0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)1273《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1273.1278,2010c〔別刷請求先〕山林茂樹:〒464-0075名古屋市千種区内山3丁目31-23医療法人碧樹会山林眼科Reprintrequests:ShigekiYamabayashi,M.D.,Ph.D.,YamabayashiEyeClinic,31-23,Uchiyama-3,Chigusa-ku,Nagoya464-0075,JAPAN片眼投与によるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果の検討山林茂樹*1石垣純子*2加藤基寛*3近藤順子*4杉田元太郎*4冨田直樹*5三宅三平*2安間正子*6*1山林眼科*2眼科三宅病院*3かとう眼科クリニック*4眼科杉田病院*5尾張眼科*6安間眼科OcularHypotensiveEffectandSafetyofTafluprostvs.LatanoprostinOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionwithUnilateralSwitchtoTafluprost:12-WeekMulticenterParallel-GroupComparativeTrialShigekiYamabayashi1),JunkoIshigaki2),MotohiroKato3),JunkoKondo4),GentaroSugita4),NaokiTomida5),SampeiMiyake2)andMasakoYasuma6)1)YamabayashiEyeClinic,2)MiyakeEyeHospital,3)KatoEyeClinic,4)SUGITAEYEHOSPITAL,5)OwariGanka,6)YasumaEyeClinic原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者におけるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果を片眼投与による多施設共同並行群間比較試験にて検討した.両眼ラタノプロスト単剤使用例で,直近3回の眼圧左右差がいずれも3mmHg以下かつ3回の眼圧左右差の平均が2mmHg以下の患者48例を対象とした.無作為に片眼をタフルプロスト切り替え眼,僚眼をラタノプロスト継続眼へ割り付け,休薬期間を設けずに切り替えを行い,12週間にわたって眼圧下降効果および安全性を検討した.眼瞼色素沈着,睫毛変化および充血については,写真撮影し比較検討した.タフルプロスト切り替え群およびラタノプロスト継続群の開始時眼圧はそれぞれ16.7±3.1mmHg,16.4±3.0mmHg,点眼12週間後の眼圧はそれぞれ15.9±2.9mmHg,15.3±2.8mmHgであった.点眼12週間後の眼圧と安全性について両群間に有意な差を認めなかったが,タフルプロスト切り替え群で2例の眼瞼色素沈着の軽減例がみられた.タフルプロストはラタノプロストと同等の眼圧下降効果および安全性を有することが確認された.Theobjectiveofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyof0.0015%tafluprostophthalmicsolutiontothatoflatanoprostophthalmicsolutioninprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionviaunilateralswitchingtrialinamulticenterparallel-groupstudy.Studysubjectscomprised48patientswhoreceivedlatanoprostophthalmicsolutiononlybeforethestudyandwhoseinter-eyeintraocularpressure(IOP)differentialwaswithin3mmHg-andremainedwithin2mmHgoftheaverage-in3examinations.TheIOPatbaselineaveraged16.7±3.1mmHginthetafluprostgroupand16.4±3.0mmHginthelatanoprostgroup.AverageIOPat12weekswas15.9±2.9mmHgand15.3±2.8mmHg,respectively.Adverseeventswererecordedandocularsafetywasevaluated.Twocasesinthetafluprostgroupshoweddecreasedlidhyperpigmentation.TheIOP-loweringeffectoftafluprostwasequivalenttothatoflatanoprost.Thepresentdataindicatethattafluprostisclinicallyusefulinthetreatmentofprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1273.1278,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,高眼圧症,正常眼圧緑内障,タフルプロスト,眼瞼色素沈着.primaryopenangleglaucoma,ocularhypertension,normal-tensionglaucoma,tafluprost,eyelidpigmentation.1274あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(108)はじめにb遮断点眼液は1980年代に登場して以来,緑内障治療薬の主流であったが,1990年代の終わりに強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)系眼圧下降薬であるラタノプロスト点眼液が登場し,現在ではPG系眼圧下降薬が緑内障の薬物療法の主たる治療薬となった.2010年2月までにトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストが市場に加わり,ラタノプロストを含め4種類のプロスト系のPG製剤が第一選択薬の座を占めるようになった.しかし,日常診療上の選択肢は増えたものの,各点眼薬の薬理学的特徴ならびに臨床的特徴などは,治験のデータをみる限り大きな差を見いだせず,薬剤選択における指標が定まっていないのが実情である.今回の研究の対象となるタフルプロストは他のプロスト系の点眼薬と異なり,C-15の位置にフッ素原子を2つ有することが特徴のPGF2a誘導体である1).フッ素の数と付加位置に関する研究の結果,この構造が分子の安定性,角膜移行性に寄与していることが示唆された2,3).新薬開発における臨床試験では,安全性の面から高齢者や併用薬使用者が治験対象から除外されることや,眼圧下降作用を限られた例数で統計学的に検出する目的で対象者の眼圧が比較的高めに設定される傾向があり1),それらの結果を実際の日常診療にそのまま適用することには慎重になるべきと考える.ゆえに,市販後の臨床研究の果たす責任は重大と考える.本研究の目的は,新しく開発されたタフルプロストの有効性と安全性について市販後臨床研究により比較検討することである.I対象および方法1.実施医療機関本試験は,2009年2月から2009年8月の間に実施した.本試験に先立ち,医療法人湘山会眼科三宅病院内倫理審査委員会で上記6参加施設の本研究の倫理的および科学的妥当性が審議され承認を得た.2.対象対象は,両眼ともラタノプロスト単剤を4週間以上使用継続し,直近3回の眼圧左右差がいずれも3mmHg以下で,3回の眼圧左右差の平均が,2mmHg以下であった広義の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者とした.試験開始前に,すべての患者に対して研究内容およびタフルプロストに関する情報を十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1観察・測定スケジュール同意取得開始日(0週)4週8週12週来院許容範囲──±2週±2週±2週文書同意(開始日までに取得)←●→───患者背景─●───自覚症状─●●●●他覚所見─●●●●角膜所見(AD分類)─●●●●視力検査(矯正)─●──●点眼遵守状況──●●●眼圧測定(Goldmann圧平式眼圧計)*右眼から測定─●●●●眼底検査─●●●●写真撮影(充血)─●●●●写真撮影(眼瞼色素沈着,睫毛変化)─●──●有害事象─●●(発症時)同意取得1日1回夜点眼ラタノプロスト(両眼)(片眼)ラタノプロスト(片眼)タフルプロスト多施設共同平行群間比較試験4週以上12週0週4週8週12週図1試験デザイン(109)あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012753.試験方法と観察評価項目本研究のデザインを図1に,観察・測定スケジュールを表1に示す.本研究は多施設共同並行群間比較試験として実施した.両眼とも4週間以上ラタノプロスト単剤を使用継続している患者に対し,片眼をラタノプロスト継続眼,もう片眼をタフルプロスト切り替え眼に乱数表にて無作為に割りつけた.各薬剤とも1日1回夜に1滴,12週間の点眼とし,開始後4,8および12週時点の来院で観察した.ラタノプロスト使用時に洗顔などの処置を行っている症例は,処置を変更せずそのまま続けさせた.