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硝子体手術のワンポイントアドバイス 90.緑内障濾過手術後の眼内炎に対する硝子体手術(中級編)

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015530910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)は緑内障濾過手術として広く行われているが,術後晩期に濾過胞感染を生じて眼内炎に進行することがある.線維柱帯切除術後の眼内炎の発症頻度は報告によって差はあるが1.3%程度とするものが多い.眼内炎発症の危険因子には種々のものがあるが,局所因子には眼瞼炎,涙.炎,結膜炎,無血管の菲薄した濾過胞結膜,全身因子には高齢者,糖尿病,膠原病,悪性腫瘍などの免疫低下状態があげられる.●濾過胞感染の病期濾過胞感染は,StageI(濾過胞内部の白濁と周囲結膜の充血),StageII(前房内炎症,前房蓄膿が加わる),StageIII(硝子体混濁が加わる)の3期に分けられる.一般にStageIIIに対しては,抗生物質(バンコマイシン+セフタジジム)の硝子体腔内注射あるいは硝子体手術を行う.●濾過胞感染による眼内炎に対する硝子体手術の問題点硝子体手術の方法としては通常の術後眼内炎と同様,十分な前房洗浄(図1)と周辺部に至る広範な硝子体切除(図2)を確実に施行することが重要である.しかし,濾過胞感染による眼内炎は,白内障術後眼内炎にはない,いくつかの予後不良因子がある.まず,散瞳不良例が多く,これに対してはアイリスリトラクターで瞳孔拡張を行う.濾過胞は多くの場合に膿性分泌物で満たされており,術後に濾過効果の温存が期待できるケースは少ない(図3).筆者は今までに結膜下の分泌物を洗浄することで,なんとか濾過胞温存を図ったことがあるが,結局は強膜と強固な瘢痕癒着を形成してしまった.ただし,硝子体手術後は毛様体機能も低下するためか,濾過効果が消失しても予想外に眼圧再上昇をきたす例は少ない印象がある.一方で,もともと視野(71)狭窄が著明な症例では硝子体手術という大きな侵襲が加わることで,残存視野がさらに狭窄あるいは消失してしまう危険性がある.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載90緑内障濾過手術後の眼内炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1前房洗浄前房を十分に洗浄し,虹彩に付着したフィブリン膜を除去する.図2周辺部の硝子体切除他の術後眼内炎と同様に周辺部に至る広範な硝子体切除を行う.図3術前の細隙灯顕微鏡所見多くの場合,濾過胞は膿性分泌物で満たされており,術後に濾過効果温存が期待できるケースは少ない.この症例では術前にすでに濾過胞は消失していた.

眼科医のための先端医療 119.網膜神経保護療法の開発に向けて

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015490910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに網膜疾患の治療法は,硝子体手術の発展とともに大きく進歩し,網膜.離や糖尿病網膜症などの治療予後は,革新的に改善しました.また最近では,抗血管内皮増殖因子療法(抗VEGF療法)が開発されて血管病変を標的とした薬物治療が普及し,滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)の治療が可能となりました.これらの治療法は今後も必要です.しかし,さらに良好な視機能予後のためには,視覚の主役である網膜神経細胞を対象とした網膜神経保護療法の開発が求められます.現時点では,おもに網膜色素変性症に対して,さらにこれに準じて萎縮型AMDに対して,治療の開発が進められています.将来的には網膜.離や糖尿病網膜症,滲出型AMDによる網膜神経細胞障害の抑制治療も開発したいところです.網膜神経保護療法のコンセプト糖尿病網膜症・滲出型AMDなどの炎症の関与する疾患では病的サイトカインなどが,また網膜色素変性症では遺伝子異常が,網膜を構成する神経細胞の機能不全や細胞死をひき起こし,視機能を低下させます.この機能不全を解消し,細胞死を予防することが,網膜神経保護療法です.これまで,糖尿病網膜症・滲出型AMDなど,原因療法を行っても効果が得られるまでに視機能が破綻してしまう例がありました.また,糖尿病では血管病変が明らかになる以前から網膜電図(ERG)で検出される視機能障害を生じることが知られています.これらを防ぐには,従来の治療法に加え,網膜神経保護療法を取り入れることが望ましいといえます.今のところ臨床研究が進められているのは,網膜色素変性症や萎縮型AMDにおける神経保護療法であり,次項ではそれを紹介します.網膜色素変性症・萎縮型AMDに対する神経保護療法動物実験の結果から,網膜神経保護効果をもつ分子としてciliaryneurotrophicfactor(CNTF)が有望視されています.CNTFは,遺伝子異常をもつ13種類の網膜色素変性症モデル動物の網膜変性を抑制したとされ,最近は臨床試験が進められています.対象が慢性進行性疾患であるため,神経保護療法は長期間にわたり,継続的に施行する必要があります.そのために,現行の臨床試験では,薬剤投与経路にも工夫が凝らされています.CNTFを継続的に産生するように遺伝子操作をした細胞を,直径1mmのポリエチレンテレフタラート糸(ポリエステルの一種でペットボトルの材料)で織られたインプラント(NT-501,Neurotech社)に入れて,それを硝子体内に埋め込むことで,持続投与をします.すでにPhaseI臨床試験が終了し1),現在Phase多施設二重盲検臨床試験が,計120症例に対して行われています.片眼に本治療が,他眼にシャム治療が行われ,その効果が比較される予定です.さらに,51例の萎縮型AMDに対しても同様のPhase臨床試験が行われ,1年後経過では,大きく視力低下した症例が減少したと中間報告されました.ただし,いずれの疾患も長期投与を必要とするため,今後の経過観察は必須です.CNTFの作用(分子メカニズム)CNTFは網膜神経節細胞・血管周囲のアストロサイトで生理的にも産生される液性因子です.膜貫通型gp130受容体を活性化させ,細胞内でJAK-STAT経路を活性化してanti-apoptotic作用をもつbcl-2ファミリー分子の発現を亢進させ,これが細胞生存作用の一端を担うと考えられています(図1).そのほかの分子メカニズムに関しては,今でも動物・細胞レベルで研究が続けられています.CNTFは,インターロイキン-6(IL-6)ファミリーに属し,炎症性サイトカインの一つです.つまり,必要以上のCNTF投与は副作用を生じ得ます.筆者らは,動物実験において,炎症性サイトカインの下流でSTAT3が活性化した網膜炎症モデルマウスでは,ロドプシンの過剰分解が生じること,同時にERGのa波の反応低下が生じることを報告しました2).これは,上述のCNTF(67)◆シリーズ第119回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊小沢洋子(慶應義塾大学医学部眼科)網膜神経保護療法の開発に向けて1550あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010持続投与のPhaseI臨床試験において,中心視力は保たれる可能性があったものの,ERGのa波の反応が低下したという結果1)と,関係するかもしれません.副作用はどのような薬剤にもあるものであり,作用・副作用に関する分子レベルの解析は,これからも重要です.さらなる神経保護療法の開発に向けて神経保護作用をもつ分子としてはほかに,nervegrowthfactor(NGF),pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)などがあります.一方,糖尿病網膜症・滲出型AMDなどの炎症性疾患では酸化ストレスによる細胞障害が知られ,糖尿病網膜症ではアンジオテンシンの発現が,眼局所で亢進します.筆者らは,AMDの予防で注目される抗酸化剤であるルテイン3),アンジオテンシン1型受容体阻害薬4)の全身投与が,全身状態は変わらないのに糖尿病による網膜神経障害を抑制することを,動物実験レベルで示しました.網膜疾患の病態解析に基づき,長期経口投与で行える新しい網膜神経保護療法の開発が待たれます.おわりにさまざまな治療法が開発され,網膜疾患の視機能予後は確実に向上しつつあります.しかし,網膜細胞が神経細胞である以上,一度失われた細胞を再増殖させることは今のところきわめて困難で,速効性の完全な根治療法がない限り,病的環境下にあっても細胞を生かし続けることは重要です.特に,現代のような発症してからの寿命が長い高齢化社会にあっては,なおさらです.網膜神経保護療法は,現在も続けられている基礎研究による情報の蓄積が不可欠な状態にあり,今のところまだ研究段階にありますが,必要とされていることには疑いがなく,今後,常にアンテナを張っていたい先端医療の一つです.文献1)SievingPA,CarusoRC,TaoWetal:Ciliaryneurotrophicfactor(CNTF)forhumanretinaldegeneration:phaseItrialofCNTFdeliveredbyencapsulatedcellintraocularimplants.ProcNatlAcadSciUSA103:3896-3901,20062)OzawaY,NakaoK,KuriharaTetal:RolesofSTAT3/SOCS3pathwayinregulatingthevisualfunctionandubiquitin-proteasome-dependentdegradationofrhodopsinduringretinalinflammation.JBiolChem283:24561-24570,20083)SasakiM,OzawaY,KuriharaTetal:Neurodegenerativeinfluenceofoxidativestressintheretinaofamurinemodelofdiabetes.Diabetologia53:971-979,20104)KuriharaT,OzawaY,NagaiNetal:AngiotensinIItype1receptorsignalingcontributestosynaptophysindegradationandneuronaldysfunctioninthediabeticretina.Diabetes57:2191-2198,2008(68)図1CNTF作用メカニズムのモデルCNTFは,CNTF受容体を介してgp130受容体およびJAKを活性化させ,細胞内でSTAT3を活性化して,anti-apoptotic作用をもつbcl-2ファミリー分子の発現を亢進させる.活性化STAT3は転写因子として働き,同時にほかの分子も発現してその他の作用も生じうる.gp130……CNTFbcl-2…………JAKSTAT3……bcl-2PPPP……….CNTF……anti-apoptosis……………………■「網膜神経保護療法の開発に向けて」を読んで■1990年代前半にサイトカインが網膜神経保護作用をもつという報告がなされ,眼科研究者に大きな衝撃を与えました.ただし,当時は増殖糖尿病網膜症,加齢黄斑変性などの治療法が十分に確立されていなかったために,網膜神経保護が網膜疾患治療の中心になるのは,遠い将来になると考えられていました.また,対象疾患は網膜色素変性症などの治療法がないものに限られるともいわれました.それから20年近くが経ち,ついにその将来が来ました.小沢洋子先生が本文中でわかりやすく解説されているように,米国ではすでに臨床試験が始まり,その効果が今年の米国眼科アカデミーでも報告されています.硝子体手術などに限(69)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101551らず,新しい治療に挑戦していく米国医療界の強い実行力には驚かされますが,硝子体手術などと同じように,この分野でも間違いなく米国医療界が開拓者であります.この治療が眼科診療にもたらす影響の大きさは計り知れません.まずは対象疾患の広がりの大きさです.本治療を実行しているWilliams博士によれば,緑内障,糖尿病,網膜.離など,眼疾患はほとんどが治療対象になり得ます.増殖糖尿病網膜症に対して手術的に網膜を復位させることは可能になりましたが,その後の視力維持は簡単ではありません.網膜神経保護療法がその解決法になるかもしれません.緑内障に至っては,本治療の可能性の大きさを説明する必要もないほどです.そして,さらに重要な点は治療の簡便性です.従来の網膜治療の中心は外科治療でした.高度な外科治療が成立するには,インフラ整備,術者教育など多くの要因が必要であるため,治療による受益者は限定されますが,外科医の利得も保証されるので,安定した医師-患者-開発者の関係を保つことが可能でした.ところが,網膜神経保護が薬物治療のようになれば,各医師の利益はきわめて限定されます.米国ではWinnertakesallという概念が広く受け入れられていますが,開発者の利得がきわめて大きくなるのは間違いありません.これは,従来の眼科医療者間の構造を完全に変えてしまう可能性があります.この潮流を止めることは不可能です.基礎研究が純粋にサイエンスであった時代を経て,基礎研究がサイエンスのみならず,眼科医療構造にまで大きなインパクトをもつようになった時代を迎えています.わが国でもこの領域の強化は重要であり,小沢先生のグループによる研究が大いに期待されています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 198.Visual Field Index(VFI)

