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ソフトコンタクトレンズ装用で生じた難治性点状表層角膜症の2症例

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(101)815《原著》あたらしい眼科27(6):815.820,2010cはじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用に起因する合併症のなかで点状表層角膜症(SPK)は最もよく遭遇するものの一つであり1),通常SCL装用の中止または人工涙液点眼によって治癒する2).しかしながら,SCL装用の中止や人工涙液点眼でも改善しないSPKも散見され,治療に難渋することがある.筆者らはこのようなSCL装用に伴う“難治性”SPKに対して,治療的SCLの装用と人工涙液点眼を行い治癒せしめた2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕(図1):22歳,女性.主訴:視力低下.既往歴:特記事項なし.〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:NorihikoYokoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANソフトコンタクトレンズ装用で生じた難治性点状表層角膜症の2症例松本慎司横井則彦川崎諭木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学TwoCasesofProlongedSuperficialPunctateKeratopathyResultingfromWearofSoftContactLensShinjiMatsumoto,NorihikoYokoi,SatoshiKawasakiandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の装用で生じた点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)は,通常SCL装用の中止や人工涙液の点眼によって治癒が得られるが,しばしばそれらの治療では治癒困難な症例が存在する.このようなSPKに対しSCLの治療的装用と人工涙液の頻回点眼を併用することでその完全な消失を得たので報告する.症例:症例1は28歳,女性.SCL装用で生じた慢性のSPKに対しSCL装用中止や涙点プラグの挿入などを試みるもSPKは改善しなかった.症例2は18歳,女性.SCL装用で生じた両眼の強いSPKに対しSCL装用中止や抗菌薬,低力価ステロイドおよび人工涙液の点眼を行うもSPKは遷延した.これらの難治性SPKに対しSCLの治療的装用と人工涙液頻回点眼を行ったところ,SPKの完全な消失を得ることができた.結論:SCLの合併症の一つである“難治性”SPKにはSCLの装用と人工涙液の頻回点眼の併用が効果的であると考えられる.Superficialpunctatekeratopathy(SPK)resultingfromthewearingofasoftcontactlens(SCL)isusuallysuccessfullytreatedbythefrequentinstillationofartificialtearsincombinationwithremovaloftheresponsibleSCL.WeexperiencedtwocasesofSPKthatwereunresponsivetothattypeoftraditionaltreatmentregimen.Case1wasa28-year-oldfemaleandCase2wasan18-year-oldfemale,bothsufferingfromSCL-inducedSPKthathadprolongedformorethanacoupleofmonths.DespitethefactthattheSPKinbothcaseswasinitiallycausedbytheSCLwear,reductionoftheSPKwasnotachievedthroughourprescribedtreatmentregimenofremovaloftheSCLscombinedwiththefrequentinstillationofartificialtears.Inbothcases,adifferenttreatmentregimeninvolvingtheuseoftherapeuticSCLscombinedwiththefrequentinstillationofartificialtearssuccessfullyresultedinthenearlycompleteeliminationoftheprolongedSPK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):815.820,2010〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,点状表層角膜症,人工涙液点眼.softcontactlens,superficialpunctatekeratopathy,artificialtears.816あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(102)現病歴:2年間のSCLの装用歴があり,近医にてSCL装用の中止とともに,SPKに対して人工涙液点眼とヒアルロン酸ナトリウム点眼で治療されていたが,SPKが改善しないため,平成16年3月26日当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.07(1.0p×sph.8.0D(cyl.0.50DAx180°),左眼0.07(0.8×sph.7.0D(cyl.2.0DAx180°)と比較的良好であった.前眼部所見としては,両眼にSPKを認め,右眼は角膜上皮障害のA(area:範囲)D(density:密度)分類にて3)A3D2,左眼はA3D2の状態であった(図2).涙液分泌については,SchirmerI法にて右眼は25mm,左眼は34mmと異常を認めなかった.両眼に軽度のマイボーム腺炎を認めた.経過:SCLについては装用中止の状態を継続し,マイボーム腺炎に対しクラリスロマイシン(クラリスR)内服視力低下角膜浸潤流涙充血羞明眼痛人工涙液レボフロキサシン点セフメノキシム点0.1%フルオロメトロン点オフロキサシン点クラリスロマイシン錠右眼涙点プラグ左眼涙点プラグH16/4/138/68/20H17/8/271/112/256/289/30H18/2/77/288/18H21/7/28A1D3A0D0SCL装用SCL装用人工涙液クラリスロマイシン錠7/1通院中断人工涙液左眼SPKA3D3A3D3A2D3A2D2A1D2A2D3A2D2A2D2A1D2A1D1A1D2A1D3A0D0右眼SPKA3D3A3D3A3D2A2D2A2D3A2D3A1D2A2D2A1D1A0D0A1D2(自然脱落)(自然脱落)図1症例1の治療経過図2症例1の初診時の前眼部所見左:右眼前眼部写真.マイボーム腺炎を認める.右:右眼フルオレセイン染色写真.点状表層角膜症(A3D3)を認める.(103)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010817(400mg)を,また水分補充のため1日7.10回の人工涙液(ソフトサンティアR)点眼を行った.しかし4カ月経過(平成16年8月20日)後にもSPKは改善せず,また左眼に角膜浸潤を認めたため,抗菌薬(クラビットRおよびベストロンR)点眼,低力価ステロイド(フルメトロン0.1R)点眼を追加した.1週間で角膜浸潤は治癒し,視力は右眼0.03(1.0×sph.9.5(cyl.1.0DAx10°),左眼0.04(1.2×sph.9.0)に改善したが,SPKの消失は得られなかった.その後両眼の上・下涙点に涙点プラグの挿入や,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼の投与などを試みたが,10カ月経過後にもSPKの消失には至らなかった.そこで平成17年7月1日より治療目的にて両眼にSCL(O2オプティクス)の連続装用を開始したところ,11日後には右眼のSPKは消失し,左眼のSPKの状態はA1D2へと劇的に改善し,7カ月後にはA1D1となった.その後SCLを他の種類(ワンデーアキュビューモイストR)に変更し,装用時間を1日5時間に短縮したが著明な悪化はみられなかった.平成18年7月28日より通院を自己中断し,SCL装用も自己判断で中止していたが,約1年4カ月後に眼痛と羞明にて来院し両眼のSPKの悪化が認められた.再度人工涙液点眼を処方し治療的SCL(プロクリ眼痛視力低下眼脂角膜浸潤充血羞明ガチフロキサシン点0.1%フルオロメトロン点人工涙液PHMB点セフメノキシム点ベタメタゾン錠H21/5/155/225/265/296/96/166/237/38/11SCL装用右眼SPKA3D2A3D2A3D2A3D2A3D2A3D1A2D2A3D2A0D0左眼SPKA3D3A3D2A3D2A3D3A3D2A3D2A3D1A3D2A0D0図4症例2の治療経過図3症例1のSCL装用治療前後の前眼部写真左:SCL装用治療前の右眼のフルオレセイン染色写真.A1D2の点状表層角膜症を認める.右:SCL装用治療後の右眼のフルオレセイン染色写真.点状表層角膜症は消失している.818あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(104)アワンデーR)の1日5時間装用を行ったところ,3週間後には両眼ともにSPKは消失した(図3).〔症例2〕(図4):18歳,女性.主訴:両眼の充血,羞明,疼痛および開瞼困難.既往歴:流行性角結膜炎,喘息.現病歴:2年間のSCLの装用歴があり,充血,羞明,SPKが著明であったため,平成21年4月13日よりSCL装用を中止していた.近医で抗アレルギー薬点眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼,人工涙液点眼を投与されていたが,症状は改善せず平成21年5月15日当院紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.3(矯正不能),左眼は0.2(矯正不能)であった.眼圧は右眼が15mmHg,左眼は測定不能であった.両上眼瞼結膜に乳頭増殖を認め,両角膜周辺部の10時から2時にかけて5個の小円形角膜浸潤を認めた.また,両眼ともに上方輪部は肥厚し,両眼中央部に強いSPKが認められた(図5).両眼の球結膜は充血し,白色の眼脂が認められ,また,涙液メニスカスの低下も認められた.偽樹枝状病変や放射状角膜神経炎は認めなかった.経過:角膜浸潤の原因として常在細菌による感染アレルギーを疑い,抗菌薬(ガチフロR)点眼,低力価ステロイド(フルメトロン0.1R)点眼,人工涙液(ソフトサンティアR)点眼,ステロイド内服(リンデロンR,1mg)を投与した.治療に対する反応が得られなかったため,アカントアメーバ角膜炎を疑い低力価ステロイド点眼を中止し,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)点眼と抗菌薬点眼に切り替えたが,角膜浸潤の改善は得られなかった.そこで再度上記治療に戻したところ,2週間後には眼痛,眼脂,充血,羞明,角膜浸潤は消失した.しかしながらSPKの消失は得られず,さらに人工涙液点眼の追加投与を行ったが,1カ月経過後にもSPKの消失は得られなかった.そこで,治療目的にてSCL(プロクリアワン図5症例2の初診時の前眼部写真左:右眼前眼部写真.角膜周辺部の10時から2時にかけて5個の小円形角膜浸潤,上方輪部の肥厚所見を認める.右:右眼フルオレセイン染色写真.中央部に強い点状表層角膜症(A3D2)を認める.図6症例2のSCL装用治療前後の前眼部写真左:SCL装用治療前の右眼のフルオレセイン染色写真.A3D2の点状表層角膜症を認める.右:SCL装用治療後の右眼のフルオレセイン染色写真.点状表層角膜症は消失している.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010819デーR)の1日5時間装用と人工涙液点眼,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼を投与したところ,1カ月後には両眼ともに点状表層角膜症の完全消失が得られた(図6).なお,症例2では症例1で涙点プラグの効果が得られなかった経験から涙点プラグの挿入を行わなかった.II考按症例1ではSCL装用を中止し,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼の投与により比較的速やかに眼表面の消炎が得られたが,SPKは消失せず,さらに人工涙液点眼の投与や涙点プラグの挿入を行ったにもかかわらず約10カ月間SPKが遷延した.また,治療的SCL装用によりSPKが改善した後にも,SCL装用を自己中断したためにSPKが再燃したことから,むしろSCLを装用しているほうが眼表面の健全な状態を保つことができていたのではないかと考えられる.症例2でもSCL装用の中止に加え,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼,ステロイド内服の投与によって眼表面の消炎が得られたが,SPKは消失せず,さらに人工涙液点眼を追加した後にも約1カ月間SPKが遷延した.SCL装用で生じるこのような“難治性”SPKについてはこれまで報告はなく,その発症メカニズムと治療について確立したものはない.眼表面の知覚神経である三叉神経が障害されると神経麻痺性角膜症を生じることは広く知られている4).角膜知覚が低下すると瞬目回数が減少し5),反射性に分泌される涙液量も低下する6).また角膜上皮細胞の分裂,分化,伸展に促進的に働いているサブスタンスPやIGF-1(インスリン様成長因子-1)3)などの三叉神経由来の栄養物質の量が低下することが知られており7),これら3つの理由から角膜上皮障害が遷延するものと考えられている.SCL長期装用者においては角膜上皮下の神経線維密度低下8)ならびに角膜知覚低下が報告されており9),三叉神経麻痺と類似のメカニズムでSPKが遷延しやすい状況にあるのかもしれない.実際,症例1では涙点プラグの挿入により十分に眼表面に涙液が満たされていたにもかかわらずSPKが遷延したことから,少なくともこの症例については涙液不足がSPKの遷延化の主原因とは考えにくく,上記の三叉神経に関連した要素などが強く関与していた可能性が推察される.今回筆者らの経験した2症例ではSCL装用が遷延化したSPKの治療に有効であった.SCL装用で生じたSPKに対しSCLを装用することは一見矛盾しており,一般的には勧められない治療と考える向きもある.しかし,SCL装用には涙液の眼表面への保持と眼瞼の機械的刺激からの保護,角膜上皮の脱落抑制ならびに角膜上皮の接着促進などの治療的メリットが認められ10),デメリットを最小化することができれば治療効果を得られる可能性がある.SCL装用に伴うデメリットとしては,酸素不足,ドライアイの悪化,SCL自体の機械的刺激ならびにレンズ表面への汚れの蓄積による角膜障害などがあげられ,これらを最小化するにはSCLの選択が重要であると考えられる.治療的SCLとして広く使用されているプラノB4Rは酸素透過性が低いためあまり勧められず,酸素透過性の高いものが望ましい.また,ドライアイの悪化については人工涙液の頻回点眼である程度緩和できる可能性が高い.今回症例1では,酸素透過性が非常に高く連続装用可能なシリコーンハイドロゲルレンズ(O2オプティクス)を使用した.その後,酸素透過性が高く,保湿効果が高い1日使い捨てSCLのワンデーアキュビューモイストRに変更したが,こちらでも十分な治療効果が得られた.症例2では1日使い捨てでかつ,材質に濡れ性の良い保水成分MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)を含むとされるプロクリアワンデーRを使用し,SPKの治癒が得られた.レンズ表面の特に脂質についての汚れという観点からは,ワンデーアキュビューモイストRやプロクリアワンデーRのほうが他のタイプのSCLよりも優れていると考えられる.一方でSCLの取り扱いに不安のある患者の場合は,連続装用可能なシリコーンハイドロゲルレンズが適していると思われる.SCL自体による機械的刺激に対しては,装用方法の指導を徹底的に行うとともにフィッティングを最適化することが重要である.また,レンズ表面の汚れの蓄積は治療効果も減弱させる可能性が高いため,1日使い捨てタイプのSCLを必ず毎日交換するように指導する必要がある.以上のようにSCL装用によるデメリットを最小化し,メリットを最大化することで今回SPKの消失が得られたのではないかと推察される.今回筆者らはSCL装用中止,人工涙液点眼や涙点プラグでも治癒しない難治性のSPKを経験した.これまで治療的SCLの装用の適応疾患とされているものには,遷延性上皮欠損,再発性角膜上皮びらん,水疱性角膜症,角膜上皮形成術後,角膜熱傷・化学外傷後,神経麻痺性角膜炎,上輪部角結膜炎などがある11.13).今回,SCLの装用を中止ならびに人工点眼による点眼治療や涙点プラグの挿入に抵抗する難治性SPKを経験し,その存在を報告するとともに,このようなSCL装用で生じる難治性SPKにもSCLの治療的使用が効果的である可能性を本報告で示唆した.今回の治療方法が真に妥当で,有用であるかどうかは,今回の2症例のみで断定はできない.その治療メカニズムの詳細な解明も含め,今後多症例での検討が必要と考えられる.文献1)HamanoH,WatanabeK,HamanoTetal:Astudyofthecomplicationsinducedbyconventionalanddisposablecontactlenses.CLAOJ20:103-108,19942)WatanabeK,HamanoH:Thetypicalpatternofsuper820あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(106)ficialpunctatekeratopathyinwearersofextendedweardisposablecontactlenses.CLAOJ23:134-137,19973)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20034)PushkerN,DadaT,VajpayeeRBetal:Neurotrophickeratopathy.CLAOJ27:100-107,20015)CollinsM,SeetoR,CampbellLetal:Blinkingandcornealsensitivity.ActaOphthalmol(Copenh)67:525-531,19896)XuKP,YagiY,TsubotaK:Decreaseincornealsensitivityandchangeintearfunctionindryeye.Cornea15:235-239,19967)MullerLJ,MarfurtCF,KruseFetal:Cornealnerves:structure,contentsandfunction.ExpEyeRes76:521-542,20038)LiuQ,McDermottAM,MillerWL:Elevatednervegrowthfactorindryeyeassociatedwithestablishedcontactlenswear.EyeContactLens35:232-237,20099)PatelSV,McLarenJW,HodgeDOetal:Confocalmicroscopyinvivoincorneasoflong-termcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci43:995-1003,200210)Coral-GhanemC,GhanemVC,GhanemRC:TherapeuticcontactlensesandtheadvantagesofhighDkmaterials.ArqBrasOftalmol71:19-22,200811)AquavellaJV:Newaspectsofcontactlensesinophthalmology.AdvOphthalmol32:2-34,197612)McDermottML,ChandlerJW:Therapeuticusesofcontactlenses.SurvOphthalmol33:381-394,198913)MondinoBJ,ZaidmanGW,SalamonSW:Useofpressurepatchingandsoftcontactlensesinsuperiorlimbickeratoconjunctivitis.ArchOphthalmol100:1932-1934,1982***

