———————————————————————- Page 11622あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(00)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY膜神経節細胞の軸索に沿って逆行性に変性していく4,5).したがって,視神経線維の走行を確認していただくと理解しやすいと思われるが,緑内障性視野障害は視神経線維の走行に沿って生じ,上下の境界線を越えて進行することはない.仮に上下に跨って視野欠損を生じている場合は,逆方向の神経線維障害が存在するものと考えたほうがよい.しかしながら,少なくとも 50%の神経線維が障害を受けなければ,緑内障性視野障害は現行の視野検査では検出できない6,7)という問題点が存在する.早期に発見可能なプログラムとして,Short Wavelength Automat-ed Perimetry(SWAP)や Frequency-Doubling Tech-nology Perimetry(FDT)などがあげられるが,いまだstandard といえるものはないのが現状である.こうした現行の視野計では検出できない段階の緑内障は,pre-perimetric glaucoma と呼称され学会などでたびたび取り上げられているが,緑内障視神経障害検出において視野検査が絶対的でないことは念頭に置いておく必要がある.わが国では若年齢ほど近視頻度は高い傾向にある8)が,近視眼においては緑内障性視神経障害が比較的区別しにくいため,視野検査の解釈にも気を配る必要がある(図 1).また,緑内障の有無にかかわらず近視眼においては,1)Mariotte 盲点の拡大,2)上耳側の視野欠損,3)局所的で不規則な視野欠損といった視野障害が認められることがある9).こうした視野変化は,乳頭周囲網はじめに近年わが国において,大規模な 2 つの疫学調査(多治見スタディおよび久米島スタディ)が行われた.多治見スタディの調査結果1,2)では,緑内障有病率は 40 歳以上の 5.0%,疑い例を含めると 12.5%と報告されている.また緑内障有病率は,年齢が高齢となるほど高くなることが示されている.さらに広義の原発開放隅角緑内障(3.9%)のうち,眼圧が 21 mmHgを超える症例はわずか 7.7%しか存在しなかった.したがっておおまかにいうと,実に 40 歳以上の緑内障患者の 10 人に 9 人は眼圧が正常範囲内の緑内障を有していることとなる.これらの報告を踏まえて,わが国の年齢人口分布より今後緑内障有病率は増加してくることが推察され,同時に眼圧の測定値そのものも,緑内障診断には価値が低いということになる.したがって,緑内障を診断する能力が今後いっそう重要性を帯びてくる可能性が示唆され,さらに診断材料としての視野や OCT(optical coher-ence tomography)などの視神経乳頭解析装置あるいは直接的な眼底検査をいかに解釈するかがキーポイントとなってくる.I緑内障視野変化を評価するうえでの留意点緑内障という疾患は,進行性の網膜神経節細胞死と,特徴的な視神経乳頭変化(notching など)と一致する視野欠損を有するものとして定義される.もともとの障害部位の本体は篩状板近傍にあると考えられており3),網1622 (46) 特集●視野が欠ける あたらしい眼科 26(12):1622 1626,2009*Akira Sawada:岐阜大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤田明:〒501-1194 岐阜市柳戸 1 の 1岐阜大学医学部眼科学教室緑内障による視野異常Glaucomatous Visual Field Abnormalities澤田明*———————————————————————- Page 2あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091623(47)脈 絡 膜 萎 縮(peripapillary chorioretinal atrophy:PPA),後部ぶどう腫や後極部網膜脈絡膜萎縮病巣により生じる9).しかし,不十分な屈折矯正により視野異常を検出する場合もあり,コンタクトレンズ装用などで屈折矯正後の視野検査施行など工夫をすることも重要である10).ほかには,learning curve とよばれる学習効果が存在し,信頼性のある視野検査結果を得るためには数回検査をくり返し施行する必要のあること,あるいは眼瞼下垂などが存在する症例などではよく上方視野欠損を緑内障グレイスケールトータル偏差パターン偏差図 1強度近視眼の一例緑内障ではなく,乳頭周囲網脈絡膜萎縮および視神経乳頭より下方に存在する網脈絡膜萎縮による視野障害.グレイスケールトータル偏差実測閾値LLパターン偏差Humphreyプログラム中心30-2Humphreyプログラム中心10-2図 2 30°の視野測定で見逃された傍中心暗点の一例———————————————————————- Page 31624あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(48)黄斑部(fovea)を除く中心 5°以内の測定点が 4 点しかないため,傍中心暗点の検出にはやや難がある.