0910-1810/10/\100/頁/JCOPYII問診の鑑別1. 主訴「運転していてぼける」「近くにピントが合わない」「目に膜が張ったようだ」「目の前にかすんだものが動く」「一瞬,真っ暗にかすんだ」「かすんで何も見えない」など「眼のかすみ」の訴えも程度や状況などさまざまである.患者は各人各様の表現で症状を訴えてくるので,これを客観的な表現に変える必要があるが,「眼のかすみ」は,霧視あるいは視力低下に相当することが多いものの,色覚異常,視野異常,飛蚊症,複視などを患者は感じながら「かすみ」と表現していることもある.「かすむ」という表現をどのような眼科的な表現に属するのか絞り込む必要がある.眼科の多い主訴を表2 に大別してみるが,「眼のかすみ」は「視力障害」という包括的な眼科用語に表現されるので,そのなかのどのような障害を表現しようとしてはじめに「眼のかすみ」は眼科診療において最も頻度の高い主訴である.その原因は,屈折矯正の問題からオキュラーサーフェス,角膜,中間透光体,眼底,視神経,大脳皮質視覚野までの視覚伝達系,つまり眼科領域のすべてにわたる.さらに視覚野以降の高次連合皮質系の異常や不定愁訴あるいは心因性視力障害や詐病も鑑別の対象になる.そのうえ,救急対応が必要なものも少なくない.重大な見逃しを予防して適切に診断するためには,きちんとした問診,そして鑑別診断のための検査項目や見逃してはいけない重要疾患の整理が大切である.本稿では,「眼のかすみ」を訴える患者を初診して各組織別の疾患を具体的に検討していく前に注意したい事項について整理する.I基本戦略筆者の鑑別のための基本戦略を表1 に示す.特に救急疾患を鑑別するために,急激発症か,両眼性か,重篤な視力障害か,瞳孔異常を伴っているかは,大切な所見である.そして,救急疾患を鑑別したら,部位別の器質的疾患の異常の検索,さらに中枢性疾患や心因性疾患の鑑別に進む.その際に,年齢や性差や外傷などの原因による頻度の高いものと低いものを意識する.最近の光干渉断層計(OCT)や角膜形状解析法の進歩により,器質的疾患の検出はしやすくなった.( 3 ) 141* Akito Hirakata:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平形明人:〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):141.149,2010眼のかすみ:鑑別診断の基本戦略Basic Approach to Blurred Vision平形明人*表 1「眼のかすみ」鑑別に対する基本戦略1.克明な問診2.瞳孔の観察(特にRAPD 陽性か陰性か)3.一過性と持続性の視力低下を区別4.発症状態で区別:急激か緩徐か5.両眼性か片眼性かを区別6.性差,年齢,原因(手術後,外傷など)による発症頻度を意識7. 原因不明例では,重大疾患の見落としの可能性があり,経過観察して再検討RAPD:相対的瞳孔求心路障害.142あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 4 )えて来院することもある.視力障害などに眼痛,頭痛などの随伴症状がないかを聞き出す.特に有痛性か無痛性かは鑑別疾患を大別するのに必要である.高血圧や糖尿病など全身疾患や手術歴を含む眼疾患の既往歴,家族歴などは,特記すべきものがなくても確認する.3. 小児や発達障害者乳幼児はもちろんであるが,小児や発達障害者の視力障害は本人が表現できず,両親などからの訴えによることが多い.行動パターンや流涙,瞳孔の異常,眼位などの視覚障害に関連する他覚的所見を丁寧に聴取する.先天緑内障などは流涙所見が気になって受診していることもある.両親は視力障害に繋がる所見とは思わないで,眼科医に話さないこともある.視力障害に繋がるヒントが隠れていないか,重篤な疾患を見逃さないように,目つきやまぶしがったりする仕種,目を擦ったりするなどの行動パターンについても確認する.もちろん全身状態や遺伝疾患,出産状態を含む既往歴の把握は大切である.III視力障害に対する基本的な眼科検査視力障害は,視路のすべての病変が対象になるので,それぞれの症状に関連する適切な検査の選択が大切になる.眼科でルーチンに行う検査が,視力障害の検査である.つまり,眼位,眼球運動,瞳孔反応,視力,眼圧,細隙灯検査,眼底検査である.