難治性とされたフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の要因

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)809《第46回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科27(6):809.813,2010cはじめにフリクテン性角結膜炎は細菌蛋白に対するIV型アレルギー反応によって角膜や球結膜に生じる結節性隆起性病変とされている1).カタル性角膜潰瘍は眼局所の細菌によって合成される菌体外毒素に対して周辺部角膜実質で生じるIII型アレルギー反応が関与するとされている2).両者は病態や臨床所見に違いはあるものの,いずれもマイボーム腺など眼局所に存在する細菌に対する免疫反応が原因と考えられている.〔別刷請求先〕窪野裕久:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1国立病院機構東京医療センター眼科Reprintrequests:HirohisaKubono,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2-5-1Higashigaoka,Meguro-ku,Tokyo152-8902,JAPAN難治性とされたフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の要因窪野裕久水野嘉信重安千花山田昌和国立病院機構東京医療センター眼科ClinicalFactorsAssociatedwithRefractoryPhlyctenularKeratoconjunctivitisandCatarrhalCornealUlcerHirohisaKubono,YoshinobuMizuno,ChikaShigeyasuandMasakazuYamadaDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenterフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍はマイボーム腺に存在する細菌に対する免疫反応により生じるとされているが,その主要な原因であるブドウ球菌は薬剤耐性菌の増加が懸念されている.今回,難治性として他院から紹介されたフリクテン性角結膜炎8例,カタル性角膜潰瘍3例の計11例を対象とし,前医での診断や治療内容,当院での臨床所見や細菌学的検査結果,治療内容とその効果についてretrospectiveに検討した.前医ではニューキノロン(NQ)点眼とステロイド点眼薬が併用されていたのは2例のみであり,感染性角膜炎や角膜ヘルペスとして治療されていた症例が5例みられた.結膜.の細菌培養では表皮ブドウ球菌6株,黄色ブドウ球菌1株が検出され,このうちNQ低感受性株が4株あった.当院での治療はクロラムフェニコール点眼薬とステロイド点眼薬に変更し,全例で軽快あるいは治癒した.フリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍が難治性とされる場合,診断や治療が不十分である例も少なくなかったが,NQ耐性菌が関与する例もみられ,適切な診断を行うとともに適切な抗菌薬を使用することが必要と考えられた.Immunologicresponsesagainstbacteria-mainlyStaphylococci-thatresideinmeibomianglandsarethoughttobeinvolvedinthepathogenesisofphlyctenularkeratoconjunctivitis(PKC)andcatarrhalcornealulcers(CCU).TheissueofemergingdrugresistanceinStaphylococci,however,mightbeaconcernintreatingthesediseases.Includedinthisstudywere11cases,comprising8casesofPKCand3casesofCCU,thathadbeenreferredtoourinstitutebecauseofprimarytreatmentfailure.MedicalrecordsofthesecaseswereretrospectivelyreviewedtoanalyzetheclinicalfactorsassociatedwithrefractoryPKCandCCU;5caseshadbeentreatedasinfectiouskeratitisandherpetickeratitis.Antibacterialeyedropsandsteroidaleyedropshadnotbeenusedconcurrentlyin9cases.Microbiologicalexaminationsisolated6strainsofStaphylococcusepidermidisand1strainofStaphylococcusaureus.Ofthese,4strainsshowedreducedsusceptibilitiestonewquinolones(NQ).All11casesrespondedwelltoconcurrenttopicaladministrationofchloramphenicolandsteroids.Inappropriatediagnosis,insufficienttreatmentregimenandthepresenceofdrug-resistantStaphylococciarethoughttobeclinicalfactorsthatmakePKCandCCUrefractory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):809.813,2010〕Keywords:フリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍,ニューキノロン,クロラムフェニコール,薬剤耐性.phlyctenularkeratoconjunctivitis,catarrhalcornealulcer,newquinolone,chloramphenicol,drugresistance.810あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(96)その主要原因とされるブドウ球菌では抗菌薬の普及や乱用に伴い,薬剤耐性菌の増加が懸念されている.国立病院機構東京医療センター(以下,当院)では内眼手術の術前患者の結膜.常在菌検査を継続的に行っているが,結膜.分離菌のニューキノロン(NQ)耐性率が経年的に増加していることを報告してきた3,4).今回筆者らは,難治性として紹介受診となったフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の細菌培養結果,薬剤感受性,臨床経過について検討し,前医での治療に抵抗性を示した要因について検討したので報告する.I対象および方法2004年から2008年の間に,難治性として他院から当院に紹介されたフリクテン性角結膜炎またはカタル性角膜潰瘍11例を対象とした.前医での診断,治療内容,当院での臨床所見や細菌学的検査結果,治療内容とその効果について診療録から調査し,前医での治療に抵抗性を示した要因について検討した.II結果対象とした11例の年齢は11.89歳,平均56.5±24.1歳であり,性別は男性1例,女性10例であった.対象のうち8例がフリクテン性角結膜炎(角膜フリクテン4例,結膜フリクテン4例),3例がカタル性角膜潰瘍であった.全11症例の当院での診断,性別,年齢,前医での診断,前医での治療内容,治療期間をまとめて表1に示す.当院でカタル性角膜潰瘍と診断した3例(症例1.3)は,前医ではいずれも感染性角膜炎として抗菌薬による治療が行われており,ステロイド薬の点眼が用いられていた症例はなかった.また,当院で角膜フリクテンと診断した4例のうち,前医で角膜フリクテンと診断されていたのは1例(症例4)のみで,2例(症例5,6)は角膜ヘルペスとして治療を受けていた.結膜フリクテンの4例中2例は前医でも結膜フリクテンと診断され,1例は瞼裂斑炎,残る1例は上強膜炎と診断されていた.前医での治療期間は7日から6カ月,平均36.5±56.0日であったが,疾患別ではカタル性角膜潰瘍で14.7±6.5日,角膜フリクテンで65.3±92.3日,結膜フリクテンで24.0±11.3日となり,カタル性角膜潰瘍では早期に紹介受診されていた.治療内容に関しては,さまざまな点眼薬や眼軟膏が表2細菌培養の結果と薬剤感受性試験の結果当院の診断と症例番号細菌培養結果MPIPC感受性LVFX感受性CCU1S.epidermidis(MRSE)RR2S.aureusSS3陰性──PK4S.epidermidis(MRSE)RR5S.epidermidisSS6陰性──7S.epidermidisSSPC8S.epidermidisSI9S.epidermidisSI10陰性──11陰性──S.epidermidis:Staphylococcusepidermidis,S.aureus:Staphylococcusaureus,MRSE:メチシリン耐性表皮ブドウ球菌,MPIPC:オキサシリン,LVFX:レボフロキサシン,S:Susceptible,R:Resistant,I:Intermediate.判定基準:MPIPC感受性(S≦2,2<I<4,R≧4;μg/ml),LVFX感受性(S≦1,1<I<4,R≧4;μg/ml).表1症例の概要─当院での診断,性別と年齢,前医での診断と治療内容を示す─当院の診断と症例番号性別年齢(歳)前医での診断前医での治療内容CCU1女性69角膜炎LVFX,CMX,OFLX,NSAIDs2女性76角膜潰瘍CMX3女性89角膜潰瘍LVFXPK4女性11PKLVFX5男性35角膜ヘルペス不明(ヘルペス治療)6女性78角膜ヘルペスLVFX,ACV7女性76角膜炎ステロイド薬PC8女性58瞼裂斑炎ステロイド薬,NSAIDs9女性58PCLVFX,ステロイド薬10女性27上強膜炎ステロイド薬11女性57PCLVFX,ステロイド薬CCU:カタル性角膜潰瘍,PK:角膜フリクテン,PC:結膜フリクテン,LVFX:0.5%レボフロキサシン点眼液,CMX:0.5%セフメノキシム点眼液,OFLX:0.3%オフロキサシン眼軟膏,NSAIDs:非ステロイド系抗炎症薬点眼,ACV:3%アシクロビル眼軟膏.(97)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010811用いられていたが,抗菌薬とステロイド薬の点眼を併用していた例は結膜フリクテンの2例(症例9,11)のみであった.当院で行った眼瞼縁の細菌培養結果,オキサシリン(MPIPC),レボフロキサシン(LVFX)薬剤感受性試験結果について表2に示す.細菌培養検査では,表皮ブドウ球菌6株,黄色ブドウ球菌1株が検出され,4例は細菌培養で陰性であった.