眼圧は,Goldmann型圧平式眼圧計で右眼から測定し,試験期間を通して同一症例に対しては同一検者がほぼ同じ時間帯に測定した.自覚症状は問診にて確認し,眼科検査として視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を実施した.角膜所見については,フルオレセイン染色を行い,宮田ら4)の報告に基づきAD分類を行った.すなわち点状表層角膜症(SPK)の重症度を範囲(area)と密度(density)に分け,それぞれをA0(正常)からA3(角膜全体の面積の2/3以上に点状のフルオレセインの染色を認める),D0(正常)からD3(点状のフルオレセイン染色のほとんどが隣接している)の4段階で評価し,A+Dのスコアの推移について検討した.充血,眼瞼色素沈着,睫毛変化については,各施設で撮影条件を一定にして両眼同時にデジタルカメラで撮影した.充血所見については,充血の程度を「(.)なし」,「(+)軽度充血」,「(++)顕著な充血」の3段階で判定した.眼瞼色素沈着および睫毛変化については,0週と12週の写真を比較し,左右眼の差を「(.)なし」,「(+)わずかに左右差あり」,「(++)顕著な左右差あり」の3段階で判定した.写真判定は割り付け薬剤をマスクした状態で,2人の検者が判定し,2人の意見が一致したものを最終判定とした.試験期間中に観察された患者にとって好ましくない,あるいは有害・不快な症状や所見については薬剤との因果関係を問わず有害事象として収集した.有効性の評価は,各薬剤の点眼12週後の点眼0週眼圧に対する眼圧下降値とした.また,各薬剤の点眼12週後の実測値および点眼0週眼圧に対する眼圧下降率についても検討した.本試験結果の統計解析として,点眼12週の眼圧値,点眼12週の点眼0週眼圧に対する下降値および下降率に対し,各薬剤間のStudent-t検定を行った.また,点眼12週での両眼の眼圧下降率の回帰分析を行った.角膜所見ではA+Dのスコアについて,各薬剤の0週と12週の比較をWilcoxonの符号付順位検定,12週の各薬剤間の比較をWilcoxonの順位和検定で検定した.各薬剤の有害事象発現件数について,c2検定を実施した.有意水準は,両側5%とした.II結果1.症例の内訳本試験には49例(男性20例,女性29例)が参加した.うち1例が,文書同意後,投与開始までに「新しい薬は心配なため」脱落し,投与開始した症例は48例であった.うち4例が有害事象の発現のため中止,1例が脱落,1例が12週時の来院が許容範囲外(17週+3日)であったため,12週のデータが得られた症例は42例であった.2.患者背景患者背景は,表2に示すとおりであり,年齢65.8±12.6歳(平均±標準偏差),ラタノプロスト使用期間29.2±26.8月(平均±標準偏差),原発開放隅角緑内障22例(44.9%),正常眼圧緑内障20例(40.8%)および高眼圧症7例(14.3%)であった.3.有効性眼圧値は点眼0週(開始時)において,ラタノプロスト継続群16.4±3.0mmHg,タフルプロスト切り替え群16.7±3.1mmHgであった.点眼12週での眼圧値は,ラタノプロスト継続群15.0±3.0mmHg(p<0.0001),タフルプロスト切り表2患者背景ラタノプロストタフルプロスト年齢(歳)65.8±12.6性別男性(%)20(40.8)女性(%)29(59.2)ラタノプロスト使用期間(月)29.2±26.8診断名原発開放隅角緑内障(%)22(44.9)正常眼圧緑内障(%)20(40.8)高眼圧症(%)7(14.3)0週視力1.1±0.21.0±0.30週眼圧(mmHg)16.4±3.016.7±3.10週角膜スコア(mmHg)0.7±1.00.7±1.10W(49)4W(46)8W(47)12W(42)22201816141210(病例数):ラタノプロスト:タフルプロスト眼圧値(mmHg)図2眼圧(実測値)1276あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(110)替え群15.6±3.4mmHg(p=0.0028)で有意差があった(図2).点眼0週から点眼12週にかけての眼圧変化値は,ラタノプロスト継続群.1.57±2.1mmHg,タフルプロスト切り替え群.1.24±2.5mmHgで,眼圧変化率は,ラタノプロスト継続群.8.8±13.5%,タフルプロスト切り替え群.6.8±15.7%であった.試験期間中を通して両薬剤間の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率に有意差はなかった.また,個々の症例の点眼12週における眼圧下降率について,ラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼との間に強い相関がみられた(r=0.74,p<0.001)(図3).4.安全性試験期間中に認められた有害事象は,ラタノプロスト継続群20例(41.7%)およびタフルプロスト切り替え群25例(52.1%)であった.