あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113830910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに眼内リンパ腫は眼内原発のprimaryintraocularlymphoma(PIOL)と他部位(脳を除く)から転移・播種してきた続発眼内リンパ腫(secondaryintraocularlymphoma)に分類されます.前者のPIOLは中枢神経系悪性リンパ腫(centralnervoussystemlymphoma:CNSlymphoma)の一亜型と考えられ,眼・中枢神経系悪性リンパ腫とも分類されます.PIOLの診断時には25%にしかCNSlymphomaは発症していませんが,その後60.80%と高率にCNSlymphoma(いわゆる脳病変)が発症します1).PIOLはCNSlymphoma発症により,5年生存率が5.30%と,きわめて悪性度の高いリンパ腫とされます.PIOLのほとんどは非Hodgkinびまん性大細胞型B細胞リンパ腫です(図1).B細胞由来なので,CD19やCD20の表面マーカーを有しています.T細胞やNK(naturalkiller)細胞系の眼内悪性リンパ腫の報告も散見されますがまれです.ぶどう膜炎の眼内ではT細胞が優位となっていることと対照的です.近年は,悪性リンパ腫の診断に必須の細胞診(病理診断)に加え,遺伝子再構成,硝子体中のインターロイキン-10(IL-10)濃度などの補助診断が普及しつつあります.そこで,この悪性度の高いリンパ腫に対する最近の治療に関して触れたいと思います.治療法1.中枢神経系リンパ腫(脳病変)を伴う場合a.全身治療①化学療法:中枢神経リンパ腫の標準治療は大量メトトレキサート(MTX)療法になりつつあります1).高濃度にすることで,血液脳関門を通過すると考えられています.白質脳症(認知症様症状)をはじめとした副作用がありますが,生存率は向上しました.ほかにCHOP療法も選択されています.近年は生物学的製剤である抗CD20抗体(rituximab)を加えた治療の有効性が報告されています2).②放射線治療:悪性リンパ腫は感受性が高いため,放射線治療が主流でした.ただ,放射線治療単独では腫瘍の一時的な寛解導入ができても,再発率が高く,近年は化学療法との併用が考慮されています.一方で,放射線治療後にMTX大量投与を行うと高頻度で白質脳症をきたすことも知られています.なお,放射線治療単独でも高齢者では白質脳症が生じやすいことが問題となります.③造血幹細胞移植:治療抵抗症例や再発時に行われることがあります.b.局所投与①MTXの眼内注射:短期的には有効とされます.全身療法後に残存した場合もしくは眼内のみに再発した場合が適応と思います.MTX400μg/0.1mlの週2回の硝子体内注射から始め,月1回の維持療法が述べられています3).ただ,角膜上皮障害の副作用が生ずると,注射継続が困難となることがあります.②Rituximab(抗CD20抗体)の眼内注射:B細胞リンパ腫に補体関与の細胞障害,抗体関与の細胞障害,アポトーシスを誘導させる治療です.わが国からもMTX治療継続困難症例での有効例が報告されています4).2.眼内限局の場合施設により治療方針が立てにくい可能性があります.脳内病変などがない場合,血液内科などでMTX治療を(75)◆シリーズ第123回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊太田浩一(松本歯科大学歯学部眼科)眼内悪性リンパ腫の新たな治療法図1硝子体生検による硝子体細胞(May-Giemsa染色)切れ込みを有する大きな核と明瞭な核小体を有する大型の異型リンパ球を認める.384あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011行ってくれないことがあるからです.血液内科医にとって,末梢血や骨髄から「リンパ腫」が証明されず,治療指標がありません.近年,前述のような眼局所治療の有効性が報告され,「まずは眼科で局所治療をしてください」になる危険があります.基本治療はあくまでMTX大量療法などの化学療法に可能なら放射線療法,残存病変にMTX局所治療と考えます.悪性度についてとにかく,眼内悪性リンパ腫は悪性であることを眼科医は常に覚えていてほしいと思います.自験例でも最終的にすべて脳内病変を起こし,予後不良でした5).これらの症例で予防的な大量MTX療法は行われておりません.眼・中枢神経系悪性リンパ腫は精巣に生ずる悪性リンパ腫とともにimmuneprivilegedsiteに生じ,悪性度の高いものです.眼内には血液眼関門,脳には血液脳関門があり,薬剤が移行しにくいことがその理由にあげられます.さらに,immuneprivilegedsiteでは過剰な炎症が抑制されており6),悪性細胞を“外来異物”と認識できず,攻撃できない免疫学的な弱点によりその悪性度が高まると個人的には考えます.マウスにおいて,悪性リンパ腫の脳から眼内7),眼内から脳への転移8)が証明されており,ヒトの眼・中枢神経系悪性リンパ腫の再発パターンを裏付けており,局所療法のみの無効性を確認できます.おわりにMTXやrituximabの硝子体内注射は,眼内悪性リンパ腫に対し,有効な新しい治療手段と思われます.