0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(151)1473《原著》あたらしい眼科27(10):1473.1477,2010cはじめに眼科臨床において,視機能を評価するうえで視力検査は最も基本的で,かつ重要な検査の一つである.しかし,瞳孔などその他多くの因子により検査結果に影響を及ぼすことが知られている1).瞳孔の変化は,収差2)や焦点深度3),網膜照度4),スタイルズ・クロフォード効果5),瞳孔中心の偏位6)などが関与して,網膜像の質を変化させ視機能に最も影響を与える要因の一つである7).特に収差は,最近,瞳孔径に依存する光学的屈折矯正法あるいは治療法が多く登場8)しており注目されている.視覚の質が問われる近年,瞳孔と収差,視機能との関係を調査することは重要課題である.しかしながら,ヒト眼において,瞳孔サイズが視機能にどの程度影響するかの報告は少ない.そこで今回,筆者らは,瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響について検討したので報告する.I方法1.対象対象は,屈折異常以外に眼科的疾患のない正常被検者9名9眼,平均年齢20.2±0.7歳(20~22歳)である.ハードコ〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻Reprintrequests:HiroshiUozato,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0373,JAPAN瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響山本真也*1,3魚里博*2,3川守田拓志*2,3中山奈々美*2中谷勝己*2恩田健*1*1渕野辺総合病院*2北里大学大学院医療系研究科*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻EffectofPupilSizeonWavefrontHigher-OrderAberrationandVisualAcuityShinyaYamamoto1,3),HiroshiUozato2,3),TakushiKawamorita2,3),NanamiNakayama2),KatsumiNakatani2)andKenOnda1)1)FuchinobeGeneralHospital,2)KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,3)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences目的:瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響について検討した.方法:対象は9名9眼である.視力測定には対数視力検査装置を用いた.実瞳孔サイズのコントロールができないため,本実験は人工瞳孔(1.0~6.0mm,1.0mm単位)を使用し,サイプレジンR点眼後,各瞳孔サイズでの視力値を測定し比較した.収差測定にはOPD-Scan2ARK-10000を用いた.各瞳孔サイズに対応した高次収差量を算出するため,Schwiegerlingのアルゴリズムを用い,各々の瞳孔サイズでの高次収差の総和を再計算し比較した.結果:高次収差の総和は,瞳孔サイズが拡大するほど有意な増加を認め,視力は人工瞳孔2.0mmで最も高値を示し,瞳孔サイズが4.0mm以上になると有意に低下した.結論:瞳孔サイズの拡大は高次収差の増加を導き,その結果,視機能に影響を与えている可能性が示唆された.Purpose:Weinvestigatedtheeffectofpupilsizeonwavefronthigher-orderaberrationandvisualacuity.Methods:Includedinthisstudywere9eyesof9normalsubjects.Visualacuitywastestedwithalogarithmvisualacuitymeasuringdevice.Becausecontrolofpupilsizewasnotpossible,weusedanartificialpupil(1.0~6.0mm,1.0mmstep).VisualacuitywasmeasuredateachpupilsizeafterCypleginRinstillation.Aberrometricmeasurementsweretakenwithanopticalpassdifference-basedwavefrontsensor(OPD-Scan2ARK-10000).Zernikecoefficientswererecalculatedforeachpupilsize,usingSchwiegarling’salgorithm.Results:Totalhigher-orderaberrationsincreasedsignificantly,pupilsizebecominglarge.Visualacuitywasbestatanartificialpupilsizeof2.0mm,but,decreasingsignificantlyatsizegreaterthan4.0mm.Conclusions:Thisstudysuggeststhatincreasedpupilsizeproduceshigherwavefrontaberrations,affectingvisualfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1473.1477,2010〕Keywords:瞳孔,視力,高次収差,視機能,収差.pupil,visualacuity,higher-orderaberration,visualfunction,aberration.1474あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(152)ンタクトレンズ装用者,弱視,斜視の者は除外した.