0910-1810/10/\100/頁/JCOPY検査を行い慎重に判断しなければならない(表1)10,11).基本的には20歳以上の眼疾患のない軽度の近視が適応となる(表2).当院で行ったオルソケラトロジーの臨床治験の症例が使用していた視力補助具は眼鏡,ソフトコンタクトレンズ(SCL)が多く,HCLの使用経験は13%であった(図1).オルソケラトロジーレンズはHCLであるが,HCLの装用経験がない症例においても,オルソケラトロジーを問題なく導入することが可能である.逆に,オルソケラトロジーレンズを処方するための角膜形状解析検査を正確に行うためには,SCLは3日から1週間,HCLでは3週間から1カ月間,コンタクトレンズ(CL)装用を中止しなければならない.1.絶対禁忌オルソケラトロジーによる近視を軽減する原理は角膜中央部の形状を平坦化し,光学領域の角膜屈折力を減少はじめにオルソケラトロジーは,ハードコンタクトレンズ(HCL)を装着して睡眠し,角膜形状を変形させることにより角膜屈折力を変化させる屈折矯正方法である1,2).正しく適応の選択されたオルソケラトロジーの有用性・安全性が明らかになってきており3),わが国においても屈折矯正方法の一つとして普及されることが予想される.本稿では,オルソケラトロジーの処方方法について解説するが,実際のオルソケラトロジーの実施においては,その原理や実際の処方方法の習熟のみならず,屈折矯正の過程で生じる角膜への影響など,角膜生理と屈折矯正に対する深い理解が必要である.まずは,本特集でオルソケラトロジーに対する知識を整理してから成書を精読されることをお薦めする.Iオルソケラトロジーの適応オルソケラトロジーは日中,補助具なしで視力を改善することができること,レンズ装用を中止することにより角膜形状が元に戻り可逆性であることなどの利点がある4,5).一方,矯正効果を発揮するためには,より効率よく角膜の変形を生じるHCLを装用しなければならないため,角膜に対する影響は大きくなる6.9).また,オルソケラトロジーの屈折矯正効果には限界があり,適応を超えるような屈折異常の症例に無理に矯正を行うことは角膜に過剰な負担を強いることとなり危険性が高くなる.そのため,オルソケラトロジーの適応はスクリーニング(23)1505*RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505宇部市小串1144山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1505.1512,2010適応と処方の実際PatientSelectionandLensFitting柳井亮二*表1オルソケラトロジーのスクリーニング検査1)視力検査:裸眼および矯正視力2)屈折値検査:自覚,他覚3)角膜曲率半径計測4)細隙灯顕微鏡検査5)角膜形状解析検査(トポグラフィ)6)角膜内皮細胞数測定7)シルマーI法試験8)眼底検査9)眼圧測定10)瞳孔径測定(明所,暗所)1506あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(24)錐角膜,角膜ジストロフィなどでは矯正効果および安全性が担保されないため,現時点では適応とならない12).これらの症例に対するオルソケラトロジーの有用性については,今後さらなる検討が必要である.2.相対禁忌a.医学的な相対禁忌屈折異常以外の眼疾患を有する場合や全身疾患を有する場合には適応とならない.b.社会的な相対禁忌オルソケラトロジーは適切に処方されたレンズを正しく使用することにより,安全に効果的に矯正効果を発揮する方法であるため,患者のコンプライアンスが大切である.処方者が患者へ十分な説明を行うことは前提であるが,インフォームド・コンセントに対する正しい理解が得られる症例であるかどうかの判断も,オルソケラトロジーの適応を判定するうえで重要である.コンプライアンスの悪い症例や定期検査に来られない症例は,オルソケラトロジーの効果が発揮されないばかりか,オルソケラトロジーによる最も重篤な合併症である角膜感染症の危険性も高くなる13,14).インターネットなどから誤った情報を得てオルソケラトロジーに過度の期待(近視の改善,永続的な治療効果など)を有している症例にも慎重な対応が必要である.IIオルソケラトロジーレンズの処方の実際現在行われている第三世代のオルソケラトロジーはリバースジオメトリーレンズが用いられており(図2),このレンズデザインにより効率的に角膜形状変化を起こすことが可能となる(表3).通常のHCLに比べ,レンズのデザインが複雑であるが,実際のレンズ処方は角膜形することによる.しかしながらこのような変化が生じる機序についてはわかっていないことも多い6~9).そのため,角膜実質のコラーゲンの性質が不安定な小児期や円表2オルソケラトロジーの適応適応1)年齢:20歳以上2)対象(1)屈折値が安定した近視および近視性乱視近視度数:.4.00D以下乱視度数:.1.50D以下の直乱視,.1.00D以下の倒乱視(2)角膜中心屈折力が39.00Dから48.00D非適応1)禁忌(1)医学的禁忌A.