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日本医科大学付属病院眼科における強膜炎患者の統計的観察

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(91)663《第43回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科27(5):663.666,2010cはじめに強膜炎は,日常診療で遭遇することが珍しくない疾患であるが,自然軽快する症例から眼球摘出や失明に至る症例まで,その臨床像はさまざまである.強膜炎の約25.50%に全身性の免疫関連疾患がみられることが知られており1),感染性のものとしてヘルペスや梅毒,結核,非感染性のものとして関節リウマチ,血清反応陰性脊椎関節症,再発性多発軟骨炎などが知られている2).しかし,わが国における多数例についての統計報告は少なく,荒木ら3)の75例や黒坂ら4)の106例,伊東ら5)の170例があるのみである.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)における最近の4年間の強膜炎および上強膜炎患者について統計学的検討を行った.I対象および方法2004年4月.2008年3月の4年間に当科外来を受診した強膜炎・上強膜炎患者59例(男性23例,女性36例)を対象とし,血液検査などの臨床検査結果の異常値の頻度,全身〔別刷請求先〕若山久仁子:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:KunikoWakayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN日本医科大学付属病院眼科における強膜炎患者の統計的観察若山久仁子堀純子塚田玲子伊藤由紀子高橋浩日本医科大学眼科学教室ReviewofScleritisandEpiscleritisatNipponMedicalSchoolHospitalKunikoWakayama,JunkoHori,ReikoTsukada,YukikoItoandHiroshiTakahashiDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool目的:過去4年間の強膜炎,上強膜炎の解析.対象:2004年から2008年までの4年間に当科を受診した強膜炎,上強膜炎患者59例.結果:男性23例,女性36例.平均年齢52.6歳.全体の52.5%が前部びまん性強膜炎で,ついで上強膜炎,前部結節性強膜炎,前部壊死性強膜炎,後部強膜炎と続いた.臨床検査結果に異常を示した割合は92%であり,異常頻度の高いものに蛋白分画,補体価,抗核抗体,リウマチ因子,免疫グロブリン値などがあった.約22%に全身性随伴疾患を認め,頻度の高い疾患として関節リウマチが38.5%,サルコイドーシスと再発性多発軟骨炎が各15.4%を占め,他に結核,血清反応陰性関節炎,トキソプラズマがあった.強膜炎の精査を契機に随伴疾患の診断に至った症例は69.2%であった.結論:強膜炎患者の9割が臨床検査結果に異常を呈し,約7割に随伴疾患が発見された.強膜炎診療における全身精査は重要である.Purpose:Toreviewcasesofscleritisandepiscleritisinourdepartment.Cases:Thisretrospectivestudyinvolved59newcasesofscleritisandepiscleritisduring4years,through2008.Results:Theseriescomprised23malesand36females,withanaverageof52.6years.Thetypeofscleritiswasdiffuseanteriorin52.6%,followedbyepiscleritis,nodularanteriorscleritis,necrotizinganteriorscleritisandposteriorscleritis.Ofourcases,92%hadabnormalresultsinlaboratorytests.Anassociatedsystemicdiseasewasrecognizedin13/59patients(22%);rheumatoidarthritiswasfoundin5ofthe13(38.5%),followedbysarcoidosisin2(15.4%),andrelapsingpolychondritisin2(15.4%).Thefindingofassociatedsystemicdiseasewasaresultoftheinitialdiagnosisin9ofthe13patients(69.2%).Conclusion:92%ofourcasesshowedabnormalresultsinlaboratorytests.Specificattentionisneededtodetectassociateddiseasewhenscleritisisdiagnosedinitially.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):663.666,2010〕Keywords:強膜炎,上強膜炎,全身性随伴疾患,関節リウマチ.scleritis,episcleritis,associatedsystemicdisease,rheumatoidarthritis.664あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(92)性随伴疾患についてレトロスペクティブに検討した.臨床所見に基づく分類はWatson分類6)に準じた.すなわち,今回の対象を上強膜炎,前部びまん性強膜炎,前部結節性強膜炎,前部壊死性強膜炎,後部強膜炎の5つに大別し,患者数,年齢,性別,異常を示した検査項目や全身性随伴疾患などについて検討した.強膜炎の原因検索のための臨床検査項目として,血算,生化学検査に加えて免疫グロブリン,リウマチ因子,補体価など表1にあげた検査を施行した(表1).II結果1.患者数,年齢,性別対象期間中の当科における全初診患者に対する強膜炎新患患者の割合は約0.3%(59/20,412人)であった.内眼炎初診患者における割合は13.6%(59/433人)であった7).初診時の年齢は22.83歳で,全体の平均年齢は52.6歳(男性48.6歳,女性54.9歳)であった.分布は20歳代から80歳代にわたり,40歳代でのみ男性に多い以外は他の年代ではすべて女性に多く,30歳代と50.60歳代に多いという二峰性のピークを示した.性別は男性23例,女性36例で,1:1.57と女性に多い傾向であった(図1).2.部位別・形状別分類強膜炎の約52.5%が前部びまん性強膜炎で最も多く,ついで上強膜炎27.1%,前部結節性強膜炎17%,前部壊死性強膜炎1.7%,後部強膜炎1.7%と続いた.男女比では上強膜炎のみ男性に多く,他は女性に多くみられた(図2).上強膜炎,前部結節性強膜炎は50歳代に最も多く,前部びまん性強膜炎は60歳代に最も多かった.前部壊死性強膜炎と後部強膜炎に関しては,症例数が少ないため,今後継続した観察が必要と思われる(図3).3.臨床検査結果全強膜炎患者のうち,臨床検査結果に何らかの異常を示した割合は92%で,男性では76%,女性では100%すべての症例で何らかの異常を認めた.異常頻度の高いものとして,蛋白分画〔そのうちアルブミン(Alb),a1,a2,gグロブリン〕,補体価(CH50,C3),抗核抗体(ANA),免疫グロブリン,リウマチ因子(RF),C反応性蛋白(CRP)などがあった(表2).また,ツベルクリン反応で強陽性を認めた4例のうち,1例は胸部X線上も異常陰影を認め,呼吸器内科で結核の診断に至った(表2).病型別では,症例の50%以上に異常を示したa2グロブリンは,検査を実施していなかった前部壊死性強膜炎を除い表1検査項目血算,生化学,血液像免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)リウマチ因子(RF,RAPA)補体価(CH50,C3)蛋白分画(Alb,a1,a2,b,g)抗核抗体(ANA)抗好中球細胞質抗体(ANCA)アンギオテンシン変換酵素(ACE)トキソプラズマ抗体抗マイクロソーム抗体ツベルクリン反応胸部X線23年齢(歳)□男性■女性例数741614121086420~1011~1021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~903587122321図1強膜炎,上強膜炎患者症例の性別・年齢別分布□後部強膜炎■前部壊死性■前部結節性■前部びまん性■上強膜炎1614121086420例数年齢(歳)~1011~1021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~90図3部位別・形状別分類における年齢別分布前部びまん性(31例,52.5%)男性11女性20前部結節性(10例,17%)男性1女性9前部壊死性(1例,1.7%)男性0女性1上強膜炎(16例,27.1%)男性10女性6後部強膜炎(1例,1.7%)男性0女性1図2部位別・形状別分類(93)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010665て,どの病型でも全般的に異常高値を示した.