あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114470910-1810/11/\100/頁/JCOPY病診連携とインターネットインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.医療情報も,文書や動画などのさまざまな形態で,インターネット上で共有できるようになりました.前章と前々章で電子カルテの進化の予想図を紹介しました.インターネットは,電気や上下水道や公共交通機関や金融システムなどと同様に,社会基盤の一つです.ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏はインターネットにアクセスする権利(情報アクセス権)を,自由権,参政権,社会権に並ぶ基本的人権の一つである,とまで述べています.また「光の道」構想のなかで,電子教科書や電子カルテを低価格で普及させる,とアピールしています.つまり,医療情報のクラウドコンピューティング化(医療クラウド)により,電子カルテの低価格化が実現します.医療クラウドの可能性は電子カルテに留まりません.電子カルテは病院内で保有される診療情報ですが,個人情報に配慮したうえで,インターネットで病院間を繋ぐと,多施設で診療情報が共有され病診連携がスムーズに行われます.今回はインターネットによる病診連携の可能性とその意義について紹介したいと思います.日本では患者に診療情報提供書という文書を渡し,診療情報を他施設に伝えることが通例です.診療点数も,文書という伝達手段に基づいていました.近年ようやく,電話による患者指導が再診として認められるなど,現在の情報伝達の形に制度が追いついてきました.診療情報提供書にDVDが一緒に同封されることもあります.文書も手書きではなくワードなどで作られた文書が多くなり,診療情報のデジタル化は徐々に進んでいますが,IT化はまだまだこれからです.そのなかで,クラウドコンピューティングを用いた先駆的なインターネットサービスを一つ紹介します.コニカミノルタヘルスケアという医療機器メーカーは,レントゲン機器と関連商品をおもに扱います.レントゲン機器はデジタル化が進み,フィルムレスが当然になりました.デジタル化に対応していないアナログなレントゲン撮影機械のマーケットは完全に縮小しました.現在はCR(コンピューテッドラジオグラフィ)システムとよばれるレントゲン撮影機種が普及しています.コニカミノルタヘルスケアは,CRシステムの付属として,撮影された画像情報をインターネット上に多施設で共有し,紹介患者の経過報告や症例相談やセカンドオピニオンを求めることもできる,「連携BOX」というサービスを提供しています.基幹病院を軸にした関連施設で,このサービスの利用が徐々に普及していま(79)インターネットの眼科応用第33章医療のIT化で可能になること③─病診連携について─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ図1連携BOXのイメージ図1448あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011す.このサービスで扱う情報は,CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像が中心ですが,眼科領域に置き換えると,眼底写真やOCT(光干渉断層計)画像,造影写真などの検査情報だけでなく,手術ビデオなどの治療情報もデジタル化されているものなら,何でも共有することが可能です(図1).地域が育てる医療医療情報を多施設で共有することが示す,一つの世界観について触れたいと思います.良質で効率的な医療を受けることは,全国民の願いです.われわれ医療機関の収入が窓口負担だけでなく国費から得ている現状を考えると,われわれの顧客は,目の前の患者だけでなく,潜在患者でもある全国民です.われわれ医療者は,顧客が求める医療の効率化について,真摯に取り組む必要があります.医療クラウドを利用した医療機関の連携は,地域医療を効率化します.いい医療機関は地域が育てる,としばしば指摘されます.有名な事例を紹介しますと,兵庫県柏原市では,子供をもつ母親同士が定期的に勉強会を開いて,子供が病気になったときに受診すべきか自宅で経過をみるべきか,その判断力を養いました.その結果,小児科を緊急で受診する患者数が激減し,小児医療の崩壊を食い止めました1).医療は電気やガスや水道と同じ,社会インフラの一つです.アナログな地域力は地域医療を育てます.インターネットの進化は,医療情報を社会インフラの一つに発展させ,地域力を補完するでしょう.上述した連携BOXのようなサービスを,民間企業ではなく医師会や行政が提供・もしくは提携すれば,地域の病診連携や診診連携がより深まります.地域が患者を診る,という文化が育ち,患者は地域の医療機関に安心して身を任せることができるでしょう.病状の急変時も,その患者がどういう基礎疾患をもっているか,かかりつけの医療機関でなくても容易に判断できます.この場合,電子カルテの所有者は,地域もしくは地域の医療機関といえます.前章で,インターネットの診療情報は誰が所有者か,(80)という問題提起をしました.医療クラウドが普及した世の中において,カルテの所有に患者,医師,医療機関に加え,システム会社の4者が関わります.情報アクセス権は,基本的人権の一つといえるほど重要です.患者が自分自身の健康情報にアクセスしたいという要求は,今後強くなるでしょう.生産者と消費者の立場を逆転させた,情報革命というインターネットの潮流から考えると,診療情報の所有者は医療機関(生産者)から患者自身(消費者)へと移行することは明らかです.患者は,自分自身の健康情報を自分でもつ権利を得る代わりに,その情報をシステム会社に預けることへのリスクを求められます.将来的には,患者の診療情報は患者自身が保有することになりますが,その前に,医療情報が社会インフラとして整備された段階において,地域の医療機関ネットワークが診療情報の所有者となります.私個人的には,基幹病院を中心とした医療機関ネットワークが,診療情報を把握する形態は,非常に日本的に感じます.医療クラウドが,地域力を補完できるようなインフラに発展することを願います.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をMedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvcjapan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://mamorusyounika.com/☆☆☆