前眼部の疾患,損傷,奇形など活動性角膜感染症角膜形状異常アレルギー涙液分泌減少角膜知覚低下角膜内皮細胞減少B.妊婦,授乳中の女性あるいは妊娠の計画がある女性C.糖尿病D.免疫疾患(自己免疫疾患,AIDSなど)(2)社会的禁忌A.インフォームド・コンセントを行うことが不可能もしくは望まないB.取り扱い説明書の指示に従えないC.定期検診に来院することがむずかしいD.治療途中の視力変化が危険に結びつく(運転など)慎重処方1)ドライアイあるいは視力に影響が出る可能性のある薬物治療2)抗炎症薬の投与またはその予定3)暗所瞳孔径が大きな患者(4~5mm)ベースカーブリバースカーブアライメントカーブ周辺カーブ図2オルソケラトロジーレンズのデザインなし2%眼鏡54%定期交換SCL(1日型を含む)27%従来型SCL4%HCL13%図1オルソケラトロジーを行う前の視力矯正方法(山口大学)(25)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101507インパターンを確認する(図4).フィッティングに問題がなければ,取り扱い方法やレンズケアを指導した後に17),夜間の1回装用のスケジュールを調整する.夜間1回装用後にトライアルレンズによる実際のオルソケラトロジー効果を判定する.これは,トライアルレンズ装用前後のトポグラフィの変化から判定し,トライアルレンズの規格が正しい場合にはブルズアイパターンを示す(図5).そして,コンピュータプログラムを進めることにより処方レンズ規格が最終決定され,処方レンズによるオルソケラトロジーが開始される.セントラルアイランド(図6)やスマイリーフェイスパターン(図7)の場合にはコンピュータソフトウェアに従ってトライアルレ状解析データと屈折値から簡便に規格決定する方法が開発されている15).トライアルレンズフィッティング法は,メーカーから提供されるノモグラフに基づいてトライアルレンズを選択し,実際のフルオレセインパターンからレンズを決定する方法である16).角膜反応データに基づくフィッティング法はコンピュータソフトウェアによりトライアルレンズを決定し,1回の睡眠時装用による効果を判定して,処方レンズを決定する方法である.本稿では,BEソフトウェアを用いた角膜反応データに基づくフィッティング法について解説する.1.処方の流れ(図3)オルソケラトロジーの説明を行い,同意が得られた症例にスクリーニング検査を行い,オルソケラトロジーの適応を判断する.適応がある場合は,コンピュータプログラムによりトライアルレンズを決定し,仮装用を行って細隙灯顕微鏡で,レンズの装用状態およびフルオレセ表3リバースジオメトリーレンズのデザインと役割ベースカーブ角膜中央部の扁平化リバースカーブ陰圧により角膜中央部の形状変化を起こりやすくし,中間周辺部を急峻化アライメントカーブ角膜と接触してセンタリングを安定化周辺カーブ涙液を保持し,涙液交換を促進ベースカーブリバースカーブアライメントカーブ周辺カーブ図4リバースジオメトリーレンズのフィッティングパターンリバースカーブに涙液が貯留する特徴的なパターンを呈する.説明・同意・スクリーニングトライアルレンズの規格決定処方レンズの規格決定取り扱い・レンズケア指導夜間装用後の効果判定,安全性評価(1晩)トライアルレンズ有効(ブルズアイ)無効の規格を再決定装用後の効果判定,安全性評価(3~4週間後)定期検査(3カ月ごと)図3オルソケラトロジーレンズの処方手順(角膜反応データに基づくフィッティング法)装用前後の変化装用後装用前図5トライアルレンズ夜間装用後の角膜トポグラフィの評価ブルズアイ.理想的な夜間フィッティングを意味する.1508あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(26)装用前後の変化装用後装用前図7トライアルレンズ夜間装用後の角膜トポグラフィの評価スマイリーフェイス.角膜Sagの過大評価の場合に起こり,レンズのセンタリング不良を意味する.装用前後の変化装用後装用前図6トライアルレンズ夜間装用後の角膜トポグラフィの評価セントラルアイランド.角膜Sagの過小評価の場合に起こり,スティープなフィッティングを意味する.図8トライアルレンズの規格決定1角膜形状解析によるSagの算出.図はE300R(Medmont社)の解析画面.図9トライアルレンズの規格決定2BEプログラムの立ち上げ.通常は1/4tangentを選択すると次の画面へ切り替わる.角膜頂点カーブ角膜Sag余分な屈折変化量可視虹彩径(水平方向の角膜径)屈折変化量図10トライアルレンズの規格決定3角膜形状解析で得られたデータの入力画面.角膜頂点カーブ,角膜Sag,可視虹彩径(水平方向の角膜径)を入力すると,予測される屈折変化量が算出される.自覚的な屈折値と屈折変化量との差異を入力するとトライアルレンズが決定される.(27)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101509ブ,圧力因子,レンズSag(図14),接線角(図15),レンズ下の涙液層の厚み,角膜にレンズが接触する位置(図12),予測される屈折変化量が表示される.