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急性原発閉塞隅角症の僚眼に対する異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(109)861《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):861.864,2011c急性原発閉塞隅角症の僚眼に対する異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化西野和明吉田富士子新田朱里齋藤三恵子齋藤一宇医療法人社団ひとみ会回明堂眼科・歯科ComparisonofCornealEndothelialCellDensityafterDifferentTherapiesfortheFellowEyesinCasesofUnilateralAcutePrimaryAngle-ClosureKazuakiNishino,FujikoYoshida,AkariNitta,MiekoSaitoandKazuuchiSaitoKaimeidohOphthalmic&DentalClinic目的:急性原発閉塞隅角症(あるいは緑内障)=APAC(G)の僚眼に対しては発作を予防する目的でレーザー虹彩切開術(LI)や超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)などが行われるが,それらの異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化を比較検討した.対象および方法:対象は過去23年間に回明堂眼科・歯科を受診し,片眼がAPAC(G)と診断された症例の僚眼で原発閉塞隅角症(疑いや緑内障も含む)と診断された53眼,男性6眼,女性47眼.発症時の平均年齢は69.4±8.3歳,APAC(G)発症からの平均観察期間は85.1±68.9カ月.症例を3群に分類,LIのみを施行したLI群(24眼),PEA+IOLのみを施行したPEA群(9眼),LIを最初に施行し後日PEA+IOLを行ったLI-PEA群(20眼).計画的.外摘出術,周辺虹彩切除術など各種緑内障手術を施行した症例を除外した.それぞれの群で術前と術直後,術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度を比較検討.LIとPEAに要したエネルギー量も比較検討した.結果:角膜内皮細胞密度の術前術後の変化で有意差が認められたのは,LI-PEA群の術前と最終観察日の比較のみで(p<0.005),2,615.1±585.2cells/mm2から1,955.6±526.5cells/mm2へと減少した.LIに要したエネルギーは有意差はないが,LI-PEA群がLI群より多く(p=0.083),PEAに要したエネルギーもLI-PEA群がPEA群より多かった(p<0.05).結論:APAC(G)の僚眼に対する治療としてLI-PEAが選択された場合,角膜内皮細胞密度はかなり減少した.これはLI-PEA群でLIやPEAに要したエネルギー量が他群より多かったためと考えられる.LIに多くのエネルギーを使用した症例でその後にPEA+IOLが行われる場合,角膜内皮細胞の減少に注意する必要がある.Purpose:Toretrospectivelydeterminethelong-termoutcomeofcornealendothelialcelldensityafterdifferenttherapiesforthefelloweyesincasesofunilateralacuteprimaryangle-closure(APAC).Methods:Subjectscomprised53individualswhowereexaminedatKaimeidohOphthalmic&DentalClinicduringthepast23years,atameantimepointof85.1±68.9monthsafteraunilateralepisodeofAPAC.Subjectswereclassifiedinto3groups:thelaseriridotomy-onlygroup(LI;24eyes),thephacoemulsification,aspirationandintraocularlensimplantationgroup(PEA+IOL;9eyes)andthePEAafterLIgroup(LI-PEA;20eyes).Cornealendothelialcelldensitywascomparedineachgroupbetweenpreoperative,postoperativewithinonemonth,andfinalobservationday.LIandPEAenergywerealsocompared.Results:SignificantdecreaseincornealendothelialcelldensitywasfoundonlybetweenpreoperativeandfinalobservationdayinLI-PEAgroup(p<0.005),from2,615.1±585.2cells/mm2to1,955.6±526.5cells/mm2.NodifferenceinLIenergywasfoundbetweenLIgroupandLI-PEAgroup,buttotalamountofPEAenergywashigherinLI-PEAgroupthaninPEA+IOLgroup(p<0.05).Conclusions:CornealendothelialcelldensitydecreasedafterLI-PEAbecausehigherenergywasusedinbothLIandPEA.IfhighenergyLIisusedasthefirsttreatment,subsequentPEA+IOLmustbedonecarefullytoprotectcornealendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):861.864,2011〕〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN862あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(110)はじめに急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure)あるいは急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangle-closureglaucoma)(以下,両者合わせて急性発作)の僚眼は,急性発作眼と同等な眼球構造を有するため急性発作が起こる可能性が高く,予防的な処置の必要性あるいは有効性が報告されている1,2).また国内においても日本緑内障学会の診療ガイドラインで予防的なレーザー虹彩切開(laseriridotomy:LI)あるいは周辺虹彩切除(peripheraliridectomy:PI)は絶対的な適応とされている3).しかしながら超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsification,aspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)が急性発作眼の僚眼のみならず原発閉塞隅角症疑(primaryangle-closuresuspect:PACS),原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)などに対してLIより安全でかつ有効であるとの十分なエビデンスは得られていない4~6).そこで今回筆者らは急性発作眼の僚眼に対するLIとPEA+IOLの中長期の安全性を確認する目的で,術前術後の角膜内皮細胞密度を後ろ向きに比較検討したので報告する.I対象および方法1987年から2010年までの間,回明堂眼科・歯科を受診し,急性発作と診断された症例の僚眼でかつ,PACS,PACあるいはPACGと診断された眼球(以下,非発作眼)53眼,男性6眼,女性47眼.これら非発作眼は急性発作眼と比較し,屈折値,眼軸長,中心前房深度,水晶体厚のいずれも統計的な有意差を認めなかった7).急性発作発症時の平均年齢は69.4±8.3歳,急性発作発症からの平均観察期間は85.1±68.9カ月.非発作眼をつぎのように3群に分類した.LIのみを施行したLI群(24眼),PEA+IOLのみを施行したPEA群(9眼),最初にLIを施行し後日PEA+IOLを施行したLI-PEA群(20眼).治療方法の選択は厳密ではないものの,2007年以前は第一選択としてLIを優先し,それ以降はPEA+IOLの選択が増加した.LI-PEA群において白内障手術の適応とした基準は,視力障害のほか眼圧の安定化などを目的とした総合的な判断による.各群の治療から角膜内皮細胞密度の最終観察日までの期間はLI群で68.6±51.2カ月,PEA群は12.6±5.5カ月,LI-PEA群は61.1±38.2カ月.ただし,LI-PEA群の期間はPEA+IOL施行後から最終観察日までとし,LI施行後からPEA+IOL施行までの平均期間は43.3±45.8カ月であった.このように経過観察期間が各群で異なることから,その治療の時期を,LI群はLI期,PEA群はPEA期,LI-PEA群はLI-PEA期と定義した.PEA群の1眼,LI-PEA群のLIの5眼を除く,LIおよびPEA+IOLを同一術者(K.N.)が行った.LI-PEA群のなかで,5例はLI施行時にNd:YAGレーザーを使用していない.2000年以降は角膜内皮細胞保護を目的として,分散型粘弾性物質のヒアルロン酸ナトリウム/コンドロイチン硫酸エステルナトリウム(ビスコートR)を使用している(27眼/PEA+IOL,総数29眼).超音波白内障手術の使用装置は2006年11月からInfinitiRvisionsystem(Alcon)を使用しているが,それ以前は1991年8月から1995年10月まで10000MasterR(Alcon),その後2006年11月までは20000LegacyR(Alcon)を使用していた.計画的.外摘出術,周辺虹彩切除術を含む各種緑内障手術を施行した症例を除外した.それぞれの群でまず術前と術直後(術後約1カ月以内),ついで術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度を比較検討(対応のあるt検定),その後各群の最終観察日の角膜内皮細胞密度をそれぞれの群間で比較した(Welchのt検定).ただしLI-PEA群の術前とはLI施行前のことである.角膜内皮細胞密度の測定機種はスペキュラーマイクロスコープ(SP-1000TOPCON,SP2000PTOPCON,SP-3000PTOPCON)で,それぞれを発売順に使用した.LIの合計エネルギー(J)をアルゴンレーザーの出力(W)×照射時間(S)×回数(第1,第2段階のそれぞれの合計)+追加Nd:YAGレーザー(J)として計算し,白内障手術時における超音波の累積使用エネルギー(cumulativedissipatedenergy:CDE)を平均超音波パワー(%)×使用時間(S)として計算した.そのうえで,LI群とLI-PEA群のLIに要したエネルギー量を比較,ついでPEA群とLIPEA群のPEAに要したエネルギー量を比較検討した(Welchのt検定).いずれの統計的な検定もp<0.05を有意差ありとした.II結果それぞれの治療前のベースラインとなる角膜内皮細胞密度には統計的な有意差を認めず各群はほぼ同等な状態であった.まず術前,術直後の比較においては,いずれの群も統計的な有意差は認めないが,LI-PEA群では約350cells/mm2と一番減少している(p=0.07)(図1).つぎに術前,最終観察日の比較においては,LI-PEA群で2,615.1±585.2cells/〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):000.000,2011〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,僚眼,レーザー虹彩切開術,超音波白内障手術,角膜内皮細胞密度.acuteprimaryangle-closure,felloweye,laseriridotomy,phacoemulsificationaspirationandintraocularlensimplantation,cornealendothelialcelldensity.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011863mm2から1,955.6±526.5cells/mm2へと有意に減少した(p<0.005).その他の群では有意差は認められなかった(図2).それぞれの群の最終観察日で比較すると,LI群とPEA群では差はないが,LI-PEA群はPEA群に比べると角膜内皮細胞密度は少なく(p<0.01),LI群に比べるとかなり少ない(p<0.0001).LIに要したエネルギーはLI群とLI-PEA群の群間で統計的な有意差はない(p=0.083)が,LI-PEA群ではLI群の約2倍のエネルギーが使用されている(図3).PEAに要したエネルギーはPEA群よりLI-PEA群が多かった(p<0.05)(図4).すべての群で術後から最終観察日までの間,急性発作を発症した症例はなく急性発作を予防するという意味ではいずれの群でも目的は達成されている.III考按急性発作眼に対する治療としては,従来LIあるいはPIが行われていた8).しかし近年の白内障手術の技術的な進歩や急性発作のメカニズムをまとめて解決する目的あるいはLI後の重篤な合併症である水疱性角膜症を防ぐ目的から,PEA+IOLを初回治療として選択し良好な結果が得られているとの報告が相次ぐようになってきた9~11).筆者らも現在追試中である12).しかしながら急性発作眼が治療前に受けた障害の程度はさまざまである.つまり自覚症状が軽症の充血,霧視から重症の眼痛,頭痛,吐気までさまざまであること,急性発作が発症してから来院するまでの日数にばらつきがあること,引き金となった要因が単一でないこと,プラトー虹彩形状の有無など虹彩根部の状況や周辺虹彩前癒着の程度がさまざまであること,さらには点眼薬,内服,点滴などによる効果も一様ではないことなど障害の程度は千差万別である.したがって治療方法を単純にLIあるいはPIだけと決められず,段階的あるいは同時に白内障手術(PEA+IOL,計画的.外摘出術)あるいは緑内障手術(隅角癒着解離術,線維柱帯切除術)を選択することも念頭に置かなければならない.このように障害の程度が異なる急性発作眼に対しては,仮に同一の治療方法であってもその有効性や安全性を比較することはむずかしい.一方,急性発作眼の僚眼は急性発作眼のように大きな障害は受けていないため,異なる治療方法を選択した場合,その有効性や安全性を相対的に比較検討しやすい状況にあると考えられる.今回の検討で非発作眼に対する治療としてLI-PEA群が選択された場合,白内障手術直後に角膜内皮細胞密度はかなり減少し,それは5年以上の経過を経てさらに有意に減少した.この理由は,術者のLI-PEA期とLI期におけるLI施行方法が若干異なっていたためと考えられる.LIの使用エネルギー量はLI-PEA群とLI群で比較し統計的な有意差はみられないものの,LI-PEA群では約2倍のエ3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LI群PEA群LI-PEA群角膜内皮細胞密度(cells/mm2)■:術前■:術直後NSNSNS対応のあるt検定2,7072,7382,7052,5542,6152,258図1各群の術前と術直後の角膜内皮細胞密度の比較各群の術前,術後で統計的な有意差はみられない.LI-PEA群のLIとPEAまでの間隔は43.3±45.8カ月.3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LI群PEA群LI-PEA群角膜内皮細胞密度(cells/mm2)■:術前■:最終NSNSp<0.005対応のあるt検定2,7072,6972,7052,5372,6151,944図2各群の術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度の比較LI-PEA群のみに著明な減少がみられた.PEA群累積使用エネルギー(CDE)LI-PEA群p<0.054035302520151050図4PEAに要したエネルギーの比較:PEA群とLI.PEA群(Welchのt検定)LI群使用エネルギー(J)LI-PEA群NS(p=0.083)43.532.521.510.50図3LIに要したエネルギーの比較:LI群とLI.PEA群(Welchのt検定)864あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(112)ネルギーが使用されている.これはLI-PEA期には術者の20年くらい前の症例や術者以外がLIを実施した症例が含まれていることと関係している.LI-PEA期における術者の標準的なLIは,第2段階で使用した照射条件の1,000mW,0.05秒を穿孔した後もしばらく続け,虹彩に200μm程度の穴が開いたことを確認した後Nd:YAGレーザーに切り替えるという方法であった.さらにLI-PEA群のなかには術者以外がLIを実施したものも含まれ,その際にはNd:YAGレーザーが併用されず,より多くのエネルギー量が使用された.その後LI期になると第2段階で使用した前述と同じ照射条件をgun-smokeが認められたのち,ただちにNd:YAGレーザーに切り替えるようにしたため少ないエネルギー量で済むようになった.これらのことからLI-PEA群では相対的に多くのエネルギーを要したLIにより虹彩後癒着の合併,白内障の進行,Zinn小帯への侵襲などがあったと考えられる.したがってLI-PEA群ではPEA群に比べ白内障手術の手術手技が複雑化し,より多くのエネルギーが必要になり,相対的に多くの侵襲を受け,角膜内皮細胞密度が減少したと推定される.各群の経過観察期間にはばらつきがある.とりわけPEA群の術後の経過観察期間は他の群に比べ短く,すべての群を同等に比較することはできない.ただPEA群の角膜内皮細胞密度の減少幅が年率約20cells/mm2と少ないことから,もしこれが直線的に減少すると仮定すれば,5年でわずか約100cells/mm2の減少となり,LI-PEA群ほどの減少はみられないと推定される.このことを検証する意味でもPEA群の症例数をさらに加えるとともに長期の経過観察期間が必要になる.さらに今後はLI群のなかで白内障手術を施行しLI-PEA群に移行する症例も増加することが予想されるため,より長期で多数例の比較検討が可能となる.本研究は単一施設の少数例での検討であり,しかも研究デザインが後ろ向きであるためエビデンスレベルが高いとはいえない.さらに検討期間が23年と長期に及んだためスペキュラーマイクロスコープ,手術装置,粘弾性物質などが数回変更されたほか,症例の大半に対して同一術者が治療を担当したため,施行方法の変更や改善があり同一技量の手術であったともいえない.しかしながら今回の研究から少なくともLI後の白内障手術,とりわけLIに多くのエネルギーを要した症例では白内障手術時の侵襲が大きくなると考えられ,角膜内皮細胞密度の減少に注意する必要がある.以上のことから非発作眼の急性発作を予防する有効な治療方法で,かつ中長期的に角膜内皮細胞を保護するためには,屈折値や白内障の程度,隅角の状態などにもよるが,非発作眼に対しては最初からPEA+IOLを選択するほうが望ましい症例もあると考えられる.さらに最終的には非発作眼のみならず急性発作に対する治療方針を決定するうえでも,今回の検討結果が参考になるかどうか,今後さらに症例を重ね検討していく予定である.さらに将来的には,よりエビデンスレベルの高い結果を得るために複数多施設による前向きで無作為なデザインによる研究が必要と考えた.文献1)LoweRF:Acuteangle-closureglaucoma.Thesecondeye:ananalysisof200cases.BrJOphthalmol46:641-650,19622)SawSM,GazzardG,FriedmanGS:Interventionsforangle-closureglaucoma.Anevidence-basedupdate.Ophthalmology110:1869-1879,20033)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20064)野中淳之:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,20075)大鳥安正:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?あたらしい眼科24:1015-1020,20076)山本哲也:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,20077)西野和明,吉田富士子,新田朱里ほか:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の両眼同時発症例と片眼発症例の比較.臨眼64:1615-1618,20108)AngLP,AungT,ChewPT:AcuteprimaryangleclosureinanAsianpopulation:long-termoutcomeofthefelloweyeafterprophylacticlaserperipheraliridotomy.Ophthalmology107:2092-2096,20009)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,200210)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangleclosureglaucoma.AmJOphthalmol135:534-536,200311)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsificationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,200812)西野和明,吉田富士子,齋藤三恵子ほか:超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障.あたらしい眼科26:689-694,2009***