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.10,201015470910-1810/10/\100/頁/JCOPYVisualFieldIndex(VFI)とよばれる新しい視野指標が導入されている3).このVFIは,特に患者のqualityofvision(QOV)を強く意識した指標で,MDとは異なり一つの計算式で算出されるのではなく,いくつかのステップを踏んで求められている(表1).VFIは,視野がまったく正常な場合を100%,視野完全消失で0%になるように%単位でスケーリングされている.VFIは白内障などのびまん性感度低下の影響を少なくするため,MDが20dB以下の進行期を除き,基本的にpatterndeviationを用い計算されている.そしてMDが20dB以下に進行するとtotaldeviationを用いて計算される.さらに皮質拡大率をもとに視野の中心部ほど重み付けがなされており,より実際の視機能に即したQOV評価に優れるとされている..使用方法GPAでは1回でもSITAプログラムによる測定データがあれば,過去のfullthresholdで測定されたデータもともに解析することができる.個々の視野のVFIは自動的に算出される.さらに,複数の視野から得られた新しい治療と検査シリーズ(65).バックグラウンド自動視野計による静的視野測定では,個々の検査点の感度以外に,視野を全体として評価する視野指標とよばれるパラメータがある.視野指標は,視野としての各測定点の情報ではなく,視野の性状を一つの数値として算出する.この視野指標のなかでも最も広く用いられるものにMDがある.このMDはOctopus視野計ではmeandefect(平均欠損),Humphrey視野計ではmeandeviation(平均偏差)の略として用いられている.Meandefectは各測定点において得られた実測値に対し同年代の年齢別正常値からの欠損量を求め,平均した値である.この指標によって視野が正常値から全体的にどれくらい低下しているかを示すことができる1).Humphreyのmeandeviationでも基本的な考え方は同様であるが,個々の測定点における正常値の分散値を考慮し,視野中心部でより重み付けがなされている2).MDは,視野の病期分類,進行評価,残余視機能を示す代表値として幅広く用いられている.しかしながら,1)視野進行評価において視野早期の局所的障害をつかみにくい,2)年齢別正常値からのdBスケールの欠損量となるため,同じMD値でも残余視機能が年齢によって異なる,3)視機能評価としての各測定点の重み付け(視野中心部では,周辺部に比べ多くの網膜神経節細胞が集中しており,視中枢でも大きな面積を占めている)が不十分である,4)白内障などびまん性感度低下の影響を受けやすい,などいくつかの既知の問題点を有する..新しい評価法Humphrey視野計のGuidedProgressionAnalysis(GPA)では,緑内障患者の残余視機能の評価において,MDの有するこれら問題点を解消すべく考案された198.VisualFieldIndex(VFI)プレゼンテーション:松本長太近畿大学医学部眼科学教室コメント:岩瀬愛子たじみ岩瀬眼科表1VisualFieldIndex(VFI)の算出手順個々の測定点の実測値を,それぞれ以下の基準で0~100%にスケーリングし,集計して最終的なVFI値を求める.1)Patterndeviationにて正常判定されている測定点はすべて100%とする.2)実測値が0dBの測定点はすべて0%とする.3)Patterndeviationにてp<5%と判定された測定点は,同部位の年齢別正常値を100%とした場合における実測値の割合を%で求める.(たとえば,正常値が22.5dB,実測値が13.5dBの場合は13.5/22.5=60%となる.)4)MDが20dB以下の場合はすべてtotaldeviationにて判定する.5)視野を中心部から周辺部へ5つのゾーンに分け,網膜神経節細胞の分布密度を考慮しそれぞれ3.29,1.28,0.79,0.57,0.45の係数で重み付けを行う.1548あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010VFIの時系列の推移を経過プロットで解析することができる.VFIの経過プロットでは横軸に患者の実年齢が表示され,縦軸にVFIが%で表示される.100%が正常,0%が視野完全消失となる.経過プロットの下方にはVFIのスロープおよび有意水準が表示される.患者の余命と視野進行スピードを考えながら治療方針を考えることができる.経過プロットの横にはVFIバーが表示される.ここには現時点のVFIと,今の状態が続いた場合の3~5年後のVFIが予測表示される(図1)..本法の利点VFIは機能面で最も重要な視野中心部に重み付けを行っており,理論上は従来のMDに比べより患者のQOV評価に適すると期待されている.そして,patterndeviationを基準としているため,長期変動や白内障など視野のびまん性低下の影響を受けにくいのも利点である.さらに,従来のdBスケールを直感的に把握しやすい0~100%で再スケール化することで,医師のみならず患者にとっても自分の視野障害の程度を容易に把握しやすくなっている.また,経過プロットの横軸表示を検査日から患者年齢へ変えることにより,年齢を含めた患者の機能的予後をより把握しやすくなっている.さらに新しい試みとして,数年先のVFIを予測できる点である.これは統計学的でいういわゆる外挿予測になるため過信は禁物であるが,患者とともに長期的な治療方針を考えるよい参考材料となる.文献1)WhalenWR,SpaethGL:Computerizedvisualfields,Whattheyareandhowtousethem.p307-344,SlackIncorp,Thorofare,19852)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry.p111-115,Mosby,StLouis,19993)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,2008(66)図173歳,男性(狭義開放隅角緑内障)のVFI経過プロットおよびVFIバー73歳時点でVFIは55%,.3.2±1.5%/year(p<0.1)の有意な進行を認める.さらに現状のままでは,5年後にはVFIが40%を切ることが推定される.Indexでは指摘しきれなかったADL(ActivitiesofDaylyLiving,日常生活活動)をも含んだ視機能の時系列評価といえる.日常臨床で使用した感想でいえば,視野の上下を分けて,この指標が出てくれるとありがたい.特に,縦書きの文字を読む日本では,下視野の確保はqualityofvisionの点でも必須であり,今後,上下のVFIがオプションで付くことを強く望むものである.自動視野計の測定結果は,検査日の結果のみの表示を目的としているのではなく,緑内障診療の主目的と考えられる「生涯にわたる視機能の維持」に対する評価が大切である.Humphrey視野計のGPAに導入されたVFIは患者の年齢を横軸にとり,時系列に残余視機能を評価可能とした指標であるため,過去の治療効果の確認や予後の予測を可能としている.そして,旧ソフトウェアからあった視野全体の評価指標Global■本方法に対するコメント■☆☆☆

