0910-1810/10/\100/頁/JCOPY間にわたる早期腎症の進行経過およびRAS(レニン-アンジオテンシン系)遺伝子の多型性の縦断的分析結果では,軽症ではあっても高血圧を合併すること,そしてACE(angiotensinconvertingenzyme)遺伝子のD/D多型を有するもので腎症の進行がより速いことを明らかにしている2).今日では腎症の進行と高血圧の合併,あるいは両者を結びつけるリスクファクターとしてRASはじめに糖尿病症例に対して早期から長期間にわたって接する内科医には,継続性があるとともに各病期においてインパクトのある患者指導と的確な治療介入が要求される.すなわち,糖尿病網膜症の進行抑止には,網膜症進行期に入ってからの眼科的治療よりも糖尿病自体の発症早期からの全身管理がより大きな意義を有する.高血糖はもちろん,低血糖も可及的に回避することで達成される厳格な血糖コントロールがその将来を決定する.また同時に高血圧や脂質異常症に対する適切な薬物介入もEBM(evidence-basedmedicine)からみて重要である.すなわち内科医は増殖網膜症や血管新生緑内障などから最悪のシナリオを経てロービジョンに至るハイリスク症例のみならず,すべての糖尿病患者に対して長期にわたる治療を行わねばならない.これには集学的アプローチから得られたEBMに基づく生活指導・薬物介入とともに,個々の症例に対してテーラーメイド医療を実践することが最も必要である.これが,「明日のQOV(qualityofvision)」低下を回避することに繋がる1).I網膜症と腎症との関連性従来から網膜症の重症度は,同じく細小血管症である腎症の病期と正相関することが報告されている.筆者らの断面的調査結果でも,増殖網膜症期に至った例の多くが,顕性蛋白尿期あるいは微量アルブミン尿期のなかでもかなり進行したステージにある(図1)2).また,10年(35)1201*1MitsuyoshiNamba&KosukeKonishi:兵庫医科大学内科学糖尿病科*2NoriyoKubo&KeisukeKosugi:大阪警察病院内科*3TomohiroIkeda:兵庫医科大学眼科〔別刷請求先〕難波光義:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学内科学糖尿病科特集●糖尿病と糖尿病網膜症あたらしい眼科27(9):1201.1205,2010糖尿病網膜症の治療:全身管理の面からManagementofDiabeticRetinopathy:ImportanceofMetabolicControlofMicro-andMacro-VascularComplications難波光義*1小西康輔*1久保典代*2小杉圭右*2池田誠宏*3NDRSDRPDRNormoLowMicroHighMicroMacro411425207283892031(n=244)38図1外来通院中の2型糖尿病症例における網膜症と腎症の重症度別合併頻度(文献2を基に作図)NDR:nodiabeticretinopathy,SDR:simpleDR,PDR:proliferativeDR,Normo:尿中アルブミン10mg/gCr未満,LowMicro:同10~20,HighMicro:同20~150,Macro:同150以上.1202あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(36)虚血のリスクが高まるのではないかと想像される.従来から起立性低血圧合併例など全眼虚血に陥りやすい例は増殖性変化のハイリスク例であり,このような自律神経障害例を含めて,高齢者,ヘビースモーカー,高血圧,脂質異常症合併例など,大血管障害ハイリスク例に対する配慮や介入策も当然必要となる.III厳格な血糖コントロールの重要性網膜症のみならず,すべての糖尿病合併症の発症進行には高血糖が関与するが,これがEBMとしてはじめて確立されたのがDCCT(TheDiabetesControlandComplicationsTrial)であった4)(図4A,B).1型糖尿病に対し,約9年間にわたって平均HbA1Cで約1.5%の活性亢進が注目されており,すでにこの系の抑制薬であるACEI(angiotensinconvertingenzymeinhibitor)あるいはARB(angiotensinIIreceptorblocker)が腎症進行抑止薬としてその地歩を確立している.さらに増殖網膜症例の眼房水中のVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)およびアンジオテンシンII濃度は有意に高値であるとされ,最近ではVEGF産生とRASとの関連性も注目されつつある(図2).現在のところ,VEGF遺伝子多型と非増殖網膜症との関連性を疑わせる報告はあるが,増殖変化などのハイリスク性との直接的関連性を報告したものはない.今後RAS構成分子の遺伝子多型性を含めて,これらとの関係が明らかにされれば,ある種の多型性を有するハイリスク症例に対して,より選択的で効果的な介入策を講じる必要がある.現在の段階では,後述のように高血圧に対しては十分な薬物療法,とりわけRASを介した効果を有する薬物介入が第一次選択と考えられる.II網膜症と大血管障害との関連性筆者らの検討では,図3,4のように,網膜症の重症度と内頸動脈内中膜複合体IMT(intimamediathicknessofinternalcarotidartery)の肥厚度あるいは大動脈脈波伝播速度baPWV(brachial-anklepulsewavevelocity)との間に相関が認められた3).