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眼研究こぼれ話 1.はじめに

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,201071眼研究こぼれ話(71)私は 1975 年家族と共にワシントン D.C. にある米国国立衛生研究所(Nationalツ黴€ Institutesツ黴€ ofツ黴€ Health,以下NIH と略す)内の国立眼研究所(National Eye Insti-tute,以下 NEI と略す)に留学してから約 3 年間,桑原先生の研究室で,水晶体の超微細構造を透過型と走査型の電子顕微鏡を用いて解析し,白内障の成因について研究する仕事をしておりました.桑原先生(通称Dr.ツ黴€ Kuwabara)には,NIH においての眼科的研究はもちろんのこと,日本と米国の風俗習慣の違い,日常生活におけるものの考え方の違いなど,いろいろな社会的なことも教えていただきました.ハロウィンの子供たちの仮装やもてなし方,クリスマスの大きなターキーの焼き方やさばき方,ドールハウスの歴史や実際のつくり方,ワシントンの国立動物園の稀少な動物を見る楽しみ,自宅で催すオープンハウスでの人のもてなし方など,日本ではなかなか経験できないことを数多く教えていただき,大変勉強になり楽しかったことを覚えています.Dr. Kuwabara は,研究でも日常生活でも,いろいろなことに興味をもたれ,積極的に社会に目を向ける方でした.研究室では写真を納得がいくまでご自分の手で現像,焼付けをされていましたし,日常生活では愛用のカメラを常に持ち歩き,目に付いた瞬間をまめに撮影され,その写真を見ながら社会のさまざまなことを説明してくださいました.その後 1980 年ごろ,Dr. Kuwabara が,故郷松山の新聞に書かれていた若かりし頃の米国の研究生活についての「こぼれ話」(実に今から約半世紀前のことです!)を 108 篇も毎回送ってきてくださいました.その文面からは医学研究に対する情熱が感じられると同時に,それを取り巻く社会情勢の厳しさなど,私達留学生には計り知れない米国の現実を知ることができました.このたび,この貴重な「こぼれ話」を久しぶりに読み直す機会があり,懐かしさと同時に新鮮さが感じられました.私と同時期に NEI で仕事をされていた玉井信先生(前東北大学眼科教授),大西克尚先生(前和歌山医科大学眼科教授),田中稔先生(順天堂大学浦安病院眼科教授)の先生方にこのエッセイの転載について相談したところ賛同をしてくださり,関係各位のご協力を得て,「あたらしい眼科」の誌上に再登場することがここに実現したところです.この 30 年前(当時 58 歳)に先生が書かれた「こぼれ話」を,当時の新聞に掲載された原文のまま皆様にお届けいたします.電子顕微鏡によって身体の組織の超微細構造が次々に映し出され,生化学的,生理学的な研究へと発展していくことで,人体のさまざまな変化を捉えていくことに情熱をかけた時代の風を感じていただくと共に,一流の研究者が世界中から集まるハーバード大学,NIH の中で,世界眼病理学会の第一人者としてご活躍されていた Dr.ツ黴€ Kuwabara のお人柄に触れていただけたらと思います.全 108 話からの選ばれた 30 篇の珠玉のエッセイをどうぞお楽しみください. 公立昭和病院 参与幸田富士子今月より,かつて眼病理学の世界的権威であった桑原登一郎先生のエッセイ集,「眼研究こぼれ話」の掲載が始まります.これは,ある地方新聞の紙上に連載されていた先生のお原稿の中から,「あたらしい眼科」編集委員間の投票のうち,特に人気のあった 30 篇を選出したものです.原本は,先生の愛弟子であられた幸田富士子先生からご提供いただいたもので,先生のご協力なしにこの企画はあり得ませんでした.この場を借りて厚く御礼を申し上げます.残念ながら,私自身は先生にお会いする機会はありませんでしたが,どのエッセイからも先生が常日頃持ち続けられていた未知への探究心がうかがわれます.科学者としてのスタンスを改めて学ぶいい機会かと思います.これからの 2 年半,毎月届けられるエッセイをどうかお楽しみにお待ちください. 愛媛大学医学部眼科学 教授大橋裕一桑原登一郎先生の「眼研究こぼれ話」の連載に寄せて———————————————————————- Page 272あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010眼研究こぼれ話(72)私は,自身が 1979 年に米国留学したときに,桑原登一郎先生のお名前を初めて知りました.当時,米国在住の日本人のようなお名前で世界に誇れる先生は Jinツ黴€ Hツ黴€ Kinoshita そして Toichiroツ黴€ Kuwabara のお二人でした.このお二人は National Eye Institute の重鎮として数多くの研究者を指導しておられましたので,米国留学する日本人は「おまえは Toichiro を知っているか」とよく聞かれたものです.桑原先生は語学が決して堪能であったわけではないと聞き及んでおりますが,先生の講演はいつも米国人の聴衆で一杯であったようです.皆さんが Toichiro の講演内容を知りたくて,Toichiro の英語を勉強したという逸話もあるくらいです.先生の視覚研究についてのお考えが伝わる機会を幸田富士子先生,大橋裕一先生からいただき,編集主幹として喜びに耐えません.今の時代に読んでも新鮮な話ばかりであり,特に若い世代の研究者には役に立つ何かがあるように思います. 京都府立医科大学眼科学 教授木下茂■「眼研究こぼれ話」(桑原登一郎 著)30篇の構成一覧■① はじめに② 眼とカメラの比較F3.5 ていどの明るさ③ 恩師コーガン教授ハーバード大ハウ研究所で④ テニュア米の医学研究システム⑤ 角膜の生化学印象深いキノシタ君の研究⑥ 角膜の透明度研究生物,物理に 2 学説⑦ 電気生理学の研究富田,金子両氏の偉業⑧ 眼の反射装置の研究動物の眼が光るのは…⑨ 医学研究の実績小さな蓄積の上に⑩ 国立衛生研究所(NIH)最高私設と非能率が同居⑪ NIH の臨床研究アルソップ氏の遺稿⑫ 角膜表面の構造ウジムシが住める水膜⑬ レンズの構造老化の次に来る白内障⑭ レンズの構造核が消える眼の細胞⑮ 医学講義について生徒が先生を“採点”⑯ 網膜の構造(上)コンピューター配線のよう⑰ 網膜の構造(下)黄斑部に頼る視力⑱ 網膜の光障害照明は薄暗くてもよい⑲ 中心性網膜症の研究太陽を見つめる危険性⑳ 冬眠動物の細膜期間中は完全に“盲目” 光凝固療法眼の手術にメスの効果 医学研究者の質金銭で解決できぬ問題 ビタミン E の研究老化を防ぐ効果 緑内障の治療効果あるマリファナ 網膜血管の研究落葉の栞にヒント 糖尿病性網膜症幽霊細胞が直接的原因 ハロウィーンのお化け「第三眼」持つハ虫類 フリーデンウォールド賞視覚研究家の中から 偉大な学者たちノーベル賞受賞者の中で 結びご愛読を感謝して☆ ☆ ☆