上強膜炎は,a2グロブリンとリウマチ因子では高い異常頻度を示したが,他の病型で異常頻度の高いCH50やC3といった補体価や抗核抗体では異常を示さず,検査所見陽性の割合が低い傾向にあった(表3).4.全身性随伴疾患全強膜炎患者の13例(男性4例,女性9例),約22%に全身性随伴疾患を認め,そのうち5例(38.5%)は関節リウマチであった.ついで再発性多発軟骨炎,サルコイドーシスが2例(約15.4%)であり,他に血清反応陰性脊椎関節症,結核,交感性眼炎,トキソプラズマが各1例であった(図表4全身性随伴疾患上強膜炎前部後部びまん性結節性壊死性16例31例10例1例1例59例(%)Total1831013(22.0%)関節リウマチ再発性多発軟骨炎サルコイドーシス血清反応陰性脊椎関節症結核交感性眼炎トキソプラズマ010000021201112001000100000000000005(8.5%)2(3.4%)2(3.4%)1(1.7%)1(1.7%)1(1.7%)1(1.7%)()内の数字は全59例における割合を示す.表3病型別分類における異常頻度の高い検査項目症例数a2(%)26/48(54.2)CH50(%)11/29(37.9)C3(%)1/5(20)ANA(%)6/33(18.2)RF(%)7/50(14)上強膜炎167/12(58.3)0/7(0)0/1(0)0/10(0)3/14(21.4)強膜炎前部結節性106/8(75)3/4(75)1/3(33.3)0/7(0)2/8(25)前部びまん性3112/27(44.4)7/17(41.2)0/1(0)6/25(24)2/27(7.4)前部壊死性1─────後部11/1(100)1/1(100)0/0(0)0/1(0)0/1(0)*異常値を示した例数/検査した例数(%).再発性多発軟骨炎:2例(15.4%)サルコイドーシス:2例(15.4%)血清反応陰性脊椎関節症:1例(7.7%)結核:1例(7.7%)交感性眼炎:1例(7.7%)トキソプラズマ:1例(7.7%)関節リウマチ:5例(38.5%)図4全身性随伴疾患表2異常を示した検査項目項目頻度(異常値の例数/検査例数)蛋白分画66.7%(32/48)Albumin27.1%(13/48)a110.4%(5/48)a254.2%(26/48)b4.2%(2/48)g10.4%(5/48)CH5037.9%(11/29)C320.0%(1/5)ANA8.2%(6/33)RF14.0%(7/50)免疫グロブリン14.9%(7/47)IgA4.3%(2/47)IgE6.4%(3/47)IgG2.1%(1/47)IgM2.1%(1/47)CRP10.2%(5/49)抗マイクロソーム抗体7.5%(3/40)ANCA(MPO)7.1%(1/14)WBC6.3%(3/48)RAPA5.1%(2/39)ZTT5.0%(2/40)CPK4.8%(2/42)ツベルクリン反応:陰性4.8%(1/21):強陽性19.1%(4/21)Xp異常陰影19.1%(4/21)666あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(94)4).このうち,強膜炎の精査がきっかけで随伴疾患の診断に至った症例は69.2%であり,平均年齢は52.6歳であった.病型別では,関節リウマチに随伴した強膜炎の病型は,前部びまん性強膜炎が2例,結節性2例,壊死性が1例であった.一方,再発性多発軟骨炎では上強膜炎,前部びまん性強膜炎1例ずつで,サルコイドーシスでは2例とも前部びまん性強膜炎であった(表4).III考按わが国において,強膜炎の多数例について検討した報告は3報ある.それらと今回の結果を比較した.また,今回は欧米の報告とも比較検討するため,Watsonら6)による病型別分類に従い,上強膜炎も含め検討した.本研究における症例数は4年間で59例で,年間平均約14例である.これは他施設の年間約6.8例3.5)という結果に比べ多いことがわかった.男女比は,従来の欧米の報告では,強膜炎は女性に多い疾患とされ,わが国の報告でも同様だが,慶應義塾大学4)でのみ男性に多いという報告である.当科は他の大学での報告と同じく女性に多いという結果を示していた.平均年齢も既報とほぼ同様で,50歳前後であった.年齢分布は30歳代と50.60歳代に多いという二峰性の分布を示しており,既報と比較すると伊東ら5)の上強膜炎の分布でも同様に二峰性の分布を示していた.臨床分類において最も多かった前部びまん性強膜炎は,当科では52.5%であり,伊東ら5)の57.7%,黒坂ら4)の約60%の報告とほぼ一致していた.欧米のWatsonら6),Tuftら8)の40%前後と比し,わが国では前部びまん性強膜炎の割合が高いと推測される.全身の臨床検査結果で何らかの異常を認めた割合は,全強膜炎の92%,男性では76%,女性ではすべての症例で異常を認めたが,これは女性のほうが膠原病の発生が多いことや眼炎症疾患の頻度が高いことなどが背景としてうかがえる.強膜炎の臨床検査項目として,当科では血算,生化学,血液像に加えて免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM),リウマチ因子(RF),補体価(CH50,C3),蛋白分画,抗核抗体(ANA),抗好中球細胞質抗体,アンギオテンシン変換酵素(ACE),抗マイクロソーム抗体,トキソプラズマ抗体,ツベルクリン反応,梅毒血清,胸部X線などを実施している.過去の報告において,RF高値の頻度は,Lachmannら9)の29%を除くと13.5.18.0%4.6,8)であり,当科の14%とほぼ同様の結果であった.抗核抗体陽性は当科では18.2%であり,他施設の20.5%4)や25%5)とほぼ同様である.しかし,抗核抗体は健常人でも低力価(40.160倍程度)の抗核抗体を検出することはまれではないといわれており,他の検査項目や問診などにより検査結果は総合的に判断することが必要と思われる.病型別の検査所見陽性の割合は,当科では上強膜炎が低い傾向にあったが,これは伊東ら5)の報告と同様であった.強膜炎と全身性疾患の関連はよく知られており,約25.50%に免疫関連疾患を合併するといわれている1).当科での合併率は22%であった.すべての施設で最も多いとされている随伴疾患は,関節リウマチで共通していた.頻度は当科では11.6%(強膜炎43例中5例,上強膜炎では0例)であり,黒坂ら4)の3.8%を除き他施設の10.1.15%3,6,8)と同様であった.随伴疾患を認めたもののうち,約7割が強膜炎を契機に随伴疾患の診断に至った.当科では,強膜炎患者に上記の検査項目を施行しスクリーニングするとともに,詳しい問診を施行している.検査結果に異常を認めた症例,問診から随伴疾患の合併が疑われたりする症例については,リウマチ科や膠原病内科,呼吸器内科などと連携し,可能な限りその発見に努めている.このことにより,このような高い発見率になったと思われる.強膜炎において全身性随伴疾患の検索は重要である.なお,今回の対象症例においては,随伴疾患を認めた症例と認めなかった症例との間で,臨床検査結果の異常頻度に差を認めなかった.当科では,今後も症例を増やして継続した検討を行いたいと考えている.文献1)SmithJR,MackensenF,RosenbaumJT:Therapyinsight:scleritisanditsrelationshiptosystemicautoimmunedisease.NatClinPractRheumatol3:219-226,20072)堀純子:強膜炎と全身性疾患.日本の眼科79:1-5,20083)荒木かおる,中川やよい,多田玲ほか:最近11年間における強膜炎75例の解析.臨眼41:1075-1078,19874)黒坂裕代,村木康秀,鈴木参郎助:慶應義塾大学眼科における強膜炎106例の検討.眼紀45:797-803,19945)伊東崇子,園田康平,有山章子ほか:九州大学眼科における20年間の強膜炎の検討.臨眼60:1213-1217,20066)WatsonPG,HayrehSS:Scleritisandepiscleritis.BrJOphthalmol60:163-191,19767)伊藤由紀子,堀純子,塚田玲子ほか:日本医科大学付属病院眼科における内眼炎患者の統計的観察.臨眼63:701-705,20098)TuftSJ,WatsonPG:Progressionofscleraldisease.Ophthalmology98:467-471,19919)LachmannSM,HazlemanBL,WatsonPG:Scleritisandassociateddisease.BrMedJ1:88-90,1978***

