あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116690910-1810/11/\100/頁/JCOPYソーシャルメディアの光と影インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.インターネット上での情報交流が,世の中の現実世界を動かす力をもつようになりました.中東の政変や,震災での情報収集の際に,FacebookやTwitterといったソーシャルメディアが活躍しました.アラブ世界で独裁者を放逐したのは,間違いなくソーシャルメディアの力でした.震災後の被災地の情報不足を補ったのも,間違いなくソーシャルメディアでした.テレビや電話などの情報インフラが遮断されると,人間社会は村で完結されますが,インターネットはその壁を越えます.本章では,ソーシャルメディアの光と影の部分から,医療への応用の可能性について紹介したいと思います.ソーシャルメディアとは,「インターネット上に発信された映像,音声,文字情報などのコンテンツを,当該コミュニティサービスに所属している個人や組織に伝えることによって,多数の人々や組織が参加する双方向的な会話へと作り替え,実社会への影響をもつメディア」と定義されます.ソーシャルメディアは知識や情報を大衆化し,大衆をコンテンツ消費者側からコンテンツ生産者の側に変えます1).ソーシャルメディアが活性化するには,誰でも議論に参加できる共通テーマと,参加したいというモチベーション,そして参加するための場所が揃っていることが重要です.そのことは,中東の政変と震災によって示されました.ソーシャルメディアを建設的な言論空間として育てていくためにはどうすれば良いか,私たちは実体験から学んでいます.新しく生まれた,ソーシャルメディアは,社会のさまざまな問題に解決策を見出す可能性をもちます.ウィキリークスやフェイスブックなどのウェブサービスによって,個人の情報発信から体制側に不都合な出来事が発生し,極端な事例では政権崩壊までひき起こします.日本でも“sengoku38”氏によって,中国漁船衝突映像がYouTubeに公開されました.ソーシャルメディアは政府の不正に対抗するツールとなります.ソーシャルメディアは,中東の政変や震災での情報共有のように,実社会に建設的な影響力をもちました.これは,ソーシャルメディアの光の部分と言えます.一方,ソーシャルメディアは影ともなりえます.ソーシャルメディアは反体制活動の強力なツールになりえますが,逆に体制側が活動家を取り締まり,抗議運動を弱めるための強力なツールにもなります.チュニジア・エジプトでの革命を反面教師として,反体制派を攪乱するツールとして,ソーシャルメディアを利用する国家が登場しています.そのような国では,国家がソーシャルメディアを監視しています.政府側の人間が反体制側の人間であるかのように情報を発信し,反体制側の人間に接触し,彼らを摘発します.情報統制がなされている中国では,政府に批判的な意見を書き込めば,それがリアルタイムで察知されて,監視,逮捕されてしまうようなシステムが構築されており,市民の側が「監視されているかもしれない」という恐怖から言論活動を控えてしまいます2,3).通常の民主主義国家にもソーシャルメディアの影があります.IT・セキュリティ系研究者にTwitterのボットを製作してもらい,優劣を競うという,“WebEcologyProject”というプロジェクトがあります.そのボットは「人間であるかのようにふるまい,他のユーザーに影響を与える」という行動をします.ソーシャルメディアを通じて多くの人々に影響力を行使できるかどうかの社会実験です.仮に,全自動で動くプロパガンダ・ボットのようなプログラムができたとして,それが(実在の(67)インターネットの眼科応用第28章ソーシャルメディアと医療武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ670あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011言論家のように)人々の思想や行動に影響を与えられれば,ごく少ない資源で社会を意のままに操ることができる,ということです.実際に上記の実験では,開発されたボットを実在する人間だと誤解して,フォローしただけでなく会話までしてしまうユーザーがいました.政府に批判的な人々に対して影響力を行使するために,彼らの仲間を装ったアカウント(もしくはボット)をソーシャルメディア上に作成して,世論を形成することが理論上,可能になります2).ソーシャルメディアは,一部の人間が大衆を管理・操作するツールとして使われる可能性をもちます.ソーシャルメディアの影の部分,といえます.ソーシャルメディアと医療世界を席巻するソーシャルメディアは,医療とどのように融合するでしょう.この二つの相違点は,情報の正確性に対する考え方です.ソーシャルメディアは,情報の信頼性より即時性を重視します.それに対し,医療情報の流通は,即時性よりも信頼性を重視します.共通点もあります.ソーシャルメディアの情報発信源は,人です.企業や放送局ではありません.医療の情報伝達は,教科書,耳学問,セミナーなど,形態はさまざまですが,DoctortoDoctorの情報伝達が一番信頼性をもちます.人を介する,という点では,ソーシャルメディアと医療の親和性は高いと考えます.ただ,ソーシャルメディアが医療に活用された例はほとんどありません.私が有志と運営しているMVC-onlineという,医師限定の会員制のサイトは,数少ない医療系のソーシャルメディアといえます.海外での事例を紹介します.メイヨー・クリニック(MayoClinic)は,19世紀に設立された,ミネソタ州ロチェスター市に本部を置く,常に全米で最も優れた病院の一つに数えられている総合病院です4).彼らはソーシャルメディアをうまく医療に活用している先駆者です.インターネットを,病院の告知媒体として利用するのではなく,医師から患者へ医療情報を伝える執筆媒体,さらには,医師と患者,患者同士の双方向性のある媒体として位置づけています.ソーシャルメディアが活性化するには,共通のテーマが必要です.このソーシャルメディアからは,「健康を保ちたい」「病状を良くしたい」「病気を理解し,受け入れるにはどうすれば良いか」という,医師,患者が共同して病気に向き合うメッセー(68)ジを感じます.MayoClinicのソーシャルメディアの取り組みは多岐にわたり,ブログ・YouTube・Twiiter・Facebookなどを活用しています.①Blog:「MayoClinicNewsBlog」は,医学・科学分野の研究結果を紹介しています.心臓疾患の予兆を調べるテストなども掲載されています.②YouTube:医師の自己紹介を中心に500件を超える動画が掲載されています.患者の体験談や,禁煙がもたらす健康への影響を説明したビデオなども投稿されています.③Twiiter:@mayoclinicアカウントを用意しています.フォローワーは9,000名.④Facebook:公式ページが用意されています.ファンは1万人を超えています.投稿には,退院患者からの感謝や質問などがあり,これに対して実名の医師・スタッフが回答しています.またFacebook内で,スタッフの募集などのリクルーティング活動もしています.MayoClinicは,インターネットを巧みに医療に応用しています.上記以外にもその試みは多岐にわたり,次章で改めて紹介します.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A22)http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2011/04/post-1966.html3)EvgenyMorozov,AllenLane“TheNetDelusion:HowNottoLiberateTheWorld”4)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF