‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

白内障手術により進行が遅延したレーザー虹彩切開術後の角膜内皮障害の2 例

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(105)1587《原著》あたらしい眼科27(11):1587.1591,2010cはじめにレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)は,閉塞隅角緑内障の治療,あるいは狭隅角眼の緑内障発作の予防的治療として広く用いられてきた.しかし1984年にPollack1)によりLI後水疱性角膜症が紹介されて以来,今日に至るまでLIにより角膜内皮障害が発生した症例の報告2~4)が多数なされている.特にわが国における発生数は突出しており,LI後水疱性角膜症は角膜移植患者の24.2%を占め5),原因疾患の第2位となっている.LI後の角膜内皮障害の機序については諸説あげられているが,明確な病態の解明にはいまだ至っていない.園田ら6)は予防的LI後に角膜内皮障害が発生した症例が,白内障手〔別刷請求先〕永瀬聡子:〒305-0821つくば市春日3-18-1高田眼科Reprintrequests:SatokoNagase,M.D.,TakadaEyeClinic,3-18-1Kasuga,TsukubaCity305-0821,JAPAN白内障手術により進行が遅延したレーザー虹彩切開術後の角膜内皮障害の2例永瀬聡子*1松本年弘*2吉川麻里*2佐藤真由美*2新井江里子*2榎本由紀子*2三松美香*2仙田由宇子*2呉竹容子*2*1高田眼科*2茅ヶ崎中央病院眼科CataractSurgery-inducedStabilizationofCornealEndotheliumDecompensationfollowingLaserIridotomySatokoNagase1),ToshihiroMatsumoto2),MariYoshikawa2),MayumiSato2),ErikoArai2),YukikoEnomoto2),MikaMimatsu2),YukoSenda2)andYokoKuretake2)1)TakadaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,ChigasakiCentralHospital目的:予防的レーザー虹彩切開術(LI)後に角膜内皮障害が発生した症例に,白内障手術を施行したところ内皮障害の進行が遅延した2例の報告.症例:症例1は76歳,女性.平成11年7月両眼に予防的LIを施行.術後,角膜内皮細胞密度は5年後より急激に減少し始め,8年後の時点で,両眼の角膜内皮細胞密度は下方・中央・上方の順で著しく減少していた.平成20年3月に左眼,平成21年5月に右眼の白内障手術を施行.平成22年2月の時点で,両眼とも角膜内皮細胞密度の急激な減少は停止している.症例2は69歳,女性.平成13年6月近医で予防的LIを施行され,同年7月茅ヶ崎中央病院を受診した.このとき角膜内皮細胞に異常所見はなかった.しかしLI施行4年半後内皮細胞は著明に減少していた.平成18年2月両眼の白内障手術を施行.平成21年10月の時点で角膜内皮細胞密度の減少は停止している.結論:白内障手術による房水循環の変化は,下方型LI後角膜内皮細胞障害の進行を遅延させる可能性がある.Wereporttwocasesinwhichcataractsurgerymayhaveinducedstabilizationofcornealendotheliallosssecondarytoprophylacticlaseriridotomy.Laseriridotomyhadbeenperformedfornarrowangleinbotheyesoftwofemales(78and69yearsofage).Cornealendothelialcellsoppositetheiridotomysitedecreasedafterseveralyears,thelowersectionmostrapidlyandthecentermoreslowly;theslowestrateofdecreasewasobservedintheuppersectionofthecornealendothelialcells.Wesubsequentlyperformedthecataractsurgery,withintraocularlensimplantation.Inbothcases,thecornealendothelialcellpopulationhasremainedstablethusfar.Theseresultssuggestthattheaqueousflowisreturningintotheanteriorchambernotviatheiridotomysite,butthroughthepupil.Thisstabilizescornealendothelialcelllossduetoprophylacticlaseriridotomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1587.1591,2010〕Keywords:角膜内皮細胞障害,レーザー虹彩切開術,白内障手術.cornealdecompensation,laseriridotomy,cataractsurgery.1588あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(106)術の施行により内皮障害の進行が停止したと報告している.今回筆者らも園田らと同様に白内障手術によりLI後内皮障害の進行が遅延したと思われる2症例を経験した.これらの症例から水晶体再建術が下方型LI後内皮障害の進行を予防する機序についても考察したので報告する.I症例〔症例1〕76歳,女性.初診:平成11年5月24日.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:半年前からの流涙を主訴に茅ヶ崎中央病院眼科(以下,当科)を受診.初診時所見:視力は右眼0.8(1.0×.0.25D(cyl.0.75DAx60°),左眼0.4(1.0×+1.25D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は両眼9mmHgであった.隅角は両眼Shaffer分類1~2度で,周辺部虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が右眼に2カ所,左眼に1カ所みられた.中間透光体では両眼に皮質白内障がみられた.角膜内皮細胞密度は角膜中央で右眼2,652/mm2,左眼2,463/mm2で,変動係数(coefficientofvalue:CV)値および六角形細胞率とも正常範囲内であった.眼軸長は両眼22.68mmとやや短く,前房深度は右眼2.09mm,左眼2.10mmと浅前房であった.経過:平成11年7月12日閉塞隅角緑内障発作の可能性が高いと考え,右眼に対し耳上側にLI(アルゴンレーザー使用・総エネルギー量10.7J)を施行した.ついで7月26日左眼に対し耳上側にLI(総エネルギー量8.3J)を施行した.LI後の消炎には0.1%フルオロメトロン点眼Rおよびプラノプロフェン点眼を1日4回2週間投与した.その後数カ月ごとに眼圧や視野などを定期的に観察し,角膜内皮細胞については1,2年ごとに角膜中央の角膜内皮細胞密度の検査を実施していた.角膜内皮細胞密度はLI施行後,数年は緩徐な減少を示し,その後は加速度的に減少していた(図1).右眼の角膜内皮細胞密度はLI後9年の時点で,上方が2,358,中央が1,328,下方が602/mm2,左眼の角膜内皮細胞密度はLI後8年8カ月の時点で,上方が2,325,中央が666,下方が615/mm2で,両眼とも角膜下方が最も強く障害されていた(図2).このとき隅角は両眼Shaffer分類2度でPASが右眼に6カ所,左眼に5カ所みられ,隅角の閉塞が進行していた.角膜後面色素沈着は両眼の角膜中央やや下方に散在し01224角膜内皮細胞密度(/mm2)362,6522,6522,1881,9921,9481,5771,7001,3289937136662,1002,1642,4752,4634860経過月数両眼LI7284961081203,0002,5002,0001,5001,0005000左眼白内障手術:右眼:左眼図1症例1:角膜中央部の角膜内皮細胞密度の経過LI~白内障手術直前まで.図2症例1:LI後約9年の部位別角膜内皮細胞写真上段が右眼(LI後9年),下段が左眼(LI後8年8カ月)で,左から角膜上方・中央・下方.(107)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101589てみられ,Emery-Little分類grade2の核白内障が両眼にみられた.視力は右眼が1.0(1.2),左眼が1.0(1.2)と良好であったが,LI後の角膜内皮障害が白内障手術により進行が停止した症例の報告6)があること,角膜内皮細胞密度が加速度的に減少してきていること,特に角膜下方に強い障害がみられていることなどから,白内障手術による房水循環の変化が有効な治療になるかもしれないと考え,まず角膜内皮細胞密度のより悪い左眼に対し平成20年3月4日超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)および眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を耳側強角膜3mm切開で,ソフトシェル法(ビスコートRとヒーロンVRを使用)にて施行した.白内障手術後は,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム液を1日4回1カ月間,0.1%ジクロフェナクナトリウム点眼液を3カ月間投与し,消炎を十分に行った.白内障手術後,角膜中央および下方の角膜内皮細胞密度は減少が停止した(図3).左眼の経過から白内障手術により角膜内皮細胞障害が緩和される可能性が高いと考え,平成21年5月12日右眼のPEA+IOL挿入術を左眼と同様の方法で耳側強角膜3mm切開にて施行した.白内障手術後,左眼と同様に角膜内皮細胞密度の減少はほぼ停止している(図4).〔症例2〕69歳,女性.初診:平成13年7月17日.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:平成13年5月29日右眼に,6月12日左眼に近医で予防的LIを施行(施行条件の詳細は不明).現病歴:両眼の網膜裂孔に対する網膜光凝固術を目的に,近医より当科を紹介され受診.初診時所見:視力は右眼0.4(1.0×.1.00D(cyl.1.25DAx110°),左眼0.9(1.0×+0.25D(cyl.1.00DAx90°),眼圧は右眼が16mmHg,左眼が14mmHgであった.隅角は両眼ともShaffer分類3度でPASはみられなかった.両眼底に網膜裂孔がみられた.角膜中央の角膜内皮細胞密度は右眼が2,673/mm2,左眼が2,631/mm2で,CV値および六角形細胞率とも正常範囲内であった.眼軸長は右眼23.08mm,左眼22.79mmで,前房深度は右眼2.97mm,左眼3.04mmであった.経過:初診日(LI後約1カ月)に両眼の網膜裂孔に網膜光凝固術を施行した.以降,年に1回程度の経過観察をしていたが,角膜内皮細胞の検査はしていなかった.平成17年12月15日(LI後4年半)右眼0.4(0.5×.3.25D(cyl.1.25DAx105°),左眼0.3(0.4×+0.50D(cyl.1.75DAx100°)と核白内障(Emery-Little分類grade3)による視力低下がみられ,白内障手術を希望したため,角膜中央の角膜内皮細胞密度を検査したところ右眼が498/mm2,左眼が1,587/mm2と著明な減少がみられた.このとき隅角は両眼Shaffer分類3度でPASはなかった.また角膜後面色素沈着もみられなかった.白内障手術により右眼は角膜移植が必要になる可能性が高いことを説明したうえで,平成18年2月21日左眼に,続いて2月23日右眼に白内障手術を症例1と同様の方法で施行し,術後の点眼も同様に行い,十分に消炎を行った.白内障手術後,視力は右眼0.7(1.0),左眼0.5(1.0)と改善し,角膜中央の角膜内皮細胞密度の減少もほぼ停止した036912経過月数15182124角膜内皮細胞密度(/mm2)2,3256665886391,6866156364976071,0185831,5179707988257126653,0002,5002,0001,5001,0005000左眼白内障手術:上方:中央:下方647図3症例1:左眼の白内障術後部位別角膜内皮細胞密度の経過経過月数:上方:中央:下方036912角膜内皮細胞密度(/mm2)2,3412,5122,1052,3252,0202,2179937016676336677186166636936046226193,0002,5002,0001,5001,0005000右眼白内障手術図4症例1:右眼の白内障術後部位別角膜内皮細胞密度の経過経過月数:右眼:左眼01224364860728496108120角膜内皮細胞密度(/mm2)2,6311,5871,0441,1241,0201,1002,6784984965167378063,0002,5002,0001,5001,0005000両眼LI施行両眼白内障手術図5症例2:角膜中央部の内皮細胞密度の経過1590あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(108)(図5).白内障術後3年8カ月(LI後8年)の時点で角膜内皮細胞密度は右眼が上方で964,中央で806,下方で781/mm2,左眼が上方で1,760,中央で1,100,下方で894/mm2で,両眼とも角膜下方で最も角膜細胞密度は減少していた(図6).II考按今回の筆者らが経験した2例はいずれも狭隅角眼に対し施行された予防的LIで,長い経過を経て,両眼性に内皮障害が発生していた.まだ水疱性角膜症には至っていないが,角膜の上方・中央・下方における角膜内皮細胞密度を比較したところ,LI施行部位から離れた下方の角膜内皮細胞が最も強く障害されていた.よってこれらは下方型水疱性角膜症に進展する可能性があった症例だと考えた.下方型LI後水疱性角膜症の特徴として,京都府立医科大学は角膜移植を目的に紹介された症例91眼のうち14.3%を占め,その原疾患として狭隅角が84.6%で,予防的LIの症例が多く含まれていたと報告している7).LI後の角膜内皮障害の発生メカニズムにはいくつかの説が報告されている.まず第1はLI施行前から存在する角膜内皮細胞の異常である.糖尿病・滴状角膜・Fuchs角膜変性症・偽落屑症候群などがあげられている2,3,8).第2が術直前および術直後の要因で,急性緑内障発作に伴う低酸素環境やレーザーの過剰照射などで,術後に角膜内皮細胞密度を急激に減少させると考えられている9).第3はLI後も持続する要因に基づくもので,慢性の炎症に由来する「血液・房水柵破綻説」7)や「マクロファージ説」10)と房水動態の異常に由来する「房水ジェット噴流説」11)や「内皮創傷治癒説」12)があげられている.角膜内皮障害はそれらの病態がいくつか複合して発症していると考えられている.症例1の角膜中央の角膜内皮細胞密度はLI後5年くらいまでは緩徐な減少傾向を示し,その後加速度的に減少していた.そして白内障手術後は減少が停止し,むしろ改善傾向がみられた.症例2ではLI後4年半で大きく減少していた角膜中央の角膜内皮細胞密度が,白内障手術後は減少が停止し,白内障術後3年では角膜内皮細胞密度はやや改善した状態で安定していた.これらのことからつぎのような仮説を考えた.浅前房による房水の温流速度の低下による前房全体の房水循環不全(房水対流の減弱または消失)とLI切開窓からの房水の噴出と流入による局所の房水循環不全(房水乱流の発生)が生じているため,房水に淀みが生じ,LIにより産生された何らかの化学物質が前房内からうまく排出されず,前房内の局所(今回の症例では下方)に少しずつ蓄積され,年数を経るごとに強くなる角膜下方の角膜内皮障害を発生させた.そしてさらに障害を受けて脱落した角膜内皮細胞を補償しようと,角膜中央の内皮細胞が遊走を始めるが,遊走中の内皮細胞は脱落しやすいため,内皮細胞の減少が早まるといった悪循環が形成されたのではないかと推測した.この結果,角膜上方は比較的角膜内皮細胞が温存され,中央,下方と行くに従って,障害が強くなったのではないかと考えた.白内障手術は前房内に蓄積していた化学物質を洗浄し,瞳孔を介する生理的な房水循環を復活させ6),かつLI切開窓を図6症例2:白内障術後3年8カ月の部位別角膜内皮細胞写真上段が右眼,下段が左眼で,左から角膜上方・中央・下方.(109)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101591介した房水の流れを減少させることで,房水の淀みを解消する.そして深前房になることで房水の対流が復活し,化学物質の蓄積が解消されることで,下方の角膜内皮細胞密度の減少が停止し,上方から中央へ,さらに下方へと数年の時間を経て角膜内皮細胞が移動・伸展して安定した状態になったものと考えた.加えていずれの症例も両眼性であったことや同じような症例でもまったく角膜内皮細胞障害をきたさない症例も多数存在することから,既存の角膜内皮細胞の易障害性の存在も推定された.陳ら3)の報告にあるような角膜の脆弱性をきたす原因とされる糖尿病,滴状角膜,Fuchs角膜変性などがないのに,通常のまったく問題のなかった白内障手術で,大きく角膜内皮細胞が減少する症例をわれわれはときに経験することがあることからも,原因不明の角膜内皮細胞易障害性をもつ症例が存在する可能性があり,今回の症例もそれに当たるものと考えた.今回筆者らはLIによる下方型の角膜内皮細胞障害が,白内障手術により停止または遅延した2例を経験した.LIを施行した症例では角膜内皮細胞密度を定期的(年1回程度)に観察し,減少傾向がみられたときには,どの部位からの角膜内皮細胞減少かを検討し,その結果下方型の角膜内皮細胞障害が疑われる症例では,上方の角膜内皮細胞が健全なうちに房水循環を改善させる水晶体再建術を施行することが,LI後水疱性角膜症の発症を予防する重要なポイントになると思われた.本論文の要旨は第34回角膜カンファランス(2010年)で発表した.文献1)PollackIP:Currentconseptinlaseriridotomy.IntOphthalmolClin24:153-180,19842)SchwartzAL,MartinNF,WeberPA:Cornealdecompensationafterargonlaseriridotomy.ArchOphthalmol106:1572-1574,19883)陳栄家,百瀬皓,沖坂重邦ほか:レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の組織病理学的観察.日眼会誌103:19-136,19994)金井尚代,外園千恵,小室青ほか:レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症に関する検討.あたらしい眼科20:245-249,20035)島.潤:レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症─国内外の状況─.あたらしい眼科24:851-853,20076)園田日出男,中枝智子,根本大志:白内障手術により進行が停止したレーザー虹彩切開術後の角膜内皮減少症の1例.臨眼58:325-328,20047)東原尚代:レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症─血液・房水棚破綻説─.あたらしい眼科24:871-878,20078)大橋裕一:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症を解剖する!.あたらしい眼科24:849-850,20079)妹尾正,高山良,千葉桂三:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─過剰凝固説─.あたらしい眼科24:863-869,200710)山本聡,鈴木真理子,横尾誠一ほか:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の発症機序─マクロファージ説─.あたらしい眼科24:885-890,200711)山本康明:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の病態─房水ジェット噴流説─.あたらしい眼科24:879-883,200712)加治優一,榊原潤,大鹿哲郎:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の発症機序─角膜内皮創傷治癒説─.あたらしい眼科24:891-895,2007***

