0910-1810/11/\100/頁/JCOPYCL装用の最も重篤な合併症は角膜感染症である.原因菌としては緑膿菌とアカントアメーバが最も多く,近年それらの急激な増加が問題となっている.緑膿菌の典型例を図1に示す.19歳,男性でSCLを装用したまま就寝,2日後にはこのような強い輪状膿瘍を呈した.緑膿菌の危険なところは急激な悪化である.アカントアメーバの典型例を図2に示す.20歳の男性で2週間タイプのFRSCLユーザーでケアの悪いケースであった.入院治療に1カ月以上を要した.アカントアメーバの問題は特効薬がなく治癒までに非常に長時間を要することである.これらの感染法の増加の背景には,SCLケアの悪さ,CLケース内の微生物汚染,MPSの弱い消毒効果などがあると考えられる.このような状況から,日本コンタクはじめにコンタクトレンズ(CL)は全国で約2,000万人が使用している.CLの進歩は非常に速く,約40年前からハードCL(HCL),酸素透過性HCL(RGPCL),ソフトCL(SCL)(煮沸消毒),頻回交換SCL(FRSCL)(過酸化水素,マルチパーパススリューション:MPS),1日交換SCL(1DaySCL),シリコーンハイドロジェルSCL(過酸化水素,MPS)と次々に開発,発売されてきた.また,最近では乱視矯正SCL,老視用多焦点SCL,カラーSCL,角膜を大きく見せるSCLなど非常に多様化している.現在のシェアは,1DaySCL,FRSCLがともに約600万人で全体の半数以上を占めるといわれている.(29)337*MasahikoFukuda:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕福田昌彦:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):337.342,2011コンタクトレンズ関連角膜感染症ContactLens-RelatedInfectiousKeratitis福田昌彦*図2アカントアメーバ角膜炎放射状角膜神経炎を認める.図1緑膿菌による角膜潰瘍強い輪状膿瘍を認める.338あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(30)先であった.1.対象症例数および性別・年齢症例数は350例,男性が195例,女性が155例,年齢は9~90歳(平均28歳)であった.2.発症眼感染症の発症は右眼のみが160例(45.7%),左眼のみが157例(44.9%),両眼のものが33例(9.4%)であった.3.細菌学的検査塗抹検鏡検査が行われたのは278例(79.4%)であった.検体の採取部位別の結果を表1に示す.角膜病巣の検体からアカントアメーバが68例,グラム陰性桿菌が40例,グラム陽性球菌が20例で確認された.このほか,検鏡陽性数が多かった検体はCLケースで,角膜病巣と同様にアカントアメーバおよび,グラム陰性桿菌が多く検出された.培養検査は333例(95.1%)で施行されていた.うちなんらかの微生物が検出されたのが228例,陽性率は68.5%であった.検体の採取部位別の結果を表2に示す.トレンズ学会と日本眼感染症学会は共同でCL関連角膜感染症全国調査を行った.また,2009年,国民生活センターがMPSのアカントアメーバに対する消毒効果について報告を行った.これらの結果を踏まえてCL関連角膜感染症の動向について述べる.コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症全国調査対象施設は全国224施設で,対象疾患はCL装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療を要した症例である.調査期間は平成19年4月からと平成20年3月までの2年間で,担当医と患者へのアンケートを行った.担当医への調査項目は,年齢,性別,発症眼,自覚症状,初診時視力,前眼部所見,塗抹検鏡所見,分離培養結果,治療薬,外科的処置の有無,3カ月後の転帰,3カ月後の視力であった.