これらの検査で,眼球内の器質的異常が診断できれば容易であるが,形態異常がわかりにくいものには,涙液異常などの分泌機能異常や視神経より中枢の疾患あるいは調節,輻湊,開散などの機能異常に起因していることがあり,涙液検査,色覚検いるのか問診で分類する(表3).つまり視力障害に関連する疾患は非常に多岐にわたるので,問診で症状を絞り込むことが的確な検査や疾患予測のために重要である.2. 左右眼の区別,経過,既往歴,家族歴主訴が,いつ,どちらの眼あるいは両眼か,どのような状況で始まったか,どのように変化しているかを聞く(表4).患者は左右眼を意識していないことも多い.両眼性の場合,左右同時に発症したのか,時間差があるのか.視力低下の程度はどのくらいで,それが進行性か固定されているかは鑑別に重要である.発症が急激か緩徐か,視力低下がどの程度かは救急疾患を鑑別するために,非常に大切である.急に視力低下を自覚したと訴えてきても,ある日,片目をつぶったときに,たまたま片眼の「かすみ」に気づき,「突然見えなくなった」と訴表 2眼科の主訴1.視力障害(*)2.眼痛異物感,灼熱感,深部痛,頭痛,光過敏痛,眼球運動痛3.分泌異常涙液異常(過多,ドライ),漿液性,粘性,膿性4.外見異常充血腫瘤眼位異常眼瞼異常眼球陥凹,突出瞳孔異常(*は表3 参照)表 4視力障害の問診の注意項目1.一時的か持続性か2.発症状態;急性か緩徐か3.片眼性か両眼性か4.程度(重篤度,近見時か遠見時か)5.進行性か固定か6.随伴症状(眼痛など)7.全身疾患8.既往(手術歴,治療歴)表 3主訴「視力障害」の内訳1.視力低下a.近見b.遠見2.色覚異常a.遺伝性b.後天性3.視野障害a.片眼b.両眼性4.暗順応障害5.虹視症6.飛蚊症7.光視症a.片眼b.両眼8.変視症(小字症または大字症含む)a.中心窩の異常9.皮質盲10.知覚盲(perceptual blindness)11.複視a.片眼性b.両眼性 1)近見 2)遠見 3)眼位や頭位による変動(5) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010143の検査で最も大切である.進行した角膜混濁,外傷による前房出血,緑内障発作,網膜中心動脈閉塞症,内眼筋麻痺を合併する動眼神経麻痺,視神経炎などの主要な眼科救急疾患は,瞳孔を観察するだけで異常に気づく.対光反射をみることは,病変部位の推定とともに,急激に視力低下した際の救急疾患の鑑別に必要である.左右眼で視力障害に差があるときに,交互点滅対光反応試験(swinging flashlight test)を行うと,異常が発見しやすい.これが認められると相対的瞳孔求心路障害(relativeafferent pupillary defect:RAPD)陽性とする.RAPD 陽性は視神経炎などの視神経障害の鑑別が目的であるが,広範囲な網膜病変でも陽性になる.査,視野検査,あるいは電気生理学的検査やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査などの適応を検討する.最近の画像解析の進歩は目覚ましく,角膜形状解析,OCTによる黄斑部病変の描出,視神経線維層や乳頭解析による緑内障の解析など,器質的疾患の検出や病態鑑別のための検査精度は向上している.1.瞳孔の観察瞳孔検査は,緊急度や重症度を鑑別するために,必ず注目しなければならない.正常では瞳孔の形は円形で大きさも左右差がない.瞳孔を観察して,不整形であったり,大きさや形,対光反射に左右差があるかは視力障害a.眼底写真b.Humphrey FDT スクリーナー検査Total Deviation Total Deviation30° 30°図 1眼底に異常のない視力障害の鑑別例61 歳,女性.数カ月前からの左眼視力障害で来院.視力は右眼(1.0),左眼(0.4).眼底に視力障害の原因となる異常はみられない.Humphrey FDT(Frequency Doubling Technology)スクリーナーで両耳側半盲が疑われ,MRI 検査で下垂体腺腫が見つかった.144あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 6 )の既往を示唆する.一過性視力障害のなかで,緑内障発作が自然寛解した場合などは,狭隅角眼の水晶体上に虹彩色素が沈着していたり,軽度の虹彩後癒着がみられることもある.白内障でも後.下白内障が急に膨潤白内障に進行した場合などは,急激な視力低下で来院することがある.前部硝子体中の細胞成分や混濁の有無を観察することも忘れてはならない.