‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼のかすみ:鑑別診断の基本戦略

2010年2月28日 日曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYII問診の鑑別1. 主訴「運転していてぼける」「近くにピントが合わない」「目に膜が張ったようだ」「目の前にかすんだものが動く」「一瞬,真っ暗にかすんだ」「かすんで何も見えない」など「眼のかすみ」の訴えも程度や状況などさまざまである.患者は各人各様の表現で症状を訴えてくるので,これを客観的な表現に変える必要があるが,「眼のかすみ」は,霧視あるいは視力低下に相当することが多いものの,色覚異常,視野異常,飛蚊症,複視などを患者は感じながら「かすみ」と表現していることもある.「かすむ」という表現をどのような眼科的な表現に属するのか絞り込む必要がある.眼科の多い主訴を表2 に大別してみるが,「眼のかすみ」は「視力障害」という包括的な眼科用語に表現されるので,そのなかのどのような障害を表現しようとしてはじめに「眼のかすみ」は眼科診療において最も頻度の高い主訴である.その原因は,屈折矯正の問題からオキュラーサーフェス,角膜,中間透光体,眼底,視神経,大脳皮質視覚野までの視覚伝達系,つまり眼科領域のすべてにわたる.さらに視覚野以降の高次連合皮質系の異常や不定愁訴あるいは心因性視力障害や詐病も鑑別の対象になる.そのうえ,救急対応が必要なものも少なくない.重大な見逃しを予防して適切に診断するためには,きちんとした問診,そして鑑別診断のための検査項目や見逃してはいけない重要疾患の整理が大切である.本稿では,「眼のかすみ」を訴える患者を初診して各組織別の疾患を具体的に検討していく前に注意したい事項について整理する.I基本戦略筆者の鑑別のための基本戦略を表1 に示す.特に救急疾患を鑑別するために,急激発症か,両眼性か,重篤な視力障害か,瞳孔異常を伴っているかは,大切な所見である.そして,救急疾患を鑑別したら,部位別の器質的疾患の異常の検索,さらに中枢性疾患や心因性疾患の鑑別に進む.その際に,年齢や性差や外傷などの原因による頻度の高いものと低いものを意識する.最近の光干渉断層計(OCT)や角膜形状解析法の進歩により,器質的疾患の検出はしやすくなった.( 3 ) 141* Akito Hirakata:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平形明人:〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):141.149,2010眼のかすみ:鑑別診断の基本戦略Basic Approach to Blurred Vision平形明人*表 1「眼のかすみ」鑑別に対する基本戦略1.克明な問診2.瞳孔の観察(特にRAPD 陽性か陰性か)3.一過性と持続性の視力低下を区別4.発症状態で区別:急激か緩徐か5.両眼性か片眼性かを区別6.性差,年齢,原因(手術後,外傷など)による発症頻度を意識7. 原因不明例では,重大疾患の見落としの可能性があり,経過観察して再検討RAPD:相対的瞳孔求心路障害.142あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 4 )えて来院することもある.視力障害などに眼痛,頭痛などの随伴症状がないかを聞き出す.特に有痛性か無痛性かは鑑別疾患を大別するのに必要である.高血圧や糖尿病など全身疾患や手術歴を含む眼疾患の既往歴,家族歴などは,特記すべきものがなくても確認する.3. 小児や発達障害者乳幼児はもちろんであるが,小児や発達障害者の視力障害は本人が表現できず,両親などからの訴えによることが多い.行動パターンや流涙,瞳孔の異常,眼位などの視覚障害に関連する他覚的所見を丁寧に聴取する.先天緑内障などは流涙所見が気になって受診していることもある.両親は視力障害に繋がる所見とは思わないで,眼科医に話さないこともある.視力障害に繋がるヒントが隠れていないか,重篤な疾患を見逃さないように,目つきやまぶしがったりする仕種,目を擦ったりするなどの行動パターンについても確認する.もちろん全身状態や遺伝疾患,出産状態を含む既往歴の把握は大切である.III視力障害に対する基本的な眼科検査視力障害は,視路のすべての病変が対象になるので,それぞれの症状に関連する適切な検査の選択が大切になる.眼科でルーチンに行う検査が,視力障害の検査である.つまり,眼位,眼球運動,瞳孔反応,視力,眼圧,細隙灯検査,眼底検査である.これらの検査で,眼球内の器質的異常が診断できれば容易であるが,形態異常がわかりにくいものには,涙液異常などの分泌機能異常や視神経より中枢の疾患あるいは調節,輻湊,開散などの機能異常に起因していることがあり,涙液検査,色覚検いるのか問診で分類する(表3).つまり視力障害に関連する疾患は非常に多岐にわたるので,問診で症状を絞り込むことが的確な検査や疾患予測のために重要である.2. 左右眼の区別,経過,既往歴,家族歴主訴が,いつ,どちらの眼あるいは両眼か,どのような状況で始まったか,どのように変化しているかを聞く(表4).患者は左右眼を意識していないことも多い.両眼性の場合,左右同時に発症したのか,時間差があるのか.視力低下の程度はどのくらいで,それが進行性か固定されているかは鑑別に重要である.発症が急激か緩徐か,視力低下がどの程度かは救急疾患を鑑別するために,非常に大切である.急に視力低下を自覚したと訴えてきても,ある日,片目をつぶったときに,たまたま片眼の「かすみ」に気づき,「突然見えなくなった」と訴表 2眼科の主訴1.視力障害(*)2.眼痛異物感,灼熱感,深部痛,頭痛,光過敏痛,眼球運動痛3.分泌異常涙液異常(過多,ドライ),漿液性,粘性,膿性4.外見異常充血腫瘤眼位異常眼瞼異常眼球陥凹,突出瞳孔異常(*は表3 参照)表 4視力障害の問診の注意項目1.一時的か持続性か2.発症状態;急性か緩徐か3.片眼性か両眼性か4.程度(重篤度,近見時か遠見時か)5.進行性か固定か6.随伴症状(眼痛など)7.全身疾患8.既往(手術歴,治療歴)表 3主訴「視力障害」の内訳1.視力低下a.近見b.遠見2.色覚異常a.遺伝性b.後天性3.視野障害a.片眼b.両眼性4.暗順応障害5.虹視症6.飛蚊症7.光視症a.片眼b.両眼8.変視症(小字症または大字症含む)a.中心窩の異常9.皮質盲10.知覚盲(perceptual blindness)11.複視a.片眼性b.両眼性 1)近見 2)遠見 3)眼位や頭位による変動(5) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010143の検査で最も大切である.進行した角膜混濁,外傷による前房出血,緑内障発作,網膜中心動脈閉塞症,内眼筋麻痺を合併する動眼神経麻痺,視神経炎などの主要な眼科救急疾患は,瞳孔を観察するだけで異常に気づく.対光反射をみることは,病変部位の推定とともに,急激に視力低下した際の救急疾患の鑑別に必要である.左右眼で視力障害に差があるときに,交互点滅対光反応試験(swinging flashlight test)を行うと,異常が発見しやすい.これが認められると相対的瞳孔求心路障害(relativeafferent pupillary defect:RAPD)陽性とする.RAPD 陽性は視神経炎などの視神経障害の鑑別が目的であるが,広範囲な網膜病変でも陽性になる.査,視野検査,あるいは電気生理学的検査やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査などの適応を検討する.最近の画像解析の進歩は目覚ましく,角膜形状解析,OCTによる黄斑部病変の描出,視神経線維層や乳頭解析による緑内障の解析など,器質的疾患の検出や病態鑑別のための検査精度は向上している.1.瞳孔の観察瞳孔検査は,緊急度や重症度を鑑別するために,必ず注目しなければならない.正常では瞳孔の形は円形で大きさも左右差がない.瞳孔を観察して,不整形であったり,大きさや形,対光反射に左右差があるかは視力障害a.眼底写真b.Humphrey FDT スクリーナー検査Total Deviation Total Deviation30° 30°図 1眼底に異常のない視力障害の鑑別例61 歳,女性.数カ月前からの左眼視力障害で来院.視力は右眼(1.0),左眼(0.4).眼底に視力障害の原因となる異常はみられない.Humphrey FDT(Frequency Doubling Technology)スクリーナーで両耳側半盲が疑われ,MRI 検査で下垂体腺腫が見つかった.144あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 6 )の既往を示唆する.一過性視力障害のなかで,緑内障発作が自然寛解した場合などは,狭隅角眼の水晶体上に虹彩色素が沈着していたり,軽度の虹彩後癒着がみられることもある.白内障でも後.下白内障が急に膨潤白内障に進行した場合などは,急激な視力低下で来院することがある.前部硝子体中の細胞成分や混濁の有無を観察することも忘れてはならない.眼内手術の既往のない眼の前部硝子体中に細胞成分が存在した場合は,ぶどう膜炎や網膜裂孔などの眼底病変の可能性が高い(Shafer’ssign).散瞳後に水晶体の形状や位置異常,白内障の状態,硝子体混濁を観察する.前置レンズを使用すると,後部硝子体の状態や黄斑疾患の判定などの詳細な眼底検査が可能になる.4. 散瞳後の眼底検査倒像眼底検査で眼底観察して,眼底全体の器質的疾患の有無を観察する.特に乳頭の形態と色調,黄斑領域,網膜血管異常には注意する.高齢者の眼底検査では後部硝子体.離(PVD)の状態を意識して観察すると,黄斑疾患や網膜裂孔などの見逃しが少なくなる.網膜表層の血管や神経線維層の観察にはグリーン光での眼底検査やred free 写真が病変の検出に有用である(図2).糖尿病網膜症の眼底検査は眼科医ならば必ず依頼されるが,大出血や白斑がないと病態が進行していても異常2. 視力検査屈折異常による視力低下を鑑別する.屈折検査の度数や乱視軸,左右差にも気を配る.矯正視力が良好でも乱視が強いものや斜乱視のものは,屈折に関係する病態が鑑別となる.視力を説明する眼内の器質疾患が見つからない場合に,視野欠損を伴っていることがある(図1).視野検査をして中枢性疾患の鑑別が必要なことがある.小児ではLandolt 環による視力測定ができないこともあり,optokinetic nystagmus(OKN),preferentiallooking(PL)法,visual evoked potential(VEP),点視力検査,絵視力検査などを利用して視力を推定する.3. 細隙灯検査眼瞼縁,涙液状態,角膜の形状や混濁,前房の炎症所見,水晶体の位置,水晶体や硝子体の混濁,さらに視神経乳頭を含む眼底異常はすべて視力障害の鑑別点になるので,器質的異常の有無を観察する.ドライアイや結膜弛緩による涙液異常が視力障害の主訴で受診することもあるので,角膜上皮や結膜異常にも気をつける.円錐角膜の初期は角膜実質深層の線状皺襞が出現するが見逃されやすい.近年は角膜屈折矯正手術も普及して,わずかな角膜形状異常が視力障害に繋がっていることもある.斜乱視などの屈折異常で中間透光体や眼底に異常がみられず視力障害を感じている場合,角膜形状解析が鑑別に有用である.虹彩の脱色素は虹彩炎図 2グリーンフィルターの眼底検査網膜表層の血管や神経線維層の観察にはグリーン光での眼底検査やred free 写真が病変の検出に有用である.(7) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010145なしとされてしまっていることに遭遇することがある.糖尿病網膜症が依然として主要な失明原因である理由の一つは,視力低下が病態の進行に必ずしも平行しないために患者の受診時期が遅れていることであるが,眼科医による眼底検査の精度も問われている.若年者では,出血が目立たなくても,網膜内異常血管(intraretinalmicrovascular abnormality:IRMA)や広範囲な無灌流領域を伴う前増殖期や乳頭上新生血管(neovascularizationon disc:NVD)を有する増殖期に至っていることが少なくない(図3).糖尿病網膜症は糖尿病罹病期間が最も有意な危険因子であるので,たとえば,10 年以上も糖尿病コントロールが不良な患者を診察する場合は,何らかの網膜症がないはずはないと疑って眼底検査をすることが必要である.現在は視力障害の主訴をもたないが,将来,重篤な視力障害の危険因子のある患者を診察する場合に,病気の存在を疑って診察することと,患者に危険因子を含む今後の注意を説明することが大切である.図 3若年者の前増殖型糖尿病網膜症の一例22 歳,女性.糖尿病歴は中学時代からで,現在のHbA1C は13%.視力は(1.2)で眼底写真を示す.すでにIRMA や多数の軟性白斑があるが目立たない.これを見逃すと重篤な視力障害の予後に繋がる.重篤な視力障害の危険因子のある患者を診察する場合に,病気の存在を疑って診察することが大切である.図 4判定しにくい標的黄斑症の一例60 歳,男性.従来,両眼とも視力(0.4)と不良であった.最近,「かすみ」が強くなって,近医で原因不明で紹介される.視力は右眼(0.3),左眼(0.2).眼底写真とOCT 所見を示す.眼底写真でわずかな標的黄斑を認めるが,あまり顕著でない.しかし,OCT で黄斑の菲薄化を認める.視野検査で中心暗点,局所ERG で黄斑部位の異常を認めた.146あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 8 )(Watzke-Allen sign).また,視神経低形成などの視神経異常や緑内障程度と視力障害との関係を分析するために,OCT などの神経線維層の解析は有用となっている(図6).以上のように,眼底検査は,検眼鏡検査に加えて,red free,赤外光写真,OCT 眼底自発蛍光(FAF),フルオレセイン(FA)あるいはインドシアニングリーン(IA)蛍光眼底造影検査などで病態の把握がしやすくなった.さらに機能検査としての視野検査法や網膜電位図(ERG)なども進歩した.視神経疾患や中枢性疾患,心因性疾患などの鑑別に有用である.IV一時的か持続性か視力障害を鑑別するために,一過性視力障害か持続性か,痛みの合併などで分類することは有用である.Wills Eye Manual1)からの抜粋を表5 に示す.一過性あるいは突然発症の病態は,血管閉塞に関与するものが多い.外傷後の視力低下は,眼外傷〔穿孔性,非穿孔性,化学外傷,物理的外傷(紫外線,放射線など)〕以外に,頭部外傷,その他の部位の外傷(Purtscher 網膜症など)からの影響がある.黄斑ジストロフィなどの標的黄斑の初期は見逃されやすい.両眼性の軽度視力障害の場合,黄斑ジストロフィを念頭において,黄斑の色調のむら,左右差に気をつける.グリーン光での双眼倒像鏡で異常が観察しやすくなる.OCT では黄斑の菲薄化や層構造異常が観察される(図4).若年男性で中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の既往があって,すでに網膜復位が得られている場合,「かすみや暗点が軽快しない」という訴えで受診することもある.眼底検査で黄斑異常が見つけにくいことがあるが,黄斑色素のむらなどを疑ったら,OCT でのIS/OS line(視細胞内節外節境界部)や色素上皮層の異常,あるいは自発蛍光写真(fundus autofluorescence:FDF)の過蛍光がCSC の既往を示唆することもある(図5).片眼性の変視症(歪視症,小字症など)や視力低下を有する場合,最も頻度の高いのが黄斑を侵す病態である.黄斑浮腫,黄斑円孔,黄斑上膜などの鑑別や判定に,中心窩の形態と反射を確認する.最近は,90D やSuper-Field レンズなどの非接触型前置レンズが使いやすくなり,細隙灯顕微鏡による眼底検査が便利である.その際,観察光をスリットにして中心窩を照らして,スリット光の中央が切れて見えるか,くびれて見えるか,曲がって見えるかなどの自覚所見を表現してもらうことも, 小さい黄斑円孔や偽円孔の鑑別に有用であるa b c図 5中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の既往を疑う一例a:49 歳,男性.左眼眼底写真.視力(1.2)であるが,中心視野の「かすみ」を訴えて来院.黄斑は復位している.b:FAF で黄斑の過蛍光が検出される.c:OCT で網膜は復位しているが,外層IS/OS の不整がみられる.あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010147V急激に発症する視力低下の鑑別急激な視力低下をきたすものは,早急な対応を必要とするものが多い.文献2,3 を参考に作成したフローチャートの一例を図7 に示す.VI両眼の急激な視力低下両眼同時に急激に発症する視力低下の原因として,全身性疾患に起因する炎症(原田病,サルコイドーシス,Behcet 病,糖尿病,転移性眼内炎など),薬物中毒による視神経障害(クロラムフェニコール,メチルアルコー( 9 )図 6視神経低形成の一例7 歳,女児.数年前からの左眼の暗さを気にして受診.両眼とも視力(1.2).眼底検査で左視神経乳頭が軽度の蒼白がある以外に異常所見が得られず.視神経を含む頭部MRI でも異常なし.OCT 検査で左視神経線維層の菲薄化が検出された.148あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010ル中毒など),鼻性視神経炎,角膜の物理的損傷(電気性眼炎,角膜上皮.離など),頭蓋内病変(脳腫瘍,水頭症,一過性虚血発作など)などのことが多い.ほとんどの片眼性視力低下を発症する眼科疾患は両眼性視力低下の原因になり得るが,片眼が発症してから時間差をおいて他眼に発症することが多い.VII緩徐に発症する視力低下の鑑別眼科基本検査である眼位,眼球運動,対光反射,視力検査,細隙灯検査,眼圧検査,眼底検査で器質疾患を検出する.最近のOCT などの画像検査の進歩により,微妙な黄斑疾患などの検出感度が向上した.視野検査,電気生理学的検査,CT・MRI などの画像検査は眼底などに異常が認められないときの鑑別に必要となる.心因性視力障害などの診断はなかなかむずかしいことが多く,原因不明のときは再検査を含む経過観察を行うなどして原因疾患の見逃しに注意する.おわりに視力障害の鑑別に対して,注意したい検査や重要疾患を見逃さないためのいくつかの注意点を記載した.「かすみ」の訴えに対する鑑別診断のアプローチ法は,主訴に対する問診を丁寧に行い,救急疾患を念頭においた瞳孔の観察,視力検査による重篤度の判定,時間経過,年齢や性差による疾患頻度を意識して,角膜から眼底までの部位別の器質異常を丁寧に鑑別していくのが基本である.一方で中枢性,遺伝性,代謝異常,薬物摂取に伴うものなどは両眼性に発症することが多いので,既往症や全身異常の背景にも注意する.文献1) Differential diagnosis of ocular symptoms:in Wills Eye(10)表 5視力低下の分類:一時的か持続性か1.一時的視力低下〔視力は24 時間以内(たいていは1 時間以内)に回復〕高頻度数秒(両眼性が多い):乳頭浮腫数分:一過性黒内障(一過性脳虚血発作;片側性),椎骨脳底動脈循環不全(両側性)10.60 分:片頭痛(続発する頭痛を併発することあり)低頻度 切迫型網膜中心静脈閉塞症,虚血性視神経症,眼虚血症候群(頸動脈疾患),緑内障,血圧の急激な変動,中枢神経(CNS)疾患,視神経乳頭ドルーゼン,巨細胞動脈炎2.持続性視力低下a)突然,無痛性高頻度 網膜動脈あるいは網膜静脈閉塞症,虚血性視神経症,硝子体出血,網膜.離,視神経炎(しばしば眼球運動痛を併発),既存する片眼の視力障害をたまたま発見低頻度その他の網膜疾患や中枢神経系疾患(脳溢血など),メタノール中毒b)緩徐な視力低下,無痛性(数週間,数カ月,数年かかって進行)高頻度白内障,屈折異常,開放隅角緑内障,慢性網膜疾患(加齢黄斑変性,糖尿病網膜症など)低頻度慢性の角膜疾患(角膜ジストロフィなど),視神経症・視神経萎縮(中枢神経腫瘍など)c)緩徐な視力低下,有痛性急性閉塞隅角緑内障,視神経炎(眼球運動痛),ぶどう膜炎,眼内炎,角膜水腫(円錐角膜)3.外傷後の視力低下 眼瞼腫脹,角膜障害,前房出血,眼球破裂,外傷性白内障,水晶体位置異常,網膜振盪症,網膜.離,網膜視神経症,中枢神経障害注意:説明困難な心因性あるいは詐病なども鑑別のために念頭におくこと(文献1 より)あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010149Manual. Office and Emergency Room Diagnosis andTreatment of Eye Disease:4th ed. Kunimoto DY, KanitkarKD, Makar MS(ed), p1-2, Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia, 20042) 症候からの診断:眼科学(II).丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦,田野保雄(編),p814,文光堂,20023) 小西美奈子:突然の視力低下(片眼性).今日の眼疾患治療指針 第2 版,田野保雄,樋田哲夫(総編),p4,医学書院,2007(11)眼圧検査角膜浮腫皮質盲・ヒステリー外傷性視神経損傷心因性外傷の既往細隙灯顕微鏡検査(眼瞼,結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体)眼底検査(硝子体,網膜,乳頭)急性緑内障発作眼球萎縮角膜疾患虚血性視神経症急性球後視神経炎(MS,特発性,ウイルス性)眼窩蜂巣炎眼窩先端部症候群脳腫瘍硝子体混濁硝子体出血網脈絡膜炎網膜動脈閉塞症網膜静脈閉塞症黄斑出血・変性黄斑.離・滲出乳頭炎角膜疾患虹彩毛様体炎前房出血水晶体疾患対光反射(RAPD)眼位・眼球運動矯正視力検査屈折検査不良陽性異常あり異常あり異常ありあり良好陰性異常なし異常なし異常なしなしMS:多発性硬化症図 7急激に発症する視力障害(文献2 と3 を参照)

