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眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103470910-1810/10/\100/頁/JCOPY人として生きて,予定期間の75%ほどになると,欲望や美意識が変化する.今まで完璧であることを善しとしていたものが,曖昧さの輝きに気が付くようになる.理系人間から文系人間になる.多くの人でそんなときが到来すると思う.すると自分の立ち位置の不安定さに気がついて,生き方の見本がほしくなる.そんなときには,伝記とか歴史書を読むとよいと思う.私は歴史書,特に史記が好きだ.自分の好みを人に押し付けるつもりは毛頭ないが,史記では形式美と人間味を同時に味わうことができる.今から2000年以上前に書かれたとはいえ,現代に通じるものがある.そこで,古典というとなじめないとおっしゃる方も多いとは思うが,敢えてあげさせていただいた.史記という書物は有名であるが,意外に内容が知られていないので,最初に成立の沿革に触れる.史記は古代中国の歴史書で,中国の最初の正史とされる.前漢武帝の時代(紀元前12世紀)に司馬遷が対匈奴作戦の際に降伏した李陵を弁護したがために宮刑に処せられた後,屈辱と不遇のなかでの不屈の意志をもって完成させたとされる(関連して,中島敦「李陵」も秀作である).全部で526,500字,木簡にして約23,000枚,それを正副2部独りで書き上げたとされる.それだけでも鬼気が迫る感じがする.司馬家の家業である宮中の記録係としての強い責任感から,それまでの中国の歴史を,綿密かつ正確に記述することを目指して完成させた書物と理解される.生命をかけたと著作という点では,中国文学者白川静氏の三部作「字統」,「字訓」,「字通」が相通じるものをもっていると思う.史記からいくつかのエピソードをあげたい.最初は目に関するもの.漢の高祖(劉りゅうほう邦)の皇后,呂りょ后こうが,高祖の死後,高祖の寵愛を受けていた戚せき夫人をなぶり,手足を断ち切り,目をくり抜き,耳をいぶし,喉をつぶし,厠に置き,ヒト豚と名付ける(呂后本紀).人の憎悪がそこまで高じるかと,身の毛のよだつ気がする.刺客列伝に出てくる聶じょう政せいという男.かたきをもつ知人が母親に尽くしてくれたことに恩義を感じ,母の死後,知人の代わりにかたきを討ちに行く.厳戒態勢下の見事なかたき討ちのなかで,死を覚悟し,自らの身元を隠すために,自ら顔の皮膚を剥ぎ,目をくり抜き,そして死んでいく.見事としか言いようがないではないか.もう一つ,目に関係することでは,呉越同舟の故事で有名な呉の国の王,夫ふさ差の臣下の伍ごししょ子胥(伍子胥列伝).進言が入れられずに死を賜ったときの言葉が恐ろしいほどにすごい.「我が目を抉えぐり出して,国府の門に置け.敵が我が国を滅ぼすのを見てやろうではないか」とのたまうのだ.ちなみに眼外傷で眼球が視神経を含めて切断されて眼外に飛び出した状態はbulbarevulsion(眼球抉出)とよばれるが,私は史記を読んで,初めて「抉」という漢字が「えぐる」という意味であることに気が付いた.秦の始皇帝の暗殺未遂で有名な荊けいか軻の友人である楽器の名手,高こうぜんり漸離について,始皇帝が彼の音楽の才能を惜しんで,目をつぶして,自分に近付け演奏させたという話もある(刺客列伝).ある解説書によると,史記に失明を伴う記述が多くみられるのは,司馬遷が去勢を受けたという身体的コンプレックスを強く感じていたことを裏付けるものとされる.自分の生きる価値を史記の完成のみに求めた司馬遷の感情が痛いほどに伝わってくる.人はここまでするのかという気がする記述も多い.炭をくべ,その上に渡した油を塗った銅製の円柱の上を,(69)■3月の推薦図書■「史記」(全3巻)司馬遷著野口定男・近藤光男・頼惟勤・吉田光邦訳(平凡社)シリーズ─92◆山本哲也岐阜大学大学院医学系研究科眼科学———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010罪人を歩かせ,罪人が滑って火に落ち焼ける音を楽しんだという妲だっ己きやそうした非行を諫言した臣下比ひ干かんを生きたまま解剖した暴君紂ちゅうの話(殷本紀).捕虜の不穏な気配を感じて,捕虜20余万人を一夜にして穴埋めにした項こうう羽(項羽本紀).戦死者の数では類を見ない45万人が死んだ長平の戦い(白起・王翦列伝).人肉を食ったことがないという君主の言葉を聴いて,自分の子を殺して差し出した家臣易えき牙がの話(斉太公世家).極限の一世界を見せるのは,水攻めにあって食い物がなくなり,互いの子供を取り替えて食べる話(趙世家).さすがに自分の子供は食べることができなかったようだが,表現のしようのない嫌悪感を覚える話だ.生きる糧にしたい話ももちろん多い.恩義を受けた君主がすでに殺されているにもかかわらず,仇討ちに命をかける予譲(刺客列伝).なぜそこまでするのかという友人に対して,「志ある人士はおのれを知ってくれるもののために死す」と答えるのである.また,君主の忘れ形見を成人するまで守るために,死ぬ公こうそん孫杵しょ臼きゅうと生き抜く程ていえい嬰(趙世家).忘れ形見を守り立てるのと死ぬのとどちらが困難かという問いかけに,敢えて生き抜く困難を選んだ程嬰が,孤児の成長の後,黄泉の国の公孫杵臼の元に自ら向かうくだり.生き方を教えられる.さらに,治水作業のため13年間休みもとらずに働いた禹うの話(夏本紀).禹は自宅の門前を通りかかっても自宅には帰らなかったという.物事を成し遂げるときの心がけが深く理解される.張ちょう良りょうの身の引き際もすばらしい.漢の立国の功労者でありながら,あるときに,養生して,穀類を食わず門を閉ざして世間との関わりを絶った(留侯世家).粛清を恐れたという見方もあるが,上に立つ者のあり方として見習いたい.あまりにも膨大ですべてを紹介することはできないが,お勧めは,項羽本紀,晋世家,刺客列伝などか.項羽本紀の終わりの段落(太史公曰)に,舜しゅんの目はふたつ眸ひとみ子であった,項羽もふたつ眸子であった,とある.私はこの記述などから,舜がAxenfeld-Rieger症候群だとする説を唱えたことがある.そんなことも今回読み直しながら思い出した.日本語版が何シリーズも出ている.もしよろしかったら,読んでみてください.(70)☆☆☆