眼内手術の既往のない眼の前部硝子体中に細胞成分が存在した場合は,ぶどう膜炎や網膜裂孔などの眼底病変の可能性が高い(Shafer’ssign).散瞳後に水晶体の形状や位置異常,白内障の状態,硝子体混濁を観察する.前置レンズを使用すると,後部硝子体の状態や黄斑疾患の判定などの詳細な眼底検査が可能になる.4. 散瞳後の眼底検査倒像眼底検査で眼底観察して,眼底全体の器質的疾患の有無を観察する.特に乳頭の形態と色調,黄斑領域,網膜血管異常には注意する.高齢者の眼底検査では後部硝子体.離(PVD)の状態を意識して観察すると,黄斑疾患や網膜裂孔などの見逃しが少なくなる.網膜表層の血管や神経線維層の観察にはグリーン光での眼底検査やred free 写真が病変の検出に有用である(図2).糖尿病網膜症の眼底検査は眼科医ならば必ず依頼されるが,大出血や白斑がないと病態が進行していても異常2. 視力検査屈折異常による視力低下を鑑別する.屈折検査の度数や乱視軸,左右差にも気を配る.矯正視力が良好でも乱視が強いものや斜乱視のものは,屈折に関係する病態が鑑別となる.視力を説明する眼内の器質疾患が見つからない場合に,視野欠損を伴っていることがある(図1).視野検査をして中枢性疾患の鑑別が必要なことがある.小児ではLandolt 環による視力測定ができないこともあり,optokinetic nystagmus(OKN),preferentiallooking(PL)法,visual evoked potential(VEP),点視力検査,絵視力検査などを利用して視力を推定する.3. 細隙灯検査眼瞼縁,涙液状態,角膜の形状や混濁,前房の炎症所見,水晶体の位置,水晶体や硝子体の混濁,さらに視神経乳頭を含む眼底異常はすべて視力障害の鑑別点になるので,器質的異常の有無を観察する.ドライアイや結膜弛緩による涙液異常が視力障害の主訴で受診することもあるので,角膜上皮や結膜異常にも気をつける.円錐角膜の初期は角膜実質深層の線状皺襞が出現するが見逃されやすい.近年は角膜屈折矯正手術も普及して,わずかな角膜形状異常が視力障害に繋がっていることもある.斜乱視などの屈折異常で中間透光体や眼底に異常がみられず視力障害を感じている場合,角膜形状解析が鑑別に有用である.虹彩の脱色素は虹彩炎図 2グリーンフィルターの眼底検査網膜表層の血管や神経線維層の観察にはグリーン光での眼底検査やred free 写真が病変の検出に有用である.(7) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010145なしとされてしまっていることに遭遇することがある.糖尿病網膜症が依然として主要な失明原因である理由の一つは,視力低下が病態の進行に必ずしも平行しないために患者の受診時期が遅れていることであるが,眼科医による眼底検査の精度も問われている.若年者では,出血が目立たなくても,網膜内異常血管(intraretinalmicrovascular abnormality:IRMA)や広範囲な無灌流領域を伴う前増殖期や乳頭上新生血管(neovascularizationon disc:NVD)を有する増殖期に至っていることが少なくない(図3).糖尿病網膜症は糖尿病罹病期間が最も有意な危険因子であるので,たとえば,10 年以上も糖尿病コントロールが不良な患者を診察する場合は,何らかの網膜症がないはずはないと疑って眼底検査をすることが必要である.現在は視力障害の主訴をもたないが,将来,重篤な視力障害の危険因子のある患者を診察する場合に,病気の存在を疑って診察することと,患者に危険因子を含む今後の注意を説明することが大切である.図 3若年者の前増殖型糖尿病網膜症の一例22 歳,女性.糖尿病歴は中学時代からで,現在のHbA1C は13%.視力は(1.2)で眼底写真を示す.すでにIRMA や多数の軟性白斑があるが目立たない.これを見逃すと重篤な視力障害の予後に繋がる.重篤な視力障害の危険因子のある患者を診察する場合に,病気の存在を疑って診察することが大切である.図 4判定しにくい標的黄斑症の一例60 歳,男性.従来,両眼とも視力(0.4)と不良であった.最近,「かすみ」が強くなって,近医で原因不明で紹介される.視力は右眼(0.3),左眼(0.2).眼底写真とOCT 所見を示す.眼底写真でわずかな標的黄斑を認めるが,あまり顕著でない.しかし,OCT で黄斑の菲薄化を認める.