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総説:小児緑内障の診断と治療

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCLSある疾患であり,初期対応にあたる眼科医の責務は重要である.以下,小児緑内障の診断と治療についての要点を自験例と文献的考察を交えて概論する.I小児緑内障の分類病型に分類することは正確な診断と予後を推測するうえで必要である.分類方法は発症時期や,併発する病態,遺伝などにより多様である1,2).病名についても先天緑内障,発育異常緑内障,原発先天乳児緑内障,続発先天緑内障など種々の名称が使用されてきたが,ここでは日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン3)に沿って分類する(表1).早発型発達緑内障とは発育異常が隅角に限局するものである.以前は原発先天緑内障や先天乳児緑内障などとよばれたもので,3歳頃までに発症し高眼圧が続くと眼球拡大,いわゆる牛眼を呈する.生下時にすでに牛眼を示す新生児緑内障もある.遅発型発達緑内障も発育異常が隅角に限局するものであるが,異常程度が軽度なために幼児期・学童期に発症するもので,自覚症状の訴えや外見の異常がないため診断が遅れることが多い.他の先天異常に伴う発達緑内障や続発緑内障には表1に示す多様な疾患が含まれる.表1には15歳未満で発症し,現在当科で管理中の各病型の症例数と眼数を併記する.近年,先天白内障術後の続発緑内障が増えており,これについては後述する.II診察の手順と要点1.問診乳児で角膜拡大や混濁があれば緑内障を想起して診察はじめに小児緑内障は一般診療のなかでは稀な疾患であるが,患児の生涯を左右する重要な疾患である.大別すると発達緑内障と続発緑内障に分かれ,乳幼児期に発症するものは前者が多い.早期に発症する症例は,いわゆる牛眼を呈し構造的障害をきたすので,緑内障性視神経症のみならず視機能発達の管理を要する.後期に発症する症例は自覚症状の訴えのないまま視神経萎縮に至り,不可逆性の視機能障害を残すことが多い.ともに,早期発見,早期治療により重篤な視機能障害を阻止しうる可能性の(65)1387*AkiraNegi:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕根木昭:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野あたらしい眼科27(10):1387.1401,2010c第19回日本緑内障学会須田記念講演小児緑内障の診断と治療DiagnosisandTreatmentofPediatricGlaucoma根木昭*総説小児緑内障は稀な疾患であるが,患児の生涯を左右する重要な疾患である.大別すると発達緑内障と続発緑内障に分かれる.早発型発達緑内障では羞明,流涙の訴えに注意する.診察は催眠下に施行し,眼圧,角膜径,角膜上皮浮腫,視神経乳頭陥凹などを参考に総合的に判断する.催眠下の正常眼圧は15mmHgを上限と考える.治療は線維柱帯切開術を第一選択とする.適正な時期に施行すると20年後も眼圧調整成功確率は約80%である.複数回手術を要する難治症例にはマイトマイシンCを併用した線維柱帯切除術を施行する.このとき,羊膜移植を併用すると瘢痕化抑制に有用である.術後は屈折異常,固視状態に注意して視機能発達を管理する.続発緑内障では,先天白内障術後の開放隅角緑内障症例が増加している.生後1年以内に白内障手術を受けた症例に多い.先天白内障術後は緑内障発症に留意して長期経過観察していくことが肝要である.キーワード:発達緑内障,牛眼,線維柱帯切開術,羊膜,先天白内障.要約1388あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(66)に当たる.しかし肉眼的に異常のない早期では流涙や羞明を主訴とするため,先天鼻涙管閉塞などを想起することも少なくない.乳児の流涙や羞明では常に緑内障を念頭に置く必要がある.特に羞明は重要な角膜上皮浮腫の初期徴候である.戸外に出ると母親の胸に顔を埋めることや,室内でも電気がつくと眼を閉じる,顔を覆うなど羞明に留意することが大切である.2.催眠乳幼児の正確な検査には催眠が必要である.乳児の場合には自然睡眠下で可能なこともあるが,通常は催眠剤,triclofossodium(トリクロリールR)シロップ0.7ml/kgを使用する.30分程度で入眠するが個人差がある.寝たらすぐに検査を開始するが,麻酔作用はないので眼圧測定などには点眼麻酔が必要である.この点眼だけで覚醒してしまうこともあるのでガラス棒などを用いて小滴を慎重に滴下する(図1).1歳以上になるとシロップを嫌がることがある.この場合はchloralhydrate(エスクレR)座薬50mg/kgを使用する.4歳を超えると通常の細隙灯検査も可能になるが2.3歳頃が催眠もしづらくむずかしい.日頃から母親とともに検査に慣れさせ,押さえつけて検査することなどは避け,恐怖感を記憶させないことが大切である.小児科医や麻酔科医との連携が可能ならmidazolam(ドルミカムR)などの静脈麻酔も有用である.初診時には未散瞳で検査するが,再診で散瞳が必要なときは催眠の前に散瞳薬を点眼しておかないと入眠後は点眼だけで覚醒してしまうことがある.3.眼圧測定催眠下仰臥位の眼圧測定はPerkins手持ち圧平式眼圧計で測定する(図2)が,瞼裂が狭く測定しにくいときはTono-PenR眼圧計(図3)が有用である.瞼裂が狭いときには開瞼器で軽く開瞼する.Bell反射で上転するときは正位にくるまで待って測定する.3~4歳になれば覚醒下に座位で測定できる児もいる.表面麻酔の不要なicareR手持ち眼圧計は怖がらずに測定させてくれる(図4)ので,この方法から慣らしていくと,Tono-PenR眼圧測定からGoldmann眼圧測定もできるようになる.角膜混濁が強く部厚いと圧平式眼圧測定では非常に高い値が出ることがある.角膜径や乳頭の状態から本当に高眼圧なのか総合的に判断する必要がある.この場合Schiotz眼圧計も参考になる.異なるいくつかの眼圧計図1催眠下の点眼方法点眼により覚醒してしまうことがあるのでガラス棒を利用して小滴を点眼する.表1小児緑内障の分類症例数眼数発達緑内障早発型発達緑内障2847遅発型発達緑内障2953他の先天異常を伴う発達緑内障Sturge-Weber症候群1418Axenfeld-Rieger症候群510無虹彩症48Peters奇形36神経線維腫症22第一次硝子体過形成遺残11球状水晶体12先天小角膜12Marfan症候群Weill-Marchesani症候群PierrRobin症候群Lowe症候群ホモチスチン尿症風疹症候群Rubinstein-Taybi症候群Hallermann-Streiff症候群先天ぶどう膜外反その他続発緑内障先天白内障術後(#)1526ぶどう膜炎23外傷22副腎皮質ステロイド薬12腫瘍未熟児網膜症その他15歳未満で受診し現在,当院および#兵庫県立こども病院で管理中の症例数と眼数を併記した.(67)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101389で測定しておくことも有用である.各眼圧計で測定値に差が生じるが,同じ眼圧計での測定値を記録していくことで変化を知ることができる.成人眼で各眼圧計の測定値を比較すると,icareR手持ち眼圧計の測定値はTono-PenR眼圧計による測定値に近く,Goldmann眼圧計の測定値より平均1.4mmHg高い.角膜厚に留意してGoldmann眼圧計の測定値と比較すると,角膜が厚くなるほどより高く,角膜が薄くなると低めに表示される(図5)4).催眠下,仰臥位の眼圧測定値をどう判断するかについて詳細な根拠はないが,若干覚醒時より低めに出ると推測される.乳幼児の眼圧そのものも成人より低いとされることから,15mmHgを上限と考える.新生児の無麻酔下の眼圧は平均11.4±2.4mmHgといわれる5).催眠下での十分な検査ができないときには全身麻酔下の検査によるが,全身麻酔下での眼圧は麻酔導入後の深度に大きく影響される.halothane麻酔下では眼圧が大きく低下し6),15.20mmHg下がることも稀ではない.最近多用されるsevofluraneでも麻酔導入後6分まで眼圧は平均約19%,急速に低下する.ketamineの場合はこの低下が少なく導入後8分でも7%程度の低下にとどまる7).眼圧検査の場合はketamine麻酔による迅速な測定が推奨される.眼圧値は診断と管理に必須であるが,測定値に影響する因子が多く,眼圧値のみでは緑内障病態を評価できず乳頭や角膜径などで総合的に判断せねばならない.図3Tono.PenRAVIA眼圧計による眼圧測定図2Perkins眼圧計による眼圧測定瞼裂が狭くても測定できる.図4icareR眼圧計による眼圧測定麻酔薬なしで児童でも測定できる.0IOPDifference(mmHg)51015MeanIOP(mmHg)AdjustedR2=0.064,p=0.05182025306420-2-4400IOPDifference(mmHg)450500550CCT(μm)AdjustedR2=0.202,p=0.00126006506420-2-4図5icareR眼圧計とGoldmann眼圧計による測定値の比較上:icareR眼圧計測定値─Goldmann眼圧計測定値をGoldmann眼圧計測定値に対してBland-Altman法で表示した散布図.実線は平均差を,点線は95%信頼区間を示す.下:測定値差を角膜厚(CCT)に対して表示したもの.実線は回帰直線.(文献4より改変)1390あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(68)4.前眼部の観察角膜径を計測し,手持ち細隙灯により前眼部を観察する.3歳以下の乳幼児では高眼圧により眼球拡大,いわゆる牛眼を呈する.明らかな牛眼では診断は容易で,角膜上皮浮腫やDescemet膜断裂によるHaab線をみる.Haab線は角膜径が12.5mmを超えると出現しやすく,円周状や直線上など多様である(図6).鑑別としてあげられる鉗子分娩時の角膜損傷は角膜径の拡大は伴わず,縦に直線上に走る(図7).角膜径の測定にはカリパーを使用するのがよい(図8).水平,垂直径を測定するが,牛眼では強膜との境界が不鮮明なことがある.移行部を含めた最大径を測定する.新生児の角膜径は10.10.5mmであり,1歳で約1mm増大する.乳児で12mmを超えるときには十分に経過観察する必要がある.牛眼に至らない初期症例では角膜上皮浮腫に注目する.乳児の前房は正常では浅いので,すでに深いときは要注意である.瞳孔形の異常,偏位,虹彩の萎縮は発達緑内障によく併発する.5.眼底の観察視神経乳頭の陥凹は眼圧をよく反映するので,診断および管理に重要な検査項目である.散瞳下に手持ち細隙灯と90Dレンズで立体視できる.初診時には非散瞳下に直像鏡で観察するが,隅角検査時にKoeppe隅角鏡越しにも観察できる.3歳以下の正常乳幼児では陥凹/乳頭比は0.3以下が87%を占めるのに比し,緑内障眼では95%が0.4以上を示す8).正常では陥凹に左右差はなく,辺縁部はオレンジ色だがやや色あせて見える.眼圧上昇により陥凹は容易に拡大する.篩状板や強膜を構成する結合組織が未熟なため,篩状板は容易に後退し強膜輪も拡大することによる9).陥凹は成人と異なり同心円状に均等に拡大し,眼圧の低下により速やかに縮小する.陥凹の大きさにより眼圧を推測できるので術後経過観察にも必須検査である.網膜血管アーケードの発達や黄斑の発達,中心窩反射の有無にも着目する.6.屈折検査検影法あるいは手持ち自動レフラクトメータによる屈折検査は視能矯正と視機能発達経過評価に重要である.7.隅角の観察Koeppe隅角鏡と手持ち細隙灯による.手術顕微鏡下ではSwan-Jacob隅角鏡や森式隅角鏡も有用である.角膜浮腫が強いときはグリセリン点眼が透明化に役立つ.図6牛眼にみられるHaab線Descemet膜断裂により,角膜径が12.5mmを超えると頻度が高くなる.図8カリパーによる角膜径の測定乳児で12mmを超えるときは要注意.図7Haab線と鑑別を要する鉗子分娩時の角膜損傷角膜拡大はなく,縦に走る傷が特徴.(69)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101391正常の乳児隅角では毛様体帯が見え,虹彩根部は隅角底を形成せず平坦に付着している.隅角底は1歳を超えてから2.3歳で形成されてくる.線維柱帯に色素はなく,成人より部厚い透明な層に見える.早発型発達緑内障では虹彩が前方に付着して毛様体帯や強膜岬,ときに線維柱帯まで隠れる症例が多いとされる(図9)が,普通に毛様体帯が見える開放隅角症例も少なくない.異常な突起状,膜状虹彩組織が線維柱帯を覆うことも多い.線維柱帯付近に付着した虹彩根部が凹型に落ち込む症例もある.Axenfeld-Riegar症候群や無虹彩症などでは後述のごとく特異な隅角異常,虹彩癒着をみる.8.眼軸長,角膜厚の測定超音波法による眼軸長測定は診断ならびに術後の眼圧コントロール状態を把握するのに有効な因子である.乳児の眼軸は17.5.20mm程度で1歳児で約22mmである.超音波生体顕微鏡は角膜混濁で観察できない隅角の状態や異常な構造を把握するのに有用である(図10).角膜厚は眼圧測定値に影響する.発達緑内障では角膜の拡大や,浮腫,変性により正常範囲から逸脱した角膜厚を示すことも多く,角膜厚測定は眼圧評価に勘案すべき重要因子である.小角膜や無虹彩症例では角膜厚が増大しておりPeters奇形では薄い.生後24時間以内の正常新生児の角膜厚は573μmで成人より厚く,その後徐々に減少し10),3歳頃に成人の値に達するという11).しかし,0.1歳児の角膜厚は成人より薄いとするわが国の報告もある12).乳幼児の角膜厚や剛性がどの程度,眼圧測定値に影響しているかは不明である.IIIおもな病型の特徴と鑑別の要点1.早発型,遅発型発達緑内障発達異常が隅角に限定されるもので乳幼児緑内障の約半数を占め,最も頻度の高い病型である.おおむね出産10,000から12,500に1件といわれるが,人種差があり,サウジアラビアでは2,500人に1人と多い.英国では18,500人に1人,スペインでは38,000人に1人,米国では20歳以下の人口の68,254人に1人という報告がある13).生後3カ月以内に診断された症例では90%が両眼性であるが,3カ月以降3歳までに診断された症例では両眼性は60%である(図11).角膜拡大があり,羞明,流涙,眼瞼痙攣などがあれば診断は容易である(図12).しかし初期症例では,先天鼻涙管狭窄や結膜炎と診断されることもあり上述の検査項目に留意する必要がある.発達緑内障の多くは弧発例であり遺伝性のあるものは10%程度である.わが国では染色体の2p21にあるCYP1B1遺伝子に変異を認める症例が20%にみられる14).これらの症例では両眼性で生後早期に発症するこ図10超音波生体顕微鏡による前眼部観察角膜混濁や異常な隅角組織で観察できない隅角構造も把握できる.これはAxenfeld-Rieger症候群における異常な隅角膜.図9発達緑内障にみられる隅角強膜岬より前方に虹彩が平坦に付着している.図11早発型発達緑内障にみられる牛眼生後3カ月以内の発症では90%が両眼性である.片眼性では診断も容易である.1392あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(70)とが多く,変異をもたない症例に比べて女児に発症しやすい傾向にある15).乳幼児期の鑑別疾患を表2に示す8).巨大角膜では角膜拡大は著明であるが,透明で混濁なく,眼圧や視神経乳頭は正常である(図13).先天遺伝性角膜内皮ジストロフィでは羞明や種々の程度の両眼性の角膜混濁を示し,緑内障と紛らわしい.角膜厚は著明に増大しているが,角膜径は拡大せず,視神経乳頭は正常である.幼小児期に高眼圧や乳頭異常で緑内障を疑われる症例は稀ではない.表3に最近2年間に遅発型発達緑内障を疑われて本院を紹介された,緑内障以外の症例をまとめた.12例はいずれも両眼ほぼ同様の眼圧値,乳頭所見を呈したため片眼の所見のみを示した.高眼圧を呈した症例が7例あり,そのうち3例は視神経乳頭に異常を認めず,視野も正常で高眼圧症として経過観察中である.残りの4例は視神経乳頭陥凹の拡大を伴い,うち3例は上方視神経低形成で2例が視野狭窄を示した(図14).表2発達緑内障の鑑別疾患Ⅰ続発緑内障Ⅱ角膜拡大・角膜混濁をきたす疾患1.巨大角膜2.強角膜3.強度近視4.代謝異常疾患ムコポリサッカライドーシスなど5.後部多形性角膜ジストロフィ6.先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ7.角膜炎Ⅲ羞明,流涙をきたす疾患1.鼻涙管閉塞2.結膜炎3.角膜上皮障害4.Meesman角膜ジストロフィ5.Reis-BucklerジストロフィⅣ視神経異常を呈する疾患1.乳頭ピット2.コロボーマ3.低形成4.傾斜乳頭5.生理的陥凹拡大表3高眼圧,視神経乳頭異常で緑内障を疑われた小児症例症例紹介理由初診年齢(歳)・性眼圧(mmHg)角膜厚(μm)乳頭所見視野KM高眼圧7・女児24576正常正常IH高眼圧10・男児25567正常正常MK高眼圧12・女児25582正常正常TH乳頭陥凹大9・女児16494低形成正常IN乳頭陥凹大8・女児15445生理的大陥凹正常SK乳頭陥凹大11・女児14560生理的大陥凹正常ST乳頭陥凹大11・男児14606SSOH下方狭窄UT乳頭陥凹大14・男児13─低形成正常HY高眼圧+乳頭陥凹大6・女児29592SSOH下方狭窄NR高眼圧+乳頭陥凹大8・女児22549SSOH不定狭窄KS高眼圧+乳頭陥凹大8・女児23612生理的大陥凹正常NY高眼圧+乳頭陥凹大15・女児28610SSOH正常SSOH:上方視神経低形成.図12発達緑内障による角膜拡大羞明,流涙を伴い診断は容易であるが,初期では鼻涙管閉塞や結膜炎と診断されることもある.図13巨大角膜の症例角膜は大きいが,透明で眼圧,視神経乳頭は正常である.(71)あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081393残りの1例は視野も正常で大乳頭に伴う生理的大陥凹をもつ高眼圧症と判断し経過観察中である.この症例では母親も高眼圧症で定期観察をされていた.12例のうち5例は,眼圧は正常であるが乳頭陥凹の拡大があるため紹介された.1例は上方視神経低形成で下方視野狭窄を示した.この症例では母親の乳頭も上方視神経低形成を呈していた.2例は,視野は正常であったが視神経低形成と判断し経過観察中である(図15).残りの2例は視野も正常で大乳頭に伴う生理的大陥凹として経過観察中である.幼小児期でも高眼圧症や乳頭陥凹拡大症例は稀ではない.乳頭陥凹拡大のなかには上方視神経低形成例が多く,高眼圧を伴うこともあり十分な経過観察が必要である.2.Sturge.Weber症候群全身の先天異常に伴う発達緑内障としては最も症例数が多かった.三叉神経第1,2枝領域のポートワイン型血管腫を特徴とする母斑症で10.30%は両側性である(図16a,b).緑内障は30.50%に併発し,そのうち60%は乳幼児期に,40%は小児期に診断される.隅角の発達異常に加え上強膜静脈圧上昇が眼圧上昇の原因とされる.眼瞼に血管腫がある症例に多い.中枢神経系にも血管腫を伴い,てんかんや精神発達遅延を伴うことがありenchephalotrigeminalangiomatosisとも呼称される.高眼圧のため手術治療を要することが多く,線維柱帯切開術を第一選択にするが,予後は早発型発達緑内障より悪く,線維柱帯切除術を要することも少なくない.3.Axenfeld.Rieger症候群Sturge-Weber症候群についで頻度の高い,続発発達緑内障である.神経堤発育異常により歯牙,顔面骨などに発育異常がある.眼角隔離,上顎骨発育不良,鞍鼻,小歯牙などが特徴的である.両眼性で常染色体優性遺伝である.FOXC1遺伝子の変異が見つかっている.角膜周辺部に後部胎生環とよばれる輪部に沿った白い線が見られる(図17a).隅角鏡ではSchwarbe線が肥厚しており,ここに異常な虹彩の癒着を認める(図17b).虹彩の萎縮,瞳孔偏位,多瞳孔(図17c)を認め50%に緑内障を併発する.多くは幼小児期に診断される.遅発型では点眼治療も選択されるが,手術治療になることが多い.隅角異常癒着の少ない場所で線維柱帯切開術を施行する.4.無虹彩症両眼性で虹彩根部を残して虹彩が欠損する.2/3の症例は常染色体優性遺伝を示す.PAX6遺伝子に変異を見る.小角膜を呈することもあり,角膜上皮幹細胞欠損図14上方視神経低形成で高眼圧を呈する小児症例6歳,女児,左眼.眼圧は29mmHg,角膜厚は592μmで下方視野狭窄を呈した.右眼も同様である.図15視神経低形成による乳頭陥凹拡大9歳,女児,右眼.眼圧は16mmHgで視野は正常である.ab図16Sturge.Weber症候群における血管腫(a)約30%が両眼性.結膜にも異常血管をみる(b).1394あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(72)から将来,結膜浸潤による角膜混濁を見る.黄斑低形成,眼振を伴うことが多く,白内障,緑内障,角膜混濁により成長とともに視力低下が進行する.緑内障は50.75%に発症する.隅角には虹彩が一部形成されている.乳児期には隅角は開放しているが,徐々に癒着が進行し,閉塞隅角になる(図18).角膜は厚く,600μmを超す例が多く,眼圧測定の評価に留意する16).孤発例の20%はWilms腫瘍や精神発達遅延を伴う8).5.Peters奇形両眼に生下時から角膜中央部の混濁があることで診断される.角膜中央部のDescemet膜・角膜内皮細胞・角膜実質深層部を欠き,中央部は薄く混濁を呈する(図19).虹彩捲縮輪からDescetmet膜欠損部辺縁部に伸びる索状の虹彩前癒着,水晶体異常などを呈する.無虹彩やAxenfeld-Rieger様の異常を併発することもある.50.70%に緑内障を併発する.眼圧値は角膜の状態により影響を受ける.周辺部角膜から透見した視神経乳頭や眼軸長,角膜径から総合的に眼圧状況を判定する必要がある.角膜混濁は経年的に減少傾向を示す.眼圧下降には線維柱帯切除術を要する場合が多い.6.vonRecklinghausen病常染色体優性遺伝で,眼瞼に神経線維腫を発症する場合は50%に緑内障を発症する.片眼性が多く,虹彩にはLisch斑をみる(図20).隅角は開放隅角が多いが,線維腫組織による閉塞隅角もある.線維柱帯切開術が第一選択であるが予後不良のことが多い.7.球状水晶体球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障で小児期より眼圧上昇を見る.隅角閉塞の進行とともに眼圧も上昇していく.水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術の適応があるが,眼内レンズ震盪や脱臼を見ることがある(図21)17).図18無虹彩症の隅角虹彩は一部形成されている.乳児期には開放隅角であるが徐々に閉塞が進行する.図19Peters奇形における角膜中央部混濁(a)超音波生体顕微鏡で中央部角膜の菲薄化がわかる(b).abacb図17Axenfeld.Rieger症候群の眼所見a:後部胎生環.b:隅角の異常な虹彩癒.c:虹彩の萎縮,瞳孔偏位.あたらしい眼科Vol.27,No.10,201013958.先天白内障術後の続発緑内障小児の続発緑内障のなかで近年増加しているものに,先天白内障術後の緑内障がある.表1にみるように筆者らの施設でも小児緑内障全体でみても発達緑内障に次ぐ数を示した.1960年代以前に先天白内障手術が吸引術で施行されていた時代にも緑内障は多かったが,その頃の緑内障は残留皮質による炎症や脱出硝子体による,術後早期の閉塞隅角緑内障が主体であった.しかし1970年代に導入された経毛様体扁平部水晶体切除術や最近の成人同様の術式による眼内レンズ挿入の時代になると,術後緑内障は開放隅角型となり,発症も遅く自覚症状に欠くため発見が遅れるようになった.有病率は術後観察期間によって異なるが6.50%,10歳以上の有病率は65.6%にのぼる18~20).白内障術後経過とともに一定の割で増加し毎年の発症率は5.25%とする報告もある21).緑内障の診断時期は術後平均6.8年であるが,前向き研究では緑内障発症平均時期は術後1.34年であった21).白内障手術時期が早いほど発症頻度が高く,特に生後3カ月以内の手術症例に高い22).兵庫県立こども病院および筆者らの施設における先天白内障術後の無水晶体眼での緑内障有病率は72眼中26眼,36%で,うち視神経に緑内障性変化を認めた開放隅角緑内障が10眼(14%),眼圧値が26mmHg以上を呈したのが16眼(22%)であった.平均観察期間は術後9.8年である(表4).26眼のうち生後1年以内に白内障手術を施行していた症例が19眼を占めた.表に見るように眼内レンズ挿入眼には発症をみていないが,手術時年齢が無水晶体眼群に比べて高齢であり,眼内レンズ挿入が緑内障発症抑制に有利に働いているのかどうかは今後の検討課題である.先天白内障術後は角膜厚も部厚くなるため眼圧値は高く表示され高眼圧症との鑑別が必要になる23,24).視野検査が十分にできないため,視神経乳頭の変化や一定以上の高眼圧値をもって緑内障と定義する報告がある18).高眼圧症から緑内障への移行率も高く7年間で23%という報告もある25).表4の症例のうち角膜厚を測定できた症例を同年代の有水晶体眼と比較したものを表5に示す.無水晶体眼では有意に(p<0.001)正常眼,眼内レンズ挿入眼より部厚いことがわかる.手術時年齢が早いほど角膜厚は増大する傾向にある.眼内レンズ挿入群は手術時年齢が高いため,眼内レンズ挿入が角膜厚増大抑(73)表4先天白内障術後の緑内障有病率無水晶体眼眼内レンズ挿入眼症例数4927眼数7240手術時月齢(平均月齢±標準偏差)20±2461±29術後経過観察期間(平均経過観察年±標準偏差)9.8±5.05.5±4.0緑内障症例数150緑内障眼数26#0#開放隅角緑内障10眼,高眼圧症26mmHg以上16眼.表5有水晶体眼と先天白内障術後の角膜厚の比較眼数測定時年齢(歳)中心角膜厚(μm)有水晶体眼4310.2±3.1554±37無水晶体眼(正常眼圧)2212.3±3.7597±51無水晶体眼(高眼圧)1012.1±4.5628±44眼内レンズ挿入眼238.8±3.7546±43図20vonRecklinghausen病にみられる眼瞼神経線維腫図21球状水晶体による閉塞隅角緑内障a:前眼部写真.水晶体径は短い.b:前眼部細隙灯写真.前房は浅い.c:超音波画像.水晶体は厚い.d:隅角写真.隅角は閉塞している.acbd1396あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010制因子となるかは今後の検討を要する.先天白内障でそのまま経過を観察された症例の緑内障有病率が高くないことや,両眼先天白内障で片眼だけ手術された症例では手術眼に緑内障発症が高いことから,先天白内障術後の緑内障発症には手術が関係していると推測される.乳児期の隅角成熟期に水晶体がなくなることで隅角発達が不良になる,Zinn小帯の緊張がなくなるための線維柱帯の構造変化,硝子体成分や後房水が隅角組織に悪影響を与える,硝子体内酸素分圧の影響,元々の隅角発育異常などが原因として推測されている23,26,27).また,発症率のばらつきから手術操作自体の影響の関与も否定はできない27).治療は成人同様点眼治療から開始するが,手術適応になった症例の予後は不良である28).先天白内障術後には視力は良好でも高頻度に緑内障を併発することを念頭に置き,定期観察を続けることが肝要である.IV治療の要点と予後学童期の緑内障は成人と同様の治療方針で臨むことができる.しかし,乳幼児期発症の緑内障は時間的余裕がない.薬物治療では眼圧下降は不十分なことが多い.眼圧下降が不十分なまま経過観察すると,短期間のうちに眼球拡大が進行し,隅角組織に不可逆的な構造破壊をきたす.迅速に適切な眼圧下降を得るためには手術治療が第一選択となる.術式は線維柱帯切開術か隅角切開術が第一選択となる.後者は経験者も少ないことから前者が選択されることが多い.初回手術で奏効しないときは,線維柱帯切開術を追加するが,効果が得られないときには線維柱帯切除術を選択する.1.乳幼児の線維柱帯切開術の要点術式は成人と同様でも乳幼児と成人では大きく異なる点がある.乳幼児の眼は小さな成人眼ではない.強膜が柔らかいため,注意して切開しないと全層切開になりぶどう膜が露出する.均一な,十分な厚さの強膜弁が作製できると多くの場合Schlemm管は成人同様に見つけることができるが,強膜弁の厚さが不均等になるとSchlemm管の同定がむずかしくなる.強膜岬やSchlemm管外壁の線維組織が粗.で固い場合もある.Schlemm管腔が萎縮していたり(図22),輪部から離れた手前に位置する症例(図23)があることを念頭に慎重に操作する必要がある.特に下方からのアプローチでは十分視認性を確保した位置で望む必要がある(図24).強膜弁の作製には強膜刃のような面積のある刃で丁寧に,均一に層間.離を進めていく.Schlemm管が発見できても管腔が萎縮してトラベクロトームを挿入できない場合がある.あるいはトラベクロトームを挿入しても線維柱帯組織が固くて回転しがたいこともある.無理に回転すると毛様体断裂をきたし大出血を生じる危険性がある.このようなときには柄付きのトラベクロトームも(74)図22小児緑内障の線維柱帯切開術強膜弁が十分厚くても,Schlemm管が萎縮していて同定が困難なことがある.図23小児緑内障の線維柱帯切開術Schlemm管が成人に比して輪部から離れた位置にある.図24下方からの線維柱帯切開術Schlemm管が拡大した角膜に近く位置するので十分な視認性を確保して慎重にアプローチする必要がある.(75)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101397有効である.ヘアピン型のトラベクロトームより少し太いが,方向性を保ちやすく,ブラインド操作ではあるが拡張することもでき,回転方向も定めやすい.線維柱帯組織があまりに固く回転できない場合は無理をしないで,別方向を試すことも必要である.Sturge-Weber症候群では術後大量出血をきたす危険性があるといわれるが,経験はなく線維柱帯切開術を遺棄する理由にまではならない.Axenfeld-Rieger症候群,無虹彩症などにおいても術後成績は劣るが第一選択であることに変わりはない2.線維柱帯切開術の成績適切な時期に施行した線維柱帯切開術の手術予後はおおむね良好である.発達緑内障112眼における,平均観察期間9.5±7.1年(標準偏差)での平均術後眼圧は15.6±5.0mmHg(標準偏差)である.術後眼圧が21mmHg以下で,角膜径,視神経乳頭陥凹に進行がなく,線維柱帯切開術以外の追加手術がないことを成功と定義すると,89.3%が最終観察時に成功を得ている.Kaplan-Meier分析による成功確率は10年後で87.7±3.9%,20年後で80.8±6.1%である.手術時期別にみると生後2カ月から2歳までに手術された症例が最も予後が良好で,15年後の成功確率は96.6±2.4%であり,生後2カ月以前,あるいは2歳以後では70%前後に低下する.視力予後は眼数でみると59.5%が最終観察時に0.5以上を獲得し,0.1以下は24.4%であった.続発緑内障の成績は発達緑内障よりも少し劣る(図25)29).3.線維柱帯切除術の問題点と対策発達緑内障に対する手術治療では,初回の線維柱帯切開術を確実に成功させることが最も重要で,条件の良い12時部位で全力を注ぐ.眼圧が再上昇してきたときには4時,8時部位で線維柱帯切開術を再施行する.Schlemm管が見つからない症例や前回の線維柱帯切開術がまったく無効の症例では再手術に線維柱帯切除術を選択せざるをえない.小児に対する線維柱帯切除術はTenon.も厚く,術後瘢痕形成が強いために線維芽細胞増殖阻害薬を併用することが多い.成功率は45.80%で重症例に線維柱帯切開術と併用して施行されることもある30~32)が,術後の濾過胞管理ができないことや感染の危険性が成人同様に高いため一般的には初回手術としては適応されない33.35).小児のmitomycinC(MMC)併用線維柱帯切除術では成人のような術後のレーザー切糸などの濾過量調整ができないため少し過剰濾過で終える.術後感染の危険性は成人同様であり保護者によく説明して協力を得る必要がある.線維柱帯切除術後にも眼圧調整が不良で高眼圧が持続する場合は最終的には毛様体破壊術に至る.欧米ではインプラントも選択肢に入るが,わが国ではインプラントが承認されておらず,筆者もインプラントの経験はない.最近,当施設では倫理委員会の承認のもと,家族のインフォームド・コンセントが得られた複数回手術後の難治症例に,羊膜移植を併用した線維柱帯切除術,濾過胞再建術を試行している.成人症例における濾過胞漏出修復術や濾過胞再建術に有効な感触を得ているからである36).羊膜は抗炎症作用,瘢痕抑制作用,基底膜として健全な結膜上皮の再生を促す作用をもち難治角結膜疾患に広く使用されている37,38).複数回手術後の濾過胞再建術では,まず瘢痕化結膜を輪部基底で十分な広さに切開し,輪部に向けて結膜と瘢痕組織との癒着を.離する.瘢痕組織を切除し強膜表面を露出した後,前回の強膜弁を再度開窓し十分な濾過を確認する.小さな羊膜片を強膜弁の下にはさんで,強膜弁を縫合する.ついで大きな羊膜シートを強膜弁を覆うように,上皮側を下にして強膜に縫着する.前方は輪部強膜に,後方はTenon.に縫着し,房水が羊膜の下,Tenon.の下を通って後方へ流れるように画策する.結膜は羊膜の上で連続縫合する(図26).表6に小児緑内障症例における,1年以上経過観察できた8症例10眼の成績を示す.3眼は点眼なしで,3眼は点眼併用で眼圧は20mmHg未満に調整:発達緑内障:続発緑内障100806040200術後経過年数(年)0生存確率51015202530図25線維柱帯切開術の長期手術予後―Kaplan.Meier分析による成功確率発達緑内障では続発緑内障より成績が良い.(文献29より改変)1398あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010されている.術後大きな合併症はなく,全体として比較的有効な方法であるとの感触を得ており,今後症例を増やして検討する予定である.図27は症例3の羊膜移植併用線維柱帯切除術後5年の前眼部写真である.5回の手術後であるが,術後の結膜瘢痕は軽度である.図28は術前,術後5年の視神経乳頭を僚眼と比較したものである.術眼は術前眼圧25mmHgで,術後5年以上眼圧は12mmHg前後を維持し,視力(1.0),視野正常である.僚眼もMMC併用線維柱帯切除術を含め,4回の手術歴があり,視力,視野は正常であるが眼圧はこの5年間22mmHg前後である.(76)表6羊膜を用いた濾過胞再建術の成績症例病型手術時年齢既往手術回数経過観察(月)術前眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)点眼数1nf1歳274281502RPeters11カ月34528N/A2LPeters1歳256281823SW11歳467251204SW5歳340301105Rdevelop4歳525392235Ldevelop4歳523282536develop3歳312401937aphakic13歳52340313*8aphakic2歳51233191R:右眼,L:左眼,nf:神経線維腫,Peters:Peters奇形,SW:Sturge-Weber症候群,develop:発達緑内障,aphakic:先天白内障術後の続発緑内障,*:内服薬併用.図26羊膜を用いた濾過胞再建術羊膜小片を強膜弁の下にはさんで強膜弁を縫着する.大きな羊膜シートを強膜弁を覆うように,前方は輪部強膜に,後方はTenon.に縫着する.(文献36より改変)羊膜結膜切開位置Tenon.結膜図27羊膜を用いた濾過胞再建術後,5年経過した前眼部写真5回の手術後も結膜瘢痕は軽度である.図28羊膜を用いた濾過胞再建術後,5年を経過した視神経乳頭の変化術後眼圧は12mmHgを維持し,術前に比して陥凹が縮小している.僚眼はこの5年間眼圧は22mmHg前後であり,陥凹に変化はない.術眼僚眼術前術後5年あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101399術眼の視神経乳頭陥凹は僚眼に比して著明に縮小している.4.薬物治療の要点a.適応乳幼児期に発症した発達緑内障では上述のように手術治療が第一選択で薬物治療は手術までの補助手段,あるいは術後の不十分な眼圧下降の補強手段として使用される.しかし,学童期にみつかった角膜拡大のない遅発性の発達緑内障や続発緑内障では成人同様,まず薬物による眼圧下降治療を開始する.b.薬物の選択小児への適用の安全性が確認されている緑内障点眼薬はない.必要に応じて医師の裁量権で使用するわけで処方にあたっては慎重にすべきである.基本的には成人と同じ点眼薬を使用するが,効果は症例よって異なるため,よく効果を評価し不明確な追加点眼は避けるべきである.点眼量の多くは全身に吸収される.体重当たりの吸収量は成人に比較して多くなるため副作用に十分留意し,低濃度,点眼回数を減らすなどの配慮も必要になる.プロスタグランジン関連薬は全身副作用も少なく,1日1回点眼であるため使用しやすい.成人よりノンレスポンダーが多く,ノンレスポンダーは早発型発達緑内障症例に多いとされる39).しかし,成人同様有効なことも多く40),自験例ではトラベクロトミー術後の補助点眼として使用しても有効であり第一選択薬と考えている.Sturge-Weber症候群で眼圧下降効果がみられるのは19.28%である41).炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬も全身副作用が少なく利用しやすい.通常1日2回点眼とする.約27%の眼圧下降が報告されている42).内服薬はより強力な眼圧下降効果をもつが長期使用で代謝性アシドーシスや発育不全をきたすことがある.術前や一時的な高眼圧症例には5.15mg/kg/dayを3分で内服させる.長期使用せざるをえないときには定期的全身検査が必要である.b遮断薬点眼による眼圧下降は約30%の小児症例にみられるのみである43).0.25%濃度で朝1回点眼からはじめるが,全身血中濃度は成人が0.5%濃度点眼薬を使用した場合より高い44).成人同様,徐脈や喘息などの全身的副作用を誘発するので注意深く使用する.特に乳児への使用は要注意である.縮瞳薬は発達緑内障にはあまり有効ではないが,上述の先天白内障術後の続発緑内障には有効なこともある.網膜.離の併発に注意する.わが国ではまだ認可されていないブリモジニンなどのa2刺激薬は血液脳関門を移行しやすく中枢性作用を起こすことがあり乳幼児には使用しない.点眼薬使用にあたっては成人同様,眼圧のみならず視神経障害の進行を見定め,進行するようなら速やかに手術治療に切り替える必要がある.V視機能管理早発型発達緑内障は,視野狭窄が先行しても末期まで比較的良好な視力が温存される成人の緑内障と異なり,角膜混濁による形態覚遮断,眼軸の非対称な延長による不同視,両眼の不正乱視などの屈折異常など,さまざまな要素により,弱視を招来する.最近の報告でも,手術治療により眼圧調整率は向上し80%以上でも,視力という点では40.50%の症例が0.5未満に留まっている29,45).弱視化要因を探るため,3歳未満に線維柱帯切開術を施行し,術後5年以上良好な眼圧調整を得,正確な視力測定のできた14症例24眼について各種因子の関与について分析した.その結果,等価球面度数(図29),固視状態,Haab線の存在が最終視力と有意に相関する因子であることが判明した46).一方で,視神経障害の程度を反映すると思われる視神経乳頭C/D(陥凹乳頭)比は,弱視の程度とは相関しなかった.早発型発達緑内障においては,眼圧経過のみならず,視力の管理にも力を注がねばならない.そのためには,術後は催眠下で眼圧を測定する一方,preferentiallooking法,acuitycardなどを用いた視力検査ならびに検影法を用いた調節麻痺下他覚的屈折検査を定期的に行う必要がある.また直像鏡のvisuoscopeを用いた固視検査により,中心窩固視か偏心固視かを確認する.偏心固(77)図29視力と等価球面度数の相関r=0.848,p<0.0001弱視化要因としてはこのほか,Haab線の存在,偏心固視があげられる.(文献46より改変)0.010.1-8-6-4-20LogVA2等価球面度数(D)11400あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010視があれば,その眼が弱視に陥っていることはほぼ間違いない.弱視の存在が明らかになれば,適切な屈折矯正により優位眼遮閉などの弱視治療を積極的に行うべきである46).早発型発達緑内障の管理上の問題は,余命が長いことである.初期の手術加療がよく奏効して眼圧が比較的長期にわたって良好にコントロールされていたとしても,眼圧が再上昇することは少なくない.早発型発達緑内障は生涯にわたって,眼科医が管理をすべき疾患である.おわりに重度の牛眼で,乳幼児期に測定しがたい視機能しかなくとも,彼らは成長とともに驚くべき生活行動力を獲得していく.いかに重篤な状態でも,いかに治療手段に限界があろうとも,でき得る限りの努力を尽くすべきであることを思い知らされた.小児緑内障の治療では迅速な眼圧下降に加え,長期的な視機能発達管理が重要な柱となる.眼球拡大や角膜混濁により屈折異常や視覚遮断をきたすため,早期から視力発達経過に留意し積極的な屈折矯正,健眼遮閉などの視能訓練が肝要である.小児緑内障の管理には時間と忍耐を要する.小児眼科と緑内障に十分経験のある医師と視能訓練士,保護者のチームワークが必要である.謝辞:小児緑内障診療の手ほどき,ご指導を賜りました,元天理よろづ相談所病院眼科部長永田誠先生に心より御礼を申し上げます.本講演のデータ整理,解析をしていただいた神戸大学眼科緑内障外来担当の中村誠,山田裕子,金森章泰,楠原あづさ,中真衣子,溝上淳二,石川久美子の各先生ならびに兵庫県立こども病院眼科部長野村耕治先生に深く御礼申し上げます.文献1)PapadopoulosM,CableN,RahiJetal:TheBritishinfantileandchildhoodglaucoma(BIG)eyestudy.InvestOphthalmolVisSci48:4100-4106,20072)YeungHH,WaltonDS:Clinicalclassificationofchildhoodglaucomas.ArchOphthalmol128:680-684,20103)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.p11-20,日本緑内障学会,20064)NakamuraM,DarhadU,TatsumiYetal:Agreementofreboundtonometerinmeasuringintraocularpressurewiththreetypesofapplanationtonometers.AmJOphthalmol142:332-334,20065)RadtkeND,CohenBF:Intraocularpressuremeasurementinthenewborn.AmJOphthalmol78:501-504,19746)AusinschB,MunsonES,LevyNS:Intraocularpressureinchildrenwithglaucomaduringhalothaneanesthesia.AnnOphthalmol9:1391-1394,19777)BlumbergD,CongdonN,JampelHetal:Theeffectsofsevofluraneandketamineonintraocularpressureinchildrenduringexaminationunderanesthesia.AmJOphthalmol143:494-499,20078)StamperRL,LiebermanMF,DrakeMV:Developmentalandchildhoodglaucoma.InDiagnosisandtherapyoftheglaucomas.edbyStamperRL,LiebermanMF,DrakeMV,p294-329,MosbyElsevier,20099)KakutaniY,NakamuraM,Nagai-KusuharaAetal:Markedcupreversalpresumablyassociatedwithscleralbiometricsinacaseofadultglaucoma.ArchOphthalmol128:139-141,201010)PortellinhaW,BelfortJrR:Centralandperipheralcornealthicknessinnewborns.ActaOphthalmol69:247-250,199111)EhlersN,SorensenT,BramsenTetal:Centralcornealthicknessinnewbornsandchildren.ActaOphthalmol54:285-290,197612)山本節,西崎雅也:乳幼児における角膜厚と眼圧について.眼臨紀1:349-351,200813)AponteEP,DiehlN,MohneyBG:Incidenceandclinicalcharacteristicsofchildhoodglaucoma.ArchOphthalmol128:478-482,201014)MashimaY,SuzukiY,SergeevYetal:NovelcytochromeP4501B1(CYP1B1)genemutationsinJapanesepatientswithprimarycongenitalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci42:2211-2216,200115)OhtakeY,TaninoT,SuzukiYetal:PhenotypeofcytochromeP4501B1gene(CYP1B1)mutationsinJapanesepatientswithprimarycongenitalglaucoma.BrJOphthalmol87:302-304,200316)BrandtJD,CasusoLA,BudenzDL:Markedincreasedcentralcornealthickness:anunrecognizedfindingincongenitalaniridia.AmJOphthalmol137:348-350,200417)KanamoriA,NakamuraM,MatsuiNetal:Goniosynechialysiswithlensaspirationandposteriorchamberintraocularlensimplantationforglaucomainspherophakia.JCataractRefractSurg30:513-516,200418)EgbertJE,WrightMM,DahlhauserKFetal:Aprospectivestudyofocularhypertensionandglaucomaafterpediatricc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heEye)27(10):1387.1401,2010〕Reprintrequests:AkiraNegi,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgeryRelated,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe-shi650-0017,JAPANSUMMARY