表皮ブドウ球菌6株中,MPIPC耐性のメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)が2株あり,LVFX感受性についてはresistantが2株,intermediateが2株とNQ低感受性株が4株あった.当院での治療は全例でクロラムフェニコール(CP)点眼薬とステロイド点眼薬を併用した.CP点眼薬としては0.25%CPと10万単位/mlコリスチンメタンスルホン酸ナトリウムの合剤(コリマイCR点眼液,科研製薬,東京)を用い,ステロイド点眼薬は0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR点眼液0.1%,参天製薬,大阪)もしくは0.1%リン酸ベタメタゾン(リンデロンR点眼液0.1%,シオノギ製薬,大阪)を用いた.全例が治療に反応し,平均36.5±56.0日(7日から6カ月22日)で軽快または治癒となった.CP点眼薬とステロイド点眼薬の併用治療が奏効した代表的な症例を以下に示す.症例1は69歳,女性.当院初診時には前房細胞は認めず左眼11時の角膜周辺部に白色円形の実質浸潤がみられた(図1a).前医では感染性角膜炎として抗菌薬点眼を主体とした治療がなされていたが,角膜所見とマイボーム腺炎を合併していることからカタル性角膜潰瘍と診断した.当院では,抗菌薬をCP点眼薬に変更し,0.1%フルオロメトロン点眼薬と併用した.細菌培養結果ではMRSEが検出され,LVFXも耐性であった.点眼変更後は病変は速やかに改善し,2週間後には実質浸潤病変は消失した(図1b).症例9は58歳,女性.当院初診時には右眼耳側球結膜に充血を伴う結節性病変がみられ,結膜フリクテンと診断した(図2a).前医でも結膜フリクテンの診断がなされていたが,4カ月にわたりさまざまな点眼治療が行われ,最終的には0.5%LVFX点眼薬と0.1%リン酸ベタメタゾン点眼薬が処方されていた.当院では,抗菌薬をCP点眼薬に変更し,0.1%リン酸ベタメタゾンと併用した.細菌培養結果では表皮ブドウ球菌が検出され,LVFX低感受性であった.点眼変更ab図1カタル性角膜潰瘍(表1中の症例1)a:当院初診時.11時の角膜周辺部に白色円形の実質浸潤がみられる.b:治療開始2週間後.病変は速やかに改善し,角膜浸潤病変は消失している.ab図2結膜フリクテン(表1中の症例9)a:当院初診時.耳側球結膜に充血を伴った結節性病巣がみられる.b:治療開始2週間後.病変は改善し,若干の結膜充血を残すのみとなった.812あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(98)後2週間には長期にわたっていた結膜フリクテンが改善し,若干の結膜充血を残すのみとなった(図2b).III考按難治性として他院から紹介されたフリクテン性角結膜炎またはカタル性角膜潰瘍11例について検討した.フリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の治療は,過剰な免疫反応を抑制することと病態に関係する細菌の量を減少させることが基本であり1),当院では抗菌薬とステロイド薬の点眼の併用を基本としている.両疾患ともに自然治癒傾向を示す場合があり,抗菌薬単独またはステロイド薬単独で治癒や鎮静化する例もみられるのは事実であるが,病態を考慮すると速やかな治癒を促すためには抗菌薬とステロイド薬の併用が望ましいと考えている.今回の症例は難治性として紹介されているが,角膜フリクテンとカタル性潰瘍では,感染性角膜炎や角膜ヘルペスの診断で治療されていた症例も少なくなかった.これらの疾患とカタル性潰瘍,角膜フリクテンとの鑑別は必ずしも容易ではなく,重篤な疾患を念頭に置いて治療を行うことは間違いではないと考えられる.しかし,治療に反応しない場合には,診断や治療法の見直しを行うことが重要と考えられた.フリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の発症に関与する細菌としては,表皮ブドウ球菌が主要なものとされているが,若年女性に生じるフリクテン性角結膜炎ではPropionibacteriumacnesがおもに関与するという報告もある5).今回の症例では細菌培養で検出された7株すべてがブドウ球菌で,このうち表皮ブドウ球菌は6株と主要なものであることが確認された.ただし,今回の症例は中高年の女性が多くを占めていること,当院では嫌気培養をルーチンに行っていないのでPropionibacteriumacnesを検出できないことから,Propionibacteriumacnesの関与については検討の余地があるものと思われる.抗菌薬として眼科領域ではNQ点眼薬が頻用されており,眼表面の常在細菌のNQ耐性化が問題となっている6.8).NQ耐性化にはさまざまな機序が提唱されているが,その主要なものは細菌のDNA合成酵素であるDNAgyraseとtopoisomeraseIVのキノロン耐性決定領域(quinoloneresistancedeterminingregion:QRDR)の遺伝子変異である.黄色ブドウ球菌についてはIiharaらが,コリネバクテリウムについてはEguchiらがQRDR領域の遺伝子変異とNQ感受性の関係について報告している6,7).筆者らも最近,内眼手術術前患者の結膜.から分離された表皮ブドウ球菌138株のQRDR領域の遺伝子変異と各種NQ感受性について検討した.その結果,表皮ブドウ球菌138株のうち70株,50.7%にQRDR領域の変異を認め,DNAgyraseとtopoisomeraseの両方に変異を有する株は53株38.4%であり,QRDR領域の変異とNQ感受性が強く相関することを示した8).今回の症例でも検出された表皮ブドウ球菌6株中4株がLVFX低感受性であり,NQ耐性菌の広がりを示すものと考えられる.このような背景から,今回のように難治性として紹介されたフリクテン性角膜炎,カタル性角膜潰瘍の治療には,当院では点眼抗菌薬としてNQではなく,CPを使用している.これはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌やMRSEによる前眼部感染症にはCP点眼薬が有用というFukudaら9)や大.10)の報告に基づくものである.当院ではCPの薬剤感受性検査は行うことができないために,今回の検出菌のCP感受性は不明であるが,臨床経過からはすべての症例でCPとステロイド薬の併用が有効であった.薬剤感受性試験の結果から検出菌はLVFX感受性であり,臨床経過からみるとCPというよりステロイド薬を加えたことで奏効したと考えられる症例もあるが,症例9と11の2例は前医での治療でNQ薬とステロイド薬を併用しているにもかかわらず治療抵抗性であった症例で,CPが奏効したと確実に考えられる症例である.このことは,フリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の治療上,NQよりもCPが優れているということを示すわけではない.ただし,NQによる治療が奏効しない場合にはNQ耐性菌の存在を考慮して,CPなど他の抗菌薬を用いてみることが重要と考えられた.なお,CPがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌,メチシリン耐性表皮ブドウ球菌を含めたブドウ球菌に有効であるのは,抗菌薬として内服薬としても点眼薬としても使用頻度がきわめて少ないためであり,頻用されれば急速に薬剤耐性化が進むことが予測される.したがって,当院ではフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の初期治療の第一選択はNQ点眼薬とステロイド点眼薬の併用としており,これが奏効しない場合のみCPを用いるように努めている.今回の検討から,フリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍が難治性とされる場合,診断や治療が不十分であったことが治療抵抗性と判断された要因の一つであったが,NQ耐性菌の増加も重要な要因であると考えられた.このことを踏まえ,抗菌薬の適切な使用には今後も十分注意していく必要があり,漫然とした抗菌薬使用は慎み,適切な抗菌薬の使用を心がけるべきであると考えられた.文献1)RezaMM,LamS:Phlyctenularkeratoconjunctivitisandmarginalstaphylococcalkeratitis.Cornea2ndedition,p1235-1240,ElsevierInc,USA,20052)MondinoBJ,KowalskiR,RatajczakHVetal:Rabbitmodelofphlyctenulosisandcatarrhalinfiltrates.ArchOphthalmol99:891-895,1981(99)あたらしい眼科Vol.27,No.6,20108133)KurokawaN,HayashiK,KonishiMetal:IncreasingofloxacinresistanceofbacterialflorafromconjunctivalsacofpreoperativeophthalmicpatientsinJapan.JpnJOphthalmol46:586-589,20024)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,20055)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20056)IiharaH,SuzukiT,KawamuraYetal:Emergingmultiplemutationsandhigh-levelfluoroquinoloneresistanceinmethicillin-resistantStaphylococcusaureusisolatedfromocularinfections.DiagnMicrobiolInfectDis56:297-303,20067)EguchiH,KuwaharaT,MiyamotoTetal:High-levelfluoroquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,20088)YamadaM,YoshidaJ,HatouSetal:MutationsinthequinoloneresistancedeterminingregioninStaphylococcusepidermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithsusceptibilitytovariousfluoroquinolones.BrJOphthalmol92:848-851,20089)FukudaM,OhashiH,MatsumotoCetal:MethicillinresistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantcoagulase-negativeStaphylococcusocularsurfaceinfectionefficacyofchloramphenicoleyedrops.Cornea21:S86-89,200210)大.秀行:高齢者のMRSA結膜炎80例の臨床的検討.眼科43:403-406,2001***

