0910-1810/10/\100/頁/JCOPY2)日本眼科学会の主催するオルソケラトロジーレンズに関する基礎的な講習会を受講すること,3)各メーカーの主催するオルソケラトロジーレンズの処方などのノウハウを伝える講習会を受講することが必要条件となった.なお,講習会については,日本眼科学会の主催する講習会を受講した後に各メーカーの主催する講習会を受講することになっている.II承認されたオルソケラトロジーレンズの保険診療オルソケラトロジーレンズは治療プログラムの一環として,治療機器・材料として取り扱われる.すなわち,オルソケラトロジーレンズの適性検査,レンズ処方(トライアルレンズ装用を含む),処方レンズの適正確認・装用指導,定期検査,問題発生時の対応などはすべて治療プログラムに含まれている.オルソケラトロジーに関する治療は保険適用外(自由診療)として取り扱われる.では,オルソケラトロジーレンズによる合併症が生じた場合は,保険診療を行ってよいかということが問題になる.これについては日本眼科医会の社会保険部と医療対策部が協議して見解を示しており,レーシック術後に角膜感染症が多発したが,その場合と同様の対応でよいという結論に達した(表1,2).保険診療と保険外診療を行う場合にはカルテを明確に分けることが求められる.そして,保険診療を行うにあたっては療養担当規則を遵守しなければならない.はじめに医療を行うにあたって法的な知識は欠かせない.眼科医として特に知っておく法律として,医師法,医療法,薬事法などがあげられるが,保険医として保険請求を行うのであれば,保険医療機関および保険医療養担当規則(以下,療養担当規則)や多くの行政通知の内容にも熟知する必要がある1).また,コンタクトレンズ(CL)については診療という医療の側面だけでなく,販売という商業的な側面もあるので,これに関する法律や行政通知の内容についても知っておいたほうがよい.CLの販売,管理などに深く関わるものとしては,薬事法,製造物責任法(いわゆるPL法),消費生活用製品安全法(いわゆる消安法),消費者契約法などがある2).平成21年4月28日,角膜矯正用CL,すなわちオルソケラトロジーレンズが高度管理医療機器に加えられた.同日,㈱アルファコーポレーションの商品名オルソ-K(後に,a-オルソRKに改名)が国内最初の視力補正用レンズ,角膜矯正用CLとして認可された.現在,厚生労働省の承認を得た高度管理医療機器のオルソケラトロジーレンズと未承認のオルソケラトロジーレンズが使用されているが,本稿では承認されたオルソケラトロジーレンズの取り扱いを中心に概説する.I承認されたオルソケラトロジーレンズの取り扱い資格厚生労働省との協議では,1)眼科専門医であること,(43)1525*KiichiUeda:ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1525.1528,2010行政におけるオルソケラトロジーOrthokeratorogyinPublicAdministration植田喜一*1526あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(44)3月30日,医政発第030010号)が出された.医療機関の広告についても規制が見直されたが,具体例を盛り込んだ医療広告ガイドライン(平成19年3月30日,医政発第0330014号)が出された.その中から注意すべき内容を述べる.広告と該当するものは,1)患者の受診等を誘引する意図があること,2)医業を提供する者の氏名もしくは名称または医療施設の名称が特定可能であること,3)一般人が認知できる状態にあることを満たす場合である.具体的には,「これは広告ではありません」,「これは取材に基づく記事であり,患者を誘引するものではありません」と記述していても,医療施設が記載してある場合や,治療法などを紹介する書籍や冊子などの形態をとっているが,特定の医療施設の名称が記載されていたり,電話番号やホームページアドレスが記載されていることで,一般人が容易に特定の医療施設を認知できる場合は広告に該当するものとして取り扱われる.広告の規制対象となる媒体として,チラシ,パンフレット(ダイレクトメール,ファクシミリなどによるものを含む),ポスター,看板,新聞紙,雑誌,その他の出版物,放送,Eメール,インターネット上のバナー広告などがあげられる.学会や専門誌などで発表される学術論文,ポスター,講演などは,社会通念上広告とみなされないが,学術論III承認されたオルソケラトロジーレンズの販売医療法第7条には営利を目的とした医療機関の開設が禁じられているため,医療機関でのCLの窓口販売は不可と解されている.したがって,医療機関ではCLの処方せんを発行し,それを受け取った患者は販売店でCLを購入することになる.ところが,オルソケラトロジーレンズは上述したように治療プログラムの一環として治療機器・材料として取り扱われるため,レンズ単体として販売されることはないと考えられ,医療機関で直接患者に渡すことになる.なお,通常のCLについては添付文書が同封されているが,オルソケラトロジーレンズについては添付文書は医家向けのみで,患者向けのものはなく,患者に対しては使用説明書が用意されている.IVオルソケラトロジーレンズの広告医薬品,医薬部外品,医療機器の広告については薬事法の規制を受ける.