角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)1581《原著》あたらしい眼科27(11):1581.1585,2010c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa-ken920-0293,JAPAN角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価福田正道*1佐々木洋*1高橋信夫*1吉川眞男*4北川和子*1佐々木一之*1,2,3*1金沢医科大学眼科学*2金沢医科大学総合医学研究所環境原性視覚病態研究部門*3東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科視覚機能学*(4有)メイヨーEvaluationofCornealDisordersCausedbyProstaglandinDerivativeOphthalmicSolutionsUsingaCornealResistanceMeasuringDeviceMasamichiFukuda1),HiroshiSasaki1),NobuoTakahashi1),MasaoYoshikawa4),KazukoKitagawa1)andKazuyukiSasaki1,2,3)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DivisionofVisionResearchforEnvironmentalHealth,MedicalResearchInstitute,KanazawaMedicalUniversity,3)VisualScienceCourse,DepartmentofRehabilitation,FacultyofMedicalScienceandWelfare,TohokuBunkaGakuenUniversity,4)MayoCorporation目的:角膜抵抗測定装置を用いて,4種類のプロスタグランジン関連薬の家兎眼の角膜上皮に対する安全性(invivo)を評価し,さらに培養兎由来角膜細胞障害性(invitro)との相関性を検討した.方法:培養兎由来角膜細胞株にキサラタンR点眼液(以下,キサラタン),ルミガンR点眼液(以下,ルミガン),トラバタンズR点眼液(以下,トラバタンズ)あるいはトラバタンR点眼液(以下,トラバタン)を0~60分間接触後の生存細胞数を測定し,各点眼薬の50%細胞致死時間(CDT50)を算出した.角膜抵抗測定法では,家兎の結膜.内に各点眼液を15分ごと3回点眼し,点眼終了2分,30分,60分後の角膜抵抗(CR)を測定した.結果:各点眼薬のCDT50(分)はトラバタンズ51.0分,ルミガン50.5分,トラバタン25.3分,およびキサラタン11.6分の順であった.CR測定ではトラバタンの[点眼後CR×100/点眼前CR](CR比)は点眼終了で30分後81.0%,キサラタンは点眼終了2分後で82.0%でいずれも有意に低下した(p<0.05).一方,トラバタンズおよびルミガンではCR比の低下はみられなかった.結論:角膜抵抗測定装置で得た結果は培養角膜細胞による結果と相関性がみられ,生体眼でのプロスタグランジン関連薬の角膜障害性を評価するうえで有用であった.また,いずれの方法においても,角膜障害は,キサラタン>トラバタン>トラバタンズ=ルミガンであった.Objectives:Safetyof4prostaglandinderivativepreparationsforrabbitcornealepitheliumwasevaluatedinvivo,usingacornealresistancemeasuringdevice.Correlationwithcytotoxicityagainstculturedrabbitcornealcellsevaluatedinvitrowasalsoanalyzed.Methods:Culturedcellsofarabbit-derivedcornealcelllinewereexposedtotheophthalmicsolutionsXalatanR,LumiganR,TravatanzRorTravatanRfor0-60minutesandviablecellswerecounted,followedbycalculationofexposuretimecausing50%celldamage(CDT50)foreachsolution.Cornealresistance(CR)wasmeasuredat2,30and60minutesaftercompletionof3eyedropdoses(instilledatintervalsof15minutes)totheconjunctivalsacofeachrabbit.Results:CDT50was51.0minuteswithTravatanzR,50.5minuteswithLumiganR,25.3minuteswithTravatanRand11.6minuteswithXalatanR.CRratio(post-treatmentCR×100/pre-treatmentCR)was81.0%withTravatanR(30minutesafterendoftreatment)and82.0%withXalatanR(2minutesafterendoftreatment),indicatingsignificantreductionofCRtreatmentwiththesetwopreparations(p<0.05).CRdidnotdecreaseaftertreatmentwithTravatanzRorLumiganR.Conclusion:Theseresultssuggestthatthecytotoxiceffectswere:XalatanRophthalmicsolution>TravatanRophthalmicsolution>TravatanzRophthalmicsolution=LumiganRophthalmicsolution.Thedataoncornealresistancecorrelatedwiththedatafromculturedcornealcells,reflectingtheusefulnessofcornealresistanceasanindicatorofcornealinjurybyprostaglandinderivativesinvivo.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1581.1585,2010〕1582あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(100)はじめに一般に点眼薬には,有効性,安全性,安定性,さし心地という4つの条件が求められ,そのために主薬のほか種々の添加剤が加えられている.抗菌薬,抗ウイルス薬,抗真菌薬,非ステロイド薬,抗緑内障薬および表面麻酔薬などさまざまな点眼薬で比較的高頻度に発現する副作用である角膜上皮障害は,頻回点眼,多剤併用および長期連用ではさらにその発症頻度が高くなる.角膜上皮障害の原因として,添加剤である防腐剤が注目されている.筆者らはこれまでに,培養兎由来角膜細胞による評価法(invitro)や角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,種々の点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性を評価している1,2).本研究では4種類のプロスタグランジン関連薬の角膜上皮への影響を,invitroおよびinvivoの実験系で評価し,薬剤により異なる原因,および評価系の相関について検討した.I実験材料1.試験薬剤つぎの点眼薬について検討した.また,これらの製剤のおもな成分については表1に示した.・キサラタンR点眼液0.005%(ファイザー):主成分ラタノプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,キサラタンと略す)・トラバタンズR点眼液0.004%(日本アルコン):主成分トラボプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,トラバタンズと略す)・トラバタンR点眼液(アルコン):主成分トラボプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,トラバタンと略す)・ルミガン点眼液0.03%(千寿製薬):主成分ビマトプロスト(プロスタマイド誘導体)(以下,ルミガンと略す)を用いた.2.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0~3.5kg)(雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学の動物使用倫理委員会の使用基準に従い,そのうえ,実験はARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従って,動物に負担が掛らないように,配慮して行った.3.使用細胞株細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60)(以下,SIRCと略す)を使用し,10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜電極は湾曲凹面に関電極および不関電極を同心円状に配設し,両電極が測定時に家兎の角膜表面に接するようにした.さらに,電気抵抗計装置から関電極および不関電極間に電流を通電し,その電気抵抗を測定することで角膜の電気抵抗を測定する3).角膜抵抗値(以下,CRと略す)の測定には図1に示した角膜抵抗測定装置(Cornealresistancedevice,CRDFukudamodel2007)を用いた.本装置は角膜CL電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,Inc.USA),およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)から構成されている.角膜CL電極はアクリル樹脂製でウサギ角〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1579.1583,2010〕Keywords:角膜抵抗,培養角膜細胞株,プロスタグランジン関連薬,角膜上皮障害,生体眼.cornealresistance,culturedcornealcellline,prostaglandinderivatives,cornealepithelialinjury,eyeinvivo.表14種のプロスタグランジン系緑内障点眼剤の組成点眼液トラバタンR点眼液0.004%トラバタンズR点眼液0.004%キサラタンR点眼液ルミガンR点眼液0.03%有効成分トラボプロスト40μg(1ml中)トラボプロスト40μg(1ml中)ラタノプロスト50μg(1ml中)ビマトプロスト300μg(1ml中)添加物ベンザルコニウム塩化物ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,トロメタノール,ホウ酸,マンニトール,pH調整剤2成分,EDTA(エチレンジアミン四酢酸)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,プロピレングリコール,ホウ酸,D-ソルビトール,塩化亜鉛,pH調整剤2成分ベンザルコニウム塩化物リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,等張化剤ベンザルコニウム塩化物リン酸水素ナトリウム水和物,塩化ナトリウム,クエン酸水和物,塩酸,水酸化ナトリウム(101)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101583膜形状に対応する直径とベースカーブとを有している.湾曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)は,それぞれ,12mm,4.8mmおよび,幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は交流,周波数:1,000Hz,波形:矩形波,duration:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRC(2×105cells)を10%FBS添加DME培地37℃,5%CO25日間培養後,各点眼液(200μl)を0~60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.CDT50(分)は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=.b±b2-4ac/2aにより求めた.Y軸に値が50%となるときのX軸値を2次方程式から求め,これをCDT50(分)値とした.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)成熟白色家兎の結膜.内にキサラタン,ルミガン,トラバタンズあるいはトラバタンを15分ごと3回(1回50μl)点眼し,点眼終了2分,30分,60分後のCRを測定した.家兎を4群に分けて,1群に4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)=(mV×10.3)/100μA×10.6CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分,30分,60分後に1%fluoresceinsodium2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.染色の程度はAD分類5)により評価した.4.統計学的処理検定はStudent’st-testを行い,有意水準は0.05%とした.III結果1.培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRCに対する評価では,トラバタンの生存率は接触30分後まではトラバタンズとほぼ同程度の生存率を示したが,接触60分時点では50.0%にまで減少しトラバタンズに比べて有意に減少した(p<0.05).ルミガンでは接触時間の経過とともに,徐々に生存率は減少した.一方,キサラタンでは接触時間とともに生存率は減少し,接触8分後では17.1%にまで減少した(図2).各種点眼薬のCDT50はトラバタンズ51.0分,ルミガン50.5分,トラバタン25.3分,キサラタン11.6分の順であった.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法によるCR比は,トラバタン81.0%(点眼終了30分後),キサラタン82.0%(点眼終了2分後)とそれぞれ有意に低下した(p<0.05)が,その後,時間の経過とともに回復した.一方,トラバタンズではどの時点もほとんど低下はみられなかった.ルミガンにおいても,CR(%)の低Trigger(Functiongenerator)IsolatorPowerLab(current=±50μA,frequency=1,000Hz)ComputerContactlenselectrodes図1角膜抵抗測定装置の図0生存率(%)10203040時間(分)50607080**p<0.001:トラバタン120100806040200:トラバタンズ:キサラタン:ルミガン図2培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)010203040506070CR(%)時間(分)140120100806040200:トラバタン:トラバタンズ:キサラタン:ルミガン図3角膜抵抗測定法による評価(invivo)1584あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(102)下はみられず,むしろ,わずかに高い値を示す傾向がみられた(図3).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色によるAD分類では,トラバタンはA1D1(点眼終了30分後)(4眼中4眼),キサラタンはA1D2(点眼終了2分後)(4眼中4眼)であった.トラバタンズとルミガンでは各時点においてもA0D0(各4眼中4眼)であった(図4).IV考按今回,実験に用いた角膜抵抗測定装置は,これまでにいくつかの改良を加えて,得られる値の信頼性,生体に対する安全性を確立した筆者らが開発した装置であり,薬剤の角膜上皮障害の評価方法として有用性が高いことを報告している3).すなわち,本測定装置は,家兎眼の角膜上に電極を埋め込んだコンタクトレンズを装着して,交流電流を通電し,コンピュータ上に電圧を表示させ,電流と電圧の関係から抵抗値を算出するシステムで,invitroの実験系ではみることのできない角膜上皮バリア機能の回復過程を家兎眼でリアルタイムに定量的に確認することができる.培養角膜細胞(invitro)による実験系はSIRC細胞に各点眼薬を接触し,経時的に細胞数を測定して,CDT50(分)を算出するもので,筆者らはこれまでに,数多くの点眼薬の安全性の評価にこの方法を用いて行ってきた.この評価方法は測定感度が高いこと,データの再現性が良いこと,実験操作が簡便であることなどの長所を有する.一方,短所としては単層細胞系で生体眼での生理学的な現象と異なる環境であるため,得られたデータがどの程度,生体眼での影響を反映しているか不明の点がある.そこで,これらの異なる評価方法により,4種のプロスタグランジン系関連薬の角膜上皮細胞への影響の比較と合わせて,評価方法から得られた結果の相関性を明らかにする目的で検討を行った.その結果,CR比では,ベンザルコニウム塩化物(以下,BAKと略す)0.015%含有のトラバタンは81.0%(点眼終了30分後),BAK0.02%含有のキサラタンは82.0%(点眼終了2分後)にそれぞれ低下したが,時間の経過とともにいずれもCR値は上昇した.BAKを含まないトラバタンズとBAK0.005%含有のルミガンはいずれの時点でもCR比の低下はほとんどみられなかった.ルミガンでは点眼前に比べて,点眼後はわずかではあるが高値を示す傾向がみられたが,この原因は点眼薬中の添加剤であるクエン酸などが影響しているのではないかと考えている.このときの角膜上皮のフルオレセイン染色による評価ではキサラタンが最も障害がA1D2A0D0A0D0A1D1トラバタントラバタンズルミガン点眼終了30分後点眼終了30分後点眼終了30分後点眼終了2分後キサラタン図4フルオレセイン染色法による角膜障害例(103)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101585強く,ついでトラバタンで,トラバタンズとルミガンでは明らかな障害はみられず,角膜抵抗の結果と一致した.Invitro試験としてのSIRC細胞の60分接触の生存率では,トラバタンがトラバタンズに比べ有意に低下した(p<0.05%).また,CDT50についてもトラバタンズとルミガンに比べてキサラタンとトラバタンは短く,細胞障害を起こしやすい傾向がみられた.このようなトラバタンとトラバタンズの角膜障害の差は,おそらくBAKの有無によるものと考えられ,過去にもいくつかの報告がある5,6).BAKを含まないトラバタンズでもinvitroの実験では細胞生存率が薬剤接触直後から30~40%の減少がみられたが,この原因は細胞死によるものではなく,点眼薬中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40による細胞間の密着性の低下による細胞脱落が原因である可能性が高いと考えている.しかしinvivoの実験においては,涙液の存在のために角膜上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40が希釈され,角膜上皮の構造が密で重層であることから影響が生じにくかったものと思われる.角膜上皮バリア機能の回復に関しては,Wolasinの家兎角膜細胞での報告によると,最表層1層のみの.離なら健常レベルに回復するまで1時間程度で,この程度では蛋白合成阻害の影響を受けない.一方,翼状細胞までの.離では健常レベルに回復するまでに8~10時間を要し,この過程では蛋白合成阻害の影響を受けることが知られている7).今回の実験で得られた生体眼でのCR値はおそらく,角膜上皮障害の程度と回復状態を反映していると考える.以上の結果はinvitro(培養兎由来角膜細胞)とinvivo(角膜抵抗測定およびフルオレセイン染色)による評価法はよく相関していることを示したものと考えてよい.したがって,生理的条件が異なるため培養細胞での細胞障害の結果をそのまま臨床評価に結び付けることはできないが,培養細胞の評価は生体眼での成績を予測する有用な検討方法と考える.本研究から4種類のプロスタグランジン関連薬で角膜上皮への影響に差があることを改めて確認できた.ただし,正常な角膜に対する1日1回の単剤点眼であれば,BAK含有点眼薬であっても,細胞障害をひき起こすことはほとんどないと考えられる.しかし,角膜が脆弱なあるいは他の点眼薬の併用が必要な緑内障患者では,できる限り角膜障害の少ない点眼薬を使用したい.最近,配合剤が点眼コンプライアンスの向上および角膜上皮障害の低減の面から注目されているが,最適な薬剤の選択には十分な眼圧下降効果を有することも考慮することが重要である.文献1)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20092)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20093)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20074)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20035)PellinenP,LokkilaJ:Cornealpenetrationintorabbitaqueoushumoriscomparablebetweenpreservedandpreservative-freetafluprost.OphthalmicResearch4:118-122,20096)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-518,20067)WolosinJM:Regenerationofresistanceandiontransportinrabbitcornealepitheliumafterinducedsurfacecellexfoliation.JMembrBiol104:45-55,1988***