点眼薬含有添加剤ベンザルコニウム塩化物およびポリソルベート80 点眼時におけるOLETF ラット角膜傷害治癒の速度論的解析

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)855《第30回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科28(6):855.859,2011c〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN点眼薬含有添加剤ベンザルコニウム塩化物およびポリソルベート80点眼時におけるOLETFラット角膜傷害治癒の速度論的解析長井紀章*1村尾卓俊*1伊藤吉將*1,2岡本紀夫*3下村嘉一*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3近畿大学医学部眼科学教室KineticAnalysisofCornealWoundHealinginOtsukaLong-EvansTokushimaFattyRatInstilledwithBenzalkoniumChlorideandPolysorbate80NoriakiNagai1),TakatoshiMurao1),YoshimasaIto1,2),NorioOkamoto3)andYoshikazuShimomura3)1)FacultyofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine本研究は2型糖尿病モデル動物OtsukaLong-EvansTokushimaFatty(OLETF)ラットを用い,点眼薬中に含まれるベンザルコニウム塩化物(BAC)およびポリソルベート80が角膜傷害治癒速度へ与える影響を一次速度の2指数式を用いて速度論的解析を行った.角膜上皮傷害は麻酔下にて,ブレード(BDMicro-SharpTM)を用い角膜上皮を.離することで作製し,添加剤点眼は角膜.離後1日5回行った.生理食塩水点眼群においてOLETFラットでは正常ラットと比較し第一相目(a相:細胞移動)および第二相目(b相:細胞増殖)の両方で角膜傷害治癒遅延が認められた.BACおよびポリソルベート80点眼OLETFラットの角膜傷害治癒速度は,同添加剤点眼群の正常ラットよりもさらに低値を示し,BAC点眼群ではa相およびb相の治癒速度がともに低下し,ポリソルベート80点眼群ではb相の治癒速度の低下が認められた.本報告は,角膜上皮傷害を有する糖尿病患者への安全な点眼薬療法を行うための指針として有用であると考えられる.Inthisstudy,wekineticallyanalyzedcornealwoundhealinginOtsukaLong-EvansTokushimaFatty(OLETF)rats,amodeloftype2diabetesmellitus,instilledwith0.02%benzalkoniumchloride(BAC)and1%polysorbate80usingfirst-orderrateformula.RatcornealepitheliumwasremovedwithaBDMicro-SharpTM,andtheeyedropswereinstilledintorateyes5timesperdayaftercornealepithelialabrasion.Theprocessofcornealwoundhealingwasobservedinthefirstandsecondphase(cellmovementandcellproliferation,respectively);thefirstandsecondphase(aandb)cornealwound-healingrateconstantsinOLETFratsinstilledwithsalinewerelowerthaninnormalrats.IntheOLETFratinstilledwithBACandpolysorbate80,thecornealwound-healingratewasslowerthaninthenormalratinstilledwithBACandpolysorbate80.Inaddition,bothaandbweresignificantlydecreasedinratsinstilledwithBAC;theinstillationofpolysorbate80tendedtodecreasebinbothnormalandOLETFrats.Thesefindingsprovidesignificantinformationforuseindesigningfurtherstudiesaimedateffectivetherapyfordiabeticpatientswithcornealdamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):855.859,2011〕Keywords:角膜傷害治癒,速度論的解析,ベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,OLETFラット.cornealwoundhealing,kineticanalysis,benzalkoniumchloride,polysorbate80,OtsukaLong-EvansTokushimaFattyrat.856あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(104)はじめに薬剤性角膜症は点眼薬による角膜傷害である.この薬剤性角膜症は,点眼薬中の主薬によるものだけでなく点眼薬中に含まれる添加剤〔保存剤(ベンザルコニウム塩化物(BAC)など〕,等張化剤(塩化ナトリウム,ホウ酸,グリセリンなど),緩衝剤(リン酸緩衝液,ホウ酸など),また必要であれば,界面活性剤(ポリソルベート80など),安定化剤(エチレンジアミン四酢酸など),粘稠化剤〔ポリビニルアルコール(PVA),ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースなど)など〕も深く関わっていることが,近年の基礎研究にて明らかとされている1).一方,これら薬剤性角膜症の基礎研究には正常ラットが用いられており,角膜が健常人に比べて脆弱な患者(たとえば糖尿病患者)を対象とした研究はほとんど報告されていない.臨床の場では,角膜が健常人に比べて脆弱な糖尿病患者に対しても眼科領域における薬物療法の中心は点眼薬であり,このことから,糖尿病患者を対象とした点眼薬中に含まれる添加剤の影響を基礎研究にて明らかとすることは非常に重要であると考えられる.糖尿病は,1型と2型に分類され,わが国における糖尿病患者の多くはこの2型糖尿病である.1型糖尿病はインスリンを分泌する膵臓のb細胞破壊により生じる疾患であり,2型糖尿病は,膵臓b細胞の機能減少とインスリン抵抗性を原因とする疾患である.糖尿病の眼における合併症としては糖尿病性角膜疾患が知られており,糖尿病患者の50%またはそれ以上の人に認められる2).糖尿病性角膜症は,糖尿病患者の角膜上皮の傷害治癒の遅延,角膜上皮の脆弱性,バリア機能低下などをひき起こし,臨床的に硝子体の外科手術や網膜の光凝固術中における角膜上皮の傷害や上皮傷害を持続し視力を脅かす疾患として問題視されている3).このような糖尿病患者に対する点眼薬含有添加剤の影響を検討するにあたり,適切なモデル動物および解析法の選択は非常に重要である.OtsukaLong-EvansTokushimaFatty(OLETF)ラットはヒト2型糖尿病のモデルとして知られており,このOLETFの糖尿病発症率は25週齢の雄ラットでほぼ100%である4).高血糖やインスリン抵抗性を介した高インスリン血症は早い段階で生じ,加齢に伴いb細胞の衰退と低インスリン血症をひき起こす4).これらOLETFの生物学的性質の変化は,ヒト2型糖尿病と一致しており,筆者らもこれまで,OLETFラットが糖尿病性角膜変性症の正確なメカニズムを解明する研究に有用なモデルとなりうることを報告してきた4).さらに筆者らは,このOLETFラットと一次速度式を用いた速度論的解析により,経時的な上皮細胞の伸展・移動とその後の上皮基底膜の細胞増殖が観察可能であることを報告した5).本研究では,主たる点眼薬含有添加剤として,高い角膜傷害治癒遅延をひき起こす0.02%BACおよび点眼薬の組成として汎用されている界面活性剤1%ポリソルベート806)を選択し,Long-EvansTokushimaOtsuka(LETO,正常ラット)ラットおよび2型糖尿病モデル動物OLETFラットの角膜傷害治癒へ与える影響について速度論的解析を行った.I対象および方法1.実験動物実験には大塚製薬株式会社徳島研究所から供与された60週齢雄性LETOラット(正常ラット)およびOLETFラットを用いた.これらラットは25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.動物実験は,近畿大学実験動物規定に従い行った.2.試薬BACおよびポリソルベート80は和光純薬,生検トレパンはカイインダストリーズ,ブレード(BDMicro-SharpTM,Blade3.5mm,30°)はBectonDickinson,0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(ベノキシールR点眼液)は参天製薬,フルオレセイン液(フルオレサイトR静注500mg)は日本アルコンから購入したものを用いた.3.BACおよびポリソルベート80点眼液の調製と点眼法0.02%BACおよび1%ポリソルベート80点眼液の濃度は眼科領域で適用例のある濃度を参照し,そのなかでも高濃度のものを用いた.すべての点眼液は0.2μmのメンブランフィルター(Sartorius社)を用いて滅菌濾過を行い,調製した点眼液は滅菌済みの点眼用容器に充.し,使用時まで遮光,冷所(4℃)にて保存した.実験時にはこの点眼溶液を,角膜.離直後から3時間間隔(9:00,12:00,15:00,18:00,21:00)で1日5回,実験終了まで点眼(1回40μl)した.対照(control)には生理食塩液(大塚製薬)を用いた.4.ラット血中グルコース,トリグリセリド,コレステロールおよびインスリン値の測定血中グルコース(Glu)およびトリグリセリド(TG)はロシュ社製AccutrendGCTにより測定し,コレステロール(Cho),インスリン測定には和光社製CholesterolE-Testキットおよび森永生科学研究所製ELISAInsulinキットをそれぞれ用いた.5.ラット角膜上皮.離モデルを用いた角膜傷害治癒解析ラットをペントバルビタールナトリウム(30mg/kg,ソムノペンチルR,共立製薬)にて全身麻酔後,生検トレパンおよびブレードを用い角膜上皮を円形に.離した〔生理食塩水点眼正常ラット,11.49±0.51mm2;BAC点眼正常ラット,11.50±0.93mm2;ポリソルベート80点眼正常ラット,11.01±0.59mm2;生理食塩水点眼OLETFラット,11.71±1.40mm2;BAC点眼OLETFラット,10.81±0.23mm2;ポ(105)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011857リソルベート80点眼OLETFラット,10.96±0.95mm2(mean±SE,n=3.5)〕.角膜上皮欠損部分は角膜.離後0,12,24,36,48,60,72時間後に,1%フルオレセイン含有0.4%ベノキシール点眼液にて染色し,トプコン社製眼底カメラ装置TRC-50Xにデジタルカメラを装着したものを用いて撮影を行い4),画像解析ソフトImageJにて角膜上皮欠損部分の面積の推移を数値化することで表した.角膜傷害度(%)は,角膜上皮.離直後の創傷面積の比として表し,角膜傷害治癒速度は一次速度の2指数式(1)にて算出した角膜治癒速度定数(aおよびb,hr.1)として表した5).aおよびbはそれぞれ第一相と第二相における角膜傷害治癒速度定数を示す.Wt=A・e.a・t+B・e.b・t(1)ここで,tは角膜.離後0~72時間の時間,Wtはt時間における角膜傷害度(%),AおよびBはそれぞれ第一相,第二相における寄与率(%)を示す.6.統計解析データは,平均±標準誤差として表した.有意差はStudent’st-testにて解析し,0.05未満のp値を有意な差として示した.II結果表1には60週齢正常およびOLETFラットの体重,血中Glu,TG,Choおよびインスリン値を示す.60週齢OLETFラットでは,Glu,TG,Choは正常ラットより高値を示したが,体重およびインスリン値は低値を示した.図1には生理食塩水点眼群における正常およびOLETFラットの角膜傷害度を示す.OLETFラットでは正常ラットと比較し角膜傷害治癒遅延が認められた.図2および3は角膜.