したがって,中心 10-2 の視野も確認しておくことをお勧めする.また,臨床的によく緑内障と見誤られる疾患の一つに SSOH(superior segmental optic hypoplasia)がある(図 3).疾患概念自体が十分に確立されたものではないが,その特徴として,1)小乳頭,2)視神経乳頭鼻側の蒼白あるいは辺縁不整,3)Mariotte 盲点より連なる楔形耳側視野障害があげられている12).図 4 に各々別症例ではあるが,一般的な緑内障による視野進行についての例を示す.Mariotte 盲点より放射状に広がる Bjerrum 領域において出現した暗点は,徐々に耳側および鼻側に向かって拡大傾向を示す.しだいに耳側では Mariotte 盲点と連続し,鼻側では水平経線に達するようになる(弓状暗点あるいは Bjerrum 暗点とよばれる).さらなる緑内障性視神経症の進行に伴い,上下視野の弓状暗点は融合し,黄斑部と耳側周辺部の視野が分離するようになる.最終的にはそのうち多くは黄斑部視野より消失し,耳側周辺部視野が残存するのみとなる.図 5 に当院において約 20 年経過観察されている同一症例による視野変化の一例を示す.初診時の眼圧は右眼22 mmHg,左眼 20 mmHg であり,原発開放隅角緑内障と診断され,その後 3 回現在に至るまで線維柱帯切除術を施行されている.緑内障進行を認めるものの中心視野は保持されていたが,2006 2007 年ごろに中心視野が消失し,耳側周辺部視野が残存するに留まっている(矯正視力 0.3).性視野障害と誤認することがあり,こうした症例ではよくよく視神経乳頭所見との対比が第一の確認事項となる.II緑内障における視野変化緑内障における視野変化はさまざまではあるが,篩状板の解剖学的特性のため一般的には上方鼻側より始まることが多いとされる.初期緑内障性視野障害様式について,Hart と Becker11)は 72 例 98 眼において,その 54%は鼻側階段,41%は傍中心暗点あるいは Bjerrum 領域の暗点,30%は弓状の Mariotte 盲点を含む暗点,90%は Mariotte 盲点とは分離された弓状暗点,3%は耳側の暗点を示したと報告している.このうち視野検査にて最も検出に気をつけなければならないのは,傍中心暗点の検出である.症例は 32 歳,男性(図 2).Humphrey プログラム中心 30-2 では鼻側階段のみと判断してしまいがちであるが,中心 10-2 で乳頭黄斑線維に相当する部位に視野欠損が生じている.Humphrey プログラム中心 30-2 では,グレイスケールトータル偏差実測閾値Rパターン偏差図 3SSOH(superior segmental optic hypoplasia)の一例———————————————————————- Page 4あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091625(49)グレイスケールトータル偏差実測閾値LLLLLLLパターン偏差図 5 当院において約20年経過観察されている原発開放隅角緑内障の一例(男性:初診時 49 歳)パターン偏差による緑内障性視野障害検出は,後期ではあてにならない.グレイスケールトータル偏差実測閾値LabcdefLLLLLパターン偏差図 4緑内障による視野異常進行(図は別々の症例)a : 傍中心暗点および軽度の鼻側階段(nasal step).b :鼻側および耳側方向への暗点の拡大(弓状暗点).c :しだいに暗点の閾値が高くなってくる.d :完全に鼻側穿破が生じている.e :下半視野にも同様な障害が生じ,しだいに黄斑部と耳側周辺部視野が分離する.f :中心視野が消失し,耳側視野のみ残存するようになる.———————————————————————- Page 51626あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(50)thalmology 111:1641-1648, 2004 2) Yamamoto T, Iwase A, Araie M et al;Tajimi Study Group, Japan Glaucoma Society:The Tajimi Study report 2:prevalence of primary angle closure and secondary glaucoma in a Japanese population. Ophthalmology 112:1661-1669, 2005 3) Minckler DS, Bunt AH, Johanson GW:Orthograde and retrograde axoplasmic transport during acute ocular hypertension in the monkey. Invest Ophthalmol Vis Sci 16:426-441, 1977 4) Jacobson SG, Sandberg MA, E ron MH et al:Foveal cone electroretinograms in strabismic amblyopia:comparison