細菌性角膜炎からアカントアメーバ角膜炎に移行したと考えられる1例

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(91)805《第46回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科27(6):805.808,2010cはじめにアカントアメーバは淡水や土壌に広く分布する原生動物であり,アカントアメーバがひき起こす角膜炎は1974年に英国1),1975年に米国2)において相ついで報告され,わが国では1988年に石橋ら3)によって初めて報告された.本来は外傷に伴い,非常にまれに認められる疾患であったが,近年コンタクトレンズ(CL)装用者の重症角膜感染症として広く認められるようになり,特にここ数年わが国ではmultipur-〔別刷請求先〕大谷史江:〒683-8504米子市西町86鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:FumieOtani,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FactoryofMedicine,TottoriUniversity,86Nishimachi,Yonago683-8504,JAPAN細菌性角膜炎からアカントアメーバ角膜炎に移行したと考えられる1例大谷史江*1宮.大*1池田欣史*1矢倉慶子*1井上幸次*1八木田健司*2大山奈美*3*1鳥取大学医学部視覚病態学*2国立感染症研究所寄生動物部*3倉敷中央病院眼科ACaseofAcanthamoebaKeratitisfollowingBacterialKeratitisFumieOtani1),DaiMiyazaki1),KeikoYakura1),YoshitsuguInoue1),KenjiYagita2)andNamiOyama3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FactoryofMedicine,TottoriUniversity,2)ParasitismZoology,InstituteforNationalInfectiousDisease,3)DivisionofOphthalmology,KurashikiCentralHospital症例は35歳,男性で,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズを使用していた.左眼痛と視力低下に対し,近医眼科で抗菌薬,抗ウイルス薬を処方されたが軽快しないので鳥取大学眼科を紹介受診した.角膜中央に小円形の浸潤巣を認め,アカントアメーバ角膜炎と特定できる所見を認めず,まず細菌性角膜炎を疑い治療を開始したが,角膜擦過物のファンギフローラYR染色でアカントアメーバcystを検出したため,アカントアメーバ角膜炎と診断し治療を変更した.角膜擦過物のreal-timePCR(polymerasechainreaction)でもアメーバDNAが検出され,後にアカントアメーバが分離培養された.抗真菌薬の点眼および内服,クロルヘキシジン点眼ならびに病巣掻爬にて病巣は軽快したが,治癒過程では病巣の中央が陥凹した.これはアカントアメーバ角膜炎の瘢痕期には通常認めず,細菌性角膜炎における瘢痕期の所見に一致すると考えられた.細菌感染がアカントアメーバ感染の温床となるといわれているが,本症例は角膜上でそれが生じていることを示唆する症例と考えられた.Thepatient,a35-year-oldmalewhowasa2-weektypefrequent-replacementsoftcontactlensuser,complainedofpainanddecreasedvisualacuityinhislefteye.Sincetopicalantibacterialandantiviraladministrationhadresultedinnotherapeuticresponse,hewasreferredtoTottoriUniversityHospital.Initially,bacterialkeratitiswassuspectedbecauseofthepresenceofsmall,roundinfiltratesinthecenterofthecorneaandnocharacteristicfindingsofacanthamoebakeratitis.Thediagnosis,however,wassubsequentlychangedtoacanthamoebakeratitis,sinceacanthamoebacystsweredetectedfromtheFungifloraYRstainingofcornealscrapings.Later,acanthamoebaDNAwasdetectedbyreal-timepolymerasechainreactionofthecornealscrapings,andacanthamoebawasisolatedbyculturing.Thelesionimprovedfollowingtheadministrationoftopicalandoralantifungals,topicalchlorhexidineandepithelialdebridement.Theresultantscarformedadent,whichischaracteristicofbacterialkeratitis,butnotofacanthamoebakeratitis.Thefindingsinthiscaseindicatethatbacterialinfectioncanbeabaseforacanthamoebainfectionofthecornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):805.808,2010〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,細菌性角膜炎,ファンギフローラYR染色.acanthamoebakeratitis,bacterialkeratitis,FungifloraYRstainig.806あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(92)posesolution(MPS)を使用した頻回交換CLの使用者での発症が急激に増加している4).石橋ら3,5)は,その臨床経過を初期,移行期,完成期の3期に分類し,病期による臨床像の違いを明確にした.一方,塩田ら6)もアカントアメーバ角膜炎の病期分類を行っており,臨床経過を1.初期,2.成長期,3.完成期,4a.消退期,4b.穿孔期,5.瘢痕期と5つに分類している.これは石橋ら3,5)の分類に末期像を追加した分類となっている.アカントアメーバ角膜炎の初期の臨床所見は非常に多彩で,特徴的な所見がみられないと的確な診断をするのは困難であると思われる.今回筆者らは細菌性角膜炎の所見を呈した病巣から早期にアカントアメーバを検出し,治療し得た症例を経験したので報告する.I症例患者:35歳,男性.主訴:左眼痛,視力低下現病歴:2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズを使用していた.2週間で交換するものを,期限を超えて3週間程度装用することが多かった.洗浄保存にはMPSを使用していたが,こすり洗いはほとんど行っていなかった.平成20年9月8日より左眼痛と視力低下を自覚し,9月11日に近医受診し,左眼角膜炎の診断でレボフロキサシン点眼,プラノプラフェン点眼,ヒアルロン酸点眼を処方された.9月22日には羞明と眼痛が悪化したため倉敷中央病院眼科へ紹介された.左眼に角膜混濁を認め,レボフロキサシン点眼継続にて経過をみられるも,軽快しなかった.9月24日よりヘルペス感染を疑い,アシクロビル眼軟膏を追加された.9月29日には混濁部に潰瘍を生じ,前房内に炎症細胞が出現した.アシクロビル眼軟膏は中止し,10月1日にアカントアメーバ感染疑いにて鳥取大学眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.1(1.2×sph.7.0D),左眼0.3(0.6×sph.6.5D)であった.左眼結膜にはほぼ全周に強い毛様充血を認めた.角膜は全体に軽度の浮腫があり,瞳孔領9時の位置に辺縁不明瞭な白色浸潤を認め,混濁の周辺から角膜中央にかけて淡いびまん性の表層混濁を呈していた(図1).下方に強い輪部浮腫を伴っていたが,放射状角膜神経炎は認めなかった.角膜後面には多数の微細な角膜後面沈着物を認め,前房内には軽度の炎症細胞を認めた.経過:白い円形の浸潤巣より,レボフロキサシン耐性菌による細菌感染を最も疑い,入院のうえ,モキシフロキサシン,ミクロノマイシンの頻回点眼,オフロキサシン眼軟膏,セファゾリン点滴を開始した.また,病巣の擦過を行い,細菌・真菌培養へ提出するとともにグラム染色,ファンギフローラ図1初診時の前眼部写真瞳孔領9時の位置に辺縁不明瞭な白色混濁を認め,混濁の周辺から角膜中央にかけてびまん性の表層混濁を呈していた.図2入院翌日のフルオレセイン染色写真9時の浸潤はやや拡大し,耳下側に向かって上皮の淡い混濁と不整が出現した.図3治癒期の前眼部写真病巣は全体に淡くなるとともに,中央が陥凹してきた.(93)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010807YR染色を行いreal-timePCR(polymerasechainreaction)でHSV(herpessimplexvirus)とVZV(varicella-zostervirus)のスクリーニングを行った.入院翌日,初診時の角膜擦過物の検鏡を行ったところ,グラム染色ではグラム陽性球菌を検出した.ファンギフローラYR染色ではアメーバcystと考えられる像が認められた.HSV,VZVのDNAは陰性であった.細菌に対する治療開始後,微細な角膜後面沈着物は著明に減少したが,毛様充血は依然強く,下方の輪部浮腫はむしろ増強していた.9時の浸潤はやや拡大し,病巣から耳下側へ向かって上皮の淡い混濁と不整が出現した(図2).そこでアカントアメーバに対する治療に変更し,0.05%クロルヘキシジン液と0.2%フルコナゾールの頻回点眼,イトラコナゾールの内服,週2回の病巣掻爬を開始した.抗菌薬の使用はモキシフロキサシン点眼とオフロキサシン眼軟膏のみとした.また,再度確認のため混濁部の擦過を行い,real-timePCRにてアカントアメーバDNAの検索を行い,国立感染症研究所へアメーバの分離培養を依頼した.その結果,real-timePCRでは6.5×103コピーのアカントアメーバDNAが検出され,培養検査でも後にアカントアメーバが分離培養された.細菌,真菌培養は最終的に陰性であった.治療変更後,充血,輪部浮腫は徐々に軽快した.9時の病巣は全体に淡くなるとともに,中央が陥凹し,細菌性角膜炎における瘢痕期と矛盾しない所見を呈してきた(図3).10月21日(治療変更後18日目)には毛様充血,輪部浮腫も大きく改善した.混濁はさらに淡くなり,この日の混濁部の角膜擦過物のPCRからはアメーバDNAは検出されなかった.10月24日の擦過でもアメーバDNAは検出されず,2回連続で陰性となったため,10月30日に当科退院となった.退院時視力は矯正0.7であった.退院後は紹介もとの倉敷中央病院にて通院加療中であり,発症約3カ月後の平成20年12月受診時の矯正視力は1.2と良好であった.II考按アカントアメーバは広く土壌や淡水などに分布し,周囲の環境に応じて栄養型(trophozoite)と.子型(cyst)に変化するという特徴をもつ.栄養型は周囲の環境が好条件のときにみられ,細菌などの蛋白源を捕食し,増殖していく..子型は周囲の環境が悪化したときにみられ,堅固なセルロース様構造をした二重壁に囲まれており,薬剤に抵抗性を示す7).アカントアメーバ角膜炎は外傷やCL装用に伴う角膜障害からアカントアメーバが角膜内に侵入増殖して発症するといわれている.Jonesら2)の予備実験では,動物モデルを使って傷害角膜にアカントアメーバを感染させても,単独ではなかなか感染が成立せず,アカントアメーバと細菌を同時に接種すると感染が成立するとしている.アカントアメーバ属の大半は他の細菌類を捕食して増殖することがよく知られているが,本症の患者のレンズケースからはアカントアメーバと同時に高頻度に細菌が分離培養されており8),レンズケース内でのアカントアメーバの増殖に細菌が関与し,さらには本症発症に関連していると推測される.アカントアメーバ角膜炎の初期病変は非常に多彩で,上皮型角膜ヘルペスによく似た偽樹枝状病変,放射状角膜神経炎,点状・線状・斑状の角膜上皮下混濁,角膜輪部の充血および浮腫,強い結膜毛様充血,前房内の炎症細胞の出現などが特徴であるといわれている5).本症例においては,初診時から強い毛様充血と角膜輪部浮腫を認めていたが,アカントアメーバに特徴的とされる偽樹枝状病変,放射状角膜神経炎,斑状上皮下混濁は認めなかった.一方,本症例では初診時より白い小円形の表層浸潤巣を呈しており,治癒過程においては浸潤巣の中央が陥凹してきた.これらの所見は細菌性角膜炎を示唆するものであり,特に瘢痕期に平坦化や陥凹を示すことはアカントアメーバではあまりなく,形状変化が少ないことがアカントアメーバ角膜炎の一つの特徴であるといわれている.本症例では,誤ったCL使用法により角膜上皮が障害を受け,そこにケース内で増殖した細菌とアメーバが付着し,まず増殖しやすい細菌が増え,細菌性角膜炎を起こしたと推測された.この時点で抗菌薬が投与され細菌は死滅し,この死滅した細菌を捕食してアメーバが増殖して,アカントアメーバ角膜炎を続発してきたと思われた.細菌感染がアカントアメーバ感染の温床となるといわれているが,本症例は角膜上でそれが生じていることを示唆する症例であると考えられた.アカントアメーバ角膜炎の確定診断には病変部にアカントアメーバの寄生を証明する必要があり,角膜の病巣部から得られた擦過標本もしくは生検材料を用いて直接検鏡,分離培養でアメーバの検出を行う必要がある.しかしながら,病巣擦過物の直接検鏡はサンプルの採取に技術を要し病初期には検出されにくく,分離培養においては検出までに時間を要し,量的に少ないとうまく検出できないという欠点がある.現在ではconfocalmicroscopy,HRA(HeidelbergRetinaAngiograph)cornealmoduleやPCRによる補助診断の併用も早期診断に有用であると報告されている.PCRにより培養検査でアカントアメーバが検出できなかった症例に対し,アカントアメーバ角膜炎の診断が可能であったとの報告9,10),培養検査よりPCRのほうがアカントアメーバの検出感度が高いとの報告11)がなされている.本症例では病巣擦過物のreal-timePCRを行い,初診時の診断の一助としただけでなく,入院中は治療効果判定の指標としてもPCRを利用した.PCRは検体が微量でも検出可能であり,短時間で結果が得られることから,早期診断,早期治療が望まれるアカントアメーバ角膜炎において非常に有808あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(94)用な検査であると考えられた.文献1)NagingtonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfectionoftheeye.Lancet28:1537-1540,19742)JonesDB,VisvesvaraGS,RobinsonNMetal:AcanthamoebapolyphagakeratitisandAcanthamoebauveitisassociatedwithfatalmeningoencephalitis.TransOphthalmolSocUK95:221-232,19753)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoebakeratitisの一例─臨床像,病原体検査法および治療についての検討.日眼会誌92:963-972,19884)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実体と疫学.日本の眼科80:693-698,20095)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の診断と治療.眼科33:1355-1361,19916)塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼48:1149-1154,19947)山浦常,中川尚,木全奈都子:アカントアメーバ.大橋裕一,望月學編,眼微生物事典,p260-267,メジカルビュー社,19968)JonesDB:Acanthamoeba─Theultimateopportunist?AmJOphthalmol102:527-530,19869)ZamfirO,YeraH,BourcierTetal:DiagnosisofAcanthamoebaspp.keratitiswithPCR.JFrOphtalmol29:1034-1040,200610)並木美夏,増田洋一郎,浦島容子ほか:Polymerasechainreaction法で診断されたアカントアメーバ角膜炎の1例.臨眼57:777-780,200311)OrdanJ,SteveM,NigelMetal:PolymerasechainreactionanalysisofcornealepithelialandtearsamplesinthediagnosisofAcanthamoebakeratitis.InvestOphthalmolVisSci39:1261-1265,1998***

