0910-1810/10/\100/頁/JCOPYされるようになっている.英国ではHealthTechnologyAssessment(HTA)がその役割を担っており,その報告書は医療政策や保健行政,施策に影響を与えている.HTAでは,検診がなされるべき疾患の条件として,表1のような項目をあげている.6項目のうち最初の5項目は一般的なことであるが,費用効用分析で有用性が証明されるという最後の項目は意外にむずかしい.このなかで1997年,英国のHTAから衝撃的な報告がなされた2).この報告では弱視スクリーニングの現状と意義,費用対効果を包括的に検討し,「幼児眼健診の意義は確立されておらず,公的費用を用いたスクリーニングの廃止を検討するべきである」と結論づけている.この報告には小児眼科医や医療疫学の研究者から多数の反論がなされているが,HTAは2008年にCarltonらが改訂版の報告を出し,「幼児眼健診の意義にはなお疑問があり,医療経済学的に有用かどうかは不明」としている3).前回の報告よりニュアンスは弱まっているが,なお幼児眼健診の有用性は認められていないのである.はじめに小児の眼疾患として弱視の重要性はよく認識されている.弱視による片眼もしくは両眼の視力不良は,小児の生活機能の発達や学業,就業など日常生活,社会生活のさまざまな側面に影響を及ぼす.弱視は感受性のある時期に発見,治療がなされなければ生涯視力不良のままであるために,高齢者の視覚障害の要因にもなりうる.実際,弱視を片眼に有する者は高齢になって両眼の視力障害に陥る率が正常者の約2倍高いことがいくつかの疫学研究で示されている1).このような背景から,幼児を対象とした弱視スクリーニング(preschoolvisionscreeningと総称される)は世界的にさまざまな国,地域で施行されてきた.日本では,弱視スクリーニングの機会として,3歳児健康診査(以下,3歳児健診)と就学前健康診査があげられる.視覚の発達期を考慮すれば,弱視は就学前でなく3歳児健診の段階で発見したいところである.本稿では,3歳児健診を中心としてわが国の弱視スクリーニングの現状と課題について述べることにする.I弱視スクリーニングの有用性に関する議論眼科医療に携わる者からみれば,幼児を対象とした弱視スクリーニングの意義は自明のように思われる.しかし,医療や公衆衛生に割り当てられる財源に限りがあるのは万国共通であり,近年はがん検診など各種の公的検診,住民健診の意義が臨床疫学的,医療経済学的に評価(3)1635*MasakazuYamada:国立病院機構東京医療センター感覚器センター・視覚研究部〔別刷請求先〕山田昌和:〒152-8902東京都目黒区東ヶ丘2-5-1国立病院機構東京医療センター感覚器センター・視覚研究部特集●弱視斜視診療のトレンドあたらしい眼科27(12):1635.1639,2010弱視スクリーニングのエビデンスScreeningProgramsforAmblyopiainChildren山田昌和*表1英国HealthTechnologyAssessmentが示す検診の基準.対象となる疾患が重要であること.対象疾患の罹患率,有病率がわかっていること.対象疾患の自然予後がわかっていること.簡便,安全,廉価な検診方法があること.対象疾患に有効な治療法が存在すること.費用効用分析など医療経済学的指標で有用性が証明されること1636あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(4)施していない自治体があること,二次健診の内容がほとんどは裸眼での視力検査のみであり,眼科専門職の関与が少ないことなどが現状の問題点として指摘されている.その一方で,現在の方法は特に3歳児健診全体の検査日と同時に行う場合には手間やコストの面で優れているともいえそうである.III弱視の有病率はどのくらいか弱視の有病率についてはこれまでにさまざまな報告があり,0.14%から4.8%とかなりの幅がある3,6~8).これは対象の年齢や検査方法,弱視の診断基準などが異なるためという要因が大きいが,人種によって弱視の有病率が異なることも指摘されている6).日本では住民健診などで直接得られた弱視の有病率に関する疫学研究はない.このため,筆者らは日本の3歳児の弱視の有病率を推計する方法として,日本の3歳児眼健診に関する論文を渉猟し,論文データをメタアナリシスで統合することを試みた.3歳児健診で精密検査(三次健診)が必要とされた割合と三次健診で弱視と診断された割合がわかれば,弱視の有病率を推定できると考えたためである.まず3歳児健診での精密検査必要率に関しては,杉浦の報告を含めて7編の論文データを収集することができた.