0910-1810/11/\100/頁/JCOPY殖糖尿病網膜症と異なり,患者の満足度を向上させることが,黄斑疾患の硝子体手術には要求される.この点において,MIVSは20ゲージ硝子体手術に比較して優っている.MIVSでは,一般に手術時間の短縮,術後異物感の軽減,早期視力回復が利点として報告されている.結膜,強膜の切開が最小限で縫合を要さないため,術後炎症や異物感が少ない.術後1週間では結膜の充血もわずかであり,注意深く観察しないと手術を行った眼との区別をつけることができない(図1).縫合による惹起乱視がないため早期視力改善が得られる3).当科のデータでも,25ゲージ手術では術後角膜乱視が少なく,黄斑はじめに硝子体手術は1970年代に考案された当初,約2mmの創を使用して行われた.その後,20ゲージの3ポート硝子体手術が長期にわたり行われてきた.2002年に25ゲージカニューラシステムが開発され,硝子体手術創は約0.5mmと非常に小さなものとなった1).その後,器具の剛性不足の欠点を改善した23ゲージシステムが開発された2).これらの25ゲージ,23ゲージ硝子体手術は従来の20ゲージ硝子体手術に対し,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)とよばれ,近年硝子体手術の主流となっている.多くの症例に対してMIVSが広く適応となりつつあるが,当初MIVSの適応は黄斑疾患のみとされていた.周辺部硝子体を残すことで創の自己閉鎖を得ていたことや,硝子体カッターの低い効率性や剪刀などの器具の不足など,MIVS器具の未完成がその原因であった.しかし,これらの問題は器具や術式の進歩に伴い解決され,MIVSはほぼすべての症例に対応できるようになった.そして,黄斑疾患はMIVSの最も良い適応といえるようになった.本稿では,黄斑疾患に対するMIVSの特徴と,手術準備,手技について述べていきたい.IMIVSの黄斑疾患に対する特徴1.MIVSの利点黄斑疾患の硝子体手術は,術後の視機能を向上させることを目的とした治療である.このため,網膜.離や増(37)191*ShinYamane&KazuakiKadonosono:横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科〔別刷請求先〕山根真:〒232-0024横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科特集●黄斑疾患アップデートあたらしい眼科28(2):191.196,2011黄斑疾患の小切開硝子体手術(MIVS)MicroincisionVitrectomySurgeryforEyeswithMacularDiseases山根真門之園一明*図1MIVS翌日の前眼部所見わずかに直線状の強膜創(矢印)がみられるが,充血や出血はほとんどみられない.192あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(38)期の比較的早期に手術治療を受ける傾向にあり,良好な視機能を保てるようになっている(図3).2.MIVSの欠点MIVSの最大の欠点は器具の剛性が低いことである.しかし,剛性度は,最近ではかなり改善されている.シャフトを短くし,スリーブを付けて剛性を高めた器具は非常に有用である.器具に同じ負荷をかけてたわみ量をみた実験では,通常のシャフト長のものに比べ,シャフト長が短いものでは約半分,さらにスリーブを付けたものでは約4分の1となっており,シャフトを短くすることで,剛性が上がっていることがわかる(図4).照明系の問題もあるが,これは近年のキセノン光源およびシャンデリア照明装置の開発により,ほぼ克服された.3.合併症合併症として注意する必要があるのは術後低眼圧である.通常MIVSでは無縫合で終了するが,終刀時に強膜創からの漏出が認められれば迷わず縫合する必要がある.術後低眼圧となっても,ほとんどの場合数日以内に無治療で正常眼圧に戻る.なお,良好な自己閉鎖を得るには強膜創を斜め刺入で作製することが大切であるが,極端に行うと鋭角挿入によりカニューラの先端が硝子体上膜術後に20ゲージ手術に比べ早期から視力が回復していた(図2)4).手術侵襲を少なくするには,創が小さいだけでなく術中の灌流量が少ないことも重要であり,灌流量の少ないMIVSでは眼内組織に対しても低侵襲であるといえる.術後の炎症が少ないことは入院期間の短縮化を可能とし,近年の術後俯き期間の短縮化の傾向と相まって,MIVSの黄斑疾患への適応は急速に拡大している.実際,近年黄斑上膜,黄斑円孔など代表的な黄斑疾患は,MIVSにより治療される頻度が非常に高い.さらに,手術侵襲や合併症のリスクが低いことから,病術前1.00.50.40.1視力1カ月20ゲージ6カ月術前p<0.0011カ月25ゲージ6カ月図2特発性黄斑上膜術前後の視力(n=67)術後1カ月では20ゲージ群に比べ25ゲージ群で有意に視力が改善している.術後6カ月では両群間に視力の差はない.図3黄斑上膜に対するMIVS術前は視力VD=(0.9)と良好だが,黄斑の牽引があり歪みを自覚している(左).術後1カ月で視力はVD=(1.0),黄斑の形態が改善し歪みの自覚もほぼ消失している(右).