序説:眼のかすみ

2010年2月28日 日曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY経っても,いつも原点に立って考えさせられるのが「眼のかすみ」である.一応の読者の対象は専門医試験前の専門医志向者を想定しているが,眼科の広い領域を網羅した項目のそれぞれにエキスパートの先生方の練った総説を集めた特集となった.すなわち,総論として鑑別診断の基本戦略を平形明人教授(杏林大学),各論として,角膜疾患は井上幸次教授(鳥取大学),白内障は黒坂大次郎教授と浦上千佳子先生(岩手医科大学),緑内障は木内良明教授と谷本誠治先生(広島大学),ぶどう膜疾患は中井 慶先生と大黒伸行先生(大阪大学),後天性網膜・硝子体疾患(網膜.離,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など)は阿部さち先生と山下(山形大学),網膜色素変性は高橋政代先生(理化学研究所神戸),視神経疾患(視神経炎)は三村 治教授(兵庫0910-1810/10/\100/頁/JCOPY経っても,いつも原点に立って考えさせられるのが「眼のかすみ」である.一応の読者の対象は専門医試験前の専門医志向者を想定しているが,眼科の広い領域を網羅した項目のそれぞれにエキスパートの先生方の練った総説を集めた特集となった.すなわち,総論として鑑別診断の基本戦略を平形明人教授(杏林大学),各論として,角膜疾患は井上幸次教授(鳥取大学),白内障は黒坂大次郎教授と浦上千佳子先生(岩手医科大学),緑内障は木内良明教授と谷本誠治先生(広島大学),ぶどう膜疾患は中井慶先生と大黒伸行先生(大阪大学),後天性網膜・硝子体疾患(網膜.離,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など)は阿部さち先生と山下(山形大学),網膜色素変性は高橋政代先生(理化学研究所神戸),視神経疾患(視神経炎)は三村治教授(兵庫医科大学)にそれぞれお願いした.この陣容からして,ベテランの臨床医の先生方もご自分の専門外の分野での知識を整理し,あすからの診療に役立てていただくことができるのではないかと自負している.臨床医学ではマニュアルが充実し,それが医療レベルを向上させ,医療安全を推進するために大いに役立ってきたことは否定できない.しかし,マニュアルが充実し完備することによる一つの弊害は,マニュアルに書いていない症状には対応ができない事臨床医学の基本は鑑別診断である.患者の主訴,訴え,症状,所見などを総合して,検査計画を確立し,正しい診断と治療方針にたどりつく道筋は,ときに困難を伴うものの,臨床医学の真髄をなす.たまたま当たるという鑑別診断能力ではなく,論理的に鑑別診断を行うためには,病態の理解と鑑別診断の戦略的な運用を理解する必要がある.これは若い臨床医を育成するプログラムの中核をなすものである.本特集では,鑑別診断能力のアップを目指して,代表的な主訴である「眼のかすみ」を起点にして,どのような病態により起こるかという病態生理の理解,さらにそれをもとにして鑑別診断を倫理的に行う方針を眼科の各分野にわたって網羅することを意図して企画した.「眼のかすみ」は,日常の外来で多くの患者さんから聞かされる最もありふれた症状でありながら,その原因は多岐にわたることから実は最も慎重に考えるべき症状であろう.一言で「かすみ」といってもその症状はさまざまで,白っぽい「かすみ」や対象がブレて見える「かすみ」などもあり,詳細に症状を聞くことにより原因がまったく異なることに気がつく.「眼のかすみ」についての習得が完全にできれば,眼科学をほぼ制覇したといっても過言ではないだろう.眼科医になって何十年( 1 ) 139* Teiko Yamamoto & Hidetoshi Yamashita:山形大学医学部眼科学講座●序説 あたらしい眼科 27(2):139.140,2010眼のかすみDimness of Sight山本禎子*山下英俊*140あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 2 )態が出現しかねないことである.このような状況が眼科医学の最前線で起きていないことを望むものであるが,これを防ぐためには,本特集に示されているエキスパートによる鑑別診断のマニュアルを個々の専門医志向者が自分風にアレンジしていかれることを望むものである.ご自分の経験により,注意すべきこと,外来などで多くみる患者の割合の違いなどを含みこんでご自分用のマニュアルを作成していただければ,鑑別診断の能力はさらに向上するものと考える.このようにして自分の力で組み上げていく鑑別診断の能力を向上させる努力は生涯にわたって続けるべきものであり,また,その達成度に従い医師としての仕事を誇りに思えるようになる.本特集が今後の眼科医としての鑑別診断能力開発の一助となれば幸いである.お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内 眼における現在から未来への情報を提供! あたらしい眼科2010Vol.27月刊/毎月30日発行 A4変形判 総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担) 最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2010Vol.23■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行 A4変形判 総140頁定価 2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円 (本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌 (4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療 他【その他】トピックス・ニュース 他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント 他株式会社〒113.0033 東京都文京区本郷 2.39.5 片岡ビル5F振替 00100.5.69315 電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp医科大学)にそれぞれお願いした.この陣容からして,ベテランの臨床医の先生方もご自分の専門外の分野での知識を整理し,あすからの診療に役立てていただくことができるのではないかと自負している.臨床医学ではマニュアルが充実し,それが医療レベルを向上させ,医療安全を推進するために大いに役立ってきたことは否定できない.しかし,マニュアルが充実し完備することによる一つの弊害は,マニュアルに書いていない症状には対応ができない事臨床医学の基本は鑑別診断である.患者の主訴,訴え,症状,所見などを総合して,検査計画を確立し,正しい診断と治療方針にたどりつく道筋は,ときに困難を伴うものの,臨床医学の真髄をなす.たまたま当たるという鑑別診断能力ではなく,論理的に鑑別診断を行うためには,病態の理解と鑑別診断の戦略的な運用を理解する必要がある.これは若い臨床医を育成するプログラムの中核をなすものである.本特集では,鑑別診断能力のアップを目指して,代表的な主訴である「眼のかすみ」を起点にして,どのような病態により起こるかという病態生理の理解,さらにそれをもとにして鑑別診断を倫理的に行う方針を眼科の各分野にわたって網羅することを意図して企画した.「眼のかすみ」は,日常の外来で多くの患者さんから聞かされる最もありふれた症状でありながら,その原因は多岐にわたることから実は最も慎重に考えるべき症状であろう.一言で「かすみ」といってもその症状はさまざまで,白っぽい「かすみ」や対象がブレて見える「かすみ」などもあり,詳細に症状を聞くことにより原因がまったく異なることに気がつく.「眼のかすみ」についての習得が完全にできれば,眼科学をほぼ制覇したといっても過言ではないだろう.眼科医になって何十年( 1 ) 139* Teiko Yamamoto & Hidetoshi Yamashita:山形大学医学部眼科学講座●序 説 あたらしい眼科 27(2):139.140,2010眼のかすみDimness of Sight山本禎子* 山下英俊*140  あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 ( 2 )態が出現しかねないことである.このような状況が眼科医学の最前線で起きていないことを望むものであるが,これを防ぐためには,本特集に示されているエキスパートによる鑑別診断のマニュアルを個々の専門医志向者が自分風にアレンジしていかれることを望むものである.ご自分の経験により,注意すべきこと,外来などで多くみる患者の割合の違いなどを含みこんでご自分用のマニュアルを作成していただければ,鑑別診断の能力はさらに向上するものと考える.このようにして自分の力で組み上げていく鑑別診断の能力を向上させる努力は生涯にわたって続けるべきものであり,また,その達成度に従い医師としての仕事を誇りに思えるようになる.本特集が今後の眼科医としての鑑別診断能力開発の一助となれば幸いである.お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内  眼における現在から未来への情報を提供! あたらしい眼科2010 Vol.27月刊/毎月30日発行 A4変形判  総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)   増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)   (本体30,840円+税)(送料弊社負担)  最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2010 Vol.23■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行 A4変形判 総140頁定価 2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円 (本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌 (4冊)(送料弊社負担)【特 集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原 著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連 載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療 他【その他】トピックス・ニュース 他■毎号の構成■【特 集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原 著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント 他株式会社〒113.0033 東京都文京区本郷 2.39.5 片岡ビル5F振替 00100.5.69315 電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

Vogt- 小柳-原田病におけるHLA-DRB1*040501検出の頻度

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(129)ツ黴€ 1290910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):129 132,2010cはじめにVogt-小柳-原田病(VKH)は,穿孔性眼外傷既往歴のないぶどう膜炎を主とする眼症状と白髪,難聴,髄膜炎などの眼外症状を呈する全身性疾患であり,色素を有する器官に炎症が随伴することから,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.発症頻度は世界的にみると大きな偏りがあり,モンゴロイドに多くその他のコーカソイドなどの人種にはあまりみられていない1).VKH には両眼の汎ぶどう膜炎,びまん性の脈絡膜炎,多発する滲出性の網膜 離,フルオレセイン蛍光眼底造影検査〔別刷請求先〕雪田昌克:〒980-8574 仙台市青葉区星陵町 1-1東北大学医学部眼科学教室Reprint requests:Masayoshi Yukita, M.D., Department of Ophthalmology, Tohoku University School of Medicine, 1-1 Seiryo-tyo, Aoba-ku, Sendai-shi 980-8574, JAPANVogt-小柳-原田病における HLA-DRB1*040501 検出の頻度雪田昌克*1阿部俊明*2高橋秀肇*1大友孝昭*1西田幸二*1*1 東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野*2 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センターPrevalence of HLA-DRB1*040501 in Vogt-Koyanagi-Harada DiseaseMasayoshi Yukita1), Toshiaki Abe2), Hidetoshi Takahashi1), Takaaki Otomo1) and Koji Nishida1)1)Department of Ophthalmology and Visual Science, Tohoku University School of Medicine, 2)Division of Clinical Cell Therapy, Department of Translational Research, Tohoku University Graduate School of Medicine目的:Vogt-小柳-原田病(VKH)では,humanツ黴€ leukocyteツ黴€ antigen(HLA)の DNA-typing 検査にて,HLA-DRB1*0405 や*0410 のアリルが高率に検出されることが報告されている.最近では HLA 解析の進歩により,*0405 のサブタイプまで同定されている.今回,筆者らは VKH の患者にこの DNA-typing 検査を行い,その有用性について検討した.対象および方法:2006 年 4 月から 2008 年 5 月までに東北大学病院眼科で VKH を疑われた患者 21 例(男性 7名,女性 14 名,年齢平均 44±14 歳)に対し,PCR(polymeraseツ黴€ chainツ黴€ reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)法にて HLA-DNA-typing を行った.結果:21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が 5 例(23.8%)において*0410 が検出された.すべての症例において*0405 または*0410 のいずれかあるいは両方が検出された.さらに*0405 が検出された 19 例のうち 8 例は*040501 まで正確に検出され,それ以外のサブタイプはみられなかった.結論:原田病の*0405 サブタイプは*040501 である可能性が非常に高い.これまでに*0405 サブタイプの報告はないが,*040501 はモンゴロイドに特異的であり原田病特異的サブタイプである可能性が推測された.Purpose:Itツ黴€ isツ黴€ reportedツ黴€ thatツ黴€ inツ黴€ Vogt-Koyanagi-Haradaツ黴€ disease(VKH),ツ黴€ HLA-DRB1*0405 or *0410 are fre-quentlyツ黴€ detectedツ黴€ byツ黴€ DNA-typingツ黴€ analysis.ツ黴€ Recently, *0405ツ黴€ subtypesツ黴€ haveツ黴€ beenツ黴€ identi ed,ツ黴€ thanksツ黴€ toツ黴€ advancesツ黴€ in HLA-DNA-typing analysis. In the present study, we conducted this examination on VKH patients and assessed its usefulness. Methods:Weツ黴€ conductedツ黴€ theツ黴€ HLAツ黴€ typingツ黴€ test,ツ黴€ usingツ黴€ theツ黴€ PCR(polymeraseツ黴€ chainツ黴€ reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)methodツ黴€ onツ黴€ 21ツ黴€ patients(7ツ黴€ males,ツ黴€ 14ツ黴€ females;averageツ黴€ age:44±14 yrs)withツ黴€ suspected VKH,ツ黴€ fromツ黴€ Aprilツ黴€ 2006ツ黴€ toツ黴€ Mayツ黴€ 2008. Results:HLA-DRB1*0405 was detected in 19 cases(90.5%);*0410 was detected in 5 cases(23.8%). HLA-DRB1*0405 or *0410, or both, were detected. In addition, in 8 of the 19 *0405 detectionツ黴€ cases,ツ黴€ areツ黴€ detected *040501 exactly, and any other subtypes aren’t detected. Conclusion:It is highly likely that all cases of *0405 detection were *040501. We assume that *040501 is maybe speci c to mongoloid and VKH.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):129 132, 2010〕Key words:Vogt-小柳-原 田 病,HLA-DNA タ イ ピ ン グ, ア リ ル,HLA-DRB1*040501, 人 種 特 異 性.Vogt-Koyanagi-Harada diease, HLA-DNA-typing, alleles, HLA-DRB1*040501, race-speci c.———————————————————————- Page 2130あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(130)(FA)にて造影早期に多発性の点状蛍光漏出や,インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査にて造影早期に脈絡膜背景蛍光の局所的な充盈遅延,中期から後期にかけて多発性斑状低蛍光などの特徴的な眼所見がある.これらと類似していることから鑑別疾患としてあげられるのが,急性後部多発性斑状網膜色素上皮症,多発性後局部網膜色素上皮炎,uvealツ黴€ e u-sionツ黴€ syndrome,散弾状脈絡網膜症や,後部強膜炎などである.しかし,実際の臨床での診断は 2001 年に Read らによって作成された VKH の国際診断基準2)に基づいて行われているが,臨床所見や FA 所見など病期によって変化が著しい所見からの診断であり,また,髄液検査が必須の検査項目に入っていないこともあって,これらの鑑別に苦慮することがあるのが現状である.一方,診断の一手段として,従来より humanツ黴€ leukocyte antigen(HLA)-DR4 抗原の存在が考慮されていたが,近年より詳細な HLA 抗原の解析報告があり,HLA-DRB1*0405や*0410 のアリルが高率に検出されることが報告されてい る3,4).HLA サブタイプであれば,臨床症状のようにその出現が病期に左右されることはなく,診断に非常に有用と考えられる.また,最近では検査法の進歩に伴い,これらのアリルはより詳細なサブタイプまで同定されるようになり*0405であれば*040501 *040506 まで判明している.これらの詳細なサブタイプは VKH の診断法に影響を与え,発症頻度の偏りなどを明らかにできる可能性があるが,VKH と詳細なサブタイプの頻度について言及された報告はまだない.今回,筆者らは東北大学病院眼科(当科)での VKH 症例を検討し,*0405 のサブタイプの頻度を検討し,若干の文献的考察を加えたので報告する.I対象および方法対象は 2006 年 4 月 2008 年 5 月に当科を受診し,細隙灯検査,眼底検査,蛍光眼底造影検査,髄液検査やその後の経過や所見を総合的に判断して VKH と診断された 21 例 42眼(男性 7 名,女性 14 名)である.これらの患者は 2001 年に発表された原田病診断のガイドライン2)に基づいて完全型,不完全型,疑いに分類した.年齢は,21 59 歳(平均44.4 歳)であった.治療法は,21 例中 16 例に対しステロイドパルス療法,4 例に対しステロイド大量漸減療法,原田病の診断に難渋した 1 例に対しステロイド Tenonツ黴€ 下注射の局所投与を施行した.これらの患者に対し,経過中もしくは治療後に患者から同意を得たあとに静脈血採取を行い,DNA 合成キットを用いて DNA を 抽 出 し 精 製 し て か ら PCR(polymeraseツ黴€ chain reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)法5)にて HLA-DNA-typing を施行後,対立遺伝子の同定を行った.この方法は PCR 法で増幅された DNA を用いてシークエンス反応を行い,ゲル電気泳動より得られる塩基配列の多型性を直接検出する検査法で,第 12 回の国際組織適合性会議において検討されたものである.自動シークエンサーを用いて行うが,このなかには使用するプライマーで増幅される領域に関する各対立遺伝子の塩基配列情報が収められており,シークエンシングにより得られた情報を読み込んで,各対立遺伝子の塩基配列との異同を検索する.従来の方法は多型性を示す領域の周辺のみを検索するのに対し,SBT 法はすべての塩基配列を検索,決定でき,対立遺伝子の識別・判定がより厳密に確定可能となり,まれな対立遺伝子や未知の新対立遺伝子も検出可能である.本法は東北大学医学系研究科倫理委員会の承認のもとに実行された.II結果症例は全例原田病に特徴的な眼所見を有し,原田病診断のガイドラインを満たすものであった.病型別に分類すると21 例中 3 例が完全型 VKH,14 例が不完全型 VKH,4 例がVKH 疑いであった.今回は糖尿病網膜症で光凝固 1 年後にVKH を発症した症例が 1 例認められ,糖尿病黄斑浮腫や糖尿病性の腎不全もあり,uvealツ黴€ e usionツ黴€ syndrome など8)との 鑑 別 に 時 間 を 要 し た. 当 初 ト リ ア ム シ ノ ロ ン2 m gのTenonツ黴€ 下注射で加療し,軽快・増悪をくり返していた.しかし,最終的な診断にこの HLA 解析は非常に有効な判断材料になり,ステロイドの局所投与による加療のみで良好な経過をたどっている.4 例 7 眼において,7.5±2.5 mmHgの表1 臨床型別のVKH患者群と検出されたHLA-DRB1のアリル結果AllelesComplete VKHIncomplete VKHProbable VKHn(%)DRB1*0101011 2(9.5)DRB1*0403010 1(4.8)DRB1*0405312419(90.5)DRB1*0410041 5(23.8)DRB1*0803001 1(4.8)DRB1*0901040 4(19.0)DRB1*1001010 1(4.8)DRB1*1302010 1(4.8)DRB1*1401100 1(4.8)DRB1*1403110 1(4.8)DRB1*1405010 1(4.8)DRB1*1501021 3(14.3)DRB1*1502110 2(9.5) 21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が検出され,完全型 3 例(100%),不完全型 12 例(78.6%),疑い 4 例(100%)であった.*0410 は完全型 5 例(23.8%)において不完全型 4 例(28.6%),疑い 1 例(25%)で検出された.すべての症例において*0405 または*0410 が検出された.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010131(131)眼圧上昇が認められたが,全例経過観察か降圧剤の点眼のみでコントロール可能であり,ほかに合併症はなく視力を含めて良好な経過であった.表 1 に臨床型別の VKH 患者群と検出された HLA-DRB1のアリル結果を示す.通常,HLA-DRB1 のアリルはヘテロ接合体であることから,患者 1 名について 2 つ存在するため,今回 21 症例 42個のアリルが検出された.21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が検出され,完全型 3 例(100%),不完全型 12 例(78.6%),疑い 4 例(100%)であった.*0410 は完全型 5 例(23.8%)において不完全型 4 例(28.6%),疑い 1 例(25%)で検出された.すべての症例において*0405 または*0410 が検出された.今回の少ない症例のなかでは*0405 陽性者と*0410 陽性者の臨床的に明らかな差はみられなかった.19 例の*0405のうち 8 例は*040501 まで正確に検出され,残りの 11 例は*040503 と塩基配列が酷似しており,はっきり*040501 と判別できなかった.III考按HLA(ヒト白血球抗原)とは,ヒトにおける主要組織適合遺伝子複合体(MHC:major histocompatibility complex)のことであり,自己と他者を認識する役割をもつ.第 6 染色体短腕上の遺伝子群によりコードされ,もともと同種移植片への拒絶反応を規定する遺伝子座として発見されたが,HLA領域は多数の遺伝子群が存在し,同種個体間の遺伝的相違(多型)に富む領域であり,自己免疫疾患をはじめとする免疫関連疾患では疾患感受性を規定する遺伝子マーカーとしても使われてきた.眼疾患のなかでも,特にぶどう膜炎はその発症に免疫反応が深く関与し,VKH や交感性眼炎,Behcet病は MHC 対立遺伝子(allele)との相関が認められる代表的な疾患である6).VKH と HLA-DRB1*0405,*0410,DQB1*0401,*0402 や,Behcet 病と HLA-B*5101 との相関7)は以前から知られているが,後者の陽性率が 30 65%に対し,前者の陽性率はほぼ 100%に近く1),VKH の診断においては病期を問わず高い感度が得られる有用な検査法であると考えられる.今回の筆者らの結果も,VKH と診断された全症例からHLA-DRB1*0405,*0410 が検出され,これを裏付けるものであった.Shindo ら3)も同様の報告であり,*0405 または*0410 が検出されなければ VKH である可能性は低いということが推測された.HLA-DRB1*0405,*0410 に共通の特異的アミノ酸はDRb鎖 57 番目のセリン(Ser)であり,HLA-DQB1*0401,*0402 に共通の特異的アミノ酸は DQb鎖 70 番目のグルタミン酸(Glu),71 番目のアスパラギン酸(Asp)であるといわれている2).HLA クラス II 抗原の 3 次元立体構造モデル上では,これらのアミノ酸はいずれもaへリックス上に位置し,ヘルパー T 細胞の抗原認識に重要な位置にある.そして,チロシンをメラニンに変換する酵素であるチロシナーゼが原田病の自己抗原の有力な候補であり,その抗原ペプチドが DRB1*0405 上の抗原結合ポケットに結合することがYamaki らによって明らかにされている9).アリルの命名法は 2002 年の WHO HLA 命名委員会にてそれまでの 4 桁から改正された(日本組織適合性学会 HLA標準化委員会.2003 年版ツ黴€ HLA アリルの命名規則の改正に関 す る お 知 ら せ).HLA-DRB1*040501 を 例 に と る と,DRB1 は HLA の DR 領域のb鎖分子をコードすることを表す.そして 04 は血清抗原 HLA-DR4 抗原をコードすることを表し,05 はアリル名の命名された順で,数字が異なると,コードされるアミノ酸は異なる(非同義置換).01 はアミノ酸置換を伴わない塩基配列の違い(同義置換)であり,*0405は 01 から 06 まで報告されている.現在まで,VKH に関して HLA-DRB1*0405 が検出された論文は散見されるが,さらにそのサブタイプまで報告した論文はまだない.そのサブタイプは,*040501 *040506 まで報告されているにもかかわらず,今回 VKH の患者から検出された*0405 はすべて*040501 であった.今回は健常者のコントロール群からの HLA-typing は行わなかったため確認できなかったが,SRL 社のデータバンクによる情報から,*040501 はモンゴロイドに特有のもので,VKH の発症に人種差があることに影響を与えている可能性も推測される.VKH に限らず個々のぶどう膜炎に地域差がみられることなどを考慮すると今回の検討は興味深いものと考えられ,今後健常者を含めさらに症例を増やして検討する価値があると考えられる.文献 1) 望 月 學:Vogt-小柳-原 田 病. 日 眼 会 誌 111:359-366, 2007 2) Read RW, Hollande GN, Rao NA et al:Revised diagnostic criteriaツ黴€ forツ黴€ Vogt-Koyanagi-Haradaツ黴€ disease:angiographic signs and utility in patient follow-up. Int Ophthalmol 27:173-182, 2007 3) Shindo Y, Inoko H, Yamamoto T et al:HLA-DRB1typing of Vogt-Koyanagi-Harada’s disease by PCR-RFLP and theツ黴€ strongツ黴€ associationツ黴€ withツ黴€ DRB1*0405ツ黴€ andツ黴€ DRB1*0410. Br J Ophthalmol 51:41-44, 2007 4) イスラム S.M. モノワルール,沼賀二郎,藤野雄次郎:フォークト-小柳-原田病の臨床経過と HLA-DR4 サブタイプ.日眼会誌 98:801-806, 1994 5) 成瀬妙子,河田寿子,猪子英俊:直接塩基配列決定法(SBT)による HLA クラス II 遺伝子タイピング.MHC 5:101-106, 1998———————————————————————- Page 4132あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(132) 6) 大野重昭:眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌 96:1558-1579, 1992 7) Mizuki N, Inoko H,Tanaka H et al:Human leukocyte antigen serologic and DNA typing of Behcet’s disease and its primary association with B51. Invest Ophthalmol Vis Sci 33:3332-3340, 1992 8) 竹下孝之,阿部俊明,玉井信:急性腎不全に伴う uveal e usion syndrome.臨眼 54:990-992, 2000 9) Yamaki K, Gocho K, Hayakawa K et al:Tyrosinase fami-lyツ黴€ proteinsツ黴€ areツ黴€ antigensツ黴€ speci cツ黴€ toツ黴€ Vogt-Koyanagi-Hara-da disease. J Immunol 165:7323-7329, 2000***

