———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,201071眼研究こぼれ話(71)私は 1975 年家族と共にワシントン D.C. にある米国国立衛生研究所(Nationalツ黴 Institutesツ黴 ofツ黴 Health,以下NIH と略す)内の国立眼研究所(National Eye Insti-tute,以下 NEI と略す)に留学してから約 3 年間,桑原先生の研究室で,水晶体の超微細構造を透過型と走査型の電子顕微鏡を用いて解析し,白内障の成因について研究する仕事をしておりました.桑原先生(通称Dr.ツ黴 Kuwabara)には,NIH においての眼科的研究はもちろんのこと,日本と米国の風俗習慣の違い,日常生活におけるものの考え方の違いなど,いろいろな社会的なことも教えていただきました.ハロウィンの子供たちの仮装やもてなし方,クリスマスの大きなターキーの焼き方やさばき方,ドールハウスの歴史や実際のつくり方,ワシントンの国立動物園の稀少な動物を見る楽しみ,自宅で催すオープンハウスでの人のもてなし方など,日本ではなかなか経験できないことを数多く教えていただき,大変勉強になり楽しかったことを覚えています.Dr. Kuwabara は,研究でも日常生活でも,いろいろなことに興味をもたれ,積極的に社会に目を向ける方でした.研究室では写真を納得がいくまでご自分の手で現像,焼付けをされていましたし,日常生活では愛用のカメラを常に持ち歩き,目に付いた瞬間をまめに撮影され,その写真を見ながら社会のさまざまなことを説明してくださいました.その後 1980 年ごろ,Dr. Kuwabara が,故郷松山の新聞に書かれていた若かりし頃の米国の研究生活についての「こぼれ話」(実に今から約半世紀前のことです!)を 108 篇も毎回送ってきてくださいました.その文面からは医学研究に対する情熱が感じられると同時に,それを取り巻く社会情勢の厳しさなど,私達留学生には計り知れない米国の現実を知ることができました.このたび,この貴重な「こぼれ話」を久しぶりに読み直す機会があり,懐かしさと同時に新鮮さが感じられました.私と同時期に NEI で仕事をされていた玉井信先生(前東北大学眼科教授),大西克尚先生(前和歌山医科大学眼科教授),田中稔先生(順天堂大学浦安病院眼科教授)の先生方にこのエッセイの転載について相談したところ賛同をしてくださり,関係各位のご協力を得て,「あたらしい眼科」の誌上に再登場することがここに実現したところです.この 30 年前(当時 58 歳)に先生が書かれた「こぼれ話」を,当時の新聞に掲載された原文のまま皆様にお届けいたします.電子顕微鏡によって身体の組織の超微細構造が次々に映し出され,生化学的,生理学的な研究へと発展していくことで,人体のさまざまな変化を捉えていくことに情熱をかけた時代の風を感じていただくと共に,一流の研究者が世界中から集まるハーバード大学,NIH の中で,世界眼病理学会の第一人者としてご活躍されていた Dr.ツ黴 Kuwabara のお人柄に触れていただけたらと思います.全 108 話からの選ばれた 30 篇の珠玉のエッセイをどうぞお楽しみください. 公立昭和病院 参与幸田富士子今月より,かつて眼病理学の世界的権威であった桑原登一郎先生のエッセイ集,「眼研究こぼれ話」の掲載が始まります.これは,ある地方新聞の紙上に連載されていた先生のお原稿の中から,「あたらしい眼科」編集委員間の投票のうち,特に人気のあった 30 篇を選出したものです.原本は,先生の愛弟子であられた幸田富士子先生からご提供いただいたもので,先生のご協力なしにこの企画はあり得ませんでした.この場を借りて厚く御礼を申し上げます.残念ながら,私自身は先生にお会いする機会はありませんでしたが,どのエッセイからも先生が常日頃持ち続けられていた未知への探究心がうかがわれます.科学者としてのスタンスを改めて学ぶいい機会かと思います.これからの 2 年半,毎月届けられるエッセイをどうかお楽しみにお待ちください. 愛媛大学医学部眼科学 教授大橋裕一桑原登一郎先生の「眼研究こぼれ話」の連載に寄せて———————————————————————- Page 272あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010眼研究こぼれ話(72)私は,自身が 1979 年に米国留学したときに,桑原登一郎先生のお名前を初めて知りました.当時,米国在住の日本人のようなお名前で世界に誇れる先生は Jinツ黴 Hツ黴 Kinoshita そして Toichiroツ黴 Kuwabara のお二人でした.このお二人は National Eye Institute の重鎮として数多くの研究者を指導しておられましたので,米国留学する日本人は「おまえは Toichiro を知っているか」とよく聞かれたものです.桑原先生は語学が決して堪能であったわけではないと聞き及んでおりますが,先生の講演はいつも米国人の聴衆で一杯であったようです.皆さんが Toichiro の講演内容を知りたくて,Toichiro の英語を勉強したという逸話もあるくらいです.先生の視覚研究についてのお考えが伝わる機会を幸田富士子先生,大橋裕一先生からいただき,編集主幹として喜びに耐えません.今の時代に読んでも新鮮な話ばかりであり,特に若い世代の研究者には役に立つ何かがあるように思います. 京都府立医科大学眼科学 教授木下茂■「眼研究こぼれ話」(桑原登一郎 著)30篇の構成一覧■① はじめに② 眼とカメラの比較F3.5 ていどの明るさ③ 恩師コーガン教授ハーバード大ハウ研究所で④ テニュア米の医学研究システム⑤ 角膜の生化学印象深いキノシタ君の研究⑥ 角膜の透明度研究生物,物理に 2 学説⑦ 電気生理学の研究富田,金子両氏の偉業⑧ 眼の反射装置の研究動物の眼が光るのは…⑨ 医学研究の実績小さな蓄積の上に⑩ 国立衛生研究所(NIH)最高私設と非能率が同居⑪ NIH の臨床研究アルソップ氏の遺稿⑫ 角膜表面の構造ウジムシが住める水膜⑬ レンズの構造老化の次に来る白内障⑭ レンズの構造核が消える眼の細胞⑮ 医学講義について生徒が先生を“採点”⑯ 網膜の構造(上)コンピューター配線のよう⑰ 網膜の構造(下)黄斑部に頼る視力⑱ 網膜の光障害照明は薄暗くてもよい⑲ 中心性網膜症の研究太陽を見つめる危険性⑳ 冬眠動物の細膜期間中は完全に“盲目” 光凝固療法眼の手術にメスの効果 医学研究者の質金銭で解決できぬ問題 ビタミン E の研究老化を防ぐ効果 緑内障の治療効果あるマリファナ 網膜血管の研究落葉の栞にヒント 糖尿病性網膜症幽霊細胞が直接的原因 ハロウィーンのお化け「第三眼」持つハ虫類 フリーデンウォールド賞視覚研究家の中から 偉大な学者たちノーベル賞受賞者の中で 結びご愛読を感謝して☆ ☆ ☆