緑内障:眼底対応視野計

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015450910-1810/10/\100/頁/JCOPY●眼底対応視野計とはHumphrey視野計の通常プログラムである30-2や24-2では6°間隔に視標が呈示されるため,網膜神経線維層欠損上に感度低下があっても検査点に含まれていない可能性がある1).検査点を密にすれば,小さな異常を検出できる可能性が増えるが静的自動視野計ですべての領域を検査するには時間がかかるため,検査点を限定する必要がある.Kaniら2)は赤外線によって眼底を観察しながら眼底の病変に刺激光を呈示する眼底視野計を開発した.可児らがそれを簡略化し,局所の視野を調べる際に眼底像に対応させることによって,網膜神経線維層欠損などの異常部位を選択的に検査することを目的に開発されたものが,眼底対応視野計である.この視野計を用いることで,通常の視野計では検出されない視野異常が検出可能であり,視野と眼底の対応の把握も可能である.市販の視野計ではKOWA社のAP-6000に眼底像視野検査として搭載されている.また,NIDEK社製のMP-1も眼底と対応させて視野の把握が可能である.●眼底対応視野測定可能な各種視野計1.AP.6000(図1A,B,図2)患者の眼底写真を視野計に取り込み眼底の任意の場所に視標を呈示可能である.視野計に取り込まれた際に,視野に合わせて眼底写真は上下反転して表示され,眼底画像の中心窩と乳頭の中心を指定し,Mariotte盲点の大きさを測定することによって眼底写真と視野の測定点を補正し測定する.現在トータル偏差は表示されるが,確率プロットは表示されない.2.MP.1(図3)測定開始前に近赤外光でモノクロの眼底写真を撮影す(63)●連載125緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也125.眼底対応視野計大久保真司金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)通常の視野計では検査点の配置の問題で検出できないごく早期の緑内障において,眼底像に対応させて局所を詳細に検査する眼底対応視野計は有用である.進歩した画像解析装置と併用することによって緑内障の構造と機能の関係を明らかにすることが期待される.AB図1右眼ごく早期緑内障の眼底写真(A)およびHumphrey視野30.2(B)A:上下に網膜神経線維層欠損(黒矢印)がみられる.B:視野には異常はみられない.(図1.4は同一症例)1546あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010る.視標パターンは既定のもの以外にモノクロの眼底写真をもとにマニュアルで検者が選択することも可能である.撮影終了時にカラー眼底写真を撮影し,測定結果と重ね合わせることができ,カラー眼底上での評価が可能となる.網膜神経線維層欠損部分を選択的に計測することも可能である.(64)●眼底対応小視標視野計(図4)Nakataniら3)は視標呈示画面に液晶モニターを使い,患者の眼底写真を検査用パソコン画面に取り込み眼底の任意の場所に小視標を呈示できる眼底対応小視標視野計を用いてごく早期緑内障に対し暗点が検出できるかを検討し,網膜神経線維層欠損上に暗点を検出することができたと報告している.今後ごく早期緑内障の機能的診断やスクリーニングに有用と考えられる.●緑内障に対する眼底対応視野計の今後長期管理が必要な緑内障において,標準的な視野計での経過観察が基本となる.しかし,眼底対応視野計はごく早期の緑内障の評価や,spectral-domainopticalcoherencetomographyなど進歩した画像解析装置と併用することによって緑内障の構造と機能の関係を明らかにすることが期待される.文献1)TuulonenA,LehtolaJ,AiraksinenPJ:Nervefiberlayerdefectswithnormalvisualfields.Donormalopticdiscandnormalvisualfieldindicateabsenceofglaucomatousabnormality?Ophthalmology100:587-597,19932)KaniK,OgitaY:Funduscontrolledperimetry.DocOphthalmolProcSer19:341-350,19793)NakataniY,OhkuboS,HigashideTetal:Detectionofvisualfielddefectsusingfundusorientedsmalltargetperimetryinpreperimetricglaucoma.InvestOphthalmolVisSci48:E-abstract1609,2007図2AP.6000による眼底対応視野検査結果眼底写真は視野に合わせて上下反転してある.上耳側の網膜神経線維層欠損(図では下方)の黄斑部側の境界線に.27dB,.5dB,.15dBの感度低下(数字に白い下線)がみられる.白点は,6°間隔ごとのHumphrey30-2の検査点に相当する.感度低下のある部位は6°間隔の白い点の間にある.そのためにHumphrey30-2では異常が検出できなかったことがわかる.図3MP.1の結果網膜神経線維層欠損に対応する部位に感度低下がみられる.MP-1では,眼底に合わせて視野が上下反転されている.図4眼底対応小視標視野計の結果眼底写真は視野に合わせて上下反転してある.眼底対応小視標視野計では暗点(青点)が網膜神経線維層欠損上に見られる(赤い点は見えた点,青い点は見えなかった点).