この事実は網膜症が単に細小血管症としての側面のみならず,大血管障害の性格も併せ持つことを示している.すなわち,眼動脈など頭蓋内動脈の硬化性病変が血流障害を招き,全眼0.80.911.11.21.31.4NDRSDRPPDRPDRIMT(mm)図3過去3年間に筆者らの糖尿病科に教育入院あるいは血糖コントロール立て直しのために(網膜症治療のためではなく)入院した症例における網膜症の病期分類と内頸動脈内中膜複合体厚(IMT:intimamediathicknessofinternalcarotidartery)(文献3,21より)NDR:nodiabeticretinopathy(DR),SDR:simpleDR,PPDR:pre-proliferativeDR,PDR:proliferativeDR.1,0001,2001,4001,6001,8002,0002,200NDRSDRPPDRPDRbaPWV(cm/sec)図4図3の症例における網膜症の病期分類と大動脈脈波伝播速度(baPWV:brachial-anklepulsewavevelocity)(文献3,21より)高血糖VEGF産生亢進VEGF,PDGF遺伝子多型?酸化ストレスAGEsRAS活性??図2高血糖とVEGFの産生亢進を結ぶメカニズムAGEs:advancedglycationendproducts,RAS:renin-angiotensinsystem,VEGF:vascularendotherialgrowthfactor,PGDF:platelet-derivedgrowthfactor.(37)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101203会値で6.5%以下とされている.DCCTに引き続いて実施されたEDIC(EpidemiologyofDiabetesControlandInterventionsandComplications)では,DCCTの期間中に従来療法群に属していた症例のうち強化療法群に転向した群とそのまま強化療法を継続した群とを7年間にわたって追跡したところ,後者のほうが前者よりも累積増悪率が62%も低かったことが明らかとなった7,8)(図6).この事実は,厳格なコントロールを導入実施するのであれば,可及的速やかに導入すべきであり,その一方である期間継続した悪いコントロールはその後も年余にわたって合併症に悪影響を及ぼすことを示している.現在ではこの結果は,「legacyeffect(遺産効果)」あるいは,「metabolicmemory(代謝の記憶)」とよばれている(図6).IV急激な血糖コントロールが網膜症に与える影響一方,DCCTの結果が報告されたときすでに,急激な血糖コントロールの改善が網膜症に与える悪影響に対する危惧も感じられていた.図5Bのように,すでに網膜症が存在する患者群に対する強化療法の介入においては,1~2年以内に一旦網膜症の増悪が観察されており,その後この危険性の分析結果が報告された9).の改善をもたらすことが,網膜症のないものにおける新たな発症リスクを1/3程度,すでに網膜症を有するものにおける進行リスクを1/2に抑制することが明らかとなった.2型糖尿病の網膜症においても,UKPDS(UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy)5)やKumamotoStudy6)によって,厳格な血糖コントロールがその予後を改善することが明らかとなっている.特に後者の分析によって,わが国における目標HbA1Cは日本糖尿病学B:進展阻止効果試験期間(年)試験期間(年)01020304050600123456789従来療法群(n=375)強化療法群(n=342)p<0.001従来療法群(n=348)強化療法群(n=354)p<0.0011020304050600123456789A:発症阻止効果0発症率(%)進展率(%)図5DCCTの従来療法.強化療法両群における網膜症の累積発症抑制率(A)と進展抑制率(B)(文献4を基に作図)AHbA1C(%)111098760123456789DCCTDCCTendDCCTendEDIC1234567(年)従来療法群強化療法群DCCT期間中の従来療法群DCCT期間中の強化療法群0.40.30.20.11234567DCCT終了後の年数(EDIC)B網膜症の累積増悪率62%従来療法群から強化療法群に移行したもの0図6EDICによって明らかとなった,良好な血糖コントロールによって得られる「legacyeffect(遺産効果)」あるいは,「metabolicmemory(代謝の記憶)」(文献7,8より改変)■用語解説■DCCT:米国とカナダの両国において,約9年間にわたり1型糖尿病患者約1,400例に対して行われたメガスタディ.1日1~2回のインスリン注射を行い平均HbA1C約9.0%に維持された従来療法群と,血糖自己測定を併用して1日数回の頻回注射や持続注入ポンプを用いた治療を行い平均HbA1C7.5%に維持された強化療法群の2群において網膜症をはじめとする糖尿病合併症の発症/進行を比較した.EDIC:DCCTの終了後,従来/強化療法それぞれに対して,新たなゴールを設定して行われた延長研究.