0910-1810/10/\100/頁/JCOPYII眼窩MRIの具体的な条件設定MRIは多くの種類の画像が得られる反面,その条件設定はCTに比較して複雑である.このため,外眼筋画像に適した条件を選択する必要がある.1.撮像法MRIでは観察目的に応じて,さまざまな撮像法が考案されているが,スピンエコー法はMRIが臨床応用された当時から汎用されている基本的な撮像法である.図1のスピンエコー法のT1強調像(左写真)とT2強調像(右写真)では,眼窩内では高信号の脂肪組織の中に低から中等度信号の外眼筋が,高いコントラストで描出されている.また,T2強調像では硝子体・前房が白く描出されているように,水により高信号となるため,炎症による外眼筋浮腫の把握が可能となる.一方,脂肪抑制画像の一つであるSTIR(shortTIinversionrecovery)法は,眼窩内で最も高い脂肪組織の信号を選択的に抑制する撮像法である.そして,脂肪組織以外の外眼筋,視神経の信号亢進を強調するSTIR法では図2の写真の矢印で示すように,炎症による外眼筋浮腫で信号強度が上昇する.ただし,脂肪抑制画像は外眼筋炎症の評価には非常に有用だが,外眼筋と脂肪組織のコントラストは低いため形態観察には不向きである.形態観察目的でオーダーしたはずのスピンエコー画像が,すべて脂肪抑制された画像で送られてくることもはじめに複視は眼位,眼球運動の異常により生じ,その多くは後天性である.このため,複視を自覚する患者が来院した場合,まず原因を精査することが重要となる.その原因のなかには,眼窩内の外眼筋自体に病変が存在することがしばしばある.しかし,外眼筋は通常の眼科検査機器では観察できず,CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)の画像診断が重要となり,その有用性が報告されている1.6).本稿では,外眼筋の画像診断のために眼科医自らが適切なMRI検査のオーダーが行えるよう,撮像条件のポイントを具体的に解説する.さらに,代表的な外眼筋病変を呈示し,外眼筋画像診断でのMRIの有用性について述べたい.I外眼筋をMRIで観察する際の留意点画像診断で外眼筋の形態観察をする場合の留意点は以下のとおりである.1)外眼筋の周囲は眼窩脂肪組織であるため,両組織に良好なコントラストが必要となる.2)外眼筋は1cm3以下の小さい組織2)であるため,関心領域の十分な絞り込みが必要となる.3)各外眼筋の走行は異なるため,各筋に応じたスライス方向の設定が必要となる.以上のようなことを留意し,MRIによる眼窩画像診断を行わなければならない.(9)869*YasuhiroNishida:滋賀医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕西田保裕:〒520-2192大津市瀬田月輪町滋賀医科大学眼科学講座特集●物が二重に見えるあたらしい眼科27(7):869.874,2010複視の画像診断ImagingDiagnosisforDiplopia西田保裕*870あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(10)noise(S/N)比の低い粗い画像となる.体格なども考慮すると,眼窩ではFOV120mm前後が適切と考える.3.マトリックス数マトリックス数は画像を構成している画素の縦と横の数で表し,これも解像度を決定する要素の一つとなる.図4は左から右へとマトリックス数が,256×256,256×128,128×128と少なくなり,左の写真に比べ右の写真は解像度が低く,組織の辺縁が不鮮明である.いずれもFOVは120mmで,FOVをマトリックス数で割れば,マトリックスサイズが求められる.左写真ではマトリックス数が256×256のため1辺0.5mmの正方形あり,注意が必要である.2.撮像範囲撮像範囲は解像度を決定する要素の一つで,正方形の観察範囲の一辺の長さであるFieldofView(FOV)で表す.図3は左から,FOV100,120,200mmで撮像した写真である.時折,右のFOV200mmの写真のように頭蓋内検索のプロトコールで眼窩を撮像したのを見かけるが,これでは眼窩内の組織が小さく表現され,詳細が不良となる.このため,観察したい眼窩領域に応じたFOVにすべきである.ただし,非常に小さいFOVの設定は,マトリックス内の信号が低下するため,signal/図1スピンエコー画像左がT1強調画像,右がT2強調画像である.