眼研究こぼれ話 6.角膜の透明度研究 生物,物理に2学説

2010年6月30日 水曜日

(85)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010799角膜の透明度研究生物,物理に2学説角膜がどうして透明なのか,その理由を解明しようと,たくさんの人々が研究をつづけている.私の恩師コーガン教授は,約25年前,非常に簡単な事実を発見した.それは,角膜には水分を排出する能力があり,正常の状態では許容量の約20分の1の水しか含まれていないというのである.角膜を眼球から取り出して,水につけると,20倍にふくれ上がり,不透明になる.角膜の前面にある上皮細胞層にポンプ作用があり,実質中の水は排出されて涙と共に空気中に蒸発してしまうのである.同時に後面の細胞層も水を取り入れたり,排出したりする両方のポンプ作用をもっていることを証明した.大きな牛の角膜をガラス管の一端にかぶせるようにしてしばりつけ,管内外の水の移動の様子をいろいろと調べるのである.コーガン研究室の連中は毎日屠(と)殺場から届くたくさんの牛の目玉でこの実験を進めていた.非常に簡単な装置で,すこしずつの思いつきが実験の各所にほどこされ,見るからにほほえましい風景であった.その後,この説は広く認められることとなり,たくさんの研究者により,近代的な種々の精巧な器具でコーガン教授の4分の1世紀前の説を実証している.最近では,細胞のポンプ作用を,分子のレベルまで計測されるようになっている.ポンプ作用の強さをめぐって,角膜の前半分と,後ろ半分とで学者が2派に分かれて,鎬(しのぎ)を削りあっているのも面白い.もう一つ,たくさんの人々によって支持されている説は純物理学的な理論で,スタンフォード大学のモーリス博士の提唱しているものである.モーリス君はきれいな髭(ひげ)をたくわえた先生で,先年,大阪の芸者さんから,「エッチね」と言われた英雄でもある.角膜を詳しく見ると,膠(こう)原という線維からできている.この膠原線維は,直径が300オングストローム(1万分の3ミリ)で,同じ300オングストロームの間隔をもって規則正しく並んでいる.このような規則正しい構造は,可視光線が,その波長に障害を与えないで通過するのに,全く都合がよくできていることを,数学的に証明して,これこそ,角膜の透明な理由だと,発表した.なるほど,不透明な病的角膜では,膠原線維の分布が著明に不規則になっている.面白い考えではあるが,これで角膜の透明であることを全面的に解釈するのは,無理であると言われている.ところが,マサチューセッツ工科大学のベネディクト教授はこの問題に飛びついた.難しい数学を,増々難しくして,角膜が,全く透明であると言い切った.角膜は創生期から透明に決まっている.私たち生物学者にとって,すこし心配なのは,彼の数学的思考の根本をしている構造的所見が,技術の改善0910-1810/10/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑥.▲電子顕微鏡で見た角膜の一部.約5万倍.輪切りと縦断になって見える膠原線維.同じ大きさの線維がほぼ規則正しく配列されている.800あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010眼研究こぼれ話(86)とともに変わって来ることである.また,ベネディクト教授は同じ理論を,構造が根本的に異なるレンズの透明度にも応用しているのは,不可解である.一方,私たちの研究室では,膠原線維の間に,粘液質物質が存在して,両者の光の屈折度を平等にして,組織を透明にしていることを証明した.前述したコーガン教授の排水作用は,この粘液質の濃度を調整して,光の屈折度を丁度よく保つのが直接の目的のようである.次から次と,雪だるまのように新しい知識と解釈を重ねて行くうちに,神秘の扉(とびら)に近づくような気がする.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