被検眼は全例右眼とした.2.測定視力の測定には,対数視力検査装置LVC-1(NEITZ社)を用いた.実瞳孔サイズのコントロールができないため,本実験は人工瞳孔(1.0~6.0mm,1.0mm単位)を使用した.遠見矯正値の決定にはシクロペントラート塩酸塩(サイプレジンR)1.0%点眼50分後,瞳孔径が6.0mm以上に散瞳していることを確認し,基準瞳孔径として3.0mmを用いてlogMAR値.0.1(小数視力1.3)の段3/5以上を弁別できたときの自覚屈折値(球面値:.0.50±1.65D,円柱値:.0.39±0.33D)を採用した.そして,各瞳孔サイズでの視力値を測定し比較した.視力値の決定には,より詳細な視機能変化を反映するためETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)方式を採用し,正答数からlogMAR値を評価した.また,各人工瞳孔サイズでの視力が基準瞳孔径3.0mm時より低下したとき,追加矯正により再び基準瞳孔径3.0mm時の視力を獲得する割合とその度数についても検討した.測定時の環境照度は約500lxである.眼球全体の高次収差の計測は,OPD-Scan2ARK-10000(NIDEK社)を用い,解析径は6.0mm,Zernike多項式にて算出される3次~6次までのZernike係数を評価した.収差計測はサイプレジンR点眼後,瞳孔径が6.0mm以上に散瞳していることを確認して行った.各人工瞳孔サイズに対応した高次収差量を算出するため,Schwiegerlingのアルゴリズムを用い,OPD-Scan2による解析径6.0mmのZernike係数を各人工瞳孔サイズに対応したZernike係数に再展開した9).Schwiegerlingのアルゴリズムは外挿法の原理が応用され,ある解析径のZernike係数(originalexpansioncoefficients)を任意の瞳孔径におけるZernike係数(newexpansioncoefficients)へ再展開し,推定する方法である.II結果各瞳孔サイズにおける高次収差と視力,各瞳孔サイズの視力が基準瞳孔径3.0mm時より低下したとき,追加矯正により再び基準瞳孔サイズでの遠見矯正視力を得るために必要な追加矯正度数およびその割合を表1に示す.1.瞳孔サイズと高次収差OPD-Scan2による解析径6.0mmの平均高次収差の総和,コマ様収差,球面様収差は,各々0.41±0.16μm,0.35±0.16μm,0.21±0.07μmであった.高次収差は瞳孔サイズが拡大するほど有意に増加した〔ANOVA(analysisofvariance,分散分析)p<0.01〕(図1).2.瞳孔サイズと視力視力は人工瞳孔2.0mmで最も高値を示し,それ以下に縮小しても,それ以上に拡大しても低下の傾向が認められた(図2).瞳孔サイズが1.0mm,もしくは4.0mm以上になると視力は有意に低下した(Scheffetestp<0.01).高次収差が大きな眼と小さな眼の視力結果の代表例を図3に示す.表1各瞳孔サイズの高次収差と視力および追加矯正可能な割合とその度数瞳孔径1.0mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mm6.0mmlogMAR値AVESD.0.030.05.0.110.04.0.090.03.0.020.040.020.050.050.05高次収差の総和AVESD0.00240.00170.02040.01250.06570.03810.14490.07690.25870.12010.41430.1606球面様収差AVESD0.00020.00010.00400.00140.01910.00630.05450.01660.11710.03350.21350.0665コマ様収差AVESD0.00240.00170.01990.01260.06220.03870.13580.07660.22670.12380.34900.1619基準瞳孔サイズ時の視力を再獲得した割合および度数割合追加度数Re-n.c.──※1───100%※2.0.25±0100%.0.25±089%※3.0.28±0.09Re-n.c.:Re-noncorrigible(再矯正不能).※1:基準瞳孔サイズ時の視力より低下なし.※2:8/8名,1名は基準瞳孔サイズ時と不変のため除外.※3:8/9名,内1名は再矯正不能.瞳孔径(mm)0.60.50.40.30.20.10.0RMS(μm)1.02.03.04.05.06.0図1瞳孔サイズと高次収差ANOVAp<0.01.:TotalHOA,:Coma(S3+S5),:Spherical(S4+S6).(153)あたらしい眼科Vol.27,No.10,201014753.