with juvenile macular degeneration, macular scars, and optic atrophy. Trans Ophthalmol Soc UK 99:353-356, 1979 5) Biersdorf WR:The foveal electroretinogram is normal in optic atrophy. Doc Ophthalmol Proc Ser 40:127-135, 1984 6) Harwerth RS, Carter-Dawson L, Shen F et al:Ganglion cell losses underlying visual eld defects from experimen-tal glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci 40:2242-2250, 1999 7) Kerrigan-Baumrind LA, Quigley HA, Pease ME et al:Number of ganglion cells in glaucoma eyes compared with threshold visual eld tests in the same persons. Invest Ophthalmol Vis Sci 41:741-748, 2000 8) Sawada A, Tomidokoro A, Araie M et al;Tajimi Study Group:Refractive errors in an elderly Japanese popula-tion:the Tajimi Study. Ophthalmology 115:363-370, 2008 9) Greve EL, Furuno F:Myopia and glaucoma. Albrecht Von Graefes Arch Klin Exp Ophthalmol 213:33-41, 1980 10) Aung T, Foster PJ, Seah SK et al:Automated static perimetry:the in uence of myopia and its method of cor-rection. Ophthalmology 108:290-295, 2001 11) Hart WM Jr, Becker B:The onset and evolution of glau-comatous visual eld defects. Ophthalmology 89:268-279, 1982 12) Buchanan TA, Hoyt WF:Temporal visual eld defects associated with nasal hypoplasia of the optic disc. Br J Ophthalmol 65:636-640, 1981 13) Sumi I, Shirato S, Matsumoto S et al:The relationship between visual disability and visual eld in patients with glaucoma. Ophthalmology 110:332-339, 2003III緑内障視野障害の分類前述したように緑内障性視野障害は,視神経走行に沿って生じるとされるため,視野障害を個別点で認識するのではなく,まとまったクラスタとして評価されることが多い.Authorn 分類や,湖崎分類はその先駆けと 思われる分類方法であるが,最近ではAGIS(The Advanced Glaucoma Intervention Study)や CIGTS(The Collaborative Initial Glaucoma Treatment Study)による分類などさまざまな手法が論じられている.詳しくは成書に譲るが,緑内障性視野欠損を判定する際,クラスタで解釈する習慣をつけておいたほうが望ましい.本稿で紹介した視野のほぼすべてが,パターン偏差で連続する欠損点として緑内障性視野障害を検出していることを確認していただきたい(図 5 の 2005 年以降の結果を除く).おわりに緑内障による視野障害はさまざまであるが,自覚症状がない場合が大多数を占める.しかしながら,視野障害と QOL(quality of life)についての論文は少ないものの,中心 5°以内の下半視野障害が生活不自由度と相関が強いことが報告されている13).後期になればなるほどわずかながらの進行でも患者は必死に訴えるが,なんとも治療の施しようがない症例を,筆者も時々経験する.したがってわれわれ眼科医は,眼底精査による詳細な視神経乳頭観察は当然であるが,視野検査をはじめとしたさまざまな緑内障診断機器を駆使し,できるだけ早期に緑内障発見に努めるべきである.文献 1) Iwase A, Suzuki Y, Araie M et al;Tajimi Study Group, Japan Glaucoma Society:The prevalence of primary open-angle glaucoma in Japanese:the Tajimi Study. Oph-