しかし,高率に生命予後がきわめて不良な脳内病変が生じうる中枢神経系悪性リンパ腫への全身的な治療を基本にした治療戦略が必要であることを心に留める必要があると思います.文献1)ChanCC:Molecularpathologyofprimaryintraocularlymphoma.TransAmOphthalmolSoc101:275-292,20032)BoehmeV,SchmitzN,ZeynalovaSetal:CNSeventsinelderlypatientswithaggressivelymphomatreatedwithmodernchemotherapy(CHOP-14)withorwithoutrituximab:ananalysisofpatientstreatedintheRICOVER-60trialoftheGermanHigh-gradeNon-HodgkinLymphomaStudyGroup(DSHNHL).Blood113:3896-3902,20093)SmithJR,RosenbaumJT,WilsonDJetal:Roleofintravitrealmethotrexateinthemanagementofprimarycentralnervoussystemlymphomawithocularinvolvement.Ophthalmology109:1709-1716,20024)OhguroN,HashidaN,TanoY:Effectofintravitreousrituximabinjectionsinpatientswithrecurrentocularlesionsassociatedwithcentralnervoussystemlymphoma.ArchOphthalmol126:1002-1003,20085)OhtaK,SanoK,ImaiHetal:Cytokineandmolecularanalysesofintraocularlymphoma.OculImmunolInflamm17:142-147,20096)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:Therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20037)HochmanJ,AssafN,Decker-SchluterMetal:Entryroutesofmalignantlymphomaintothebrainandeyesinamousemodel.CancerRes61:5242-5247,20018)LiZ,MaheshSP,ShenDFetal:EradicationoftumorcolonizationandinvasionbyaBcell-specificimmunotoxininamurinemodelforhumanprimaryintraocularlymphoma.CancerRes66:10586-10593,2006(76)■「眼内悪性リンパ腫の新たな治療法」を読んで■眼内悪性リンパ腫の発生頻度が年々増加しています.これは非Hodgin悪性リンパ腫のすべてについていえることであり,1970年代から1990年代にかけて激増しました.1990年代後半には増加はプラトーに達したと思われましたが,それからも毎年1%ずつ増加しています.その結果,眼内悪性リンパ腫は,ぶどう膜炎のまれな原因疾患とされていたものが,今では主要原因疾患といわれています.原因としては,診断技術の向上,エイズなどの免疫抑制性疾患の拡大,オゾン層の破壊などの環境要因があげられていますが,それだけでは増加数全体の半分しか説明できず,不明とされています.幸いなことに,悪性リンパ腫(特にB細胞リンパ腫)は以前から化学療法が奏効する疾患でしたが,最近開発された薬物はさらに高い奏効率を示します.その一つが本文に紹介されている抗CD20抗体薬rituximabです.欧米で行われた大規模試験では,従来のCHOP治療と組み合わせることで,なんと90%の患者に有効性が見出されました.これは先端医療が治療成績を飛躍的に向上させた例として特筆すべきもので(77)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011385す.そして,それだけでなく続々と新薬が開発されつつあります.たとえば,プロテインキナーゼC(PKC)b抑制薬は,糖尿病網膜症治療薬として,以前このコラムで紹介されましたが,PKCb抑制薬enzastaurinがB細胞リンパ腫にも奏効することがわかってきました.また,脾臓チロシンキナーゼ抑制薬fostamatinibdisodiumはB細胞リンパ腫にアポトーシスを起こして,リンパ腫を退縮させることが報告されました.それ以外にも,プロテアーゼインヒビターなどが有効性を示す新薬として注目を集めています.太田浩一先生が本文で述べられているように,眼内悪性リンパ腫が治癒しても,その後の中枢神経系悪性リンパ腫は悪性度が高いので,決して油断してはいけないことを,われわれ眼科医は強く認識して治療に当たるべきです.しかし,新たな治療薬が次々に開発されており,その未来は必ずしも暗いとはいえないでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