0910-1810/10/\100/頁/JCOPYどのように考えているのか,日本眼内レンズ屈折手術学会が毎年行う会員へのアンケート調査結果から推察できる1).この調査に回答している眼科医は,日本眼内レンズ屈折手術学会の会員であることから屈折矯正手術への関心が高いグループといえ,日本全体の眼科医の関心度は,さらに低くなるであろう.アンケート調査のなかからphakicIOLとLASIKに関する部分を抜粋し,状況が一目でわかるようグラフにまとめた(図1.3).2010年に,後房型phakicIOLの一つであるVisianICLTMが厚生労働省の承認を得た.PhakicIOLが急速に普及することはないと予想されるが,臨床治験を終了し,その結果から承認を受けたという事実は,わが国で使用するにあたり問題ないと判断されたと認識すべきである.治験症例のみでなく,医師個人による輸入によって海外で使用可能なphakicIOLが使用されているが,承認を受けたVisianICLTMを積極的に導入し,臨床成績を数多く報告しているグループもある2.5).このレンズで乱視矯正が可能なトーリック機能をもったものが臨床使用されており,良好な結果が得られている.近い将来,このタイプも承認を受けると,さらに適応が広がるであろう.PhakicIOLは,後房型のみでなく,前房型の臨床治験が開始されており,今後,phakicIOLの種類が増えることでも適応範囲が広がり,現在よりも眼科医の関心が高まるであろう.はじめに2010年に,わが国で有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)のなかでも後房型であるVisianICLTM(implantablecollamerlens:STAARSurgical社)が承認を受け,今後,屈折矯正手術の適応範囲が広がることが期待される.屈折矯正手術を施行している眼科施設は限られるが,エキシマレーザーによるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)の症例が増えれば増えるほど,phakicIOLの必要性が認識される.また,LASIKはエキシマレーザーそのものが高価な装置で,維持費もかかるため,眼科施設への普及が妨げられていたともいえる.PhakicIOLは,白内障手術設備で導入できるので,非常に魅力的な屈折矯正方法である.しかし,世界的な不況の影響で各国のLASIK件数が減っており,わが国においても同様の現象が起こっているなかで,phakicIOLの将来はどうなっていくのだろうか?まず,眼科医に受け入れられるのか?実際の臨床成績は良好なのか?適応が広がり,LASIK症例の一部がphakicIOLの適応になるのだろうか?本稿では,現在得られている臨床成績から,phakicIOLは今後,どのように受け入れられていきそうなのかという将来ビジョンについて述べる.Iわが国における受け入れ状況PhakicIOLが,わが国でそれほど普及していないのは想像がつくが,実際に眼科医がphakicIOLについて(57)771*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科特集●屈折矯正における基本あたらしい眼科27(6):771.776,2010有水晶体眼内レンズ(PhakicIOL)の将来ビジョンVisionofPhakicIntraocularLens(PhakicIOL)ビッセン宮島弘子*772あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(58)II出揃ったphakicIOL今までヨーロッパを中心に,いろいろなphakicIOLが開発され臨床使用されてきた.大きく分けて前房型と後房型になり,前房型のなかに隅角支持型と虹彩把持型がある(図4).白内障におけるIOLは後房型が理想的で,挿入例のほぼ100%が後房型といってもよいであろう.今のところ,理想的なphakicIOLの挿入場所については,後房型と前房型でそれぞれ一長一短があり,術者および症例によって使用するタイプが異なっている.現在,海外でおもに使用されているphakicIOLを表1に示す.これらは,今まで数多く開発されてきたIOLのなかで,良好かつ安定した臨床成績が確認され残ったものといってもよいであろう.開発当初に使われたものから材質や形状に改良が重ねられ,さらに安定した結果が得られるものになっており,近い将来,まったく異なった概念のphakicIOLが登場する確率は低いと思われる.ここでは,将来ビジョンということだが,それぞれのphakicIOLについて,挿入後の視力は非常に良好で詳細は多くの論文に報告されているので,レンズそのものの特徴を中心に述べる.1.前房型隅角支持型は,ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のNu-Vita,アクリル素材のI-CAREがヨーロッパを中心に使用されていたが,角膜内皮障害などの合併症から,現在は製造中止で使用されていない.