0910-1810/11/\100/頁/JCOPYで多く発現している遺伝子異常による網膜色素変性(Leber先天盲)に対して,欧米ではアデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子治療がヒトの患者に対して行われている.ごく最近では,新世代のシークエンサーを用いて,網膜色素変性患者のすべてのエクソンの塩基配列を決めることによって原因遺伝子DHDDSが発見された1).高度な技術により,網膜色素変性の原因遺伝子解明が加速している.膨大な遺伝子検索による知見の集積により,遺伝子異常や,原因遺伝子の世界的な共通点もわかると同時に,地域により,その原因遺伝子の比率はじめに網膜色素変性は言うまでもなく眼科領域では最も重篤で,失明に至ることが多い疾患なので,眼に関する研究機関では最重要課題として取り組むべきと考える.最近では,視細胞のiPS細胞のシートによる治療や,プロスタグランジン点眼薬による疾患の進行の予防効果が期待されているが,この20年間の原因遺伝子についての理解が急速に進んでいることはあまり話題にならない.表1に現時点で明らかにされている常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子を示す.RPE65という網膜色素上皮(3)907*YoshihiroHotta:浜松医科大学眼科学講座**HiroshiNakanishi:浜松医科大学耳鼻咽喉科学講座〔別刷請求先〕堀田喜裕:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学眼科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):907?912,2011網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診断GeneticDiagnosisofRetinitisPigmentosaandUsherSyndrome堀田喜裕*中西啓**表1常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子(症候群は除く)常染色体優性網膜色素変性常優BEST1CA4CRXFSCN2GUCA1BIMPDH1KLHL7NR2E3NRLPRPF3PRPF8PRPF31PRPH2RDH12RHOROM1RP1RP9SEMA4ASNRNP200TOPORS常染色体劣性網膜色素変性常劣ABCA4BEST1C2ORF71CERKLCLRN1CNGA1CNGB1CRB1DHDDSEYSFAM161AIDH3BIMPG2LRATMERTKNR2E3NRLPDE6APDE6BPDE6GPRCDPROM1RBP3RGRRHORLBP1RP1RPE65SAGSPATA7TTC8TULP1USH2AZNF513X連鎖性網膜色素変性XRP2RPGRLeber先天盲常優CRXIMPDH1OTX2Leber先天盲常劣AIPL1CABP4CEP290CRB1CRXGUCY2DIQCB1LCA5LRATRD3RDH12RPE65RPGRIP1SPATA7TULP1常優:常染色体優性遺伝,常劣:常染色体劣性遺伝,X連鎖性遺伝.(2011年5月現在)908あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(4)するUsher症候群の原因遺伝子についての報告は少ないのが現状である.「原因遺伝子を調べて何か意味があるのか」ということをいわれたことがある.本稿では,総花的なまとめ方を避け,網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診療の可能性に絞り,筆者の個人的見解を押し出して述べる.一般の眼科医に理解していただくためになるべく平易な言葉を使い,わかりやすい記述に努めるため,専門家にはもの足らないかもしれない.図1はよく使われる疾患に関わる遺伝性要因の割合を示した概念図である.網膜色素変性や,小口病などの遺伝性疾患は,たった一つの遺伝子の異常によってほぼ100%罹患する.一方で,加齢黄斑変性や,中等度の近視では,いくつかの遺伝性素因が重なって疾患をひき起こすと考えられている.後者の「多因子疾患」についての知見も増えているが,本稿では,前者の「単一遺伝子疾患」に絞って述べる.遺伝子異常の記載はややこしく,筆者もときどきわからなくなるほどなので,表5では,大まかに欠失,挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス変異と述べ,その後の()内にHumanGenomeVariationSociety(http://www.hgvs.org/rec.html)による記載を入れた.本稿で述べる変異については,表2に説明したので参考にされたい.I網膜色素変性とUsher症候群の遺伝本稿を書いている現在,網膜色素変性について50以上の原因遺伝子が知られている(表1).優性遺伝する原因遺伝子が21個,劣性遺伝する原因遺伝子が34個,X連鎖性遺伝する原因遺伝子が2個である.