早発型発達緑内障の兄妹発症例

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1577《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1577.1580,2010cはじめに早発型発達緑内障は,先天的隅角形成異常に起因する疾患である.発症頻度はわが国での全国調査によると10万人に1人である1).約10%の症例で常染色体劣性遺伝形式をとるが,ほとんどが孤発例であり2),同胞発症は非常に珍しいと考えられる.今回早発型発達緑内障の兄妹発症例にトラベクロトミーを行い,眼圧は下降したものの角膜の改善に時間を要した症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕生後3日目の男児.現病歴:他院産婦人科にて在胎38週6日,出生時体重3,000g,正常分娩にて出生した翌日,看護師が両眼の角膜混濁に気づき,生後3日目の2002年7月18日,他院小児科より関西医科大学滝井病院眼科を紹介受診した.両眼とも角膜は混濁し,横径11mmであったが,それ以上の詳細な検査は行えなかったため,精査,加療目的で入院となった.なお,母親の妊娠中は特に異常はみられず,また生後小児科〔別刷請求先〕田中春花:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学枚方病院眼科Reprintrequests:HarukaTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata-shi,Osaka573-1191,JAPAN早発型発達緑内障の兄妹発症例田中春花*1南部裕之*1,3城信雄*1二階堂潤*1西川真生*1加賀郁子*1安藤彰*2松村美代*1,3髙橋寛二*1*1関西医科大学枚方病院眼科*2関西医科大学滝井病院眼科*3永田眼科SiblingCaseofDevelopmentalGlaucomaHarukaTanaka1),HiroyukiNambu1,3),NobuoJo1),JunNikaido1),MakiNishikawa1),IkukoKaga1),AkiraAndo2),MiyoMatsumura1,3)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityTakiiHospital,3)NagataEyeClinic早発型発達緑内障の兄妹発症例を経験した.症例1は生後3日目の男児で,生後1日目に両眼に角膜混濁がみられた.症例2は生後19日目の女児,症例1の妹で,生後6日目に右眼に同様の角膜混濁がみられた.両者とも眼圧上昇,角膜径の増大および虹彩高位付着がみられ早発型発達緑内障と診断した.トラベクロトミー施行後眼圧は下降したが,角膜混濁が残存し当初は先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)の合併も疑った.しかし両者とも術後1~2カ月で角膜は透明になり,のちに症例1の右眼で測定できた角膜内皮撮影によりCHEDの合併は否定された.わが国での早発型発達緑内障の同胞発症の確かな報告は筆者らが調べた限り初めてである.非常にまれなケースと考えられるが,このような症例もあることを念頭におく必要があると思われる.ThisisthefirstreportinJapanofsiblingearlyonsetdevelopmentalglaucoma.Case1,a3-day-oldmale,presentedcornealopacityinbotheyes.Case2,a19-day-oldfemale,theyoungersisterofcase1,presentedcornealopacityintherighteye.Developmentalglaucomawasdiagnosedonthebasisofelevatedintraocularpressure(IOP),buphthalmosandhighirisrootinsertions.AlthoughIOPdecreasedaftertrabeculotomyinbothcases,thecornealopacitiesremained.Congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy(CHED)combinedwithdevelopmentalglaucomawasinitiallysuspected,butwasnotsustained,becausetheopacitiesreturnedatseveralweeksafterthesurgery.Intherighteyeofcase1thecornealendothelialcells,whichcouldbecountedaftersurgery,numberedabout2,600/mm2.Siblingcasesofdevelopmentalglaucomaarerare,butaresometimesencountered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1577.1580,2010〕Keywords:発達緑内障,同胞発症,トラベクロトミー,先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ.developmentalglaucoma,siblingonset,trabeculotomy,congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy.1578あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(96)にて精査されたが,全身的な異常はみられなかった.家族歴(図1):聴取可能であった家系内で,兄妹以外に緑内障の症例は認めず,血族結婚もなかった.なお,図1にある家系への病歴聴取は両親によって行われたもので,両親以外に眼科検診にて緑内障を含む眼疾患がないことを確認できた者はなかった.両親には関西医科大学枚方病院眼科(以下,当科)で診察を行ったが,隅角・眼底を含め異常はみられなかった.全身麻酔下での所見(生後14日):眼圧は右眼20mmHg,左眼20mmHg(Perkins眼圧計),角膜径(縦×横)右眼11.0×11.0mm,左眼11.0×11.0mmで,両眼とも著明な角膜上皮浮腫がみられた(図2).前房深度は正常で,中間透光体には異常はみられなかった.隅角には虹彩高位付着がみられた.視神経乳頭は蒼白であったが明らかな乳頭陥凹拡大はみられなかった.網膜には異常はみられなかった.経過:眼圧値,角膜および隅角所見より早発型発達緑内障と診断し,同日(生後14日)両眼にトラベクロトミーを12時方向で施行した.術後7日目にトリクロホスナトリウム(10%トリクロリールシロップR)とジアゼパム(ダイアップR)座薬下にて,眼圧は両眼とも15mmHgであった.以後,両眼とも眼圧は14~15mmHgで経過した.角膜上皮浮腫は,右眼は術後1カ月,左眼は術後2カ月で消失した.角膜上皮浮腫消失後に精査したが,Haab’sstriaeはみられなかった.以後5歳まで両眼とも眼圧は14~15mmHgで経過した.2007年10月(生後5歳3カ月),当科受診時,眼圧は両眼とも20mmHgを示した.同年12月に全身麻酔下で再検したところ,右眼28mmHg,左眼22mmHgであったので,両眼にトラベクロトミーを8時方向で再度施行した.なお,再手術時には角膜上皮浮腫はみられなかった.以後眼圧は16mmHg前後で経過し,2009年12月24日(生後7歳5カ月)再来時,ラタノプロスト(キサラタンR)点眼下にて右眼15mmHg,左眼16mmHg(局所麻酔下,Goldmann眼圧計),視力は右眼(0.6×sph.4.5D(cyl.2.75DAx180°),左眼(0.5×sph.2.75D(cyl.0.75DAx180°)であった.なお,角膜内皮細胞数は右眼のみしか測定できなかったが2,666/mm2であった(図3).〔症例2〕生後19日目の女児(症例1の妹).現病歴:関西医科大学枚方病院産婦人科にて在胎40週3日,出生時体重3,320g,正常分娩にて出生した.生後6日目に母親が右眼の角膜混濁に気づき,生後19日目の2008年6月26日,当院小児科より当科紹介受診した.右眼に角膜混濁がみられ,両眼とも角膜横径11mmであったが,それ以上の詳細な検査は行えなかったため,精査,加療目的で入院となった.なお,母親の妊娠中は特に異常はみられず,生後小児科にて精査されたが,全身的な異常はみられなかった.全身麻酔下での所見(生後22日):眼圧は右眼22mmHg,左眼16mmHg(Perkins眼圧計),角膜径(縦×横)右眼11.0×10.5mm,左眼10.5×10.0mmで両眼とも症例1と同様の角膜上皮浮腫がみられたが右眼のほうが著明であった(図4).前房深度は正常で,中間透光体には異常はみられなかった.隅角には虹彩高位付着がみられた.視神経乳頭はC/D比(陥凹乳頭比)(縦)右眼0.7,左眼0.6で網膜には異常は:男:女:緑内障:眼科検診を受けた者症例1症例2図1症例1,症例2の家系図症例1,2の兄妹以外に緑内障の症例はなかった.両親に対しては眼科検診を行ったが異常はなかった.図2症例1の前眼部写真両眼とも角膜径の増大と角膜上皮浮腫がみられる.図3症例1の右眼角膜内皮細胞写真角膜内皮細胞数は2,666/mm2であった.(97)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101579みられなかった.経過:眼圧値,角膜,隅角および視神経乳頭陥凹拡大所見より早発型発達緑内障と診断し,同日(生後22日)両眼にトラベクロトミーを12時方向で施行した.術後7日目に全身麻酔下にて眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHgであった.以後,トリクロホスナトリウム(10%トリクロリールシロップR)とジアゼパム(ダイアップR)座薬下にて眼圧測定を行っているが,10mmHg台前半で経過し,2009年12月24日(生後1歳6カ月)再来時,眼圧は両眼とも13mmHgであった.角膜上皮浮腫は両眼とも術後3週で消失した.なお,Haab’sstriaeは症例1と同様みられなかった.II考按最初にも述べたように,早発型発達緑内障はわが国では10万人に1人の頻度である1).約10%の症例で常染色体劣性遺伝形式をとるほかは孤発例であり2),さらに第一子が早発型発達緑内障であった場合,第二子が緑内障になる確率は3%との報告がある3).よって発達緑内障の同胞発症はまれであると考えられる.1992年のわが国の全国調査1)でも同胞発症に関しての記述はなく,新潟大学での臨床研究では対象となった53例のなかに同胞発症例はなかったと記載されている4).わが国での発達緑内障の同胞発症の報告は,晩発型では報告されている5)が,早発型に関しては兄が発達緑内障であったため受診したという一文の記載がある1例のみ6)で,早発型発達緑内障における同胞発症のわが国での確かな報告は筆者らが調べた限り初めてで非常にまれなケースと考えられる.本報告のみで遺伝相談に生かせるとまでは言えないが,少なくともこのような症例もあることを念頭におく必要がある.最近,早発型発達緑内障の原因遺伝子として,前房隅角の発達に関与するCYP1B1遺伝子の変異が報告されている7~9).一般的に発達緑内障では男児の患者が多いとされている1)が,CYP1B1遺伝子変異群は,非変異群と比べて,女児の占める割合が有意に多く,発症時期は,変異群では非変異群と比べて有意に早期に発症すると報告されている7).今回の症例では遺伝子検査は行っていないが,男児と女児の同胞発症であること,発症時期は男児が生後1日,女児が生後6日と早期の発症であった.既報7)のCYP1B1遺伝子変異群の臨床的特徴を示すものと考えるが,今後患者家族の同意が得られれば,遺伝子検査を行い,CYP1B1をはじめとする既知の緑内障関連遺伝子に関してスクリーニングを行いたい.今回報告した2症例の臨床的特徴として,両者とも生後早期の角膜混濁で発見され,術後に眼圧が下降したにもかかわらず角膜上皮浮腫が1~2カ月残存したことがあげられる.新生児にみられる角膜混濁の原因としては,強膜化角膜やPeters奇形などの先天的奇形,角膜ジストロフィ,先天風疹症候群などに伴う角膜炎,ムコ多糖症などの代謝異常などがあげられる10)が,角膜に血管進入がみられなかったこと,虹彩前癒着がなかったこと,妊娠中に異常がなかったこと,出生後の全身検索で異常がみられなかったことより,角膜ジストロフィの可能性が疑われた.特に角膜全体の上皮浮腫がみられたことから,先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy:CHED)の合併を疑った.1995年MullaneyらはCHEDと早発型発達緑内障の合併例について報告し,眼圧下降したのにもかかわらず角膜混濁が残存すれば両者の合併を考慮する必要があるとしている11).症例1の初回の術直後はCHEDの合併を疑ったが,その後患児が成長してのちの角膜内皮撮影では右眼角膜内皮細胞数が約2,600/mm2であった.2症例とも現在も角膜は透明性を維持しておりCHEDの合併例とは考えにくい.通常発達緑内障では眼圧が下降すると速やかに角膜上皮浮腫も消失する.この兄妹例で眼圧下降後も角図4症例2の前眼部写真左:右眼,右:左眼.右眼のほうが角膜上皮浮腫が著明であった.1580あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(98)膜上皮浮腫が遷延した原因は不明だが,角膜内皮に関しては今後も注意深く経過をみる予定である.文献1)滝沢麻里,白土城照,東郁郎:先天緑内障全国調査結果(1992年度).あたらしい眼科12:811-813,19952)DeluiseVP,AndersonDR:Primaryinfantileglaucoma(Congenitalglaucoma).SurvOphthalmol28:1-19,19833)JayMR,PhilM,RiceNSC:Geneticimplicationsofcongenitalglaucoma.MetabOphthalmol2:257-258,19784)今井晃:小児先天緑内障に関する臨床的研究第1報統計的観察.日眼会誌87:456-463,19835)中瀬佳子,吉川啓司,井上洋一:Developmentalglaucoma晩発型の1家系.眼臨86:650-655,19926)森俊樹,加宅田匡子,八子恵子:小児緑内障の手術予後.眼臨92:1236-1238,19987)OhtakeY,TaninoT,SuzukiYetal:PhenotypeofcytochromeP4501B1gene(CYP1B1)mutationsinJapanesepatientswithprimarycongenitalglaucoma.BrJOphthalmol87:302-304,20038)SuriF,YazdaniS,Narooie-NejhadMetal:VariableexpressivityandhighpenetranceofCYP1B1mutationsassociatedwithprimarycongenitalglaucoma.Ophthalmology116:2101-2109,20099)FuseN,MiyazawaA,TakahashiKetal:MutationspectrumoftheCYP1B1geneforcongenitalglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol54:1-6,201010)AllinghamR,DamjiK,FreedmanSetal:Congenitalglaucoma.Shield’stextbookofglaucoma.5thedition,p244-246,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,200511)MullaneyPB,RiscoJM,TeichmannKetal:Congenitalhereditaryendothelialdystrophyassociatedwithglaucoma.Ophthalmology102:186-192,1995***

