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眼のかすみを起こす疾患:(3)緑内障

2010年2月28日 日曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYを行うものにとってその「かすみ」の原因を知ることは大切である.この3 点において現在まで明らかにされたポイントを述べたい.I緑内障患者のquality of vision を評価する対象者の視覚的な不自由度を評価する研究手法の一つとして対象者にさまざまなアンケート調査を行うことがある.質問によって明らかにされる内容が異なるし,なるべく短時間で調査を行う必要があるためにさまざまな質問表が考案されている.質問表には対象者の疾患を特定しない「包括的尺度」,眼疾患に特化した「眼疾患特異的尺度」および緑内障に限定した「緑内障特異的尺度」の3 つの種類がある4).「包括的尺度」では眼疾患と関係のない質問も含まれるので,眼疾患に伴う不自由度を解釈するには検討項目が不適切な場合もある.一方,「緑内障特異的尺度」は緑内障性視機能障害をよく反映するものの,他の眼疾患との比較はむずかしくなり,それぞれの質問表には一長一短がある.何を明らかにしたいか目的別に質問表を選ばなければいけない.緑内障性視野障害の評価も,単純に片眼ずつ測定したHumphrey 視野のmean deviation(MD), pattern standarddeviation(PSD),corrected pattern standard deviation(CPSD)など視野のグローバルインデックスを用いる場合と,両眼を開放したまま測定するEsterman 視野検査を使う場合がある(図1).生活の不自由度の評価にはEsterman 視野のように実生活に近い両眼開放下で測はじめに緑内障は視神経乳頭と視野に特徴的な変化をきたす疾患である.その視野障害は基本的に固視点近傍の暗点からはじまる.暗点は鼻側に拡大し,さらに進行すると固視点あるいは耳側に島状の視野を残すのみとなりやがてそれも消失する.しかし,ゆっくりと視野障害が進行すること,左右の眼が視野障害を補い合うことから末期まで視機能障害の自覚はないことが多いといわれていた.さらに最近では脳が視野障害部周辺からの色と形の情報で暗点を穴埋めするために,視機能障害を自覚しにくいとも報告されている1).多治見スタディでは40 歳以上の人口の5%に緑内障があることが報告された2,3).自覚症状が乏しく,有病率が高いことがあいまってわが国では失明原因の第1 位となっている.緑内障患者はどの程度障害を受けると生活のどんなところに不自由を感じはじめるのであろうか.Quality oflife(QOL),quality of vision(QOV)が重視されるようになってきたことを受けて,緑内障患者のQOV を患者アンケート調査から評価する報告が増えている.その結果,緑内障患者は自動車の運転に困難を感じやすいことが明らかにされ,交通事故の発生と緑内障の関係を調査した研究も多い.緑内障の治療で患者の視機能が回復することはない.病院のなかで緑内障患者の治療を行っていて医療関係者が患者からの見えにくさが増えたという訴えに直面するのは緑内障手術の後が多い.緑内障手術(27) 165* Yoshiaki Kiuchi & Seiji Tanimoto:広島大学大学院医・歯・薬総合研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕木内良明:〒734-8551 広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医・歯・薬総合研究科視覚病態学(眼科学)特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):165.170,2010眼のかすみを起こす疾患(3)緑内障Diseases with Blurred Vision(3):Visual Disability in Glaucoma木内良明*谷本誠治*166あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (28)不自由する人は意外と少ないものの,自動車の運転に困る患者が多いことを明らかにした.欧米ではランダム化された多施設共同研究や疫学研究のなかで緑内障に伴う生活不自由度を測定する試みも行われている.Collaborative Initial Glaucoma TreatmentStudy は緑内障と初めて診断された患者を点眼治療群と手術治療群に振り分けて,どちらの群のほうが視野障害の進行をとめることができるかを検討する多施設共同研究である.また,患者のQOL もどちらの群が優れているかあわせて検討された.エントリー時に「VisualActivity Questionale:VAQ」を用いて患者の自覚症状や視野障害の程度との関連を調べている8).良いほうの眼の視野スコアは有意にVAQ スコアと相関したが,多くの人は緑内障性の視機能障害を自覚していなかった.研究開始後4 から5 年の時点での視野障害の進行度は両群に差がでていない9).The Los Angeles Latino EyeStudy10,11)はロサンゼルス在住のラテン系アメリカ人を対象とした緑内障疫学調査である.緑内障性視野障害が強くなると「車の運転」および「他人に依存せずに生活できる」という項目のスコアが良くなかった.わずかな網膜感度低下でも生活の質が低下することが示されMD値が4.5 dB 低下するだけで総合的に生活の質が下がるという結果が示された10).多くの報告をまとめると他の眼疾患と比べて緑内障の人は日常生活のなかで視機能障害を自覚していないことが多いことが確認できた.普段は自覚していなくても詳細な質問で読み書きや,段差の識別がむずかしい不自由さが浮き上がってくる.網膜感度がMD 値で4.5 dB低下するだけで生活の質が低下するという報告が複数あること,わが国でも欧米でも車の運転に不自由を感じる緑内障患者が多いことが明らかになった.II交通事故と緑内障さまざまな方法で緑内障と交通事故発生の関係が調べられた.ほとんどの報告で緑内障患者は交通事故を起こしやすいと結論づけている12.15).20 人の緑内障患者と20 人の健常者に10 km の運転をしてもらい運転の基本動作の習熟度と危険運転行為の頻度を調べた報告がある14).10 km の運転の途中には定した視野検査結果を用いるべきとの考えがある.一方で,緑内障患者に対しては通常の診療の場においては片眼ずつ視野検査を行う.そのため,日常生活の不自由度も片眼ごとに測定した視野の結果を用いて検討するほうがより現実的に対応できるとの考え方も成立する.Esterman 視野検査はHumphrey 視野計に内蔵されているプログラムである5).両眼開放下で測定し,その測定ポイントは日常生活に重要な中心,下方と水平経線上に多くの測定点が配置されている.刺激輝度は10 dB だけで,120 点の測定点のうち何点感知できたかを点数化してEsterman スコアとして評価に用いる.藤田ら6)はEsterman スコアと独自に作成した「眼疾患特異的尺度」を用いて緑内障患者の視覚的不自由度を検討した.その結果,両眼に緑内障性視野障害があってもほとんど生活に不自由があると感じていない症例が多いことがわかった.しかし,読み書き,階段・段差の検出および夜間の外出に困難を感じることが多いことを明らかにした 6).また,同じく眼疾患特異的尺度であるVFQ-25(VisualFunctioning Questionnaire-25)を用いて検討した浅野ら7)は視力良好眼の視力が(0.7)以上に保たれているとQOV の低下が少なく,(0.3)をきると,また視野ではMD 値が.5 dB より悪化すると生活の質が悪くなると報告している.洗顔,化粧,衣服の選択など日常生活に図 1Esterman 視野の測定ポイント(29) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010167ともあり,緑内障の手術後に患者から「かすみ」を訴えられることも少なくない.高いQOV が求められる現在,その原因を知ることは大切である.緑内障手術後の視力低下の原因として低眼圧黄斑症,白内障の進行,術後惹起乱視などがあげられている 16.18).術後早期から視機能に影響するのは術後惹起乱視であろう.低眼圧時に縫合を行うこと,術後の過剰濾過を防ぎ前房形成を維持するために tight に縫合を行うこと,縫合糸数が多くなること,などの理由で強膜弁縫合の緊張度が強まり,乱視の増加につながる結果になると考えられている19).強膜窓を広く開けることは,乱視の増加を招く結果になりうる20).線維柱帯切除術では強膜フラップを中心に乱視が強くなる傾向があるが必ずしも一定ではない 21.23).惹起乱視量も不安定で予測不能である.線維柱帯切除術では術後惹起乱視の予測がつきにくい17)という特徴がある.また,惹起乱視は6 カ月以内に乱視が軽減したと報告されることもある22)が,術後1 年を経過しても持続する症例があるため予断を許さない21).線維柱帯切開術は線維柱帯切除術より惹起乱視が少なく,その乱視は術後3.6 カ月で落ち着く.その理由として,線維柱帯切開術では房水の漏出を考慮する必要がないために強膜縫合が線維柱帯切除術より弱いことなどが考えられている 21).線維柱帯切開術は線維柱帯切除術55 の運転基本動作が含まれており,一人の自動車学校の指導教官が運転者の技術と危険行為の評価を行っている.対象患者の視野が良いほうの平均MD は.1.7 dB,悪いほうの平均MD は.6.5 dB であった.健常者と緑内障患者の間には基本運転技術の習熟度には差がなかったが,危険運転行為は緑内障患者の60%,健常者の20%に指摘され,緑内障患者は有意に危険運転行為が多く,特に緑内障患者では歩行者の見落としが多かった.悪いほうの眼の視野障害の程度が技術点の減点と関連し,.4 dB を超えると危険運転率が4 倍になった.Humphrey視野検査で悪いほうの眼の視野障害程度と事故に関係があるならば,片眼性の緑内障でも事故を起こしやすいことを意味する.MD 値が.4 dB と比較的障害が少ない時期でも生活不自由度だけでなく,交通事故を起こす危険性が高いことを考えると,緑内障に対する早期発見,早期治療の重要性が再認識される.現時点では視野障害の位置と事故の発生率の関係,事故の種類(信号の見落としや側方不注意など)と視野障害の関係は明らかにされていない.今後解決すべき問題点は多い.III緑内障手術の影響緑内障の手術は眼圧を下降させることが主目的である.基本的に緑内障手術で視力が向上することはないこ 0R装用レンズC+5D Ax180°C+5D Ax180°C+5D Ax90°C-5D Ax180°網膜像装用レンズ網膜像① 0 ⑤0L R L R LC+5D Ax135°C+5D Ax45°R L00 0+5 +5+5② 0 ⑥+5C-5D Ax45°C-5D Ax135°0-5 0 0 -5-5③ 0 ⑦-5C+5D Ax45°C+5D Ax135°0+5 0 0 +5+5④ 0 ⑧0C-5D Ax135°C-5D Ax45°00 -5 -5 0図 2 円柱レンズ矯正に伴う網膜像のひずみ(文献25 より)168あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (30)筆者らは,緑内障手術前後で低次収差・高次収差が実際にどの程度変化するかについて検討を行ってみた.対象は広島大学病院眼科で線維柱帯切除術を施行し,術後3 カ月まで経過観察できた17 例18 眼(男性7 例,女性10 例,平均年齢65.2±11.9 歳).術前眼圧は17.2±3.0mmHg であったが, 術後1 カ月の眼圧は11.1±6.5mmHg と有意に低下した.術後3 カ月の眼圧は11.4±よりも惹起角膜乱視だけでなく高次収差,コントラスト感度に影響が少なく,涙液層が安定していることが報告されている24).濾過胞手術で生じた術後の乱視をコンタクトレンズで矯正することは,濾過胞感染の危険性があるために推奨できない.しかし,眼鏡での矯正も限界がある.乱視を円柱レンズで矯正すると網膜像にひずみが生じる.直乱視を円柱レンズで矯正すると網膜像は上下方向に短く,倒乱視では網膜像は左右方向に短くひずむ(図 2).垂直,水平方向の網膜像の拡大,縮小は順応しやすいが,斜め方向は順応がむずかしい.緑内障手術を行うに当たって2 回目,3 回目の手術が必要になる可能性を考慮して,耳上側,鼻上側に強膜フラップを作製することが多い.両眼に手術を受けて,左右の眼で軸の方向が異なる場合は同時視や両眼視にダメージを受けて空間のゆがみを感じるために完全矯正できない場合がでてくる25).IV緑内障手術と高次収差術後のQOV の低下を招く原因の一つとして不正乱視とともに高次収差の増加が考えられている.収差(aberration)とは,光学系において一点から出た光がレンズを通過する際に,波長の違いや位置・方向によって一点に収束せずに,ずれを生じることを意味している.収差には光の波長(色)による屈折率の違いがもたらす光収差(chromatic aberration)と,単一波長による光線が違った形状のレンズを通過する際に生じる単色収差(monochromaticaberration)がある.使用頻度が増加している波面センサー(wavefront analyzer)は,光を波面の進行として捉え,理想的なきれいな球面波と実際の歪んだ波面との差を「ずれ」として距離(μm)で表し,収差量を数値化して評価している.波面をZernike 多項式で表し,波面収差(wavefront aberration)をZernike 多項式の和で表現し収差を解析しているのが特徴である.波面収差には低次収差と高次収差(球面収差,コマ収差)があり, 高次収差は眼鏡では矯正できない要素で, QOVを左右する重要な要因となりうる.最近の機器の進歩により波面センサーの臨床での応用が進み,眼球,角膜,眼球内部の高次波面収差を正確かつ簡便に測定することが可能になった.0510152025術前術後1 カ月眼圧(mmHg)術後3 カ月図 3線維柱帯切除術後の眼圧変化00.10.20.30.40.5Corn(High)角膜高次収差(μm)Corn(S3+5) Corn(S4+6)■:pre■:1M□:3M*図 5線維柱帯切除術後の角膜高次収差の変化術前術後1 カ月乱視量(D)術後3 カ月00.511.522.5図 4線維柱帯切除術後の乱視量(Jaffe 法)の経時的変化(31) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010169ように,線維柱帯切除術後早期には高次収差の増加に伴いものが「かすむ」ことがあり,高次収差の増加を網膜像シミュレーションで確認することができる.このように,緑内障手術後早期には高次収差の有意な変化が原因でQOV が低下する可能性がある.術後の良好なQOV が求められる現在,緑内障手術においても術後の高次収差の変化に留意した治療を心がける必要がでてきたといえる.文献1) Hoste AM:New insights into the subjective perception ofvisual field defects. 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眼のかすみを起こす疾患:(2)白内障

2010年2月28日 日曜日

158 あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 0910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)内障では,中間・高周波領域でのコントラストの低下が報告されている1,2).筆者らは,視力1.0 以上の軽度の皮質白内障症例と白内障術後例の低コントラスト視力を比較した.25,12,6%の各コントラストで,有意に皮質白内障症例の低コントラスト視力の低下を認めた(鳥羽良陽ら,白内障眼におけるコントラスト感度測定,第50 回日本視能矯正学会).また,佐々木らは,初期核白内障,皮質白内障に加え,後.下白内障,retrodots,water clefts でも視力1.0 以上の症例でコントラスト感度低下を生じるが,focal dots, coronary cataract, vacuolesでは,コントラスト感度低下は生じないと報告している3).このように通常のLandolt 環で検出しえない視機能低はじめに「眼がかすむ」という症状は,白内障の初期の症状としてよく患者が訴えるものの一つである.ただ,この症状は,「眼が見えない」よりは,軽度の視力障害をイメージさせ,「ピントがぼやけて見にくい」イメージや涙目を通して物を見たような歪んだイメージ,さらには,うすいすりガラスを通してものを見たときのようなコントラストが低下したイメージを連想させる.本稿では,混濁したレンズである白内障,透明なレンズである眼内レンズと透明な膜である水晶体後.のみが残っている白内障術後について,「眼のかすみ」を考えてみたい.I白内障と「眼のかすみ」1. 初期白内障とコントラスト感度Landolt 環による視力検査は,眼科の最も基本的な検査で,多くの患者にとっても馴染み深いものである.ただ,初期の白内障で視力が良好な症例のなかに,「見にくさ」「眼のかすみ」「近くが見にくい」「夜間の運転で見えない」などを訴える患者がいる(図1).この通常の視力検査は,100%のコントラストをもつ Landolt 環により視力測定を行うものであるが,実際の日常では,コントラストの低いものを見ることも多く,見にくさを自覚する.自覚的な視機能をもっと詳細に検査するものとして,コントラスト感度検査がある.白内障では,コントラスト感度が低下することが知られ(図2),初期の核白( 20)* Daijiro Kurosaka & Chikako Urakami:岩手医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕黒坂大次郎:〒020-8505 盛岡市内丸19 番1 号岩手医科大学医学部眼科学講座眼のかすみを起こす疾患(2)白内障Diseases with Blurred Vision(2):Cataract黒坂大次郎*浦上千佳子*特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):158.164,2010図 1皮質白内障例矯正視力は1.0 であるが,患者は「眼のかすみ」を訴えている.(21) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010159膜像のゆがみにつながる.たとえば,角膜には正の球面収差があり,若年者の水晶体は,負の球面収差であるため,両者は打ち消しあうが,壮年期以降水晶体が正の球面収差に代わると眼球全体の球面収差が増加し,網膜像が低下することがよく知られている.水晶体が混濁し白内障となると網膜への光の透過が落ちるとともに,網膜像にぼやけが生じる.これは,光が散乱することにより起こるもので,前者は後方散乱(光の進行方向に対し後方に散乱する),後者は前方散乱とよばれる.前方散乱では,散乱した光が網膜像全体を覆いコントラストを低下させることにより視機能を低下させる1).さらに,白内障となるなかで,レンズとしての光学的性能が低下し収差が増加することが知られている.すなわち,混濁による低下(散乱)ではなく,レンズの光学性能が低下する(高次収差が増加する)ことによる網膜像の質の低下が指摘されている(図3.5)5).Fujikado らは,正常眼,初期核白内障眼,初期皮質白内障眼で,前方散乱,後方散乱,高次収差を計測し,正常眼に比べ,白内障眼では,前方散乱,後方散乱,高次収差のいずれもが上昇していること,さらにコントラスト感度の低下は,前方散乱,後方散乱,高次収差に相関し,特に核白内障眼では,後方散乱と高次収差,皮質白内障では,前方散乱と高次収差と相関することを報告下をコントラスト感度検査は検出できる場合があり,視力良好例での白内障眼の視機能評価としてコントラスト感度検査が重要である.ただ,網膜像を実際にわれわれが認識するときには,網膜以降中枢においてコントラストの増強などの中枢処理が行われることが知られている4).したがって,最終的な「かすみ」は,光学的な像のぼやけとそれを処理する中枢との結果で認識される.一般に,コントラスト感度検査では,この最終結果を評価することになる.2. 水晶体の光学的性能に与える白内障の影響透明な水晶体は,眼球の光学系にあって角膜とともに屈折の役目を担っている.透明であっても光学的なレンズとしてのゆがみがあると,角膜とも関与しながら網膜像のゆがみを生じさせる.遠視・近視・乱視は,眼鏡にて矯正が可能であるが,コマ収差,球面収差などは,網図 3Water clefts 例視力0.4,核白内障は認めない.3 6 12 18Spatial Frequency─(Cycles Per Degree)図 2図1 症例の白内障術前後のコントラスト感度X:術前,○:術後.術前後で矯正視力は1.0 で変わらないが,「眼のかすみ」の症状は,術後に消失した.160あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (22)と思われる.2. 眼内レンズと「眼のかすみ」上述のごとく白内障手術により混濁した白内障による視機能低下が改善され,「眼のかすみ」が多くの例で改善する.しかしながら,白内障に対する術後の視機能に対する期待は高く,ときに患者の満足が得られない場合がある.さらに眼内レンズがPMMA(ポリメチルメタクリレート)製であった時代には,眼内レンズの術後偏位などにより視機能低下することはあっても,PMMA製レンズ自体に混濁が生じたりすることはほとんどなかった.最近では,眼内レンズの経年変化による混濁が問題となる場合が報告されている.a. 眼内レンズのグリスニング,ホワイトニング白内障術後,挿入された眼内レンズ内部に細かな点状の混濁が生じることがあり,グリスニングとよばれるしている 1).高次収差は,コマ収差,球面収差が増加し,初期核白内障患者にみられる三重視や皮質白内障患者の複視などの自覚症状は,これらの収差の増加により説明される6).II白内障手術と「眼のかすみ」1. 白内障による「眼のかすみ」と白内障手術視力検査では良好な視力が得られるが「眼のかすみ」を訴えるような白内障患者の場合で,眼底などに問題がなくコントラスト感度が低下している場合には,白内障手術によってコントラスト感度が改善するとともに患者の「眼のかすみ」が改善することが報告されている2).さらに術前に視力とコントラスト感度が悪い症例ほど,術後の自覚症状の改善度が高い2).したがって,視力良好例でも,視力障害の自覚症状がありコントラスト感度が低下している症例では,手術の適応を考えてよいもの図 4図3 の症例の波面収差解析眼球全体の収差を,角膜表面成分,水晶体(+角膜後面)成分に分けている.眼球全体の収差の原因は,おもに水晶体であることがわかる.(23) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010161グという現象が知られている(図7).この現象も,一部の軟性アクリルレンズに生じやすく,最近では,ホワイトニングを強く認め視力が低下した例で眼内レンズを交換することにより視力の改善が得られた事例が報告されている〔吉田伸一郎ほか:アクリル眼内レンズ表面散乱(ホワイトニング)により視力低下した1 例,第63 回日本臨床眼科学会,2009〕.ただ,同様に強いホワイトニングを認める症例でも視力の低下しない場合もあり,ホワイトニングは,白内障術後の「眼のかすみ」の一因と(図6).おもに一部の軟性アクリルレンズに生じるが,軟性アクリルレンズでもほとんど発生しないレンズもあり,メーカーによる差異が大きいと考えられている.グリスニングは,光学部素材の内部に水が取り込まれて生じるもので7),術後徐々に増加していくこと,糖尿病網膜症などがある例で増強しやすいことなどが報告されているが,視機能には直接的には影響しないという報告が多い8).眼内レンズ表面が白っぽく混濁してくるホワイトニン図 5図3 の症例の術前後の波面収差解析白内障手術による角膜形状の変化,眼内レンズ自体の収差はあるものの,術前(A)と術後(B)の差(Difference)は,おもに白内障によるものである.162あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (24)告されている9).片眼性白内障に回折型眼内レンズを挿入した場合などに自覚されることが多い(図8).屈折型多焦点眼内レンズでは,レンズ設計にもよるが,近方視力は瞳孔径に依存し回折型に比べ近見視力が出にくい.グレア,ハローなどの症状も出現しやすいことが知られている.これらは,レンズ設計によるもので,単焦点眼内レンズに比べ「眼のかすみ」が出やすい.c. 非球面眼内レンズ角膜は正の球面収差をもち,若年水晶体は,負の球面収差をもつため,眼球全体での球面収差が減少している.通常の球面眼内レンズは,正の球面収差をもつため,白内障術後には,球面収差を減少させることができなる可能性があるものの,視機能に与える影響について明確な結論は得られていない.b. 多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズには,屈折型と回折型があり,後者は,近方視力が出やすい反面,光学的なロスを生じるため遠方視でのコントラスト感度の低下が生じることが報図 6眼内レンズ内部にみられるグリスニング軟性アクリル眼内レンズ挿入術後3 年目.眼内レンズ内部に無数の小さな輝点が認められる(視力は1.0,自覚症状はない).図 7眼内レンズ表面のホワイトニング軟性アクリル眼内レンズ挿入術後5 年目.眼内レンズ表面が白くなっているが,視力は1.0 で患者の自覚症状はない.図 8 片眼のみ回折型多焦点眼内レンズを挿入した例のコントラスト感度右眼(X):多焦点眼内レンズ,左眼(○):透明水晶体.40 歳,女性の片眼性白内障に対し,右眼(X)にのみ回折型多焦点眼内レンズを挿入した.術後は遠見,近見ともに裸眼で1.0 である.両眼で物を見るときには違和感はないが,右眼のみで見ると「なんとなくかすむ感じ」という.3 6 12 18Spatial Frequency─(Cycles Per Degree)(25) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010163になり,摘出交換症例が報告され出したが,今後注意深く見守っていく必要があると思われる.文献1) Fujikado T, Kuroda T, Maeda N et al:Light scatteringand optical aberrations as objective parameters to predictvisual deterioration in eyes with cataracts. J CataractRefract Surg 30:1198-1208, 20042) Adamsons IA, Vitale S, Stark WJ et al:The association ofpostoperative subjective visual function with acuity, glare,and contrast sensitivity in patients with early cataract.なかった.非球面眼内レンズは,負の球面収差をもち,眼球の球面収差を減少できる.球面眼内レンズと非球面眼内レンズでの術後の視機能を比べたものでは,瞳孔が開く薄暮視の状況で非球面眼内レンズのコントラスト感度が球面眼内レンズのコントラスト感度より改善していることが報告されている(図9)が,患者の自覚症状には大きな差がないことも報告されている10).3. 後発白内障と「眼のかすみ」後発白内障には,前.切開縁を中心に生じる白濁した線維性混濁,透明ではあるが不整に再生した水晶体線維である Elshnig’s pearl などがある.線維性混濁は,術後数カ月以内に進行し,ときに前.切開窓の減少をきたしたり,後.上に進展し視機能を障害する(図10).一方,Elshnig’s pearl は,術後3.5 年後に進行し,視機能障害を起こす.いずれの場合にも,Nd:YAG レーザーによる治療によって,視機能を回復させることが基本的に可能である.おわりに白内障に関連する「眼のかすみ」を生じさせるおもな疾患を解説した.これ以外にも,白内障術後には,ドライアイなど涙液を含めた眼表面,グレア・ハローなどが問題となる.眼内レンズ表面のホワイトニングは,最近瞳孔径0 0.1 0.3 0.53 mm5 mm図 9球面収差による「ぼやけ」瞳孔径3,5 mm のときのLandolt 環の網膜像.瞳孔径5 mm では球面収差が影響している.図 10白内障術後線維性混濁白内障術後3 カ月.前.切開縁が眼内レンズ下にもぐりこみ,後.上に線維性混濁を生じている.164あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010Arch Ophthalmol 114:529-536, 19963) 佐々木洋:白内障混濁度の評価.白内障すぐに役立つ眼科診療の知識(谷口重雄,綾木雅彦編),p23-27,金原出版, 20064) Ginsburg AP:Contrast sensitivity:determining the visualquality and function of cataract, intraocular lenses andrefractive surgery. Curr Opin Ophthalmol 17:19-26,20065) Rocha KM, Nose W, Bottos K et al:Higher-order aberrationsof age-related cataract. J Cataract Refract Surg 33:1442-1446, 20076) Fujikado T, Kuroda T, Maeda N et al:Wavefront analysisof an eye with monocular triplopia and nuclear cataract.Am J Ophthalmol 137:361-363, 20047) Miyata A, Yaguchi S:Equilibrium water content and glisteningsin acrylic intraocular lenses. J Cataract RefractSurg 30:768-1772, 20048) 森秀夫:軟性アクリルシングルピース眼内レンズのグリスニングの長期経過.IOL&RS 23:210-213, 20099) Pepose JS:Maximizing satisfaction with presbyopia-correctingintraocular lenses:the missing links. Am J Ophthalmol146:641-648, 200810) Trueb PR, Albach C, Montes-Mico R et al:Visual acuityand contrast sensitivity in eyes implanted with asphericand spherical intraocular lenses. Ophthalmology 116:890-895, 2009(26)

