あたらしい眼科Vol.27,No.10,201014150910-1810/10/\100/頁/JCOPYヒアルロナンとはヒアルロナンは一般にヒアルロン酸ともよばれるグリコサミノグリカンの一種で,細胞外マトリックスの一部として組織の形成と恒常性の維持に重要な役割を担っております.ヒアルロナンはヒアルロナン合成酵素によって合成され,ヒアルロナン分解酵素によって分解されます.これら酵素の活性は生体内のヒアルロナンの分子量に影響します.ヒアルロナンはCD44やRHAMM(receptorforhyaluronicacidmediatedmotility)などのヒアルロナン結合蛋白によって捕捉および細胞内移行されます.ヒアルロナン(ヒアルロン酸)と聞くと眼科領域では手術時の空間保持剤や角膜保護点眼を想起しますが,さまざまな生理活性や病態における関与の可能性がある分子です.増殖因子はヒアルロナン合成を促進し,シグナル伝達に協調する腫瘍や炎症といった病態では,PDGF(plateletderivedgrowthfactor)やTGF-b(transforminggrowthfactor-b)などのサイトカインがヒアルロナンを含む細胞外マトリックスの産生を増大させます.筆者らの研究では,ブタ硝子体由来細胞,ヒト角膜実質由来細胞,ヒト強膜実質由来細胞においてTGF-bとPDGF刺激によるヒアルロナン産生調節が認められました1,2).乳癌の動物実験モデルではヒアルロナン合成酵素を過剰発現することによって腫瘍悪性化が促進されるといった報告3)があり,invivoでもヒアルロナンは間違いなく病態に影響を与えうる存在であることが考えられます.最近の研究では,ヒアルロナンと結合したCD44が活性型としてPDGFレセプターの活性化が抑制され4),また別の研究ではヒアルロナンによるTGF-bのシグナル伝達の抑制が認められました5).これらの研究ではヒアルロナン結合蛋白であるCD44と増殖因子のレセプターの複合体が免疫染色と免疫沈降によって示され,invivoにおける増殖因子-ヒアルロナン-CD44の複雑な相互関係の存在を示唆するものとなっております6).ヒアルロナンの血管新生への関与血管新生は糖尿病網膜症をはじめとして眼科領域で重要な病態です.おもな因子としては血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が知られておりますが,ヒアルロナンも血管新生に関与するといった報告があります.炎症反応時にはヒアルロナン分解酵素が活性化されて,さまざまな分子量のヒアルロナンが蓄積します.ヒアルロナンは分子量によって生理活性の違いがあることが報告され7),たとえば低分子で血管新生促進,高分子で血管新生抑制といった眼疾患との関連に大変興味深いものがあります.病態においてはさまざまな増殖因子の受容体とヒアルロナン結合蛋白複合体が関与しているかもしれません(図1).眼疾患にヒアルロナン・硝子体細胞が関与する可能性硝子体,硝子体細胞と眼内にはヒアルロナンを想起する名の組織,細胞はよく知られておりますが,眼内疾患におけるヒアルロナンの役割はまだよくわかっておりません.筆者らの研究では,眼内増殖性疾患における硝子体細胞の病態への関与としてヒアルロナンに着目しております.サイトカインによってヒアルロナン産生亢進のみられたブタ硝子体由来細胞の機能を調べるために,血管内皮細胞との共培養実験系を作製し炎症性サイトカインを刺激したところ,硝子体細胞の有無によって血管内(93)◆シリーズ第118回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊西塚弘一(山形大学医学部眼科)増殖因子によるヒアルロナン代謝の調節図1ヒアルロナン・サイトカイン・ヒアルロナン結合蛋白の相互関係ヒアルロナン・サイトカイン・ヒアルロナン結合蛋白が相互作用して病態に関与していると考えられる.ヒアルロナン低分子高分子・ヒアルロナンと結合・増殖因子受容体との結合ヒアルロナン分解酵素ヒアルロナン合成酵素・細胞外マトリックス産生制御・細胞外マトリックス分解制御サイトカインCD44,RHAMM1416あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010皮細胞の反応性の違いがみられ,硝子体細胞の病態への関与が示唆されました8).ヒト硝子体から作製した細胞系統をサイトカインによるヒアルロナン産生調節についてブタ硝子体由来細胞と比較したところ,異なる反応性を示しました9).これは硝子体細胞を研究する際の種間差の存在を考えるきっかけとなりました.ヒアルロナンは主なリガンドであるCD44とともに,細胞の分化・遊走・増殖をはじめとする生理活性作用があります.病態におけるヒアルロナンの関与を考えるにはヒアルロナン産生量・分子量・ヒアルロナン-CD44-増殖因子複合体に着目するとよいかもしれません.病態によって上昇した種々のサイトカインによって,眼内はどのような病的環境となっているでしょうか.産生されたヒアルロナンは分解酵素によって低分子化されて血管新生を促進しているのでしょうか?CD44が活性化されているのでしょうか?