図3FOVの設定FOVは左から100,120,200mmである.図2甲状腺眼症のSTIR画像矢印の左下直筋の腫大とともに,著しく信号が亢進している.(11)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010871volumeeffectが生じ,外眼筋などの小さい組織の描出能が低下する.実際,軸位断で撮像すると1.5mmスライスでは水平筋が8枚のスライスに描出され,2.5mmスライスでは5枚に描出されるのに対し,5.0mmスライスではわずか3枚程度にしか外眼筋が描出されず,partialvolumeeffectにより外眼筋だけでなく視神経の描出能も低下する.一方,0.5mm,1.0mmのような薄切スライスでは,組織の信号強度の低下により,S/N比の低い粗い画像となる.しかも関心領域を多数のスライスでカバーしなければならず,撮像時間も長くなる.以上のことから,1.5.3.0mm程度のスライス厚を観察目的に応じて選択すればよい.マトリックス,右写真ではマトリックス数が128×128のため1辺1.0mmの正方形マトリックスとなる.眼窩内の観察には,1辺約0.5mm以下のマトリックスが必要である.ただし,マトリックス数の増加は撮像時間の延長につながるので,マトリックス数は256×256くらいが適切である.4.スライス厚スライス厚はZ軸方向の解像度を決定する要素となる.図5は左からスライス厚1.5mm,2.5mm,5.0mmのスライスである.スライスが厚くなるにつれ,小さい組織が他の大きい組織の信号に埋もれてしまうpartial図4マトリックス数の設定マトリックス数は左から256×256,256×128,128×128である.図5スライス厚の設定スライス厚は左から1.5,2.5,5.0mmである.872あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(12)図6の軸位断は,左写真のように水平筋である内直筋と外直筋の走行を観察するのに適切なスライスである.また,右写真のように上方のスライスでは上斜筋とその腱の観察も可能である.そして,軸位断の撮像の際には,左右の眼窩の高さが同じになるよう設定することが重要で,左右の外眼筋の比較が容易となる.図7の冠状断は,他のスライスよりも多くの情報が得られる必須スライスである.すなわち,左写真の眼窩前部では下斜筋が観察でき,右写真の球後部では他のすべての外眼筋が左右同時に観察できる.しかし,冠状断には,頭部に対する冠状断と,眼窩軸に対する冠状断がある.頭部に対する冠状断のほうが,1回の撮像で両側の眼窩組織が観察できることから一般的である.ただし,5.スライス方向スライス方向は観察したい外眼筋によって選択する必要があり,代表的なスライス方向として,軸位断,冠状断,矢状断がある.そして,撮像条件のなかでも,適切なスライスの選択は最も重要な要素である.図6軸位断左写真では水平筋が観察でき,上方スライスである右写真では矢印の上斜筋が観察できる.図7冠状断写真は頭部に対する冠状断である.左写真では矢印の下斜筋が観察でき,後方スライスである右写真では他の外眼筋が視神経とともに観察できる.図8矢状断写真は眼窩軸に平行な矢状断である.上眼瞼挙筋,上直筋,下直筋が視神経とともに観察できる.(13)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010873ある.2.外眼筋の腫大甲状腺眼症に代表される外眼筋の腫大症例では,画像診断が最も有力な検査となる6).図10は甲状腺眼症の症例で,左のスピンエコー画像で外眼筋の腫大が確認でき,STIR画像で炎症による信号の亢進が確認できる.このように,スピンエコー法とSTIR法を組み合わせることにより,甲状腺眼症では外眼筋の腫大程度と,その原因である炎症による浮腫の評価が可能となる.3.強度近視性内斜視強度近視性内斜視は眼位が内下斜視になるとともに,眼球運動が不良となり,いわゆる固定内斜視となる特殊な斜視である.以前は原因不明の難治性斜視とされていたが,最近Yokoyamaらが画像診断により原因を明らかにした7).図11は左片眼性の強度近視性内斜視のMRI画像である.写真上段の冠状断で,長眼軸の左眼球後部が上直筋と外直筋の間から筋円錐外に脱臼している.下段のさらに後方の冠状断では,左の上直筋は鼻側に,外直筋は下方に偏位しているのが明らかである.