あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110010910-1810/11/\100/頁/JCOPY結核性眼炎症疾患の診断結核による眼病変には角膜実質炎やフリクテン様結膜炎,前部ぶどう膜炎,粟粒結核や結核腫,網膜静脈炎に代表される後部ぶどう膜炎があげられます1~4).その他にも,結核菌に対する宿主の免疫反応により多彩(非特異的)な眼所見(強膜炎,地図状脈絡膜炎,視神経網膜炎,硝子体混濁など)を呈することがあります.2002年に施行された全国の大学付属病院を対象としたぶどう膜炎の疫学調査によると,ぶどう膜炎全体に占める結核性ぶどう膜炎の割合は0.7%,当院の統計でも4.3%を占めており,依然としてわが国における代表的な感染性ぶどう膜炎といえます5,6).通常,結核と確定診断するためには病巣部からの菌体の証明が必要となりますが,結核性眼疾患(特に後部ぶどう膜炎など)に対してこの原則をあてはめようとした場合,ほとんどの症例においてその確定診断は現実的にほぼ不可能となります.過去に結核患者との接触歴があること,活動性の結核や結核の既往があること,さらに特徴的な眼所見を呈していれば診断は比較的容易ですが,ツベルクリン反応(ツ反)が強陽性でありながら眼外結核が明らかでない場合,診断に苦慮することも少なくありません.そこで現時点での結核性眼炎症疾患の診断は,1)肺結核などの眼外結核が存在する,2)結核に対する免疫反応が陽性,3)典型的な結核眼病巣の存在,4)既知のぶどう膜炎を否定できる眼および全身所見,5)抗結核療法の治療効果,などから総合的に判断することになります1,2).新たな結核感染診断法クオンティフェロンTBの登場従来,結核感染の有無には先ほど述べたツ反が用いられてきました.ツ反に用いられているpurifiedproteinderivative(PPD)は加熱滅菌した結核培養液から部分精製した蛋白成分ですが,PPDには数百種類もの異なった結核菌抗原が含まれており,その大部分がBacillusCalmette-Guerin(BCG)や非定型抗酸菌と高い類似性を有しています.そのためBCG接種や非定型抗酸菌感染によってもツ反が陽性化してしまうなど特異度の点で問題がありました.1990年代後半にはいり,結核菌の遺伝子解析や抗原解析の進展に伴いAndersonらによってBCGには存在しない結核特異抗原であるESAT-6とCFP-10の2つの蛋白抗原が同定されました7).この2つの抗原を使用した新たな結核感染診断法がクオンティフェロン(QuantiFERONR-TB:QFT-2G)です.末梢血から採取したリンパ球を試験管内でESAT-6抗原とCFP-10抗原で刺激培養し(18?24時間,37℃),培養上清中に分泌されたインターフェロン-gをELISA(enzymelinkedimmunosorbentassay)法にて測定することで結核感染を判定します.これまでのQFTの感度,特異度に関する報告をみますと,Moriらは肺結核確定患者を陽性群,健常人ボランティア(看護学生)を陰性コントロールとしてツ反とQFTの感染診断における有用性について比較検討を行いました8,9).その結果,ツ反の感度は92%,特異度は17%であったのに対してQFTでは感度89%,特異度98%という結果となり,QFTは感度の点ではツ反にやや劣るものの,特異度についてはツ反よりも圧倒的に優れていることを報告しました.この結果はQFTが陽性の場合は,ほぼ間違いなく結核に感染していることを意味しています.その一方で,感度が89%ということはQFTが陰性でも結核に感染している危険性が10%程度存在するため,結果の解釈には十分な注意が必要となります.現在,QFTは肺結核や肺外結核の診断だけでなく,結核接触者の検診,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者などの潜在性の結核感染のスクリーニングにも用いられています.結核性眼炎症疾患へのQFTの応用これまでの眼科領域におけるQFTに関する報告をみますと,2008年にMackensenらが21例の地図状脈絡膜炎の症例のうち,11例でQFTが陽性であることを報告し,地図状脈絡膜炎における結核感染との関連を指摘(97)◆シリーズ第127回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊慶野博(杏林大学医学部眼科)クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?1002あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011しています10).さらに2009年にAngらはシンガポールの157名のぶどう膜炎患者に対してツ反とQFTを施行し,両者の結核性ぶどう膜炎に対する感度,特異度について検討しました.その結果,特異度についてはツ反が72.7%に対してQFTは81.8%とQFTのほうが高く,感度についてはツ反が95.5%,QFTは90.9%という結果を報告しました11).この結果は結核性ぶどう膜炎でも肺結核と同様,QFT単独では約10%の確率で結核感染を見落とす可能性があることを意味します.この点については筆者らも結核性眼疾患を疑った場合はQFT単独ではなくツ反とQFTを組み合わせて検査をすることの重要性を強調しています.最近,筆者らの施設においてステロイド点眼で改善しない強膜炎で胸部X線では異常を認めなかったもののツ反は強陽性,さらにQFTも陽性のため結核感染を疑い抗結核薬を開始したところ,炎症の改善を認めた症例を経験しました(図1)12).もしQFTを施行せず,ツ反強陽性の結果のみだった場合,BCG接種による影響も否定できないため抗結核療法を開始すべきか判断に迷うところです.結核性眼炎症疾患を疑った場合,眼所見,全身所見,ツ反に加えQFTの結果も併せて総合的に判断していくことが重要と考えます.QFTの問題点と今後の展開QFTはBCG接種に影響されることなく結核感染の有無を判定できる優れた検査法ですが,結果の解釈には注意すべき点があります.QFTは結核感染の有無を判定するものであって,現在の結核の活動性の指標になりうるものではありません9).また,上述したようにQFTの感度はツ反ほど高くないため,QFTの結果が陰性であった場合でも結核の感染を完全に否定することはできません.この点については,これまでQFT-2Gで用いられていたESAT-6,CFP-10の抗原に加えて,別の結核抗原であるTB7.7が追加されたQFT-3Gが国内でも使用可能となり,今後QFTの感度の改善が期待されます.