2 剤併用投与をタフルプロスト単独投与に変更した場合の眼圧下降効果

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(91)1573《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1573.1575,2010cはじめに2008年12月,緑内障および高眼圧症治療薬剤として新しいプロスタグランジン(PG)F2a誘導体であるタフルプロスト(タプロスR)0.0015%が参天製薬より発売された.タフルプロストはプロスト系PG製剤であり,プロスタノイドFP受容体に高い親和性をもつため強力な眼圧下降効果が期待できる点眼液である.また,他のプロスト系PG製剤と違い,わが国で初めて創製されたプロスト系PG製剤である.既存のPGF2a誘導体1剤とタフルプロストとの眼圧下降効果の比較はなされているが,2剤併用とタフルプロスト1剤単独使用の眼圧下降効果の評価はあまりなされていない.今回,筆者らは既存のプロスト系PG製剤,つまり,ラタノプロスト(キサラタンR:ファイザー社製)もしくはトラボプロスト(トラバタンズR:日本アルコン社製)とブリンゾラミド(エイゾプトR:日本アルコン社製)との2剤併用点眼していた症例をタフルプロストの単独投与に変更した場合の眼圧下降効果を比較検討した.I対象および方法対象は当院において既存のプロスト系PG製剤とブリンゾ〔別刷請求先〕小林茂樹:〒981-0913仙台市青葉区昭和町1-28小林眼科医院Reprintrequests:ShigekiKobayashi,M.D.,KobayashiEyeClinic,1-28Showamachi,Aoba-ku,Sendai981-0913,JAPAN2剤併用投与をタフルプロスト単独投与に変更した場合の眼圧下降効果小林茂樹小林守治小林眼科医院IntraocularPressure-ReducingEffectsofShiftfromProstaglandinFormulation-BrinzolamideCombinationtoTafluprostMonotherapyShigekiKobayashiandMoriharuKobayashiKobayashiEyeClinic目的:既存のプロスタグランジン(PG)製剤と新しく開発されたタフルプロストとの比較はなされているが,2剤併用点眼とタフルプロスト単独点眼との比較検討はあまりなされていない.今回,PG製剤とブリンゾラミドの2剤を併用点眼していた症例をタフルプロストの単独点眼に変更した場合の眼圧下降効果を比較検討した.対象および方法:対象は2剤併用していた広義の開放隅角緑内障および高眼圧症の症例23例42眼.方法は2剤併用点眼時とタフルプロスト単独点眼変更後の眼圧を比較し,解析には受診時眼圧の平均値を用いた.結果:2剤併用点眼時の平均眼圧は10.9mmHg,タフルプロスト単独点眼後の平均眼圧は11.3mmHg(p=0.0013)であった.変更前と比較して眼圧が不変であったのは32眼(76%)であった.結論:タフルプロストの単独投与に変更後も眼圧は維持され,点眼の簡便性においても好評であった.Purpose:Toinvestigatetheintraocularpressure(IOP)-reducingeffectsofshiftingfromprostaglandinformulation-brinzolamidecombination(combinationtherapy)totafluprostmonotherapy.Subjects:Subjectscomprised23patients(42eyes)thathadbeenreceivingthecombinationtherapy.Methods:MeanIOPonreceivingthecombinationtherapywascomparedwiththataftershiftingtotafluprostmonotherapy.Results:IOPdidnotchangein32eyes(76%),demonstratingtheeffectivenessoftafluprostmonotherapy.Conclusions:IOPdidnotchange,andinstillationconveniencewasgood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1573.1575,2010〕Keywords:緑内障,タフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト,ブリンゾラミド.glaucoma,tafluprost,latanoprost,travoprost,brinzolamide.1574あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(92)ラミドの2剤併用した正常眼圧緑内障(NTG)15例28眼,原発開放隅角緑内障(POAG)6例11眼および高眼圧症2例3眼,合計23例42眼(男性13例23眼,女性10例19眼)であり,年齢は76.0±9.7歳であった.3例5眼は当院初診時より人工水晶体眼であったが,その他の対象症例すべてに内眼手術の既往はなく,特に全例において,緑内障手術の既往はなかった.対象である患者には今回,タフルプロスト単独投与に変更することに対する意義を十分に説明し,インフォームド・コンセントを得たが従来の2剤併用点眼治療を要望した症例は対象症例より除外した.方法は外来受診時眼圧をノンコンタクトレンズトノメーターで3回測定し,その平均値を受診時眼圧値とし,解析には,各治療期間中に得られたすべての外来受診時眼圧の平均値を用いた.II結果対象症例のうち1症例2眼がタフルプロスト単独点眼に変更後,眼圧が1カ月で2mmHg以上,上昇した.この症例に関してはブリンゾラミドを追加投与し,経過観察としたため対象症例より除外した.既存のプロスト系PG製剤とブリンゾラミドの2剤併用点眼していた治療期間は1.9±1.0年間(平均値±標準偏差)であり,タフルプロスト単独点眼投与に変更してからの治療期間は4.2±1.2カ月間(平均値±標準偏差)であった.既存のプロスト系PG製剤とブリンゾラミドの2剤の併用点眼時の平均眼圧は10.9mmHg,タフルプロスト単独点眼後の平均眼圧は11.3mmHgと有意に0.4mmHgの上昇を認めた(p=0.0013,Wilcoxon符号付順位検定).しかし,変更前と比較して,変更後1mmHg以内の眼圧変動を臨床的に不変と定義すると,32眼(76%)の変更後の眼圧は不変であり,1mmHgを超えた眼数は10眼(24%)であった(図1).変更前眼圧が12mmHg以上の症例11眼は図1上,変更後,眼圧が下降傾向にあるが,変更前平均眼圧は13.5mmHg,変更後平均眼圧13.7mmHgと有意な差を認めなかった(p>0.62,Wilcoxonの符号付順位検定).眼圧は変更前,変更後において同等と考えられる.III考按プロスト系PG製剤として1999年,ラタノプロスト(キサラタンR)が発売された.ラタノプロストはPGF2aの17位にフェニル基を導入した誘導体を開発することで,PGのプロスタノイドFP受容体への選択性が向上し,房水のぶどう膜強膜流出のみを増加させ眼圧下降を示す1).もともとPGF2aの骨格である15位の水酸基は眼圧下降などのPGF2aの生理活性に必須であると考えられていたため2),その後,開発されたトラボプロスト(トラバタンズR)も基本骨格はラタノプロストと同様であり,17位にフェニル基,15位に水酸基をもつ15位ヒドロキシ型PG誘導体である.今回,開発されたタフルプロストは従来開発されたプロスト系PG製剤と異なり,PGF2aの骨格である15位の水酸基と水素基を2つのフッ素に置換した15位ジフルオロ型PG誘導体であるため,従来のプロスト系PG製剤よりもプロスタノイドFP受容体に対する親和性が高まったと考える3,4)(図2a.d).特に実験的にはプロスタノイドFP受容体に対する親和性はタフルプロストとラタノプロストを比較すると,タフルプロストはラタノプロストの12倍4),トラボプロストとラタノプロストを比較すると,トラボプロストの親和性はラタノプロストの2.8倍であると推定されるため3),現在発売されているプロスト系PG製剤のプロスタノイドFP受容体に対すHOHOOOOFFd:タフルプロストHOHOa:天然型PGF2ab:ラタノプロストc:トラボプロストHOHOOOHH10155120HOOOHOHHOHOCF3OOOHOH図2天然型PGF2aおよび既存のプロスト系製剤とタフルプロストの構造46810121416184681012141618変更後眼圧(mmHg)変更前眼圧(mmHg)a517b図12剤併用時(変更前)とタフルプロスト単独点眼に変更後の眼圧変化a:変更前眼圧と変更後眼圧が同値であるライン.b:変更後1mmHgの眼圧上昇ライン.bの対角線以下の変更後眼圧値を変更前と比較して不変と考えると32眼(76%)の眼圧は不変であり,眼圧値が変更後1mmHgを超えた眼数は10眼(24%)であった.(93)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101575る親和性はタフルプロスト>トラボプロスト>ラタノプロストの順と考えられ5),眼圧下降効果と相関があると思われる.今回,筆者らはこのタフルプロストの強力な眼圧下降効果を期待し,プロスト系PG製剤であるラタノプロストもしくはトラボプロストとブリンゾラミドの2剤併用していた症例をタフルプロスト1剤のみに変更し,眼圧下降効果を比較検討した.その結果,2剤併用時より平均0.4mmHgと有意に眼圧上昇を認めたが,1mmHg以内の眼圧上昇であり,変更前後の眼圧は不変と考えられる.しかし,変更前眼圧測定期間は変更後の眼圧測定期間に比べ長期であり,今後,変更後の眼圧測定を継続することは重要と思われる.これらのタフルプロストの眼圧下降効果の有効性は他のプロスト系PG製剤とは違う物理化学的,薬理学的特性によるものと思われる.つまり,タフルプロストのフッ素導入の効果はプロスタノイドFP受容体以外にほとんど作用しない高い選択性4)により活性が増強され,フッ素の物理化学的特性により生体内でも化学的においても代謝,分解は非常に受けにくく,薬剤としての安定性に優れている.その物理化学的メカニズムは以下の3つの特性によると考えられる6)(図3).1)フッ素(F)原子は立体的に水素(H)原子についで小さい原子である.2)フッ素(F)原子は電気陰性度が最も大きく,次が酸素(O)原子であり,しかも両原子は結合距離がきわめて近い.3)フッ素(F)原子は結合解離エネルギーが最も大きく,炭素,フッ素(C-F)結合は非常に切れにくいが,炭素,酸素(C-O)結合は切れ易い.つまり,切れ易いということは代謝を含め反応を受け易いと考えられる.したがって,フッ素は水素のように作用し,酸素のようにも作用する.前述したようにタフルプロストはPGF2aの骨格である15位の水酸基と水素基を2つのフッ素に置換したことで,タフルプロストが他のプロスト系PG製剤よりも活性,安定性,薬物動態が優れていると推定される.タフルプロスト点眼液は1日1回の点眼投与で十分であるだけでなく室温保存が可能であり,遮光の必要もないことからタフルプロスト単独点眼投与変更後の患者の評価は23症例全例で点眼の簡便性において好評であった.このように点眼遵守(コンプライアンス)や自発的点眼(アドヒアランス)7)においてもタフルプロスト単独点眼投与の有効性が示唆された.IV結論タフルプロストの単独投与に変更後も眼圧は維持され,また,点眼の簡便性においても好評であったことから,タフルプロストは既存のPG製剤とブリンゾラミド併用療法からの変更薬剤として有用であると思われる.なお,当院と参天製薬株式会社との間に利益相反の関係はない.文献1)野村俊治,橋本宗弘:新規緑内障治療薬ラタノプロスト(キサラタンR)の薬理作用.薬理誌115:280-286,20002)ResulB,StjernschantzJ:Structure-activityrelationshipsofprostaglandinanaloguesasocularhypotensiveagents.CurrOpinTherPat82:781-795,19933)SherifNA,KellyCR,CriderJYetal:OcularhypotensiveFPprostaglandin(PG)analogs:PGreceptorsubtypebindingaffinitiesandselectivities,andagonistpotenciesatFPandotherPGreceptorsinculturedcells.JOculPharmacolTher19:501-515,20034)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20045)OtaT,MurataH,SugimotoEetal:Prostaglandinanaloguesandmouseintraocularpressure:Effectsoftafluprost,latanoprost,travoprost,andunoprostone,considering24-hourvariation.InvestOphthalmolVisSci46:2006-2011,20056)熊懐稜丸:フッ素の特性と生理活性.フッ素薬学─基礎と実験─(小林義郎,熊懐稜丸,田口武夫),続医薬品の開発・臨時増刊,p7-11,廣川書店,19937)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,2006***元素(X)HFOC電気陰性度2.24.03.52.5結合距離(CH3-X,Å)1.091.391.431.54v.d.Waals(半径,Å)1.201.351.401.85abc結合解離エネルギー(CH3-X,kcal/mol)991168683図3フッ素の物理化学的特性(文献6より一部改変)a:フッ素(F)は電気陰性度が最も大きく,つぎが酸素(O)であり,結合距離も近い.b:フッ素(F)は立体的には水素(H)についで小さな原子である.c:フッ素(F)は結合解離エネルギーが最も大きく,C-F結合は非常に切れにくいがC-O結合は切れやすい(反応を受け易い).