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ(ICLTM)のインフォームド・コンセント

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015430910-1810/10/\100/頁/JCOPY後房型有水晶体眼内レンズの1つであるICLTM(ImplantableCollamerLens,以下ICL,スター社と略)が本年3月わが国では唯一の有水晶体眼内レンズとして厚生労働省の承認が得られ,正式に発売されることとなった.手術を実施するには,日本眼科学会による屈折矯正手術講習会(有水晶体眼内レンズが含まれる本年4月からの講習)を受講し,スター社が実施する講習会を受講することが必要である.それに加え,インストラクターの手術を助手として見るとともに,指導を受けながらの手術を実施ICL認定を取得する必要がある.これらの講習会で,インフォームド・コンセントについてはその重要性とともに話されると思うが,本稿では従来のエキシマレーザー屈折矯正手術に必要なインフォームド・コンセントに加え,有水晶体眼内レンズ手術において修正・追加・補足が必要な部分を重点に述べたいと思う.●日本眼科学会の最新の「屈折矯正手術のガイドライン」屈折異常の矯正において,眼鏡あるいはコンタクトレンズの装用が困難な場合,医学的あるいは他の合目的な理由が存在する場合,屈折矯正手術が検討の対象となる.屈折矯正手術の長期予後についてはなお不確定な要素があること,正常な前眼部に侵襲を加えることなどから慎重に適応例を選択しなければならないとしている.従来の答申とほぼ同じであるが,以下にICLについて限定的にされていることを紹介するとともに,インフォームド・コンセントに必要と思われる補足を追加する.1.年齢に関して年齢は,18歳以上とし,未成年者は親権者の同意を必要とする点は同じであるが,ICL手術に関しては,エキシマレーザー手術における記載に加え,水晶体の加齢変化を十分に考慮し,老視年齢の患者には慎重に施術すると指摘している.筆者らの治験研究の結果や経験からも50歳未満できれば45歳以下が望ましいと考えている.2.対象エキシマレーザー手術が屈折度が安定しているすべての屈折異常(遠視,近視,乱視)とするとしているのに対して,ICL手術は6Dを超える近視とし,15Dを超える強度近視には慎重に対応するとしている.従来のエキシマレーザー手術が対象外としていた強度近視が矯正できることが画期的なことである.近視のみに限定されているのは,現在のICLが乱視矯正および遠視矯正用が承認されていないためと考えられ,将来的にはこれらも対象とされると考えられる.3.実施が禁忌とされるものエキシマレーザー手術に関するものとして,①円錐角膜,②活動性の外眼部炎症,③白内障(核性近視),④ぶどう膜炎や強膜炎に伴う活動性の内眼部炎症,⑤重症の糖尿病や重症のアトピー性疾患など,創傷,治癒に影響を与える可能性の高い全身性あるいは免疫不全疾患,⑥妊娠中または授乳中の女性,⑦円錐角膜疑いがあげられ,ICL手術に関しては,エキシマレーザー手術における①.⑥の事項に,⑦浅前房および角膜内皮障害を加えている.なお,③は核白内障には限らず,水晶体に混濁あるいは亜脱臼などの異常がある場合を含むとしている.浅前房とは,前房深度(角膜後面から水晶体前面まで)が2.8mm未満とされている.ガイドラインには記載がないが,散瞳瞳孔径の8mm未満のものも適応がないと考えられる.4.実施に慎重を要するものこれについては,エキシマレーザー手術の対象のものに加えて,ICL手術では,円錐角膜疑い症例を加えているが,抗精神薬(ブチロフェノン系抗精神薬など)の服用者,角膜ヘルペスの既往,屈折矯正手術の既往は指摘されていない.(61)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載126監修=木下茂大橋裕一坪田一男126.後房型有水晶体眼内レンズ(ICLTM)のインフォームド・コンセント市川一夫社会保険中京病院眼科ICLTMは,わが国で唯一承認された後房型有水晶体眼内レンズであり,従来のエキシマレーザー手術に比較して,可逆的な手術でかつより強度近視を加療できる特徴がある.しかし内眼手術ゆえに注意すべき点があり,これらに配慮したインフォームド・コンセントについて解説した.1544あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010●インフォームド・コンセント時に忘れてはならないこと従来の屈折矯正手術でインフォームド・コンセントに必要な流れについて表1にまとめたが,ICLだからといって変わったところはない.ただし,ライセンス制度があり,術者がそのライセンスを保持していることを説明することは必要かつ不可欠であると考えられる.図1にスター社が提供してくれるICLに関するパンフレットと説明用DVDの外観を示した.独自のものを作ることもより有用と考えるが,まずはこれらを利用するのがよいであろう.●カウンセリングと手術同意書作成時に注意すべき点カウンセリングの内容のまとめを表2に示す.特にICLの合併症として知られているものや,対象となる高度近視に関する合併症について,よく説明しておくことが必要不可欠であるので別に以下に記す.①術後感染性眼内炎は,まれではあるが,6,000例に1例の報告がある.②ハロー・グレアについは,光学系が小さいため夜間散瞳のよい症例では訴えることがある.しかし,そのために摘出に至った症例の報告はない.③角膜内皮障害については,今までの報告や筆者らのデータや治験時では約2.4%でありほとんどは問題ない.ただし,筆者の症例であるが,浅前房でかつ入れ替えした症例で最大約50%の減少が1例のみではあるが経験があり慎重を要するものである.④術後一過性眼圧上昇およびステロイド緑内障は,一過性の眼圧上昇は21mmHgまでとすれば最大50%に認められる.ダイアモックスRなどの投与や降圧点眼薬の投与で収まる.⑤白内障が最も懸念される合併症である.FDA(米国食品医薬品局)の治験では2%程度に認められたとの報告もあるが,初期の頃の比較的年齢の高い白内障眼の他眼を対象にした症例を除けば,筆者自身が施行したICL手術症例で白内障手術まで行った症例はない.⑥閉塞隅角緑内障は,虹彩切除が不十分な症例に起こりやすいが,レーザーで十分に切開した症例でも術後炎症で閉塞し起こることがあるので注意は必要である.緑内障発作を起こし追加的に周辺虹彩切除術を実施する場合もあるので説明しておくべきであろう.⑦網膜.離は,ICL手術によるものではないが,強度近視では発生率が高いので,ICLの患者さんには,⑧近視性脈絡網膜萎縮とともに,術後近視が治ったと誤解しないように,高度近視のための定期受診を勧める必要がある.⑨虹彩切開あるいは虹彩切除による光視症を訴えることがある.上方で行った場合は少ないが水平方向に近いと小さな穴でも訴えることがある.おわりにICLのインフォームド・コンセントに必要な知識について,他の屈折矯正手術の知識に加えて必要な項目を書いたつもりである.まだわが国で認可を受けたばかりであり,今後のさらなる術後成績の集積が望まれる.文献1)屈折矯正手術のガイドライン,日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会答申.日眼会誌114:692-694,20102)市川一夫:後房型有水晶体眼内レンズの実際合併症とその対策.IOL&RS24:24-28,2010(62)図1説明資料(パンフレット・DVD)手術に際しての必要な眼の知識や手術全般にわたる解説を記載し,文章での説明を残す.手術の利点とともに問題点も示すことにより,手術の選択を正しく行えるよう,有益な情報を盛り込む.(STAARJapanInc.より)表1一般的な手術までの説明に関する流れ.ホームページ.資料(説明文書・ビデオ).適応検査時カウンセリング.術前オリエンテーション(STAARJapanInc.より)表2カウンセリングの内容.手術を受ける動機.術後の期待できる視力.夜間の見え方.年齢,職業,ライフスタイル,老視体験をもとに術後近見視力の説明.老視について.白内障など術後合併症について(STAARJapanInc.より)

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ挿入眼の視力検査

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015410910-1810/10/\100/頁/JCOPY視力測定前に眼内レンズの種類を確認視力測定する前に,どのような眼内レンズが挿入されているかを知っておくべきである.今まで単焦点眼内レンズ1種類であったが,多焦点眼内レンズ,そのなかでも屈折型と回折型,さらに乱視矯正を兼ねたトーリック眼内レンズも承認を受け,種類が増えている.多焦点眼内レンズ挿入後は検査項目が多いと思われているが,遠方視力検査のみでも構わないのである.ただし,このような付加価値のあるレンズ挿入眼でその効果が出ているのかを確認するには近方視力,ときには中間視力測定が必要となる.さらに日常生活における見え方という点では両眼裸眼視力が参考になる.遠方視力検査における注意点多くの施設で,視力測定前にオートレフラクトメータによる球面および円柱度数と乱視軸を参考に矯正視力を測定していると思うが,多焦点眼内レンズの場合は注意する.屈折型では眼内レンズの遠用部分でなく近用部分を通して測定されると.2Dから.3Dの近視となり,この値を入れても矯正視力は出てしまう.回折型では測定結果はだいたいの目安となるが,円柱度数でのばらつきがあるので注意する1).つぎに,視標0.6.0.8付近で応答スピードが遅くなるケースがある2).ここで測定をやめてしまうと本来見えている視力より低い値となってしまう.コントラスト感度がやや低下している可能性,涙液状態の影響を考慮し,一呼吸おいたり,瞬目を促したりすることで,その後スムーズに1.0以上まで回答できる例があることを知っておくとよい.近方,中間視力測定の実際近方視力は30cmでの測定が一般的であるが,今後,近方加入度数を減らした多焦点眼内レンズがでてくると40cm視力測定結果がレンズの特徴を表す(図1).中間視力の明らかな定義はないが,多くの論文で50cmか(59)●連載⑪多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子11.多焦点眼内レンズ挿入眼の視力検査野中亮子ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科多焦点眼内レンズ挿入眼の視力検査は,単焦点眼内レンズ挿入眼と異なる点があるので注意する.遠方視力測定ではオートレフラクトメータの信頼性,回答速度の変化,近方視力測定では,規定の距離と症例ごとに見やすい距離での差,さらに両眼視での視機能向上と,見え方に慣れるのに時間を要する例がある.図270cm視力表(GOODLITE社)を用いての中間視力測定図140cm視力表(GOODLITE社)1542あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010ら1m視力としており,専用の視力表も入手可能で,規定の距離で測定する(図2,3).遠方視力測定は裸眼と矯正の2種類であるが,多焦点眼内レンズ挿入後の近方,中間視力では裸眼,遠方矯正下,矯正の3種類になる.これは多焦点眼内レンズ挿入後の球面度数のずれ,角膜乱視による影響を遠方矯正で(60)補正した状態で,どのくらい近くや中間が見えているのかといった本来の機能評価をするためである.また,矯正方法は2焦点であるため,遠方矯正度数にプラス加入,近方矯正度数にマイナス加入が可能であるが,一般的には前者の方法を用いる.両眼視力測定の意義多焦点眼内レンズの目的は,日常生活における眼鏡依存度を減らすことで,その評価としては両眼視での視力測定が有用である.両眼視力は片眼視力より向上することが知られているが,多焦点眼内レンズ挿入後ではコントラスト感度の向上を含め,この効果が患者満足度にもつながる.多焦点眼内レンズ挿入後全例で行う必要はないが,ぜひ,それほど測定に時間がかからないので,何例かに遠方と近方の両眼視力を測定してみることをすすめる.文献1)Bissen-MiyajimaH,MinamiK,YoshinoMetal:Autorefractionafterimplantationofdiffractivemultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:553-556,20102)大木伸一:多焦点IOLの実際.術前,術後のコツ,注意点.IOL&RS22:263-269,2008☆☆☆図3新井氏1M視力表(はんだや)

