0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)955《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):955.958,2010cはじめにラタノプロストおよびトラボプロストはいずれもプロスタグランジン関連薬の一つであり,1日1回で強力な眼圧下降効果を示し,また,全身副作用がないことから第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン関連薬の眼圧下降機序はいまだ明らかではないが,おもに毛様体および強膜のmatrixmetalloproteinase(MMP)の活性化に伴うコラーゲンの減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングと考えられている1).しかし,FP受容体は角膜にもあるため2),同様の機序が角膜においてもみられる可能性がある.近年,プロスタグランジン関連薬治療前後の中心角膜厚の変化に関する報告が散見されるが,治療後,中心角膜厚は減少する3.5),変わらない6),増加する7)報告があり,プロスタグランジン関連薬の中心角〔別刷請求先〕里誠:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:MakotoSato,M.D.,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化里誠中元兼二小川俊平安田典子東京警察病院眼科EffectofLatanoprostandTravoprostwithoutBenzalkoniumChlorideonCornealThicknessandIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMakotoSato,KenjiNakamoto,ShunpeiOgawaandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital広義の原発開放隅角緑内障30例57眼においてラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,周辺角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.対象を無作為にラタノプロスト治療群,BAC非含有トラボプロスト治療群に割付け,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR),BAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させて,治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.眼圧は両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001).眼圧下降率は,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前後で有意な変化はなかった(p=0.20)が,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療後有意に減少した(p=0.007).周辺角膜厚は両治療群とも治療後有意に減少した(ラタノプロスト治療群:p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:p=0.002).Weinvestigatedtheeffectoflatanoprostandtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC-freetravoprost)oncornealthickness(CT),paracentralCTandintraocularpressure(IOP).Subjectscomprised30patients(57eyes)withprimaryopen-angleglaucomawhowererandomlyassignedtoreceivelatanoprost(16patients,30eyes)orBAC-freetravoprost(14patients,27eyes)for8weeks.CTandIOPweremeasuredbeforeandaftertreatment.StatisticallysignificantIOPreductionwasobservedinbothgroups(p<0.001),withnosignificantdifferencebetweentheirpercentreductions(p=0.72).CentralCTdecreasedsignificantlyonlyintheBAC-freetravoprostgroup(p=0.007);peripheralCTdecreasedsignificantlyinbothgroups(latanoprostgroup:p=0.03,BAC-freetravoprostgroup:p=0.002).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):955.958,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,角膜厚,眼圧.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,travoprost,cornealthickness,intraocularpressure.956あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(96)膜厚に及ぼす効果に関してもいまだ明らかでない.また,プロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関しては,筆者らの調べる限り,いまだ報告されていない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,傍中心角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.I対象および方法対象は2008年4月から12月までに東京警察病院を受診した,治療歴のない広義の原発開放隅角緑内障患者30例57眼で,年齢は56.3±13.0(31.80)歳,性別は男性20例,女性10例である.原発開放隅角緑内障(狭義)は3例6眼,正常眼圧緑内障は27例51眼であった.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往のあるもの,内眼手術の既往のあるもの,角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以下のもの,コンタクトレンズ装用者,担当医が不適切と判断したものである.本試験は東京警察病院治験審査委員会にて承認されており,本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭および文書を用いて十分に説明し同意を得た.対象を無作為にラタノプロスト治療群16例30眼,BAC非含有トラボプロスト治療群14例27眼に割付けた.ラタノプロスト治療群はラタノプロスト0.005%(キサラタンR)を,また,BAC非含有トラボプロスト治療群はBAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させた.1滴点眼後5分以上涙.