眼研究こぼれ話 桑原登一郎先生の「眼研究こぼれ話」の連載に寄せて

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,201071眼研究こぼれ話(71)私は 1975 年家族と共にワシントン D.C. にある米国国立衛生研究所(Nationalツ黴€ Institutesツ黴€ ofツ黴€ Health,以下NIH と略す)内の国立眼研究所(National Eye Insti-tute,以下 NEI と略す)に留学してから約 3 年間,桑原先生の研究室で,水晶体の超微細構造を透過型と走査型の電子顕微鏡を用いて解析し,白内障の成因について研究する仕事をしておりました.桑原先生(通称Dr.ツ黴€ Kuwabara)には,NIH においての眼科的研究はもちろんのこと,日本と米国の風俗習慣の違い,日常生活におけるものの考え方の違いなど,いろいろな社会的なことも教えていただきました.ハロウィンの子供たちの仮装やもてなし方,クリスマスの大きなターキーの焼き方やさばき方,ドールハウスの歴史や実際のつくり方,ワシントンの国立動物園の稀少な動物を見る楽しみ,自宅で催すオープンハウスでの人のもてなし方など,日本ではなかなか経験できないことを数多く教えていただき,大変勉強になり楽しかったことを覚えています.Dr. Kuwabara は,研究でも日常生活でも,いろいろなことに興味をもたれ,積極的に社会に目を向ける方でした.研究室では写真を納得がいくまでご自分の手で現像,焼付けをされていましたし,日常生活では愛用のカメラを常に持ち歩き,目に付いた瞬間をまめに撮影され,その写真を見ながら社会のさまざまなことを説明してくださいました.その後 1980 年ごろ,Dr. Kuwabara が,故郷松山の新聞に書かれていた若かりし頃の米国の研究生活についての「こぼれ話」(実に今から約半世紀前のことです!)を 108 篇も毎回送ってきてくださいました.その文面からは医学研究に対する情熱が感じられると同時に,それを取り巻く社会情勢の厳しさなど,私達留学生には計り知れない米国の現実を知ることができました.このたび,この貴重な「こぼれ話」を久しぶりに読み直す機会があり,懐かしさと同時に新鮮さが感じられました.私と同時期に NEI で仕事をされていた玉井信先生(前東北大学眼科教授),大西克尚先生(前和歌山医科大学眼科教授),田中稔先生(順天堂大学浦安病院眼科教授)の先生方にこのエッセイの転載について相談したところ賛同をしてくださり,関係各位のご協力を得て,「あたらしい眼科」の誌上に再登場することがここに実現したところです.この 30 年前(当時 58 歳)に先生が書かれた「こぼれ話」を,当時の新聞に掲載された原文のまま皆様にお届けいたします.電子顕微鏡によって身体の組織の超微細構造が次々に映し出され,生化学的,生理学的な研究へと発展していくことで,人体のさまざまな変化を捉えていくことに情熱をかけた時代の風を感じていただくと共に,一流の研究者が世界中から集まるハーバード大学,NIH の中で,世界眼病理学会の第一人者としてご活躍されていた Dr.ツ黴€ Kuwabara のお人柄に触れていただけたらと思います.全 108 話からの選ばれた 30 篇の珠玉のエッセイをどうぞお楽しみください. 公立昭和病院 参与幸田富士子今月より,かつて眼病理学の世界的権威であった桑原登一郎先生のエッセイ集,「眼研究こぼれ話」の掲載が始まります.これは,ある地方新聞の紙上に連載されていた先生のお原稿の中から,「あたらしい眼科」編集委員間の投票のうち,特に人気のあった 30 篇を選出したものです.原本は,先生の愛弟子であられた幸田富士子先生からご提供いただいたもので,先生のご協力なしにこの企画はあり得ませんでした.この場を借りて厚く御礼を申し上げます.残念ながら,私自身は先生にお会いする機会はありませんでしたが,どのエッセイからも先生が常日頃持ち続けられていた未知への探究心がうかがわれます.科学者としてのスタンスを改めて学ぶいい機会かと思います.これからの 2 年半,毎月届けられるエッセイをどうかお楽しみにお待ちください. 愛媛大学医学部眼科学 教授大橋裕一桑原登一郎先生の「眼研究こぼれ話」の連載に寄せて———————————————————————- Page 272あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010眼研究こぼれ話(72)私は,自身が 1979 年に米国留学したときに,桑原登一郎先生のお名前を初めて知りました.当時,米国在住の日本人のようなお名前で世界に誇れる先生は Jinツ黴€ Hツ黴€ Kinoshita そして Toichiroツ黴€ Kuwabara のお二人でした.このお二人は National Eye Institute の重鎮として数多くの研究者を指導しておられましたので,米国留学する日本人は「おまえは Toichiro を知っているか」とよく聞かれたものです.桑原先生は語学が決して堪能であったわけではないと聞き及んでおりますが,先生の講演はいつも米国人の聴衆で一杯であったようです.皆さんが Toichiro の講演内容を知りたくて,Toichiro の英語を勉強したという逸話もあるくらいです.先生の視覚研究についてのお考えが伝わる機会を幸田富士子先生,大橋裕一先生からいただき,編集主幹として喜びに耐えません.今の時代に読んでも新鮮な話ばかりであり,特に若い世代の研究者には役に立つ何かがあるように思います. 京都府立医科大学眼科学 教授木下茂■「眼研究こぼれ話」(桑原登一郎 著)30篇の構成一覧■① はじめに② 眼とカメラの比較F3.5 ていどの明るさ③ 恩師コーガン教授ハーバード大ハウ研究所で④ テニュア米の医学研究システム⑤ 角膜の生化学印象深いキノシタ君の研究⑥ 角膜の透明度研究生物,物理に 2 学説⑦ 電気生理学の研究富田,金子両氏の偉業⑧ 眼の反射装置の研究動物の眼が光るのは…⑨ 医学研究の実績小さな蓄積の上に⑩ 国立衛生研究所(NIH)最高私設と非能率が同居⑪ NIH の臨床研究アルソップ氏の遺稿⑫ 角膜表面の構造ウジムシが住める水膜⑬ レンズの構造老化の次に来る白内障⑭ レンズの構造核が消える眼の細胞⑮ 医学講義について生徒が先生を“採点”⑯ 網膜の構造(上)コンピューター配線のよう⑰ 網膜の構造(下)黄斑部に頼る視力⑱ 網膜の光障害照明は薄暗くてもよい⑲ 中心性網膜症の研究太陽を見つめる危険性⑳ 冬眠動物の細膜期間中は完全に“盲目” 光凝固療法眼の手術にメスの効果 医学研究者の質金銭で解決できぬ問題 ビタミン E の研究老化を防ぐ効果 緑内障の治療効果あるマリファナ 網膜血管の研究落葉の栞にヒント 糖尿病性網膜症幽霊細胞が直接的原因 ハロウィーンのお化け「第三眼」持つハ虫類 フリーデンウォールド賞視覚研究家の中から 偉大な学者たちノーベル賞受賞者の中で 結びご愛読を感謝して☆ ☆ ☆

