インターネットの眼科応用シリーズインターネットの眼科応用シリーズ34章医療のIT化で可能になること④─タブレット端末・ウェアラブル端末の可能性─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科タブレット端末と医療インターネットの進化の方向性の一つは,人間と端末とのインターフェースをより感覚的に,身近にすることです.このコンセプトは,ユビキタスもしくはウェアラブルとよばれています.つまり,衣服を着るように端末に触れ,いつでもどこでもインターネットに接続できる世界です.画面に触れて操作するタッチパネルの革新性は,情報処理を直感的に行うことを可能にし,ユビキタス社会に近づけた点です.ニンテンドーDSなどのゲーム機から,iPadに代表されるタブレット端末,スマートフォンとよばれる多機能携帯電話にタッチパネルが搭載されています.これらの機器は,キーボード入力に頼らずに,原始的な操作で情報処理を行えます.タブレット端末に代表されるタッチパネル搭載機器(以下,タブレット端末)は,膨大な情報量を簡便にわかりやすく伝えるため,人材教育において最も威力を発揮します.タブレット端末により,定まったマニュアルを初心者にもわかりやすく伝えることができます.ある特定の個人がもっている特別なノウハウを文書ではなく画像で感覚的に他人に伝えることができます.文字通り,百聞は一見にしかず,を手の上の端末が実現します.この,人材教育という情報格差を埋める作業は従来,人手と時間をかけて行われていました.医療の現場も同様です.医師の手術教育,医療従事者の業務習得,患者への手術のインフォームド・コンセントなどはすべて,情報格差を埋める作業です.タブレット端末の効果が予想されます.実業界での成功例を紹介します.マクドナルドでは,スタッフ教育に「動機付け」をし「主体性」を重視し,ニンテンドーDSとゲーム感覚でマニュアルを学習できるソフト「eスマート」を利用しています.同じサービスを違う店舗でも提供するには,徹底したクオリティコントロールが求められますが,タブレット端末により,教育スピードのアップ,教育コストの削減を実現してい(77)0910-1810/11/\100/頁/JCOPYます1).タブレット端末の登場により,従来,文章化しにくかったノウハウを容易に伝承できるようになりました.医療現場においては特に,手術教育に効果を発揮しています.まず,端末を滅菌済みの清潔な袋で包むことにより,手術に必要な情報を術野に持ち込むことができます.先人の手術動画はもちろん,CT,MRIなどの画像を三次元構築して表示し,タッチパネルで表示すれば,術野の裏側から見た臓器を可視化できます.OsiriXという便利なアプリケーションがあります.このフリーソフトを用いれば,二次元の平面図を3D画像に変換できます.タッチパネルを用いて画像を拡大したり,見たい角度から自由に見たりできます.さらに,イスラエルObjetGeometries社の三次元プリンターの「Objet260Connex」を用いると,三次元画像を容易に短時間で模型化することができます.神戸大学医学部附属病院では,三次元プリンターで造形した生体モデルを実際の手術の現場に持ち込み,複数の手術を成功させました.2種類の材料を混ぜ合わせて造形できるため,一方の材料を透明な素材にすれば,人体内部の骨や腫瘍などの位置を外部から確認できる生体モデルを造形できます.そしてこの生体モデルを肝臓がんの手術や奇形手術図1三次元プリンターで印刷された肝臓模型あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111589などに活用しましたなどに活用しました(図1).このプリンターを使うと,実際の臓器を処置する前にシミュレーションが可能になります.「この断面で切開すれば,この血管を傷つけるだろう」ということが術前に予想できます.手術中に生体モデルと照らし合わせながらスタッフと議論し,最適な方法を選択できます.図1で示した実物大の肝臓模型は一晩で完成しますので,眼球ではより短時間で作製可能と考えられます.ウェアラブル端末の医療応用タブレット端末を発展させると,ユビキタス社会に繋がります.ユビキタス社会とは,「いつでも,どこでも,何でも,誰でも」がコンピュータネットワークを初めとしたネットワークに繋がることにより,さまざまなサービスが提供され,人々の生活をより豊かにする社会を意味します4).狭義には,ウェアラブルコンピューティング(以下,ウェアラブル)とも表現します.ウェアラブルの医療応用例をいくつか紹介します.ダイワハウスは,トイレの便座に座るだけでバイタルを測定し,排尿時に尿検査ができるインテリジェンストイレⅡというトイレを開発しました.便座から体表面の温度,脈拍,酸素飽和度を確認します.尿から蛋白質や糖を確認する通常の尿検査だけでなく,尿温度(深部体温)を測定します.このデータを医療機関にインターネットを介して伝えて,検査結果として保存することも可能でしょう.このトイレは,日常生活のなかで無理なく健康チェックができる非常にユニークな商品です5).また,ユビキタス社会へのステップとして,無人自動車に関する研究開発が進められています.無人自動車の技術はロービジョンケアに応用が可能です.時速60kmで走る車をコントロールするテクノロジーは,時速3kmで歩く人間をうまく目的地に導くでしょう.最先端のテクノロジーはぜひ,ヒューマンヘルスに還元されて欲しいと願います.日産自動車は,後方・側方の人・クルマ・道路を検知し,危険を判断して運転者に知らせる「リヤカメラを用いたマルチセンシングシステム」を開発しました.このシステムは2012年の新型車に搭載される予定です6).米Googleは2011年10月,自動車用自動運転システムを開発中であると発表しました.すでに米カリフォルニア州の公道で走行テストを実施しており,同システムを搭載した自動車を14万マイル(22万5,000km)以上走らせました.開発担当者のスラン氏はスタンフォード大学のコンピュータ・サイエンス学科と電気工学科の教授で,スタンフォード人工知能研究所の1590あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011所長も務めています.同プロジェクトには,米国防総省高等研究計画局(DARPA)主催のロボットカーレース「GrandChallenge」参加経験をもつ優秀な技術者が集まっています.無人自動車の実現は近い将来でしょう7).このようなIT技術を,ロービジョンケアに応用する,ITguidedlowvisioncareは,今後,われわれ眼科医が取り組む大きなテーマです.慶應義塾大学SFCは,盲導犬に代わる多機能の杖を開発しています.「NS_cane」とよばれる杖は,プロダクトデザイン,センサー技術,インタラクティブメディアなどの多様な要素を融合しています.デジタル技術により機能を拡張された杖は,盲導犬に代わる新たな情報の「相棒」となる可能性を秘めています8).私見としては,杖よりも眼鏡のほうが利用しやすいように感じますが,杖であれ眼鏡であれ,ウェアラブルな端末がロービジョン患者の眼となって,コンビニやスーパーの看板を画像認識し,信号を見分け,障害物をいち早く察知することは,大変有意義です.この端末にGPS機能や音声認識ソフトを搭載すれば,カーナビが自動車を導くように,ロービジョン患者を目的地までスムーズに導くでしょう.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をMedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvcjapan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://www.visualthinking.jp/archives/1192)http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110701/193023/k1.JPG3)http://www.ktv.co.jp/anchor/feature/2011_09_26.html4)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%93%E3%82%AD%E3%82%BF%E3%82%B95)http://www.daiwahouse.co.jp/release/20081224111714.html6)http://response.jp/article/2011/10/12/163681.html7)http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1010/10/news002.html8)http://sakainaoki.blogspot.com/2011/05/sfc-xd-2011.html(78)