圧迫および眼瞼を閉瞼させた.治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.角膜厚は,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscan(スキャン方向8方向)で1回測定し,角膜中心から0.2mm(中心角膜)の平均値と2.5mm(傍中心角膜)の平均値を用いてそれぞれ検討した.なお,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscanでの中心角膜厚測定の再現性は良好であることはすでに報告されている8).眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で治療前後ともに同一医師が1回測定した.測定は,角膜厚から行い,直後に眼圧を測定した.まず,両群の背景因子を比較した.つぎに,各治療群において治療前後の中心角膜厚,傍中心角膜厚,眼圧を比較した.また,各治療群において治療前中心角膜厚と眼圧下降率[((治療前眼圧.治療後眼圧)/治療前眼圧)×100(%)]との関係を回帰分析を用いて検討した.さらに,各群において中心角膜厚変化率[((治療前中心角膜厚.治療後中心角膜厚)/治療前中心角膜厚)×100(%)]と眼圧下降率との関係を回帰分析を用いて検討した.統計解析は,群内比較にはWilcoxonsigned-rankstest,群間比較には,Mann-WhitneyUtestを用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果経過中,全例重篤な副作用はなく,中止・脱落したものはなかった.両治療群の背景因子には有意差はなかった(表1).眼圧は,ラタノプロスト治療群では治療前15.5±3.2mmHg,治療後13.4±2.5mmHg,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療前16.3±3.2mmHg,治療後13.9±2.9mmHgであり,両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001)(表1).眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であったが,両治療群間に有意な差は認めなかった(p=0.72)(図1).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前527.5±25.8μm,治療後526.3±26.7μmであり,治療前後で有意差表1背景因子治療群ラタノプロストp値(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)年齢(歳)58.5±12.153.9±13.90.17性別(男/女)11/59/50.20等価球面度数(D).2.5±2.4.3.7±4.30.45角膜厚(μm)中心(0.2mm)527.5±25.8528.9±43.00.94傍中心(2.5mm)544.3±26.3547.1±42.40.77眼圧(mmHg)15.5±3.216.3±3.20.39MD(dB).4.6±6.1.4.8±4.70.55両治療群の背景因子には有意差はなかった.MD:meandeviation.平均値±標準偏差.0481216ラタノプロスト治療群(n=30)BAC非含有トラボプロスト治療群(n=27)眼圧下降率(%)Mean±SE図1眼圧下降率比較眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であり,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).(97)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010957はなかった(p=0.20).BAC非含有トラボプロスト治療群では,中心角膜厚は治療前528.9±43.1μm,治療後525.3±44.7μmであり,治療後中心角膜厚は有意に減少した(p=0.007)(表2).傍中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前544.3±26.3μm,治療後542.0±28.1μm(p=0.03),BAC非含有トラボプロスト治療群は治療前547.1±42.4μm,治療後543.0±43.4μmであり(p=0.002),両群とも治療後有意に減少した(表2).治療前中心角膜厚と眼圧下降率の関係を回帰分析で検討したところ,両群とも治療前中心角膜厚と眼圧下降率の間に有意な相関はなかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=.35.3+0.09×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.14,p=0.46,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=.13.6+0.05×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.13,p=0.50).中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03)(図2).III考按ラタノプロストとトラボプロストの眼圧下降効果を比較した海外の報告によると,夕方9)または点眼24時間後のトラフ時刻10)で,トラボプロストのほうがラタノプロストより眼圧下降効果が大きいとするものがあるが,点眼12時間後のピーク時刻においては両者の眼圧下降効果には差がないとする報告が多い9.11).今回筆者らは,日本人を対象にピーク時刻でのラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果を比較したところ,両者の眼圧下降率には有意な差がなかった.このことから,日本人の原発開放隅角緑内障(広義)においてもラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果はピーク時刻では差がないといえる.プロスタグランジン関連薬の中心角膜厚への影響に関しては,近年いくつかの報告が散見されるが,いまだ明らかではない.Arcieriら6)によると,原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象にして,ラタノプロスト,トラボプロストおよびビマトプロストの血液房水柵および中心角膜厚へ及ぼす影響を調べたところ,ビマトプロストのみが中心角膜厚を有意に減少させ,ラタノプロストおよびトラボプロストでは中心角膜厚は有意に変化しなかった.一方,Hatanakaら4)は,開放隅角緑内障患者52例52眼をビマトプロスト,トラボプロストまたはラタノプロストで8週治療したところ,中心角膜厚はすべての群において有意に減少したと報告している.また,逆に治療後中心角膜厚が増加したとする報告も表2治療前後の眼圧および角膜厚変化治療群ラタノプロスト(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)眼圧(mmHg)治療前15.5±3.2p<0.001*16.3±3.2p<0.001*後13.4±2.513.9±2.9角膜厚(μm)中心(0.2mm)治療前527.5±25.8p=0.20528.9±43.0p=0.007*後526.3±26.7525.3±44.7傍中心(2.5mm)治療前544.3±26.3p=0.03*547.1±42.4p=0.002*後542.0±28.1543.0±43.4*:有意差あり.