時の人 竹内 大 先生

2010年10月29日 金曜日

1386あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(64)防衛医科大学校は,昭和48年11月27日に防衛庁設置法及び自衛隊法に係わる政令(昭和48年政令第348号)に基づいて防衛庁の付属機関として発足し,昭和49年4月に埼玉県入間市にある航空自衛隊入間基地内の施設の一部を仮校舎として開学した.昭和50年8月に本校舎の完成に伴い所沢市に移転され,眼科学教室は昭和52年4月1日に始まり,初代教授には樋渡正五先生が就任され,その後は昭和57年から沖坂重邦先生,平成16年からは西川真平先生が歴代の教授を務められ,平成22年4月から竹内大先生が第4代の教授として着任された.*竹内大先生は平成元年に東京医科大学医学部を卒業後,同眼科学教室に入局し,同年,東京医科大学大学院にも入学した.翌年の平成2年から平成4年の2年間は愛知県がんセンター分子病態学部に国内留学,その後の2年間で日本眼科学会専門医,医学博士を取得し,平成6年から平成9年までの3年間,ハーバード大学スケペンス眼研究所に留学されている.帰国後は東京医科大学眼科助手に復帰し,平成11年に東京医科大学八王子医療センターに異動後,東京医科大学眼科講師,その翌年に東京医科大学病院本院に帰り,平成18年に東京医科大学眼科助教授(現:准教授)に就任している.*研究に関しては,内因性ぶどう膜炎の発症メカニズムの解明に携わってこられた.愛知県がんセンターの国内留学では,ぶどう膜炎を自然発症する異なるメカニズムをもった2種類のマウスを用い,網膜特異抗原反応性T細胞にはぶどう膜炎を発症させるエフェクターT細胞と抑制する制御性T細胞があり,胸腺におけるエフェクターT細胞の削除,制御性T細胞の産生が適切に機能しなければぶどう膜炎が自然発症することを明らかにされた.スケペンス眼研究所では,眼の恒常性を維持している眼組織固有の免疫メカニズムの研究に励み,虹彩・毛様体に局在し,特異な機能を有する抗原提示細胞は,TGF-b,TNFa,IL-12,CD40といった分子を介するメカニズムによりエフェクターT細胞を抑制し,制御性T細胞を活性化することを明らかにされた.これらの研究成果には,1996年,TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology(ARVO)からCoraVerhagen賞を授与され,国内外で高く評価されている.臨床における専門もぶどう膜炎であるが,ぶどう膜炎に伴う器質的障害に対する手術,増殖糖尿病網膜症などの網膜硝子体疾患,黄斑円孔などの黄斑疾患に対する硝子体手術も数多く行っておられる.防衛医科大学校病院は埼玉県西部地域の急性期中核病院であり,竹内先生の専門以外にも角結膜疾患,白内障,緑内障を専門とするスタッフの構成のもと,地域医療のニーズに即した眼科診療を実践されている.また今後は,自衛隊に勤務し,防衛医学を研究している眼科専門の自衛医官とともに自衛隊における視覚認定検査の改善,近視矯正手術などの視覚向上活動の普及にも力を注ぎたいとのことである.*竹内先生は,山本五十六元帥の言葉,「やって見せ,言って聞かせ,させて見て,褒めてやらねば人は動かず」を座右の銘にし,教授就任の所信表明のなかでは「どのような厳しい状況であっても医局員一人ひとりが自らの目標を持ち,高いモチベーションを維持してその達成に努力することができる環境を作り,その環境を整備していくことが私の責務である.眼科全般に必須な知識,技術を持ち,生涯を通してそれらを改善する意欲があり,自らの専門分野においては新たな知見を世界に発信できる医師を育成していきたい」と抱負を語られた.先生には,防衛医科大学校眼科学講座の主宰者として,防衛医科大学校で教育を受けるものに研究の夢を与え,臨床における楽しさとその厳しさを伝え,次の世代を担う自衛医官,医師を育成されることが一層期待される.0910-1810/10/\100/頁/JCOPY時の人防衛医科大学校眼科学・教授竹たけ内うち大まさる先生

時の人 三田村 佳典 先生

2010年10月29日 金曜日

(63)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101385徳島大学眼科は,その歴史を振り返ると,昭和18年2月の徳島県立医学専門学校の設立に遡る.その後,昭和20年に官立に移行してからいくつかの変遷を経て,平成16年4月に国立大学法人への移行に伴い歯学部,薬学部とともに徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部に編入され今日に至る.四国では最も古い,66年余に及ぶ歴史を有し,同窓会の会員数も200名を超える伝統ある教室である.その伝統ある教室の第6代の教授に今年4月,三田村佳典先生が就任された.*前任の塩田洋名誉教授時代は「感染症」「角膜」を教室のメインテーマとし,「網膜硝子体・糖尿病網膜症」「緑内障」にも力を入れられ,又,全国の大学病院でもいち早く電子カルテを眼科に導入してこられた.三田村先生は,今後もそうした伝統を引き継ぎつつ頑張っていきたいと抱負を語られた.現在,他大学同様,医局員の減少で厳しい面もある一方,教室は小さいながら,四国全県に関連病院を持ち,東京,大阪,京都に次いで全国第4位の眼科医の過密地域でもあり,そのせいかどうか医局員は臨床診断や手術手技の習得に非常に積極的に取り組んでおり,そうした熱意に溢れたスタッフは先生にとって大変心強い限りである.なお,“黒瞳連”としての阿波踊りへの参加も特色ある教室行事の一つである.*三田村先生は,1987年3月に北海道大学医学部医学科を卒業後,同大学附属病院(1987年5月.),市立釧路総合病院(1989年4月.)を経て一旦母校の附属病院に戻り(1990年4月.),富良野協会病院勤務(1993年4月.)のあと再び母校の附属病院に戻り(1994年4月.),国立札幌病院(1995年4月.)のあと,1996年1月より東邦大学医学部付属佐倉病院眼科助手,2001年10月より札幌医科大学眼科学講座の講師を務められた.そして2005年1月より文部科学省・海外先進教育研究実践支援プログラムの一環としての「UniversityofSouthernCalifornia,DohenyEyeInstitute」,および「ClevelandClinic,ColeEyeInstitute」に留学され,帰国後の2006年10月から今年2010年3月まで千葉大学大学院医学研究院眼科学准教授を務められた.*先生の研究テーマ・業績を簡単に紹介すると,①糖尿病網膜症の病院解明に関する研究,②網膜疾患の病態・手術に関する研究,③光イメージング技術による視細胞形態評価に関する研究,のほかに,東京都神経科学総合研究所との共同研究として,④網膜色素変性に対する治療法の開発に関する研究,札幌医科大学第2病理学との共同研究として,⑤黄斑浮腫の治療薬の開発に関する研究,などが挙げられる.そして教室の運営にあたっての信念・信条については次のように述べられた.①患者さんのための診療・研究を心がけること.②常に疑問を持ちながら日常診療にあたること.③手術においては術前診察を大切にし,術中には自分の持てるベストを尽くすこと.④臨床経験に裏打ちされた臨床研究,臨床に還元できる研究に努めること.⑤若手の育成には辛抱強くあること.*最後に,趣味を含め日常生活の一端を伺ったところ,北海道大学時代にはボート部に所属され,東医体(東日本医科学生総合体育大会)で優勝・準優勝の実績を残されるなど体力には自信をもっておられたが,現在は腰痛(硝子体術者の持病でしょうか?と苦笑された)のためゴルフも休止され,運動とは疎遠とのこと.たまに東京に出られた際の銀座界隈のフレンチ・イタリアンの名店巡りを楽しみにされ,又,お好きな映画鑑賞は,お子さんが小さいこともあって最近はご自宅でのDVD鑑賞に切り替えておられるようである.0910-1810/10/\100/頁/JCOPY時の人徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野・教授三み田た村むら佳よしのり典先生