インターネットの眼科応用 17.クラウドコンピューティングと医療1

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107970910-1810/10/\100/頁/JCOPYThinClientという考え方インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.インターネットを用いて,情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.私は,インターネットのさまざまな医療での応用事例を紹介してきました.インターネットの特徴を表現すると,「繋ぐ」「共有する」という言葉に集約されると考えています.近年,クラウドコンピューティングという言葉をしばしば耳にするようになりました.これは,インターネットを通じて,アプリケーションソフトを「共有する」という仕組みです.2006年8月9日,GoogleのCEOであるエリック・シュミット氏が,米国カリフォルニア州サンノゼ市で開催された「検索エンジン戦略会議」(SearchEngineStrategiesConference)のなかで「クラウドコンピューティング」と表現したことが最初とされます.「クラウド」は「雲」を意味し,インターネットを表現するのに「雲の形」にたとえることに由来しています1).従来は,パッケージで購入したワープロや表計算などのアプリケーションソフトを自分のパソコンにインストールして利用していましたが,クラウドコンピューティングは,これらをすべてインターネットに接続して利用する仕組みです.どんなアプリケーションソフトも含みます.医療に関係する専門ソフトの例をあげますと,医事会計ソフト,予約システム,画像管理システム,電子カルテなどが臨床の現場で使われていますが,これらすべての医療ソフトもクラウドコンピューティングによって,購入せずに利用することが,理論上は可能です.クラウドコンピューティングは,「ThinClient」という考え方から歴史的に捉えることができます.コンピュータの利用形態は,徐々に,集中処理から分散処理へと進歩しました.「ThinClient」とは,利用者が使う端末(Client)の機能をできるだけ簡略化(Thin)する,という考え方です.歴史的にみると,コンピュータの利用形態は以下のように進歩しました.クラウドコンピューティングはその最新の形態です.1.メインフレーム全盛期の集中処理2.クライアントとサーバーを分けて,サーバーにデータを集約させる分散処理3.インターネットを用いた,ネットワーク中心の処理形態4.世界中のユーザーがサービスを受ける,クラウドコンピューティング前述した,医療関連のソフトの多くは,第2段階の分散システムであり,医療のIT化が遅れていると,指摘されても仕方ありません.クラウドコンピューティングの世界では,インターネット上に用意されたアプリケーションソフトを利用しますので,パソコンには,ディスプレイ画面とキーボードとネット接続ツールだけで十分です.タッチパネルの出現で,キーボードすら必要のない時代になり,さらにThinClientは加速していくと予想されます.クラウドコンピューティングの展望と課題今号では,クラウドコンピューティングの光と影のうち,「光」の部分にスポットを当てて紹介したいと思います.クラウドコンピューティングの世界では,ユーザーはデータセンターを所有せず,データセンターが提供しているサービスを利用することができるようになります.データセンターは,インターネットを通じて膨大な数のユーザーによって共有されていることになります.これにより,ユーザーはデータセンターのもつ性能を低コストで利用できます.「アプリケーションソフトの所有からレンタルへ」と(83)インターネットの眼科応用第17章クラウドコンピューティングと医療①武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑰798あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010いうことが,クラウドコンピューティングの本質です.従来のソフトは,常に,何か変更する場合は,追加費用が発生していましたが,クラウドコンピューティングが普及した環境では,事業者がどんどん最新の技術に更新するため,追加費用なく最新の技術を利用できます.今後,インターネットは,電力や上下水道,公共交通機関,金融システムなどと同様に,社会基盤の一つになるといわれており,ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏はインターネットにアクセスする権利(情報アクセス権)を,自由権,参政権,社会権に並ぶ基本的人権の一つである,と述べています2).また,孫氏は,「光の道構想」のなかで,国費を投入することなく国内の全世帯のメタル回線を光ファイバーに置き換え,電子教科書や電子カルテを無料で提供できることをアピールしています3,4).医療の現場に電子化を求める動きはこれからも強くなるでしょう.電子化によって,医療が効率化する可能性は否定しませんが,現在のように病院側に個別に情報システムを構築させるやり方では,病院側の負担は大きく,しかもシステムの陳腐化が早く,国内のシステムの標準化すらできていません.これは,社会的にみると,大きな無駄遣いといわざるをえません.システム会社ばかりが収益を上げる現在の仕組みは,医療費の削減に繋がらず,体力のない医療機関を排除する選別方法にしかなりません.厚生労働省は医療情報のクラウドコンピューティングサービス(以下,医療クラウドと表現します)を開発しないのでしょうか?この社会システムが整備されれば,医療機関は医療事務ソフトなど,さまざまなアプリケーションを導入する必要はなく,システムの維持や更新に悩むこともなく,電子カルテ化をすぐにでも実現できます.利用料は無料同然に安く設定すれば普及も早まるでしょう.医療システムのクラウド化は,医療者にとって良いことばかりのようにもみえますが,当然,クリアすべき問題も抱えています.医療クラウドの課題については,次号以降で紹介します.ThinClientの応用事例①私が有志とともに運営する,医師限定のインターネット会議室「MVC-online」も,ThinClientの潮流のうえにあります5)(図1).MVC-onlineは,SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)というシステムを医療者向けに使いやすくカスタマイズしています.SNSは,ソフトをパソコンにダウンロードすることなく,アクセ(84)スした人がサイト内で情報を共有し発信できます.SecondLifeとよばれる仮想空間の交流サイトが登場した際,SNSの次世代ツールとよばれました.が,こちらは普及しませんでした.SecondLifeは,独自のソフトをパソコンにダウンロードする必要があり,パソコンの仕様によっては作動しません.ThinClientの流れに逆行するサービスは時代に残らないと考えます.逆に,Twitterとよばれるミニブログは,その簡便性と,時間を共有できる,という2つの特徴をもち,芸能・政治の分野で用いられるなど,その存在を確立させました.インターネットの進化の方向性に合致しているものは世の中に普及します.ThinClientの応用事例②インターネットを通じて電子カルテを利用できるサービスは,セコム医療システム株式会社が提供する,「セコム・ユビキタス電子カルテ」が代表的です.医療のインターネット化を推進するならば,ThinClientというコンセプトは重要です.この電子カルテは先駆的な試みですので,その普及には注目しています.電子カルテは購入して所有する時代ではなく,レンタルする時代になるでしょう.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B02)http://www.ustream.tv/recorded/68802773)http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100514_367092.html4)http://d.hatena.ne.jp/skymouse/20100517/12740597405)http://mvc-online.jp図1MVC.onlineのトップページ

硝子体手術のワンポイントアドバイス 85.糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成される網膜格子状変性関連の医原性裂孔(初級編)

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107950910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに網膜格子状変性巣は日本人の5.7%に存在するとされており,近視眼に多い傾向がある.一方,硝子体手術の対象となる増殖糖尿病網膜症(PDR)の大半の症例は正視眼あるいは軽度の近視眼であることが多く,網膜格子状変性巣の存在する頻度は少ないと考えられる.PDRの硝子体手術中に形成される医原性裂孔は,大半が増殖膜や異常な網膜硝子体癒着の処理時に形成されるが,まれに網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔を形成することがある(図1).●網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔の発生率と症例の特徴筆者らの過去の報告では,PDR連続症例287眼のうち,5例7眼(2.4%)に硝子体手術中に網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔が生じた1).裂孔形成部位は上耳側が4眼,下耳側が2眼,上鼻側が1眼で,上耳側に多かった.これは,一般的な網膜格子状変性巣の存在部位とほぼ一致していた.屈折は正視眼4眼,近視眼3眼であった.この7眼には以下のような特徴があった.1)線維血管性増殖膜は眼底後極部に限局していた.2)増殖膜の周辺側は全周にわたって後部硝子体.離が生じていた.3)いずれも後部硝子体.離を周辺部に拡大する際に医原性裂孔が生じた.●硝子体手術時の注意点このように,PDRの硝子体手術でも,網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔の危険性を常に念頭に置きながら,周辺部の硝子体切除を施行する必要がある.今回の症例は増殖膜が後極部に限局しており,その周辺部は後部硝子体.離が生じているので,PDRとしては比較的硝子体手術が容易な症例である.このような症例では(81)ついつい周辺部の硝子体処理の際に注意力が散漫になってしまうことがあるので,強膜圧迫やワイドビューイングシステムなどを利用して,周辺部の状態を詳細にチェックし,裂孔を認めた場合には確実に眼内光凝固(網膜.離を併発したときはガスタンポナーデも)を施行しておく必要がある(図2).また,1眼に網膜格子状変性巣を有する症例では,他眼にも同様の象限に変性が存在することが多いので,その点も念頭において手術を施行する必要がある.文献1)澤浩,池田恒彦,小室青ほか:糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成された網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔.臨眼52:191-195,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載85糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成される網膜格子状変性関連の医原性裂孔(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔強膜圧迫を併用した周辺部硝子体処理時に網膜格子状変性巣辺縁に医原性裂孔を確認した.図2網膜格子状変性巣周囲に対する眼内光凝固ライトガイドをコンタクトレンズの上から照らし,強膜圧迫を行いながら網膜格子状変性巣周囲に眼内光凝固を施行している.

眼科医のための先端医療 114.加齢黄班変性の新たな治療戦略に向けて

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107910910-1810/10/\100/頁/JCOPY加齢黄斑変性病巣組織からみえること加齢黄斑変性は,高齢者の黄斑部に生じる疾患です.滲出型と非滲出型に分類され,滲出型では新生血管が感覚網膜下あるいは網膜色素上皮下に発生し,急激な視力低下や中心暗点,変視を自覚します.加齢黄斑変性の分子メカニズムは,完全に解明されてはいませんが,遺伝子変異,酸化ストレス,喫煙などの因子が相互に影響し合いながら発症,進展していくと考えられています.ヒト加齢黄斑変性病巣(脈絡膜新生血管)を摘出し,組織観察を行うと,血管内皮増殖因子(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF),マクロファージの集積がみられます(図1)1).現在の加齢黄斑変性治療の中心を抗VEGF療法が担っていることを考えると,つぎの治療戦略のターゲットがマクロファージになる可能性は十分にあると思われます.マクロファージは何をしているのか?マクロファージの加齢黄斑変性の病態への関与は,1990年代から提唱されています.しかしながら,なぜ脈絡膜新生血管にマクロファージが集積するかということは不明でした.他疾患を見渡すと,加齢黄斑変性と同様に加齢とともに発症が増加し,病巣にマクロファージが集積する疾患に動脈硬化があります.動脈硬化のマクロファージは,酸化脂質(酸化LDL)を貪食していることがわかっています2).では,加齢黄斑変性病巣のマク(77)◆シリーズ第114回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊鈴木三保子瓶井資弘(大阪大学大学院医学系研究科眼科学)加齢黄斑変性の新たな治療戦略に向けてmacrophage図1加齢黄斑変性患者の摘出脈絡膜新生血管マクロファージの集積がみられる(赤:マクロファージ).図2加齢黄斑変性患者の摘出脈絡膜新生血管左:マクロファージに酸化リン脂質を認識するscavengerreceptorが発現〔緑:マクロファージ(CD68),赤:scavengerreceptor(LOX-1)〕.右:酸化リン脂質が存在する(矢頭)(赤:酸化リン脂質).CD68LOX-1…………792あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010ロファージは,何をしているのか?筆者らは,加齢黄斑変性病巣に集積しているマクロファージには,酸化リン脂質を認識するscavengerreceptorが発現していて,かつ,酸化リン脂質が加齢黄斑変性病巣に存在していることを確認しました(図2)3).それでは,酸化リン脂質はどこからきているのか?という疑問がでてきます.筆者らは米国のドナーバンクの正常ヒト眼を用いて実験を行い,ヒト網膜において酸化リン脂質はおもに視細胞外節に存在し,それは加齢とともに増加すること,正常眼と加齢黄斑変性眼を比較すると,同年齢にもかかわらず,加齢黄斑変性眼の視細胞外節にはより多くの酸化リン脂質が含まれるという結果を得ました(図3)4).この結果から以下の流れが推測されます.ヒト網膜において,リン脂質が最も多く含まれる部位は,畳積した細胞膜構造をもつ視細胞外節であり,そこに何らかの酸化ストレスが加わり,酸化リン脂質になることが予想されます.加齢黄斑変性病巣のマクロファージは,この酸化リン脂質をターゲットにしている可能性があると考えられるのです.加齢黄斑変性の新たな治療戦略に向けて―抗炎症薬と抗酸化薬の可能性―現在の加齢黄斑変性に対する治療法としては,おもに抗VEGF療法,光線力学的療法があげられますが,残念ながら複数回の治療を要するなど課題が多いのが現状です.今回紹介した筆者らの研究は,慢性炎症につながる可能性のあるマクロファージが治療のターゲットとなる可能性を示唆したものとなります.そして,そのマクロファージが酸化リン脂質という酸化物質を標的としているということは,この酸化リン脂質の生成を阻止することも新たな治療戦略として考えられるということになります.今後,抗炎症薬,抗酸化薬という切り口から新しいアプローチが期待されます.文献1)GrossniklausHE,LingJX,WallaceTMetal:Macrophageandretinalpigmentepitheliumexpressionofangiogeniccytokinesinchoroidalneovascularization.MolecularVision8:119-126,20022)BochkovVN,PhilippovaM,OskolkovaOetal:Oxidizedphospholipidsstimulateangiogenesisviaautocrinemechanisms,implicatinganovelroleforlipidoxidationintheevolutionofatheroscleroticlesions.CircRes99:900-908,20063)KameiM,YonedaK,KumeNetal:Scavengerreceptorsforoxidizedlipoproteininage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci48:1801-1807,20074)Suzuki,M,KameiM,ItabeHetal:Oxidizedphospholipidsinthemaculaincreasewithageandineyeswithagerelatedmaculardegeneration.MolecularVision13:772-778,2007(78)POSPOS図3正常眼(左:75歳)と加齢黄斑変性眼(右:70歳)の視細胞外節加齢黄斑変性眼には酸化リン脂質(赤)が多く存在する.■「加齢黄斑変性の新たな治療戦略に向けて」を読んで■今回は大阪大学眼科の鈴木三保子先生,瓶井資弘先生による加齢黄斑変性の病態についての研究のご紹介です.加齢黄斑変性は,その臨床所見と診断・治療戦略は,画像診断の研究を推進してきた多くの日本人研究者が世界をリードしています.黄斑下血管新生の分子(79)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010793病態の全体像はまだ解明されていませんが,病態の基礎研究においても,病理組織学的な研究,疾患モデルを用いての分子病理学的な研究,そして遺伝子レベルでのリスク因子の解明と病態の研究など,わが国の多くのトップ研究者はこの分野の研究で世界的な業績をあげて病態解明に大きな貢献をしています.治療として血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を抑制することにより加齢黄斑変性に治療効果がみられることから,黄斑下血管新生の分子病態に重要な働きをしている因子の一つとしてVEGFが確認されています.しかし,黄斑下に血管新生をひき起こすほどVEGFの作用が過剰になるのはなぜか?まだ明確な答えはありません.炎症のメカニズムが加齢黄斑変性に関連している可能性が考えられますが,細胞生物学レベルでマクロファージの関与,そのマクロファージが酸化リン脂質という酸化物質を標的として活性化されていることなどが瓶井資弘先生の研究グループにより明らかにされつつあります.本来,血管のない網膜の下,網膜色素上皮の上のスペースに血管新生をひき起こすにはいくつものステップの病的な状態が積み重なること,それが長期にわたるゆっくりとした変化として起こることが臨床的にみられる加齢黄斑変性ですが,この考えでみれば不思議な病態を説明するためには複雑な生命現象の解明が必要になりそうです.関与する細胞を同定し,その機能異常,その関与する炎症や創傷治癒といった大きな流れを明らかにしていくことは,このような複雑な病態を解きほぐすのに本当に有効と考えられます.鈴木先生,瓶井先生が本総説のなかで述べておられるように,病態の解明は新しい発想での治療薬の開発につながります.臨床に導入された上記の抗VEGF薬は有効ではありますが,現時点では完璧な治療法ではありません.なによりも血管新生を抑制し病態の進展抑制の効果はありますが,発症の予防(一次予防),軽症例の進展の予防(二次予防)には適応できません.これからの高度高齢化社会を目前にし,ますます加齢黄斑変性患者数が激増することが予想される現在,血管新生をひき起こす前段階としての病態の解明,それに伴う予防薬,治療薬の開発には大きな期待がかかっています.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 196.瞬目解析