両群がともにHbA1C約8%前後に集約されたことで,過去のDCCT期間中の持ち越し効果が比較されることとなった.UKPDS:英国の2型糖尿病数千例を対象として10年以上にわたって行われた介入研究.治療は食事・運動療法と経口血糖降下薬,インスリンなどが広く比較された.KumamotoStudy:わが国の熊本大学を中心に行われた.インスリン治療2型糖尿病110例において,6年間にわたって,頻回注射群と従来注射群の合併症に与える影響が比較された.1204あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(38)ARBを第一次選択薬として用いることがコンセンサスとなっている.なかでも,カンデサルタン(ARB)が1型糖尿病における網膜症の発症を抑制する可能性や,2型糖尿病における非増殖網膜症では網膜症を改善する可能性が示されている15,16).糖尿病患者の血圧管理目標値としては家庭血圧測定で,早朝起床時座位上腕測定で130/80mmHg以下とされている.さらに,脂質異常症の合併が硬性白斑や黄斑浮腫のリスクを高めるとの報告があり17,18),LDL(低比重リポ蛋白)-コレステロール低下作用の強いスタチンの硬性白斑に対する効果や中性脂肪低下作用のあるフィブラートの増殖網膜症に対する効果の報告もみられる19,20).おわりに今日まで糖尿病診療は,患者集団の統計データに基づいて合併症リスクを把握し,十把ひとからげの生活指導と内科的薬物介入を行ってきた.個々の患者さんに即したテーラーメイド医療の重要性が叫ばれる今日では,より集学的アプローチによってロービジョンハイリスク症例に対するEBMに基づく患者指導と適切な薬物介入を行うべきである.とりわけ糖尿病の発症当初から関与する内科医はより厳格な血糖・血圧・脂質管理を可及的早期から実践することが重要である21).文献1)難波光義,大植孝徳,山本浩司ほか:内科医を中心としたチーム医療における網膜症ハイリスク患者の管理.眼紀49:989-992,19982)OueT,NambaM,NakajimaHetal:RiskfactorsfortheprogressionofmicroalbuminuriainJapanesetype2diabeticpatients─a10yearfollow-upstudy.DiabResClinPract46:47-52,19993)小西康輔,勝野朋幸,難波光義:上腕足首脈波伝導速度(baPWV),および平均頸動脈内膜中膜複合体厚(meanIMT)と糖尿病細小血管症の関係について.MedicalPostgraduate47:120-125,20094)TheDiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)ResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19935)UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Intensiveblood-glucosecontrolwithsulphonyluわが国でもかなり以前から,急激な血糖コントロール,とりわけインスリン治療の導入がその引き金になるのでは?といった考えがあり,そのような症例報告や総説は枚挙にいとまがない10,11).自験例を含めた私見も交えて,糖尿病症例を多く経験する内科・眼科両専門医のコンセンサスを表1にまとめた.その悪化機序としては,急激な血糖降下に伴う網膜血管の透過性亢進やスパズム,あるいは血小板凝集能亢進などによる網膜組織内の低酸素血症が関与すると想定されるが,いまだ明らかではない.確かに有症状/無症状を問わず,低血糖を経験するほどタイトコントロールが行われた例に好発する印象もあり,またインスリンなど低血糖誘発リスクの高い薬物介入を受けた例に起こりやすい感じもある.しかしながら,一切薬物を用いず,食事療法のみで治療を開始したにもかかわらず,急激な網膜症の進行をきたした例を筆者らも経験しているし,そのような症例報告も散見される12).特に妊娠合併例ではより高率に網膜所見の増悪,とりわけ黄斑浮腫をきたしやすいので,頻回の網膜所見の観察が重要である13).基本的には表1のようなハイリスク因子をもつ例に対しては可及的緩徐な血糖降下を行い,眼底所見をより綿密に観察していく心構えが重要と思われる.V高血圧・脂質異常症管理と網膜症糖尿病に合併する高血圧の治療が網膜症の進行防止に有効であることがEBMで認められている14).特に薬物介入に際しては,前述の血管保護作用やVEGF産生抑制作用も期待できる抗RASのもの,すなわちACEIや表1急激な血糖コントロールが網膜症を悪化進行させるリスクのある要注意例1.それまで放置されていた例(糖尿病の管理状況が把握できない例)2.介入前のコントロールがきわめて不良な例3.介入後約3カ月間の血糖改善がHbA1Cで3.0%以上あるいは介入前値の30%以上低下させた例4.前増殖網膜症以上の合併例5.自律神経障害の合併により起立性低血圧がある例6.ヘビースモーカー例7.