0910-1810/11/\100/頁/JCOPYメタクリレート(PMMA)素材のレンズではなく,酸素を透過するRGPCL(rigidgaspermeablecontactlens)である.SCLは従来素材の含水性レンズ(ハイドロゲルレンズ)と,ハイドロゲル素材にシリコーンを共重合させて酸素透過性を高めたシリコーンハイドロゲルレンズがある.遠近両用CLは光学的機能から交代視型と同時視型に分けられる(図1).交代視型は視線を上下に動かしてレンズの遠用光学部,近用光学部のいずれか一方を通して物を見る.同時視型は遠方と近方の像を同時に網膜に結像させ,脳がどちらか必要な像を選択するもので,遠方像を集中して見ているときは近方像に抑制がかかり,近方像を見ようとすると逆になる.交代視型の遠近両用CLの使用にあたっては,遠近両用眼鏡と同じように,遠方視をする場合には少し顎を引いて,近方視をする場合には少し顎を上げて下方視するなど,視線をよく見える位置に合わせるように患者に指導することが大切である(図2).はじめに裸眼視力の悪い屈折異常眼では眼鏡やコンタクトレンズ(CL)で矯正して遠方がよく見えたとしても,加齢によって調節力が低下すると,その眼鏡やCLでは近方は見づらくなる.正視眼や軽度遠視眼は裸眼で遠方視が良くても,同様に調節力の低下によって近方視は悪くなる.こうした調節力の低下,老視は一般には眼鏡で矯正されるが,CLによる矯正も行われている.単焦点CLでは片眼を遠方に,反対眼を近方に合わせるモノビジョン法を行うことがあるが,本稿では遠近両用CLを使用した老視矯正について概説する.I遠近両用CLの種類素材の面からハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)がある(図1).現在,国内で販売されているHCLは酸素を透過しないポリメチル(21)623*KiichiUeda:ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●老視アップデートあたらしい眼科28(5):623.631,2011コンタクトレンズによる老視治療PrescribingofContactLensesforPresbyopia植田喜一*材質HCLHCL・SCLHCL・SCL形状セグメント型同心円型デザイン屈折力(焦点)二重焦点累進屈折力(多焦点)光学的機能交代視型同時視型図1遠近両用CLの種類遠方視近方視図2交代視型遠近両用CLの使い方(視線と顔の向き)624あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(22)代視型としての機能をもつ二重焦点レンズが,同心円型には交代視型としての機能をもつ二重焦点レンズと同時視型としての機能をもつ累進屈折力レンズがある.遠近両用HCLは角膜上でのレンズの動きが大きく,瞳孔の中心とレンズの中心がいつも一致しているとは限らず,近方視の場合に視線がHCLの周辺部の近用光学部を通ることがあるので,単純に同時視型と捉えるよりも,交代視としての機能を合わせもつ複合型と捉えるとよい2~4).遠近両用CLは光学部の焦点あるいは屈折力から,二重焦点と累進屈折力に分けられる(図1).二重焦点レンズは1枚のレンズに2つの異なる屈折力(度数)をもたせて,遠方と近方に焦点が合う.累進屈折力レンズは1枚のレンズに連続して累進的に度数をもたせている.以前は累進多焦点レンズといわれていたが,焦点がたくさん存在するのではなく,加入度数が徐々に変化していることから累進屈折力レンズと表現するようになった.累進屈折力CLは前面または後面が非球面形状である.単焦点CLでは光学部の中心から離れてもレンズの屈折力の変化は少ないが,二重焦点CLでは遠用光学部と近用光学部の境界でレンズの屈折力が大きく変化するので,視線がその境界を移動する際にプリズム作用によって像のジャンプが生じやすい1).累進屈折力CLではレンズの屈折力は中心から周辺に向けて連続的に変化するので,遠方から中間距離,近方まで境目のない見え方が得られやすい.遠近両用CLは形状の面からセグメント型と同心円型に分けられる(図1).1.遠近両用HCL遠近両用HCLはセグメント型と同心円型がある.セグメント型はレンズ上方に遠用光学部,下方に近用光学部が,同心円型はレンズの中心に遠用光学部,周辺に近用光学部が配置されている(図3).