薬事法第66条,第68条ならびに医療品等適正広告基準にその内容が触れられている(表3).平成19年4月1日より「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」が一部施行され,この改正に係る行政通知(平成19年表2オルソケラトロジーの合併症の取り扱い(見解)1.オルソケラトロジーレンズの装用によって当然発生すると考えられる合併症は保険外診療(自費)とする2.オルソケラトロジーレンズの装用が原因と考えられないような疾患は保険診療とする3.予期しない重篤な合併症が生じた場合には,緊急避難的に第三者行為として保険診療を行うが,後日確定すれば法的に責任のある者に保険者から請求する(原則は自費である)表1レーシック術後の保険診療の取り扱い(見解)1.術後に当然発生すると考えられる合併症は保険外診療(自費)とする2.アレルギー性結膜炎等のレーシックと関係ない疾患は保険診療とする3.稀な合併症はとりあえず第三者行為(被保険者の申請により保険での立替払いをする)として保険診療を行うが,後日確定すれば法的に責任のある者に保険者から請求する(原則は自費である)表3CL広告に関する主な法律ならびに行政通知薬事法第66条何人も,医薬品,医薬部外品,化粧品又は医療機器の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的であると暗示的であるとを問わず,虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない.薬事法第68条何人も,第14条第1項に規定する医薬品又は医療機器であって,まだ同項(第23条において準用する場合を含む.)又は第19条の2第1項の規定による承認を受けていないものについて,その名称,製造方法,効能,効果又は性能に関する広告をしてはならない.医薬品等適性広告基準(昭和55年10月9日,薬発第1339号)医師の処方せん若しくは指示によって使用する目的として供給される医薬品および一般人が使用した場合に保健衛生上の危害が発生する恐れのある医療用具については,医療関係者以外の一般人を対象とする広告は行わないものとする.(45)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101527Vオルソケラトロジー治療中の運転免許平成22年4月5日に警察庁交通局運転免許課長より日本コンタクトレンズ学会に,「角膜矯正用コンタクトレンズ使用者に対する周知事項について」という文書が届いたので以下に記す..角膜矯正用CLを使用することにより,裸眼視力が基準以上に矯正されている免許保有者には「眼鏡等」の免許の条件が付されること..角膜矯正用CL使用者が,運転免許を受けている場合には,免許証の更新時における視力に係る適性検査時に,当該レンズを使用していることを申し出ること..角膜矯正用CL使用者が,運転免許を新規取得する場合は,自動車教習所入所時に当該自動車教習所職員に対し,また,視力に係る適性試験時に警察職員等に対し,当該レンズを使用していることを申し出ること..角膜矯正用CLの使用を中断したり,使用していても基準以上の視力が確保されていない場合において,裸眼のまま自動車等を運転すると免許の条件違反となること.VI診療ガイドラインと添付文書の強制力と効力オルソケラトロジーレンズについてのガイドラインが日本眼科学会雑誌3)と日本コンタクトレンズ学会誌4)に掲載されている.こうしたガイドラインの強制力や効力文などを装いつつ,不特定多数にダイレクトメールで送るなどにより,実際には特定の医療施設に対する受診などを増やすことを目的としていると認められる場合には広告として扱われる.新聞や雑誌などでの記事も広告に該当しないが,費用を負担して記事の掲載を依頼することにより,患者などを誘引するいわゆる記事風広告も広告規制の対象となる.院内掲示,院内で配布するパンフレットなどは,その情報の受け手がすでに受診している患者などに限定されるため広告に該当しないが,希望していない者にダイレクトメールで郵送されるパンフレットなどは広告として取り扱われる.インターネット上の医療施設のホームページは,情報を得ようとする人がURLを入力したり,検索サイトで探したうえで閲覧することから,これまでどおり原則として広告とはみなさないこととされている.禁止される広告については,内容が虚偽にわたる広告(虚偽広告),他の医療機関と比較して優良である旨の広告(比較広告),誇大な広告(誇大広告),客観的事実であることを証明することができない内容の広告,公序良俗に反する内容の広告,品位を損ねる内容の広告,他法令,または他法令に関する広告ガイドラインで禁止される内容の広告などがある.専門医の資格を有する者の広告は可能であるが,その資格は各関係学術団体が認定するもので,単に「○○専門医」の標記は誤解を与えるものとして,誇大広告に該当するものとして指導などを受けることがある.眼科領域では日本眼科学会認定専門医の広告のみが可能である.自由診療のうち薬事法の承認または認証を得た医療機器を用いる検査,手術は広告可能であることから,「角膜矯正用CLの使用による近視の矯正」といったものは可能と考える.