インターネットの眼科応用 12.Health2.0

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010690910-1810/10/\100/頁/JCOPYHealth 2.0という概念「Health 2.0」という言葉をご存じでしょうか.Web 2.0 にインパクトを受けて新しい医療サービスを志向する動きが,まず 2006 年秋,米国の“Open Healthcare Manifesto”で最初に登場しました.マシュー・ホルト氏は「Health 2.0 とは,単純に Web 2.0 の技術を医療に応用することだと考えるべきだ.これはアウトカムや医療の質や医療改革と関係はない.」と述べ,あくまでも,Web2.0 技術の応用領域に Healthツ黴€ 2.0 の対象範囲を限定すべきと主張しました.また,医師であるスコット・シュリーブ氏は「Health 2.0 とは単に IT 技術だけの問題ではなく,広く医療全体を変革するムーブメントであると考えている.」と主張しています.彼にとってHealthツ黴€ 2.0 とは,まさにこれまでの医療のあり方全体を根底的に変える「運動」なのだといえます1).いずれにせよ,「Health 2.0」の世界では,医療を患者からの情報発信をベースに構築します.「Web 2.0」とは,インターネット上に世界中の個人が情報を発信し,蓄積された膨大な量の集合知にいつでもアクセスできる状態をいいます.Web 2.0 社会では,生産者よりも消費者が優位となり,この潮流を「情報革命」と表現します.近年提唱された「Healthツ黴€ 2.0」という概念を医療に関しても適用すべき,と欧米を中心に広がっています.自らの体験をインターネットに投稿し,経験を共有し,医師や医療機関に頼らない健康情報の獲得方法は,利用者に高いインターネットリテラシーを求めます.日本でも,「TOBYO」(図1)という闘病ブログを見れば,患者同士の経験の共有がどれだけの説得力をもって患者に届くかは容易に想像がつきます.「網膜 離」と入力すると,30 件の闘病ブログがヒットし,治療経過が患者目線で記されています2).「Health 2.0」の世界では,患者は,自分自身の健康情報をインターネット上で管理し,自分自身が病気になったときは,インターネット上の情報から自分に最適な医療機関や治療法を選択します.譬えると,ラーメン屋を選ぶ際も,医療を受ける際も同じインターネットの使い方をします.この行動の根本にあるのは,サービスを消費する際には,消費する本人が必要あるときに自分で情報を検索し,意思決定し,アクセスして,消費し,結果に対しても責任をもちたい,という考え方があります.私は,日本で「Healthツ黴€ 2.0」が根付くかどうかは二つの点で懐疑的です.一つは,日本人は,非常に商品の質に敏感であり,かつ,公平性を意識する国民性をもつからです.美味しい寿司屋があると聞けば,飛行機に乗って東京からでも大阪からでも北海道まで行く人がいます.それだけ,国内はあらゆるモノに対してフリーアクセスといえます.仮に,国内のすべての医療機関が飲食店のように格付けされ,医師すらも格付けされたとします.自分や自分の家族が癌になった場合,日本で一番の医者に診てほしいと思う気持ちは,誰にもあるでしょう.日本人の心情として,200 番目の医師に診てもらって,結果が悪かった場合,納得できるでしょうか?「もっといい医者に診てもらえれば良かった」と,死を受け入れられない可能性があります.また,日本で一番(と(69)インターネットの眼科応用第12章Health2.0武蔵国弘(Kunihiro Musashi)むさしドリーム眼 科シリーズ⑫図 1TOBYOのトップページ———————————————————————- Page 270あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010インターネット口コミ情報で認定された)の医師に診てもらえるのは,殺到する患者のなかから限られた人だけになりますが,その選別が「価格」であったり「抽選」であったりする場合,その結果を受け入れることができるでしょうか.日本人は医療に対して公平性を強く求めます.「Health 2.0」の世界観が普及すると,医療の現場が疲弊し,医療崩壊を促進させる恐れがあります.二つ目は,患者が自分自身で健康管理し,健康や治療についての相談がインターネットで完結するようになると,医療機関を受診する機会が全体的には減少するでしょう.また,ドラッグストアなどでの薬で済ませようとする患者がさらに増えるでしょうし,受診者が減少し,経営的に苦しくなる医療機関が増える可能性があります.前述した医療崩壊とは別の「医療機関崩壊」もしくは選別が始まります.以上の理由で,日本の医療現場には「Healthツ黴€ 2.0」はなじまないと考えますが,インターネットが社会に与えたインパクトは当然,医療界だけではありません.世の中の多くの企業がこの変化に対応したように,医療界全体で,もしくは各医療機関,医師各個人が対応せねばなりません.臨床の現場の仕事が徐々にインターネット上に移行し,じわりじわりと医師-患者間の関係にも変化を与えるでしょう.自己管理される医療情報「Health 2.0」の社会では,患者は生誕時からの健康情報をウェブ上に入力します.受診歴から手術歴,治療歴を患者自身がウェブ上に入力して,健康管理のツールとします.医療機関はその管理記録を見ることで,患者自身が気付かなかった病態を把握できるかもしれません.Google Health がその代表例です.Google Healthの利用者は,健康意識が高い,という評価となり,有利な医療保険を契約できる,という試みがアメリカでは始まっています.アメリカの先進性を感じます.ひとつ,面白いデータを紹介します.ライフログという言葉があります.人生のすべての出来事をデジタル情報で保存する場合,どれくらいの容量があれば足りるのか,試算した人がいます.テキストで保存する場合は,12 GB 必要になり,人生の記録は数本のメモリースティックがあれば十分です.音声保存の場合は 40 TB必要で,動画保存の場合は 700 TB あれば足りるそうです3).大容量のサーバーが安価になったため,人生をすべて動画で保存することは,あながち夢物語でもなさそうです.自動保存形式であれば,入力の手間は省けま(70)す.健康情報に関しても,医師との会話もどの病院に通院したかも,検索方法さえ確立すれば,後から把握することが可能です.「Health 2.0」の社会の究極の電子カルテといえます.ある有名な SF 漫画で,片方の眼球が外界の情報をデジタル保存できる装置に取り換えられて,インターネットの情報や過去のデータを,その模擬眼球に表示できる主人公がいました4).人間の網膜に映った画像を保存できる時代が来るかどうかはわかりませんが,録画や通信が可能な,ウェアラブル小型カメラは技術的にはすでに可能でしょう.21 世紀の医療者は,学会の場で医療界に発信するだけでなく,インターネットを使って生活者に発信することが求められます.インターネットを情報探索の道具として使うだけでなく,患者と自分を繋ぐ道具として活用しないといけません.インターネット環境は,パソコンではなく,携帯電話や iPhone であったり,ゲーム機のような端末になるかもしれません.手入力ではなく,音声入力,画像自動録画のような手法になるかもしれません.今の世の中は情報革命の真っただ中です.医療者の感覚よりも世間の動きは速いようです.「Health 2.0」の波は日本にも今以上に普及することは間違いありません.「Health 2.0」に医療者が対応する方法は前号でも取り上げましたが,二つある,と考えます.1) 医療者が,インターネットに散乱する医療情報の格付けをします.2) 医療プロフェッショナル向けの情報を,インターネット上の閉じた空間で共有し,医療者の医療知識の底上げを図ります.次号では,2)の具体例を紹介します.【追記】NPO 法人 MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.org までご連絡ください.MVC-online からの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献 1) http://www.tobyo.jp/tobyoblog/2007/349.html 2) http://www.tobyo.jp/ツ黴€ 3) 中尾彰宏:第 3 回日本遠隔医療学会 WEB 医療分科会「遠隔医療における WEB の役割」,2009 4) http://www.buichi.com/works/goku/index_goku.html

硝子体手術のワンポイントアドバイス 80.Uveal effusionに対する強膜開窓術(初級編)