眼研究こぼれ話 3.恩師コーガン教授 ハーバード大ハウ研究所で

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010345(67)恩師コーガン教授ハーバード大ハウ研究所で北に向かう高速幹線道路は,高い橋を渡って,ボストンの市街から抜け出るようになっている.その下には大きい入江と河があり,広々とした軍港と埠頭をかかえている.この巨大な橋の完成を心待ちにしていた尊父に,心ゆくまでこの橋を見てもらうため,特別にベッドをしつらえた自動車で,数回往復のドライブをしたという話を,ハーバード大学到着直後聞いた私は,人情に国境のないことを感じたものである.これが私の恩師コーガン教授である.私は九大病理学教室で可愛がっていただいた今井環教授にはげまされて,ボストンに移ったのは1952年であった.そこで私を迎えて下さったのが,この一生のうち,第二の恩師となったコーガン教授である.新たに大きくなったハーバード大学のハウ眼科研究所の所長であった彼は,1950年,広島へ原爆の影響調査のため,来日された.それが私の当地へ来てしまうきっかけとなったのである.1952年,彼の下に,私を始め10人ばかりの研究者が集まり,眼と視力の研究を近代的な考えで始めるようになった.なれえぬ英語でもたもたしている私に,何らの異国感を起こさせなかったのは,研究室のふん囲気が九大の今井研究室と大差なかったせいだと思う.ボストンの朝7時はうす暗い.集談会が毎朝7時に始まる.10時のお茶,12時には一同サンドウィッチをもって教授の部屋に集まる.そうして仕事のこと,雑学を,一同話し合うのである.コーガン教授は,時々我々の進む方向を是正してくれるけれども,命令を受けた事はない.先人の言っていること,本に書いてあることよりも,本人の見た生の所見を最重視していた彼は,我々を自由自在に泳がせてくれたのである.このような頭脳の接触が25年もつづいたのである.いくらぼんやりしていても,この生活を毎日繰りかえせば,何とかモノになる.私は眼のことは,何も知らないでハウ研究所に入ったが,かえってそれがよかった気がする.身についた知識を積み重ねることができたからである.研究室で,彼はいつも,プロ意識の強い学者たちにとりまかれていた.プロの集まりとは,実に美事なものである.彼の研究所は1960年代には名実共に世界一の存在となり,私もそのおかげで,世界の人々と交際できるようになった.偶然,私の家が近くだったので,コーガン教授と私は度々車の運転を半々した.この通勤の半時間も,実に有意義であった.不思議と,仕事の話をして,よく合議したのである.また,コーガン家の4人のお嬢様が順々に着た衣類は一まわり小さい私の4人の娘に次々と下げられていった.家族的にも親しくしていただいたのである.彼の停年退職の際,私はキノシタ君と共に,もと0910-1810/10/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載③コーガン教授(研究室で撮影)———————————————————————-Page2346あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010眼研究こぼれ話(68)同僚のクッパー博士が所長となった国立眼科研究所にやって来たが,コーガン教授にもお願いしてワシントンに来ていただいた.昔,ハーバード大学で送ったと同じ生活をここでまた,益々御元気な老教授をかこんで送っている.しかし彼を老人と言えないことがある.先年,先生とドイツを旅行したとき,バーバリアの美しい山嶽地で,はるか高い峰に小さいカフェのあるのを見つけた.先生と二人でそこへ向かって登り始めたのである.すこしの調子も落とさないで,どんどん進む彼に,私はどんなにしてもついて行けない.途中でくたばり,休憩し,半死半生で登りつめたときには,先生は大ジョッキのビールをかたむけ,その部落産のチーズをおいしそうに頬張っていた.私は先生には絶対に追いつけないことを,思い知らされたのである.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆赤色光の温あんぽう器・生体に対して浸透力のある赤色光を照射してマイボーム腺及び眼瞼を5分間暖めます。マイボーム腺機能不全による疲れ目や慢性BUT短縮タイプによるドライアイ症に。¥18,900(税込み)ウエットドライアイ用眼鏡カバー・常用している眼鏡に装着できる眼鏡カバーで、優れた保水性を持つ加湿用チップを内蔵しています。ドライアイの人やパソコンの使用などで目が疲れる方、また手術などの仕事で目を酷使する方に。¥4,515(税込み)<加湿用チップ15セットを含む>株式会社セプト〒154-0002東京都世田谷区下馬5-6-1http:://home.catv.ne.jp/rr/captTEL03-3412-7055FAX03-3412-7033