セグメント型には交遠用光学部近用光学部近用光学部遠用光学部近用光学部(近用光学部)(中間用光学部)(遠用光学部)(中間用光学部)(近用光学部)累進屈折力同心円型,同時視型,累進屈折力(中心遠用・周辺近用)同心円型,交代視型,二重焦点(中心遠用・周辺近用)セグメント型,交代視型,二重焦点(上方遠用・下方近用)図3遠近両用HCLのデザイン近用光学部遠用光学部近用光学部遠用光学部近用光学部遠用光学部(近用光学部)(中間用光学部)(遠用光学部)(中間用光学部)(近用光学部)累進屈折力累進屈折力(遠用光学部)(中間用光学部)(近用光学部)(中間用光学部)(遠用光学部)同心円型,同時視型,二重焦点(中心遠用・周辺近用)同心円型,同時視型,累進屈折力(中心遠用・周辺近用)同心円型,同時視型,二重焦点(中心近用・周辺遠用)同心円型,同時視型,累進屈折力(中心近用・周辺遠用)図4遠近両用SCLのデザイン(23)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011625L:BC7.80mm,遠用度数.2.50D,サイズ8.8mm(サンコンマイルドII).近方視力VD=(0.2×単焦点HCL).VS=(0.2×単焦点HCL).遠近両用HCLの装用による遠方視力と近方視力遠方視力VD=(1.2×遠近両用HCL).R:BC7.75mm,遠用度数.2.50D,加入度数+2.50D,サイズ9.4mm(アイミーバイフォーカル).VS=(1.2×遠近両用HCL).L:BC7.75mm,遠用度数.2.50D,加入度数+2.50D,サイズ9.4mm(アイミーバイフォーカル).近方視力VD=(1.0×遠近両用HCL).VS=(1.0×遠近両用HCL).48歳の女性で,通常のHCLでは両眼とも1.2の遠方視力が得られるが,近方視力は0.2~0.3しか得られない.遠近の見え方に対する要求度が高いため,+2.50Dの加入度数のセグメント型の遠近両用HCLを処方すると,遠方視力は両眼とも1.2で,近方視力は両眼とも1.0が得られた(図5).同心円型の遠近両用HCLは動きや回転による影響を受けにくいため,セグメント型に比べて処方が容易であるが,瞳孔の中心とレンズの中心がなるべく一致するように処方しなければならない.後面が球面のものは通常の球面の単焦点HCLと同様にBCを選択するが,後面2.遠近両用SCL現在,国内で販売されている遠近両用SCLはすべて同心円型の同時視型で,二重焦点レンズおよび累進屈折力レンズがある.同心円型の遠近両用HCLは中心が遠用,周辺が近用であるが,遠近両用SCLは中心が遠用,周辺が近用のタイプのものと,逆に中心が近用,周辺が遠用のタイプのものがある(図4).II遠近両用CLの処方1.遠近両用HCLHCLの使用者が近見障害を訴えた場合に遠近両用HCLの処方を考える.これまでにHCLを使用したことのない人であっても,乱視を有するため遠近両用SCLでは十分な矯正視力が得られない場合も遠近両用HCLが適応となる.セグメント型の遠近両用HCLは長時間の近業をする人に適したタイプである.セグメント型では遠用光学部,近用光学部がうまく選択できれば遠近ともに像は鮮明に見える.しかし,セグメントラインを目的とする位置へ安定させるフィッティングが得られない場合には処方を断念せざるをえない3,4).【症例1(セグメント型遠近両用HCLの処方例)】単焦点HCLの装用による遠方視力と近方視力遠方視力VD=(1.2×単焦点HCL).R:ベースカーブ(BC)7.80mm,遠用度数.2.50D,サイズ8.8mm(サンコンマイルドII).VS=(1.2×単焦点HCL).遠方視近方視図5セグメント型遠近両用HCLの処方例626あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(24)L:BC7.70mm,遠用度数+2.50D,加入度数+2.00D,サイズ9.8mm(メニフォーカルZ).近方視力VD=(0.7×遠近両用HCL).VS=(0.7×遠近両用HCL).遠近両用HCLの装用による遠方視力と近方視力(2)遠方視力VD=(1.2×遠近両用HCL).R:BC7.60mm,遠用度数+1.25D,加入度数+2.00D,サイズ9.2mm(ニチコンプラスビュー).VS=(1.2×遠近両用HCL).L:BC7.60mm,遠用度数+1.75D,加入度数+2.00D,サイズ9.2mm(ニチコンプラスビュー).近方視力VD=(0.7×遠近両用HCL).VS=(0.7×遠近両用HCL).