あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116650910-1810/11/\100/頁/JCOPY視細胞病変に関わる繊毛関連因子多くの種類の細胞には繊毛とよばれる微小管を基盤とした構造が細胞表面に存在し,細胞外からのシグナルをキャッチするアンテナとして機能しています.網膜視細胞にも繊毛が存在しており,外節軸糸と結合繊毛により構成されています(図1左).視細胞の外節は繊毛が発達した構造であり1),光センサーとして働いています.ロドプシンなどの光感知蛋白質は繊毛を経由して外節へと運ばれますが,繊毛における蛋白質の輸送機構はintraflagellartransport(IFT)とよばれています.興味深いことにIFTに関わる蛋白質や微小管結合蛋白質retinitispigmentosa1(RP1)をはじめとするいくつかの繊毛に存在する蛋白質の変異は視細胞の細胞死をひき起こし,網膜色素変性症などの視機能の低下や失明を伴う疾患をひき起こすことが知られています2,3).Makによる視細胞の繊毛の長さの制御筆者らは視細胞で特異的に発現する遺伝子を同定するためにマイクロアレイによるスクリーニングを行い,機能未知のセリン・スレオニンキナーゼmalegermcellassociatedkinase(Mak)が視細胞に特異的に発現することを見いだしました4).まずMakの視細胞での局在を調べたところMakは繊毛に局在していることがわかりました.Makの生体内での機能を調べるために,筆者らはMak欠損マウスの解析を行いました.Mak欠損マウスの網膜を観察すると,網膜色素変性症に似た視細胞の脱落が起こることがわかりました.Mak欠損マウスの視細胞の繊毛を調べると野生型マウスと比較してその長さが過剰に伸びていました(図1).さらに生後14日目のMak欠損マウスでは通常では外節に局在するロドプシンが細胞体にも蓄積していることがわかりました.これらのことからMak欠損マウスでは繊毛が過剰に伸びることによってIFTの障害が起き,ロドプシンなどの本来ならば外節へと運ばれるべき蛋白質が輸送されにくくなり,細胞死がひき起こされる可能性が示唆されました.MakとRP1による繊毛の長さ調節Mak欠損マウスの解析から,Makは視細胞の繊毛の長さを制御することがわかりました.この繊毛の長さの制御はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?筆者らは視細胞の繊毛においてMakとRP1が共局在することを見いだしました.RP1の変異マウスでは繊毛の長さが短くなることが知られています5)ので,筆者らはMakとRP1の機能に関連があるのではないかと考えました.まずMakとRP1を培養細胞に発現させたところ,これら2つの因子は拮抗的に繊毛の長さを調節することが明らかとなりました.また,生化学的な実験によりMakはRP1と相互作用し,RP1をリン酸化することがわかりました.これらの結果から,MakはRP1の機能を制御することによって視細胞の繊毛の長さを調節することが明らかとなりました.繊毛の長さ維持と視細胞の細胞死Mak欠損マウスは,進行性の視細胞の脱落を示す網膜色素変性症のモデルマウスであり,同時にMak欠損マウスにおいては視細胞の繊毛の過剰な伸長が見られま(63)◆シリーズ第125回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊茶屋太郎*1佐藤茂*2古川貴久*1(*1大阪バイオサイエンス研究所発生生物学部門第4研究部/*2東大阪市立総合病院眼科)視細胞における繊毛の長さの制御異常は網膜変性をひき起こす─繊毛の長さを調節するキナーゼMak─図1野生型マウスとMak欠損マウスの視細胞の繊毛視細胞の繊毛は外節軸糸と結合繊毛により構成される.Mak欠損マウスでは繊毛が過剰に長くなりIFTに障害が生じることによって細胞死がひき起こされると考えられる.野生型マウスの視細胞Mak欠損マウスの視細胞外節外節軸糸結合繊毛内節繊毛が過剰に長くなる細胞死視物質が細胞体に蓄積666あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011した.このような視細胞の繊毛が伸びる表現型は,これまでで初めての報告であり興味深い点です.Mak欠損マウスとは対照的に繊毛の長さが短くなるRP1変異マウスでも視細胞の細胞死がひき起こされる6)ことから,繊毛の適切な長さの維持が視細胞の生存に必要であることが示唆されます.