インターネットの眼科応用 14.医師のつぶやき

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103430910-1810/10/\100/頁/JCOPY経験の共有前号まで,医療情報がインターネット上へ蓄積されるためには,医師というプロフェッショナル集団からの情報発信が必要,と述べてきました.地域を越えて医療情報が集まる,医療者限定の交流サイトは非常に大きな社会的価値を生みます.その一例となる会員制サイトのMVC-onlineをたびたび紹介してきましたが,会員の医療者は,地域を越えて新鮮な医療情報に触れることができます.その情報が臨床の現場に還元されて,患者にも大きなメリットをもたらします.インターネットは医療情報の流通に革命を起こしました.パソコン1台とインターネット環境さえ整えば,いつでもどこでも学会・研究会に参加することができます.では,MVC-onlineで流通し交流される医療情報は,どのように分類されるでしょう.1)医療提供者としての情報発信①症例相談②手術動画の共有③インターネット学会・研究会の開催④臨床研究情報の共有2)医療材料の消費者として情報発信①医療機器の使用経験の共有②新薬の使用経験の共有③医療機器の共同購入3)その他①医療経営に関する情報②学会会場近隣のお薦めスポット以上のように,分類されます.別の観点からみてみましょう.インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.さらに,Web2.0には,3つの段階があります.まず,第一段階として,インターネット上のユーザーが情報を共有します.ついで,経験を共有します.最後に,時間を共有します.それぞれの段階に共通するキーワードは「共有」ですが,共有する対象が変遷しています.これがWeb2.0の方向性です1).「時間を共有する」の先はまだ具現化していませんが,将来,Web3.0とよばれる世界かもしれません.「経験を共有する」「時間を共有する」というコンセプトは,インターネットの活用方法を考える際にきわめて重要です.現在の多くの交流サイトでは,会員同士の経験を共有しています.MVC-onlineのように医療者限定で,手術動画,医療機器,新薬の使用経験を共有するサイトは,インターネットの医療応用を考える際,きわめて今日的な試みです2).近未来的には,「経験の共有」に加えて,時間の共有,つまり「同時性」が加わります.インターネットで手術室を繋いだり,学会を開催したりすることは特別ではなくなるでしょう.多施設の手術室をインターネットで繋ぐ試みはすでに,旭川医科大学の遠隔医療センターで実用化されており,その普及が期待されます35).形成外科領域では,関西電力病院とルーマニアの病院と大阪国際会議場をインターネット回線で繋げて,手術室のライブ映像・音声情報を用いた学術情報交換会が,昨年11月に開催されました.この通信会社の技術を用いると,手術のライブ画像は高画質を維持したまま,日本とヨーロッパの間の情報伝達の遅延は300ms程度で収まるそうです6).ただ,臨床の実務レベルにおいては,大掛かりな機械を用いずに,インターネット上で時間の共有が可能です.スカイプという無料音声通信ソフトをダウンロードして,量販店でウェブカメラとイーモバイルという携帯型インターネット接続機器を購入すれば,自宅からでも遠隔地の医師に,症例を相談することができます.画質も十分に保たれています.つまり,医師-医師間を繋ぐ遠隔医療は,場所を選ばず低価格で実施することができ(65)インターネットの眼科応用第14章 医師のつぶやき武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑭———————————————————————-Page2344あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010ます.Twitter(つぶやき)とよばれるミニブログは,オバマ大統領や鳩山首相が情報発信に採用したことで話題になりました.この最新のインターネットツールも,「時間の共有」という方向性にあります.高度な機械に頼らず,ソフトウェアを進歩させ,参加する人の意識を喚起することが,次世代のイノベーションを生むと考えます.医療機器・新薬の経験の共有使用経験や口コミ,といった個人の体験情報は,インターネットが最も得意とする領域です.医療機器や新薬の使用経験を,医師が「つぶやき」ます.そのつぶやきが集約されたとき,どんな価値を生むのでしょうか.「好感触を得た」「使いにくい」「新しい使用方法もあるのでは」などの,データの裏側にある情報が集まります.EBM(EvidenceBasedMedicine)に対して,IBM(ImpressionBasedMedicine)の集積でしょうか.学会での発表を,格式のあるレストラン紹介誌「ミシュラン」とすると,つぶやきの集まりは,「食べログ」のようなものでしょう.EBMとIBMは,どちらが優れているか,という二極論ではなく,補完しあえるものだと考えられます.今後,医師のつぶやき集は,医療機器や新薬についての一つの評価軸となるでしょう.一例を示します.医療者限定サイト,MVC-online内で私自身はブログを書いています.テーマはさまざまですが,先日,多焦点眼内レンズの使用経験について記載したところ,滋賀,兵庫,大阪,神奈川の先生方からエリアを越えてコメントを頂戴しました.多焦点眼内レンズを使用される,もしくは導入を考えている先生方にとって,有用な情報になりえたかと思います.エリアを越えて,医療者のつぶやきが集まる価値を考えると,医師限定の口コミサイト,というのは,われわれ医師にとって非常に有用です.新薬の使用経験も同様です.免疫抑制薬の点眼薬が登場した際,その利用について,慎重な先生方も多かったかと思います.皮膚科領域では,アトピー性疾患に免疫抑制薬が使われており,眼科領域でも同様の広がりをす(66)るかもしれません.免疫抑制薬の使用に関して,このような拡大解釈や,上級者の処方は,どこででも入手できる情報ではありません.ちょっとしたコツ,感想をインターネット上につぶやけば,それを後から見た人は,研究会に参加するのと同様の知見を得ることができます.希少かつ貴重な情報と,その情報を求める人を上手に繋ぐのがインターネットの役割です.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)中尾彰宏:第3回日本遠隔医療学会WEB医療分科会「遠隔医療におけるWEBの役割」,20092)http://mvc-online.jp3)http://panasonic.biz/solution/system/education/jirei/av/a201.pdf4)http://astec.asahikawaidai.jp/index.html5)林弘樹,下野哲雄,吉田晃敏:JPEG2000を用いた眼科手術画像伝送システムの限界品質評価.日本遠隔医療学会雑誌4(2):271-272,20086)http://www.kepco.co.jp/hospital/topics/0912/4.html☆☆☆図1MVConlineでの免疫抑制薬の点眼薬に関する議論の一部

硝子体手術のワンポイントアドバイス 82.未熟児網膜症V期に対する硝子体手術(上級編)

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103410910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに未熟児網膜症Ⅴ期の網膜全離例は難治であり,硝子体手術による網膜復位率は一般の網膜離に比較して著しく低い.本疾患における水晶体後面の増殖膜処理は難易度が高く,網膜の伸展性が著明に低下しているため,術中に医原性裂孔を形成すると復位が得られないことが多い.特に増殖膜の周辺部では視認性が不良であることに加えて,硝子体剪刀では往々にして網膜を求心的に牽引してしまうため,医原性の鋸状縁断裂や後極部裂孔を形成しやすい.筆者らは2本の硝子体鑷子を用いて,周辺部の増殖膜を円周方向に引っ張ることで比較的安全かつ確実に増殖膜処理を行う方法を行っている.殖膜の処理法インフュージョンポートは角膜輪部から挿入する術者が多いが,筆者らは角膜内皮障害を最小限にするため,角膜輪部から1.01.5mmの部位より水晶体内に強膜切開刃を刺入し,インフュージョンポートを設置している.その後,経強膜水晶体切除術を行い,引き続き水晶体後面の増殖膜の中央部に硝子体剪刀にて切開窓を形成する(図1).その後,リング状に残存した増殖膜を2本の硝子体鑷子で把持し,鋸状縁部および網膜後極部に子午線方向の牽引がかからないように処理している(図2)1).膜処理が修了し,漏斗がある程度開大するのを確認し,今度は眼内照明と硝子体手術用コンタクトレンズを用いて漏斗内の状態を観察する(図3).通常,漏斗内に硝子体ゲルはほとんど認めず,増殖膜も少ないが,漏斗の開大の障害となる増殖膜は除去する必要がある.最後に,粘弾性物質を漏斗内に注入し手術を終了する.膜の復位率未熟児網膜症Ⅴ期に対する硝子体手術後の復位率は3060%と概して不良である.不成功の原因として,①(63)網膜に対する牽引の解除が不十分なため,②医原性裂孔形成のため,③術後の再増殖により網膜が牽引されるため,などが考えられる.未熟児網膜症の牽引性網膜離では網膜の伸展性が極度に低下しているので,その場で気圧伸展網膜復位術を施行できることはまれであり,術中の医原性裂孔形成は通常の網膜離に対する硝子体手術とは異なり致命的となることが多い.たとえ網膜の復位が得られたとしても,術後視力は光覚弁眼前手動弁に留まることが多く,東らの提唱する早期硝子体手術2)が効果的と考えられるが,筆者にはその経験がない.文献1)石崎英介,中泉敦子,佐藤孝樹ほか:2本の硝子体鑷子を用いた未熟児網膜症における増殖膜処理.眼科手術20:545-548,20072)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol142:636-643,2006硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載82未熟児網膜症V期に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1術中所見(1)経強膜水晶体切除術に引き続き,水晶体後面の増殖膜の中央部に硝子体剪刀にて切開窓を形成する.図2術中所見(2)リング状に残存した周辺部増殖膜を2本の硝子体鑷子で把持し,鋸状縁部および網膜後極部に子午線方向の牽引がかからないように処理する.図3術中所見(3)眼内照明と硝子体手術用コンタクトレンズを用いて漏斗内の状態を観察する.