妊娠合併例(39)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101205complicationsinthediabetescontrolandcomplicationstrial.DiabetesCare23:1084-1091,200014)UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Tightbloodpressurecontrolandriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes(UKPDS38).BrMedJ317:703-713,199815)ChaturvediN,PortaM,KleinRetal:DIRECTProgrammeStudyGroup:Effectofcandesartanonprevention(DIRECT-Prevent1)andprogression(DIRECT-Protect1)ofretinopathyintype1diabetes.Arandomizedplacebo-controlledtrial.Lancet372:1394-1402,200816)SjolieAK,KleinR,PortaMetal:Effectofcandesartanonprogressionandregressionofretinopathyintype2diabetes(DIRECT-Protect2):Arandomizedplacebocontrolledtrial.Lancet372:1389-1393,200817)MiljanovicB,GlynnRJ,NathanDMetal:Aprospectivestudyofserumlipidsandriskofdiabeticmacularedemaintype1diabetes.Diabetes53:2883-2892,200418)CohenRA,HennekensCH,ChristenWGetal:Determinantsofretinopathyprogressionintype1diabetesmellitus.AmJMed107:45-51,199919)鷹羽照子,西川憲清,三ヶ尻健一ほか:糖尿病網膜症における硬性白斑に対するアトルバスタチン投与の効果.眼紀57:295-300,200620)KeechAC,MitchellP,SummanenPAetal:Effectoffenofibrateontheneedforlasertreatmentfordiabeticretinopathy(FIELDstudy):arandomizedcontrolledtrial.Lancet370:1687-1697,200721)難波光義,小西康輔,浜口朋也ほか:ロービジョンハイリスク症例への対応─内科医としての立場から─.眼紀58:403-406,2007reasorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcomplicationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).Lancet352:837-853,19986)OhkuboY,KishikawaH,ArakiEetal:IntensiveinsulintherapypreventstheprogressionofdiabeticmicrovascularcomplicationsinJapanesepatientswithnon-insulindependentdiabetesmellitus:Arandomizedprospective6-yearstudy.DiabetesResClinPract28:103-117,19957)Retinopathyandnephropathyinpatientswithtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivetherapy:TheDiabetesControlandComplicationsTrila/EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup.NEnglJMed342:381-389,20008)WhiteNH,SunW,ClearyPAetal:Effectofpriorintensivetherapyintype1diabeteson10-yearprogressionofretinopathyintheDCCT/EDIC:Comparisonofadultsandadolescents.Diabetes59:1244-1253,20109)TheDiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)ResearchGroup:EarlyworseningofdiabeticretinopathyintheDiabetesControlandComplicationsTrial.ArchOphthalmol116:874-886,199810)垂井清一郎:長期間きわめて治療不完全であった糖尿病患者における急速な血糖調節に伴う網膜症の変動・悪化.糖尿病27:743-745,198411)福田全克:急激な血糖コントロールの網膜症に及ぼす影響─眼科の立場から─.DiabetesJournal20:13-17,199212)高綱陽子,中村洋介,山本修一:食事療法のみによる急激な血糖コントロール後に著しく増悪した糖尿病網膜症の1例.眼紀58:538-543,200713)TheDiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)ResearchGroup:Effectofpregnancyonmicrovascular