0910-1810/11/\100/頁/JCOPYにステロイド薬全身投与を受けている患者のみならず,ステロイド薬点眼でも誘発される.2.局所ステロイド薬治療ぶどう膜炎治療の基本はステロイド薬の局所投与である.局所投与法としては点眼,結膜下注射などが一般的であるが,ときにTenon.下,球後注射,硝子体腔注射なども行われる.おもに前眼部病変に対しては点眼・結膜下注射,中間部ぶどう膜炎や後眼部病変に対しては後部Tenon.下注射で対応する.加えて適切な瞳孔管理がきわめて重要である.眼局所投与は全身的な副作用が少ないが,それでもステロイド緑内障,白内障などを起こすことがある.使われるステロイド薬の種類は局所投与用としてはリン酸ベタメタゾン,デキサメタゾン,プレドニゾロン,フルオロメトロンなどで,点眼,眼軟膏製剤として使われる.現在日本で使用できるステロイド点眼薬の種類は大きく制限されている.単一の点眼薬をむやみに長く処方するのではなく,効果の強い製剤から徐々に弱い製剤に移行させながら治療するのが本来の姿である.皮膚科などで,さまざまな強さの数十種のステロイド製剤が存在し,さまざまな治療の選択肢が存在するのに比べると明らかに見劣りする.また,点眼薬のなかで最強のリン酸ベタメタゾン(リンデロンR)ですら全ステロイド製剤のなかでは効果の点で中間の部類に属しており,真に重篤な炎症をコントロールできる点眼薬が日本には存在しはじめにぶどう膜は眼球内で唯一豊富な血流を有する部位である.単位体積当たりの血管が多く,さまざまな全身血管病に伴う眼炎症の起炎部位になりやすい.ぶどう膜炎といっても単にぶどう膜の炎症のみを指すのではなく,眼球内炎症の総称である.ゆえに,最近は広く眼全体の炎症状態を代表する呼び名として国際的にも「内眼炎(intraocularinflammation)」といわれるようになってきた.ぶどう膜炎は大きく自己免疫病などの内因性のものと,感染症などの外因性のものに分類できる.本稿では特に内因性ぶどう膜炎の内科的治療について,副腎皮質ステロイド薬とそれ以外に分けて概説する.I副腎皮質ステロイド薬の使用法1.全般的留意点眼科領域におけるステロイド薬投与法には大きく分けて全身投与と局所投与がある.いずれの投与法であれ,ステロイド薬は副作用の明らかな薬剤であり,投与する際に常にそのリスクとベネフィット比を考えなくてはならない.ぶどう膜炎治療では大量のステロイド薬を使う機会もあり,その場合全身管理の面から他科との連携は不可欠である.感染症(結核,ウイルス性肝炎など),糖尿病,骨粗鬆症,精神疾患など全身基礎疾患がある患者への投与は慎重に行う必要がある1).また,ステロイド薬投与による白内障と緑内障といった眼合併症にも留意する必要がある.眼合併症は喘息・膠原病などで長期(27)483*KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野〔別刷請求先〕園田康平:〒755-8505宇部市小串1144山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):483.487,2011内科的治療MedicalTherapyforUveitis園田康平*484あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(28)プレドニゾロン1,000mgを3日間点滴静注し,その後プレドニゾロン内服40.60mg/日から漸減するパルス療法も行われることがある.いずれにせよ初回治療が非常に大切で,発症後早期に十分量のステロイド薬が投与されないと再発をくり返す,いわゆる遷延型に移行し,不可逆的な視機能障害に至る可能性が出てくる.Vogt-小柳-原田病以外のぶどう膜炎に関しては,前述したとおり,治療の大原則はステロイド薬局所投与である.しかし,局所治療に反応せず,強い硝子体混濁や広範囲にわたる網膜血管炎,汎ぶどう膜炎に付随する黄斑浮腫などが存在する場合にはステロイド薬全身投与が適応となる.その投与量や投与期間については個々の症例に応じた匙加減が必要で,画一的な処方はない.たとえば重症のサルコイドーシスなどではプレドニゾロン30.60mg/日の内服から開始し,所見の改善に合わせて20.30mg/日までは早めに減量し,その後は1カ月から2カ月ごとに5mgずつ減量する.原因不明の急性劇症型ぶどう膜炎で,毛様体機能が著しく低下して低眼圧をきたしている症例などでは短期間のステロイドパルス療法が有効なことがある.前述のメチルプレドニゾロン500mg/日の点滴静注を3日間施行する.こうしたステロイド薬の全身投与を行った際は,副作用の発現に注意が必要である.消化管潰瘍,骨粗鬆症,感染症,精神症状など多くの点に注意を払わなくてはならない.特に中高年の症例にステロイド薬の長期投与を余儀なくされた場合に問題となるのが骨粗鬆症である.最近はこのステロイド骨粗鬆症に対し,ビスホスホネートという薬剤が有効であることがわかってきた.整形外科に依頼して骨密度を定期的に測定しながら,必要に応じて内科や整形外科での加療を早めに依頼することも肝要である.IIステロイド薬以外の治療薬の使用法1.非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalantiinflammatorydrugs:NSAIDs)ぶどう膜炎に伴う眼内炎症抑制に効果的エビデンスのあるNSAIDs内服薬はない.眼炎用に疼痛を伴う場合や大量のフィブリンの析出がみられるときに,短期間適切なNSAIDsを処方することがある.ない.副作用を恐れるため,有望な新薬の開発ならびに上市がなかなか承認されないのが問題であるが,眼科医側からも草の根的な要望を出し続ける必要がある.最近,遷延性のぶどう膜炎症例に対して全身投与を行う前に,まずはトリアムシノロンなどの持続性デポ型ステロイド製剤(10.20mg)の経Tenon.下球後投与などが行われることが多くなった2,3).その結果,全身投与が施行される頻度が減少しており,副作用軽減の立場からも喜ばしいことである(トリアムシノロンは厳密には現行の保険でぶどう膜炎に使用できない.眼局所注射用の製剤の承認が待たれる).眼内にインプラントを設置し,長期間にわたり有効濃度のステロイド薬を眼内に徐放させる各種製剤の開発・治験も行われている.外科的な手技を必要とするので,すべての症例に勧められる治療法ではないが,以下のようなケースは良い適応であろう.