0910-1810/10/\100/頁/JCLSある疾患であり,初期対応にあたる眼科医の責務は重要である.以下,小児緑内障の診断と治療についての要点を自験例と文献的考察を交えて概論する.I小児緑内障の分類病型に分類することは正確な診断と予後を推測するうえで必要である.分類方法は発症時期や,併発する病態,遺伝などにより多様である1,2).病名についても先天緑内障,発育異常緑内障,原発先天乳児緑内障,続発先天緑内障など種々の名称が使用されてきたが,ここでは日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン3)に沿って分類する(表1).早発型発達緑内障とは発育異常が隅角に限局するものである.以前は原発先天緑内障や先天乳児緑内障などとよばれたもので,3歳頃までに発症し高眼圧が続くと眼球拡大,いわゆる牛眼を呈する.生下時にすでに牛眼を示す新生児緑内障もある.遅発型発達緑内障も発育異常が隅角に限局するものであるが,異常程度が軽度なために幼児期・学童期に発症するもので,自覚症状の訴えや外見の異常がないため診断が遅れることが多い.他の先天異常に伴う発達緑内障や続発緑内障には表1に示す多様な疾患が含まれる.表1には15歳未満で発症し,現在当科で管理中の各病型の症例数と眼数を併記する.近年,先天白内障術後の続発緑内障が増えており,これについては後述する.II診察の手順と要点1.問診乳児で角膜拡大や混濁があれば緑内障を想起して診察はじめに小児緑内障は一般診療のなかでは稀な疾患であるが,患児の生涯を左右する重要な疾患である.大別すると発達緑内障と続発緑内障に分かれ,乳幼児期に発症するものは前者が多い.早期に発症する症例は,いわゆる牛眼を呈し構造的障害をきたすので,緑内障性視神経症のみならず視機能発達の管理を要する.後期に発症する症例は自覚症状の訴えのないまま視神経萎縮に至り,不可逆性の視機能障害を残すことが多い.ともに,早期発見,早期治療により重篤な視機能障害を阻止しうる可能性の(65)1387*AkiraNegi:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕根木昭:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野あたらしい眼科27(10):1387.1401,2010c第19回日本緑内障学会須田記念講演小児緑内障の診断と治療DiagnosisandTreatmentofPediatricGlaucoma根木昭*総説小児緑内障は稀な疾患であるが,患児の生涯を左右する重要な疾患である.大別すると発達緑内障と続発緑内障に分かれる.早発型発達緑内障では羞明,流涙の訴えに注意する.診察は催眠下に施行し,眼圧,角膜径,角膜上皮浮腫,視神経乳頭陥凹などを参考に総合的に判断する.催眠下の正常眼圧は15mmHgを上限と考える.治療は線維柱帯切開術を第一選択とする.適正な時期に施行すると20年後も眼圧調整成功確率は約80%である.複数回手術を要する難治症例にはマイトマイシンCを併用した線維柱帯切除術を施行する.このとき,羊膜移植を併用すると瘢痕化抑制に有用である.術後は屈折異常,固視状態に注意して視機能発達を管理する.続発緑内障では,先天白内障術後の開放隅角緑内障症例が増加している.生後1年以内に白内障手術を受けた症例に多い.先天白内障術後は緑内障発症に留意して長期経過観察していくことが肝要である.キーワード:発達緑内障,牛眼,線維柱帯切開術,羊膜,先天白内障.要約1388あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(66)に当たる.しかし肉眼的に異常のない早期では流涙や羞明を主訴とするため,先天鼻涙管閉塞などを想起することも少なくない.乳児の流涙や羞明では常に緑内障を念頭に置く必要がある.特に羞明は重要な角膜上皮浮腫の初期徴候である.戸外に出ると母親の胸に顔を埋めることや,室内でも電気がつくと眼を閉じる,顔を覆うなど羞明に留意することが大切である.2.催眠乳幼児の正確な検査には催眠が必要である.乳児の場合には自然睡眠下で可能なこともあるが,通常は催眠剤,triclofossodium(トリクロリールR)シロップ0.7ml/kgを使用する.30分程度で入眠するが個人差がある.寝たらすぐに検査を開始するが,麻酔作用はないので眼圧測定などには点眼麻酔が必要である.この点眼だけで覚醒してしまうこともあるのでガラス棒などを用いて小滴を慎重に滴下する(図1).1歳以上になるとシロップを嫌がることがある.この場合はchloralhydrate(エスクレR)座薬50mg/kgを使用する.4歳を超えると通常の細隙灯検査も可能になるが2.3歳頃が催眠もしづらくむずかしい.日頃から母親とともに検査に慣れさせ,押さえつけて検査することなどは避け,恐怖感を記憶させないことが大切である.小児科医や麻酔科医との連携が可能ならmidazolam(ドルミカムR)などの静脈麻酔も有用である.初診時には未散瞳で検査するが,再診で散瞳が必要なときは催眠の前に散瞳薬を点眼しておかないと入眠後は点眼だけで覚醒してしまうことがある.3.眼圧測定催眠下仰臥位の眼圧測定はPerkins手持ち圧平式眼圧計で測定する(図2)が,瞼裂が狭く測定しにくいときはTono-PenR眼圧計(図3)が有用である.瞼裂が狭いときには開瞼器で軽く開瞼する.Bell反射で上転するときは正位にくるまで待って測定する.3~4歳になれば覚醒下に座位で測定できる児もいる.表面麻酔の不要なicareR手持ち眼圧計は怖がらずに測定させてくれる(図4)ので,この方法から慣らしていくと,Tono-PenR眼圧測定からGoldmann眼圧測定もできるようになる.角膜混濁が強く部厚いと圧平式眼圧測定では非常に高い値が出ることがある.角膜径や乳頭の状態から本当に高眼圧なのか総合的に判断する必要がある.この場合Schiotz眼圧計も参考になる.異なるいくつかの眼圧計図1催眠下の点眼方法点眼により覚醒してしまうことがあるのでガラス棒を利用して小滴を点眼する.