離を施した正常(図2)およびOLETFラット(図3)へのBAC,ポリソルベート80点眼群における角膜傷害度を示す.また,表2は一次速度の2指数式を用いたBACおよびポリソルベート80点眼群における角膜傷害治癒速度を示す.BACおよびポリソルベート80点眼群では,正常およびOLETFラットともに生理食塩水点眼群(コントロール群)と比較し角膜傷害治癒の遅延がみられた.また,BACおよびポリソルベート80点眼OLETFラットの角膜傷害治癒速度は,同添加剤点眼群の正常ラットよりも低値を示し,角膜傷害治癒遅延の強さはBAC>ポリソルベート80であった.BACおよびポリソルベート80点眼正常およびOLETFラットにおいて第一相目(細胞移動)および第二相目(細胞増殖)の治癒過程を検討したところ,BAC点眼群ではaおよびbがともに有意に低下表1正常およびOLETFラットにおける体重と糖尿病関連血液検査値正常ラットOLETFラット体重(g)560.0±17.8430.0±14.7*グルコース(mg/dl)142.7±3.7269.0±12.1*トリグリセリド(mg/dl)159.0±14.0345.0±8.7*コレステロール(mg/dl)91.7±14.5273.3±15.8*インスリン(ng/dl)107.4±6.179.4±6.1*平均値±標準誤差.n=3.*p<0.05vs.各項目における正常ラット.100806040200Time(hr)0122436486072Cornealwound(%)***○:正常ラット●:OLETFラット図1生理食塩水点眼正常およびOLETFラットにおける角膜上皮傷害治癒平均値±標準誤差,n=4~5,*p<0.05,vs.正常ラット.○:Saline▲:BAC■:Polysorbate80Time(hr)0122436486072Cornealwound(%)100806040200*****図20.02%BACまたは1%ポリソルベート80点眼液点眼が正常ラット角膜上皮傷害治癒に与える影響平均値±標準誤差,n=4~5,*p<0.05,vs.生理食塩水点眼群.○:Saline▲:BAC■:Polysorbate80Time(hr)0122436486072Cornealwound(%)100806040200****図30.02%BACまたは1%ポリソルベート80点眼液点眼がOLETFラット角膜上皮傷害治癒に与える影響平均値±標準誤差,n=4~5,*p<0.05,vs.生理食塩水点眼群.858あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(106)し,ポリソルベート80点眼群ではb第二相目の治癒速度の低下傾向が認められた.III考按近年,点眼薬の使用による点状表層角膜症や眼瞼炎といった眼局所への副作用や,患者からのしみる,かすむ,眼が充血するなど,点眼薬による角膜傷害の訴えが注目されている.さらに,糖尿病患者の角膜は健常人と比較し脆弱であるため,点眼薬により強い角膜傷害が予想される.したがって,点眼薬が糖尿病患者の角膜傷害治癒へ与える影響を明らかにすることは,糖尿病患者への安全な点眼薬療法において非常に重要である.眼科領域における薬物療法の中心は点眼薬であるが,点眼薬の主成分となる薬剤(主剤)のみでは点眼薬は製剤として成り立たず,これに製剤設計上必要な薬剤(添加剤)が加えられ初めて製剤となる.したがって,製剤学的観点から点眼薬について考える際には,その点眼薬に含まれる添加剤の種類,添加目的(効果),傷害性(副作用)についても常に考慮しなければならない.臨床では,添加剤の一つである保存剤BACの角膜傷害性が問題視されており,BAC非含有の点眼薬(トラバタンズR)なども注目されている.筆者らもまたWistar系ラットを用い,この点眼薬含有添加剤のなかでもBACが強い角膜傷害治癒遅延をひき起こすことを明らかとしてきた1).本研究ではこのBACと点眼薬の組成として汎用されている界面活性剤ポリソルベート80を用い,正常ラットおよび2型糖尿病モデル動物OLETFラットの角膜傷害治癒へ与える影響について速度論的解析を行った.保存剤や界面活性剤など添加剤の角膜傷害性について評価を行ううえで,試験系の選択は非常に重要である.角膜上皮は5~6層の細胞層から構成され,基底細胞と表層細胞に大きく分けられる.このうち基底細胞は分裂増殖機能と接着機能を,表層細胞はバリア機能および涙液保持機能を担っている.この4つの機能のどれか1つでも破綻した際角膜上皮傷害が認められるが,なかでも薬剤の影響を特に受けやすいとされているのが分裂機能とバリア機能である7).角膜上皮の損傷治癒は,細胞の分裂・増殖,伸展・移動によって行われており,Thoft&Friendはこの角膜上皮の修復機構をXYZ理論(X:細胞分裂,Y:細胞移動,Z:細胞脱落)として,健常な角膜上皮では上記の3つの間にX+Y=Zの公式が成立することを提唱した8).本実験で用いた角膜上皮.離モデルは,角膜上皮を.離することによって人工的にZを増大させた状態(X+Y<Z)である.この角膜上皮.離モデルを用いた点眼薬や添加剤の角膜傷害性試験はX:細胞分裂およびY:細胞移動へ与える影響について評価を行うものであり,オキュラーサーフェスの状態を維持しつつ,添加剤が角膜上皮細胞分裂および移動機能へ与える影響を検討するのに適している8).本研究ではこれら角膜上皮.離モデルを用いた点眼薬の傷害性比較試験法を用い検討を行った.一方,本研究は正常な状態と糖尿病状態時において点眼薬が角膜傷害治癒へ与える影響の比較検討を目的としているため,添加剤であるBAC(0.02%)およびポリソルベート80(1%)の使用濃度および点眼回数は,眼科領域で適用可能な濃度を基本としつつ,これら添加剤が角膜傷害治癒へ与える影響を明確に観察するため,臨床で用いられる濃度と同程度もしくは高めの濃度を用い,点眼回数は多めの1日5回とした1).生理食塩水点眼群(コントロール群)においてOLETFラットでは正常ラットと比較し角膜傷害治癒遅延が認められた.BACは保存剤として多用され,基礎研究および臨床研究にて,BACによる角膜傷害または角膜損傷治癒遅延作用はよく知られている9).また,ポリソルベート80は,主薬の溶解性向上のために多用される界面活性剤であり,皮膚に対する局所刺激性が報告されている6).筆者らもまた,Wistar系ラットを用い,BACがポリソルベート80と比較し強い角膜傷害治癒遅延を有することを報告している1).今回の糖尿病モデル動物OLETFラットを用いた実験系においても,BACおよびポリソルベート80点眼群では,正常およびOLETFラットともにコントロール群と比較し角膜傷害治癒の遅延がみられ,その角膜傷害治癒遅延の強さは,筆者らが以前に報告したWistar系ラットを用いた結果と同様,ポリソルベート80点眼群と比較しBAC点眼群で強い角膜傷害治癒遅延が認められ,BACおよびポリソルベート80点眼OLETFラットの角膜傷害治癒速度は,同添加剤点眼群の正表2角膜上皮.離後の正常およびOLETFラットにおける角膜傷害治癒の速度論的パラメータ正常ラットOLETFラット生理食塩水BACポリソルベート80生理食塩水BACポリソルベート80A(%)81.2±10.366.7±3.076.3±6.564.5±10.166.9±5.065.8±9.3a(×10.3,hr.1)49.1±2.436.4±4.0*146.8±5.842.7±3.031.2±3.2*242.2±3.0B(%)22.6±9.640.1±3.326.5±4.439.4±9.840.5±5.039.5±9.4b(×10.3,hr.1)48.7±2.532.2±5.0*144.2±7.238.1±3.4*128.9±3.2*232.4±3.6aおよびbはそれぞれ第一相と第二相における角膜傷害治癒速度定数,AおよびBはそれぞれ第一相,第二相における寄与度(%)を示す.平均値±標準誤差.n=4.5.*1p<0.05vs.生理食塩水点眼正常ラット.*2p<0.05vs.生理食塩水点眼OLETFラット.(107)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011859常ラットよりもさらに低値を示した.また,正常およびOLETFラットともに,BAC点眼群ではaおよびbが有意に低下し,ポリソルベート80点眼群ではbの低下傾向が認められた.筆者らはこれまでOLETFラットおよび一次速度の2指数式を用いた速度論的解析により,第一相目は経時的な上皮細胞の伸展・移動を示し,第二相目は上皮基底膜の細胞増殖を反映することを明らかにするとともに,角膜傷害治癒遅延時には第二相の寄与率が大きくなることを報告している5).したがって,添加剤の添加によるその角膜傷害治癒過程の低下傾向は,正常およびOLETFラットで類似しており,正常およびOLETFラットともに,BAC点眼は上皮細胞の伸展・移動とその後の上皮基底膜の細胞増殖に影響を与え,ポリソルベート80ではおもに上皮基底膜の細胞増殖に影響を与えることで角膜傷害治癒遅延をひき起こすものと示唆された.今後,糖尿病患者に対し角膜傷害性の少ない点眼薬を調製するためには,さらなる研究が必要である.現在筆者らは等張化剤,緩衝剤,粘稠化剤など,点眼薬調製に用いられる他の添加剤が角膜傷害性へ与える影響についても明確にすべく,OLETFラットおよび角膜上皮.離モデルを用い比較検討を行っているところである.以上,本研究では,正常およびOLETFラットで,BACやポリソルベート80点眼液の角膜傷害治癒遅延機構は同様であるが,正常ラットと比較しもともと角膜傷害治癒速度が遅いOLETFラットではBACやポリソルベート80点眼時に強い角膜傷害治癒遅延が起こることを明らかとした.この結果は角膜傷害治癒時の細胞伸展や増殖能が低い糖尿病患者では,健常人では影響の少ないような細胞伸展や増殖どちらか一方のみに影響を与えるような添加剤においても,強い角膜傷害治癒遅延をひき起こす可能性を示唆した.本報告は,今後角膜上皮傷害を有する糖尿病患者への安全な点眼薬療法において有用であると考えられる.文献1)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcornealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailablelatanoprostandtravoprostinratdebridedcornealepithelium.JOleoSci59:135-141,20102)ZagonIS,KlocekMS,SassaniJWetal:Useoftopicalinsulintonormalizecornealepithelialhealingindiabetesmellitus.ArchOphthalmol125:1082-1088,20073)PerryHD,FoulksGN,ThoftRAetal:Cornealcomplicationsafterclosedvitrectomythroughtheparsplana.ArchOphthalmol96:1401-1403,19784)NagaiN,MuraoT,ItoYetal:EnhancingeffectsofsericinoncornealwoundhealinginOtsukaLong-EvansTokushimaFattyratsasamodelofhumantype2diabetes.BiolPharmBull32:1594-1599,20095)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:KineticanalysisoftherateofcornealwoundhealinginOtsukalong-evansTokushimaFattyrats,amodeloftype2diabetesmellitus.JOleoSci59:441-449,20106)MezeiM,SagerRW,StewartWDetal:Dermatiticeffectofnonionicsurfactants.I.Gross,microscopic,andmetabolicchangesinrabbitskintreatedwithnonionicsurfaceactiveagents.JPharmSci55:584-590,19667)俊野敦子,岡本茂樹,島村一郎ほか:プロスタグランディンF2イソプロピルウノプロストン点眼液による角膜上皮障害の発症メカニズム.日眼会誌102:101-105,19988)ThoftRA,FriendJ:TheX,Y,Zhypothesisofcornealepithelialmaintenance.InvestOphthalmolVisSci24:1442-1443,19839)DeSaintJeanM,DebbaschC,BrignoleFetal:Toxicityofpreservedandunpreservedantiglaucomatopicaldrugsinaninvitromodelofconjunctivalcells.CurrEyeRes20:85-94,2000***

ラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(97)849《第30回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科28(6):849.854,2011c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討福田正道稲垣伸亮萩原健太矢口裕基佐々木洋金沢医科大学眼科学GenericVersionsofLatanoprostOphthalmicSolutionEvaluatedforSafetytoCornealEpithelialCellsMasamichiFukuda,ShinsukeInagaki,KentaHagihara,HiromotoYaguchiandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:11種類のラタノプロスト後発品点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する安全性を評価した.方法:SIRC(2×105cells)を10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’s(DME)培地37℃,5%CO2下でコンフルエントの状態で,12種のラタノプロスト点眼薬およびリン酸緩衝液(PBS)を0,4,8,15,30および60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.PBS接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出し,50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.一方,invivo試験では家兎眼に先発品と塩化ベンザルコニウム(BAK)を使用していない3種類の点眼薬を5分ごと5回点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗値(CR)を測定し,角膜抵抗率(CR[%])を算出した.結果:12種のラタノプロスト点眼薬の細胞生存率は接触時間の経過に伴い,徐々に減少し,接触30分後で30%以下に減少する群と50%以上を維持する2つの群に大きく分けられた.細胞生存率が30%以下の群ではCDT50(分)は≦15分,50%群以上の群ではCDT50(分)は>30分であった.一方,invivo試験ではCDT50(分)が≦15分の点眼液において,CR(%)が有意に減少した.結論:12種のラタノプロスト点眼薬の角膜細胞障害への影響は点眼薬中の添加物の種類と量により,2群に分類することができた.細胞障害の強い群においては添加物であるBAKの関与が考えられた.Purpose:Eleven(11)genericversionsoflatanoprostophthalmicsolutionwereevaluatedforsafetytoculturedrabbitcornealcells(SIRC).Methods:SIRCcells(2×105cells),inaconfluentstatein10%fetalbovineserum(FBS)-addedDulbecco’smodifiedEagle’s(DME)mediumat37℃with5%CO2,wereputintocontactwith12latanoprostophthalmicsolutionsandphosphatebufferedsalinefor0,4,8,15,30and60minutes.ThecellswerethencountedbytheCoulterCountermethod.Takingthenumberofcellsincontactwithphosphatebufferedsaline(PBS)toequal100,cellsurvivalrates(%)and50%celldeathtimes(CDT50[min])werecalculated.Fortheinvivoexperiments,eachophthalmicsolutionwasinstilledintorabbiteyes5timesatintervalsof5minutes.Cornealresistance(CR)wasmeasuredat2minutesafterinstillation,andcornealresistancerates(CR[%])werecalculated.Results:Whilethecellswereincontactwiththe12solutions,theirsurvivalratesdecreasedgraduallyovertime.Accordingtothecellsurvivalrateafter30minutesofcontact,thesolutionsweredividedintotwomajorgroups:onewithcellsurvivalratesdecreasingto30%orlower,andonewithratesremainingat50%orhigher.The30%orlowergrouphadCDT50≦15min,whilethe50%orhighergrouphadCDT50>30min.Intheinvivoexperiments,CR(%)decreasedsignificantlyintheCDT50≦15mingroupofsolutions.Conclusions:The12latanoprostophthalmicsolutionswereclassifiedintotwogroupsaccordingtotheclassandqualityoftheirpreservativesthatcouldpossiblyaffectcornealcells.Thegroupwithseverecelldamagemayexhibitapossibleassociationwiththeuseofbenzalkoniumchloride(BAK)aspreservative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):849.854,2011〕850あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(98)はじめに近年,プロスタグランジン関連点眼薬の新規の開発,配合剤の登場およびラタノプロスト点眼薬の後発品の発売など,緑内障治療点眼薬の開発はめざましく,緑内障治療の選択肢が広がった.その一方で,これらの点眼薬を適切に臨床応用するためには,個々の点眼薬の特徴を把握することが重要な事項である.特に,ラタノプロスト点眼薬の後発品は2010年5月に22品目が発売され,各後発品の特徴を把握することが重要になっている.後発品点眼薬の場合は先発品の場合と異なり,添加物の種類とその量が異なることがほとんどであり,必ずしも,先発品と後発品の有効性,安全性,安定性およびさし心地が同等とはいえないのが一般的である.これらの現状を踏まえて,筆者らはこれまでに,培養家兎由来角膜細胞による評価法(invitro)や角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,抗菌点眼薬,非ステロイド点眼薬,および抗緑内障点眼薬などの角膜上皮細胞に対する安全性を評価している1,2).本研究では先発品と11種類のラタノプロスト点眼薬(後発品)の角膜上皮への影響を評価した.I実験材料1.検討点眼薬検討点眼薬の添加物については表1に示した.キサラタンR点眼液0.005%(ファイザー㈱)(先発品):主成分はラタノプロスト〔塩化ベンザルコニウム(BAK)(0.02%)(プロスタグランジンF2a誘導体(以下,『キサラタン』と略す〕.後発品としては0.005%『コーワ』(興和㈱),0.005%『ニットー』(日東メディック㈱),0.005%『科研』(科研製薬㈱),0.005%『日医工』(日医工㈱),0.005%『ニッテン』(㈱ニッテン),0.005%『アメル』(共和薬品工業㈱),0.005%『AA』(バイオテックベイ㈱),0.005%『わかもと』(わかもと製薬㈱),0.005%『センジュ』(千寿製薬㈱),0.005%PF『日点』(㈱日本点眼液研究所),0.005%『NP』(ニプロファーマ㈱)の後発品11種類と先発品1種類を実験に使用した.また,塩化ベンザルコニウム(BAK)(0.0025%,0.005%,0.01%,0.02%)(東京化学工業㈱)についても同様の実験を行った.Keywords:ラタノプロスト点眼薬,培養家兎由来角膜細胞(SIRC),50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕,塩化ベンザルコニウム(BAK),角膜電気抵抗,家兎眼.latanoprostophthalmicsolution,culturedrabbitcornealcells(SIRC),50%celldeathtimes(CDT50[min]),benzalkoniumchloride(BAK),cornealresistances,rabbiteye.表112種類のラタノプロスト点眼薬の組成商品名防腐剤添加物キサラタン点眼液0.005%BAK◎リン酸水素Na,リン酸二水素Na,塩化Na,エデト酸Na水和物ラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」BAK○トロメタモール,クエン酸,塩酸,d-マンニトール,グリセリン,ポリソルベート80,ヒプロメロースラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」BAK○リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,ポリソルベート80,塩酸,水酸化Naラタノプロスト点眼液0.005%「科研」BAK◎リン酸水素Na水和物,無水リン酸二水素Na,モノステアリン酸ポリエチレングリコール,ステアリン酸ポリオキシル40,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」BAK○リン酸水素Na,リン酸二水素Na,塩化Na,ポリソルベート80,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」安息香酸Naホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」BAK△リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,ポリソルベート80,pH調整剤,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,pH調整剤,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,塩化Na,エデト酸Na水和物ラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,塩化Na,塩酸,水酸化NaラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」BAK×ホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」BAK×ホウ酸,ホウ砂,プロピレングリコール,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリソルベート80塩化ベンザルコニウム(BAK)濃度◎:0.02%,○:0.01%,△:0.005%,×:0%.(99)あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118512.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0.3.5kg)(雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学の動物使用倫理委員会の使用基準に従い,そのうえ,実験はARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従って,動物に負担が掛らないように,配慮して行った.3.使用細胞株細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60)(以下,SIRCと略す)を使用し,10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’s(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜抵抗値(以下,CRと略す)の測定には,角膜抵抗測定装置(Cornealresistancedevice,CRDFukudamodel2007)を用いた3).本装置は,角膜CL(コンタクトレンズ)電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,INC,USA)およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)から構成されている.角膜CL電極はアクリル樹脂製で家兎角膜形状に対応する直径とベースカーブとを有している.弯曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)はそれぞれ12mm,4.8mm,および幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は交流,周波数;1,000Hz,波形:矩形波,duration:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRC(2×105cells)をDME-10%FBS培地37℃,5%CO25日間培養後,12種類の各点眼薬(200μl)およびBAK溶液を0,4,8,15,30および60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.CDT50(分)は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=.b±b2.4ac/2aにより求めた.Y軸値が50%となるときのX軸値を2次方程式から求め,これをCDT50(分)値とした.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)成熟白色家兎の結膜.内に0.005%『キサラタン』,0.005%『NP』,0.005%PF『日点』,0.005%『ニッテン』およびBAK溶液(0.01%,0.02%)のいずれかを5分ごと5回(1回50μl)を点眼し,点眼終了2分後のCRを測定した.家兎を8群に分けて1群に4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分後に1%fluoresceinsodium2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.染色の有無をみた.4.統計学的処理検定はStudent’st-testを行い,有意水準は5%とした.III結果1.培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)12種のラタノプロスト点眼薬の細胞生存率は接触時間の経過に伴い,徐々に減少し,接触30分後で30%以下に減少する群と接触30分後で50%以上を維持する2つの群に大きく分けられた(図1).また,細胞生存率が30%以下の群ではCDT50(分)は≦15分,50%群以上の群ではCDT50(分)は>30分であった.各種点眼薬のCDT50はキサラタン(先発品):7.2分,センジュ:9.3分,AA:10.1分,わかもと:生存率(%)時間(分)わかもとコーワニットー科研日医工アメルAA日点PFニッテンセンジュNPキサラタン1251007550250010203040506070図1培養家兎由来角膜細胞による評価(12種類のラタノプロスト点眼薬)(平均値±SD)(n=4.6)12010080604020001020時間(分)生存率(%)3040図2培養家兎由来角膜細胞による評価(BAK溶液)(平均値±SD)(n=4.6)◆:BAK(0.0025%),■:BAK(0.005%),▲:BAK(0.01%),×:BAK(0.02%).852あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(100)10.2分,科研:15分,日東:37.9分,コーワ:43.2分,日医工:46.3分,NP,アメル,ニッテンおよび日点PFは60分以上であった.BAK溶液のCDT50(分)は0.0025%BAK:50.4分>0.005%BAK:14.5分>0.01%BAK:8.1分>0.02%BAK:4.0分の順であった(図2,3).2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法による評価では点眼終了2分後でCR(%)はニッテン:110.9%,日点PF:99.1%およびNP:101.6%であり,有意な低下はみられなかったが,キサラタン:86.5%では有意な低下がみられた(p<0.001).BAK溶液のCR(%)では点眼終了2分後でBAK(0.01%)溶液では90.5%,BAK(0.02%)溶液では68.7%の有意な低下がみられた(p<0.001)(図4).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色による点状角膜症の評価ではキサラタン,BAK(0.01%),BAK(0.02%)溶液では点眼終了2分後に角膜の染色がみられた(n=4).一方,NP,ニッテン,および日点PFでは染色はみられなかった(n=4).IV考按ラタノプロスト点眼薬はわが国において,1999年にキサラタン点眼液(ファイザー㈱)が緑内障治療薬として初めて臨床応用が可能になった.この当時,眼圧下降薬物治療は交感神経b遮断薬,ab刺激薬,プロスタグランジン代謝物関連薬,縮瞳薬の点眼と経口炭酸脱水酵素阻害薬が主体であった.ラタノプロストが現在,広く用いられている理由の一つに既存の点眼液に比べて,眼圧下降作用が有意に優れており,かつ全身性副作用がきわめて少ないことが考えられている.このキサラタン点眼液の後発品が2010年5月から22品目発売され,現在臨床応用されているが,今後さらに品目数が増える予定である.いずれの後発品も先発品のキサラタン点眼液との生物学的同等性試験により効果に差がないことは認められているが,主成分であるラタノプロスト以外の添加物(防腐剤,溶解補助剤,緩衝剤など)が異なるため,角膜上皮に対する影響が問題視されている.今回の実験に使用した11種類のラタノプロスト後発品にはBAK含有とBAK非含有の点眼薬を選択した.実験の結果によると,BAK非含有点眼薬(NP,ニッテン,日点PF)ではCDT50(分)は60分以上であり,角膜障害はほとんどみられなかった.一7.29.310.110.21537.943.246.3>60>60>60>6048.114.550.4010203040506070CDT50(分)わかもとコーワニットー科研日医工アメルAA日点PFBAK(0.02%)BAK(0.01%)BAK(0.005%)BAK(0.0025%)ニッテンセンジュNPキサラタン図3培養家兎由来角膜細胞における各点眼薬およびBAK溶液のCDT50(分)点眼2分後のCR(%)*68.7*90.5*86.599.1101.6110.9*:p<0.001140120100806040200CR(%)日点BAK(0.02%)BAK(0.01%)ニッテンNPキサラタン図4角膜抵抗測定法による評価(invivo)(平均値±SD)(n=4)(101)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011853方,添加物であるBAK溶液で検討した結果,BAK溶液のCDT50(分)はBAK(0.0025%):50.4分>BAK(0.005%):14.5分>BAK(0.01%):8.1分>BAK(0.02%):4.0分の順となり,BAKの濃度に依存して細胞障害の発症がみられた.BAKの細胞障害性はBAK溶液単独のほうが他の添加物が含まれている点眼薬中でのBAKの細胞障害性よりも強くなる傾向がみられ,点眼薬中ではBAKの細胞障害性が緩和されるものと考えられた.BAKを含まないNPでも細胞生存率が薬剤接触直後から約40%の減少がみられたが,その後細胞生存率はほとんど減少しなかった.この早期の減少の原因については明白ではないが,細胞死によるものではなく,点眼薬中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60による細胞間の密着性の低下による細胞脱落が原因である可能性が高いと考えている4).しかしinvivoの実験においては,涙液の存在のために角膜上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が希釈され,角膜上皮の構造が密で重層であることから影響が生じにくいものと思われる.筆者らはこれまでに,invitroの評価法に加えて,角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,種々の点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性を評価している3,4).本研究ではinvitroの実験結果を基にして,4種類のラタノプロスト点眼薬とBAK溶液を選択して,角膜上皮への影響をinvivoの実験系で評価した.その結果,角膜抵抗測定法によるCR(%)は,キサラタン点眼液とBAK(0.01%)溶液,およびBAK(0.02%)溶液で有意な低下がみられた(p<0.001)が,その他の点眼薬では有意な低下はみられなかった.以上の結果から,角膜障害性は点眼薬中のBAK濃度に大きく影響されることが今回の実験からも明らかになった(表2).一方,先発品(キサラタン)と後発品(11種類)の角膜障害性を比較すると,先発品とほぼ同等の群と,先発品に比べて明らかに軽減している群の大きく2群に分けられ,先発品と後発品では必ずしも,角膜障害性は同等ではないことが明らかとなった.このような結果をどのように,臨床応用に結びつけるかがわれわれ医療に関わる者の大きな課題である.筆者らは,一つの評価として,CDT50(分)が30分以上であれば角膜障害をひき起こす可能性は低く,15分以内であれば角膜障害をひき起こす可能性があり,0.5分以内であれば角膜障害の発症の確率が高いと予想した2).今回の結果をこの評価法に当てはめた場合,15分以内の群と30分以上の2群に分類して,これらの点眼液の安全性を推測してもよいと考えている.その一方で,眼圧下降作用の面を考えた場合,本当に先発品であるキサラタンの効果と同等であるか,問題の残るところである.これまで,眼圧下降薬の多くに防腐剤として使用されているBAKは,防腐効果以外にも可溶化剤,薬剤透過性の亢進効果も有しているため,BAKの眼圧下降作用に対する影響も否定できない.今後,点眼薬中BAK濃度が異なることで,主剤であるラタノプロストの眼内移行にどのように影響を与えるか,検討しなければならない事項の一つである.これらの結果を考慮したうえで,臨床応用に結びつけることが最も重要である.本研究から,先発品1種類と後発品11種類の計12種類のラタノプロスト点眼薬で角膜上皮への影響に差があることを改めて確認できた.正常な角膜に対する1日1回の通常の単剤点眼であれば,BAK含有点眼薬であっても,細胞障害をひき起こすことはほとんどないと考えられる.しかし,緑内障は比較的高齢者に多い疾患であり,そのうえ長期点眼が必要なため,角膜,結膜の疾患を抱えている患者が多く,角結膜染色,涙液層破壊時間,涙液分泌テストでも半数以上に角膜上皮障害などの所見があるとされている5).さらに,眼圧下降点眼薬の多くに防腐剤として使用されているBAKは,防腐効果,可溶化剤,薬剤透過性の亢進効果も有しているが,その一方で点状表層角膜症などをひき起こす6.9).このような理由からも,角膜が脆弱なあるいは他の点眼薬の併用が必要な緑内障患者では,できる限り角膜障害の少ない点眼薬を使用することが望まれる.文献1)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20092)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20093)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20074)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,20105)LeuugEW,MedeirosFA,WeinrebRN:Prevalenceofocularsurfacediseaseinglaucomapatients.JGlaucoma17:350-355,2008表24種点眼薬とBAK溶液のCR(%),AD分類およびCDT50(分)の関連性点眼液およびBAK溶液AD分類A:範囲D:密度点眼後(CR)/点眼前(CR%)(点眼終了2分後)SIRCのCDT50(分)BAK(0.02%)A2D268.74.0キサラタンA1D286.57.2BAK(0.01%)A1D190.58.1日点A0D099.1>60NPA0D0101.6>60ニッテンA0D0110.9>60854あたらしい眼科Vol.28,No.6,20116)HerrerasJM,PaslorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19927)高橋奈美子,旗福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19998)BaudouinC:Detrimentaleffectofpreservativesineyedrops:implicationsforthetreatmentofglaucoma.ActaOphthalmol86:716-726,20089)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,2008(102)***