近視性脈絡膜新生血管に対する治療法の比較

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(123)ツ黴€ 1230910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):123 127,2010cはじめに近視性脈絡膜新生血管(近視性 CNV)は,強度近視眼における視力低下の要因の一つである.この脈絡膜新生血管はかつて加齢黄斑変性症の CNV と同じように外科的に新生血管抜去術や黄斑移動術が試みられた1)が,網膜脈絡膜萎縮や新生血管の再発,手術合併症などにより視力予後は決して満足できるものではなかった.このようにこれまで有効な治療法がなかったが,近年,光線力学的療法(PDT)2)や抗血管新生療法3)の有効性が報告されている.そこで,この両者の治療法について比較検討した.I対象および方法対象は 2004 年 7 月 2007 年 4 月に当院倫理委員会の承認下で適応外使用のため研究費により治療を行った近視性CNV( 6 D 以上もしくは眼軸長 26 m m以上)による視力低下をきたした 38 例 38 眼(女性 30 眼,男性 8 眼)で,治療前矯正視力は 0.02 0.6,平均年齢は 68.6 歳(42 87 歳)である.PDT を施行した症例の PDT 群(25 眼)は術前平均視〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024 大阪市西区境川 1-1-39多根記念眼科病院Reprint requests:Toshiya Sakurai, M.D., Tane Memorial Eye Hospital, 1-1-39 Sakaigawa, Nishiku, Osaka 550-0024, JAPAN近視性脈絡膜新生血管に対する治療法の比較櫻井寿也山田知之田野良太郎福岡佐知子竹中久張國中真野富也多根記念眼科病院Comparison of Two Methods for Treating Myopic Choroidal NeovasucularizationToshiya Sakurai, Tomoyuki Yamada, Ryotaro Tano, Sachiko Fukuoka, Hisashi Takenaka, Kokuchu Cho and Tomiya ManoTane Memorial Eye Hospital近視性脈絡膜新生血管(近視性 CNV)に対し,光線力学的療法(PDT)と抗血管新生療法の有効性について比較検討した.対象は 2004 年 7 月 2007 年 4 月に当院倫理委員会の承認下で治療を行った近視性 CNV38 例 38 眼(女性 30眼,男性 8 眼),平均年齢 68.6 歳(42 87 歳).PDT 群(25 眼)と bevacizumab(アバスチンR 1.25 m g)の硝子体注入を行った群(13 眼)とに分け,治療前後での矯正視力・光干渉断層計(OCT),フルオレセイン蛍光眼底撮影(FA)を用い結果について比較検討した.治療後 6 カ月の矯正視力は,PDT 群では,改善は 25 眼中 14 眼(56%),不変は 25眼中 8 眼(32%),悪化が 25 眼中 3 眼(12%)であった.Bevacizumab 使用群では,改善 13 眼中 6 眼(46%),不変 13眼中 7 眼(54%)で,悪化はなかった.近視性 CNV に対する PDT もしくは bevacizumab の治療は短期的には有効であった.Thisツ黴€ paperツ黴€ reportsツ黴€ onツ黴€ theツ黴€ analysisツ黴€ ofツ黴€ visualツ黴€ andツ黴€ angiographicツ黴€ resultsツ黴€ ofツ黴€ photodynamicツ黴€ therapy(PDT)with vertepor n and intravitreal bevacizumab injection in highly myopic patients with subfoveal choroidal neovasucular-ization(CNV).ツ黴€ Weツ黴€ retrospectivelyツ黴€ reviewedツ黴€ aツ黴€ consecutiveツ黴€ seriesツ黴€ ofツ黴€ casesツ黴€ ofツ黴€ subfovealツ黴€ CNVツ黴€ secondaryツ黴€ toツ黴€ myopia thatツ黴€ wereツ黴€ treatedツ黴€ withツ黴€ PDT(25ツ黴€ eyes)andツ黴€ intravitrealツ黴€ bevacizumab(1.25 m g)injection(13 eyes)between July 2004ツ黴€ andツ黴€ Aprilツ黴€ 2007.ツ黴€ Dataツ黴€ fromツ黴€ clinicalツ黴€ examination,ツ黴€ fundusツ黴€ photography,ツ黴€ツ黴€ uoresceinツ黴€ angiography,ツ黴€ opticalツ黴€ coher-ence tomography and visual acuity were collected. In the patients who had received PDT, the best-corrected visu-al acuity(BCVA)improved in 56%, unchanged in 32%, and had decreased in 12% at 6 months after treatment. In the patients who had received intravitreal injection of bevacizumab, BCVA improved in 46%, and unchanged in 54%. These two treatments were shown e ective for myopic CNV.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):123 127, 2010〕Key words: 近 視 性 脈 絡 膜 新 生 血 管, 光 線 力 学 的 療 法, ベ バ シ ズ マ ブ.myopicツ黴€ choroidalツ黴€ neovasucularization, photodynamic therapy, bevacizumab.———————————————————————- Page 2124あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(124)力(0.20±0.34)で,bevacizumab(アバスチンR 1.25 mg)の硝子体投与を行った症例の bevacizumab 使用群(13 眼)は術前平均視力(0.22±0.32)であり,すべての症例において治療後 6 カ月以上経過観察可能であった.治療前視力・年齢に関して両群での有意な差は認められなかった.治療前後での矯正視力・光干渉断層計(OCT),フルオレセイン蛍光眼底撮影(FA)を用いた結果について比較検討した.PDT ではビスダインR 6 m g/m2を 5%ぶどう糖液で調整して 30 mlとしたものを 10 分間静脈内に連続投与した.投与後 5 分後にビズラス PDT システム 690S(カールツァイス社製)を用いて波長 689 n mのレーザーを照射時間は通常の約半分の42 秒間,照射範囲は FA の蛍光漏出点を中心に PDT スポットサイズをトプコン社 PDT 計測ソフトを用いて計測し,照射径は実測値のみとし 1,000 μm は加えなかった.なお,今回の治療は PDT,bevacizumab 治療はともに当院倫理委員会の承認を受け,さらに治療費は保険治療適用外使用のため当院研究費により行った.II結果治療後 6 カ月の矯正視力を図 1 に示す.PDT 群では,2段階以上改善は 25 眼中 14 眼(56%),不変は 25 眼中 8 眼(32%),悪化が 25 眼中 3 眼(12%)であった.Bevacizum-ab 使用群では,改善 13 眼中 6 眼(46%),不変 13 眼中 7 眼(54%),悪化はなかった.両群間おいて有意な差は認めなツ黴€ツ黴€ 図 2PDT施行症例の治療前A:眼底写真.B:フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.PDT治療後 6カ月0.10.40.60.20.051.00.040.10.40.20.02術後視力術前視力アバスチン?治療後 6カ月術前視力0.10.40.60.050.10.40.20.60.2術後視力1.0図 1 治療後6カ月の視力———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010125(125)かった.蛍光漏出の減少もしくは消退は PDT 群で 23 例(92%),bevacizumab 使用群で 12 例(92%)認めた.OCT での CNV の縮小は PDT 群で 24 例(96%),bevacizumab 使用群で 12 例(92%)認めた.再治療については,PDT 群で2 回必要であったものが 2 例,bevacizumab 使用群では 2 回投与した症例が 1 例であった.1. PDT施行症例65 歳,女性.右眼矯正視力は 0.3,黄斑部に出血を伴ったツ黴€ツ黴€ 図 3 PDT施行症例の治療後6カ月A:眼底写真.B: フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.ABC図 4 アバスチンR施行症例の治療前A:眼底写真.B: フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.———————————————————————- Page 4126あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(126)隆起性病変を認め,FA にて同部位より旺盛な蛍光漏出を認め,CNV の存在を確認し,ベルテポルフィン(ビスダインR)を用いた PDT を施行した(図 2).PDTツ黴€ 6 カ月後に矯正視力は 0.4 に改善し,FA・OCT にて CNV が縮小していることが確認された(図 3).2. Bevacizumab硝子体投与症例64 歳,女性.右眼矯正視力は 0.5,黄斑部に 1 乳頭径大の出血とその中央に新生血管と推定できる隆起性病変が認められ,FA にて初期より過蛍光が認められた.Bevacizumab を1.25 m g硝子体注入施行,1 カ月後には近視性 CNV は小さく退縮し,4 6 カ月後の FA では蛍光漏出を認めていない.OCT では治療前に認めた新生血管が消退している.矯正視力は 0.6 に改善した(図 5).III考按近視性 CNV はこれまで有効な治療法がなかったが,近年の新しい治療法により,効果が期待できるようになった.近視性 CNV の特徴としては,長期に観察すると強度近視が合併していることから,網脈絡膜萎縮により最終視力が悪いという報告がある4).したがって,近視性 CNV を治療するうえでは,いかに網脈絡膜萎縮を防ぎ,CNV を早期に退縮させるかということが重要である.近視性 CNV に対する VIP(Vertepor n in Photodynamic Therapy)試験では5)PDT 施行 24 カ月での視力改善(3 段階以上)は 12%,視力低下(3段階以上)は 21%,PDT 施行回数は平均 5.1 回であった.Moreno ら6)は近視性 CNV に対する PDT を行い 4 年間の期間の視力結果として改善 46%,不変 26%,悪化 28%としている.網脈絡膜萎縮の所見は 55 歳以下では少なかったとしている.筆者らの結果は 6 カ月の時点でこれらの報告と同等の結果であるが,PDT に関しては,治療に伴い正常な脈絡膜血管の閉塞も生じている7)ことから,網脈絡膜萎縮が発生する可能性がある.今回の治療では合併症をできるだけ少なくするために PDT に関しては,光感受性物質のベルテポルフィンの投与量は通常の加齢黄斑変性症と同量としたが,レーザー照射時間は 42 秒とし,通常の約半分の時間とした.この点が長期にわたり,網脈絡膜萎縮の対策となっているかは今後の検討となる.Bevacizumab の投与については,近視性 CNV の治療に必ず 3 カ月連続投与する方法もある8)が,今回は 1 回投与に限り,再発例には初回投与から 3 カ月間隔をあけて投与した.Ikuno ら9)は bevacizumab の投与により 1 年後に視力改善は40%としており,期間中に網脈絡膜萎縮を認めなかった としている.筆者らの治療成績も改善例が多く認められ,bevacizumab 使用群では悪化例がなかったことと,改善例も PDT 群に比べ視力の良い症例が多い傾向にあった.短期間での経過観察ではあるが,網脈絡膜萎縮を形成するものはなかった.これは将来生じてくる可能性があり,今後長期にわたり経過観察が必要である.血管内皮細胞増殖因子(VEGF)はもともと血管の恒常性維持には必要不可欠な物質であることから,bevacizumab は VEGF のすべてのアイソフォームツ黴€ツ黴€ 図 5 アバスチンR施行症例の治療後6カ月A:眼底写真.B: フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010127(127)を阻害するため生理活性に必要な VEGF をも阻害してしまう10).したがって安易に多量の bevacizumab の使用は避けるべきである.新しい治療方法を用いた場合でも網脈絡膜萎縮の発生が否定できず,近視性 CNV の病態の解明とその病態に応じた合理的な治療方法の確立が望まれる.今回,近視性 CNV に対する PDT もしくは bevacizumab の治療は短期的には有効であった.本論文の要旨は第 61 回日本臨床眼科学会総会にて発表した.文献 1) Hayashiツ黴€ K,ツ黴€ Ohno-Matsuiツ黴€ K,ツ黴€ Teramukaiツ黴€ Sツ黴€ etツ黴€ al:Photody-namic therapy with vertepor n for choroidal neovascular-ization in Japanese patients;comparison to nontreated controls. Am J Ophthalmol 145:518-526, 2008 2) Sakaguchi H, Ikuno Y, Gomi F et al:Intravitreal injection of bevacizumab for choroidal neovasucularization associat-ed with pathologic myopia. Br J Ophthalmol 91:161-165, 2007 3) Chan WM, Lai TY, Liu DT et al:Intravitreal bevacizum-ab(Avastin)for myopic choroidal neovasucularization. Six month results of a prospective pilot study. Ophthalmology 114:2190-2196, 2007 4) Yoshida T, Ohno-Matsui K, Yasuzumi K et al:Myopic choroidalツ黴€ neovasucularization.ツ黴€ Aツ黴€ 10-yearツ黴€ follow-up.ツ黴€ Oph-thalmology 110:1297-1305, 2003 5) Vertepor n in Photodynamic Therapy(VIP)Study Group:Vertepor n therapy of subfoveal choroidal neo-vascularization in pathologic myopia. 2-year results of a randomized clinical trial ─ VIP report No. 3. Ophthalmolo-gy 110:667-673, 2003 6) Ruiz-Moreno JM, Amat P, Montero JA et al:Photody-namic therapy to treat choroidal neovascularization in highly myopic patients:4 years’ outcome. Br J Ophthal-mol 92:792-794, 2008 7) Dewi NA, Yuzawa M, Tochigi K et al:E ects of photo-dynamicツ黴€ thearapyツ黴€ onツ黴€ theツ黴€ choriocapillarisツ黴€ andツ黴€ retinalツ黴€ pig-mentツ黴€ epitheliumツ黴€ inツ黴€ theツ黴€ irradiatedツ黴€ area.ツ黴€ Jpnツ黴€ Jツ黴€ Ophthalmol 52:277-281, 2008 8) Chan WM, Lai TYY, Liu DTL et al:Intravitreal bevaci-zumab(Avastin)forツ黴€ myopicツ黴€ choroidalツ黴€ neovascularization. Ophthalmology 114:2190-2196, 2007 9) Ikuno Y, Sayanagi K, Sawa M et al:Intravitreal bevaci-zumab for choroidal neovascularization attributable to pathologicalツ黴€ myopia:One-yearツ黴€ results.ツ黴€ Amツ黴€ Jツ黴€ Ophthalmol 147:1:94-100, 2009 10) 石田晋:抗血管新生療法の奏功機序と将来の展望.日本の眼科 79:435-439, 2008***