表1小児緑内障の分類症例数眼数発達緑内障早発型発達緑内障2847遅発型発達緑内障2953他の先天異常を伴う発達緑内障Sturge-Weber症候群1418Axenfeld-Rieger症候群510無虹彩症48Peters奇形36神経線維腫症22第一次硝子体過形成遺残11球状水晶体12先天小角膜12Marfan症候群Weill-Marchesani症候群PierrRobin症候群Lowe症候群ホモチスチン尿症風疹症候群Rubinstein-Taybi症候群Hallermann-Streiff症候群先天ぶどう膜外反その他続発緑内障先天白内障術後(#)1526ぶどう膜炎23外傷22副腎皮質ステロイド薬12腫瘍未熟児網膜症その他15歳未満で受診し現在,当院および#兵庫県立こども病院で管理中の症例数と眼数を併記した.(67)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101389で測定しておくことも有用である.各眼圧計で測定値に差が生じるが,同じ眼圧計での測定値を記録していくことで変化を知ることができる.成人眼で各眼圧計の測定値を比較すると,icareR手持ち眼圧計の測定値はTono-PenR眼圧計による測定値に近く,Goldmann眼圧計の測定値より平均1.4mmHg高い.角膜厚に留意してGoldmann眼圧計の測定値と比較すると,角膜が厚くなるほどより高く,角膜が薄くなると低めに表示される(図5)4).催眠下,仰臥位の眼圧測定値をどう判断するかについて詳細な根拠はないが,若干覚醒時より低めに出ると推測される.乳幼児の眼圧そのものも成人より低いとされることから,15mmHgを上限と考える.新生児の無麻酔下の眼圧は平均11.4±2.4mmHgといわれる5).催眠下での十分な検査ができないときには全身麻酔下の検査によるが,全身麻酔下での眼圧は麻酔導入後の深度に大きく影響される.halothane麻酔下では眼圧が大きく低下し6),15.20mmHg下がることも稀ではない.最近多用されるsevofluraneでも麻酔導入後6分まで眼圧は平均約19%,急速に低下する.ketamineの場合はこの低下が少なく導入後8分でも7%程度の低下にとどまる7).眼圧検査の場合はketamine麻酔による迅速な測定が推奨される.眼圧値は診断と管理に必須であるが,測定値に影響する因子が多く,眼圧値のみでは緑内障病態を評価できず乳頭や角膜径などで総合的に判断せねばならない.図3Tono.PenRAVIA眼圧計による眼圧測定図2Perkins眼圧計による眼圧測定瞼裂が狭くても測定できる.図4icareR眼圧計による眼圧測定麻酔薬なしで児童でも測定できる.0IOPDifference(mmHg)51015MeanIOP(mmHg)AdjustedR2=0.064,p=0.05182025306420-2-4400IOPDifference(mmHg)450500550CCT(μm)AdjustedR2=0.202,p=0.00126006506420-2-4図5icareR眼圧計とGoldmann眼圧計による測定値の比較上:icareR眼圧計測定値─Goldmann眼圧計測定値をGoldmann眼圧計測定値に対してBland-Altman法で表示した散布図.実線は平均差を,点線は95%信頼区間を示す.下:測定値差を角膜厚(CCT)に対して表示したもの.実線は回帰直線.(文献4より改変)1390あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(68)4.前眼部の観察角膜径を計測し,手持ち細隙灯により前眼部を観察する.3歳以下の乳幼児では高眼圧により眼球拡大,いわゆる牛眼を呈する.明らかな牛眼では診断は容易で,角膜上皮浮腫やDescemet膜断裂によるHaab線をみる.Haab線は角膜径が12.5mmを超えると出現しやすく,円周状や直線上など多様である(図6).鑑別としてあげられる鉗子分娩時の角膜損傷は角膜径の拡大は伴わず,縦に直線上に走る(図7).角膜径の測定にはカリパーを使用するのがよい(図8).水平,垂直径を測定するが,牛眼では強膜との境界が不鮮明なことがある.移行部を含めた最大径を測定する.新生児の角膜径は10.10.5mmであり,1歳で約1mm増大する.乳児で12mmを超えるときには十分に経過観察する必要がある.牛眼に至らない初期症例では角膜上皮浮腫に注目する.乳児の前房は正常では浅いので,すでに深いときは要注意である.瞳孔形の異常,偏位,虹彩の萎縮は発達緑内障によく併発する.5.眼底の観察視神経乳頭の陥凹は眼圧をよく反映するので,診断および管理に重要な検査項目である.散瞳下に手持ち細隙灯と90Dレンズで立体視できる.初診時には非散瞳下に直像鏡で観察するが,隅角検査時にKoeppe隅角鏡越しにも観察できる.3歳以下の正常乳幼児では陥凹/乳頭比は0.3以下が87%を占めるのに比し,緑内障眼では95%が0.4以上を示す8).正常では陥凹に左右差はなく,辺縁部はオレンジ色だがやや色あせて見える.眼圧上昇により陥凹は容易に拡大する.篩状板や強膜を構成する結合組織が未熟なため,篩状板は容易に後退し強膜輪も拡大することによる9).陥凹は成人と異なり同心円状に均等に拡大し,眼圧の低下により速やかに縮小する.陥凹の大きさにより眼圧を推測できるので術後経過観察にも必須検査である.網膜血管アーケードの発達や黄斑の発達,中心窩反射の有無にも着目する.6.屈折検査検影法あるいは手持ち自動レフラクトメータによる屈折検査は視能矯正と視機能発達経過評価に重要である.7.隅角の観察Koeppe隅角鏡と手持ち細隙灯による.手術顕微鏡下ではSwan-Jacob隅角鏡や森式隅角鏡も有用である.角膜浮腫が強いときはグリセリン点眼が透明化に役立つ.図6牛眼にみられるHaab線Descemet膜断裂により,角膜径が12.5mmを超えると頻度が高くなる.図8カリパーによる角膜径の測定乳児で12mmを超えるときは要注意.図7Haab線と鑑別を要する鉗子分娩時の角膜損傷角膜拡大はなく,縦に走る傷が特徴.