新しい眼科ドラッグデリバリーシステム

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYgrowthfactor:VEGF)をターゲットとした抗VEGF療法の時代となり,現在では,眼内に薬物を簡便に直接に送り込める硝子体内投与が広く受け入れられるようになった.1回の硝子体内投与で,4mgのトリアムシノロン・アセトニドが約12週間,ラニビズマブ(ルセンティスR)が約4週間,ペガプタニブ(マクジェンR)が約6週間,有効性を維持できる.しかし,これらの脂溶性のステロイドや高分子量の蛋白質や核酸製剤は例外であり,眼内での半減期が数時間と短い低分子量の水溶性はじめに視覚を担う眼球はその内部の透明性維持のために,血液網膜関門,血液房水関門や強膜などで眼外や血液からの物質移動が厳格に制御されている(図1)1).このため,網膜硝子体疾患に対しては,点眼,軟膏などの局所投与,内服,点滴などの全身投与のいずれにおいても有効濃度に到達,維持させることが困難である.このような背景で,トリアムシノロン・アセトニドの硝子体内投与に始まり,血管内皮増殖因子(vascularendothelial(55)1377*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1377.1384,2010新しい眼科ドラッグデリバリーシステムNewOcularDrugDeliverySystems安川力*涙液ターンオーバー上皮実質内皮虹彩血管内皮毛様体上皮(血液房水関門)強膜網膜血管内皮(内側血液網膜関門)網膜色素上皮(外側血液網膜関門)角膜房水の流れ水晶体硝子体内境界膜ぶどう膜強膜流出路上強膜血管からの流出脈絡膜血管からの流出図1眼内薬物移行の障害となるもの眼内への薬物移行を制限するものとしては,(1)角膜上皮,角膜内皮,網膜色素上皮,網膜血管内皮,毛樣体無色素上皮,虹彩血管内皮など密着結合をもつ上皮や内皮と内境界膜,(2)涙液,房水の流れ,(3)結膜や脈絡膜の血液循環(細胞外液の体循環への回収)があげられる.水溶性薬剤に関して特に眼内への移行は制限されるため,硝子体内投与が最も有効であるが眼内半減期は短いため頻回投与を必要とする.無硝子体眼では眼内の薬物滞留性はさらに低下する.1378あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(56)II眼局所での薬物徐放化:コントロールドリリースコントロールドリリースのための眼科DDS製剤の形状としては,手術により眼内に埋植が必要なインプラントと,注射針で簡便に注入可能なロッド状製剤やマイクロスフェアのような微粒子製剤に大別される.また,薬物を内包し製剤の形状を保持する基材として,非分解性高分子または生体内分解性高分子が使用され,それぞれ長所,短所がある(図2,表1)1,3).非分解性インプラントは,薬物を非分解性高分子の被膜で包み込んでインプラントとして成型したものであり,内部に大量の薬剤を貯蔵でき(リザーバー型),薬物放出が被膜の薬物透過率と表面積のみで制御できるため,後述する生体内分解性の製剤よりも長期(半年~数年)に安定した薬物徐放が可能である反面,内包する薬物がなくなっても眼内にインプラントは残留することになる(表1)1,4,5).生体内分解性インプラントの最大の長所は,体内において分解消失するので,除去手術が不要な点である1,3,6,7).生体内分解性高分子を基材として薬物と均質に混合して成型され(モノリシック型),水中で徐々に基材の膨化,加水分解に伴い,内封されている薬物が徐放される(表1).リザーバー型のような高分子の被膜を必要としないため,ロッド状製剤やマイクロスフェアのような微粒子製剤など適当な形状に加工が容易である.ただ,薬物徐放には,生体内分解性高分子の種類,分子量,薬物との配合率,薬物の溶解度,製剤の表面積,体積など,多くの因子が影響するため,非分解性インプラントと比較して安定した徐放製剤の開発設計がむずかしく,数カ月の徐放に留まるが,より長期で安定した徐放のための改良の余地を残している.1.眼内埋植型ステロイド徐放製剤:RetisertRRetisertR(米国ボシュロム社)は,VitrasertRと類似の非分解性眼内インプラントで,2005年に米国にて非感染性後部ぶどう膜炎に対して実用化され,わが国においても臨床試験中である.0.59mgのフルオシノロンを貯蔵しており,ポリビニルアルコールでコーティングさ薬剤2)や,1回投与量が制限される高濃度で毒性を認める代謝拮抗剤などの薬物は,有効濃度維持のためには数日ごとの硝子体内投与が要求されるため,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD),黄斑浮腫,網膜色素変性症など,慢性経過をたどる網膜硝子体疾患を標的とした治療のコンプライアンスは乏しい.このような薬物濃度維持の困難を克服した最初の眼内ドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)製剤として,1996年に米国にて非分解性眼内インプラント(VitrasertR:米国ボシュロム社)が実用化された1).エイズ患者にしばしば合併するサイトメガロウイルス網膜炎を対象に,ガンシクロビルを眼内に5~8カ月もの長期間,徐放可能である.この頃のDDS製剤の開発競争で得られた知識を元に各種の眼科DDS製剤が今や実用化目前である.本稿では現在臨床試験が行われている新規DDS製剤について解説する他,今後,開発が進んでくるであろうDDS研究や将来の展望について紹介する.IDDSの種類DDSの概念に基づき,眼内へのDDS開発の可能性として以下の三つに分類される1).(1)眼局所での薬物徐放化(コントロールドリリース)(例:VitrasertR)(2)全身投与で眼組織への薬物標的指向化(ターゲティング)(例:光線力学的療法)(3)強膜,細胞膜その他の隔壁通過促進(例:遺伝子導入,イオントフォレーシス)このなかでもVitrasertRをはじめとした(1)コントロールドリリースシステムの開発が活発に行われており,市場に出ているものや臨床試験中にあるものなど多数存在する.(2)ターゲティング療法は,ベルテポルフィンの脈絡膜新生血管周囲への集積する性質と局所への光線照射を組み合わせた光線力学的療法が良い例である.遺伝子導入なども,(3)細胞内への導入効率を向上させるための工夫,技術や,導入により得られる標的蛋白の持続的な発現促進や抑制という点で広義のDDSに含まれる.(57)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101379RetisertR移植前に40~54%であったものが移植後34週の時点で7~14%に減少し,ステロイドの全身投与,結膜下注射,点眼の必要性も大幅に減少している4,5).れて,長さ5mm,幅2mm,厚み1.5mmに成型されている(図3A).実に30カ月もの間,安定して硝子体腔へ薬物徐放が可能である.ぶどう膜炎の再発率が表1各種コントロールドリリース製剤の長所・短所非分解性インプラント生体内分解性インプラント微粒子製剤製剤例VitrasertR,RetisertRSK-0503(OzurdexTM)DE-102IluvienR,I-vationTMトリアムシノロン・アセトニド***使用基剤非分解性高分子生体内分解性高分子生体内分解性高分子ポリビニルアルコール乳酸-グリコール酸共重合体乳酸-グリコール酸共重合体エチレンビニルアセテートポリ乳酸ポリ乳酸シリコーンラミネートなどゼラチンなどゼラチンなど薬物封入タイプ貯蔵(リザーバー)型均質(モノリシック)型均質(モノリシック)型徐放期間半年~数年数カ月**数カ月**長所長期間の安定した徐放除去手術不要注入可能さまざまな形状に成型可能注入部位選択可能短所被膜破損時の薬物大量放出*初期,後期薬物大量放出**初期薬物大量放出**製剤がやや大型有害事象出現時に回収困難ときに除去手術が必要*埋植手術時,破損に注意を要する.**前処置,基材の種類,薬物との配合率を変えることで改善可能.***基剤を必要としない.結膜.留置型OcusertR*,MydriasertR*,LacrisertR*眼内埋植型VitrasertR*,RetisertR*眼内挿入型SK-0503(OzurdexTM)**眼内挿入型IluvienR(MedidurTM)**I-VationTM**NT-501TM**微粒子製剤DE-102**,トリアムシノロン・アセトニド生体内分解性(モノリシック型)非分解性(リザーバー型)アプリケーター細胞隔離半透膜封入細胞PVAらせん型EVAorsilicone薬物図2眼科領域の薬物放出制御システム非分解性高分子の被膜によって薬物を内部に貯蔵するリザーバー型の眼内インプラントか生体内分解性高分子と薬物の均質な混合物を成型したモノリシック型の眼内インプラントや微粒子製剤に大別される.結膜.に留置する徐放製剤でピロカルピン,トロピカミド,hydroxypropylmethylcelluloseをそれぞれ徐放するOcusertR,MydriasertR,LacrisertRが以前に上市されている他,眼内へのDDS製剤としては,非分解性インプラントであるガンシクロビル徐放製剤(VitrasertR)とフルオシノロン徐放製剤(RetisertR)が米国で商品化されている(*).その他,各種DDS製剤の臨床試験が行われている(**).PVA:polyvinylalcohol,EVA:ethylenevinylacetate.1380あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(58)の視力改善を18%に認めている.埋植部位の強膜が長期的に耐久しうるか,抜去可能かなど評価が待たれる.3.眼内挿入型ステロイド徐放製剤:IluvienRIluvienR(旧名:MedidurTM)(pSivida社)は,RetisertRと同じくフルオシノロン・アセトニドを含有する内部貯蔵型の非分解性DDS製剤である.RetisertRと違い,3mmのロッド状の形状をしていて25ゲージ針を用いて経結膜的に硝子体内に挿入可能である.18~36カ月の長期薬物徐放が可能である.糖尿病黄斑浮腫を対象とした第III相試験が進行中である.硝子体中に固定なしで滞留するインプラントが合併症をひき起こさないか,また,必要となった場合に容易に眼外に摘出できるかなど評価が待たれる(図2).4.眼内挿入型ステロイド徐放製剤(生体内分解性):SK.0503,OzurdexTM生体内分解性デキサメタゾン徐放製剤(SK-0503:三和化学,OzurdexTM:アラガン社)が,米国に続いて,国内でも黄斑浮腫を対象に実用化に向けた臨床試験が行われている.このDDS製剤は,デキサメタゾンと生体内分解性高分子である乳酸-グリコール酸共重合体の混合物がシャープペンシルの芯のような形状で22ゲージ針の内腔に装.され,ペンシル型の特殊なアプリケーターにて経結膜的に硝子体腔へ挿入が可能であり(図3C),長期間にわたりデキサメタゾンを徐放させることが可能であり,有効性が示されつつある.後述のマイクロスフェアとともに,侵襲が少なく摘出が不要であるため,ぶどう膜炎に対しても臨床応用が可能であると考えられる.5.ステロイド徐放マイクロスフェア製剤:DE.102生体内分解性ステロイド徐放マイクロスフェア製剤(DE-102:参天製薬)の糖尿病黄斑浮腫に対する臨床試験が国内で実施されている(図3D).トリアムシノロン・アセトニドの使用経験でわかるように,微粒子製剤はさまざまな投与部位(結膜下,Tenon.下,硝子体内,網膜下など)を選択することができる.本試験ではTenon.下投与による有効性の評価を行っているが,優れた有効性を示す反面,ステロイドによる眼圧上昇と白内障の進行も顕著である.移植後34週の時点で60%の症例で眼圧下降剤を必要とし,移植後2年の時点で32%もの症例で濾過手術を必要とした.また,ほとんどの有水晶体眼の症例で白内障手術を必要としたと,RetisertRの使用上の注意に記載されている.ただ,ぶどう膜炎が遷延する症例ではもともと続発緑内障,併発白内障を認める場合も多く,ぶどう膜炎の鎮静化のための優れた持続効果は十分評価できる.2.経結膜ねじ込み型ステロイド徐放製剤:I.vationTMI-vationTM(SurModics社)は,ユニークな長さ5mmのらせん状のねじの形状をしていて,経強膜的に25ゲージ針にて穿刺した部位から毛様体扁平部にねじ込んで固定できるトリアムシノロン・アセトニド徐放製剤である(図3B).925μgのトリアムシノロン・アセトニドを含有し,最高2年間薬物徐放が可能である.糖尿病黄斑浮腫を対象に安全性が示され,さらなる臨床試験が予定されている.治療前の平均網膜厚が376μmに対し,治療開始6カ月の時点で230μmに改善し,15文字以上ABCD図3臨床試験中の徐放製剤A:眼内埋植型ステロイド徐放製剤(RetisertR)(米国ボシュロム社提供).B:経結膜ねじ込み型ステロイド徐放製剤(I-vationTM)(SurModics社提供).C:(生体内分解性)眼内挿入型ステロイド徐放製剤(SK-0503)(三和化学研究所提供).D:ステロイド徐放マイクロスフェア製剤(DE-102)(イメージ).(59)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101381相試験が行われている.カプセルの材質についても徐放したい物質に適した高分子への改良が進められているようである.実用化されるか未知の部分が多いが,抗体やサイトカインを安定供給できるシステムとして期待したい.8.眼内ゲル化製剤滲出型AMDに対する抗VEGF薬の有用性が広く認知されるなか,無硝子体眼において通常の周期での硝子体内投与が無効である問題点が浮き彫りになっている.無硝子体眼に対して有効な,または,現在の治療間隔を延長できる蛋白製剤や核酸製剤の徐放化が,現在,開発者の大きな関心事である.たとえば,SurModics社など硝子体腔に注入後ゲル化する高分子などの開発が進んでいる.ゲル化のための溶媒の網膜への悪影響はないか,ゲル化で蛋白質や核酸の眼内滞留を延長できるか,中間透光体の透明性を損なわないか,眼圧上昇やゲル材料の網膜毒性がないかなど評価が待たれる.III全身投与で眼組織への薬物標的指向化:ターゲティング光感受性物質ベルテポルフィンと光線を組み合わせた光線力学的療法も,血中のリポ蛋白というナノサイズの粒子中に移行したベルテポルフィンが新生血管組織周囲および新生血管の内皮細胞内へ集積する物理化学的,生物学的特性と,外部からの光線照射を巧みに組み合わせたターゲティング療法である.高分子が受動的に炎症や血管新生部位に効率よく送達されることは,実は,生体内で免疫反応のためBリンパ球が産出する免疫グロブリン(Ig)で実践されている.すなわち,IgGの分子量が149,000と通常の蛋白質と比較して大きいことには意味があって,血中に循環する抗体は血中半減期が長く,血管透過性亢進している炎症部位で優位に血管外に出るため,抗体が効率よく炎症部位に送達される.このように液性免疫は生体による受動的ターゲティング療法なのである(図4)8).ところで,癌組織や脈絡膜新生血管組織は透過性亢進した血管が存在するが,周囲に高分子を回収するべきリンパ管が未熟または存在しない特殊な環境下にある.したがって,抗体のような大きな分子は血硝子体内投与も可能と考えられ,無硝子体眼などでの薬物徐放にマイクロスフェア製剤は威力を発揮する可能性を秘めている.6.ステロイド水性懸濁注射液:トリアムシノロン・アセトニド世界中で適応外使用として普及したトリアムシノロン・アセトニドのTenon.下投与および硝子体内投与も生体内分解性高分子などの基材を用いない微粒子(懸濁性)製剤の一種であり,4mgの硝子体内投与で硝子体内半減期が18.6日とされており広義の薬物徐放システムである.脂溶性で局所濃度が最高に達しても有効性が毒性に勝るステロイドの特性によりなせる技である.現在臨床試験中のDDS製剤のほとんどがステロイド徐放製剤であるが,臨床での使用意義という点では,トリアムシノロンと比較して,単回投与の有効期間,治療効果,副作用,費用,治療の簡便性などに関して優れた点がなければならないだろう.または,無硝子体眼におけるトリアムシノロンの硝子体内投与後の半減期が3.2日と短縮するため,このような眼における徐放効果などで活路を見いだすことになるだろう.7.眼内埋植型カプセル化細胞製剤:NT.501生体材料,細胞工学の技術を駆使して開発された斬新なDDSとして注目されるのが,NT-501(Neurotech社)である.単離・培養したヒト網膜色素上皮細胞に,プラスミド導入により毛様体神経栄養因子(ciliaryneurotrophicfactor:CNTF)を持続的に産生するように遺伝子操作を行ったものを半透膜のカプセルに封入したまったく新しい概念のDDS製剤である(図2).抗体が透過せず,細胞性・液性免疫を回避できるため,内部の細胞は異種のものでも癌化細胞でも理論的には使用可能で,内部の細胞が生存するために必要な物質や細胞が産生した蛋白質などはカプセルを透過できるとされる.VitrasertR,RetisertRと同じく,毛様体扁平部に縫合糸で固定される.網膜色素変性症の第I相試験では安全性が示され,また,カプセル埋植後6カ月経過しても内部の細胞は生存していることが確認され,第II相試験が予定されている.現在,萎縮型AMDについても第II1382あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(60)の脈絡膜新生血管モデルへ集積するとの報告もある11).このEPR効果に基づく受動的ターゲティングという概念はもともと癌治療の分野で提唱されたが,眼科領域に応用できる大きな可能性を秘めている.IV遺伝子導入:siRNA(smallinterferingRNA)とAdPEDF遺伝子導入は長期に蛋白発現を誘導したり阻害したりできるため広義のDDSである.最近では,2006年の関連研究でノーベル医学生理学賞を受賞したことで有名になったsiRNAの製剤化に向けた開発が活発である.短い配列の二本鎖RNA(siRNA)を細胞内に導入することによりRNA干渉,すなわち,相補的配列をもつmRNAを分解し蛋白発現を抑制できることが哺乳類でも立証されたことにより,siRNAを用いた特定遺伝子管外に漏出した後,回収されにくく新生血管周囲に集積する傾向がある.これをenhancedpermeabilityandretentioneffect(EPR効果)とよぶ(図5)8).ただし,分子量が大きすぎると,血液循環において,肝臓,脾臓などの細網内皮系や肺組織に回収される傾向があるので,EPR効果を得るために最適な分子量というものがあり,ポリエチレングリコール,デキストランや,ポリビニルアルコールなどの直鎖型の水溶性高分子の場合,分子量22万ぐらいが最も効率よく集積効果が得られる.これらの水溶性高分子の生体適合性については,たとえばマクジェンRに安定化と眼内滞留性向上のため,ポリエチレングリコールが付加されている身近な例が示すように問題ないことは示されている.このような概念のもとで,筆者らは,血管新生阻害作用を示す低分子量薬剤のTNP-470と,ペプチド製剤としてインターフェロンを高分子化し,家兎の脈絡膜新生血管モデルで効果を調べたところ,高分子化していない同一薬剤に比較し,脈絡膜新生血管組織への集積効果(EPR効果)(図5)と,より低容量,より少ない治療頻度で治療効果の向上を確認した9,10).また,ミセル粒子が,EPR効果によりラット高分子薬剤③副作用軽減≪*②ターゲティング①血中半減期延長腎臓肺/RES正常組織網膜脳新生血管炎症部位=低分子量薬剤副作用大/効果少図4高分子の受動的ターゲティング特性通常の低分子量薬剤は尿中排泄率が高く全身に均一に分布するため,効果が得られにくく,副作用が問題となる.高分子は①血中半減期が長く,②血管透過性亢進部位(血管新生・炎症部位)に送達(ターゲティング)されやすい.同時に③副作用軽減につながる.ただし,あまり巨大分子になると肺や細網内皮系(reticuloendothelialsystem:RES)に捕縛されやすい(*).(文献8より)ECADB脈絡膜新生血管高分子網膜色素上皮視細胞外節脈絡膜毛細血管板図5脈絡膜新生血管へのEPR効果家兎の脈絡膜新生血管モデルを作製し,脈絡膜新生血管を蛍光眼底造影(A,B)で確認後,蛍光色素標識高分子(A,C同一眼)と蛍光色素のみ(B,D同一眼)を静脈内投与24時間後に蛍光顕微鏡で観察を行う(C,D)と,脈絡膜新生血管周囲には高分子が集積しているのがわかる.眼内にリンパ管が存在しないので,脈絡膜新生血管周囲に漏出した高分子は回収されにくく集積する傾向がある(EPR効果)(E).(文献8より)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101383の抑制に関する臨床研究が多数行われている.滲出型AMDに対しても,VEGFを標的としたbevasiranibsodium(Cand5)(OpkoCorp.)とVEGFR-1を標的としたsirna-027(SirnaTherapeutics,Merck)による臨床試験が行われ,一定の治療効果と安全性が示されつつある.siRNAは,抗VEGF療法と異なり,すでに分泌されたVEGFの作用を阻害するのではなく,新たなVEGFやVEGF受容体の産生をおそらく持続的に抑制して作用を発揮すると考えられている.そのため,抗VEGF療法のような即効性はなく,数週間後に効果が現れてある程度持続的効果を発揮するらしい.sirna-027の単回の硝子体内投与後12週間で視力改善15%,不変77%,悪化8%であった.その他,VEGFに非依存的に血管新生に関与しているとされるRTP801遺伝子をターゲットとしたPF-04523655(Pfizer,QuarkPharmaceuticals,Inc.)による滲出型AMDと糖尿病網膜症に対する第II相臨床試験が行われている.ただ,現状では問題点も多い.遺伝子治療の分野では,細胞内への遺伝子導入の障壁となる細胞膜通過という克服すべき問題がある.遺伝子導入率向上のために,ウイルスベクターや,安全面からウイルス由来の物質の使用を避けてリポソームなどの非ウイルス性ベクターの開発に関する研究分野が存在する.siRNAに関しても例外でなく,invitroの実験ではリポフェクタミンなど陽電荷の試薬を併用することにより導入効率を上げて使用されるが,このような陽電荷試薬は細胞膜への影響力をもち,それは細胞毒性につながる要素でもある.このように,臨床試験において,単純に硝子体内投与しても導入されない可能性が高い.さらに,修飾なしのsiRNAは血中半減期が10秒と非常に不安定で,安定性を向上させるため化学修飾による工夫が施されているが,RNA干渉の活性も低下している可能性がある.さらに,特許の問題,コストの問題などが開発の障壁となっている.また,Toll-likereceptor3などを介した非特異的作用や免疫応答性などが問題となりうる12).ウイルス性ベクターを使用した薬剤の臨床試験も進んでいる.色素上皮由来因子(pigmentepitheliumderivedfactor:PEDF)は抗血管新生作用を有するサイトカインであり,アデノウイルスベクターを用いPEDF遺伝子導入のために製剤化されたものがAdPEDF(Gen-Vec社)であり,現在,硝子体内投与でphaseIが終了し,安全性が確認されている.網膜色素変性症などの遺伝疾患に対しては根本治療として遺伝子導入に期待したいが,AMDなどの加齢性の慢性炎症疾患に対する開発では抗炎症が必ずしもよいとは限らず,遺伝子発現の操作による長期的な生理機能への影響など注意して評価していく必要がある.おわりに現在,多くのDDS製剤の開発が進んでいるが,臨床応用に近いものの多くはステロイド製剤であり,トリアムシノロン・アセトニドを超える薬効が得られることが要求されるであろう.滲出型AMDを対象に,国内でも2008年以降,いわゆる抗VEGF療法の時代となり,硝子体内投与はおおむね安全で有効なものとして広く認識されるようになった.しかし,硝子体内投与をくり返すことは低頻度であっても眼内炎や脳梗塞など重篤な合併症が懸念される.また,硝子体内投与時に注射針により水晶体を損傷した場合はその後の滲出型AMDの治療に重大な影響をもたらしうるため重大な合併症である.すなわち,このような症例で進行してきた白内障では後.破損を認める場合が多く,白内障手術時に前部硝子体切除を行わざるをえない場合があるが,硝子体手術を施行した無硝子体眼と同様,術後の眼内での抗VEGF薬の滞留性が低下して,従来の1カ月ごとの硝子体内投与で有効性が得られなくなることが推定される.このように,今後,低分子量の薬物の徐放システムの開発だけでなく,ラニビズマブやペガプタニブなどの高分子量の蛋白製剤や核酸製剤の硝子体内投与の投与回数を減らすことができるDDSや無硝子体眼でも有効なDDSの開発が求められるであろう.文献1)YasukawaT,OguraY,TabataYetal:Drugdeliverysystemsforvitreoretinaldiseases.ProgRetinEyeRes23:253-281,20042)GhateD,EdelhauserHF:Oculardrugdelivery.ExpertOpinDrugDeliv3:275-287,20063)久納紀之:眼科DDS(2)放出制御.III.治療への応用.眼科における最新医工学.臨眼59(11):230-237,2005(61)1384あたらしい眼科Vol.27,No.10,20104)CallananDV:Novelintravitrealfluocinoloneacetonideimplantinthetreatmentofchronicnoninfectiousposterioruveitis.ExpertRevOphthalmol2:33-44,20075)JaffeGJ,MartinD,CallananDetal:Fluocinoloneacetonideimplant(Retisert)fornoninfectiousposterioruveitis:thirty-four-weekresultsofamulticenterrandomizedclinicalstudy.Ophthalmology113:1020-1027,20066)安川力,木村英也,小椋祐一郎:生体分解性高分子による強膜プラグ.あたらしい眼科18:15-25,20017)KimuraH,OguraY:Biodegradablepolymersforoculardrugdelivery.Ophthalmologica215:143-155,20018)安川力:加齢黄斑変性:新しい薬物療法の可能性.あたらしい眼科24:303-315,20079)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targeteddeliveryofanti-angiogenicagentTNP-470usingwater-solublepolymerinthetreatmentofchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci40:2690-2696,199910)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targetingofinterferontochoroidalneovascularizationbyuseofdextranandmetalcoordination.InvestOphthalmolVisSci43:842-848,200211)TamakiY:Prospectsfornanomedicineintreatingagerelatedmaculardegeneration.Nanomedicine4:341-352,200912)KleinmanME,YamadaK,TakedaAetal:Sequenceandtarget-independentangiogenesissuppressionbysiRNAviaTLR3.Nature452:591-597,2008(62)

