特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1703.1707,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1703.1707,2011角膜感染症からみたレンズケアの問題点ContactLensCarefromtheStandpointofCornealInfection宇野敏彦*はじめにコンタクトレンズ(CL)装用による合併症は,アレルギー,角結膜上皮障害,感染症,角膜内血管侵入,内皮障害など多岐にわたる.本項では,まず各種疫学調査から角膜感染症症例のレンズケアの実態を把握し,実際の症例を提示しながらCL関連角膜感染症発症の経緯およびその予防について考察したい.なお,本項ではCLケア自体の現状および諸問題については他項と重複するため割愛させていただく.I疫学調査からみたレンズケアの実態1.重症CL関連角膜感染症全国調査入院加療を必要としたCL関連角膜感染症症例を対象とする全国調査が日本CL学会および日本眼感染症学会の主導で2007年4月から2年間実施された1).通常外来通院で対処することの多い本疾患であるが,入院を必要とする重症症例に限っての調査ということになる.参加承諾を得た224施設から350例が集積され,臨床所見・細菌学的検査結果・CL装用管理の状況などが調査されている.本調査の対象となった症例が感染症発症時に装用していたCLの種類を表1に示す.2週間頻回交換ソフトCL(FRSCL)が全症例の56%を占めていることが注目されるが,わが国におけるCLの種類別の装用人口(表2)2)と比較検討する必要がある.装用人口のデータによると,ハードCL(HCL)と1日使い捨てCLおよび表1角膜感染症発症時使用していたCL症例数%1日ディスポーザブルSCL267.41週間連続装用ディスポーザブルSCL41.12週間頻回交換SCL19656.0定期交換(1カ月,3カ月)SCL5616.0従来型SCL92.6カラーCL174.9ハードCL174.9オルソケラトロジーレンズ20.6無回答236.6(文献1の表7を改変)表2全国のCL装用推定人口性別男性666万人女性1,200万人CLの種別ハードCL(HCL)581万人従来型SCL(カラーCL除く)221万人1日使い捨てSCL660万人2週間交換SCL595万人定期交換(1カ月/3カ月)SCL111万人(文献2の表7を改変)FRSCLが600万人前後でおおむね一致していることがわかるが,重症の感染症を発症した症例ではFRSCLが圧倒的に多く,HCLおよび1日使い捨てCL装用者は対象症例の数%程度にとどまっていた.このことはレンズケアを必要とするFRSCLのリスクが高いことを示唆するものと考えられる.なお,1カ月,3カ月といった期間を決めて交換する定期的SCLはFRSCLの約1/6*ToshihikoUno:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕宇野敏彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(41)1703無回答毎日こすり洗いしていたその他113.1%30608.6%6117.4%5317.1%4512.9%6719.1%15.1%週に4~6回こすり洗いしていたまったくこすり洗いしていなかった週に2~3回こすり洗いしていた236.6%ほとんどこすり洗いしていなかった時々こすり洗いしていた図1CLのこすり洗い(文献1の図7を改変)の装用人口であるにもかかわらず全国調査において56例(16.0%)みられていることにも注目すべきである.すなわち,定期的SCL装用はこれらのデータの比較においてFRSCLとほぼ同等,あるいはそれ以上のリスクを伴っていることをうかがわせる結果である.全国調査におけるCLのこすり洗い,CLケースの交換について図1,2に示す.CLのこすり洗いにおいて,「時々こすり洗いしていた」,「ほとんどこすり洗いしていなかった」「まったくこすり洗いしていなかった」の3つを合わせる(,)と全体の約1/2を占めており,毎日行われるべきこすり洗いがなされていない症例が目立つ結果であった.CLケースの交換についても特に交換までの期間を決めていないものが多く,「不定期に交換していた」「ほとんど交換していなかった」「まったく交換していなかった」の3つでやはり全体の約1/2であった.なお,この設問はCLの種別を問わず解答を求めた結果であり,1日使い捨てCLなどケアを必要としないCLを使用している症例に対してはそぐわないものである.ただ,このような例は少数であり,全体のおおまかな傾向には影響を与えないと考えられた.CLを安全に使用していくうえで専門的教育をうけた眼科医師による定期検査は必須である.この定期検査の受診状況について図3に示す.