(69)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101391正常の乳児隅角では毛様体帯が見え,虹彩根部は隅角底を形成せず平坦に付着している.隅角底は1歳を超えてから2.3歳で形成されてくる.線維柱帯に色素はなく,成人より部厚い透明な層に見える.早発型発達緑内障では虹彩が前方に付着して毛様体帯や強膜岬,ときに線維柱帯まで隠れる症例が多いとされる(図9)が,普通に毛様体帯が見える開放隅角症例も少なくない.異常な突起状,膜状虹彩組織が線維柱帯を覆うことも多い.線維柱帯付近に付着した虹彩根部が凹型に落ち込む症例もある.Axenfeld-Riegar症候群や無虹彩症などでは後述のごとく特異な隅角異常,虹彩癒着をみる.8.眼軸長,角膜厚の測定超音波法による眼軸長測定は診断ならびに術後の眼圧コントロール状態を把握するのに有効な因子である.乳児の眼軸は17.5.20mm程度で1歳児で約22mmである.超音波生体顕微鏡は角膜混濁で観察できない隅角の状態や異常な構造を把握するのに有用である(図10).角膜厚は眼圧測定値に影響する.発達緑内障では角膜の拡大や,浮腫,変性により正常範囲から逸脱した角膜厚を示すことも多く,角膜厚測定は眼圧評価に勘案すべき重要因子である.小角膜や無虹彩症例では角膜厚が増大しておりPeters奇形では薄い.生後24時間以内の正常新生児の角膜厚は573μmで成人より厚く,その後徐々に減少し10),3歳頃に成人の値に達するという11).しかし,0.1歳児の角膜厚は成人より薄いとするわが国の報告もある12).乳幼児の角膜厚や剛性がどの程度,眼圧測定値に影響しているかは不明である.IIIおもな病型の特徴と鑑別の要点1.早発型,遅発型発達緑内障発達異常が隅角に限定されるもので乳幼児緑内障の約半数を占め,最も頻度の高い病型である.おおむね出産10,000から12,500に1件といわれるが,人種差があり,サウジアラビアでは2,500人に1人と多い.英国では18,500人に1人,スペインでは38,000人に1人,米国では20歳以下の人口の68,254人に1人という報告がある13).生後3カ月以内に診断された症例では90%が両眼性であるが,3カ月以降3歳までに診断された症例では両眼性は60%である(図11).角膜拡大があり,羞明,流涙,眼瞼痙攣などがあれば診断は容易である(図12).しかし初期症例では,先天鼻涙管狭窄や結膜炎と診断されることもあり上述の検査項目に留意する必要がある.発達緑内障の多くは弧発例であり遺伝性のあるものは10%程度である.わが国では染色体の2p21にあるCYP1B1遺伝子に変異を認める症例が20%にみられる14).これらの症例では両眼性で生後早期に発症するこ図10超音波生体顕微鏡による前眼部観察角膜混濁や異常な隅角組織で観察できない隅角構造も把握できる.これはAxenfeld-Rieger症候群における異常な隅角膜.図9発達緑内障にみられる隅角強膜岬より前方に虹彩が平坦に付着している.図11早発型発達緑内障にみられる牛眼生後3カ月以内の発症では90%が両眼性である.片眼性では診断も容易である.1392あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(70)とが多く,変異をもたない症例に比べて女児に発症しやすい傾向にある15).乳幼児期の鑑別疾患を表2に示す8).巨大角膜では角膜拡大は著明であるが,透明で混濁なく,眼圧や視神経乳頭は正常である(図13).先天遺伝性角膜内皮ジストロフィでは羞明や種々の程度の両眼性の角膜混濁を示し,緑内障と紛らわしい.角膜厚は著明に増大しているが,角膜径は拡大せず,視神経乳頭は正常である.幼小児期に高眼圧や乳頭異常で緑内障を疑われる症例は稀ではない.表3に最近2年間に遅発型発達緑内障を疑われて本院を紹介された,緑内障以外の症例をまとめた.12例はいずれも両眼ほぼ同様の眼圧値,乳頭所見を呈したため片眼の所見のみを示した.高眼圧を呈した症例が7例あり,そのうち3例は視神経乳頭に異常を認めず,視野も正常で高眼圧症として経過観察中である.残りの4例は視神経乳頭陥凹の拡大を伴い,うち3例は上方視神経低形成で2例が視野狭窄を示した(図14).表2発達緑内障の鑑別疾患Ⅰ続発緑内障Ⅱ角膜拡大・角膜混濁をきたす疾患1.巨大角膜2.強角膜3.強度近視4.代謝異常疾患ムコポリサッカライドーシスなど5.後部多形性角膜ジストロフィ6.先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ7.角膜炎Ⅲ羞明,流涙をきたす疾患1.鼻涙管閉塞2.結膜炎3.角膜上皮障害4.Meesman角膜ジストロフィ5.Reis-BucklerジストロフィⅣ視神経異常を呈する疾患1.乳頭ピット2.コロボーマ3.低形成4.傾斜乳頭5.生理的陥凹拡大表3高眼圧,視神経乳頭異常で緑内障を疑われた小児症例症例紹介理由初診年齢(歳)・性眼圧(mmHg)角膜厚(μm)乳頭所見視野KM高眼圧7・女児24576正常正常IH高眼圧10・男児25567正常正常MK高眼圧12・女児25582正常正常TH乳頭陥凹大9・女児16494低形成正常IN乳頭陥凹大8・女児15445生理的大陥凹正常SK乳頭陥凹大11・女児14560生理的大陥凹正常ST乳頭陥凹大11・男児14606SSOH下方狭窄UT乳頭陥凹大14・男児13─低形成正常HY高眼圧+乳頭陥凹大6・女児29592SSOH下方狭窄NR高眼圧+乳頭陥凹大8・女児22549SSOH不定狭窄KS高眼圧+乳頭陥凹大8・女児23612生理的大陥凹正常NY高眼圧+乳頭陥凹大15・女児28610SSOH正常SSOH:上方視神経低形成.図12発達緑内障による角膜拡大羞明,流涙を伴い診断は容易であるが,初期では鼻涙管閉塞や結膜炎と診断されることもある.図13巨大角膜の症例角膜は大きいが,透明で眼圧,視神経乳頭は正常である.(71)あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081393残りの1例は視野も正常で大乳頭に伴う生理的大陥凹をもつ高眼圧症と判断し経過観察中である.