眼のかすみを起こす疾患: (1)角膜疾患

2010年2月28日 日曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY重症となり,中央に強い点状表層角膜症(superficialpunctate keratopathy:SPK)や糸状角膜炎を生じてきた場合であろう.このレベルのドライアイでは治療として涙点プラグを考慮することになるが,軽症の人に涙点プラグを行うと逆に涙液が溜まりすぎてよけいにぼやけることもあるので注意が必要である.b. 薬剤毒性角膜症薬剤毒性角膜症によるSPK は「かすむ」原因となるが,ドライアイや眼精疲労の患者ではこの「かすみ」が,本人が点眼の種類や回数を増加する契機となる.そのため,よけいに「かすみ」が強くなり,不安になった患者はさらに点眼を増やして悪循環につながる.「かすみ」という症状そのものが疾患の悪化につながるという特異なケースである.c. その他のSPK を起こす疾患春季カタルでは,落屑様SPK を起こすが,患者は「かすみ」よりも,掻痒・羞明・眼脂・流涙・眼痛・異物感などを訴えることが多い.また,マイボーム腺炎角膜上皮症ではフリクテン以外に血管侵入を伴ったSPKを生じる.コンタクトレンズによる低酸素状態・機械的障害・ドライアイもSPK につながる.いずれも重症化すると「かすみ」につながる.d. 樹枝状病変を生じる疾患樹枝状病変も瞳孔領にかかると「かすみ」につながる.上皮型角膜ヘルペスが代表的だが,偽樹枝状病変を起こすアカントアメーバ角膜炎初期,再発性角膜びらんはじめに角膜は眼球のレンズの役割を果たしていることから,その異常は見え方の質に多かれ少なかれ影響する.したがって眼の「かすみ」を起こす疾患イコールすべての角膜疾患といっても過言ではない.ただ,円錐角膜のような角膜形状異常による症状は「かすみ」ではなくやはり歪みであるし,角膜周辺部が障害される疾患では「かすみ」よりも異物感などの他の症状が主体となる.やはり,「かすみ」を生じる大きな原因は角膜中央の浮腫あるいは混濁であるので,角膜中央の浮腫や混濁を生じる疾患について,その診断や治療のトピックをまじえて解説する.一応軽度と重度に分けて解説するが,軽度で述べた疾患が重度の「かすみ」を生じることもあれば,重度で述べた疾患が軽度の「かすみ」ですむ場合もあることはいうまでもない.I 軽度の「かすみ」を生じる角膜疾患1. 中央の上皮障害をきたす疾患a. 重症ドライアイドライアイの症状は乾燥感,異物感,眼精疲労,充血などさまざまであるが,もともと自覚症状の強い疾患であり,当然,視力低下もその症状の一つであって,たとえ角膜中央の上皮に問題がなくても見え方の質は低下する.ただ,この場合は涙液層の不安定性に起因するものであり,「かすみ」ではなく「ぼやけ」という表現のほうがあてはまるであろう.「かすみ」になるのはやはり,(13) 151* Yoshitsugu Inoue:鳥取大学医学部視覚病態学〔別刷請求先〕 井上幸次:〒683-8504 米子市西町86 番地 鳥取大学医学部視覚病態学特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):151.157,2010眼のかすみを起こす疾患(1)角膜疾患Diseases with Blurred Vision(1):Corneal Diseases井上幸次*152  あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 (14)伏感染があるのではないかという考えもある.治療としてはステロイド点眼を使用することになるが,漸減しながらかなり長期にわたって使用しないと,中止によってまた再燃する.なお,アデノウイルスについては最近54 型が同定され1),しかも現在日本で8 型といわれているもののほとんどが,54 型によるものであることが明らかにされた.c. 顆粒状角膜ジストロフィ(アベリノ角膜ジストロフィ)このジストロフィによる混濁は,境界明瞭であり,混濁のない部分は透明であるため,初期は無症状であるが,やがて羞明を訴えるようになり,やがて混濁が大き治癒期,重症薬剤毒性角膜症で認められるepithelialcrack line などがある.いずれも「かすみ」だけでなく,異物感や充血などを必ず伴う.2. 中央の角膜混濁をきたす疾患a. 上皮の混濁をきたす疾患角結膜上皮の異型性や腫瘍性変化を起こすCIN(conjunctivaland corneal intraepithelilal neoplasia)が伸展して瞳孔領にかかると「かすみ」を訴える(図1).この疾患は炎症性疾患ではないが,症状としては異物感や充血を伴うことが多い.Fabry 病や全身投与薬の副作用(アミオダロンなど)として認められる上皮混濁(epithelialopacity)も「かすみ」の原因となることがあるが,この場合は異物感や充血は伴わない.b. 流行性角結膜炎による多発性角膜上皮下浸潤アデノウイルスによる流行性角結膜炎の後に生じる多発性角膜上皮下浸潤は,数が少なければ無症状であるが,多くなると羞明を感じるようになり,さらに多くなり融合したものまで出てくるようになると「かすみ」の原因となる.多発性角膜上皮下浸潤の病態としては,結膜炎を生じた際に角膜実質表層にアデノウイルスの抗原が蓄積し,それに対する遅延型過敏反応を生じてくると考えられているが,感染後半年以上たって症状が出てくる例や数年たっても鎮静化しない例もあり,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)のような潜図 1 CIN(conjunctival and corneal intraepithelilal neoplasia)異型上皮・腫瘍性の上皮は混濁しているため,瞳孔領にかかると「かすみ」の原因となる.図 3 アベリノ角膜ジストロフィこのような金平糖様の白い混濁は実質のやや深いところに認められるのでPTK で効果が得にくい.図 2 アベリノ角膜ジストロフィ実質表層の境界明瞭な混濁を生じるが,瞳孔領で融合傾向を認めると「かすみ」を訴える.(15) あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010  153PCR(polymerase chain reaction)でCMV を証明する必要がある.治療は抗CMV 薬のガンシクロビルやバラガンシクロビルを投与することになるが,投与経路や投与期間をどうすればよいかということについてはまだevidence が少なく個々の施設で独自に行われている.II 重度の「かすみ」を生じる疾患1. 中央の上皮障害をきたす疾患a. 瘢痕性角結膜上皮疾患Stevens-Johnson 症候群,graft-versus-host disease(GVHD),眼類天疱瘡などの瘢痕性角結膜上皮疾患は重度の上皮障害と角膜血管侵入,角膜混濁とドライアイを合併しており,さまざまな眼症状を生じてくる.「かすみ」はその症状の一部にすぎない.ある程度の視力が確保されている例ではドライアイ,炎症,感染を点眼治療などでコントロールして保存的に見ていくが,重症例では輪部移植,さらには培養角膜上皮移植など先進的な治療が必要となる.なお,Stevens-Johnson 症候群については発症したときの局所のステロイド治療が予後に大きく影響すること4),種々の遺伝子の多型がその発症に関与していること5),methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の感染が非常に多く認められることなど,多くの新知見があるが,その治療は依然としてむずかしい.b. 栄養障害性角膜潰瘍角膜ヘルペス後,聴神経腫瘍,糖尿病など三叉神経が障害され角膜知覚が低下する疾患で,角膜上皮の創傷治癒が遷延化して生じる.典型例では上皮欠損は楕円形を示し,辺縁上皮は灰白色に丸くもりあがり,実質からやや浮いたような所見を示すのが特徴である.治療としては治療用ソフトコンタクトレンズ装用,フィブロネクチン点眼,瞼板縫合など種々の治療が行われているが,現在その特効薬としてinsulin-like growth factor-1(IGF-1)とsubstance P の各々のペプチドであるSSSR とFGLM-NH2 を組み合わせた点眼6)の治験が行われている.く濃くなるとともに融合する状態となって「かすみ」を訴えるようになる.現在治療の第一選択はエキシマレーザーによるPTK(phototherapeutic keratectomy)であるが,最もよい適応は浅い層の混濁が瞳孔領で融合して認められるケースである(図2).混濁が多くてもこれが深くて融合傾向のない場合(図3)は混濁も十分とれないばかりか,レーザー後の遠視化のために,かえって患者は見にくくなったと感じる場合もあるので,注意が必要である.なお,顆粒状角膜ジストロフィはTGFBI 遺伝子の異常によって起こるが,日本ではより顆粒の大きさが細かい狭義の顆粒状角膜ジストロフィ(R555W)は少なく,多くはR124H タイプのアベリノ角膜ジストロフィである.d. 帯状角膜変性帯状角膜変性は基礎疾患としてぶどう膜炎,角膜炎,緑内障などがあり,二次的にBowman 膜レベルにカルシウムが沈着して生じる.瞼裂部の周辺から生じて中央へ向かって進行し,瞳孔領に及ぶと「かすむ」ようになる.帯状角膜変性の場合もエキシマレーザーによるPTK は非常に有効だが,沈着の状態が部位によって異なり,凹凸不整を生じて,異物感を主訴とするケースでは,非常に硬いところはレーザーによってうまく削れないため,むしろmanual でのkeratectomy のほうが有効である.3. 中央の角膜浮腫をきたす疾患サイトメガロウイルス角膜内皮炎角膜内皮炎の原因として,HSV,水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV),ムンプスウイルスなどが知られていたが,最近サイトメガロウイルス(CMV)によるものがあることが判明し,話題となっている.HSV による角膜内皮炎と比較して角膜浮腫が軽度のものが多く,浮腫を起こした部位にcoin lesion とよばれる輪状の角膜後面沈着物を認めるのが特徴である2).内皮にCMV 感染を示唆するOwl’s Eye を認めた3)との報告もある.CMV による虹彩炎も注目されており,おそらくCMV 虹彩炎と内皮炎は一連の疾患である可能性があり,CMV は免疫不全者で感染を起こすという概念が崩れてきている.診断にあたっては前房水の154  あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 (16)できるが,角膜内への移行が悪いのが欠点である.一方,アゾール系の新しい薬剤であるボリコナゾールは水溶性にすぐれ,1%点眼を自家作製して用いることができ8),深層のフザリウムでも治療できる可能性がある.c. 実質型角膜ヘルペス角膜ヘルペスも円板状角膜や壊死性角膜炎のように実質型で再発すると,充血を伴った強い「かすみ」となる.異物感,眼痛は生じない.再発性の疾患であるため,患者は症状から再発したと自分でわかることが多いが,それが逆に自己治療をかってに行う原因となり,アシクロビル眼軟膏なしにステロイド点眼を使用したり,ステロイド点眼なしにアシクロビル眼軟膏を使用したり,良くなったのでかってに突然点眼を打ち切ったりすることにつながる.自己治療をするとかえって再発を起こしやすい状況をつくってしまうことや,使用する薬剤の意味合い(ステロイド点眼だけでは逆にウイルスが増えてしまうことなど)を十分説明しておくことが重要である.d. アカントアメーバ角膜炎近年,症例数が増加し,コンタクトレンズ関連角膜感染症の重症例として緑膿菌とならぶ存在となっている9).「かすみ」よりも眼痛・異物感・充血などの炎症に伴う症状が強いのが特徴であるが,ステロイド点眼が使用さ2. 中央の実質混濁をきたす疾患a. 細菌性角膜炎細菌性角膜炎は瞳孔領にかかると重度の視力低下を招くが,もちろんそれだけでなく,異物感,眼痛,眼脂,流涙,充血などの症状を伴う.視力低下に比べてこれらの症状のほうが初期の抗菌薬による治療の効果があったかどうかの判定の目安にしやすい.たとえば,治療を開始した翌日,患者が「痛みが楽になった」といえば,まだ他覚所見があまり改善していなくても,一応この治療で継続すればよいのではないかということがわかる.「かすみ」については,最終的には改善するものの治療効果の判定にはあまり参考にならず,また,治療が終了しても,瘢痕が残れば「かすみ」は残る.現在は細菌性角膜炎の主体が異物飛入によるものから,コンタクトレンズ(CL)関連のものに移り,特に20.30 代での感染が主体である7).CL については単にその種類だけでなく,商品名,装用方法,装用日数・時間,誤用の有無とその内容,CL の管理方法(特にこすり洗いやレンズケースの定期交換,CL 装用時に手洗いをしていたかどうか,消毒の種類とmultipurpose solutionの商品名,水道水使用の有無)などを詳細に問診する必要がある.使い捨てCL の場合,眼表面の常在菌であるグラム陽性球菌による感染を起こしやすく,定期交換CL の場合は保存ケースで増殖しやすい環境菌である緑膿菌やセラチアなどのグラム陰性桿菌の感染を起こしやすい.b. 角膜真菌症角膜真菌症はステロイド点眼薬の使用によって,その頻度が増加したが,特に病原性の低いものほど診断がむずかしく,なかにはほとんど炎症を起こさず角膜表面でコロニーを形成するものもある(図4).その場合は,炎症に伴う症状はほとんどなく,「かすみ」のみが症状ということもある.角膜真菌症という用語が用いられるのは炎症を伴う通常の真菌性角膜炎だけでなく,そのような炎症があまりないものも時に認められるからである.角膜真菌症の治療は種々のアゾール系の薬剤やキャンディン系のミカファンギンなど選択肢が増えたが,やはり治療には時間がかかる.角膜真菌症で最も病原性が強いフザリウムについてはピマリシン点眼・眼軟膏が使用図 4 角膜真菌症カンジダが角膜に付着するようにコロニーを形成し,ほとんど炎症所見を認めなかった症例.このように真菌の場合,炎症所見が非常に弱い例が時にあり,一見沈着物のように見えるため診断がむずかしい.(17) あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010  155し,しだいに中央の角膜混濁が増加して「かすみ」が強くなる.進行した格子状角膜ジストロフィでは中央の混濁が強いために格子状の病変がわかりにくい.この場合,細隙灯顕微鏡で周辺の角膜をよく観察すると,そこに格子状の病変を発見できる(図5).なお,このように角膜混濁が強く起こってくるのは格子状角膜ジストロフィのI 型であり,IIIA 型は発症年齢も高く,混濁も少ない.g. 斑状角膜ジストロフィCHST6 遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患である.CHST6 は硫酸の転移酵素をコードしており,その異常によって,低硫酸化ケラタン硫酸プロテオグリカンが実質に沈着して,角膜全体が混濁する.そのため,「かすみ」は強く,角膜移植の適応となる.内皮は障害されないので,deep anterior lamellar keratoplasty(DALK)が可能であるが,実質が異常なケラタン硫酸によって粘稠となるため,実質を層間分離しにくく手術に時間がかかる.h. 膠様滴状角膜ジストロフィM1S1(tumor-associated calcium signal transducer2:TACSTD2)遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患であり,欧米ではきわめてまれで,日本に特有な疾患である.角膜上皮のバリア機能が障害され,透過性が亢進し,実質浅層に涙液中のラクトフェリンが蓄積してアミロイドとなる.単に濁るだけでなく,上皮が凹凸不整となり,血管侵入も伴うため,その症状は多彩であり,「かすみ」だけでなく,異物感・羞明・充血など種々の症状をきたす.治療用CL の装用が進行を防止することから,最近は進行した例は減少している.3. 中央の角膜浮腫をきたす疾患a. ヘルペス性角膜内皮炎ヘルペスの病型としては上皮型,実質型に加えて内皮型があるが,純粋に内皮炎だけを生じているものは意外に少なく,そのような症例ではむしろCMV によるもののほうがより可能性が高いであろう.ヘルペスの場合,多くの症例で実質型に合併して内皮炎を生じているため,本当に内皮に病変の主座があるのか,単に実質の炎症に伴う二次的なものかは判断がむずかしい.欧米ではれてしまうと,これがマスクされてしまい,わかりにくくなる.初期には点状・斑状・線状の上皮・上皮下混濁や偽樹枝状角膜炎,放射状角膜神経炎などが認められる.この時期は前述した炎症に伴う症状が強いが,「かすみ」は比較的軽度である.完成期には円板状浸潤・潰瘍,輪状浸潤・潰瘍の状態となり,「かすみ」は重症となる.治療としては特効薬がないため,掻爬が重要な治療手段となる.薬物治療に抵抗する場合は治療的角膜移植をせざるをえないこともある.e. 角膜実質炎(梅毒性,結核性など)梅毒・結核・Hansen 病などに合併して角膜実質炎を生じると,炎症に伴う症状に加えて「かすみ」を訴えるが,現在,その新鮮例に遭遇することはきわめてまれである.先天梅毒による瘢痕期の患者にはときどき遭遇するが,こういう患者の訴える「かすみ」は加齢に伴う白内障の進行によるもので,角膜の混濁の悪化を認める例はあまりない.ただ,角膜実質炎が深層にも及んでいるケースでは内皮の数が少ないため,加齢とともにこれがさらに減って水疱性角膜症に移行してきた場合は「かすみ」を訴えるようになる.f. 格子状角膜ジストロフィアベリノ角膜ジストロフィ同様TGFBI 遺伝子の異常によって発症する常染色体優性遺伝の疾患である.初期は上皮の接着不良による再発性角膜びらんを起こすのが特徴であり,症状は眼痛・異物感・充血である.しか図 5 格子状角膜ジストロフィI 型中央の混濁部よりも周辺で格子状のラインの存在がわかる.156  あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 (18)が,欧米では主にYAG が使用されていることなどが関係しているとされている.しかし本当の原因は不明である.前房が浅い例が多く,そのままではDSAEK は困難で,先にあるいは同時に白内障手術を行ってDSAEKをすることが推奨されている.最近はシャンデリア照明を使用した白内障手術が可能となり,かなりの角膜浮腫があってもPEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)が可能である11).e. 眼内レンズ性水疱性角膜症最もよいDSAEK の適応となる.日本ではFuchs 角膜内皮ジストロフィは少なく,上記のALI 後やこの白内障術後の水疱性角膜症が多いので,Descemet 膜をとる必要が必ずしもなく,Descemet 膜を剥がないnon-Descemet stripping automated endothelial keratoplasty(nDSAEK)が行われるようになってきている12).f. ICE(iridocorneal endothelial)症候群片眼性に角膜内皮・線維柱帯・虹彩が障害される疾患で,Chandler 症候群,Cogan-Reese 症候群,progressiveessential iris atrophy を包含する.片眼性であるため,原因として遺伝は考えにくく,ウイルス説なども言われているが,いまだに原因は不明である.緑内障の合併が多く,水疱性角膜症に移行すると「かすみ」を訴えるようになる.g. 角膜移植後拒絶反応角膜移植後の3 大合併症は拒絶反応,感染,緑内障であるが,移植後に「かすみ」と充血を伴ってきた場合は角膜移植後拒絶反応の可能性が高く,これに眼痛・異物感が加わると感染の可能性が高い.緑内障は症状もなく最も厄介な合併症であり,移植眼の失明はほとんどが緑内障によるものであるといってもよい.h. 急性角膜水腫円錐角膜で突然の重度の「かすみ」を訴えた場合は,Descemet 膜破裂に伴う急性水腫の可能性がある.多くの症例でDescemet 膜のみならず実質にまで亀裂が生じている(stromal cleft)が,それでも自然修復する.自然修復して浮腫が引けば再びハードコンタクトレンズが装用可能となる例も多く,急性角膜水腫を生じたら移植になるというものではない.円板状角膜炎を内皮型に分類しているが,これには少なからず違和感がある.円板状角膜炎のなかで浮腫が強く実質の混濁が少ないタイプが確かにあるが,実質にも炎症があるにもかかわらず,内皮型に分類するのはどうかと思われる.やはりこれは実質型と内皮型の合併とみるべきであろう(上皮型と実質型の合併もよくあるので,実質型と内皮型の合併があっても何ら不思議はない).ヘルペス性角膜内皮炎は実質炎同様にアシクロビルとステロイドの併用で治療されることが多いが,その妥当性に関するevidence はない.b. Fuchs 角膜内皮ジストロフィVIII 型コラーゲンのa 2 鎖をコードするCOL8A2 遺伝子の異常で起こるという報告があるものの,13 番染色体,18 番染色体上のlocus も報告されており,今に至るも原因遺伝子が十分解明されていない.角膜内皮にguttata とpigment dusting を認め,若年で水疱性角膜症に移行する.Fuchs 角膜内皮ジストロフィは欧米ではかなりよく認められるジストロフィであり,全層角膜移植のかなりの部分をこの疾患が占めていた.しかし,最近は内皮側のみを移植するDescemet stripping automatedendothelial keratoplasty(DSAEK)が広く行われるようになり,急速に術式が変化している.c. 後部多形性角膜ジストロフィ(posterior polymorphousdystrophy:PPD)常染色体優性遺伝,両眼性の疾患で,原因遺伝子は20 番染色体にあるとされているが,正確な原因遺伝子はまだ不明である.Fuchs 角膜内皮ジストロフィ同様日本人には少ない.角膜内皮面に.胞状病変,posteriorcollagenous layer などを伴う.病態としては内皮が分化異常を起こして,上皮様変化(微絨毛多数,ケラチン陽性)を生じているとされている.通常は無症状で,水疱性角膜症への進展があれば「かすみ」を訴えるようになる.なお,片眼の孤発例をposterior corneal vesicle(PCV)というが,これとPPD の関係は不明である.PCV で水疱性角膜症に移行することはまずない.d. アルゴンレーザー虹彩切開術(ALI)後水疱性角膜症日本人ではこのタイプの水疱性角膜症が多い10)が,欧米では珍しい.人種的なもの以外に,日本ではレーザー虹彩切開術にアルゴンレーザーが主に使用されてきたあたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010  157文   献1) Ishiko H, Shimada Y, Konno T et al:Novel human adenoviruscausing nosocomial epidemic keratoconjunctivitis. JClin Microbiol 46:2002-2008, 20082) Koizumi N, Yamasaki K, Kawasaki S et al:Cytomegalovirusin aqueous humor from an eye with corneal endotheliitis.Am J Ophthalmol 141:564-565, 20063) Shiraishi A, Hara Y, Takahashi M et al:Demonstration of“Owl’s Eye”morphology by confocal microscopy in apatient with presumed cytomegalovirus corneal endotheliitis.Am J Ophthalmol 143:715-717, 20074) Sotozono C, Ueta M, Koizumi N et al:Diagnosis andtreatment of Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermalnecrolysis with ocular complications. Ophthalmology116:685-690, 20095) Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al:Association of combinedIL-13/IL-4R signaling pathway gene polymorphismwith Stevens-Johnson syndrome accompanied by ocularsurface complications. Invest Ophthalmol Vis Sci 49:1809-1813, 20086) Yamada N, Matsuda R, Morishige N et al:Open clinicalstudy of eye-drops containing tetrapeptides derived fromsubstance P and insulin-like growth factor-1 for treatmentof persistent corneal epithelial defects associatedwith neurotrophic keratopathy. Br J Ophthalmol 92:896-900, 20087) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 20068) 小松直樹,堅野比呂子,宮. 大ほか:ボリコナゾール点眼が奏効したFusarium solani による非定型的な角膜真菌症の1 例.あたらしい眼科 24:499-501, 20079) 福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 200910) Shimazaki J, Amano S, Uno T et al:The Japan BullousKeratopathy Study Group:National survey on bullouskeratopathy in Japan. Cornea 26:274-278, 200711) Oshima Y, Shima C, Maeda N et al:Chandelier retroillumination-assisted torsional oscillation for cataract surgeryin patients with severe corneal opacity. J Cataract RefractSurg 33:2018-2022, 200712) Kobayashi A, Yokogawa H, Sugiyama K:Non-Descemetstripping automated endothelial keratoplasty for endothelialdysfunction secondary to argon laser idridotomy. Am JOphthalmol 146:543-549, 2008(19)■用語解説■マイボーム腺炎角膜上皮症:重度のマイボーム腺炎に伴い,フリクテン角膜炎や血管侵入を伴った点状表層角膜症(SPK)を認める.若い女性に多く,その原因はマイボーム腺内のアクネ菌といわれている.再発をくり返すケースではマクロライド系の内服が有効である.Epithelial crack line:薬剤毒性角膜症によって生じる分岐のあるひび割れ状のラインである.その特徴として,角膜中央やや下方に水平方向に生じ,混濁を必ず伴っており,時に盛り上がりを認める.また,周囲に必ず著明なSPK を認める.Fabry 病:a ガラクトシダーゼの先天的な欠損による全身性代謝異常で,心血管,腎臓,皮膚の異常を呈する.角膜上皮内にceramide trihexoside が沈着して特徴的な渦巻き状の混濁を生じる(渦状角膜).アミオダロン:古くから使用されている抗不整脈薬だが,角膜の中央やや下に車軸上,猫ひげ様の上皮混濁が生じるので有名である.ただ,視力障害につながるほどの混濁になる例は少ない.Owl’s Eye:サイトメガロウイルスが感染した細胞に核内封入体ができるとまるでフクロウの目のように見えることから,サイトメガロウイルス感染細胞に特徴的な所見として知られている.Multipurpose solution(MPS):CL の洗浄・消毒・保存・すすぎが一つの溶液ですべて可能(多目的というのはそういう意味である)な製剤で,その簡便性から,現在,定期交換SCL の使用者の間で広く使用されているが,一方で抗菌力の弱さが問題となっており,現在のCL 関連角膜感染症増加の一因となっている.Deep anterior lamellar keratoplasty(DALK):Descemet膜と内皮を残して実質をすべてとって行う表層角膜移植.全層と同等の透明性が得られ,かつ内皮型拒絶反応が生じない理想的な手術だが,手術自体は全層移植よりもむずかしい.なお,従来はdeep lamellar keratoplasty(DLK, DLKP)といわれていたが,最近は特に欧米で内皮移植と対比させてこの名称がよく使用されている.Guttata:角膜内皮が障害されてくるとDescemet 膜にコラーゲン様物質が瘤状に付加され,スペキュラーマイクロスコープや細隙灯顕微鏡の鏡面法により観察すると黒い丸として観察される.周辺部に加齢とともに認められるものはHassall-Henle 小体,中央部に病的所見として認められるものはguttata といわれている.Pigment dusting:Guttata を多数認める角膜では角膜内皮面に小さいpigment を多数認める.このpigment は角膜後面沈着物が色素塊となったものではなく,病的な内皮に貪食されたpigment である.したがって時間が経過しても消失しない.Posterior collagenous layer(PCL):内皮細胞がDescemet膜後面にコラーゲン様物質を産生し膜状となったもの.内皮が異常なストレスにさらされた時にできる.