各瞳孔サイズにおける高次収差と視力の関係高次収差の総和とコマ様収差は,ともに人工瞳孔6.0mmで収差が高いほど視力は有意に低下し,高い相関関係を示した(Spearmanの順位相関係数の検定,人工瞳孔6.0mmと高次収差の総和p<0.05,r=0.82;人工瞳孔6.0mmとコマ様収差p<0.05,r=0.77)(図4a,4b).球面様収差では,***************-0.10.00.10.21.61.31.00.81.02.03.04.05.06.00.6logMAR値小数視力瞳孔径(mm)-0.2図2瞳孔サイズと視力ANOVAp<0.01,*:Scheffetestp<0.05,**:Scheffetestp<0.01.logMAR値小数視力瞳孔径(mm)-0.2-0.10.00.10.21.61.31.00.81.02.03.04.05.06.00.6図3瞳孔サイズと視力(代表例):high高次収差とlow高次収差の比較:high高次収差;(6.0mm径)TotalHOA:0.60μm,Coma:0.50μm,Spherical:0.31μm:low高次収差;(6.0mm径)TotalHOA:0.16μm,Coma:0.10μm,Spherical:0.12μm-0.2-0.10.00.10.2logMAR値00.0100.0500.2000.4000.5001.00NS1.0mmNS2.0mmNS3.0mmNS4.0mmNS5.0mm6.0mm高次収差の総和(μm)*p<0.05r=0.821図4a各瞳孔サイズにおける高次収差の総和と視力*:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.821.-0.2-0.10.00.10.2logMAR値00.0100.0500.2000.3000.5000.70NS1.0mmNS2.0mmNS3.0mmNS4.0mmNS5.0mm6.0mm*p<0.05r=0.769コマ様収差(μm)図4b各瞳孔サイズにおけるコマ様収差と視力*:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.769.-0.2-0.10.00.10.2logMAR値00.00100.0100.0500.1000.2000.40NS1.0mmNS2.0mmNS3.0mmNS4.0mm5.0mm6.0mm*2p<0.05r=0.769*1p<0.05r=0.761球面様収差(μm)図4c各瞳孔サイズにおける球面様収差と視力*1:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.761.*2:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.769.1476あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(154)人工瞳孔5.0mm以上で収差が高いほど視力は有意に低下し,高い相関関係を示した(Spearmanの順位相関係数の検定,人工瞳孔5.0mm,p<0.05,r=0.76;人工瞳孔6.0mm,p<0.05,r=0.77)(図4c).III考按本検討により,瞳孔サイズが高次収差および視力に影響することが確認された.高次収差は瞳孔が拡大するほど増加し,視力は人工瞳孔2.0mmで最も高値を示し人工瞳孔4.0mm以上あるいは1.0mmで有意に低下した.瞳孔と視力に関する過去の報告では,線像強度分布を用いた結像特性の観点から瞳孔の最適径(入射瞳)は約2.4mm10),Linewidthacuityによる検討からは約2.5mm11)と報告され,本研究と近い結果となった.そして,それ以上に拡大したり,それ以下に縮小したりすると視機能は低下した.この異径瞳孔サイズによる視力の変化は,有効径拡大に伴う収差の増加と有効径縮小に伴う回折の影響によるものと考えられた5).高次収差と視力に関して,円錐角膜12)やドライアイ眼13),角膜屈折矯正手術眼14)などではコマ収差や球面収差の増加により視機能が低下することが報告されている.高コントラストの条件下で高次収差は視力に影響しないとの報告15)があるが,本検討では図4に示すように瞳孔が大きいとき,高次収差の総和,コマ様収差,球面様収差ともに視力との関連がみられた.特に,球面収差との関連が強く,瞳孔5.0mm以上で高い相関関係を認めた.そのおもな原因は網膜像の質の劣化と最良像点のシフトと考える.瞳孔が拡大すると,光は角膜の近軸領域より屈折力の強い周辺部も通るため光軸との交点にズレが生じる.その結果,像点では同心円状にボケた像となり,最良像点は網膜前方にシフトする.本検討でも表1に示すように,人工瞳孔サイズ拡大に伴い視力が低下した症例に再矯正を行ったところ約.0.25Dの追加矯正で元の最高視力に達している.このことは,瞳孔拡大により正の球面収差の影響を受けていたと示唆されるが,本検討のような正常眼では収差増加により網膜像の質は劣化するものの視力に及ぼす影響はさほど大きくないことも示唆している.ただし,図3にも示したhigh高次収差の1例は,人工瞳孔6.0mm時に追加矯正を行っても元の視力に達しなかったことからhigh高次収差眼では視機能への影響が懸念される.眼科臨床での影響として,散瞳剤を使用したときと片眼遮閉に伴う瞳孔拡大時があげられる.前者の散瞳状態では,高次収差による視力への影響や球面収差による最良像点がシフトし自覚屈折値の誤差要因となりうる.したがって,収差の影響を抑えるため人工瞳孔を使用することが望ましいが,径が小さすぎても回折による視力の影響や,焦点深度3)がより拡大し自覚屈折値の誤差要因となりうる.よって,これらを考慮し,本検討結果から3.0mmが適当ではないかと考える.