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010670910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに硝子体手術ではないが,今回は uvealツ黴€ e usion に対する強膜開窓術について述べる.Uveal e usion は 1963年に Schepens らによって初めて報告された疾患で,体位変換によって網膜下液が移動する滲出性網膜 離を特徴とする1)(図1).Gass はその病態について強膜の肥厚による経強膜的な蛋白拡散障害が原因で,脈絡膜内に組織液が貯留し,二次的に滲出性網膜 離が発症すると考えた2).強膜が主病因であるとの仮説に基づき考案された強膜開窓術は内外での追試により有効性が認められ,現在では uveal e usion 治療の第一選択となっている. Uveal e usionに対する強膜開窓術全周の結膜を切開し,4 直筋に制御糸をかけ,各象限に一辺が約 4 5 mm の強膜半層弁を作製する(図2).その後,弁下の強膜をブロック状に切除し,脈絡膜を露出させる(図3).このとき,症例によっては少量の脈絡膜上腔液が排出されることがある.強膜開窓時の注意点としては,脈絡膜を穿孔しないことである.通常はゴルフ刃を用いて丁寧に行えば穿孔する危険は少ないが,過度に眼球を圧迫しないように心がける.最後に強膜弁を2 糸縫合する(図4).一般に強膜開窓部位は 4 象限に施行するが,2 象限で治癒することも多い. 後再発例に対する対 強膜開窓術後に,強膜弁周囲に Tenonツ黴€ が癒着し,(67)その結果 uvealツ黴€ e usion が再発することがある.再発例に対する治療としては以下のような方法が考えられる.1) 強膜開窓部位が 2 カ所の場合は,再手術時に 4 カ所に増やす.2)強膜開窓部位をより大きくする.3)強膜切除部位の縁をジアテルミーで凝固する.4) 強膜弁作製部位に 0.04%マイトマイシンを 3 分間塗布する.筆者らは,強膜開窓部位の瘢痕癒着により再発をくり返した難治性 uvealツ黴€ e usion の 1 例に対し,術後の瘢痕癒着目的で羊膜パッチを併用した強膜開窓術を行い良好な結果を得ている3).文献 1) Schepens CL, Brockhurst BJ:Uveal e useion 1. Clinical picture. Arch Ophthalmol 70:189-201, 1963 2) Gassツ黴€ JDM,ツ黴€ Jallowツ黴€ S:Idiopathicツ黴€ serousツ黴€ detachmentツ黴€ ofツ黴€ the choroid, ciliary body and retina(Uveal e useion syn-drome). Ophthalmology 89:1018-1032, 1982 3) 戸成匡宏,植木麻理,岡本加苗ほか:羊膜パッチ併用強膜開窓術が奏効した難治性 uveal e usion の 1 例.眼臨99:736-739, 2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載80ツ黴€ツ黴€ ツ黴€Uvealツ黴€ツ黴€ ツ黴€e usion に対するツ黴€ツ黴€ ツ黴€強膜開窓術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図 2強膜半層切開ゴルフ刃を用いて強膜半層弁を作製する.図 3強膜開窓術弁下の強膜をブロック状に切除し,脈絡膜を露出させる.図 4強膜弁縫合強膜弁を 2 糸縫合する.図 1 Uveal e usionの眼底写真偽乳頭浮腫を伴う全象限にわたる滲出性網膜 離を認め,体位によって網膜下液が移動する.

第10回眼科DNAチップ研究会報告書

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.1,2010650910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに今年(2009年)で第10回を迎える眼科DNAチップ研究会が第63回日本臨床眼科学会にて2009年10月9日に行われた.一般演題4題,教育講演1題,そして特別講演1題と内容の豊富なプログラムであり,バイオインフォマティクスに関する高度な研究内容を聞くことができた.本研究会は発足当時に眼科DNAチップ研究会と名づけられ,研究会では毎回高度な研究内容が発表されてきた.現在に至るまでにバイオインフォマティクス的研究手法は進化しており,対象は初期には遺伝子が主であったが,現在ではトランスクリプトーム解析,プロテオーム解析,グライコーム解析,メタボローム解析などに拡大発展している.本研究会では「DNAチップ」に限らずに幅広く研究会を発展させたいと考えており,幅広いバイオインフォマティクス分野における演題を募集している.一般講演京都大学の中西秀雄先生は「DNAチップを用いた変性近視感受性遺伝子へのアプローチ」について発表された.強度近視は環境因子とともに遺伝因子の関与が指摘されており,家系を用いた連鎖解析によってこれまで多数の近視感受性領域が報告されているが,現時点では具体的な近視感受性遺伝子は明らかになっていない.近年の科学技術・バイオインフォマティクスの進歩ならびに公的データベースの充実に伴い,一塩基多型(SNP)を用いた大規模な全ゲノム関連解析(GWAS)が可能となり,眼科領域でも加齢黄斑変性症,落屑症候群における遺伝子多型の強い関連が明らかになっている.本講演ではアジア人において特に重要な疾患である強度近視の感受性遺伝子を明らかにすべく,演者らが行ったGWASの具体例を示しながら,今後の方針とともにその理想と現実を概説された.京都府立医科大学の上田真由美先生は「Steavens-Johnson症候群(SJS)とEP3遺伝子多型の相関ならびにEP3機能の解析」について発表された.全遺伝子アプローチによる遺伝子解析(GWAS)にて,SJSにおいてEP3遺伝子領域との相関が確認され,iselectカスタムチップとダイレクトシークエンスにてEP3遺伝子領域の6SNPsとの相関が確認された.遺伝子機能解析においては,結膜上皮にEP3遺伝子の発現が確認され,またEP3アゴニストはpolyIC刺激下の結膜上皮細胞のCXCL11,CCL20,IL6の産生を抑制し,さらに結膜弛緩症や翼状片患者の結膜上皮に発現していたEP3蛋白が慢性期SJS患者の結膜では消失していた.以上よりEP3が眼表面炎症制御に関与している可能性があることを示された.京都府立医科大学の池田陽子先生は「原発性開放隅角緑内障(POAG)の疾患マーカー解析」について発表された.POAG症例と緑内障専門医が判定した正常者を500KAymetrixチップにて解析し,得られた一塩基多型(SNPs)と既報の緑内障遺伝子情報を踏まえて作成したカスタムチップにて別集団POAG,正常者間を解析し,結果をマンテルヘンゼル法で統合解析を行って最終的に6個の有意なSNPsを得た.これらのSNPsはPOAGの発症関連マーカーになる可能性があることを示された.山形大学の柏木佳子先生は「コチレニンA投与した網膜芽細胞腫細胞株における網羅的遺伝子発現解析」について発表された.分化誘導および増殖抑制効果をもつ新しい抗腫瘍薬として考えられているコチレニンAを網膜芽細胞腫細胞株WERI-Rb-1に投与したのちにマイクロアレイ解析を行った結果,TNF(腫瘍壊死因子)シグナル関連因子,細胞周期を抑制するp21・Cip1遺伝子,および視細胞特異的発現遺伝子であるphospho-deesterase6AのmRNAの発現が上昇した.一方で,(65)第10回眼科DNAチップ研究会報告西塚弘一*1山下英俊*1木下茂*2*1山形大学医学部眼科学講座*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学第63回日本臨床眼科学会専門別研究会2009年10月9日(金)福岡国際会議場———————————————————————-Page266あたらしい眼科Vol.27,No.1,2010神経芽腫マーカーであるN-myc遺伝子のmRNAの発現は減少した.また,WERI-Rb-1にコチレニンAを投与することにより細胞増殖抑制およびアポトーシス誘導,細胞形態変化が観察された.これらの結果より,コチレニンAが網膜芽細胞腫細胞株において細胞周期を抑制しアポトーシスを誘導することが確認され,抗腫瘍薬への応用の可能性があることを示された.教育講演山形大学の田宮元先生は「ヒト疾患感受性遺伝子同定のためのバイオインフォマティクス手法」について講演された.現在,最も広く行われている一定の統計尺度を閾値としてゲノム全体をカバーする高密度一塩基多型(SNP)を用いたケース・コントロール関連解析(SNP-GWAS)において,解析に必要な遺伝統計処理・情報処理を解説された.つぎにSNP-GWASデータは直ちに集団ベース連鎖解析に適用可能であることを示され,最終的にはSNP間の相互作用モデルや環境との相互作用モデルに基づく解析をゲノムワイドに行うための新しい遺伝統計手法である罰則付回帰解析について紹介していただいた.一方で,最近明らかにされつつあるSNP-GWASの前提とされていたCDCV(CommonDisease/CommonVariant)仮説がなかなか成立し得ないことを集団遺伝学的な側面からわかりやすく解説され,また新しい遺伝モデルとしてCDRVs(CommonDisease/RareVariant)仮説とそこから導かれる研究戦略といった最(66)新のバイオインフォマティクス手法について概説していただいた.特別講演九州大学の秦淳先生は「久山町研究を基盤とした脳梗塞のゲノムワイド関連遺伝子研究」について講演された.脳梗塞関連遺伝子の探索のために,九州大学病院を含む7つの医療機関を受診した脳梗塞患者群と久山町住民検診から選択した対照群を用いて大規模な患者対照研究を行った.ゲノムワイド関連解析および連鎖不均衡解析の結果2つの脳梗塞関連遺伝子が同定された.一つ目はプロテインキナーゼCエータ(PKCh)をコードするPRKCH遺伝子で,PKChのアミノ酸置換をもたらすSNP(Val374Ile)は脳梗塞のうちラクナ梗塞との有意な関連が示され,機能解析においてもPKChはヒト冠動脈の動脈硬化巣に発現し,アミノ酸置換によりその酵素活性が変化した.二つ目はアペリン受容体(APJ)をコードするAGTRL1遺伝子で,プロモーター領域に位置するSNP(-154/A)は脳梗塞と関連し,invitro実験により塩基の違いによりプロモーター活性が変化した.さらに1988年の循環器健診を受診した久山町住民を14年間追跡した成績においてもPRKCHのIle/Ile型,AGTRL1のGG型では他の型と比べて脳梗塞の発症リスクが有意に高いことが示された.以上のような久山町研究における疫学データを基盤としたゲノムワイド関連遺伝子研究について講演された.☆☆☆