抗アレルギー薬点眼の現在

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY肥満細胞膜安定化薬であるが,以前より痒みに対し即効性があることが知られていた.最近,その成分であるクロモグリク酸ナトリウムに知覚神経の脱分極を抑制し神経終末よりのサブスタンスPの放出を抑制する作用があることが示唆され,痒みに対する即効性のメカニズムが明らかになりつつある.また,インタールRはpHが酸性のため点眼時の爽快感があり,痒みの強い症例によい.リザベンRの成分であるトラニラストは抗TGF-b(transforminggrowthfactor-b)作用や結膜線維芽細胞からのコラーゲン産生を抑制する作用をもち,微小乳頭形成が著明な通年性アレルギー性結膜炎に効果が期待できる.最近,トラニラストにはIL(インターロイキン)-13やIL-4などのヘルパーT細胞2型(Th2)サイトカインによる角膜実質細胞からの好酸球遊走因子であるeotaxinの産生を抑制することも明らかになった1).リはじめに抗アレルギー薬点眼の適応になる疾患には季節性(花粉性)アレルギー性結膜炎(seasonalallergicconjunctivitis:SAC),通年性アレルギー性結膜炎(perennialallergicconjunctivitis:PAC),春季カタル(vernalkerato-conjunctivitis:VKC),アトピー性眼瞼角結膜炎(atopicblepharo-kerato-conjunctivitis:ABKC),コンタクトレンズ関連乳頭性結膜炎(contactlensrelatedpapillaryconjunctivitis:CLPC)などがある.狭義の抗アレルギー薬点眼というと肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼だが,広義になるとステロイド薬点眼や免疫抑制薬点眼も含まれる.本稿では,広義の抗アレルギー薬点眼についてそれぞれの特徴・適応疾患・使用法・使用時の注意などについて解説する.また,抗アレルギー薬点眼の未来についても言及する.I抗アレルギー薬点眼1.肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼現在,日本で使用できる抗アレルギー薬点眼は9種類ある.大きく肥満細胞膜安定化薬点眼と抗ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼に分けることができる(表1).前者は比較的効果がマイルドで持続性があり,初期療法にも適している.一方,後者は痒み・充血などに即効性がある.インタールRは抗アレルギー薬点眼では最も古い(49)1371*NobuyukiEbihara:順天堂大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕海老原伸行:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学大学院医学研究科眼科学特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1371.1376,2010抗アレルギー薬点眼の現在CurrentAnti-allergyOphthalmicDrops海老原伸行*表1抗アレルギー薬点眼肥満細胞膜安定化薬クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)ペミロラストカリウム(ペミラストンR,アレギサールR)アンレキサノクス(エリックスR)アシタザノラスト水和物(ゼペリンR)イブジラスト(アイビナールR,ケタスR)トラニラスト(リザベンR)ヒスタミンH1受容体拮抗薬塩酸レボカバスチン(リボスチンR)フマス酸ケトチフェン(ザジテンR)塩酸オロパタジン(パタノールR)1372あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(50)る.小児には沁みない中性薬がよい.どの点眼薬を選択するかを患者の使用感で決定することも大切である.点眼コンプライアンスが良いものを提供することを心がける.2.肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼の併用肥満細胞膜安定化薬点眼とヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼の併用は効果的である.肥満細胞は抗原特異的IgE(免疫グロブリンE)と多価抗原によって脱顆粒することでヒスタミンをはじめとする多様な起痒物質(痒みを起こす物質)を放出する.肥満細胞は起痒物質の宝庫でヒスタミンの数十~数万倍強い起痒物質(セロトニン・ロイコトルエンB4・トリプターゼ)も放出される.しかし,ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼はヒスタミンを介する痒みを抑制するが,それ以外の分子を介する痒みは抑制できない.ゆえに,膜安定化薬点眼を併用することによって,ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼のみでは抑制できない痒みを抑制できる可能性がある.3.抗アレルギー薬点眼の使用上の注意点a.薬剤性角膜上皮症多くの抗アレルギー薬点眼には防腐剤が含まれている.そのおもなものはBACであり,0.002~0.015%(20~150μg/ml)の濃度で含有されている.一般にBACは涙液にて希釈され,涙液のターンオーバーとともに点眼後約5分で70~100%消失してしまうので臨床上問題にならない.しかし,多剤点眼患者やドライアイ患者にはBACによる薬剤性角膜上皮症が起こりやすい.一時点眼を中止し,改善後防腐剤フリーのインタールUDR,ザジテンUDRに処方を変更する(図2).b.接触眼瞼炎散瞳剤や抗緑内障薬などで起こることが多いが,抗アレルギー薬点眼でも起きる.特にザジテンRやエリックスRでの報告が多い.点眼薬による接触眼瞼炎の感作期間は1年以上に及ぶことが多く注意が必要である.一時点眼を中止し,眼瞼炎を治療し,改善後に他の薬剤に変更する.また,BACなどの添加物に対する接触眼瞼炎もあり防腐剤フリーの点眼への変更が必要である.ボスチンR(塩酸リボカバスチン)・ザジテンR(フマル酸ケトチフェン)には強いヒスタミンH1受容体拮抗作用がある.パタノールRの成分であるオロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用と肥満細胞膜安定化作用の両方の作用がある.ヒスタミンH1受容体拮抗薬点眼は痒みや充血の強い症例によい.アレギサールRやペミラストンRは1日2回の点眼で効果を発揮し,コンタクトレンズ装用前後の点眼に適している.エリックスRは中性で沁みないので小児に適している.ゼペリンRは塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)以外の防腐剤であるパラベン・クロロブタノールを使用しているので,BACによる角膜上皮症を認める症例に適している.アイビナールR・ケタスRの成分であるイブジラストには各種phosphodiesteraseに対する阻害効果があり,点眼薬で唯一,抗ロイコトルエンや抗活性酸素の作用がある.また,最近単球やマクロファージの遊走に重要なケモカインであるmacrophagemigrationinhibitoryfactor(MIF)に対する阻害作用も明らかになった2).MIFは喘息やアトピー性皮膚炎の発症や増悪に関与しているケモカインである.抗アレルギー薬点眼はそのpHにより酸性・中性・アルカリ性に分けることができる(図1).酸性薬は点眼時に目に沁みるが,中性薬は沁みない.患者によっては痒みに対する爽快感を求め沁みる点眼を希望する人もい涙液インタールR(7.45±0.16)(DSCG)ゼペリンR(アシタザノラスト)ザジテンR(フマル酸ケトチフェン)リボスチンR(塩酸レボカバスチン)エリックスR(アンレキサノクス)リザベンR(トラニラスト)アレギサールR(ペミロラストカリウム)ケタスR,アイビナールR(イブラスト)345(pH)6789104.0~7.04.8~5.86.7~7.85.0~7.07.0~8.07.5~8.54.5~6.06.0~8.0図1アレルギー薬点眼(各抗アレルギー点眼薬のpH)(51)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101373在,抗アレルギー薬徐放性のSCLの開発も進んでおり,将来期待できる(表2).d.ドライアイ・アトピー性皮膚炎アレルギー性結膜炎を悪化させる疾患としてドライアイとアトピー性皮膚炎がある.ドライアイは涙の量が少ないので花粉などの抗原が眼の中(結膜.)に飛入してもそれをwashout(洗い流す)することができない.Sjogren症候群によるドライアイでは結膜上皮に炎症が生じ,バリア機能が低下し抗原が肥満細胞が多く常在する固有層に侵入しやすい.以上のようにドライアイに合併したアレルギー性結膜炎は重症化しやすい.ゆえに,人工涙液やヒアルロン酸点眼などの併用が必要である.アトピー性皮膚炎で眼瞼炎を合併すると,その痒みによる眼掻破行動が惹起され,その機械的刺激によって結膜の肥満細胞が脱顆粒を起こし,結膜炎が悪化する.ゆえに,アトピー眼瞼炎の治療も必要である.痒みを取る第二世代の抗ヒスタミン薬の内服や免疫抑制薬軟膏(プロトピックR)の使用などが効果的である.4.初期療法初期療法とは花粉飛散予定日の約2週間前より抗アレルギー薬点眼を始めることによって,花粉飛散直後またはそれ以降の症状を症状発現後の点眼治療に比較して抑制・軽減することを目的としている.耳鼻科領域では以前からよく施行されていたが,最近点眼でも行われるようになった.花粉性結膜炎患者を対象とした筆者らの検討では,アイビナールR,リザベンR,パタノールRなどを花粉飛散予定日2週間前より点眼した右眼は人工涙液を点眼した左眼に比べ,統計学的有意さをもって飛散時・後の「痒み」の症状を抑制・軽減した3~5).毎年花c.コンタクトレンズ(CL)装用時の点眼CL装用時の抗アレルギー薬点眼の使用についてはいろいろな考え方がある.筆者は,毎日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)なら装用時の点眼でも良いと考える.しかし,それ以外のSCLやハードコンタクトレンズ(HCL)では,外して点眼したほうが安全と思われる.アレルギー性結膜炎の症状や所見が重度のときはCLを中止させ点眼を施行する.しかし,軽度や中等度の症例,何がしかの理由でCLを中止できない人にはCLを装用しながら点眼療法を施行することもある.一般に抗アレルギー薬点眼は1日4回のものが多いが,アレギサールR・ペミラストンRは1日2回なのでCLの装用前後に点眼ができる.装用中の点眼薬は中性のもの(パタノールR,エリックスR,リザベンRなど),懸濁していないもの,防腐剤フリーのものが理想である.酸性点眼は一部のSCLに形状変化を起こすことが知られている.リボスチンRは懸濁しているのでCL装用時の点眼には不向きである.また,SCLはマイナスに帯電したものが多くBACが付着しやすい傾向がある.筆者らの検討では,特にシリコーンハイドロゲル素材のレンズにはBACが強く吸着し,放出しづらいことがわかった.ゆえに,頻回交換型レンズ(2週間・1カ月交換SCL)装用中の抗アレルギー薬点眼は防腐剤フリーのものが理想である.防腐剤フリーの点眼にはインタールUDR,ザジテンUDRがある.時々,CL装用時の点眼がCL非装用時の点眼と比較して効果があるという患者がいる.点眼薬がCLに吸着・吸収され,徐放性に放出されることにより長時間効果が持続している可能性がある.現ザジテンUDRインタールUDR図2防腐剤フリーの点眼表2コンタクトレンズ装用者の抗アレルギー薬点眼の選択①中性②懸濁していないもの③防腐剤フリー④1日2回点眼1374あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(52)ン点眼でさえ,小児(3~9歳)の場合,1日に6回点眼で29%,1日4回点眼で16%に中等度反応(6~15mmHg)の眼圧上昇を認める7).春季カタルは年少者の男子に多い疾患であり,ステロイド薬点眼を使用する際には十分な注意が必要となる.一方,カルシニューリン阻害薬点眼には眼圧上昇効果は認めない.むしろ,ステロイド点眼より離脱することができるため,眼圧が下降する症例が多い8).b.感染症の誘発感染性角膜炎の原因として過剰なステロイド薬点眼の使用が臨床上大きな問題となっている.一方,免疫抑制薬点眼による角膜感染症のリスクはステロイド薬点眼と比較して低い.しかし,ステロイド薬点眼との併用例・アトピー皮膚炎合併例・年少者に長期間使用するときには注意が必要である8,9).2.0.1%シクロスポリン点眼:パピロックRミニの長期成績a.春季カタルに対する効果0.1%シクロスポリン点眼の投与後6カ月までの有効性や副作用については報告がある8,9).では,投与後6カ月以降の長期使用の成績はいかなるものか.6カ月以上投与された171例(投与期間181~716日,平均218.2日,最長716日)の有効性・副作用を6カ月までのそれと比較した.自覚症状を掻痒感・眼脂・流涙・羞明感・異物感・眼痛の6症状に分け0(なし),1(軽度),2(中等度),3(重度)の4段階でスコア化した.また,他覚所見を眼瞼結膜の充血・腫脹・濾胞・乳頭・巨大乳頭,眼球結膜の充血・浮腫,輪部結膜のトランタス斑・腫脹,角膜上皮障害の10所見に分け,自覚症状同様4段階にスコア化した.投与前の平均スコアは自覚症状7.5,他覚所見13.7であった.点眼後1,2,3,6カ月後の合計スコア値の変化量(改善度)は自覚症状では.3.9,.4.5,.4.8,.5.1,他覚所見では.4.6,.5.4,.6.1,.6.5と使用後1カ月目から効果を示し,6カ月にわたってその効果が維持された.さらに,6カ月以降の使用例においても変化量(改善度)は自覚症状.4.8,他覚所見.6.5と維持された.6カ月以前に症状寛解に粉症で苦しんでいる症例で当年に大量の花粉飛散が予想されるときは一度試してみる価値がある療法である.II免疫抑制薬点眼の登場新しい薬の登場は,疾患の治療方針を変更させる.また,その薬剤の効果判定は,その疾患の発症・増悪メカニズムの解明につながる.1950年代初頭にステロイド薬点眼が,1980年代前半に抗アレルギー薬点眼が臨床使用できるようになって以来,春季カタル治療の主役はステロイド薬点眼と抗アレルギー薬点眼であった.しかし,最近,免疫抑制薬点眼である0.1%シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)と0.1%タクロリムス点眼(タリムスR)が臨床使用できるようになり主役の座が替わろうとしている.シクロスポリン・タクロリムスともT細胞の細胞内伝達系において重要な役割をしているカルシニューリンを阻害し,T細胞の増殖やサイトカイン産生を強力に抑制する.ゆえに,シクロスポリン・タクロリムスの点眼をまとめて,その作用機序よりカルシニューリン阻害薬点眼とよぶことも多い.1.春季カタル治療におけるステロイド薬点眼の問題点ステロイド薬点眼の副作用には眼圧上昇・感染症誘発・白内障・創傷治癒の遅延などがあるが,臨床で特に問題となるのは眼圧上昇と感染症である.a.眼圧上昇ステロイド薬点眼によって眼圧が上昇することはよく知られている.眼圧上昇の程度は人種や年齢によって異なる.Ohjiらは斜視手術後の10歳未満(3~8歳,平均5.5歳)の9症例と10歳以上(12~49歳,平均20.6歳)の7症例に0.1%デキサメタゾン点眼を1日3回2週間点眼したときの眼圧の上昇を報告している6).点眼前より>16mmHg眼圧上昇を認めたものを高反応,6~15mmHgの上昇を認めたものを中等度反応,<6mmHgを低反応とすると,10歳未満では9症例中4症例が高反応,5症例が中等度反応で低反応は認めなかった.一方,10歳以上の症例ではすべての症例で低反応であった.一般に大人に比べ小児のほうがステロイド反応性が高い.比較的眼圧上昇が少ないとされるフルオロメトロ(53)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101375である.投与前の他覚所見の合計スコアは11.2±5.6(スコア方式はシクロスポリンと同様).1,7,10,22,35,49カ月の変化量(改善度)はそれぞれ.3.9,.5.8,.5.5,.6.5,.6.8,.8.0であった.b.副作用春季カタル患者106名と通年性アレルギー性結膜炎患者61例において6カ月以上の長期投与による副作用を解析したところ,最も多い副作用は眼刺激感であった.重症な角膜感染症は角膜潰瘍1例,ヘルペス感染3例を認めたが,投与期間の長期化による副作用の発現率の上昇は認めなかった.c.まとめ0.1%タクロリムス点眼は6カ月以上継続してもその有効性が維持されるばかりではなく,他覚所見合計スコアは漸減した.最長6年間の長期投与においても効力が減弱することはなかった.また,年単位の使用においても角膜感染症の発生率の増加は認めなかった.0.1%タクロリムス点眼(タリムスR)はステロイド薬点眼を併用せずに単剤でも長期にわたり春季カタル治療に有効であり,かつ重篤な眼感染症の副作用も少ない.(長期成績のデータは千寿製薬より供与された.)4.0.1%シクロスポリン点眼と0.1%タクロリムス点眼の使い分け表3に0.1%シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)と0.1%タクロリムス点眼(タリムスR)の比較を示す.春季カタルの治療はその重症度に基づく過不足のない治より投与終了に至った症例が全体の24%(平均投与期間75.6日),6カ月後も投与継続した症例が全体の35%であった.投与継続症例における抗アレルギー薬点眼・ステロイド薬点眼の併用率はそれぞれ53%,57%であった.ステロイド点眼の離脱率は1,2,3,6カ月で24%,27%,31%,34%であった.b.副作用投与後6カ月間での最も高頻度な副作用は眼刺激感(2.53%)であった.重篤な角膜炎は6例(0.23%)に認められ,細菌性2例,ヘルペス性2例,角膜びらん1例,潰瘍性角膜炎1例であった.眼圧の上昇は認められなかった.副作用発現頻度は投与7日目までが2.6%と多く,以後6カ月にわたり0.25~1.41%と上昇しなかった.さらに6カ月以降の長期使用例においても副作用発現率の上昇や重症角膜感染症の増加は認めなかった.c.まとめ春季カタル治療における0.1%シクロスポリン点眼の有効性は6カ月間以降も維持される.しかし,長期継続した約6割の症例において抗アレルギー薬・ステロイド薬点眼の併用が必要であったことより,重症例に対してはステロイド薬点眼の併用が必要である.角膜感染症などの重篤な副作用は6カ月以上の投与によっても増加することなく,安全に長期間使用できる薬剤である.(長期成績のデータは参天製薬より供与された.)3.0.1%タクロリムス点眼:タリムスRの長期成績0.1%タクロリムス点眼の有効性や副作用については報告されている10).しかし,経過観察期間が短く,その長期の有効性・副作用について報告はない.ここでは継続投与試験にて6カ月以上,最長6年近くにわたって点眼を継続した春季カタル患者106例についてその有効性・副作用について示す.a.春季カタルに対する効果対象は春季カタル患者106例.男性79人(74.5%),年齢:10~15歳(51.9%)・16~19歳(16.0%)・20~29歳(20.8%)・30歳以上(11.3%),重症度:軽症44人(41.5%)・中等度29人(27.4%)・重度33人(31.1%),アトピー性皮膚炎合併;あり68人(64.2%),投与観察期間(日):平均1,233.2±587.6日(6カ月以上98例)表30.1%シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)と0.1%タクロリムス点眼との比較0.1%シクロスポリン点眼0.1%タクロリムス点眼特徴.効果がマイルド.持続性.透明・使い捨て.防腐剤フリー.効果が強い.即効性.懸濁液.防腐剤入り適応.軽~中等度症例.抗アレルギー薬・ステロイド薬点眼との併用.寛解維持.重症例.単独使用.急性増悪時試用期間長期間短期間免疫調節薬点眼免疫抑制薬点眼1376あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(54)2)ChoY,CrichlowGV,VermeireJJetal:Allostericinhibitionofmacrophagemigrationinhibitoryfactorrevealedbyibudilast.ProcNatlAcadSciUSA107:11313-11318,20103)海老原伸行:季節性アレルギー性結膜炎におけるイブジラスト点眼予防投与の効果.あたらしい眼科20:259-262,20034)海老原伸行:トラニラスト点眼初期療法による季節性アレルギー性結膜炎患者の自覚症状改善効果.あたらしい眼科24:223-226,20075)海老原伸行:塩酸オロパタジン点眼液による季節性アレルギー性結膜炎の初期療法.あたらしい眼科24:1523-1525,20076)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchildren.AmJOphthalmol112:450-454,19917)FanDS,NgJS,LamDS:Aprospectivestudyonocularhypertensiveandantiinflammatoryresponsetodifferentdosagesoffluorometholoneinchildren.Ophthalmology108:1973-1977,20018)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:Alargeprospectiveobservationalstudyofnovelcyclosporine0.1%aqueousophthalmicsolutioninthetreatmentofsevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher25:365-371,20099)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査.日眼会誌(印刷中)10)OhashiY,EbiharaN,FujishimaHetal:Arandomized,placebo-controlledclinicaltrialoftacrolimusophthalmicsuspension0.1%insevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher26:165-174,2010療が必要である.表4にその重症度別の治療戦略を示す.ステロイド薬点眼の眼圧上昇・感染症誘発などの副作用を考慮し,基盤点眼としてカルシニューリン阻害薬点眼を使用し,増悪時のみ短期間ステロイド薬点眼を使用する.急性増悪時にはタクロリムス点眼,寛解維持にはシクロスポリン点眼を使用する.両点眼とも6カ月以上の長期投与においても,その有効性を維持する.長期投与による副作用(特に重篤な角膜感染症)の増加も認められない.しかし,年少者やアトピー性皮膚炎の合併症例にステロイド薬点眼と併用し,長期間投与するときには十分な注意を必要とする.おわりに将来,喘息の治療に使用されている抗ヒトIgE抗体(オマリズマブR)の点眼やCC-ケモカイン受容体3や2のantagonist点眼も開発されていく可能性がある.さらなる発展を期待する.文献1)AdachiT,FukudaK,KondoYetal:Inhibitionbytranilastofthecytokine-inducedexpressionofchemokinesandtheadhesionmoleculeVCAM-1inhumancornealfibroblasts.InvestOphthalmolVisSci51:3954-3960,2010表4春季カタル点眼療法の重症度別戦略─春季カタルの治療はその重症度に基づく過不足ない治療が必要である─基盤点眼追加点眼第1段階(寛解維持)抗アレルギー薬点眼0.1%シクロスポリン点眼第2段階(軽度)抗アレルギー薬点眼0.1%シクロスポリン点眼0.1%フルオロメトロン点眼(悪化時のみ併用)第3段階(中等度)抗アレルギー薬点眼0.1%タクロリムス点眼0.1%フルオロメトロン点眼(悪化時のみ併用)第4段階(重度)抗アレルギー薬点眼0.1%タクロリムス点眼0.1%ベタメタゾン点眼(悪化時のみ併用)(軽度・中等度・重度の診断基準は「眼アレルギーガイドライン」を参照)ステロイド薬点眼の眼圧上昇・感染症誘発などの副作用を考慮し,基盤点眼としてカルシニューリン阻害薬点眼を使用し,増悪時のみ短期間ステロイド薬点眼を使用する.また,急性増悪時にはタクロリムス点眼,寛解維持にはシクロスポリン点眼を使用する.