現在,QFTは関節リウマチなどの難治性自己免疫疾患に対するTNF(腫瘍壊死因子)-a阻害薬などの生物学的製剤投与予定者の結核スクリーニングや抗結核薬予防投与の適応の決定などにも広く応用されています.眼科領域でもBehcet病難治性網膜ぶどう膜炎に対して抗TNF-a抗体であるインフリキシマブが2007年1月より保険適用となりました.インフリキシマブ投与による潜在性結核の再燃は最も重篤な副作用の一つであり,この点においても眼科領域におけるQFTの重要性は今後ますます高まるものと思われます.文献1)安積淳:結核性眼疾患.日本の眼科70:1043-1046,19992)後藤浩:結核性ぶどう膜炎の現状と診断,治療上の問題点.眼紀52:461-467,20013)MorimuraY,OkadaAA,KawaharaSetal:TuberculinskintestinginuveitispatientsandtreatmentofpresumedintraoculartuberculosisinJapan.Ophthalmology109:851-857,20024)GuptaV,GuptaA,RaoNA:Intraoculartuberculosis─Anupdate.SurvOphthalmol52:561-587,2007(98)図1結核性強膜炎の1例68歳,男性.胸部X線では異常は指摘されなかったがツベルクリン反応陽性,QFT陽性を示したため結核性強膜炎を疑い抗結核療法を開始,充血の改善を認めた.a:治療前,b:治療後(12カ月).ab(99)あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110035)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20076)KeinoH,NakashimaC,WatanabeTetal:FrequencyandclinicalfeaturesofintraocularinflammationinTokyo.ClinExperimentOphthalmol37:595-601,20097)AndersonP,MunkME,PollockJMetal:Specificimmune-baseddiagnosisoftuberculosis.Lancet356:1099-1104,20008)MoriT,SakataniM,YamagishiFetal:Specificdetectionoftuberculosisinfection:aninterferon-gamma-basedassayusingnewantigens.AmJRespirCritCareMed170:59-64,20049)鈴木克洋:クオティフェロンTB-2G(QFT)の有用性.呼吸と循環57:299-303,200910)MackensenF,BeckerMD,WiehlerUetal:QuantiFERONTB-Gold─Anewteststrengtheninglong-suspectedtuberculousinvolvementinserpiginous-likechoroiditis.AmJOphthalmol146:761-766,200811)AngM,HtoonHM,CheeSP:Diagnosisoftuberculousuveitis:clinicalapplicationofaninterferon-gammareleaseassay.Ophthalmology116:1391-1396,200912)TakiW,KeinoH,WatanabeTetal:Interferon-gammareleaseassayintuberculousscleritis.ArchOphthalmol129:368-371,2011☆☆☆■「クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?」を読んで■結核は,全世界人口の3人に1人が感染していると考えられ,また年間900万人の新規患者と180万人もの死亡者を出している感染症です.単一病原菌によるものでは最悪の感染症といえます.日本では結核患者が増加したため,1999年に結核緊急事態宣言が出されましたが,2008年においても新登録結核患者数は24,760人,また死亡者数は2,216人を数え,先進国のなかにおいては中蔓延国に位置付けられています.特にアジアは,世界の結核の半分以上が発生している地域とされており,アジアとの国際交流が盛んになっている現状を考えると,結核は現在最も重要な感染症の一つといえます.過去30年,イソニコチン酸ヒドラジッドやリファンピシンなどのきわめて効果の強い抗結核薬が開発され,先進国では結核患者数は激減しました.しかし,抗結核薬には必ず副作用があります.エタンブトールによる視神経障害は有名ですが,比較的副作用の少ないものでも,長期間服用することで臓器障害を起こすことはまれではありません.一方,抗結核薬が広く使われるようになり,薬剤耐性結核菌の問題も出てきました.米国では,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)による結核患者に薬剤耐性結核菌が広がり,大きな問題となりました.近い将来,まったく新しい抗結核薬が誕生する可能性が低いことを考えると,抗結核薬の治療は必要なケースに限るべきでしょう.従来,結核診断は1932年にSeibertによって開発されたPPD(ツベルクリンテスト)が用いられてきました.慶野博先生が本稿でわかりやすく解説されているように,PPDには感度は高い反面,特異性が低いという問題があります.集団から結核患者を拾い出すためには,感度が高いPPDは有用ですが,本当に抗結核薬治療が必要な患者を選択するには不十分なのです.このことがわかると,なぜ特異性が高いクオンティフェロン(QFT)が世界中の医師から待ち望まれたのかが理解できると思います.眼科領域においては,結核菌感染症はさまざまな表現型を示します.そのため,確定診断がつかずに漫然と抗結核薬を使用することがありましたが,それは薬剤耐性結核菌を増やす原因となった可能性があります.また逆に,抗結核薬が使われずに治療が成功しなかったケースも少なくありません.QFTにより,結核菌感染症患者を正確に診断することは,眼科領域では特に大切であるといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二