眼のかすみ:鑑別診断の基本戦略

2010年2月28日 日曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYII問診の鑑別1. 主訴「運転していてぼける」「近くにピントが合わない」「目に膜が張ったようだ」「目の前にかすんだものが動く」「一瞬,真っ暗にかすんだ」「かすんで何も見えない」など「眼のかすみ」の訴えも程度や状況などさまざまである.患者は各人各様の表現で症状を訴えてくるので,これを客観的な表現に変える必要があるが,「眼のかすみ」は,霧視あるいは視力低下に相当することが多いものの,色覚異常,視野異常,飛蚊症,複視などを患者は感じながら「かすみ」と表現していることもある.「かすむ」という表現をどのような眼科的な表現に属するのか絞り込む必要がある.眼科の多い主訴を表2 に大別してみるが,「眼のかすみ」は「視力障害」という包括的な眼科用語に表現されるので,そのなかのどのような障害を表現しようとしてはじめに「眼のかすみ」は眼科診療において最も頻度の高い主訴である.その原因は,屈折矯正の問題からオキュラーサーフェス,角膜,中間透光体,眼底,視神経,大脳皮質視覚野までの視覚伝達系,つまり眼科領域のすべてにわたる.さらに視覚野以降の高次連合皮質系の異常や不定愁訴あるいは心因性視力障害や詐病も鑑別の対象になる.そのうえ,救急対応が必要なものも少なくない.重大な見逃しを予防して適切に診断するためには,きちんとした問診,そして鑑別診断のための検査項目や見逃してはいけない重要疾患の整理が大切である.本稿では,「眼のかすみ」を訴える患者を初診して各組織別の疾患を具体的に検討していく前に注意したい事項について整理する.I基本戦略筆者の鑑別のための基本戦略を表1 に示す.特に救急疾患を鑑別するために,急激発症か,両眼性か,重篤な視力障害か,瞳孔異常を伴っているかは,大切な所見である.そして,救急疾患を鑑別したら,部位別の器質的疾患の異常の検索,さらに中枢性疾患や心因性疾患の鑑別に進む.その際に,年齢や性差や外傷などの原因による頻度の高いものと低いものを意識する.最近の光干渉断層計(OCT)や角膜形状解析法の進歩により,器質的疾患の検出はしやすくなった.( 3 ) 141* Akito Hirakata:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平形明人:〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):141.149,2010眼のかすみ:鑑別診断の基本戦略Basic Approach to Blurred Vision平形明人*表 1「眼のかすみ」鑑別に対する基本戦略1.克明な問診2.瞳孔の観察(特にRAPD 陽性か陰性か)3.一過性と持続性の視力低下を区別4.発症状態で区別:急激か緩徐か5.両眼性か片眼性かを区別6.性差,年齢,原因(手術後,外傷など)による発症頻度を意識7. 原因不明例では,重大疾患の見落としの可能性があり,経過観察して再検討RAPD:相対的瞳孔求心路障害.142あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 4 )えて来院することもある.視力障害などに眼痛,頭痛などの随伴症状がないかを聞き出す.特に有痛性か無痛性かは鑑別疾患を大別するのに必要である.高血圧や糖尿病など全身疾患や手術歴を含む眼疾患の既往歴,家族歴などは,特記すべきものがなくても確認する.3. 小児や発達障害者乳幼児はもちろんであるが,小児や発達障害者の視力障害は本人が表現できず,両親などからの訴えによることが多い.行動パターンや流涙,瞳孔の異常,眼位などの視覚障害に関連する他覚的所見を丁寧に聴取する.先天緑内障などは流涙所見が気になって受診していることもある.両親は視力障害に繋がる所見とは思わないで,眼科医に話さないこともある.視力障害に繋がるヒントが隠れていないか,重篤な疾患を見逃さないように,目つきやまぶしがったりする仕種,目を擦ったりするなどの行動パターンについても確認する.もちろん全身状態や遺伝疾患,出産状態を含む既往歴の把握は大切である.III視力障害に対する基本的な眼科検査視力障害は,視路のすべての病変が対象になるので,それぞれの症状に関連する適切な検査の選択が大切になる.眼科でルーチンに行う検査が,視力障害の検査である.つまり,眼位,眼球運動,瞳孔反応,視力,眼圧,細隙灯検査,眼底検査である.これらの検査で,眼球内の器質的異常が診断できれば容易であるが,形態異常がわかりにくいものには,涙液異常などの分泌機能異常や視神経より中枢の疾患あるいは調節,輻湊,開散などの機能異常に起因していることがあり,涙液検査,色覚検いるのか問診で分類する(表3).つまり視力障害に関連する疾患は非常に多岐にわたるので,問診で症状を絞り込むことが的確な検査や疾患予測のために重要である.2. 左右眼の区別,経過,既往歴,家族歴主訴が,いつ,どちらの眼あるいは両眼か,どのような状況で始まったか,どのように変化しているかを聞く(表4).患者は左右眼を意識していないことも多い.両眼性の場合,左右同時に発症したのか,時間差があるのか.視力低下の程度はどのくらいで,それが進行性か固定されているかは鑑別に重要である.発症が急激か緩徐か,視力低下がどの程度かは救急疾患を鑑別するために,非常に大切である.急に視力低下を自覚したと訴えてきても,ある日,片目をつぶったときに,たまたま片眼の「かすみ」に気づき,「突然見えなくなった」と訴表 2眼科の主訴1.視力障害(*)2.眼痛異物感,灼熱感,深部痛,頭痛,光過敏痛,眼球運動痛3.分泌異常涙液異常(過多,ドライ),漿液性,粘性,膿性4.外見異常充血腫瘤眼位異常眼瞼異常眼球陥凹,突出瞳孔異常(*は表3 参照)表 4視力障害の問診の注意項目1.一時的か持続性か2.発症状態;急性か緩徐か3.片眼性か両眼性か4.程度(重篤度,近見時か遠見時か)5.進行性か固定か6.随伴症状(眼痛など)7.全身疾患8.既往(手術歴,治療歴)表 3主訴「視力障害」の内訳1.視力低下a.近見b.遠見2.色覚異常a.遺伝性b.後天性3.視野障害a.片眼b.両眼性4.暗順応障害5.虹視症6.飛蚊症7.光視症a.片眼b.両眼8.変視症(小字症または大字症含む)a.中心窩の異常9.皮質盲10.知覚盲(perceptual blindness)11.複視a.片眼性b.両眼性 1)近見 2)遠見 3)眼位や頭位による変動(5) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010143の検査で最も大切である.進行した角膜混濁,外傷による前房出血,緑内障発作,網膜中心動脈閉塞症,内眼筋麻痺を合併する動眼神経麻痺,視神経炎などの主要な眼科救急疾患は,瞳孔を観察するだけで異常に気づく.対光反射をみることは,病変部位の推定とともに,急激に視力低下した際の救急疾患の鑑別に必要である.左右眼で視力障害に差があるときに,交互点滅対光反応試験(swinging flashlight test)を行うと,異常が発見しやすい.これが認められると相対的瞳孔求心路障害(relativeafferent pupillary defect:RAPD)陽性とする.RAPD 陽性は視神経炎などの視神経障害の鑑別が目的であるが,広範囲な網膜病変でも陽性になる.査,視野検査,あるいは電気生理学的検査やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査などの適応を検討する.最近の画像解析の進歩は目覚ましく,角膜形状解析,OCTによる黄斑部病変の描出,視神経線維層や乳頭解析による緑内障の解析など,器質的疾患の検出や病態鑑別のための検査精度は向上している.1.瞳孔の観察瞳孔検査は,緊急度や重症度を鑑別するために,必ず注目しなければならない.正常では瞳孔の形は円形で大きさも左右差がない.瞳孔を観察して,不整形であったり,大きさや形,対光反射に左右差があるかは視力障害a.眼底写真b.Humphrey FDT スクリーナー検査Total Deviation Total Deviation30° 30°図 1眼底に異常のない視力障害の鑑別例61 歳,女性.数カ月前からの左眼視力障害で来院.視力は右眼(1.0),左眼(0.4).眼底に視力障害の原因となる異常はみられない.Humphrey FDT(Frequency Doubling Technology)スクリーナーで両耳側半盲が疑われ,MRI 検査で下垂体腺腫が見つかった.144あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 6 )の既往を示唆する.一過性視力障害のなかで,緑内障発作が自然寛解した場合などは,狭隅角眼の水晶体上に虹彩色素が沈着していたり,軽度の虹彩後癒着がみられることもある.白内障でも後.下白内障が急に膨潤白内障に進行した場合などは,急激な視力低下で来院することがある.前部硝子体中の細胞成分や混濁の有無を観察することも忘れてはならない.眼内手術の既往のない眼の前部硝子体中に細胞成分が存在した場合は,ぶどう膜炎や網膜裂孔などの眼底病変の可能性が高い(Shafer’ssign).散瞳後に水晶体の形状や位置異常,白内障の状態,硝子体混濁を観察する.前置レンズを使用すると,後部硝子体の状態や黄斑疾患の判定などの詳細な眼底検査が可能になる.4. 散瞳後の眼底検査倒像眼底検査で眼底観察して,眼底全体の器質的疾患の有無を観察する.特に乳頭の形態と色調,黄斑領域,網膜血管異常には注意する.高齢者の眼底検査では後部硝子体.離(PVD)の状態を意識して観察すると,黄斑疾患や網膜裂孔などの見逃しが少なくなる.網膜表層の血管や神経線維層の観察にはグリーン光での眼底検査やred free 写真が病変の検出に有用である(図2).糖尿病網膜症の眼底検査は眼科医ならば必ず依頼されるが,大出血や白斑がないと病態が進行していても異常2. 視力検査屈折異常による視力低下を鑑別する.屈折検査の度数や乱視軸,左右差にも気を配る.矯正視力が良好でも乱視が強いものや斜乱視のものは,屈折に関係する病態が鑑別となる.視力を説明する眼内の器質疾患が見つからない場合に,視野欠損を伴っていることがある(図1).視野検査をして中枢性疾患の鑑別が必要なことがある.小児ではLandolt 環による視力測定ができないこともあり,optokinetic nystagmus(OKN),preferentiallooking(PL)法,visual evoked potential(VEP),点視力検査,絵視力検査などを利用して視力を推定する.3. 細隙灯検査眼瞼縁,涙液状態,角膜の形状や混濁,前房の炎症所見,水晶体の位置,水晶体や硝子体の混濁,さらに視神経乳頭を含む眼底異常はすべて視力障害の鑑別点になるので,器質的異常の有無を観察する.ドライアイや結膜弛緩による涙液異常が視力障害の主訴で受診することもあるので,角膜上皮や結膜異常にも気をつける.円錐角膜の初期は角膜実質深層の線状皺襞が出現するが見逃されやすい.近年は角膜屈折矯正手術も普及して,わずかな角膜形状異常が視力障害に繋がっていることもある.斜乱視などの屈折異常で中間透光体や眼底に異常がみられず視力障害を感じている場合,角膜形状解析が鑑別に有用である.虹彩の脱色素は虹彩炎図 2グリーンフィルターの眼底検査網膜表層の血管や神経線維層の観察にはグリーン光での眼底検査やred free 写真が病変の検出に有用である.(7) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010145なしとされてしまっていることに遭遇することがある.糖尿病網膜症が依然として主要な失明原因である理由の一つは,視力低下が病態の進行に必ずしも平行しないために患者の受診時期が遅れていることであるが,眼科医による眼底検査の精度も問われている.若年者では,出血が目立たなくても,網膜内異常血管(intraretinalmicrovascular abnormality:IRMA)や広範囲な無灌流領域を伴う前増殖期や乳頭上新生血管(neovascularizationon disc:NVD)を有する増殖期に至っていることが少なくない(図3).糖尿病網膜症は糖尿病罹病期間が最も有意な危険因子であるので,たとえば,10 年以上も糖尿病コントロールが不良な患者を診察する場合は,何らかの網膜症がないはずはないと疑って眼底検査をすることが必要である.現在は視力障害の主訴をもたないが,将来,重篤な視力障害の危険因子のある患者を診察する場合に,病気の存在を疑って診察することと,患者に危険因子を含む今後の注意を説明することが大切である.図 3若年者の前増殖型糖尿病網膜症の一例22 歳,女性.糖尿病歴は中学時代からで,現在のHbA1C は13%.視力は(1.2)で眼底写真を示す.すでにIRMA や多数の軟性白斑があるが目立たない.これを見逃すと重篤な視力障害の予後に繋がる.重篤な視力障害の危険因子のある患者を診察する場合に,病気の存在を疑って診察することが大切である.図 4判定しにくい標的黄斑症の一例60 歳,男性.従来,両眼とも視力(0.4)と不良であった.最近,「かすみ」が強くなって,近医で原因不明で紹介される.視力は右眼(0.3),左眼(0.2).眼底写真とOCT 所見を示す.眼底写真でわずかな標的黄斑を認めるが,あまり顕著でない.しかし,OCT で黄斑の菲薄化を認める.視野検査で中心暗点,局所ERG で黄斑部位の異常を認めた.146あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 8 )(Watzke-Allen sign).また,視神経低形成などの視神経異常や緑内障程度と視力障害との関係を分析するために,OCT などの神経線維層の解析は有用となっている(図6).以上のように,眼底検査は,検眼鏡検査に加えて,red free,赤外光写真,OCT 眼底自発蛍光(FAF),フルオレセイン(FA)あるいはインドシアニングリーン(IA)蛍光眼底造影検査などで病態の把握がしやすくなった.さらに機能検査としての視野検査法や網膜電位図(ERG)なども進歩した.視神経疾患や中枢性疾患,心因性疾患などの鑑別に有用である.IV一時的か持続性か視力障害を鑑別するために,一過性視力障害か持続性か,痛みの合併などで分類することは有用である.Wills Eye Manual1)からの抜粋を表5 に示す.一過性あるいは突然発症の病態は,血管閉塞に関与するものが多い.外傷後の視力低下は,眼外傷〔穿孔性,非穿孔性,化学外傷,物理的外傷(紫外線,放射線など)〕以外に,頭部外傷,その他の部位の外傷(Purtscher 網膜症など)からの影響がある.黄斑ジストロフィなどの標的黄斑の初期は見逃されやすい.両眼性の軽度視力障害の場合,黄斑ジストロフィを念頭において,黄斑の色調のむら,左右差に気をつける.グリーン光での双眼倒像鏡で異常が観察しやすくなる.OCT では黄斑の菲薄化や層構造異常が観察される(図4).若年男性で中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の既往があって,すでに網膜復位が得られている場合,「かすみや暗点が軽快しない」という訴えで受診することもある.眼底検査で黄斑異常が見つけにくいことがあるが,黄斑色素のむらなどを疑ったら,OCT でのIS/OS line(視細胞内節外節境界部)や色素上皮層の異常,あるいは自発蛍光写真(fundus autofluorescence:FDF)の過蛍光がCSC の既往を示唆することもある(図5).片眼性の変視症(歪視症,小字症など)や視力低下を有する場合,最も頻度の高いのが黄斑を侵す病態である.黄斑浮腫,黄斑円孔,黄斑上膜などの鑑別や判定に,中心窩の形態と反射を確認する.最近は,90D やSuper-Field レンズなどの非接触型前置レンズが使いやすくなり,細隙灯顕微鏡による眼底検査が便利である.その際,観察光をスリットにして中心窩を照らして,スリット光の中央が切れて見えるか,くびれて見えるか,曲がって見えるかなどの自覚所見を表現してもらうことも, 小さい黄斑円孔や偽円孔の鑑別に有用であるa b c図 5中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の既往を疑う一例a:49 歳,男性.左眼眼底写真.視力(1.2)であるが,中心視野の「かすみ」を訴えて来院.黄斑は復位している.b:FAF で黄斑の過蛍光が検出される.c:OCT で網膜は復位しているが,外層IS/OS の不整がみられる.あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010147V急激に発症する視力低下の鑑別急激な視力低下をきたすものは,早急な対応を必要とするものが多い.文献2,3 を参考に作成したフローチャートの一例を図7 に示す.VI両眼の急激な視力低下両眼同時に急激に発症する視力低下の原因として,全身性疾患に起因する炎症(原田病,サルコイドーシス,Behcet 病,糖尿病,転移性眼内炎など),薬物中毒による視神経障害(クロラムフェニコール,メチルアルコー( 9 )図 6視神経低形成の一例7 歳,女児.数年前からの左眼の暗さを気にして受診.両眼とも視力(1.2).眼底検査で左視神経乳頭が軽度の蒼白がある以外に異常所見が得られず.視神経を含む頭部MRI でも異常なし.OCT 検査で左視神経線維層の菲薄化が検出された.148あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010ル中毒など),鼻性視神経炎,角膜の物理的損傷(電気性眼炎,角膜上皮.離など),頭蓋内病変(脳腫瘍,水頭症,一過性虚血発作など)などのことが多い.ほとんどの片眼性視力低下を発症する眼科疾患は両眼性視力低下の原因になり得るが,片眼が発症してから時間差をおいて他眼に発症することが多い.VII緩徐に発症する視力低下の鑑別眼科基本検査である眼位,眼球運動,対光反射,視力検査,細隙灯検査,眼圧検査,眼底検査で器質疾患を検出する.最近のOCT などの画像検査の進歩により,微妙な黄斑疾患などの検出感度が向上した.視野検査,電気生理学的検査,CT・MRI などの画像検査は眼底などに異常が認められないときの鑑別に必要となる.心因性視力障害などの診断はなかなかむずかしいことが多く,原因不明のときは再検査を含む経過観察を行うなどして原因疾患の見逃しに注意する.おわりに視力障害の鑑別に対して,注意したい検査や重要疾患を見逃さないためのいくつかの注意点を記載した.「かすみ」の訴えに対する鑑別診断のアプローチ法は,主訴に対する問診を丁寧に行い,救急疾患を念頭においた瞳孔の観察,視力検査による重篤度の判定,時間経過,年齢や性差による疾患頻度を意識して,角膜から眼底までの部位別の器質異常を丁寧に鑑別していくのが基本である.一方で中枢性,遺伝性,代謝異常,薬物摂取に伴うものなどは両眼性に発症することが多いので,既往症や全身異常の背景にも注意する.文献1) Differential diagnosis of ocular symptoms:in Wills Eye(10)表 5視力低下の分類:一時的か持続性か1.一時的視力低下〔視力は24 時間以内(たいていは1 時間以内)に回復〕高頻度数秒(両眼性が多い):乳頭浮腫数分:一過性黒内障(一過性脳虚血発作;片側性),椎骨脳底動脈循環不全(両側性)10.60 分:片頭痛(続発する頭痛を併発することあり)低頻度 切迫型網膜中心静脈閉塞症,虚血性視神経症,眼虚血症候群(頸動脈疾患),緑内障,血圧の急激な変動,中枢神経(CNS)疾患,視神経乳頭ドルーゼン,巨細胞動脈炎2.持続性視力低下a)突然,無痛性高頻度 網膜動脈あるいは網膜静脈閉塞症,虚血性視神経症,硝子体出血,網膜.離,視神経炎(しばしば眼球運動痛を併発),既存する片眼の視力障害をたまたま発見低頻度その他の網膜疾患や中枢神経系疾患(脳溢血など),メタノール中毒b)緩徐な視力低下,無痛性(数週間,数カ月,数年かかって進行)高頻度白内障,屈折異常,開放隅角緑内障,慢性網膜疾患(加齢黄斑変性,糖尿病網膜症など)低頻度慢性の角膜疾患(角膜ジストロフィなど),視神経症・視神経萎縮(中枢神経腫瘍など)c)緩徐な視力低下,有痛性急性閉塞隅角緑内障,視神経炎(眼球運動痛),ぶどう膜炎,眼内炎,角膜水腫(円錐角膜)3.外傷後の視力低下 眼瞼腫脹,角膜障害,前房出血,眼球破裂,外傷性白内障,水晶体位置異常,網膜振盪症,網膜.離,網膜視神経症,中枢神経障害注意:説明困難な心因性あるいは詐病なども鑑別のために念頭におくこと(文献1 より)あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010149Manual. Office and Emergency Room Diagnosis andTreatment of Eye Disease:4th ed. Kunimoto DY, KanitkarKD, Makar MS(ed), p1-2, Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia, 20042) 症候からの診断:眼科学(II).丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦,田野保雄(編),p814,文光堂,20023) 小西美奈子:突然の視力低下(片眼性).今日の眼疾患治療指針 第2 版,田野保雄,樋田哲夫(総編),p4,医学書院,2007(11)眼圧検査角膜浮腫皮質盲・ヒステリー外傷性視神経損傷心因性外傷の既往細隙灯顕微鏡検査(眼瞼,結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体)眼底検査(硝子体,網膜,乳頭)急性緑内障発作眼球萎縮角膜疾患虚血性視神経症急性球後視神経炎(MS,特発性,ウイルス性)眼窩蜂巣炎眼窩先端部症候群脳腫瘍硝子体混濁硝子体出血網脈絡膜炎網膜動脈閉塞症網膜静脈閉塞症黄斑出血・変性黄斑.離・滲出乳頭炎角膜疾患虹彩毛様体炎前房出血水晶体疾患対光反射(RAPD)眼位・眼球運動矯正視力検査屈折検査不良陽性異常あり異常あり異常ありあり良好陰性異常なし異常なし異常なしなしMS:多発性硬化症図 7急激に発症する視力障害(文献2 と3 を参照)

序説:眼のかすみ

2010年2月28日 日曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY経っても,いつも原点に立って考えさせられるのが「眼のかすみ」である.一応の読者の対象は専門医試験前の専門医志向者を想定しているが,眼科の広い領域を網羅した項目のそれぞれにエキスパートの先生方の練った総説を集めた特集となった.すなわち,総論として鑑別診断の基本戦略を平形明人教授(杏林大学),各論として,角膜疾患は井上幸次教授(鳥取大学),白内障は黒坂大次郎教授と浦上千佳子先生(岩手医科大学),緑内障は木内良明教授と谷本誠治先生(広島大学),ぶどう膜疾患は中井 慶先生と大黒伸行先生(大阪大学),後天性網膜・硝子体疾患(網膜.離,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など)は阿部さち先生と山下(山形大学),網膜色素変性は高橋政代先生(理化学研究所神戸),視神経疾患(視神経炎)は三村 治教授(兵庫0910-1810/10/\100/頁/JCOPY経っても,いつも原点に立って考えさせられるのが「眼のかすみ」である.一応の読者の対象は専門医試験前の専門医志向者を想定しているが,眼科の広い領域を網羅した項目のそれぞれにエキスパートの先生方の練った総説を集めた特集となった.すなわち,総論として鑑別診断の基本戦略を平形明人教授(杏林大学),各論として,角膜疾患は井上幸次教授(鳥取大学),白内障は黒坂大次郎教授と浦上千佳子先生(岩手医科大学),緑内障は木内良明教授と谷本誠治先生(広島大学),ぶどう膜疾患は中井慶先生と大黒伸行先生(大阪大学),後天性網膜・硝子体疾患(網膜.離,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など)は阿部さち先生と山下(山形大学),網膜色素変性は高橋政代先生(理化学研究所神戸),視神経疾患(視神経炎)は三村治教授(兵庫医科大学)にそれぞれお願いした.この陣容からして,ベテランの臨床医の先生方もご自分の専門外の分野での知識を整理し,あすからの診療に役立てていただくことができるのではないかと自負している.臨床医学ではマニュアルが充実し,それが医療レベルを向上させ,医療安全を推進するために大いに役立ってきたことは否定できない.しかし,マニュアルが充実し完備することによる一つの弊害は,マニュアルに書いていない症状には対応ができない事臨床医学の基本は鑑別診断である.患者の主訴,訴え,症状,所見などを総合して,検査計画を確立し,正しい診断と治療方針にたどりつく道筋は,ときに困難を伴うものの,臨床医学の真髄をなす.たまたま当たるという鑑別診断能力ではなく,論理的に鑑別診断を行うためには,病態の理解と鑑別診断の戦略的な運用を理解する必要がある.これは若い臨床医を育成するプログラムの中核をなすものである.本特集では,鑑別診断能力のアップを目指して,代表的な主訴である「眼のかすみ」を起点にして,どのような病態により起こるかという病態生理の理解,さらにそれをもとにして鑑別診断を倫理的に行う方針を眼科の各分野にわたって網羅することを意図して企画した.「眼のかすみ」は,日常の外来で多くの患者さんから聞かされる最もありふれた症状でありながら,その原因は多岐にわたることから実は最も慎重に考えるべき症状であろう.一言で「かすみ」といってもその症状はさまざまで,白っぽい「かすみ」や対象がブレて見える「かすみ」などもあり,詳細に症状を聞くことにより原因がまったく異なることに気がつく.「眼のかすみ」についての習得が完全にできれば,眼科学をほぼ制覇したといっても過言ではないだろう.眼科医になって何十年( 1 ) 139* Teiko Yamamoto & Hidetoshi Yamashita:山形大学医学部眼科学講座●序説 あたらしい眼科 27(2):139.140,2010眼のかすみDimness of Sight山本禎子*山下英俊*140あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 ( 2 )態が出現しかねないことである.このような状況が眼科医学の最前線で起きていないことを望むものであるが,これを防ぐためには,本特集に示されているエキスパートによる鑑別診断のマニュアルを個々の専門医志向者が自分風にアレンジしていかれることを望むものである.ご自分の経験により,注意すべきこと,外来などで多くみる患者の割合の違いなどを含みこんでご自分用のマニュアルを作成していただければ,鑑別診断の能力はさらに向上するものと考える.このようにして自分の力で組み上げていく鑑別診断の能力を向上させる努力は生涯にわたって続けるべきものであり,また,その達成度に従い医師としての仕事を誇りに思えるようになる.本特集が今後の眼科医としての鑑別診断能力開発の一助となれば幸いである.お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内 眼における現在から未来への情報を提供! あたらしい眼科2010Vol.27月刊/毎月30日発行 A4変形判 総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担) 最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2010Vol.23■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行 A4変形判 総140頁定価 2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円 (本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌 (4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療 他【その他】トピックス・ニュース 他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント 他株式会社〒113.0033 東京都文京区本郷 2.39.5 片岡ビル5F振替 00100.5.69315 電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp医科大学)にそれぞれお願いした.この陣容からして,ベテランの臨床医の先生方もご自分の専門外の分野での知識を整理し,あすからの診療に役立てていただくことができるのではないかと自負している.臨床医学ではマニュアルが充実し,それが医療レベルを向上させ,医療安全を推進するために大いに役立ってきたことは否定できない.しかし,マニュアルが充実し完備することによる一つの弊害は,マニュアルに書いていない症状には対応ができない事臨床医学の基本は鑑別診断である.患者の主訴,訴え,症状,所見などを総合して,検査計画を確立し,正しい診断と治療方針にたどりつく道筋は,ときに困難を伴うものの,臨床医学の真髄をなす.たまたま当たるという鑑別診断能力ではなく,論理的に鑑別診断を行うためには,病態の理解と鑑別診断の戦略的な運用を理解する必要がある.これは若い臨床医を育成するプログラムの中核をなすものである.本特集では,鑑別診断能力のアップを目指して,代表的な主訴である「眼のかすみ」を起点にして,どのような病態により起こるかという病態生理の理解,さらにそれをもとにして鑑別診断を倫理的に行う方針を眼科の各分野にわたって網羅することを意図して企画した.「眼のかすみ」は,日常の外来で多くの患者さんから聞かされる最もありふれた症状でありながら,その原因は多岐にわたることから実は最も慎重に考えるべき症状であろう.一言で「かすみ」といってもその症状はさまざまで,白っぽい「かすみ」や対象がブレて見える「かすみ」などもあり,詳細に症状を聞くことにより原因がまったく異なることに気がつく.「眼のかすみ」についての習得が完全にできれば,眼科学をほぼ制覇したといっても過言ではないだろう.眼科医になって何十年( 1 ) 139* Teiko Yamamoto & Hidetoshi Yamashita:山形大学医学部眼科学講座●序 説 あたらしい眼科 27(2):139.140,2010眼のかすみDimness of Sight山本禎子* 山下英俊*140  あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 ( 2 )態が出現しかねないことである.このような状況が眼科医学の最前線で起きていないことを望むものであるが,これを防ぐためには,本特集に示されているエキスパートによる鑑別診断のマニュアルを個々の専門医志向者が自分風にアレンジしていかれることを望むものである.ご自分の経験により,注意すべきこと,外来などで多くみる患者の割合の違いなどを含みこんでご自分用のマニュアルを作成していただければ,鑑別診断の能力はさらに向上するものと考える.このようにして自分の力で組み上げていく鑑別診断の能力を向上させる努力は生涯にわたって続けるべきものであり,また,その達成度に従い医師としての仕事を誇りに思えるようになる.本特集が今後の眼科医としての鑑別診断能力開発の一助となれば幸いである.お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内  眼における現在から未来への情報を提供! あたらしい眼科2010 Vol.27月刊/毎月30日発行 A4変形判  総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)   増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)   (本体30,840円+税)(送料弊社負担)  最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2010 Vol.23■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行 A4変形判 総140頁定価 2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円 (本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌 (4冊)(送料弊社負担)【特 集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原 著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連 載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療 他【その他】トピックス・ニュース 他■毎号の構成■【特 集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原 著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント 他株式会社〒113.0033 東京都文京区本郷 2.39.5 片岡ビル5F振替 00100.5.69315 電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