抗微生物薬

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYalbicansあるいはガンシクロビル耐性サイトメガロウイルスなどによる眼感染症も最近では珍しくない.すなわち,抗微生物薬の開発とそれに対する耐性微生物の出現との関係は永遠に終わることはない.このような状況下では,既存ならびに新規抗微生物薬の適正使用および新規抗微生物薬に関するエビデンスの速やかな把握がきわめて大切である.それは新規抗菌薬に対する耐性菌の出現を未然に防ぐ第一歩ともいえる.ところで,眼感染症の治療では眼血液関門を考慮すると多くの場合眼局所での抗微生物薬の投与を選択せざるをえない.本稿で取り上げた点眼薬あるいは眼軟膏以外で市販されている抗微生物薬を眼局所に用いる際にはほとんどの場合適応外使用(投与法も含めて:点眼,結膜下注射,前房内投与および硝子体内投与など)となるので,現在の医療事情では使用する際に,各施設での倫理委員会の承認と十分な患者への説明を要する.抗微生物薬として,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬あるいは抗原虫薬などがある.本稿において,抗菌薬のうち全身投与薬剤では最近上市された薬剤の眼局所投与への応用について,また点眼薬では日本未認可の薬剤について述べる.ついで抗真菌薬ではおもに眼局所投与量を,さらに抗ウイルス薬では上市された薬剤の眼科領域での展望を中心に紹介する.はじめに抗微生物薬,特に抗菌薬における開発の現状と将来への展望を論ずる際,冒頭にあげるべきはペニシリンの登場である.1928年に発見,そして1940年代に実用化され抗菌化学療法の幕開けとなった薬剤であり,わが国では第二次世界大戦後の1946年から使用され数多くの感染症治療に貢献した.しかし残念ながら眼科領域ではその子孫であるペニシリン系点眼薬(サルペリンR:スルベニシリン)は先ごろ途絶えてしまった.テラマイシン眼軟膏R(オキシテトラサイクリン:テトラサイクリン系)およびサンテマイシン点眼液0.3%R(ミクロノマイシン:アミノ配糖体系)も販売中止となった.新規抗微生物薬,特に抗菌薬や抗真菌薬の開発に関しては,抗ウイルス薬に比し現在低迷期といえる(開発が進められている抗ウイルス薬の多くは抗HIV薬)1,2).しかしながら高度先進医療の発達に伴い抗微生物薬の果たす役割は眼科領域においてもますます重要となっている.たとえば,悪性腫瘍,臓器移植あるいは自己免疫疾患に生じる日和見感染症としての内因性細菌性眼内炎,内因性真菌性眼内炎,サイトメガロウイルス網膜炎あるいは眼トキソプラズマ症などに時として遭遇する.各抗微生物薬投与により失明から救うことができる一方で,薬剤の耐性化を生じる可能性があり,メチシリン耐性Staphylococcusepidermidis(MRSE),メチシリン耐性Staphylococcusaureus(MRSA),ペニシリン耐性Streptococcuspneumoniae,フルコナゾール耐性Candida(41)1363*KiyofumiMochizuki:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕望月清文:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1363.1370,2010抗微生物薬OcularAntimicrobialTherapy望月清文*1364あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(42)b.ピペラシリン.タゾバクタム(tazobactam/piperacillin:TAZ/PIPC,ゾシンR)bラクタマーゼのTAZと,ペニシリン系抗生物質PIPCを1:8の力価比で配合した注射製剤で,適応症は敗血症,肺炎,腎盂腎炎および複雑性膀胱炎である.各種グラム陽性菌,グラム陰性菌および嫌気性菌に対して広い抗菌スペクトルを有し,Pseudomonasaeruginosaを考慮すべき状況下で選択されることが多い.またESBL(extended-spectrumb-lactamase,基質特異性拡張型b-ラクタマーゼ)を不可逆的に阻害する.眼科領域では従来の薬剤では難治のP.aeruginosaによる角膜炎症例に10%TAZ/PIPC点眼を行い有効であったという7).また,P.aeruginosaによる眼内炎を想定して家兎を用い安全な硝子体内投与量を検討したところTAZ/PIPC250μg/0.1mlであったという8~10).2.点眼薬(日本未認可)a.アジスロマイシン1%点眼薬(azithromycinhydrate:AZM,AzaSiteR)11~13)(表1.3)海外で上市されたアジスロマイシン1%点眼薬(アジスロマイシン水和物)はマクロライド系抗菌薬である.日本では現在内服薬のみが発売され,呼吸器感染症,Chlamydiatrachomatisによる子宮頸管炎およびAIDS(後天性免疫不全症候群)に伴う播種性Mycobacteriumaviumcomplex症などの治療に用いられている.AZM点眼液は2007年4月に米国FDA(食品医薬品局)に承認されAzaSiteR(InSiteVision社)として上市された.徐放化技術であるDuraSiteR(polycarbophil,edentatedisodiumおよびsodiumchloride)により点眼薬に製剤化され,AZMの半減期は長くなり,組織内に特に角膜表面での滞留時間を増加させた.そのため,従来の抗菌点眼薬に比し低用量でかつ1日の点眼回数を減らすことが可能となった.適応疾患はCDCcoryneformgroupG,Haemophilusinfluenzae,S.aureus,StreptococcusmitisgroupおよびS.pneumoniaeなどに起因した細菌性結膜炎である.用法・用量として最初の2日間は8~12時間ごとに1回1滴,つぎの5日間は1日1回点眼とされている.小児でも使用可能で,1歳以上の細菌性結膜炎患者に対して適応が取得されている.I抗菌薬1.全身投与薬a.リネゾリド(linezolid:LZD,ザイボックスR)オキサゾリジノン系合成抗菌薬でその作用機序はリボソーム50Sサブユニットに結合し,70S開始複合体の形成を阻害する.蛋白合成過程のきわめて初期段階で抑制するので,従来の蛋白合成阻害薬とは異なった作用機序を有し,その作用は静菌的である.LZDの対象となる菌種はグラム陽性菌で,Staphylococcus属,Enterococcus属あるいはStreptococcus属に抗菌力を発揮するが,グラム陰性菌に対してはほとんど無効である.適応疾患はバンコマイシン耐性E.faeciumによる各種感染症およびMRSAによる敗血症,深部性皮膚感染症,慢性膿皮症,外傷・熱傷および手術創などの二次感染ならびに肺炎である.各種組織移行性に優れ,経口薬でも吸収は非常に良好である.全身的な投与量では1回600mgを12時間ごとに点滴静注あるいは経口投与する.また耐性菌の出現に十分な注意を行い投与する.投与期間の上限は原則として“28日を超えないことが望ましい”とされている.副作用として骨髄抑制による血小板減少,貧血あるいは白血球減少などが2週間以上の投与で発現頻度が高くなる傾向が認められている.末梢神経障害,乳酸アシドーシスあるいは視神経症なども報告されている.特に視神経症では28日を越える場合注意を要する.全身投与による眼内への移行性は比較的良好でLZD600mg単回経口投与で前房内および硝子体内最高濃度はそれぞれ6.8μg/mlおよび5.3μg/mlという3,4).しかしながら十分な眼局所濃度を得るためには点眼あるいは硝子体内投与となる.ヒトで使用された報告は調べた限りないが,白色家兎を用いた角膜炎モデルで0.2%LZD点眼後の結膜,角膜および前房内濃度はそれぞれ3μg/g以上,4μg/g以上および2.17μg/mlであったという5).また,Dukeら6)は有色家兎を用いLZD300μg/0.1ml硝子体内投与では網膜への影響はみられなかったという.(43)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101365ta,S.aureus,S.epidermidis,Staphylococcushominis,Staphylococcuslugdunensis,S.mitisgroup,Streptococcusoralis,S.pneumoniaeおよびStreptococcussalivariusなどによる細菌性結膜炎である.用法・用量は1日3回各1滴を7日間投与とされている.おもな副作用として結膜充血(2%)がある.1歳以下の乳児での安全性は確立されていない.塩化ベンザルコニウムを0.01%含有している.フルオロキノロン系抗菌薬の中で最もMRSAに有効な点眼薬として注目されている16).c.レボフロキサシン1.5%点眼液(levofloxacin:LVFX,IQUIXR)LVFXの高用量化された抗菌点眼薬(高濃度抗菌点眼薬)で,2004年3月に米国FDAに承認(参天製薬の米国子会社サンテン・インク社)された.元来,LVFXは中性pH域における水溶性が高いので,既存製剤の3倍の1.5%という高濃度点眼液の製剤化が可能となった.広範囲のグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌に対し効果を発揮し,適応疾患はCorynebacteriumsp.,S.aureus,S.epidermidis,S.pneumoniae,Viridans従来の点眼薬に比べ,少ない点眼回数で効果が得られるということからコンプライアンスの向上が期待されている.b.ベシフロキサシン0.6%点眼液(besifloxacin,BesivanceR)14,15)(表4,5)これまでのフルオロキノロン系抗菌薬と異なり,全身用に開発された経口薬や注射薬を点眼薬に発展したものではなく最初から点眼薬として開発されたもので,全身用の剤型はない.2009年5月に米国FDAに承認されたベシフロキサシン点眼薬はエスエス製薬で創製されAZM点眼液と同様な徐放化技術DuraSiteRを用いBausch&Lombで開発された.適応疾患(菌種)はCDCcoryneformgroupG,Corynebacteriumpseudodiphtheriticum,Corynebacteriumstriatum,H.influenzae,Moraxellalacuna-表11%アジスロマイシン点眼液1滴点眼後の有色家兎各眼組織における薬物動態パラメータCmax(μg/g)Tmax(h)T1/2(h)AUC0~144h(μg・h/g)結膜角膜涙液前房水10840.410,5390.0760.0830.0830.0830.083636715807378373,0160.689(文献11より改変)表31%アジスロマイシンおよび0.5%モキシフロキサシン点眼液1滴点眼後の健常ヒト結膜への薬物動態パラメータCmax(μg/g)Tmax(h)T1/2(h)AUC0~∞(μg・h/g)1%アジスロマイシン0.5%モキシフロキサシン1313.770.502.0024.42.732,31024.0(文献12より改変)表21%アジスロマイシン点眼液7日間点眼後の有色家兎各眼組織における薬物動態パラメータCmax(μg/g)Tmax(h)AUC144~288h(μg・h/g)AUC:MIC90比結膜角膜眼瞼前房水177.39252.00180.300.410.08310.250.0833,10116,4028,1479.191941,025509─MIC90にはAZM点眼液にて細菌性結膜炎を治療した際に検出された496菌から得られたMIC値16μgを用いている.(文献11より改変)表40.6%ベシフロキサシン点眼液1滴点眼後の有色家兎およびサル各眼組織ならびにヒト涙液への薬物動態パラメータ有色家兎サルヒトCmax(μg/g)T1/2(h)AUC0~24h(μg・h/g)Cmax(μg/g)T1/2(h)AUC0~24h(μg・h/g)Cmax(μg/g)T1/2(h)AUC0~24h(μg・h/g)結膜角膜涙液前房水62.87.212,7601.696.06.16.112.192.88.563,2402.086.432.102,3100.79613.97.87.45.329.412.46,4402.14──610───3.4───1,232─(文献14より改変)1366あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(44)3.眼軟膏バンコマイシン眼軟膏1%グリコペプチド系抗生物質製剤で,2009年10月に厚生労働省から承認された.適応菌種はバンコマイシン感性のMRSAおよびMRSEの2菌種のみとされ,眼科領域で初めてMRSAおよびMRSEを適応とした抗菌薬である.適応疾患は既存治療で効果不十分な結膜炎,眼瞼炎,瞼板腺炎および涙.炎などである.使用上の注意として“感染症の治療に十分な知識と経験を持つ医師又はその指導の下で投与すること”と記載されている.用法・用量は適量を1日4回塗布,投与期間は14日間以内を目安とされている.副作用として眼瞼浮腫および結膜充血などを生じることがある.小児に対する安全性は確立されていない.耐性菌を発生させないために濫用は避けるべきである.II抗真菌薬従来,抗真菌薬は抗菌薬より種類が少なくその選択肢が限られていたが,最近新しい薬剤が次々に登場しその選択に幅が広がった.具体的に抗真菌薬としてポリエン系ではピマリシン(別名ナタマイシン,PMR),アムホテリシンB(AMPH-B,ファンギゾンR)およびリボゾーム化アムホテリシンB(L-AMB,アムビゾームR),ピリミジン系ではフルシトシン(5-FC,アンコチル),トリアゾール系ではフルコナゾール(FLCZ,ジフルカンR)とそのFLCZをリン酸エステル化したプロドラッグであるホスフルコナゾール(F-FLCZ,プロジフR),ミコナゾール(MCZ,フロリードR),イトラコナゾール(ITCZ,イトリゾールR)およびボリコナゾール(VRCZ,ブイフェンドR),キャンディン系ではミカファgroupstreptococci,P.aeruginosaおよびSerratiamarcescensなどによる細菌性角膜潰瘍である.なお,本点眼薬には塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を含んでいない.6歳以下の小児での使用に関してはその安全性は確立されていない17).1.5%LVFXの眼内移行性の特徴(白色家兎)は点眼1時間後に最高濃度(Tmax)に達し,他の点眼薬(0.5%モキシフロキサシンおよび0.3%ガチフロキサシン)に比し移行濃度が高く,またLVFXのみが点眼12時間後においても前房内濃度を測定可能であった17)(表6).よってLVFXのAUC(areaunderthecurve)は他の抗菌薬に比し大きいので,より高い臨床ならびに抗菌効果とともに耐性化抑制効果が期待される.d.トブラマイシン0.3%およびデキサメタゾン0.1%配合点眼液(TobraDexR)米国Alcon社から発売されている.多糖類の一つであるキサンタンガム(xanthangum)を用いたデキサメタゾン0.05%配合のTobraDexSTRが開発中である18).適応は表在性の細菌性眼感染症あるいは細菌感染が疑われ,ステロイド治療も要する症例とされ,眼瞼結膜炎や白内障術後点眼薬として用いられている18).塩化ベンザルコニウムを0.01%含有している.禁忌として,単純ヘルペス角膜炎,その他多くのウイルス性角膜炎あるいは結膜炎,Mycobacteriumによる眼感染症および真菌性角膜疾患などがある.副作用として眼瞼の.痒感,腫脹あるいは結膜充血(トブラマイシン:アミノ配糖体系)および眼圧上昇,後.白内障あるいは創傷治癒遅延(デキサメタゾン)などがある.このような抗菌薬とステロイド薬との配合点眼薬は欧米では臨床治験で数種検討されている.表53種のフルオロキノロン点眼液1滴点眼後の健常ヒト結膜への薬物動態パラメータ点眼15分後(μg/g)AUC0~24h(μg・h/g)平均滞留時間(h)0.6%ベシフロキサシン0.5%モキシフロキサシン0.3%ガチフロキサシン2.3010.74.036.6511.16.104.73.02.9(文献15より改変)表63種のフルオロキノロン点眼液1滴点眼後の白色家兎前房内への薬物動態パラメータCmax(μg/ml)Tmax(h)T1/2(h)AUC0~∞(μg・h/ml)1.5%レボフロキサシン0.5%モキシフロキサシン0.3%ガチフロキサシン0.7361.00370.4371.00.51.02.610.691.992.66282.04191.0080(文献16より改変)(45)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101367する目的で開発されたL-AMBが上市された.家兎を用いた全身投与モデルでL-AMBはAMPH-Bに比し角膜および前房水への移行が良好であった22).また白色家兎を用いた結膜下投与では1.5mg/0.3mlが眼毒性を認めず角膜組織に対し有効濃度が得られている23).一方,臨床的に0.5%L-AMB点眼24)あるいは5μg/0.1ml硝子体内投与25)などに用いられその有効性が報告されている.真菌性眼内炎では術中に眼内灌流液中への抗真菌薬の添加あるいは術後硝子体内投与が併用されることがある26~31)(表7).なお,家兎を用いたVRCZ前房内および硝子体内投与による半減期はそれぞれ22分および2.5時間であったという32).つぎに現在開発中で近い将来臨床応用が期待される抗真菌薬を2,3紹介する2).a.イサブコナゾール(isavuconazole)広域抗真菌スペクトルを有する新規アゾール系抗真菌薬で,注射薬および経口剤の両剤形で開発が進められている.FLCZやITCZに耐性の真菌にも有効という.Awater-solublepro-drugにて体内で速やかにエラスターゼにより分解され,イサブコナゾールに変換される.高いバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)を有し,血清中の薬剤濃度半減期は長い.副作用として頭痛,鼻炎様症状および刺入部痛などがある.侵襲型Aspergillus症およびCandida血症を対象とし第3相臨床試験が米国,欧州などにおいて実施されている.b.Corifungin水溶性でポリエン系に属する.Candida属に対してAMPH-BやVRCZと同等のinvitroでの抗真菌活性をンギン(MCFG,ファンガードR)などがある.そのなかでわが国において眼局所に使用が認められている抗真菌薬はポリエン系のピマリシン(5%点眼および1%眼軟膏)のみで,他は全身投与薬である.ほとんどの薬剤が眼血液関門のため眼内,特に硝子体内への移行性は不良である.そこで感染部位や菌種に応じて薬剤ならびに投与法を選択する必要がある19).しかし使用に際しては倫理委員会の承認および十分なインフォームド・コンセントを要する.点眼あるいは結膜下投与における注意すべき点は,副作用としての結膜刺激症状,上皮障害あるいは眼瞼炎や薬剤そのものの安定性である.また,前房内あるいは硝子体内投与では薬剤による角膜あるいは網膜への影響および手技による白内障,網膜出血あるいは網膜.離などの発生に留意すべきである.VRCZは幅広い抗真菌スペクトラムを有しかつ3.0.4.0mg/kg12時間毎の投与で眼内移行性が良好な薬剤ではある20)が,肝機能障害や視覚障害(投与開始1週間以内に30~50%)などの副作用に注意を要する.特に真菌性眼内炎では投与期間が長期に及ぶことがあるので,投与期間中の血中モニタリングが望ましい.キャンディン系薬剤のMCFGは細胞壁合成阻害作用という新しい作用機序を有し副作用の少ない抗真菌薬であるが,その有効な全身投与量に関しては定まっていない.また眼内,特に硝子体内への移行は不良である.Suzukiら21)は白色家兎を用いMCFG10mg/kg静脈内投与後の眼内移行性を検討したところ網脈絡膜には最大20.18μg/gに達したが硝子体内では検出限界以下であったという.AMPH-Bは毒性が強いので第一選択として眼局所に使用されることはわが国では少ない.近年副作用を軽減表7抗真菌薬の眼局所投与量抗真菌薬(商品名)点眼(%)結膜下注射前房内投与(μg/0.1ml)硝子体内投与(μg/0.1ml)眼内灌流(μg/ml)AMPH-B(ファンギゾン)MCZ(フロリード)FLCZ(ジフルカン)ITCZ(イトリゾール)MCFG(ファンガード)VRCZ(ブイフェンド)0.10.10.1~0.21.00.10.1~1.0─0.1~0.2%/0.3ml0.2%/0.3ml───5~35────10~200540100105100101020───1368あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(46)ている38).適応外ではあるが,サイトメガロウイルスによる角膜内皮炎への効果が期待される.3.アデノウイルスに対する抗ウイルス薬アデノウイルスに対する特異的抗ウイルス薬の研究および開発が進められ,核酸系逆転写酵素阻害薬,レセプター阻害薬,抗菌ペプチド,生理活性物質およびインターフェロンなどがアデノウイルス結膜炎起炎の型に抗アデノウイルス作用を有するという.具体的にはザルシタビン(ハイビッドR:抗HIV薬),スタブジン(ゼリットR:抗HIV薬),N-chlorotaurine,hCAP-18(humancationicantimicrobialprotein18),INF(インターフェロン)-bおよびINF-gなどがある39).しかしながら臨床例に対する評価は今後の課題という.4.ワクチン療法子宮頸癌を予防するためにヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンが開発された.HPV-16とHPV-18に対する2価ワクチン(CervarixR:2009年日本承認)とHPV-6とHPV-11を加えた4価ワクチン(GARDASILR:2009年米国FDA承認,日本未認可)がある.眼科領域でも結膜乳頭腫などではHPV-6とHPV-11が,結膜上皮内新形成(CIN)や扁平上皮癌など悪性腫瘍ではHPV-16とHPV-18が検出されることが多いので,将来的にこれらのワクチンによる結膜腫瘍発生予防が期待される40).IVその他:角膜クロスリンキングリボフラビン・長波長紫外線治療本来は円錐角膜・角膜拡張症(keratectasia)の進行を停止させる治療法であるが,病原微生物への殺傷効果による感染性角膜炎への応用が提言されている41,42).おわりに抗微生物薬の使用に際し重要なことは適正な薬剤使用(既存あるいは新規薬剤)と適切な感染管理である.そして,われわれ眼科医は各々の薬剤において常に眼内組織移行性ならびに眼局所投与における有効性と安全性の有し,またAspergillus属,Alternalia属,Cladosporium属およびScopulariopsis属などの糸状菌に対してもAMPH-Bと同等の抗真菌活性を有する.c.カスポファンギン(caspofungin,CancidaR)キャンディン系薬剤の一つで2001年1月に米国で承認されている.L-AMB,ITCZに不応性もしくは継続不能例の侵襲型Aspergillus症のサルベージ療法として位置付けられている.MCFGと同じく眼内移行(硝子体内)は不良で33),0.5%点眼液が臨床試用された報告34)がある.マウスを用いた実験結果からヒトへの安全な硝子体内投与量は20μgという35).III抗ウイルス薬1.全身投与薬ファムシクロビル(famciclovir,ファムビルR)2008年わが国で発売されたファムシクロビルはペンシクロビルの吸収性を高めたプロドラッグである.経口投与後,肝代謝によりペンシクロビルに変換され,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染細胞内で活性型であるペンシクロビル3リン酸となりVZVの増殖を阻害する.適応は帯状疱疹とされているが,欧米では単純ヘルペスウイルス感染にも使用されている.1回500mg1日3回経口投与を原則とし,効果はバラシクロビルと同等という.ファムシクロビル内服(500mg×3)後の平均硝子体内濃度は1.2μg/mlで血清比は0.28%であった36)という.急性網膜壊死におけるアシクロビル点滴静注後の内服療法の選択肢の一つとして注目されている37).2.ゲル化点眼薬Ganciclovirophthalmicgel0.15%(ZirganR)ガンシクロビルのゲル化点眼薬で2009年9月に単純ヘルペス角膜炎の治療薬としてFDAから承認された.用法・用量は1回1滴1日5回を角膜潰瘍治癒まで,その後7日間1日3回投与とされている.副作用として視力障害,眼刺激症状,点状角膜炎および結膜充血などがある.2歳以下の乳幼児への安全性は確立されていない.pHは7.4で,塩化ベンザルコニウム0.075mgを含有し(47)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101369検証および把握に努める姿勢を忘れてはならない.一方で,従来の抗微生物薬によらない,たとえばワクチン療法(HPV以外)や分子標的治療薬など(広義では抗微生物薬として取り扱われるかもしれないが)を用いた新たな治療法の開発が望まれる.文献1)八木澤守正:抗菌薬開発の現状と展望.日化療会誌52:761-770,20042)掛屋弘,河野茂:現在開発中の抗真菌薬.化学療法の領域26:608-616,20103)PrydalJI,JenkinsDR,LoveringAetal:Thepharmacokineticsoflinezolidinthenon-inflamedhumaneye.BrJOphthalmol89:1418-1419,20054)HorcajadaJP,AtienzaR,SarasaMetal:Pharmacokineticsoflinezolidinhumannon-inflamedvitreousaftersystemicadministration.JAntimicrobChemother63:550-552,20095)SalehM,JehlF,DoryAetal:Ocularpenetrationoftopicallyappliedlinezolidinarabbitmodel.JCataractRefractSurg36:488-492,20106)DukeSL,KumpLI,YuanYetal:Thesafetyofintraocularlinezolidinrabbits.InvestOphthalmolVisSci51:3115-3119,20107)ChewFL,SoongTK,ShinHCetal:Topicalpiperacillin/tazobactamforrecalcitrantPseudomonasaeruginosakeratitis.OculPharmacolTher26:219-222,20108)Ozkiri.A,EverekliogluC,Konta.Oetal:Determinationofnontoxicconcentrationsofpiperacillin/tazobactamforintravitrealapplication.Anelectroretinographic,histopathologicandmorphometricanalysis.OphthalmicRes36:139-144,20049)Ozkiri.A,EverekliogluC,AkgunHetal:Acomparisonofintravitrealpiperacillin/tazobactamwithceftazidimeinexperimentalPseudomonasaeruginosaendophthalmitis.ExpEyeRes80:361-367,200510)SinghTH,PathengayA,DasTetal:Enterobacterendophthalmitis:treatmentwithintravitrealtazobactam-piperacillin.IndianJOphthalmol55:482-483,200711)AkpekEK,VittitowJ,VerhoevenRSetal:Ocularsurfacedistributionandpharmacokineticsofanovelophthalmic1%azithromycinformulation.JOculPharmacolTher25:433-439,200912)TorkildsenG,O’BrienTP:Conjunctivaltissuepharmacokineticpropertiesoftopicalazithromycin1%andmoxifloxacin0.5%ophthalmicsolutions:asingle-dose,randomized,open-label,active-controlledtrialinhealthyadultvolunteers.ClinTher30:2005-2014,200813)岩尾岳洋,塚本仁,政田幹夫:外用抗菌薬・点眼抗菌薬.医薬ジャーナル45:541-544,200914)ProkschJW,GranvilCP,Siou-MermetRetal:Ocularpharmacokineticsofbesifloxacinfollowingtopicaladministrationtorabbits,monkeys,andhumans.JOculPharmacolTher25:335-344,200915)TorkildsenG,ProkschJW,ShapiroAetal:Concentrationsofbesifloxacin,gatifloxacin,andmoxifloxacininhumanconjunctivaaftertopicalocularadministration.ClinOphthalmol26:331-341,201016)SandersME,MooreQC3rd,NorcrossEWetal:EfficacyofbesifloxacininanearlytreatmentmodelofmethicillinresistantStaphylococcusaureuskeratitis.JOculPharmacolTher26:193-198,201017)McDonaldMB:Researchreviewandupdate:IQUIX(levofloxacin1.5%).IntOphthalmolClin46:47-60,200618)ScoperSV,KabatAG,OwenGRetal:Oculardistribution,bactericidalactivityandsettlingcharacteristicsofTobraDexSTophthalmicsuspensioncomparedwithTobraDexophthalmicsuspension.AdvTher25:77-88,200819)KaurIP,RanaC,SinghH:Developmentofeffectiveocularpreparationsofantifungalagents.JOculPharmacolTher24:481-493,200820)HariprasadSM,MielerWF,HolzERetal:Determinationofvitreous,aqueous,andplasmaconcentrationoforallyadministeredvoriconazoleinhumans.ArchOphthalmol122:42-47,200421)SuzukiT,UnoT,ChenGetal:Oculardistributionofintravenouslyadministeredmicafungininrabbits.JInfectChemother14:204-207,200822)GoldblumD,RohrerK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,200423)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200924)TouvronG,DenisD,DoatMetal:SuccessfultreatmentofresistantFusariumsolanikeratitiswithliposomalamphotericinB.JFrOphtalmol32:721-726,2009[.ArticleinFrench]25)KocA,OnalS,YeniceOetal:ParsplanavitrectomyandintravitrealliposomalamphotericinBinthetreatmentofCandidaendophthalmitis.OphthalmicSurgLasersImaging2010Mar9:1-3[.Epubaheadofprint]26)矢野啓子:眼科領域.深在性真菌症の診断・治療のガイドライン2007.深在性真菌症のガイドライン作成委員会編,協和企画,p112-118,200727)ShenYC,WangMY,WangCYetal:Pharmacokineticsofintracameralvoriconazoleinjection.AntimicrobAgentsChemother53:2156-2157,200928)ShenYC,WangCY,TsaiHYetal:Intracameralvoriconazoleinjectioninthetreatmentoffungalendophthalmitisresultingfromkeratitis.AmJOphthalmol149:916-921,201029)鈴木崇:抗真菌薬の使い方.臨眼57:311-316,200330)ThomasPA:Fungalinfectionsofthecornea.Eye17:852-862,200331)宇野敏彦:抗真菌薬:眼科プラクティス28.眼感染症の謎1370あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010を解く(大橋裕一編),文光堂,p434-435,200932)ShenYC,WangMY,WangCYetal:Clearanceofintravitrealvoriconazole.InvestOphthalmolVisSci48:2238-2241,200733)GoldblumD,FauschK,FruehBEetal:Ocularpenetrationofcaspofungininarabbituveitismodel.GraefesArchClinExpOphthalmol245:825-833,200734)Hurtado-SarrioM,Duch-SamperA,Cisneros-L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緑内障治療薬配合剤