両群間の有害事象発現例数に有意差は認められなかった.おもな有害事象は,ラタノプロスト継続群で刺激感9例(18.8%),掻痒感7例(14.6%),タフルプロスト切り替え群で,掻痒感11例(22.9%),刺激感8例(16.7%)であった.試験中止に至った症例は,タフルプロスト切り替え群の4例(8.2%)であり,刺激感,異物感,掻痒感,眼痛,頭痛,鈍痛,眼脂などが認められたが,すべて軽度であり,問題となる他覚所見は認めなかった.眼瞼色素沈着について,タフルプロスト切り替え群の4例(9.8%)の患者から点眼液の切り替えで軽減が認められたとの申告があった.点眼0週と点眼12週とで写真の比較が可能であった症例は41例であり,うち2例(4.9%)でラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼の間の左右差が認められ,いずれもタフルプロスト点眼眼の眼瞼色素沈着が薄かった.眼瞼色素沈着の左右差について,自覚症状のみが3例,他覚所見のみが1例,自覚症状と他覚所見の一致が認められたのは1例であった.他覚所見で左右差が認められた2症例の写真を図4に示す.睫毛変化について,患者からの訴えはなかった.点眼0週と点眼12週とで写真の比較が可能であった症例は41例であり,うち2例(4.9%)でラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼の間に左右差が認められ,いずれもタフルプロスト点眼眼の睫毛が長い傾向が認められたが,顕著な差とはいえなかった.充血について写真判定を行った結果,点眼0週よりラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼で同様のスコア推移を示し,片眼のみスコアの悪化もしくは改善が認められた症例はなかった.角膜所見について,A+Dスコアの推移を検討した結果,両薬剤とも点眼0週と点眼12週の間に有意な差はなかった.また,点眼0週および点眼12週において,両薬剤間に有意な差を認めなかった.その他,眼科検査において変動を認めなかった.-40-20020406080806040200-20-4012週眼圧下降率(%)ラタノプロストタフルプロスト図3点眼12週における眼圧下降率にみるラタノプロストとタフルプロストの相関ラタノプロストとタフルプロストの眼圧下降率は強く相関している.相関係数0.74,p<0.001.12週症例A症例Bラタノプロストタフルプロストラタノプロストタフルプロスト0週図4眼瞼色素沈着に左右差がみられた2例(111)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101277III考察本研究において,タフルプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液と同等の眼圧下降を示した.タフルプロスト点眼薬の第III相臨床試験におけるキサラタンRとの比較でも両点眼薬とも同等の有効性を示していた1).さらに,個々の症例に注目すると,点眼12週におけるタフルプロスト点眼眼とラタノプロスト点眼眼の眼圧下降率が強く相関したことから,多くの症例では両点眼薬がともに有効であることが示唆された.その一方で,タフルプロスト点眼がラタノプロスト点眼よりも有効な眼圧下降作用を示した症例があり,逆に,ラタノプロスト点眼がタフルプロスト点眼よりも有効性を示した症例もみられた(図3).このことからPG関連点眼薬における有効性にはノンレスポンダーを含めて個人差があると考えられる.PG系の点眼薬が緑内障薬物治療における第一選択薬になってから久しく,現在でも効果不十分な場合は,異なる機序の緑内障治療薬を2剤目,3剤目と加えていくことが治療戦略としてよく採られている.しかし,本研究の結果から,1剤目で効果不十分な場合に,まず他のPG関連点眼薬に変更する意義はあると考えられた.本研究では,少なくとも1カ月以上のラタノプロスト単剤使用例が対象であり,ラタノプロスト継続群においては研究開始以前と比較して眼圧下降は認められないと予想したにもかかわらず有意な眼圧下降が認められた.この原因としては,「新たな研究への参加」ということで患者のコンプライアンスが向上したためと考えられた.本研究では片眼投与を採用した.その理由として,対象がすでにラタノプロスト点眼液を使用していることから,タフルプロスト点眼液に変更することによる眼圧変化がほとんどないか,非常に小さいことが予想されたために,眼圧日内変動や日日変動などの要因を除く必要があったためである.また,b遮断点眼薬の場合は,片眼投与により他眼にも影響を与える可能性があるが,少なくともラタノプロスト点眼薬が他眼には影響を与えないとされている6)ため,他眼への影響はないと考えた.ラタノプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムが含有されており,緑内障治療薬が非常に長期に使用されることも相まって角膜上皮障害の発現が危惧される.今回の研究では両薬剤群ともに,点眼0週と点眼12週との間には有意な差がなく,角膜への影響はラタノプロスト点眼薬と同等と考えた.タフルプロスト点眼薬については,2010年より点眼液中の塩化ベンザルコニウム含有量が大幅に低減されていることから,防腐剤による角膜への影響はさらに減少するものと考える.睫毛の伸長については,すでにラタノプロスト点眼薬の使用によって両眼とも変化をきたしており,新たにタフルプロスト点眼薬に変更しても変化は認められなかった.今回は点眼0週と点眼12週時点の写真の比較判定により変化を検討したが,両眼とも同じ条件での撮影ではあるものの,睫毛の本来の長さや伸びる角度にばらつきがあって正確な判定が困難であった.睫毛への影響に関する詳細な評価については今後の研究を待ちたい.緑内障点眼薬においてPG関連製剤は強力な眼圧下降作用を有しており,b遮断点眼薬でみられるような全身性の副作用は少ないが,眼瞼色素沈着は頻度の高い副作用と考えなければならない.日本人においては虹彩色素沈着が発症しても細隙灯顕微鏡での観察以外では判別しにくいが,下眼瞼の色素沈着は美容的な見地から見逃すことができず,患者によっては精神的なダメージを与える可能性がある.臨床試験の結果を考慮すると,当初,本研究ではタフルプロスト点眼薬への切り替えによっても,眼瞼色素の変化はまず変わらないものと予想したが,患者からの「眼瞼の黒さが減少した」という自覚の訴えが4例あった.そのなかの1例と自覚がなかった1例の計2例について,2人の医師による写真判定の結果,明らかにタフルプロスト点眼眼でラタノプロスト点眼眼と比較して色素沈着が少ないことが判明した.培養メラノーマ細胞を使用したinvitro試験の結果,タフルプロストのメラニン合成能をラタノプロストと比較した結果,ラタノプロストが用量依存性にメラニン合成を増加させるのに対して,タフルプロストではほとんど変化がみられなかったこと2)から,タフルプロストのメラニン合成能が臨床でも低い可能性は十分考えられた.臨床では,ラタノプロスト中止により約7週間で消失するか減弱し8),ラタノプロストから他の薬剤に変更後6カ月で約30%の症例で眼瞼色素沈着が軽減したという報告9)や,またラタノプロストによる眼瞼色素沈着がワセリン塗布後の点眼指導によって3カ月後に色素軽減を認めた報告6)から,本研究においても,タフルプロスト点眼液へ変更して12週間が経過することによりラタノプロスト点眼薬の影響が減少したことも考えられる.しかし一方で,タフルプロスト点眼薬単剤使用例でも眼瞼色素沈着がみられた文献報告がある7).また,タフルプロスト点眼薬の眼内移行に関する研究はすでに行われているが,眼瞼皮膚への移行や皮膚での代謝に関する研究は存在しないことから,薬物動態面を含めて考察するに際しては,今後の研究成果を待たなければならないと考える.なお,PG系緑内障点眼薬の色素沈着の研究調査としては,24カ月の長期使用によるタフルプロストとラタノプロストの無作為割り付け二重盲検比較試験においては,写真による判定で,虹彩色素沈着についてタフルプロストのほうが若干少ない傾向を示したものの統計学的有意差はなかったという報告7)や,皮膚科領域で使用されている装置を使用して皮膚の色素量を定量化して検討したところ,ウノプロストン,ラ1278あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(112)タノプロスト,チモロールのいずれの点眼液の使用によっても下眼瞼の色素沈着は同等であったという報告10)があり,対象とする組織や色素沈着の判定方法などによって結果が異なる.本研究においても他の報告と同様に写真判定を採用しているが,同じ条件で両眼を同一写真で撮影することによって片眼のみの切り替え効果を観察したために,眼瞼色素沈着の非常に小さい変化を左右差として示した症例を検出することができたと考える.以上より,タフルプロスト点眼液では眼瞼色素沈着が少ない可能性があるものの,いまだ症例数が少ないため,眼圧下降作用でも明らかになったように個体差による可能性があり,今後の研究成果を待ちたい.今回の研究によって,タフルプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液と同等の眼圧下降効果ならびに安全性を有することが確認された.眼圧下降効果においてはラタノプロスト点眼液と同様に効果不十分の症例が少数みられた.安全性は同等であったが,眼瞼色素沈着はラタノプロスト点眼剤よりも少ない可能性も示唆された.タフルプロストはラタノプロストと同等に臨床使用できる有用性のある薬剤と考えられる.文献1)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20082)NakajimaT,Matsugi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