眼科医のための先端医療 109.眼表面疾患と上皮間葉系移行の関与

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.1,2010630910-1810/10/\100/頁/JCOPY上皮間葉系移行(EMT)とはとのでをとはとのは葉葉と葉と上ののでで上皮系(葉)の間葉系「」とはのので上皮間葉系移行()とのではででは病関与と表のの移で上皮系と間葉系のをとののをと疾患関与とのとでのはんでととのでは上皮を間とでで眼では上皮下)()と)は眼表面の疾患で関与とをはb(transforminggrowthfactor-b)などのサイトカインが関与しているといわれ,今後は新たな治療法の開発につながることが期待されています.翼状片とEMTとののの眼とのとののとと眼表面のと上皮上皮のととの行上皮EMTと眼とととの移との上皮のb-カテニンやa平滑筋アクチンなどの発現が認められました.翼状片の先端部が角膜に癒着しているのは,こうしたEMTを起こした上皮細胞が実質に浸潤することが関与していると言えます.移植片宿主病(GVHD)とEMT移移の眼表面とのととととののGVHDのEMT関与と本の4眼表面の上皮EMTとの関与EMTTGbなどのサイトカインが関与していますが,発症機序についてはまだ不明なことが多いです.EMTを防ぐ方法が開発されれば,すべての骨髄移植患者に対して,あらかじめGVHDの発症を予防することができるかもしれません.EMTの意義疾患の行関与とはと()◆シリーズ第109回◆ツ黴€ツ黴€ ツ黴€眼科医のための先端医療ツ黴€ツ黴€ ツ黴€=坂本泰二山下英俊榛村重人(慶應義塾大学医学部眼科)眼表面疾患と上皮間葉系移行の関与———————————————————————-Page264あたらしい眼科Vol.27,No.1,2010利益なことばかりかはわかりません.たとえば,角膜上皮の前駆細胞も一部ビメンチンのような間葉系マーカーを発現していたり,間葉系細胞にみられるN-cadherinも発現していることがわかっています5).上皮細胞と間葉系細胞には一定の期間だけでも相互方向に行き来することができるのかもしれません.また,このことが恒常性を維持するうえで重要である可能性もあります.EMTが成体において果たす役割が明らかになるまで,今後の研究が期待されます.文献1)SaikaS,MiyamotoT,IshidaIetal:TGFbeta-Smadsig-nallinginpostoperativehumanlensepithelialcells.BrJOphthalmol86:1428-1433,20022)Casaroli-MaranoRP,PaganR,VilaroS:Epithelial-mesen-chymaltransitioninproliferativevitreoretinopathy:inter-mediatelamentproteinexpressioninretinalpigmentepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci40:2062-2072,19993)KatoN,ShimmuraS,KawakitaTetal:Beta-cateninacti-vationandepithelial-mesenchymaltransitioninthepatho-genesisofpterygium.InvestOphthalmolVisSci48:1511-1517,20074)OgawaY,ShimmuraS,KawakitaKetal:Epithelialmes-enchymaltransitioninhumanocularchronicgraft-ver-sus-hostdisease.AmJPathol175:2372-2381,20095)HigaK,ShimmuraS,MiyashitaHetal:N-cadherininthemaintenanceofhumancorneallimbalepithelialpro-genitorcellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci50:4640-4645,2009(64)「眼表面疾患と上皮間葉系移行の関与」を読んでは榛村重人上皮と間葉系の移行()と眼のと関とを翼状片移植片宿主病()をはののではをのはでのでとのををとはでののをのをのはでのとん榛村はとでを上皮と間葉ではをののので移行をでとでのののの意ののをのでははでをでんでのは翼状片と眼とのの病関与とはでとの疾患の面とで榛村「のを上皮と間葉系行」とはのとのののと眼でのので読山眼山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査 194.走査式周辺前房深度計:SPAC