遠近両用HCLの装用による遠方視力と近方視力(3)遠方視力VD=(1.2×遠近両用HCL).R:BC7.10mm,遠用度数.1.75D,加入度数+2.50D,サイズ9.2mm(シードマルチフォーカルO2).VS=(1.2×遠近両用HCL).L:BC7.70mm,遠用度数.1.25D,加入度数+2.50D,サイズ9.2mm(シードマルチフォーカルO2).近方視力VD=(0.8×遠近両用HCL).が非球面のものはそれぞれレンズによって後面デザインが大きく異なっているため,BCの選択が違うので注意を要する3,4)(図6).累進屈折力レンズは二重焦点レンズに比べて遠方から中間距離,近方まで境目の見え方が得られやすいという利点があるので,見え方の鮮明度は若干落ちるが,多くの患者に適応しやすい.【症例2(同心円型遠近両用HCLの処方例)】単焦点HCLの装用による遠方視力と近方視力遠方視力VD=(1.2×単焦点HCL).R:BC7.65mm,遠用度数+1.50D,サイズ8.8mm(サンコンマイルドII).VS=(1.2×単焦点HCL).L:BC7.70mm,遠用度数+2.25D,サイズ8.8mm(サンコンマイルドII).近方視力VD=(0.2×単焦点HCL).VS=(0.3×単焦点HCL).角膜曲率半径R7.53mm7.48mmL7.64mm7.71mm遠近両用HCLの装用による遠方視力と近方視力(1)遠方視力VD=(1.2×遠近両用HCL).R:BC7.70mm,遠用度数+1.75D,加入度数+2.00D,サイズ9.8mm(メニフォーカルZ).VS=(1.2×遠近両用HCL).メニフォーカルZ7.90mmプラスビュー7.80mmマルチフォーカルO27.30mm前面:球面(二重焦点)後面:球面前面:球面または非球面後面:非球面(累進屈折力)前面:球面後面:非球面(累進屈折力)図6同心円型遠近両用HCLの処方例(25)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011627る.一方,遠方の見え方に不自由をきたした遠視眼は最も良い適応で,遠近両用SCLを処方すると近方だけでなく遠方の見え方にも満足することが多い.2009年7月1日から12月31日の6カ月間にウエダ眼科で処方した単焦点SCLと遠近両用SCLの遠用度数を図7に示す.単焦点SCLでは.3.00D前後をピークにした分布で,ほとんどが近視眼であったのに対し,遠近両用SCLでは遠視眼の割合が高くなっていた.同心円型の遠近両用SCLは中心部の光学部の面積が狭く,通常の瞳孔反応で遠用光学部と近用光学部の両方が瞳孔領を覆うようにデザインされているため,瞳孔の中心とレンズの中心が一致しないと十分な矯正効果が得られない.レンズのセンタリングが良好で動きが過度にならないようにレンズをフィットさせる必要がある.良好なセンタリングを得るためには,適切なサイズ,BCの選択が求められるが,この際にタイトフィットになりすぎると角結膜障害を生じることがあるので注意する.瞳孔の位置や大きさ,照度や近見に伴う瞳孔径の変化には個人差があることも考慮して,各症例に最も適するレンズデザインを選択しなければならない.図8に1日ディスポーザブルタイプと2週間頻回交換タイプの遠近両用SCLの屈折力分布のイメージ図を示すが,レンズデザインによって屈折力分布が大きく異なる.ある特定のレンズを選択し,サイズ,BC,遠用度数,近用加入VS=(0.8×遠近両用HCL).48歳の女性で,通常のHCLでは両眼とも1.2の遠方視力が得られるが,近方視力は0.2~0.3しか得られない.3種類の同心円型遠近両用HCLを装用すると,遠近とも良好な視力が得られた.このうち最もフィッティング状態が良く,自覚的にも満足度の高いレンズを処方した.2.遠近両用SCL単焦点SCLの使用者が近見障害を訴えた場合に遠近両用SCLの処方を考える.これまでCLを使用したことのない人でも,乱視のためSCLでは十分な矯正視力が得られない場合を除けば,一度は遠近両用SCLを試してみるとよい.しかし,遠近両用SCLは眼鏡や遠近両用HCLに比べると明らかに見え方が劣るため,見え方に対する要求度の高い人や,長時間の近業をする人は遠近両用SCLに満足しないことがある.具体的な例をあげると,裸眼で遠方がよく見えている弱度遠視眼や正視眼,裸眼で近方がよく見えている軽度近視眼,使用している単焦点CLあるいは眼鏡が過矯正の近視眼などである.