この症例では母親も高眼圧症で定期観察をされていた.12例のうち5例は,眼圧は正常であるが乳頭陥凹の拡大があるため紹介された.1例は上方視神経低形成で下方視野狭窄を示した.この症例では母親の乳頭も上方視神経低形成を呈していた.2例は,視野は正常であったが視神経低形成と判断し経過観察中である(図15).残りの2例は視野も正常で大乳頭に伴う生理的大陥凹として経過観察中である.幼小児期でも高眼圧症や乳頭陥凹拡大症例は稀ではない.乳頭陥凹拡大のなかには上方視神経低形成例が多く,高眼圧を伴うこともあり十分な経過観察が必要である.2.Sturge.Weber症候群全身の先天異常に伴う発達緑内障としては最も症例数が多かった.三叉神経第1,2枝領域のポートワイン型血管腫を特徴とする母斑症で10.30%は両側性である(図16a,b).緑内障は30.50%に併発し,そのうち60%は乳幼児期に,40%は小児期に診断される.隅角の発達異常に加え上強膜静脈圧上昇が眼圧上昇の原因とされる.眼瞼に血管腫がある症例に多い.中枢神経系にも血管腫を伴い,てんかんや精神発達遅延を伴うことがありenchephalotrigeminalangiomatosisとも呼称される.高眼圧のため手術治療を要することが多く,線維柱帯切開術を第一選択にするが,予後は早発型発達緑内障より悪く,線維柱帯切除術を要することも少なくない.3.Axenfeld.Rieger症候群Sturge-Weber症候群についで頻度の高い,続発発達緑内障である.神経堤発育異常により歯牙,顔面骨などに発育異常がある.眼角隔離,上顎骨発育不良,鞍鼻,小歯牙などが特徴的である.両眼性で常染色体優性遺伝である.FOXC1遺伝子の変異が見つかっている.角膜周辺部に後部胎生環とよばれる輪部に沿った白い線が見られる(図17a).隅角鏡ではSchwarbe線が肥厚しており,ここに異常な虹彩の癒着を認める(図17b).虹彩の萎縮,瞳孔偏位,多瞳孔(図17c)を認め50%に緑内障を併発する.多くは幼小児期に診断される.遅発型では点眼治療も選択されるが,手術治療になることが多い.隅角異常癒着の少ない場所で線維柱帯切開術を施行する.4.無虹彩症両眼性で虹彩根部を残して虹彩が欠損する.2/3の症例は常染色体優性遺伝を示す.PAX6遺伝子に変異を見る.小角膜を呈することもあり,角膜上皮幹細胞欠損図14上方視神経低形成で高眼圧を呈する小児症例6歳,女児,左眼.眼圧は29mmHg,角膜厚は592μmで下方視野狭窄を呈した.右眼も同様である.図15視神経低形成による乳頭陥凹拡大9歳,女児,右眼.眼圧は16mmHgで視野は正常である.ab図16Sturge.Weber症候群における血管腫(a)約30%が両眼性.結膜にも異常血管をみる(b).1394あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(72)から将来,結膜浸潤による角膜混濁を見る.黄斑低形成,眼振を伴うことが多く,白内障,緑内障,角膜混濁により成長とともに視力低下が進行する.緑内障は50.75%に発症する.隅角には虹彩が一部形成されている.乳児期には隅角は開放しているが,徐々に癒着が進行し,閉塞隅角になる(図18).角膜は厚く,600μmを超す例が多く,眼圧測定の評価に留意する16).孤発例の20%はWilms腫瘍や精神発達遅延を伴う8).5.Peters奇形両眼に生下時から角膜中央部の混濁があることで診断される.角膜中央部のDescemet膜・角膜内皮細胞・角膜実質深層部を欠き,中央部は薄く混濁を呈する(図19).虹彩捲縮輪からDescetmet膜欠損部辺縁部に伸びる索状の虹彩前癒着,水晶体異常などを呈する.無虹彩やAxenfeld-Rieger様の異常を併発することもある.50.70%に緑内障を併発する.眼圧値は角膜の状態により影響を受ける.周辺部角膜から透見した視神経乳頭や眼軸長,角膜径から総合的に眼圧状況を判定する必要がある.角膜混濁は経年的に減少傾向を示す.眼圧下降には線維柱帯切除術を要する場合が多い.6.vonRecklinghausen病常染色体優性遺伝で,眼瞼に神経線維腫を発症する場合は50%に緑内障を発症する.片眼性が多く,虹彩にはLisch斑をみる(図20).隅角は開放隅角が多いが,線維腫組織による閉塞隅角もある.線維柱帯切開術が第一選択であるが予後不良のことが多い.7.球状水晶体球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障で小児期より眼圧上昇を見る.隅角閉塞の進行とともに眼圧も上昇していく.水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術の適応があるが,眼内レンズ震盪や脱臼を見ることがある(図21)17).図18無虹彩症の隅角虹彩は一部形成されている.乳児期には開放隅角であるが徐々に閉塞が進行する.図19Peters奇形における角膜中央部混濁(a)超音波生体顕微鏡で中央部角膜の菲薄化がわかる(b).abacb図17Axenfeld.Rieger症候群の眼所見a:後部胎生環.b:隅角の異常な虹彩癒.c:虹彩の萎縮,瞳孔偏位.あたらしい眼科Vol.27,No.10,201013958.先天白内障術後の続発緑内障小児の続発緑内障のなかで近年増加しているものに,先天白内障術後の緑内障がある.表1にみるように筆者らの施設でも小児緑内障全体でみても発達緑内障に次ぐ数を示した.1960年代以前に先天白内障手術が吸引術で施行されていた時代にも緑内障は多かったが,その頃の緑内障は残留皮質による炎症や脱出硝子体による,術後早期の閉塞隅角緑内障が主体であった.しかし1970年代に導入された経毛様体扁平部水晶体切除術や最近の成人同様の術式による眼内レンズ挿入の時代になると,術後緑内障は開放隅角型となり,発症も遅く自覚症状に欠くため発見が遅れるようになった.有病率は術後観察期間によって異なるが6.50%,10歳以上の有病率は65.6%にのぼる18~20).