている.今回筆者らは,Aktisを使用し,非球面IOLによる波面収差とコントラスト感度,および偏位と視機能の関係について検討した.I対象および方法対象は2008年12月から2009年3月の間に眼科三宅病院にて白内障以外に視力低下の原因がない症例で,超音波乳化吸引術(PEA)および眼内レンズ挿入術を施行し,術後6カ月以上の経過観察が行いえた21名42眼である.性別は男性7名14眼,女性14名28眼で平均年齢は71.5±5.6歳であった.対象患者には術前に十分なインフォームド・コンセントを行い,同一患者の片眼に非球面IOLAktis(以下,非球面群),僚眼に球面IOLNex-AcriAAN4-11YB(NIDEK社)(以下,球面群)を左右ランダムに振り分けて挿入した.手術は全例CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成させ,2.8mmの上方強角膜切開創よりPEAを施行後,専用インジェクターによりIOLを.内固定した.術中にIOLの中心固定性,前.によるcompletecoverを確認した.術後6カ月における裸眼視力,矯正視力,術後屈折度数誤差量(術後等価球面度数.目標等価球面度数),波面収差,コントラスト感度,後.混濁濃度および術後偏位量を測定し両群を比較した.波面収差の測定,解析は波面センサーOPD-Scan(NIDEK社)を用いて行った.解析領域は3mm,5mmとし,角膜成分,全眼球成分についてそれぞれ4次の球面収差(C04)を測定した.コントラスト感度はVCTS6500(Vistech社)を用いて測定した.測定時の照度条件を150lux(明室),50lux(中間),10lux(暗室)となるように調整し,完全矯正下で測定した.コントラスト感度の比較は,各空間周波数におけるコントラスト感度の対数値と,AULCSF(areaunderthelogcontrastsensitivityfunction)の値を算出して用いた3).後.混濁濃度および術後偏位の測定は,前眼部画像解析装置EAS-1000(NIDEK社)を用いて行った.後.混濁濃度は撮影条件をスリット長10mm,光源を200Wとし,散瞳下でスリットモードを使い,0°,45°,90°,135°の4方向のScheimpflug像を撮影した.解析は3×0.25mmのエリアの後.混濁値(単位CCT:computercompatibletaps)を定量し,4方向の平均値を後.混濁濃度とした.術後偏位の測定は,IOLモードを使い解析した.統計解析にはWilcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準(p)は0.05未満とした.II結果術後,非球面群と球面群間で裸眼視力,矯正視力で有意差を認めなかった.屈折誤差は等価球面度数で表すと,非球面群が.0.21±0.52D,球面群が.0.92±0.55Dで非球面群が有意に少なかった(表1).収差は,角膜成分における球面収差において非球面群と球面群間で有意差を認めなかった.全眼球成分では解析領域3mmにおいて球面収差で非球面群が0.01±0.01μm,球面群が0.02±0.01μmで非球面群のほうが有意に少なかった(p表1術後視力および術後屈折度数誤差量の比較非球面群(n=21)球面群(n=21)p値裸眼視力0.65(0.40,1.05)*0.54(0.27,1.07)*p=0.090矯正視力1.09(0.85,1.39)*1.03(0.79,1.33)*p=0.074屈折誤差量(D).0.21±0.52.0.92±0.55p<0.001*:()は散布度を表す.非球面群と球面群間で術後の裸眼視力,矯正視力,屈折誤差を比較した.屈折誤差において非球面群が球面群に対して有意に少なかった.*角膜収差(μm)全眼球*3.0mm(n=10)5.0mm(n=8)3.0mm(n=10)5.0mm(n=10)□:球面群■:非球面群*p<0.010.40.30.20.10図1術後球面収差量非球面群と球面群の術後の球面収差を比較した.角膜成分は球面群,非球面群に有意差はないが,全眼球成分においては非球面群が球面群に対して有意に少ない.高照度(150lux)(n=21)中照度(50lux)(n=21)低照度(10lux)(n=21)2.001.501.000.500.001.53612181.536空間周波数(c/d)対数コントラスト感度**12181.5361218*p<0.05:球面群:非球面群図2術後のコントラスト感度の比較照度別に非球面群と球面群のコントラスト感度を比較した.低照度において非球面群が球面群に対して有意に良好な値を示した.(137)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011137<0.01).解析領域5mmにおいて非球面群が0.01±0.07μm,球面群が0.17±0.17μmで非球面群が有意に少なかった(p<0.01)(図1).コントラスト感度は,明室(150lux),中間(50lux)においてすべての空間周波数帯で非球面群,球面群間の有意差を認めなかったが,暗室(10lux)では,3,12cycles/degreeにて非球面群が有意に高値を示した(p<0.05)(図2).AULCSF値を比較すると,明所,中間では非球面群と球面群間で有意差を認めなかったが,暗所では非球面群が有意に高い値を示した(p<0.01)(図3).後.混濁濃度,術後偏位量は非球面群と球面群間に有意差を認められなかった(表2).III考按今回の結果では,球面収差において角膜成分では非球面群と球面群間で有意差を認めなかったのに対し,全眼球成分では非球面群のほうが球面群に比べて有意に少ない結果となった.その傾向は解析領域が3mmの場合よりも5mmで顕著にみられた.