このような場合は単焦点SCLの上から必要に応じて近方または遠方の眼鏡をかける,遠近両用HCLに変更する,CLの装用をあきらめて遠近両用眼鏡を処方するといった他の矯正手段を選ばざるを得ないことがあ単焦点SCLの遠用度数眼数300250200150100500109876543210n=4,244球面度数(D)-15.00-13.00-11.00-9.00-7.00-5.00-3.00-1.00+1.00-15.00-13.00-11.00-9.00-7.00-5.00-3.00-1.00+1.00+3.00+3.00+5.00+5.00眼数遠近両用SCLの遠用度数n=100球面度数(D)図7単焦点SCLと遠近両用SCLの遠用度数628あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(26)R:BC8.7mm,遠用度数.4.00D,加入度数+1.50D,サイズ14.4mm(ロートi.Q.R14バイフォーカルDレンズ).VS=(1.2×遠近両用SCL).L:BC8.7mm,遠用度数.4.00D,加入度数+1.50D,サイズ14.4mm(ロートi.Q.R14バイフォーカルDレンズ).近方視力VD=(0.7×遠近両用SCL).VS=(0.7×遠近両用SCL).遠近両用SCLの装用による遠方視力と近方視力(2)遠方視力VD=(1.2×遠近両用SCL).R:BC9.0mm,遠用度数.4.00D,加入度数+1.50D,サイズ14.5mm(メダリストRプレミアマルチフォーカルLowAdd).VS=(1.2×遠近両用SCL).L:BC9.0mm,遠用度数.4.00D,加入度数+1.50D,サイズ14.5mm(メダリストRプレミアマルチフォーカルLowAdd).近方視力VD=(0.8×遠近両用SCL).度数などの規格を決定して満足のいく結果が得られなかったとしても,その症例が遠近両用SCLの適応ではなかったと判断するのは早計である.レンズデザインを変更するとうまくいくこともあるので,何種類かのレンズを試して,最も患者が満足するものを選択することが重要である3,4).【症例3(同心円型遠近両用SCLの処方例)】単焦点SCLの装用による遠方視力と近方視力遠方視力VD=(1.0×単焦点SCL).R:BC8.7mm,遠用度数.4.00D,サイズ14.0mm(2ウィークアキュビューR).VS=(1.0×単焦点SCL).L:BC8.7mm,遠用度数.4.00D,サイズ14.0mm(2ウィークアキュビューR).近方視力VD=(0.4×単焦点SCL).VS=(0.5×単焦点SCL).遠近両用SCLの装用による遠方視力と近方視力(1)遠方視力VD=(1.2×遠近両用SCL).2week(SCL)同心円型,同時視型二重焦点累進屈折力J&J2WアキュビューRバイフォーカルチバビジョンデイリーズRプログレッシブロートi.Q.R14バイフォーカルDレンズロートi.Q.R14バイフォーカルNレンズボシュロムメダリストRマルチフォーカルメダリストRプレミアマルチフォーカルLowAddボシュロムメダリストRマルチフォーカルメダリストRプレミアマルチフォーカルHighAddチバビジョンエアオプティクスR遠近両用LOチバビジョンエアオプティクスR遠近両用MED2week(SCL)1day(SCL)2week(シリコーンハイドロゲルレンズ)遠用近用遠用図81日ディスポーザブルタイプと2週間頻回交換タイプの遠近両用SCLの屈折力分布(イメージ像)(ロート製薬株式会社より提供)(27)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011629VS=(0.8×遠近両用SCL).遠近両用SCLの装用による遠方視力と近方視力(3)遠方視力VD=(1.2×遠近両用SCL).R:BC8.6mm,遠用度数.4.00D,加入度数+1.00D,サイズ14.2mm(エアオプティクスR遠近両用LO).VS=(1.2×遠近両用SCL).L:BC8.6mm,遠用度数.4.00D,加入度数+1.00D,サイズ14.2mm(エアオプティクスR遠近両用LO).近方視力VD=(0.6×遠近両用SCL).VS=(0.6×遠近両用SCL).48歳の女性で,通常のSCLでは両眼とも1.0の遠方視力が得られるが,近方視力は0.4~0.5しか得られない.3種類の同心円型遠近両用SCLを装用すると,遠方視力は両眼とも1.2で,近方視力は0.6~0.8であった.