0910-1810/10/\100/頁/JCOPY数が減少すると網膜外顆粒層は菲薄化する(図2).杆体による物理的な支えがなくなる状況は,同じ網膜外顆粒層に存在する錐体にとって好ましくないと容易に想像ではじめに晴れた日に雪上に立つと誰もが眩しいと感じる.つまり,ある一定以上の強い光が網膜に到達すると眼に異常がなくても眩しくなるわけである.このとき,網膜ではどのような現象が起きているのだろうか.視細胞には錐体と杆体がある.強い光のもとでは杆体はほとんど機能しない(飽和状態)が,錐体は光が強くなるほど過分極し,神経伝達物質の放出量を減少させる(図1).この変化は,双極細胞により感知され,網膜神経節細胞を介して最終的に脳へ伝わり眩しさという感覚になる.双極細胞以降のシグナル伝達が正常という前提で,錐体からの神経伝達物質の放出量が何らかの原因で極端に減ると眩しく感じるようになるといえる.網脈絡膜疾患では,一次的または二次的に錐体が障害される.錐体の機能的異常は,ほとんどの場合その細胞死に繋がる.このような質的および量的な変化は,錐体からの神経伝達物質の放出量を減少させることで羞明の原因となろう.また,錐体障害の有無にかかわらず,無虹彩症のように網膜に到達する光が増えることでも眩しく感じる.本稿では,羞明をきたす網脈絡膜疾患を,1)二次的に錐体が障害されるもの,2)一次的に錐体が障害されるもの,3)錐体障害の有無にかかわらず眼への入光量が増えるものに分け,それぞれの代表的な疾患について述べる.I二次的に錐体が障害されるもの視細胞の約97%を占める杆体が障害され,その細胞(35)607*NobushigeTanaka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕田中伸茂:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):607.612,2010網脈絡膜疾患ChorioretinalDisorders田中伸茂*神経伝達物質放出量膜電位光量時間図1光刺激に伴う神経伝達物質放出量の変化視細胞にあたる光量が増えると膜電位は過分極し,神経伝達物質の放出量は減少する.逆に,光量が減ると脱分極し,放出量は増加する.608あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(36)に動脈)の狭小化,骨小体様の色素沈着を認める(図4上).粗.胡麻塩状や白点状網膜を呈することもある.診断には網膜電図(ERG)と視野検査が欠かせない.ERGの異常(平坦化)は,病初期で視野・視力が良好な時期にもすでに認められる.視野障害は,輪状暗点や地図状暗点にはじまり,求心性視野狭窄に至る.蛍光血管造影検査では,網膜色素上皮萎縮による過蛍光(windowdefect)を認め,ときに.胞状黄斑浮腫もみられる..胞状黄斑浮腫の経時変化は,光干渉断層像(OCT)で観察するとよい.眼底自発蛍光検査は,網膜色素上皮の生体反応を間接的にみることができる.網膜色素上皮が萎縮した部位の自発蛍光は減弱する(図4下).非侵襲的検査であり病気の進行程度を把握するのに視野検査とならんで有用である.c.治療法特定の遺伝子異常に起因する網膜色素変性症の遺伝子治療が米国ですでにはじまっている2).しかしながら,研究段階の域である感は否めない.ビタミンAや循環改善薬の内服が一般的であるが,明らかな効果を望めるものではない..胞状黄斑浮腫に対して,炭酸脱水酵素阻害薬の内服が奏効することがある(図5).きよう.杆体からのシグナルは双極細胞,アマクリン細胞を経由して錐体からのシグナルを調整している(図3)し,杆体から錐体の生存に必要な物質が放出されているとの報告もある1).また,網膜色素上皮は視細胞の新陳代謝(視細胞外節を貪食し,再利用する物質を視細胞に戻す)に必須であり,脈絡膜は視細胞(網膜外顆粒層)を栄養している.このように,杆体・網膜色素上皮・脈絡膜の障害は,二次的に錐体の機能不全をきたす.1.杆体障害に続発するもの―網膜色素変性症杆体の光感知から双極細胞へのシグナル伝達系(phototransductioncascade)に関わるものや,視細胞の細胞構造を維持する遺伝子変異が知られている.種々の遺伝子異常により起きる杆体の変性が優位の進行性網脈絡膜変性である.a.自覚症状初期(10歳頃)より夜盲があり,病気が進行するにつれ(進行速度は症例ごとに大きく異なる),視野狭窄を自覚するようになる.錐体も障害されはじめると視力低下や羞明を感じる.網膜色素上皮も二次的に障害されるため,外血液網膜関門の破綻による.