白内障術後経過とともに一定の割で増加し毎年の発症率は5.25%とする報告もある21).緑内障の診断時期は術後平均6.8年であるが,前向き研究では緑内障発症平均時期は術後1.34年であった21).白内障手術時期が早いほど発症頻度が高く,特に生後3カ月以内の手術症例に高い22).兵庫県立こども病院および筆者らの施設における先天白内障術後の無水晶体眼での緑内障有病率は72眼中26眼,36%で,うち視神経に緑内障性変化を認めた開放隅角緑内障が10眼(14%),眼圧値が26mmHg以上を呈したのが16眼(22%)であった.平均観察期間は術後9.8年である(表4).26眼のうち生後1年以内に白内障手術を施行していた症例が19眼を占めた.表に見るように眼内レンズ挿入眼には発症をみていないが,手術時年齢が無水晶体眼群に比べて高齢であり,眼内レンズ挿入が緑内障発症抑制に有利に働いているのかどうかは今後の検討課題である.先天白内障術後は角膜厚も部厚くなるため眼圧値は高く表示され高眼圧症との鑑別が必要になる23,24).視野検査が十分にできないため,視神経乳頭の変化や一定以上の高眼圧値をもって緑内障と定義する報告がある18).高眼圧症から緑内障への移行率も高く7年間で23%という報告もある25).表4の症例のうち角膜厚を測定できた症例を同年代の有水晶体眼と比較したものを表5に示す.無水晶体眼では有意に(p<0.001)正常眼,眼内レンズ挿入眼より部厚いことがわかる.手術時年齢が早いほど角膜厚は増大する傾向にある.眼内レンズ挿入群は手術時年齢が高いため,眼内レンズ挿入が角膜厚増大抑(73)表4先天白内障術後の緑内障有病率無水晶体眼眼内レンズ挿入眼症例数4927眼数7240手術時月齢(平均月齢±標準偏差)20±2461±29術後経過観察期間(平均経過観察年±標準偏差)9.8±5.05.5±4.0緑内障症例数150緑内障眼数26#0#開放隅角緑内障10眼,高眼圧症26mmHg以上16眼.表5有水晶体眼と先天白内障術後の角膜厚の比較眼数測定時年齢(歳)中心角膜厚(μm)有水晶体眼4310.2±3.1554±37無水晶体眼(正常眼圧)2212.3±3.7597±51無水晶体眼(高眼圧)1012.1±4.5628±44眼内レンズ挿入眼238.8±3.7546±43図20vonRecklinghausen病にみられる眼瞼神経線維腫図21球状水晶体による閉塞隅角緑内障a:前眼部写真.水晶体径は短い.b:前眼部細隙灯写真.前房は浅い.c:超音波画像.水晶体は厚い.d:隅角写真.隅角は閉塞している.acbd1396あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010制因子となるかは今後の検討を要する.先天白内障でそのまま経過を観察された症例の緑内障有病率が高くないことや,両眼先天白内障で片眼だけ手術された症例では手術眼に緑内障発症が高いことから,先天白内障術後の緑内障発症には手術が関係していると推測される.乳児期の隅角成熟期に水晶体がなくなることで隅角発達が不良になる,Zinn小帯の緊張がなくなるための線維柱帯の構造変化,硝子体成分や後房水が隅角組織に悪影響を与える,硝子体内酸素分圧の影響,元々の隅角発育異常などが原因として推測されている23,26,27).また,発症率のばらつきから手術操作自体の影響の関与も否定はできない27).治療は成人同様点眼治療から開始するが,手術適応になった症例の予後は不良である28).先天白内障術後には視力は良好でも高頻度に緑内障を併発することを念頭に置き,定期観察を続けることが肝要である.IV治療の要点と予後学童期の緑内障は成人と同様の治療方針で臨むことができる.しかし,乳幼児期発症の緑内障は時間的余裕がない.薬物治療では眼圧下降は不十分なことが多い.眼圧下降が不十分なまま経過観察すると,短期間のうちに眼球拡大が進行し,隅角組織に不可逆的な構造破壊をきたす.迅速に適切な眼圧下降を得るためには手術治療が第一選択となる.術式は線維柱帯切開術か隅角切開術が第一選択となる.後者は経験者も少ないことから前者が選択されることが多い.初回手術で奏効しないときは,線維柱帯切開術を追加するが,効果が得られないときには線維柱帯切除術を選択する.1.乳幼児の線維柱帯切開術の要点術式は成人と同様でも乳幼児と成人では大きく異なる点がある.乳幼児の眼は小さな成人眼ではない.強膜が柔らかいため,注意して切開しないと全層切開になりぶどう膜が露出する.均一な,十分な厚さの強膜弁が作製できると多くの場合Schlemm管は成人同様に見つけることができるが,強膜弁の厚さが不均等になるとSchlemm管の同定がむずかしくなる.強膜岬やSchlemm管外壁の線維組織が粗.で固い場合もある.Schlemm管腔が萎縮していたり(図22),輪部から離れた手前に位置する症例(図23)があることを念頭に慎重に操作する必要がある.特に下方からのアプローチでは十分視認性を確保した位置で望む必要がある(図24).強膜弁の作製には強膜刃のような面積のある刃で丁寧に,均一に層間.離を進めていく.Schlemm管が発見できても管腔が萎縮してトラベクロトームを挿入できない場合がある.あるいはトラベクロトームを挿入しても線維柱帯組織が固くて回転しがたいこともある.無理に回転すると毛様体断裂をきたし大出血を生じる危険性がある.このようなときには柄付きのトラベクロトームも(74)図22小児緑内障の線維柱帯切開術強膜弁が十分厚くても,Schlemm管が萎縮していて同定が困難なことがある.図23小児緑内障の線維柱帯切開術Schlemm管が成人に比して輪部から離れた位置にある.図24下方からの線維柱帯切開術Schlemm管が拡大した角膜に近く位置するので十分な視認性を確保して慎重にアプローチする必要がある.(75)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101397有効である.ヘアピン型のトラベクロトームより少し太いが,方向性を保ちやすく,ブラインド操作ではあるが拡張することもでき,回転方向も定めやすい.