0910-1810/10/\100/頁/JCOPY肥満細胞膜安定化薬であるが,以前より痒みに対し即効性があることが知られていた.最近,その成分であるクロモグリク酸ナトリウムに知覚神経の脱分極を抑制し神経終末よりのサブスタンスPの放出を抑制する作用があることが示唆され,痒みに対する即効性のメカニズムが明らかになりつつある.また,インタールRはpHが酸性のため点眼時の爽快感があり,痒みの強い症例によい.リザベンRの成分であるトラニラストは抗TGF-b(transforminggrowthfactor-b)作用や結膜線維芽細胞からのコラーゲン産生を抑制する作用をもち,微小乳頭形成が著明な通年性アレルギー性結膜炎に効果が期待できる.最近,トラニラストにはIL(インターロイキン)-13やIL-4などのヘルパーT細胞2型(Th2)サイトカインによる角膜実質細胞からの好酸球遊走因子であるeotaxinの産生を抑制することも明らかになった1).リはじめに抗アレルギー薬点眼の適応になる疾患には季節性(花粉性)アレルギー性結膜炎(seasonalallergicconjunctivitis:SAC),通年性アレルギー性結膜炎(perennialallergicconjunctivitis:PAC),春季カタル(vernalkerato-conjunctivitis:VKC),アトピー性眼瞼角結膜炎(atopicblepharo-kerato-conjunctivitis:ABKC),コンタクトレンズ関連乳頭性結膜炎(contactlensrelatedpapillaryconjunctivitis:CLPC)などがある.狭義の抗アレルギー薬点眼というと肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼だが,広義になるとステロイド薬点眼や免疫抑制薬点眼も含まれる.本稿では,広義の抗アレルギー薬点眼についてそれぞれの特徴・適応疾患・使用法・使用時の注意などについて解説する.また,抗アレルギー薬点眼の未来についても言及する.I抗アレルギー薬点眼1.肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼現在,日本で使用できる抗アレルギー薬点眼は9種類ある.大きく肥満細胞膜安定化薬点眼と抗ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼に分けることができる(表1).前者は比較的効果がマイルドで持続性があり,初期療法にも適している.一方,後者は痒み・充血などに即効性がある.インタールRは抗アレルギー薬点眼では最も古い(49)1371*NobuyukiEbihara:順天堂大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕海老原伸行:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学大学院医学研究科眼科学特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1371.1376,2010抗アレルギー薬点眼の現在CurrentAnti-allergyOphthalmicDrops海老原伸行*表1抗アレルギー薬点眼肥満細胞膜安定化薬クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)ペミロラストカリウム(ペミラストンR,アレギサールR)アンレキサノクス(エリックスR)アシタザノラスト水和物(ゼペリンR)イブジラスト(アイビナールR,ケタスR)トラニラスト(リザベンR)ヒスタミンH1受容体拮抗薬塩酸レボカバスチン(リボスチンR)フマス酸ケトチフェン(ザジテンR)塩酸オロパタジン(パタノールR)1372あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(50)る.小児には沁みない中性薬がよい.どの点眼薬を選択するかを患者の使用感で決定することも大切である.点眼コンプライアンスが良いものを提供することを心がける.2.肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼の併用肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼の併用は効果的である.肥満細胞は抗原特異的IgE(免疫グロブリンE)と多価抗原によって脱顆粒することでヒスタミンをはじめとする多様な起痒物質(痒みを起こす物質)を放出する.肥満細胞は起痒物質の宝庫でヒスタミンの数十~数万倍強い起痒物質(セロトニン・ロイコトルエンB4・トリプターゼ)も放出される.しかし,ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼はヒスタミンを介する痒みを抑制するが,それ以外の分子を介する痒みは抑制できない.