「3カ月に1回程度受けていた」など,一定の期間をきめて受診されていた症例は少数であり,「不定期に受けていた」,「ほとんど受けていなかった」,「まったく受けていなかった」など,特定の受診間隔を定めていなかった例がここでも約半数であった.1704あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011その他634118.0%424912.0%不定期に交換していた606517.1%18.6%14.0%11.7%無回答3カ月以内ごとに17交換していた4.9%まったく交換して6カ月以内ごとにいなかった交換していた1年以内ごとに交換していた13ほとんど交換して3.7%いなかった図2CLケース交換(文献1の図8を改変)1カ月に1回程度7722.0%4914.0%不定期に受けていた50689.7%4412.6%14.3%19.4%34受けていたその他無回答350.9%1.4%3カ月に1回程度受けていたまったく受けていなかった6カ月に1回程度受けていた1年に1回程度ほとんど受けて受けていたいなかった205.7%図3定期検査受診(文献1の図9を改変)2.国民生活センター発表内容から平成21年12月16日,独立行政法人国民生活センターより「ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─」が発表された(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091216_1.pdf).全32ページにわたる報告書であるが,そのごく一部のみマスコミに取り上げられ,その解釈が問題となったものである.この発表の主体は多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)のアカントアメーバに対する効果であるが,健常のCLユーザーレンズおよびレンズケースの汚染状況についての調査もあった.これは18.29歳のFRSCL装用者385名から通常どおりの方法で2週間装用したCLをレンズケース内のケア用品に浸漬したままの状態で回収し,アカントアメーバ汚染の有無および緑膿菌をはじめとする細菌汚染を検討した(42)ものである.アカントアメーバについては培養によって2名(0.5%)で陽性であったが,polymerasechainreaction(PCR)法による検討では培養試験で陽性であった2名を含む40名(10.4%)からアカントアメーバのDNAが検出されている.これはCLおよびCLケースのアカントアメーバ汚染が予想以上に起こっていることを示唆するものであろう.一方,CLケースの細菌汚染の状況についてでは,まったく検出されなかったものが155例(40.3%)であり,6割でなんらかの細菌が検出されていた.なかでも104個以上といった多量の細菌が検出されたものは99例(25.7%)に上り,105個を上回る検出菌数の場合には臨床的に問題となる緑膿菌の検出が飛躍的に増加する結果であった.角膜感染症を起こしていない健常とされるCLユーザーを対象としたこの国民生活センターの調査は大変深刻なメッセージをわれわれに送っている.CLケースの細菌汚染はもとより,まれと考えられていたアカントアメーバによる汚染が普遍的にみられていることに注目する必要がある.II臨床症例から考える実際に角膜感染症を発症した症例を提示し,CLの汚れと発症について考察してみたい.まずアカントアメーバ角膜炎を右眼に発症した25歳,女性の症例である.FRSCL装用者であるが,CLのこすり洗いはほとんどしていなかったとのことであった.約1カ月前から右眼の視力低下と充血を自覚し近医にて抗菌点眼薬を中心とした加療を行うも軽快しないため,愛媛大学眼科(当科)初診となった.右眼に放射状角膜神経炎および散在する浅層実質の浸潤病巣を認め,“初期”に相当する典型的なアカントアメーバ角膜炎の所見を呈していた.また,角膜擦過物よりファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストを確認した.この患者が持参してきたCLの走査型電子顕微鏡(走査電顕)所見を図4に示す.多数の付着物が認められ(図4a),その拡大図(図4b)ではアカントアメーバのシストと思われる球形体が多数CLに付着していた.さらに桿菌(培養で緑膿菌を含む2種類のグラム陰性桿菌が確認さ(43)ab図4アカントアメーバ角膜炎症例が発症時装用していたCLa:多数の汚れがCLの角膜側に付着していた(矢印:CLのエッジ).b:aの一部の拡大図.円形のアメーバシストを思わせるものが図内に5つ確認できる.その周囲に多数の桿菌様のものも認められている.れている)と思われるものも多数みられた.アカントアメーバが多数付着したCLを装用することにより角膜炎が発症したことを示唆する症例であった.なお,本症例の僚眼のCLも同様の走査電顕所見であり,状況によって両眼にアカントアメーバ角膜炎が発症していた可能性を有していた.CLの微生物汚染により角膜に浸潤病巣を呈するも感染自体は成立していなかった症例を提示する.この症例は角膜中央部に淡い浸潤病巣をきたしていた(図5a).本症例が装用していたCL(図5b)にはその角膜側に白色沈着物を認め,ここから多数の糸状真菌が検出された.