硝子体手術を行ったTerson 症候群の臨床所見と手術成績

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(119)ツ黴€ 1190910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):119 122,2010cはじめにくも膜下出血に伴って発生する硝子体出血(以下,Terson症候群)は視力低下に加え,種々の眼底病変を合併する.硝子体出血は片眼のみに発生する場合もあれば,両眼ともに発生する場合もある.しかし,本症候群において両眼出血例と片眼出血例についてその特徴ならびに術後成績を検討した報告は少ない1 3).当院において硝子体手術を施行した Terson症候群を両眼出血例と片眼出血例の 2 群に分け,その臨床的所見と手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.I対象および方法2001年12月から2008年12月の7年間に当院眼科で〔別刷請求先〕上村昭典:〒892-8580 鹿児島市加治屋町 20-17鹿児島市立病院眼科Reprint requests:Akinori Uemura, M.D., Department of Ophthalmology, Kagoshima City Hospital, 20-17 Kajiya-cho, Kagoshima-shi, Kagoshima 892-8580, JAPAN硝子体手術を行った Terson 症候群の臨床所見と手術成績土屋有希田中最高松尾由紀子田中実上村昭典鹿児島市立病院眼科Characteristics and Surgical Outcome in Patients Undergoing Vitrectomy forツ黴€ Terson SyndromeYuki Tsuchiya, Yoshitaka Tanaka, Yukiko Matsuo, Minoru Tanaka and Akinori UemuraDepartment of Ophthalmology, Kagoshima City Hospital目的:硝子体手術を行った Terson 症候群の臨床所見ならびに硝子体手術成績を両眼出血群と片眼出血群に分けて比較した.方法:過去 7 年間に硝子体手術を施行した Terson 症候群 13 例を対象として後ろ向きに検討した.結果:13 例中両眼性は 5 例,片眼性は 8 例あった.手術は両眼群 10 眼中 8 眼と片眼群 8 眼に行われた.手術時平均年齢は片眼群 48 歳,両眼群 53 歳であった.術前視力が指数弁以下の症例は両眼群 3 眼(37.5%)に対し,片眼群では全例(100%)であった.術後視力は全例で改善し,16 眼中 12 眼(両眼群 5 眼,片眼群 7 眼)が 0.7 以上の視力を得た.重篤なくも膜下出血が両眼群 2 例,片眼群 6 例にあり,片眼群では破裂動脈瘤部位と同側の硝子体出血が 8 例中 5 例でみられた.結論:今回の少数例の検討では,片眼群では両眼群に比較して発症時年齢がやや若年で,くも膜下出血も重篤であり,術前視力が不良であったが,硝子体手術によって両群ともに良好な視力を得られた.Purpose:We evaluated the baseline characteristics and surgical outcomes for patients with Terson syndrome, and compared the clinical characteristics between those with uniocular and binocular hemorrhages. Methods:We retrospectively analyzed patients diagnosed with Terson syndrome who had been treated with vitrectomy between 2001 and 2008. Results:Of the total of 16 eyes of 13 consecutive patients, 8 patients had vitreous hemorrhage in oneツ黴€ eye(unilateralツ黴€ group)andツ黴€ 5ツ黴€ hadツ黴€ bilateralツ黴€ vitreousツ黴€ hemorrhages(bilateralツ黴€ group).ツ黴€ Meanツ黴€ ageツ黴€ wasツ黴€ 48.0ツ黴€ years(range:40-57 yrs)in the unilateral group and 53.2 years(range, 45-60 yrs)in the bilateral group. All eyes in the unilateralツ黴€ groupツ黴€ andツ黴€ 3ツ黴€ eyesツ黴€ inツ黴€ theツ黴€ bilateralツ黴€ groupツ黴€ hadツ黴€ preoperativeツ黴€ visualツ黴€ acuityツ黴€ ofツ黴€ 0.01ツ黴€ orツ黴€ worse.ツ黴€ Visualツ黴€ acuity improved postoperatively in all patients;12 of 16 eyes hadツ黴€ nal visual acuity of 0.7 or better. Severe subarachnoid hemorrhage was observed on computed tomography in 2 patients in the bilateral group and 6 patients in the uni-lateral group. In the unilateral group, ipsilateral rupture of an aneurysm was con rmed in 5 of the 8 patients. Con-clusion:This small case study shows that patients with unilateral vitreous hemorrhage associated with subarach-noidツ黴€ hemorrhageツ黴€ areツ黴€ youngerツ黴€ andツ黴€ haveツ黴€ severerツ黴€ intracranialツ黴€ hemorrhage,ツ黴€ withツ黴€ poorerツ黴€ preoperativeツ黴€ visualツ黴€ acuity, than patients with bilateral hemorrhages. However, postoperative visual acuity is relatively good in both groups.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):119 122, 2010〕Key words:Terson 症候群,くも膜下出血,硝子体手術,硝子体出血.Tersonツ黴€ syndrome,ツ黴€ subarachnoidツ黴€ hemorr-hage, vitrectomy, vitreous hemorrhage.———————————————————————- Page 2120あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(120)Terson 症候群と診断し,硝子体手術を施行した 13 例を対象とした.手術適応は出血の程度と全身状態を考慮して判断し,全例に 20 ゲージまたは 23 ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術を行い,必要に応じて水晶体摘出および眼内レンズ挿入術を併施した.術後経過観察期間は 2 60 カ月(平均18 カ月)であった.各症例について年齢,性別,術前視力,術前の後部硝子体 離の有無,手術術式,術後最終視力,脳動脈瘤破裂部位,くも膜下出血の重症度,くも膜下出血の頭部 CT(コンピュータ断層撮影)分類を抽出し,さらに両眼群と片眼群とを比較検討した.後部硝子体 離(PVD)の有無は術前の超音波B モード所見ならびに術中所見から判断した.硝子体基底部から後方の網膜および視神経乳頭に硝子体が完全に接着しているものを PVD なし,部分的に硝子体 離があるものを不完全 PVD,まったく接着がないものを完全 PVD と定義した.くも膜下出血の重症度については世界脳神経外科学会(Worldツ黴€ Federationツ黴€ Neurologicalツ黴€ Surgeons:WFNS)分類4)を使用し,くも膜下出血の頭部 CT 分類は Fisher 分類4)を採用した.II結果対象症例 13 例の臨床所見を表 1,2 に示す.眼科初診時に両眼ともに硝子体出血が確認できたのは 5 例あった(両眼群).この 5 例中 2 例では,片眼の硝子体出血が軽度で,視力も比較的良好であったために,硝子体手術はより視力不良な片眼のみに行われた.その結果,5 例中両眼ともに手術を施行したものは 3 例であった.両眼群の内訳は男性 3 例,女性 2 例で,年齢は 45 60 歳(平均 53.2 歳)であった.一方,片眼のみに硝子体出血を認めたのは 8 例あった(片眼群).その内訳は男性 6 例,女性 2 例で,年齢は 40 57 歳(平均48.0 歳)であった.手術を施行した 16 眼の術前視力は手動弁から 0.6 にわたっており,両眼群 8 眼では手動弁 0.6(中間値 0.3),片眼群 8 眼では全例指数弁以下であった(図 1).16 眼中 8 眼(50%)で後部硝子体は完全に 離していた.完全 PVD は両眼群 8 眼中 4 眼(50%),片眼群 8 眼中 4 眼(50%)にみられた.なお,全例が有水晶体眼であった.表 1両眼硝子体出血症例(両眼群)の臨床所見症例年齢(歳)性別患眼術前視力くも膜下出血から硝子体 手術までの期間(月)手術術式後部硝子体 離術中術後合併症最終視力160女性右眼左眼0.60.458VIT,PEA,IOLVIT,PEA,IOL完全完全なしなし1.00.8255男性右眼左眼指数弁0.12.52.5VIT,PEA,IOLVIT,PEA,IOLなし不完全なしなし0.4*11.0349女性右眼左眼0.60.3─3手術なしVIT,PEA,IOL─完全─なし1.01.0457男性右眼左眼0.020.47─VIT,PEA,IOL手術なし完全─周辺裂孔─0.15*20.4545男性右眼左眼手動弁手動弁2.52.5VIT,PEA,IOLVIT,PEA,IOL不完全不完全なしなし0.50.9症例脳動脈瘤破裂部位Fisher分類WFNS分類術後観察期間(月)1左)内頸-後交通動脈分岐部3IV602不明不明不明483右)椎骨動脈2III94右)中大脳動脈分岐部4III125脳底動脈先端部3V3VIT:硝子体切除術,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術.*1:右眼中心性網膜炎の既往,*2:両眼ともに幼少時より視力不良.:両眼群:片眼群術前視力(小数視力)術後視力(小数視力)0.10.51.00.10.51.0図 1硝子体手術前後の視力変化———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010121(121)手術は全例において,合併症なく施行された.両眼群 8 眼は全例で水晶体摘出と眼内レンズ挿入術を併施した.片眼群8 眼中 3 眼は水晶体を温存して,硝子体手術のみ行った.術中眼底所見として,片眼群の 1 例に全層黄斑円孔が確認されたために術中にガス注入を行った.術後,両眼群と片眼群の各 1 眼に周辺網膜裂孔を認めたため,網膜光凝固を行った.そのほか,経過観察期間中に網膜 離,眼内炎,再出血などの術後合併症はなかった.術後視力は両群とも全例で改善した.両眼群 8 眼の最終視力は 0.15 から 1.0(中間値 0.8)となり,0.7 以上の視力良好例が 5 眼(62.5%)あった.片眼群 8 眼の最終視力は 0.3 から 1.5(中 間 値 0.9)と な り,0.7 以 上 の 視 力 良 好 例 は 7 眼(87.5%)であった(図 1).くも膜下出血の重症度分類(WFNS 分類)については,両眼群は Grade が 2 例,が 1 例,V が 1 例,不明が 1 例,片眼群では Grade が 1 例,が 3 例,V が 3 例,不明が1 例であった.頭部 CT 分類(Fisher 分類)では両眼群はGroupツ黴€ 2 が 1 例,3 が 2 例,4 が 1 例, 不 明 が 1 例 で あ り,片眼群では Groupツ黴€ 3 が 5 例,4 が 2 例,不明が 1 例であった.破裂脳動脈瘤を部位別にみると,両眼群では中大脳動脈分岐部,椎骨動脈,内頸-後交通動脈分岐部,脳底動脈先端部,不明がそれぞれ 1 例ずつあった.片眼群では中大脳動脈が 4例,椎骨動脈が 2 例,前交通動脈が 1 例,脳底動脈先端部が1 例であった.片眼群では硝子体出血と同側の破裂脳動脈瘤が 8 例中 5 例で確認され,頭部 CT 分類では同側にくも膜下出血を多く認めた.また,片眼群で前交通動脈に認められた脳動脈瘤破裂の 1 例は硝子体出血側と同側に出血を認めた.III考按くも膜下出血に伴う硝子体出血の発症機序に関しては諸説あるが,一般に急激な頭蓋内圧亢進とそれに伴う視神経鞘内くも膜下腔の圧上昇により網膜中心静脈が圧迫,閉塞されて網膜静脈のうっ血をきたし,さらに網脈絡膜吻合血管の代償機能も破綻し,これに惹起された静脈性出血が視神経乳頭近傍の網膜内境界膜を穿破し硝子体出血が生じるとする説が有力とされている2,3,5 8).この硝子体出血には両眼性のものと片眼性のものがあることが知られており,くも膜下出血の程度や部位と関連があると推測されるが,その詳細は不明な点が多く,両眼性と片眼性の症例の所見の差についても報告は少ない1 3).発症年齢は 40 歳代から 50 歳代がほとんどであったが,片眼群症例は両眼群に比べてやや年齢が若い傾向にあった.過去の報告では,硝子体出血を合併しているくも膜下出血例では,合併していないくも膜下出血例に比べて,年齢が有意に低いとしている2).これは重症くも膜下出血から回復した予後良好例が若年者に多いことが関与していると考えられている.今回の結果は,同じ硝子体出血を合併しても片眼例のほうがやや若年である傾向を示したものである.しかし,くも膜下出血では硝子体出血の確認にさえ至らない意識回復不能例または死亡例があるため,全体としての傾向は判定が困難と思われる.視力に関しては,片眼群は両眼群に比べて術前視力が不良な傾向にあった.両眼群では出血の程度が軽度 中等度であっても,日常生活に不便をきたすことが多いため,手術に踏み切った例が多かったと思われる.一方,片眼群では僚眼の視力が正常なことが多いため,より重症例だけが手術適応と表 2片眼硝子体出血症例(片眼群)の臨床所見症例年齢(歳)性別患眼術前視力くも膜下出血から硝子体 手術までの期間(月)手術術式後部硝子体 離術中術後合併症最終視力147男性右眼手動弁2VIT完全なし1.5240男性右眼指数弁2VIT不完全なし1.5348女性右眼手動弁4VIT,PEA,IOL完全周辺裂孔0.7448男性右眼手動弁24VIT,PEA,IOL完全なし0.7549女性左眼手動弁2VIT,PEA,IOL不完全なし0.3653男性左眼手動弁2VIT,PEA,IOL不完全なし0.8757男性右眼手動弁1VIT,PEA,IOL不完全なし1.0841男性左眼手動弁2VIT完全なし1.2症例脳動脈瘤破裂部位Fisher分類WFNS分類術後観察期間(月)1前交通動脈3V222右)椎骨動脈3IV363右)中大脳動脈3III314右)中大脳動脈4IV35左)中大脳動脈4V26脳底動脈先端部不明V27右)中大脳動脈3不明48右)椎骨動脈3IV3VIT:硝子体切除術,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術.———————————————————————- Page 4122あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(122)されたと考えられた.後部硝子体 離の有無については,もともと後部硝子体 離が起こっていない若年者ほど術中術後合併症が起こりやすく視力予後が悪いとの報告9)がある.今回,後部硝子体 離の有無は両群間に差はなかった.一般的にこの年代では後部硝子体は未 離の例が多いと思われるが,今回の症例にPVD 完全または不完全の症例が圧倒的に多いことは,急激な出血が硝子体を 離させるきっかけになっていると考えられる.Terson 症候群では単なる硝子体出血に加えてさまざまな眼底病変も合併することが報告されている7,9,10)が,今回検討した症例のなかには,片眼群の 1 例で全層黄斑円孔症例があった.出血前の視力が良好であったことから,黄斑円孔は硝子体出血による急激な後部硝子体 離に伴って発生した可能性が示唆された.術後視力は両群とも全例で改善し比較的良好な視力が得られたが,0.4 以下の術後視力不良例も全体で 3 眼に認めた.このうち,1 例は幼少時から視力不良であり,もう 1 例に中心性網膜炎の既往があった.これまでに Terson 症候群における術後視力不良の原因として,黄斑上膜7,9,10), 黄斑円孔7,9),網膜 離10)などの合併症,血液そのものによる網膜機能障害の可能性11)が報告されている.片眼群の 1 例では視力不良の原因が眼底所見からだけでは説明できず,くも膜下出血による脳機能障害が視力不良に関与している可能性も考えられた.Terson 症候群ではくも膜下出血の臨床的重症度が高い症例に眼底出血の頻度が高いことが知られている2,3,5,8).また,前交通動脈瘤破裂が原因の場合に高頻度にみられるとの報 告3,12)と,破裂動脈瘤の部位による眼底出血の頻度に差はなかったとの報告1,8)がある.さらに,動脈瘤の左右別と眼底出血側との関係については,関係ありとする報告1)とないとする報告12)がある.今回の結果では,片眼群は両眼群に比べてくも膜下出血の臨床的重症度が高かった.加えて,片眼群 8 例中 5 例で硝子体出血側と同側に破裂動脈瘤が確認され,正中部の動脈瘤破裂(前交通動脈瘤)が原因の片眼症例では,くも膜下出血の程度は硝子体出血側と同側に著しく認めた.さらに,両眼群には正中に近い部分での動脈瘤破裂や破裂脳動脈瘤の存在側と同側に硝子体出血をより多く認める傾向にあった.このことより片眼群ではくも膜下出血と硝子体出血が同側に,両眼群では正中に近い部分でのくも膜下出血が両眼性の硝子体出血の原因となる可能性が示唆され た3).今回の検討では,くも膜下出血後に意識を回復したうえで全身的な問題が大きくない症例に対し,患者の希望を尊重して硝子体手術が行われた.その背後には,意識不明のまま死に至った例,硝子体出血が軽度の例では手術を回避したために,対象に加わっていない例も多くあると思われる.その点で今回の結果は Tersonツ黴€ 症候群にみられる両眼出血例と片眼出血例の特徴を十分に捉えられていない可能性もある.結論として,今回の少数例での比較では片眼性の症例ではやや若年で重症度が高い症例に多く,頭部 CT 上でも同側の出血量が多い傾向にあった.両眼性,片眼性ともに硝子体手術によって比較的良好な視力が得られたため,全身状態が許せば,硝子体手術を施行することにより,精神的苦痛の除去,早期の社会復帰につながると思われた.文献 1) 柏原謙悟,山嶋哲盛,新多寿ほか:眼底出血を伴った破裂脳動脈瘤の予後.Neurol Med Chir(Tokyo) 26:689-694, 1986 2) 菅原貴志,高里良男,正岡博幸ほか:Terson 症候群をきたしたくも膜下出血 20 例の臨床的検討.脳卒中の外科 34:294-298, 2006 3) 竹内東太郎,笠原英司,岩崎光秀ほか:Terson 症候群を呈した上小脳動脈分岐部破裂動脈瘤の 1 例:症例報告と報告例 32 例の検討.脳神経外科 25:259-264, 1997 4) 大和田隆:脳血管障害.くも膜下出血.標準救急医学(小林国男編),第 2 版,p355-356,医学書院, 1998 5) 井上賢治,奥川加寿子,後藤恵一ほか:くも膜下出血に伴う網膜出血および硝子体出血(Terson 症候群).臨眼 59:1889-1893, 2005 6) Muller PJ, Deck JHN:Intraocular and optic nerve sheath hemorrhage in case of sudden intracranial hypertension. J Neurosurg 41:160-166, 1974 7) 藤本俊子,広川博之,太田勳男ほか:Terson 症候群の硝子体手術について─ 8 例 11 眼のまとめ─.眼臨 89:170-173, 1995 8) 篠田淳,岩村真事,岩井知彦ほか:破裂脳動脈瘤に伴う眼球内出血,自験例の統計的検討 Terson 症候群に対する考察.Neurol Med Chir(Tokyo) 23:349-354, 1983 9) 川島千鶴子,星兵仁,関保ほか:Terson 症候群に対する硝子体手術─とくに術後視力不良例についての検討─.眼紀 42:643-648, 1991 10) 大久保敏男,平形明人,三木大二郎ほか:テルソン症候群に対する硝子体手術.眼紀 47:1515-1519, 1996 11) Fahmy JA:Vitreous hemorrhage in subarachnoid hemor-rhage. Terson’s syndrome. Acta Ophthalmol 50:137-143, 1972 12) Fahmy JA:Fundal haemorrhages in ruptured intracrani-al aneurysms. I. Materal, frequency and morphology. Acta Ophthalmol 51:289-298, 1973***