眼科医のための先端医療 111.シュナイダー角膜ジストロフィの原因遺伝子UBIADI

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103370910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに角膜ジストロフィの遺伝子解析の分野では,これまでに多くの日本人の眼科医師が活躍され,原因遺伝子の発見を含む素晴らしい業績をあげてこられました.近年は再生医学の分野での発展に注目が集まりますが,角膜ジストロフィの分野でも着実に進展がみられていますので,本稿ではその一端を紹介したいと思います.シュナイダー角膜ジストロフィとはシュナイダー角膜ジストロフィ:は角膜へののにる角膜とを体遺伝疾患で眼の角膜部にらる角膜はたはを角膜部にをめるいとい図1).シュナイダー角膜ジストロフィの原因遺伝子にらとらのーはたのの原因遺伝子は体にる遺伝子でるとをめたののでとのる遺伝子変本疾患の原因遺伝子とたかで変のとらい◆シリーズ第111回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊小林顕(金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学)シュナイダー角膜ジストロフィの原因遺伝子UBIAD1図1シュナイダー角膜ジストロフィ患者(59歳,男性,UBIAD1遺伝子N233Hへテロ変異)の前眼部写真角膜実質の高度の混濁と実質浅層の結晶様物質の沈着が観察された.図2UBIAD1蛋白の細胞膜における構造の模式図黒塗りのアミノ酸はこれまでに報告のみられた変異部位です.アミノ酸の変異は細胞膜表面と細胞外部位に集中しており,クラスター(Loop13)を形成している.矢印で示すアミノ酸はわが国におけるシュナイダー角膜ジストロフィ患者にみられた変異の位置を示す(Y174C,K181R,N233H,文献3参照).(文献4より許可を得て改変し引用)———————————————————————-Page2338あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010ます.筆者らはわが国におけるSCCDの3家系の遺伝子解析を初めて行い,これまでに報告のない変異(Y174C,K181R,N233H)がUBIAD1遺伝子上にそれぞれみつかり3),本疾患の遺伝的異質性(異なる遺伝子変異から類似の表現型が生じること)が確認されました.UBIAD1蛋白の機能はUBIAD1のののののののUBIAD1の図2)により,apoEを介したコレステロールの細胞内濃度の安定化や細胞内からの除去に異常をきたし,結果としてコレステロールなどの脂質が沈着する可能性が示唆されています4).生体共焦点顕微鏡を用いた生体解析レーザー生体共焦点顕微鏡ロスト角膜ジューイイを用い本疾患の生体解析をたと角膜にた図3)3).細隙灯顕微鏡にて無結晶沈着タイプと診断されていた1例では,共焦点顕微鏡でも沈着物が確認できませんでした.疾患名称の変更を提唱:SCCDからSCDへでは本疾患における角膜への所見とたイのをらはとんでたかののイ本疾患のにるとらかにのをいといい名称でるとらは提唱い文献1)OrrA,DubeM-P,MarcadierJetal:MutationsintheUBIAD1gene,encodingapotentialprenyltransferase,arecausalforSchnydercrystallinecornealdystrophy.PloSONEIssue8:e685,1-10,20072)WeissJS,KruthHS,KuivaniemiHetal:MutationsintheUBIAD1geneonchromosomeshortarm1,region36,causeSchnydercrystallinecornealdystrophy.InvestOph-thalmolVisSci48:5007-5012,20073)KobayashiA,FujikiK,MurakamiAetal:InvivolaserconfocalmicroscopyndingsandmutationalanalysisforSchnyder’scrystallinecornealdystrophy.Ophthalmology116:1029-1037,20094)WeissJS,KruthHS,KuivaniemiHetal:Geneticanalysisof14familieswithSchnydercrystallinecornealdystrophyrevealscluestoUBIAD1Proteinfunction.AmJMedGenetPartA146A:952-964,20085)WeissJS:Schnydercrystallinedystrophysinecrystals.Recommendationforarevisionofnomenclature.Ophthal-mology103:465-473,1996(60)図3シュナイダー角膜ジストロフィ(図1と同一患者)のレーザー生体共焦点顕微鏡所見角膜実質浅層に結晶様の高輝度陰影が認められた.共焦点画像サイズ400×400μm.「シュナイダー角膜ジストロフィの原因遺伝子UBIAD1」を読んで眼疾患は遺伝子変においのとおでた遺伝子疾患のは眼疾患といるでのおかででたの眼疾患の本解たたとらた角膜ジストロフィにい前はためジストロフィジストロフィジストロフィはる疾患———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010339(61)とされていましたが,遺伝子研究によりこれらは同一遺伝子BIGH3の変異をもつことがわかりました.これは,同じ遺伝子変異をもつ疾患の病態形成・表現型に関して,外的要因が重要であることを示すもので,近年大きな広がりをみせている学問領域「エピジェネティクス」の先駆けとなる重要な発見でした.さて,本稿では,このエピジェネティクスという学問領域に,新たな方向からのアプローチを試みて成功した結果が紹介されています.現在,エピジェネティクス研究で,環境因子が遺伝子発現にどのような影響を与えるかを探るために,多くの研究者は遺伝子そのものを対象にしています.しかしながら,遺伝子の表現型からのアプローチはあまり行われていません.近年,眼科画像解析装置が大きく進歩しており,疾患の病態解明に大きな威力を発揮しています.ですから,従来同一疾患(表現型)と思われていたものも,新しい画像解析装置で解析すると,別の疾患であることがわかる場合が増えてきました.同一疾患とされていたものが,異なる疾患であることがわかれば,その原因遺伝子変異およびその解釈も,変化せざるを得ません.遺伝子自身の研究と表現型の研究の双方が進歩することが,エピジェネティクス研究には必要であり,ここで紹介された結果はその双方からの研究がなされた優れたものです.平凡な研究者でしたら,新しい画像解析装置を病態解析に用いることを考えるだけでしょうが,小林顕先生はその結果と遺伝子研究を結び付けることで,遺伝子と表現型の関係について新しい局面を開いたといえます.私は,その斬新なアイデアと深い洞察に感銘を受けました.眼は生体を非侵襲的に解析できるユニークな組織であり,新しいアイデアを使うことで,医学全体にインパクトを与える大きな研究ができる可能性があることを示した好例です.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