このように白内障手術における前房型レンズと同じような問題を816928420406080100(%)PhakicIOLLASIK■:行っていない■:行っている0図1PhakicIOLおよびLASIKを行っている割合PhakicIOLを行っているのは8%のみ.しかし,LASIKを施行している施設の半数が導入している.〔佐藤正樹ほか:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,2009より抜粋〕3655020406080100(%)PhakicIOLLASIK図2今後有用と思う手技LASIKに比べて有用と思う率は低い.〔佐藤正樹ほか:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,2009より抜粋〕71954020406080100(%)PhakicIOLLASIK受けない図3自分で近視矯正手術を受けるとした場合の手技PhakicIOLが7%と評価は高くない.〔佐藤正樹ほか:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,2009より抜粋〕…………………………….PhakicIOL……….図4PhakicIOLの挿入位置挿入位置によって,前房型と後房型に分類される.(59)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010773から,手術中に乱視軸を合わせるトーリックレンズとして現在のデザインは向かない.この点について,何らかの改良が進めば,さらに有用なレンズとなるであろう.2.虹彩把持型このタイプが最も長期の経過観察がなされている7,8).前房型の隅角支持型より角膜内皮への距離があり,後房型より水晶体への距離がある点から,挿入位置としては起こしたphakicIOLだが,アルコン社のアクリソフR隅角支持レンズはヨーロッパ多施設における良好な臨床成績が報告され6),EU加盟国の基準を満たすCE(CommunauteEuropeenne)マークを獲得している.米国およびわが国において臨床治験中で,申請が承認されれば,ICLTMに続いて使用可能なphakicIOLとなる.素材は非常に薄いアクリルで,分類からは隅角支持型であるが,実際に隅角に接触する部分の面積は小さく,かつ軟らかいアクリル素材で,今までのレンズとは異なる良好な結果が期待されている(図5).すでにヨーロッパにおける190眼の臨床試験において,以前の前房型レンズで問題になった支持部と隅角近くの虹彩癒着,瞳孔変形はなく,角膜内皮細胞減少率が1年で4.77%という結果が報告されている.また,phakicIOLそのものがどんなに優れていても,挿入法が困難であると角膜内皮や水晶体に接して,角膜内皮細胞の著明な減少や白内障を生じる危険性がある.白内障手術で数多く使用されているアクリソフRレンズのカートリッジとインジェクターの技術が応用され,挿入法の完成度は高い.このタイプの将来性については,挿入方法,臨床成績から期待度が高い.問題点は,レンズ挿入後,最も安定する位置まで回転(リロケーション)する例があること表1おもに使用されているphakicIOLタイプ支持部IOL名製造材質レンズ形状挿入後写真前房隅角AcrySofRAC-PIOLアルコンアクリル虹彩ArtisanArtiflexOphtecBVPMMAシリコーン後房毛様溝VisianICLTMSTAARSurgicalHydrogel-collagenpolymer図5前房型phakicIOL挿入後PhakicIOLが前房内に挿入されている.レンズの位置は良好である.774あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(60)トロールに熟練を要する.虹彩を把持する位置が予定の場所からずれると,レンズ中心がずれてグレア,ハローなどの視機能に問題が出やすくなる.また,虹彩を把持する際,フックなどで直接虹彩に接触してかつクリップ部分に虹彩の一部をはめ込む操作をするので,虹彩色素脱落やそれに伴う隅角,レンズ表面の色素沈着の問題がある.他の2種類に比べ,挿入操作への画期的な改良が望まれるレンズである.3.後房型VisianICLTMが代表的なphakicIOLで,欧米に続いてわが国でも承認を受けている.このレンズは虹彩と水晶体の間という限られたスペースに挿入され,レンズのサイズ決めが良好な結果を得るための重要な要素とされている(図7).今までは角膜輪部間,whitetowhiteを測定しサイズを決定していたが,前眼部解析装置が開発され毛様溝間をいろいろな角度で測定可能である.レンズが大きすぎると,レンズが前方突出しやすく,虹彩を後ろから押す形になり,狭隅角となる.逆に小さすぎると眼内で回転しやすい.また,水晶体への距離が近くなり白内障併発の危険性が増すことにもなる.角膜内皮からレンズまで十分な距離があり,角膜内皮細胞への影響が前房型phakicIOLより少なく,外見的に前房型で起こりうるレンズ表面の反射がない点が優れている.挿入理想的である.しかし,固定方法がphakicIOL支持部にあるクリップのようなもので虹彩を挟むため(図6),操作に熟練を要するのと,挿入後の虹彩への慢性的な刺激による眼内炎症,それに伴う角膜内皮への影響が危惧されている9,10).