眼内レンズ:Elschnig pearlの自然寛解

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015390910-1810/10/\100/頁/JCOPYElschnigpearlは後発白内障の一種で,自然軽快することはまれであり,視力低下をきたした場合には,通常,Nd:YAGレーザーによる後発切開術の適応となる.今回,眼底疾患のため積極的にNd:YAGレーザー後発切開を施行せず経過をみていたところ,Elschnigpearlの自然寛解を認めた2例を経験したので提示(57)する.〔症例1〕56歳,女性.糖尿病黄斑浮腫のため矯正視力が(0.03)まで低下したため,経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)+超音波水晶体浮化吸引術(PEA)+眼内レンズ挿入術(IOL)を施行.術後視力は(0.1)であった.術後2年経過時,著佐藤孝樹池田恒彦大阪医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎291.Elschnigpearlの自然寛解Elschnigpearlは後発白内障の一種で,視力低下をきたした場合には通常Nd:YAGレーザー後発切開術の適応となる.しかし,自然軽快したとする報告も散見される.自然軽快の機序として,水晶体上皮細胞のアポトーシスの関与に加えて,水晶体.と接着が弱い症例では,眼球運動などで水晶体.から分離脱落することが原因と考えられる.図3症例2:前眼部細隙灯写真Elschnigpearl後発白内障を認める.図1症例1:前眼部細隙灯写真Elschnigpearl後発白内障を認める.図4症例2:前眼部細隙灯写真Elschnigpearlの著明な軽快を認める.図2症例1:前眼部細隙灯写真Elschnigpearlの軽快を認める.明なElschnigpearlを認めた(図1)が,視力低下の自覚症状がなかったため,経過観察とした.その際の視力は(0.1)であった.その半年後に,Elschnigpearlの軽快を認めた(図2).しかし,矯正視力に変化はなかった.〔症例2〕67歳,男性.過去に加齢黄斑変性に伴う硝子体出血に対してPPVを施行.経過観察中に白内障の進行を認めたため,PEA+IOLを施行した.術後視力は(0.2)であった.5年後に視力(0.06)となり,著明なElschnigpearlを認める(図3)も,視力低下を自覚せず経過観察とした.半年後の再診時,Elschnigpearlの軽快を認め,その半年後には,さらに著明な軽快を認めた(図4).そのときの視力は(0.1)であった.後発白内障の発生の要因は,白内障手術後に残存した水晶体細胞の増生により生じる混濁であり,通常,自然軽快はまれである.後発白内障は,混濁のタイプによりElschnigpearl,後.線維組織形成,液状後発白内障,Soemmering’sringなどがあげられる.後発白内障により視力低下をきたした場合,通常,Nd:YAGレーザーによる後発切開術を行う.Soemmering’sringは周辺部に起こる増生のため,通常視力低下の原因となりにくいが,硝子体手術の際には視認性の低下の原因となりうる.その場合,手術のときに切除を行う.後発白内障の自然軽快を認めたとする過去の報告は少なく,中村ら1)は自然消失と再発をくり返した液状化白内障について報告している.それによると,自然軽快の原因として,通常,液状後発白内障は前.縁と眼内レンズ前面が癒着し水晶体.内が閉鎖腔になる,いわゆるcapsularblocksyndromeにより起こるが,残留皮質があるために前.とレンズの癒着部との間にわずかな隙間が生じ,液状後発白内障が自然消失したものと考えられたとのことである.Elschnigpearlの自然軽快については,Caballeroら2)とYonedaら3)が報告している.Caballeroらによると,自然軽快の理由として,1)前.切開を通じて硝子体腔内に落下した,2)硝子体中のマクロファージによる貪食,3)アポトーシスなどの可能性について考察を行っている.YonedaらによるとCaballeroらが考察した可能性のうち,前.切開が完全な状態の症例に認めたことから1)と2)の可能性を否定している.今回の2症例の特徴として,他のElschnigpearl症例と比較して水晶体.とElschnigpearlとの接着が弱く可動性が認められた.そのため,眼球運動などによって自然に水晶体.から分離離脱しやすかったことが一つの原因となった可能性が考えられる.しかし,前.切開は完全であり,眼内レンズを完全に覆う状態であったため,硝子体腔への落下や硝子体中のマクロファージによる貪食は考えにくく,水晶体.から分離離脱したElschnigpearlがアポトーシスを生じた可能性が考えられる.Nd:YAGレーザーによる後発切開術は,網膜.離,眼内炎,黄斑浮腫,眼圧上昇などの合併症をきたすことがあるため,今回経験したような,水晶体.とElschnigpearlの接着が弱いと思われる症例では,しばらく経過観察するのも一つの選択肢であると考えられる.また,太田ら4)の報告のようにNd:YAGレーザーを用いた後.研磨により後.を温存する方法も見直されてもいいかもしれない.文献1)中村昌弘,江口万祐子,伊勢武比古ほか:自然消失と再発を繰り返した液状化白内障.臨眼58:691-694,20042)CaballeroA,MarinJM,SalinasM:SpontaneousregressionofElschnigpearlposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg26:779-780,20003)YonedaH,KatoS,SugitaGetal:SpontaneousregressionofElschnigpearlposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg33:913-914,20074)太田一郎,三宅謙作:後発白内障に対するNd:YAGレーザーによる後.研磨.眼臨89:1511-1514,1995

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 円錐角膜に対するローズK2PGTM/ICTM

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015370910-1810/10/\100/頁/JCOPY円錐角膜眼の角膜形状は,その進行の程度によりさまざまで,その角膜形状に対して最適なフィッティング,視力,自覚的装用感が得られるコンタクトレンズ(CL)を選択することが重要で,円錐角膜眼のCL処方において,万能となるCLはない.したがって,円錐角膜の程度,フィッティングフィロソフィーで処方されるレンズは異なるが,通常,球面ガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL),トーリックRGPCL,内面多段階カーブRGPCL,ピギーバックシステムが処方される.現在では,円錐角膜用に設計された内面多段階カーブRGPCLであるローズKTMが国内外で多く処方されるようになり,比較的処方が容易で,かつ患者の自覚的装用感および矯正視力も満足を得られることが多い.しかし,ローズKTMをはじめとする既存のレンズによる処方でも,レンズが外れやすい,ずれやすいなど,処方されたがCLを使用できないなどの理由で,対応に苦慮する症例があることも事実である.最近,角膜移植後用としてデザインされたローズK2PGTM,不正角膜用としてデザインされたローズK2ICTMが処方できるようになった.ローズKTMレンズは内面中央部がスティープで,周辺に向かって段階的にフラットとなるデザインであるのに対して,ローズK2(55)PGTM/ICTMは,逆形状多段階カーブデザインで,光学中心部から周辺,エッジにかけて,滑らかな多段階カーブレンズとなっている(図1).ローズK2PGTM,ローズK2ICTMのレンズデザインは共通で,2つの違いは標準レンズ直径が異なるのみである(ローズK2PGTM:10.4mm,ローズK2ICTM:11.0mm).水谷聡水谷眼科診療所コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法317.円錐角膜に対するローズK2PGTM/ICTM1.角膜全体2.角膜中央~下方3.角膜中央4.角膜下方中央5.偏位6.角膜下方全体7.直乱視方向8.倒乱視方向9.その他図2角膜形状解析による円錐角膜形状の分類ローズKTM/ローズK2TMローズK2PGTM/ICTMマルチカーブゾーンマルチカーブゾーン内面光学部(ベースカーブ)内面光学部(ベースカーブ)ベベルベベルリバースゾーンリバースゾーン図1ローズKTM/ローズK2TMとローズK2PGTM/ICTMのレンズ比較(断面形状イメージ)1538あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(00)角膜移植後,不正角膜用の逆形状多段階カーブRGPCLであるローズK2PGTM/ICTMを円錐角膜眼に処方し,以前のCLよりも良好なフィッティング,自覚的装用感が得られた症例を提示する.●処方方法円錐角膜の角膜形状を,高屈折領域(50.5D以上,角膜曲率半径6.68mm以下)の範囲と位置から9つのタイプに分類(図2)し,ローズK2PGTM処方例の比率を検討すると,特に角膜全体に高屈折領域が存在する症例(図2.1),角膜中央より下方に高屈折領域がある症例(図2.2)で良い適応となっている.これらの症例に球面RGPCLやローズKTMを処方すると,2点接触法のフィッティングとなることが多く,結果としてレンズ下方部が浮き上がり,レンズが外れやすくなると考えられる.ローズK2PGTMを処方すると,3点接触法に近いフィッティングが得られやすい(図3).実際の処方としては,RGPCLの装用者の場合,球面RGPCL装用者ではそのCLのベースカーブ(BC)から0.5.0.6mm程度スティープなBC,ローズKTM装用者の場合,0.4.0.5mmフラットなBC,CL未経験眼,非装用眼では角膜曲率中間値から0.3mmほどスティープなBCを第一選択としている.角膜曲率が測定できない場合は,6.00mmのBCを選択する.レンズ直径は9.6mm,エッジリフトは標準リフトを用いる.フィッティングの判定は,フルオレセインパターンを参考にし,円錐の頂点がレンズ内面に軽く接触して気泡が入らないBCを選択し,その後,レンズ周辺部の角膜への接触の程度を評価する.具体的にはエッジリフトを評価し,エッジクリアランスの幅(いわゆるベベル)が0.6.0.8mm程度となるようにエッジリフトを変更する(エッジクリアランスが小さい場合にはリフトを高くし,エッジクリアランスが大きい場合にはリフトを低くする).さらに涙液交換を確認し,最終的にはフルオレセインパターン,自覚的装用感,視力などを考慮し処方する.●症例球面RGPCLからローズK2PGTMに変更した症例を図4に示す.球面RGPCLでは2点接触法で側方からの観察でも下方でのレンズの浮き上がりが認められるが,ローズK2PGTMでは球面RGPCLよりも3点接触法に近いフィッティングとなり,レンズ下方の浮き上がりも改善された.浮き上がり球面RGPCL浮き上がりローズKTM/ローズK2TMローズK2PGTM/ICTM図3角膜全体に高屈折領域がある症例に対するCL処方球面RGPCLローズK2PGTM正面からの観察側方からの観察図4球面RGPCLからローズK2PGTMへの変更症例