Vogt- 小柳-原田病におけるHLA-DRB1*040501検出の頻度

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(129)ツ黴€ 1290910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):129 132,2010cはじめにVogt-小柳-原田病(VKH)は,穿孔性眼外傷既往歴のないぶどう膜炎を主とする眼症状と白髪,難聴,髄膜炎などの眼外症状を呈する全身性疾患であり,色素を有する器官に炎症が随伴することから,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.発症頻度は世界的にみると大きな偏りがあり,モンゴロイドに多くその他のコーカソイドなどの人種にはあまりみられていない1).VKH には両眼の汎ぶどう膜炎,びまん性の脈絡膜炎,多発する滲出性の網膜 離,フルオレセイン蛍光眼底造影検査〔別刷請求先〕雪田昌克:〒980-8574 仙台市青葉区星陵町 1-1東北大学医学部眼科学教室Reprint requests:Masayoshi Yukita, M.D., Department of Ophthalmology, Tohoku University School of Medicine, 1-1 Seiryo-tyo, Aoba-ku, Sendai-shi 980-8574, JAPANVogt-小柳-原田病における HLA-DRB1*040501 検出の頻度雪田昌克*1阿部俊明*2高橋秀肇*1大友孝昭*1西田幸二*1*1 東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野*2 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センターPrevalence of HLA-DRB1*040501 in Vogt-Koyanagi-Harada DiseaseMasayoshi Yukita1), Toshiaki Abe2), Hidetoshi Takahashi1), Takaaki Otomo1) and Koji Nishida1)1)Department of Ophthalmology and Visual Science, Tohoku University School of Medicine, 2)Division of Clinical Cell Therapy, Department of Translational Research, Tohoku University Graduate School of Medicine目的:Vogt-小柳-原田病(VKH)では,humanツ黴€ leukocyteツ黴€ antigen(HLA)の DNA-typing 検査にて,HLA-DRB1*0405 や*0410 のアリルが高率に検出されることが報告されている.最近では HLA 解析の進歩により,*0405 のサブタイプまで同定されている.今回,筆者らは VKH の患者にこの DNA-typing 検査を行い,その有用性について検討した.対象および方法:2006 年 4 月から 2008 年 5 月までに東北大学病院眼科で VKH を疑われた患者 21 例(男性 7名,女性 14 名,年齢平均 44±14 歳)に対し,PCR(polymeraseツ黴€ chainツ黴€ reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)法にて HLA-DNA-typing を行った.結果:21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が 5 例(23.8%)において*0410 が検出された.すべての症例において*0405 または*0410 のいずれかあるいは両方が検出された.さらに*0405 が検出された 19 例のうち 8 例は*040501 まで正確に検出され,それ以外のサブタイプはみられなかった.結論:原田病の*0405 サブタイプは*040501 である可能性が非常に高い.これまでに*0405 サブタイプの報告はないが,*040501 はモンゴロイドに特異的であり原田病特異的サブタイプである可能性が推測された.Purpose:Itツ黴€ isツ黴€ reportedツ黴€ thatツ黴€ inツ黴€ Vogt-Koyanagi-Haradaツ黴€ disease(VKH),ツ黴€ HLA-DRB1*0405 or *0410 are fre-quentlyツ黴€ detectedツ黴€ byツ黴€ DNA-typingツ黴€ analysis.ツ黴€ Recently, *0405ツ黴€ subtypesツ黴€ haveツ黴€ beenツ黴€ identi ed,ツ黴€ thanksツ黴€ toツ黴€ advancesツ黴€ in HLA-DNA-typing analysis. In the present study, we conducted this examination on VKH patients and assessed its usefulness. Methods:Weツ黴€ conductedツ黴€ theツ黴€ HLAツ黴€ typingツ黴€ test,ツ黴€ usingツ黴€ theツ黴€ PCR(polymeraseツ黴€ chainツ黴€ reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)methodツ黴€ onツ黴€ 21ツ黴€ patients(7ツ黴€ males,ツ黴€ 14ツ黴€ females;averageツ黴€ age:44±14 yrs)withツ黴€ suspected VKH,ツ黴€ fromツ黴€ Aprilツ黴€ 2006ツ黴€ toツ黴€ Mayツ黴€ 2008. Results:HLA-DRB1*0405 was detected in 19 cases(90.5%);*0410 was detected in 5 cases(23.8%). HLA-DRB1*0405 or *0410, or both, were detected. In addition, in 8 of the 19 *0405 detectionツ黴€ cases,ツ黴€ areツ黴€ detected *040501 exactly, and any other subtypes aren’t detected. Conclusion:It is highly likely that all cases of *0405 detection were *040501. We assume that *040501 is maybe speci c to mongoloid and VKH.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):129 132, 2010〕Key words:Vogt-小柳-原 田 病,HLA-DNA タ イ ピ ン グ, ア リ ル,HLA-DRB1*040501, 人 種 特 異 性.Vogt-Koyanagi-Harada diease, HLA-DNA-typing, alleles, HLA-DRB1*040501, race-speci c.———————————————————————- Page 2130あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(130)(FA)にて造影早期に多発性の点状蛍光漏出や,インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査にて造影早期に脈絡膜背景蛍光の局所的な充盈遅延,中期から後期にかけて多発性斑状低蛍光などの特徴的な眼所見がある.これらと類似していることから鑑別疾患としてあげられるのが,急性後部多発性斑状網膜色素上皮症,多発性後局部網膜色素上皮炎,uvealツ黴€ e u-sionツ黴€ syndrome,散弾状脈絡網膜症や,後部強膜炎などである.しかし,実際の臨床での診断は 2001 年に Read らによって作成された VKH の国際診断基準2)に基づいて行われているが,臨床所見や FA 所見など病期によって変化が著しい所見からの診断であり,また,髄液検査が必須の検査項目に入っていないこともあって,これらの鑑別に苦慮することがあるのが現状である.一方,診断の一手段として,従来より humanツ黴€ leukocyte antigen(HLA)-DR4 抗原の存在が考慮されていたが,近年より詳細な HLA 抗原の解析報告があり,HLA-DRB1*0405や*0410 のアリルが高率に検出されることが報告されてい る3,4).HLA サブタイプであれば,臨床症状のようにその出現が病期に左右されることはなく,診断に非常に有用と考えられる.また,最近では検査法の進歩に伴い,これらのアリルはより詳細なサブタイプまで同定されるようになり*0405であれば*040501 *040506 まで判明している.これらの詳細なサブタイプは VKH の診断法に影響を与え,発症頻度の偏りなどを明らかにできる可能性があるが,VKH と詳細なサブタイプの頻度について言及された報告はまだない.今回,筆者らは東北大学病院眼科(当科)での VKH 症例を検討し,*0405 のサブタイプの頻度を検討し,若干の文献的考察を加えたので報告する.I対象および方法対象は 2006 年 4 月 2008 年 5 月に当科を受診し,細隙灯検査,眼底検査,蛍光眼底造影検査,髄液検査やその後の経過や所見を総合的に判断して VKH と診断された 21 例 42眼(男性 7 名,女性 14 名)である.これらの患者は 2001 年に発表された原田病診断のガイドライン2)に基づいて完全型,不完全型,疑いに分類した.年齢は,21 59 歳(平均44.4 歳)であった.治療法は,21 例中 16 例に対しステロイドパルス療法,4 例に対しステロイド大量漸減療法,原田病の診断に難渋した 1 例に対しステロイド Tenonツ黴€ 下注射の局所投与を施行した.これらの患者に対し,経過中もしくは治療後に患者から同意を得たあとに静脈血採取を行い,DNA 合成キットを用いて DNA を 抽 出 し 精 製 し て か ら PCR(polymeraseツ黴€ chain reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)法5)にて HLA-DNA-typing を施行後,対立遺伝子の同定を行った.この方法は PCR 法で増幅された DNA を用いてシークエンス反応を行い,ゲル電気泳動より得られる塩基配列の多型性を直接検出する検査法で,第 12 回の国際組織適合性会議において検討されたものである.自動シークエンサーを用いて行うが,このなかには使用するプライマーで増幅される領域に関する各対立遺伝子の塩基配列情報が収められており,シークエンシングにより得られた情報を読み込んで,各対立遺伝子の塩基配列との異同を検索する.従来の方法は多型性を示す領域の周辺のみを検索するのに対し,SBT 法はすべての塩基配列を検索,決定でき,対立遺伝子の識別・判定がより厳密に確定可能となり,まれな対立遺伝子や未知の新対立遺伝子も検出可能である.本法は東北大学医学系研究科倫理委員会の承認のもとに実行された.II結果症例は全例原田病に特徴的な眼所見を有し,原田病診断のガイドラインを満たすものであった.病型別に分類すると21 例中 3 例が完全型 VKH,14 例が不完全型 VKH,4 例がVKH 疑いであった.今回は糖尿病網膜症で光凝固 1 年後にVKH を発症した症例が 1 例認められ,糖尿病黄斑浮腫や糖尿病性の腎不全もあり,uvealツ黴€ e usionツ黴€ syndrome など8)との 鑑 別 に 時 間 を 要 し た. 当 初 ト リ ア ム シ ノ ロ ン2 m gのTenonツ黴€ 下注射で加療し,軽快・増悪をくり返していた.しかし,最終的な診断にこの HLA 解析は非常に有効な判断材料になり,ステロイドの局所投与による加療のみで良好な経過をたどっている.4 例 7 眼において,7.5±2.5 mmHgの表1 臨床型別のVKH患者群と検出されたHLA-DRB1のアリル結果AllelesComplete VKHIncomplete VKHProbable VKHn(%)DRB1*0101011 2(9.5)DRB1*0403010 1(4.8)DRB1*0405312419(90.5)DRB1*0410041 5(23.8)DRB1*0803001 1(4.8)DRB1*0901040 4(19.0)DRB1*1001010 1(4.8)DRB1*1302010 1(4.8)DRB1*1401100 1(4.8)DRB1*1403110 1(4.8)DRB1*1405010 1(4.8)DRB1*1501021 3(14.3)DRB1*1502110 2(9.5) 21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が検出され,完全型 3 例(100%),不完全型 12 例(78.6%),疑い 4 例(100%)であった.*0410 は完全型 5 例(23.8%)において不完全型 4 例(28.6%),疑い 1 例(25%)で検出された.すべての症例において*0405 または*0410 が検出された.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010131(131)眼圧上昇が認められたが,全例経過観察か降圧剤の点眼のみでコントロール可能であり,ほかに合併症はなく視力を含めて良好な経過であった.表 1 に臨床型別の VKH 患者群と検出された HLA-DRB1のアリル結果を示す.通常,HLA-DRB1 のアリルはヘテロ接合体であることから,患者 1 名について 2 つ存在するため,今回 21 症例 42個のアリルが検出された.21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が検出され,完全型 3 例(100%),不完全型 12 例(78.6%),疑い 4 例(100%)であった.*0410 は完全型 5 例(23.8%)において不完全型 4 例(28.6%),疑い 1 例(25%)で検出された.すべての症例において*0405 または*0410 が検出された.今回の少ない症例のなかでは*0405 陽性者と*0410 陽性者の臨床的に明らかな差はみられなかった.19 例の*0405のうち 8 例は*040501 まで正確に検出され,残りの 11 例は*040503 と塩基配列が酷似しており,はっきり*040501 と判別できなかった.III考按HLA(ヒト白血球抗原)とは,ヒトにおける主要組織適合遺伝子複合体(MHC:major histocompatibility complex)のことであり,自己と他者を認識する役割をもつ.第 6 染色体短腕上の遺伝子群によりコードされ,もともと同種移植片への拒絶反応を規定する遺伝子座として発見されたが,HLA領域は多数の遺伝子群が存在し,同種個体間の遺伝的相違(多型)に富む領域であり,自己免疫疾患をはじめとする免疫関連疾患では疾患感受性を規定する遺伝子マーカーとしても使われてきた.眼疾患のなかでも,特にぶどう膜炎はその発症に免疫反応が深く関与し,VKH や交感性眼炎,Behcet病は MHC 対立遺伝子(allele)との相関が認められる代表的な疾患である6).VKH と HLA-DRB1*0405,*0410,DQB1*0401,*0402 や,Behcet 病と HLA-B*5101 との相関7)は以前から知られているが,後者の陽性率が 30 65%に対し,前者の陽性率はほぼ 100%に近く1),VKH の診断においては病期を問わず高い感度が得られる有用な検査法であると考えられる.今回の筆者らの結果も,VKH と診断された全症例からHLA-DRB1*0405,*0410 が検出され,これを裏付けるものであった.Shindo ら3)も同様の報告であり,*0405 または*0410 が検出されなければ VKH である可能性は低いということが推測された.HLA-DRB1*0405,*0410 に共通の特異的アミノ酸はDRb鎖 57 番目のセリン(Ser)であり,HLA-DQB1*0401,*0402 に共通の特異的アミノ酸は DQb鎖 70 番目のグルタミン酸(Glu),71 番目のアスパラギン酸(Asp)であるといわれている2).HLA クラス II 抗原の 3 次元立体構造モデル上では,これらのアミノ酸はいずれもaへリックス上に位置し,ヘルパー T 細胞の抗原認識に重要な位置にある.そして,チロシンをメラニンに変換する酵素であるチロシナーゼが原田病の自己抗原の有力な候補であり,その抗原ペプチドが DRB1*0405 上の抗原結合ポケットに結合することがYamaki らによって明らかにされている9).アリルの命名法は 2002 年の WHO HLA 命名委員会にてそれまでの 4 桁から改正された(日本組織適合性学会 HLA標準化委員会.2003 年版ツ黴€ HLA アリルの命名規則の改正に関 す る お 知 ら せ).HLA-DRB1*040501 を 例 に と る と,DRB1 は HLA の DR 領域のb鎖分子をコードすることを表す.そして 04 は血清抗原 HLA-DR4 抗原をコードすることを表し,05 はアリル名の命名された順で,数字が異なると,コードされるアミノ酸は異なる(非同義置換).01 はアミノ酸置換を伴わない塩基配列の違い(同義置換)であり,*0405は 01 から 06 まで報告されている.現在まで,VKH に関して HLA-DRB1*0405 が検出された論文は散見されるが,さらにそのサブタイプまで報告した論文はまだない.そのサブタイプは,*040501 *040506 まで報告されているにもかかわらず,今回 VKH の患者から検出された*0405 はすべて*040501 であった.今回は健常者のコントロール群からの HLA-typing は行わなかったため確認できなかったが,SRL 社のデータバンクによる情報から,*040501 はモンゴロイドに特有のもので,VKH の発症に人種差があることに影響を与えている可能性も推測される.VKH に限らず個々のぶどう膜炎に地域差がみられることなどを考慮すると今回の検討は興味深いものと考えられ,今後健常者を含めさらに症例を増やして検討する価値があると考えられる.文献 1) 望 月 學:Vogt-小柳-原 田 病. 日 眼 会 誌 111:359-366, 2007 2) Read RW, Hollande GN, Rao NA et al:Revised diagnostic criteriaツ黴€ forツ黴€ Vogt-Koyanagi-Haradaツ黴€ disease:angiographic signs and utility in patient follow-up. Int Ophthalmol 27:173-182, 2007 3) Shindo Y, Inoko H, Yamamoto T et al:HLA-DRB1typing of Vogt-Koyanagi-Harada’s disease by PCR-RFLP and theツ黴€ strongツ黴€ associationツ黴€ withツ黴€ DRB1*0405ツ黴€ andツ黴€ DRB1*0410. Br J Ophthalmol 51:41-44, 2007 4) イスラム S.M. モノワルール,沼賀二郎,藤野雄次郎:フォークト-小柳-原田病の臨床経過と HLA-DR4 サブタイプ.日眼会誌 98:801-806, 1994 5) 成瀬妙子,河田寿子,猪子英俊:直接塩基配列決定法(SBT)による HLA クラス II 遺伝子タイピング.MHC 5:101-106, 1998———————————————————————- Page 4132あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(132) 6) 大野重昭:眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌 96:1558-1579, 1992 7) Mizuki N, Inoko H,Tanaka H et al:Human leukocyte antigen serologic and DNA typing of Behcet’s disease and its primary association with B51. Invest Ophthalmol Vis Sci 33:3332-3340, 1992 8) 竹下孝之,阿部俊明,玉井信:急性腎不全に伴う uveal e usion syndrome.臨眼 54:990-992, 2000 9) Yamaki K, Gocho K, Hayakawa K et al:Tyrosinase fami-lyツ黴€ proteinsツ黴€ areツ黴€ antigensツ黴€ speci cツ黴€ toツ黴€ Vogt-Koyanagi-Hara-da disease. J Immunol 165:7323-7329, 2000***