眼感染アレルギー:小児視神経炎

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103350910-1810/10/\100/頁/JCOPY視神経の疾患(成人)の原因には炎症,遺伝,虚血,中毒,栄養欠乏,外傷,腫瘍,圧迫がある.小児期にみられる視神経疾患としては炎症,すなわち視神経炎が最も多いのが特徴である.視神経炎はその発生機序,臨床所見と経過からつぎのように分類される.1.特発性視神経炎:原因が不明で,多くは風邪や感冒症状の後,脳炎や髄膜炎の回復期,またはまったく先行する症状のないまま発症する.ウイルスなどの感染が原因と想定されるが確実な証明はできないことが多い.ステロイドパルス治療が有効であるが,治療トライアルの結果ではステロイドのパルス,内服,偽薬のいずれも長期間観察すると良好な視機能回復が得られ,差がないと報告されている.すべての年齢に発症する.2.多発性硬化症の視神経炎:炎症性脱髄を示す細胞性免疫機序が主体で,視神経以外に他の中枢神経にも障害が生じ,再発と寛解をくり返す.急性発症期にはステロイド治療が有効で,慢性寛解期には再発予防にインターフェロンbが使用される.若年から中年の女性に多く発症する.3.抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎:視神経脊髄炎(またはDevic病)の視神経炎で,アストロサイトの細胞膜にあるアクアポリン(aquaporin:AQP)4を標的とする自己抗体(抗AQP4抗体)が明らかとなり,液性免疫が主体と考えられている.3椎体以上の長い脊髄炎と両眼性の重篤な視神経炎を生じ,ステロイド治療に低反応または無効で,四肢麻痺や失明となる例が多い.中年から老年の女性に多く発症する.児の視神経炎の特徴13)(表1)初診時には特発性視神経炎,多発性硬化症の視神経炎,抗AQP4抗体陽性視神経炎が混在し,実際には早期の鑑別は困難である.小児の視神経炎の発生頻度は圧倒的に特発性視神経炎が高いので,今まで「小児の視神経炎の特徴」は特発性視神経炎を中心に語られることが多かった.1.特発性視神経炎①発生:視神経炎のうち小児(15歳以下)に発生する割合は,すべての視神経炎例(成人+小児)の約5%である.②両側性:成人例に比べて,小児例では明らかに両側性の視神経炎が多い.炎症性病変が急速に広範囲に悪化進行するため両側の視神経がほぼ同時に発症するか,または発症が片側からの場合には幼いため片眼の視力低下に気づきにくく,親や周りの人々も両眼に障害が及び見えにくそうな行動をするまで気づかないことが理由と思われる.このためか5歳未満の低い年齢群は5歳以上群よりも両側性の発症頻度はさらに高い.③視神経乳頭の浮腫(図1):小児の視神経炎例では成人例よりも視神経乳頭の浮腫が高率に認められる.一般に視神経炎で乳頭浮腫を示すものは病変が視神経の前方の乳頭付近に限局して存在する「視神経乳頭炎」とよばれ,乳頭浮腫がなく視神経の後方に病変があるのは「球後視神経炎」とよばれている.小児の視神経炎で乳頭浮腫を示す例ではMRI(shortTIinversionrecov-ery:STIR法)所見で詳細に検討すると乳頭付近だけで(57)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一27.小児視神経炎中尾雄三近畿大学医学部堺病院眼科小児の視神経炎の特徴は両側性(特に幼少期発症例に多い)で,重篤な視機能障害を示し,眼底には視神経乳頭の浮腫を呈する例が多い.ウイルスの感染後やワクチン予防接種後に発症する例が多く,ステロイド治療が有効で視機能の回復は良好である.頻度は少ないが,多発性硬化症や抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎が経過中に判明する例もある.表1CharacteristicsofopticneuritisinchildrenA:AnteriorpartswellingofopticnerveB:BilateralopticneuritisC:ComplicationofviralinfectionD:DevelopmenttomultiplesclerosisE:Eectivenessofsteroidtherapy(Y.Nakao,2010)———————————————————————-Page2336あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010なく,視神経の全長にわたって著しく腫大し,高信号(炎症病変)を示すのが特徴である4)(図2).このため,多発性硬化症の視神経炎で乳頭局所に限局した病変を示唆する「視神経乳頭炎」と同じようによぶのは正しくない.④先行する感染症:視神経炎発症の12週間前に風邪症状や感冒様症状,またはワクチン予防接種を経験しているケースが多い(ウイルス感染後=postinfec-tious?).血清中または髄液中に麻疹,風疹,帯状疱疹ウイルスの抗体価の上昇を認めた報告もある.急性散在性脳脊髄炎(acutedisseminatedencephalomyelitis:ADEM)の発症は小児に多く,急速に広範囲の中枢神経障害を生じる炎症性脱髄疾患である.ADEMの発生機序の背景,臨床症状,予後は小児の視神経炎に共通する点が多く,小児の視神経炎は「ADEM類似の病変が両側の視神経に進展したもの」とイメージすることもできる.⑤ステロイド治療:一般に小児の視神経炎はステロイド治療によく反応し,その視機能は良好に改善する.しかし感染症との関係が疑われるため,ステロイド治療前に小児科へ紹介し,全身状態の把握をしておくことが重要である.2.多発性硬化症の視神経炎小児視神経炎の発症から後に多発性硬化症が明らかになる率は成人に比べて低い(特にアジア)との報告が多(58)い.初診時にMRIで脳内に脱髄斑があれば,後で多発性硬化症と診断される確率が高いのは成人と同じである.長い期間の慎重なフォローが要る.3.抗AQP4抗体陽性視神経炎5)小児でも抗AQP4抗体陽性で視神経脊髄炎の報告例があるので,初診時に抗AQP4抗体の有無を検査し,治療方針の決定に役立てる必要がある.別すべき他の視神経疾患小児期に好発し,視神経炎と鑑別を要する視神経疾患としてLeber病,イヌ回虫症とネコ引っ掻き病の視神経網膜炎に注意が要る.文献1)中尾雄三,大本達也,下村嘉一:小児視神経炎について.眼紀34:496-498,19832)MillerNR:Opticneuritisinchildren.Walsh&Hoyt’sClinicalNeuro-ophthalmology.6thed,p331-332,Williams&Wilkins,Baltimore,20053)MizotaA,NiimuraM,Adachi-UsamiEetal:ClinicalcharacteristicsofJapanesechildrenwithopticneuritis.PedNeurol31:42-45,20044)中尾雄三:視神経疾患の画像診断.臨眼61:1624-1633,20075)中尾雄三,山本肇,有村英子ほか:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神経眼科25:327-342,2008図2図1の症例のMRI(STIR法)上:冠状断面,下:軸位断面.視神経(両側)の炎症による肥大と高信号(⇒)を認める.15歳女児の視神経炎(両眼)10日前に発熱と頭痛があり,3日前から両眼が見えにくい.視神経乳頭の浮腫(両眼)がある.

緑内障:緑内障検診(2)