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYこのような現状を踏まえながら,配合剤の適正な使用法について考えてみた.II配合剤の種類(配合点眼液製品一覧)海外ではすでに6種類の配合剤が発売されており(表1),日本では2010年にはじめて3種類の配合剤が導入された.いずれも2種類の薬剤の配合であり,2種類の薬効が1剤分の点眼回数で得られるという点を特徴としており,緑内障に対するこれまでの治療のあり方が大きく変わることが予想される.薬剤配合に関しては製剤上の問題もあり,すべての組み合わせが可能なわけではない.現在,緑内障の薬物治療においては,PG関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻I緑内障薬物治療の現状緑内障の治療薬はこの数年で3種類のプロスタグランジン(PG)関連薬が使用できるようになった.加えて2010年はPG関連薬/b遮断薬,b遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬の配合剤3種類が承認され,治療の選択肢が増加した.一方,選択肢が増えたことで,単剤治療からの薬剤切り替えや多剤併用患者の場合,治療の選択がより複雑になったとの指摘がある.緑内障の薬物治療における問題点としては,服薬コンプライアンスが医療従事者が考えているより悪い点,点眼が長期にわたるため,薬剤や防腐剤のオキュラーサーフェスへの配慮を要する点などが指摘されている.(35)1357*MakotoIshikawa&TakeshiYoshitomi:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座〔別刷請求先〕石川誠:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1357.1361,2010緑内障治療薬配合剤CombinationTopicalGlaucomaMedications石川誠*吉冨健志*表1配合点眼薬一覧製品名開発社主剤名点眼回数承認年PG関連薬/b遮断薬配合剤XalcomRXalacomRPfizerLatanoprost0.005%Timolol0.5%1日1回2001.8海外2010.4本邦DuotravRAlconTravoprost0.004%Timolol0.5%1日1回2006.4海外2010.4本邦GanfortRAllerganBimatoprost0.03%Timolol0.5%1日1回2006.5海外炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤CosoptRMerkDorzolamide2%Timolol0.5%1日2回1999.8海外2010.4本邦AzargaRAlconBrinzolamide1%Timolol0.5%1日2回2008.12海外a2作動薬/b遮断薬配合剤CombiganRAllerganBrimonidine0.2%Timolol0.5%1日2回2007.1海外1358あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(36)には2剤を併用するしかなく,点眼回数も1日2~3回必要であった.b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を併用した場合には,単眼回数は3~5回に増加した.しかし配合剤を使用すると,PG関連薬とb遮断薬の薬効は1日1回点眼で,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の薬効は1日2回の点眼で得ることができるようになる(図3).点眼回数が増えると負担を感じる患者が多いので,配合剤の使用によって点眼回数が減ると患者の利便性が増すと考えられる.2.アドヒアランスの向上緑内障の薬物治療は,患者が継続して点眼を行うことが前提条件である.ところが,点眼行動を記録できる器具を用いて患者コンプライアンスを調べた報告では,1日1回の単剤点眼の場合でも,実際に点眼回数が守られていたのは約7割であった1).まして併用治療においては,さらに多くの患者が支持された点眼を遵守できていないと考えるのが自然であろう.最近はOCT(光干渉断層計)をはじめとする検査機器の精度が上がり,わずかな視神経乳頭の異常や視野障害の進行も鋭敏に検出することが可能となった.それに伴い,追加される点眼薬も増加していく傾向にある.患者にとっては,真面目に点眼していても処方される点眼薬の種類が次第に増えて害薬の3者の組み合わせが比較的多く使われている(図1).このうちPG関連薬と炭酸脱水酵素阻害薬の組み合わせは,製剤上の問題から作られていない(図2).III配合剤の利点1.薬剤数と点眼数の軽減配合剤による一番の利点は,2種類の薬効がより少ない点眼回数で得られるため,利便性が高い点である.これまでPG関連薬とb遮断薬の2種類の薬効を得るためb遮断薬a1遮断薬ab遮断薬a2刺激薬PG関連薬エピネフリンピロカルピンCAI図1併用効果が最も期待できる緑内障治療薬の組み合わせ現在,緑内障の薬物治療においては,眼圧下降機序が異なるPG関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の3者の組み合わせがよく使われる.3回b+PG1回配合剤1点眼回数5回■:配合剤■:CAI■:PG■:bb+CAI2回配合剤26543210図32剤併用と配合剤単剤の点眼数配合剤による一番の利点は,薬効を得るための点眼回数が減少する点である.これまでPG関連薬とb遮断薬の2剤を併用すると点眼回数は最大1日3回,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を併用すると最大5回であった.しかし配合剤を使用すると,PG関連薬とb遮断薬の薬効は1日1回点眼で,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の薬効は1日2回の点眼で得ることができb遮断薬る.a1遮断薬ab遮断薬a2刺激薬エピネフリンCAIピロカルピンCosoptRAzargaRCombiganRXalacomRDuotravRGanfortRPG関連薬図2実際の配合剤の組み合わせ実際の配合剤の組み合わせは,b遮断薬とPG関連薬(XalacomR,DuotravR,GanfortR),b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(CosoptR,AzargaR),およびPG関連薬とa2刺激薬(CombiganR)の3種類,6剤である.製剤上の問題から,眼圧下降作用の強いPG関連薬と炭酸脱水酵素阻害薬の組み合わせは作られていない.(37)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101359上皮障害の出現頻度が高くなる.配合剤使用による点眼数の減少は,防腐剤への曝露の減少に直結する.眼表面が防腐剤に曝露する機会が少なくなれば,角結膜上皮障害も軽減すると考えられる.現在わが国で発売されている配合剤3種類中すべてが,b遮断薬を含有している.b遮断薬は角膜知覚を低下させ反射性の涙液分泌を低下させるため,角結膜障害を合併しやすくなることが知られている.b遮断薬のように角膜障害性がある薬物の場合,点眼液中にBACなどの防腐剤が加われば角結膜障害の危険性はさらに上昇することになる.ところが,わが国で発売されている3種類の配合剤のうち,ラタノプロスト/チモロール配合点眼液とドルゾラミド/チモロール配合点眼液はBACを含有している.したがって,長期で使用する場合,オキュラーサーフェスへの影響について十分な配慮が必要である.これら配合剤に薬剤を併用する場合も,BAC非含有製剤,あるいは安全性の高い防腐剤を含有する製剤を選択するなど,少しでも障害性を減らす方向で考える必要がある.トラボプロスト/チモロール配合点眼液は角膜への影響が少ない塩化ポリドロニウムを防腐剤として使用しているが,長期にわたる臨床データがないため今後のオキュラーサーフェスへの影響に注目したい.IV配合剤の課題1.眼圧下降効果合剤を合剤に含まれている成分の単剤と比較した試験では,いずれも合剤で単剤よりも優れた眼圧下降効果が得られている.また,合剤を合剤に含まれている成分の単剤を併用した場合と比較すると,ほぼ同等の眼圧下降効果が得られている.たとえばドルゾラミド/チモロール配合点眼液の場合,点眼回数は1日2回だが,単剤ではドルゾラミド1日3回,チモロール1日2回であり,配合剤の場合はドルゾラミドの点眼回数が減ることになる.ドルゾラミドの点眼回数減少によって眼圧下降効果が減弱することが懸念されたが,配合剤と単剤併用の眼圧下降効果の差はわずか0.4mmHgであり,両者の眼圧下降効果に差はなかった4).ただし,単剤併用治療から配合剤の単剤治療に切り替えた場合,緑内障治療薬に対する反応には個人差があるため,一定期間は短い間隔いくという状況になる.一生点眼を続けるどころか,治療に対するモチベーションそのものが低下し,最終的に脱落することも考えられる.患者自身が病態を理解し積極的に治療に参加する「アドヒアランス」という概念からも,モチベーションの低下は大きな問題である.点眼回数が増えるとアドヒアランスが悪化するという報告もあり,薬剤数と点眼数を軽減できる配合剤はアドヒアランスの向上に有効であると考えられる.治療効果には,点眼薬のもつ薬理学的効果だけでなく患者のアドヒアランスも関わってくる.アドヒアランスを良好に保てば,結果としてさらなる眼圧下降効果も期待される.その意味で,配合剤への期待は大きい.緑内障の病状を把握するうえでは1剤ずつ薬剤を追加し薬効を確認していく姿勢が重要であることはいうまでもないが,患者の利便性やアドヒアランスを考慮すれば配合剤を処方する機会は今後増加すると予想される.3.洗い流し効果の回避同じ時間帯に2種類の点眼薬を点眼する場合,1剤目と2剤目は5分以上の間隔をあけて点眼するのが望ましい.もし間隔を5分間空けないで2剤目を点眼すれば1剤目を洗い流していることになり(洗い流し効果),薬効の低下が懸念される2).間隔が30秒間なら約45%が,2分間なら約15%が洗い流される.しかし,配合剤を使用すれば,このような洗い流しの問題は回避できることになる.年単位の長い時間経過でみた場合,洗い流しのような一見小さな問題が治療効果の差を生み出す可能性がある.4.防腐剤の曝露量の軽減とオキュラーサーフェスへの影響緑内障点眼薬の副作用の一つに,オキュラーサーフェスへの影響がある.PG関連薬のみの単独投与の場合でも,34%にドライアイ症状が出現するという報告がある3).原因の一つとして,点眼液中に含まれる防腐剤,特に塩化ベンザルコニウム(BAC)の影響があげられる.BAC非含有性の緑内障点眼薬を使用すると,角結膜上皮障害が減少するとの報告もある.併用治療は単剤治療と比較して角結膜がBACに曝露する機会も増加し,1360あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(38)V日常臨床での配合剤の使い方1.配合剤への切り替えのタイミング緑内障診療ガイドラインには,「原則として単剤での治療を優先する」と記載されている.現在,単剤治療の主流はPG関連薬で,目標眼圧に達しない場合は他のPG関連薬への切り替え,あるいはb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬を追加することが一般的である.ここで新たに配合剤という治療選択が加わると,PG関連薬単剤で効果がない場合,b遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬を追加してアドヒアランスを低下させるより,配合剤単剤に切り替えるという場合が多くでてくると予想される(図4).また,視野障害の進行速度が速く,他のPG関連薬に切り替えて様子をみる時間の余裕がない場合も,配合剤単剤への切り替えが優先される可能性があると考えられる.その場合,具体的には,b遮断薬とPG関連薬の配合剤が選択されるであろう.ただし,ここで注意すべきは,PG関連薬の一つであるビマトプロストはラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液と比較して眼圧下降効果が同等であるという報告がある点である5).ビマトプロストにもノン・レスポンダーが存在すると考えられすべての患者に有効とは限らないが,視野で有効性を確認する必要があると思われる.2.点眼時間PG関連薬とb遮断薬の配合剤はいずれも1日1回点眼であるが,点眼時間帯は朝と夜のいずれが効果的か,副作用の発現も考慮したうえでの検討が必要である.眼圧下降効果については,夜間はb受容体の活性が低下し房水量が減少するため,b遮断薬を夜点眼しても効果はないとされている.したがって,たとえばPG関連薬を夜1回,b遮断薬を朝夜2回点眼している場合,配合剤に切り替えて朝1回点眼したとすれば,b遮断薬の点眼回数が2回から1回に減少したとしても眼圧下降効果は変わらない可能性がある.しかし,ラタノプロスト/チモロール配合点眼液の場合,朝点眼するよりも夜点眼したほうが効果的であるとの報告もある.一方,トラボプロスト/チモロール配合点眼液については,朝と夜で眼圧下降効果に統計学的有意差がなかったとの報告がある.したがって,b遮断薬を含む配合剤の点眼時間については今後検討の余地がある.3.b遮断薬の全身的作用b遮断薬の循環器系副作用は,心機能が抑制され,血圧や脈拍が低下することであり,不整脈,徐脈,心不全では処方に注意を要する.特に注意するのは呼吸器系の副作用であり,喘息発作を誘発すると生命に関わる場合もある.夜間にb遮断薬を含む配合剤を点眼し喘息発作を誘発した場合,どうしても昼間に比べて対応が遅れがちになる.したがって副作用の面から考えると,b遮断薬を含む配合剤は朝点眼したほうが安全という考えが成り立つ.眼循環の面からも,夜間にb遮断薬を点眼すると眼灌流圧が低下して視野障害の進行に結びつく可能性を考えれば,朝点眼が望ましい.配合剤の登場で,b遮断薬を投与される患者数は増加すると予想される.処方する医師は配合剤にb遮断薬が含まれていることを認識して,副作用に対する配慮を十分に行い,安易な処方を避けなければならないと考える.PG単剤投与PG剤変更配合剤+a(PG+b+CAI)目標眼圧未達目標眼圧達成配合剤薬剤継続図4配合剤の使い方現在,単剤治療の主流はPG関連薬である.これまでは目標眼圧に達しない場合,他のPG関連薬へ切り替えて単剤治療を続けるか,あるいはb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬を追加し併用治療を開始していた.今後はPG関連薬単剤で効果がない場合まず配合剤単剤に切り替え,さらに眼圧下降が必要な場合は薬剤を追加してPG関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の組み合わせにもっていく場合が多くなると予想される.(39)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101361り替えは躊躇せざるをえない.このように,配合剤が加わったことで利便性は増したが,薬剤の選択はより複雑になった面はある.現段階では,配合剤を第一選択薬とするか第二選択薬とするか,不明な点はある.しかし,配合剤の登場により新たな治療薬の選択肢が増え,アドヒアランスも向上すると考えられる.文献1)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Interventionsimprovepooradherencewithoncedailyglaucomamedicationsinelectronicallymonitoredpatients.Ophthalmology116:191-199,20092)ChraiSS,MakoidMC,EriksenSPetal:Dropsizeandinitialdosingfrequencyproblemsoftopicallyappliedophthalmicdrugs.JPharmSci63:333-338,19743)HenryJC,PeaceJH,StewartJAetal:Efficacy,safety,andimprovedtolerabilityoftravoprostBAK-freeophthalmicsolutioncomparedwithpriorprostaglandintherapy.ClinOphthalmol2:613-621,20084)KonstasAG,MikropoulosD,HaidichABetal:Secondlinetherapywithdorzolamide/timololorlatanoprost/timololfixedcombinationversusaddingdorzolamide/timololfixedcombinationtolatanoprostmonotherapy.BrJOphthalmol92:1498-1502,20085)RossettiL,KarabatsasCH,TopouzisFetal:Comparisonoftheeffectesofbimatoprostandafixedcombinationoflatanoprostandtimololoncircadianintraocularpressure.Ophthalmology114:2244-2251,2007障害の進行例や眼圧コントロール不良例でも,ビマトプロストへの切り替えを考慮しても良い場合もあると考えられる.Konstasら(2008)は,ラタノプロスト単剤では効果不十分であった緑内障患者を対象に,ドルゾラミド/チモロール配合剤またはラタノプロスト/チモロール配合剤への切り替え,あるいはラタノプロストへのドルゾラミド/チモロール配合剤の追加を行って眼圧下降効果を前向きに検討した.その結果,ラタノプロスト単剤と比較して,ドルゾラミド/チモロール配合剤またはラタノプロスト/チモロール配合剤は有意に眼圧を下降させ,さらにラタノプロストへのドルゾラミド/チモロール配合剤の追加は最も眼圧を下降させた.ラタノプロスト,ドルゾラミド,チモロールはそれぞれ眼圧下降機序が異なり,これら3剤の組み合わせは眼圧を効果的に下降させると考えられる.配合剤に切り替えて十分な眼圧下降が得られなかった場合は,早めにPG関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の3者の組み合わせにもっていくことも選択肢の一つである.2.配合剤の使用の注意点と今後の展望視野障害が進行し眼圧コントロールが不良な例では,配合剤への安易な切り替えには懸念がある.多剤併用と同等の眼圧下降効果が期待できなければ,配合剤への切