さらなる研究によって新しい治療ターゲットが見つかるかもしれません.文献1)NishitsukaK,KashiwagiY,TojoNetal:Hyaluronanproductionregulationfromporcinehyalocytecelllinebycytokines.ExpEyeRes85:539-545,20072)KashiwagiY,NishitsukaK,NambaHetal:Cloningandcharacterizationofcellstrainsderivedfromhumancornealstromaandsclera.JpnJOphthalmol54:74-80,20103)KoyamaH,HibiT,IsogaiZetal:Hyperproductionofhyaluronaninneu-inducedmammarytumoracceleratesangiogenesisthroughstromalcellrecruitment:possibleinvolvementofversican/PG-M.AmJPathol170:1086-1099,20074)LiL,HeldinCH,HeldinP:Inhibitionofplatelet-derivedgrowthfactor-BB-inducedreceptoractivationandfibroblastmigrationbyhyaluronanactivationofCD44.JBiolChem281:26512-26519,20065)ItoT,WilliamsJD,FraserDetal:Hyaluronanattenuatestransforminggrowthfactor-beta1-mediatedsignalinginrenalproximaltubularepithelialcells.AmJPathol164:1979-1988,20046)HeldinP,KarousouE,BernertBetal:Importanceofhyaluronan-CD44interactionsininflammationandtumorigenesis.ConnectTissueRes49:215-218,20087)NoblePW:Hyaluronananditscatabolicproductsintissueinjuryandrepair.MatrixBiol21:25-29,20028)TojoN,KashiwagiY,NishitsukaKetal:Interactionsbetweenvitreous-derivedcellsandvascularendothelialcellsinvitreoretinaldiseases.ActaOphthalmol88:564-570,20109)KashiwagiY,NishitsukaK,TakamuraHetal:Cloningandcharacterizationofhumanvitreoustissue-derivedcells.ActaOphthalmol2009Oct30[.Epubaheadofprint](94)■「増殖因子によるヒアルロナン代謝の調節」を読んで■眼科医のなかで,ヒアルロナンを取り扱ったことのない方はおられないと思います.ヒアルロナンは,白内障手術や角膜移植手術には,欠かすことのできない手術補助薬です.しかし,手術で使用するヒアルロナンは,生理活性物質としてではなく,空間保持目的に用いられるので,ヒアルロナン代謝といわれてもピンとこないでしょう.1970年代までは,ヒアルロナンは形のない細胞外基質としか認識されていませんでした.ところが,それ以後の研究で,ヒアルロナンは生体反応の多くの重要な局面で調節因子として働いていることがわかり,現在さまざまな分野で研究されています.その一つは癌研究です.癌細胞が転移する際には,原発巣から癌細胞が遊離遊走して,転移先まで傷害されずに移動する必要があります.その際,ヒアルロナンは生理活性物質として,癌細胞を遊離させ,遊走しやすい間葉系細胞に転化させます.また,転移巣に固着するための細胞外基質としても働きます.そして,それぞれの過程には,CD44やRhokinaseが働いています.この過程は,増殖硝子体網膜症において,網膜色素上皮が神経網膜表面に固着して,増殖膜を形成する過程に類似しているといわれています.一方,西塚弘一先生が詳述されているように,血管新生においても重要な働きをします.細胞遊走や血管新生は,網膜硝子体疾患の病態形成の鍵となる反応ですので,ヒアルロナンの作用を解明することは,病態形成の理解に大きく寄与すると思います.ヒアルロナンは,もともと硝子体に豊富に含まれる物質ですが,眼科領域では,これまではあまり研究されていませんでした.それは,硝子体に問題があった場合,硝子体手術で取り去れば問題は解決すると,やや安易に考えられていたからかもしれません.しかし,これからは硝子体内薬物注射やchemicalvitrectomyなど,硝子体を取り除かない治療が主流になってきます.ヒアルロナンに関する研究は今後ますます重要になるでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二