‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

視野異常のあれこれ

2009年12月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYが異なり,捉えられる病態も異なる.検査法に応じた部位診断の仕方を理解する必要がある.II視野の見方の基本視野は網膜座標上の各点の種々の視覚刺激に対する感度の空間的分布である.初診時,視野検査は,網膜座標上の感度低下した領域(=視野異常)を拾い出して,その空間的な広がり方から,視路の障害部位を推定するために利用する.結果の解析には,検査の対象となる視覚路の網膜部位再現性(retinotopy)注1)を知る必要がある.1.視野検査の基本原理:網膜部位再現性外界から投影された網膜上の像は,隣り合う空間的なつながり(retinotopy)を保ったまま,視神経から視皮質へと網膜部位再現的に投射される.視路を構成する各部位において,その解剖学的構造が網膜部位を再現しているので,障害された解剖学的部位に応じて,特徴的な視野欠損が生じる.これが視野解析の基本原理である.2.視野を構成する2つの座標軸地図は基準となる座標軸を知る必要がある.視野の原点は,検査の際に固視させる固視点(網膜の中心窩)である.この固視点(中心窩)を通る水平線と垂直線によって張られた座標軸をもとに視野を分析する.原点(固視点)を通る水平線は,網膜の上下の耳側網膜神経線維はじめに視野の定義は検査法によって異なり,その結果,視野異常も「あれこれ」異なる.検査法に応じて,その意味を理解していないと「あれこれ」悩むだけで正しく部位診断ができない.視野は,初診時,部位診断のために検査する場合とすでに診断が確定し視野障害の経過を定量的に評価する再診時に用いるが,本稿では,前者の視野検査から網膜一次視覚野(V1)間の視路の障害部位の推定方法について概説する.なお,自動視野計についての記述では,経験のあるHumphrey自動視野計(HFA)を用いて解説した.用語の違いはあってもOctopusでも基本的には同じである.筆者とCarlZeissMeditec社とは利益供与関係はない.I視野のあれこれもともと視野は見える範囲を意味した.定量的に,視線を固定して光刺激を与えて見える範囲を検査する動的視野計測法(kineticperimetry)によって等感度線(isopter)が導入され,見える範囲が視覚化され,種々の形状の視野異常が“見える”ようになった.その後,コンピュータを用いた自動視野計の発達によって,見える範囲の検査ではなく,視野の各部位における種々の視感覚を定量的に検査する静的視野計測法(staticperime-try)が急速に普及し,自動視野計が提供するGrayscaleや確立プロット図から視野異常を“思い描かない”といけないようになった.検査法に応じて視野の表現の仕方(3)1579atosiasii543855553特集●視野が欠けるあたらしい眼科26(12):15791587,2009視野異常のあれこれHowtoSystematicallyEvaluateVisualFieldDefects柏井聡*———————————————————————-Page21580あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009(4)末梢性の障害が示唆される.3.視路を構成する4つの主領域の網膜部位再現性視野検査の結果から,障害部位を推定するには,(1)網脈絡膜レベルの障害による網膜視細胞障害型,(2)網膜神経節細胞から視神経のレベルの網膜神経線維束障害(NFBD)型,(3)視交叉の障害による異名半盲型,(4)視束から視皮質までの障害による同名半盲型の4つのパターンに整理すると良い(図1).束が縫線を成して接する境界線を反映し,視野の水平の基準線を構成している.原点(固視点)を通る(正中)垂直線は,中心窩に立てた垂直線を境に,耳側と鼻側の網膜神経線維束が視交叉で左右に分かれて,同側および反対側視索へ,それぞれ投射されていく分かれ目を反映する基準線である.したがって,感度低下した領域の広がり方が垂直経線を守れば視交叉から後方の中枢性欠損が疑われ,一方,鼻側水平線を決して越えない欠損は,左右同名性に認められる場合を除いて,網膜神経線維束の耳側縫線に沿う両耳側半盲両鼻側半盲下垂体腫瘍頭蓋咽頭腫内頸動脈瘤眼病変半盲型欠損正中線を守っているか?