後期臨床研修医日記 13.東京女子医科大学眼科学教室

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106570910-1810/10/\100/頁/JCOPYによりフィードバックを受けることができます.自分の診察室と上の先生の診察室を行ったり来たり,文字どおり走り回っています.診察,手術の予約,レーザーの予約などをしているうちに,あっという間に午後の専門外来の時間に突入します.・専門外来(午後)専門外来は午後毎日あります.ドライアイ外来,神経外来,未熟児外来,角膜外来,色覚外来,網膜硝子体外来,ぶどう膜外来,斜視弱視外来,緑内障外来など,多岐にわたります.私達医療練士研修生は,このなかの2つの専門外来に配属され,6カ月ごとにローテーションします.この期間に,専門外来の多数の患者さんを診察し,外来後の勉強会を通してその分野を集中して学びます.オペオペは週3日あり,火曜班,水曜班,木曜班の3班体制を取っています.必ず全員がいずれかのオペ班に属します.(85)東京女子医科大学眼科学教室には毎年後期臨床研修生(当院では医療練士研修生)として5人前後の入局があります.3年前に入局してから,各専門分野の先生方の御指導の下,4人の同期と一緒に勉強し,悩み,助け合いながら過ごしてきました.今回は私達の入局から現在までの研修の様子を御紹介します.独立までの3カ月2年間の初期臨床研修を終えたものの,眼科の知識を学ぶ機会は少ないものです.眼科は細隙灯顕微鏡や眼底検査など,初期臨床研修では教わらない手技を一から覚えないといけません.当科では,入局してから最初の3カ月間は,それぞれ決まったオーベンの先生に1日中つかせてもらいます.外来業務,病棟業務,手術業務,当直のすべてを,1対1でオーベンから教わりながらこなします.目標は7月からの「独り立ち」です.独り立ちとはいっても3カ月ですべて完璧にできるわけではありません.独りで診察し病態を考えてから上申できるようになる,という意味で「独り立ち」なのです.入局当初は毎日が新しいことの連続で,この3カ月で今後の眼科医としての道筋がつくられるといっても過言ではありません.外来・一般外来(午前)午前の一般外来は,教授や准教授の外来が2本柱で進んでいきます.待合室はその外来予約患者さんで一杯になります.教授や准教授が診察する前に,専門医試験前の若い医師3.4人で予診をとります(1診目).患者さんのその日の状態を聞いて診察をし,必要な検査を追加して,上申をします(2診目).医療練士研修生は,一人で診察をして患者さんを帰すことはなく,専門医の診察●シリーズ⑬後期臨床研修医日記東京女子医科大学眼科学教室能谷紘子▲教授回診の様子658あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(86)す.オーベンの先生から独立して自分の外来ブースを持つようになります.今まではオーベンの先生が隣りにいたけれど,自分で診察して上申しなければいけません.最初はオーベンの先生のように,所見も取れず,そのあとに必要な検査も思い浮かびませんでしたが,毎日走り回っていると,どの所見が大事で,どんな検査が必要なのかがだんだん見えてきます.おわりに眼科医として3年が過ぎようとしています.大学病院だけでなく,出張病院に出る学年になりました.いつまでも未熟者のつもりでも,後輩もでき,頼る学年から頼られる学年に変わりつつあります.そんななかで,後期研修の時期にいろいろな症例を経験しておくことは,とても大事なことだと痛感しています.そのときはたくさん悩み,大変な思いをしても,きっと今後の眼科医人生に大いに役に立つと思います.これから難しい症例にあたったときも,初心を忘れずに成長していきたいと思います.能谷紘子(のたにひろこ)平成17年3月東京女子医科大学医学部卒業平成17年4月東京女子医科大学病院にて初期臨床研修平成19年4月東京女子医科大学眼科学教室医療練士研修生〈プロフィール〉白内障,硝子体手術,緑内障手術,斜視手術など,いろいろな術式を勉強します.まずは白内障手術の助手,つぎは硝子体手術の助手,というように少しずつレベルアップしていきます.オペレーターとしてデビューするには,ウェットラボで行う白内障手術のテストに合格しないといけません.そのテストは,「独り立ち」と同時期の入局3カ月目にあるので,オーベンの先生とウェットラボに通い練習します.白内障手術の手順や機器の名称,操作方法を学びます.はじめは顕微鏡の操作に慣れるだけで一苦労あり,ピントを合わせるうちに,「顕微鏡酔い」してしまうこともありました.それを乗り越えて,テストに合格すると,ようやく指導医のもと,オペレーターの椅子に座らせてもらえるのです.当直まずはオーベンの先生と一緒に当直します.初めは電話が鳴るたびに,患者さんが訴える症状を聞くたびにドキドキの連続でした.まずは一人で診察をしてからオーベンの先生のチェックを受けます.独立して一人ですべてを判断しないといけないかと思うと,不安が募ってしまいます.日々の外来での鍛錬が,当直の不安を払拭し,助けになることを痛感します.いよいよ「独り立ち」入局から3カ月経つと,いよいよ独り立ちを迎えま▲教授回診前の診療(1)▲教授回診前の診療(2)(87)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010659☆☆☆教授からのメッセージ女子医大の後期臨床研修過程は5年間と規定されています.各診療科に入局して5年間専門領域の臨床研修をすることになります.この研修期間を終了すると臨床医として,教育者として,そして研究者としての資格が認められ,助教に就任する権利を得ることができるという仕組みになっています.眼科の場合は専門医試験が入局後5年目にありますので,専門医試験に合格すればその翌年には助教に就任することになります.女子医大眼科では臨床医の育成を第1目標にしています.どこに行っても,どんな患者を目の前にしても対応できる知識と技術を習得してもらうと同時に,医師としての心構え,礼儀,態度を適切に表現できるように指導しています.教育する立場に立つと,知識や技術の教育よりも後者の精神教育がはるかにむずかしいことを実感します.文字や数字で書き表せない,また手術のように眼や耳で確かめて客観的に判断できない部分が多いからだと思います.しかし,5年間の後期臨床研修を終了するまで頑張ってくれた医局員が専門医そして助教になる頃にじっと見てみると,間違いなく全員が精神的な面で立派な眼科医として成長しています.この成長を見るのが教育者として最も大きな楽しみです.(東京女子医科大学眼科学・教授堀貞夫)新糖尿病眼科学一日一課初版から7年,糖尿病の治療,眼合併症の診断,治療の進歩に伴い,待望の改訂版刊行!【編集】堀貞夫(東京女子医科大学教授)・山下英俊(山形大学教授)・加藤聡(東京大学講師)本書の初版が出版されて7年余がたった.この間に糖尿病自体の治療や合併症の診断と治療が大きく変遷し進歩した.ことに糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の発症と進展に関与するサイトカインの研究が進展し,病態の解明が大きく前進した.これを踏まえて,発症と進展に関与する薬物療法の可能性を追求する臨床試験が進んでいる.一方で,視機能,ことに視力低下に直接つながる糖尿病黄斑浮腫の治療は,現時点で最も論議が活発な病態となっている.硝子体手術やステロイド薬の投与の適応と効果について,初版が出版された頃に比べると大きく見解が変化している.そして,糖尿病黄斑浮腫の診断に大きな効果を発揮する画像診断装置が普及した.(序文より)〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544株式メディカル葵出版会社Ⅰ糖尿病の病態と疫学Ⅱ糖尿病網膜症の病態と診断Ⅲ網膜症の補助診断法Ⅳ糖尿病網膜症の病期分類Ⅴ糖尿病網膜症の治療Ⅵ糖尿病黄斑症Ⅶ糖尿病と白内障Ⅷその他の糖尿病眼合併症Ⅸ網膜症と関連疾患Ⅹ糖尿病網膜症による中途失明糖尿病眼科における看護Ⅸ■内容目次■B5型総224頁写真・図・表多数収載定価9,660円(本体9,200円+税460円)

眼研究こぼれ話 5.角膜の生化学 印象深いキノシタ君の研究

2010年5月31日 月曜日

(83)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010655角膜の生化学印象深いキノシタ君の研究サンフランシスコ生まれのキノシタ君と私は,ハーバード大学のハウ研究所で眼の研究をすることとなった.1952年のことである.彼はハーバードの生化学教室で理学博士になったばかりの新進気鋭の学者であり,私は不自由な英語をあやつらねばならない新留学生であった.彼は大きな牛の眼玉から角膜を取り出し,この組織が,血管なしでどうやって生きているかを化学的に調べることになった.私は顕微鏡の下で,その化学変化を目に見えるようにする実験を始めた.代表的な細胞の栄養物であるブドウ糖の分解して行く過程を見極めて行くわけである.その当時,大へん貧困であった日本の大学の研究所から,つり上げられて行った私にとって,キノシタ君の研究方法に目を見張ったのである.そのころ,怖いとばかり知らされていた,放射能物質が,どんどん使われていたのである.角膜細胞がブドウ糖を次々と分解産物に変えて,エネルギーになって行くステップを,放射能の検出で,いとも簡単で正確に表していく.写真用感光材を,私の実験した標本の上にぬっておけば,放射能は小さい銀顆(か)粒となって顕微鏡で見えるから,細胞内の化学反応の位置が,はっきりとわかる.このような,毎日見せつけられる科学のうまみに魅せられてしまったのである.これが私の当地に居とどまるように決心させた一つの理由でもある.この実験で,キノシタ君は,角膜細胞のブドウ糖分解過程は,普通の臓器のそれと異なっていることを発見した.最初予期したようにうまく行かない実験に,「これはおかしい」と思った彼は,色々と分解のまわり道をチェックして行き,ついに,角膜の細胞には,別系のルートを通過してブドウ糖を,エネルギーにかえる特性のあるという説を樹立した.このペントーゼ系の分解経路はガン細胞では見当たるが,正常の組織にあることは変則である.この変則な新陳代謝を角膜が遂行して行くための,構造的な説明をするのが,私の仕事である.何とか苦労しているうちに,わかりきった事に思い当たったのである.血管のない角膜は血液から,酸素とブドウ糖の供給を受けられないということである.そうして,角膜の細胞の中には,常時,グリコーゲンをブドウ糖の原料として,大量に蓄えている事を発見した.このグリコーゲンが,傷や,病変の治癒(ゆ)の際,なくてはならない事,またグリコーゲンを化学的に取り去ると,角膜細胞に正常の力がなくなる事などがわかってきた.グリコーゲンはアミラーゼという酵素で簡単に分解されるので,私の興味はアミ0910-1810/10/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑤.▲コーガン教授を囲んだキノシタ博士(左),ライニック博士,それと筆者(右).ライニック博士はオーバニー大学から1年間の休暇をとって私たちの研究所で勉強するためやってきた.この4人は昔からのチームである.656あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010眼研究こぼれ話(84)ラーゼの溶液を色々と病的にした動物の角膜に与えて,治癒の速度を見る実験に発展して行った.アミラーゼは唾液の中に大量にあるので,唾液をそのまま使えば,ひとつひとつ,化学薬品を計測する手間がはぶけることがわかり,大へんに便利したものである.論文には,アミラーゼ溶液と記したことは勿(もち)論である.キノシタ君は,その後,興味を白内障へ移して行ったが,角膜の研究は私の当地で始めた最初の仕事として,今でも生々とした記憶に残っているし,興味も持ち続けている.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆Ⅰ神経眼科における診察法・検査法Ⅱ視路の異常〔1.視神経障害/2.視交叉およびその近傍の病変/3.上位視路の病変〕Ⅲ眼球運動の異常〔1.核上性眼球運動障害/2.核および核下性眼球運動障害/3.神経筋接合部障害/4.外眼筋および周囲組織の異常/5.眼振および異常眼球運動〕Ⅳ瞳孔・調節・輻湊機能の異常〔1.瞳孔・調節機能の異常/2.輻湊・開散機能の異常〕Ⅴ眼窩・眼瞼の異常〔1.眼窩の異常/2.眼瞼の異常〕Ⅵその他〔1.心因性反応/2.全身疾患と神経眼科/3.網膜疾患の接点/4.緑内障との接点/5.各種検査〕Ⅶこれからの神経眼科〔1.視神経移植と再生/2.遺伝子診断と治療/3.実験的視神経炎/4.視神経症の新しい治療法の試み/5.膝状体外視覚系/6.固視微動の解析/7.FunctionalMRI/8.Fibertracking〕新臨床神経眼科学<増補改訂版>【編集】三村治(兵庫医科大学教授)■内容目次■A4変型総312頁写真・図・表多数収録定価21,000円(本体20,000円+税).メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替口座00100-5-69315電話(03)3811-0544(代)FAX(03)3811-0637