ただし,薬事法の広告規制の趣旨から,医療機器の販売名については,広告できない.医師などによる個人輸入により入手した未承認の医療機器を使用する場合には広告は認められないことから,未承認のオルソケラトロジーレンズについても広告は不可である.なお,広告規制違反については厚生労働省から各都道府県知事,各政令市長,各特別区長あてに医療法に基づく立入検査の実施の行政通知が出されている(表4).表4広告規制違反について医政発第0614004号(平成19年6月14日)先般の医療法改正により,医療法第6条の8として,広告違反のおそれがある場合における報告命令,立入検査等の規定が新設されたところであるが,同法第25条第1項に基づく立入検査の際,医業,歯科医業又は助産師の業務等の広告について,同法等に違反することが疑われる広告又は違反広告の疑いのある情報物を発見した場合においては,「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針(医療広告ガイドライン)について」(平成19年3月30日,医政発第0330014号医政局長通知)を参考とし,指導等を行う.1528あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(46)診療を行うにあたっては十分なインフォームド・コンセントが求められるのは当然のことである.おわりに現在,㈱アルファコーポレーション以外の5社がオルソケラトロジーレンズの臨床試験を行い,申請中である.今後,これらのレンズが認可され,多くの患者が治療を受けることになると予想する.オルソケラトロジーレンズを使用している患者の多くは,未承認のレンズを使用している.これらのレンズは国内で臨床試験を行っていないので,有効性,安全性が確認されたものではない.さらに,これらのレンズを取り扱っている医師のなかには眼科専門医ではなく,日本眼科学会の主催する講習会を受講していない者もいると推察する.治療プログラムの一環として認められているわけではないので,医療機関で直接渡すことは好ましくない.未承認レンズは医療法,薬事法のうえからも広告をしてはならない.しかしながら,実際には医療法,医師法,薬事法などに違反する医療行為や販売行為が見受けられる.こうした未承認レンズに対しては,行政による規制が求められる.われわれ眼科専門医は承認されたレンズの普及に努めることが大切である.追記:本稿提出後,2010年8月,9月にボシュロム社のボシュロムオルソケーR,テクノピア社のマイエメラルドRが新たに承認された.文献1)植田喜一:コンタクトレンズ診療に関する主な法律,行政通知.日コレ誌49:209-214,20072)植田喜一:コンタクトレンズ販売に関する主な法律,行政通知.日コレ誌49:275-283,20073)オルソケラトロジー・ガイドライン委員会:オルソケラトロジーガイドライン.日眼会誌113:676-679,20094)オルソケラトロジー・ガイドライン委員会:オルソケラトロジーガイドライン.日コレ誌51補遺:29-31,20095)竹中郁夫:診療ガイドラインの効力.日本医事新報No.4168:117-118,20046)泉寿恵:医薬品の能書と医師の注意義務.日本医事新報No.4322:108-111,2007について法的にどう捉えられるかが問題となる.特に,ガイドラインに従わずに治療を行い,その結果として不良な転帰をとった場合,具体例として医療訴訟などが生じた場合などがあげられる.弁護士である竹中の見解5)を以下に述べるので参考にするとよい..臨床疫学を利用してのガイドラインにあるプロトコールを守らない態様で治療を行えば,合併症が起こりやすいと記載していたにもかかわらず,実際に合併症が生じた場合には,診療行為と不良結果との因果関係が実証されやすくなる.当該医師が因果関係がないと主張・立証するには,個別の医学文献等を収集して,当該診療による因果関係はないことを明らかにする努力が必要になるが,学会のガイドラインは大規模なリサーチに基礎づけられているため,当該医師の反論は非常に大変な作業になる..責任論における過失の有無,とりわけ診療行為時の医療水準を満たしていたかという問題においても,ガイドラインが勧めるプロトコールをとらなかった場合に不良結果が生じた場合には,その合理性や当時の医療水準に反しないことの主張・立証は非常に大きな努力を要する.医薬品の添付文書と医師の注意義務については最高裁の判例がある6).「医師が医薬品を使用するにあたって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が確定される」(最高裁平成8年1月23日,第三小法廷判決).オルソケラトロジーレンズは医薬品ではないが,高度管理医療機器であることを鑑みると,同様に捉えられると考える.オルソケラトロジーレンズの処方においては,特に問題になるのが適応である.添付文書やガイドラインには屈折値,前眼部所見に加えて,対象年齢が明記されている.対象年齢については,日本で行われた臨床試験では20歳以上であったことから,未成年者への安全性が確認されていないことが背景にある.添付文書やガイドラインを逸脱した診療をしたからといって医師法違反にはならないが,医師の裁量による医療行為としてこうした