近視性脈絡膜新生血管に対する治療法の比較

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(123)ツ黴€ 1230910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):123 127,2010cはじめに近視性脈絡膜新生血管(近視性 CNV)は,強度近視眼における視力低下の要因の一つである.この脈絡膜新生血管はかつて加齢黄斑変性症の CNV と同じように外科的に新生血管抜去術や黄斑移動術が試みられた1)が,網膜脈絡膜萎縮や新生血管の再発,手術合併症などにより視力予後は決して満足できるものではなかった.このようにこれまで有効な治療法がなかったが,近年,光線力学的療法(PDT)2)や抗血管新生療法3)の有効性が報告されている.そこで,この両者の治療法について比較検討した.I対象および方法対象は 2004 年 7 月 2007 年 4 月に当院倫理委員会の承認下で適応外使用のため研究費により治療を行った近視性CNV( 6 D 以上もしくは眼軸長 26 m m以上)による視力低下をきたした 38 例 38 眼(女性 30 眼,男性 8 眼)で,治療前矯正視力は 0.02 0.6,平均年齢は 68.6 歳(42 87 歳)である.PDT を施行した症例の PDT 群(25 眼)は術前平均視〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024 大阪市西区境川 1-1-39多根記念眼科病院Reprint requests:Toshiya Sakurai, M.D., Tane Memorial Eye Hospital, 1-1-39 Sakaigawa, Nishiku, Osaka 550-0024, JAPAN近視性脈絡膜新生血管に対する治療法の比較櫻井寿也山田知之田野良太郎福岡佐知子竹中久張國中真野富也多根記念眼科病院Comparison of Two Methods for Treating Myopic Choroidal NeovasucularizationToshiya Sakurai, Tomoyuki Yamada, Ryotaro Tano, Sachiko Fukuoka, Hisashi Takenaka, Kokuchu Cho and Tomiya ManoTane Memorial Eye Hospital近視性脈絡膜新生血管(近視性 CNV)に対し,光線力学的療法(PDT)と抗血管新生療法の有効性について比較検討した.対象は 2004 年 7 月 2007 年 4 月に当院倫理委員会の承認下で治療を行った近視性 CNV38 例 38 眼(女性 30眼,男性 8 眼),平均年齢 68.6 歳(42 87 歳).PDT 群(25 眼)と bevacizumab(アバスチンR 1.25 m g)の硝子体注入を行った群(13 眼)とに分け,治療前後での矯正視力・光干渉断層計(OCT),フルオレセイン蛍光眼底撮影(FA)を用い結果について比較検討した.治療後 6 カ月の矯正視力は,PDT 群では,改善は 25 眼中 14 眼(56%),不変は 25眼中 8 眼(32%),悪化が 25 眼中 3 眼(12%)であった.Bevacizumab 使用群では,改善 13 眼中 6 眼(46%),不変 13眼中 7 眼(54%)で,悪化はなかった.近視性 CNV に対する PDT もしくは bevacizumab の治療は短期的には有効であった.Thisツ黴€ paperツ黴€ reportsツ黴€ onツ黴€ theツ黴€ analysisツ黴€ ofツ黴€ visualツ黴€ andツ黴€ angiographicツ黴€ resultsツ黴€ ofツ黴€ photodynamicツ黴€ therapy(PDT)with vertepor n and intravitreal bevacizumab injection in highly myopic patients with subfoveal choroidal neovasucular-ization(CNV).ツ黴€ Weツ黴€ retrospectivelyツ黴€ reviewedツ黴€ aツ黴€ consecutiveツ黴€ seriesツ黴€ ofツ黴€ casesツ黴€ ofツ黴€ subfovealツ黴€ CNVツ黴€ secondaryツ黴€ toツ黴€ myopia thatツ黴€ wereツ黴€ treatedツ黴€ withツ黴€ PDT(25ツ黴€ eyes)andツ黴€ intravitrealツ黴€ bevacizumab(1.25 m g)injection(13 eyes)between July 2004ツ黴€ andツ黴€ Aprilツ黴€ 2007.ツ黴€ Dataツ黴€ fromツ黴€ clinicalツ黴€ examination,ツ黴€ fundusツ黴€ photography,ツ黴€ツ黴€ uoresceinツ黴€ angiography,ツ黴€ opticalツ黴€ coher-ence tomography and visual acuity were collected. In the patients who had received PDT, the best-corrected visu-al acuity(BCVA)improved in 56%, unchanged in 32%, and had decreased in 12% at 6 months after treatment. In the patients who had received intravitreal injection of bevacizumab, BCVA improved in 46%, and unchanged in 54%. These two treatments were shown e ective for myopic CNV.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):123 127, 2010〕Key words: 近 視 性 脈 絡 膜 新 生 血 管, 光 線 力 学 的 療 法, ベ バ シ ズ マ ブ.myopicツ黴€ choroidalツ黴€ neovasucularization, photodynamic therapy, bevacizumab.———————————————————————- Page 2124あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(124)力(0.20±0.34)で,bevacizumab(アバスチンR 1.25 mg)の硝子体投与を行った症例の bevacizumab 使用群(13 眼)は術前平均視力(0.22±0.32)であり,すべての症例において治療後 6 カ月以上経過観察可能であった.治療前視力・年齢に関して両群での有意な差は認められなかった.治療前後での矯正視力・光干渉断層計(OCT),フルオレセイン蛍光眼底撮影(FA)を用いた結果について比較検討した.PDT ではビスダインR 6 m g/m2を 5%ぶどう糖液で調整して 30 mlとしたものを 10 分間静脈内に連続投与した.投与後 5 分後にビズラス PDT システム 690S(カールツァイス社製)を用いて波長 689 n mのレーザーを照射時間は通常の約半分の42 秒間,照射範囲は FA の蛍光漏出点を中心に PDT スポットサイズをトプコン社 PDT 計測ソフトを用いて計測し,照射径は実測値のみとし 1,000 μm は加えなかった.なお,今回の治療は PDT,bevacizumab 治療はともに当院倫理委員会の承認を受け,さらに治療費は保険治療適用外使用のため当院研究費により行った.II結果治療後 6 カ月の矯正視力を図 1 に示す.PDT 群では,2段階以上改善は 25 眼中 14 眼(56%),不変は 25 眼中 8 眼(32%),悪化が 25 眼中 3 眼(12%)であった.Bevacizum-ab 使用群では,改善 13 眼中 6 眼(46%),不変 13 眼中 7 眼(54%),悪化はなかった.両群間おいて有意な差は認めなツ黴€ツ黴€ 図 2PDT施行症例の治療前A:眼底写真.B:フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.PDT治療後 6カ月0.10.40.60.20.051.00.040.10.40.20.02術後視力術前視力アバスチン?治療後 6カ月術前視力0.10.40.60.050.10.40.20.60.2術後視力1.0図 1 治療後6カ月の視力———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010125(125)かった.蛍光漏出の減少もしくは消退は PDT 群で 23 例(92%),bevacizumab 使用群で 12 例(92%)認めた.OCT での CNV の縮小は PDT 群で 24 例(96%),bevacizumab 使用群で 12 例(92%)認めた.再治療については,PDT 群で2 回必要であったものが 2 例,bevacizumab 使用群では 2 回投与した症例が 1 例であった.1. PDT施行症例65 歳,女性.右眼矯正視力は 0.3,黄斑部に出血を伴ったツ黴€ツ黴€ 図 3 PDT施行症例の治療後6カ月A:眼底写真.B: フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.ABC図 4 アバスチンR施行症例の治療前A:眼底写真.B: フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.———————————————————————- Page 4126あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(126)隆起性病変を認め,FA にて同部位より旺盛な蛍光漏出を認め,CNV の存在を確認し,ベルテポルフィン(ビスダインR)を用いた PDT を施行した(図 2).PDTツ黴€ 6 カ月後に矯正視力は 0.4 に改善し,FA・OCT にて CNV が縮小していることが確認された(図 3).2. Bevacizumab硝子体投与症例64 歳,女性.右眼矯正視力は 0.5,黄斑部に 1 乳頭径大の出血とその中央に新生血管と推定できる隆起性病変が認められ,FA にて初期より過蛍光が認められた.Bevacizumab を1.25 m g硝子体注入施行,1 カ月後には近視性 CNV は小さく退縮し,4 6 カ月後の FA では蛍光漏出を認めていない.OCT では治療前に認めた新生血管が消退している.矯正視力は 0.6 に改善した(図 5).III考按近視性 CNV はこれまで有効な治療法がなかったが,近年の新しい治療法により,効果が期待できるようになった.近視性 CNV の特徴としては,長期に観察すると強度近視が合併していることから,網脈絡膜萎縮により最終視力が悪いという報告がある4).したがって,近視性 CNV を治療するうえでは,いかに網脈絡膜萎縮を防ぎ,CNV を早期に退縮させるかということが重要である.近視性 CNV に対する VIP(Vertepor n in Photodynamic Therapy)試験では5)PDT 施行 24 カ月での視力改善(3 段階以上)は 12%,視力低下(3段階以上)は 21%,PDT 施行回数は平均 5.1 回であった.Moreno ら6)は近視性 CNV に対する PDT を行い 4 年間の期間の視力結果として改善 46%,不変 26%,悪化 28%としている.網脈絡膜萎縮の所見は 55 歳以下では少なかったとしている.筆者らの結果は 6 カ月の時点でこれらの報告と同等の結果であるが,PDT に関しては,治療に伴い正常な脈絡膜血管の閉塞も生じている7)ことから,網脈絡膜萎縮が発生する可能性がある.今回の治療では合併症をできるだけ少なくするために PDT に関しては,光感受性物質のベルテポルフィンの投与量は通常の加齢黄斑変性症と同量としたが,レーザー照射時間は 42 秒とし,通常の約半分の時間とした.この点が長期にわたり,網脈絡膜萎縮の対策となっているかは今後の検討となる.Bevacizumab の投与については,近視性 CNV の治療に必ず 3 カ月連続投与する方法もある8)が,今回は 1 回投与に限り,再発例には初回投与から 3 カ月間隔をあけて投与した.Ikuno ら9)は bevacizumab の投与により 1 年後に視力改善は40%としており,期間中に網脈絡膜萎縮を認めなかった としている.筆者らの治療成績も改善例が多く認められ,bevacizumab 使用群では悪化例がなかったことと,改善例も PDT 群に比べ視力の良い症例が多い傾向にあった.短期間での経過観察ではあるが,網脈絡膜萎縮を形成するものはなかった.これは将来生じてくる可能性があり,今後長期にわたり経過観察が必要である.血管内皮細胞増殖因子(VEGF)はもともと血管の恒常性維持には必要不可欠な物質であることから,bevacizumab は VEGF のすべてのアイソフォームツ黴€ツ黴€ 図 5 アバスチンR施行症例の治療後6カ月A:眼底写真.B: フルオレセイン蛍光眼底撮影.C:光干渉断層撮影像.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010127(127)を阻害するため生理活性に必要な VEGF をも阻害してしまう10).したがって安易に多量の bevacizumab の使用は避けるべきである.新しい治療方法を用いた場合でも網脈絡膜萎縮の発生が否定できず,近視性 CNV の病態の解明とその病態に応じた合理的な治療方法の確立が望まれる.今回,近視性 CNV に対する PDT もしくは bevacizumab の治療は短期的には有効であった.本論文の要旨は第 61 回日本臨床眼科学会総会にて発表した.文献 1) Hayashiツ黴€ K,ツ黴€ Ohno-Matsuiツ黴€ K,ツ黴€ Teramukaiツ黴€ Sツ黴€ etツ黴€ al:Photody-namic therapy with vertepor n for choroidal neovascular-ization in Japanese patients;comparison to nontreated controls. Am J Ophthalmol 145:518-526, 2008 2) Sakaguchi H, Ikuno Y, Gomi F et al:Intravitreal injection of bevacizumab for choroidal neovasucularization associat-ed with pathologic myopia. Br J Ophthalmol 91:161-165, 2007 3) Chan WM, Lai TY, Liu DT et al:Intravitreal bevacizum-ab(Avastin)for myopic choroidal neovasucularization. Six month results of a prospective pilot study. Ophthalmology 114:2190-2196, 2007 4) Yoshida T, Ohno-Matsui K, Yasuzumi K et al:Myopic choroidalツ黴€ neovasucularization.ツ黴€ Aツ黴€ 10-yearツ黴€ follow-up.ツ黴€ Oph-thalmology 110:1297-1305, 2003 5) Vertepor n in Photodynamic Therapy(VIP)Study Group:Vertepor n therapy of subfoveal choroidal neo-vascularization in pathologic myopia. 2-year results of a randomized clinical trial ─ VIP report No. 3. Ophthalmolo-gy 110:667-673, 2003 6) Ruiz-Moreno JM, Amat P, Montero JA et al:Photody-namic therapy to treat choroidal neovascularization in highly myopic patients:4 years’ outcome. Br J Ophthal-mol 92:792-794, 2008 7) Dewi NA, Yuzawa M, Tochigi K et al:E ects of photo-dynamicツ黴€ thearapyツ黴€ onツ黴€ theツ黴€ choriocapillarisツ黴€ andツ黴€ retinalツ黴€ pig-mentツ黴€ epitheliumツ黴€ inツ黴€ theツ黴€ irradiatedツ黴€ area.ツ黴€ Jpnツ黴€ Jツ黴€ Ophthalmol 52:277-281, 2008 8) Chan WM, Lai TYY, Liu DTL et al:Intravitreal bevaci-zumab(Avastin)forツ黴€ myopicツ黴€ choroidalツ黴€ neovascularization. Ophthalmology 114:2190-2196, 2007 9) Ikuno Y, Sayanagi K, Sawa M et al:Intravitreal bevaci-zumab for choroidal neovascularization attributable to pathologicalツ黴€ myopia:One-yearツ黴€ results.ツ黴€ Amツ黴€ Jツ黴€ Ophthalmol 147:1:94-100, 2009 10) 石田晋:抗血管新生療法の奏功機序と将来の展望.日本の眼科 79:435-439, 2008***

硝子体手術を行ったTerson 症候群の臨床所見と手術成績