インターネットの眼科応用 16.医療材料の流通とインターネット

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106530910-1810/10/\100/頁/JCOPY卸とインターネットインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.インターネットの登場により,生産者と消費者が直接繋がり,さまざまな業界で,「卸」という業の存在がほとんど「無」になりました.インターネットが普及することにより,生産者よりも消費者のほうが優位に立つ時代になったといえます.本を購入する際に,書店に足を運んで探さなくてもAmazonなどの物販サイトで購入できます.消費者が生産者を選び,自分の好みに応じて選択できるようになりました.欲しいものが,在宅のまま,パソコンとネット環境さえあれば,簡単に手に入ります.人類は新しい狩猟の方法を手にしたのです.これは,歴史的にみても画期的なことです.情報革命が,農業革命と産業革命に並ぶ,三大革命の一つといわれるのも当然です.この革命の波がいまだ,限定的なのは,さまざまな規制が存在する,参入障壁の高い業界です.このような業界では,インターネットというcompetitorが参入しにくく,既存の商慣習が強く残ります.医療界,農業界,教育界,といった領域が例にあげられます.医療について述べる前に,農業界をみてみます.インターネットの普及に伴い,農協という存在が見直されました.産地から消費者に直接届くルートが少しずつ確立されてきています.このルートとは,当然,インターネットを介した通信販売です.日本政策金融公庫と農林水産省がまとめたデータによると,約2割にあたる17.1%の農業者がインターネットを含めた通信販売を行っており,特に果樹を扱う農業者は半数に近い48.3%の生産者が通信販売を行っています.この割合は今後も増加することが予想されます1).インターネットの登場前は,モノが生産され,生産者から消費者に伝わるまでの物流を担ってきたのが,卸とよばれる業態です.小売店の大型化や全国化に伴い,相対的に卸の重要性は低下していますが,インターネットが成熟した社会においては,卸の存在価値はきわめて小さくなります.先述のAmazonにも農産物は出品されています.自宅にいながら,山形県の農家からサクランボを購入することが可能です.生産者と消費者の距離が近くなり,生産者は消費者のニーズを直接把握できるようになります.具体的には,都会の人間が欲する農産物を効果的に生産できるようになり,農業行政に依存する必要がなくなるのです.インターネットは規制の厳しい業界においてさえ,物流の流れを大きく変えました.コンタクトレンズとインターネット通販情報革命の流れは大きく,確実にわれわれの生活に溶け込みます.医療界の物流に関しても,いずれ,変化が訪れると予想します.われわれはさまざまな医療材料を扱いますが,どのような材料がインターネットとの親和性が高く,また,どのような材料が低いのか考察したいと思います.ここでは3つの材料を取り上げます.コンタクトレンズ,医療機器,薬剤の物流に関して,インターネットが与えた影響と今後の可能性を考えてみます.先述しましたように,情報革命の影響を受けにくいのは,規制の厳しい業界です.薬には薬事法と医師法が関与し,医療機器には薬事法が関与します.コンタクトレンズは法律上では高度管理医療機器の位置づけですので,薬事法が関与します.これらの規制とインターネットはときに衝突します.規制を決めるのは人間の力です.利便性を求める消費者側の声が政治,あるいは報道を通じて高まることもあれば,生産者が政治・行政に働きかけて,既存のビジネスモデルを維持します.そのきわめてアナログな人間同士のパワーバランスで決まります.コンタクトレンズは医療機器なのか,という議論はあえてしません.ただ,消費者の圧倒的な数の力と,利便性を求めるニーズが強いため,数ある医療機器のなかで(81)インターネットの眼科応用第16章医療材料の流通とインターネット武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑯654あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010インターネット通販が最も盛んな商品です.海外には無数の通販サイトが存在するため,国内の会社を規制してもその効果は限定的です.Amazonの日本版にも一部のコンタクトレンズメーカーが出品しています.物流を国内規模だけで考えるには限界がある,ということでしょう.コンタクトレンズは医療機器だと,規制を強くしても,コンタクトレンズ装用者は,商品をネットで購入し,トラブルがあったときだけ医療機関に受診するようになるでしょう.われわれ眼科医は,そのような時代にも適応する身の丈にしなければいけません.医療機器の流通とインターネット医療機器の流通にインターネットはどのような影響を与えるでしょうか.医療機器の卸(代理店)の役割は,メーカーとの価格交渉以外にも2つある,といわれています.医療機関の在庫量を確認する「帳合」とよばれる業務を代理店が担うことが多くみられます.このような事務サポートに加え,新しい医療機器の情報を医師や医療従事者に伝える,技術サポートを提供することがあります2).この2つの付加価値から考えると,医療機器の卸業者はインターネットが担えないアナログな価値をもっています.しかし,高額な医療機器を安く買いたい,という願いはどの医療機関ももっているはずです.家電の量販店では,インターネット上にある最安値が現場の価格を決めています.インターネットを利用することで,消費者は安く購入することができ,その商慣習を受け入れている販売側の努力を感じます.情報革命によって,消費者優位の時代になったのです.医療者限定のインターネット会議室「MVC-online」では,医療機器の共同購入者を募ることが可能です.インターネットは仲間集めには最適なツールです.ただ,共同購入者を大規模に募集することは,メーカーや卸業の立場からすると,メリットとデメリットがあります.メリットは,彼らの売上が上がること.デメリットは,販売価格が表面化すること.他の購入者から,「なぜ,うちには高い値段を提示した」というクレームを受ける可能性があります.インターネットの本質は生産者と消費者を繋ぐことです.インターネットは卸という仕事を「無」にする,という可能性をもちます.医療機関は家電のお客と比べると,きわめて行儀が良いのでしょうか,それとも,インターネットを介することの可能性に,まだ気づいていないのでしょうか.私は,医療者がネットなどを利用して(82)共同購入者を募る仕組みがあっても良いと思います.今は,消費者が価格を決める時代です.医療機器の卸業は,インターネットを逆に利用するビジネスモデルを構築しないと,10年後には時代遅れの仕事になるでしょう.薬剤とインターネット最も規制の厳しい,製薬業界にインターネットが与える影響について考察します.薬剤には,薬事法という規制があるため,製薬メーカーはネットで薬を販売できません.薬は対面販売が原則,とされていますので,患者は薬をネットで購入できません.では,医療機関はインターネットを介して,製薬メーカーから直接薬を購入できないのでしょうか.ネットは,生産者と消費者を直接繋げます.最終消費者である患者には薬事法という制限がありますが,われわれ医療機関に対しては,障壁はないはずです.本を購入する際,書店ではなくAmazonを利用するのと同じように,われわれ医療機関は薬をAmazonから購入する時代が来るのでしょうか?急な配達が間に合わないと心配する向きもあるかもしれませんが,現在,アスクルなどの物流サービスは非常に充実しているため,薬の卸業者でなくても,医療の現場には支障がないように感じます.医療の世界では,規制が多いだけでなく,製薬メーカーと卸業者が資本関係で連携しているためでしょうか,物販の世界と違って消費者よりも生産者のほうが優位な状況が続きます.生産者のアナログな人間の力を感じます.変化が起こるのは,消費者であるわれわれが大きな声を上げるか,既存の卸業にとってinnovatorかつcompetitorになるネット企業(たとえば,Amazonや楽天)が薬剤の流通に乗り出すか,のどちらかでしょう.医療界にIT化つまり,情報革命がどの程度起こったかどうかの指標は,電子カルテやレセプトオンライン化がどれだけ現場に導入されたかではなく,医療機器や薬剤流通の産業構造がどれだけ変化したかで考えるべきです.真にIT化が浸透すれば,医療機器や薬剤の大幅な価格低下が起こるでしょう.文献1)http://www.afc.jfc.go.jp/topics/pdf/topics_100304a.pdf2)http://www.jira-net.or.jp/information/file/200410_3_ryuutuu-jittai.pdf