非球面眼内レンズFY-60AD の術後成績

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(115)ツ黴€ 1150910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):115 118,2010cはじめに非球面眼内レンズ(以下,非球面 IOL)は,従来の球面眼内レンズ(以下,球面 IOL)でみられた白内障術後の球面収差の増加という問題点を解消するために開発された IOL である.非球面 IOL では,非球面形状がもたらす球面収差の減少によって,コントラスト感度の向上などより良い視機能の獲得が期待され,幾つかの非球面 IOL においては優れた臨床効果が確認されている1 7).その一方,非球面の効果はIOL の偏心量が増加するほど低下し,Holladay らの検討では偏心量が約 0.4 m mを超える場合には球面 IOL に劣るとされている8).そのため,非球面 IOL の使用に際しては IOLを完全 内固定にして偏心を少なく抑えることが重要であるが,瞳孔径による瞳孔中心の偏位9,10)で眼球の光学中心とIOL の中心がずれる場合もあり,IOL の偏心の影響を受けにくい非球面 IOL の開発が望まれる.今回筆者らは,光学部前面を非球面形状化し,さらに IOL〔別刷請求先〕高橋幸輝:〒885-0051 都城市蔵原町 6-3宮田眼科病院Reprint requests:Koki Takahashi, M.D., Miyata Eye Hospital, 6-3 Kurahara-cho, Miyakonojo, Miyazaki 885-0051, JAPAN非球面眼内レンズ FY-60AD の術後成績高橋幸輝大谷伸一郎南慶一郎本坊正人三根慶子宮田和典宮田眼科病院Clinical Results of Aspheric Intraocular Lens FY-60AD ImplantationKoki Takahashi, Shinichiro Ohtani, Keiichiro Minami, Masato Honbou, Keiko Mine and Kazunori MiyataMiyata Eye Hospital非球面眼内レンズ(IOL)挿入眼と,球面 IOL 挿入眼の術後 1 カ月までの視機能を比較検討した.対象は,宮田眼科病院で同一術者が両眼に白内障手術を行い,IOL を挿入した 50 例 100 眼(平均年齢 70.8±5.6 歳,男性 14 例,女性36 例)である.片眼に IOL の偏心による非球面効果への影響を抑えた非球面 IOLツ黴€ FY-60AD(HOYA 社)を,僚眼に同一素材で光学部以外が同一形状の球面 IOLツ黴€ YA-60BBR(HOYA 社)を挿入した.術後 1 カ月の矯正視力,眼球全体の高次収差,暗所・中間・明所でのコントラスト感度,IOL の偏心量および傾斜量を比較検討した.非球面 IOL は,球面収差が4 mmおよび6 mmで有意に少なく(p<0.01),球面様収差,全高次収差は,4 m mおよび6 m mで,コマ様収差は6 mmで有意に少なかった(p<0.01).コントラスト感度は,明所では両群に差はなかったが,暗所および中間照度で非球面 IOL が良好であった(p<0.05).他の測定項目は両群に差はなかった.非球面 IOLツ黴€ FY-60AD は,従来の球面 IOL と比較し術後の高次収差が少なく,さらに,他の非球面 IOL と異なり,暗所だけでなく中間照度下においてもコントラスト感度が向上した.We evaluated the clinical results of aspheric intraocular lens(IOL)and spherical IOL implantation in 100 eyes ofツ黴€ 50ツ黴€ patientsツ黴€ whoツ黴€ underwentツ黴€ bilateralツ黴€ cataractツ黴€ surgery.ツ黴€ Inツ黴€ eachツ黴€ patients,ツ黴€ oneツ黴€ eyeツ黴€ wasツ黴€ randomlyツ黴€ assignedツ黴€ an asphericツ黴€ IOL,ツ黴€ theツ黴€ FY-60AD(HOYA);theツ黴€ otherツ黴€ eyeツ黴€ receivedツ黴€ aツ黴€ sphericalツ黴€ IOL,ツ黴€ theツ黴€ YA-60BBR(HOYA),ツ黴€ ofツ黴€ the same material and platform. At 1 month postoperatively, best-corrected visual acuity, ocular higher-order aberra-tions(HOA), contrast sensitivity under mesopic, intermediate and photopic illuminations, IOL tilt and decentration were compared. Ocular coma-like aberration(6 mm), spherical-like aberration, total HOA and spherical aberration(4 mmツ黴€ and 6 mm)wereツ黴€ signi cantlyツ黴€ smallerツ黴€ inツ黴€ theツ黴€ asphericツ黴€ IOLツ黴€ group(p<0.01).ツ黴€ Mesopicツ黴€ andツ黴€ intermediateツ黴€ con-trastツ黴€ sensitivitiesツ黴€ wereツ黴€ signi cantlyツ黴€ betterツ黴€ withツ黴€ theツ黴€ asphericツ黴€ IOL(p<0.05).ツ黴€ Noツ黴€ signi cantツ黴€ di erencesツ黴€ wereツ黴€ found inツ黴€ otherツ黴€ parameters.ツ黴€ Theツ黴€ asphericツ黴€ IOLツ黴€ FY-60ADツ黴€ demonstratedツ黴€ lessツ黴€ ocularツ黴€ HOAツ黴€ andツ黴€ betterツ黴€ contrastツ黴€ sensitivity under mesopic and intermediate conditions than the spherical IOL.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):115 118, 2010〕Key words:非球面眼内レンズ,視機能,偏心,高次収差,コントラスト感度.asphericツ黴€ intraocularツ黴€ lens,ツ黴€ visual function, decentration, higher-order aberrations, contrast sensitivity.———————————————————————- Page 2116あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(116)の偏心による影響を抑えるように設計された新しいアクリル製非球面 IOL である FY-60AD(HOYA 社)を挿入した眼の術後 1 カ月までの視機能について,同一素材の球面 IOL を挿入した眼と比較検討したので報告する.I対象および方法今回使用した非球面 IOL FY-60AD は,光学部前面が非球面形状になっており,IOL で 0.18 μm の負の球面収差をもち,術後眼球全体で約 0.1 μm の正の球面収差を残すように設定されている.さらに,IOL の偏心による影響を抑えるため,光学部の中心から約 0.8 m mの部分で一旦 IOL の度数を下げて強めの負の球面収差をもたせた Asphericツ黴€ Balanced Curve 設計という特殊な非球面形状となっている.この形状により IOL の偏心による非球面効果の低下を軽減することができ,模型眼を使った実験では,0.6 m m程度の偏心でも非球面効果が維持されるとされている.対象は,2005 年 3 月から 7 月までに宮田眼科病院で同一術者が小切開白内障手術を行い,術後 1 カ月までの経過を観察できた 50 例 100 眼である.対象の平均年齢は 70.8±5.6歳で,男性 14 例,女性 36 例であった.屈折異常および白内障以外の眼疾患を有する例や 1.0D 以上の角膜乱視を有する例は対象から除外した.対象の片眼にアクリル製非球面IOL FY-60AD を挿入し(以下,FY 群),僚眼に同一素材で光学部以外は同一形状の球面 IOL YA-60BBR(HOYA 社)を挿入した(以下,YA 群).左右眼は FY 群と YA 群の 2群に無作為に割り付けた.術前の瞳孔径は,暗所で FY 群5.39±0.68 m m,YA 群 5.36±0.67 m m,明所で FY 群 3.87±0.53 mm,YA 群 3.90±0.59 mmと両群間に差はなかった.白内障手術は全例で 2.75 m mの上方強角膜切開創から超音波乳化吸引術を行い,IOL はインジェクターを使用して挿入し,IOL が完全 内固定されていることを確認した.術中に特記すべき合併症はみられなかった.術後 1 カ月までの視機能の検討項目として,矯正視力,高次波面収差,照度別の縞視標コントラスト感度,IOL の眼内安定性検査として IOL の偏心量および傾斜量,それぞれを比較検討した.また,コントラスト感度測定時の各照度別の瞳孔径も計測した.高次波面収差は,ウェーブフロント・アナライザ KR-9000PW(TOPCON 社)を用いて,中心 4.0 mm径と 6.0 m m径における全屈折成分の波面収差を測定し,球面収差,コマ様収差,球面様収差,全高次収差(RMS 値)を解析した.縞視標コントラスト感度は,Ohtani らの検討7)と同様に,暗所(平均 13 lux),中間(平均 64 lux),明所(平均 167 lux)の 3 照 度 下 で,F.A.C.T. チ ャ ー ト(STEREO OPTICAL,ツ黴€ USA)を 用 い て,1.5,3,6,12,18(cycles/degree,以下 c.p.d.)各空間周波数ごとに測定した.さらに,それらの結果から AULCSF(areaツ黴€ underツ黴€ theツ黴€ logツ黴€ contrast sensitivityツ黴€ function)を算出した.偏心量および傾斜量は,前眼部解析装置 EAS-1000(NIDEK 社)を用いて測定した.瞳孔径はデジタルカメラにて撮影し計測した.FY 群と YA 群の統計学的検討方法として,矯正視力はWilcoxon 符号付順位和検定を,それ以外は対応のある t 検定を行い,p<0.05 を統計学的に有意とした.II結果術後 1 カ月の平均矯正視力は,FY 群 1.34,YA 群 1.32 と両群とも良好で,経過中の術後 2 日,1 週間,1 カ月のそれぞれの時点において両群間に有意差を認めなかった(図 1).術後 1 カ月の全屈折成分の高次波面収差(単位はすべてμm)は,球面収差は,中心 4.0 m m径で FY 群 0.03±0.04,YA 群 0.09±0.04,6.0 m m径 で FY 群 0.12±0.15,YA 群0.41±0.13 であり,両径とも FY 群で有意に少なかった(p<0.001)(図 2).コマ様収差,球面様収差および全高次収差は, 中 心 4.0 m m径では,コマ様収差(FY 群 0.16±0.08,YA 群 0.18±0.06),球面様収差(FY 群 0.07±0.03,YA 群0.12±0.03),全高次収差(FY 群 0.18±0.08,YA 群 0.22±0.05)で,球面様収差および全高次収差で FY 群が有意に少なかった(p<0.01)(図 3a).6.0 m m径ではコマ様収差(FY群 0.45±0.18,YA 群 0.55±0.18),球面様収差(FY 群 0.26±0.11,YA 群 0.49±0.12),全高次収差(FY 群 0.53±0.18,中心4mm収差(μm)中心6mm00.20.40.6**図 2術後1カ月の球面収差(全屈折成分):非球面 IOL,:球面 IOL.*:p<0.001.観察期間2日1週1カ月1.01.50.8矯正視力1.2図 1矯正視力の経過■:非球面 IOL,▲:球面 IOL.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010117(117)YA 群 0.75±0.18)で,すべてにおいて FY 群が有意に少なかった(p<0.001)(図 3b).術後 1 カ月の縞視標コントラスト感度は,暗所では 1.5,3,6(c.p.d.)で,中間照度では 3,6(c.p.d.)で FY 群が YA群より有意にコントラスト感度が向上し(p<0.05),明所では両群間に有意差を認めなかった(図 4a).また,AULCSF(area under the log contrast sensitivity function)は,暗所(FY 群 1.53±0.18,YA 群 1.44±0.23),中間照度(FY群1.77±0.19,YA 群 1.69±0.22), 明 所(FY 群 1.90±0.15,YA 群 1.88±0.17)で,暗所および中間照度において両群間に有意差を認めた(p<0.01)(図 4b).術 後 1 カ 月 の IOL の 偏 心 量 は,FY 群 0.22±0.11 m m,YA 群 0.22±0.10 mm,傾斜量は,FY 群 1.90±0.84°,YA群 2.29±0.85°で両群間に有意差を認めなかった.コントラスト感度測定時の各照度別瞳孔径は,暗所で FY群 4.99±0.66 m m,YA 群 4.94±0.69 m m,中間照度で FY群 4.50±0.69 m m,YA 群 4.44±0.67 m m,明所でFY群4.14±0.63 m m,YA 群 4.13±0.68 m mで両群に差はなく,中間照度での瞳孔径は明所と暗所の中間付近の値となった.III考按今回の結果では,非球面 IOL を挿入した FY 群は,球面IOL を挿入した YA 群と比較し,中心4 mmおよび6 mmでの全屈折成分の球面収差が有意に少なかった.これは,これ図 3術後1カ月の高次波面収差a:全屈折成分;中心4 mm.:非球面 IOL,:球面 IOL.*:p<0.01,**:p<0.001.b:全屈折成分;中心6 mm.:非球面 IOL,:球面 IOL.**:p<0.001.00.10.20.3***コマ様収差球面様収差全高次収差00.20.40.60.81.0コマ様収差球面様収差全高次収差******a.ツ黴€ 中心4mmb.ツ黴€ 中心6mm収差(?m)収差(?m)図 4術後1カ月のコントラスト感度とAULCSFa: 術後 1 カ月の照度別縞視標コントラスト感度.■:非球面 IOL,▲:球面 IOL.*:p<0.05,**:p<0.01.b: 術後 1 カ月の照度別 AULCSF(area under the log contrast sensitivity function).:非球面IOL,:球面 IOL.*:p<0.01.0空間周波数(cycles/degree)6312181.56312181.56312181.5暗所中間明所0.51.01.52.0暗所中間明所対数コントラスト感度a.ツ黴€ b.ツ黴€ 縞視標コントラスト感度AULCSF02.01.0AULCSF***********———————————————————————- Page 4118あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(118)ま で の 他 の 非 球 面 IOL に お け る 検討3 7)と 同 様 に,FY-60AD の非球面性により角膜の球面収差が補正された結果,全屈折成分の球面収差が減少したと考えられた.また,FY群の中心6 mmでの全屈折成分の球面収差は平均 0.12 μm であり,眼球全体で約 0.1 μm の球面収差を残すという FY-60AD の設計概念に近い結果であった.FY 群は中心4 mmでは球面様収差と全高次収差が有意に少なく,中心6 mmではコマ様収差,球面様収差,全高次収差が有意に少なかった.FY 群でみられた球面収差の減少が球面様収差の減少に寄与し,さらには全高次収差の減少にも貢献したと考えられた.術後 1 カ月のコントラスト感度は,明所では両群に差がなかったが,暗所および中間照度下で FY 群が有意に良好な結果であった.これまでに明所,暗所に中間照度を含めた 3 照度で非球面 IOL のコントラスト感度を検討した報告は少ないが,非球面 IOLツ黴€ Tecnisツ黴€ Z9000(AMO 社)では,暗所でコントラスト感度の向上がみられたものの中間照度および明所では球面 IOL と有意差を認めなかったと報告されている6,7).FY-60AD が,球面 IOL と比較して,暗所だけでなく中間照度下でもコントラスト感度が良好であった要因として,上述の IOL の非球面効果による眼球全体の球面収差の減少に加えて,コマ様収差の減少がみられたことがあげられる.これまでの検討では,球面 IOL と比較して球面収差は減少してもコマ様収差は有意差がみられなかった3,4,7)が,今回の検討では球面収差に加えてコマ様収差が有意に減少していた.このことから,全屈折光学系の収差を抑えて網膜での結像特性をより向上させ,中間照度下でのコントラスト感度の向上に寄与したと考えられた.非球面 IOL は,IOL の偏心や傾斜によって徐々に非球面効果が低下し,Holladay らは非球面 IOL の偏心量が約0.4 mmを超えると球面 IOL を下回ることを報告している8).今回の検討では,術後 1 カ月の非球面 IOL の偏心量は平均0.22 mmと少なく抑えられていた.しかし,前眼部解析装置EAS-1000 を用いた偏心量の測定では,散瞳時に測定を行うため縮瞳時の偏心量については明らかでない.縮瞳によって瞳孔中心が偏位することが知られており,明所と暗所での偏位量は,Yang らの検討では平均 0.13 m m,Erdem らの検討では平均 0.08 m mで9,10),瞳孔中心の移動により 0.1 m m程度 IOL が相対的に偏位すると考えられる.今回の検討での IOL 自体の偏心量が平均 0.22 m mであっても,暗所と明所で瞳孔中心の偏位が IOL の偏位の方向と逆向きであれば,瞳孔中心の偏位量が付加されて相対的に 0.3 m m程度の偏心量になっていることが示唆される.中間照度においては,瞳孔径が明所と暗所の中間付近であったことから,瞳孔中心の偏位も少なからず存在し相対的に 0.22 m mを超える偏心量になっていたと考えられる.偏心量が増加すれば非球面 IOLの非球面効果は低下し球面 IOL に対する優位性が減少するが,今回使用した非球面 IOL は Asphericツ黴€ Balancedツ黴€ Curve設計のために偏心による非球面効果の低下が少なく,そのことも中間照度下においてもコントラスト感度が向上した一因となった可能性がある.今回の術後 1 カ月までの検討では,非球面 IOL FY-60ADは良好な矯正視力が得られるとともに,高次波面収差の減少とそれに伴うコントラスト感度の向上が認められ,十分な非球面効果を発揮することができた.しかし,術後に発生する後発白内障などにより非球面効果が低下してくることも懸念されるため,術後長期にわたって良好な成績を得られるかについてはさらなる検討が必要である.文献 1) Mester U, Dillinger P, Anterist N:Impact of modi ed optic design on visual function:clinical comparative study. J Cataract Refract Surg 29:652-660, 2003 2) Packer M, Fine IH, Ho man RS et al:Improved function-alツ黴€ visionツ黴€ withツ黴€ aツ黴€ modi edツ黴€ prolateツ黴€ intraocularツ黴€ lens.ツ黴€ Jツ黴€ Cata-ract Refract Surg 30:986-992, 2004 3) Rocha KM, Soriano ES, Chalita MR et al:Wavefront anal-ysis and contrast sensitivity of aspheric and spherical intraocular lenses:a randomized prospective study. Am J Ophthalmol 142:750-756, 2006 4) Kasper T, Buhren J, Kohnen T et al:Visual performance of aspherical and spherical intraocular lenses:intraindi-vidual comparison of visual acuity, contrast sensitivity, and higher-order aberrations. J Cataract Refract Surg 32:2022-2029, 2006 5) Takeoツ黴€ S,ツ黴€ Watanabeツ黴€ Y,ツ黴€ Suzukiツ黴€ Mツ黴€ etツ黴€ al:Wavefrontツ黴€ analy-sis of acrylic spherical and aspherical intraocular lenses. Jpn J Ophthalmol 52:250-254, 2008 6) 大谷伸一郎,月花慎,本坊正人ほか:シリコーン製非球面眼内レンズの視機能に対する検討.IOL&RS 23:205-209, 2009 7) Ohtani S, Gekka S, Honbou M et al:One-year prospec-tive intrapatiant comparison of aspherical and spherical intraocular lenses in patients with bilateral cataract. Am J Ophthalmol 147:984-989, 2009 8) Holladayツ黴€ JT,ツ黴€ Piersツ黴€ PA,ツ黴€ Koranyiツ黴€ Gツ黴€ etツ黴€ al:Aツ黴€ newツ黴€ intraocu-lar lens design to reduce spherical aberration of pseu-dophakic eyes. J Refract Surg 18:683-691, 2002 9) Yang Y, Thompson K, Burns SA:Pupil location under mesopic, photopic, and pharmacologically dilated condi-tions. Invest Ophthalmol Vis Sci 43:2508-2512, 2002 10) Erdem U, Muftuoglu O, Gundogan FC et al:Pupil center shift relative to the coaxially sighted corneal light re ex underツ黴€ naturalツ黴€ andツ黴€ pharmacologicallyツ黴€ dilatedツ黴€ conditions.ツ黴€ J Refract Surg 24:530-538, 2008

ハンセン病性強膜炎既往者の白内障手術長期成績

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(111)ツ黴€ 1110910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):111 114,2010cはじめにハンセン病はらい菌による感染症で,眼合併症の一つとして強膜炎を発症することが知られている1 3).また,本病の臨床的治癒期にも強膜炎は生じ,ごくまれに壊死性強膜炎になり重篤な視力障害を起こすこともある4,5).これまでに,通常の白内障手術後の合併症で壊死性強膜炎を発症し失明した報告6 8)はまれであるが散見される.しかし,強膜炎の既往眼に白内障手術を行い術後成績の検討した報告はきわめて少ない2,9).1996 年,筆者らはハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi cationツ黴€ and aspiration:PEA)と眼内レンズ(intraocularツ黴€ lens:IOL)挿入術を施行し術後短期の成績を報告10)した.しかし,同疾患の強膜炎既往眼の白内障に対し PEA を行い,術後成績を検討した報告はない.今回,ハンセン病性強膜炎既往眼に対して PEA+IOL 挿入術を施行し,5 年以上経過観察できた症例の長期成績をまとめたので報告する.〔別刷請求先〕上甲覚:〒180-8610 武蔵野市境南町 1-26-1武蔵野赤十字病院眼科Reprint requests:Satoru Joko, M.D., Department of Ophthalmology, Musashino Red Cross Hospital, 1-26-1 Kyonan-cho, Musashino 180-8610, JAPANハンセン病性強膜炎既往者の白内障手術長期成績上甲覚*1堀江大介*2*1 武蔵野赤十字病院眼科*2 国立療養所多磨全生園眼科Long-Term Outcome of Cataract Surgery in Patients with Scleritis due to LeprosySatoru Joko1) and Daisuke Horie2)1)Department of Ophthalmology, Musashino Red Cross Hospital, 2)Department of Ophthalmology, National Leprosarium, Tama-Zensho-En目的:ハンセン病性強膜炎既往者の白内障に施行した超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術の長期成績を調べること.対象:ハンセン病性強膜炎の既往者で,白内障手術後 5 年以上経過観察できた 9 例 11 眼を対象とした.手術時平均年齢は 69 歳(59 76 歳),平均経過観察期間は 11 年(8 年 3 カ月 13 年 1 カ月)であった.結果:術中,重篤な合併症はなかった.術後最高視力は全例で 2 段階以上改善し,0.5 以上であった.最終視力は 10 眼(91%)で 2 段階以上の改善を維持し,0.5 以上は 6 眼(55%)であった.強膜炎の再発はなかったが,兎眼のある患者に角膜上皮障害が多くみられ,視力低下のおもな原因の一つであった.結論:本症例での小切開による白内障手術は,安全で有用であった.視力改善率は高いが,長期的には視力の低下する症例があり,ハンセン病関連の眼合併症に注意が必要であった.Thisツ黴€ isツ黴€ aツ黴€ reportツ黴€ onツ黴€ theツ黴€ long-termツ黴€ outcomeツ黴€ ofツ黴€ phacoemulsi cationツ黴€ cataractツ黴€ extractionツ黴€ andツ黴€ intraocularツ黴€ lens(IOL)implantationツ黴€ inツ黴€ patientsツ黴€ withツ黴€ aツ黴€ historyツ黴€ ofツ黴€ scleritisツ黴€ dueツ黴€ toツ黴€ leprosy.ツ黴€ Weツ黴€ retrospectivelyツ黴€ reviewedツ黴€ theツ黴€ medical records of 11 eyes of 9 patients who had observed for 8 or more years postoperatively. Their ages ranged from 59 to 76 years, averageing 69 years.;mean follow-up period was 11 years after surgery. No signi cant intraoperative complications occurred. All 11 eyes showed best visual acuity of 0.5 or better. The last recorded visual acuity was 0.5 or better in 6 eyes(55%)and had improved by 2 or more lines in 10 eyes(91%). Visual acuity below 0.5 was due to the corneal and/or macular disorders. Pacoemulsi cation with IOL implantation is safe and e ective in lep-rosy patients with scleritis, though leprosy-related ocular complications occur frequently and a ected vision.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):111 114, 2010〕Key words:ハンセン病(らい),強膜炎,白内障手術,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ.Hansen’s disease(leprosy), scleritis, cataract surgery, phacoemulsi cation and aspiration, intraocular lens.———————————————————————- Page 2112あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(112)I対象および方法対象は 1994 年 3 月から 1995 年 7 月の間に多磨全生園において,同一術者が PEA と IOL 挿入術を施行後,5 年以上経過観察できたハンセン病性強膜炎の既往がある 9 例 11 眼である.男性 6 例 7 眼,女性 3 例 4 眼,手術時平均年齢は69 歳(59 76 歳)であった.明らかな強膜の菲薄化を伴う症例はなかった.これらの症例に関して,2008 年 3 月末までの診療録をレトロスぺクティブにまとめた.術前の患者背景を表 1 に示す.強膜炎の炎症鎮静期間は平均 125 カ月(24 267 カ月)であった.症例 3 の 1 眼を除いた 10 眼はぶどう膜炎の既往もあり,その炎症鎮静期間は平均 24 カ月(11 38 カ月)であった.術後経過観察期間は,平均 11 年 1 カ月(8 年 3 カ月 13年 1 カ月)であった.なお,関節リウマチなどの膠原病を合併した症例は含まれていない.手術方法の概要を以下に記載する.手術用顕微鏡には TOPCONツ黴€ OMS-600,超音波の装置はAlconツ黴€ 10000Master を使用した.麻酔は,全例 Tenonツ黴€ 下による浸潤麻酔で行った.4 mm以下の小瞳孔の症例は,瞳孔縁部分切開とツ黴€ exibleツ黴€ irisツ黴€ retractor(Griesツ黴€ Haberツ黴€ 社)を使用し瞳孔領の確保を行った.PEA は divideツ黴€ andツ黴€ conquer法で行い,全例 IOL を挿入した.使用した IOL は,シングル・ピースの polymethylmethacrylate(PMMA)レンズ(Alconツ黴€ LX90BDツ黴€ CILCO)と 3 ピースのアクリルソフトレンズ(Alcon MA60BM)である.PMMA レンズを挿入した,症例 1 6 の右眼までの切開創の幅は,強角膜 6.0 m mであった.切開創は 10-0 ナイロン糸の連続縫合をした.症例 6 の左眼から症例 9 は,強角膜を 3.5 4.0 m m切開しアクリルソフトレンズを挿入した.創は無縫合であった.手術終了時,デキサメタゾンリン酸ナトリウム 0.5 mlの結膜下注射を行った.II結果術前,術後の視力変化を表 2 に示す.術後最高視力は,全例で少数視力が 4 段階以上改善し 0.5以上であった.最終視力は 10 眼(91%)で視力の改善を維持できたが,0.5 以上は 6 眼(55%)と約半減した.術中・術後のおもな併発・合併症は表 3 に示す.後 破損した症例 9 では 外に IOL を固定した.その他に,特に重篤な合併症は起こさなかった.術後の眼疾患は角膜障害が最も多く 10 眼(91%)にみられ,うち 8 眼は術前より兎眼があった.前房内炎症の再燃は表 1術前の患者背景症例手術時年齢性別術眼術前強膜炎発症回数*術前強膜炎鎮静期間菌検査陰性期間術前のおもな眼疾患術後経過観察期間166 歳男性左1 回(2)3年1カ月32 年13年1カ月266 歳男性左4 回(2)8年11カ月 3年兎眼,角膜混濁,緑内障12年6カ月374 歳男性左3 回(0)22年3カ月13 年兎眼8年3カ月470 歳女性右3 回(9)14年11カ月15 年角膜混濁12年6カ月576 歳男性左2 回( )18年3カ月23 年角膜混濁9年0カ月659 歳女性右3回3年8カ月18 年兎眼12年10カ月左2回4年7カ月兎眼,高眼圧12年10カ月765 歳男性右2 回(0)20年2カ月10 年兎眼,角膜混濁,外反症11年10カ月876 歳男性右2回2年8カ月33 年兎眼12年10カ月左3回2年0カ月兎眼12年10カ月969 歳女性右3 回(0)14年4カ月21 年兎眼,角膜混濁,外反症12年4カ月 *:()内は僚眼の強膜炎発症回数.症例 5 の右眼は 33 歳のとき眼球摘出. ただし,1955 1960 年(昭和 30 35 年)以前の病歴は不明な点が多いので,発症回数はあくまでも参考データ.表 2術前・術後視力症例術前矯正小数視力術後視力最高5 年前後*最終10.151.01.01.020.20.70.20.630.21.21.20.640.020.80.20.250.40.80.60.46(右)0.151.20.81.06(左)0.21.50.90.870.041.00.70.58(右)0.040.5─0.38(左)0.060.7─0.390.040.60.60.3*: 症例 1 7,9 の平均 62 カ月(50 71 カ月)後の視力. 症例 8 は 5 年前後の受診歴なし.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010113(113)4 眼(36%)に発症し,4 眼とも術前にぶどう膜炎の既往があった.しかし,本症例では強膜炎の術後再発はなかった.最終視力が 0.5 未満に低下した 5 眼のおもな原因は,角膜障害が 4 眼,黄斑障害が 1 眼であった.角膜障害 4 眼のうち3 眼は術前より兎眼がみられた.後発白内障は 6 眼(55%)に生じ,Nd:YAG レーザーによる後 切開を行った.III考按ハンセン病の原因であるらい菌は,末梢神経に寄生し慢性の経過をたどる.眼球は神経組織に富んだ器官であり,神経親和性のあるヘルペスウイルス同様,らい菌の好発部位でもある.そして両病原菌は強膜炎の合併率が高いことで知られている1 3,11).これまで,ハンセン病患者(既往者)に白内障手術を行い術後成績を検討した報告は多数あるが,本疾患の強膜炎既往眼に白内障手術を行い検討した報告2)は少ない.1987 年,井上ら2)はハンセン病療養所 8 施設で,水晶体 内摘出術(intracapsularツ黴€ cataractツ黴€ extraction:ICCE)が行われた症例を,術前のハンセン病眼合併症と術後の視力改善率について検討している.1974 年 12 月から 1982 年 10 月の期間に手術が行われた 376 眼中 129 眼(34%)に強膜炎の既往があった.その 129 眼中 106 眼(83%)は,術後視力の2 段階以上の改善をみたと報告した.今回の症例の術後最高視力は,全例で改善し矯正小数視力0.5 以上と良好であった.ICCE と比べて PEA は小切開で手術侵襲が小さいので良好な術後視力を得られたと思われる.最終視力は 10 眼(91%)で改善を維持したが,兎眼に伴う角膜上皮障害や前房内炎症の再燃に伴う黄斑変性で視力は低下傾向を示した.これまでに,ハンセン病患者で白内障手術後の長期成績を検討した報告は少ない12).通常の白内障手術より,高頻度に失明した報告13)もあるので,本疾患は長期に注意深い経過観察が大切である.井上ら2)の報告では術後合併症の検討をしていないが,本症例は 4 眼(36%)に前房内炎症の再燃を生じた.経過 1 年以内に 2 眼(18%)に生じ,2 年目以降にも 2 眼(18%)が再燃を起こしている.この 4 眼はぶどう膜炎の既往もあり,前房内炎症の再燃には注意が必要と考えた.ただし,理由は不明であるが,術後 6 年目以降は全例再発を起こしていない.また,術後に強膜炎の再発はなかった.その理由として,強膜炎の炎症鎮静期間が,全例 24 カ月以上と長期であったことが可能性として考えられた.本症例 9 例(11 眼)の皮膚塗抹検査における菌指数は,平均 20 年間陰性であった.すなわち,臨床的に長期間治癒の状態であった.しかし,強膜炎とぶどう膜炎(8 例 10 眼)の炎症鎮静期間は,それぞれ平均 125 カ月(24 267 カ月)と24 カ月(11 38 カ月)であった.ハンセン病は全身的に治癒の状態でも,なぜ眼炎症性疾患の再燃を起こしやすいのかは不明である3,4).術中,Zinn 小帯断裂を生じた 1 眼に前房内炎症の再燃が,術後 4 年目と 5 年目以降の 2 回生じている.この 1 眼は男性の症例で,術中合併症がなく前房内炎症の再燃がみられた 2例 3 眼は女性であった.女性に多い傾向がみられたが,症例を増やして統計学的に検討する必要がある.後 破損は 1 眼に生じたが,特に重篤な術後合併症はなかった.最近の白内障手術は当時(1995 年)よりも小切開で,使用する機器の性能も格段に向上している.したがって,本疾患における手術そのものの安全性は高いと思われるが,角膜混濁が強い症例もあるので,適応には十分注意する必要があ る14).今回,9 例 11 眼のハンセン病性強膜炎の既往眼で,白内障手術長期成績をまとめることができた.一施設で,強膜炎既往眼の白内障手術を多数例検討するのはむずかしい.今後,多施設での検討が必要と考える.本論文の要旨は,第 113 回日本眼科学会総会(学術展示)で発表 3おもな術中合併症・術後併発症症例術中合併症おもな術後合併・併発症術後,前房中の炎症再燃時期後発白内障:YAGレーザーの時期1特記すべきことなし1年3カ月後2角膜上皮障害1年3カ月後3角膜上皮障害3年4カ月後4角膜上皮障害,高度の IOL 細胞沈着,黄斑変性1年7カ月後5角膜上皮障害9 カ月後6(右)角膜上皮障害1 年後3年10カ月後6(左)角膜上皮障害11 カ月,2 年,4 年 4 カ月後7Zinn 小帯断裂角膜上皮障害,IOL 偏位4年3カ月,5年9カ月後4 カ月後8(右)角膜上皮障害,高眼圧8(左)角膜上皮障害9後 破損角膜上皮障害,前部硝子体脱出———————————————————————- Page 4114あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(114)表した.文献 1) Rawal RC, Kar PK, Desai RN et al:A clinical study of eyeツ黴€ complicationsツ黴€ inツ黴€ leprosy.ツ黴€ Indianツ黴€ Jツ黴€ Lepr 56:232-240, 1984 2) 井上愼三,松村香代子,鈴木秀樹:癩患者の白内障手術,癩眼合併症と術後視力.臨眼 41:615-618, 1987 3) 上甲覚,沼賀二郎,藤野雄次郎ほか:らい(ハンセン病)の上強膜炎とヒト主要組織適合抗原.日眼会誌 101:167-172, 1997 4) Poon A, Maclea H, Mckelvie P:Recurrent scleritis in lep-romatous leprosy. Aust NZ J Ophthalmol 26:51-55, 1998 5) Rathinam SR, Khazaei HM, Job CK:Histopathological study of ocular erythema nodosum leprosum and post-therapeutic scleral perforation:a case report. Indian J Ophthalmol 56:417-419, 2008 6) Bloom eld SE, Becker CG, Christian CL et al:Bilateral necrotizing scleritis with marginal corneal ulceration after cataract surgery in a patient with vasculitis. Br J Ophthal-mol 64:170-174, 1980 7) Salamon SM, Mondino BJ, Zaidman GW:Peripheral cor-neal ulcers, conjunctival ulcers, and scleritis after cataract surgery. Am J Ophthalmol 93:334-337, 1982 8) 宮坂英世,後藤晋,中村桂三ほか:白内障術後に発症した強角膜軟化症に対する治療.日眼会誌 99:735-738, 1995 9) Chirls IA, Norris JW, Norris JW 3rd:Uncomplicated cata-ract surgery in a patient with scleritis. J Cataract Refract Surg 17:865-866, 1991 10) 上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌 65:170-173, 1996 11) 福田昌彦:帯状ヘルペスウイルスによる前眼部病変について教えてください.あたらしい眼科 17(臨増):145-147, 2000 12) 上甲覚,堀江大介:片眼失明のハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障手術成績.臨眼 63:465-469, 2009 13) 岡野美子,松尾信彦,吉野美重子ほか:らいの失明原因.臨眼 48:291-293, 1994 14) 上甲覚:Hansen 病性ぶどう膜炎の白内障手術(1)術前の基礎.あたらしい眼科 26:343-345, 2009***