すなわち,長眼軸の眼球後部の脱臼とそれに伴う外眼筋の偏位がこの斜視の原因とされている7,8).正常である右眼と比較すると,左眼の異常は明らかである.本症例の手術治療としては,上外直筋縫着術(横山法)が有効である9).頭部に対する冠状断では内直筋,上斜筋が,ほぼ直角の断面となるため鮮明であるが,外直筋は約45°の断面となり他の筋より幅広く描出され輪郭も不鮮明となる.矢状断も眼窩軸に対する矢状断と,頭部に対する矢状断があるが,垂直筋の走行は眼窩軸に一致しているため,図8のような各眼窩軸に対する矢状断を選択すべきで,上直筋,上眼瞼挙筋,下直筋の観察に有用である.III代表症例1.外眼筋の萎縮図9は両側の完全外転神経麻痺に対し,筋移動術を行い眼位が正位となった症例である.両外直筋は明らかに萎縮しており,しかも筋の走行が耳側に大きく弛んでいるのが観察される.完全神経麻痺では筋萎縮が生じる例が多く,筋移動術の適応決定の際にも参考となる所見で図9両外転神経麻痺筋移動術で眼位は矯正されているが,両外直筋は萎縮し,耳側に弛んでいる.図10甲状腺眼症左がスピンエコー画像,右がSTIR画像である.スピンエコー画像で外眼筋の腫大が明瞭に観察でき,STIR画像で腫大筋の信号強度の亢進が観察できる.874あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(14)で,「眼窩画像診断」についての共通の知識が必要となる.そのためには,眼科医自らが足を運び,放射線科と十分にディスカッションを行い,各施設で適切なプロトコールを構築すべきである.本稿がその参考になれば幸いである.文献1)MillerJM:Functionalanatomyofnormalhumanrectusmuscles.VisionRes29:223-240,19892)NishidaY,AokiY,HayashiOetal:Volumemeasurementofhorizontalextraocularmuscleswithmagneticresonanceimaging.JpnJOphthalmol40:439-446,19963)西田保裕,井藤隆太,高橋雅士ほか:MRI,CTの適応と評価.臨眼52(増刊号):37-41,19984)山田泰生:眼窩の正常画像.眼科プラクティス5,これならわかる神経眼科(根木昭編),p112-116,文光堂,20055)西田保裕:MRIの撮像法.眼臨紀2:18-22,20096)木村亜紀子:甲状腺眼症の画像診断.眼臨紀2:33-38,20097)YokoyamaT,TabuchiH,AtakaSetal:Themechanismofdevelopmentinprogressiveesotropiawithhighmyopia.Transactionsofthe26thMeetingofEuropeanStrabismologicalAssociation(deFaberJTed),p218-221,Swets&Zeitlinger,Netherlands,20008)AokiY,NishidaY,HayashiOetal:MRImeasurementsofextraocularmusclepathshiftandposterioreyeballprolapsefromthemuscleconeinacquiredesotropiawithhighmyopia.AmJOphthalmol136:482-489,20039)YamaguchiM,YokoyamaT,ShirakiK:Surgicalprocedureforcorrectingglobedislocationinhighlymyopicstrabismus.AmJOphthalmol149:341-346,2010おわりに複視による眼位や眼球運動障害の原因が外眼筋である場合,そのための画像診断は眼科医が主体でなければならない.しかし,眼科医がMRIやCTを用いての画像診断を行う機会はまれで,具体的なオーダー法がわからないことが多い.一方,MRIやCTを運用している放射線科でも,眼窩の特殊性に必ずしも精通しているわけでなく,眼科医がどのような画像を必要としているかわからないという問題がある.このため,眼科と放射線科図11左強度近視性内斜視上段の写真では左眼球後部が上耳側方向に筋円錐から脱臼している.下段の後方スライスでは左上直筋が鼻側へ,左外直筋が下方へ偏位している.一方,右眼窩内には異常は認められない.