(39)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011193を促進させるという考えもある.術後眼内炎は頻度が低いが重大な合併症である.MIVSでは無縫合のため術後眼内炎の頻度が高くなるのではないかと懸念された.そこで国内の27施設におけるMIVSと20ゲージ硝子体手術後の眼内炎の頻度が比較された6).その結果,眼内炎の頻度はMIVS後では0.054%(14,838眼中8眼),20ゲージ手術後では0.034%(29,030眼中10眼)であり,両群間に差はみられなかった.MIVSが20ゲージ硝子体手術に比較してより術後眼内炎を併発しやすいということはないが,その発症率は3,000眼に1眼程度といわれており,今後ともMIVSの術後管理には細心の注意が必要である.そのほかの合併症として,術後網膜.離が重要である.MIVSでは創が小さいことに加え,カニューラシステムを用いていることもあり,20ゲージ手術と比較して強膜創へ硝子体が嵌頓しにくい.そのため周辺部裂孔を生じにくい傾向にある.特に黄斑疾患では周辺部硝子体隔清を厳密に行う必要はないが,カニューラの先端に腔に入らずに脈絡膜.離を合併する可能性があり注意が必要である.創の閉鎖はガスタンポナーデを行ったほうが良好であることは以前から知られており,術後眼内炎の報告もそのほとんどがガスタンポナーデを行っていない症例である.筆者らは前眼部光干渉断層計を用いて,MIVS術後の強膜創閉鎖率を確認したところ,ガスタンポナーデを行った眼で有意に創閉鎖が良好であった(図5)5).このようなことから,ガスタンポナーデの必要がない症例でも少量の空気置換を行い,術後早期の創閉鎖図4器具の剛性3種類の鉗子に同じ負荷をかけた場合のしなり量の比較.シャフト長32mm(左)では大きくしなるが,シャフト長27mm(中)では約半分のしなりであり,シャフト長27mmにスリーブをつけると約4分の1までしなりが軽減される(右).1日強膜創閉鎖率(%)3時間10090807060504030201003日術後期間:ガス注入眼:ガス非注入眼7日14日図5MIVS後強膜創閉鎖率前眼部光干渉断層計で観察すると,細隙灯顕微鏡ではわからない強膜間隙(矢印)がみられる(上).ガス注入眼では非注入眼に比べ,術後7日まで有意に強膜創閉鎖率が高かった(下).表125ゲージおよび20ゲージ硝子体手術後網膜.離の頻度25ゲージ20ゲージp値*症例数(眼)6875術中裂孔(眼)350.72術後裂孔(眼)221.00術後網膜.離(眼)121.00両群間に術中裂孔,術後裂孔,術後網膜.離の頻度に差はなかった.*Fisherの直接確率.194あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(40)性を高めた鉗子を用いると,操作性が向上し安全に手術を行うことができる.III手術の実際1.黄斑上膜黄斑上膜の手術では黄斑上膜および内境界膜の.離がポイントとなる.広角観察システムを用いている場合でも,後極部用接触レンズを使用したほうが黄斑の視認性は優れている.黄斑上膜の.離は鉗子にて直接把持してもよいが,網膜を誤って把持しないようきっかけを作製してから鉗子で.離するほうが安全である..離のきっかけを作製する際には,鋭針の先端を曲げたマイクロフックニードルを用いてもよいが,筆者は先端を曲げずに鋭針をそのまま用いている.マイクロフックニードルのように強く引っ掛けることはできないが,逆に誤って網膜内層を傷つけにくい.鋭針の先で軽く黄斑上膜を引っ掛けるようにして鉗子で把持するきっかけを作製する(図7).黄斑上膜を除去した後,内境界膜.離も行っておく.内境界膜.離は必ずしも必要ではないが,黄斑上膜の再発予防に有用である.内境界膜は基底膜なので,細胞増殖の足場になりやすい.実際,内境界膜.離部を囲うように黄斑上膜が再発することがある.内境界膜.離にはインドシアニングリーンやブリリアントブルーGなどの染色剤が有用である.黄斑上膜を.離すると,一嵌頓した硝子体は切除するべきである.MIVSの開発当初は,意図的に周辺部硝子体を嵌頓させて創閉鎖を得ていた.その時代に行われた研究では,MIVSと20ゲージ手術の比較で,術後網膜.離の発症率に差はなかった(表1).しかし,長期的には嵌頓硝子体による裂孔併発の可能性はあり,ポート付近の硝子体切除は黄斑疾患であっても行ったほうがよい.IIMIVSに必要な手術環境これからMIVSを導入する場合,どのような準備が必要であろうか.キセノン光源は必須といえる.照明系の進歩により,MIVSにおいてもより安全に手術を行うことが可能となった.広角観察システムとして非接触レンズシステムと接触レンズシステムがある.広角観察システムを用いれば周辺硝子体切除は容易である(図6).MIVSでは器具の剛性の問題から眼球を傾けながらの手術にはあまり向いていないが,広角観察システム手術は眼球を傾けずに行うことが可能となる.黄斑疾患においては黄斑上膜や内境界膜の.離が重要であるが,MIVSでは鉗子の剛性が低いと操作性が悪く.離操作はむずかしくなる.先述のようなシャフトの剛図6広角観察システムによる眼底観察広角観察システムとシャンデリア照明を用いることで,条件が良ければ鋸状縁から毛様体扁平部の一部まで眼底全体を同時に観察できる.図7黄斑上膜の.