このほかに難聴を伴うUsher症候群,Bardet-Biedl症候群,ミトコや,多い変異(ある特定の異常が多いときにはfoundereffect:創始者効果という)が明らかにされつつある.一方,インターネットで遺伝子検索会社のウェブサイトを見ると,たとえば米国のGeneDxという会社の常染色体劣性網膜色素変性の検索は,USH2A,EYS,PDE6A,PDE6B,RPE65,CRB1,ABCA4という7遺伝子の236エクソンを対象としている.新規患者の検索には約8週間,3,375ドルかかる.ARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)などの海外の学会に行くと,網膜色素変性や関連疾患についての遺伝子検索の発表は多く,欧米はもちろんであるが,中国,韓国,シンガポールだけでなく,中南米や,東南アジアからの発表もあり,わが国だけが取り残されているのではと心配になる.わが国では,常染色体優性の網膜色素変性に対しての研究や,X連鎖性遺伝の網膜色素変性の症例報告2?5)はあるが,わが国の網膜色素変性の大半を占める孤発例を含めた常染色体劣性遺伝の網膜色素変性や,難聴も合併表2遺伝子異常の種類Iミスセンス変異点変異異なるアミノ酸に変化し,異常蛋白質が産生されるナンセンス変異点変異変異部位で終止コードとなり,短い蛋白質が産生されるか,まったく産生されなくなるフレームシフト変異欠失,挿入欠失や挿入により,変異部位から遺伝子暗号がずれる変異で,蛋白質の機能がほとんどなくなるスプライス変異点変異,欠失,挿入スプライシングの行われる部位の近くでの変異により正常なスプライシングが行われず,結果として異常蛋白質が産生されるか,まったく産生されなくなる環境的要因色覚異常中等度の近視斜視外傷網膜変性遺伝的要因遺伝子・ゲノム図1眼疾患の遺伝的素因についての概念図(5)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011909網膜色素変性が発症する.表3に示すように,難聴の程度と前庭機能障害の有無によって3型に分類するのが一般的である.表4に示すように,Usher症候群だけで12座位が知られ,このうち9個の遺伝子がすでに明らかにされている.浜松医科大学では,耳鼻咽喉科学教室と光量子医学研究センター(現メディカルホトニクス研究センター)が中心になり,眼科学教室が協力して,わが国のUsher症候群のタイプ1患者5人と,タイプ2患者10人に対してUSH2A(アッシャリン),CDH23,MYO7A遺伝子を検討し,表5,6に示すような原因遺伝子異常を明らかにした6~8).注目していただきたいのンドリア遺伝子異常によるKearns-Sayer症候群なども,その原因遺伝子の多くが明らかにされている.ここではUsher症候群を例にとって述べる.Usher症候群は,感音難聴に視覚障害を合併する常染色体劣性遺伝性疾患である.感音難聴が出現してから数年~10年後に表3Usher症候群の3型型聴覚障害前庭機能障害治療割合(%)1先天性欠損人工内耳25~442中等~高度正常補聴器56~753進行性さまざま経過観察0~2それぞれのタイプにより難聴に対する治療法が異なる.表5わが国のUsher症候群におけるUSH2A遺伝子異常患者年齢性別アレル1アレル2聴覚障害聴覚障害発症年齢夜盲発症年齢網膜色素変性発症年齢C71224F点変異ミスセンス変異(p.Ser180Pro)欠失(c.5158delC)高度31321C11640M欠失(c.3891delT)欠失(c.7883delC)中等度61325C15247F点変異スプライス変異(c.6485+5G>A)点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)中等度61426C45232F点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)点変異ミスセンス変異(p.Asp3515Gly)中等度61718C55750M点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)点変異ミスセンス変異(p.Thr3571Met)中等度71628C23722M点変異スプライス変異;点変異ナンセンス変異(c.8559-2A>G;p.Trp3150X)高度31316C21233F点変異ミスセンス変異(p.Cys691Tyr;p.Gly2752Arg;p.Tyr3747Cys)中等度61226文献6のTable1の英語表記部分を和訳し,変異の種類を説明して掲載した.表4Usher症候群の遺伝子座位と原因遺伝子サブタイプ遺伝子座位遺伝子蛋白質1B11q13.5MYO7AMyosinVIIa1C11q15.1USH1CHarmonin1D10q22.1CDH23Cadherin231E21q21Unknown1F10q21.1PCDH15Protocadherin151G17q25.1USH1GUshersyndrometype-1Gprotein1H15q22-q23Unknown2A1q41USH2AUsherin2C5q14.3GPR98G-proteincoupledreceptor982D9q32DFNB31Whirlin3A3q25.1CLRN1Clarin13B20qUnknown910あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(6)は,血族結婚でない場合には,同じ遺伝子の異常でも,父方と,母方の異常が異なることが多いという点である.