眼研究こぼれ話 18.網膜の光傷害 照明は薄暗くてもよい

2011年6月30日 木曜日

(89)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011841網膜の光傷害照明は薄暗くてもよい子供たちに親しまれている古い童謡の一つに,3匹の盲ねずみというのがある.幼稚園で必ず教わる歌である.また,「あいつはねずみ同様盲だ」という言いまわしもある.ねずみたちは盲目か?.もし彼らが暗い穴ぐら生活を捨てて蛍(けい)光灯のかがやく人間の領域に出て来ると,本当に失明する.隅(すみ)々まで照明された動物室で,大量生産された白ネズミ,白ハツカネズミは,研究室へ実験のため売られて来たときは,全部といっていいほど,盲目になっている.これは明るい光のために,眼が傷害されたのである.眼球の一番奥に,光に敏感な薄い膜状の網膜がある.網膜の光を感受する部分を視細胞の外節と言って,ここを電子顕微鏡で見ると,デリケートな格子模様が見える.この整然とした格子は細胞の特殊な膜から出来ていて,この中に,光を感ずる化学物質が内蔵されている.強い光を照らすと,この格子がひどく乱れ,ついに変性を起こしてしまうことが数年前,私たちの研究室によって発見された.この発見は人々にショックを与え,また,新しい研究分野の開拓ともなった.そうして,網膜に関心をもっている人々の最新研究課題となっている.昨年(編集部注:1978年(昭和58年)),京都で開かれた国際眼科学会では,光と網膜に関係した数十の論文が世界各国から持ちよられ,盛んに討議されたのである.白ネズミは夜行性動物であって,もともと,強い光を受けることには適していなく,人間にとっては,ちょうど良い明るさでも,彼らは傷害を受ける.同様に昼行性の動物でも,強い光は網膜を変性に陥らせることがわかって来た.強制的に肥満飼料を食べさせるため,近代的な鶏舎では強い昼光を昼夜の別なくつけている.ここで早く大きなブロイラーになるためえさを食べ続けている鶏は全部盲目になっていることもわかった.光変性をおこした網膜の顕微鏡像は,人間を失明させる不治の色素性網膜症のものと非常に似ており,この領域を研究している学者たちは,光と疾病との間に,なんらかの関係があるのではないかと,疑い始めた.しかし,今までのところ,人間でははっきりとした因果関係は知られていない.近代的な生活では,明るい光に照らされるチャンスがますます多くなり,将来の眼衛生を考える際には,傷害因子の一つとして,注意しなければならないと思われる.特に,学校,オフィスの照明は明るすぎる場合もある.十数年前には,学校の照明度をうんと上げるような規制が作られたこともあり,明るさの限度についての相談を受けたりしたが,現在では,反対にだんだんと暗くしている傾向がある.特別の場合は別であるけれども,暗いから眼を傷めるということはないようである.当地の家庭の照明は,日本より一般に暗い.明るすぎる学校とか研究0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑱▲「三匹のめくらねずみ」(子供の童謡の本から)842あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011眼研究こぼれ話(90)所からのがれて,家の薄暗い居間に落ち着き夕刊を読むとき,私はやっと眼の神経が休まるような気分となる.眼の実験に使うネズミが最初から盲目ではたいへん困るので,私たちの研究室では,動物室の明るさを50フートキャンドルを超えないようにしている.そうして,夜はすくなくとも,12時間,真っ暗であるように時間を調節して,実験の正確を期している.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2011Vol.28月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2011Vol.24■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌(4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/インターネットの眼科応用他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

インターネットの眼科応用 29.ソーシャルメディアと医療(2)