硝子体手術のワンポイントアドバイス 84.ライトガイド眼外照射による眼底周辺部の視認性確保(初級編)

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106510910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに最近のワイドビューイングシステムの普及により,硝子体手術中に周辺部まで十分な視認性を確保することが容易となってきた.しかし,このようなシステムを持たない施設では,散瞳不良例あるいは前.切開が小さい人工的偽水晶体眼などで眼底周辺部の視認性確保に苦慮することがある.増殖糖尿病網膜症に対する眼内光凝固では,プリズムコンタクトレンズ下で,眼内照明を用いて眼内光凝固を施行し(図1),ついで強膜圧迫を行いながら周辺部の光凝固を施行する(図2)ことが多いが,上記のような眼内の視認性確保がむずかしい症例では,強膜圧迫をかなり奥まで行わないと後極部と周辺部の間に光凝固未施行部位を作ってしまうこともある.●ライトガイド眼外照射による眼底周辺部の視認性確保このような場合には,シャンデリア照明を装着すれば,強膜圧迫を行うことで,確実な光凝固を無理なく施(79)行できる.また,ライトガイド付き光凝固プローブも非常に有用な器具で,このような症例に使用する利点は大きい.しかし,通常のプリズムコンタクトレンズでも,眼内光凝固のように細かい操作が不要の手技であれば,顕微鏡同軸照明下で十分に目的を達することができる(図3).あるいは,ライトガイドを硝子体用コンタクトレンズの上から照らすことにより,意外と鮮明に眼内の観察が可能となる(図4).ライトガイドは瞳孔縁から適当な角度に立てて助手に保持させるので,助手に若干の経験が必要だが,少し慣れれば問題なく施行できる.増殖膜処理などの繊細な操作を行うには若干無理があるが,眼内汎網膜光凝固術や気圧伸展網膜復位術後の光凝固による裂孔閉鎖程度の手技であれば十分に施行可能であり,硝子体手術の一つのオプションとして知っておいたほうがよい.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載84ライトガイド眼外照射による眼底周辺部の視認性確保(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1通常のプリズムコンタクトレンズ下の眼内光凝固散瞳不良例あるいは前.切開の小さい人工的偽水晶体眼では赤道部までの光凝固施行が困難なこともある.図2顕微鏡同軸照明下で強膜圧迫を併用した周辺部光凝固図1と図2の間に光凝固未施行部位を作ってしまうことがある.図3顕微鏡同軸照明下でのプリズムコンタクトレンズと強膜圧迫による眼内光凝固眼内光凝固のような細かい操作が不要の手技であれば十分に施行可能である.図4ライトガイド眼外照射による眼底周辺部の視認性確保ライトガイドを硝子体用コンタクトレンズの上から照らすことにより,意外と鮮明に眼内の観察が可能となる.

眼科医のための先端医療 113.エピジェネティクスについて

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106470910-1810/10/\100/頁/JCOPYエピジェネティクスとは生命科学研究において,エピジェネティクスという分野が注目されています.エピジェネティクス(epigenetics)とは,遺伝子のスイッチ領域を取り巻く環境が変化することによって,遺伝子スイッチのONとOFFが調節されるメカニズムのことです.epi-とは「上」を意味する接頭辞で,epigeneticsという言葉は遺伝子配列そのものではなく遺伝子配列の周辺を表しています.遺伝子のスイッチ領域を取り巻く環境とは,スイッチ領域に存在するDNAや蛋白質への化学修飾といえます.具体的には,DNAのC(シトシン)とG(グアニン)が隣り合う配列へのメチル(-CH3)化(図1A),染色体を巻き取っているヒストンという蛋白質へのメチル(-CH3)・アセチル(CH3CO-)・リン酸(H2PO4.)の2つの化学修飾があげられます(図1B).これら遺伝子のスイッチ領域に化合物が結合したり外れたりすることによって,スイッチのON/OFFが調節され,さらに遺伝子発現の増減が調節されて,さまざまな生命現象が起こることが近年明らかになってきました.エピジェネティクスと疾患今日,遺伝子DNAに変異が起こり,さらに変異蛋白質が産生されることによって疾患が発症することがよく知られています.眼科領域では,RB1遺伝子変異によって網膜芽細胞腫が,PAX6遺伝子変異によって無虹彩症が発症することが知られています1).一方で,遺伝子変異はみられないにもかかわらず発症する疾患にエピジェネティクス異常が関連していることが明らかとなってきました.エピジェネティクス研究のきっかけは,Angelman症候群とPrader-Willi症候群という先天的疾患の解明でした.この2つの症候群は,15番目の染色体が母親由来だとAngelman症候群,父親由来だとPrader-Willi症候群を発症することが知られております2).このような遺伝子の発現の有無が,父親・母親のどちらかに由来するかによって規定されることをゲノム刷り込み現象といいますが,この現象の分子機序にエピジェネティクス(Cのメチル化状態の違い)であることが解明されています.後天的疾患にもエピジェネティクスは関与しており,(75)◆シリーズ第113回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊柏木佳子(山形大学医学部眼科学講座)エピジェネティクスについてmACGTAACCGGACGTAACCGGmm:ヒストン蛋白質複合体:DNA:化学修飾:CpGへのメチル化A.C(シトシン)へのメチル化B.ヒストン蛋白質への化学修飾スイッチONスイッチONスイッチOFFヒストン蛋白質が凝縮してスイッチがOFFの状態ヒストン3蛋白質へのメチル化・アセチル化・リン酸化ヒストン蛋白質が緩みスイッチがONの状態CpGへのメチル化遺伝子A遺伝子A図1エピジェネティクスの制御ヒストン蛋白質複合体中の特にヒストン3に化学修飾が起こり,スイッチのON/OFFが調節される.ヒストン3のメチル化については,どのアミノ酸がメチル化されるかによってON/OFF調節が異なる.(文献7より改変引用)648あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010エピジェネティクス異常によって種々の癌が発症することが知られています.網膜芽細胞腫は前述した遺伝子変異によってひき起こされますが,その他にもRB1遺伝子のスイッチ領域が,正常細胞のものよりも高頻度でメチル化修飾(高メチル化)3)されることによってRB1蛋白質の発現が低下し,発癌に至ることが示されています3).癌だけではなく,胎児期栄養環境がエピジェネティクスを変化させ,さらに成長後に生活習慣病発症に影響を与えることが明らかとなっています3).精神神経疾患とも関連性があることが報告されています.眼疾患においては,加齢黄斑変性症や緑内障におけるエピジェネティクスの関連性についても研究が進められています4,5)が,まだ多くの眼疾患とエピジェネティクスの関連性は知られておらず,これからの研究が待たれます.エピジェネティクス制御を用いた治療法の可能性正常なDNA配列が体内に存在しながらも,エピジェネティクス異常によって疾患に至る場合,人為的にエピジェネティクスの状態を制御することができれば,疾患症状の改善が得られる可能性が考えられます.現在,制御の一方法として,海外ではDNAメチル化阻害薬(Vidaza)やヒストン脱アセチル化阻害薬(Zolinza)を用いた抗腫瘍治療・骨髄異形成症候群治療が試みられています.いくつかのグループによって網膜芽細胞腫に対してもヒストン脱アセチル化阻害薬の抗腫瘍性が示されています.筆者らのグループでも網膜芽細胞腫におけるヒストン脱アセチル化阻害薬の作用機序と抗腫瘍性について解明を試みました.その結果,他の腫瘍ではヒストン脱アセチル化阻害薬によって腫瘍で発現が低下しているTGF-b(transforminggrowthfactor-b)のII型受容体の発現が回復し,さらにTGF-bシグナルが回復するところ,網膜芽細胞腫細胞株ではTGF-bのII型受容体のmRNAの発現が回復するものの,蛋白質発現とTGF-bシグナルの回復までには至らないという他の腫瘍とは異なった作用応答が観察されることを見出しました6).しかし,もちろんこの知見だけでは薬剤の有効性については多くを語ることはできません.眼疾患治療へ応用できるかは網膜芽細胞腫も含め眼疾患とエピジェネティクスの関連性の研究が必要とされます.現在,癌以外のさまざまな疾患についてもエピジェネティクス制御を用いた治療法の開発が進められています.さらに,エピジェネティクスをひき起こす環境要因を調べることによって,疾患発症予防への応用が期待されています.文献1)FanBJ,TamPO,ChoyKWetal:Moleculardiagnosticsofgeneticeyediseases.ClinBiochem39:231-239,20062)NichollsRD,SaitohS,HorsthemkeB:ImprintinginPrader-WilliandAngelmansyndromes.TrendsGenet14:194-200,19983)特集「エピジェネティクスと疾患」.京府医大誌118:499-541,20094)GolubnitschajaO:Cellcyclecheckpoints:theroleandevaluationforearlydiagnosisofsenescence,cardiovascular,cancer,andneurodegenerativediseases.AminoAcids32:359-371,20075)SuuronenT,NuutinenT,RyhanenTetal:Epigeneticregulationofclusterin/apolipoproteinJexpressioninretinalpigmentepithelialcells.BiochemBiophysResCommun357:397-401,20076)KashiwagiY,HorieK,KannoCetal:TGF-betatypeIIreceptormRNAinretinoblastomacelllinesisinducedbytrichostatinA.InvestOphthalmolVisSci51:677-685,20107)ParkJH,StoffersDA,NichollsRDetal:Developmentoftype2diabetesfollowingintrauterinegrowthretardationinratsisassociatedwithprogressiveepigeneticsilencingofPdx1.JClinInvest118:2316-2324,2008(76)■氏か育ちか:「エピジェネティクスについて」を読んで■ある人が現在のようになったのは,遺伝のせいなのか,それとも生育環境なのかということが,しばしば「氏か育ちか?」という言葉で表されてきました.これは,本来は人間の性向についての言葉ですが,現在の生物学の命題を表す言葉としても適しています.つまり遺伝子型と環境要因のどちらが個体形成,疾患形成に重要であるかということです.ヒトゲノムが解読されるまでは,環境要因も重要であろうが,環境の影響も遺伝子型で説明できるであろうと考えられていました.しかし,すべてのゲノムが解読されても,遺伝子型では説明できない事象が多く報告されるようになりました.たとえば,Drosophilamelanogasterとい(77)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010649うハエの一種は,普通は白い眼をしています.ところが,これを一時的に37℃で育てると,その子は赤い眼になります.そして,その赤い眼のハエと,通常の白い眼のハエを交配させると,37℃で育てなくても赤と白の混じった眼になります.つまり,37℃で一時的に育てたという環境変化により,ハエの遺伝子型が変わってしまったのです.また,人でも似たようなことが2002年に報告されました.それはスウェーデンで行われた研究で,父方の祖父が思春期前に過食した経験があると,糖尿病による死亡率が有意に高まるというものです.つまり,ある人の行動(環境要因)が2世代後に影響するということになり,環境が遺伝子型を変化させたということになります.このような例は,つぎつぎと報告され,糖尿病,自己免疫疾患,血管病変,ひいては加齢性変化についても,環境が遺伝子型を変化させたと考えざるを得ない事象が数多く報告されるようになりました.これが,今回解説されているエピジェネティクスという概念で,詳細は柏木佳子先生がきわめてわかりやすく本稿で説明されています.ゲノム医学は植物から人間までを含む非常に大きな学問領域に成長しましたが,エピジェネティクスはそれ以上に大きな広がりをもつ学問領域になるであろうとされ,現在盛んに研究されています.現在の考え方では,環境要因+遺伝子型+エピジェノミクス型の総合的影響により個体は形成されるということになっています.「氏か育ちか?」の答えとしては,「両方」ということでしょうか.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 195.人工角膜Boston Keratoprosthesis