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(119)ツ黴€ 1190910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):119 122,2010cはじめにくも膜下出血に伴って発生する硝子体出血(以下,Terson症候群)は視力低下に加え,種々の眼底病変を合併する.硝子体出血は片眼のみに発生する場合もあれば,両眼ともに発生する場合もある.しかし,本症候群において両眼出血例と片眼出血例についてその特徴ならびに術後成績を検討した報告は少ない1 3).当院において硝子体手術を施行した Terson症候群を両眼出血例と片眼出血例の 2 群に分け,その臨床的所見と手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.I対象および方法2001年12月から2008年12月の7年間に当院眼科で〔別刷請求先〕上村昭典:〒892-8580 鹿児島市加治屋町 20-17鹿児島市立病院眼科Reprint requests:Akinori Uemura, M.D., Department of Ophthalmology, Kagoshima City Hospital, 20-17 Kajiya-cho, Kagoshima-shi, Kagoshima 892-8580, JAPAN硝子体手術を行った Terson 症候群の臨床所見と手術成績土屋有希田中最高松尾由紀子田中実上村昭典鹿児島市立病院眼科Characteristics and Surgical Outcome in Patients Undergoing Vitrectomy forツ黴€ Terson SyndromeYuki Tsuchiya, Yoshitaka Tanaka, Yukiko Matsuo, Minoru Tanaka and Akinori UemuraDepartment of Ophthalmology, Kagoshima City Hospital目的:硝子体手術を行った Terson 症候群の臨床所見ならびに硝子体手術成績を両眼出血群と片眼出血群に分けて比較した.方法:過去 7 年間に硝子体手術を施行した Terson 症候群 13 例を対象として後ろ向きに検討した.結果:13 例中両眼性は 5 例,片眼性は 8 例あった.手術は両眼群 10 眼中 8 眼と片眼群 8 眼に行われた.手術時平均年齢は片眼群 48 歳,両眼群 53 歳であった.術前視力が指数弁以下の症例は両眼群 3 眼(37.5%)に対し,片眼群では全例(100%)であった.術後視力は全例で改善し,16 眼中 12 眼(両眼群 5 眼,片眼群 7 眼)が 0.7 以上の視力を得た.重篤なくも膜下出血が両眼群 2 例,片眼群 6 例にあり,片眼群では破裂動脈瘤部位と同側の硝子体出血が 8 例中 5 例でみられた.結論:今回の少数例の検討では,片眼群では両眼群に比較して発症時年齢がやや若年で,くも膜下出血も重篤であり,術前視力が不良であったが,硝子体手術によって両群ともに良好な視力を得られた.Purpose:We evaluated the baseline characteristics and surgical outcomes for patients with Terson syndrome, and compared the clinical characteristics between those with uniocular and binocular hemorrhages. Methods:We retrospectively analyzed patients diagnosed with Terson syndrome who had been treated with vitrectomy between 2001 and 2008. Results:Of the total of 16 eyes of 13 consecutive patients, 8 patients had vitreous hemorrhage in oneツ黴€ eye(unilateralツ黴€ group)andツ黴€ 5ツ黴€ hadツ黴€ bilateralツ黴€ vitreousツ黴€ hemorrhages(bilateralツ黴€ group).ツ黴€ Meanツ黴€ ageツ黴€ wasツ黴€ 48.0ツ黴€ years(range:40-57 yrs)in the unilateral group and 53.2 years(range, 45-60 yrs)in the bilateral group. All eyes in the unilateralツ黴€ groupツ黴€ andツ黴€ 3ツ黴€ eyesツ黴€ inツ黴€ theツ黴€ bilateralツ黴€ groupツ黴€ hadツ黴€ preoperativeツ黴€ visualツ黴€ acuityツ黴€ ofツ黴€ 0.01ツ黴€ orツ黴€ worse.ツ黴€ Visualツ黴€ acuity improved postoperatively in all patients;12 of 16 eyes hadツ黴€ nal visual acuity of 0.7 or better. Severe subarachnoid hemorrhage was observed on computed tomography in 2 patients in the bilateral group and 6 patients in the uni-lateral group. In the unilateral group, ipsilateral rupture of an aneurysm was con rmed in 5 of the 8 patients. Con-clusion:This small case study shows that patients with unilateral vitreous hemorrhage associated with subarach-noidツ黴€ hemorrhageツ黴€ areツ黴€ youngerツ黴€ andツ黴€ haveツ黴€ severerツ黴€ intracranialツ黴€ hemorrhage,ツ黴€ withツ黴€ poorerツ黴€ preoperativeツ黴€ visualツ黴€ acuity, than patients with bilateral hemorrhages. However, postoperative visual acuity is relatively good in both groups.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):119 122, 2010〕Key words:Terson 症候群,くも膜下出血,硝子体手術,硝子体出血.Tersonツ黴€ syndrome,ツ黴€ subarachnoidツ黴€ hemorr-hage, vitrectomy, vitreous hemorrhage.———————————————————————- Page 2120あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(120)Terson 症候群と診断し,硝子体手術を施行した 13 例を対象とした.手術適応は出血の程度と全身状態を考慮して判断し,全例に 20 ゲージまたは 23 ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術を行い,必要に応じて水晶体摘出および眼内レンズ挿入術を併施した.術後経過観察期間は 2 60 カ月(平均18 カ月)であった.各症例について年齢,性別,術前視力,術前の後部硝子体 離の有無,手術術式,術後最終視力,脳動脈瘤破裂部位,くも膜下出血の重症度,くも膜下出血の頭部 CT(コンピュータ断層撮影)分類を抽出し,さらに両眼群と片眼群とを比較検討した.後部硝子体 離(PVD)の有無は術前の超音波B モード所見ならびに術中所見から判断した.硝子体基底部から後方の網膜および視神経乳頭に硝子体が完全に接着しているものを PVD なし,部分的に硝子体 離があるものを不完全 PVD,まったく接着がないものを完全 PVD と定義した.くも膜下出血の重症度については世界脳神経外科学会(Worldツ黴€ Federationツ黴€ Neurologicalツ黴€ Surgeons:WFNS)分類4)を使用し,くも膜下出血の頭部 CT 分類は Fisher 分類4)を採用した.II結果対象症例 13 例の臨床所見を表 1,2 に示す.眼科初診時に両眼ともに硝子体出血が確認できたのは 5 例あった(両眼群).この 5 例中 2 例では,片眼の硝子体出血が軽度で,視力も比較的良好であったために,硝子体手術はより視力不良な片眼のみに行われた.その結果,5 例中両眼ともに手術を施行したものは 3 例であった.両眼群の内訳は男性 3 例,女性 2 例で,年齢は 45 60 歳(平均 53.2 歳)であった.一方,片眼のみに硝子体出血を認めたのは 8 例あった(片眼群).その内訳は男性 6 例,女性 2 例で,年齢は 40 57 歳(平均48.0 歳)であった.手術を施行した 16 眼の術前視力は手動弁から 0.6 にわたっており,両眼群 8 眼では手動弁 0.6(中間値 0.3),片眼群 8 眼では全例指数弁以下であった(図 1).16 眼中 8 眼(50%)で後部硝子体は完全に 離していた.完全 PVD は両眼群 8 眼中 4 眼(50%),片眼群 8 眼中 4 眼(50%)にみられた.なお,全例が有水晶体眼であった.表 1両眼硝子体出血症例(両眼群)の臨床所見症例年齢(歳)性別患眼術前視力くも膜下出血から硝子体 手術までの期間(月)手術術式後部硝子体 離術中術後合併症最終視力160女性右眼左眼0.60.458VIT,PEA,IOLVIT,PEA,IOL完全完全なしなし1.00.8255男性右眼左眼指数弁0.12.52.5VIT,PEA,IOLVIT,PEA,IOLなし不完全なしなし0.4*11.0349女性右眼左眼0.60.3─3手術なしVIT,PEA,IOL─完全─なし1.01.0457男性右眼左眼0.020.47─VIT,PEA,IOL手術なし完全─周辺裂孔─0.15*20.4545男性右眼左眼手動弁手動弁2.52.5VIT,PEA,IOLVIT,PEA,IOL不完全不完全なしなし0.50.9症例脳動脈瘤破裂部位Fisher分類WFNS分類術後観察期間(月)1左)内頸-後交通動脈分岐部3IV602不明不明不明483右)椎骨動脈2III94右)中大脳動脈分岐部4III125脳底動脈先端部3V3VIT:硝子体切除術,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術.*1:右眼中心性網膜炎の既往,*2:両眼ともに幼少時より視力不良.:両眼群:片眼群術前視力(小数視力)術後視力(小数視力)0.10.51.00.10.51.0図 1硝子体手術前後の視力変化———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010121(121)手術は全例において,合併症なく施行された.両眼群 8 眼は全例で水晶体摘出と眼内レンズ挿入術を併施した.片眼群8 眼中 3 眼は水晶体を温存して,硝子体手術のみ行った.術中眼底所見として,片眼群の 1 例に全層黄斑円孔が確認されたために術中にガス注入を行った.術後,両眼群と片眼群の各 1 眼に周辺網膜裂孔を認めたため,網膜光凝固を行った.そのほか,経過観察期間中に網膜 離,眼内炎,再出血などの術後合併症はなかった.術後視力は両群とも全例で改善した.両眼群 8 眼の最終視力は 0.15 から 1.0(中間値 0.8)となり,0.7 以上の視力良好例が 5 眼(62.5%)あった.片眼群 8 眼の最終視力は 0.3 から 1.5(中 間 値 0.9)と な り,0.7 以 上 の 視 力 良 好 例 は 7 眼(87.5%)であった(図 1).くも膜下出血の重症度分類(WFNS 分類)については,両眼群は Grade が 2 例,が 1 例,V が 1 例,不明が 1 例,片眼群では Grade が 1 例,が 3 例,V が 3 例,不明が1 例であった.頭部 CT 分類(Fisher 分類)では両眼群はGroupツ黴€ 2 が 1 例,3 が 2 例,4 が 1 例, 不 明 が 1 例 で あ り,片眼群では Groupツ黴€ 3 が 5 例,4 が 2 例,不明が 1 例であった.破裂脳動脈瘤を部位別にみると,両眼群では中大脳動脈分岐部,椎骨動脈,内頸-後交通動脈分岐部,脳底動脈先端部,不明がそれぞれ 1 例ずつあった.片眼群では中大脳動脈が 4例,椎骨動脈が 2 例,前交通動脈が 1 例,脳底動脈先端部が1 例であった.片眼群では硝子体出血と同側の破裂脳動脈瘤が 8 例中 5 例で確認され,頭部 CT 分類では同側にくも膜下出血を多く認めた.また,片眼群で前交通動脈に認められた脳動脈瘤破裂の 1 例は硝子体出血側と同側に出血を認めた.III考按くも膜下出血に伴う硝子体出血の発症機序に関しては諸説あるが,一般に急激な頭蓋内圧亢進とそれに伴う視神経鞘内くも膜下腔の圧上昇により網膜中心静脈が圧迫,閉塞されて網膜静脈のうっ血をきたし,さらに網脈絡膜吻合血管の代償機能も破綻し,これに惹起された静脈性出血が視神経乳頭近傍の網膜内境界膜を穿破し硝子体出血が生じるとする説が有力とされている2,3,5 8).この硝子体出血には両眼性のものと片眼性のものがあることが知られており,くも膜下出血の程度や部位と関連があると推測されるが,その詳細は不明な点が多く,両眼性と片眼性の症例の所見の差についても報告は少ない1 3).発症年齢は 40 歳代から 50 歳代がほとんどであったが,片眼群症例は両眼群に比べてやや年齢が若い傾向にあった.過去の報告では,硝子体出血を合併しているくも膜下出血例では,合併していないくも膜下出血例に比べて,年齢が有意に低いとしている2).これは重症くも膜下出血から回復した予後良好例が若年者に多いことが関与していると考えられている.今回の結果は,同じ硝子体出血を合併しても片眼例のほうがやや若年である傾向を示したものである.しかし,くも膜下出血では硝子体出血の確認にさえ至らない意識回復不能例または死亡例があるため,全体としての傾向は判定が困難と思われる.視力に関しては,片眼群は両眼群に比べて術前視力が不良な傾向にあった.両眼群では出血の程度が軽度 中等度であっても,日常生活に不便をきたすことが多いため,手術に踏み切った例が多かったと思われる.一方,片眼群では僚眼の視力が正常なことが多いため,より重症例だけが手術適応と表 2片眼硝子体出血症例(片眼群)の臨床所見症例年齢(歳)性別患眼術前視力くも膜下出血から硝子体 手術までの期間(月)手術術式後部硝子体 離術中術後合併症最終視力147男性右眼手動弁2VIT完全なし1.5240男性右眼指数弁2VIT不完全なし1.5348女性右眼手動弁4VIT,PEA,IOL完全周辺裂孔0.7448男性右眼手動弁24VIT,PEA,IOL完全なし0.7549女性左眼手動弁2VIT,PEA,IOL不完全なし0.3653男性左眼手動弁2VIT,PEA,IOL不完全なし0.8757男性右眼手動弁1VIT,PEA,IOL不完全なし1.0841男性左眼手動弁2VIT完全なし1.2症例脳動脈瘤破裂部位Fisher分類WFNS分類術後観察期間(月)1前交通動脈3V222右)椎骨動脈3IV363右)中大脳動脈3III314右)中大脳動脈4IV35左)中大脳動脈4V26脳底動脈先端部不明V27右)中大脳動脈3不明48右)椎骨動脈3IV3VIT:硝子体切除術,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術.———————————————————————- Page 4122あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(122)されたと考えられた.後部硝子体 離の有無については,もともと後部硝子体 離が起こっていない若年者ほど術中術後合併症が起こりやすく視力予後が悪いとの報告9)がある.今回,後部硝子体 離の有無は両群間に差はなかった.一般的にこの年代では後部硝子体は未 離の例が多いと思われるが,今回の症例にPVD 完全または不完全の症例が圧倒的に多いことは,急激な出血が硝子体を 離させるきっかけになっていると考えられる.Terson 症候群では単なる硝子体出血に加えてさまざまな眼底病変も合併することが報告されている7,9,10)が,今回検討した症例のなかには,片眼群の 1 例で全層黄斑円孔症例があった.出血前の視力が良好であったことから,黄斑円孔は硝子体出血による急激な後部硝子体 離に伴って発生した可能性が示唆された.術後視力は両群とも全例で改善し比較的良好な視力が得られたが,0.4 以下の術後視力不良例も全体で 3 眼に認めた.このうち,1 例は幼少時から視力不良であり,もう 1 例に中心性網膜炎の既往があった.これまでに Terson 症候群における術後視力不良の原因として,黄斑上膜7,9,10), 黄斑円孔7,9),網膜 離10)などの合併症,血液そのものによる網膜機能障害の可能性11)が報告されている.片眼群の 1 例では視力不良の原因が眼底所見からだけでは説明できず,くも膜下出血による脳機能障害が視力不良に関与している可能性も考えられた.Terson 症候群ではくも膜下出血の臨床的重症度が高い症例に眼底出血の頻度が高いことが知られている2,3,5,8).また,前交通動脈瘤破裂が原因の場合に高頻度にみられるとの報 告3,12)と,破裂動脈瘤の部位による眼底出血の頻度に差はなかったとの報告1,8)がある.さらに,動脈瘤の左右別と眼底出血側との関係については,関係ありとする報告1)とないとする報告12)がある.今回の結果では,片眼群は両眼群に比べてくも膜下出血の臨床的重症度が高かった.加えて,片眼群 8 例中 5 例で硝子体出血側と同側に破裂動脈瘤が確認され,正中部の動脈瘤破裂(前交通動脈瘤)が原因の片眼症例では,くも膜下出血の程度は硝子体出血側と同側に著しく認めた.さらに,両眼群には正中に近い部分での動脈瘤破裂や破裂脳動脈瘤の存在側と同側に硝子体出血をより多く認める傾向にあった.このことより片眼群ではくも膜下出血と硝子体出血が同側に,両眼群では正中に近い部分でのくも膜下出血が両眼性の硝子体出血の原因となる可能性が示唆され た3).今回の検討では,くも膜下出血後に意識を回復したうえで全身的な問題が大きくない症例に対し,患者の希望を尊重して硝子体手術が行われた.その背後には,意識不明のまま死に至った例,硝子体出血が軽度の例では手術を回避したために,対象に加わっていない例も多くあると思われる.その点で今回の結果は Tersonツ黴€ 症候群にみられる両眼出血例と片眼出血例の特徴を十分に捉えられていない可能性もある.結論として,今回の少数例での比較では片眼性の症例ではやや若年で重症度が高い症例に多く,頭部 CT 上でも同側の出血量が多い傾向にあった.両眼性,片眼性ともに硝子体手術によって比較的良好な視力が得られたため,全身状態が許せば,硝子体手術を施行することにより,精神的苦痛の除去,早期の社会復帰につながると思われた.文献 1) 柏原謙悟,山嶋哲盛,新多寿ほか:眼底出血を伴った破裂脳動脈瘤の予後.Neurol Med Chir(Tokyo) 26:689-694, 1986 2) 菅原貴志,高里良男,正岡博幸ほか:Terson 症候群をきたしたくも膜下出血 20 例の臨床的検討.脳卒中の外科 34:294-298, 2006 3) 竹内東太郎,笠原英司,岩崎光秀ほか:Terson 症候群を呈した上小脳動脈分岐部破裂動脈瘤の 1 例:症例報告と報告例 32 例の検討.脳神経外科 25:259-264, 1997 4) 大和田隆:脳血管障害.くも膜下出血.標準救急医学(小林国男編),第 2 版,p355-356,医学書院, 1998 5) 井上賢治,奥川加寿子,後藤恵一ほか:くも膜下出血に伴う網膜出血および硝子体出血(Terson 症候群).臨眼 59:1889-1893, 2005 6) Muller PJ, Deck JHN:Intraocular and optic nerve sheath hemorrhage in case of sudden intracranial hypertension. J Neurosurg 41:160-166, 1974 7) 藤本俊子,広川博之,太田勳男ほか:Terson 症候群の硝子体手術について─ 8 例 11 眼のまとめ─.眼臨 89:170-173, 1995 8) 篠田淳,岩村真事,岩井知彦ほか:破裂脳動脈瘤に伴う眼球内出血,自験例の統計的検討 Terson 症候群に対する考察.Neurol Med Chir(Tokyo) 23:349-354, 1983 9) 川島千鶴子,星兵仁,関保ほか:Terson 症候群に対する硝子体手術─とくに術後視力不良例についての検討─.眼紀 42:643-648, 1991 10) 大久保敏男,平形明人,三木大二郎ほか:テルソン症候群に対する硝子体手術.眼紀 47:1515-1519, 1996 11) Fahmy JA:Vitreous hemorrhage in subarachnoid hemor-rhage. Terson’s syndrome. Acta Ophthalmol 50:137-143, 1972 12) Fahmy JA:Fundal haemorrhages in ruptured intracrani-al aneurysms. I. Materal, frequency and morphology. Acta Ophthalmol 51:289-298, 1973***