また,暗所におけるコントラスト感度において非球面群が球面群に対して有意に良好な値を示した.非球面IOLの収差補正効果は瞳孔径に依存し,瞳孔径が大きいほど非球面IOLの効果が大きくなることがいわれている4)が,今回の結果においても同様の結果が得られ,Aktisのもつ非球面性によるものと考えられた.偏位(decentration)や傾斜(tilt)を起こした場合,IOLの空間周波数特性(modulationtransferfunction:MTF)は低下するが,非球面IOLはその影響を大きく受け,偏位や傾斜の値が一定以上になれば球面IOLよりもMTFが低下するといわれ5),HolladayはTecnisRZ9000(AMO社)を用いたシミュレーションの結果として,0.4mm以上の偏位,もしくは7°以上の傾斜で非球面IOLのMTFは球面IOLよりも低下すると報告している6).今回偏位量については,平均で非球面群が0.25±0.19mm,球面群が0.24±0.15mmであったが,対象のなかに非球面IOLと球面IOLのMTFが逆転するとされる0.4mm以上のIOL偏位を認めた症例を3例経験したので別に検討を行った.当該例の平均偏位量は,非球面群が0.58±0.18mm,球面群が0.48±0.09mmであったが,視力,コントラスト感度とも非球面群が球面群に比べて明らかに低下するようなことはなく(表3),視軸上での球面収差補正というAktisの設計によりMTFの低下が抑えられた可能性がある.前眼部画像解析装置を用いた調査によると,.内固定されたIOLは一般的に0.2~0.4mmの偏位が生じるといわれており7~9),これら偏位が種々の術後不定愁訴の原因となっている可能性がある10).Aktisは,0.5mm以上の偏位を示した症例においても視力,コントラスト感度の低下はみられなかった.当該症例において観察期間中,特筆すべき不定愁訴もなかった.以上を総括し,Aktisは臨床上有用性があると考えられた.文献1)AmanoS,AmanoY,YamagamiS:Age-relatedchanges高照度(150lux)(n=21)中照度(50lux)(n=21)低照度(10lux)(n=21)*p<0.01*□:球面群■:非球面群2.001.501.000.500.00AULCSF図3AULCSF(areaunderthelogcontrastsensitivityfunction)照度別に非球面群と球面群のコントラスト感度のAULCSFを比較した.低照度において非球面群が球面群に対して有意に良好な値を示した.表3偏位を認めた症例の視力およびAULCSFの比較非球面群(n=3)球面群(n=3)視力裸眼0.77(0.71,0.83)*0.80(0.80,0.80)*矯正1.20(1.20,1.20)*1.13(1.02,1.25)*AULCSF高照度1.81±0.261.73±0.20中照度1.82±0.241.61±0.16低照度1.56±0.261.52±0.21*:()は散布度を表す.非球面群と球面群について術後0.4mm以上偏位を認めた症例の視力およびAULCSFを比較した.両群間に有意差はみられなかった.表2後.混濁濃度および偏位量の比較非球面群球面群p値後.混濁濃度(CCT)17.24±7.8(n=20)16.80±4.8(n=19)p=0.728Tilt量(°)2.70±1.70(n=19)2.08±1.51(n=20)p=0.244Decentration量(mm)0.25±0.19(n=19)0.24±0.15(n=20)p=0.989非球面群と球面群について術後の後.混濁および偏位量を比較した.両群間に有意差はみられなかった.138あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(138)incornealandocularhigher-orderwavefrontaberrations.AmJOphthalmol137:988-992,20042)FujikadoT,KurodaT,NinomiyaSetal:Aged-relatedchangesinocularandcornealaberrations.AmJOphthalmol138:143-146,20043)ApplegateRA,HowlandHCetal:Cornealaberrationsandvisualperformanceafterradialkeratotomy.JRefractSurg14:397-407,19984)大谷伸一郎,宮田和典:非球面眼内レンズ.眼科手術21:303-307,20085)大谷伸一郎,宮田和典:非球面眼内レンズ.IOL&RS22:460-466,20086)HolladayJT,PiersPA,KoranyiGetal:Anewintraocularlensdesigntoreducesphericalaberrationofpseudophakiceyes.JRefractSurg18:683-691,20027)HayashiK,HaradaM,HayashiH:Decentrationandtiltofpolymethylmethacrylate,silicone,andacrylicsoftintraocularlenses.Ophthalmology104:793-798,19978)吉田伸一郎,西尾正哉,小原喜隆ほか:Foldable眼内レンズの術後成績.臨眼50:831-835,19969)麻生宏樹,林研,林英之:同一デザインのアクリルレンズとシリコーン眼内レンズの固定状態の比較.臨眼61:237-242,200710)佐藤昭一:foldable眼内レンズの術後合併症と対策─偏位.眼科診療プラクティス40,foldable眼内レンズを用いる白内障手術(臼井正彦編),p68-71,文光堂,1998***