プロスタグランジン関連薬物

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYIPGとプロスタノイド受容体PGそのものは,オータコイドとよばれる全身に広く分布し多種多様な生理活性をもつ局所ホルモンの一群をなす脂質の総称であり,細胞膜のリン脂質から切り出されたアラキドン酸のようなエイコサポリエン酸から,アラキドン酸カスケードとよばれる一連の酵素反応の主要経路であるシクロオキシゲナーゼ(COX)代謝経路により産生される(図1).PGシクロオキシゲナーゼ系のおもな代謝物はPGD2,PGE2,PGF2a,PGI2,TX(トロンボキサン)A2である.それぞれに特異性の高い受容体はプロスタノイド受容体とよばれ,DP,EP1.4,FP,IP,TPと分類されているが,実際には生体内のPGは1種以上の受容体に交叉結合しうるので,各々の薬理作用は広い(図2).IIプロスト系PG関連薬の開発の経緯PGの眼での最初の報告は1955年にAmbacheがirinと名付けた瞳孔収縮作用のある物質を虹彩から抽出したことに始まり,それはおもにPGF2aとPGE2であることが判明している.1970年代になり低用量のPGF2aがウサギで眼圧下降を示すことがわかり,その後多くのPGE2,PGF2aとその関連物質が試され,角膜透過性に優れたPGF2aイソプロピルエステルから,現在のラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの開発に至った.国内ではタフルプロストも開発された(図3).はじめに本年2010年はラタノプロスト(キサラタンR,ファイザー)の国内特許が切れた年でありプロスタグランジン(PG)関連薬にとっては一区切りがついたといえよう.1999年に米国で発売されてまだ10年であるが,周知のように世界中で最も使用されている緑内障治療薬となっている.ラタノプロストが属するPG関連薬は1980年代から眼薬理作用が検討されてきた物質であり歴史は浅い.PG関連薬のうち,薬品名にプロストと名の付くプロスト系とよばれる系統は,現在第一選択薬の眼圧下降薬となっており,その理由は,病型を選ばず最大の眼圧下降効果が得られること,終日の眼圧下降効果,日内変動抑制効果,局所のみで全身的副作用がないこと,1回点眼であることなどがあげられる.日本で1994年に開発発売されたウノプロストン(レスキュラR,参天製薬)はPG関連薬であるが,プロストン系として別に扱われる.プロスト系はラタノプロストに始まり今やトラボプロスト(トラバタンズR,日本アルコン),ビマトプロスト(ルミガンR,千寿製薬),タフルプロスト(タプロスR,参天製薬),さらにラタノプロストの後発品が22種類も発売されて,市場はPG関連薬だらけとなっている.PGはおもにFP受容体に作用して眼圧を下げることがわかってきた1.3)が,基礎から臨床までのPG関連薬についていまだ明らかでない問題点を含めた現状と今後の展開について,薬学的なPGとその受容体に重点を置いて述べたい.(25)1347*MakotoAihara:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1347.1356,2010プロスタグランジン関連薬物ProstaglandinAnalogues相原一*1348あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(26)リン脂質プロスタグランジン合成経路プロスタマイド合成経路細胞膜ホスホリパーゼA2アラキドン酸ホスファチジルコリンアナンダマイドホスファチジルエタノールアミンホスホリパーゼD2プロスタマイドF2aProstamideH2COXCOXCONC2H4OHHCONC2H4OHHCONC2H4OHHPGG2PGH2COXOOOOOHOHOOHOOHOHOHOHOHOHPGE2PGI2PGD2TXA2プロスタグランジンプロスタマイドCOO-H+OOOHCONC2H4OHOHOCOO-H+COO-H+COO-H+PGF2aPGF2aCOX図1生体内生理活性脂質合成経路プロスタグランジンは膜リン脂質から合成される脂質で種々の生理活性をもつ(左経路).またプロスタマイドも同様に膜リン脂質から合成される脂質であるが,生体内機能はあまり解明されていない(右経路).種類生体内機能受容体PGF2a⇒FPEP1PGE2発熱,疼痛,血管透過性亢進⇒EP2EP3EP4PGI2血小板形成抑制,血栓形成阻害⇒IPPGD2睡眠誘発,気管支収縮⇒DPTXA2血小板形成促進,血栓形成促進⇒TP陣痛誘発,黄体退縮,眼圧下降プロスタマイドF2aプロスタマイドF2a受容体=FP+FPsplicevariant眼圧下降?⇒ビマトプロストプロスタノイド受容体プロスタノイドプロスタグランジンラタノプロスト酸,トラボプロスト酸タフルプロスト酸,ビマトプロスト酸図2PGとプロスタマイド受容体PGの種類と生理活性を示す.それぞれの受容体が存在するが,一つのPGは他の受容体にも少し活性をもつ.下段に類似したプロスタマイドF2aとその受容体を対比させてある.少なくともFP受容体が眼圧下降に関与する.(27)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101349FPへの結合に重要である.そのため,invitroの結合実験ではウノプロストンはFP受容体への結合親和性が低い.プロスト系薬剤は炭素鎖15位の水酸基を保存したまま,修飾が施された薬剤であるが,最後に開発された国産のタフルプロストは水酸基をフッ素で置換することにより薬剤の安定性を高めた構造になっている.IVプロドラッグ製剤5種類の薬剤はすべてプロドラッグ製剤である.PGは本来末端のカルボキシル基は酸になっていて受容体に結合するが,図4にあるように点眼製剤はビマトプロストを除きイソプロピルエステル型となっており,角膜を通過する際にエステラーゼにより結合が切れて酸となり,眼内で受容体に作用する.ビマトプロストだけが,エチルアミド型となっておりアミダーゼにより結合が切られ酸となる(図4,5).こうしたプロドラッグ製剤は,眼外での不必要な薬理活性を減らすことで副作用を軽減する役割をもっているため,製剤として好ましい.このように緑内障眼圧下降薬としてのPG関連薬はFP受容体の生体内agonistであるPGF2aを基本骨格として開発された.そのためPG関連薬とよぶ.興味深いことに眼圧下降効果のあるPGF2aはすでに生体内にある.しかし,その存在により眼圧がどのように調整されているかはわかっていない.たまたま点眼によりPGF2aおよびその関連薬を投与したところ眼圧が下降したことから開発が進んできたわけである.IIIプロストン系とプロスト系の分類ウノプロストン,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストの5種類のPG関連薬のうち,ウノプロストンだけがPGF2aイソプロピルエステルの基本骨格に近いものの,15位の水酸基が酸化され代謝された構造をもつためプロストン系と分けて考えるとよい.一方,他の4種はPGF2aをより安定化させた構造をしており,名前もプロストがついているため,まとめてプロスト系とよぶ(図4).炭素15位の水酸基は基本骨格であるPGF2aの受容体ウノプロストンラタノプロストトラボプロストビマトプロストタフルプロスト濃度0.12%0.005%0.004%0.03%(海外)0.0015%開発国日本米国米国米国日本国内発売1994年10月1999年5月2007年10月2009年10月2008年12月投与回数1日2回1日1回1日1回1日1回1日1回保存条件凍結を避けて保存2~8℃,遮光開封後1カ月室温可1~25℃2~25℃室温保存眼圧下降+++++++++副作用充血,眼瞼色素沈着,睫毛伸長増加,上眼瞼溝顕性化+++++++++防腐剤BAKBAKsofZiaR(イオン緩衝系防腐剤)BAKBAKプロストン系プロスト系BAK:ベンザルコニウム塩化物図3緑内障治療PG関連薬一覧開発順に記載している.ウノプロストン以外はプロスト系グループとして把握すると理解しやすい.第一選択はプロスト系薬剤である.眼圧下降,副作用,防腐剤などに特徴がある.1350あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(28)は,プロスト系薬剤のなかでビマトプロストだけの眼圧下降作用を阻害する試薬ができたこと,ネコの平滑筋細胞の中にビマトプロストに反応するがラタノプロストには反応しない細胞があることから,特異受容体の存在が示唆されて探索された.そうして発見されたプロスタマイドF2a受容体はFPとは別の遺伝子と思いきや,実はFP受容体とFPのスプライスバリアントの複合受容体であった1)(図6).まとめると,C末端がエチルアミド型のビマトプロストは,加水分解された酸型では他のイソプロピルエステル型プロスト系と同様なプロスタノイド受容体への結合パターンを示すが,酸にならない状態でもプロスタマイドF2aとしてFP受容体とFPのスプライスバリアントの複合体に直接結合するというわけである(図5,6).Vプロスタマイドとは?―ビマトプロストの特徴ちなみにビマトプロスト酸は17phenylPGF2aとまったく一緒であり,最もFP受容体の生体内アゴニストであるPGF2aに近い薬剤である.加水分解される前のビマトプロストは図4,5のように末端がエチルアミドとなっている.実は生体内にも図1のようにPGエチルアミド型の物質群が存在しており,プロスタマイドとよばれている.プロスタノイドと同様に膜のリン脂質ホスファチジルエタノールアミンから合成されている.現在生体内にあるプロスタマイド群の生体内作用は不明であるが,それは受容体の存在も不明であったからである.実はビマトプロストの研究から興味深いことに,ビマトプロストはプロスタマイドF2aの関連薬として今まで存在が不明であった受容体を介して作用している可能性が出てきたのである.プロスタマイドF2a受容体の存在PGF2aイソプロピルエステルHOHOHOHOOHHOHOHOHOOHOHOHOOラタノプロストHOHOHOHOOOesteraseイソプロピルウノプロストンOOOesteraseesteraseOCF3OOトラボプロストesteraseタフルプロストOFOOFamidaseONHビマトプロストプロストン系プロスト系図4PG関連薬の構造式基本となるPGF2aイソプロピルエステルと5種の薬剤構造式を示す.炭素15位の水酸基が保存されているのがプロスト系薬剤でFPに対する親和性が高い.PGは本来C末端がカルボキシル基で活性があるが,薬剤としてはすべてエステルまたはアミド結合により修飾されてプロドラッグとして投与される.(29)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101351容体欠損マウスにおける眼圧下降効果を検討した(図8).野生型マウスとFP受容体欠損マウスの片眼に市販濃度の5種のPG系眼圧下降薬を3μl点眼後,僚眼を対象として3時間での眼圧下降率を検討したところ,図のように野生型マウスではいずれも有意な眼圧下降効果が得られたが,FP受容体欠損マウスではほとんど眼圧下降効果が得られなかった.したがって,これらの眼圧下降作用にはFP受容体が必須であることが判明した2,3).ウノプロストンはFP受容体以外にもMaxi-Kチャンネルを活性化させるという報告があるが,このチャンネルと眼圧下降効果との関係は不明である.ビマトプロストの受容体もFP遺伝子から切り出されるわけなので,ともかくFP受容体が重要であることは間違いない事実である.したがってFP受容体結合能を高めたプロスト系の薬剤開発は正しい戦略であったといえる.では今後よりFP受容体に特異性親和性が強い薬剤が重要かというVIPG関連薬のプロスタノイドFP受容体結合能の重要性と限界PG関連薬は酸になると受容体結合能が向上し,プロスタノイド受容体に結合するが,図7にあるようにウノプロストンはどの受容体にも結合能が劣る.プロスト系はいずれもFP受容体に最も結合するが,EP3受容体にも結合能を有する.最もFP選択性が高いのはタフルプロストである.FP刺激は重要であるが,選択性や親和性の相違がどの程度眼圧下降効果に反映しているかは不明である.Invitroの薬理学的受容体結合試験により,FP受容体が主たる作用点であることが推測されていたが,いずれの受容体にも結合力が劣るウノプロストンやエチルアミド型のビマトプロストは他の作用点がある可能性も示唆されていた.そこで筆者らは5種の薬剤によるFP受PGF2aラタノプロスト酸HOHOOHHOHOOHOO+OO+..プロスタノイドFP受容体に結合プロスタマイド受容体に結合HOHOOHONHビマトプロストアミダーゼHOHOOHビマトプロスト酸OO+加水分解されなければプロスタマイドとして働く但し,アミダーゼは少なく,分解されにくい加水分解されるとPGF2a関連薬として働く図5ビマトプロストの二面性ビマトプロストそれ自身プロスタマイドタイプの脂質に属する.最近プロスタマイド受容体が発見されたので,ビマトプロストは他のプロスト系薬剤と同様角膜で代謝されて酸型となりFP受容体に付くか,そのままの形でプロスタマイド受容体に付いて作用している可能性がある.1352あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(30)昇し,細胞外マトリックスが分解させる方向に傾き組織内の房水流出抵抗が低下するという説があるが,明確なinvivoでの証明はされていない(図9).このような生化学的組織変化は少なくとも数日を要するため,PG関連薬による長期的に持続する眼圧下降効果を説明するにはよい仮説であるが,短時間でも眼圧下降することの説明にはならず,今後の詳細な検討が必要である.またFP受容体は毛様体以外にも線維柱帯にも発現しているため,房水流出抵抗を下げる短期的な機序が存在する可能性が十分ある.FP受容体を介した眼圧下降作用機序がもっと明確になれば新しい薬物開発につながるはずであり,今後の展開が待たれる.と個人的には否定的である.ラタノプロストから始まってタフルプロストまでFP受容体に特化した薬剤が開発されたが,結局以下に述べるように眼圧下降効果はほぼ同等であり,これ以上の眼圧下降効果を狙うとなるとFP受容体以外にその活路を見いだしたほうがよいと思われる.VIIFP刺激による眼圧下降機序の謎FP状態を刺激すると,細胞内カルシウムが上昇しさまざまな細胞内シグナルが伝達されるが,残念ながら眼圧下降につながる詳細な機序は不明である.唯一PG関連薬によりマトリックスメタロプロテアーゼの活性が上代謝物(酸型)どちらの受容体もFP遺伝子が必要!標的組織+ビマトプロストプロスタノイドFP受容体FPプロスタマイド受容体FPsplicevariantラタノプロスト酸トラボプロスト酸タフルプロスト酸ビマトプロスト酸ラタノプロストビマトプロストトラボプロストタフルプロスト代謝■プロスト系の化学構造特性と作用プロスタグランジンF2a誘導体プロスタマイドF2a誘導体プロスタグランジンF2aプロスタマイドF2a代謝HOHOHHOHOHHHHHHHHHOHCH3CH3OHOHOHOHNHNOHOHOHHHHHOHCH3O図6プロスト系薬剤の受容体FPとビマトプロスト受容体酸型となったプロスト系薬剤はFP受容体に作用する一方,ビマトプロストだけは分解されなくてもプロスタマイドF2a受容体に作用する.2008年にその受容体はFPとFPの一部が切り取られたsplicevariant受容体の複合体であることが判明した.あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101353VIIIPG関連薬の眼圧下降効果プロスト系薬剤はプロストン系より眼圧下降効果が強い.薬剤の浸透率,受容体結合活性にもよるが,プロスト系はいずれもかなり濃度が低い(図3).ただし,製剤濃度と眼圧下降効果はあまり関係なく,ほぼプロスト系は同様な眼圧下降効果を示す.プロスト系の眼圧下降効果は海外の原発開放隅角緑内障(POAG),高眼圧症(OH)で約25%であり,日本の正常眼圧緑内障(NTG)でも約20%の眼圧下降効果が得られ,他の眼圧下降薬と比べても最も眼圧下降効果が強い.ウノプロストンは2回点眼で濃度も高いが眼圧下降効果は劣る.国産のタフルプロスト以外は,すでに海外で長年使用されており,メタアナリシス解析ではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストはほぼ同様な眼圧下降効果を示すが,若干ビマトプロストの眼圧下降効果が強いようである(表1).ただ日本のNTGでの眼圧下降効果に差があるかは不明である.タフルプロストは上市されて間もないのでデータが少ないが,少なくともキサラタンRに非劣性である.国内でのプロスト系薬剤の比較は今後発表されるであろうが,これまでの海外のデータを合わせて考えても,プロスト系4種の平均眼圧下降効果はほぼ同等であることが予想される.ビマトプロストが海外報告どおりに日本人でもラタノプロスト,トラボプロス(31)ラタノプロスト3020100-10眼圧下降率(%)Wildtype&FPKOmouse夜間点眼3時間後*:p<0.01OtaT2005IOVSWTFPKOWTFPKO*****WTFPKOWTFPKOWTFPKOトラボプロストビマトプロストタフルプロストウノプロストン図8PG関連薬のFP受容体欠損マウスでの眼圧下降効果いずれのPG関連薬も野生型(WT)マウスでは有意な眼圧下降効果を示すが,FP受容体欠損マウスではまったく下降しないことから,FP受容体がこれらの薬剤の眼圧下降作用に必須であることがわかる.FPビマトプロスト酸ラタノプロスト酸FPEP4FPEP4ウノプロストン酸FPタフルプロスト酸FPEP4EP4EP4EP1EP2DPEP3IPEP1TPEP2DPEP3IPTPEP1EP2DPEP3IPTPEP1EP2DPEP3IPTPEP1EP2DPEP3IPTPトラボプロスト酸10-110-410-710-1010-110-410-710-1010-110-410-710-1010-110-10-710-1010-110-410-710-10図7PG関連薬のプロスタノイド受容体親和性各受容体に対する親和性をレーダーチャートで示す.外側ほどその受容体親和性が高いことを示す.ただし,全薬剤を同一条件で比較したデータがないため,図は大体の傾向を示すと理解していただきたい.1354あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010ト,タフルプロストより効果が優れるかは今後の報告を待ちたい.プロスト系薬剤の眼圧下降効果はほぼ同等であると述べたが,各個体では効果に相違がある.あるプロスト系での眼圧下降効果にはほとんど下がらない眼もあれば30%以上下がる眼もある.また,あるプロスト系ではほとんど眼圧が下がらないが,別のプロスト系薬剤では下がるといったこともある.薬理効果に個体差があるのは当然のことであるが,類似したプロスト系薬剤間でも差があるのは興味深い.今後,反応良好群と無反応群との比較により,受容体の解析を行うとより無反応個体を減らせるような薬剤開発が進む可能性がある.IXPG関連薬の副作用の相違PG関連薬の副作用は,全身的副作用はないが,局所では結膜充血,虹彩色素沈着,睫毛伸長,増加,眼瞼色素沈着,上眼瞼溝の明瞭化あるいは凹みが起こる.ウノプロストンの副作用は,プロスト系4種と比べて少ないことは間違いない.プロスト系4種のなかでは,ラタノプロストよりトラボプロスト,さらにビマトプロストの(32)FPPGE2↑MMP活性化ECM再構築?Fu↑Ca2+↑EP3毛様体Fc↑?TM~SC流出抵抗↓COX2↑線維柱帯FPCa2+↑SharifNA2003IOVSCrowstonJG2004IOVSThiemeH2006IOVSLindseyetal1997IOVSWeinrebetal1997IOVSLindseyetal1996CurrEyeResHinzB2005FASEBJOhDJ2006IOVSGsEP4cAMP↑GsEP2GsEP4cAMP↑cAMP↑Susanneetal2005BBRCOhDJ2006IOVSECMは無関係?OhDJ2006IOVSSaekiT2009IOVSOtaT2006IOVSOtaT2005IOVSプロスト系眼圧下降プロスト系……図9プロスト系薬剤とプロスタノイド受容体による眼圧下降効果現在のPG関連薬にはFP受容体刺激が必要であるが,実際には複雑に他のプロスタノイド受容体が関与していると考えられる.EP3はFPとともに作用を強化している可能性があり,EP2,4はそれらと別のシグナルにより眼圧を下げる可能性が高く注目される.残念ながら受容体以降のシグナルはほとんど解明されておらず,今後の展開に期待したい.表1PG関連薬の眼圧下降効果のメタアナリシス解析RefAuthorJournalYearlatanoprost=travoprost=bimatoprost27vanderValkOphthalmology2005latanoprost=travoprost<bimatoprost42HolmstromSCurrMedResOpin2005latanoprost=travoprost=bimatoprost12LiNRClinExpOphthalmol2006latanoprost<travoprost=bimatoprost9DenisPCurrMedResOpin2007latanoprost=travoprost<bimatoprost8AptelFJGlaucoma2008latanoprost=travoprost=bimatoprost24BeanGWSurvOphthalmol2008あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101355ほうがより副作用が強いと海外で報告されている.ラタノプロスト以外は日本では導入されたばかりなので詳細な比較検討がないが,おおむね副作用は強くなっている.睫毛の伸長や増加は,ビマトプロストが最も強く,海外ではビマトプロストを睫毛伸長剤として販売しているくらいである.眼瞼色素沈着の副作用は,患者指導が重要であり,夜点眼といっても風呂や化粧落としの前に点眼させ,洗顔することで十分防ぐことができる.夜点眼という指導により就寝直前に点眼してそのまま寝る場合や,点眼後よく拭くことで逆にすり込んでいる場合,高度な色素沈着がみられるので,副作用の強い場合はよく患者教育をする必要がある.充血は,特に点眼開始時に強く,継続投与で徐々に減少することは間違いないので,ドロップアウトさせないためにも初回処方時に,必ず充血することと,点眼しているうちに目立たなくなる旨の患者指導が重要である.すでにラタノプロストを点眼している患者に他のプロスト系薬剤に切り替えると,意外と充血が目立たないことが多いが,理由は不明である.最近報告がされ始めた副作用として上眼瞼溝の顕性化に注目したい.現在のところビマトプロストとトラボプロストにおいて臨床報告がある.10年以上使用されていたラタノプロストでの報告がないことから,ラタノプロストではきわめて稀か軽度でわかりにくい変化と考えられる.タフルプロストでの報告はないが,いずれのプロスト系薬剤も薬物申請時の資料では,サル眼において濃度や投与頻度,投与期間が異なるもののヒトと同様な副作用がすでに報告されており,どの薬剤でも上眼瞼溝の顕性化は起こりうると考えている.この副作用の機序は解明されていないが,培養細胞でFP受容体を介した脂肪合成の抑制についての報告がすでにあるため,眼でも同様な機序ではないかと考えている.XFP以外のプロスタノイド受容体を介した眼圧下降の可能性以上,現状のPG関連薬のFP受容体を介した眼圧下降効果について述べたが,表2にあるとおり,FP以外の受容体でも眼圧下降効果を有する可能性がある.すでにサル眼を用いたPGE2の眼圧下降効果が示されているが,EP受容体は4つのサブタイプがあるため,特異的にいずれかのサブタイプが眼圧下降に関与している可能性がある.そこで,EP1.4の各受容体のアゴニストを用いた眼圧下降効果を検討したところ,EP2およびEP4受容体アゴニストによる眼圧下降効果が得られ,EP1およびEP3受容体ではまったく眼圧下降効果(33)表2PGF2a関連薬またはFP受容体以外を介した眼圧下降8-isoPGE2サルにおいて眼圧下降効果,latanoprostとの併用効果WangRF2000サル眼において経ぶどう膜強膜路の増大を示唆GabeltBT2004EP2agonistAH13205サル眼での眼圧下降効果と経ぶどう膜強膜路の増大RichterM2003EP2agonistbutaprostサル眼での眼圧下降効果と経ぶどう膜強膜房水流出の増加WoodwardDF1995,NilssonSF2006EP2,EP4agonistマウス眼での眼圧下降効果と経ぶどう膜強膜房水流出の増加SaekiT2009DPagonistAL-6598ヒトにおいて眼圧下降効果HellbergMR2002IPagonistIloprostウサギ・イヌで眼圧下降HoyngPF1987TPagonistU-46619TPないしEP3agonist,ウサギで眼圧下降WaterburyLD19901356あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010が得られなかった.EP2,4受容体の細胞内シグナルはともにcAMP(cyclicadenylicacid)の上昇を介することが判明しているので,線維柱帯,毛様体でのcAMP上昇が眼圧下降作用に関与している可能性がある4)(図9).EP3受容体は,そのアゴニスト刺激では眼圧下降は起きなかったが,興味深いことにEP3受容体欠損マウスではプロスト系薬剤の眼圧下降効果が減弱する.すなわち,FP受容体刺激による眼圧下降にEP3受容体が何らかの形で関与している可能性が示唆されている.これらのプロスタノイド受容体サブタイプの眼圧下降への関与から,今後はFP+他の受容体刺激作用をもつ複合作用PG関連薬の開発が大きな可能性をもつと考えている(図9).XI将来の展望作用機序が不明なまま開発されたPGF2a系の薬剤から,現在はプロスタノイド受容体レベルでの眼圧下降効果が検討できるようになってきた.FP受容体は眼圧下降作用の大きな役割を果たしていることは相違ないが,その他にEP受容体,DP,IP,TP受容体も関与している可能性がある.今後は受容体特異性の高い薬剤を開発することにより,さらに作用,副作用を分離し,眼圧下降効果が高い薬剤の開発につなげる必要がある.また,受容体レベル以下のシグナル伝達と細胞外出力をさらに検討して眼圧下降機序をよりいっそう解明することが期待される(表3).文献1)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20082)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptordeficientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,20053)OtaT,AiharaM,SaekiTetal:TheIOP-loweringeffectsandmechanismofactionoftafluprostinprostanoidreceptor-deficientmice.BrJOphthalmol91:673-676,20074)SaekiT,OtaT,AiharaMetal:EffectsofprostanoidEPagonistsonmouseintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci50:2201-2208,2009(34)表3PG関連薬の基礎と臨床と今後の課題基礎面作用機序の解明.プロスタノイド受容体以降のシグナルと房水流出改善作用の解明.より選択的なFPagonistによる実験.副作用:充血,上眼瞼溝顕性化の機序の解明と軽減の可能性臨床面PG関連薬の特徴.プロスト系は1日1回の第一選択薬,正常眼圧緑内障での眼圧下降効果も十分.プロストン系は1日2回で眼圧下降効果がプロスト系に劣るが,副作用は少ない.b遮断薬と異なり終日眼圧下降が得られる.充血,眼瞼虹彩色素沈着,睫毛増長,上眼瞼溝顕性化に注意.PG関連薬のなかで眼圧下降に個人差があるため,それぞれ試す価値がある今後のPG関連薬.日本人における新規薬剤プロスト系PG剤の眼圧下降と特徴の把握が必要.防腐剤の改良による眼表面への影響の相違.神経保護,血流改善の臨床的エビデンス.Generic薬との相違点の把握.他系統薬剤との合剤の導入.FP以外のプロスタノイド受容体による眼圧下降の解明.FPと他の受容体との組み合わせによる相加的眼圧下降

インフリキシマブ

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYき盛りの年代に多いのが特徴である.男女比はほぼ同数であるが,重症度は男性のほうが高い傾向にある.Behcet病の原因として,考えられるのは,内的因子と外的因子である.内的因子では,HLA(組織適合抗原)-B51抗原(またはHLA-B51サブタイプのHLA-B51*5101)が原因遺伝子として重要視されている.近年,全ゲノムを対象とした解析が行われ,原因遺伝子としてIL(インターロイキン)-10とIL-23レセプターおよびIL-12レセプターが有力視されている2,3).特にIL-10は,Behcet病の原因とも考えられているT細胞type1(Th1)に対して抑制性に働くサイトカインであり,病因論としてIL-10を産生する遺伝子システムに狂いが生じて,難治性の炎症が局所で起きている可能性が高い.しかし,なぜその炎症が起きやすい場が,眼局所であり,口腔内,皮膚,陰部なのかはよくわかっていない.IIBehcet病の症状と所見1987年の旧厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班における診断基準では,表1のごとく,4つの主症状と副症状から成る.虹彩毛様体炎や網膜ぶどう膜炎などの眼症状は,本病全体の70%にみられる1).片眼発症の1.2年以内に反対側の眼にも炎症を起こすことが多い.典型的な虹彩毛様体炎には前房蓄膿を伴うが,経過中に前房蓄膿を伴うのは20.30%程度である(図1).強い炎症性変化が起きているときは,虹彩ルベオーシスを伴うこともある(図2).反復する虹彩毛様体炎と網膜ぶどはじめにBehcet病は,再発性ぶどう膜炎,口腔粘膜のアフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,皮膚症状の4つを主症状とする慢性の難治性炎症疾患であり,各々の症状の消失と再発をくり返すのが特徴の一つとされている.今まで,難治性のぶどう膜疾患であるBehcet病における治療は,副腎皮質ホルモン剤の局所投与,コルヒチン,シクロスポリンの内服が行われてきた.しかし,これらの薬剤では完全に眼発作を制御できず,投与により重篤な副作用を起こすこともしばしば認められた.これに対し,抗ヒトTNF(腫瘍壊死因子)-a抗体であるインフリキシマブ(製剤名レミケードR)は,世界に先駆けて,2007年1月にBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対する適応が承認された生物製剤である.本総説では,Behcet病における眼症状の本剤の強力な抑制効果,その安全性,および対象患者の選定と将来の本剤の可能性について述べていきたいと思う.IBehcet病とは?Behcet病は,わが国における主要なぶどう膜炎の一つであり,難治性全身性疾患として厚生労働省の特定疾患に指定されている.1991年に行われたBehcet病患者数の調査では,約18,000人と推定されている1).Behcet病は,わが国ではわずかながら減少傾向にあるが,放置していると失明の可能性があることには変わりがない.発症年齢は20代から40代に多くみられ,働(17)1339*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1339.1345,2010インフリキシマブInfliximab毛塚剛司*1340あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(18)い.蛍光眼底造影では,「シダ状」と形容される網膜毛細血管からの蛍光色素漏出が起きたり,視神経乳頭近傍から蛍光漏出をきたしたりする(図4a,b).網膜血管炎をきたして反復すると,毛細血管床が閉塞し,虚血性変化が起きて不可逆性の視機能障害につながってしまう.このような不可逆的な変化に移行する前に,何らかの治療を行う必要がある.IIIインフリキシマブ以前の既存治療局所治療としては,筆者らの施設では虹彩毛様体炎に対して副腎皮質ステロイド薬の点眼や結膜下注射を施行し,網膜ぶどう膜炎に対してトリアムシノロンなどのステロイドデポ剤のTenon.内注射を行っている.一方,全身治療としては,再発する眼発作予防としてコルヒチン,シクロスポリンなどの内服を行っている.Behcetう膜炎により,視機能の低下が進み,最終的には視神経も萎縮してしまう.再発性前房蓄膿性虹彩毛様体炎に比べ,網膜ぶどう膜炎は視力に直接影響が出やすい.黄斑部におけるびまん性浮腫,混濁,出血斑,滲出斑などが出現する(図3a,b)と,急激な視力低下をきたしやす表1Behcet病の診断基準(厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班,1987年改変)1.主症状(1)口腔粘膜の再発性アフタ潰瘍(2)皮膚症状a.結節性紅斑b.皮下の血栓性静脈炎c.毛.炎様皮疹,座瘡様皮疹参考所見:皮膚の被刺激性亢進(3)眼症状a.虹彩毛様体炎b.網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)c.以下の所見があればa.b.に準じるa.b.を経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,眼球癆(4)外陰部潰瘍2.副症状(1)変形や硬直を伴わない関節炎(2)副睾丸炎(3)回盲部潰瘍に代表される消化器病変(4)血管病変(5)中等度以上の中枢神経病変3.病型診断の基準(1)完全型経過中に4症状が出現したもの(2)不全型a.経過中に3主症状,あるいは2主症状と2副症状が出現したものb.経過中に定期的眼症状とその他の1主症状,あるいは2副症状が出現したもの(3)疑い主症状の一部が出現するが,不全型の条件を満たさないもの,および定期的な副症状が反復,あるいは増悪するもの(4)特殊な病型腸管(型)ベーチェット病血管(型)ベーチェット病神経(型)ベーチェット病4,参考所見(1)皮膚の針反応(2)炎症反応赤血球沈降速度の亢進,血清CRPの陽性化,末梢血白血球の増加(3)HLA-B51(B5)の陽性図2Behcet病患者に出現した虹彩ルベオーシス図1Behcet病患者に出現した前房蓄膿(19)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101341より高い場合は,用量依存的に頭痛,腎障害などの副作用が発現する可能性がある.副作用として最も気をつけなければならないのは,神経Behcet様の中枢神経症状である.もし神経Behcet病をきたしている患者に投与した場合,中枢神経症状が悪化する可能性がある.さきほどコルヒチンを投与した場合,ミオパチーが起きる可能性があると述べたが,シクロスポリンを併用した場合はその危険性が増すといわれている.この2種で効果がない場合,低用量の副腎皮質ステロイド薬を用いることがある.以前は副腎皮質ステロイド薬を全身投与した場病に対する内服の第一選択は,基本的にはコルヒチンである.コルヒチンは,白血球遊走阻止作用を有しており,痛風の発作予防にも用いる.副作用としては,血清中クレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇を伴うミオパチーや,不妊症もしくは催奇形性をきたす可能性がある.内服治療の第二選択は,シクロスポリンである.シクロスポリンは,サイトカイン産生に関与した遺伝子転写を抑制し,効果を発現する.シクロスポリン投与時は,最低血中濃度(トラフレベル)を測定し,基準値より高い値が出ないよう調整しなければならない.基準値ab図3Behcet病患者の眼底所見a:黄斑近傍の網膜出血,b:網膜滲出斑.ab図4Behcet病患者の蛍光眼底造影所見a:視神経乳頭付近からの蛍光色素漏出,b:網膜毛細血管からの「シダ状」蛍光色素漏出.1342あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(20)どう膜炎治療薬として承認された8).Vインフリキシマブの作用機序インフリキシマブは抗体の一種で,ヒトTNF-aに対して特異的に結合するマウス抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体由来の可変領域と,ヒトIgG1定常領域由来の抗ヒトTNF-aキメラ型モノクローナル抗体が合わさって構成されている.この抗体は,ヒトのTNF-aに特異的に結合し,つぎの3つの機序で生物活性を阻害すると考えられている.1)可溶型TNF-aの生物活性を中和する.2)受容体に結合したTNF-aを解離させることによりTNF-aの作用を阻害する.3)膜結合型TNF-a発現細胞を補体依存性細胞障害(CDC)または抗体依存性細胞媒介型細胞障害(ADCC)により傷害する(図5).最近の筆者らの知見では,インフリキシマブ投与により末梢血単核球上のToll-likereceptor(TLR)の発現抑制がひき起こされることが判明しており,このことが発症軽減につながっている可能性があるかもしれない.VIインフリキシマブの投与方法,治療適応と治療効果インフリキシマブの適応は,Behcet病による網膜ぶどう膜炎で既存治療では効果不十分な場合に限る,とされている.インフリキシマブの投与方法は,5mg/kgの濃度で初回から2週目,6週目に投与し,以後8週間合,最終視力予後が悪いことが示されてきたが,前2種の薬物が効果がない場合,併用する形で用いるケースがあった.これらの薬物をまとめると,Behcet病に対して長期投与される薬物は,第1にコルヒチン,第2にシクロスポリン,第3に低用量の副腎皮質ステロイド薬といえる.この薬物治療の順序を大きく変える薬物が,近年発表された.生物製剤であるインフリキシマブである.IVインフリキシマブの開発経緯Behcet病の病態にはT細胞が重要な役割を担っており,T細胞を活性化させるサイトカインを調節させる試みがなされてきた.そのなかで,活動性ぶどう膜炎を有する患者の末梢血単球のTNF-a産生能が,非活動性ぶどう膜炎を有する患者や健常人と比較して有意に亢進していることが明らかにされ4,5),Behcet病の活動性がTNF-aと相関することが示唆された.TNF-aは当初,悪性腫瘍に出血性壊死を誘導する因子として発見された.その歴史的経緯とは別に,TNF-aは外来微生物に対しても生体防御機構の最前線で働く重要なサイトカインとして知られている.TNF-aは,マクロファージ,好中球や血管内皮細胞に働き,炎症反応を促進する.しかし,過剰な炎症反応により産生されるTNF-aは,組織障害をひき起こし,種々の疾患の原因や増悪因子となる.ヒトぶどう膜網膜炎の疾患モデルであるexperimentalautoimmuneuveoretinitisでもTNF-a投与により病状の悪化が観察され,抗TNF-a抗体投与によりぶどう膜網膜炎が軽減することが判明した6).これらの研究により,Behcet病の治療に抗TNF-a抗体が有効である可能性が証明された.この研究と同時期に,米国において遺伝子組換え技術を駆使してヒトTNF-aに対して特異的に結合するマウス由来の可変領域とヒトIg(免疫グロブリン)G1の定常領域を有するキメラ抗体が作製された7).この抗TNF-aモノクローナル抗体は,インフリキシマブという生物製剤として1990年にCrohn病,1999年に関節リウマチの治療薬として承認された.わが国においても2002年にCrohn病,2003年に関節リウマチの治療薬として輸入承認され,続いて2007年に世界で初めてBehcet病における難治性網膜ぶ①可溶型TNF-aへの結合・中和②受容体に結合したTNF-aの解離③TNF-a産生細胞を傷害(ADCC,CDC)可溶型TNF-aTNF-a産生細胞:インフリキシマブ補体など傷害TNF-aターゲット細胞可溶型TNF-a図5インフリキシマブの作用機序(21)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101343重篤な副作用発現症例率は投与220例中7例(3.2%)に留まっていた6).重篤な副作用は,胸腔内結核や投与時の全身性じんま疹などがあげられ,特に結核感染予防にはイソニアジドの予防投与など,注意を払う必要がある.筆者らの施設では,初回投与開始前にツベルクリン反応試験を行い,20mm以上ならイソニアジドの予防投与を行っている.全身じんま疹が出現したときには,投与時反応(infusionreaction)としてアナフィラキシー反応による気道狭窄に移行する恐れがあるため,注意深い経過観察が必要である.全身じんま疹時に,直後に内服投与する抗ヒスタミン薬でも効果がない場合は,ヒド隔で行う.筆者らの施設では,化学療法センターで行っており,臨床系医師が常駐している.わが国ではすでに500例を超える症例に投与され,レミケードR使用成績調査の中間報告(PMS)では,インフリキシマブ導入224例中,投与6カ月および12カ月で改善,やや改善を加えると85%以上に有効であった(図6)9).典型的な症例の眼底写真を図7に示す.図7aは,インフリキシマブ投与前の眼底であり,視神経乳頭直上からの新生血管が破綻し,硝子体出血をきたしていた.投与6カ月後には,新生血管は退縮し,硝子体出血も軽快した(図7b).このように高い有効性が認められ,既存の治療法と比較して明らかにBehcet病の改善度が高い.インフリキシマブの安全性はかなり高く,じんま疹などの皮膚障害や感染症,縦隔障害などが軽度認められるものの,使用成績調査(全例調査)の中間報告より9)改善62.2%不変10.8%やや改善24.3%改善66.4%不変8.6%やや改善22.9%悪化2.1%悪化2.7%12カ月後(評価例数:74例)●全般改善度6カ月後(評価例数:140例)図6レミケードR使用成績調査の中間報告(PMS)図8インフリキシマブ投与によるinfusionreactionソル・コーテフR100mg投与前(a),投与15分後(b).abab図7インフリキシマブ投与前後のBehcet病患者の眼底所見a:投与前,b:投与6カ月後.1344あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(22)ンフリキシマブの副作用として最もよく起こりうるのが,投与開始から1年以上経過してから発生することがあるinfusionreactionである.投与時反応は局所的なじんま疹や発熱,関節痛など多岐にわたるが,注意しなければならないのが,全身じんま疹や呼吸困難である.局所的な投与時反応なら抗ヒスタミン薬の内服および点滴速度の緩和で対処可能であるが,全身性の投与時反応の出現時には先ほども述べたように,ヒドロコルチゾン100mg点滴静注を行う.局所におけるinfusionreactionを認めた場合には次回投与3日前と投与後2日間,抗ヒスタミン薬の投与を行うだけで良いが,全身性の投与時反応の場合は,プレドニゾロンを投与3日前から投与後2日間の計5日間,20mg/日の量で予防内服を行う.投与時反応が出現したときは,ただちにインフリキシマブ投与経験の豊富な内科医にコンサルトして,今後の投与方針を話し合う必要がある.インフリキシマブの投与を続けた際,いつまで投与するのか,ということが将来的な問題になる.慢性関節リウマチを例にするなら徐々に投与間隔を開けることも考えられるが,どのような場合で再発する危険性があるのか全国レベルで調査することが必要だと思われる.ロコルチゾン(ソル・コーテフR)100mgを15分程度で点滴静注する.すると,投与後15分から20分程度で,じんま疹は軽快する(図8).このような症例は,当施設でも26例中1例のみであるが,発生してしまった場合は膠原病を専門とする内科医と連携をとり,今後もインフリキシマブを継続するのか,継続するならプレドニゾロンの内服を短期間,投与前後に行うのかを相談する必要がある.VIIインフリキシマブ治療の今後の展望インフリキシマブはBehcet病に対して非常に効果的な生物製剤であるため,既存治療で効果不十分であると判定するまでに視機能の改善がむずかしくなる場合,たとえば,くり返す黄斑部の炎症発作などには,早期にインフリキシマブを導入したほうが良いと筆者らは考えている.安全に投与するための工夫として,感染症対策をしっかりたてることが肝要である.たとえば,B型肝炎ウイルス,梅毒,真菌感染に対するチェック,胸部X線やツベルクリン反応試験だけではなく,血清抗TBGL(tuberculo-glycolipid)抗体もしくはクォンティフェロン測定を用いた結核スクリーニングを必ず行うべきである.高齢者では,インフリキシマブ投与により,肺炎球菌感染のリスク上昇も懸念されるため,予防ワクチンを行うかどうか検討が必要である.もし,少しでも感染症を疑うようなことがあったら,インフリキシマブの使用経験の多い膠原病を専門とする内科医に相談し,連携をとったほうが良いと思われる.インフリキシマブ治療中の併用療法については,眼科レベルにおいて施設間でまちまちで,単独投与が良いのか,シクロスポリンとの併用療法が良いのか結論が出ていない.当施設では,臨床治験段階においてインフリキシマブ単独投与で治療効果が認められていることから,初回はインフリキシマブ単独投与を行い,効果が弱いようなら他剤の追加投与を行う方式をとっている.一方,数は少ないが,インフリキシマブ無効例や効果減弱例は1割前後に存在する.効果減弱例に対しては,投与8週間隔のところを7週間隔に縮めたりしており,効果がはっきりしない症例に対しては,投与間隔の短縮を行うのと同時に,コルヒチンやシクロスポリンなど他剤の併用療法を必ず行っている.イ■用語解説■T細胞type1(Th1):サイトカインの一種であるIL-2,IFN-g,TNF-aなどを産生するT細胞のタイプである.Behcet病の活動期に多いという報告があり,他にIL-17を産生するTh17も最近注目されている.反対に,アレルギー時に多くみられるIL-4やIL-10などを産生する細胞をTh2と規定している.キメラ抗体:ヒトの成分だけではなく,より薬理作用が強くなるようにマウス成分を遺伝子組換え技術で組み込んだ抗体.生物製剤では同様な手法で作製されたものが他にも存在する.投与時反応(infusionreaction):アナフィラキシー反応の一種.インフリキシマブはキメラ抗体のためか,infusionreactionが起きる可能性がある.軽度なものでは,局所的なじんま疹や発熱,関節痛などがあげられるが,注意しなければならないのが,全身じんま疹や気道閉塞に伴う呼吸困難である.重症例では,ソル・コーテフR100mgを至急点滴静注する.あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101345おわりにBehcet病に対する新しい生物製剤であるインフリキシマブの概略を述べた.インフリキシマブは,従来のBehcet病治療薬にない優れた治療効果が期待でき,以前に比べて失明する患者が激減する可能性が高い.しかし,ごく少数ではあるがinfusionreactionに代表される全身性の副反応が起きる可能性があり,インフリキシマブ投与経験が豊富な内科医との連携を含めた幅広い対処が必要である.文献1)西田朋美,水木信久:ベーチェット病.すぐに役立つ眼科診療の知識.基礎からわかるぶどう膜炎(水木信久編),金原出版,20062)MizukiN,MeguroA,OtaMetal:Genome-wideassociationstudiesidentifyIL23R-IL12RB2andIL10asBehcet’sdiseasesusceptibilityloci.NatGenet2010,inpress3)RemmersEF,CosanF,KirinoYetal:Genome-wideassociationstudyidentifiesvariantsintheMHCclassI,IL10,andIL23R-IL12RB2regionsassociatedwithBehcet’sdisease.NatGenet,2010,inpress4)中村聡,杉田美由紀,田中俊一ほか:ベーチェット病患者における末梢血単球のinvitrotumornecrosisfactoralpha産生能.日眼会誌96:1282-1285,19925)MegeJL,DilsenN,SanguedolceVetal:Overproductionofmonocytederivedtumornecrosisfactoralpha,interleukin(IL)6,IL-8andincreasedneutrophilsuperoxidegenerationinBehcet’sdisease.AcomparativestudywithfamilialMediterraneanfeverandhealthysubjects.JRheumatol20:1544-1549,19936)NakamuraS,YamakawaT,SugitaMetal:Theroleoftumornecrosisfactor-alphaintheinductionofexperimentalautoimmuneuveoretinitisinmice.InvestOphthalmolVisSci35:3884-3889,19947)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcetdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JReumatol31:1362-1368,20048)河合太郎,多月芳彦:Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対する抗ヒトTNFaモノクローナル抗体レミケードRの有効性と安全性.眼薬理23:11-17,20099)レミケードR点滴静注用100ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎適正使用情報.使用成績調査(全例調査)の中間報告.田辺三菱製薬(株)社内資料,2009年10月(23)

黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY子体手術により増殖性網膜疾患の治療成績が上がれば上がるほど,黄斑浮腫による視力低下が問題とされるようになった.その間,黄斑浮腫の治療は,網膜光凝固が中心であった.この方法では,一定の効果は得られるものの,満足のいくものではなかった.1990年代から,分子生物学的手法が,基礎研究のみならず臨床研究にも用いられるようになり,病態の解明・理解が飛躍的に進歩した.黄斑浮腫研究においても,原因物質が数多く同定されるようになったことは特筆すべきことである.特に重要なものは血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF),インターロイキン-6(IL-6),intercellularadhesionmolecule-1などであった.原因物質が特定されれば,その事実に基づいた新規治療法が開発されるのは当然のことであり,さまざまな薬物治療法の開発研究が進められた.そのなかで,今日的意味での網膜疾患治療に最初に用いられた薬物が副腎皮質ステロイド薬である.II副腎皮質ステロイド薬の作用機序副腎皮質ステロイド薬は,古くから抗炎症薬として使われてきた1).これら副腎皮質ステロイド薬は,炎症反応のさまざまな過程に作用するが,その代表的作用機序としては,転写因子NF-kBを抑制することが知られている2).NF-kBは,サイトカインのみならずintercellularadhesionmolecule-1やプロスタグランジンなどの多くの炎症関連物質の産生の鍵となる転写因子であるたはじめに黄斑浮腫とは,さまざまな原因により黄斑部網膜の細胞内,細胞外に液体成分が貯留する病態のことをいう.おもな原因疾患には,糖尿病網膜症(DME),網膜静脈閉塞症,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性があげられる.現在では,硝子体手術などの進歩により,以前のように糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症の増悪が止まらずに,網膜増殖性変化を起こして牽引性網膜.離に移行して失明するケースは減少した.しかし,解剖学的には網膜.離は治癒しても,黄斑浮腫のために,深刻な視力障害が遷延することは少なくない.その意味で,黄斑浮腫の克服は,現代眼科学の大きなテーマといえる.黄斑浮腫の原因は多岐にわたっており,単一症例でも複数の要因が絡み合っていることが多い.そのため,黄斑浮腫の薬物治療の効果には懐疑的な見方もあったが,昨今の結果をみると,薬物治療は明らかに有効である.本稿では,網膜疾患薬物治療のうち,局所副腎皮質ステロイド薬治療について,現在の考え方などを紹介する.I歴史的背景網膜はきわめて脆弱な組織であり,薬物を直接硝子体内に投与するのは,感染性眼内炎などの特殊なケースに限られるという考え方は,1980年代まで強かった.特に,眼内炎治療に用いたアミノグリコシド系薬剤硝子体内注射が,予想外に強い網膜毒性を示したため,多くの眼科医は硝子体注射に慎重な姿勢を取った.しかし,硝(11)1333*TaijiSakamoto:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科眼科学講座〔別刷請求先〕坂本泰二:〒890-8520鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科眼科学講座特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1333.1337,2010黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療LocalCorticosteroidTherapyforMacularEdema坂本泰二*1334あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(12)も導入されていることはご承知のとおりである.それらは単一分子に作用するので,原因因子が限られていれば効果的なはずである.しかし,糖尿病網膜症のように,さまざまな要因で構成される疾患の治療には,むしろさまざまな生体反応に影響する副腎皮質ステロイド薬のほうが有効ではないかと考えられる.筆者らの経験でも,糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する治療の早期効果は,抗VEGF薬よりも副腎皮質ステロイド薬のほうが優れていた8)(図1).III黄斑浮腫治療に副腎皮質ステロイド薬が使用されている網膜疾患1.糖尿病黄斑浮腫(DME)糖尿病網膜症治療に副腎皮質ホルモン薬を使う治療法は,1960年代から報告されていたが,効果より副作用のほうが強いため,1990年代後半までは,ほとんど顧みられなかった.Jonasらは,糖尿病網膜症の治療に硝子体内トリアムシノロン投与を初めて報告した9).当初は反対意見も強かったが,実際に本法で治療すると,視力や網膜浮腫が劇的に改善するため,本治療は急速に広まっていった15.18).Jonasらは,DME眼では,視力は治療後1週目から改善し,1カ月では81%の眼に有意な改善が得られると報告している10,11).他の報告もほぼ同様で,55%から85%の眼に有意な視力改善が得られている10.14).一方,網膜厚に関しては,報告により評価法の差があるため,視力と同じように単純に比較することはできないが,70%程度に改善がみられるようである.さらに,本治療は病的に亢進した網膜血管透過性も改善するし,網膜硬性白斑も減少させる13).ただし,これらの効果も多くは一過性である.Jonasらはこの効果は7カ月間持続するとしているが,それ以外の報告では,治療後半年で効果減弱が明らかになっている11,14).眼内に投与量により差があるが,硝子体内注射の場合,半年程度で効果は消失する.a.Diabeticretinopathyclinicalresearchnetwork(DRCR)DMEに対する副腎皮質ステロイド薬治療の有効性は,症例観察報告によるものがほとんどであったが,それらをメタアナリシスした結果,少なくとも短期的にはめ,NF-kBを抑制する副腎皮質ステロイドは,黄斑浮腫や炎症性網膜疾患などに関連する多くの因子の産生を抑制する3,4).最近報告されたVEGF産生抑制作用にも同様のメカニズムが働いたと考えられる5,6).一方,副腎皮質ステロイド薬は,VEGFにより誘発された血液眼関門の破綻を抑制する作用もある7).VEGFによる血液眼関門の破綻は,黄斑浮腫の大きな原因であり,それを抑制する作用は,そのまま副腎皮質ステロイド薬の治療作用となりうる.現在,抗VEGF薬などの分子標的薬が,眼科臨床に650600550500450400350300BaselineA:DME/IVTA黄斑厚(μm)1h3h6h24h1W1M***********650600550500450400350300BaselineB:DME/IVB黄斑厚(μm)1h3h6h24h1W1M******図1糖尿病黄斑症に対する硝子体注射後の黄斑厚の経時的変化IVTA1時間後から有意に黄斑厚が減少している(A).一方,IVBでは24時間後に初めて有意な減少を認めた(B).IVTA:トリアムシノロン硝子体注射,DME:糖尿病黄斑症,IVB:抗VEGF薬アバスチン硝子体内注射.*:p<0.05,**:p<0.01.(文献8より改変)(13)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101335ranibizumab群と網膜光凝固+IVTA群は,ほぼ同様の治療効果を示した.つまり,IVTAはDME治療だけに限れば,抗VEGF薬ranibizumabとほぼ同程度の効果が期待できるという点である.今後,ranibizumab無効症例にIVTAが有効である可能性がある点,およびranibizumab治療がきわめて高額である点を考えると,副腎皮質ステロイド薬はDME治療に一定の地位を占めるとされた18).b.網膜光凝固治療の補助治療としての副腎皮質ステロイド薬DME治療に,網膜光凝固治療が有効であることは確立された事実である.しかし,多くの症例において,網膜光凝固後に黄斑浮腫が増悪したり,遷延したりすることが経験される.この原因については,はっきりとした結論が得られていなかったが,最近,網膜光凝固後の硝子体内において,IL-6やRegulateduponActivation,NormalTcellExpressedandSecreted(RANTES)といった炎症性サイトカインやケモカイン濃度が上昇することが報告され,それらが網膜光凝固後の黄斑浮腫を誘発すると考えられるようになった19).IL-6やRANTES産生は副腎皮質ステロイド薬で抑制されるので,網膜光凝固治療前後にそれを投与しておけば,黄斑浮腫は予防できるはずである.Shimuraらは,網膜光凝固の前にトリアムシノロンTenon.下注射を行うことにより,一過性の黄斑浮腫を有意に抑制することを報告した20).治療後の視力低下は,仮に一過性であっても,患者を不安に陥れ,はなはだしい場合は医師-患者間の良好な関係を損なうこともある.それを防ぐために,網膜光凝固周術期における副腎皮質ステロイド薬使用は,一考の価値がある.2.網膜静脈閉塞症網膜静脈閉塞症は,糖尿病網膜症についで頻度の高い血管原性網膜疾患である.本疾患においては,出血自体による急性の組織破壊,および黄斑浮腫が遷延することによる慢性の組織破壊により,視力低下する.急性の組織破壊は,ほとんどが一瞬にして完成するので治療対象になりえないが,慢性組織破壊の原因である黄斑浮腫は治療対象になりうる.そこで,網膜中心静脈閉塞症有効性があることが確認された15).そこで,本治療の有効性を科学的に検証する必要性が広く認識されるようになり,DMEに対するトリアムシノロン硝子体注入療法(IVTA)と局所/格子状網膜光凝固の第3相大規模ランダム化比較試験が,DRCRというグループ主導で米国全土において行われた16).それによれば,視力に関してのIVTAの効果は限定的であり,長期的には光凝固に勝るものではないというものであった.副腎皮質ステロイド薬によるDMEの治療に対しての期待が大きかっただけに,この結果は眼科医,製薬業界,患者に大きな衝撃を与えた.2010年に入ると,DRCRからさらに重要な報告がされた17).それは,網膜光凝固のみ,網膜光凝固+抗VEGF薬ranibizumab,網膜光凝固+IVTAの治療効果を2年間にわたって追跡した研究結果報告である.それによれば,治療開始2年後に最も視力が向上したのは,網膜光凝固+抗VEGF薬ranibizumab群であり,網膜光凝固のみ群あるいは網膜光凝固+IVTAを併用した群は,視力改善が最も不良であった(図2).つまり,糖尿病黄斑浮腫治療にIVTAを用いるのは,意味はなく,副作用を考えるとむしろ有害ということを意味する.ところが,本研究の優れた点は,眼内レンズ眼に限定した追加解析を行った点である.よく知られているように,IVTAには白内障誘発作用があり,IVTA群はそのために視力低下した可能性があるからである.その結果,眼内レンズ挿入眼においては,網膜光凝固+抗VEGF薬706560555004M8M12M16M20M24MLetterscoreによる視力中間値図2治療後の視力変化治療後4カ月には4mgトリアムシノロン群の視力が良いが,1年を過ぎるとレーザー治療群のほうが良くなり,2年後には有意にレーザー治療群のほうが良かった.4mgトリアムシノロン群(●),1mgトリアムシノロン群(□),レーザー治療群(▲).(文献16,Figure2を改変)1336あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(14)2.眼圧上昇IVTA後の眼圧上昇については,報告により異なるが,28.42%の眼が,投与から3カ月以内に眼圧が上昇する.投与前眼圧が,15mmHgより高い眼は,眼圧が上がりやすい28).緑内障眼のほうが,眼圧上昇しやすいという証拠はないが,開放隅角緑内障眼にはステロイドレスポンダーが含まれる割合が高いということを考慮すると,緑内障眼への本法の適応は注意する必要がある.ほとんどの眼は,一時的に点眼薬を用いることでコントロール可能である.3.白内障副腎皮質ステロイド治療の合併症として古くから知られたものである.IVTA後24カ月までに,25%近くの眼に白内障が進行するという報告がある29).しかし,筆者らの経験では,1年で90%以上の眼に核白内障の進行がみられた30).日本人の特徴かもしれない.おわりに抗VEGF薬の目覚ましい効果とそのエビデンスに目を奪われて,黄斑浮腫の薬物治療は抗VEGF薬以外は消え去るかのように考える向きもある.しかし,癌治療分野では,新規薬物の侵襲を和らげるために副腎皮質ステロイド薬は欠くことのできない薬物である.今後,新しい治療が現れても,副腎皮質ステロイド薬は黄斑浮腫治療薬の一つとして使い続けられると思われる.文献1)DiassiPA,HorovitzZP:Endocrinehormones.AnnuRevPharmacol10:219-236,19702)DidonatoJA,SaatciogluF,KarinM:Molecularmechanismsofimmunosuppressionandanti-inflammatoryactivitiesbyglucocorticoids.AmJRespirCritCareMed154(2Pt2):S11-15,19963)WissinkS,vanHeerdeEC,vandderBurgBetal:AdualmechanismmediatesrepressionofNF-kappaBactivitybyglucocorticoids.MolEndocrinol12:355-363,19984)TsujikawaA,OguraY,HiroshibaNetal:Retinalischemia-reperfusioninjuryattenuatedbyblockingofadhesionmoleculesofvascularendothelium.InvestOphthalmolVisSci40:1183-1190,19995)EdelmanJL,LutzD,CastroMR:Corticosteroidsinhibit(CRVO)や網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の際の黄斑浮腫に,副腎皮質ステロイド薬治療が行われている.硝子体内注射は,非虚血型CRVOに効果があり,70%の症例の視力が改善した21,22).しかも,本疾患の回復に重要な側副血行路の再生は抑制されなかった.ただし,この効果も6カ月間に限られ,1年後には多くの症例が再発した.BRVOに対する大規模臨床試験(SCOREstudy)本研究は,DMEに対するDRCRnetworkと同じように,米国で行われた大規模ランダム化比較試験である[StandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)study]23).BRVOに対して,標準治療群,1mgIVTA群,4mgIVTA群に分けて,視力変化を1年間追跡したものである.その結果,一時的にIVTA群のほうが,視力は良いものの,1年後の結果をみると,標準治療を有意に凌駕するものではなかった.副作用などのことを考えると,標準治療のほうが勧められると結論付けた.ただし,DRCR研究のように,白内障の影響を除くために特別な解析は行われていない.筆者らの経験では,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫治療には,抗VEGF薬のほうが,IVTAより早期に効果があった8).IV合併症1.眼内炎Moshfeghiは,外来でIVTAを行った眼の0.87%に眼内炎が発症し,発症した8眼のうち3眼が光覚を失ったという驚くべき結果を報告した24).それに反して,Jonasらは,硝子体内注射でもきちんと消毒を行って施行すれば,眼内炎の頻度は増加していないと報告した25).日本で行われた調査では,眼内炎頻度が明らかに高いということはなかった26).この問題を複雑にしているのは,IVTAの後に,無菌性眼内炎が起こることがある点である.著しい前房混濁,前房蓄膿,硝子体混濁,視力低下がみられ,注射翌日に発症することが多い.充血,痛みなどの症状はほとんどなく,無治療でも自然に回復する27).病原菌性眼内炎との区別は簡単ではないので,判断に迷うなら病原菌性眼内炎として治療を始めるべきである.(15)あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010133718)DolginE:Invisiontrial,someresearcherswouldratherseedouble.NatMed16:611,201019)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Panretinalphotocoagulationinducespro-inflammatorycytokinesandmacularthickeninginhigh-riskproliferativediabeticretinopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol247:1617-1624,200920)ShimuraM,NakazawaT,YasudaKetal:Pretreatmentofposteriorsubtenoninjectionoftriamcinoloneacetonidehasbeneficialeffectsforgridpatternphotocoagulationagainstdiffusediabeticmacularoedema.BrJOphthalmol91:449-454,200721)BashshurZF,Ma’lufRN,AllamSetal:Intravitrealtriamcinoloneforthemanagementofmacularedemaduetononischemiccentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmol122:1137-1140,200422)IpMS,GottliebJL,KahanaAetal:Intravitrealtriamcinoloneforthetreatmentofmacularedemaassociatedwithcentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmol122:1131-1136,200423)ScottIU,IpMS,VanVeldhuisenPCetal;SCOREStudyResearchGroup:Arandomizedtrialcomparingtheefficacyandsafetyofintravitrealtriamcinolonewithstandardcaretotreatvisionlossassociatedwithmacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusion:theStandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)studyreport6.ArchOphthalmol127:1115-1128,200924)MoshfeghiDM,KaiserPK,ScottIUetal:Acuteendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.AmJOphthalmol136:791-796,200325)JonasJB,KreissigI,DegenringRF:Endophthalmitisafterintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.ArchOphthalmol121:1663-1664,200326)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,200727)NelsonML,TennantMT,SivalingamAetal:Infectiousandpresumednoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.Retina23:686-691,200328)GilliesMC,SimpsonJM,BillsonFAetal:Safetyofanintravitrealinjectionoftriamcinolone:resultsfromarandomizedclinicaltrial.ArchOphthalmol122:336-340,200429)ItoM,OkuboA,SonodaYetal:Intravitrealtriamcinoloneacetonideforexudativeage-relatedmaculardegenerationamongjapanesepatients.Ophthalmologica220:118-124,2006VEGF-inducedvascularleakageinarabbitmodelofblood-retinalandblood-aqueousbarrierbreakdown.ExpEyeRes80:249-258,20056)MatsudaS,GomiF,OshimaYetal:VascularendothelialgrowthfactorreducedandconnectivetissuegrowthfactorinducedbytriamcinoloneinARPE19cellsunderoxidativestress.InvestOphthalmolVisSci46:1062-1068,20057)EdelmanJL,LutzD,CastroMR:CorticosteroidsinhibitVEGF-inducedvascularleakageinarabbitmodelofblood-retinalandblood-aqueousbarrierbreakdown.ExpEyeRes80:249-258,20058)SonodaY,ArimuraN,ShimuraMetal:Earlychangeofcentralmacularthicknessafterintravitreoustriamcinoloneorbevacizumab.Retina,inpress9)JonasJB,HaylerJK,SofkerAetal:Intravitrealinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol131:468-471,200110)JonasJB,KreissigI,SofkerAetal:Intravitrealinjectionoftriamcinolonefordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol121:57-61,200311)JonasJB,DegenringRF,KamppeterBAetal:Durationoftheeffectofintravitrealtriamcinoloneacetonideastreatmentfordiffusediabeticmacularedema.AmJOphthalmol138:158-160,200412)CiardellaAP,KlancnikJ,SchiffWetal:Intravitrealtriamcinoloneforthetreatmentofrefractorydiabeticmacularoedemawithhardexudates:anopticalcoherencetomograph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