線維柱帯組織があまりに固く回転できない場合は無理をしないで,別方向を試すことも必要である.Sturge-Weber症候群では術後大量出血をきたす危険性があるといわれるが,経験はなく線維柱帯切開術を遺棄する理由にまではならない.Axenfeld-Rieger症候群,無虹彩症などにおいても術後成績は劣るが第一選択であることに変わりはない2.線維柱帯切開術の成績適切な時期に施行した線維柱帯切開術の手術予後はおおむね良好である.発達緑内障112眼における,平均観察期間9.5±7.1年(標準偏差)での平均術後眼圧は15.6±5.0mmHg(標準偏差)である.術後眼圧が21mmHg以下で,角膜径,視神経乳頭陥凹に進行がなく,線維柱帯切開術以外の追加手術がないことを成功と定義すると,89.3%が最終観察時に成功を得ている.Kaplan-Meier分析による成功確率は10年後で87.7±3.9%,20年後で80.8±6.1%である.手術時期別にみると生後2カ月から2歳までに手術された症例が最も予後が良好で,15年後の成功確率は96.6±2.4%であり,生後2カ月以前,あるいは2歳以後では70%前後に低下する.視力予後は眼数でみると59.5%が最終観察時に0.5以上を獲得し,0.1以下は24.4%であった.続発緑内障の成績は発達緑内障よりも少し劣る(図25)29).3.線維柱帯切除術の問題点と対策発達緑内障に対する手術治療では,初回の線維柱帯切開術を確実に成功させることが最も重要で,条件の良い12時部位で全力を注ぐ.眼圧が再上昇してきたときには4時,8時部位で線維柱帯切開術を再施行する.Schlemm管が見つからない症例や前回の線維柱帯切開術がまったく無効の症例では再手術に線維柱帯切除術を選択せざるをえない.小児に対する線維柱帯切除術はTenon.も厚く,術後瘢痕形成が強いために線維芽細胞増殖阻害薬を併用することが多い.成功率は45.80%で重症例に線維柱帯切開術と併用して施行されることもある30~32)が,術後の濾過胞管理ができないことや感染の危険性が成人同様に高いため一般的には初回手術としては適応されない33.35).小児のmitomycinC(MMC)併用線維柱帯切除術では成人のような術後のレーザー切糸などの濾過量調整ができないため少し過剰濾過で終える.術後感染の危険性は成人同様であり保護者によく説明して協力を得る必要がある.線維柱帯切除術後にも眼圧調整が不良で高眼圧が持続する場合は最終的には毛様体破壊術に至る.欧米ではインプラントも選択肢に入るが,わが国ではインプラントが承認されておらず,筆者もインプラントの経験はない.最近,当施設では倫理委員会の承認のもと,家族のインフォームド・コンセントが得られた複数回手術後の難治症例に,羊膜移植を併用した線維柱帯切除術,濾過胞再建術を試行している.成人症例における濾過胞漏出修復術や濾過胞再建術に有効な感触を得ているからである36).羊膜は抗炎症作用,瘢痕抑制作用,基底膜として健全な結膜上皮の再生を促す作用をもち難治角結膜疾患に広く使用されている37,38).複数回手術後の濾過胞再建術では,まず瘢痕化結膜を輪部基底で十分な広さに切開し,輪部に向けて結膜と瘢痕組織との癒着を.離する.瘢痕組織を切除し強膜表面を露出した後,前回の強膜弁を再度開窓し十分な濾過を確認する.小さな羊膜片を強膜弁の下にはさんで,強膜弁を縫合する.ついで大きな羊膜シートを強膜弁を覆うように,上皮側を下にして強膜に縫着する.前方は輪部強膜に,後方はTenon.に縫着し,房水が羊膜の下,Tenon.の下を通って後方へ流れるように画策する.結膜は羊膜の上で連続縫合する(図26).表6に小児緑内障症例における,1年以上経過観察できた8症例10眼の成績を示す.3眼は点眼なしで,3眼は点眼併用で眼圧は20mmHg未満に調整:発達緑内障:続発緑内障100806040200術後経過年数(年)0生存確率51015202530図25線維柱帯切開術の長期手術予後―Kaplan.Meier分析による成功確率発達緑内障では続発緑内障より成績が良い.(文献29より改変)1398あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010されている.術後大きな合併症はなく,全体として比較的有効な方法であるとの感触を得ており,今後症例を増やして検討する予定である.図27は症例3の羊膜移植併用線維柱帯切除術後5年の前眼部写真である.5回の手術後であるが,術後の結膜瘢痕は軽度である.図28は術前,術後5年の視神経乳頭を僚眼と比較したものである.術眼は術前眼圧25mmHgで,術後5年以上眼圧は12mmHg前後を維持し,視力(1.0),視野正常である.僚眼もMMC併用線維柱帯切除術を含め,4回の手術歴があり,視力,視野は正常であるが眼圧はこの5年間22mmHg前後である.(76)表6羊膜を用いた濾過胞再建術の成績症例病型手術時年齢既往手術回数経過観察(月)術前眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)点眼数1nf1歳274281502RPeters11カ月34528N/A2LPeters1歳256281823SW11歳467251204SW5歳340301105Rdevelop4歳525392235Ldevelop4歳523282536develop3歳312401937aphakic13歳52340313*8aphakic2歳51233191R:右眼,L:左眼,nf:神経線維腫,Peters:Peters奇形,SW:Sturge-Weber症候群,develop:発達緑内障,aphakic:先天白内障術後の続発緑内障,*:内服薬併用.図26羊膜を用いた濾過胞再建術羊膜小片を強膜弁の下にはさんで強膜弁を縫着する.大きな羊膜シートを強膜弁を覆うように,前方は輪部強膜に,後方はTenon.に縫着する.(文献36より改変)羊膜結膜切開位置Tenon.結膜図27羊膜を用いた濾過胞再建術後,5年経過した前眼部写真5回の手術後も結膜瘢痕は軽度である.