緑内障・高眼圧症患者へのインターネットによるアンケート調査

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(105)ツ黴€ 1050910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):105 110,2010cはじめに緑内障による視野の障害は,個々の患者の QOL(quality ofツ黴€ life)を大きく損なうことになるため,早期の診断と,積極的な治療が必要とされる.緑内障患者においては,生涯にわたって視力や視野に代表される視機能の管理が必須であり,その治療法として,薬物治療,レーザー治療,手術治療などの選択肢がある.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は,緑内障診療ガイドライン1)に示されているように,眼圧を下降することであり,その目的のためには,患者自身がコンプライアンスを遵守し薬物治療を継続することが,非常に重要である.今までにも,緑内障・高眼圧症患者を対象とした治療状況やコンプライアンスに関するさまざまな報告がなされているが,治療状況だけでなく,患者がどの程度疾患について認知し,どのような意識で治療を受けているのかを明らかにした報告は少ない.本報告では,より質の高い緑内障・高眼圧症の治療に役立てることを目的として,緑内障・高眼圧症患者を対象に実施したインターネットによるアンケート調査を紹介する.I対象および方法1. 調査方法本アンケート調査は,ティー・エムマーケティング株式会社により,インテージ・ネットモニター(Yahoo!ツ黴€ リサーチ〔別刷請求先〕 阿部春樹:〒951-8510 新潟市中央区旭町通一番町 757 番地新潟大学大学院医歯学総合研究科 感覚統合医学講座 視覚病態学分野Reprint requests:Haruki Abe, M.D., Ph.D., Department of Ophthalmology, and Visual Science, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, 757 Asahichodoori-ichiban-cho, Chuo-ku, Niigata-shi 951-8510, JAPAN緑内障・高眼圧症患者へのインターネットによる アンケート調査阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科 感覚統合医学講座視覚病態学分野Internet Survey of Patients with Glaucoma or Ocular HypertensionHaruki AbeDepartment of Ophthalmology, and Visual Science, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences緑内障・高眼圧症患者の治療に対する意識を調査するため,直近 1 年以内に継続して通院している緑内障および高眼圧症患者に対し,2009 年 5 月 8 13 日にわたり,インターネットによるアンケート調査を実施し,544 名の回答を得た.治療前の眼圧値は 44.9%の患者が,現在の眼圧値は 32.2%の患者が認知しておらず,また自身の目標眼圧値あるいは眼圧下降率を知らない患者は 39.5%であった.緑内障治療において,多くの患者が視野の維持を重視しており,薬物治療では,眼圧下降効果の高い薬剤を望む患者の割合が有意に高かった(p<0.01).From May 8-13, 2009, an internet survey was conducted to evaluate the state of patient awareness regarding theirツ黴€ treatmentツ黴€ forツ黴€ glaucomaツ黴€ orツ黴€ ocularツ黴€ hypertension.ツ黴€ Respondentsツ黴€ toツ黴€ theツ黴€ surveyツ黴€ questionnaireツ黴€ comprisedツ黴€ 544 patients who consulted ophthalmologists within this 1 year. 44.9% of the subjects were not aware of their intraocu-larツ黴€ pressure(IOP)valuesツ黴€ beforeツ黴€ treatment,ツ黴€ 32.2%ツ黴€ wereツ黴€ notツ黴€ currentlyツ黴€ awareツ黴€ ofツ黴€ theirツ黴€ IOPツ黴€ valuesツ黴€ andツ黴€ 39.5%ツ黴€ did not know the IOP target value or IOP-lowering rate. Most of patients stressed the maintenance of their visualツ黴€ eld inツ黴€ glaucomaツ黴€ therapyツ黴€ and,ツ黴€ inツ黴€ termsツ黴€ ofツ黴€ pharmacotherapy,ツ黴€ signi cantlyツ黴€ desiredツ黴€ aツ黴€ strongツ黴€ IOP-loweringツ黴€ e ect(p<0.01).〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):105 110, 2010〕Key words: 緑 内 障, 高 眼 圧 症, 眼 圧, ア ン ケ ー ト 調 査.glaucoma,ツ黴€ ocularツ黴€ hypertension,ツ黴€ intraocularツ黴€ pressure, questionnaire.———————————————————————- Page 2106あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(106)モニター)を通じて実施された.インテージ・ネットモニターでは,モニターに対して,徹底した本人確認を実施しており,モニター募集時に,プロフィールや多岐にわたる属性情報を取得している.調査期間は,2009 年 5 月 8 13 日であり,緑内障・高眼圧症患者を対象として,患者背景,通院状況,症状の認知,治療状況,治療に対する意識,に関して回答を得た.調査によって得られた情報について,解析および考察を行った.2. 対象抽出対象は,全国で 2008 年 5 月および 11 月に実施した患者サブパネル調査において,「緑内障・高眼圧症で直近 1年以内に継続して通院している」と回答した 40 70 代の患者(医療関係者を除く)であるが,本調査実施時に,再スクリーニングにより緑内障・高眼圧症患者であることを確認した.なお,全国の 40 代,50 代,60 70 代の男女から,それぞれ 100 例を目標として対象者を抽出したが,60 70 代女性については,緑内障パネルの登録モニター総数が 100例に満たなかったため,本調査の対象から除外した.II結果1. 患者背景インターネットによるアンケート調査により,直近 1 年以内に継続して通院している緑内障・高眼圧症患者,男性 330名(60.7%), 女性 214 名(39.3%), 計 544 名(平均年齢 52.5歳)の回答を得た.回答者は 40 70 代で,男女年代別の内訳は,男性 40 代 122 名(平均年齢 45.3 歳),男性 50 代 108名(同 53.9 歳), 男性 60 70 代 100 名(同 66.9 歳), 女性 40代 109 名(同 44.5 歳),ツ黴€ 女性 50 代 105 名(同 54.0 歳)であった.緑内障・高眼圧症と診断されてからの期間は,半年未満 2.2%, 半 年 1 年 未 満 8.3%,1 2 年 未 満 18.2%,2 5年未満 35.1%,5 10 年未満 21.9%,10 15 年未満 9.0%,15 20 年未満 2.4%,20 年以上 2.9%であった.2. 通院状況通院頻度は,1 週間に 2 回以上 0.4%,2 週間に 1 回 2.0%,1 カ 月 に 1 回 30.1%,2 カ 月 に 1 回 28.1%,3 カ 月 に 1 回28.7%, 半 年 に 1 回 9.2%,1 年 に 1 回 1.5% で あ っ た(n=544).通院している病医院の形態は,医院/診療所/クリニック 61.6%,大学病院 10.1%,国公立病院 4.6%,一般病院23.3%,その他/不明 0.4%であった(n=544).3. 症状の認知治療開始前と現在の視野状況を聞いたところ,治療開始前では,ほとんど異常なし/ごく一部欠損 62.3%,視野上部の一部欠損 15.1%,4 分の 1 欠損 11.0%,よくわからない 9.6%,その他 2.0%であり,現在では,ほとんど異常なし/ごく一部欠損 59.2%,視野上部の一部欠損 16.0%,4 分の 1 欠損 14.9%,ほとんど欠損 1.3%,よくわからない 6.8%,その他 1.8%であった(n=544).治療開始前と現在とを比較して,9.5%(全回答者数からその他の回答を除いた 475 名中45 名)が,視野が悪化したと回答した.また,患者自身の眼圧値に関しては,治療前の眼圧値を知っている 55.1%,全く覚えていない 28.1%,教えてもらっていない 16.7%であり,現在の眼圧値を知っている 67.8%,全く覚えていない 16.7%, 教 え て も ら っ て い な い 15.4% で あ っ た(n=544).眼圧値を認知している回答者に具体的な眼圧値を回答してもらったところ,治療開始前の眼圧値は,14 mmHg以下 19.7%,15 16 mmHgツ黴€ 11.0%,17 19 mmHgツ黴€ 18.7%,20 mmHg以上 50.7%(n=300),現在の眼圧値は,14 mmHg以下 45.3%,15 16 mmHgツ黴€ 22.2%,17 19 mmHgツ黴€ 22.8%,20 mmHg以上 9.8%(n=369)であった.4. 治療状況今までに受けた緑内障・高眼圧症の治療について聞いたところ,薬物治療(点眼薬・内服薬)496 名(91.2%),手術 35名(6.4%),その他 10 名(1.8%),特に治療を受けていない36 名(6.6%)であった(n=544,複数回答).今までに薬物治療の経験ありと回答した 496 名のうち,60.9%の患者が 1剤のみを使用していた.さらに,現在の視野状態別の使用薬剤数をみると,視野の 4 分の 1 欠損でも,1 剤のみ使用の患者は 39.7%であった(図 1).薬物治療経験のある 496 名に対して,薬物治療を行ううえで何を重視するかについて,非常に重要 全く重要でない,の 7 段階で回答してもらった.「非常に重要/重要」だと考えている割合は「眼圧下降効果が高い」が 75.2%と最も高く,他項目と比較しても,有意に高かった(c2検定:p<0.01)(図 2).5. 治療に対する認識緑内障・高眼圧症治療に対するイメージを聞いたところ,1)治療しないと失明につながるか,については,非常にそう思う 50.9%, そう思う 32.9%, まあそう思う 11.8%, どちらともいえない 2.9%,あまりそう思わない 0.7%,そう思わない 0.6%,全くそう思わない 0.2%,2)多少悪化しても視力にはあまり影響しないか,については,非常にそう思う2.9%,そう思う 5.5%,まあそう思う 9.0%,どちらともいえない 10.5%,あまりそう思わない 13.4%,そう思わない28.9%,全くそう思わない 29.8%,3)積極的な治療により長く視野を維持できるか,については,非常にそう思う37.1%,そう思う 39.5%,まあそう思う 16.5%,どちらともいえない 4.2%,あまりそう思わない 1.1%,そう思わない1.1%,全くそう思わない 0.4%,4)早期の治療により長く視野を維持できるか,については,非常にそう思う 43.9%,そう思う 34.4%, まあそう思う 16.2%, どちらともいえない3.5%,あまりそう思わない 1.1%,そう思わない 0.6%,全くそう思わない 0.4%,であった(n=544).1),3),4)に対しては,それぞれ 83.8%,76.6%,78.3%が,「非常にそ———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010107(107)う思う/そう思う」と回答し,2)に対しては,「そう思わない/全く思わない」が 58.7%を占めた.一般的な緑内障・高眼圧症(他の合併症なし)において,治療前の眼圧値から下げたほうが良いとされる具体的な目標眼圧および眼圧下降率を知っているか,について,図 3 に示した.目標眼圧に関して具体的な値および下降率を確認したところ,認知しているとした回答者の 45.1%が「目標眼圧値14 mmHg以下」と回答し(図 4),眼圧下降率を認知しているとした回答者の 43.8%が「下降率 20%以上」と回答した(図 5).緑内障・高眼圧症の治療において,2 つの項目をあげ,どちらを重視するかを回答してもらった(0 は両者が同等,+1 +5 と数値が大きくなるほどそちらの項目を重視する,として回答).「視野の維持」,「点眼/服用が面倒でない」,「治療費負担が少ない」の 3 項目を,それぞれ 2 つずつ比較したところ,「視野の維持」と「点眼/服用が面倒でない」の比較では,453 名(83.3%)が視野の維持を非常に重視する(+4,+5)と回答し,「視野の維持」と「治療費負担が少ない」の比較では,340 名(62.5%)が視野の維持を非常に重視する(+4,+5)と回答した(図 6).1 剤の薬剤で治療を続けた場合に 10 年後に現在と比較して視野が 30%欠損すると仮定して,もし 2 4 剤まで併用薬(n 496)**c2検定:p<0.01(「眼圧下降効果が高い」と他項目との比較)(%)36.338.918.834.316.331.016.725.011.7□ 重要■ 非常に重要26.08.318.86.916.3************80706050403020100眼圧下降効果が高い薬剤の値段が安い1日の点眼回数が少ない色素沈着で目の周りが黒くならない薬剤の保存方法が面倒でない点眼時に目がかすまない点眼薬が目にしみない図 2薬物治療で重視することツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 下ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ~ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ~ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 下と認識ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 図 4具体的な目標眼圧値(目標眼圧値認知者の回答:n=295)30%以上26.020 30%未満17.810 20%未満28.810%未満27.401020304020%以上と認識:43.8%(%)図 5具体的な眼圧下降率(下降率認知者の回答:n=73)60.920.43.411.311.368.619.73.86.96.96.457.019.83.514.014.039.728.21.320.580.020.028.614.314.328.614.373.3Total(n=496)ほとんど異常ない/ごく一部が欠損(n=290)上部の一部が欠損(n=86)4分の1が欠損(n=78)ほとんど欠損(n=5)その他(n=7)よくわからない(n=30)10.03.310.010.02.41.60.70.33.52.33.33.80%20%40% 1剤 2剤 3剤 4剤 5剤以上 現在薬物治療を行っていない60%80%100%図 1薬物治療における薬剤数眼圧値を知っているツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 眼圧下降率を知っているツ黴€ツ黴€ツ黴€ どツ黴€ツ黴€ 知っているツ黴€ツ黴€ツ黴€ どツ黴€ツ黴€ 知 ないツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 図 3 目標眼圧および眼圧下降率を知っているか (n=544)———————————————————————- Page 4108あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(108)剤を増やして眼圧下降効果を高め,10 年後の視野の欠損が5%であるとした場合,どちらを選択したいかを回答してもらった.この設問では,1997 年に報告された湖崎分類における病型別進行様式2)を考慮し,日本人に多い正常眼圧緑内障は 10 年間で IIIa と IIIb の中間に進行するため,湖崎分類IIIa「Goldmann 視野計の V-4 視野の狭窄が 1/4(=25%)まで」よりさらに進行した状態と想定し,30%に数値を設定した.視野の欠損が防げるのであれば,併用薬剤数の増加を強く選択する患者(+4,+5 と回答)が,4 剤併用で 326 名(59.9%),3 剤 併 用 で 364 名(66.9%),2 剤 併 用 で 427 名(78.5%)であった(図 7).III考按本調査では,緑内障・高眼圧症患者 544 名がインターネットによるアンケートに回答した.インターネット調査においては,母集団の信頼性が最も重要であるが,インテージ・ネットモニターでは,モニター登録に際して徹底した本人確認を行っており,さらにその患者パネルは 65 疾患に関する通院状況(診療を受けた,薬を処方された,現在も通院中)について,半年ごとの更新を行っている.本調査の緑内障・高眼圧症患者については,再スクリーニングを実施して,緑内障・高眼圧症以外に多数の疾患を抱えている対象者を削除した.さらに自由回答に対して,緑内障・高眼圧症についてありえない内容を記載した対象者は除外した.このように,調査対象の選定におけるモニター審査を厳重に実施しているため,本調査の結果については,一定の評価が可能と思われる.また,医師を介したアンケート調査とは異なり,患者の状態を正確に把握できないという問題点はあるが,主治医を介さないことで,かえって患者自身の本音をある程度調査することができたのではないか,と考えている.本調査に回答した緑内障・高眼圧症患者の約 1 割が,治療開始前と現在を比較して,治療を継続していても視野の悪化を自覚していた.患者が自分の症状をどの程度把握しているかについては,治療前の眼圧値は 554 名中の 44.9%が,現在の眼圧値は 32.2%が認知していなかった.緑内障・高眼圧症の治療においては,まず治療開始前のベースライン眼圧値を把握し,それに基づいて目標眼圧あるいは眼圧下降率を設定して治療を行うことが合理的な方法とされる.緑内障診重視+5+4+3+2+1同等+1+2+3+4+5重視視野の維持68.4%(372)14.9%(81)7.5%(41)1.8%(10)1.8%(10)1.7%(9)0.7%(4)0.2%(1)0.4%(2)0.7%(4)1.8%(10)点眼・服用が面倒でない視野の維持48.3%(263)14.2%(77)9.0%(49)3.7%(20)2.8%(15)5.3%(29)1.3%(7)2.0%(11)3.3%(18)3.9%(21)6.3%(34)治療費負担が少ない点眼・服用が面倒でない13.6%(74)5.3%(29)10.3%(56)4.8%(26)2.4%(13)20.0%(109)4.8%(26)5.9%(32)11.0%(60)5.9%(32)16.0%(87)治療費負担が少ない左右の項目を比較して,0 は同等,+1 +5 と数値が大きくなるほど,そちらの項目をより重視する,として回答(カッコ内は回答例数)視野の維持治療費負担が少ない806040200視野の維持(%)(n 544)806040200治療費負担が少ない点眼・服用が面倒でない点眼・服用が面倒でない806040200図 6「視野維持」「点眼・服用の手間」「治療費負担」のどれを重視するか———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010109(109)療ガイドラインにおいて,狭義の開放隅角緑内障(POAG)に お け る 目 標 眼 圧 は, 緑 内 障 病 期 に 応 じ て, 初 期 例 19 mmHg以下,中期例 16 mmHg以下,後期例 14 mmHg以下と設定することが提唱されており,POAG および正常眼圧緑内障(NTG)ともに,眼圧下降率は無治療時眼圧からの下降率 20 30%を目標とすることが推奨されている1).本調査では,治療における目標眼圧値あるいは眼圧下降率のどちらも知らない患者が 39.5%と高率にみられた.さらに,認知していても,眼圧下降率が「20%未満」の回答が 56.2%と半数以上であり,目標設定が甘いのではと予測された.本調査の対象者は,診断されてから 5 年未満の患者が 6 割を占め,視野障害も比較的軽度の患者が多いため,このように自分の眼圧値や目標眼圧を把握していない患者の割合が高かったとも考えられる.近年のアドヒアランスの考え方に基づけば,患者自身が病状を認知し積極的に治療に参加する,という意識をもつことが,良好な治療結果に結びつくと考えられる.そのためにも,無治療時の眼圧値や,目標眼圧設定の意義を患者が理解することは,長期に治療を継続するうえで大切である.そして,医療側には,それらを含めた治療に関する説明を今以上に十分に行うことが求められる.薬物治療において,患者が一番重視していることは,「眼圧下降効果が高いこと」であり,薬剤の値段,点眼の手間,点眼時の不快感などと比較して,有意に高い割合で「非常に重要/重要」だと考えていた(p<0.01).また,「視野の維持」,「点眼/服用の手間」,「治療費の負担」の三者を比較した場合には,「視野の維持」を最も重視する患者が多かった.過去にも,患者側の認識として,緑内障治療においては視野の維持を最も重視し,点眼薬については眼圧下降効果が重要である,との報告がなされており3),本調査の結果と一致する.さらに,1 剤処方で 10 年後に現状と比較して 30%視野狭窄が進行するのであれば,複数薬剤を併用しても視野狭窄を防ぎたいという患者のニーズが非常に高いことが明らかになった.以上より,多くの患者は現在の視野をできるだけ維持する選択+5+4+3+2+1同等+1+2+3+4+5選択2 剤で 10 年後に視野が現在より5%欠損68.0%(370)10.5%(57)5.5%(30)2.9%(16)2.4%(13)8.3%(45)1.1%(6)0%(0)0%(0)0.2%(1)1.1%(6)1 剤で 10 年後に視野が現在より30%欠損3 剤で 10 年後に視野が現在より5%欠損53.9%(293)13.1%(71)10.7%(58)5.9%(32)2.8%(15)11.0%(60)0.4%(2)0.6%(3)0.6%(3)0.4%(2)0.9%(5)1 剤で 10 年後に視野が現在より30%欠損4 剤で 10 年後に視野が現在より5%欠損51.5%(280)8.5%(46)12.9%(70)8.1%(44)3.1%(17)11.8%(64)1.3%(7)0.6%(3)1.1%(6)0.4%(2)0.9%(5)1 剤で 10 年後に視野が現在より30%欠損左右の項目を比較して,0 は同等,+1 +5 と数値が大きくなるほど,そちらの項目を選択する,として回答(カッコ内は回答例数)3剤併用で8060402002剤併用で10年後に10年後に1剤使用で1剤使用で1剤使用で8060402004剤併用で視野が現在より5%欠ける視野が現在より30%欠ける806040200(%)(n 544)図 7早期に2~4剤併用のニーズ———————————————————————- Page 6110あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(110)ことを望んでおり,そのために強力な眼圧下降治療を受けたいと考え,薬物治療においては 2 剤以上併用も許容していることがわかった.緑内障・高眼圧症治療を開始する際には,まず現在の視野を維持するための目標眼圧を設定することが重要であり,そのために必要な治療を患者に提供し,その経過を十分観察していくことが望ましいと思われる.また,強力な眼圧下降を得るためには,多剤併用も考慮すべきであり,その際は,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン関連薬の 3 剤併用が有効と考えられる4).緑内障・高眼圧症治療では,多くの患者が早期の積極的な治療と視野の維持を重視している.その意識を念頭において,時間の制約がある日々の診療のなかで,われわれ眼科医は,現状の治療による眼圧下降効果が十分であるかの検討,治療内容の見直し,治療への理解を得るための患者とのコミュニケーションなどを実行していくよう努めなければならない.文献 1) 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第 2 版).日眼会誌 110:784-814, 2006 2) 細田源浩,平野光昭,塚原重雄:緑内障患者の視野障害進行様式と背景因子の検討.日眼会誌 101:593-597, 1997 3) 小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼 60:37-41, 2006 4) 白土城照:緑内障の薬物療法─多剤併用の考え方.眼科プラクティス 70:2-6, 2001***