患者に対するアンケート内容はCLの種類,装用時間,週当たりの装用日数,装用方法,消毒の種類,週当たりの洗浄回数,週当たりの消毒の頻度,こすり洗いの有無,レンズケースの交換頻度,定期検査の頻度,1日ディスポーザブルCLの使用期間,2週間FRSCLの使用期間,定期交換(1,3カ月)SCLの使用期間,装用方法遵守の程度,処方された施設,購入表1塗抹検鏡菌種グラム陽性球菌グラム陽性桿菌グラム陰性球菌グラム陰性桿菌糸状菌アカントアメーバ角膜病巣2016540268結膜.220300眼脂100500CL512806CLケース119630321その他101002(文献9より)表2分離培養にて検出された主要菌菌種黄色ブドウ球菌表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム緑膿菌セラチアその他のグラム陰性桿菌アスペルギルスアカントアメーバ角膜病巣3567034056結膜.13431100眼脂01181000CL4222051304CLケース235391734132その他01051301(文献9より)(31)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011339角膜病巣からは緑膿菌が70例,アカントアメーバが56例で同定されていた.その他黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,セラチアなどもみられたが,いずれも数例程度であった.CLケースからの検出菌としては緑膿菌39例のほか,セラチア17例,その他のグラム陰性桿菌が34例とグラム陰性桿菌が多数検出されていた.アカントアメーバもCLケースから32例で検出されていた.なお,角膜病巣から検鏡・培養のいずれかでアカントアメーバが検出された症例は85例であった.4.発症時使用していたCLの種類および装用方法角膜感染症発症時使用していたCLの種類を表3に示す.FRSCLが196例(56.0%)と過半数を占めていた.続いて症例数の多いものとして定期交換SCL56例(16.0%),1日ディスポーザブルCL26例(7.4%)があげられた.5.使用していた消毒薬CLの消毒薬の種類について,回答のあった227例のうちMPSを使用していた例が212例(93.4%)であった.このほか過酸化水素が14例(6.2%),煮沸消毒が1例(0.4%)みられたが,ヨード製剤を用いたという回答はなかった.6.ケアの方法CLを外したのち再装用するまでのケアの方法に関し,CLの洗浄,消毒,こすり洗い,CLケースの交換についてそれぞれ図3.6に結果を示す.CLの洗浄につい表3発症時使用していたCL症例数%1日ディスポーザブルSCL267.41週間連続装用ディスポーザブルSCL41.12週間FRSCL19656.0定期交換(1カ月,3カ月)SCL5616.0従来型SCL92.6カラーCL174.9ハードCL174.9オルソケラトロジーレンズ20.6無回答236.6(文献9より)毎日洗浄していた135(38.6%)週に4~6回洗浄していた35(10.0%)週に2~3回洗浄していた33(9.4%)時々洗浄していた47(13.4%)ほとんど洗浄していなかった27(7.7%)まったく洗浄していなかった17(4.9%)その他11(3.1%)無回答45(12.9%)図3CLの洗浄(文献9より)毎日こすり洗いしていた67(19.1%)週に4~6回こすり洗いしていた30(8.6%)週に2~3回こすり洗いしていた23(6.6%)時々こすり洗いしていた53(15.1%)ほとんどこすり洗いしていなかった61(17.4%)まったくこすり洗いしていなかった60(17.1%)その他11(3.1%)無回答45(12.9%)図5CLのこすり洗い(文献9より)毎日消毒していた115(32.9%)週に4~6回消毒していた26(7.4%)週に2~3回消毒していた22(6.3%)時々消毒していた30(8.6%)ほとんど消毒していなかった21(6.0%)まったく消毒していなかった25(7.1%)その他6(1.7%)無回答105(30.0%)図4CLの消毒(文献9より)340あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(32)いなかった」「まったく交換していなかった」を合わせると174例(49.7%)と約半数を占めていた(図6).7.定期検査CLの定期検査の頻度について図7に結果を示す.「不定期に受けていた」,「ほとんど受けていなかった」,「まったく受けていなかった」など特定の受診間隔を定めていなかった例が162例(46.3%)を占めていた.8.CLの使用期間SCLは従来型を除き使用期間が定められている.この使用期間が遵守されているかについてレンズのタイプ別にアンケート結果をまとめた.1日ディスポーザブルCL装用者26例のうち「1日」と規定どおりの使用期間を守っていたものは12例(46.2%)のみであった(表4).同様にFRSCLについての結果を表5に示す.