視野検査で中心暗点,局所ERG で黄斑部位の異常を認めた.146あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 8 )(Watzke-Allen sign).また,視神経低形成などの視神経異常や緑内障程度と視力障害との関係を分析するために,OCT などの神経線維層の解析は有用となっている(図6).以上のように,眼底検査は,検眼鏡検査に加えて,red free,赤外光写真,OCT 眼底自発蛍光(FAF),フルオレセイン(FA)あるいはインドシアニングリーン(IA)蛍光眼底造影検査などで病態の把握がしやすくなった.さらに機能検査としての視野検査法や網膜電位図(ERG)なども進歩した.視神経疾患や中枢性疾患,心因性疾患などの鑑別に有用である.IV一時的か持続性か視力障害を鑑別するために,一過性視力障害か持続性か,痛みの合併などで分類することは有用である.Wills Eye Manual1)からの抜粋を表5 に示す.一過性あるいは突然発症の病態は,血管閉塞に関与するものが多い.外傷後の視力低下は,眼外傷〔穿孔性,非穿孔性,化学外傷,物理的外傷(紫外線,放射線など)〕以外に,頭部外傷,その他の部位の外傷(Purtscher 網膜症など)からの影響がある.黄斑ジストロフィなどの標的黄斑の初期は見逃されやすい.両眼性の軽度視力障害の場合,黄斑ジストロフィを念頭において,黄斑の色調のむら,左右差に気をつける.グリーン光での双眼倒像鏡で異常が観察しやすくなる.OCT では黄斑の菲薄化や層構造異常が観察される(図4).若年男性で中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の既往があって,すでに網膜復位が得られている場合,「かすみや暗点が軽快しない」という訴えで受診することもある.眼底検査で黄斑異常が見つけにくいことがあるが,黄斑色素のむらなどを疑ったら,OCT でのIS/OS line(視細胞内節外節境界部)や色素上皮層の異常,あるいは自発蛍光写真(fundus autofluorescence:FDF)の過蛍光がCSC の既往を示唆することもある(図5).片眼性の変視症(歪視症,小字症など)や視力低下を有する場合,最も頻度の高いのが黄斑を侵す病態である.黄斑浮腫,黄斑円孔,黄斑上膜などの鑑別や判定に,中心窩の形態と反射を確認する.最近は,90D やSuper-Field レンズなどの非接触型前置レンズが使いやすくなり,細隙灯顕微鏡による眼底検査が便利である.その際,観察光をスリットにして中心窩を照らして,スリット光の中央が切れて見えるか,くびれて見えるか,曲がって見えるかなどの自覚所見を表現してもらうことも, 小さい黄斑円孔や偽円孔の鑑別に有用であるa b c図 5中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の既往を疑う一例a:49 歳,男性.左眼眼底写真.視力(1.2)であるが,中心視野の「かすみ」を訴えて来院.黄斑は復位している.b:FAF で黄斑の過蛍光が検出される.c:OCT で網膜は復位しているが,外層IS/OS の不整がみられる.あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010147V急激に発症する視力低下の鑑別急激な視力低下をきたすものは,早急な対応を必要とするものが多い.文献2,3 を参考に作成したフローチャートの一例を図7 に示す.VI両眼の急激な視力低下両眼同時に急激に発症する視力低下の原因として,全身性疾患に起因する炎症(原田病,サルコイドーシス,Behcet 病,糖尿病,転移性眼内炎など),薬物中毒による視神経障害(クロラムフェニコール,メチルアルコー( 9 )図 6視神経低形成の一例7 歳,女児.数年前からの左眼の暗さを気にして受診.両眼とも視力(1.2).眼底検査で左視神経乳頭が軽度の蒼白がある以外に異常所見が得られず.視神経を含む頭部MRI でも異常なし.OCT 検査で左視神経線維層の菲薄化が検出された.148あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010ル中毒など),鼻性視神経炎,角膜の物理的損傷(電気性眼炎,角膜上皮.離など),頭蓋内病変(脳腫瘍,水頭症,一過性虚血発作など)などのことが多い.