ゆえに,膜安定化薬点眼を併用することによって,ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼のみでは抑制できない痒みを抑制できる可能性がある.3.抗アレルギー薬点眼の使用上の注意点a.薬剤性角膜上皮症多くの抗アレルギー薬点眼には防腐剤が含まれている.そのおもなものはBACであり,0.002~0.015%(20~150μg/ml)の濃度で含有されている.一般にBACは涙液にて希釈され,涙液のターンオーバーとともに点眼後約5分で70~100%消失してしまうので臨床上問題にならない.しかし,多剤点眼患者やドライアイ患者にはBACによる薬剤性角膜上皮症が起こりやすい.一時点眼を中止し,改善後防腐剤フリーのインタールUDR,ザジテンUDRに処方を変更する(図2).b.接触眼瞼炎散瞳剤や抗緑内障薬などで起こることが多いが,抗アレルギー薬点眼でも起きる.特にザジテンRやエリックスRでの報告が多い.点眼薬による接触眼瞼炎の感作期間は1年以上に及ぶことが多く注意が必要である.一時点眼を中止し,眼瞼炎を治療し,改善後に他の薬剤に変更する.また,BACなどの添加物に対する接触眼瞼炎もあり防腐剤フリーの点眼への変更が必要である.ボスチンR(塩酸リボカバスチン)・ザジテンR(フマル酸ケトチフェン)には強いヒスタミンH1受容体拮抗作用がある.パタノールRの成分であるオロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用と肥満細胞膜安定化作用の両方の作用がある.ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼は痒みや充血の強い症例によい.アレギサールRやペミラストンRは1日2回の点眼で効果を発揮し,コンタクトレンズ装用前後の点眼に適している.エリックスRは中性で沁みないので小児に適している.ゼペリンRは塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)以外の防腐剤であるパラベン・クロロブタノールを使用しているので,BACによる角膜上皮症を認める症例に適している.アイビナールR・ケタスRの成分であるイブジラストには各種phosphodiesteraseに対する阻害効果があり,点眼薬で唯一,抗ロイコトルエンや抗活性酸素の作用がある.また,最近単球やマクロファージの遊走に重要なケモカインであるmacrophagemigrationinhibitoryfactor(MIF)に対する阻害作用も明らかになった2).MIFは喘息やアトピー性皮膚炎の発症や増悪に関与しているケモカインである.抗アレルギー薬点眼はそのpHにより酸性・中性・アルカリ性に分けることができる(図1).酸性薬は点眼時に目に沁みるが,中性薬は沁みない.患者によっては痒みに対する爽快感を求め沁みる点眼を希望する人もい涙液インタールR(7.45±0.16)(DSCG)ゼペリンR(アシタザノラスト)ザジテンR(フマル酸ケトチフェン)リボスチンR(塩酸レボカバスチン)エリックスR(アンレキサノクス)リザベンR(トラニラスト)アレギサールR(ペミロラストカリウム)ケタスR,アイビナールR(イブラスト)345(pH)6789104.0~7.04.8~5.86.7~7.85.0~7.07.0~8.07.5~8.54.5~6.06.0~8.0図1アレルギー薬点眼(各抗アレルギー点眼薬のpH)(51)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101373在,抗アレルギー薬徐放性のSCLの開発も進んでおり,将来期待できる(表2).d.ドライアイ・アトピー性皮膚炎アレルギー性結膜炎を悪化させる疾患としてドライアイとアトピー性皮膚炎がある.ドライアイは涙の量が少ないので花粉などの抗原が眼の中(結膜.)に飛入してもそれをwashout(洗い流す)することができない.Sjogren症候群によるドライアイでは結膜上皮に炎症が生じ,バリア機能が低下し抗原が肥満細胞が多く常在する固有層に侵入しやすい.以上のようにドライアイに合併したアレルギー性結膜炎は重症化しやすい.ゆえに,人工涙液やヒアルロン酸点眼などの併用が必要である.アトピー性皮膚炎で眼瞼炎を合併すると,その痒みによる眼掻破行動が惹起され,その機械的刺激によって結膜の肥満細胞が脱顆粒を起こし,結膜炎が悪化する.ゆえに,アトピー眼瞼炎の治療も必要である.痒みを取る第二世代の抗ヒスタミン薬の内服や免疫抑制薬軟膏(プロトピックR)の使用などが効果的である.4.初期療法初期療法とは花粉飛散予定日の約2週間前より抗アレルギー薬点眼を始めることによって,花粉飛散直後またはそれ以降の症状を症状発現後の点眼治療に比較して抑制・軽減することを目的としている.耳鼻科領域では以前からよく施行されていたが,最近点眼でも行われるようになった.花粉性結膜炎患者を対象とした筆者らの検討では,アイビナールR,リザベンR,パタノールRなどを花粉飛散予定日2週間前より点眼した右眼は人工涙液を点眼した左眼に比べ,統計学的有意さをもって飛散時・後の「痒み」の症状を抑制・軽減した3~5).