ただし,日常視を反映した視機能を評価する際には,自然瞳孔サイズの人工瞳孔を使用するべきである.後者は,単眼視下検査における視機能の過小評価2)などが報告されているが,その他には片眼アイパッチによる視力増強訓練を必要とする小児があげられる.片眼遮閉により瞳孔は拡大し,それに伴う高次収差の増加が視力発達を阻害する可能性が懸念される.特に,high高次収差で,かつ片眼遮閉時の瞳孔サイズがより大きい症例ではその影響が示唆される.今後は,高次収差量と視力の関係について検討する予定である.本実験の制限として収差推定があげられる.今回算出された各瞳孔サイズに対応した高次収差は,実測値ではなくSchwiegerlingのアルゴリズムによって数学的に算出された推定値である.したがって,誤差を含んでいる可能性が示唆されるが,川守田らの報告によると,解析径6.0mmから4.0mmへの推定精度(95%信頼区間)は±0.03μmで,それ以下になると誤差はより小さい(第42回日本眼光学学会).つまり,本検討結果に影響する誤差ではないといえるが,あくまでも推定値として結果を解釈する必要がある.今回筆者らは,瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響について検討した.瞳孔サイズが拡大すると高次収差の増加を伴い,その結果,視機能に影響を与えている可能性が示唆された.本論文の要旨は,第50回日本視能矯正学会にて発表した.謝辞:本研究の一部は,厚生労働省科学研究費(H16-長寿-12/HU),文部科学省科学研究費(萌芽研究#15659416/HU)ならびに北里大学医療衛生学部特別研究費(2007-1028&2008-1004/HU)補助金による器材を使用して実施されたものであり,感謝の意を表する.文献1)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼光学の基礎(西信元嗣編),p82-94,金原出版,19902)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,20053)WangB,CiuffredaKJ:Depth-of-focusofthehumaneye:Theoryandclinicalimplications.SurvOphthalmol51:75-85,20064)WilsonM,CampbellM,SimonetP:Changeofpupilcentrationwithchangeofilluminationandpupilsize.OptomVisSci69:129-136,19925)SmithG,AtchisonDA:TheEyeandVisualOpticalInstruments.p308-309,CambridgeUniversityPress,Cambridge,19976)UozatoH,GuytonDL:Centeringcornealsurgicalprocedures.AmJOphthalmol103:264-275,19877)ApplegateRA:Glennfryawardlecture2002:Wavefrontsensing,idealcorrections,andvisualperformance.OptomVisSci81:167-177,20048)SchallhornSC,KauppSE,TanzerDJetal:Pupilsizeand(155)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101477qualityofvisionafterLASIK.Ophthalmology110:1606-1614,20039)SchwiegerlingJ:ScalingZernikeexpansioncoefficientstodifferentpupilsizes.JOptSocAm(A)19:1937-1945,200210)CampbellFW,GubischRW:Opticalqualityofthehumaneye.JPhysiol186:558-578,196611)BennettAG,RabbettsRB:ClinicalVisualOptics.2nded,p28,Butterworth-Heinemann,London,198912)ApplegateRA,HilmantelG,HowlandHCetal:Cornealfirstsurfaceopticalaberrationsandvisualperformance.JRefractSurg16:507-514,200413)Montes-MicoR,AlioJL,CharmanWN:Dynamicchangesinthetearfilmindryeyes.InvestOphthalmolVisSci46:1615-1619,200514)MillerJM,AnwaruddinR,StraubJetal:Higherorderaberrationsinnormal,dilated,intraocularlens,andlaserinsitukeratomileusiscorneas.JRefractSurg18:S579-583,200215)VillegasEA,AlconE,ArtalP:Opticalqualityoftheeyeinsubjectswithnormalandexcellentvisualacuity.InvestOphthalmolVisSci49:4688-4696,2005***