写真:Waardenburg症候群

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015350910-1810/10/\100/頁/JCOPY(53)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦318.Waardenburg症候群加藤浩晃バプテスト眼科クリニック図1Waardenburg症候群(77歳,男性)虹彩異色がみられる.図3Waardenburg症候群(図1と同一症例)僚眼の虹彩は正常色である.図4Waardenburg症候群の眼底写真(図1と同一症例)患眼の眼底は白子様眼底である.虹彩異色図2図1のシェーマ1536あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(00)Waardenburg症候群は1951年にオランダの眼科医Waardenburgにより161例集められ報告された遺伝性症候群である1).①内眼角の側方偏位(99%),②鼻根部の拡大(78%),③鼻側部眉毛過形成(45%),④前眼部白髪(25%),⑤先天性感音声難聴(20%),⑥虹彩異色(17%)の6主徴を有する疾患であるが,これらすべての異常所見を有するものは少なく,いくつかの異常を有さないものが多いとされている.1965年McDonaldらはWaardenburg症候群の診断基準として6つの異常所見のうち3つを有するか,あるいは2つ+家族歴を有するものを本症候群とする診断基準を提唱している2).本症候群の発症率についてはWaardenburgが調査した聾学校の先天聾患者840人中13人(約1.5%)が本症候群であったことから,この数字を一般人口に換算して約40,000人に1人と報告している1).別のAriasらの報告では56,000人に1人3),わが国における報告では32,400人に1人とされている.遺伝形式は常染色体優性遺伝と考えられているが浸透率は低く約1/3が孤発例とされている.分類としてはAriasらが内眼角の側方偏位の有無に注目して2群に分類している3,4).内眼角の側方偏位を伴うI型と伴わないII型,さらに現在ではこれらI型・II型に加えて上肢の形成不全を伴うIII型,Hirschsprung病を合併するIV型の4群と多彩な表現型を示している.本症候群の発症機序としてはいくつかの仮説があるが,神経堤細胞の異常とする説が一般的である.本症候群で認められる前頭部白髪や虹彩異色症はメラニン細胞の欠乏による色素異常であり,メラニン細胞は胎生4.8週で細胞堤から各組織に移動するため,その過程での障害が起こっているものと考えられる.今日では遺伝子学的な病態解明が進んできており責任遺伝子としてそれぞれI型とIII型ではPAX3,II型はMITF,IV型ではSOX10の異常が報告されている.Bondurandらはこれら責任遺伝子相互の関係としてPAX3とSOXXとがMITFのプロモーターに結合・協調してMITFを活性化するという機序を報告している5).MITFはメラニン細胞の分化能をもつ転写因子であり,本症候群のメラニン細胞異常に関わっていると考えられる.一般に本症候群の予後は良好である.虹彩異色は発現頻度が他症候に比較して低く,虹彩異色が特に視機能として問題とされることが少ないため,眼科で診断されるよりも難聴により耳鼻科あるいは聾学校などで診断されることが多い.今回の症例は,これまで眼科受診歴があり右眼の虹彩異色は指摘されていたがWaardenburg症候群との診断はされていなかった.6つの異常所見のうち内眼角の側方偏位,鼻根部拡大,鼻側部眉毛の過形成,虹彩異色症の4つの異常と娘(長女)にも同様の所見があり家族歴が認められたためWaardenburg症候群I型と診断した.今回の症例から,虹彩異色のある患者は難聴の有無,顔貌などに注意し家系調査も行ってWaardenburg症候群を疑う必要があると考える.文献1)WaardenburgPJ:Anewsyndromecombiningdevelopmentalanomaliesoftheeyelids,eyebrowsandnoserootwithpigmentarydefectsoftheirisandheadhairandwithcongenitaldeafness.AmJHumanGenetics3:195-253,19512)McDonaldR,Harrison,VC:TheWaardenburgsyndromeDescriptionandreportofasearch.ClinPeditar4:739-744,19653)AriasS,MotaM:Apparentnon-penetrancefordystopiainWaardenburgsyndrometype1,withsomehintsonthediagnosisofdystopiacanthorum.JGenetHum26:103-131,19784)AriasS:GeneticheterogeneityintheWaardenburgsyndrome.BirthDefectsOrigArticSer7:87-101,19715)BondurandN,PingaultV,GoerichDEetal:InteractionamongSOX10,PAX3andMITF,threegenesalteredinWaardenburgsyndrome.HumMolGenet9:1907-1917,2000