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106450910-1810/10/\100/頁/JCOPYと判断した.当院の倫理委員会で使用の承認を得て,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,BostonKPro移植術を行った..実際の手術法BostonKProは,光学部であるフロントパーツ,人工角膜のキャリアとなる角膜移植片,フロントパーツを角膜移植片に固定するためのバックプレートおよびチタン製ロックリングから構成される(図1).フロントパーツは,PMMA製の光学レンズで,無水晶体眼では術前の眼軸長から前面の曲率が計算され,患者眼に合ったものをオーダーすることができる.角膜移植片は,通常8.5mmのトレパンで打ち抜いた後,直径3mm専用パンチで中心に穴を空けたものを用いる.光学系に影響しないため,混濁の有無は問題にならないとされている.バックプレートは,PMMA製の円形プレートで,前房水が交通できるように穴が開いており,角膜移植片へ栄養分の供給が可能となっている4).図1のように,フロントパーツに角膜移植片,バックプレートをはめ込み,ロックリングで固定して移植片を組み立てる.手術は,通常の全層角膜移植術と同様に,トレパンおよび角膜尖刀にて角膜を切除した後,作製した移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着する.術後は,全層角膜移植術後の管理に加え,コンタクトレンズの24時間連続装新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド全層角膜移植術は,水疱性角膜症や角膜白斑に対して有効な治療法であるが,拒絶反応,感染などの合併症により角膜移植片不全となり,再移植が必要となることがある.しかし,複数回の移植片不全の既往がある症例では,予後が不良であることが多い1).このような症例に対する治療の一つとして,人工角膜BostonKeratoprosthesis(以下,BostonKPro)が,1960年代にDohlmanらにより開発された2).BostonKProは,1992年にアメリカでFDA(食品医薬品局)の承認を受けており,適切な術後ケアにより,良好な視力の回復と長期の安全性が確認されている3)..新しい治療法BostonKProは,光学部がPMMA(ポリメチルメタクリレート)製の人工角膜で,角膜移植片に装着して用いられる.手術適応として,以下のことが推奨されている.・拒絶反応や移植片不全をくり返している.・通常の角膜移植では予後が厳しいと予想される.・視力が0.05以下である.・末期の緑内障や網膜.離,重篤な炎症がない.・瞬目が可能で涙液不全がない.当院で経験した症例を紹介する.〔症例〕66歳,男性.他院での左眼白内障手術後に水疱性角膜症を発症した.全層角膜移植術を2回行ったが移植片不全となり,当院受診.当院にて3回目の全層角膜移植術を行うも,拒絶反応をくり返し,再度移植片不全となった.左眼視力(VS)は0.02(n.c.).超音波B-mode検査にて特記すべき異常がなく,動的視野検査にて中心暗点や緑内障性変化がないことを確認し,BostonKPro移植術の適応195.人工角膜BostonKeratoprosthesisプレゼンテーション:森洋斉宮田和典宮田眼科病院コメント:稲富勉京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学ドナー角膜片フロントパーツバックプレートロックリング図1BostonKproの構成646あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010用と,永続的な抗生物質点眼(フルオロキノロン,バンコマイシン点眼併用)が必要となる5,6).以上のように,本症例に対してKPro移植術を行い,術後2週目で視力はVS=1.0(n.c.)が得られ,人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好であった(図2).その後もドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症はなく,術後17カ月で視力はVS=0.8(0.9×.0.75D)が維持されている..本方法の良い点BostonKPro移植術の最大の利点は,角膜内皮細胞機能不全の影響がないことである.ゆえに,複数回の角膜移植片不全をきたした患者の視力改善に対して有効な治療といえる.さらに,保存角膜で手術が可能であり,縫合による角膜乱視がない,眼内レンズの有無を問わないという利点もある.しかし,問題点がないわけではない.術後はソフトコンタクトレンズの連続装用や永続的な抗生物質点眼が必要となるため,その管理に注意を要する.また,眼圧測定が困難になるため,緑内障症例では定期的な眼底検査,視野検査が必須となる.ゆえに患者のコンプアライアンスや環境なども考慮して手術適応を決定する必要がある.BostonKProは現在も継続的に改良され,術後管理と合併症対策の確立への努力が行われている.複数回の移植片不全症例に対する治療として,わが国でも普及することが期待される.文献1)原田大輔,宮井尊史,子島良平ほか:全層角膜移植後の原疾患別術後成績と内皮細胞密度減少率の検討.臨眼60:205-209,20062)DohlmanC,SchneiderH,DoaneM:Prosthokeratoplasty.AmJOphthalmol77:694-700,19743)ZerbeB,BelinM,CiolinoJetal:ResultsfromthemulticenterBostonType1KeratoprosthesisStudy.Ophthalmology113:1779-1784.e1-7,20064)Harissi-DagherM,KhanB,DohlmanCetal:ImportanceofnutritiontocorneagraftswhenusedasacarrieroftheBostonkeratoprosthesis.Cornea26:564-568,20075)DohlmanC,Harissi-DagherM,KhanBetal:IntroductiontotheuseoftheBostonkeratoprosthesis.ExpertRevOphthalmol1:41-48,20066)BarnesS,DohlmanC,DurandM:FungalcolonizationandinfectioninBostonkeratoprosthesis.Cornea26:9-15,2007(74)図2BostonKPro移植術前(左)と移植後2週目(右)人工角膜およびキャリア角膜の良好な生着を認める.される術後感染症の予防には第4世代のニューキノロン点眼薬や抗真菌薬が使用され,ハイリスク症例にはバンコマイシンの局所投与が必須とされている.長期的予後を左右する続発緑内障に対してはシャント手術が第一選択とされているが,わが国ではなじみが薄い治療方法であるため,今後の普及の問題点の一つである.全層角膜移植では十分な治療効果が得られない再移植症例や輪部疲弊を合併する症例に対しては新しい治療選択として非常に期待されるが,デザインやサイズが欧米人を対象としてやや大きいため,日本人の角膜径や前房深度に適したデザインへの改良の必要性がありそうである.わが国で臨床応用されている人工角膜にはBostonKpro,歯根部利用人工角膜(OOKP),AlphaCorの3種類がある.そのなかでもBostonKproはDr.Dohlmanにより改良が進められ,昨年(2009)度より日本でも使用経験が報告され,今後の普及が最も期待される人工角膜である.BostonKproにはハイリスク眼の全層角膜移植に代わるKprotype1と涙液の存在しない瘢痕性角結膜症に適応があるKprotype2に分類される.いずれもフロントパーツとバックプレートによりドナー角膜をサンドイッチし,ドナー角膜を全層角膜移植と同様に縫合する.Kprotype1は術式として比較的容易であることが最大の利点である.術後のコンタクトレンズ装用が重要であるが,心配.本方法に対するコメント.