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107890910-1810/10/\100/頁/JCOPYIVSは画像の取得から,画像処理,信号出力までを1msec単位で行うことが可能である.本装置では232×232画素を8bitで部分読み出しすることにより1msecのサンプリング時間での50秒間計測を実現している.BlinkTracerは,録画動画,上眼瞼の縦位置と移動速度の時間変化,各瞬目の諸情報で構成されており,各情報は再生時刻で同期されている.上眼瞼位置は画像の輝度情報から算出しており,水平方向への射影輝度総和の最大値と最小値から適宜決定している.上眼瞼新しい治療と検査シリーズ(75).バックグラウンド瞬目には,反射性瞬目,随意性瞬目,自発性瞬目の3つがある.反射性瞬目とは異物が目に入らないように防御したり,急な物音や光などによって驚いたときに反射性に生じる瞬目であり,随意性瞬目とは意識的に閉じたり,検者の合図に合わせて閉じる瞬目である.自発性瞬目は上記2種類の瞬目のように瞬目をひき起こす外的要因が特定できないにもかかわらず生じる瞬目であり,最も多い瞬目である.近年,自発性瞬目が視覚情報処理や認知過程,さらには被検者の心理状態,疲労度などと深いかかわりをもつことが明らかになってきた1,2).しかし,これまでの瞬目計測は,侵襲的であったり,非侵襲的であっても計測速度に制約があり100.200mm秒程度で生じる瞬目を正確に計測することが困難であった..新しい検査法今回紹介する新しい瞬目検査は,1kHzの計測性能をもつインテリジェントビジョンシステム(IVS)を搭載した瞬目高速解析装置を用いて行う3).装置の構成概略を図1に示す.瞬目高速解析装置は,視標部,照明部,IVS,XYZ軸稼動台,パソコン,計測ソフト,瞬目高速解析ソフト(BlinkTracer)から構成されている.196.瞬目解析プレゼンテーション:木村直子渡辺彰英京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学コメント:三村治兵庫医科大学眼科学教室…………………………………………………………図2瞬目高速解析装置外観IVSカメラを搭載した計測ユニットとデータ処理用パソコンから成る.被検者は顎台に顔を乗せるだけでよく,非侵襲的に計測できる.図1瞬目高速解析装置の概略IVSカメラは画像の取得から画像処理,信号出力までを1msec単位で行う.790あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010の移動速度は上眼瞼の縦位置の1次微分で算出され,瞬目を構成する上眼瞼下降相と上眼瞼上昇相における瞼の動きをそれぞれ独立した閉瞼瞬目と開瞼瞬目として算出する.上眼瞼の速さが10mm/secを上回っている区間を瞬目区間とし,その区間を瞬目時間,その区間中の最大速度をその瞬目の最大速度,その区間の上眼瞼の移動量を瞬目の深さとして抽出している.上眼瞼の速度の符号が正ならば開瞼時の瞬目情報とし,負ならば閉瞼時の瞬目情報とした.算出した瞬目特徴量は一覧表として画面およびファイルに出力できる..使用法装置の外観を図2に示す.被検者には図2のように顎台に顔を乗せ,装置内に見える緑色LED(発光ダイオード)光を指標として自然にみつめるよう指示をする.測定時間は任意に決めることができ,1回の測定当たり最長50秒まで測定できる.撮影画像は「再生」,「巻き戻し」,「コマ送り」が可能で各瞬目における上眼瞼の動きを詳細に観察することができる.さらに,測定で得られた画像からBlinkTracerを用いて,瞬目最大速度,所要時間,上眼瞼移動量,閉瞼期間などを算出することができる..本方法の良い点本装置には,測定に特別な環境を必要としない,測定時間が短い,年齢を問わず測定可能などの利点があるが,何よりも非侵襲的であることは,自発性瞬目を測定するうえで重要であると考えられる.また,1kHzと高精度に瞬目情報を取得できることで,今までは捉えられなかった上眼瞼の不規則な動きや不完全な瞬目についても検討することが可能となった4).文献1)浅田博,水谷充良,山口雅彦ほか:自発性瞬目における後頭皮質視覚活動の脳磁図による解析.神眼20:49-55,20032)CaffierPP,ErdmannU,UllspergerP:Thespontaneouseye-blinkassleepinessindicatorinpatientswithobstructivesleepapnoeasyndrome─apilotstudy.SleepMed6:155-162,20043)鈴木一隆,豊田晴義:インテリジェントビジョンシステム(IVS)を用いた高速・高精度眼球運動計測装置の開発と評価.映情学誌61:1774-1778,20074)中村芳子,松田淳平,鈴木一隆ほか:瞬目高速解析装置を用いた自発性瞬目の測定.日眼会誌112:1059-1067,2008(76)マの画像を記録し,さらに自動解析できるソフトを備えたものである.おそらくそのデータはメガやギガのレベルではなく,テラの情報量であろう.著者らのドライアイやVDT症候群,眼精疲労などでの瞬目異常の判定だけでなく,眼瞼けいれんや眼筋無力症などの神経眼科疾患を扱っている私たちにとっても興味津々の器械である.願わくば,廉価版の装置が市販され,多くの施設でVDT症候群,眼精疲労,眼瞼けいれんなどに簡単に利用できることを望みたい.これまで眼球運動の解析に比べて,眼瞼運動(瞬目)の解析は非常に遅れていた.これは眼球運動を角膜反射や網膜の常存電位,さらには磁場や画像を利用して,EOG(眼球電図)や光電素子法,強膜サーチコイル,ビデオなど多種類の方法で記録できるのに対して,眼瞼運動は肉眼的観察やせいぜい毎秒30コマのビデオ撮影しかなかったためである.しかし,そのようななかでも眼瞼けいれんの瞬目異常の報告がみられている.今回の瞬目解析はさらに詳細な毎秒1,000コ■本方法に対するコメント■☆☆☆