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103330910-1810/10/\100/頁/JCOPY緑内障検診では,検査項目の選定が重要となる.日本人の緑内障患者の大多数は眼圧上昇を伴わない正常眼圧緑内障であり,眼圧検査のみによるスクリーニングでは緑内障の発見が困難である.したがって,緑内障性視神経乳頭の判定が重要となる.緑内障専門医による視神経乳頭の立体観察は理想的な方法であるが,結果が評価者の経験に依存することになる.したがって,検診においては視神経乳頭の客観的,定量的な測定法の導入が望まれる.HeidelbergRetinaTomograph(HRT)IIは無散瞳下で迅速な視神経乳頭の立体解析を可能にする.今回,視神経乳頭の評価にHRTIIを導入したことは,補助診断として有用であるばかりでなく,客観的評価を可能にした.HRTIIに搭載されている緑内障自動診断アルゴリズム(GlaucomaProbabiliScoreTM:GPS)は,オペレーターが視神経乳頭縁(contourline)を入力する従来のmooreldregressionanalysis(MRA)視神経乳頭解析と異なり,contourline入力の必要がない.そのため検診に有効と期待され,今回の健診でも導入された.しかし,GPSとMRAで異なる解析結果を示した症例もあり(図1),最終的には肉眼による視神経乳頭立体観察を上回る感度・特異度を得られなかった1).今後は新型(Fourier-domain)光干渉断層計(OCT)を用いた視神経乳頭形状や網膜神経線維層厚の解析を検診の検査項目に組み入れることによって,検診効率がさらに改善されることが期待される(図2).今回の検診で用いた緑内障の診断基準(2次検診受診基準)を表1と表2に示す.内障危険因子行政主導の大規模な緑内障スクリーニングは莫大な費用がかさむため,現在どの国でも採用されていない2).(55)●連載117緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也117.緑内障検診(2)石川誠秋田大学大学院医学研究系医学専攻病態制御医学系眼科学講座緑内障の早期発見には,効率が良く,既存の検診業務に組み入れて実施可能なスクリーニング・システムの構築が重要である.「無散瞳」,「非接触」,「非医師」で行う緑内障検診を人間ドックや住民検診に組み込み,正常眼圧緑内障の早期発見体制を全国的に普及させることは,緑内障失明率の低下に寄与できる可能性がある.図1今回の検診で発見された緑内障症例(60歳,男性)のHRTII解析結果上は視神経乳頭縁(contourline)を決定後,乳頭パラメータの解析を行っている.下はGPS自動解析による緑内障判定である.本症例では,MRAとGPSの解析結果が一致しなかった.MRA視神経乳頭解析GPS自動解析———————————————————————-Page2334あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010疾病スクリーニングにおいて,費用対効果を決定するのは有病率であり,危険因子をもつ集団(ハイリスクグループ)を対象として検診を行うことが重要となる.近年の疫学研究で,年齢,眼圧,近視3),低い眼灌流圧4)などが緑内障危険因子であることが明らかになった.今後はこれら危険因子をもつ集団を選択して,たとえ規模は小さくなるにしろ,効率的にスクリーニングを行うことが重要であると考えられる.後の緑内障検診今回の緑内障検診において行った検査方法は,いずれも「無散瞳」,「非接触」で,「非医師」が実行可能なものである.「無散瞳」検査は,受診者の緑内障発作誘発の危険性をなくし,「非接触」検査は感染の危険性を軽減させる.また,「非医師」でも行えることで,ある程度の検診コスト引き下げが可能となる.緑内障検診を人(56)間ドックや住民検診に組み込み,正常眼圧緑内障の早期発見体制を全国的に普及させることは,住民がより多くの緑内障早期発見の機会を得ることにつながり,ひいては緑内障失明率の低下に寄与できる可能性がある.文献1)澤田有,石川誠,佐藤徳子,吉冨健志:緑内障検診におけるHeidelbergRetinaTomograph(version3.0)GPSの有用性.臨眼63:293-296,20092)RabindranathHR,FraserK,ValeLetal:Screeningforopenangleglaucoma:systemicreviewofcost-eective-nessstudies.JGlaucoma17:159-168,20083)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleglaucomainaJapanesepopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20064)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:Riskfactorsforinci-dentopen-angleglaucoma:TheBarbadosEyeStudy.Ophthalmology115:85-93,2008表12次検診受診基準眼圧21mmHgを超えるSPACで正常以外の判定(SかP,grade5以下)乳頭ステレオ撮影で異常HRT3で正常以外の判定判定不能の場合SPAC:ScanningPeripheralAnteriorDepthAnalyzer,HRT3:HeidelbergRetinaTomograph.表2視神経乳頭の異常所見垂直C/D(陥凹乳頭)比が0.7以上上下方rimの幅が乳頭経の0.1以下垂直C/D比の左右差が0.2以上乳頭出血神経線維層欠損(NFLD)が陽性図2今回の検診で発見された緑内障症例(65歳,女性)のCirrusOCT解析結果左眼耳下側に神経線維束欠損が認められた.