非球面眼内レンズFY-60AD の術後成績

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(115)ツ黴€ 1150910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):115 118,2010cはじめに非球面眼内レンズ(以下,非球面 IOL)は,従来の球面眼内レンズ(以下,球面 IOL)でみられた白内障術後の球面収差の増加という問題点を解消するために開発された IOL である.非球面 IOL では,非球面形状がもたらす球面収差の減少によって,コントラスト感度の向上などより良い視機能の獲得が期待され,幾つかの非球面 IOL においては優れた臨床効果が確認されている1 7).その一方,非球面の効果はIOL の偏心量が増加するほど低下し,Holladay らの検討では偏心量が約 0.4 m mを超える場合には球面 IOL に劣るとされている8).そのため,非球面 IOL の使用に際しては IOLを完全 内固定にして偏心を少なく抑えることが重要であるが,瞳孔径による瞳孔中心の偏位9,10)で眼球の光学中心とIOL の中心がずれる場合もあり,IOL の偏心の影響を受けにくい非球面 IOL の開発が望まれる.今回筆者らは,光学部前面を非球面形状化し,さらに IOL〔別刷請求先〕高橋幸輝:〒885-0051 都城市蔵原町 6-3宮田眼科病院Reprint requests:Koki Takahashi, M.D., Miyata Eye Hospital, 6-3 Kurahara-cho, Miyakonojo, Miyazaki 885-0051, JAPAN非球面眼内レンズ FY-60AD の術後成績高橋幸輝大谷伸一郎南慶一郎本坊正人三根慶子宮田和典宮田眼科病院Clinical Results of Aspheric Intraocular Lens FY-60AD ImplantationKoki Takahashi, Shinichiro Ohtani, Keiichiro Minami, Masato Honbou, Keiko Mine and Kazunori MiyataMiyata Eye Hospital非球面眼内レンズ(IOL)挿入眼と,球面 IOL 挿入眼の術後 1 カ月までの視機能を比較検討した.対象は,宮田眼科病院で同一術者が両眼に白内障手術を行い,IOL を挿入した 50 例 100 眼(平均年齢 70.8±5.6 歳,男性 14 例,女性36 例)である.片眼に IOL の偏心による非球面効果への影響を抑えた非球面 IOLツ黴€ FY-60AD(HOYA 社)を,僚眼に同一素材で光学部以外が同一形状の球面 IOLツ黴€ YA-60BBR(HOYA 社)を挿入した.術後 1 カ月の矯正視力,眼球全体の高次収差,暗所・中間・明所でのコントラスト感度,IOL の偏心量および傾斜量を比較検討した.非球面 IOL は,球面収差が4 mmおよび6 mmで有意に少なく(p<0.01),球面様収差,全高次収差は,4 m mおよび6 m mで,コマ様収差は6 mmで有意に少なかった(p<0.01).コントラスト感度は,明所では両群に差はなかったが,暗所および中間照度で非球面 IOL が良好であった(p<0.05).他の測定項目は両群に差はなかった.非球面 IOLツ黴€ FY-60AD は,従来の球面 IOL と比較し術後の高次収差が少なく,さらに,他の非球面 IOL と異なり,暗所だけでなく中間照度下においてもコントラスト感度が向上した.We evaluated the clinical results of aspheric intraocular lens(IOL)and spherical IOL implantation in 100 eyes ofツ黴€ 50ツ黴€ patientsツ黴€ whoツ黴€ underwentツ黴€ bilateralツ黴€ cataractツ黴€ surgery.ツ黴€ Inツ黴€ eachツ黴€ patients,ツ黴€ oneツ黴€ eyeツ黴€ wasツ黴€ randomlyツ黴€ assignedツ黴€ an asphericツ黴€ IOL,ツ黴€ theツ黴€ FY-60AD(HOYA);theツ黴€ otherツ黴€ eyeツ黴€ receivedツ黴€ aツ黴€ sphericalツ黴€ IOL,ツ黴€ theツ黴€ YA-60BBR(HOYA),ツ黴€ ofツ黴€ the same material and platform. At 1 month postoperatively, best-corrected visual acuity, ocular higher-order aberra-tions(HOA), contrast sensitivity under mesopic, intermediate and photopic illuminations, IOL tilt and decentration were compared. Ocular coma-like aberration(6 mm), spherical-like aberration, total HOA and spherical aberration(4 mmツ黴€ and 6 mm)wereツ黴€ signi cantlyツ黴€ smallerツ黴€ inツ黴€ theツ黴€ asphericツ黴€ IOLツ黴€ group(p<0.01).ツ黴€ Mesopicツ黴€ andツ黴€ intermediateツ黴€ con-trastツ黴€ sensitivitiesツ黴€ wereツ黴€ signi cantlyツ黴€ betterツ黴€ withツ黴€ theツ黴€ asphericツ黴€ IOL(p<0.05).ツ黴€ Noツ黴€ signi cantツ黴€ di erencesツ黴€ wereツ黴€ found inツ黴€ otherツ黴€ parameters.ツ黴€ Theツ黴€ asphericツ黴€ IOLツ黴€ FY-60ADツ黴€ demonstratedツ黴€ lessツ黴€ ocularツ黴€ HOAツ黴€ andツ黴€ betterツ黴€ contrastツ黴€ sensitivity under mesopic and intermediate conditions than the spherical IOL.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):115 118, 2010〕Key words:非球面眼内レンズ,視機能,偏心,高次収差,コントラスト感度.asphericツ黴€ intraocularツ黴€ lens,ツ黴€ visual function, decentration, higher-order aberrations, contrast sensitivity.———————————————————————- Page 2116あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(116)の偏心による影響を抑えるように設計された新しいアクリル製非球面 IOL である FY-60AD(HOYA 社)を挿入した眼の術後 1 カ月までの視機能について,同一素材の球面 IOL を挿入した眼と比較検討したので報告する.I対象および方法今回使用した非球面 IOL FY-60AD は,光学部前面が非球面形状になっており,IOL で 0.18 μm の負の球面収差をもち,術後眼球全体で約 0.1 μm の正の球面収差を残すように設定されている.さらに,IOL の偏心による影響を抑えるため,光学部の中心から約 0.8 m mの部分で一旦 IOL の度数を下げて強めの負の球面収差をもたせた Asphericツ黴€ Balanced Curve 設計という特殊な非球面形状となっている.この形状により IOL の偏心による非球面効果の低下を軽減することができ,模型眼を使った実験では,0.6 m m程度の偏心でも非球面効果が維持されるとされている.対象は,2005 年 3 月から 7 月までに宮田眼科病院で同一術者が小切開白内障手術を行い,術後 1 カ月までの経過を観察できた 50 例 100 眼である.対象の平均年齢は 70.8±5.6歳で,男性 14 例,女性 36 例であった.屈折異常および白内障以外の眼疾患を有する例や 1.0D 以上の角膜乱視を有する例は対象から除外した.対象の片眼にアクリル製非球面IOL FY-60AD を挿入し(以下,FY 群),僚眼に同一素材で光学部以外は同一形状の球面 IOL YA-60BBR(HOYA 社)を挿入した(以下,YA 群).左右眼は FY 群と YA 群の 2群に無作為に割り付けた.術前の瞳孔径は,暗所で FY 群5.39±0.68 m m,YA 群 5.36±0.67 m m,明所で FY 群 3.87±0.53 mm,YA 群 3.90±0.59 mmと両群間に差はなかった.白内障手術は全例で 2.75 m mの上方強角膜切開創から超音波乳化吸引術を行い,IOL はインジェクターを使用して挿入し,IOL が完全 内固定されていることを確認した.術中に特記すべき合併症はみられなかった.術後 1 カ月までの視機能の検討項目として,矯正視力,高次波面収差,照度別の縞視標コントラスト感度,IOL の眼内安定性検査として IOL の偏心量および傾斜量,それぞれを比較検討した.また,コントラスト感度測定時の各照度別の瞳孔径も計測した.高次波面収差は,ウェーブフロント・アナライザ KR-9000PW(TOPCON 社)を用いて,中心 4.0 mm径と 6.0 m m径における全屈折成分の波面収差を測定し,球面収差,コマ様収差,球面様収差,全高次収差(RMS 値)を解析した.縞視標コントラスト感度は,Ohtani らの検討7)と同様に,暗所(平均 13 lux),中間(平均 64 lux),明所(平均 167 lux)の 3 照 度 下 で,F.A.C.T. チ ャ ー ト(STEREO OPTICAL,ツ黴€ USA)を 用 い て,1.5,3,6,12,18(cycles/degree,以下 c.p.d.)各空間周波数ごとに測定した.さらに,それらの結果から AULCSF(areaツ黴€ underツ黴€ theツ黴€ logツ黴€ contrast sensitivityツ黴€ function)を算出した.偏心量および傾斜量は,前眼部解析装置 EAS-1000(NIDEK 社)を用いて測定した.瞳孔径はデジタルカメラにて撮影し計測した.FY 群と YA 群の統計学的検討方法として,矯正視力はWilcoxon 符号付順位和検定を,それ以外は対応のある t 検定を行い,p<0.05 を統計学的に有意とした.II結果術後 1 カ月の平均矯正視力は,FY 群 1.34,YA 群 1.32 と両群とも良好で,経過中の術後 2 日,1 週間,1 カ月のそれぞれの時点において両群間に有意差を認めなかった(図 1).術後 1 カ月の全屈折成分の高次波面収差(単位はすべてμm)は,球面収差は,中心 4.0 m m径で FY 群 0.03±0.04,YA 群 0.09±0.04,6.0 m m径 で FY 群 0.12±0.15,YA 群0.41±0.13 であり,両径とも FY 群で有意に少なかった(p<0.001)(図 2).コマ様収差,球面様収差および全高次収差は, 中 心 4.0 m m径では,コマ様収差(FY 群 0.16±0.08,YA 群 0.18±0.06),球面様収差(FY 群 0.07±0.03,YA 群0.12±0.03),全高次収差(FY 群 0.18±0.08,YA 群 0.22±0.05)で,球面様収差および全高次収差で FY 群が有意に少なかった(p<0.01)(図 3a).6.0 m m径ではコマ様収差(FY群 0.45±0.18,YA 群 0.55±0.18),球面様収差(FY 群 0.26±0.11,YA 群 0.49±0.12),全高次収差(FY 群 0.53±0.18,中心4mm収差(μm)中心6mm00.20.40.6**図 2術後1カ月の球面収差(全屈折成分):非球面 IOL,:球面 IOL.*:p<0.001.観察期間2日1週1カ月1.01.50.8矯正視力1.2図 1矯正視力の経過■:非球面 IOL,▲:球面 IOL.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010117(117)YA 群 0.75±0.18)で,すべてにおいて FY 群が有意に少なかった(p<0.001)(図 3b).術後 1 カ月の縞視標コントラスト感度は,暗所では 1.5,3,6(c.p.d.)で,中間照度では 3,6(c.p.d.)で FY 群が YA群より有意にコントラスト感度が向上し(p<0.05),明所では両群間に有意差を認めなかった(図 4a).また,AULCSF(area under the log contrast sensitivity function)は,暗所(FY 群 1.53±0.18,YA 群 1.44±0.23),中間照度(FY群1.77±0.19,YA 群 1.69±0.22), 明 所(FY 群 1.90±0.15,YA 群 1.88±0.17)で,暗所および中間照度において両群間に有意差を認めた(p<0.01)(図 4b).術 後 1 カ 月 の IOL の 偏 心 量 は,FY 群 0.22±0.11 m m,YA 群 0.22±0.10 mm,傾斜量は,FY 群 1.90±0.84°,YA群 2.29±0.85°で両群間に有意差を認めなかった.コントラスト感度測定時の各照度別瞳孔径は,暗所で FY群 4.99±0.66 m m,YA 群 4.94±0.69 m m,中間照度で FY群 4.50±0.69 m m,YA 群 4.44±0.67 m m,明所でFY群4.14±0.63 m m,YA 群 4.13±0.68 m mで両群に差はなく,中間照度での瞳孔径は明所と暗所の中間付近の値となった.III考按今回の結果では,非球面 IOL を挿入した FY 群は,球面IOL を挿入した YA 群と比較し,中心4 mmおよび6 mmでの全屈折成分の球面収差が有意に少なかった.これは,これ図 3術後1カ月の高次波面収差a:全屈折成分;中心4 mm.:非球面 IOL,:球面 IOL.*:p<0.01,**:p<0.001.b:全屈折成分;中心6 mm.:非球面 IOL,:球面 IOL.**:p<0.001.00.10.20.3***コマ様収差球面様収差全高次収差00.20.40.60.81.0コマ様収差球面様収差全高次収差******a.ツ黴€ 中心4mmb.ツ黴€ 中心6mm収差(?m)収差(?m)図 4術後1カ月のコントラスト感度とAULCSFa: 術後 1 カ月の照度別縞視標コントラスト感度.■:非球面 IOL,▲:球面 IOL.*:p<0.05,**:p<0.01.b: 術後 1 カ月の照度別 AULCSF(area under the log contrast sensitivity function).:非球面IOL,:球面 IOL.*:p<0.01.0空間周波数(cycles/degree)6312181.56312181.56312181.5暗所中間明所0.51.01.52.0暗所中間明所対数コントラスト感度a.ツ黴€ b.ツ黴€ 縞視標コントラスト感度AULCSF02.01.0AULCSF***********———————————————————————- Page 4118あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(118)ま で の 他 の 非 球 面 IOL に お け る 検討3 7)と 同 様 に,FY-60AD の非球面性により角膜の球面収差が補正された結果,全屈折成分の球面収差が減少したと考えられた.また,FY群の中心6 mmでの全屈折成分の球面収差は平均 0.12 μm であり,眼球全体で約 0.1 μm の球面収差を残すという FY-60AD の設計概念に近い結果であった.FY 群は中心4 mmでは球面様収差と全高次収差が有意に少なく,中心6 mmではコマ様収差,球面様収差,全高次収差が有意に少なかった.FY 群でみられた球面収差の減少が球面様収差の減少に寄与し,さらには全高次収差の減少にも貢献したと考えられた.術後 1 カ月のコントラスト感度は,明所では両群に差がなかったが,暗所および中間照度下で FY 群が有意に良好な結果であった.これまでに明所,暗所に中間照度を含めた 3 照度で非球面 IOL のコントラスト感度を検討した報告は少ないが,非球面 IOLツ黴€ Tecnisツ黴€ Z9000(AMO 社)では,暗所でコントラスト感度の向上がみられたものの中間照度および明所では球面 IOL と有意差を認めなかったと報告されている6,7).FY-60AD が,球面 IOL と比較して,暗所だけでなく中間照度下でもコントラスト感度が良好であった要因として,上述の IOL の非球面効果による眼球全体の球面収差の減少に加えて,コマ様収差の減少がみられたことがあげられる.これまでの検討では,球面 IOL と比較して球面収差は減少してもコマ様収差は有意差がみられなかった3,4,7)が,今回の検討では球面収差に加えてコマ様収差が有意に減少していた.このことから,全屈折光学系の収差を抑えて網膜での結像特性をより向上させ,中間照度下でのコントラスト感度の向上に寄与したと考えられた.非球面 IOL は,IOL の偏心や傾斜によって徐々に非球面効果が低下し,Holladay らは非球面 IOL の偏心量が約0.4 mmを超えると球面 IOL を下回ることを報告している8).今回の検討では,術後 1 カ月の非球面 IOL の偏心量は平均0.22 mmと少なく抑えられていた.しかし,前眼部解析装置EAS-1000 を用いた偏心量の測定では,散瞳時に測定を行うため縮瞳時の偏心量については明らかでない.縮瞳によって瞳孔中心が偏位することが知られており,明所と暗所での偏位量は,Yang らの検討では平均 0.13 m m,Erdem らの検討では平均 0.08 m mで9,10),瞳孔中心の移動により 0.1 m m程度 IOL が相対的に偏位すると考えられる.今回の検討での IOL 自体の偏心量が平均 0.22 m mであっても,暗所と明所で瞳孔中心の偏位が IOL の偏位の方向と逆向きであれば,瞳孔中心の偏位量が付加されて相対的に 0.3 m m程度の偏心量になっていることが示唆される.中間照度においては,瞳孔径が明所と暗所の中間付近であったことから,瞳孔中心の偏位も少なからず存在し相対的に 0.22 m mを超える偏心量になっていたと考えられる.偏心量が増加すれば非球面 IOLの非球面効果は低下し球面 IOL に対する優位性が減少するが,今回使用した非球面 IOL は Asphericツ黴€ Balancedツ黴€ Curve設計のために偏心による非球面効果の低下が少なく,そのことも中間照度下においてもコントラスト感度が向上した一因となった可能性がある.今回の術後 1 カ月までの検討では,非球面 IOL FY-60ADは良好な矯正視力が得られるとともに,高次波面収差の減少とそれに伴うコントラスト感度の向上が認められ,十分な非球面効果を発揮することができた.しかし,術後に発生する後発白内障などにより非球面効果が低下してくることも懸念されるため,術後長期にわたって良好な成績を得られるかについてはさらなる検討が必要である.文献 1) Mester U, Dillinger P, Anterist N:Impact of modi ed optic design on visual function:clinical comparative study. J Cataract Refract Surg 29:652-660, 2003 2) Packer M, Fine IH, Ho man RS et al:Improved function-alツ黴€ visionツ黴€ withツ黴€ aツ黴€ modi edツ黴€ prolateツ黴€ intraocularツ黴€ lens.ツ黴€ Jツ黴€ Cata-ract Refract Surg 30:986-992, 2004 3) Rocha KM, Soriano ES, Chalita MR et al:Wavefront anal-ysis and contrast sensitivity of aspheric and spherical intraocular lenses:a randomized prospective study. Am J Ophthalmol 142:750-756, 2006 4) Kasper T, Buhren J, Kohnen T et al:Visual performance of aspherical and spherical intraocular lenses:intraindi-vidual comparison of visual acuity, contrast sensitivity, and higher-order aberrations. J Cataract Refract Surg 32:2022-2029, 2006 5) Takeoツ黴€ S,ツ黴€ Watanabeツ黴€ Y,ツ黴€ Suzukiツ黴€ Mツ黴€ etツ黴€ al:Wavefrontツ黴€ analy-sis of acrylic spherical and aspherical intraocular lenses. Jpn J Ophthalmol 52:250-254, 2008 6) 大谷伸一郎,月花慎,本坊正人ほか:シリコーン製非球面眼内レンズの視機能に対する検討.IOL&RS 23:205-209, 2009 7) Ohtani S, Gekka S, Honbou M et al:One-year prospec-tive intrapatiant comparison of aspherical and spherical intraocular lenses in patients with bilateral cataract. Am J Ophthalmol 147:984-989, 2009 8) Holladayツ黴€ JT,ツ黴€ Piersツ黴€ PA,ツ黴€ Koranyiツ黴€ Gツ黴€ etツ黴€ al:Aツ黴€ newツ黴€ intraocu-lar lens design to reduce spherical aberration of pseu-dophakic eyes. J Refract Surg 18:683-691, 2002 9) Yang Y, Thompson K, Burns SA:Pupil location under mesopic, photopic, and pharmacologically dilated condi-tions. Invest Ophthalmol Vis Sci 43:2508-2512, 2002 10) Erdem U, Muftuoglu O, Gundogan FC et al:Pupil center shift relative to the coaxially sighted corneal light re ex underツ黴€ naturalツ黴€ andツ黴€ pharmacologicallyツ黴€ dilatedツ黴€ conditions.ツ黴€ J Refract Surg 24:530-538, 2008