諸外国におけるオルソケラトロジー診療の動向

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYに関するオルソKの安全性と有効性も,一方では危険性と無効性も科学的に検証されていない.さらに,20歳未満の適応に関連して,オルソKの近視進行抑制効果,すなわちmyopiacontrolのエビデンスも究明中の段階にある.したがって,現時点での近視抑制効果を謳っての露骨な広告は,客観的事実であることを証明することができない誇大広告として医療法施行規則第1条の9に抵触する可能性もある.上記のごとく,オルソKの臨床には明らかにすべき問題が残されている.そこで,すでに日本よりも一足早くにオルソK臨床を行っている諸外国における現状,処方者の考え方や社会的なニーズを知ることにより,今後のオルソKの日本における方向性の参考とし,本レンズに対する正しい理解の一助となることを目的に,世界のオルソKの状況を調査したので報告する.その概略を表1に示す.I米国,カナダにおけるオルソK米国は,オルソK発祥の地である.効果と予測性が不安定であった第一,第二世代を経て,現在の第三世代のオルソKは,より洗練されたリバースジオメトリーレンズデザイン,高酸素透過性素材の採用,トポグラファーによる的確な治療効果の判定などにより,40年以上の経過を経て効果,予測性,再現性,即効性,安全性に格段の進歩がみられた.現在,米国(含むハワイ),カナダにおけるオルソKはじめに―日本におけるオルソケラトロジーの現状2009年4月,治験での有用性が認められ,アルファコーポレーション社製のオルソケラトロジー(以下,オルソK)レンズ,a-オルソRKが,日本で初めて「角膜矯正用コンタクトレンズ」として厚生労働省の承認を得た.ときを同じくして同年4月,日本コンタクトレンズ学会は,わが国におけるオルソKの健全な発展に資することを目的にガイドラインを発布した1,2).その後,2010年8月,9月と立て続けにボシュロム社・ボシュロムオルソケーR,テクノピア社・マイエメラルドRが承認された.ガイドラインは,承認の根拠となった治験結果をもとに作成されたため,適応年齢は20歳以上,適応矯正屈折度数は近視度数.4D以下,乱視度数は.1.50D以下となっている.しかし,承認以前から裁量権により個人輸入で本レンズを処方していた医師のなかには,かねてからこの適応を超えて処方している者も多く,ガイドラインの内容に戸惑いの声が聞こえることも事実である.一方で,ガイドラインの適応の項には,「今後は,我が国における処方後成績の集積が不可欠であり,これらの結果をもとに適応および矯正量などについては再検討されるべきである」とあり,そして,ガイドラインの最後には,「本ガイドラインは,本レンズが厚生労働省の承認を得たのちに蓄積される臨床データを解析することにより,再検討するものである」と結ばれている.すなわち現時点では,20歳未満への処方や.4D以上の矯正(47)1529*KenichiYoshino:吉野眼科クリニック〔別刷請求先〕吉野健一:〒110-0005東京都台東区上野1-20-10風月堂本社ビル6F吉野眼科クリニック特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1529.1533,2010諸外国におけるオルソケラトロジー診療の動向TheCircumstancesofOrthokeratologyAbroad吉野健一*1530あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(48)表1世界のオルソケラトロジー事情国名承認時期製造会社名メーカー所在国輸入業者名年齢制限矯正度数制限備考アジア日本2009.4.28.Alphacorporation日本N/A(.)*(.)**日本コンタクトレンズ学会は,20歳以上,.4.00D以下2010.8.23Contex米国B+LJAPAN(.)*(.)*への処方を提唱している.2010.9.1EuclidSystem米国Technopia(.)*(.)*中国2009E&E米国E&E(.).6.00D★2001年までの非医療機関における未承認レンズ,杜撰なレンズケアによる失明に至る重症角膜感染症の発生.★レンズ装用人口56万人.**実際は8歳から盛んに処方されている.2008EuclidSystem米国ShanghaiKSabove18**.4.00D2008Autek中国N/Aabove12**.5.00D台湾2008EuclidSystem米国HolyVisionabove18.4.00D2010TMVC/Hiline台湾N/A(.).6.00D韓国1998.5Contex***米国C&B(.)(.)***夜間装用承認未2005.11.LucidKorea韓国N/A(.).5.00D2005.2.EuclidSystem米国MedicalTech(.).5.00D2007.9.Paragon米国WooJeonMedical(.).6.00D?GPSpecialist/C&E米国GPSpecialist??北米米国カナダ2002.6.Paragon米国N/A(.)****.6.00D****VST(BostonOrthokeratologyShapingLenses)の承認に当たっては公式年齢規制はなかったが,FDAは2009年12月にParagon社の市販後調査のデータを概説するまで,子供への処方を活発に進めることを控えるよう要求した.したがって,VSTのラベルには,「青少年に対する安全性と効果は,臨床的に検証されていない」と記載されている.2006.11.Paragon米国N/A(.)****.6.00D2004.8.AuthorizedBostonLabsthathavebeencertifiedforVST米国N/A(.)****.5.00Dヨーロッパオランダ2003Procorneaオランダ(.)(.)★Ortho-Kレンズに対し特定の承認上の制約はない.一旦製造工場がCE認証をとれば,レンズデザインの安全性はメーカーの責任の下で販売される.近視矯正度数制限:★大部分のメーカーは.4.50D以下への処方を薦めているが,最終的には処方医の判断に委ねられている.★ひとつのイタリアのメーカーは,最大.6.00Dまでの矯正が可能であるとしている.★英国Orthokeratology協会によって出されるガイドラインと専門誌からのデータによると,近視は.4.50Dまで,乱視は.1.50D未満が適当と考えられている.2006HechtContactlinsenドイツMBVision(.)(.)2003NKLオランダ(.)(.)2004NKLオランダ(.)(.)2008NKLオランダ(.)(.)2009NKLオランダ(.)(.)ドイツ2006ProcorneaオランダMPG&E(.)(.)2006HechtContactlinsenドイツ(.)(.)2005TechnolensスイスTechnolensGermany(.)(.)2006GalifaスイスGalifaGermany(.)(.)スイス2006ProcorneaオランダConil(.)(.)2006HechtContactlinsenドイツASCONSwitzerland(.)(.)2005Technolensスイス(.)(.)2006Galifaスイス(.)(.)イタリア2006HechtContactlinsenドイツASCONItaly(.)(.)2006TSLentiaContattoItaly(.)(.)2007HorusItaly(.)(.)2010HorusUS/ItalyHorus(.)(.)フランス2007Precilensフランス(.)(.)2005TechnolensスイスTechnolensFrance(.)(.)オーストリア2006ProcorneaオランダBilosa(.)(.)2006HechtContactlinsenドイツMillerOptik(.)(.)英国2006No.7contactlenses英国(.)(.)2007DTCLUS/UKDTCL(.)(.)スペイン2007HechtContactlinsenドイツConoptica(.)(.)2007InterlencoSpain/USInterlenco(.)(.)イスラエル2006HanitaLensesオランダ(.)(.)2007SoflexUS/IsraelSoflex(.)(.)スウェーデン2006ProcorneaオランダNordiska(.)(.)ベルギー2004Procorneaオランダ(.)(.)セルビア2009ProcorneaオランダOptix(.)(.)ロシア2005Doctorlens-ContexRussiaDoctorlens(.)(.)オセアニア豪州N/AN/AN/AN/A(.)(.)★コンタクトレンズ自体に国の承認制度が存在しない.ニュージーランドN/AN/AN/AN/A(.)(.)★O.D.が処方する限りにおいて,年齢,適応度数等の制限もない.(49)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101531輸入品だけが扱われていた.しかし,その後PMMA(ポリメチルメタクリレート)素材を用いた中国製のオルソKレンズが出現し,2000年頃から眼科とは無関係の店で無軌道に販売されるようになった.粗雑なレンズであったこと,適切な処方が行われなかったことばかりか,ケア用品に至っては中国の水道水が保存液と称して販売されていたことなどが原因と考えられている.2001年7月,中国国家食品薬品監督管理局(SFDA:StateFoodandDrugAdministration)の規制が強化され,現在では医療機関以外での処方および販売は規制されている.公式な適応基準である12歳または18歳以上,.4Dまたは.6D以下に対し,実際は8歳以上の児童に盛んに処方されるに至り,現在その装用者は56万人に及ぶと推定されているが,その後,感染症の報告は激減している.確かなレンズ品質,正しい処方技術,適切な装用指導が重要であることを物語るエピソードといえよう.香港においても,対象は中国や東アジア圏の子供たちで,白人への処方はほとんど行われていない.適応年齢も処方者や親の意向次第では6歳以上の子供にまで引き下げられ処方が行われている.適応矯正度数は,通常.5D未満で良好な結果が得られると考えられているが,それ以上の近視矯正を試みる処方者も存在する.Myopiacontrolに関しては,オプトメトリスト(O.D.)やO.D.を雇用している眼科医の間では前向きに考えられているが,通常,眼科医自身はコンタクトレンズを処方せず,むしろ屈折矯正手術を推奨している.IIIヨーロッパにおけるオルソK英国をはじめとしたEU諸国においても,オルソKの適応年齢や矯正度数に公式な規制はない.しかし,BritishOrthokeratologySocietyが発布したガイドラインや学術専門誌に報告されたデータから,近視は.4.50Dまで,乱視は.1.50D未満が適当と考えられている.その根拠は,3.5mmの瞳孔径に対し有効な矯正は,.4.50が限界であるとするMunnerlynの公式に基づいている.