精密検査必要率は2.5%から5.8%に分布したが,メタアナリシスを行うと4.0%〔95%信頼区間(CI):3.3.4.8%〕となった.三次健診で弱視と診断された割合については13編の論文データを収集することができ,三次健診受診者中の弱視の割合は5.0%から48.3%と広い範囲に分布したが,メタアナリシスでは14.6%(95%CI:9.9.20.9%)となった.両者の値からモンテカルロ法(サンプリング数10,000)で弱視の有病率と95%CIを計算すると0.58%(95%CI:0.35.0.84%)となった.この値はCarltonら3)が3.5歳での弱視の有病率と見積もった値(4.8%)や米国での2.5.6歳を対象としたMulti-EthnicPediatricEyeDiseaseStudy6)の報告(アフリカ系で1.5%,ヒスパニックで2.6%)よりかなり低い.しかし,アジアではシンガポール(中国系)7)で1.19%,韓国8)で0.4II3歳児眼健診の現状3歳児眼科健診は母子保健法の定めるところにより,平成3年から全国的に実施されている.当初は都道府県が実施主体であったが,平成9年から市町村に移管され,地域によって実施方法,実施項目に多様性が生じるようになった.その現状については日本眼科医会(杉浦)や視能訓練士協会(中村ら)の調査報告がある4,5).杉浦の調査は2008年の実施状況について232市町村等に尋ねた抽出調査(回収率88.4%)であり,中村らの調査は3歳児健診を担当している保健センターなど全2,723施設に実施したもの(回収率58.4%)である.実施年と対象が多少異なるが,両者の結果を要約する.3歳児眼科健診の実施率に関しては,杉浦は89.3%,中村らは98.2%と報告している4,5).杉浦の報告では東京23区中4区は実施していないなど政令指定都市を含む大都市圏での実施率が意外に低いことが注目される.3歳児眼科健診の実施方法は,一次健診を家庭で,二次健診を市町村の保健センター,学校,公民館で行い,三次健診(精密検査)を医療機関で行うことが基本になっている.このうち二次健診は視力検査が基本となるが,その実施方法にはかなりの地域差があり,視力検査を行っていない(家庭での視力検査とアンケートの判定のみ行う)場合もかなりみられる.視力検査の施行者は保健師が58.6%,看護師が24.8%と多く,二次健診に眼科専門職が関与している割合は視能訓練士9.4%,眼科医6.4%にとどまっている5).視力検査以外に屈折検査を行っている施設は5.2%,両眼視機能検査は4.0%と少数である.実施時期は,3歳になってすぐと3歳6カ月頃の二峰性の分布を示し,3歳児健診全体の検査日と同時に行うか,眼科健診を別の日に行うかで施行時期が分かれているようで,このことは視力検査可能率に影響してくる.3歳児眼科健診の受診率(一次健診は家庭に視標を送付しているので100%の計算になる)を受診率でみてみると二次健診では60.2%であり,このうち5.0%が精密検査の対象と判定され,医療機関での三次健診にまわるが,三次健診の受診率は66.4%と報告されている4).3歳児眼科健診が導入されて約20年が経過しても実(5)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101637要と判定されれば眼鏡装用と健眼遮閉を行い,その半年後(開始から18カ月後)の視力と両眼視を比較検討している.その結果はいずれの群でも弱視眼の視力と両眼視機能には差がないというものであった.対象が3.5歳児で,無治療の群でもその期間は1年間と限定されているとはいえ,ランダム化比較試験の結果として弱視の早期治療の有用性が否定されたことになり,このことは3歳児眼健診の必要性にも関係してきそうである.エビデンスとしてランダム化比較試験は強力ではあるが,弱視を見つけたのに治療しない群を設定するのは倫理的に問題があると思われ,日本でこのような臨床研究を行うことはむずかしい.しかし,日本では,3歳児眼健診で見逃された弱視が発見される次の機会として就学前健診があり,ここで発見された弱視の治療成績に関する論文が少なくない.そこで,筆者らは日本の治療開始時期による弱視治療の予後に関するデータが取れる論文を集めて,メタアナリシスを行った.弱視治療を3.5歳と6歳以降(就学時健診または就学以降)で始めた群で比較した論文が11あり,弱視の病型別,不同視弱視,屈折弱視,斜視弱視で分けられるものは病型別の解析も行った(視性刺激斜断弱視はデータがなかった).結果を表2に示すが,病型別に分けた場合にはオッズ比自体は早期治療の有用性を示唆するものの,信頼区間が1をまたいでおり,有意な結果ではなかった.しかし,弱視全体をまとめてみると,弱視の治癒率は3.5歳では89.6%,6歳以上では81.0%となり,オッズ比は2.27(95%CI:1.24.4.15)で早期治療の有用性を示す結果となった.