今回筆者らが報告したMakの機能解析は網膜色素変性症の病態メカニズムの解明に貢献すると考えられ,これらの疾患に対する診断や治療法の確立に向けての足掛かりになる可能性が期待されます.文献1)TokuyasuK,YamadaE:Thefinestructureoftheretinastudiedwiththeelectronmicroscope.IV.Morphogenesisofoutersegmentsofretinalrods.JBiophysBiochemCytol6:225-230,19592)HartongDT,BersonEL,DryjaTP:Retinitispigmentosa.Lancet368:1795-1809,20063)FliegaufM,BenzingT,OmranH:Whenciliagobad:ciliadefectsandciliopathies.NatRevMolCellBiol8:880-893,20074)OmoriY,ChayaT,KatohKetal:Negativeregulationofciliarylengthbyciliarymalegermcell-associatedkinase(Mak)isrequiredforretinalphotoreceptorsurvival.ProcNatlAcadSciUSA107:22671-22676,20105)LiuQ,ZuoJ,PierceEA:Theretinitispigmentosa1proteinisaphotoreceptormicrotubule-associatedprotein.JNeurosci24:6427-6436,20046)GaoJ,CheonK,NusinowitzSetal:Progressivephotoreceptordegeneration,outersegmentdysplasia,andrhodopsinmislocalizationinmicewithtargeteddisruptionoftheretinitispigmentosa-1(RP1)gene.ProcNatlAcadSciUSA99:5698-5703,2002(64)■「視細胞における繊毛の長さの制御異常は網膜変性をひき起こす」を読んで■─繊毛の長さを調節するキナーゼMak─今回は茶屋太郎先生らが,視細胞に繊毛があること,その長さを調節する遺伝子が特定されたこと,その異常が網膜色素変性をひき起こすことをわかりやすく解説してくださいました.視細胞に繊毛があることを臨床医として知識で知っていても日常診療のなかで自覚することはほとんどありませんが,網膜色素変性の患者さんは頻繁に診察する機会があります.網膜色素変性は多くの遺伝子異常によりひき起こされる疾患であり,その原因遺伝子は多く同定されています.今回の茶屋先生の紹介されたたいへん美しいお仕事は,ヒトの疾患である網膜色素変性が機能のわかっている遺伝子の異常としてとらえられたことに意義があります.すなわち,視細胞の繊毛の長さを規定する遺伝子Makが網膜色素変性症の病態メカニズムの解明に貢献することが考えられ,診断や治療法の進歩に貢献する可能性があることが総説のなかでも述べられています.ぜひ,この研究から網膜色素変性の新しい治療法がつくり出されることを切に願うものです.このような研究のもう一つの意義は,視細胞の機能,構造の研究にMakと視細胞繊毛の長さの関連の研究はとても貢献するということです.視細胞の繊毛は解剖の教科書には触れられていますが,その長さの異常が遺伝子異常により起こることが解明されたのですから,構造と機能,そしてその異常としての疾患の分子病態などが非常に特徴的な細胞構造の研究から明らかになりつつあることがわかります.特に繊毛の長さを規定する遺伝子が存在し,網膜の視機能にきわめて重要な影響を与えるということは生命科学的な基本的な知見を豊かにすることにもつながり,細胞生物学の進歩に貢献すると考えられます.このように視細胞に特殊と思われている構造体の研究から非常に応用性の高い,生命科学的な基本的な知見が積み上げられること,それが疾患の病態解明という形で人類に貢献しつつ生命科学を進歩させるというのは今後の眼科,視覚科学のもつ無限の可能性を確信させるにたる素晴らしいご業績と考えます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