毎年花c.コンタクトレンズ(CL)装用時の点眼CL装用時の抗アレルギー薬点眼の使用についてはいろいろな考え方がある.筆者は,毎日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)なら装用時の点眼でも良いと考える.しかし,それ以外のSCLやハードコンタクトレンズ(HCL)では,外して点眼したほうが安全と思われる.アレルギー性結膜炎の症状や所見が重度のときはCLを中止させ点眼を施行する.しかし,軽度や中等度の症例,何がしかの理由でCLを中止できない人にはCLを装用しながら点眼療法を施行することもある.一般に抗アレルギー薬点眼は1日4回のものが多いが,アレギサールR・ペミラストンRは1日2回なのでCLの装用前後に点眼ができる.装用中の点眼薬は中性のもの(パタノールR,エリックスR,リザベンRなど),懸濁していないもの,防腐剤フリーのものが理想である.酸性点眼は一部のSCLに形状変化を起こすことが知られている.リボスチンRは懸濁しているのでCL装用時の点眼には不向きである.また,SCLはマイナスに帯電したものが多くBACが付着しやすい傾向がある.筆者らの検討では,特にシリコーンハイドロゲル素材のレンズにはBACが強く吸着し,放出しづらいことがわかった.ゆえに,頻回交換型レンズ(2週間・1カ月交換SCL)装用中の抗アレルギー薬点眼は防腐剤フリーのものが理想である.防腐剤フリーの点眼にはインタールUDR,ザジテンUDRがある.時々,CL装用時の点眼がCL非装用時の点眼と比較して効果があるという患者がいる.点眼薬がCLに吸着・吸収され,徐放性に放出されることにより長時間効果が持続している可能性がある.現ザジテンUDRインタールUDR図2防腐剤フリーの点眼表2コンタクトレンズ装用者の抗アレルギー薬点眼の選択①中性②懸濁していないもの③防腐剤フリー④1日2回点眼1374あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(52)ン点眼でさえ,小児(3~9歳)の場合,1日に6回点眼で29%,1日4回点眼で16%に中等度反応(6~15mmHg)の眼圧上昇を認める7).春季カタルは年少者の男子に多い疾患であり,ステロイド薬点眼を使用する際には十分な注意が必要となる.一方,カルシニューリン阻害薬点眼には眼圧上昇効果は認めない.むしろ,ステロイド点眼より離脱することができるため,眼圧が下降する症例が多い8).b.感染症の誘発感染性角膜炎の原因として過剰なステロイド薬点眼の使用が臨床上大きな問題となっている.一方,免疫抑制薬点眼による角膜感染症のリスクはステロイド薬点眼と比較して低い.しかし,ステロイド薬点眼との併用例・アトピー皮膚炎合併例・年少者に長期間使用するときには注意が必要である8,9).2.0.1%シクロスポリン点眼:パピロックRミニの長期成績a.春季カタルに対する効果0.1%シクロスポリン点眼の投与後6カ月までの有効性や副作用については報告がある8,9).では,投与後6カ月以降の長期使用の成績はいかなるものか.6カ月以上投与された171例(投与期間181~716日,平均218.2日,最長716日)の有効性・副作用を6カ月までのそれと比較した.自覚症状を掻痒感・眼脂・流涙・羞明感・異物感・眼痛の6症状に分け0(なし),1(軽度),2(中等度),3(重度)の4段階でスコア化した.また,他覚所見を眼瞼結膜の充血・腫脹・濾胞・乳頭・巨大乳頭,眼球結膜の充血・浮腫,輪部結膜のトランタス斑・腫脹,角膜上皮障害の10所見に分け,自覚症状同様4段階にスコア化した.投与前の平均スコアは自覚症状7.5,他覚所見13.7であった.点眼後1,2,3,6カ月後の合計スコア値の変化量(改善度)は自覚症状では.3.9,.4.5,.4.8,.5.1,他覚所見では.4.6,.5.4,.6.1,.6.5と使用後1カ月目から効果を示し,6カ月にわたってその効果が維持された.さらに,6カ月以降の使用例においても変化量(改善度)は自覚症状.4.8,他覚所見.6.5と維持された.6カ月以前に症状寛解に粉症で苦しんでいる症例で当年に大量の花粉飛散が予想されるときは一度試してみる価値がある療法である.II免疫抑制薬点眼の登場新しい薬の登場は,疾患の治療方針を変更させる.また,その薬剤の効果判定は,その疾患の発症・増悪メカニズムの解明につながる.1950年代初頭にステロイド薬点眼が,1980年代前半に抗アレルギー薬点眼が臨床使用できるようになって以来,春季カタル治療の主役はステロイド薬点眼と抗アレルギー薬点眼であった.しかし,最近,免疫抑制薬点眼である0.1%シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)と0.1%タクロリムス点眼(タリムスR)が臨床使用できるようになり主役の座が替わろうとしている.シクロスポリン・タクロリムスともT細胞の細胞内伝達系において重要な役割をしているカルシニューリンを阻害し,T細胞の増殖やサイトカイン産生を強力に抑制する.