2011年6月30日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118390910-1810/11/\100/頁/JCOPYソーシャルメディアの隆盛インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.医療情報も,文書や動画などのさまざまな形態で,インターネット上に氾濫するようになりました.一人の医師が,手術などの動画を見て,何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与したことになります.情報の流れは,DatabaseからBedsideへ伝わって,デジタルな情報がアナログな医療行為に変換されます.この流れは,従来は専門書・教科書が果たしていた役割を,インターネットが代替できることを意味します.加えて,インターネットは,専門書・教科書にない,その先の力をもちます.臨床現場で得られた情報をインターネット上に再び投稿することで,医療情報がBedsideからDatabaseへ還元されます.アナログな情報が,デジタルな情報に再び置換されます.このように,DatabaseとBedsideを往復し,新しく更新された医療情報が,世界の誰かの医療を動かします.このくり返しによって,インターネットの医療情報は常に更新され続け,世界全体の医療水準は向上し続けます.この双方向性と可塑性は,専門書にはもたない力です.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続け,臨床現場に還元される現象を,Medical2.0とよびます1).近年,Facebook,Twitter,YouTubeといった,社会に対して影響力を発揮する利用者参加型のサイトを総称してソーシャルメディアとよびます.Web2.0とよばれるインターネット上での情報交流が,世の中の現実世界を動かす力をもつようになりました.具体的には,中東で相次いだ政変があげられます.中東の民衆は,テロ以外にもインターネットを通じて政治参加できることを,実体験として学習しました.ソーシャルメディアを通じて,民衆は,コンテンツ消費者側からコンテンツ生産者の側に変わりました.同様な変化は,医療界で起こるでしょうか?ネットコミュニティに参加する人が増え,情報量が増えると,ソーシャルメディアとして力を発揮し,ネットコミュニティはコンテンツを生産する力をもちます.医療情報の情報伝達の組み合わせは大きく分けて3種類です.①医師と医師,②医療従事者と患者,③患者同士を繋ぐ情報媒体に分けられます.本章では②と③のソーシャルメディアについて考えます.これらのソーシャルメディアでは,医療を受ける立場の一般生活者が主役です.彼らは自分が見聞し,経験した医療情報を発信します.医師,医療従事者が,医療情報を一方向性に一般生活者に伝えるのではありません.日本でも,医師がブログを開設したり,ホームページ上で患者との質疑応答集を公開したりするといった事例は珍しくありません.しかし,一般生活者や医療従事者が自由に投稿できるインターネットコミュニティを,特定の病院が運営しているケースは,ほとんどみられません.ネット先進国のアメリカでは,Facebookを利用している病院は240件に上り,病院によっては,Twitter,Facebook,YouTubeなどのソーシャルメディアを複合的に活用しています.ネット上のコミュニケーションには,医師,看護師,病院経営者,患者,ボランティア,病気を心配する生活者など多彩な人々が参加しています2).(87)インターネットの眼科応用第29章ソーシャルメディアと医療②武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ840あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011MayoClinicのソーシャルメディアの活用日本では,医療を「受ける」という意識が患者側に強くあります.そのため,患者は病院検索のためにインターネットを使い,病院機関はインターネットを告知媒体として活用します.一方,医療に関するソーシャルメディアが育つには,患者側には医療に「参加する」という意識が求められ,医療機関側には,「患者に告知する」ではなく,「患者を指導する」という意識が求められます.アメリカのミネソタ州ロチェスター市に本部を置く,メイヨー・クリニック(MayoClinic)はソーシャルメディアを活用している先駆者です.メイヨー・クリニックでは,Webサイトのミッションページで,「PrimaryValue“Theneedsofthepatientcomefirst.”多くの生活者が利用する交流手段があれば,それを積極的に活用することは,メイヨー・クリニックのポリシーでもある.」と表明しています.また,社内に「ManagerforSyndicationsandSocialMedia」というソーシャルメディアの責任者ポストが用意され,責任範囲や権限が明確です.マネージャーのLeeAase氏のリーダーシップが,活性化とポリシー策定に大きな貢献をしていると考えられます.メイヨー・クリニックは,YouTubeに,医師の自己紹介を中心に500件を超える動画を掲載しています.患者の体験談や,禁煙がもたらす効用を説明したビデオなども投稿されています.Twitterや,Facebookといった,既存の媒体も活用していますが,特筆すべきは,マイクロソフト社と共同で個人の健康管理サイト「HealthManager」を運営している点です.この健康管理サイトでは,メイヨー・クリニックの専門医の相談が無料で受けられます2).HealthManagerは,2009年4月にメイヨー・クリニックが,マイクロソフト社と共同で立ち上げた健康管理サイトです(図1).WindowsLiveIDがあれば,このサービスを利用できます.まず,利用者およびその家族は,自分の健康状態をマイクロソフト社の健康管理システムHealthVaultにストックします.情報のセキュリティに関しては,マイクロソフト社が責任を負います.HealthManagerの利用者は,そのデータをいつでも引(88)き出せるのは,もちろんのこと,自身の健康状態や治療の内容について,自由に投稿することができます.患者だけでなく,医療従事者も自由にコメントを投稿します.メイヨー・クリニックの専門医の相談を無料で受けることができますが,2011年現在は残念ながら,日本からはHealthManagerに登録できません.このサービスが始まってから2年経ちます.どのような規模に育っているのかは不明ですが,医師と患者をインターネット上でどのように繋ぐかを示した,メイヨー・クリニックの視野の広さを感じる一つの事例です3).【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をmedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,medical2.0の潮流に沿ったさまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第25章Medical2.0②.あたらしい眼科28:251-252,20112)http://japan.internet.com/column/webtech/20091124/8.html3)https://healthmanager.mayoclinic.com/default.aspx☆☆☆図1HealthManagerのトップページ

硝子体手術のワンポイントアドバイス 97.硝子体再出血例に対する一時的絶対安静(初級編)

2011年6月30日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118370910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに増殖糖尿病網膜症などに対する硝子体手術では,術後にしばしば再出血をきたし眼底透見が困難となることがある.早期出血の原因としては,術中の不十分な増殖膜処理や止血など,晩期出血の原因としては,新生血管を含んだ再増殖膜形成などの頻度が高い.再出血例に対しては,眼底の状態をなんらかの方法で推測し,再手術を早期に施行すべきか否かの判断が求められる.●再手術の適応再出血量が多く早期の自然吸収が期待できない例,眼底に再増殖や網膜.離が生じている例では,早期に再手術を施行すべきである.通常は超音波Bモード検査で眼底の状態をチェックする.再出血量は眼底反射や細隙灯顕微鏡所見で,ある程度推測することができるが定量性はない.明らかな網膜.離や網膜上の凝血塊などが存在する場合は,超音波Bモードで十分に捉えられるが,網膜面上の再増殖膜や眼底周辺部の限局性網膜.離は検出が困難なことが多い.虹彩ルベオーシスが増悪している例では,通常再増殖や網膜.離が生じている可能性が高いと考えられるが,網膜虚血の程度に左右される.●診断を目的とした一時的絶対安静硝子体手術後の再出血例に対して,一時的絶対安静は出血を下方に沈殿させ,眼底の状態を把握するのにきわめて有用な方法である1).あくまでも入院患者を対象とした方法であるが,semi-fowler位で患者の頭部を砂.で固定し,消灯から翌朝までの絶対安静を保持する.硝子体手術後は硝子体ゲルが存在しないので,出血量が多くても絶対安静を保持していれば,必ず出血は下方に沈殿し,出血の貯留した部分以外は眼底透見が可能となる(85)(図1).Semi-fowler位では出血は通常やや下耳側に貯留し,黄斑部の状態も確認可能となる.患者の体動により下方に沈殿していた出血は容易に舞い上がるので,診察は必ず翌朝ベッドサイドで行う必要がある.●一時的絶対安静でわかること出血が沈殿している部位以外は眼底透見が可能なので,再増殖,網膜.離を的確に検出できるだけでなく,近見視力検査を行うことで,視力予後を大まかに予測できる.また,沈殿している出血の範囲で,出血量をある程度定量できる.新たな再出血が生じないと仮定した場合に,出血が自然吸収するのに要する期間は,出血範囲が3乳頭径大で約1週間,6乳頭径大で約3週間である.眼底の状態と出血量から,再手術の適応を的確に決定することができる.文献1)坂上憲史,田野保雄,春田恭照ほか:硝子体手術後再出血に対する診断を目的とした一時的絶対安静.眼紀42:1051-1054,1991硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載97硝子体再出血例に対する一時的絶対安静(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1一時的絶対安静後の眼底出血量が多くても本法により眼底は必ず透見可能となる.この症例の出血量は6×4乳頭径大で,上方に再増殖を認めたため,後日再手術を施行した.

眼科医のための先端医療 126.緑内障における網膜神経節細胞アポトーシスにTNF-αはどう関わっているのか?