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010610910-1810/10/\100/頁/JCOPY新しい治療と検査シリーズ(61) バックグラウンド原発閉塞隅角症・緑内障は有痛性の急激な眼圧上昇(急性発作)という発症形態をとる点において特異である.急性発作は著しい眼圧の上昇のため早期に適切な外科的治療を施さなければ視機能の重篤な障害を生じうる.発症前の急性発作眼の眼球形態の詳細はよくは知られていないが,発症時および発症他眼のデータから正常眼,慢性の原発閉塞隅角眼と比べても前房が浅く,隅角が狭いことが知られている.また,慢性原発閉塞隅角緑内障においても眼圧変動が大きいことが知られており,外来受診時に必ずしも眼圧が高いとは限らない.中心前房深度がそれほど浅くない慢性原発閉塞隅角緑内障は,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障と診断されてしまう可能性がある.急性発作の予防,慢性原発閉塞隅角緑内障の正しい診断のためには隅角鏡検査,超音波生体顕微鏡検査(UBM)などを用いた隅角診断が欠かせない.しかしながら,隅角鏡や UBM は熟練した医師による診断が不可欠であり,接触検査であるために点眼麻酔の使用も必要であり時間もかかる.そのためスクリーニングや短時間で大勢の患者を診察するような外来においては施行が困難な場合がある.前眼部 OCT(光干渉断層計)は毛様体が描出されない,光学補正の正確さが不明であるといった欠点はあるものの,短時間で,非接触かつ熟練を要することなく隅角の検査が可能である点で優れているが,機器が高価である.周辺前房深度の測定は隅角自体の評価ではないが,細隙灯顕微鏡のみで施行可能な簡便な検査であり非常に有用である.具体的には,周辺角膜厚と周辺前房深度を比較する Vanツ黴€ Herick 法で 2 度以下(周辺前房が角膜厚の1/4 以下)であれば狭隅角,機能的隅角閉塞である可能性が高く臨床において非常に有用な方法である.しかし194.走査式周辺前房深度計:SPACプレゼンテーション:新垣淑邦酒井寛琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野コメント:栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院眼科表 1SPACのまとめ名称測定原理測定方法測定時間測定結果の判定走査式周辺前房深度計(SPAC)光学測定Scheimp ugの原理による補正内蔵細隙灯による自動走査式撮影および周辺前房深度測定数分自動判定Grade 判定:1 121(非常に狭い),12(非常に広い)P:閉塞の可能性S:閉塞の疑い距離0.02.83.23.64.04.44.85.25.6深さ2.91.701.401.080.940.850.770.460.35厚さ0.56半径8.3LGrade=6Flash=off距離0.00.81.21.62.02.42.83.23.64.04.44.85.25.6△△△△△△△△△××××深さ2.21.571.481.381.301.120.990.920.800.650.490.400.230.07厚さ0.59半径7.8LGrade=4SFlash=off図 1正常眼図 2原発閉塞隅角眼———————————————————————- Page 262あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010ながら,Vanツ黴€ Herick 法は主観的な分類であり評価者により判定が異なる可能性がある.経時的変化の観察にも向かない. SPAC走 査 式 周 辺 前 房 深 度 計(SPAC)は, 山 梨 大 学 のKashiwagi らが開発した自動式の周辺前房深度測定機である1,2).CCD カメラを用いて細隙光による撮影を行い,Scheimp ug の原理を用いた光学補正により周辺前房深度を計測する.また,閉塞隅角患者のデータベースに基づいたアルゴリズムを使用した内蔵ソフトウェアにより隅角の広狭をグレード分類する.さらに,グレード分類の組み合わせにより隅角閉塞の可能性が診断され出力される. SPACの使い方SPAC の使用方法はきわめて簡便である.スリット光が自動に角膜全面を走査して角膜中心部を推定しそこを基点として自動で耳側周辺前房を撮影,計測する.撮影は右眼→左眼の順に両眼同時に行われ 1 分以内で終了する.表示された結果のプリントアウトの正常眼(図1)および原発閉塞隅角眼(図2)を示す.正常眼では 8 点,閉塞隅角眼では 13 点で,周辺前房が測定されているが基準を下回った測定点には狭い(△),非常に狭い(×)の表示がある.Grade は正常眼が 6,原発閉塞隅角眼は4 である.原発閉塞隅角眼の判定は「S」であり,4S と表示され,SPAC 上隅角の閉塞が疑われることがわかる.中心前房深度, 角膜厚, 角膜曲率半径も表示される. 本方法の良い点非接触,全自動で検査が行われるため,検査を医師が行う必要がない点が優れる.客観的な数字データが示される点,周辺前房を何カ所にもわたって測定し判断してくれる点も医師が行う Van Herick 法と比べ有利である.隅角鏡検査,UBM などを行う前に臨床現場でのスクリーニングに使用するのに適した検査ではないかと考えられる3).ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 1) Kashiwagi K, Abe K, Tsukahara S:Quantitative evalua-tion of changes in anterior segment biometry by peri-pheral laser iridotomy using newly developed scanning peripheral anterior chamber depth analyser. Br J Ophthal-mol 88:1036-1041, 2004 2) Kashiwagi K, Tsumura T, Tsukahara S:Comparison between newly developed scanning peripheral anterior chamber depth analyzer and conventional methods of evaluating anterior chamber con guration. J Glaucoma 15:380-387, 2006 3) Wong HT, Chua JL, Sakata LM et al:Comparison of slitlamp optical coherence tomography and scanning peripheral anterior chamber depth analyzer to evaluate angleツ黴€ closureツ黴€ inツ黴€ Asianツ黴€ eyes.ツ黴€ Archツ黴€ Ophthalmol 127:599-603, 2009(62)周辺部の前房深度が同程度であっても症例により隅角の形状は異なっており,中間周辺部の前房が浅くても隅角は開放している症例もあれば,その逆もある.本機器では,肝心の隅角閉塞の有無がわからない.もう一点は,本機器では虹彩の厚さおよび裏面,毛様体の様子がわからないことである.これは,本機器は隅角閉塞メカニズムの判定に使えないことを意味する.SPAC は,あくまでも一次スクリーニングのための検査機器であって,UBM の代わりにはならない.原発閉塞隅角症・緑内障の診療において,前眼部画像診断機器は二つの目的で使用される.第一に隅角閉塞とそのリスクの判定,第二は隅角閉塞の原因となるメカニズムの判定である.SPAC は隅角閉塞のスクリーニングにおいて威力を発揮する検査機器ではあるが,本欄は批判的なコメントをという趣旨なので,本機器が有する二つの問題点をあげる.一つは,SPACでは,前房の最周辺部,すなわち隅角そのものを計測できないことである.本機器で測定できる中心 中間 本方法に対するコメント ☆ ☆ ☆

眼感染アレルギー:急性後極部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)