健常人におけるGoldmann 視野計と自動視野計Octopus 900 の比較検討

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(87)1569《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1569.1572,2010cはじめに眼科臨床において視野検査は重要な検査の一つであり,そのなかでもGoldmann視野計は最も多用されてきた.Goldmann視野計は周辺視野を含めた全視野が測定できるため,緑内障だけでなく網膜疾患,神経眼科疾患,頭蓋内疾患の診断や治療に有用である1,2).また,ロービジョンケアの適否の判定,ロービジョンエイドの選定やさまざまな情報の提供においても重要になっている1).Goldmann視野計は検者が被検者の理解度や症状,反応状態に合わせて測定できるという利点がある一方,検査結果が検者の技量に大きく影響を受け,検者や施設の間で変化の判定がしづらいなどの欠点も目立ち,最近では自動静的視野測定が主流となっている2).それに対して2003年に自動視野計Octopus101(Haag-Streit社)を用いて動的視野測定ができるソフトウェアGKP(Gold-〔別刷請求先〕矢野いづみ:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IzumiYano,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki-chou,Kagawa761-0793,JAPAN健常人におけるGoldmann視野計と自動視野計Octopus900の比較検討矢野いづみ馬場哲也髙岸麻衣廣岡一行溝手雅宣野本浩之白神史雄香川大学医学部眼科学講座ComparisonofGoldmannPerimeterandAutomaticPerimeterOctopus900inNormalSubjectsIzumiYano,TetsuyaBaba,MaiTakagishi,KazuyukiHirooka,MasanoriMizote,HiroyukiNomotoandFumioShiragaDepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine目的:健常人の視野をGoldmann視野計とOctopus900にて測定し,両者の結果および有用性について比較検討した.対象および方法:対象は健常人ボランティア32名32眼,平均年齢35歳(22~50歳)であった.緑内障専門医2名により眼疾患のないことを確認した後,同一検者が施行した.視標の呈示速度や方法および測定点は両者で同一となるようにした.視標ごとの面積を画像解析ソフトImageJ(NIH)にて測定し両検査間の相関を検討した.結果:全例で視野の形状は同一と判断された.平均測定時間はGoldmann視野計では441秒,Octopus900では505秒であった.両検査における面積の回帰直線は正の相関を示し,V/4e:r=0.778,I/4e:r=0.838,I/3e:r=0.665,I/2e:r=0.753,I/1e:r=0.714(p<0.01)といずれの視標においても高い相関を認めた.結論:健常人におけるGoldmann視野計とOctopus900の視野の面積は強い相関を示し,Octopus900の結果は信頼できる.Purpose:ToevaluatetheeffectivenessoftheGoldmannperimeterversustheOctopus900whenmeasuringthevisualfieldinnormalsubjects.Objectsandmethod:Atotalof32normalsubjects22~50yearsofagewereincludedinthisstudy.ThesameexperiencedexaminerperformedallGoldmannperimeterandOctopus900measurements.ImageJwasusedtocalculatetheareaofthevisualfield.Agreementwasassessedusingcorrelation.Results:Itwasjudgedthattheshapeofthefieldofvisionwasthesameinallexamples.Themeandurationofthetestwas441and505secondsfortheGoldmannperimeterandtheOctopus900,respectively.TherewasahighlysignificantlinearrelationshipbetweentheGoldmannperimeterandtheOctopus900(r=0.665-0.838:p<0.01).Conclusions:SincecorrelationwasstrongbetweentheGoldmannperimeterandtheOctopus900inareaofvisualfields,visualfieldanalysisusingtheOctopus900shouldbereliableinnormalsubjects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1569.1572,2010〕Keywords:視野,Octopus900,Goldmann視野計,面積の比較.visualfield,Octopus900,Goldmannperimeter,comparisonofthearea.1570あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(88)mannKineticPerimetry)が開発され,2007年にはOctopus101の後継機種であるOctopus900(Haag-Streit社)のソフトウェアEyeSuitePerimetryV1.2.2が発売された.しかし,Octopus900の使用経験に関する報告は少なく3),Goldmann視野計との結果の比較についての報告はない.今回筆者らは,健常人に対してGoldmann視野計とOctopus900を施行し,両者の測定結果および有用性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象対象は矯正視力1.0以上,屈折検査にて等価球面値が.6.5diopter(D)未満,カラー写真による眼底検査で眼疾患のないことを確認した健常人ボランティア32名32眼(男性11例11眼,女性21例21眼)であった.平均年齢は35.4±7.3歳(22~50歳),平均屈折度数は.1.23±1.82D(+0.75~.6.25D)であった.2.方法すべての対象者に対して,緑内障専門医2名により,カラー写真による眼底検査で眼疾患のないことを確認した後,Goldmann視野計とOctopus900を施行した.測定眼は左右交互に選択し左右眼の症例数が均等になるようにし,選択眼において両検査を施行した.検査順序はランダムとし,同一検者が施行した.Octopus900のソフトウェアはEyeSuitePerimetryV1.2.2を用いて視標,速度,測定点,測定方法をつぎのように設定した.視標は,V/4e,I/4e,I/3e,I/2e,I/1eを用い,各視標で垂直,水平経線の両端5°,各象限30°,60°方向の計16ポイント(5°,30°,60°,85°,95°,120°,150°,175°,185°,210°,240°,265°,275°,300°,330°,355°)で測定した.Mariotte盲点はI/4eで測定した.速度はOctopus900では周辺部は5°/sec,中心部は3°/sec,Mariotte盲点は2°/secに設定した.視標は求心性に呈示し,Mariotte盲点では遠心性に呈示した.I/2e,I/1eでは必要に応じて近見矯正レンズを付加した.Goldmann視野計においても同一条件で検査を施行した.また,両検査における測定条件を同等にするため,Octopus900におけるreactiontimeによる補正は行わなかった.各々の視野は,画像として取り込み,画像解析ソフトImageJ(NationalInstitutesofHealth,NIH,http://rsbweb.nih.gov/ij/)を用いて面積を測定し,中心30°に相当する円の面積を1.000として視標ごとに面積比を算出した(図1).検討項目は,両検査間の各視標の総面積および上下半視野における面積の相関,Mariotte盲点の面積とした.すべての対象から本研究についてのインフォームド・コンセントを得た.II結果緑内障専門医2名により両検査での視野の形状は同一と判定され,全例がこのスタディに登録された.測定時間は,Goldmann視野計では平均441±41秒(369~528秒),Octopus900では平均505±103秒(314~713秒)であり,平均測定時間はGoldmann視野計で有意に短かab図1ImageJによる面積計算a:計算したい範囲をトレースすると画面右上に面積が表示される.b:面積の基準とした中心30°に相当する円.この面積を1.000として各視標の面積比を算出した.(89)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101571った(p<0.01).各視標における総面積は,X軸をOctopus900,Y軸をGoldmann視野計とした回帰直線においてすべての視標で正の相関を示し(図2),相関係数は,V/4e:r=0.778,I/4e:r=0.838,I/3e:r=0.665,I/2e:r=0.753,I/1e:r=0.714(すべてp<0.01)といずれの視標においても高い相関を認めた.上下半視野における面積の相関係数を比較すると,上方ではr=0.450~0.737,下方では,r=0.740~0.867であった(p<0.01).下半視野において,上半視野と比較して高い傾向を示した(表1).Mariotte盲点の面積比は,Goldmann視野計では0.025±0.005,Octopus900では0.018±0.003であり,Octopus900で有意に小さく検出された(p<0.01).III考按今回の結果からGoldmann視野計とOctopus900は視野の形状が一致したこと,各視標における面積比の比較において高い相関を認めたことから,Octopus900は健常人においては信頼性がありGoldmann視野計の代用となりうることが示唆された.このことから求心性視野狭窄や半盲などの比較的シンプルな形状を呈する疾患ではOctopus900が有用であることが予測されるが,緑内障など不規則視野を呈する疾患における有用性については今後の検討課題と考える.視野面積の算出において,Octopus900ではイソプター面積算出機能があり経時的な変化の観察が可能であることは有用であると思われるが,本機で測定された面積値には単位がなく算出方法も不明であったため,Goldmann視野計の結果との比較ができなかった.そのため,今回は,両検査における結果を同一条件で面積比較するためにフリーの画像処理ソフトウェアであるImageJを用いた.Goldmann視野計とOctopus900の測定時間について,平均測定時間がGoldmann視野計で有意に短かった点については,まず,今回の対象が正常眼であり測定結果の予測が容易であったことから,手動のGoldmann視野計において無意識的に視標の移動速度が速くなったことが測定時間に影響した可能性があげられる.つぎに,検査手技に関しては,Octopus900では操作の手間が多いことと検者の操作に対する慣れが影響していると思われる.前身機種のOctopus101d:視標I/2ee:視標I/1ey=1.1621x-0.619r=0.6651.002.003.004.001.002.003.004.00OctopusGPc:視標I/3ep<0.012.003.004.005.00Octopusb:視標I/4e4.005.006.007.00Octopusa:視標V/4e0.000.501.001.50Octopus0.001.002.003.00Octopus0.000.501.001.50GP1.002.003.00GP2.003.004.005.00GP4.005.006.007.00GPy=1.1614x-0.1676r=0.714y=1.256x-0.3809r=0.753y=1.4211x-1.6871r=0.838y=1.2092x-0.9263r=0.778p<0.01p<0.01p<0.01p<0.01図2Goldmann視野計(GP)とOctopus900(Octopus)間の各視標における総面積の比較それぞれの図の縦軸(GP),横軸(Octopus)は中心30°の基準円に対する面積比で表示している.表1Goldmann視野計とOctopus900間の上下半視野における面積の比較上方下方回帰式r回帰式rV/4ey=0.808x+0.3840.550y=1.119x.0.1650.779I/4ey=1.041x.0.0760.450y=1.034x.0.1730.867I/3ey=1.030x.0.0590.491y=1.088x.0.2870.740I/2ey=1.383x.0.1690.737y=1.052x.0.1160.748I/1ey=1.171x.0.0460.615y=1.071x.0.0940.761下半視野における相関係数は,上半視野と比較して高い傾向を示した.1572あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(90)と比較すると,検査画面が日本語表示になったことや測定とイソプターや表示などの編集,プログラムの呼び出しが一画面で行えることなど操作性が格段にあがっており,Octopus900については適正に操作の設定をしておくことで検査時間の短縮ができる可能性はある.しかし,今後Goldmann視野計のようにシンプルな操作方法になるよう改良が待たれる.上下半視野における面積において下半視野における相関係数が上半視野と比較して高い傾向を示した.その原因として,測定手技に関しては視標の移動がOctopus900では全方向において定速であるのに対して,Goldmann視野計では視標の移動が手動であるため,定速を心がけたものの上下方向で若干の差が生じて結果に影響した可能性は否定できない.また,上方周辺部視野に関しては測定時間中における瞼裂幅の変動や,生理的な条件反射である周期性瞬目に伴うBell現象4,5)の影響が両検査における測定値のばらつきに影響したことも推測できるが,はっきりとした原因の特定はできなかった.今後,今回の結果についての再現性の有無や視野異常を伴う症例においても同様の傾向がみられるかどうかについて検討していく必要があると思われる.つぎに,Octopus900でMariotte盲点が小さく検出されたが,図2を見てみると周辺視野の検出においては逆にOctopus900で大きく検出される傾向がみてとれる.このことから,被検者がボタンを押すタイミングに対する検者(Octopus900では器械)の反応時間がOctopus900のほうが速いと推察すると,今回得られた差がある程度理解できる.その他,両検査における視標の移動速度の差による影響も理論上は考えられるが,Mariotte盲点に関しては視標の移動距離が短いため,実測値に対する影響はほとんどないと推察される.以上より,Octopus900はGoldmann視野計とほぼ同等の精度をもつ検査であると考えられるが,両検査の比較においては,上半視野では両視野検査において差が出やすい可能性があること,Octopus900ではMariotte盲点が小さく検出されることを加味した視野の判定が必要であると考えられる.また,Octopus900は,半自動で動的視野を測定するという構造上,Goldmann視野計と同様に検者の技量が検査結果に大きく影響を及ぼしてしまうという問題がある.完全自動動的視野測定を目指すにはまったく新しいアルゴリズムが必要とされ,その開発が望まれる3).今回筆者らは比較的検査に順応しやすい年齢の健常人で検討を行ったが,今後は若年者や高齢者など年齢を変えた健常人,緑内障をはじめ視野異常のある症例についてOctopus900の有用性を検討する必要がある.文献1)湖崎淳:III視力・色覚・視野4.ゴールドマン視野.眼科49:1487-1492,20072)原澤佳代子:視野検査法の現状2.動的視野の現状.眼科47:261-270,20053)橋本茂樹,松本長太:自動動的視野計OCTOPUS900.眼科手術22:191-195,20094)平岡満里:瞬目反射と近見反射.神経眼科17:219-224,20005)NiidaT,MukunoK,IshikawaS:Quantitativemeasurementofuppereyelidmovements.JpnJOphthalmol31:255-264,1987***