圧力センサーによる緑内障点眼薬の点眼のしやすさの評価

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(99)ツ黴€ 990910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):99 104,2010cはじめに緑内障の有病率は加齢に伴い増加するため1 3),高齢者の緑内障点眼薬の使用頻度も必然的に増加すると考えられる.最近,筆者らは緑内障点眼容器の構造や薬液の性状が使用感に深く関わることを報告した4).具体的には,手指の精緻な運動能力に劣ると考えられる高齢者5)においては,長期使用のなかで,緑内障点眼薬を不快に感じている割合が多く,また点眼薬間における使用感の差が大きいことが明らかとなっ〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒791-0952 松山市朝生田町 1-3-10南松山病院眼科Reprint requests:Ryoko Hyodo, Department of Ophthalmology, Minamimatsuyama Hospital, 1-3-10 Asoda-cho, Matsuyama, Ehime 791-0952, JAPAN圧力センサーによる緑内障点眼薬の点眼のしやすさの評価兵頭涼子*1林康人*1~3溝上志朗*2,3川﨑史朗*2,3吉川啓司*4大橋裕一*2*1 南松山病院眼科*2 愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学 *3 愛媛大学視機能再生学(南松山病院)寄附講座*4 吉川眼科クリニックGlaucoma Eyedrop Usability Evaluation by Tactile Pressure SensorRyoko Hyodo1), Yasuhito Hayashi1 3), Shiro Mizoue2,3), Shiro Kawasaki2,3), Keiji Yoshikawa4) and Yuichi Ohashi2)1)Department of Ophthalmology, Minamimatsuyama Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Medicine of Sensory Function, Ehime University Graduate School of Medicine, 3)Division of Visual Function Regeneration, Ehime University School of Medicine, 4)Yoshikawa Eye Clinic緑内障点眼薬〔キサラタンR点眼液(Xa),チモプトールR点眼液 0.5%(Tm),チモプトールR XE 点眼液 0.5%(TmXE),リズモンRTG 点眼液 0.5%(RmTG),ミケランR点眼液 2%(Mk),デタントールR点眼液(Dt),トルソプトR点眼液 1%(Ts),エイゾプトR点眼液(Az)〕を 1 滴落とすために必要な圧力の定量を試みた.Pressureツ黴€ Pro le System 社製ツ黴€ DigiTactsツ黴€ Tactileツ黴€ Pressureツ黴€ Sensor を示指と点眼容器側面(2 指法)または底面(3 指法)の間に挟み,示指にかかる圧力を経時的に計測し,加圧開始から滴下までに要した時間の平均(平均滴下時間;n=5)と示指にかかった最大圧力の平均値(平均最大押し圧力;n=5)を算出した.2 指法では平均滴下時間は 1.7 秒(Dt)から 3.6 秒(RmTG)と幅があり,平均最大押し圧力にも幅〔731 g/cm2(Dt)から 3,544 g/cm2(Az)〕があることがわかった.3 指法に変えると,Xa,Tm,RmTG,Dt,Ts と Az で有意に平均最大押し圧力を減少させることができたが,Mk では有意に平均最大押し圧力を増加させ,RmTG では有意に平均滴下時間が延長した.これら緑内障点眼薬の不均一性が 1 滴を正確に落とすことを困難にしていると考えられる.We sought to evaluate pressures required in squeezing one drop from glaucoma eyedrop containers〔XalatanR(Xa), TimoptolR 0.5%(Tm), TimoptolR XE 0.5%(TmXE), RysmonRTG 0.5%(RmTG), MikelanR 2%(Mk), Detan-tolR(Dt),ツ黴€ TrusoptR(Ts),ツ黴€ AzoptR(Az)〕.ツ黴€ DigiTactsツ黴€ Tactileツ黴€ Pressureツ黴€ Sensors(Pressureツ黴€ Pro leツ黴€ Systems,ツ黴€ Inc.)were inserted between the indexツ黴€ nger and the sides(two- nger method)or bottom(three- nger method)of each bot-tle for continuous pressure measurements against the indexツ黴€ nger. We calculated average duration between initia-tionツ黴€ ofツ黴€ squeezingツ黴€ andツ黴€ commencementツ黴€ ofツ黴€ dropping(n=5), and the average maximum pressure(n=5)in both methods, for each type of eyedrops. In the two- ngers method there was a variation in average duration〔1.7 sec(Dt)-3.6ツ黴€ sec(RmTG)〕andツ黴€ averageツ黴€ maximumツ黴€ pressures〔731 g/cm2(Dt)-3,544 g/cm2(Az)〕. The three- nger methodツ黴€ showedツ黴€ signi cantlyツ黴€ decreasedツ黴€ averageツ黴€ maximumツ黴€ pressureツ黴€ inツ黴€ Xa,ツ黴€ Tm,ツ黴€ RmTG,ツ黴€ Dt,ツ黴€ Tsツ黴€ andツ黴€ Az,ツ黴€ but signi cantly increased average maximum pressure in Mk and average duration in RmTG. These variations in the di erent types of glaucoma eyedrops may cause di culty in properly squeezing out a single drop.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):99 104, 2010〕Key words:点眼容器,圧力センサー,緑内障,高齢者,ユーザビリティ.eye drop bottle, pressure sensor, glau-coma, elderly patient, usability.———————————————————————- Page 2100あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(100)た.緑内障点眼治療のアドヒアランス向上のためには点眼しやすい容器であることが好ましく,そのためにも,高齢者に優しい点眼容器の開発を製薬会社に促すことが必要である.しかしながら,これまで,点眼容器の使用感について定量化する方法がなかったため,具体的な数値目標を設定することができなかった.そこで,今回,点眼容器の性状を定量的に評価することを目的とした点眼容器押し圧測定システムを開発した.そして,使用頻度の高い緑内障点眼薬 8 剤を対象として,点眼薬別に滴下までに要する時間と指にかかる圧力を,点眼指導の際にたびたび議論となる 2 指法と 3 指法の間で比較検討したので報告する.I対象および方法1. 圧力計測システムの準備Pressureツ黴€ Pro leツ黴€ Systems 社(米国ロサンゼルス)製 Digi-Tactsツ黴€ Tactileツ黴€ Pressureツ黴€ Sensor(センシング圧力パッド直径10 mm)(以下,触覚センサー)を付属インターフェイスボード経由で,付属の専用解析ソフトをインストールしたパナソニック社製ノート型パーソナルコンピュータ(CF-W2)のUSB ポートに接続した.さらに,Pressureツ黴€ Pro leツ黴€ Systems社国内総代理店有限会社シスコム社(東京)の協力により,インターフェイスボードと触覚センサーをつなぐケーブルを延長し点眼動作に支障をきたさないように改良を施した(図1 A ).2. 点眼薬の準備点眼薬は表 1 に示す 8 剤〔キサラタンR点眼液(Xa),チモプトールR点眼液 0.5%(Tm),チモプトールRXE 点眼液0.5%(TmXE),リズモンRTG 点眼液 0.5%(RmTG),ミケランR点眼液 2%(Mk),デタントールR点眼液(Dt),トルソプトR点眼液 1%(Ts),エイゾプトR点眼液(Az)〕を使用し,その容器の形状を図 1C に示す.なお,測定時は容器のラベルを 離し,薬液の内容量は開封直後の状態で行った.3. 点眼薬押し圧力の計測本調査の趣旨を理解し,あらかじめ十分にトレーニングされた 1 人の検者が各薬剤 1 滴を滴下するまでの,指先にかかる圧力の変化を触覚センサーにより経時的に記録した.測定は,容器側面を母指と示指で押す方法(2 指法),および側面を母指と中指で把持し,容器の底面を示指で押す方法(3 指ACaabcdef5cm1cmbcBab図 1点眼容器押し圧力測定装置と緑内障点眼容器の形状A:圧力測定装置の概要(a).直径1 c mの圧力センサー部(b)でとらえた圧力は電気信号に変換されて,専用のデバイスを通し,パーソナルコンピュータの USB ポートに接続される.圧力波形は専用のソフトウェア(c)により,グラフに描出されると同時に,0.03 秒ごとの圧力がテキストファイルで保存される.B:点眼の 2 指法(a)と 3 指法(b).C:点眼容器の形状.a:Xa,b:Tm,TmXE と Ts,c:RmTG,d:Mk,e:Dt と f:Az.a と e の矢頭は 2 指法で押した部分を示す.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010101(101)法)について行った(図 1B).計測は各薬剤についてそれぞれ連続で 5 回行った.押し始めのタイミングはパーソナルコンピュータの操作者が指示を出し,滴下時の波形を確認した.4. データの解析加圧開始から滴下までに要した時間と,示指にかかった最大押し圧力の平均値を算出した.さらに,押し圧力の波形より,加圧開始から最大押し圧力の 90%まで達する時間(a)と最大押し圧力の 90%まで達してから滴下までに要した時間を(b)とした場合,b/a<0.5 を釣鐘型,0.5 ≦ b/a ≦ 1 を中間型,b/a>1 を台形型に分類した.なお,統計解析は点眼薬間の比較は対応のない t 検定を使用し,2 指法と 3 指法の比較には対応のある t 検定を使用した.なお,p<0.05 の場合,有意であると判定した.II結果緑内障点眼薬 8 剤を用い,2 指法と 3 指法により点眼時に示指にかかる圧力を,加圧開始時を基点とし,経時的に 5 回の平均押し圧力を算出した(図 2).加圧より 1 滴の滴下までに要した平均滴下時間と,最大の押し圧力の平均を表 2 に示す.2 指法においては,平均滴下時間は最短の Dt(1.7±0.2秒)から,最長の RmTG(3.6±0.6 秒)まで幅があり,平均最大の押し圧力も最小の Dt(731±22 g/cm2)から Az(3,544±64 g/cm2)まで幅があった.また 3 指法では,平均滴下時間は最短の Dt(1.8±0.2 秒)から,最長の RmTG(4.5±0.4秒)まで幅があった.平均最大の押し圧力も最小の RmTGA1,0001231212123(秒)12123(g/cm2)F1,000(g/cm2)BC2指法3指法3指法3指法2指法3指法2指法3指法1,000(g/cm2)1,000(g/cm2)(秒)(秒)1212312312121233(秒)(秒)(秒)D1,0001231212123456(g/cm2)2指法2指法3指法2指法3指法2指法3指法2指法(秒)(秒)E1,000(g/cm2)H4,000(g/cm2)G1,000(g/cm2)図 22指法と3指法における押し圧力の経時変化加圧開始を 0 秒としたときの各時間における押し圧力の 5 回の平均を縦軸にプロットした.A:Xa,B:Tm,C:TmXE,D:RmTG,E:Mk,F:Dt,G:Ts,H:Az.エラーバーは標準偏差を示す.表 1調査の対象となった緑内障点眼薬商品名薬剤名剤形A) キサラタン0.005% latanoprost水性点眼薬B) チモプトール点眼液 0.5%0.5% timolol maleate水性点眼薬C) チモプトール XE 点眼液 0.5%0.5% timolol maleateゲル化点眼薬D) リズモン TG 点眼液 0.5%0.5% timolol maleateゲル化点眼薬E) ミケラン点眼液 2%2.0% carteolol hydrochloride水性点眼薬F) デタントール点眼液0.01% bunazosin hydrochloride水性点眼薬G) トルソプト点眼液 1%1.0% dorzolamide hydrochloride水性点眼薬H) エイゾプト点眼液1.0% brinzolamide懸濁性点眼薬———————————————————————- Page 4102あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(102)(415±36 g/cm2)から Az(2,444±486 g/cm2)まで幅があった.緑内障点眼薬 8 剤間での平均滴下時間の有意差検定の結果を表 3 に,最大の押し圧力の平均の有意差検定の結果を表4 に示す.2 指法から 3 指法に変えると平均最大の押し圧力は,Xa,Tm,RmTG,Dt,Ts,Az において有意に(p<0.05)低下したが,逆に Mk では有意に(p<0.05)上昇した.また,同様に 2 指法から 3 指法に変えたときの平均滴下時間は,RmTG では有意に(p<0.05)延長した(図 3).III考按緑内障管理における点眼治療の重要性6)については言を待たないが,その成否にはアドヒアランスが大きな鍵を握っている.以前に筆者らが報告した点眼薬使用感のアンケート調査4)においても,点眼薬間で使用感に大きなばらつきがあり,表 3緑内障点眼薬8剤間での平均滴下時間の有意差検定XaTmTmXERmTGMkDtTsAzXa>> >> >Tmツ黴€ <ツ黴€ツ黴€ツ黴€ TmXEツ黴€ < >ツ黴€ RmTG>>>>> >Mkツ黴€ツ黴€ <><<Dt<<<<<<<Tsツ黴€ >< >>Azツ黴€ツ黴€ < >ツ黴€ 斜線より右上半分が 2 指法,左下半分が 3 指法の結果.左 1 列目の点眼薬が上 1 行目の点眼薬に対して有意に(p<0.05)長い場合(>),短い場合(<),有意差なし(p≧0.05)を( )として表記した.表 4緑内障点眼薬8剤間での最大の押し圧力の有意差検定XaTmTmXERmTGMkDtTsAzXaツ黴€ >>><<Tm> >>><<TmXE>>>>><<RmTG<<< ><<Mk>> >><<Dt <<><<<Ts>> ><><Az>>>>>>> 斜線より右上半分が 2 指法,左下半分が 3 指法の結果.左 1 列目の点眼薬が上 1 行目の点眼薬に対して有意に(p<0.05)大きい場合(>),小さい場合(<),有意差なし(p≧0.05)を( )として表記した.表 2最大押し圧力の平均と平均滴下時間商品名2 指法3 指法最大押し圧(g/cm2)滴下時間(秒)最大押し圧(g/cm2)滴下時間(秒)A) キサラタン1,335±173.5±0.4 823±139*3.0±0.4B) チモプトール点眼液 0.5%1,419±832.3±0.81,066±29*2.4±0.4C) チモプトール XE 点眼液 0.5%1,363±322.7±0.71,224±157*2.3±0.3D) リズモン TG 点眼液 0.5%1,071±833.6±0.6 415±36*4.5±0.4*E) ミケラン点眼液 2% 780±602.2±0.21,354±94*2.5±0.6F) デタントール点眼液 731±221.7±0.2 540±60*1.8±0.2G) トルソプト点眼液 1%1,753±293.1±0.31,218±35*3.1±0.5H) エイゾプト点眼液3,544±642.5±0.22,444±486*2.7±0.2*:2 指法から 3 指法に変えたときに有意差があるもの.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010103(103)特定の点眼薬で患者が点眼を不快に感じているという結果が得られた.そのなかで,容器が硬いという評価が多かったAz では,今回の検討においても,平均最大押し圧力は最大値を示しており,定量化の試みの妥当性を示すものと考える.ここで問題になるのは,高齢者が使用しやすいと感じる容器の平均最大押し圧力と平均滴下時間である.点眼薬使用感のアンケート調査によって評価の高かった Dt,Tm の平均最大押し圧力が 1,000 g/cm2付近,平均滴下時間が 2 秒付近にあることを考えると,これらの領域に至適条件が存在すると予想されるが,今後の検討に結論を委ねたい.今回の検討により,点眼薬によっては,2 指法が点眼しやすいものと 3 指法が点眼しやすいものが存在する可能性が示唆された.特に,RmTG では 3 指法を用いると平均滴下時間が著明に延長するため,3 指法には向かないことが明らかである.一方,Xa においては,逆に 3 指法に変えることにより,平均最大押し圧力と平均滴下時間をともに減少させた.人の手の構造から,コントロール可能な示指の押し圧力は 3 指法より 2 指法のほうが大きいと予想されるが,これまでに比較検討を行った報告はない.筆者らのシステムでの測定範囲は 8,000 g/cm2までであり,正常の成人では 2 指法の場合,測定範囲を超えてしまう.この疑問を検証するためには測定システムの改変が必要である.さらに,今回の検討により,押し圧力の波形には釣鐘型と台形型の 2 型があることも判明した.このうち,釣鐘型を示すものは押し圧力が最大になった直後に薬液が滴下しており,薬剤がノズルの先端に留まりにくいことを示している.一方,台形型は最大押し圧力に達してから滴下までに時間がかかっており,薬剤の粘性が高いため,滴がノズル先端に留まりやすいと考えられる.その結果,滴下には最大押し圧力付近の押し圧力を維持する必要があるため,使用感を損なっていると想像できる(図 4).薬剤の粘性は点眼容器の形状とともに重要な因子と考えられる.メーカーに調査を依頼した結果,以下のデータを得た.Tmツ黴€ 1.01 mm2/s(参天製薬株式会社インタビューフォーム),TmXEツ黴€ 66 mPa・s(25℃,単位 mPa・s は mm2/s を密度で割ったもの,大塚製薬株式会社資料), RmTG 56 mPa・s(10℃,大塚製薬株式会社資料),Mkツ黴€ 0.99 mPa・s(25℃,大塚製薬株式会社資料),Tsツ黴€ 45 135 mm2/s(萬有製薬株式会社インタビューフォーム),Azツ黴€ 323 360 mPa・s(20℃,日本アルコン株式会社依頼財団法人日本食品センター分析試図 4押し圧力の波形:釣鐘型と台形型筆者らが現在考えている仮説を示す.2 指法では Dt,Mk と Tm は釣鐘型を示し,RmTG,Ts と TmXE は台形型を示す.Xa と Az はその中間に属す.釣鐘型薬剤滴がノズル先端に留まりにくいミケランデタントールリズモンTGトルソプトエイゾプトチモプトールチモプトールXE2指法の場合キサラタン押し圧が最大に達したらすぐに滴下する押し圧が最大に達して台形型容器の性状ノズル先端に薬剤滴が留まりやすい留まる時間は押し圧の維持が必要薬剤の粘性硬い柔らかい高い低い傾向滴下まで時間がかかる4,0003,0002,0001,000エイゾプトトルソプトキサラタンリズモンTGチモプトールチモプトールXEデタントールミケラン1234(秒)(g/cm2)図 3 2指法から3指法に変更したときの最大押し圧力の平均と平均滴下時間の変化———————————————————————- Page 6104あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(104)験成績書),Xa と Dt はデータが存在しなかった.Tm とTmXE は点眼容器が同じで薬剤の粘性が異なることから,平均最大押し圧力と平均滴下時間の差は,薬剤の粘性によるものである.したがって Az は粘性の高いことも,平均最大押し圧力と平均滴下時間に影響していると考えられる.今回の結果から明らかなように,点眼に必要な押し圧力と滴下までに必要な時間には大きなばらつきがある.このばらつきは,特に多剤の点眼を必要とする高齢患者にとって,1滴を確実に滴下することを困難にしているものと考えられる.元来,点眼容器は補助具7)がなくとも,いかなる年齢においても,簡便で確実な 1 滴が点眼できるように設計されているべきものであり,ユニバーサルデザイン化が大いに望まれる.今後さらに,点眼しやすい押し圧力と,さらに心地よい滴下時間を検討することにより,具体的な数値目標を設定し,より良い点眼容器の作製の動きを活性化したい.文献 1) Iwase A, Araie M, Tomidokoro A et al:Prevalence and causes of low vision and blindness in a Japanese adult population:theツ黴€ Tajimiツ黴€ Study.ツ黴€ Ophthalmology 113:1354-1362, 2006 2) Suzuki Y, Iwase A, Araie M et al:Risk factors for open-angle glaucoma in a Japanese population:the Tajimi Study. Ophthalmology 113:1613-1617, 2006 3) Yamamoto T, Iwase A, Araie M et al:The Tajimi Study report 2:prevalence of primary angle closure and sec-ondary glaucoma in a Japanese population. Ophthalmology 112:1661-1669, 2005 4) 兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科 24:371-376, 2007 5) Mathiowetz V, Kashuman N, Volland G et al:Grip and pinch strength:Normative data for adult. Arch Phys Med Rehabil 66:69-74, 1985 6) 青山裕美子:教育講座ツ黴€ 緑内障の点眼指導とコメディカルへの期待ツ黴€ 緑内障と失明の重み.看護学雑誌 68:998-1003, 2004 7) 沖田登美子,加治木京子:看護技術の宝箱ツ黴€ 高齢者の自立点眼をめざした点眼補助具の作り方.看護学雑誌 69:366-368, 2005***