ほとんどの片眼性視力低下を発症する眼科疾患は両眼性視力低下の原因になり得るが,片眼が発症してから時間差をおいて他眼に発症することが多い.VII緩徐に発症する視力低下の鑑別眼科基本検査である眼位,眼球運動,対光反射,視力検査,細隙灯検査,眼圧検査,眼底検査で器質疾患を検出する.最近のOCT などの画像検査の進歩により,微妙な黄斑疾患などの検出感度が向上した.視野検査,電気生理学的検査,CT・MRI などの画像検査は眼底などに異常が認められないときの鑑別に必要となる.心因性視力障害などの診断はなかなかむずかしいことが多く,原因不明のときは再検査を含む経過観察を行うなどして原因疾患の見逃しに注意する.おわりに視力障害の鑑別に対して,注意したい検査や重要疾患を見逃さないためのいくつかの注意点を記載した.「かすみ」の訴えに対する鑑別診断のアプローチ法は,主訴に対する問診を丁寧に行い,救急疾患を念頭においた瞳孔の観察,視力検査による重篤度の判定,時間経過,年齢や性差による疾患頻度を意識して,角膜から眼底までの部位別の器質異常を丁寧に鑑別していくのが基本である.一方で中枢性,遺伝性,代謝異常,薬物摂取に伴うものなどは両眼性に発症することが多いので,既往症や全身異常の背景にも注意する.文献1) Differential diagnosis of ocular symptoms:in Wills Eye(10)表 5視力低下の分類:一時的か持続性か1.一時的視力低下〔視力は24 時間以内(たいていは1 時間以内)に回復〕高頻度数秒(両眼性が多い):乳頭浮腫数分:一過性黒内障(一過性脳虚血発作;片側性),椎骨脳底動脈循環不全(両側性)10.60 分:片頭痛(続発する頭痛を併発することあり)低頻度 切迫型網膜中心静脈閉塞症,虚血性視神経症,眼虚血症候群(頸動脈疾患),緑内障,血圧の急激な変動,中枢神経(CNS)疾患,視神経乳頭ドルーゼン,巨細胞動脈炎2.持続性視力低下a)突然,無痛性高頻度 網膜動脈あるいは網膜静脈閉塞症,虚血性視神経症,硝子体出血,網膜.離,視神経炎(しばしば眼球運動痛を併発),既存する片眼の視力障害をたまたま発見低頻度その他の網膜疾患や中枢神経系疾患(脳溢血など),メタノール中毒b)緩徐な視力低下,無痛性(数週間,数カ月,数年かかって進行)高頻度白内障,屈折異常,開放隅角緑内障,慢性網膜疾患(加齢黄斑変性,糖尿病網膜症など)低頻度慢性の角膜疾患(角膜ジストロフィなど),視神経症・視神経萎縮(中枢神経腫瘍など)c)緩徐な視力低下,有痛性急性閉塞隅角緑内障,視神経炎(眼球運動痛),ぶどう膜炎,眼内炎,角膜水腫(円錐角膜)3.外傷後の視力低下 眼瞼腫脹,角膜障害,前房出血,眼球破裂,外傷性白内障,水晶体位置異常,網膜振盪症,網膜.離,網膜視神経症,中枢神経障害注意:説明困難な心因性あるいは詐病なども鑑別のために念頭におくこと(文献1 より)あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010149Manual. Office and Emergency Room Diagnosis andTreatment of Eye Disease:4th ed. Kunimoto DY, KanitkarKD, Makar MS(ed), p1-2, Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia, 20042) 症候からの診断:眼科学(II).丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦,田野保雄(編),p814,文光堂,20023) 小西美奈子:突然の視力低下(片眼性).今日の眼疾患治療指針 第2 版,田野保雄,樋田哲夫(総編),p4,医学書院,2007(11)眼圧検査角膜浮腫皮質盲・ヒステリー外傷性視神経損傷心因性外傷の既往細隙灯顕微鏡検査(眼瞼,結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体)眼底検査(硝子体,網膜,乳頭)急性緑内障発作眼球萎縮角膜疾患虚血性視神経症急性球後視神経炎(MS,特発性,ウイルス性)眼窩蜂巣炎眼窩先端部症候群脳腫瘍硝子体混濁硝子体出血網脈絡膜炎網膜動脈閉塞症網膜静脈閉塞症黄斑出血・変性黄斑.離・滲出乳頭炎角膜疾患虹彩毛様体炎前房出血水晶体疾患対光反射(RAPD)眼位・眼球運動矯正視力検査屈折検査不良陽性異常あり異常あり異常ありあり良好陰性異常なし異常なし異常なしなしMS:多発性硬化症図 7急激に発症する視力障害(文献2 と3 を参照)