スウェプトソース前眼部OCT CASIA® と回転式シャインプルーフカメラPentacam® による前眼部測定値の比較検討

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(83)1565《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1565.1568,2010cはじめに最近の眼科領域における画像解析装置の進歩は著しい.その代表である後眼部OCT(光干渉断層計)は,現在では網膜硝子体疾患の病態評価および治療効果の判定に必須のものとなりつつある.前眼部画像解析装置も数多く存在するが,緑内障分野においては隅角,虹彩および毛様体の評価が可能であることが重要である.その代表として,まず超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)があげられる.UBMは高解像度で隅角,虹彩および毛様体の評価が可能であり,前眼部の各種測定値の基準となる検査である.しかしながら,UBMは接触検査であることに加え,検査にある程度の熟練が必要なため検者間での測定値の再現性が低く1,2),仰臥位でしか検査ができないなどの問題点もある.そのため,UBMは隅角,虹彩および毛様体の評価には必須の検査ではあるが,日常診療でスクリーニングとして行う検査にはなりえないと考えられる.広く普及しスクリーニング検査としても使用できるためには,検査は非接触式かつ短時間で施行可〔別刷請求先〕伴紀充:〒220-0012横浜市西区みなとみらい3-7-3けいゆう病院眼科Reprintrequests:NorimitsuBan,M.D.,KeiyuHospital,3-7-3Minatomirai,Nishi-ku,Yokohama-shi220-0012,JAPANスウェプトソース前眼部OCTCASIARと回転式シャインプルーフカメラPentacamRによる前眼部測定値の比較検討伴紀充*1坂詰明美*2林康司*2秦誠一郎*2*1けいゆう病院眼科*2スカイビル眼科医院ComparisonofAnteriorChamberMeasurementsbySwept-sourseAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyCASIARandRotatingScheimpflugCameraPentacamRNorimitsuBan1),AkemiSakazume2),KojiHayashi2)andSeiichiroHata2)1)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital,2)YokohamaSkyEyeClinic正常有水晶体眼50例50眼(46.6±17.1歳)に対しTOMEY社製スウェプトソース前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)SS-1000CASIARとOculus社製回転式シャインプルーフ(Scheimpflug)カメラPentacamRにより中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度を測定し比較した.CASIARおよびPentacamRによる測定値はそれぞれ,中心角膜厚530±36μmおよび543±37μm(相関係数r=0.90),中心前房深度2.81±0.46mmおよび2.91±0.49mm(r=0.97),隅角角度29.7±11.0°および36.2±10.5°(r=0.59)であった.すべての測定項目でCASIARの測定値がPentacamRの測定値より有意に小さかった(p<0.01).また,中心角膜厚および中心前房深度における両者の相関係数が高かったのに対し,隅角角度では相関係数は低かった.Tocomparecentralcorneathickness(CCT),centralanteriorchamberdepth(ACD)andanteriorchamberangle(ACA)asmeasuredbyswept-sourseanteriorsegmentopticalcoherencetomography(AS-OCT)SS-1000CASIARandbyrotatingScheimpflugcameraPentacamR,50phakiceyesof50normalsubjects(46.6±17.1y/o)wereenrolled.MeanmeasurementsbyCASIARandPentacamRwere,respectively,CCT530±36μmand543±37μm(Correlationcoefficientr=0.90),ACD2.81±0.46mmand2.91±0.49mm(r=0.97),ACA29.7±11.0°and36.2±10.5°(r=0.59).StatisticallysignificantdifferencewasfoundbetweenallanteriormeasurementsbyCASIARandPentacamR(p<0.01).AlthoughthecorrelationcoefficientwasveryhighinCCTandACD,itwassignificantlylowerinACA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1565.1568,2010〕Keywords:スウェプトソース前眼部OCT,CASIAR,PentacamR,中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度.swept-sourseanteriorsegmentOCT,CASIAR,PentacamR,centralcorneathickness,centralanteriorchamberdepth,anteriorchamberangle.1566あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(84)能であることが必須条件である.非接触式の前眼部画像解析装置の一つとしてOculus社製PentacamR(以下,Pentacam)があり,光源を180°回転させることにより複数のシャインプルーフ(Scheimpflug)像を撮影できる回転式シャインプルーフカメラで,角膜形状や角膜厚だけではなく,屈折補正を加えることで前房形状解析も行うことができる装置である.これまでにも狭隅角眼のスクリーニング3,4)やレーザー虹彩切開術(LI)前後の前房形状の変化の測定4~6)にも使用されてきた.しかしながら,Pentacamは組織深達度の問題から隅角や毛様体を直接描出することはできず,そのためPentacamを用いて前房形状を評価する場合には前房深度や前房容量が用いられてきた経緯があり,緑内障分野における前眼部画像解析装置としては十分ではない.そこで,UBMに替わる前眼部画像解析装置として期待されているのが前眼部OCTである.前眼部OCTはUBMと同等の隅角解析能力をもつと報告されている7,8)が,これまでタイムドメイン方式のもの(VisanteR,CarlZeiss)しか実用化されておらず,測定速度が遅いことが問題であった.最近になりTOMEY社製スウェプトソース前眼部OCTSS-1000CASIAR(以下,CASIA)が製品化され,フーリエ(Fourier)ドメイン方式の一つであるスウェプトソースの採用により測定時間が大幅に短縮された.CASIAは後眼部OCTよりも長い1.3μm波長の光源を使用しているため組織深達度が高く,さらに屈折補正を加えることで隅角,虹彩および毛様体を解像度10μm程度という高い精度で定量解析が可能である.これはUBMの解像度である50μmよりも高精度である.このように,検査の簡便性と3次元解析を含めた高い解析能力により,CASIAは今後広く普及する可能性を秘めていると考えられるが,まだその測定値の特徴については報告が少ない.今回筆者らはCASIAとPentacamによる正常眼の各種前眼部測定値を比較検討したので報告する.I対象および方法スカイビル眼科医院を受診した角膜疾患のない開放隅角有水晶体眼の症例のうち,本研究の趣旨を理解し文書で同意が得られた50例50眼(男性25例,女性25例,平均年齢47.2±17.4歳,21~89歳)に対し,CASIAおよびPentacamにより右眼の中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度を測定し比較した.開放隅角の判定はvanHerick法により周辺部における前房深度/角膜厚比が2分の1以上のものとした.測定は無散瞳下で同一日に同一暗所で行い,隅角角度は耳側を測定した.中心前房深度は角膜後面から水晶体前面までの距離と定義した.y=0.8666x+0.05840.650.60.550.50.450.450.50.55Pentacam(mm)0.60.65CASIA(mm)図1中心角膜厚の相関y=0.8938x+0.205654321123Pentacam(mm)45CASIA(mm)図2中心前房深度の相関y=0.6171x+7.3564605040302010102030405060Pentacam(°)CASIA(°)図3隅角角度の相関表1CASIAとPentacamによる測定値CASIAPentacam相関係数p値中心角膜厚(μm)530±36543±37r=0.90p<0.01中心前房深度(mm)2.81±0.462.91±0.49r=0.97p<0.01隅角角度(°)29.7±11.036.2±10.5r=0.59p<0.01(85)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101567II結果CASIAおよびPentacamによる測定値は,中心角膜厚530±36μmおよび543±37μm(相関係数r=0.90),中心前房深度2.81±0.46mmおよび2.91±0.49mm(r=0.97),隅角角度29.7±11.0°および36.2±10.5°(r=0.59)であった(表1).すべての測定項目でCASIAのほうが有意に小さく測定された(p<0.01:Studentt-test).また,中心角膜厚および中心前房深度は両者の相関係数が高かったのに対し(図1,2),隅角角度では相関係数は低かった(図3).III考察今回3つの測定項目すべてでCASIAのほうが有意に小さく測定された(p<0.01).ここではそれぞれの測定値で有意差が出た原因を中心に考察する.まず中心角膜厚および中心前房深度の有意差に関して考察する.両者の測定値の違いの原因として,CASIAとPentacamでは角膜厚および前房深度の測定部位が異なることがあげられる.図4にCASIAの測定結果表示画面を示すが,CASIAでは隅角底を結ぶラインの垂線上の角膜厚,前房深度を測定しているのに対し,Pentacamでは視軸上の角膜厚,前房深度を測定しており,これが有意差の最大の原因であると考えられる.しかしながら,中心角膜厚および中心前房深度ともに両者の測定値には非常に高い相関があり,この有意差は両者の測定値の一定の傾向としてとらえることができ,互いに互換性のあるものと考えてよい結果である.つぎに隅角角度について考察する.タイムドメイン方式の前眼部OCTとPentacamによる隅角角度測定の報告9)でも今回と同様の結果が得られており,両者の測定値は比較可能なものではないと結論づけられているが,今回筆者らは測定値の有意差の原因として以下の2つの理由を考えた.まずはじめに,測定条件の違いが有意差の原因となった可能性が考えられる.今回の測定は同一日に同一暗室で行ったが,Pentacamは測定時に発光するため実際の測定条件は厳密には同じではない.他の部位と比較して隅角は測定条件により敏感に構造が変化する部位である.つまり,Pentacamの測定時の発光により縮瞳し隅角角度が変化したため,両者で異なる測定値が出た可能性が考えられる.これに関しては,隅角という動的に変化しうる構造物をどのように定量的に評価していくかが今後の大きな課題となると考えられる.つぎに,Pentacamによる隅角角度の測定そのものが不正確であるため測定値に有意差が出た可能性が考えられる.前述のようにPentacamは組織深達度の問題から隅角を直接描出することはできず,撮影されたシャインプルーフ像に自動的に角膜後面の接線と虹彩根部を通過する虹彩前面の接線が引かれ隅角角度が算出される.つまり,Pentacamの隅角角度は測定値ではなくあくまで計算値であり,直接隅角を測定可能な前眼部OCTの値と比較すると信頼性が低く不正確である.Kuritaらの報告3)では,Shaffer分類grade2以下の狭隅角眼ではPentacamで測定した隅角角度とUBMで測定した隅角角度の相関が低く,Pentacamによる隅角評価の限界が示されている.また,岡らの報告4)でもPentacamで狭隅角群とレーザー虹彩切開術(LI)施行後群の前房形状解析を行い,周辺前房深度および前房容量はLI施行後群で有意に増加するのに対し,隅角角度は狭隅角群よりもLI施行後群のほうが減少するという矛盾した結果となり,Pentacamによる隅角角度の測定精度は低いと結論づけている.以上より,今回の比較検討でもPentacamの隅角測定精度が低いことが両者の測定値の有意差の原因となった可能性が高いと考えるが,今後はさらにCASIAと隅角鏡所見やUBMなどの他の測定機器の測定値との比較検討が必要であると考えられる.また,前述のように前眼部OCTはスクリーニング検査としての利用も期待されており,そのなかでもわが国においては狭隅角のスクリーニングが最も重要であると考えられるが,タイムドメイン方式の前眼部OCTは特異度の点で狭隅角のスクリーニングには向いていないとの報告10)があり,同様の検討をCASIAでも行う必要があると考える.今回検討したCASIAの前房形状解析において,中心角膜厚と中心前房深度はPentacamの測定値との相関が高く,妥当な計測が行われていると考えられた.隅角角度は測定理論上CASIAはPentacamと比較し高い精度で隅角角度を計測できる可能性が高いと考えられるが,正確な評価のためにはさらなる比較検討が必要である.文献1)TelloC,LiebmannJ,PotashSDetal:MeasurementofCCT=585[μm]ACD=2.89[mm]ACD-LCCT-FCCT-B※1AR1AR2※2図4CASIAの測定部位(※1)とPentacamの測定部位(※2)の違い(中心前房深度)1568あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(86)ultrasoundbiomicroscopyimages:intraobserverandinterobserverreliability.InvestOphthalmolVisSci35:3549-3552,19942)UrbakSF,PedersenJK,ThorsenTT:Ultrasoundbiomicroscopy.II.Intraobserverandinterobserverreproducibilityofmeasurements.ActaOphthalmolScand76:546-549,19983)KuritaN,MayamaC,TomidokoroAetal:Potentialofthepentacaminscreeningforprimaryangleclosureandprimaryangleclosuresuspect.JGlaucoma18:506-512,20094)岡奈々,大鳥安正,岡田正喜ほか:前眼部3D解析装置PentacamRにおける閉塞隅角緑内障眼の前眼部形状.日眼会誌110:398-403,20065)Lopez-CaballeroC,Puerto-HernandezB,Munoz-NegreteFJetal:QuantitativeevaluationofanteriorchamberchangesafteriridotomyusingPentacamanteriorsegmentanalyzer.EurJOphthalmol20:327-332,20106)AntoniazziE,PezzottaS,DelfinoAetal:AnteriorchambermeasurementstakenwithPentacam:anobjectivetoolinlaseriridotomy.EurJOphthalmol20:517-522,20107)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20058)DadaT,SihotaR,GadiaRetal:Comparisonofanteriorsegmentopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyforassessmentoftheanteriorsegment.JCataractRefractSurg33:837-840,20079)DincUA,OncelB,GorgunEetal:AssessmentofanteriorchamberangleusingVisanteOCT,slit-lampOCT,andPentacam.EurJOphthalmol20:531-537,201010)LavanyaR,FosterPJ,SakataLMetal:Screeningfornarrowanglesinthesingaporepopulation:evaluationofnewnoncontactscreeningmethods.Ophthalmology115:1720-1727,2008***