就学時(6歳以降)以降に発見したのでは手遅れとなることを示さない限り,3歳児健診による弱視スクリーニングは無意味ということになり,このメタア%という弱視の有病率が報告されており,東アジア人では弱視の有病率が比較的低い可能性が考えられる.ただし,今回の推定は二次健診,三次健診が正確に行われたことを前提にしており,二次健診での眼科専門職の関与が少ない現状を考慮すると,三次健診(医療機関での精密検査)はともかくとして二次健診での見逃しが多い可能性も否定できない.筆者らが推定した3歳児の弱視の有病率0.58%が妥当とすると,3歳児はわが国に約121万人なので,約7,000例の弱視患児が存在することになる.杉浦4)の3歳児眼健診実態調査は,232市町村等の抽出調査であり,対象児は245,370名で全国の3歳児の約20%に相当する.この調査で発見された弱視患児数は603例とされているので,単純計算すると1年に全国で発見されている弱視患児数は3,000例程度となる.したがって,筆者らが見積もった弱視の有病率を基にした場合でも,現行の3歳児眼健診では半分以上の弱視患児が発見されていないことが推測される.IV3歳で弱視を発見すると治りやすいのだろうか弱視は一般に放置された場合には自然治癒がなく,早期に発見,治療されればされるほど,その治療成績が良好と考えられている.しかし,弱視の早期治療の有用性を示すエビデンスは意外に少ない9).弱視の早期治療の有用性に関するランダム化比較試験としてはClarkeらの報告10)が唯一と思われる.この研究では3.5歳で発見された片眼弱視症例を,1年間は無治療の群,眼鏡を装用させる群,眼鏡装用に健眼遮閉を併用する群の3群に無作為に分けている.最初の2つの群では1年後に必表2弱視治療の開始時期と治癒率治療開始時期3~5歳治癒率(%)6歳以降治癒率(%)オッズ比弱視の病型不同視弱視90.1(75.0~96.5)82.4(65.5~92.0)1.71(0.73~4.00)屈折弱視94.5(66.3~99.3)91.8(68.6~98.3)1.79(0.60~5.30)斜視弱視32.3(18.3~50.4)26.0(5.1~69.8)3.55(0.64~19.8)弱視全体89.6(72.8~96.5)78.2(61.2~89.1)2.60(1.16~5.83)〔日本の11の文献を基にメタアナリシスを行った結果を示す.()は95%信頼区間.〕1638あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(6)と,方法には検討の余地があるが視力や屈折検査など簡便,安全,廉価なスクリーニング方法があることを示してきた.Carltonら3)のHTA報告では欧米の文献資料を基にした詳細な検討がなされているが,この報告でもおおむね同様の内容が報告されている.表2からもわかるように,両眼の弱視をきたす屈折弱視の予後は良いので,実際に多いのは不同視弱視を中心とした片眼の視力不良ということになる.問題となるのは弱視による片眼視力不良の疾病負担をどう評価するかという点である.疾病負担を表す指標としてよく用いられるものに効用値がある14~16).効用値は単一の数字で,1を完全な健康,0を死亡として,さまざまな健康状態は0から1の間の値をとる.これまでにさまざまな健康状態の効用値が多数報告されている14,16).眼科領域では,一般に効用値は良いほうの眼の視力とよく相関するとされており,良いほうの眼の視力が0.5の視覚障害で0.77,視力0.1で0.66,指数弁で0.52という値が報告されている15).その一方では片眼だけの視力障害では効用値の低下は少なく,効用値低下分は0.08程度とされている15).効用値を使うとQALY(quality-adjustedlifeyear)や$/QALYが計算できる14~16).QALYは,生存年数(余命)を効用値に応じて積分したものであり,医療介入の効果を評価する単位となる.$/QALYは医療介入の費用を獲得できるQALYで割ったもので,医療介入の費用対効用を評価する単位である.QALYや$/QALYを用いると,寿命を延長する治療と寿命は延長しないがQOL(qualityoflife)を上げる治療(眼科医療のほとんどはこちらに該当する)が同じ指標で評価できるので,健診や医療技術の評価,薬剤の認可などヘルスケア分野で幅広く用いられるようになっている.弱視治療の費用効用分析としては,Membrenoら17)とKonigら18)の報告がある.これらの報告では弱視を治療できた場合の効用値増加分を0.03あるいは0.04と控えめに見積もっている.