緑内障:緑内障と視神経先天異常の鑑別

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107870910-1810/10/\100/頁/JCOPY●上方視神経部分低形成と緑内障視神経の先天異常のなかで,古典的な視神経低形成(opticnervehypoplasia)は,小児の視力障害の原因疾患の一つとして,明らかな小乳頭と高度な視力・視野障害で診断される.本症は,視神経乳頭所見が緑内障とは明らかな差異があり,緑内障と鑑別に迷うことはない.その一方で,上方視神経部分低形成(superiorsegmentalopticnervehypoplasia:SSOH)が,緑内障の鑑別疾患として最近注目されている.SSOHは,視神経乳頭の形態がさまざまで,小乳頭や乳頭上部低形成(toplessdisc)だけでなく,著明な視神経乳頭陥凹拡大を示すものがある.わが国では正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の有病率の高さから,乳頭陥凹と視野異常の検出が日常診療や検診で重要となったが,その結果としてこれまであまり注目されなかったSSOHも発見される機会が多くなり,NTGとの鑑別が問題になる場面も多くなった.●視神経低形成と乳頭低形成まず,視神経低形成(opticnervehypoplasia)と,乳頭低形成(opticdischypoplasia)は異なる疾患単位であることを明確にする必要がある.すなわち,前者は視神経軸索が生来欠落し,その部が視野検査で視野欠損として検出される,いわば「先天視野欠損」である.一方,後者は検眼鏡的に乳頭の形成不全(小乳頭など)として観察される.両者は合併することも,単独で起こることもある.さらに,「上方視神経部分低形成(SSOH)」と「乳頭上部低形成toplessdisc」とは異なる疾患単位であることも明確にしておきたい.前者は上部の視神経軸索が生来欠落しているが,視神経・黄斑線維に異常がないために視力は良好であり,下方視野欠損として検出される.それに対して後者は乳頭の発生異常であり,眼底検査から乳頭面の上部が部分的に形成不全にみえる.両者は合併することも単独で起こることもある.●SSOHSSOHでは,実際には検眼鏡的視神経乳頭所見はさまざまであり,小乳頭のことも,偽乳頭浮腫のことも,乳頭陥凹拡大を伴うことも,網膜血管入口部が偏位することもある.つぎに,SSOHでは,乳頭の周囲に橙色のリングが認められることが多く,二重リングに見えることから,「ダブルリングサイン(doubleringsign)」と名づけられている(図1).このリングの外周は,強膜と乳頭篩状板との境であり,内周すなわち,乳頭部との境まで網膜・色素上皮が存在することが病理で示されている.このdoubleringsignは,SSOHではおおむね視野(73)●連載120緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也120.緑内障と視神経先天異常の鑑別阿部春樹高木峰夫新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)上方視神経部分低形成(SSOH)では,乳頭鼻上側のrimの菲薄化と網膜神経線維層欠損(NFLD),そしてダブルリングサインを認め,視野は耳下側周辺からMariotte盲点に向かう楔状視野欠損を認めることが多い.緑内障では耳上(下)側のrim菲薄化とNFLDを認め,これに対応する鼻下(上)側に視野変化を認める点が,臨床的な鑑別点である.やはりDoubleringsignNFLD図1上方視神経部分低形成の眼底写真とGoldmann視野(左眼)上鼻側rimの菲薄化,上鼻側のNFLD(橙色の矢印)そしてdoubleringsign(黄色の破線矢印)を認める.788あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010欠損に対応する方向に部分的に認められる.SSOHを疑う眼底所見としては,視神経乳頭の上鼻側rimの菲薄化と上鼻側の網膜神経線維層欠損(retinalnervefiberlayerdefect:NFLD)そしてdoubleringsignの存在である(図2).また,SSOHを疑う視野所見としては,下方から盲点へ向かう楔状視野欠損の存在である(図3).当科で経験した下方楔状視野欠損を呈した41例47眼(32±16歳)の,視神経乳頭所見と網膜神経線維層所見を図4に示す.一番頻度の多い所見は,鼻上側のNFLDで,100%に認められた.二番目に多い所見は,doubleringsignで66.0%,三番目が鼻上側のrim菲薄化で42.6%,ついで網膜血管入口部の上方偏位が31.9%,耳側コーヌス21.3%,小乳頭19.1%,乳頭傾斜9.0%,偽乳頭浮腫8.0%,乳頭上部蒼白2.1%であった(図4).●SSOHと緑内障の鑑別SSOHは小乳頭やtoplessdiscだけでなく,乳頭陥凹が著明なものがある.わが国ではNTGの有病率の高さから,乳頭陥凹と視野異常の検出が,日常の眼科診療や検診で重要となったが,その結果,これまであまり注目されなかったSSOHも発見される機会が多くなり,(74)NTGとの鑑別が問題になる場面も多くなった.両者の鑑別のポイントは,緑内障では初期には耳上側あるいは耳下側のrimの菲薄化・NFLDを呈するのとは対照的に,SSOHの乳頭所見は,乳頭鼻上側方向のrimの菲薄化とNFLDを呈する傾向がある.さらに乳頭鼻上側に不完全なdoubleringsignを認めることが多い.視野もSSOHでは耳下側周辺からMariotte盲点に向かう楔状視野欠損が特徴的であるが,緑内障では鼻下(上)側に視野変化を認め,horizontalsplitに伴う鼻側階段を認める.ただし,臨床所見のみで先天性の視野欠損であると断定するには,10年程度の長期の経過観察のうえで,視野の悪化進行がみられないことを確認する必要がある.●マネージメントについてSSOHは先天性の視野欠損であり,非進行性と考えられる.しかし,まれにSSOHと緑内障の合併例がある.SSOHに緑内障を合併すると,元来視神経線維の数が少ないことから重症化のリスクが懸念される.したがって,失明の恐怖を与えないように気をつけながら,長期にわたる経過観察が必要である.文献1)高木峰夫,阿部春樹:視神経部分低形成の概念.神経眼科24:379-388,20072)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20043)TakagiM,AbeH,HataseTetal:Superiorsegmentalopticnervehypoplasiainyouth.JpnJOphthalmol52:468-474,2008..①視神経乳頭上鼻側のNFLDDoubleringsign上鼻側rimの菲薄化……②視野….盲点へ向かう楔状視野欠損盲点と接するが軽症では非連続的……020406080100小乳頭入口部上方偏位Doubleringsign乳頭上部蒼白鼻上側rim菲薄化鼻上側NFLD乳頭傾斜耳側コーヌス偽乳頭浮腫頻度(%)図4当科のSSOHの眼底所見当科が経験したSSOH41例47眼(32±16歳)の眼底所見の出現頻度を示した.一番頻度の多い所見は,鼻上側のNFLDで100%に認められた.図2上方視神経部分低形成を疑う眼底所見図3上方視神経部分低形成を疑う視野所見

屈折矯正手術:老視用角膜インレー

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107850910-1810/10/\100/頁/JCOPY老視に対する手術的なアプローチにはさまざまな方法が考案されている.CK(condutivekeratoplasty),多焦点眼内レンズ,モノビジョンLASIK(laserinsitukeratomileusis)などである.Qualityofvisionの概念は,単に屈折異常を矯正するのみならず,加齢変化である老視をも克服する方向に広がっている.今後,活動的な高齢者が多くなる状況において,老視に対しての手術的なオプションがあることは好ましいことであろう.今回,紹介する老視用角膜インレー(AcuFocus社製KAMRAR,以下インレー)は,ピンホール効果を利用することにより,遠方と近方の視力をともに確保しようとするものであり,今までにはない斬新なアイデアである1).手術を行うためには,フェムトセカンドレーザーが必要である点も,新世代の手術であることを実感させる.●概要と原理インレーの外観は図1のごとくである.外径は3.8mmで中心の1.6mmが中空になっている.厚みは5μmと薄い.黒い着色部には約8,400個の微孔が空けられており,角膜実質内におけるグルコースなどの代謝を妨げないように考慮されている.インレーを挿入した症例の前眼部写真を図2に示す.原理は,ピンホール効果による焦点深度の延長である.入射光の径を絞ることにより,焦点付近での明視域を拡大しようとするものである.原理の簡単な模式図を図3に示す.(71)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載121監修=木下茂大橋裕一坪田一男121.老視用角膜インレー荒井宏幸みなとみらいアイクリニック老視に対する新しい手術的なアプローチが始まった.角膜インレーにピンホール効果をもたせて,遠方視力を犠牲にすることなく近方視力を確保しようとするものである.手術手技の原理は容易であるが,インレーの扱いやセンタリングには熟練を要する.今後の老視矯正手術の新しいオプションとなる可能性がある.図2インレー挿入眼の前眼部写真老視用角膜インレーソフトコンタクトレンズ図1AcuFocus社製KAMRAR(左)の外観①②図3ピンホール効果による明視域の拡大の模式図通常の状態①に比べ,ピンホールによる焦点深度の延長により明視域が拡大している②.786あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010●手術の方法インレーを単独で行うか,同時にLASIKを行い屈折異常を矯正した後にインレーを留置するかの2通りの方法がある.①インレーを単独で行う方法:フェムトセカンドレーザーにて角膜上皮側から220μmの場所にポケットを作製し,インレーを留置する.正視眼に対してはこの方法を選択する.一見簡単そうに思われるが,インレー自体が非常に薄いため,ポケット内で周辺部が翻転しやすく,非常にに繊細な操作が必要である(図4-a).②同時にLASIKを行う方法:角膜フラップの厚みを200μmに設定し,型式どおりにLASIKを行う.インレーの準備をして,フラップを再度翻転し,瞳孔中心を見きわめて角膜ベット上にインレーを置きフラップを戻す.インレーの黒色部に隠れて瞳孔縁が確認できないため,正確に瞳孔中心に留置することが非常にむずかしい.必要に応じて位置を修正する(図4-b).インレーは非優位眼に対してのみ行う.上記の2通りのどちらの方法にせよ,角膜の中間層に留置するため,角膜厚が十分になければならない.特にLASIKを同時に行う場合には,残存角膜ベット厚に対して慎重な計算を行わなければならない.ただ,老視矯正を希望する方は,遠視の割合が比較的多く,中心部をあまり切除しない照射パターンであることが多い.●考察および今後の展望当院における症例数は,まだ十数例であるため,統計的な結果を提示できないが,代表的なケースを図5に示す.この老視用インレーの特徴は,遠方視力を損なうことなく,近方視力を確保する点にある.目標とするのは,あくまでも日常生活において近用眼鏡を使用する頻度を低下させることであり,長時間のデスクワークや洋裁などの際には眼鏡が必要になる可能性がある.遠方視力は良いので,CKやモノビジョンLASIKよりも両眼での遠方視における違和感は少ない.ただし,瞳孔領にインレーを留置するため,グレアやハローを誘起する可能性はある.どうしても見え方に違和感が残る場合には,インレーを抜去することも可能であるが,幸い当院ではまだ抜去例はない.手術手技のむずかしさもあるが,この手術において最もむずかしいのは症例の選択である.術後にどのようなライフスタイルを希望されているかを,よく見きわめたうえで適応を判断しなければならない.多焦点眼内レンズでも同様であるが,「老眼の克服」という言葉には非常に魅力的なイメージがあり,希望者の期待度はときとして手術の最大限の効果を凌駕している.現時点では,完全に調節機能を回復させる手段がない以上,ある程度の効果までしか得られない旨を,術前に丁寧に説明しなければならない.筆者の印象としては,40歳代以上に対するLASIKや,眼内レンズ眼(単焦点)におけるtouchupの際などに,また近方視力をある程度確保したい場合に,非常に有効な手段ではないかと考えている.今後の長期的な経過のなかで,角膜の状態とともに視機能の変化や脳の適応なども踏まえて慎重な観察が必要と思われる.文献1)YilmazOF,SukruBayaraktarS,AgcaAetal:Intracornealinlayforthesurgicalcorrectionofpresbyopia.JCataractRefractSurg34:1921-1927,2008(72)〔症例〕54歳,男性.優位眼右眼.術前視力VD=1.5(better×sph+0.25D(cyl.0.50DAx180°)VS=0.5(1.2×sph+0.50D(cyl.1.50DAx10°)VDnear=0.1(1.0×+2.75D(cyl.0.50DAx180°)VSnear=0.2(1.0×+3.25D(cyl.1.50DAx10°)左眼に対してLASIKと同時にインレー手術を施行術後10日目VS=1.5(n.c.)VSnear=0.8p図5インレーにより近方視力が獲得できた症例LASIKによる遠方視力の改善とともに,インレーにより近方視力も改善している.ab図4インレーを留置する2つの方法のシェーマa:角膜内にポケットを作製し留置する.b:LASIKの角膜フラップ下に留置する.