眼科医にすすめる100冊の本-11月の推薦図書-

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015610910-1810/10/\100/頁/JCOPY初期研修医2年目で,まだ「眼科医」になってもいないのに「眼科医にすすめる100冊の本」に寄稿するなんておこがましい気もするのだが,「好きに書きなさい」とおっしゃって下さった寛大な教授のお言葉に甘えることとして1冊の本を紹介したい.「神様のカルテ」は恥ずかしながら,「某人気アイドルグループメンバー出演,映画化」の見出しに踊らされて購入した.題材が地域医療とわかったとき,その偶然のタイミングに驚いた.何しろ私は山形県のとある町立病院で地域医療の研修真っ只中だったのだ.主人公である栗原一止は,信州・本庄病院に勤務する5年目の内科医で,酔っ払いから末期癌の患者まで,自分の専門分野に関係なく24時間365日診療にあたっている.本に描かれている現場はまさに私がいた町立病院と酷似しており,後に著者である夏川草介氏が実際に長野県の地域医療に従事されていることを知って納得した.それは大学病院で研修してきた現場とはかけ離れた,町立病院の現実そのものだった.私がいたのは人口約1万人の小さな山間の町で,その町立病院では常勤の内科医4人,週1.2回外勤の先生方による眼科,外科,婦人科,整形外科の外来診療が行われていた.文中に「自分の専門は消化器だとか循環器だとか大声で吹聴できるのは,地方では大学病院くらいである.」とあるのだが事実,地域医療の現場では酔っ払いから蜂刺され,交通外傷,原因不明のCPA(心肺機能停止),末期癌患者まで,どんな患者も診なければいけない.地域医療の研修が始まった当初の私はとにかく早く大学に戻りたかった.オーベンの先生をすぐに呼べる状況とはいえ,見よう見まねで内科外来を担当したり,独りで救急対応をしたりで,不安で仕方がなかった.スタッフの揃った大きい病院であればすぐに他科コンサルトが可能で,時間外でも必要であればCT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像),心カテ,内視鏡検査,手術までオーダーできる.私がいた町立病院では血液検査すら躊躇する.本当に必要か.それまでどれだけ自分が守られた特殊な場所で研修してきたのかと目が醒める思いだった.無駄な検査はしない.いかにこれが大変で,大切なことか実感した.研修を終えるまで私の不安が消えることはなかったが,それなりに恰好はついてきていたように思う.ハエが飛び交う家へ消毒用アルコール片手に訪問診療,通所のご高齢の方々と一緒にリハビリ,「町中みんな知り合い」とは本当で,噂話にも参加した(ただし方言が強く,会話の7割は理解できなかった).まさに「地域医療」,この本と自分をシンクロさせながら過ごした1カ月だった.この本にはたくさんの患者が登場するのだが,なかでも胆.癌である安曇さんが印象的だった.外科的手術が困難と診断され「大学病院は安曇さんを診るようなところではない」と言われてしまう.栗原に助けを求めに来た彼女は延命ではなく,あるがままに生きたいと希望する.どこまで治療をするべきか,境界は灰色だ.私も,町立病院で同じように考えさせられる女性の患者に出会った.彼女も安曇さんと同じく末期癌で,いつ急変するかわからない状態だった.私が訪室するといつも笑顔で曽孫や玄孫のことを話してくれたことを思い出す.その最期のとき,家族は延命を希望した.どうしても玄孫に会うまで,と言われて挿管した.カルテにDNRの記載はなかった.栗原は「ただ感情的に『全ての治療を』と叫ぶのはエゴ」と言う.そこには本人の意思はなく,家族の,医療者のエゴしかない,と.あの行為はエゴなのか,安曇さんの件を読みながらこの問いを反芻した.誰も正解を教えてはくれない.大学病院ではDNRの意思(79)■11月の推薦図書■神様のカルテ早川草介著(小学館)シリーズ─96◆成味真梨山形大学附属病院卒後臨床研修センター1562あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010確認を徹底しており,予め入院時に確認していることが多かった.しかし地域医療の現場では必ずしもそうならない.風習,考え方,その地域独特の何かが,そうさせているのかもしれない.ただ,一つ言えることはBSC(BestSupportiveCare)は大学病院,民間病院,自宅といった場所を選ぶものではない.そしてそれは患者,家族,環境,その時々で変化するためマニュアルは存在しない.境界はやはり灰色のままでいいのかもしれない.それからもう一つ,この本を通して描かれているのが栗原の葛藤だ.「本庄病院に残るか,大学に戻って入局するか.」私たち若い医者にとっても他人事ではない.初期研修,専門科,後期研修,入局,すべて個人の選択に委ねられる.私の同級生をみても,地元に残る者,大都市に出る者,私のように所縁のない山形まで来てしまう者(極少数),大学病院,民間病院,入局する,しない,選択はさまざまだ.それぞれに利点,欠点があり,要は本人が将来的にどのような医者を目指すかに尽きると思う.「新しい研修医制度のおかげで,最初の2年間の研修期間は一般の病院に出ていく医者が増えた」のだが,この現行の研修制度についても賛否両論があり,その否定的な意見の一つに「地方の医師不足の助長」があげられる.この制度によって,栗原のように民間病院で初期研修を行い,そのまま入局しないという選択ができるようになった.大学の医局員が減り,派遣が滞れば,そのしわ寄せは地方の小病院にやってくる.医局制度が,ある意味で地域医療を支えている.栗原の同期である,砂山は大学の外科から本庄病院に派遣されている.入局しない栗原に対して,「大学でしか学べない高度医療ってのがある,お前ならそれも学んでさらに高みを目指せるんだ.多くの医者に会い,技を磨き,知識を深めるんだ.」と大学に誘う.井の中の蛙,大海を知らずではいけない.砂山の意見も一理ある.医局とは何か,私にはまだわからない.作中の大狸先生の言うように「ひどいところ」かもしれないし,違うかもしれない.ただ,見よう見まねだけに頼ることはしたくない,そう思ったから私は「入局」を決めた.小さな町で,眼科をするにしても,まずはきちんと勉強して,知識と技術を身につけて,それからでも遅くないのではないか,そう思っている.地域医療と大学病院,確かに現場環境は違うけれど医療を提供するという点は同じだ.診療科も,病院も,地方も,大都市も関係ない.患者一人ひとりに応えること,そこにいちいち区別は必要ない.最後になったが,この本の登場人物はそれぞれ個性的で,とても人間らしく描かれており,その描写もこの本の魅力の一つになっている.医療物はちょっと…という方にもぜひ機会があったら読んでみてほしい.「地域医療」の世界を少し垣間見られる本だ.(80)☆☆☆