緑内障:プロスタグランジン製剤の併用療法

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106430910-1810/10/\100/頁/JCOPY●緑内障における多剤併用治療強力な眼圧下降作用をもつプロスト系のプロスタグランジン製剤(以下,PG製剤)の単独投与で目標眼圧に到達しない場合,薬剤切り替えないし併用投与が行われる.当初PG製剤単独で治療を開始した緑内障患者でも,1年以内に20%以上の患者が多剤併用治療を必要としたとの報告1)がある.眼圧の上昇・下降は緑内障進行のリスクに直結する.もしPG製剤単独で良好な眼圧コントロールが得られなかった場合,PG製剤と併用するセカンド・ラインの薬剤の選択が重要となる.PG製剤の併用薬としては,bブロッカー,コリン作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI),およびaアゴニストがある.近年,全身性副作用や眼局所の副作用を考慮し,CAIやaアゴニストをPG製剤と併用した報告が多い.本稿では,CAIとPG製剤の併用効果に絞って解説する.●プロスタグランジン製剤と炭酸脱水酵素阻害薬の併用療法現在市販されているCAIは,ブリンゾラミドとドルゾラミドである.ブリンゾラミド(CAI)はラタノプロストあるいはトラボプロストと併用した場合,有意に眼圧を下降することが報告されている2.4).同じくドルゾラミド(CAI)とラタノプロストを併用した場合も,有意な眼圧下降を示すとされてる5).最近筆者らは,CAIとPG製剤,およびbブロッカーとPG製剤の併用効果を比較するため,以下の臨床試験を行ったので報告する6).対象は3カ月以上ラタノプロスト単剤投与を行った30名の開放隅角緑内障(POAG)患者である.これらPOAG患者は当初チモロールとラタノプロストの併用治療を3カ月間行い,1回目の眼圧日内変動を測定した.その後,ブリンゾラミドとラタノプロストの併用治療に切り替え,3カ月経過した時点で(71)●連載119緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也119.プロスタグランジン製剤の併用療法石川誠秋田大学大学院医学研究系医学専攻病態制御医学系眼科学講座プロスト系のプロスタグランジン製剤は1日1回の点眼で有意に眼圧が下降するため,緑内障および高眼圧症の治療におけるファースト・ラインの薬剤の一つである.しかし単剤で十分な眼圧下降を得られない場合,薬剤併用療法が必要となる.本稿では,プロスタグランジン製剤と炭酸脱水酵素阻害薬の併用療法について概説する.246810121416186AM9AM12PM3PM6PM9PM12AM3AM時刻眼圧(mmHg):Timolol+latanoprost:Brinzolamide+latanoprost************図1チモロール併用群(Timolol+latanoprost)とブリンゾラミド併用群(Brinzolamide+latanoprost)の眼圧日内変動の比較(文献6より)*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,mean±SE(pairedt-test).68101214161824時間平均日中夜間眼圧(mmHg):Timolol+latanoprost:Brinzolamide+latanoprost******図2チモロール併用群(Timolol+latanoprost)とブリンゾラミド併用群(Brinzolamide+latanoprost)の24時間平均眼圧,日中眼圧,夜間眼圧の比較(文献6より)*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,mean±SE(pairedt-test).644あたらしい眼科Vol.27,No.5,20102回目の眼圧日内変動を測定した.1回目と2回目の眼圧日内変動を比較した結果,ブリンゾラミドとラタノプロスト併用群(ブリンゾラミド併用群)がチモロールとラタノプロスト併用群(チモロール併用群)と比較して眼圧下降効果が有意に優れていることが明らかになった(図1).ブリンゾラミド併用群はチモロール併用群と比較して特に夜間眼圧の下降効果が高く(図2),脈拍抑制など全身的副作用も少なかった.以上から,ブリンゾラミドとラタノプロストの併用治療は,チモロールとラタノプロストの併用治療と比較して,眼圧下降効果と安全性に優れていると考えられた.文献1)CovertD,RobinAL:Adjunctiveglaucomatherapyuseassociatedwithtravoprost,bimatoprost,andlatanoprost.CurrMedResOpin22:971-976,2006(72)2)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeffectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,openlabelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,20053)NakamotoK,YasudaN:Effectofconcomitantuseoflatanoprostandbrinzolamideon24-hourvariationofIOPinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma16:352-357,20074)AbeK,KashiwagiK:Additiveeffectofbrinzolamideondiurnalchangesinintraocularpressureinlatanoprosttreatedeyes.OpenOphthalmolJ2:160-164,20085)MaruyamaK,ShiratoS:Additiveeffectofdorzolamideorcarteololtolatanoprostinprimaryopen-angleglaucoma:aprospectiverandomizedcrossovertrial.JGlaucoma15:341-345,20066)IshikawaM,YoshitomiT:Effectsofbrinzolamidevstimololasanadjunctivemedicationtolatanoprostoncircadianintraocularpressurecontrolinprimaryopen-angleglaucomaJapanesepatients.ClinOphthalmol3:493-500,2009☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2010Vol.27月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2010Vol.23■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌(4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーVisuMaxによる近視矯正手術:FLEx