症例数の多いFRSCLにおいて「2週間以内」の使用期間であったものは74例であり,回答のあった177例のうち41.8%のみという結果であった.9.CL装用方法の遵守「CL装用方法を守っていたか?」という総括的な質ては,「毎日洗浄していた」は135例(38.6%)にとどまっていた.「時々洗浄していた」「ほとんど洗浄していなかった」「まったく洗浄していなかった」など,CLの洗浄が十分行われていないと考えられる例も一定数みられていた(図3).CLの消毒についても洗浄とほぼ同様の結果であった(図4).CLのこすり洗いについては「毎日こすり洗いしていた」は67例(19.1%)であり,「時々こすり洗いしていた」53例(15.1%),「ほとんどこすり洗いしていなかった」61例(17.4%),「まったくこすり洗いしていなかった」60例(17.1%)の3つを合わせると174例(49.7%)にものぼった(図5).レンズケースの交換については特に交換までの期間を決めていないものが多く,「不定期に交換していた」「ほとんど交換して表41枚のCL使用期間(1日ディスポーザブルSCL)症例数%1日1246.22~3日623.14~7日13.81週間を超え2週間以内13.82週間を超え1カ月以内311.51カ月を超える27.7無回答13.8(文献9より)表51枚のCL使用期間(2WFRSCL)症例数%2週間以内7437.82週間を超え3週間以内5628.63週間を超え1カ月以内2613.31カ月を超える2110.7無回答199.7(文献9より)3カ月以内ごとに交換していた63(18.0%)6カ月以内ごとに交換していた42(12.0%)1年以内ごとに交換していた13(3.7%)不定期に交換していた60(17.1%)ほとんど交換していなかった65(18.6%)まったく交換していなかった49(14.0%)その他17(4.9%)無回答41(11.7%)図6CLケースの交換(文献9より)1カ月に1回程度受けていた3(0.9%)3カ月に1回程度受けていた77(22.0%)6カ月に1回程度受けていた49(14.0%)1年に1回程度受けていた20(5.7%)不定期に受けていた44(12.6%)ほとんど受けていなかった50(14.3%)まったく受けていなかった68(19.4%)その他5(1.4%)無回答34(9.7%)図7CLの定期検査(文献9より)(33)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011341例(62.3%)あった.しかし0.09以下の矯正視力しかなかった症例も40例(14.1%)認められた(図8).11.危険因子の検討CL関連角膜感染症全国調査での性別,年齢,使用CL種別と日本全国のCL推定使用者数との比較については,表8に示すようにCL関連角膜感染症は男性と10歳代,20歳代の使用者,2週間交換SCLと定期交換SCLに多く,HCL使用者,1日使い捨てSCL使用者には少ないとの結果が得られた.12.国民生活センターのMPSなどのアカントアメーバに対する効果MPS(8種類),過酸化水素消毒(2種類),ポビドン問に対し,「守っていた」あるいは「ほぼ守っていた」と答えたものが合計188例あり,回答のあった273例の68.9%であった(表6).10.外科的処置および3カ月後の転機調査対象施設受診後3カ月以内に外科的処置として角膜掻爬は126例(36.0%),角膜移植は7例(2.0%)で施行されていた.角膜移植症例のうち角膜擦過物から黄色ブドウ球菌が同定されているものが1例,緑膿菌が3例,アカントアメーバが1例であった.3カ月後の転帰について表7に示す.治療が継続中であるものが106例(30.3%)であった.治癒症例については治癒までの期間についても調査をしているが,1カ月以上を要しているものが84例と治癒症例145例中57.9%を占めていた.受診3カ月後の矯正視力について回答の得られた症例は284例であり,このうち0.7以上確保したものが177表6CL装用方法を守っていたか?症例数%守っていた6618.9ほぼ守っていた12234.9ほとんど守っていなかった7320.9まったく守っていなかった123.4無回答7722.0(文献9より)表8全国推定使用者数と比較した場合の危険性(2項目分布に基づく割合の検定)有意に関係する因子CL関連角膜感染症の発生有意性性別男性有意に多いp<0.0001年齢10歳代有意に多いp<0.000120歳代有意に多いp<0.0014CLの種別HCL有意に少ないp<0.00011日使い捨てSCL有意に少ないp<0.00012週間交換SCL有意に多いp<0.0001定期交換SCL有意に多いp<0.0001(文献8より)表73カ月後の転帰症例数%治療中10630.3治癒14541.4治癒までの期間1週以内3(2.1)*1~2週19(13.1)2週~1カ月28(19.3)1~2カ月42(29.0)2カ月を超える42(29.0)無回答11(7.6)転院5315.1来院しなくなった123.4無回答349.7*括弧内の数字は治癒145例中の割合を百分率で表している.