ここで,決定されたトライアルレンズを用いて夜間1回装用を行う.ンズ規格を再決定し,再度夜間の1回装用を行い,同様に効果を判定する.3.4週間後に再度効果判定を行う.このときに目標とする屈折変化が得られているかどうかを判定する.適切な症例選択およびスクリーニング検査が行われている場合には,この時点までに7.8割程度の屈折変化が生じている.このときに屈折変化が得られない場合には,オルソケラトロジーの非適応の場合とスクリーニング検査が正確に行われていない場合が考えられる.これまでの研究から,オルソケラトロジーの適応であると判定される症例においても2割程度の割合で,オルソケラトロジーによる屈折矯正の効果が十分に発揮されない症例があることがわかっている.2.トライアルレンズの規格決定ソフトウェアの実際の操作最初に,トポグラフィ(BEソフトウェアであればE300R,Medmont社)による角膜形状解析を行い,角膜Sagを算出する(図8).BEソフトウェアを立ち上げ(図9),「1/4tangent」を選択するとつぎの画面へ切り替わる(図10).角膜形状解析で得られたデータの入力画面で,「角膜頂点カーブ(図11)」,「角膜Sag(角膜の高さのこと.オルソケラトロジーにおいては,角膜中央部と角膜にレンズが接触する位置との高さのこと,図12)」,「可視虹彩径(水平方向の角膜径)」を入力すると,「予測される屈折変化量」が算出される.「余分な屈折変化量(自覚的な屈折値と予測される屈折変化量との差異)」を入力すると自動的にトライアルレンズが決定される(図13).画面上にトライアルレンズのベースカー角膜曲率半径角膜図11角膜頂点カーブ角膜中央部の角膜曲率半径.角膜は非球面(楕円)のため,角膜曲率半径や離心率は角膜中央部と角膜周辺部で異なっている.オルソケラトロジーによる角膜形状変化は角膜中央部で生じるため,角膜頂点カーブが重要となる.Sagレンズが周辺部角膜にフィットする位置図12角膜Sag角膜の高さ.オルソケラトロジーにおいては,角膜中央部とレンズがフィットする周辺部角膜の高さのこと.トライアルレンズの規格図13レンズSagリバースジオメトリーレンズのSagは角膜Sagに一定の涙液層の厚みを加えた高さとして設計される.このため,正確な角膜Sagの算出が重要である.レンズのSag角膜のSag涙液層の厚み図14接線角角膜にレンズが接触する位置での接線が交叉する角度.この角度によりレンズのセンタリングが調整され,レンズのフィッティングに影響する.1510あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(28)4.最新のレンズ処方プログラム日本と同様にHCLの処方率が高いオランダは,世界中で最もオルソケラトロジーの普及した国の一つである.オランダのCLメーカー(NKL社)ではBEソフトウェアをさらに進歩させたプログラムを独自に開発しており,BEプログラムよりも簡便にオルソケラトロジーレンズの処方が可能となっている(図18).このソフトウェアではさまざまなメーカーのトポグラフィに対応しており,角膜形状解析データの自動入力化により,レンズ規格決定までの操作が簡略化されている(図19).オランダは先進国のなかでは唯一オルソケラトロジーレンズの処方割合が全CL中で1%を超えており(5.6%,2008年)18),オルソケラトロジーの処方方法などの分野でも世界をリードしている.将来,わが国においてもこのようなソフトウェアを用いることによってオルソケラ3.処方レンズの規格決定の実際夜間の1回装用を行ったのちは,トライアルレンズを決定した画面(BEプログラム上,図13)の「Trialresponse(角膜反応)」ボタンを押すと角膜反応データのパターンを入力する画面が表示される(図16).ここで,「ブルズアイパターン」を選択すると,処方レンズの規格が決定され表示される(図17).図15トライアルレンズの規格決定4自動的にトライアルレンズのベースカーブ(8.50),圧力因子(0.740),レンズSag(1.5227),接線角(54.84),レンズ下の涙液層の厚み(0.0093),角膜にレンズが接触する位置(9.41),予測される屈折変化量(0.79)が算出される.()は本稿の例における実際の数値を示す.角膜Sag接線角図16角膜反応データの入力画面図17処方レンズの規格決定画面あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101511トロジーの処方が容易になることが期待される.おわりに現代のオルソケラトロジーは安全性も高く,屈折矯正の効果,安定性などの面からも屈折矯正方法の一つとして,広く普及することが予想される.オランダでは,定期交換SCLの普及により減少していたHCLの処方率がオルソケラトロジーの普及により,再度増加していることも報告されている18).従来,HCLの処方率の高かったわが国においても,オルソケラトロジーは普及しやすいものと考えられるが,オランダに比べ,近視度数の大きな症例の多いわが国においては,オルソケラトロジーの適応となる症例の割合は多くないことが予想される.