近年,シリコーン製で折り畳んで挿入可能なものが登場し,以前のPMMA製より小さい切開から挿入可能になった.虹彩を把持しているため,眼内でレンズが回転することがなく,乱視矯正が可能なトーリックタイプに適したレンズともいえる.このレンズの将来について,まず,挿入法の開発が望まれる.虹彩を把持する操作,把持する量と位置のコン図7VisianICLTM挿入後散瞳すると,レンズが水晶体と虹彩の間にあり,かつ水晶体から離れた位置に挿入されているのが観察できる.図6虹彩把持型phakicIOL挿入後支持部の虹彩を把持する部分.把持する虹彩の量と位置が重要.支持部の把持部分に虹彩脱色素が観察される.図8VisianICLTM挿入後の白内障ICL挿入時,挿入後1年は水晶体混濁なし.2年後から前.下混濁を認めた.(61)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010775近年の波面収差解析を用いたwavefront-guidedLASIKにより,術後の収差を軽減できることで,良好な視機能が得られるようになった.しかし,近視度数が増すにつれ,切除する角膜の量は増えるので,phakicIOLのほうが視機能の面で有利な結果をもたらす11).実際に同じ程度の強度近視2例(表2)に,1例はwavefront-guidedLASIK,もう1例はphakicIOLを挿入し,両者とも術後裸眼視力が1.5まで改善しているが,網膜シミュレーション画像でみると,同じ視力であっても視力の質が異なることがわかる.実際の見え方はシミュレーション画像より良好と思われるが,視力検査における答え方および自覚的な見え方をきくと,phakicIOL挿入後が非常に良いことを実感する.LASIKは術後長期の屈折において,リグレッションといわれる屈折の戻りがあり,強度近視例や遠視例に多い.PhakicIOL挿入例では,術後屈折が非常に安定し方法も専用のカートリッジ,インジェクターがあり,眼内にスムーズに挿入できる.このタイプの将来性について,小切開から挿入可能で,かつトーリックタイプがあり,レンズ機能として完成度が高い.問題は,以前のモデルに比べて白内障の発症が非常に減ったというものの,特徴的な前.下混濁を起こす例がある(図8).白内障発症が限りなくゼロに近づくことが望まれる.サイズ決定について,さらに簡便かつ確実な方法により,レンズ交換を必要とする例がなくなることが望まれる.III今後の発展PhakicIOLの適応は,屈折矯正手術のなかでエキシマレーザーを用いたPRK(photorefractivekeratectomy)やLASIKが適応にならない例という考えが一般的である.したがって強度近視および遠視,角膜疾患合併例が適応とされていた.近視の度数に関しては,.10D以上とされていたが,近年,さらに度数の低い.6D以上というのが標準になりつつある(図9).PhakicIOL挿入経験の多い術者のなかには,phakicIOLの適応がさらに低い度数の近視例に広がり,最終的にLASIKと症例数が逆転するだろうと予想している人もいる.その理由は,phakicIOLの完成度が高くなり,挿入方法が改良されたこと,角膜を温存することによる良好な視機能であろう.LASIKは角膜形状を変えることで屈折矯正を行う.表2Wavefront.guidedLASIKとphakicIOLの比較症例21歳,女性27歳,女性術前視力(1.2×.10.0D(cyl.2.75DAx7°)(1.2×.10.0D(cyl.1.0DAx5°)屈折矯正手術Wavefront-guidedLASIKPhakicIOL術後視力1.5(矯正不能)1.5(矯正不能)網膜シミュレーション画像術後,同じ裸眼視力1.5でも,網膜シミュレーション画像から見え方の違いが予想できる.図9PhakicIOLの適応-1.0D-10.0D-20.0DPRKPhakicIOLLASIK+1.0DPRKPhakicIOLLASIK+6.0D近視遠視776あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(62)よる眼科治療,さらに屈折矯正も同時にする画期的な治療法になる可能性は誰も否定できないであろう.眼科技術が進歩し,新しい話題が少ないと言われているなか,phakicIOLはいろいろな可能性をもつ魅力的な手術として発展していくことが期待される.文献1)佐藤正樹,大鹿哲郎:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,20092)神谷和孝,清水公也,川守田拓志ほか:眼鏡,laserinsitukeratomileusis,有水晶体眼内レンズが空間周波数特性および網膜像倍率に及ぼす影響.日眼会誌112:519-524,20083)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollowupofposteirorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20094)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,20085)神谷和孝:有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)による屈折矯正.