疾病で片眼の視力を失った場合と異なり,弱視は進行しない,健眼が弱視になる恐れがないなどが理由である.Membrenoら17)は弱視治療で獲得できるQALYを0.80,$/QALYを2,281と報告し,Konigら18)は獲得QALYを0.88,./QALYをナリシスの結果は重要と考えられる.V弱視のスクリーニング方法について前述したようにスクリーニング方法は,簡便,安全,廉価であることが要求される.3歳児眼健診では二次健診のステップが問題であり,どの程度の検査を行うか議論が多い部分である.検査の数を増やせばスクリーニングとしての正確度が増すが,費用や手間がかかり医療資源の消費が大きくなる.スクリーニングのカットオフ値の設定も重要であり,カットオフ値を低く設定すると三次健診のコストが上昇し,高く設定すると見逃しが多くなってしまう.筆者らは以前に,三次健診で慶應義塾大学病院眼科を受診した3歳児を対象として現行の二次健診の精度を検討したことがある11).二次健診の検査後オッズは0.74,検査後確率は42.6%となり,この結果は二次健診で要精検とされたうち半数以上は受診不要であったということを示す.もし二次健診に何か1つ検査を加えたらどのくらい精度が向上するかを検討してみると,矯正視力検査,屈折検査,眼位検査,両眼視機能検査のうちでは屈折検査が最も有用性が高く,この場合には二次健診の検査後オッズは1.21,検査後確率54.8%となった.現行の二次健診(基本的に裸眼の視力検査)に何か加えるとしたら屈折検査ということになる.幼児の眼健診で屈折検査を行うことの有用性は以前から指摘されており,フォトレフラクション法によるスクリーニングプログラムの報告は少なくない12,13).フォトレフラクション法は眼科専門職が施行する必要がなく,屈折異常に加えて眼位異常も発見できることがメリットとされている.残念ながら日本の3歳児眼健診では二次健診で屈折検査を行っているのは全体の5.2%にすぎないと報告されており,手持ちのオートレフラクトメータやフォトレフラクション法はごく少数の地域でしか導入されていないのが現状である5).VI弱視による片眼視力不良の疾病負担ここまでの稿では,弱視の有病率が決して低くなく,弱視は放置されればおそらく生涯視力不良のままであること,屈折矯正や健眼遮閉などの有効な治療法があるこ(7)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101639pia:theRotterdamstudy.BrJOphthalmol91:1450-1451,20072)SnowdonSK,Stewart-BrownSL:Preschoolvisionscreening.HealthTechnolAssess1(8):1-83,19973)CarltonJ,KarnonJ,Czoski-MurrayCetal:Theclinicaleffectivenessandcost-effectivenessofscreeningprogrammesforamblyopiaandstrabismusinchildrenuptotheageof4-5years:asystematicreviewandeconomicevaluation.HealthTechnolAssess12(25):1-194,20084)杉浦寅男:三歳児眼科健康診査調査報告(IV)平成20年度.日本の眼科81:311-313,20105)中村桂子,丹治弘子,恒川幹子ほか:三歳児眼科検診の現状.日本視能訓練士協会によるアンケート調査結果.眼臨101:85-90,20076)Multi-ethnicPediatricEyeDiseaseStudyGroup:PrevalenceofamblyopiaandstrabismusinAfricanAmericanandHispanicchildrenaged6to72months.Ophthalmology115:1229-1236,20087)ChiaA,DiraniM,ChanY-Hetal:PrevalenceofamblyopiaandstrabismusinyoungSingaporeanChinesechildren.InvestOphthalmolVisSci51:3411-3417,20108)LimHT,YuYS,ParkSHetal:TheSeoulmetropolitanpreschoolvisionscreeningprogramme:resultsfromSouthKorea.BrJOphthalmol88:929-933,20049)SchmuckerC,KleijnenJ,GrosselfingerRetal:Effectivenessofearlyincomparisontolate(r)treatmentinchildrenwithamblyopiaoritsriskfactors:Asystematicreview.OphthalmicEpidemiol17:7-17,201010)ClarkeMP,WrightCM,HrisosSetal:Randomisedcontrolledtrialoftreatmentofunilateralvisualimpairmentdetectedatpreschoolvisionscreening.BMJ327:1251,200311)室井知美,山田昌和,山口春香ほか:Evidence-basedmedicineに基づいた3歳児眼科健診の評価.眼臨98:955-958,200412)RowattAJ,DonahueSP,CrosbyCetal:FieldevaluationoftheWelchAllynSureSightvisionscreener:incorporatingthevisioninpreschoolersstudyrecommendations.JAAPOS11:213-214,200713)LongmuirSQ,PfeiferW,LeonAetal:Nine-yearresultsofvo;unteerlaynetworkphotoscreeningprogramof147809childrenusingaphotoscreenerinIowa.Ophthalmology117:1869-1875,201014)BrownGC,BrownMM,SharmaS:Value-basedmedicine:evidence-basedmedicineandbeyond.OculImmunolInflamm11:157-170,200315)BrownGC:Visionandqualityoflife.TransAmOphthalmolSoc97:473-511,199716)山田昌和:眼科領域のValue-BasedMedicineと効用分析.眼科52:1683-1688,201017)MembrenoJH,BrownMM,BrownGCetal:Acost-utilityanalysisoftherapyforamblyopia.Ophthalmology109:2265-2271,200218)KonigHH,BarryJC:Costeffectivenessoftreatmentforamblyopia:ananalysisbasedonaprobabilisticMarkovmodel.BrJOphthalmol88:606-612,20042,369としている.一般に効用分析で50,000$/QALY以内なら合格点とされており,弱視治療の費用対効用は他の眼科医療と比べても非常に高いことが示唆される16).一方,Carltonら3)は弱視スクリーニングの効用分析を行っているが,この分析では片眼視力不良の効用値低下を認めず,片眼の弱視患者が成人になって健眼が他疾患に冒され,両眼の視力障害になった場合の効用(スペアアイとしての効用)だけを評価している.このためCarltonら3)の分析での./QALYは高い値となり,「幼児眼健診の意義にはなお疑問があり,有用かどうかは不明」と結論されている.片眼の視力不良は両眼視機能や視野の面でも不利となるので,疾病負担にならないはずはないのだが,幼児に効用値を評価させることは非常に困難であり,根拠となるエビデンスを示すことがむずかしい.何らかの方法で弱視による片眼視力不良の疾病負担を示すことが今後の課題といえそうである.おわりに弱視スクリーニングについて,わが国の3歳児眼健診の現状と課題を中心に述べた.日本の現状の健診システムには二次健診の受診率と実施方法,二次健診での見逃し,精密検査の受診率などさまざまな問題があるが,年間3,000例程度の弱視を発見,治療していると推定され,それなりの成果をあげていることが確認された.また,わが国の弱視の治療成績は欧米と比較して良好と思われ,日本の眼科医療の水準が高いことを示すものと考えられる.一方で,医療費やヘルスケアの財源が限られているのも事実であり,日本でもがん検診などでその有用性が医療経済学的に議論されるようになってきている.3歳児眼健診も将来的に「仕分け」の俎上に乗せられる可能性もあり,3歳児眼健診の意義,有用性を示す理論的根拠を構築していくことも重要と思われる.(本文中,検診と健診が交じっているが,原文や本文中の意味合いで使い分けを行った.)文献1)vanLeeuwenR,EijkemansMJ,VingerlingJRetal:Riskofbilateralvisualimpairmentinindividualswithamblyo