胞状黄斑浮腫をきたし,視力低下のほか歪視を自覚することもある.b.検査所見眼底検査では,視神経乳頭の.状萎縮,網膜血管(特アマクリン細胞ON型双極細胞OFF型双極細胞錐体錐体杆体図3杆体による錐体経路への影響杆体からのシグナルは双極細胞へ伝わる.双極細胞からのシグナルは神経節細胞とアマクリン細胞へ伝わる.アマクリン細胞は,錐体からシグナルを受けている双極細胞の調整をしている.正常ONLINLONLINL網膜色素変性症図2正常眼と網膜色素変性症眼の網膜組織切片像杆体が障害される網膜色素変性症では,その細胞数の減少に伴い外顆粒層は菲薄化する.内顆粒層は比較的保たれている.INL:innernuclearlayer(内顆粒層),ONL:outernuclearlayer(外顆粒層).(37)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010609必要なチャンネル(トランスポーター)が存在する.このトランスポーターの機能障害によって網膜色素上皮に多くの老廃物(リポフスチン)が蓄積されStargardt病の原因となる.黄色斑眼底は,Stargardt病と同じ遺伝子異常により生じるが,発症は遅く,症状も比較的軽微である.a.自覚症状10.20歳代頃より視力低下を自覚しはじめ,まれに羞明や色覚異常を訴えることがある.最終視力は0.1前後で落ち着くことが多い.夜盲や周辺部視野欠損を認めることはほとんどない.b.検査所見眼底検査で黄斑部に黄色斑を認める.蛍光血管造影検査で脈絡膜からの蛍光が網膜色素上皮に蓄積したリポフスチンにより遮断されることでいわゆるdarkchoroid(網膜色素上皮による遮断効果で脈絡膜充盈がみられない)を呈することが多い.網膜色素上皮層を挟んで硝子体側と脈絡膜側とには電位差がある.硝子体側陽性の電位差は,暗くなると小さくなり,明るくなると大きくなる.この反応を間接的に捉えたものが眼電図(EOG)である.網膜色素上皮の機能異常は,EOGの反応低下として現れる.網膜色素上皮障害が原発であるStargardt病の診断にEOGは有用ではあるが,早期診断には不十分である.d.鑑別疾患梅毒・トキソプラズマ感染などの炎症性のもの,薬剤などによる中毒性のもの,また他の網脈絡膜変性疾患を鑑別する必要がある.2.網膜色素上皮障害に続発するもの―Stargardt病網膜色素上皮には視細胞の老廃物(ビタミンA誘導体)を取り込み,再利用するものを視細胞に戻すために図4網膜色素変性症眼の眼底写真と眼底自発蛍光写真上:眼底写真.視神経乳頭の.状萎縮,網膜血管の狭小化,弓状血管より周辺網膜に骨小体様の色素沈着を認める.下:眼底自発蛍光写真.網膜色素上皮が萎縮した部位の自発蛍光は減弱している.黄斑色素により網膜色素上皮の自発蛍光は遮断されるため,黄斑部は低蛍光となる.図5網膜色素変性に続発する.胞状黄斑浮腫と炭酸脱水酵素阻害薬の効果網膜色素変性症患者に.胞状黄斑浮腫を認めることがある(上).炭酸脱水酵素阻害薬の内服により浮腫は軽減し歪視の訴えが消失した(下).610あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(38)ない.c.治療法根治療法はないが経過観察を行う必要がある.進行速度を視野検査や眼底自発蛍光検査で評価し,患者に還元することは有意義であろう.d.鑑別疾患Stargardt病と同様,黄斑変性をきたす疾患群(加齢黄斑変性症など)はすべて鑑別の対象となる.眼底所見は特異的なものではないため確定診断に戸惑うことは否c.治療法根治療法はないが経過観察が合併症の早期発見のために大切である.二次的に脈絡膜新生血管盤をきたすことを否定できず,その場合は加齢黄斑変性症に準じた治療が必要となろう.d.鑑別疾患黄斑変性をきたす疾患群(加齢黄斑変性症など)はすべて鑑別の対象となる.しかし,近年の科学技術の進歩に伴い,臨床診断が異なる疾患であっても遺伝子レベルでは同根と判明するようになってきたことも知っておくべきであろう.3.脈絡膜障害に続発するもの―中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ視細胞や網膜色素上皮に先んじて脈絡膜毛細血管の異常がみられたからといって脈絡膜が一次的に障害されているとは断定できない.しかしながら,脈絡膜毛細血管床の消失が病初期からみられる疾患を脈絡膜ジストロフィに分類している.この疾患群のなかで黄斑部に限局したものを中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィという.原因遺伝子の一つであるペリフェリンは視細胞外節の構造維持に必要な蛋白質であり,脈絡膜組織には存在しない3).脈絡膜の障害が一次的なものか二次的なものかはいまだ議論の余地が残るが,この事実は二次的であることを示唆している.a.自覚症状40.50歳代頃より視力低下を自覚するようになる.錐体障害が顕著になると羞明を感じることがある.中心比較暗点は徐々に拡大するが,夜盲や周辺部視野欠損を認めることはほとんどない.b.検査所見眼底検査で病初期には黄斑部に軽度の顆粒状変化を認めるのみである.病期の進行に伴い,境界明瞭な輪状病変となる(図6上)4).蛍光血管造影検査で病変部の脈絡膜毛細血管の消失を検出できる.脈絡膜血管造影に適したインドシアニングリーン蛍光血管造影検査がより有用である.眼底自発蛍光検査で網膜色素上皮の萎縮している範囲が明瞭に描出される(図6下).病変は黄斑部に限局しているためERGやEOGに明らかな異常を認め図6中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ眼の眼底写真と眼底自発蛍光写真上:眼底写真.境界明瞭な黄斑部の輪状病変を認める.下:眼底自発蛍光写真.網膜色素上皮の萎縮している範囲が低蛍光として明瞭に描出される.また,低蛍光部を取り囲むように輪状の過蛍光領域を認める.(39)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010611d.鑑別疾患眼底に所見がなく,視力低下をきたしている場合はoccultmaculardystrophyを鑑別する.黄斑部病変を伴う場合は黄斑変性をきたす疾患群(加齢黄斑変性症など)はすべて鑑別の対象であろう.III錐体障害の有無にかかわらず入光量が増えるもの1.無虹彩症眼の発達(発生)段階において,細胞は分裂と分化をくり返している.細胞内では,虹彩組織を形づくるために必要な遺伝子の発現調節が行われている.この過程で転写調節因子が働いており,その異常により虹彩の形成が阻害され無虹彩症となる.a.自覚症状虹彩がないため眼に入る光の量を調節できず羞明感が強い.視力低下は後述する眼合併症に起因することが多い.合併症が軽度でも焦点深度が浅くなるため軽度の遠視でも弱視になりやすい.弱視を伴う場合は眼振が顕在化する.b.検査所見細隙灯顕微鏡にて虹彩の欠損を認める.隅角鏡にて虹彩根部を認めるものが多く完全に虹彩が欠損していることは少ない.残存する虹彩が萎縮収縮することで周辺虹彩前癒着が起こり緑内障を続発することが多い.前述の転写調節因子は虹彩の発生だけに関わるものではなく,他の眼内組織の発生にも大切な働きをしている.そのため,無虹彩症以外の異常(小角膜・白内障・黄斑低形成・脈絡膜コロボーマなど)を随伴することはまれではない.約1割の患者に腎臓のWilms腫瘍および精神発達遅滞を伴うことも忘れてはならない.c.治療法眼合併症が無虹彩症のみであれば虹彩付きコンタクトレンズでかなり症状は軽減される.併発白内障に対しては外科的治療が有効だがZinn小帯が脆弱であることが多く難易度が高い.Zinn小帯に問題がなければ虹彩付き眼内レンズを.内固定できる.弱いようなら虹彩付き水晶体.拡張リングを使用するとよい..内摘出となった場合は虹彩付き眼内レンズの縫着術が必要である.続めない.II一次的に錐体が障害されるもの前述のように,杆体が障害されると二次的に錐体も障害されるが,逆はどうであろうか.視細胞の2.3%ほどでしかない錐体の障害だけで二次的に杆体障害をきたすとは考えにくい.したがって,錐体杆体ジストロフィは,錐体と杆体の双方に原因をもつ疾患と考えるべきである.たとえば,原因遺伝子の一つである前述のペリフェリンは視細胞外節の構造維持に必要な蛋白質であり,この変異により錐体も杆体も障害される3).これも一次的に錐体が障害されているといえるが,錐体のみの障害である錐体ジストロフィと異なることは明白である.錐体ジストロフィ錐体の光感知から双極細胞へのシグナル伝達系に関わるものの遺伝子変異が知られている.これらの遺伝子は錐体に特異的に存在している.色覚異常も錐体ジストロフィの範疇に入ろうが,ここでは進行性の錐体ジストロフィについて述べる.a.自覚症状10歳を過ぎる頃になって,はじめて視力低下を自覚する(すなわち,それ以前にはまったく視覚障害がなく,眼底所見も乏しいため正しく診断するのは困難であろう).視力は緩徐に低下するが0.1前後で落ち着くことが多い.他の自覚症状として,羞明・色覚異常・昼盲がある.b.検査所見眼底検査で黄斑部に標的状病変を認めることがある.この所見は錐体ジストロフィに特異的とまではいえない.