平均値±標準偏差.ラタノプロスト治療群非含有トラボプロスト治療群402000-20-2-1012-3-2-10123眼圧下降率(%)4020-20眼圧下降率(%)中心角膜厚変化率(%)中心角膜厚変化率(%)図2中心角膜厚変化率と眼圧下降率との関係中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,両群とも中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03).958あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(98)ある7).Bafaら7)は,開放隅角緑内障患者108眼を無作為にラタノプロスト,トラボプロストまたはビマトプロストで2年間治療したところ,ラタノプロストとビマトプロストでは,中心角膜厚は治療後有意に増加したが,トラボプロスト治療群では有意な変化はなかったと報告している.このように,現時点では,両薬剤の中心角膜厚に与える影響については,明らかではない.また,傍中心角膜厚も,中心角膜厚と同様に眼圧と有意な正の相関を示すことがHamilton12)により報告されているが,これまでプロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関する報告はない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障患者を対象に,ラタノプロスト,BAC非含有トラボプロストの中心角膜厚および傍中心角膜厚への影響を調べた.治療後の中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では,平均1.2μm,BAC非含有トラボプロスト治療群では平均3.7μm減少していたが,有意な変化はBAC非含有トラボプロスト治療群のみにみられた.また,傍中心角膜厚はラタノプロスト治療群では,平均5.0μm,BAC非含有トラボプロスト治療群は平均6.0μm減少しており,これらは両治療群とも有意な変化であった.しかし,中心角膜厚変化値の範囲はラタノプロスト治療群で.12.+10μm,BAC非含有トラボプロスト治療群で.14.+14μmと小さく,また,Goldmann圧平眼圧計の測定誤差も併せて考慮すると,両薬剤による中心角膜厚の変化が眼圧測定値に与える影響は,臨床上ほとんど問題にならないと考えられる13).今回の検討では,両治療群ともに中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間に有意な正の相関があり,両治療群ともに中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きいという結果であった.仮に,プロスタグランジン関連薬による角膜厚減少の機序が,眼圧下降機序と同様にMMPの活性化によるコラーゲン減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングであるとすると1,14),毛様体や強膜における薬理作用が強い症例ほど,角膜での作用もより強い可能性が考えられる.あるいは,この中心角膜厚減少による見かけ上の眼圧下降効果のために真の眼圧下降効果が過大評価されている可能性も否定できない.しかし,今回の中心角膜厚変化率と眼圧下降率の相関はいずれの治療群においても弱く,また,本試験は少数例,短期間での検討であるため,より多数例,長期間で検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GabeltBT,KaufmannPL:Updateonmechanismofactionoftopicalprostaglandinsforintraocularpressurereduction.SurvOphthalmol53:S107-S120,20082)Schlotzer-SchrehardtU,ZenkelM,NusingRM:ExpressionandlocalizationofFPandEPprostanoidreceptorsubtypesinhumanoculartissues.InvestOphthalmolVisSci43:1475-1487,20023)SenE,NalcaciogluP,YaziciAetal:Comparisonoftheeffectoflatanoprostandbimatoprostoncentralcornealthickness.JGlaucoma17:398-402,20084)HatanakaM,VessaniRM,EliasIRetal:Theeffectofprostaglandinanalogsandprostamideoncentralcornealthickness.JOculPharmacolTher25:51-53,20095)HarasymowyczPJ,PapamatheakisDG,EnnisMetal:Relationshipbetweentravoprostandcentralcornealthicknessinocularhypertensionandopen-angleglaucoma.Cornea26:34-41,20076)ArcieriES,PierreFilhoPT,WakamatsuTHetal:Theeffectsofprostaglandinanaloguesonthebloodaqueousbarrierandcornealthicknessofphakicpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.Eye22:179-83,20087)BafaM,GeorgopoulosG,MihasCetal:Theeffectofprostaglandinanaloguesoncentralcornealthicknessofpatientswithchronicopen-angleglaucoma:a2-yearstudyon129eyes.ActaOphthalmol,2009,Epubaheadofprint8)大貫和徳,前田征宏,伊藤恵里子ほか:検者間および同一検者での前眼部OpticalCoherenceTomographyの測定再現性.視覚の科学29:103-106,20089)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200110)DubinerHB,SircyMD,LandryTetal:Comparisonofthediurnalocularhypotensiveefficacyoftravoprostandlatanoprostovera44-hourperiodinpatientswithelevateintraocularpressure.ClinicalTher26:84-91,200411)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)HamiltonK:Midperipheralcornealthicknessaffectsnoncontacttonometry.JGlaucoma18:623-627,200913)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,200014)WuKY,WangHZ,HongSJ:Effectoflatanoprostonculturedporcinecornealstromalcells.CurrEyeRes30:871-879,2005***