眼研究こぼれ話 11. NIHの臨床研究 アルソップ氏の遺稿

2010年11月30日 火曜日

(77)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101559NIHの臨床研究アルソップ氏の遺稿有名な評論著作家,スチュワート・アルソップが,まだ50歳を超したばかりのとき,白血病にかかった.それも尋常のものではなく,白血球が減っていく,困った型のものである.自分の死期の近いことを知った彼は,日記をもとにして,感銘深い本を書いた(StayofExecution).自分自身の受ける治療のこと,周りに居る同病の人々の話,この不治の病気に取り組んでなんとかしたいと焦っている若い医者の様子などを,実にイキイキと描写した実話である.化学療法を受ける苦しい経験の記載はわれわれ医者にとって大変に貴重な報告である.また,この本には,彼の若いときの思い出や,愛妻に向ける感情などが,美しく述べられている.この翻訳を読んだという日本の友人の話から判断すると,翻訳にまずい所があるのではないかと疑っているが,是非読んでいただきたい.この物語は全部NIHを舞台としてつづられている.NIHの紹介は前回にしたが,ここには14階の大きな病院がある.アイゼンハワー大統領によって造られたもので,もう古くなってはいるが,現代最高の設備を持った病院であり,臨床医学の優秀な医者たちが,たくさん働いている.ほかの病院と異なるのは,ここは完全な研究病院であって,アルソップ氏のような難しい病人が,世界各国から多数送られて来て,NIHの各部門の部長たちの決める研究題目の材料となっている.もちろん,安全度は十二分に考えられて取り扱われるが,病人たちには,色々の臨床実験がほどこされる.白血病患者には,積極的な化学療法の実験が行われており,強い化学療法のために,頭髪が全部抜けた患者が,木陰で休んでいるのを当所を訪れる人は,見かけるであろう.白血病で,白血球の数が1㏄中30万を超すようになると,眼底と脳に出血を起こすので,私もこの研究班に参加して,ほかの医者たちとともに絶望感を味わっている.このほか,実にたくさんの奇病,難病患者が集まっていて,ある意味での医学のメッカとなっている.特に酵素系の欠如による難しい疾患は,診断と治療に大変な費用が掛かる場合が多い.このような人々の治療が,国費で賄われている.研究患者のベッドと,同じ階にある研究室には,全国の大学から選り抜かれた優秀な医者たちが集まっている.特に先年前までは,ここでの任務は軍役と同様にみなされていたので,兵役に入るかわりに応募してくる最優秀者をそろえることができていた.平和な現在は,応募医者数は減ったが,まだまだ,たくさんの学徒が,ほかではできない実験のできるチャンスにあこがれて,雲集している.多数の有能なPhD(理学博士)の援助を受けつつこれらの医者が,実際に病人に対して理論の応用を試みているのである.0910-1810/10/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑪▲スチュワート・アルソップ氏の写真のついた彼の最後の本「死刑猶予」の表紙1560あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010眼研究こぼれ話(78)前記の本のなかには若い主治医,グリック博士との間に生じた不思議な友情関係が述べられている.優秀な学究者であるグリック博士はなんとかしてアルソップ氏を助けたいと,焦るけれども無力である.この患者の偉大な人間味に打たれて,若い医者が人生教育を受けているらしい様子が行間に感じられる.一方,アルソップ氏は自分の死生の運命を知っているこの青二才の医者を尊敬し,同時に友情を感ずるあたりが,ぐっと胸をしめるようにつづられている.医者対患者の美しい物語である.このNIH病院での臨床研究には前回に述べたような非能率は許されない.医者たちは,働かない事務系,研究補助系の人たちと,果てしのない争いを続けている.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

私が思うこと 24.幸運と不運

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101557シリーズ私が思うこと(75)昔から思っていたのだが,というか妄想に近いのだが人の運の量は一定で幸運と不運は隣り合わせ,運がいいときもあれば悪いときもある.なのでどちらかがずーっと続くわけではなく,いいことが続けば悪いことが起こるかもしれないからと警戒し,悪いことが続けばいいことが起こるかもしれないからがんばろうと思い生きてきた.そんなことを思いつつ月日がたつのは速いもので医師になって12年がたった.年齢的にはアラフォーであり日本人の男性の平均寿命が80歳ぐらいであるから人生の半分くらいのところまできた.いい機会なので医師としての自分を振り返りつつ,全体として幸運なのか不運なのか自分で評価してみる.平成11年に山形大学医学部を卒業し,同眼科学講座に入局した.眼科を選択した理由は,ポリクリで各科を回ってみてマイクロサージェリーの美しさが印象に残ったからである.入局した年は丁度教授選があり山下英俊教授が就任された.振り返ればこれは私にとってかなり幸運なことだったんだなと今になって思う.自分の上司とか師匠となる人との出会いは人生において非常に重要な役割を担っていると思う.学生時代からそういう人をみつけてそこで働ければ一番よいのだが,ほとんどの人は自分の母校とか地元の病院とかに就職するであろう.そうなると師匠となる人を自分では選べない.私もまさしくその状態だったのだが棚からぼたもちともいうべきか,何もしないですばらしい師匠を得た.これが第1の幸運である.入局後大学で2年間の研修を終えて関連病院に4年半赴任した.元来めんどーなことが嫌いな性格であり,あまり忙しくない関連病院で特に専門も決めずにふらふらとしていた.途中大学に戻って来いといわれても,「いや,もうちょっといます」とか何とかいってごまかしていた.こんな状態だったのでさすがに山下教授も心配してくださり「大学で眼腫瘍をやってみませんか」と直接お声をかけていただいた.当時大学では高村浩准教授(現在は公立置賜総合病院外科系部長)が1人で眼腫瘍の診療をされていた.特になにかをやりたいと思っていたわけではないので断る理由もなく大学に戻って眼腫瘍を専門にすることにした.眼腫瘍は眼科のなかでもマイナーな分野であろう.全国で眼腫瘍を専門にしていると標榜しているのは40.50人くらいであろうか.学会や研究会でも眼腫瘍の分野にはほとんど同じ先生方が出席され熱い議論を交わしている.大学に戻ってから4年間,高村准教授と眼腫瘍の診療をしてきたがこれが第2の幸運であった.高村准教授もすばらしい人であり眼腫瘍の診察,治療について一から教えていただいた.悪性の腫瘍などは患者に説明するのになにかと苦労するが,外来の忙しいさなかでも懇切丁寧に説明する高村准0910-1810/10/\100/頁/JCOPY今野伸弥(NobuhikoKonno)山形大学医学部眼科学講座助教1972年福島県生まれ.山形大学に入学して以来山形にいるのでもはや山形県人です.夏は暑く冬は寒くて住むのには苦労しますが,食べ物がおいしく人々も温和なのでとてもいいところです.今年から医局長となり医局の運営と眼腫瘍の診療に日々奮闘しています.(今野)幸運と不運▲高村浩准教授の送別会にて左から2番目:山下英俊教授,真ん中:高村准教授,右端:筆者.1558あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010教授の姿をみて医師としても人としても尊敬することができた.昔から人がやらないようなことをやることが好きだった自分としても眼腫瘍の奥深さに興味をもてた.そんなわけで自分から進んで何かをするわけでもないまま眼科医としての進むべき道と師匠を得た.山下教授,高村准教授には感謝してもしきれないくらいである.大学に戻ってきてから学生の指導や講義もしなくてはならなくなり,診療や研究の合間に寝る間を惜しんで講義用のスライドを作って講義をしても,学生からの評価のアンケート用紙に「スライドが見づらいです」と書かれたり(予備校みたいに講義する医師が評価されます),平成22年2月からは医局長となり医局の運営で苦労したり,医局内や医局外の先生に挟まれて悩んだり,これが中間管理職の苦労かと実感させられることがあったりしても山下教授,高村准教授に出会えたことの幸運に比べれば小さな不運であると思う.こうしてみると医師としての運はかなりいいほうではないかと思う.仕事の面では幸運に恵まれて順風満帆なのだが,いかんせん,プライベートで最大の不運がある.アラフォーなのに結婚の予定がまったくないのである.結婚が幸運かどうかは人それぞれであろうが,今の自分にとっては結婚することは幸運だと思う.仕事とプライベートを総合して考えてみると,やはり幸運と不運の量は一定なのか,今の時点ではイーブンなのかな.今野伸弥(こんの・のぶひこ)1999年山形大学医学部卒業,同眼科入局2001年山形県立河北病院眼科2003年舟山病院眼科2006年山形大学医学部助教現在に至る(76)☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2011Vol.28月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2011Vol.24■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌(4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/インターネットの眼科応用他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

インターネットの眼科応用 22.インターネットで時間の共有1

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015550910-1810/10/\100/頁/JCOPY時間の共有インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.前章までに,医療知識・医療情報がインターネット上で共有される事例を数多く紹介してきました.「時間の共有」は,インターネットの最も今日的な利用方法です.その,「時間の共有」というインターネットの進化と,医療がどのように関係するのか,実例を交えながら紹介したいと思います.インターネットは人と人を繋ぐツールです.同時性をもつ繋ぎ方には,どんな方法があるでしょうか.チャット,スカイプ,テレビ会議,ツイッター,Ustreamなどがあげられます.チャットは短いメールのやりとりです.一対一が原則です.スカイプはどうでしょう.スカイプはインターネット通信を用いた無料電話です.これも一対一が原則です.テレビ会議はどうでしょう.複数の参加者が,足を運ぶことなく,空間を共にせずに時間を共にすることができます.複数の人間が参加するとはいえ,参加者は顔見知りに限られる閉鎖空間です.ツイッターとUstreamは,対象が不特定になる点で,他のツールとは大きく異なります.Ustreamについては章を改めて紹介します.本章は,ツイッターというツールの特徴と,医療応用の可能性について紹介します.ツイッターは,Obvious社(現Twitter社)が2006年7月から始めたサービスです.ブログ・サービス「Blogger」(2003年にGoogle社が買収)の開発チームのエヴァン・ウィリアムズ,ビズ・ストーン,ジャック・ドーシーらが中心となって2006年に設立されました.ジャック・ドーシーによると,ツイッターの基本構想は自身が2000年6月に思いついたそうです.リアルタイム性が高く,どこにいても自分の状況を知人に知らせたり,逆に知人の状況を把握できたりするサービスの可能性に気づきました.ツイッターは,2007年3月に米国で開催されたイベントSouthbySouthwest(SXSW)でブログ関連の賞を受賞したことで一躍注目を集めるようになりました.2008年4月23日にユーザインターフェースが日本語化された日本語版が利用可能になり,2009年10月15日には携帯電話に対応できるようになりました1).ツイッターの医療応用ツイッターは,ミニブログともいわれますが,短いメッセージを思いのままに発信します.その対象は,「誰か(One)」ではなく,「ネットワーク(Mass)」です.情報だけでなく,感情や感覚を,ネットワークの参加者間で同時に共有できます.その簡便性が支持を受けて利用者が格段に増えました.海外に目を移すと,インドネシアやブラジルのようにメールよりもツイッターが普及している国すらあります.政治家や芸能人のような,実生活において距離のある人物とも,リアルタイムで情報・感情を共有できる,という希少性と同時性がツイッターの革新的な要素です.情報の質は問いません.ツイッターには,コミュニケーションツール以外の利用方法が報告されています.2009年4月から,新型インフルエンザがメキシコから世界中で流行しました.発症初期は,謎の流行性疾患が凄まじい勢いで拡散している,どうやら死者も出ているらしい,致死性の高い,感染力の高い恐ろしいウイルスだ,という内容で新聞やテレビから報道されました.個人が発信するインターネット上の情報はどうだったでしょう.ツイッターには,新型インフルエンザ患者の増加と同時に,「頭が痛い」「のどが痛い」「熱が出た」というつぶやき(ツイート)がメキシコからアメリカにかけて多数みられました.そのツ(73)インターネットの眼科応用第22章インターネットで時間の共有①武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ1556あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010イートの発信源を追跡すると,インフルエンザの拡散と一致する,というのです.ロンドンシティ大学(CityUniversityLondon)がツイッターを伝染病などの早期警戒システムに活用しうるという研究結果を2010年4月13日に発表しました.2009年5.12月にかけてツイッターに英語で書き込まれたツイート約300万件を対象に,インフルエンザを意味する「flu」という単語の使われ方を調査した結果,「豚インフルエンザ(新型インフルエンザ)にかかっている(Ihaveswineflu)」という文を含むメッセージが12,954件,また「インフルエンザにかかった(I’vegotflu)」という文を含む書き込みが12,651件あり,それらの単語の発信源の広が(74)りとインフルエンザの拡散状況が一致していました.ツイッターは,疫学調査に利用できる可能性があります2).また,swinefluに関する人々のつぶやきをGoogleMapsに表示するというユニークなサイトも登場しました.人々のツイートを地図の上で視覚化します.2010年10月現在,このサイトのサービスの対象は,アメリカとヨーロッパとインドに限られていますが,近い将来,日本にも登場するのではないでしょうか3).インターネットの進化の方向性に,疫学調査・予防医療の領域が見えてきます(図1,2).ひょっとすると,流行性角結膜炎やアレルギー疾患の流行をリアルタイムで視覚化できるようになるかもしれません.「時間の共有」がインターネットの利用方法の今,起こっている潮流です.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvcjapan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/Twitter2)SzomszorM,KostkovaP,deQuinceyE(2010)#swineflu:TwitterPredictsSwineFluOutbreakin2009acceptedfore-Health20103)http://www.mibazaar.com/swineflu.html図2図1のサイトの拡大図図1TwitterとGoogleMapsを組み合わせたWebサイトの俯瞰図吹き出しは,「flu」を含んだつぶやきの発信源.