2011年6月30日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118330910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに近年,眼科では抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法をはじめとして,本稿のテーマでもあるTNF-a(腫瘍壊死因子a;tumornecrosisfactora)などを標的とした分子レベルでの治療が行われるようになってきました.TNF-aはBehcet病など,ぶどう膜炎の患者の血液中,および前房水中での濃度上昇がみられることが知られていて1),そのモノクローナル抗体であるインフリキシマブ(レミケードR)はBehcet病の治療としてすでに使用されています.このTNF-aが発見されたのは1975年ですが,当時BCGなどで処置したマウスにエンドトキシンを注射すると腫瘍壊死作用をもつ物質が産生されることが見いだされ,TNF-aと名付けられて発表されました2).TNF-aはおもにマクロファージから産生され,細胞毒性,血管内皮への障害作用などを有しています.生体の炎症やストレス反応などに関わっており,眼内では眼圧上昇,手術後やぶどう膜炎などの炎症によって濃度上昇をきたすと考えられています.緑内障とTNF-aとの関わり緑内障では,網膜神経節細胞が選択的に障害されることが知られていますが,これは眼圧によって網膜神経線維が障害され,軸索輸送障害をきたした網膜神経節細胞がアポトーシスを起こすというのが一連のメカニズムと考えられています(図1).このアポトーシスをきたすメカニズムを,分子レベルで研究した結果が近年では多く発表されています.ヒトのドナー眼における研究では,緑内障眼は網膜内でのTNF-a発現が正常眼と比較すると増加していたことがTezelら4)のグループによって報告されています.さらに,同グループはグリア細胞と網膜神経節細胞を同時培養し,虚血や圧負荷のストレスを与えると,グリア細胞がTNF-aなどのサイトカインを産生し,それに続いて網膜神経節細胞のアポトーシスが生じることを突き止めました3).この報告では,さらに抗TNF-a抗体の投与で中和するとアポトーシスが減じることも明らかにされています.この一連の研究結果から,圧負荷後のTNF-aが網膜神経節細胞のアポトーシスに深く関わっていることが示唆されますが,これを支持する研究もすでに報告されています.これはマウスを用いた研究で,非常に興味深い結果です.Nakazawaらは,眼圧上昇の負荷を与えなくても,TNF-aの注入のみで網膜神経節細胞のアポトーシスを生じさせることができることを明らかにし,さらにはこの変化が,TNF-aの注入と同時にTNF-a抗体の注入やTNF-a遺伝子欠損を生じさせることで,抑制できると発表しました5).これらの研究から,緑内障眼でみられる神経節細胞のアポトーシスをきたす一連の反応にTNF-aが大きな鍵となる役割を果たしており,この反応をブロックすることで新たに緑内障の治療の道が開ける可能性が示されました.さて,このTNF-aですが,正常眼圧緑内障(NTG)や開放隅角緑内障(POAG)などすべての緑内障で同じようにアポトーシスに関わっているのだろうかという疑問があります.過去の報告をみると,視神経乳頭におけるTNF-aとその受容体TNF-areceptor-1の発現を免疫染色で調べた研究があります.その結果では,POAGとNTGではコントロール群より多い発現を認めていましたが,POAGとNTGとでは発現はむしろ平均眼圧の低いNTGで多く認められました6).この結果からは,眼圧だけがTNF-aの発現に関わっているのではない可能性が示唆されます.以前,筆者らがPOAG,NTG,落屑緑内障(ExG)患者(81)◆シリーズ第126回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊澤田英子(ほしあい眼科)緑内障における網膜神経節細胞アポトーシスにTNF-aはどう関わっているのか?…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………….図1緑内障性視神経障害のメカニズム834あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011の前房水を採取してTNF-aの濃度を測定した結果7)では,平均眼圧の高い落屑緑内障で高い検出率がみられ,POAGとNTGでは同等の検出率でした.この前房採取はスポットで1回のみ施行したものですから,落屑緑内障のように眼圧に大きな変動がみられ,比較的急速な経過をとるタイプの緑内障と,POAGやNTGのように慢性の経過をとるタイプを比較して,どの病型でTNF-aがより関係しているのかを比較することはむずかしいと思われます.また,落屑緑内障のようなタイプでは,急な眼圧上昇に伴ってスパイク状にときどきTNF-aの発現が高まっていることが考えられますが,特にNTGのように慢性の経過で,虚血などの他のストレス因子の関与も考えられるケースでは,TNF-aは低濃度で持続的に高まっていることも考えられます.その場合にはスポットの検査では検出がむずかしいケースもあるでしょう.新たな治療戦略へ向けて日々の臨床では,非常に眼圧コントロールが良好であるにもかかわらず,視野障害の進行を食い止めることができないNTG症例をしばしば経験します.患者の将来を案ずる一方で,今後の治療戦略に行き詰まりを感じています.現時点で,エビデンスに基づいた治療は眼圧下降ですが,眼圧を下げても病期の進行がみられる症例に対し,なす術はありません.しかし,たとえばNTGの症例のなかで,眼圧上昇以外のストレス因子も大きく関係している場合,神経細胞のアポトーシスを食い止めるためにTNF-aのブロックが有効な治療法の一つであるとすれば,そのような悩ましい症例に対しても希望の光がみえてきます.緑内障の病型や,症例のタイプによってどの程度TNF-aが関わっているのか,神経保護に有効であるのかについてさらに解明がなされ,神経保護への新たな治療への道が開けることを願ってやみません.文献1)AhnJK,YuHG,ChungHetal:IntraocularcytokineenvironmentinactiveBehcetuveitis.AmJOphthalmol142:429-434,20062)CarswellEA,OldLJ,KasselRLetal:Anendotoxininducedserumfactorthatcausesnecrosisoftumors.ProcNatAcadSciUSA72:3666-3670,19753)TezelG,WaxMB:Increasedproductionoftumornecrosisfactor-abyglialcellsexposedtosimulatedischemiaorelevatedhydrostaticpressureinducedapoptosisincoculturedretinalganglioncells.JNeurosci20:8693-8700,20004)TezelG,LiLY,PatilRVetal:TNF-aandTNF-areceptor-1intheretinaofnormalandglaucomatouseyes.InvestOphthalmolVisSci42:1787-1794,20015)NakazawaT,NakazawaC,MatsubaraAetal:Tumornecrosisfactor-amediatesoligodendrocytedeathanddelayedretinalganglioncelllossinamousemodelofglaucoma.JNeurosci26:12633-12641,20066)YanX,TezelG,WaxMBetal:Matrixmetalloproteinasesandtumornecrosisfactoralphainglaucomatousopticnervehead.ArchOphthalmol118:666-673,20007)SawadaH,FukuchiT,AbeH:Tumor-necrosisfactor-aconcentrationsintheaqueoushumorofpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:903-906,2010(82)■「緑内障における網膜神経節細胞アポトーシスにTNF-aはどう関わっているのか?」を読んで■最近の緑内障研究は,眼圧を単に機械的なものと捉えるものではなく,眼圧により影響される生理活性物質に焦点を当てたものが中心になっています.緑内障に関連する生理活性物質としては2000年以後に報告されたものに絞っても,インターフェロンg,インターロイキン(interleukin:IL)-1,2,6,17,27,腫瘍壊死因子a(tumornecrosisfactor:TNF-a)などさまざまなものがあります.ただし,それらは動物実験や培養細胞実験で確認されたものであり,緑内障の実態を反映していないという批判があります.また,生理活性物質はそれぞれが互いにネットワークを形成して非常に複雑に働くので,いくつかの生理活性物質を研究しても,病気の本態の解明や治療にはつながらないという悲観論も聞かれます.事実TNF-aに関しては,網膜に障害を与えるという報告が多い反面,神経保護的に働くという報告もあるのです.ところが,それに対する答えが意外なところから現れました.それが分子標的薬による介入免疫学です.たとえば,網膜静脈閉塞症による網膜浮腫は,さまざまな要因により形成されており,血流動態,血圧,硝子体中サイトカイン構成などが重要であると考えられていました.しかし,本疾患に抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬が著効することから,この病態形成には予想よりはるかにVEGFが重要であることがわかり(83)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011835ました.以前に重要とされた要因は,VEGFによってひき起こされた副次的なもの,あるいはほとんど関係のないものであったようです.本文で澤田英子先生が述べられた緑内障におけるTNF-aも,これと同じ可能性があります.今後,抗TNF-a薬で緑内障の視神経障害が効果的に抑制されたとしたら,従来考えられているよりも緑内障の視神経障害はずっとシンプルであることになります.介入免疫学を行うには,介入を正当化するための十分な臨床データが必要です.今回の研究は,そのための重要な基礎になりうるといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 200.非侵襲的モバイルペン型マイボグラフィーの開発

2011年6月30日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118290910-1810/11/\100/頁/JCOPY.使用方法(治療,検査法の実際のやり方)(図2~4)検査は以下の手順で行う.①モニター(市販のテレビやモニター,もしくはコンピュータの画面など)と本体をコード(コンポジットケーブル,もしくはパソコン用USB接続コ新しい治療と検査シリーズ(77).バックグラウンドマイボーム腺は皮脂腺の一種であり,涙液の油層を形成し,過剰な涙液の蒸発を防ぐ役割をしている.マイボグラフィーとは,マイボーム腺を皮膚側から透過することによりマイボーム腺構造を生体内で形態学的に観察する唯一の方法である.マイボーム腺の形態を赤外光を用いて観察することは1977年,Tapieら1)が提唱して以来改良が加えられ2.5),2008年には筆者ら6)が細隙灯顕微鏡で非侵襲的に結膜側からocularsurface観察の流れのなかでマイボーム腺を観察できるノンコンタクトマイボグラフィーを開発した.さらに筆者は,新たに,非侵襲的に検査できるだけでなく,持ち運ぶことのできる,CMOSセンサーカメラと赤外線LED光源を用いたモバイルペン型マイボグラフィーを開発したので報告する..新しい治療法または検査法(原理)新しいモバイルペン型マイボグラフィーは,400.1,200nmと赤外光も含む幅広い波長帯域に感度をもつ高感度CMOSセンサーカメラと専用赤外線LED光源を用いて結膜側から赤外線による反射光で非侵襲的にマイボーム腺を観察できる機器である(図1).観察用の光が可視光線である場合,散乱が大きくマイボーム腺を観察することはできない.それに対して,赤外光のみの光源を用いて観察を行うと,散乱の問題は生じず,良好にマイボーム腺を観察することができる.可視光は瞼板によって光が反射されるので奥にあるマイボーム腺は見えないが,赤外光は深部到達度が高く,瞼板を透過し,マイボーム腺によって反射される.マイボーム腺で赤外光が反射される理由はわからないが脂の性状によるものと考えている.200.非侵襲的モバイルペン型マイボグラフィーの開発プレゼンテーション:有田玲子伊藤医院コメント:白石敦愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)図1モバイルペン型マイボグラフィーの写真(試作器)長さ176mm,幅29mm,高さ34mmとペン型で,重さは120g.モバイルペン型マイボグラフィー市販テレビをモニターとして用いる図2モバイルペン型マイボグラフィーを用いた往診の様子モバイルペン型マイボグラフィーを入院中の患者の病室に持ち込み,端子を病室のテレビモニターにつなぐ.上下眼瞼のマイボーム腺を簡単に病室で診察することができる.830あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011ンバータ)でつないで,本体スイッチを入れる.②まず,可視光LEDモード(ピーク波長:470nm,560nm)で眼瞼縁の血管拡張,開口部の閉塞,瞼縁の不整などをモニター上で観察する.マイボーム腺分泌脂の観察も行う.③つぎに専用赤外光LEDモード(ピーク波長:980nm)にスイッチを切り替えて,上,または下の眼瞼を反転し,瞼結膜に本体を近づける.眼瞼全体のマイボーム腺がモニターに描出される.④観察するのみであれば,ここで終了する.⑤記録する場合には,付属のフットスイッチ(パソコン用USB接続フットスイッチ)で静止画,動画とも記録できる.ここまでで通常1分以内で終了する..本方法の良い点本方法の最も良い点は持ち運べること,非侵襲的なことである.120gと軽量であるため,持ち運び,取り扱いが容易で,通常の外来診察室において,新たな機器の設置といったような大掛かりなスペースが必要なく,高齢者におけるマイボーム腺の加齢性の変化の観察,コン(78)表1マイボグラフィーの比較細隙灯顕微鏡組み込み型モバイルペン型非侵襲的細隙灯顕微鏡に固定非侵襲的持ち運び可能座位だけでなく仰臥位での診察も可能スリットランプの光源赤外線透過フィルター赤外線CCDカメラ赤外線LED光源CMOSセンサーカメラ倍率の変更も自由倍率の変更はできないOcularsurface観察の流れのなかでマイボーム腺関連疾患を総合的に診断できる可視光LED,フルオレセインブルーLEDモードも搭載されているが,スリット機能はない図3実際の症例(6歳,女児,正常眼)上:可視光モードで眼瞼縁と角膜を観察.中:上眼瞼の正常なマイボーム腺.下:下眼瞼の正常なマイボーム腺.図4実際の症例:長期コンタクトレンズ装用に合併したアレルギー性結膜炎患者(28歳,男性)上:可視光モードで瞼結膜を観察,乳頭増殖と充血を認める.中:上眼瞼のマイボーム腺,屈曲をしている.下:下眼瞼のマイボーム腺,短縮をしている.(79)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011831タクトレンズ装用者やアレルギー性結膜炎,長期に抗緑内障薬の点眼をしていてドライアイ症状を訴える患者などのマイボーム腺をすぐに観察でき,スムーズに一般診療に導入することができる.上下左右のマイボーム腺を観察するのに要する時間は平均1分以内なので,検者にも被検者にもほとんど負担がない.さらに,座位だけでなく仰臥位でもマイボーム腺を観察することができるため,入院中の慢性移植片対宿主病患者(GVHD)やStevens-Johnson症候群(SJS)に合併する重症ドライアイ症例などの往診にも適している.また,3歳以下の幼児など細隙灯顕微鏡の顎台に顔を固定することができない症例においても,マイボーム腺の観察が容易にできるので,今まではむずかしかった幼児のくり返す慢性結膜炎患者や小児の先天性眼疾患(先天性無痛無汗症,先天性外胚葉形成不全症など)に伴うマイボーム腺病変などを観察できる.ただし,本方法は倍率の変更はできず,詳細な角結膜上皮障害の検出はむずかしい.一方で,筆者らが以前開発した細隙灯顕微鏡組み込み型のノンコンタクトマイボグラフィー6)では,ocularsurface観察の一連の流れの一部として角結膜上皮障害の有無や程度,涙液の安定性などと対応させながらマイボーム腺を観察できる.このように細隙灯顕微鏡組み込み型とモバイルペン型の2種類の非侵襲的なマイボグラフィーの特性を理解したうえで,症例や診療用途によって使い分けることで(表1),マイボーム腺の形態観察がより多くの眼科医に普及することを期待する.文献1)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands(inFrench).AnnOcul(Paris)210:637-648,19772)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransilluminationbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology92:1423-1426,19853)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19914)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland.ArchOphthalmol112:448-449,19945)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,20076)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,2008フィーはほぼ同様にマイボーム腺が観察可能と考えられるが,その汎用範囲は,スリット(接触型マイボグラフィー)で観察できない往診患者,乳幼児,寝たきりの患者に限られる.本機器が普及するには,まずマイボグラフィーの診断機器としての有用性が高まることが必要であろう.眼表面疾患とマイボーム腺異常の関係はまだ十分に解明されたとはいえず,さらなる検討を期待したい.従来のマイボグラフィーは,翻転させた眼瞼の皮膚側から光をあてて,マイボーム腺を透過させて観察していたため,観察領域が限られていた.また,低侵襲とはいえ,光源を直接皮膚にあてるため,手技的には簡単ではあるが,普及するには至らなかった.一方,非接触型マイボグラフィーはより非侵襲的に広範囲のマイボーム腺を比較的詳細に観察することが可能となったため,一般外来においても簡便に検査できるようになった.今回開発されたモバイル型マイボグラ.本方法に対するコメント.☆☆☆