あたらしい眼科27:459-464,20106)KohnenT,KnorzMC,CochenerBetal:AcrySofphakicangle-supportedintraocularlensforthecorrectionofmoderate-to-highmyopia:One-yearresultsofamulticentereuropeanstudy.Ophthalmology116:1314-1321,20097)LandeszM,WorstJG,vanRijG:Long-termresultsofcorrectionofhighmyopiawithanirisclawphakicintraoularlens.JRefractSurg16:310-316,20008)SaxenaR,BoekhoornSS,MulderPGetal:Long-termfollow-upofendothelialcellchangeafterArtisanphakicintraocularlensimplantation.Ophthalmology115:608-613,20089)Perez-SantonjaJJ,IradierMT,MenitesdelCastilloJMetal:Chronicsubclinicalinflammationinphakiceyeswithintraocularlensestocorrectmyopia.JCataractRefractSurg22:183-187,199610)AlioJL,delaHozF,IsmalMM:Sublclinicalinflammatoryreactioninducedbyphakicanteriorchamberlensesforthecorrectionofhighmyopia.OcularImmunolandInflam1:219-223,199311)IgarashiA,KamiyaK,ShimizuKetal:Visualperformanceafterimplantablecollamerlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomieusisforhighmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,200912)AlfonsoJF,PalaciosA,Montes-MicoR:MyopicphakicSTAARcollamerposteriorchamberintraocularlensesforkeratoconus.JRefractSurg24:867-874,200813)中村友昭:特殊例へのphakicIOLの応用.IOL&RS22:312-316,2008ている利点がある.一方,phakicIOLは内眼手術であるため,白内障同様,起こりうる合併症は避けられない.特に視力予後に影響する眼内炎は100%予防することは不可能である.また,多くのphakicIOLでは眼圧上昇を防ぐために,前房深度が十分ある症例でも予防的な虹彩切開が行われる.アルゴンレーザーによる周辺虹彩切開術後の角膜内皮障害が注目されるなか,phakicIOL挿入例における,これら一連の操作による侵襲は無視できない.最後に,phakicIOLのなかで前房型と後房型があり,どちらに将来性があるかということが議論されている.術後合併症が危惧されるタイプは,すでに製造中止となり,今後は,ここで論じた3つのphakicIOLが中心になるであろう.前房と後房といった異なる部位への挿入で,どちらか1つに統括されるというより,両者の適応がさらに明らかになってくると思われる.1つの例が,近年注目されている円錐角膜例へのphakicIOL挿入である.後房型で角膜から距離があり,レンズ回転が少なくトーリック機能が活用できるICLTMが挿入され,良好な結果が得られている12,13).特殊例ではあるが,このように,症例によってレンズの選択が異なる可能性があり,術者が各レンズの特性を理解して選択していくことになるだろう.おわりにPhakicIOLは,屈折矯正手術に欠かせない手技である.将来ビジョンとして,わが国においては,ゆっくり慎重に導入されていくであろう.ただし,1例でも重篤な合併症が報告されると,多くの眼科医がphakicIOLに否定的なイメージをもち,適応,適応外にかかわらず挿入を断念することが予想される.欧米主導の屈折矯正手術について,そのままわが国に取り入れる必要はないが,間違いなく将来の眼科手術において重要なポジションを占めるであろう.この技術が,単なる屈折矯正のみでなく,他の眼疾患の治療法になる可能性は否定できない.すでに白内障手術症例における球面度数や乱視矯正として,phakicIOLが偽水晶体眼(pseudophakia)に挿入されているが,前房,後房にレンズを挿入することに