ゆえに,シクロスポリン・タクロリムスの点眼をまとめて,その作用機序よりカルシニューリン阻害薬点眼とよぶことも多い.1.春季カタル治療におけるステロイド薬点眼の問題点ステロイド薬点眼の副作用には眼圧上昇・感染症誘発・白内障・創傷治癒の遅延などがあるが,臨床で特に問題となるのは眼圧上昇と感染症である.a.眼圧上昇ステロイド薬点眼によって眼圧が上昇することはよく知られている.眼圧上昇の程度は人種や年齢によって異なる.Ohjiらは斜視手術後の10歳未満(3~8歳,平均5.5歳)の9症例と10歳以上(12~49歳,平均20.6歳)の7症例に0.1%デキサメタゾン点眼を1日3回2週間点眼したときの眼圧の上昇を報告している6).点眼前より>16mmHg眼圧上昇を認めたものを高反応,6~15mmHgの上昇を認めたものを中等度反応,<6mmHgを低反応とすると,10歳未満では9症例中4症例が高反応,5症例が中等度反応で低反応は認めなかった.一方,10歳以上の症例ではすべての症例で低反応であった.一般に大人に比べ小児のほうがステロイド反応性が高い.比較的眼圧上昇が少ないとされるフルオロメトロ(53)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101375である.投与前の他覚所見の合計スコアは11.2±5.6(スコア方式はシクロスポリンと同様).1,7,10,22,35,49カ月の変化量(改善度)はそれぞれ.3.9,.5.8,.5.5,.6.5,.6.8,.8.0であった.b.副作用春季カタル患者106名と通年性アレルギー性結膜炎患者61例において6カ月以上の長期投与による副作用を解析したところ,最も多い副作用は眼刺激感であった.重症な角膜感染症は角膜潰瘍1例,ヘルペス感染3例を認めたが,投与期間の長期化による副作用の発現率の上昇は認めなかった.c.まとめ0.1%タクロリムス点眼は6カ月以上継続してもその有効性が維持されるばかりではなく,他覚所見合計スコアは漸減した.最長6年間の長期投与においても効力が減弱することはなかった.また,年単位の使用においても角膜感染症の発生率の増加は認めなかった.0.1%タクロリムス点眼(タリムスR)はステロイド薬点眼を併用せずに単剤でも長期にわたり春季カタル治療に有効であり,かつ重篤な眼感染症の副作用も少ない.(長期成績のデータは千寿製薬より供与された.)4.0.1%シクロスポリン点眼と0.1%タクロリムス点眼の使い分け表3に0.1%シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)と0.1%タクロリムス点眼(タリムスR)の比較を示す.春季カタルの治療はその重症度に基づく過不足のない治より投与終了に至った症例が全体の24%(平均投与期間75.6日),6カ月後も投与継続した症例が全体の35%であった.投与継続症例における抗アレルギー薬点眼・ステロイド薬点眼の併用率はそれぞれ53%,57%であった.ステロイド点眼の離脱率は1,2,3,6カ月で24%,27%,31%,34%であった.b.副作用投与後6カ月間での最も高頻度な副作用は眼刺激感(2.53%)であった.重篤な角膜炎は6例(0.23%)に認められ,細菌性2例,ヘルペス性2例,角膜びらん1例,潰瘍性角膜炎1例であった.眼圧の上昇は認められなかった.副作用発現頻度は投与7日目までが2.6%と多く,以後6カ月にわたり0.25~1.41%と上昇しなかった.さらに6カ月以降の長期使用例においても副作用発現率の上昇や重症角膜感染症の増加は認めなかった.c.まとめ春季カタル治療における0.1%シクロスポリン点眼の有効性は6カ月間以降も維持される.しかし,長期継続した約6割の症例において抗アレルギー薬・ステロイド薬点眼の併用が必要であったことより,重症例に対してはステロイド薬点眼の併用が必要である.角膜感染症などの重篤な副作用は6カ月以上の投与によっても増加することなく,安全に長期間使用できる薬剤である.(長期成績のデータは参天製薬より供与された.)3.0.1%タクロリムス点眼:タリムスRの長期成績0.1%タクロリムス点眼の有効性や副作用については報告されている10).しかし,経過観察期間が短く,その長期の有効性・副作用について報告はない.ここでは継続投与試験にて6カ月以上,最長6年近くにわたって点眼を継続した春季カタル患者106例についてその有効性・副作用について示す.a.春季カタルに対する効果対象は春季カタル患者106例.男性79人(74.5%),年齢:10~15歳(51.9%)・16~19歳(16.0%)・20~29歳(20.8%)・30歳以上(11.3%),重症度:軽症44人(41.5%)・中等度29人(27.4%)・重度33人(31.1%),アトピー性皮膚炎合併;あり68人(64.2%),投与観察期間(日):平均1,233.2±587.6日(6カ月以上98例)表30.1%シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)と0.1%タクロリムス点眼との比較0.1%シクロスポリン点眼0.1%タクロリムス点眼特徴.効果がマイルド.持続性.