離25ゲージ鋭針の先端を引っ掛けるようにして立ち上げる.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011195システムを用いると網膜を全体的に捉えることができ,牽引がかかったり裂孔を生じた際に見落としが少ない.内境界膜.離は鋭針の先で軽く内境界膜に触れ,切るようにして把持するきっかけを作製して行う.神経線維層の障害を起こした場合を考慮して,なるべく耳側から.離を開始するとよい.ただし,右利きの術者の場合,左眼では耳側へのアプローチがむずかしくなるので,無理をせずやりやすい部位から行ったほうが結果的に低侵襲となる.3.黄斑浮腫糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する手術でも黄斑円孔手術と大きく変わることはない.ただし,糖尿病眼では術後の前部硝子体線維血管増殖を予防するために周辺部硝子体切除を十分に行うべきである.MIVSでは結膜を切開しないので強膜圧迫がむずかしく,特に鼻下側の結膜.が狭い場合には周辺硝子体切除がむずかしいことがある.このような場合は結膜に放射状切開を加え,そこから圧迫子を結膜下に入れるとよい.通常結膜は縫合する必要はない.もちろん広角観察システムを用いれば周辺処理はより容易である.部内境界膜も一緒に.離されることが多く,染色することでその境界がわかりやすくなる(図8).間違っても内境界膜が除去された部位を鉗子で把持するようなことがないようにしたい.なお,黄斑上膜はこれらの染色剤では染色されないので,黄斑上膜の除去後に内境界膜を染色する必要がある.2.黄斑円孔黄斑円孔の手術は基本的に黄斑上膜の手術とよく似ているが,人工的後部硝子体.離の作製を必要とすることが多い.後部硝子体.離作製はstage3までの黄斑円孔で必要であるが,硝子体カッターの吸引量が少ないので,20ゲージの場合に比べ若干むずかしいと感じることもあるかもしれないが,視神経乳頭付近から問題なく後部硝子体.離を起こすことができる.トリアムシノロンを用いて硝子体を可視化すればより容易に行える.ただし,トリアムシノロンが円孔底に残ってしまうと網膜色素上皮萎縮の原因となる可能性があるので,視神経乳頭付近のみに少量散布してすべて吸引するようにするとよい(図9).MIVSでは吸引量が少ないので後部硝子体.離作製時に医原性網膜裂孔を生じにくいが,黄斑円孔症例では硝子体と網膜の癒着が強いことがあり注意が必要である.後部硝子体.離を作製する際には,広角観察図8内境界膜.離黄斑上膜.離後にインドシアニングリーンにて染色すると,内境界膜の残っている部位のみが染色される.図9後部硝子体.離の作製少量のトリアムシノロンアセトニドを散布し,硝子体カッターで後部硝子体.離を起こす.196あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(42)3)OkamotoF,OkamotoC,SakataNetal:Changesincornealtopographyafter25-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomyversusafter20-gaugestandardvitrectomy.Ophthalmology114:2138-2141,20074)KadonosonoK,YamakawaT,UchioEetal:Comparisonofvisualfunctionafterepiretinalmembraneremovalby20-gaugeand25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol142:513-515,20065)YamaneS,KadonosonoK,InoueMetal:Effectofintravitrealgastamponadeforsuturelessvitrectomywounds:Three-demensionalcornealandanteriorsegmentopticalcoherencetomographystudy.Retina,inpress6)OshimaY,KadonosonoK,YamajiHetal:Multicentersurveywithasystematicoverviewofacute-onsetendophthalmitisaftertransconjunctivalmicroincisionvitrectomysurgery.AmJOphthalmol150:716-725,2010おわりに視機能向上を目的とする黄斑疾患の硝子体手術においては,MIVSはとても良い適応であり,網膜硝子体手術における低侵襲手術の代名詞ともいえる.それゆえに,少なからず存在する術後眼内炎をはじめとする術後合併症に対する適切な対策を講ずることは,今後ますます重要な課題となるであろう.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1813,20022)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrectomy.Retina25:208-211,2005