屈折矯正手術:調節性内斜視に対する角膜屈折矯正手術

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103310910-1810/10/\100/頁/JCOPY斜視は「屈折異常が原因の斜視」と「屈折異常が合併している斜視」との場合がある.いずれの場合も,斜視の治療には正しい屈折矯正が重要である.調節性内斜視は,屈折異常を原因とする代表的な斜視で,治療の第一選択として精密屈折検査で処方される眼鏡装用が幼少期から開始される.その後,長期にわたる屈折異常のコントロール管理が重要となる疾患である.しかし思春期(青年期)には眼鏡に美容的な抵抗を感じるため,屈折矯正方法をコンタクトレンズに変更する症例も少なくない.さらに昨今のさまざまな屈折矯正法の登場により,その選択肢は広がっているのが現状である.本稿では,調節性内斜視に対する角膜屈折矯正手術(laserinsitukeratomileusis:LASIK)について自験例をもとに紹介する1).視と屈折異常1.調節性内斜視屈折性と非屈折性調節性内斜視に分けられる.屈折性調節性内斜視は遠視があって調節の過剰に伴って内斜視となるもので,屈折矯正で斜視角度は改善し,調節性内斜視の大部分を占めている.一方,非屈折性調節性内斜視はAC/A比(遠見から近見への一定の調節と,これに伴って働く調節性輻湊の程度の比率)が大きく,屈折矯正後の遠見では正位または小角度の内斜視であるが,近見では明らかな内斜視となり凸レンズ装用よって正位または内斜位となるものである.いずれも両眼視機能は比較的良好である.2.部分調節性内斜視調節性内斜視と非調節性内斜視の混合型であり,屈折矯正によって斜視角度が軽減するが,完全には矯正できず残余斜角に対して手術の適応となる場合がある.周辺融像はなく,片眼抑制のある内斜視である.屈折矯正後の残余斜視角が小さい場合には,純粋な調節性内斜視との鑑別が困難な場合がある.1)1.症例屈折矯正が内斜視角度の軽減に有効と考えられた広義の調節性内斜視4例(男性1名,女性3名;平均年齢25±3.6歳)に対して遠視矯正LASIKを施行した.術前には調節麻痺薬(サイプレジンR)点眼による精密屈折検査を行い,手術による矯正量を判断した.斜視角度は交代プリズム遮閉試験により定量し,固視,両眼視,網膜対応などの検査結果も考慮して内斜視の診断分類を行った.また,全症例が幼少期より眼鏡装用による屈折矯正治療を受けており,手術前の屈折矯正手段としては女性1例がコンタクトレンズで,他3例が近見視時のみ眼鏡を使用し,外出時の眼鏡装用には消極的であった.眼(53)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載118監修=木下茂大橋裕一坪田一男118.調節性内斜視に対する角膜屈折矯正手術清水公也伊藤美沙絵北里大学医学部眼科眼位改善も考慮した屈折矯正手術は,術前に斜視の原因と現状をくり返し確認し,手術による屈折矯正量と斜視角度の変動量を把握することが重要である.a.右眼b.左眼図1遠視矯正LASIK後の角膜形状解析(症例4)25歳,女性.遠視矯正LASIKは角膜周辺部をレーザー照射にて切除するため中央が急峻で,周辺部が平坦な角膜形状に変化する.本症例はレーザーの照射ズレもなく良好な術後経過を示している.———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010精疲労は全例に認められた.2.角膜屈折矯正手術エキシマレーザー装置VISXSTARSmoothScanS2TMを用いて,当院の標準的方法で施行した(図1)2,3).当機種での遠視矯正限界は約+5.00+6.00Dであるため,+6.00D以上の高度遠視を有する症例の場合は,残余遠視による視力と眼位を予測する目的で+5.00のソフトコンタクトレンズ装用による検査を行い,残余遠視や残余斜視角の可能性や将来的な老視の問題を含め十分に説明し同意を得ている.今回,いずれの症例も乱視量は1.00D以下であり矯正量に加味していない.果1.視力と屈折度術前,平均裸眼視力は遠見0.91(小数視力換算値),近見0.26,平均球面度数は+5.65±1.53D,平均円柱度数0.59±0.42Dであった.術後,平均裸眼視力は遠見0.96,近見0.95,平均球面度数は+0.44±1.18D,平均円柱度数は0.38±0.35Dとなり,遠視の軽減とともに近見視力の向上が認められた(表1).2.斜視角度術前,裸眼の内斜視角度は近見時1045Δ,遠見時1050Δ,下斜筋過動が原因と考えられる上下斜視を2例に認めた.術後,内斜視角度は近見時08Δ,遠見時26Δと軽減したが,1例は6Δの外斜視を呈した.この外斜視症例は術前から上下斜視も合併しており,術後に複視は認められず,整容的な改善と眼精疲労が軽減されて満足している.いずれの症例も内斜視角度は軽減したが上下斜視は残存し,上下斜視については他の外科的治療(観血的治療)の併用が必要であると考えられる(表1,図2).3.両眼視機能大型弱視鏡検査では眼位補正も可能であることから,全症例に若干の改善が認められた.一方,眼位補正なしのTitmusstereotestにおいては上下斜視のない症例にのみ改善を認めた(表1).文献1)伊藤美沙絵,大野晃司,清水公也ほか:調節性内斜視に対する遠視矯正LASIKの効果.臨眼57:357-362,20032)清水公也:LASIKの現状と術後管理.日本の眼科71:961-964,20003)大野晃司:LASIKの現況.眼科手術14:451-456,2001(54)表1遠視矯正LASIK前後の視機能No.年齢,性別Ope裸眼視力*屈折度**斜視角度(裸眼)**斜視角度(遠見屈折矯正下)**立体視近見遠見SE(D)近見(Δ)遠見(Δ)近見(Δ)遠見(Δ)TST(sec)大型弱視鏡122歳,女性前0.3/0.41.2/1.2+5.25/+4.5045ET50ET8E4E200+++後1.0/0.91.5/1.20/+1.008E(T)4E140+++230歳,男性前0.15/0.70.7/1.0+6.00/+3.7510E(T)10E(T)24E(T)4ET200++後1.0/1.00.7/0.91.00/0.5002E(T)100+++323歳,女性前0.3/0.60.5/1.5+4.75/+4.0018ET3LHT20ET4LHT6ET4LHT6E(T)4LHT3,000+後1.0/1.00.7/1.00.50/0.756ET4LHT6XT4LHT3,000+425歳,女性前0.1/0.10.8/0.8+7.25/+7.5016ET8LHT16ET8LHT6XT7LHT10XT8LHT3,000後0.9/0.80.9/1.0+1.00/+2.506ET8LHT6ET8LHT3,000+*右眼/左眼.**SE:sphericalequivalent,ET:esotropia,E(T):esophoria-tropia,E:esophoria,XT:exotropia,LHT:lefthypertropia.TST:Titmusstereotest.立体視は,術前は遠見屈折矯正下,術後は裸眼で測定した.大型弱視鏡の立体視は,3種類の相似図形(Clement-ClerkTM)を用いて評価し,Allpass(+++),2種類pass(++),1種類pass(+),なし()と表示した.図2遠視矯正LASIK前後の遠見眼位(症例4)25歳,女性.a:術前の裸眼(16ΔET8ΔLHT),b:遠見屈折矯正下(10ΔXT8ΔLHT),c:術後の裸眼(6ΔET8ΔLHT)の眼位を示す.術後は眼鏡装用の煩わしさから解放され,上下斜視は残存したが,明らかな水平眼位の改善も認められて整容的に高い満足度が得られた.a.術前;裸眼c.術後;裸眼b.術前;遠見屈折矯正下