透明・使い捨て.防腐剤フリー.効果が強い.即効性.懸濁液.防腐剤入り適応.軽~中等度症例.抗アレルギー薬・ステロイド薬点眼との併用.寛解維持.重症例.単独使用.急性増悪時試用期間長期間短期間免疫調節薬点眼免疫抑制薬点眼1376あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(54)2)ChoY,CrichlowGV,VermeireJJetal:Allostericinhibitionofmacrophagemigrationinhibitoryfactorrevealedbyibudilast.ProcNatlAcadSciUSA107:11313-11318,20103)海老原伸行:季節性アレルギー性結膜炎におけるイブジラスト点眼予防投与の効果.あたらしい眼科20:259-262,20034)海老原伸行:トラニラスト点眼初期療法による季節性アレルギー性結膜炎患者の自覚症状改善効果.あたらしい眼科24:223-226,20075)海老原伸行:塩酸オロパタジン点眼液による季節性アレルギー性結膜炎の初期療法.あたらしい眼科24:1523-1525,20076)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchildren.AmJOphthalmol112:450-454,19917)FanDS,NgJS,LamDS:Aprospectivestudyonocularhypertensiveandantiinflammatoryresponsetodifferentdosagesoffluorometholoneinchildren.Ophthalmology108:1973-1977,20018)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:Alargeprospectiveobservationalstudyofnovelcyclosporine0.1%aqueousophthalmicsolutioninthetreatmentofsevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher25:365-371,20099)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査.日眼会誌(印刷中)10)OhashiY,EbiharaN,FujishimaHetal:Arandomized,placebo-controlledclinicaltrialoftacrolimusophthalmicsuspension0.1%insevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher26:165-174,2010療が必要である.表4にその重症度別の治療戦略を示す.ステロイド薬点眼の眼圧上昇・感染症誘発などの副作用を考慮し,基盤点眼としてカルシニューリン阻害薬点眼を使用し,増悪時のみ短期間ステロイド薬点眼を使用する.急性増悪時にはタクロリムス点眼,寛解維持にはシクロスポリン点眼を使用する.両点眼とも6カ月以上の長期投与においても,その有効性を維持する.長期投与による副作用(特に重篤な角膜感染症)の増加も認められない.しかし,年少者やアトピー性皮膚炎の合併症例にステロイド薬点眼と併用し,長期間投与するときには十分な注意を必要とする.おわりに将来,喘息の治療に使用されている抗ヒトIgE抗体(オマリズマブR)の点眼やCC-ケモカイン受容体3や2のantagonist点眼も開発されていく可能性がある.さらなる発展を期待する.文献1)AdachiT,FukudaK,KondoYetal:Inhibitionbytranilastofthecytokine-inducedexpressionofchemokinesandtheadhesionmoleculeVCAM-1inhumancornealfibroblasts.InvestOphthalmolVisSci51:3954-3960,2010表4春季カタル点眼療法の重症度別戦略─春季カタルの治療はその重症度に基づく過不足ない治療が必要である─基盤点眼追加点眼第1段階(寛解維持)抗アレルギー薬点眼0.1%シクロスポリン点眼第2段階(軽度)抗アレルギー薬点眼0.1%シクロスポリン点眼0.1%フルオロメトロン点眼(悪化時のみ併用)第3段階(中等度)抗アレルギー薬点眼0.1%タクロリムス点眼0.1%フルオロメトロン点眼(悪化時のみ併用)第4段階(重度)抗アレルギー薬点眼0.1%タクロリムス点眼0.1%ベタメタゾン点眼(悪化時のみ併用)(軽度・中等度・重度の診断基準は「眼アレルギーガイドライン」を参照)ステロイド薬点眼の眼圧上昇・感染症誘発などの副作用を考慮し,基盤点眼としてカルシニューリン阻害薬点眼を使用し,増悪時のみ短期間ステロイド薬点眼を使用する.また,急性増悪時にはタクロリムス点眼,寛解維持にはシクロスポリン点眼を使用する.