①後眼部の炎症が主体で,ステロイド薬の点眼だけでは炎症をコントロールできない慢性のぶどう膜炎,②慢性のぶどう膜炎で,ステロイド薬の全身投与にはよく反応するが,漸減や中止のたびに再発するため,ステロイド薬を中止できない症例,③糖尿病などの合併性があり,長期間のステロイド薬投与が躊躇される症例,④ステロイド薬を処方してもコンプライアンスが良好でない症例,などである.この治療法は眼内にステロイド薬を貯留させるため,白内障や緑内障を起こす可能性はある.しかし,すでに白内障の手術が終わり,ステロイドレスポンダーでないことが確認されている症例には有効であろう.高齢者などに対するステロイド薬全身投与のリスクを考えると,全身的副作用を軽減できる点からも有用な治療法の一つになりうると考えられる.3.全身ステロイド薬治療ステロイド薬を発症初期から大量に投与する必要のある代表的な疾患にVogt-小柳-原田病がある.初期量としてベタメタゾンなどの長期間持続性のあるステロイド薬をプレドニゾロン換算で200.240mg/日から点滴静注として投与する.眼所見の改善を確認しながら徐々に漸減し,プレドニゾロン換算で50.60mg/日となったところで同量のプレドニゾロン内服に切り替える.その後,3.4カ月かけて内服量を漸減する.一方,メチル(29)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011485従来の薬物治療は,一定の効果をあげてきたとはいえ,残念ながら治療に反応せず失明に至る症例が数多く存在した.また,全身副作用のため長期で投与できないケースもある.患者はBehcet病に伴う臓器障害に加え,薬物副作用による症状にも苦しんできた.薬剤のメリット・デメリットの割合で考えると,必ずしも患者にとって有益な治療とならない場合も多い.3.生物製剤インフリキシマブ(レミケードR)が,わが国での3つの治験を経て4),2007年1月よりBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に適応認可された.インフリキシマブはあらゆる炎症の起点となるサイトカインTNF(腫瘍壊死因子)aに対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNFaモノクローナル抗体のうち,TNFaへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgGに変換したキメラ抗体である.TNFaを中和するだけでなく,TNFa産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する5).具体的にはインフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する(図1).インフリキシマブがBehcet病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で発作を頻回にくり返す難治性の眼Behcet病患者に順次導入され,結果報告が出て来つつある.それによるとおおむね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.インフリキシマブは非常に有効な薬剤ではあるが,現2.免疫抑制薬現在日本で使用できるぶどう膜炎に対しての免疫抑制薬は,Behcet病に対するシクロスポリンのみである.しかし諸外国では,メトトレキサート,アザチオプリン,シクロホスファミドなどの代謝拮抗薬が使用され,ある程度の効果をあげている.日本で免疫抑制薬・代謝拮抗薬の処方が制限されていることが診療に及ぼす影響は計り知れない.特にステロイド薬の全身副作用のある症例に有効である可能性が高い.わが国でも,今後ぶどう膜炎に対する免疫抑制薬・代謝拮抗薬の保険適用を広げていく必要がある.免疫抑制薬の具体的な使用方法を述べる.Behcet病は,①口腔内難治性アフタ潰瘍,②結節性紅斑などの皮膚症状,③虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎(ぶどう膜炎),④外陰部潰瘍を主症状とする原因不明疾患である.なかでも眼症状は重篤で失明に至るケースが多く,本症患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させている.最大の特徴は「発作と緩解をくり返すこと」であり,急性期眼炎症管理に加えて,長期でいかに眼発作回数を減らすかが治療のポイントとなる.Behcet病に伴うぶどう膜炎では急性発作が落ち着いた緩解期に,「発作頻度減少を目的とした治療として」免疫抑制薬や生物学的製剤が使用される.まずコルヒチンを0.5.1.5mg経口投与する.コルヒチン単独で無効の場合,シクロスポリンを併用内服する.5mg/kg/日を目安に投与を開始し,特に投与初期は血中トラフ値(シクロスポリンの血中最低濃度)が高くならないように気を配りながら投与量を加減する(通常100ng/ml以下).副作用として肝腎障害や神経Behcet病の誘発があり,特に後者は生命予後にも関わる問題であるため,本薬剤の使用開始にあたっては十分な注意が必要である.コルヒチン・シクロスポリンに反応して発作頻度が減少する症例があるために,現在でも最初に導入されることが多い.一方で,これらの投薬は予防目的であるため,中止や減量のタイミングがむずかしい.しばらく発作がないということで減量すると,前にも増して大きな発作を起こすことがあるため,結果として長期投与になってしまう.ゆえに,造血系,腎臓,肝臓,中枢神経系などに障害をきたす副作用がしばしば出現する.Behcet病眼発作予防に行われてきた図1インフリキシマブ(レミケードR)治療の実際インフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する.効能・効果Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分な場合)用法・用量通常,体重1kg当たり5mgを1回の投与量とし点滴静注する.初回投与後,2週,6週に投与し,以後8週間の間隔で投与を行う.01020304050週02614223038468週間隔486あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(30)抗二本鎖DNA抗体の上昇例が報告されている7).