図2Cに示すように,これを複合ヘテロ接合体(compoundheterozygote)という.図3に示すように,わが国では前世紀の間に急速に近親結婚が減少した.近表6わが国のUsher症候群におけるその他の遺伝子異常患者年齢・性別アレル1アレル2聴覚障害診断年齢(歳)網膜色素変性診断年齢(歳)CDH23遺伝子異常C51726M欠失エクソン44-46欠失エクソン44-4623C72013Fナンセンス変異p.Arg2107Xナンセンス変異p.Arg2107X212MYO7A遺伝子異常C31236Fナンセンス変異p.Arg150Xミスセンス変異p.Arg1883Gln210文献8のTable1の英語表記部分を和訳し,変異の種類を説明して掲載した.1927~19521952~19571957~19621962~19671967~19721972~19771977~198311.525.444.212.852.612.310.965.712.261.230.790.870.8900.222468101214(%)(年)図3わが国における近親結婚実線:すべての血族結婚の比率,点線:いとこ結婚(1stcousin)の比率.??X染色体ABCD????????図2遺伝子異常の種類II○×は遺伝子変異を模式的に表す.A:ヘテロ接合体,B:ホモ接合体,C:複合ヘテロ接合体,D:ヘミ接合体.ⅠⅡⅢⅣⅤ図4大きな欠失を認めたUsher症候群の家系図(文献8より)図5大きな欠失を認めたUsher症候群患者の右眼眼底写真網膜血管は細く,びまん性の網膜萎縮,周辺部には骨小体様色素沈着を認める.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011911III劣性遺伝病における遺伝子診療のストラテジー先ほど示したUsher症候群家系において,遺伝子検査のもたらすことを考えてみる.図4に示す家系の2人の子供は,先天聾であるのに加えて網膜色素変性に罹患している.親族からすると,遺伝を心配するのは当然のことであろう.近親婚を避けることは最も簡単な方法であるが,ほぼ100%予防できるとしたらどうであろうか.まずこの大きな欠失が遺伝しているかどうかを調べる.遺伝していなければ罹患する確率はほとんどなくなる.この欠失がある場合には,配偶者にUSH2A遺伝子の異常がないかを調べる.USH2A遺伝子に異常を認めなければ,100%近い確率(注:決して100ではない,denovo変異といって,親にはない異常が片方のアレルにひき起こされることがまれにある)で予防可能になる.現在のところ,障害になっているのは,遺伝子検査の費用である.特に,エクソンが72個もあるUSH2Aでは,遺伝子検査は容易ではない.しかし,遺伝子検索の技術の進歩は著しいので,こうした問題が克服されれば,患者や家族に重要な情報を与えることが可能となる.こうした遺伝情報の取り扱いにはカウンセリングが必要といわれており,これを「遺伝カウンセリング」とよんでいる.2011年2月,日本医学会から「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」が出ている.遺伝子異常はすでに明らかにされていれば,新たな遺伝子解析のコストはそれほどでもないが,新規に探す場合には網膜色素変性の場合には表1に示すように原因となる可能性のある遺伝子が多いので悩ましい.リンパ球や,毛根にも発現している場合には,そのmRNAから目的となる遺伝子のcDNAを解析できるので,作業量を大きく減らすことができる7).しかし,網膜色素変性の原因遺伝子は,一部の例外を除いて眼組織にしか発現しておらず,眼の組織を取るわけにいかないので,DNAのエクソンをすべて検討するしかないことが多い.また,すでに明らかにされている遺伝子異常をすべてのせたマイクロアレイの応用も期待されている.しかし,こちらのほうも,結局は新たな異常の可能性は否定できないので,精度の高い遺伝子検索をするためには,結局親結婚をすると,同じ遺伝子の同じ異常が重なり,遺伝性疾患罹患の危険が増える.この場合には,図2Bのホモ接合体という状態になる.先天聾のUsher症候群タイプⅠの症例の家系を図4に示す.複雑な家系図であるが,近親婚が原因で兄妹が重篤な疾患に罹患したことは明らかである.このうち妹は,先天聾で,右眼視力0.1(0.2),左眼視力0.1(0.3),眼球振盪を認める.25歳時の右眼眼底写真を図5に示す.視野は,わずかな周辺視野と,右中心7°,左中心8°の残存視野しかない.この家系の患者は,CDH23遺伝子のエクソン44から46までの5078塩基の欠失をホモ接合体で認める.II網膜色素変性とEYS,USH2A(アッシャリン)遺伝子異常常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子として最も多く注目されているのが,EYS遺伝子である.