オルソケラトロジーの処方方法がいくら進化しても適応(29)右眼のデータ左眼のデータ図18オルソケラトロジー処方プログラム(ReferentieR,NKL社)左右のレンズを同時に規格決定することができ,トポグラフィとの連携により角膜形状解析結果は自動入力される.トポグラフィから自動的に算出自覚的屈折値を入力ベースカーブ,度数,レンズ径,接線角,角膜Sagを自動的に算出レンズタイプ,素材を選択すると図19Referentieの入力画面と処方レンズ規格決定画面自覚的屈折値を入力し,オルソケラトロジーレンズの種類および素材を選択すると,自動的に処方レンズが決定される.1512あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010となる症例の選択を誤っている場合には期待どおりの効果が発現することはない.オルソケラトロジーの処方の成否は,適切な症例を選択することができるか否かにかかっているといっても過言ではない.文献1)SwarbrickHA:Orthokeratologyreviewandupdate.ClinExpOptom89:124-143,20062)柳井亮二,西田輝夫:オルソケラトロジー.臨眼62:1221-1226,20083)VanMeterWS,MuschDC,JacobsDSetal:Safetyofovernightorthokeratologyformyopia:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology115:2301-2313,20084)KobayashiY,YanaiR,ChikamotoNetal:Reversibilityofeffectsoforthokeratologyonvisualacuity,refractiveerror,cornealtopography,andcontrastsensitivity.EyeContactLens34:224-228,20085)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Recoveryofcornealirregularastigmatism,ocularhigher-orderaberrations,andcontrastsensitivityafterdiscontinuationofovernightorthokeratology.BrJOphthalmol93:203-208,20096)ChenD,LamAK,ChoP:Apilotstudyonthecornealbiomechanicalchangesinshort-termorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt29:464-471,20097)ChooJD,CarolinePJ,HarlinDDetal:Morphologicchangesincatepitheliumfollowingcontinuouswearoforthokeratologylenses:apilotstudy.ContactLensAnteriorEye31:29-37,20088)CheahPS,NorhaniM,BariahMAetal:Histomorphometricprofileofthecornealresponsetoshort-termreversegeometryorthokeratologylenswearinprimatecorneas:apilotstudy.Cornea27:461-470,20089)松原正男:メカニズム.眼科プラクティス27:227-229,200910)大橋裕一,金井淳,糸井素純ほか:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,200911)CheungSW,ChoP,ChanB:Astigmaticchangesinorthokeratology.OptomVisSci86:1352-1358,200912)柳井亮二:非適応例.眼科プラクティス27:234-237,200913)ChoP,BoostM,ChengR:Non-complianceandmicrobialcontaminationinorthokeratology.OptomVisSci86:1227-1234,200914)吉野健一:合併症.眼科プラクティス27:241-244,200915)MountfordJ:トライアルレンズフィッティングオルソケラトロジー(MountfordJ,RustonD,DaveT編集,吉野健一監訳),p119-149,エルゼビア・ジャパン,200616)平岡孝浩:処方.眼科プラクティス27:230-233,200917)柳井亮二:装用指導.眼科プラクティス27:238-240,200918)EfronN,MorganPB,HellandMetal:Internationalrigidcontactlensprescribing.ContactLensAnteriorEye33:141-143,2010(30)