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗二本鎖DNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.インフリキシマブはいわゆる生物製剤とよばれる新しい治療薬であり,全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,投与後も全身的な副作用に常に注意を払うことが必要である.まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌である.問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs抗原(B型肝炎表面抗原)を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.現時点ではインフリキシマブは緩解期に発作予防の目的で使用される.しかし急性発作期の迅速な消炎にも効果を発揮するとも考えられる.今後,本症での使用症例が増えるなかで,急性期発作に対する使用法も確立され時点ではBehcet病治療の第一選択ではない.それは後述するさまざまなリスクがあるからである.Behcet病と診断したらまずはコルヒチン・シクロスポリンといった従来どおりの治療を行う.従来の治療に抵抗する,または副作用でコルヒチン・シクロスポリンの投与ができない症例に限り,インフリキシマブ投与を検討する.今後症例数が増え安全性がより確立されるようなら,リウマチ治療で行われつつあるようにインフリキシマブがBehcet病治療の第一選択になる可能性はある.インフリキシマブの副作用として,抗体製剤であることによる副作用と,TNFaを抑制することによる副作用,の2つに大別される.前者の代表として投与時反応(infusionreaction)が重要である.即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,掻痒,嘔吐などがある.軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応する.一方,長期的にTNFaを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が指摘されている.結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.投与後の悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.また,海外で結節性紅斑の悪化例6)や,図2各種抗TNFa製剤ヒトTNFaとの結合部Fabマウス蛋白質製剤構造模式図ヒト蛋白質FcヒトTNFaとの結合部FabFcヒトTNFaとの結合部TNFR-2(p75)Fc製剤名インフリキシマブアダリムマブエタネルセプト構造キメラ型抗TNFa抗体完全ヒト型TNFa抗体ヒトIgG融合蛋白用法用量静脈注射(0,2,6,以後8週おき)5mg/kg皮下注射(1回/2週)1回400mg皮下注射(2回/週)1回25mg他剤併用RAではMTX必須なしなし副作用注射時反応非ヒト成分含まず少ない注射部位反応(31)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011487に,ステロイド薬剤の眼科における使用法.眼科27:1009-1019,19852)YoshikawaK,KotakeS,IchiishiAetal:Posteriorsub-Tenoninjectionsofrepositorycorticosteroidsinuveitispatientswithcystoidmacularedema.JpnJOphthalmol39:71-76,19953)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneinfusionforthetreatmentofuveitis.BrJOphthalmol8:968-971,20034)OhnoS,NakamuraS,HoriSYetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1368,20045)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20066)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYAetal:FailureofinfliximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodosumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,20047)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Succesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withinfliximab.AdvExpMedBiol528:551-555,20038)Diaz-LlopisM,Garcia-DelpechS,SalomDetal:Adalimumabtherapyforrefractoryuveitis:apilotstudy.JOculPharmacolTher24:351-361,2008てくると思われる.インフリキシマブ以外にも同じTNFa拮抗薬として,エタネルセプトやアダリムマブといった製剤のぶどう膜炎治療への応用が今後進む可能性がある(図2)8).他のサイトカインや細胞表面分子をターゲットにした製剤が次々に開発されている.今後はどの生物学的製剤を取捨選択し,どの時期にどのような形で使用するか?という臨床プロトコール作りが課題になってくると思われる.おわりに現時点のわが国で内因性ぶどう膜炎に対して行われている内科的治療を概説した.ステロイド局所治療の幅が広がり,生物製剤の導入によって難治性ぶどう膜炎の治療に光明がみえてきた感がある.治療選択肢の幅をもち,患者にとって最適の治療を選択できるようにすることが,ますます重要になってくると考えられる.文献1)臼井正彦,坂井潤一:眼科薬物治療法─卒後研修医のため