図28羊膜を用いた濾過胞再建術後,5年を経過した視神経乳頭の変化術後眼圧は12mmHgを維持し,術前に比して陥凹が縮小している.僚眼はこの5年間眼圧は22mmHg前後であり,陥凹に変化はない.術眼僚眼術前術後5年あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101399術眼の視神経乳頭陥凹は僚眼に比して著明に縮小している.4.薬物治療の要点a.適応乳幼児期に発症した発達緑内障では上述のように手術治療が第一選択で薬物治療は手術までの補助手段,あるいは術後の不十分な眼圧下降の補強手段として使用される.しかし,学童期にみつかった角膜拡大のない遅発性の発達緑内障や続発緑内障では成人同様,まず薬物による眼圧下降治療を開始する.b.薬物の選択小児への適用の安全性が確認されている緑内障点眼薬はない.必要に応じて医師の裁量権で使用するわけで処方にあたっては慎重にすべきである.基本的には成人と同じ点眼薬を使用するが,効果は症例よって異なるため,よく効果を評価し不明確な追加点眼は避けるべきである.点眼量の多くは全身に吸収される.体重当たりの吸収量は成人に比較して多くなるため副作用に十分留意し,低濃度,点眼回数を減らすなどの配慮も必要になる.プロスタグランジン関連薬は全身副作用も少なく,1日1回点眼であるため使用しやすい.成人よりノンレスポンダーが多く,ノンレスポンダーは早発型発達緑内障症例に多いとされる39).しかし,成人同様有効なことも多く40),自験例ではトラベクロトミー術後の補助点眼として使用しても有効であり第一選択薬と考えている.Sturge-Weber症候群で眼圧下降効果がみられるのは19.28%である41).炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬も全身副作用が少なく利用しやすい.通常1日2回点眼とする.約27%の眼圧下降が報告されている42).内服薬はより強力な眼圧下降効果をもつが長期使用で代謝性アシドーシスや発育不全をきたすことがある.術前や一時的な高眼圧症例には5.15mg/kg/dayを3分で内服させる.長期使用せざるをえないときには定期的全身検査が必要である.b遮断薬点眼による眼圧下降は約30%の小児症例にみられるのみである43).0.25%濃度で朝1回点眼からはじめるが,全身血中濃度は成人が0.5%濃度点眼薬を使用した場合より高い44).成人同様,徐脈や喘息などの全身的副作用を誘発するので注意深く使用する.特に乳児への使用は要注意である.縮瞳薬は発達緑内障にはあまり有効ではないが,上述の先天白内障術後の続発緑内障には有効なこともある.網膜.離の併発に注意する.わが国ではまだ認可されていないブリモジニンなどのa2刺激薬は血液脳関門を移行しやすく中枢性作用を起こすことがあり乳幼児には使用しない.点眼薬使用にあたっては成人同様,眼圧のみならず視神経障害の進行を見定め,進行するようなら速やかに手術治療に切り替える必要がある.V視機能管理早発型発達緑内障は,視野狭窄が先行しても末期まで比較的良好な視力が温存される成人の緑内障と異なり,角膜混濁による形態覚遮断,眼軸の非対称な延長による不同視,両眼の不正乱視などの屈折異常など,さまざまな要素により,弱視を招来する.最近の報告でも,手術治療により眼圧調整率は向上し80%以上でも,視力という点では40.50%の症例が0.5未満に留まっている29,45).弱視化要因を探るため,3歳未満に線維柱帯切開術を施行し,術後5年以上良好な眼圧調整を得,正確な視力測定のできた14症例24眼について各種因子の関与について分析した.その結果,等価球面度数(図29),固視状態,Haab線の存在が最終視力と有意に相関する因子であることが判明した46).一方で,視神経障害の程度を反映すると思われる視神経乳頭C/D(陥凹乳頭)比は,弱視の程度とは相関しなかった.早発型発達緑内障においては,眼圧経過のみならず,視力の管理にも力を注がねばならない.そのためには,術後は催眠下で眼圧を測定する一方,preferentiallooking法,acuitycardなどを用いた視力検査ならびに検影法を用いた調節麻痺下他覚的屈折検査を定期的に行う必要がある.また直像鏡のvisuoscopeを用いた固視検査により,中心窩固視か偏心固視かを確認する.偏心固(77)図29視力と等価球面度数の相関r=0.848,p<0.0001弱視化要因としてはこのほか,Haab線の存在,偏心固視があげられる.(文献46より改変)0.010.1-8-6-4-20LogVA2等価球面度数(D)11400あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010視があれば,その眼が弱視に陥っていることはほぼ間違いない.弱視の存在が明らかになれば,適切な屈折矯正により優位眼遮閉などの弱視治療を積極的に行うべきである46).早発型発達緑内障の管理上の問題は,余命が長いことである.初期の手術加療がよく奏効して眼圧が比較的長期にわたって良好にコントロールされていたとしても,眼圧が再上昇することは少なくない.早発型発達緑内障は生涯にわたって,眼科医が管理をすべき疾患である.おわりに重度の牛眼で,乳幼児期に測定しがたい視機能しかなくとも,彼らは成長とともに驚くべき生活行動力を獲得していく.いかに重篤な状態でも,いかに治療手段に限界があろうとも,でき得る限りの努力を尽くすべきであることを思い知らされた.小児緑内障の治療では迅速な眼圧下降に加え,長期的な視機能発達管理が重要な柱となる.眼球拡大や角膜混濁により屈折異常や視覚遮断をきたすため,早期から視力発達経過に留意し積極的な屈折矯正,健眼遮閉などの視能訓練が肝要である.小児緑内障の管理には時間と忍耐を要する.小児眼科と緑内障に十分経験のある医師と視能訓練士,保護者のチームワークが必要である.謝辞:小児緑内障診療の手ほどき,ご指導を賜りました,元天理よろづ相談所病院眼科部長永田誠先生に心より御礼を申し上げます.