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あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,201059
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性後極部多発性斑状色素上皮症(acuteツ黴€ posterior
multifocal placoid pigment epitheliopathy:APMPPE)は,後極部に多発する境界不鮮明なクリーム色の斑状病変を呈する疾患として 1968 年に Gass らにより最初に報告された
1).若年成人(8 66 歳,平均
26.5 歳)にみられ,性差はない
2).急性もしくは亜急性
に発症し,霧視,暗点,変視症を自覚症状とする.両眼
同時にまたは片眼発症後,2,3 日遅れてもう片眼に発症し,75%以上の患者が両眼性である.再発はまれであるが,初発後 6 カ月以内に起こることがある.典型的
な APMPPE では,後極部の網膜深層に多発するクリー
ム色の斑状滲出斑を生じる.滲出斑は境界不鮮明で,大きさは 1/2 1/4乳頭径大でほぼ均一なのが特徴である(図1).眼炎症所見は多くの場合は軽度であり,前房内および前部硝子体内にわずかな細胞浸潤を認める程度で
ある.初発病巣は後極部付近に多発し,後発病巣は後極から周辺に拡散して生じる傾向がある.しかし,赤道部
より周辺に生じることはない.ときに,滲出斑に一致し
てわずかな限局性の漿液性網膜 離をきたすことがある
が,漿液性網膜 離および網膜色素上皮 離は色素上皮
(59)
眼感染アレルギーセミナー
─感染症と生体防御─
●連載
監修=ツ黴€ツ黴€ ツ黴€木下茂
大橋裕一
25.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€
急性後極部多発性斑状色素上皮症ツ黴€ツ黴€ ツ黴€(APMPPE)
竹内大
東京医科大学眼科
急性後極部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)は,後極部に 1/2 1/4乳頭径大でほぼ均一なクリーム色の斑状滲出斑を多発性に生じる両眼性の疾患である.滲出斑は境界不鮮明で,後極部付近から周辺に拡散してみられる.眼炎症所見は軽度であり,滲出斑は色素性瘢痕を残して数週で自然消失する.黄斑部に病巣が及ばなければ視力予後は良好である.図ツ黴€ツ黴€ ツ黴€1後極部に多発するクリーム色の斑状滲出斑滲出斑は境界不鮮明で,大きさは 1/2 1/4 乳頭径大でほぼ均一なのが特徴.図ツ黴€ツ黴€ ツ黴€2フルオレセイン蛍光眼底造影写真造影初期は滲出斑に一致して低蛍光がみられ,後期には過蛍光となる逆転現象を示す.———————————————————————- Page 260あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010症であればいかなる疾患でもその病態から起こりうると考えられる.滲出斑はさまざまな程度の色素性瘢痕を残して数週で自然治癒し,視力予後はおおむね良好であるが,瘢痕病巣が黄斑部に及ぶと重篤な視力障害をきたす.黄斑部病変もしくはその予防を目的とした副腎ステロイド薬の全身投与が行われることもあるが,その有効性は示されていない.瘢痕病巣は治癒後も経年変化により徐々に拡大する. 断特徴的な眼所見のほか,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)が補助診断として有用である.FA では,造影初期は滲出斑に一致して低蛍光がみられ,造影後期には過蛍光となる,いわゆる“逆転現象”を示す(図2).しかし,色素沈着を伴った非活動性の瘢痕病巣は,低蛍光のままである.一方,IA では造影初期,後期とも低蛍光を示す. 因および病態 カニ ムAPMPPE 患者の約 3 割で頭痛,発熱,倦怠感などの感冒様症状の先行がみられることからウイルス感染3)や,全身性エリテマトーデス4)や腎炎,脳血管炎や髄膜脳炎などの全身性炎症性疾患5)との関連が示唆されているが,正確な病因は不明である.本症の病態は,IA 所見から,脈絡膜毛細血管板における流入血管の閉塞性血管炎が原因で,滲出斑部位では脈絡膜毛細血管板の小葉単位での循環障害が生じていると考えられている.閉塞部位の網膜色素上皮は二次的に障害される. 別診断1.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€汎ぶどう膜炎を伴う多発性脈絡膜炎(multifocal choroiditis with panuveitis:MCP)MCP は若年女性の両眼にみられ,後極部から周辺部にかけて多発性の白色滲出斑をきたす.APMPPE よりも硝子体炎などのぶどう膜炎症状が強く,滲出斑は小型で病巣に一致した限局性の漿液性網膜 離を伴っていることが多い.また,瘢痕病巣は同様に色素を伴っているがより深く,強膜に達している.2.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€多発性一過性白点症候群(multiple evanescent white dot syndrome:MEWDS)若年女性の片眼性にみられ,網膜色素上皮レベルの散(60)在性の白斑を呈する.APMPPE よりも病巣は小さく,蛍光眼底造影では初期から過蛍光となる.瘢痕病巣を残さず,数週で自然消失する.3.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€急性網膜色素上皮炎(acute retinal pigment epithelitis)急性網膜色素上皮炎は APMPPE と同様に,若年成人に多く,急激な視力低下,変視にて発症する.片眼,もしくは両眼に発症し,病巣は APMPPE よりも小さく,中心に色素沈着を伴った白色病変を呈する.4.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€地図状網脈絡膜症(geographic choroidopathy)地図状網脈絡膜症は,中壮年の男性に多くみられ,黄白色斑状の病巣が視神経乳頭近傍から生じ,視神経乳頭を取り巻くように新しい病巣が古い病巣の辺縁からつぎつぎに出現し,虫食い状に拡大する.地図状網脈絡膜症も脈絡膜血管の閉塞に伴う脈絡膜毛細血管板の循環障害であるため,APMPPE と同様の FA 所見を呈する.臨床所見の相違は閉塞性血管炎の程度と部位と推定される.しかし,地図状網脈絡膜症にみられる虫食い状の連続した脈絡膜萎縮巣や脈絡膜新生血管は APMPPE ではみられない.5.Vogt 小柳 原田病著明な漿液性網膜 離を呈する APMPPE の非典型例では,Vogt-小柳-原田病との鑑別が困難である.FA で造影初期に低蛍光,後期に過蛍光となる所見からも,Vogt-小柳-原田病と APMPPE は異なる疾患ではなく,同じスペクトル上の疾患であるという考えがある6).感音性難聴や髄膜炎症状を呈する APMPPE の報告もある.文献 1) Gassツ黴€ JD:Acuteツ黴€ posteriorツ黴€ multifocalツ黴€ placoidツ黴€ pigmentツ黴€ epi-theliopathy. Arch Ophthalmol 80:177-185, 1968 2) Jones NP:Acute posterior multifocal placoid pigment epi-theliopathy. Br J Ophthalmol 79:384-389, 1995 3) Fitzpatrick PJ, Robertson DM:Acute posterior multifocal placoid pigment epitheliopathy. Arch Ophthalmol 89:373-376, 1973 4) Van Buskirk EM, Lessell S, Friedman E:Pigmentary epi-theliopathy and erythema nodosum. Arch Ophthalmol 85:369-372, 1971 5) Weinstein JM, Bresnick GH, Bell CL et al:Acute posteri-or multifocal placoid pigment epitheliopathy associated with cerebral vasculitis. J Clin Neuroophthalmol 8:195-201, 1988 6) Wright BE, Bird AC, Hamilton AM:Placoid pigment epi-theliopathy and Harada’s disease. Br J Ophthalmol 62:609-621, 1978

緑内障:緑内障手術と高次収差

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010570910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 一般的にトラベクレクトミー術後には,角膜の曲率が変化し,直乱視が発生することが多い.トラベクレクトミー術後の屈折,角膜曲率,角膜トポグラフィーについての解析もいくつか報告されている1).従来,眼球光学系の乱視は球面と円柱面で解析され,それ以外の不正乱視成分を客観的に評価できなかった.しかし,近年波面収差を用いた解析で不正乱視成分の定性的,定量的解析が行われてきている. 膜トポグラフィーのFourier解析角膜トポグラフィーの Fourier 解析が,正乱視,不正乱視の評価に用いられている2).高次収差測定には波面センサーが用いられることが多い.波面センサーは角膜および眼球全体の不正乱視を波面収差により解析し,空間周波数特性(modulationツ黴€ transferツ黴€ function:MTF),点像強度分布(pointツ黴€ spreadツ黴€ function:PSF)から網膜像をシミュレーションする機器である.角膜トポグラフ ィーの Fourier 解析は, 円錐角膜, 翼状片, 白内障手術,トラベクレクトミー,強膜バックリング,PRK(photo-refractive keratectomy),全層角膜移植,LASIK(leaer inツ黴€ situツ黴€ keratomileusis)などで解析されている.近年では,ドライアイにおける涙液層破綻による高次収差の増大が報告されてきている3). ラベクレクトミー術後の高次収差の測定 1に症例を提示する.症例:68 歳,男性.視力:VS=(0.8),眼圧:左眼 16 mmHg,点眼 3 剤(57)●連載115緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ 山本哲也115.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€緑内障手術と高次収差布施昇男東北大学大学院医学系研究科神経感覚器 病態学講座・眼科視覚学分野現在行われている緑内障外科治療の,最も代表的で眼圧下降幅が一番大きな術式はマイトマイシン C 併用線維柱帯切除術(以下,トラベクレクトミー)である.トラベクレクトミーを行うことによって視機能温存の可能性が高められるが,その判定基準はおもに視野が用いられてきた.しかし,近年 qualityツ黴€ ofツ黴€ vision(QOV)の重要性が認識されてきており,これからは視野のみならず,従来の視力検査では捉えられなかった視機能にも考慮することが重要である.図ツ黴€ツ黴€ ツ黴€2左眼Humphrey視野図ツ黴€ツ黴€ ツ黴€1左眼視神経乳頭———————————————————————- Page 258あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010投与.眼底:左眼 C/D(cup/disc)比 0.9(図1).Humphrey 視野計による MD(mean deviaiton)値は, 18.64 dB(図2)で,後期の開放隅角緑内障であった.トラベクレクトミー施行後視力:VS=(0.15),白内障進行は認めない.眼圧:左眼7 mmHg.角膜形状解析装置(TMS)を用いた術前後の高次収差のマップを図3に,波面センサーを用いた術前後のLandolt 環のシミュレーションを図4に示す.トラベクレクトミーにより,眼圧は 16 mmHgから7 mmHgと低下させることができたが,術後高次収差の増大を認め,視力は矯正 0.8 から 0.15 と低下した. ラベクレクトミーと視力の質トラベクレクトミーと視力の質の変化に関しては,視野の温存という劇的な効果に比べれば,あまり留意されなかった分野であり,波面収差の定量的解析の報告はほとんどない.しかし,術後に「何となくかすむ」と時に患者に訴えられることがあり,視力の質を多角的データに基づき解析する必要性も出てきている.波面収差を測定することにより,濾過胞形成などが視機能に及ぼす影響を定量的に評価することが可能となる.これからは,qualityツ黴€ ofツ黴€ vision(QOV)の観点から,従来の視力検査では捉えられなかった視機能にも考慮す(58)ることが重要になってくるであろう.文献 1) Claridgeツ黴€ KG,ツ黴€ Galbraithツ黴€ JK,ツ黴€ Karmelツ黴€ Vツ黴€ etツ黴€ al:Theツ黴€ e ectツ黴€ of trabeculectomy on refraction, keratometry and corneal topography. Eye 9:292-298, 1995 2) Oshika T, Tomidokoro A, Maruo K et al:Quantitative evaluation of irregular astigmatism by Fourier series har-monicツ黴€ analysisツ黴€ ofツ黴€ videokeratographyツ黴€ data.ツ黴€ Investツ黴€ Ophthal-mol Vis Sci 39:705-709, 1998 3) Kohツ黴€ S,ツ黴€ Maedaツ黴€ N,ツ黴€ Hiroharaツ黴€ Yツ黴€ etツ黴€ al:Serialツ黴€ measurements of higher-order aberrations after blinking in patients with dry eye. Invest Ophthalmol Vis Sci 49:133-138, 2008☆ ☆ ☆図ツ黴€ツ黴€ ツ黴€4ツ黴€ツ黴€ ツ黴€波面センサーを用いた術前後のLandolt環のシミュレーション術前術後VA 20/100VA 20/40VA 20/20図ツ黴€ツ黴€ ツ黴€3TMSを用いた術前後の高次収差のマップ術前術後