(文献9より)1.0以上126(44.4%)0.7~0.951(18.0%)0.4~0.640(14.1%)0.1~0.327(9.5%)0.07~0.090(0.0%)0.04~0.067(2.5%)指数弁~0.0321(7.4%)光覚弁~手動弁11(3.9%)光覚なし1(0.4%)図83カ月後の矯正視力342あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(34)交換する,指示された装用期間を遵守するなどの適切なCLケアの啓発をますます行っていく必要があると考えられた.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20063)NagingtonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfectionoftheeye.Lancet2:1537-1540,19744)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎37自験例の分析.眼科44:1233-1239,20025)糸井素純,植田喜一,岡野憲二ほか:インターネットによるコンタクトレンズ眼障害のアンケート調査.日コレ誌50:111-121,20086)独立行政法人国民生活センター報告書「ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─」.平成21年12月16日7)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,20098)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20109)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクト関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,2011ヨード消毒(1種類)のアカントアメーバ栄養体,アカントアメーバシストに対する効果を検討した.栄養体に対してはMPSの6種類で効果がなく,MPSの2種類,過酸化水素消毒2種類,ポビドンヨード消毒1種類で効果が認められた.一方,シストに対してはポビドンヨード消毒1種類のみ効果が認められ,他のすべての過酸化水素消毒,MPSで効果が認められなかった.13.国民生活センターのSCLの衛生状態調査2週間タイプのFRSCLを使用している学生385名を対象に通常どおりの方法で2週間レンズを使用してもらい,SCLの入ったレンズケースを回収,そのなかの衛生状態を調査した.約10%にPCR(polymerasechainreaction)法でアカントアメーバの痕跡が認められた.約60%から細菌が検出され,約20%から緑膿菌,約7%から大腸菌が検出された.MPSは過酸化水素消毒より検出率が高かった.レンズを取り扱う前は必ず手指を石鹸で洗い,レンズはこすり洗いをし,レンズケースを1.5.3カ月に一度新しいものと交換するという3点を守っていた人は守っていなかった人に比較してアカントアメーバ汚染率,細菌検出率は低く,特に緑膿菌検出率では大きな差を認めた.おわりに1DaySCL以外のFRSCLに関しては,MPS,過酸化水素消毒,ポビドンヨード消毒のいずれにおいても高率にSCLケース内に緑膿菌を中心とした細菌汚染は起こっており,その細菌を餌としてアカントアメーバもかなりの割合でケース内に存在すると考えられる.この汚染されたSCLを装用して,しかも長時間装用などで角膜に障害を起こした場合に緑膿菌による角膜潰瘍やアカントアメーバ角膜炎を起こすことが確認された.図9に模式図を示す.CLユーザーに対して,レンズを取り扱う前は必ず手指を石鹸洗いをする,レンズはこすり洗いをする,レンズケースを1.5.3カ月に一度新しいものとCLケース内角膜:アカントアメーバ:緑膿菌不適切なレンズケアMPSの弱い殺菌力+長時間装用など角膜炎発症図9CL関連角膜感染症の発症メカニズム