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106410910-1810/10/\100/頁/JCOPY●VisuMaxについてフェムトセカンドレーザー(以下,FSレーザー)は1,000兆分の1秒の超短パルスを発生する波長1,053nmの近赤外線レーザーである.光切断(photo-disruption)した点を連続させて間隙を作ることにより,組織内での精度の高い切削が可能である.組織の障害もきわめて少ない.その性質を利用して,眼科領域では,LASIK(laserinsitukeratomileusis)において,フラップを作製する際にマイクロケラトームに代わり用いられるようになった.より精密に,少ない誤差で設定した厚みのフラップが作製できることにより,近年導入する施設が増加している.CarlZeissMeditec社(以下,CZM社)は2007年にFSレーザーVisuMaxを開発した.その特長として,①レーザー発振部はファイバーであり,安定している,②従来のFSレーザーに比べ,照射のスポットサイズが小さく,1パルス当たりのエネルギー量が少なく,照射スピードが速い(200.500KHz),③光学系を大きく取ることにより,深部に至るまでフォーカスが正確,④角膜との接触部位であるコンタクトレンズが,角膜のカーブに合わせて作られているので,正確な三次元的切除が可能,などがあげられる.●FLEx(FemtosecondLenticuleExtraction)について前述の性質を利用して,角膜実質をエキシマレーザーによって蒸散させて切除するのではなく,FSレーザーによってレンチクルとして切除することによる屈折矯正技術がCZM社によって開発され,すでに臨床応用が始まっている(図1).FemtosecondLenticuleExtractionの頭文字をとってFLExとよばれている.その利点として,①FSレーザーのみでLASIKが行える(経済性),②エキシマレーザーに比べて温度・湿度など環境による影響を受けにくく(キャリブレーション不要)常に安定した矯正が行える,③一度にフラップ作製と実質切除が行われるため手術が短時間で終了する,④狙いどおりの三次元的形状で切除できるため,角膜のProlate形状を保つことが可能となり,術後の収差に優位である,⑤1μm単位の精度での切削が可能なことより高精度なCustom矯正へ発展が期待できる,などがあげられる.また,昨年にはさらに切開創を3mmまで小さくするSmallIncisionFemtosecondLenticuleExtraction(SMILE)も発表された.SMILEでは,傷が小さいため,⑥視力回復がより速い,⑦角膜のバイオメカニカルな安定性が保たれるので,さらに強度な近視への対応も期待できる,⑧知覚神経を温存できることからドライアイになりにくい,などの利点もあげられる.●FLExの術式(図2~4)①まず最深部であるレンチクル後面を切断.②レンチクル前面に続けてフラップ面の切断.③FLExは全体のサイドカット,SMILEは下方80°のみのサイドカット.④レンチクルをスパーテルで分離した後,鑷子にて除去.⑤フラップを戻して終了.(69)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載120監修=木下茂大橋裕一坪田一男120.フェムトセカンドレーザーVisuMaxによる近視矯正手術:FLEx中村友昭名古屋アイクリニックFLExはフェムトセカンドレーザーのみでLASIK(laserinsitukeratomileusis)を行う新技術である.角膜実質をエキシマレーザーによって蒸散させて切除するのではなく,フェムトセカンドレーザーによってレンチクルとして切除することにより屈折矯正を行う.切開創のほとんどない,より安全なLASIKに発展する可能性もある.図1FLEx(FemtosecondLenticuleExtraction)642あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010●手術結果当院ではまだ施行実績はないので,2006年よりVisuMaxを使用しFLExを行っているドイツのSekundoらによる報告1)を示す.6カ月以上経過の追えた10眼.平均等価球面度数.4.73±1.48D.術後は.0.33±0.61D.90%が±1.0D以内に,40%が±0.5D以内.2段階以上の矯正視力の低下はなし.術中合併症はなし.術後合併症としてはフラップ周辺のストリエが2例,一過性の層間のヘイズを6例に認めるもその後改善.DLK(diffuselamellarkeratitis)はなく,光過敏症などの症状を訴えるものはなかった.初期の成績で矯正精度は決して高くはないが,その安全性は確認できる.その後の多施設での短期報告であるが,症例数は164眼と増え,平均等価球面度数.4.62±2.03Dから術後は.0.04±0.42D.矯正精度は±0.5D以内に収まったものは86%(図5).裸眼視力20/32以上が94%,矯正視力は95%が不変か向上と,良好な成績を得ている.Shahによる2010年のASCRS(米国白内障・屈折手術会議)でのSMILEの発表では,術後6カ月追えた423眼.平均等価球面度数.4.56±2.04Dが,術後は.0.00±0.26D.矯正視力は92%が不変か向上,と報告している.おわりにFSレーザーは今後多くの眼科手術に応用されるようになってくると思われるが,LASIKへの応用としての一つの形であるFLEx.さらなる進化により,究極のLASIKとして,切開創のない組織内切除が可能になる日が訪れることは,それほど遠くはないかもしれない.文献1)SekundoW,KunertK,RussmannCetal:Firstefficacyandsafetystudyoffemtosecondlenticuleextractionforthecorrectionofmyopia:six-monthresults.JCataractRefractSurg34:1513-1520,2008(70)レンチクル後面作製のための深い切開を行うレンチクル前面とフラップの作製を行うフラップのサイドカットを行うフラップを起こし,レンチクルを取るヒンジレンチクル1.3.2.4.Fslaser80°の切開のみ01234567891011120123456789101112AttempteddeltaSRequiv.(D)Achieved(D)OvercorrectedUndercorrected(n=164)y=1.03x-0.01R2=0.97図2FLExの手術シェーマエキシマレーザーを用いず,角膜実質をフェムトセカンドレーザーによりレンチクルとして切除することにより,屈折矯正を行う.図3レンチクル切除屈折矯正を行うため切除する角膜実質は一体(レンチクル)として.がすことができる.図4SMILEフラップのサイドカットを下部の80°(約3mm)のみ行い,そこから光切断した角膜実質(レンチクル)を引き出す.図5FLExの術後矯正精度軽度から高度に至るまで,ほとんどの症例が±1.0Dに収まり,±0.5D以内は86%と,良好な矯正精度といえる.(Sekundoらによる多施設の臨床研究より)

多焦点眼内レンズ:回折型多焦点眼内レンズとコントラスト感度

2010年5月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106390910-1810/10/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)挿入例では,良好な遠方および近方の裸眼視力が得られても,コントラスト感度低下による見え方への不満が危惧されている.約20年前に多焦点IOLが登場した際,乱視のコントロールやIOL度数決定の精度が劣っていたことに加え,コントラスト感度という視力以外の視機能への眼科医の理解が不十分であったため,多焦点IOLが順調に普及しなかったといえる.近年,先進医療として承認された多焦点IOLはさらに普及すると思われるが,適応や術後成績の判断においてコントラスト感度の影響を十分に把握しておくことが重要と思われる.回折型多焦点IOLにおけるコントラスト感度回折型多焦点IOL挿入眼でコントラスト感度が理論どおり低下しているかは,VectorVision社製CSV-1000のような市販されているコントラスト測定装置で確認できる.回折型多焦点IOLでは,IOL光学部を通った光線を遠方と近方の2つの焦点に分けることで,遠方のみならず近方が見えるが,その分,コントラスト感度が低下しやすい.単焦点IOLと比較して,どのくらいコントラスト感度が低下しているかを確認するため,テクニスマルチフォーカル(ZM900,AbbotMedicalOptics社製)挿入眼と同素材の単焦点IOL(Z9000,AbbotMedicalOptics社製)挿入眼で比較したところ,多焦点IOL挿入例では中.高周波領域で低下していた.しかし,両眼挿入によりコントラスト感度は上昇し,全周波数領域において正常範囲内であった(図1).コントラスト感度低下と実際の見え方多焦点IOL挿入後に,何となく見えにくい,水の中で見ている感じ,膜がかかった感じというのが不満症例の代表的な問題である.このような場合,視力に加えコントラスト感度検査を行っておくと,見えにくさの原因がわかりやすい.コントラスト感度は,各周波数領域での値以外に,コンピュータを用いて画像のコントラストを変えることで実際の見え方への影響が実感できる.たとえば,図2に示すように30%コントラストを落とすと全体の見え方が劣る.視力検査では,100%に近い高コントラスト視標を用いているため,コントラスト感度が低下していても良好な結果が得られる.(67)●連載⑤多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子5.回折型多焦点眼内レンズとコントラスト感度吉野真未東京歯科大学水道橋病院眼科回折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入において,術後のコントラスト感度について理解しておくことが重要である.回折型多焦点IOL挿入眼では,回折デザインにより単焦点IOL挿入眼よりもコントラスト感度低下が起こりやすく,特に高周波数領域に多い.視力検査結果が良好であっても見えにくさを訴える例ではコントラスト感度低下に留意する.このコントラスト感度は,両眼挿入すると片眼ずつよりも向上し,ほとんどの症例で年齢層の正常範囲内に入る.:多焦点(ZM900):単焦点(Z9000)低周波数高周波数SpatialFrequency―(CyclesPerDegree)CSV-1000ContrastSensitivity図1多焦点IOL挿入眼と単焦点IOL挿入眼のコントラスト感度の比較多焦点IOL挿入眼のコントラスト感度は,中~高周波数領域では低下していたが正常範囲内であった.640あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010コントラスト感度の経時的変化多焦点IOL挿入後のコントラスト感度は,時間経過によって変化するのだろうか?術後早期にコントラスト感度低下がみられた症例でも,時間経過とともにコントラスト感度が改善されるのだろうか?あるいは,コントラスト感度が良好な症例でも長期の経過において低下するのだろうか?術翌日から1カ月後のコントラスト感度を比較したところ,高周波数領域でのみ術翌日と1カ月後に有意差を認めたが,それ以外は統計学的有意差を認めず,術後早期からコントラスト感度は安定していた(図3).さらに,術3カ月後と2年後で比較すると,2年後も有意な低下はなく,視機能は保たれていた(図4).多焦点IOL挿入眼においては,軽度の後発白内障でも視機能への影響を受けやすく,視力低下よりも先にコントラスト感度が低下しやすいので,経過観察において留意すべきである.適応への注意事項コントラスト感度低下の可能性があるため,適応に注意する.視力同様,片眼より両眼挿入においてコントラスト感度が上がるので,片眼挿入後,見え方に不満がある例でも両眼挿入により改善されることを考慮すべきである.もともとコントラスト感度が低下している可能性がある緑内障例や眼疾患合併例に注意する.すでに低下(68)しているコントラストがさらに低下すると非常に見えにくくなる可能性が高い.瞳孔径が非常に小さい症例では,眼内に入る光量が制限されており,回折型の欠点といえるコントラスト感度低下が著明になり,日常生活に影響がでることがある.図2画像のコントラストコントラストを30%落とすと,物の輪郭や色がぼやけて全体的な見え方が劣る.オリジナル画像.30%コントラスト画像..SpatialFrequency―(CyclesPerDegree)CSV-1000ContrastSensitivity:術翌日:術1週後:術1カ月後図3多焦点IOL挿入後早期のコントラスト感度高周波領域で術翌日と術1カ月後に有意差を認めた(*)が,それ以外の周波数では有意差はなく,術後早期より安定していた.SpatialFrequency―(CyclesPerDegree)CSV-1000ContrastSensitivity:術3カ月後:術2年後図4多焦点IOL挿入後長期におけるコントラスト感度術2年後において,術3カ月後と比較してコントラスト感度の低下は認めなかった.