多焦点眼内レンズ:日本で承認を受けた多焦点眼内レンズ

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103290910-1810/10/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズは,約20年前に今のデザインと同じ屈折型,回折型が日本でも承認されていた.残念ながら,当時は折り畳み式の素材ではなく,切開幅が6mmで,かつ縫合をしていたため,医原性乱視が生じていたこと,眼内レンズ度数計算が今ほど正確ではなく,術後の球面度数ずれが多かったことから,良好な裸眼視力が要求される多焦点眼内レンズの特性を生かすには,受け入れ側の準備が未熟であった.また,視機能という概念が眼科医に広く普及していず,術後の見え方は視力のみの判断で,コントラスト感度を検討する施設は非常に限られていた.2007年に,これらの問題点の多くが解決され,多焦点眼内レンズが再スタートをきったともいえる.屈折型,回折型の多焦点眼内レンズが複数承認され,年内に承認予定のレンズも含めて,この機会にまとめてみたい(表1).屈折型多焦点眼内レンズ屈折型は,リズーム(Abbott社)がわが国で承認を受けた唯一の屈折型多焦点眼内レンズであったが,ヨーロッパでCEマークをとったHOYA社のiSiiがディスポーザブルのインジェクターに入ったプリセット型として承認される予定である.リズームは5ゾーンで中央2.1mm径が遠用,2.13.4mm径が近用,iSiiは3ゾーンで中央2.3mm径が遠用,2.33.24mm径が近用で(図1),多焦点機能を発揮するには,近用ゾーンを十分使える瞳孔径が必要である.加齢とともに瞳孔径が小さくなるため,高齢者では適応にならない場合が多い.加入度数は回折型より少ない+3.0+3.5Dのため近方視(51)●連載③多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子3.日本で承認を受けた多焦点眼内レンズビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科2007年に屈折型,回折型多焦点眼内レンズが承認された後,2010年までの約3年間に,基本的な多焦点機能は変わらないが,付加機能がついたもの,材質の異なるものが次々に承認を受けた.現在,わが国で承認を受けたもの,治験を終了し,年内に承認予定の多焦点眼内レンズについて,それぞれの種類と特徴をまとめる.表1多焦点眼内レンズの種類と特徴屈折型回折型販売名リズームAF-1(UY)iSiiテクニスマルチフォーカルレストアRシングルピースレストアRマルチピースモデル名NXG1PY-60MVZM900ZMA00SN6AD3SN6AD1MN60D3販売元AbbottHOYAAbbottAlcon光学部材質アクリルアクリルシリコーンアクリルアクリル球面・非球面非球面非球面非球面非球面非球面非球面球面着色・無着色無着色着色・無着色無着色無着色着色着色着色加入度数(D)+3.5+3.0+4.0+4.0+4.0+3.0+4.0度数範囲(D)+6.0+30.0+4.0+40.0+6.0+30.0+6.0+30.0+6.0+30.0A定数Aモード118.4117.9119.0119.1118.9118.9118.3IOLマスター118.8118.4119.8119.5119.0119.0118.6承認2007年5月2010年予定2008年8月2009年2月2008年7月2010年予定2008年11月———————————————————————-Page2330あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010の最適距離が4050cmとなる.回折型多焦点眼内レンズ回折型は光学部全体が回折デザインのテクニスマルチフォーカルと周辺が単焦点デザインになっているレストアRに大きく分かれる(図2).テクニスマルチフォーカルは光学部材質がシリコーン製のものが最初に承認されたが,昨年,アクリル製のものが承認され,今後アクリル製シングルピースへと移行していくようである.レストアRは光学部が球面,無着色のSA60D3が最初に承認を受けたが,すでに製造は中止されており,今後は非球面,着色タイプのSN6AD3のみとなる.今までの回折型多焦点眼内レンズは近方加入度数が+4.0D,眼鏡面で+3.0Dのため近方30cmで良好な視力が得られていた.今後,加入度を+3.0Dに減らしたSN6AD1が承認される予定で,これにより近方4050cmで良好な視力を望む症例への適応が広がるであろう.また,マル(52)チピースタイプは光学部が球面,着色で,シングルピースデザインが適さない症例,すなわち水晶体内固定が困難な症例に挿入可能である.回折型デザインは瞳孔径に影響されにくいので,適応年齢層が広い.遠方裸眼視力が良好であれば,高い確率で良好な近方裸眼視力が得られるため,遠近両用レンズとして使いやすいが,回折構造の宿命ともいえるコントラスト感度低下があっても,レンズとして使いやすい.しかし,回折デザインの宿命ともいえるコントラスト感度低下が,症例によっては見えにくさとして自覚されるので,レンズの利点と限界を術前に十分説明する必要がある.多焦点眼内レンズの種類が増えたことにより,患者のライフスタイルに合ったレンズの選択,あるいは組み合わせが可能になった.本セミナーで,使用可能な多焦点レンズの種類と特徴を再確認し,今後の診療に役立てていただければ幸いである.☆☆☆リズームiSii2.1mm3.4mm2.3mm3.24mm5ゾーンで中央2.1mmおよび第3,第5ゾーンが遠用.着色部分の第2,第4ゾーンが近用度数3ゾーンで中央2.3mmおよび第3ゾーンが遠用.着色部分の第2ゾーンが近用度数テクニスマルチフォーカル光学部全体が回折デザインレストア?光学部中央3.6mmが回折デザイン.周囲は単焦点3.6mm3.6mm図1屈折型多焦点眼内レンズ図2回折型多焦点眼内レンズ

眼内レンズ:効率よく染色できる前嚢染色針

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103270910-1810/10/\100/頁/JCOPY4-0糸や6-0糸の針を把持するような少し大きめのマイクロ持針器を用いて27ゲージ注入針(いわゆるヒーロン針)を先端部のほうから巻いていく(図1,2).作製時の注意点としては以下のことがあげられる.①注入針の先端を最初に90°曲げる際に過度に強く把持すると注入針の先端がつぶれて染色液が出なくなるので,つぶれない程度にほどほどの力で把持しなくてはならない.ただし,その後の注入針の曲げた部分を把持する場合は,曲げた部分はつぶれにくいので,ある程度強く把持しても問題ない.②可能な限り細巻きにして横幅が(49)3mm以内(術創の幅以内)になるようにしないと創から挿入できなくなる.③同一平面内で巻くようにしないと出し入れのときに創口に引っ掛かる.用方(図3~6)前房内にビスコートTMとオペガンハイTMなどを用いたソフトシェルを構築もしくはヒーロンVTMを注入後,試作した前染色針を用いて染色液を前上に1滴注入する.注入した染色液を前上にまんべんなく塗り広げるようにいきわたらせて前を染色する.染まり方が足りなければもう1,2滴追加注入してもよい.染色後,染色針を抜去するが,この際,針の巻きの部分が創の内渡辺久櫻井真彦埼玉医科大学総合医療センター眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎283.効率よく染色できる前染色針白内障手術に際し,成熟白内障などの例ではトリパンブルーなどによる前染色が行われている1).この際,通常の注入針を用いて染色液を注入すると,染色液が前表面のみならず,虹彩,角膜内皮,後房,前部硝子体など,眼内の他の部位にも飛散し,後の染色液の除去に手間取ることがある.今回,通常使用している注入針を加工し,染色液が余計なところに飛散せず前染色が効率よく行える前染色針を考案,作製した.(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)(o)(p)図1染色針の作製方法(その1)持針器で注入針の先端(a斜線部)を把持し,まず先端を90°曲げる.つぎに先端の曲げた部分(b斜線部)を持針器でしっかり把持し,先端をさらに90°曲げる(c,d).e斜線部を持針器の把持部の根元寄りの部分でしっかり把持した状態で,注入針の根元寄りの部分を持針器把持部の先端側の間を通すようにして注入針の先端部を180°曲げる(f,g).持針器把持部の根元で注入針を把持していると持針器先端側は根元よりもわずかに広がっていることを利用し,そこに注入針を通すようにして,可能な限り同一平面内で細巻きになるように巻いていく.図2染色針の作製方法(その2)h斜線部に持ち替え,同様に180°曲げる(i,j).k斜線部に持ち替え,さらに90°曲げる(l,m).n斜線部を把持して反対方向に90°曲げて(o),完成(p).———————————————————————-Page2方弁に引っかかり抜けない場合がある.このような場合には,別の曲げていない注入針を同じ創から挿入しガイドすると抜去できる.最後に通常の注入針を用いて粘弾性物質を注入し,前房内の余分な染色液を排除する.ント今回,筆者らが試作した前染色針を用いると,染色液が前房内に拡散せず少量の染色液で効率よく染色できる.染色後に前房内の余分な染色液を排除するのに要する粘弾性物質も少量で済む.これらのことから前染色を要する白内障手術において有用と考えられる.ただし,作製には手間や慣れを要するのが難点である.このため,可能であれば製品化が望まれる.文献1)MellesGRJ,deWaardPWT,PameyerJHetal:Trypanbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincat-aractsurgery.JRefractSurg25:7-9,1999図3染色液の滴下確認作製した染色針の先から染色液がスムーズに出るかを眼外で確認する.染色液を勢いよく出そうとしても,この針の形状のため液はゆっくり真下にしか滴下されない.図6余分な染色液の排出染色針を抜去後,通常の注入針を用いて6時方向の前房内に粘弾性物質を注入しつつ,針の根元で創を押し下げることで,眼内の余分な染色液を粘弾性物質ごと排除する.図5前表面の染色染色針で前表面を撫でるように円を描くように動かしながら注入した少量の染色液を塗り広げ,前全体にいきわたらせる.図4染色液の注入前房内に粘弾性物質を注入後,染色針を前房内に挿入し,まず前上の中央で少量の染色液を出してみる.