本講演のデータ整理,解析をしていただいた神戸大学眼科緑内障外来担当の中村誠,山田裕子,金森章泰,楠原あづさ,中真衣子,溝上淳二,石川久美子の各先生ならびに兵庫県立こども病院眼科部長野村耕治先生に深く御礼申し上げます.文献1)PapadopoulosM,CableN,RahiJetal:TheBritishinfantileandchildhoodglaucoma(BIG)eyestudy.InvestOphthalmolVisSci48:4100-4106,20072)YeungHH,WaltonDS:Clinicalclassificationofchildhoodglaucomas.ArchOphthalmol128:680-684,20103)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.p11-20,日本緑内障学会,20064)NakamuraM,DarhadU,TatsumiYetal:Agreementofreboundtonometerinmeasuringintraocularpressurewiththreetypesofapplanationtonometers.AmJOphthalmol142:332-334,20065)RadtkeND,CohenBF:Intraocularpressuremeasurementinthenewborn.AmJOphthalmol78:501-504,19746)AusinschB,MunsonES,LevyNS:Intraocularpressureinchildrenwithglaucomaduringhalothaneanesthesia.AnnOphthalmol9:1391-1394,19777)BlumbergD,CongdonN,JampelHetal:Theeffectsofsevofluraneandketamineonintraocularpressureinchildrenduringexaminationunderanesthesia.AmJOphthalmol143:494-499,20078)StamperRL,LiebermanMF,DrakeMV:Developmentalandchildhoodglaucoma.InDiagnosisandtherapyoftheglaucomas.edbyStamperRL,LiebermanMF,DrakeMV,p294-329,MosbyElsevier,20099)KakutaniY,NakamuraM,Nagai-KusuharaAetal:Markedcupreversalpresumablyassociatedwithscleralbiometricsinacaseofadultglaucoma.ArchOphthalmol128:139-141,201010)PortellinhaW,BelfortJrR:Centralandperipheralcornealthicknessinnewborns.ActaOphthalmol69:247-250,199111)EhlersN,SorensenT,BramsenTetal:Centralcornealthicknessinnewbornsandchildren.ActaOphthalmol54:285-290,197612)山本節,西崎雅也:乳幼児における角膜厚と眼圧について.眼臨紀1:349-351,200813)AponteEP,DiehlN,MohneyBG:Incidenceandclinicalcharacteristicsofchildhoodglaucoma.ArchOphthalmol128:478-482,201014)MashimaY,SuzukiY,SergeevYetal:NovelcytochromeP4501B1(CYP1B1)genemutationsinJapanesepatientswithprimarycongenitalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci42:2211-2216,200115)OhtakeY,TaninoT,SuzukiYetal:PhenotypeofcytochromeP4501B1gene(CYP1B1)mutationsinJapanesepatientswithprimarycongenitalglaucoma.BrJOphthalmol87:302-304,200316)BrandtJD,CasusoLA,BudenzDL:Markedincreasedcentralcornealthickness:anunrecognizedfindingincongenitalaniridia.AmJOphthalmol137:348-350,200417)KanamoriA,NakamuraM,MatsuiNetal:Goniosynechialysiswithlensaspirationandposteriorchamberintraocularlensimplantationforglaucomainspherophakia.JCataractRefractSurg30:513-516,200418)EgbertJE,WrightMM,DahlhauserKFetal:Aprospectivestudyofocularhypertensionandglaucomaafterpediatricc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heEye)27(10):1387.1401,2010〕Reprintrequests:AkiraNegi,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgeryRelated,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe-shi650-0017,JAPANSUMMARY