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーを用いたLASIKフラップ作製時の眼圧変動

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010550910-1810/10/\100/頁/JCOPY近年,LASIK(laserツ黴€ inツ黴€ situツ黴€ keratomileusis)における角膜フラップ作製は,マイクロケラトームのみでなく,フェムトセカンド(FS)レーザーも用いられるようになった.FS レーザーは必要があれば薄いフラップを安全に作製することができ,フラップ厚が全体に均等で,フラップ縁がシャープなためフラップを戻した際,元の位置にぴったり合う利点がある.これらの利点に加え,マイクロケラトームのような吸引リングによる急激な眼圧変動がなく,網膜硝子体疾患および視神経への影響が少ないことが期待されている.マイクロケラトームによるフラップ作製時の眼圧上昇が報告されている1 3)が,FS レーザーを用いても眼圧は上昇することが実験的に検証されている4).本セミナーでは,筆者らが行った FS レーザーを用いたフラップ作製時の眼圧測定の結果を紹介する.測定方法は,すでに報告した豚眼による眼圧測定システムを用い1),硝子体腔に挿入した血管内圧測定用圧力センサー(カテーテルf1.2 m m)で,経時的にフラップ作製時の圧力変化を測定した(図1).今回用いた Abbott 社のFS レーザー(IntraLase)では,FS レーザー側のコーンと吸引リングを合体させ(図2),照射面となる角膜を十分に圧平する必要がある.FS レーザーでは,眼球の固定なしに,そのまま照射すると思っている眼科医が多いと思うが,実際には吸引リングによる固定が必要で,ある程度の眼圧上昇は免れない.つぎに眼圧上昇の程度であるが,FS レーザー側のコーンと吸引リングを合体させ,さらにコーンを下げて角膜を圧平するため,この下げる程度によって眼圧上昇の度合が異なる.合体後,できるだけコーンを下げれば,圧平が十分に得られるため,圧平が十分でないためレーザー照射されずにフラップが一部切れない状態となる危険性は低い.しかし,眼圧の面からすると,コーンを下げれば下げるほど眼圧が上昇することになる.この合体については,ソフトドッ(55)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載116監修=木下茂大橋裕一坪田一男116.ツ黴€ツ黴€ フェムトセカンドレーザーを用いたLASIK フラップ作製時の眼圧変動ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科フェムトセカンドレーザーを用いた LASIK のフラップ作製では,マイクロケラトームより眼圧変動が少ないことが期待されている.実験的に圧センサーで眼圧を経時的に観察すると,フェムトセカンドレーザーでも眼球固定が必要で,フラップを作製している間,マイクロケラトームほどではないが眼圧が上昇していた.図 1豚眼の眼圧測定16 ゲージカテーテルを硝子体内に通し,その中に血管内圧測定用圧力センサーを入れ,眼圧を 40ミリ秒間隔でデジタル記録.レーザー側コーン吸引リング図 2レーザー側コーンと吸引リングレーザー側のコーンを下げ,眼球に固定してある吸引リングと合体させ,角膜を圧平する.この際,どこまでコーンを下げるかで眼圧上昇の程度が変わる.———————————————————————- Page 256あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010キングとよばれる,吸引がはずれない安全な状態で,かつ眼球を強く押し付けない最小限の圧平が推奨されている.圧平した状態のもとレーザー照射でフラップを作製するが,この間,眼圧は上昇したままの状態である.したがって,FS レーザー照射の時間が短ければ短いほど,眼圧が上昇している時間が短いことになる.実際に人眼に行うのとまったく同じ方法で,豚眼を用いて FS レーザーによる角膜フラップ作製を行い,その際の眼圧変動を経時的に記録した.硝子体内にある圧センサーから得られた経時変化の典型例を図3に示す.吸引リングを眼球上にのせ,吸引を開始すると同時に眼圧上昇する.つぎにレーザー専用コーンを下げて,眼球に固定した吸引リングと合体させると眼圧が変動する.この際,コーンを下がるところまで下げ,最大限まで角膜を圧平すると眼圧は 150 mmHgまで上昇する.ソフトドッキングでは,吸引開始時以上の眼圧には至らなかった.眼圧は FS レーザーでフラップを作製している間,上昇したままの状態である.今回使用した FS レーザーはフラップ作製に約 20 秒必要で,その間,眼圧は一定であった.Abbott 社の FS レーザー IntraLase の新機種では,より短時間でフラップを完成できるので,これにより眼圧上昇時間が短縮され,眼球に侵襲の少ない手術になることが期待できる.LASIK 後の裂孔原性網膜 離,黄斑円孔,視神経障害の報告があり,その原因としてこの眼圧変動が示唆されている.FS レーザーでも眼圧変動があるが,マイクロケラトームより眼圧上昇が少なく,今後,レーザーの改良で照射時間が短縮することで,さらに安全な手術になるであろう.文献 1) Bissen-Miyajima H, Suzuki S, Ohashi Y et al:Experimen-tal observation of intraocular pressure changes during microkeratome suctioning in laser in situ keratomileusis. J Cataract Refract Surg 31:590-594, 2005 2) Bradley JC, McCartney DL, Craenen GA:Continuous intraocuar pressure recordings during lamellar microkera-totomy of enucleated human eyes. J Cataract Refract Surg 33:869-872, 2007 3) Kasetsuwan N, Pangilinan RT, Moreira LL et al:Real timeツ黴€ intraocularツ黴€ pressureツ黴€ andツ黴€ lamellarツ黴€ cornealツ黴€ツ黴€ apツ黴€ thick-ness in keratomileusis. Cornea 20:41-44, 2001 4) Hernandez-Verdejoツ黴€ JL,ツ黴€ Teusツ黴€ MA,ツ黴€ Romanツ黴€ JMツ黴€ etツ黴€ al:ツ黴€ Por-cine model to conpare real-time intraocular pressure dur-ing LASIK with a mechanical microkeratome and femto-second laser. Invest Ophthalmol Vis Sci 48:68-72, 2007(56)☆ ☆ ☆図 3 フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製時の典型的な眼圧変化吸引固定で眼圧は上がり,その後,レーザーによるフラップ切開が終了するまで眼圧は上がったままである.コーンのドッキングおよび吸引リングの吸引を解除すると眼圧は元に戻る.0 50 100 150 200 250 051015202530354045505560時間(秒)吸引固定開始コーンドッキングレーザーによるフラップ切開ドッキング解除硝子体圧(mmHg)