このうち最もフィッティング状態が良く,自覚的に満足度の高いレンズを処方した.遠方がよく見える単焦点SCLを使用している場合には,遠近両用SCLを処方する前に近視眼では低矯正に,遠視眼では過矯正にして近方の見え方を優先させた単焦点SCLを使用させると,単焦点SCLから遠近両用SCLへの移行がスムーズになることがある.遠方がよく見える単焦点SCLを長く装用している者は,遠近両用SCLを試すと近方の見え方は良くても遠方の見え方に満足しないことが多い.単焦点SCLを近方に合わせることで,遠方の見え方を悪くした後に遠近両用SCLを処方すると,ほどほどの遠方の見え方に納得することがある.III遠近両用CL処方時の注意点1.明視域老視の矯正を行う場合に,患者の明視域(調節域)を考える必要がある.たとえば.3.00Dの近視眼では遠点33cmである.この患者の近点を測定して25cmであったとすると,調節力は1.00Dとなる.遠用度数が.3.00Dの単焦点レンズの眼鏡を使用すると遠点は無限遠で近点は100cmになる.遠用度数が.3.00Dで加入度数が+2.00Dの二重焦点レンズと累進屈折力レンズの眼鏡では明視できる範囲が異なる(図9).この患者の場合は二重焦点レンズでは中間距離が明視できないが,累進屈折力レンズでは遠方から近方まで境目なく見えるようになる.このように,明視域は患者の調節力と使用するレンズの種類,加入度数によって変わる5).2.みかけの調節力眼鏡とCLとでは,屈折異常を矯正して近くにある物体を明視するのに必要な調節量は異なる.CLのほうが眼鏡よりも角膜頂点間距離が短いため,近視眼の場合は近見に際してCLは眼鏡より調節力が必要になり,逆に遠視眼の場合はCLは小さい調節力で済む(図10).したがって,近視眼の場合,眼鏡では遠方に合わせた単焦裸眼(-3.00Dの近視眼)33.3cm(1/3)25cm(1/3+1)調節力1.00D単焦点レンズ(遠用度数-3.00D)装用∞100cm(1/1)二重焦点レンズ(遠用度数-3.00D/加入度数+2.00D)装用∞100cm(1/1)50cm(1/2)33.3cm(1/2+1)累進屈折力レンズ(遠用度数-3.00D/加入度数+2.00D)装用∞33.3cm(1/2+1)図9明視域(.3.00Dの近視眼を例とする)-16-12-8-404812168642屈折異常(D):眼鏡(頂間距離12mm)装用時:コンタクトレンズ必要な調節量(D)図10眼前25cmを注視する場合に必要とする調節力630あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(28)点レンズで近方は見えていても,同じ度数の単焦点CLでは離さないと見えないということが起こる.遠視眼の場合は,逆に眼鏡よりもCLのほうが見やすいということが起こる.3.遠近両用CLの有効加入度数遠近両用眼鏡を処方する場合には他覚的屈折値および自覚的屈折値,年齢から考えられる調節力をもとに検眼を行うと期待される遠方視力および近方視力が得られるが,遠近両用CLの場合にはこれらのデータをもとに検眼しても期待した視力が得られないことがある.すなわち表示された加入度数が有効に働いていないということである2,5~7).レンズの種類によって有効加入度数の差がみられるが,これは主としてレンズデザインによるものと考えられる(表1).4.コントラスト感度視力白地に種々の対比(コントラスト)の視標を並べた視力表を対比視力表といい,これを用いて測定した視力を対比視力(コントラスト視力)という.一般に,コントラストの悪い視標で測った視力は,コントラストの良い視標で測った視力よりも劣る.日常の生活ではコントラストの良いものばかりを見ているわけではなく,コントラストの悪いものも見なければならない.同時視型の遠近両用CLは遠方と近方の像が同時に網膜に結像するため,単焦点CLに比べてコントラスト感度が低下し,像が暗く見える2,5,8~10).このことはとりわけ,夜間の車の運転の際に問題となる.5.収差Hartmann-Shack波面センサーを用いてSCL装用時の高次波面収差解析を行うと,単焦点SCL装用時に比べて遠近両用SCL装用時のほうがコマ収差,球面収差および全高次収差は増加する.網膜シミュレーション像においても単焦点SCL装用時に比べて,遠近両用SCL装用時のほうがLandolt環は不鮮明になる11)(図11).6.CL度数(遠用度数,加入度数)の決定CLの遠用度数や加入度数については片眼視ではなく両眼視で,遠方視,中間視,近方視ともに患者が最も満足する値を選択することが重要である.