あたらしい眼科Vol.27,No.8,201010990910-1810/10/\100/頁/JCOPY身近に搭載されるインターネットインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で,情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.このコミュニケーションはパソコンや携帯電話など特定の端末から利用するにとどまりません.テレビや,ビデオ,デジタルカメラ,カーナビなど,あらゆる機器から直接ネットワークに接続してサービスを利用する時代になりました.あらゆる機器が情報コミュニケーションツールとなる世界では,どのようなことが可能になり,その潮流がどのように医療にもたらされるでしょうか.家電にインターネットが搭載される理由は,「利便性」の追求です.家に帰る前にエアコンを入れたい,風呂を沸かしたい,鍵がかかっているか確認したい,ドライブの最中にお店の情報を知りたい,などの状況があげられます.が,いずれも生存に直結するものではありません.人間の欲求を満たす手段としてインターネットが使われていますが,これは,インターネットの本質に迫る活用方法ではありません.インターネットの本質は,「繋ぐ」「共有する」の2点に集約されます.Web1.0のインターネット社会では,「企業や団体」から「個人」へ情報が発信されました.これは一方向性の発信でした.Web2.0のインターネット社会では,「個人」から「個人」へ情報が発信されます.情報発信の主体者が,企業から個人へと移行したことは前述のとおりです.インターネット家電の場合,情報発信する主体者は人間です.「人間(=個人)」から「家電(=モノ)」への一方向の情報発信です.ここで,思考を広げてみます.Web1.0からWeb2.0への変化と同じように,インターネットに発信する主体者を「個人」から「モノ」に広げてみるとどうなるでしょう.個人と個人の間で無限の組み合わせを生み出したインターネットが,さらに膨大な量の組み合わせを生みます.あくまで個人的な見解ですが,情報発信者が「個人」から「モノ」へと拡大することが,インターネットの次世代の潮流と考えます.インターネットが「モノ」と「モノ」を繋ぐ時代になります.一つの例を示します.スマートグリッドとよばれる次世代の電力網があります.スマートグリッドとは,各家庭や事業所にある電気メーターに通信機能をもたせて,自動的に電力事業者へ遠隔報告する仕組みです.料金確認をすることが主な目的ではなく,電力使用量を常に観測し,適切な供給計画を作ることが最大の目的です.太陽光発電などで蓄電した電力が効率的に利用されることになります1,2).スマートグリッドは,オバマ政権が,米国のグリーン・ニューディール政策の柱として打ち出したことから,一躍注目を浴びることになりました.米国・欧州を中心に,スマートグリッドの開発が進んでいます.オバマ政権は2009年10月に,スマートグリッド関連事業に3,100億円の助成金を交付する,と声明を出しています.現在の日本では一方向性かつ中央管理型の送電システムが主流です.議論の分かれるところですが,将来的には,日本でもスマートグリッドを活用した分散型電源が普及すると予想します.つまり,電力を双方向性に発信できるようになり,その制御網にインターネットが使われます.スマートグリッドは,インターネットが「モノ(=電力計)」と「モノ(=発電機)」を繋ぐ,いい事例です.人間の役目は全体の流れをチェックするに留まります.インターネットが「モノ」を情報発信の主体者として普及する時代は近いと考えます.(87)インターネットの眼科応用第19章医療機器とインターネットの融合武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑲1100あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010医療機器とインターネット医療機器がインターネットにアクセスできるとどのようなことが可能になるでしょう.もちろん情報管理などのさまざまなリスクを伴いますが,「リスクがあるからできない」ではなく,「大きなメリットがあるなら実現したい」という項目をあげてみます.くり返しになりますが,インターネットの特徴は,「繋ぐ」と「共有する」の2点に集約されます.医療サービスの流れは,究極的には,医療機関と患者の二者の関係に集約されます.つまり,医療機器がインターネットにアクセスすることで生まれるサービスは,①医療機関が共同利用するサービス,②医療機関と医療機関を繋ぐサービス,③医療機関と患者を繋ぐサービス,④患者が共同利用するサービスがあると考えます.具体例をあげます.①医療機関が共同利用するサービス:医療クラウドによる電子カルテ②医療機関と医療機関を繋ぐサービス:遠隔診断サービス③医療機関と患者を繋ぐサービス:遠隔医療④患者が共同利用するサービス:体内埋め込み型の医療機器による検査・治療医療機関が共同利用するサービス第17章と第18章で紹介しましたように,クラウドコンピューティングで電子カルテを使用できる時代は,そう遠いものではありません.孫氏(ソフトバンク代表取締役社長)の目指す医療クラウドが実現すると,電子カルテは無料で利用できる時代になります.すべての電子カルテがインターネットにアクセスした場合,医療費を抑制できるかどうかは不明ですが,医療は確かに標準化されるでしょう.医療行為がデジタル化されることにより,ひょっとすると,難治性疾患に対する専門医の処方が,「推奨される処方例」として表示され,全国に普及する可能性をもちます.医療クラウドは,医療者が有効に活用すれば上質な医療を普及させる可能性をもちます.医療機関と医療機関を繋ぐサービス遠隔診断サービスについては第3章で紹介しました.放射線科領域において,ここ数年で急速に普及したサービスです.代表的なものは,セコム医療システム株式会社が提供する,「ホスピネット」というサービスです.(88)病院機関が撮影したMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)の画像データが,インターネットを通じてサーバーに蓄積されます.そのデータを他施設の専門医が読影してレポートをサーバー上に残します3).株式会社以外に,民間病院,大学病院などの病院機関が事業主体者になって遠隔診断サービスが展開されています.遠隔医療先進国の米国では,夜間の救急撮影の読影は,インド在住の医師集団が対応するよう組織編成されています.時差をうまく利用しているのです4).患者が共同利用するサービス体内埋め込み型の医療機器を用いた検査・治療は,インターネットの「モノ」から「モノ」を繋ぐ仕組みとして,非常に興味深い分野です.現在,さまざまな会社が,糖尿病治療に用いられる機器を開発しています.体内に埋め込まれた検査機器が血糖値を測定し,そのデータがインターネットを介して病院機関などに伝わり,治療プログラムに従ってインスリンの使用量が決まり,その指示が再びインターネットを通じて体内の治療機器に伝わり,血液中に注入されます.インスリンは皮下のタンクに充.され,定期的に医療機関で補充されます.この仕組みにより,インスリンの自己注射をする患者の苦労が軽減されます5).一部の機器はFDA(米国食品医薬品局)の認可も下りています.ただ,体内埋め込み型の医療機器に共通する問題点は,動力源をどう確保するか,です.残念ながら太陽エネルギーや,温度,代謝エネルギーを活用できるようになるのはまだ先の話のようです.眼球は唯一,内部に光が届く臓器です.将来的には,光を有効に使い,眼圧を継続して測定し,治療薬を放出するコンタクトレンズができるかもしれません.産業界で活用された,デバイスの進歩とインターネットの進歩は,医療界に還元されます.スマートグリッドと医療の先端技術には,「モノ」と「モノ」を繋ぐインターネットの使い方において同様な先進性をもちます.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%892)http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/200911/2009-11-3.html3)http://medical.secom.co.jp/it/hospinet/index.html4)武蔵国弘:インターネットの眼科応用医師の知的財産とインターネット.あたらしい眼科27:493-494,20095)http://www.f.waseda.jp/n.yamauchi/lecture/2005/sn/%5B2005%5D%5BSNW%5D05_Itao03.pdf