SITA-Standard プログラムの信頼度指標

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(95)ツ黴€ 950910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):95 98,2010cはじめに自動視野計を用いた視野検査は自覚的検査であり,その結果には被検者の応答性が大きく影響する.しかし,視野検査中の被検者応答の信頼性を直接知る方法は確立されていない.そこで,自動視野計では独自の固視監視システムに加えて,閾値測定とは別個に catchツ黴€ trial を行い偽陽性応答(false positiveツ黴€ errors:FP)・偽陰性応答(falseツ黴€ negativeツ黴€ errors:FN)を調べ,これを信頼度指標(reliabilityツ黴€ factor:RF)として数値化し,検査の信頼性の判定の基準としている1).Humphrey 視野計(Humphreyツ黴€ Filedツ黴€ Analyzer:HFA,ツ黴€ Carl Zeissツ黴€ Meditec)の全点閾値測定法(fullツ黴€ threshold:Full)では, そ の standardツ黴€ limit2)(境界値)は固視不良( xation losses:FL)は 20%,FP と FN は 33%に設定することが推奨(推奨境界値)されており,これらが臨床研究などの組み入れ・除外の基準として一般化している3).一方,網膜感度は検査時間の延長に伴い低下する傾向があり4,5),HFA では緑内障視野障害用に測定戦略が改良され,Swedishツ黴€ interactiveツ黴€ thresholdツ黴€ algorithm(SITA)プログラ〔別刷請求先〕鈴村弘隆:〒164-8607 東京都中野区中央 4-59-16中野総合病院眼科Reprint requests:Hirotaka Suzumura, M.D., Department of Ophthalmology, Nakano General Hospital, 4-59-16 Chuo, Nakano-ku, Tokyo 164-8607, JAPANSITA-Standard プログラムの信頼度指標鈴村弘隆*1吉川啓司*2木村泰朗*3*1 中野総合病院眼科*2 吉川眼科クリニック*3 上野眼科Reliability Factors in SITA-Standard ProgramHirotaka Suzumura1), Keiji Yoshikawa2) and Tairo Kimura3)1)Department of Ophthalmology, Nakano General Hospital, 2)Yoshikawa Eye Clinic, 3)Ueno Eye ClinicHumphrey 視野計(HFA)の全点閾値法(Full)と SITA(Swedishツ黴€ interactiveツ黴€ thresholdツ黴€ algorithm)-Standard(SITA-S)の両者により,中心 30-2 プログラムを用い連続的に視野検査がされた広義原発開放隅角緑内障(POAG)45例 45 眼について信頼度指標(RF)である固視不良(FL),偽陽性応答(FP),偽陰性応答(FN)の一貫性・一致性を調べた.一貫性は FL 93.3%,FP 100%,FN 95.6%に,一致性は FL 88.9%,FP 100%,FN 93.3%に認めた.さらに,各 RF の Full で推奨された境界値(推奨境界値)に対する SITA-S での RF の境界値を ROC 曲線(receiverツ黴€ operating characteristicツ黴€ curve)と回帰分析により予測したところ,FL(ROC 曲線:21.1%,回帰分析:20.7%),FP(回帰分析:14.7%)は RF の指標として Full と SITA の両者で同等に扱いうると考えた.一方,FN は SITA-S での境界値(ROC 曲線:6.0%)と Full の推奨境界値は大きく異なったが,平均偏差との関連性(Full:p<0.0001)があったことから,信頼度よりも視野障害の重症度の指標として位置づけられると考えた.In 45 eyes with primary open-angle glaucoma(POAG), we investigated the relationship of each reliability fac-tor(RF)betweenツ黴€ theツ黴€ C30-2ツ黴€ programツ黴€ withツ黴€ fullツ黴€ thresholdツ黴€ strategy(Full)andツ黴€ withツ黴€ SITA(Swedishツ黴€ interactive thresholdツ黴€ algorithm)-Standard(SITA-S).ツ黴€ Consistenceツ黴€ wasツ黴€ con rmedツ黴€ byツ黴€ moreツ黴€ thanツ黴€ 90%ツ黴€ andツ黴€ theツ黴€ correspondence rate was more than approximately 90% in each RF. Next, we estimated the limit of each RF in SITA-S as predict-ed by the ROC(receiver operating characteristic)curve and regression analysis. The predicted limits in SITA-S ofツ黴€ xationツ黴€ losses(FL)andツ黴€ falseツ黴€ positiveツ黴€ errors(FP)showedツ黴€ littleツ黴€ di erenceツ黴€ fromツ黴€ theツ黴€ standardツ黴€ limitsツ黴€ inツ黴€ Full.ツ黴€ Inツ黴€ con-trast,ツ黴€ theツ黴€ predictedツ黴€ limitsツ黴€ ofツ黴€ falseツ黴€ negativeツ黴€ errors(FN)inツ黴€ SITA-Sツ黴€ wereツ黴€ aboutツ黴€ 7%,ツ黴€ showingツ黴€ signi cantツ黴€ di erence from the standard limit in Full. As well, there was signi cant correlation in Full between FN and mean deviation(p<0.0001). It is suggested that FN relate with the visualツ黴€ eld damage severity, rather than with reliability, where-as FL and FP in SITA could be equally to Full evaluated.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):95 98, 2010〕Key words: 信 頼 度 指 標, 自 動 視 野 計,SITA-Standard, 全 点 閾 値 法, 緑 内 障.reliabilityツ黴€ factors,ツ黴€ automated perimeter, SITA-Standard, full-threshold, glaucoma.———————————————————————- Page 296あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(96)ムが開発,実用化された6).この測定法の変更は視野結果の評価法にも影響する可能性がある.そこで,筆者らはまず,Anderson 基準に注目し,Full と SITA 間で比較しツ黴€ Ander-son 基準が SITA でも適用可能であることを確認した7).さて,SITA では検査時間を短縮するための一環としてcatchツ黴€ trial に相当する視標呈示を減らしている.これに伴いSITA では RF の算出方法が Full から一部変更された6,8).すなわち,ツ黴€ FL の算出法に変更はないが,ツ黴€ FP は被検者の応答時間を基準とし,極端に速い,または,遅い応答は視標に対する正確な反応とみなさず,偽応答として処理し,その境界値も 15%に引き下げられた9).一方,FN は緑内障データベースに基づいて新たに設定された視覚確率曲線(frequencyツ黴€ of seeingツ黴€ curve:FOSC)が利用されている10,11)が,Full と同様に catchツ黴€ trial を行うため境界値は 33%に据え置かれている.しかし,各 RF の境界値の設定根拠は明確にされておらず,Full と SITA の両者で比較した検討もなされていない.そこで,今回,緑内障臨床や研究で標準的視野検査法となりつつある SITA-Standard(SITA-S)の RF を調べ Full と比較し,さらに,RF の境界値の設定について検討した.I対象および方法中野総合病院眼科,吉川眼科クリニック,上野眼科において,3 年以上継続的に経過観察され,HFA 中心 30-2 プログラム(C30-2)の Full を用いて原則として 6 カ月ごとに 3 回以上視野を測定し,その後,引き続いて C30-2 の SITA-Sによる視野測定を 3 回以上施行した広義の原発開放隅角緑内障を後ろ向きに抽出した.このうち,視神経乳頭および網膜所見と相応し,かつ,Anderson の基準12)を満たす緑内障性視野変化を認め,屈折が等価球面度数で 6.0 D 以上,矯正視力 0.8 以上,さらに,前眼部,中間透光体に視野検査結果に影響を及ぼす明らかな異常がなく,研究の目的に対し同意を得られた症例を対象として組み入れた.Full,SITA-S ともに経過観察中に明らかな視野障害の進行を認めた症例は対象から除外した.方法は Full と SITA-S による各 3 回の視野検査における信頼度指標(FL,FP,FN)および平均偏差(meanツ黴€ devia-tion:MD)を算出した.RF の境界値を Full では FLツ黴€ 20%,FPツ黴€ 33%,FNツ黴€ 33%,SITA-S では FLツ黴€ 20%,FPツ黴€ 15%,FNツ黴€ 33%とし9,13),Full,SITA-S 各々 3 回の検査中,各 RF が境界値を超えなかった数を調べた.その結果から,Full,SITA-S での数が同数なら,信頼性に「一貫性あり」,Full と SITA-S での差が 1 回なら,信頼性は「ほぼ一貫性あり」,Full と SITA-S での差が 2 回以上なら信頼性に「一貫性なし」と判定した.Full と SITA-S それぞれ 3 回の RF の代表値として,各RF の中央値を算出した.RF の中央値が Full, SITA-S のいずれか一方のみで境界値を超えていれば信頼性は「不一致」,Full, SITA-S の中央値がともに境界値未満,あるいは境界値以上なら信頼性は「一致」と判定した.つぎに,Full の各 RF の判定結果(境界値を超えるか否か)を基準として SITA における各 RF の receiver operating characteristicツ黴€ curve(ROC 曲線)を作成し,cut-oツ黴€ 値を求めた.Cut-oツ黴€ 値のうち感度・特異度が最も拮抗する値を最適予測値と定義した.さらに Full での境界値に対応するSITA-S の予測値を各 RF の中央値の直線回帰分析を用いて算出した.また,MD と各 RF の関連を直線回帰分析により調べた.解析は 1 例 1 眼とし,原則的に各症例の右視野結果を採用した.統計的検定は JMPツ黴€ 7.0.1(SASツ黴€ 日本)を用い,有意水準は 5%未満とした.II結果組み入れ基準を満たし解析の対象となったのは 45 例 45眼(平均年齢:62.2±12.8 歳,男性 19 例 19 眼,女性 26 例26 眼)であった.対象眼の MD は,Full と SITA-S の間で明らかな差はなかった(Full: 8.52±7.10 dB,SITA-S: 9.21±7.75 dB, Wilcoxon 検定,p=0.7195).信頼性が「一貫性あり」と判定されたのは,FP が 45 眼中 42 眼(93.3%)で最も高率を占め,FN(38 眼:84.4%),FL(34 眼:75.6%)が続いた.これに,「ほぼ一貫性あり」を合わせると FN は 45 眼中 43 眼(95.6%),FL は 45 眼中42 眼(93.3%)であったが,FP は全眼(100%)で「ほぼ一貫性あり」と判定された.一方,「一貫性がない」と判定されたのは FL,FN それぞれ 45 眼中 3 眼(6.7%)と 2 眼(4.4%)であったが,FP を「一貫性がない」と判定された症例は認めなかった(表 1).FL は Full,SITA-S による 3 回の中央値が 45 眼中 34 眼(75.6%)ではともに境界値未満,45 眼中 6 眼(13.3%)ではともに境界値を超えた.すなわち 45 眼中 40 眼(88.9%)で信頼性は「一致」していた.同様に FP は 45 眼中 45 眼(100%),FN は 45 眼中 42 眼(93.3%)で Full と SITA-S の信頼性の結果は「一致」した(表 2).表 1信頼性の一貫性SITA-SFLFPFN境界値を超えなかった視野の数321032103210Full3210291102200022111214100021000000001038320200000000000———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,201097(97)ROC 曲線から求められた最適予測値は FL が 21.1%,FNは 6.0%であった.なお,FP は Full において異常を示す症例が 1 眼のみであったため ROC 曲線が描けなかった.FL の中央値における Full と SITA-S の直線回帰分析から得 ら れ た 回 帰 式 に Full に お け る 境 界 値 を 代 入 す る と,SITA-S の予測値は FL では 20.7%,FP は 14.7%であったが,FN は有意な回帰式が得られず予測値は算出できなかった(図 1).MD と Full,SITA-S そ れ ぞ れ の RF の 中 央 値 は FL(Full:p=0.2902,SITA:p=0.3244),FP(Full:p=0.6139,SITA:p=0.5449)で は 有 意 な 相 関 は な か っ た.FN は SITA-S では有意な相関がなかった(p=0.0744)が,Full では有意な相関を認めた(p<0.0001)(図 2).III考按HFA の SITA-S による視野検査結果の RF は Full の結果と一貫性・一致性があった.また,FL と FP についてはFull と SITA-S のそれぞれの境界値の設定は相応していた.SITA-S は視野測定戦略の変更により Full に比べ検査時間が短縮された.これと関連して RF の算出方法や境界値もFull から変更されたが,Full と SITA-S の間で RF を比べた報告は認めていない.そこで,Full と SITA-S で連続的に表 2信頼度指標の一致性SITA-SFLFPFN境界値20%>≧ 20%境界値15%>≧ 15%境界値33%>≧ 33%Full20%>34433%>44033%>420≧ 20%16≧ 33%01≧ 33%30図 1直線回帰分析による SITA-Sでの信頼度指標(RF)の予測値左:Fixation losses(FL) 回帰式:FL(SITA-S;%)=4.91517+0.7894778*FL(Full;%)(r2=0.3060, p<0.0001)に Full の FL 20%を代入すると SITA-S の FL は 20.7%であった.FL:固視不良,Full:全点閾値法,SITA-S:SITA-Standard.中央:False positive errors(FP) 回帰式:FP(SITA-S;%)=1.62425+0.3962773*FP(Full;%)(r2=0.494052, p<0.0001)に Full の FP 33%を代入すると SITA-S の FP は 14.7%であった.FP:偽陽性応答,Full:全点閾値法,SITA-S:SITA-Standard.右:False negative errors(FN) 回帰式:FN(SITA-S;%)=2.47778+0.1273936*FN(Full;%)(r2=0.071914, p=0.0749)は有意な相関が認められなかった.FN:偽陰性応答,Full:全点閾値法,SITA-S:SITA-Standard.SITA-SFLSITA-SFPFNSITA-S80%60%40%20%0%40%30%20%10%0%40%30%20%10%0%0%20%40%60%80%Full0%10%20%30%40%Full0%10%20%30%40%Full-30-25-20-15-10-5040%30%20%10%0%FNMD(dB):Full:SITA-S図 2False negative errorsと平均偏差Full(r2=0.4148)の FN(+)は MD と有意(p<0.0001)に関連したが,SITA-S(r2=0.0722)の FN(○)と MD には明らかな関連は認めなかった(p=0.0744).FN:偽陰性応答,MD:平均偏差.———————————————————————- Page 498あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(98)視野検査が行われ,しかも,視野障害の進行が明らかでなかった同一症例を用いて Full と SITA-S の RF を検討した.まず Full と SITA-S 間で RF の一貫性,一致性を調べた.一貫性は各 RF が境界値を超えなかった数を基準とし判定したが,「一貫性あり」と「ほぼ一貫性あり」を加えると FL,FP,FN の そ れ ぞ れ が 93.3%,100%,95.6% と な り Full, SITA-S で信頼性の結果は一貫していると考えた.RF の一致性は各 3 回の RF の中央値が境界値を超えるか否かにより検討したが,FLツ黴€ 88.9%,FPツ黴€ 100%,FNツ黴€ 93.3%と,いずれも高い一致性を認めると考えた.これらのことから,Fullと SITA の信頼性の指標は「一貫性」と「一致性」があり,strategy の違いは個々人の RF の傾向に大きく影響しないものと考えた.さて,SITA-S の FP,FN では算出法が Full とは異なるものの,境界値は FP では変更され,FN では従来通りの設定が推奨されている.そこで,今回,SITA-S における RFの境界値について ROC 曲線と直線回帰分析により検討した.ROC 曲線は検査の精度評価や 2 つの検査法の判別能の比較のため用いられる.今回は,Full での RF を基準としてROC 曲線を描き,SITA-S における RF の最適予測値を算出した.その結果,FL の最適予測値は 21.1%であり,Fullの推奨境界値である 20%とほぼ一致した.直線回帰分析でも SITA-S の予測値は 20.7%で同等のレベルにあった.FLは,Full と SITA-S でその算出法が同じ(Heijl-Krakau 法)であり,strategy の変更により影響を受ける要因は少ないと考えた.FP では境界値を超えた検査結果が非常に少なく ROC 曲線を描くことができなかったが,Full と SITA-S の直線回帰分析を行った結果,SITA-S の予測値は 14.7%であった.これは,SITA-S の境界値9)と同等のレベルで,この結果から,SITA-S での FP 算出法は検査時間の短縮に寄与するとともに,Full と同等の判定が得られる境界値に引き下げられていると推測した.一方,FN の ROC 曲線から求めた最適予測値は 6.0%と推奨境界値 33%と大きく解離していた.一般に緑内障では正常者に比べ網膜感度の変動や疲労現象が大きく,当初視認できた視標よりも明るい視標に対しても応答できず視野の重症度 に 比 例 し て FN が 高 値 を と る 傾 向 が ある14).しかし,SITA-S ではベイズ(Bayes)の定理に基づく FOSC を参考とし,FN が決定されるため視野障害の重症化による影響はFull に比べ少ないと考えられる10,15).今回の検討でも,Fullでは視野の重症度と FN に関連がみられたが,SITA-S では明らかな関連を認めず,視野測定戦略の変更が FN の境界値に影響すること,SITA では,最適予測値と推奨境界値に「大きなズレ」があることも含め,FN の RF としての意義が薄れていることが改めて確認できたものと考えた.SITA と Full の RF を比べたところ,両者の間には一貫性と一致性があり,Full を基準とした SITA の FL,FP の境界値の設定は妥当であり,SITA の FL,FP は Full のそれらと同様に取り扱うことができると考えた.しかし,FN は信頼度よりも視野障害の重症度の指標としての意義づけが高いものと考えられたため報告した.文献 1) 鈴村弘隆:自動視野計プログラムの選択.緑内障 3 分診療を科学する!(吉川啓司・松元俊編),p188,中山書店,2006 2) Anderson DR:Interpretation of a singleツ黴€ eld. Automated Static Perimetry, p91-161, Mosby-Year Book, St Louis, 1992 3) Iwase A, Suzuki Y, Araie M et al:The prevalence of pri-mary open-angle glaucoma in Japanese:The Tajimi Study. Ophthalmology 111:1641-1648, 2004 4) Heijlツ黴€ A,ツ黴€ Dranceツ黴€ SM:Changesツ黴€ inツ黴€ di erentialツ黴€ thresholdツ黴€ in patientsツ黴€ withツ黴€ glaucomaツ黴€ duringツ黴€ prolongedツ黴€ perimetry.ツ黴€ Brツ黴€ J Ophthalmol 67:512-516, 1983 5) 鈴村弘隆:反復閾値測定による緑内障の視疲労様変化について.日眼会誌 92:220-224, 1988 6) Bengtsson B, Olsson J, Heijl A et al:A new generation of algorithms for computerized threshold perimetry, SITA. Acta Ophthalmol Scand 75:181-183, 1997 7) 鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:Anderson 基準を用いた初期緑内障視野異常の検出.眼科 50:1967-1971, 2008 8) Olsson J, Rootzen H, Heijl A:Maximum likelihood estima-tion of the frequency of false positive and false negative answers from the up-and-down staircase of computerized threshold perimetry. Heijl A ed. Perimetry Update 1988/89,ツ黴€ p245-251, Kugler & Ghedini, Amsterdam, 1989 9) Heijl A, Patella VM:Essential Perimetry, third edition. Theツ黴€ eld analyzer primer. Statopac, p44-69, Carl Zeiss Meditec Inc, 2002 10) Olsson J, Heijl A, Bengtsson B et al:Frequency-of-seeing in computerized perimetry. Mills RP ed. Perimetry Update 1992/1993, p551-556, Kugler, Amsterdam, 1993 11) Olsson J, Bengtsson B, Heijl A et al:Improving estima-tion of false-positive and false-negative responses in com-puterized perimetry. Mills RP & Wall M eds. Perimetry Update 1994/1995, p219, Kugler, Amsterdam, 1995 12) Anderson DR, Patella VM:Interpretation of a singleツ黴€ eld. Automated Static Perimetry, second ed. p121-190, Mosby, St Louis, 1999 13) Anderson DR, Patella VM:Singleツ黴€ eld print out. Auto-mated Static Perimetry, second ed. p107-120, Mosby, St Louis, 1999 14) Katz J, Sommer A, Witt K:Reliability of visualツ黴€ eld results over repeated testing. Ophthalmology 98:70-75, 1991 15) Bengtsson B, Heijl A:False-negative responses in glau-coma perimetry:Indicators of patient performance or test reliabilityツ黴€ Invest Ophthalmol Vis Sci 41:2201-2204, 2000