しかし幸いなことに本症例はCL装用を中止することにより速やかに消炎しており,真菌による感染は成立していなかった.このようにCL装用者の角膜炎には角膜内で感染が成立している病態とともに,汚染CLに付着している細菌などの微生物による二次的な非感染性の炎症も加味されていると考えられる.感染病巣は小さいが角膜実質表層に複数の淡い浸潤をきたし,結膜充血とときに角膜内血管侵入をきたしているような症例に遭遇することは多い.CLによる機械的,あるいはMPSによる化学的上皮障害の要因ももちろん否定はできないが,CLに付着している微生物より放出される“毒素”あるいは微生物に対する免疫反応が病態を修飾しているあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111705ab図5CLの微生物汚染による非感染性角膜浸潤と考えられた症例a:角膜中央部に淡い境界不鮮明の浸潤病巣を認める.b:装用していたCLの角膜側に白色の沈着物を認めた.表3分離培養にて検出された主要菌菌種黄色ブドウ球菌表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム緑膿菌セラチアその他のグラム陰性桿菌アスペルギルスアカントアメーバ角膜病巣3567034056結膜.13431100眼脂01181000CL4222051304CLケース235391734132その他01051301(文献1の表4を改変)1706あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(44)可能性が高いと考えられる(このような病態を“contactlens-inducedacuteredeye:CLARE,コンタクトレンズによる急性結膜充血”とよぶ向きもあるが,もう少し病態を反映した名称が望ましいと筆者は考える).III緑膿菌と角膜感染症先述の重症CL関連角膜感染症全国調査1)において角膜から微生物が培養で検出されたものは147例であった(表3).そのうち70例は緑膿菌であり,アカントアメーバ56例が続いていた.その他の菌種は数例以下であり,細菌としては緑膿菌が突出した結果であった.一方,CLおよびCLケースからは緑膿菌のほか,セラチアをはじめとするグラム陰性桿菌が多数検出されていた(CLなどを検体として細菌学的検査を行った症例数は少ないと想定されており,角膜病巣の検出数との比較は適当でない).CLおよびCLケースは緑膿菌を含め,環境菌である多種類のグラム陰性桿菌に汚染されるものの,角膜への感染成立となると緑膿菌が突出して多いことがわかる.緑膿菌は角膜上皮への接着性に長けていることが基礎的検討で明らかとなっている.Panjwaniら3)は黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌と比較して緑膿菌の角膜への接着性がきわめて大きいことを明らかにしている.また,緑膿菌がもつ線毛が角膜への接着に関与しているといった報告もある4).このような特性により重症のCL関連角膜感染症の起炎菌として緑膿菌が重要になってくるものと考えられる.一方,この事実はCL,CLケースから菌が検出された場合の臨床的意義についても一つの示唆を与えてくれる.すなわち,ケースなどから緑膿菌が検出された場合は角膜炎の起炎菌の可能性が高いが,そのほかのグラム陰性桿菌の場合,起炎菌として考えることには慎重になるべきということである.CLケースなどに緑膿菌を混入させないことは感染症予防にとって重要なことであろう.先述の国民生活センターのデータによると,ケースなどの細菌汚染が高度になるにつれ緑膿菌汚染の確率が高くなっていた.正しいCLケアにより少しでも細菌汚染を回避することにより緑膿菌性角膜炎を予防でき,細菌を餌として増殖するアカントアメーバによる角膜炎も予防できることになる.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20112)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20103)PanjwaniN,ClarkB,CohenMetal:DifferentialbindingofP.aeruginosaandS.aureustocornealepitheliuminculture.InvestOphthalmolVisSci31:696-701,19904)HazlettL,RudnerX,MasinickSetal:Intheimmaturemouse,Pseudomonasaeruginosapilibinda57-kd(alpha2-6)sialylatedcornealepithelialcellsurfaceprotein:afirststepininfection.InvestOphthalmolVisSci36:634643,1995(45)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111707