ハンセン病性強膜炎既往者の白内障手術長期成績

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(111)ツ黴€ 1110910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):111 114,2010cはじめにハンセン病はらい菌による感染症で,眼合併症の一つとして強膜炎を発症することが知られている1 3).また,本病の臨床的治癒期にも強膜炎は生じ,ごくまれに壊死性強膜炎になり重篤な視力障害を起こすこともある4,5).これまでに,通常の白内障手術後の合併症で壊死性強膜炎を発症し失明した報告6 8)はまれであるが散見される.しかし,強膜炎の既往眼に白内障手術を行い術後成績の検討した報告はきわめて少ない2,9).1996 年,筆者らはハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi cationツ黴€ and aspiration:PEA)と眼内レンズ(intraocularツ黴€ lens:IOL)挿入術を施行し術後短期の成績を報告10)した.しかし,同疾患の強膜炎既往眼の白内障に対し PEA を行い,術後成績を検討した報告はない.今回,ハンセン病性強膜炎既往眼に対して PEA+IOL 挿入術を施行し,5 年以上経過観察できた症例の長期成績をまとめたので報告する.〔別刷請求先〕上甲覚:〒180-8610 武蔵野市境南町 1-26-1武蔵野赤十字病院眼科Reprint requests:Satoru Joko, M.D., Department of Ophthalmology, Musashino Red Cross Hospital, 1-26-1 Kyonan-cho, Musashino 180-8610, JAPANハンセン病性強膜炎既往者の白内障手術長期成績上甲覚*1堀江大介*2*1 武蔵野赤十字病院眼科*2 国立療養所多磨全生園眼科Long-Term Outcome of Cataract Surgery in Patients with Scleritis due to LeprosySatoru Joko1) and Daisuke Horie2)1)Department of Ophthalmology, Musashino Red Cross Hospital, 2)Department of Ophthalmology, National Leprosarium, Tama-Zensho-En目的:ハンセン病性強膜炎既往者の白内障に施行した超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術の長期成績を調べること.対象:ハンセン病性強膜炎の既往者で,白内障手術後 5 年以上経過観察できた 9 例 11 眼を対象とした.手術時平均年齢は 69 歳(59 76 歳),平均経過観察期間は 11 年(8 年 3 カ月 13 年 1 カ月)であった.結果:術中,重篤な合併症はなかった.術後最高視力は全例で 2 段階以上改善し,0.5 以上であった.最終視力は 10 眼(91%)で 2 段階以上の改善を維持し,0.5 以上は 6 眼(55%)であった.強膜炎の再発はなかったが,兎眼のある患者に角膜上皮障害が多くみられ,視力低下のおもな原因の一つであった.結論:本症例での小切開による白内障手術は,安全で有用であった.視力改善率は高いが,長期的には視力の低下する症例があり,ハンセン病関連の眼合併症に注意が必要であった.Thisツ黴€ isツ黴€ aツ黴€ reportツ黴€ onツ黴€ theツ黴€ long-termツ黴€ outcomeツ黴€ ofツ黴€ phacoemulsi cationツ黴€ cataractツ黴€ extractionツ黴€ andツ黴€ intraocularツ黴€ lens(IOL)implantationツ黴€ inツ黴€ patientsツ黴€ withツ黴€ aツ黴€ historyツ黴€ ofツ黴€ scleritisツ黴€ dueツ黴€ toツ黴€ leprosy.ツ黴€ Weツ黴€ retrospectivelyツ黴€ reviewedツ黴€ theツ黴€ medical records of 11 eyes of 9 patients who had observed for 8 or more years postoperatively. Their ages ranged from 59 to 76 years, averageing 69 years.;mean follow-up period was 11 years after surgery. No signi cant intraoperative complications occurred. All 11 eyes showed best visual acuity of 0.5 or better. The last recorded visual acuity was 0.5 or better in 6 eyes(55%)and had improved by 2 or more lines in 10 eyes(91%). Visual acuity below 0.5 was due to the corneal and/or macular disorders. Pacoemulsi cation with IOL implantation is safe and e ective in lep-rosy patients with scleritis, though leprosy-related ocular complications occur frequently and a ected vision.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):111 114, 2010〕Key words:ハンセン病(らい),強膜炎,白内障手術,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ.Hansen’s disease(leprosy), scleritis, cataract surgery, phacoemulsi cation and aspiration, intraocular lens.———————————————————————- Page 2112あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(112)I対象および方法対象は 1994 年 3 月から 1995 年 7 月の間に多磨全生園において,同一術者が PEA と IOL 挿入術を施行後,5 年以上経過観察できたハンセン病性強膜炎の既往がある 9 例 11 眼である.男性 6 例 7 眼,女性 3 例 4 眼,手術時平均年齢は69 歳(59 76 歳)であった.明らかな強膜の菲薄化を伴う症例はなかった.これらの症例に関して,2008 年 3 月末までの診療録をレトロスぺクティブにまとめた.術前の患者背景を表 1 に示す.強膜炎の炎症鎮静期間は平均 125 カ月(24 267 カ月)であった.症例 3 の 1 眼を除いた 10 眼はぶどう膜炎の既往もあり,その炎症鎮静期間は平均 24 カ月(11 38 カ月)であった.術後経過観察期間は,平均 11 年 1 カ月(8 年 3 カ月 13年 1 カ月)であった.なお,関節リウマチなどの膠原病を合併した症例は含まれていない.手術方法の概要を以下に記載する.手術用顕微鏡には TOPCONツ黴€ OMS-600,超音波の装置はAlconツ黴€ 10000Master を使用した.麻酔は,全例 Tenonツ黴€ 下による浸潤麻酔で行った.4 mm以下の小瞳孔の症例は,瞳孔縁部分切開とツ黴€ exibleツ黴€ irisツ黴€ retractor(Griesツ黴€ Haberツ黴€ 社)を使用し瞳孔領の確保を行った.PEA は divideツ黴€ andツ黴€ conquer法で行い,全例 IOL を挿入した.使用した IOL は,シングル・ピースの polymethylmethacrylate(PMMA)レンズ(Alconツ黴€ LX90BDツ黴€ CILCO)と 3 ピースのアクリルソフトレンズ(Alcon MA60BM)である.PMMA レンズを挿入した,症例 1 6 の右眼までの切開創の幅は,強角膜 6.0 m mであった.切開創は 10-0 ナイロン糸の連続縫合をした.症例 6 の左眼から症例 9 は,強角膜を 3.5 4.0 m m切開しアクリルソフトレンズを挿入した.創は無縫合であった.手術終了時,デキサメタゾンリン酸ナトリウム 0.5 mlの結膜下注射を行った.II結果術前,術後の視力変化を表 2 に示す.術後最高視力は,全例で少数視力が 4 段階以上改善し 0.5以上であった.最終視力は 10 眼(91%)で視力の改善を維持できたが,0.5 以上は 6 眼(55%)と約半減した.術中・術後のおもな併発・合併症は表 3 に示す.後 破損した症例 9 では 外に IOL を固定した.その他に,特に重篤な合併症は起こさなかった.術後の眼疾患は角膜障害が最も多く 10 眼(91%)にみられ,うち 8 眼は術前より兎眼があった.前房内炎症の再燃は表 1術前の患者背景症例手術時年齢性別術眼術前強膜炎発症回数*術前強膜炎鎮静期間菌検査陰性期間術前のおもな眼疾患術後経過観察期間166 歳男性左1 回(2)3年1カ月32 年13年1カ月266 歳男性左4 回(2)8年11カ月 3年兎眼,角膜混濁,緑内障12年6カ月374 歳男性左3 回(0)22年3カ月13 年兎眼8年3カ月470 歳女性右3 回(9)14年11カ月15 年角膜混濁12年6カ月576 歳男性左2 回( )18年3カ月23 年角膜混濁9年0カ月659 歳女性右3回3年8カ月18 年兎眼12年10カ月左2回4年7カ月兎眼,高眼圧12年10カ月765 歳男性右2 回(0)20年2カ月10 年兎眼,角膜混濁,外反症11年10カ月876 歳男性右2回2年8カ月33 年兎眼12年10カ月左3回2年0カ月兎眼12年10カ月969 歳女性右3 回(0)14年4カ月21 年兎眼,角膜混濁,外反症12年4カ月 *:()内は僚眼の強膜炎発症回数.症例 5 の右眼は 33 歳のとき眼球摘出. ただし,1955 1960 年(昭和 30 35 年)以前の病歴は不明な点が多いので,発症回数はあくまでも参考データ.表 2術前・術後視力症例術前矯正小数視力術後視力最高5 年前後*最終10.151.01.01.020.20.70.20.630.21.21.20.640.020.80.20.250.40.80.60.46(右)0.151.20.81.06(左)0.21.50.90.870.041.00.70.58(右)0.040.5─0.38(左)0.060.7─0.390.040.60.60.3*: 症例 1 7,9 の平均 62 カ月(50 71 カ月)後の視力. 症例 8 は 5 年前後の受診歴なし.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010113(113)4 眼(36%)に発症し,4 眼とも術前にぶどう膜炎の既往があった.しかし,本症例では強膜炎の術後再発はなかった.最終視力が 0.5 未満に低下した 5 眼のおもな原因は,角膜障害が 4 眼,黄斑障害が 1 眼であった.角膜障害 4 眼のうち3 眼は術前より兎眼がみられた.後発白内障は 6 眼(55%)に生じ,Nd:YAG レーザーによる後 切開を行った.III考按ハンセン病の原因であるらい菌は,末梢神経に寄生し慢性の経過をたどる.眼球は神経組織に富んだ器官であり,神経親和性のあるヘルペスウイルス同様,らい菌の好発部位でもある.そして両病原菌は強膜炎の合併率が高いことで知られている1 3,11).これまで,ハンセン病患者(既往者)に白内障手術を行い術後成績を検討した報告は多数あるが,本疾患の強膜炎既往眼に白内障手術を行い検討した報告2)は少ない.1987 年,井上ら2)はハンセン病療養所 8 施設で,水晶体 内摘出術(intracapsularツ黴€ cataractツ黴€ extraction:ICCE)が行われた症例を,術前のハンセン病眼合併症と術後の視力改善率について検討している.1974 年 12 月から 1982 年 10 月の期間に手術が行われた 376 眼中 129 眼(34%)に強膜炎の既往があった.その 129 眼中 106 眼(83%)は,術後視力の2 段階以上の改善をみたと報告した.今回の症例の術後最高視力は,全例で改善し矯正小数視力0.5 以上と良好であった.ICCE と比べて PEA は小切開で手術侵襲が小さいので良好な術後視力を得られたと思われる.最終視力は 10 眼(91%)で改善を維持したが,兎眼に伴う角膜上皮障害や前房内炎症の再燃に伴う黄斑変性で視力は低下傾向を示した.これまでに,ハンセン病患者で白内障手術後の長期成績を検討した報告は少ない12).通常の白内障手術より,高頻度に失明した報告13)もあるので,本疾患は長期に注意深い経過観察が大切である.井上ら2)の報告では術後合併症の検討をしていないが,本症例は 4 眼(36%)に前房内炎症の再燃を生じた.経過 1 年以内に 2 眼(18%)に生じ,2 年目以降にも 2 眼(18%)が再燃を起こしている.この 4 眼はぶどう膜炎の既往もあり,前房内炎症の再燃には注意が必要と考えた.ただし,理由は不明であるが,術後 6 年目以降は全例再発を起こしていない.また,術後に強膜炎の再発はなかった.その理由として,強膜炎の炎症鎮静期間が,全例 24 カ月以上と長期であったことが可能性として考えられた.本症例 9 例(11 眼)の皮膚塗抹検査における菌指数は,平均 20 年間陰性であった.すなわち,臨床的に長期間治癒の状態であった.しかし,強膜炎とぶどう膜炎(8 例 10 眼)の炎症鎮静期間は,それぞれ平均 125 カ月(24 267 カ月)と24 カ月(11 38 カ月)であった.ハンセン病は全身的に治癒の状態でも,なぜ眼炎症性疾患の再燃を起こしやすいのかは不明である3,4).術中,Zinn 小帯断裂を生じた 1 眼に前房内炎症の再燃が,術後 4 年目と 5 年目以降の 2 回生じている.この 1 眼は男性の症例で,術中合併症がなく前房内炎症の再燃がみられた 2例 3 眼は女性であった.女性に多い傾向がみられたが,症例を増やして統計学的に検討する必要がある.後 破損は 1 眼に生じたが,特に重篤な術後合併症はなかった.最近の白内障手術は当時(1995 年)よりも小切開で,使用する機器の性能も格段に向上している.したがって,本疾患における手術そのものの安全性は高いと思われるが,角膜混濁が強い症例もあるので,適応には十分注意する必要があ る14).今回,9 例 11 眼のハンセン病性強膜炎の既往眼で,白内障手術長期成績をまとめることができた.一施設で,強膜炎既往眼の白内障手術を多数例検討するのはむずかしい.今後,多施設での検討が必要と考える.本論文の要旨は,第 113 回日本眼科学会総会(学術展示)で発表 3おもな術中合併症・術後併発症症例術中合併症おもな術後合併・併発症術後,前房中の炎症再燃時期後発白内障:YAGレーザーの時期1特記すべきことなし1年3カ月後2角膜上皮障害1年3カ月後3角膜上皮障害3年4カ月後4角膜上皮障害,高度の IOL 細胞沈着,黄斑変性1年7カ月後5角膜上皮障害9 カ月後6(右)角膜上皮障害1 年後3年10カ月後6(左)角膜上皮障害11 カ月,2 年,4 年 4 カ月後7Zinn 小帯断裂角膜上皮障害,IOL 偏位4年3カ月,5年9カ月後4 カ月後8(右)角膜上皮障害,高眼圧8(左)角膜上皮障害9後 破損角膜上皮障害,前部硝子体脱出———————————————————————- Page 4114あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(114)表した.文献 1) Rawal RC, Kar PK, Desai RN et al:A clinical study of eyeツ黴€ complicationsツ黴€ inツ黴€ leprosy.ツ黴€ Indianツ黴€ Jツ黴€ Lepr 56:232-240, 1984 2) 井上愼三,松村香代子,鈴木秀樹:癩患者の白内障手術,癩眼合併症と術後視力.臨眼 41:615-618, 1987 3) 上甲覚,沼賀二郎,藤野雄次郎ほか:らい(ハンセン病)の上強膜炎とヒト主要組織適合抗原.日眼会誌 101:167-172, 1997 4) Poon A, Maclea H, Mckelvie P:Recurrent scleritis in lep-romatous leprosy. Aust NZ J Ophthalmol 26:51-55, 1998 5) Rathinam SR, Khazaei HM, Job CK:Histopathological study of ocular erythema nodosum leprosum and post-therapeutic scleral perforation:a case report. Indian J Ophthalmol 56:417-419, 2008 6) Bloom eld SE, Becker CG, Christian CL et al:Bilateral necrotizing scleritis with marginal corneal ulceration after cataract surgery in a patient with vasculitis. Br J Ophthal-mol 64:170-174, 1980 7) Salamon SM, Mondino BJ, Zaidman GW:Peripheral cor-neal ulcers, conjunctival ulcers, and scleritis after cataract surgery. Am J Ophthalmol 93:334-337, 1982 8) 宮坂英世,後藤晋,中村桂三ほか:白内障術後に発症した強角膜軟化症に対する治療.日眼会誌 99:735-738, 1995 9) Chirls IA, Norris JW, Norris JW 3rd:Uncomplicated cata-ract surgery in a patient with scleritis. J Cataract Refract Surg 17:865-866, 1991 10) 上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌 65:170-173, 1996 11) 福田昌彦:帯状ヘルペスウイルスによる前眼部病変について教えてください.あたらしい眼科 17(臨増):145-147, 2000 12) 上甲覚,堀江大介:片眼失明のハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障手術成績.臨眼 63:465-469, 2009 13) 岡野美子,松尾信彦,吉野美重子ほか:らいの失明原因.臨眼 48:291-293, 1994 14) 上甲覚:Hansen 病性ぶどう膜炎の白内障手術(1)術前の基礎.あたらしい眼科 26:343-345, 2009***