緑内障:羊膜移植併用緑内障手術

2011年6月30日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118270910-1810/11/\100/頁/JCOPYマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術での濾過胞壁の菲薄化による晩期濾過胞漏出や感染,瘢痕形成による濾過胞不全への対応として,羊膜のもつ結膜上皮の分化促進,線維組織増生の抑制,抗炎症作用や基底膜としての働きを生かした羊膜移植が用いられている(図1).羊膜移植は,瘢痕結膜症例での濾過胞漏出や線維柱帯切除術/濾過胞再建術に対して長期的にも有効な選択肢になると考えられる.●晩期濾過胞漏出に対する羊膜移植晩期濾過胞漏出に対する外科的治療には,自己結膜遊離弁移植や結膜前方移動術,羊膜移植による修復といった方法がある.当教室で羊膜移植による修復を行った11例11眼では,8眼で再漏出なく経過,うち5年以上の長期観察が行えた6眼でいずれも再漏出なく良好な眼圧コントロールが得られた1).ただし,羊膜移植と結膜前方移動術とのランダム化臨床試験では,最終的な眼圧や点眼数,Kaplan-Meier法による術後成績のいずれにも有意差は認めなかったとする報告もある2).羊膜移植を用いる利点として,過去の手術既往により伸展性が失われた結膜において瘻孔の閉鎖が困難な場合,その裏面を羊膜で裏打ちして再漏出を防ぎ,結膜上皮の正常な増殖・分化を促せる点や,将来の手術に影響する近接する結膜,Tenon.への侵襲を抑え濾過胞を維持できる点があげられる3).●羊膜移植併用線維柱帯切除術線維柱帯切除術・瘢痕濾過胞再建術における羊膜併用の手術成績について,Shehaら4)の前向きランダム化研究では羊膜移植併用のほうが合併症も少なく,低い眼圧が得られたとする一方で,Kiuchiら5)は,通常のMMC併用濾過胞再建術と比べて差はなかったとしており一定しないが,いずれも1年程度での検討である.当教室で過去に内眼手術歴のある結膜瘢痕症例に対してMMC併用線柱帯切除術/濾過胞再建術を行い,少なくとも1年以上,平均5年の経過観察を行った例で検討したとこ(75)●連載132緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也132.羊膜移植併用緑内障手術山田裕子神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学晩期濾過胞漏出や瘢痕濾過胞,難治緑内障への対応として,羊膜のもつ結膜上皮の分化促進,線維組織増生の抑制,抗炎症作用や基底膜としての働きを生かした羊膜移植が用いられている.羊膜移植併用は,生涯にわたって複数回の手術が必要となる緑内障眼に対して,長期予後からも有効な選択肢になる可能性があると考えられる.図1羊膜移植併用濾過胞再建術のシェーマと実際a,b:羊膜移植併用濾過胞再建術のシェーマ(文献1より).結膜後面を羊膜(AM)で裏打ちすることで,濾過胞の菲薄化,漏出を防ぎ,かつ結膜,Tenon.の強膜への瘢痕癒着を抑制する.c:羊膜移植併用濾過胞再建術の実際.点線で囲まれた部分が羊膜,▼:強膜と羊膜を縫合,▼:Tenon.と羊膜を縫合.abcAMAMConjunctivalincisionsiteTenon’scapsuleConjunctiva828あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011ろ,羊膜移植併用群で,最終的に眼圧コントロールが得られた例が有意に多く,結膜瘢痕症例において羊膜移植併用は長期の予後を改善すると考えられた(表1).また,羊膜移植併用例では濾過胞の菲薄化が少なく,晩期濾過胞感染のリスクを少なくする可能性がある(図2).ただし,晩期の合併症に,虹彩炎の再燃や水疱性角膜症,濾過胞漏出,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離の再発があり,羊膜併用に特異的とはいえないが,術後経過観察において配慮を要する.●羊膜移植併用緑内障手術の問題点と今後羊膜の入手や保存の問題に関して,乾燥羊膜(Hyperdry羊膜)を用いた濾過胞修復について短期的には良好な成績が報告されており,今後の応用が期待される6).また,ドナー間の個体差や採取時の取り扱いの影響については,胎児週数,母体年齢,ドナーや取り扱いによってtransforminggrowthfactor(TGF)bなどの局在や発現量に関して報告があり7),今後濾過胞の形成や維持にかかわる因子が定量され,良い状態の羊膜,あるいは人工羊膜といった形で均質な手術が行えることが望まれる.文献1)Nagai-KusuharaA,NakamuraM,FujiokaMetal:Longtermresultsofamnioticmembranetransplantation-assist-(76)edblebrevisionforleakingblebs.GraefesArchClinExpOphthalmol246:567-571,20082)RauscherFM,BartonK,BudenzDLetal:Long-termoutcomesofamnioticmembranetransplantationforrepairofleakingglaucomafilteringblebs.AmJOphthalmol143:1052-1054,20073)中村誠:【緑内障診療の進めかた】羊膜を用いた修復.眼科プラクティス11巻,p333,文光堂,20064)ShehaH,KheirkhahA,TahaH:AmnioticmembranetransplantationintrabeculectomywithmitomycinCforrefractoryglaucoma.JGlaucoma17:303-307,20085)KiuchiY,YanagiM,NakamuraT:Efficacyofamnioticmembrane-assistedblebrevisionforelevatedintraocularpressureafterfilteringsurgery.ClinOphthalmol30:839-843,20106)KitagawaK,YanagisawaS,WatanabeKetal:Ahyperdryamnioticmembranepatchusingatissueadhesiveforcornealperforationsandblebleaks.AmJOphthalmol148:383-389,20097)HopkinsonA,McIntoshRS,TighePJetal:Amnioticmembraneforocularsurfacereconstruction:donorvariationsandtheeffectofhandlingonTGF-betacontent.InvestOphthalmolVisSci47:4316-4322,2006表1結膜瘢痕症例でのMMC併用線維柱帯切除術.濾過胞再建術―羊膜移植併用の有無での術後成績の比較成功不成功点眼なし点眼あり眼圧コントロール不良水疱性角膜症計羊膜あり11(21%)19(36%)18(34%)5(9%)5330(57%)23(43%)羊膜なし3(13%)3(13%)14(61%)3(13%)236(26%)17(74%)p<0.05成功vs不成功,羊膜あり,なしで比較,c2検定.羊膜あり:結膜瘢痕症例にMMC併用線維柱帯切除術・濾過胞再建術を行う際,羊膜移植を併用したもの.羊膜なし:結膜瘢痕症例に通常のMMC併用線維柱帯切除術・濾過胞再建術を行ったもの.成功:IOP≦21mmHg.不成功;眼圧コントロール不良;点眼にても,IOP>21mmHg,あるいはアセタゾラミド内服あるいは再手術に至ったもの,水疱性角膜症;経過中に水疱性角膜症に至ったもの.ab図2線維柱帯切除術後の濾過胞:羊膜移植併用有無での違いa:羊膜移植あり,b:羊膜移植なし.羊膜移植併用を行った場合,濾過胞壁の菲薄化が少ない.

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーによる白内障手術

2011年6月30日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118250910-1810/11/\100/頁/JCOPYフェムトセカンドレーザーによる白内障手術は,2011年現在,白内障や屈折矯正手術関連の国際学会で,この手術に関する発表やシンポジウム会場は満席というより立ち見状態になるほど注目度が高い.レーザー装置に加え,症例ごとにかかる費用が高価なため,すぐに普及するとは思えないが,学術的には白内障手術に超音波水晶体乳化吸引術が紹介されたときのような新しい時代への動きが感じられる.今までLASIK(laserinsitukeratomileusis)の角膜フラップ作製,角膜移植術,角膜リング挿入術といった角膜手術に用いられてきたレーザーが水晶体手術にも応用され,適応がさらに広がった.●実際のレーザー室フェムトセカンドレーザーといってもイメージがつきにくいと思うので,どのような環境で行う手術か説明する.白内障手術用のフェムトセカンドレーザーは日本に導入されていないので,2011年2月にこの手術を最初に行い,最も症例経験があるハンガリーSemmelweis(73)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載133監修=木下茂大橋裕一坪田一男133.フェムトセカンドレーザーによる白内障手術ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科フェムトセカンドレーザーは,屈折矯正手術や角膜移植手術といった角膜への手術に加え,白内障手術における角膜切開,前.切開,水晶体分割と角膜のみならず水晶体への手術が可能となった.すでに白内障手術の完成度は高いが,精度および安全性において次世代の手術として期待されている.図2フェムトセカンドレーザー右上:前眼部解析モニター.右下:手術眼にレーザー装置のコーンを合わせる.図1Semmelweis大学のレーザー室(左より,筆者とZoltanNagy医師)826あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011大学のZoltanNagy医師を訪ねた(図1).レーザー室の様子および患者の位置,モニター画面を図2に示す.レーザー装置につけられたコーンを手術眼に接触させ,まず前眼部解析装置で角膜厚,水晶体厚などを測定する.その後,角膜,水晶体前.,水晶体への照射パターンを確認し,レーザー照射を開始する.水晶体照射パターンは核硬度によってらせん状または分割を選択する.●レーザー以外の操作フェムトセカンドレーザーが終了すると,つぎに通常の眼科手術顕微鏡下で残りの操作が行われる.多くの施設ではレーザーと手術顕微鏡が同じ部屋にないため,患者の移動が必要である.すでにレーザーで角膜切開および前.切開が終了しているので,最初から水晶体の超音波乳化吸引となる.軟らかい核では超音波を使わず吸引可能なため,皮質吸引用灌流・吸引チップで操作可能である.硬い核は,すでにレーザーで分割ラインが入っているので,フックで完全に分割し超音波チップで乳化吸引する.このため通常の超音波操作時間より短時間ですむ.続いて皮質吸引,眼内レンズを挿入して手術終了となる.切開創はブレードによる切開に比べ閉鎖状態が良好なため,切開部角膜実質へのハイドレーションはほとんど必要ない.●利点と問題点角膜切開や前.切開は従来の方法で臨床的に問題になるようなばらつきはないが,レーザーで作製する場合の精度は非常に高い.前.切開においては,レーザーを用いた症例のほうが前.切開の位置が中央かつ眼内レンズ光学部を理想的にカバーする大きさで作製されているため1),術後の眼内レンズのずれや傾きが少なく,結果として屈折や収差の面で優れているという臨床成績が報告されはじめている.角膜切開や水晶体分割も,術者の感覚に頼らず,前眼部解析装置による測定結果をもとに施行されるので,今までの手術概念が変わる.レーザー操作に必要な時間だが,前眼部解析およびレーザーに習熟した術者であれば,5分ほどである.今までの技術がデジタル化され,精度が上がることは確かだが,問題はレーザー装置購入費用,メンテナンス,各症例に必要な使用料といった経済面である.すでにディスポーザブル製品を多く使う白内障手術において収支が合わないことが指摘されているなか,さらに支出が増えることは,今の日本の保険システムでは不可能である.海外では,フェムトセカンドレーザーと多焦点眼内レンズに代表されるプレミアム眼内レンズの組み合わせを自費手術として行っている.日本と同じく保険制度のもとでの導入はむずかしいからだ.臨床面で,今のところ角膜形状に問題がある例,前房が浅い例,散瞳不良例が適応とならないこと,レーザー照射時の眼球固定による球結膜下出血が問題で,今後の解決が望まれる.文献1)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevaluationofanintraocularfemtosecondlaserincataractsurgery.JRefractSurg25:1053-1060,2009(74)☆☆☆