視力を向上させるという意味においては,より強い近視に対する矯正も可能ではあるが,この公式によると,それを達成するためにはオプティカル・ゾーン治療の対象は,ほとんどが中国,韓国,台湾といった在住のアジア系の子供たちである.近視進行や近視そのものを心配した保護者が,myopiacontrolに期待して治療を受けさせている.一方,白人の場合は,myopiacontrolへの関心は増しつつあるものの,屈折矯正手術を躊躇する,または眼鏡やコンタクトレンズが不向きなアスリートなどの成人が対象になっている.米国,カナダにおけるオルソKの主流ブランドは,Paragon社のCRT(CornealRefractiveTherapy)とボシュロム社のVST(VisionShapingTreatment)である.VSTブランドは,エメラルドレンズをはじめとしたボシュロム系のレンズ素材を用いて作成されたオルソKメーカー6社(Emerald,BERetainer,CKR,ContexOK-ESystem,DreamLens,NightMove)を統括したものである.オルソKの適応として,公式な年齢制限は12~18歳以上とされているが,若い年齢層におけるmyopiacontrolの効果を期待して,実際には保護者の十分な管理のもと7歳以上の子供への処方が適応外使用(off-label)として行われている.VSTの承認時においても公式な年齢制限はなかったが,FDA(米国食品医薬品局)は2009年12月に,Paragon社の市販後調査のデータを概説するまで子供への処方を活発に進めることを控えるよう要求した.したがって,現時点のVSTの添付文書には,「青少年に対する安全性と効果は,臨床的に検証されていない」と記載されている.適応となる公式な矯正度数は,VSTは.5Dまで,CRTは.6Dまでとされているが,一部ではoff-labelレンズを用いてそれ以上の屈折矯正も行われている.IIアジアにおけるオルソK韓国は,1998年,世界に先駆け最も早くオルソK(Contex)を承認した国である.しかし,その承認条件は夜間装用レンズとしてではなく終日装用としてであった.アジアにおいて盛んにオルソKが行われている国は,中国(含む香港),台湾,韓国である.特筆すべきは,2000年頃の中国における角膜感染症の多発である.中国では,1998年頃のオルソK導入当初は,米国からの1532あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(50)ることができ,コンプライアンスを守れる環境にあるということのほうがむしろ重要であるとの意見もある.2.適応矯正度数世界的に合意の得られた矯正度数は近視度数.4.0D以下,乱視度数は直乱視で.1.5D以下の中等度の近視正乱視である.しかし,それ以上の矯正も,処方者の経験や考えから.6.0D以上の近視に行われている.オルソKの近視矯正メカニズムは,角膜中央部の上皮細胞をリバースカーブ部に相当する中間周辺部へ外方移動させることにより角膜中央部を扁平化させることにあるとされている.強度近視に対するさらなる矯正においては,角膜中央部のみならず周辺部の上皮細胞を中間周辺部へ内方移動させ,よりスティープな中間周辺部のリングを形成することで中央部の扁平化を強調することによりなされるとされている.この理論に基づけば,前述したMunnerlynの公式も適応されず,より強度の近視矯正も可能になる.しかし,このような変化は1枚のレンズで達成することは不可能であるし,また,過度の角膜上皮細胞層の再分配が角膜組織へ及ぼす影響については検証されていない.強度近視に対する矯正を,角膜中央部の上皮細胞の外方移動による理論のみで行うと,角膜中央部の糜爛や潰瘍,レンズ・ディセントレーション,小さなOZによる視力不良や夜間視力の低下といった合併症の原因となる.いずれにせよ,矯正度数が高くなればなるほど目的視力への達成率は低下する.3.Myopiacontrol「オルソKは近視の進行を遅延または停止する」というmyopiacontrolを証明するために,現在もいくつかの臨床治験が行われている.この種の臨床治験で問題となるのは,サンプル数の少なさ,不完全なコントロール群の設定,落脱例の多さ,試験期間の短さである.これらを比較的クリアーした信頼度の高い臨床治験としては,まず初めに2005年のChoらによる,7~12歳を対象にオルソK装用者と単焦点眼鏡装用者を比較したLORICstudyがある4).2年間のパイロットスタディの結果,眼軸長と硝子体深度の増加は眼鏡装用者群において2倍で有意差を認めた.オルソKのmyopiacontrol(OZ)がより小さくなるため,夜間視力の質の低下の原因となると考えられている.IV豪州,ニュージーランドにおけるオルソK両国では,コンタクトレンズはO.D.が処方をするという規定のみがあるだけで,コンタクトレンズ自体に国の承認制度が存在しない.したがってO.D.が処方する限りにおいて,年齢,適応度数などの制限も存在しない.Swarbrickは,2006年に豪州におけるオルソK装用者の角膜感染症に関する報告をした3).当時のオルソK装用者は成人白人女性が大半であったが,その後,若年者の近視進行に対するmyopiacontrolに関する報告がなされるにつれ,豪州のみなならず世界中でオルソKは注目されてきた.特に中国系の子供達への処方が盛んに行われるようになった.2006年当時に比し,現在はその対象年齢は若年化し人種間の偏りも少なくなっていると思われる.処方者のなかには子供への処方を躊躇するものもいれば,7~8歳の子供に積極的に処方するものもいるが,現在,Swarbrickが行っているmyopiacontrolstudyの対象は8歳からである.矯正度数にも法的な規制はないが,慎重で倫理的な処方を促す専門規定があり,安全な処方を行うための専門教育が継続的に行われている.Vその他の地域における現状南米,アフリカでは,オルソKの臨床は行われていない.VIまとめ1.適応年齢世界的にみて,公式にオルソKの適応年齢制限を設けている国はむしろ少ない.仮に中国や台湾のように年齢制限が設けられていても,後述するmyopiacontrolへの期待や,処方者や保護者の考えにより,実際には小学校入学後の10歳未満の学童への処方が行われている.適応年齢に関していえば,特定の年齢層への処方制限が問題を解決するというより,一連のオルソK装用に関するプロセスを理解できるだけの個々の子供の成熟度や,保護者がレンズケアの重要性を十分に理解し協力す(51)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101533明には至っておらず,今後も慎重に情勢を見守る必要がある.本稿執筆にあたり,各国のオルソKのエキスパートに各国の状況につきメールでのアンケート調査を行った.稿を終えるにあたり,快く回答をいただけた下記の方々の友情に対しこの場をかりて感謝する.RandallSakamoto(米国・ハワイ),TungHsiao-Ching(米国・台湾),PaulineCho(香港),RichardWu(台湾),Yoon-SangLee(韓国),TrusitDave(英国),HelenASwarbrick(豪州).文献1)オルソケラトロジー・ガイドライン委員会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,20092)オルソケラトロジー・ガイドライン委員会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日コレ誌51:S29-31,20093)WattKG,BonehamGC,SwarbrickHA:Microbialkeratitisonorthokeratology:theAustralianexperience.ClinExpOptom90:182-189,20074)ChoP,CheungSW,EdwardsM:Thelongitudinalorthokeratologyresearchinchildren(LORIC)inHongKong;apilotstudyonrefractivechangesandmyopiccontrol.CurrEyeRes30:71-80,20055)WallineJJ,JonesLA,MuttiDOetal:Arandomizedtrialoftheeffectsofrigidcontactlensesonmyopiaprogression.ArchOphthalmol81:407-413,20046)WallineJJ,JonesLA,SinnottLT:Cornealreshapingandmyopiaprogression.BrJOphthalmol93:1181-1185,20097)EidenSB,DavisRL,BennettESetal:TheSMARTStudy:Background,rationale,andbaselineresults.ContactLensSpectrum24:24-31,20098)SmithEL3rd,KeeCS,RamamirthamRetal:Peripheralvisioncanin.uenceeyegrowthandrefractivedevelopmentininfantmonkeys.InvestOphthalmolVisSci46:3965-3972,2005効果が確認されたが,一方で個体差があることも示された.つぎに,Wallineらによる2001年から始まったガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者を比較したCLAMPstudy5)のデータと,2004年から始まったオルソKレンズ(cornealreshapingCL)装用者とSCL装用者とを比較した2年間のCRAYONpilotstudyのデータから,オルソK群に比しSCL装用者群において硝子体深度は有意差をもって,年当たり0.10mm早く伸張したという報告がなされた6).また,Eidenらによる7~14歳を対象にしたオルソKレンズとシリコーン・ハイドロゲルSCLを比較した多施設における5年計画のSMARTstudy7)が現在進行中である.国や地域によって,オルソKに対する社会的なニーズや処方者の適応に関する考え方にも相違がみられた.また,オルソKのリスクに関しては,レンズデザインの特殊性や,就寝時装用,裸眼視力の向上といった使用方法,使用目的などの特殊性に起因するのか,子供への処方を考えた場合,特に問題となる適応年齢,目的矯正度数,ケア方法など,適応やコンプライアンスに起因するのかを今後も見きわめていく必要がある.特に子供への処方を考える場合,リスクとベネフィットを十分秤にかけて判断すべきであろう.Myopiacontrol効果を立証すべくいくつかの臨床治験が立ち上げられており,その可能性を示唆する報告も増えつつある.そして,そのメカニズムを傍中心窩網膜への視覚刺激が眼球の形状を制御しているというSmithらの報告8)をもとに説明する動きもある.しかし,エビデンスは積み重ねられつつあるものの,未だ確固たる証