通常の視力検査では5mの視力表や30cmの近方視力表を用いるが,これらの値で評価するのではなく,生活のなかでよく目にする物の見え方に患者自身が満足するかどうかを確認する必要がある.対象物の形や大きさだけでなく,その対象物との距離,作業場の明るさや視線の移動による見え方の変化,動作時の見え方なども考慮することが求められる5)(表2).おわりに遠近両用CLの処方は,通常の単焦点CLに比べてむずかしい,煩わしいと思われがちだが,適切なレンズを選択して良好なフィッティングが得られれば,満足のいく結果が得られる場合が多い.特に,遠近両用HCLでは処方成功率が高い.現在,販売されている遠近両用CLには多くのタイプがあるが,それぞれの特徴を十分に理解し,適応を見きわめてレンズを選択する必要があ表1遠近両用SCLの有効加入度数(D)表示値+2.00表示値+2.502ウィークアキュビューRバイフォーカル0.83±0.631.18±0.77メニフォーカルRソフトS1.34±0.771.90±0.90フォーカスRプログレッシブ1.06±0.83ロートI.Q.R14バイフォーカルDレンズ0.80±0.651.30±0.77ロートI.Q.R14バイフォーカルNレンズ1.78±0.832.40±0.99(文献2より)a:単焦点SCLb:Dレンズc:Nレンズ(ロートi.Q.R14バイフォーカル)Hartmann-Shack波面センサーKR9000PW(TOPCON)図11単焦点SCL装用時と遠近両用SCL装用時の網膜シミュレーション像(文献11より)(29)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011631る.症例によっては単焦点CLによるモノビジョンや遠近両用CLによるモディファイドモノビジョンを行うと満足度が高まることがある.遠近両用CLによるモディファイドモノビジョンでは,右眼と左眼で異なる遠用度数,加入度数,レンズデザインを選択するなど,組み合わせが相当数あることから,tryanderrorをくり返さなければならないが,必要に応じてこうした方法も試みると処方成功率はさらに高くなる.遠近両用CLの処方にあたっては,患者に利点と問題点を詳しく説明する必要がある.装用当初は見え方に満足しなくても,しだいに慣れてくることが多いので,時間をかけて対処することが大切である.文献1)曲谷久雄:老視用コンタクトレンズの再検討.あたらしい眼科9:1829-1836,19922)植田喜一:遠近両用ソフトコンタクトレンズの特性.あたらしい眼科18:435-446,20013)植田喜一:IV.老視における選択.3.コンタクトレンズの適応とその手順.月刊眼科診療プラクティス95:80-87,20034)植田喜一:老視矯正からの選択.日コレ誌47:93-102,20055)植田喜一:コンタクトレンズとモノビジョン.IOL&RS21:27-36,20076)上田哲生,櫻井寿也,原嘉昭ほか:バイフォーカルコンタクトレンズにおける近用加入度数について.日コレ誌42:142-145,20007)柳井亮二,植田喜一,稲垣恭子ほか:同時視型遠近両用ソフトコンタクトレンズの有効加入度数について.日コレ誌48:152-155,20068)柳井亮二,相良絵見,植田喜一ほか:照準線共軸型遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用時のコントラスト感度の低下について.日コレ誌43:163-168,20019)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,200210)洲崎朝樹,前田直之,不二門尚ほか:遠近両用ハードコンタクトレンズのコントラスト感度.日コレ誌47:42-47,200511)植田喜一,柳井亮二:新しい遠近両用コンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:851-860,2006表2両眼視による自覚的な見え方の確認1.作業距離・3m以上:駅の掲示板など・1m~2m:テレビ,カレンダーなど・50cm~1m:パソコン,陳列棚の品など・40cm~50cm:新聞,雑誌など2.文字,図形の大きさ3.作業場の明るさ4.視線の移動・正面視,下方視(遠方視,近方視)5.動作時・運転時,階段の昇り降り