非典型的な黄斑部の病変であったり,明らかな所見がなかったりすることもある.そこで診断にはERGが必須となる.通常のERGでほぼ正常な応答が得られるにもかかわらず,錐体機能を反映するフリッカーERGが平坦化する.c.治療法遺伝子治療などが盛んに試みられているが,現在のところ確立した治療法はない.612あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(40)い.何より問診で先天性のものか後天性のものかを容易に判断できるであろう.おわりに羞明をきたす網脈絡膜疾患を錐体が一次的または二次的に障害されるもの,および錐体障害の有無にかかわらず眼への入光量が増えるものに分け,それぞれの代表的な疾患について自覚症状・検査所見・治療法・鑑別診断を順に述べた.根治療法は確立しておらず今後の医学の進歩に委ねざるをえない.眩しさの対策法は,無虹彩症以外の疾患ではほぼ共通している.眩しさの原因となる短波長光だけを効果的に遮断する遮光眼鏡が有効である.最適な遮光眼鏡の処方は,患者の自覚的な感覚によるためレンズカラーの選択には十分な時間をかける必要がある.最後に,網膜色素上皮細胞に存在するトランスポーター遺伝子の異常は,Stargardt病と加齢黄斑変性症に関連し,ペリフェリン遺伝子の異常は,錐体杆体ジストロフィだけではなく,網膜色素変性症や中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィの原因になることが明らかになってきた.網脈絡膜疾患を診るうえで,臨床診断だけでなく遺伝子診断も大切になってきていることを痛感する.文献1)LeveillardT,Mohand-SaidS,LorentzOetal:Identificationandcharacterizationofrod-derivedconeviabilityfactor.NatGenet36:755-759,20042)MaguireAM,HighKA,AuricchioAetal:Age-dependenteffectsofRPE65genetherapyforLeber’scongenitalamaurosis:aphase1dose-escalationtrial.Lancet374:1597-1605,20093)RennerAB,FiebigBS,WeberBHFetal:Phenotypicvariabilityandlong-termfollow-upofpatientswithknownandnovelprph2/rdsgenemutations.AmJOphthalmol147:518-530,20094)BoonCJ,KleveringBJ,CremersFPetal:Centralareolarchoroidaldystrophy.Ophthalmology116:771-782,2009発緑内障に対しては,まず薬物療法となるが周辺虹彩前癒着が広汎に発生すると外科的治療が必須となる.d.鑑別疾患無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群およびPeters奇形は,虹彩角膜発育異常症に属する先天性の疾患である.後二者が鑑別の対象となろう.非典型例を除けば鑑別が困難なことは少ない.2.白子症チロシナーゼは,チロシンを酸化してメラニンの前駆物質であるドパに変える酵素である.白子症では,このチロシナーゼ遺伝子の異常により,ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)の色素細胞や網膜色素上皮細胞が先天的にメラニン顆粒を欠くか,きわめて少ない状態となる.a.自覚症状入射する光を虹彩で調節できないため羞明を強く訴える.脈絡膜と網膜色素上皮が光の通過を遮ることで,視細胞は効率よく光を受容できる.白子症ではそれができなくなり視力は不良となる.多くの場合,眼振を認める.b.検査所見徹照法で前眼部を観察すると虹彩からも眼底反射が透見できる.眼底検査では全体的に明るく,脈絡膜の血管がくっきりみえ,黄斑部の同定は困難である.眼に限局する眼白子症では皮膚や髪の脱色素は明らかではないが,眼皮膚白子症では皮膚や髪の色は蒼白となる.c.治療法根治療法は現在のところない.メラニンが不足しているため紫外線による影響(皮膚癌など)を受けやすくなる.このため,紫外線対策は大変重要となる.d.鑑別疾患特徴的な疾患であり通常,診断に苦慮することはない.原田病の夕焼け状眼底は白子症の眼底所見に類似するが,前者には周辺部に白色の斑点が散在することが多