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あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,201059
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急
性後極部多発性斑状色素上皮症(acuteツ黴 posterior
multifocal placoid pigment epitheliopathy:APMPPE)は,後極部に多発する境界不鮮明なクリーム色の斑状病変を呈する疾患として 1968 年に Gass らにより最初に報告された
1).若年成人(8 66 歳,平均
26.5 歳)にみられ,性差はない
2).急性もしくは亜急性
に発症し,霧視,暗点,変視症を自覚症状とする.両眼
同時にまたは片眼発症後,2,3 日遅れてもう片眼に発症し,75%以上の患者が両眼性である.再発はまれであるが,初発後 6 カ月以内に起こることがある.典型的
な APMPPE では,後極部の網膜深層に多発するクリー
ム色の斑状滲出斑を生じる.滲出斑は境界不鮮明で,大きさは 1/2 1/4乳頭径大でほぼ均一なのが特徴である(図1).眼炎症所見は多くの場合は軽度であり,前房内および前部硝子体内にわずかな細胞浸潤を認める程度で
ある.初発病巣は後極部付近に多発し,後発病巣は後極から周辺に拡散して生じる傾向がある.しかし,赤道部
より周辺に生じることはない.ときに,滲出斑に一致し
てわずかな限局性の漿液性網膜 離をきたすことがある
が,漿液性網膜 離および網膜色素上皮 離は色素上皮
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眼感染アレルギーセミナー
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●連載
監修=ツ黴ツ黴 ツ黴木下茂
大橋裕一
25.ツ黴ツ黴 ツ黴ツ黴ツ黴 ツ黴ツ黴ツ黴 ツ黴
急性後極部多発性斑状色素上皮症ツ黴ツ黴 ツ黴(APMPPE)
竹内大
東京医科大学眼科
急性後極部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)は,後極部に 1/2 1/4乳頭径大でほぼ均一なクリーム色の斑状滲出斑を多発性に生じる両眼性の疾患である.滲出斑は境界不鮮明で,後極部付近から周辺に拡散してみられる.眼炎症所見は軽度であり,滲出斑は色素性瘢痕を残して数週で自然消失する.黄斑部に病巣が及ばなければ視力予後は良好である.図ツ黴ツ黴 ツ黴1後極部に多発するクリーム色の斑状滲出斑滲出斑は境界不鮮明で,大きさは 1/2 1/4 乳頭径大でほぼ均一なのが特徴.図ツ黴ツ黴 ツ黴2フルオレセイン蛍光眼底造影写真造影初期は滲出斑に一致して低蛍光がみられ,後期には過蛍光となる逆転現象を示す.———————————————————————- Page 260あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010症であればいかなる疾患でもその病態から起こりうると考えられる.滲出斑はさまざまな程度の色素性瘢痕を残して数週で自然治癒し,視力予後はおおむね良好であるが,瘢痕病巣が黄斑部に及ぶと重篤な視力障害をきたす.黄斑部病変もしくはその予防を目的とした副腎ステロイド薬の全身投与が行われることもあるが,その有効性は示されていない.瘢痕病巣は治癒後も経年変化により徐々に拡大する. 断特徴的な眼所見のほか,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)が補助診断として有用である.FA では,造影初期は滲出斑に一致して低蛍光がみられ,造影後期には過蛍光となる,いわゆる“逆転現象”を示す(図2).しかし,色素沈着を伴った非活動性の瘢痕病巣は,低蛍光のままである.一方,IA では造影初期,後期とも低蛍光を示す. 因および病態 カニ ムAPMPPE 患者の約 3 割で頭痛,発熱,倦怠感などの感冒様症状の先行がみられることからウイルス感染3)や,全身性エリテマトーデス4)や腎炎,脳血管炎や髄膜脳炎などの全身性炎症性疾患5)との関連が示唆されているが,正確な病因は不明である.本症の病態は,IA 所見から,脈絡膜毛細血管板における流入血管の閉塞性血管炎が原因で,滲出斑部位では脈絡膜毛細血管板の小葉単位での循環障害が生じていると考えられている.閉塞部位の網膜色素上皮は二次的に障害される. 別診断1.ツ黴ツ黴 ツ黴汎ぶどう膜炎を伴う多発性脈絡膜炎(multifocal choroiditis with panuveitis:MCP)MCP は若年女性の両眼にみられ,後極部から周辺部にかけて多発性の白色滲出斑をきたす.APMPPE よりも硝子体炎などのぶどう膜炎症状が強く,滲出斑は小型で病巣に一致した限局性の漿液性網膜 離を伴っていることが多い.また,瘢痕病巣は同様に色素を伴っているがより深く,強膜に達している.2.ツ黴ツ黴 ツ黴多発性一過性白点症候群(multiple evanescent white dot syndrome:MEWDS)若年女性の片眼性にみられ,網膜色素上皮レベルの散(60)在性の白斑を呈する.APMPPE よりも病巣は小さく,蛍光眼底造影では初期から過蛍光となる.瘢痕病巣を残さず,数週で自然消失する.3.ツ黴ツ黴 ツ黴急性網膜色素上皮炎(acute retinal pigment epithelitis)急性網膜色素上皮炎は APMPPE と同様に,若年成人に多く,急激な視力低下,変視にて発症する.片眼,もしくは両眼に発症し,病巣は APMPPE よりも小さく,中心に色素沈着を伴った白色病変を呈する.4.ツ黴ツ黴 ツ黴地図状網脈絡膜症(geographic choroidopathy)地図状網脈絡膜症は,中壮年の男性に多くみられ,黄白色斑状の病巣が視神経乳頭近傍から生じ,視神経乳頭を取り巻くように新しい病巣が古い病巣の辺縁からつぎつぎに出現し,虫食い状に拡大する.地図状網脈絡膜症も脈絡膜血管の閉塞に伴う脈絡膜毛細血管板の循環障害であるため,APMPPE と同様の FA 所見を呈する.臨床所見の相違は閉塞性血管炎の程度と部位と推定される.しかし,地図状網脈絡膜症にみられる虫食い状の連続した脈絡膜萎縮巣や脈絡膜新生血管は APMPPE ではみられない.5.Vogt 小柳 原田病著明な漿液性網膜 離を呈する APMPPE の非典型例では,Vogt-小柳-原田病との鑑別が困難である.FA で造影初期に低蛍光,後期に過蛍光となる所見からも,Vogt-小柳-原田病と APMPPE は異なる疾患ではなく,同じスペクトル上の疾患であるという考えがある6).感音性難聴や髄膜炎症状を呈する APMPPE の報告もある.文献 1) Gassツ黴 JD:Acuteツ黴 posteriorツ黴 multifocalツ黴 placoidツ黴 pigmentツ黴 epi-theliopathy. Arch Ophthalmol 80:177-185, 1968 2) Jones NP:Acute posterior multifocal placoid pigment epi-theliopathy. Br J Ophthalmol 79:384-389, 1995 3) Fitzpatrick PJ, Robertson DM:Acute posterior multifocal placoid pigment epitheliopathy. Arch Ophthalmol 89:373-376, 1973 4) Van Buskirk EM, Lessell S, Friedman E:Pigmentary epi-theliopathy and erythema nodosum. Arch Ophthalmol 85:369-372, 1971 5) Weinstein JM, Bresnick GH, Bell CL et al:Acute posteri-or multifocal placoid pigment epitheliopathy associated with cerebral vasculitis. J Clin Neuroophthalmol 8:195-201, 1988 6) Wright BE, Bird AC, Hamilton AM:Placoid pigment epi-theliopathy and Harada’s disease. Br J Ophthalmol 62:609-621, 1978