この遺伝子は2Mbと現在知られている眼で発現している遺伝子のなかでも最も大きい遺伝子の一つであり,ショウジョウバエのspacemaker(spam)として知られていた.2008年にヒトの遺伝子が明らかにされ,常染色体劣性患者における遺伝子異常が報告された9).現在に至るまでにフランス,イギリス,スペイン,オランダ,イスラエル,米国,中国,パキスタン,インドネシアなどの患者コホートに対しての報告がある.遺伝子の欠失,挿入,ナンセンス変異や,スプライス変異による産生蛋白質が切断されてしまうような変異が多いが,ミスセンス変異も少し報告されている.アレルの片側しか異常がみつからない症例も少なからず報告されており,これが片方のアレルの大きな欠失によるのか,他の遺伝子が関与しているのか,まだ明らかにされていないエクソンがあるのか現時点では不明である.報告によって異なるが,常染色体劣性網膜色素変性の5%~約2割という報告があり,わが国でも検討が必要である.USH2Aは前項でも述べたように,タイプ2のUsher症候群の原因遺伝子である.しかし,Usher症候群ではなく,聴覚障害の合併のない常染色体劣性網膜色素変性でもUSH2Aの異常の報告があり,その割合は米国では常染色体劣性網膜色素変性の約8%と比較的多いことが知られている10).912あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(8)優性網膜色素変性患者のロドプシン遺伝子の分子生物学的検討.日眼会誌96:237-242,19923)和田裕子,玉井信:カラーアトラス網膜の遺伝病─遺伝子解析と臨床像─.医学書院,20054)JinZB,MandaiM,YokotaTetal:Identifyingpathogenicgeneticbackgroundofsimplexormultiplexretinitispigmentosapatients:alargescalemutationscreeningstudy.JMedGenet45:465-472,20085)JinZB,LiuXQ,HayakawaMetal:MutationalanalysisofRPGRandRP2genesinJapanesepatientswithretinitispigmentosa:identificationoffourmutations.MolVis12:1167-1174,20066)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:Identificationof11novelmutationsinUSH2AamongJapanesepatientswithUshersyndrometype2.ClinGenet76:383-391,20097)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:HairrootsasanmRNAsourceformutationanalysisofUshersyndrome-causinggenes.JHumGenet55:701-703,20108)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:MutationanalysisoftheMYO7AandCDH23genesinJapanesepatientswithUshersyndrometype1.JHumGenet55:796-800,20109)AudoI,SahelJA,Mohand-SaidSetal:EYSisamajorgeneforrod-conedystrophiesinFrance.HumMutat31:E1406-1435,201010)HartongDT,BersonEL,DryjaTP:Retinitispigmentosa.Lancet368:1795-1809,2006すべてのエクソンの塩基配列を決めたほうが望ましいと考える.おわりにちょうど25年前に網膜変性疾患の最初の遺伝子異常が明らかにされたが,現在では遺伝子治療が行われている.ヒトゲノムに対する加速度的な理解,その検出方法の進歩は新たな医療の可能性を秘めている.筆者は,遺伝子治療に対しては,リスク,遺伝的異質性と,それによる臨床応用のためのコストの点からまだ懐疑的ではあるが,遺伝子診断,適切な遺伝カウンセリングによる網膜色素変性の予防については,一般臨床に応用される日は近いと考えている.メディカルホトニクス研究センター(旧光量子医学研究センター)長,蓑島伸生先生のご協力と,ご校閲に深謝いたします.文献1)ZuchnerS,DallmanJ,WenRetal:Whole-exomesequencinglinksavariantinDHDDStoretinitispigmentosa.AmJHumGenet88:201-206,20112)堀田喜裕,塩野貴,早川むつ子ほか:日本人の常染色体