同名性か?同名半盲側頭葉/視放線病変頭頂葉/視放線病変上1/4盲下1/4盲完全型か?視交叉後方病変(局在性なし)一致性か?視束病変後頭葉病変神経線維束の走行に従っているか?NFBD型欠損視神経病変NoesNoesesNoNoesNoes図1診断の進め方視野欠損の分布を見る.垂直正中線を尊重すれば,半盲性欠損が示唆される.左右の視野を見比べて,異名性なら視交叉病変が示唆される.両耳側半盲は下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫,両鼻側半盲は内頸動脈の巨大動脈瘤を除外する.同名半盲は,視交叉から後方の病変が示唆される.視野検査では,視束から後方を,原則これ以上細かく区別できない.対光反射を参考にする.同名半盲で視力低下がある場合,大きな腫瘤が視神経から視束を障害する場合と両側後頭葉の梗塞による中枢盲(両側同名半盲)がある.視力低下を伴わない同名半盲に対側RAPD(相対的瞳孔求心路障害)を認めれば脳梗塞や脱髄病変が多い.左右網膜の対応点からの投射は,視皮質へ行くにつれ,近づき,左右の視野欠損の形状が一致してくる.完全な同名半盲では局在診断できない.不全同名半盲は,障害部位が後方になるにつれ左右の視野欠損が一致し,後頭葉病変では視野欠損の形状が近似する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091581(5)低下を伴う.ミトコンドリアの呼吸鎖が障害される遺伝性,栄養障害性や中毒性の病態(表1)では,選択的にP細胞を障害し両眼性に特徴的な乳頭黄斑線維束障害型の欠損となる.2)弓状線維束障害型(図3)緑内障性視神経症では特徴的に弓状線維束が障害され(図3a),Bjerrum暗点(図3b)や(Ronne)鼻側階段(図3c)として親しまれている.非動脈炎性前部虚血性視神経症は,鼻側の水平線を守る水平視野欠損(図3d)が生じやすい.3)鼻側放射状線維束障害型(図4)先天性乳頭低形成では盲点とつながる楔状形の耳側視野欠損を生じることがある.欠損が垂直正中線を無視しa.網脈絡膜レベル:網膜視細胞障害型網膜深層の視細胞が障害されると,視野欠損は網膜上の病変の位置,形状に応じた文字通り網膜部位再現性の欠損となる.一方,網膜表層の網膜神経節細胞層が障害されると,病変の大きさや形状とは一致しない.視野検査では,網膜神経節細胞の網膜上の解剖学的な空間分布ではなく,受容野を検査している.周辺網膜では,1個の網膜神経節細胞は,1千個以上の視細胞からの入力を反映するが,中心窩周囲の網膜神経節細胞は,2,3個ないしは時に1個の視細胞からの情報を伝達する.このため,網膜の深層が障害された網脈絡膜瘢痕病巣は検眼鏡的所見に対応した部位に視野欠損が生じるが,網膜表層の網膜神経線維層が障害されると通過線維の障害に伴う網膜神経節細胞死が加わり,検眼鏡的病変の広がりをはるかに越えた視野欠損となる.ただ,この網膜神経節細胞の“巻き添え死”による視野欠損は,視神経乳頭に近いほど著明だが,遠ざかるほど,目立たなくなり,網膜最周辺では,そうした欠損がわからなくなる.このレベルの視野の特徴は,MEWDS(多発性消失性白点症候群)のような例外はあるものの,検眼鏡所見と見比べて評価すると病巣と視野との対応関係を認める点にある.ただ,検眼鏡的に正常だからといって網膜病変を除外することはできない.網膜電図など補助的な検査が必要である.b.網膜神経節細胞から視神経レベル:網膜神経線維束障害(NFBD)型視神経の障害は,おおもとの網膜神経節細胞の機能障害を反映している.ATP(アデノシン三リン酸)要求性の高いP細胞は,網膜神経節細胞の80%を構成し,解剖学的には網膜全体に分布している.しかし,遺伝性や中毒性などP細胞が選択的に障害されると,視野検査では周辺視野は保存され,その入力系の錐体細胞の障害を反映した中心暗点盲中心暗点を呈する(図2).一方,篩板から後方の視神経は,神経線維“束”単位に栄養されるので,障害された神経線維“束”が受け持つ受容野の広がりに応じた欠損となり,神経線維束の走行に沿った特徴的なパターンを呈する(図3).1)乳頭黄斑線維束障害型(図2)乳頭黄斑線維束の障害は,盲中心暗点を作り,視力のab図2中心暗点(a)および盲中心暗点(b)図3下方弓状NFBD型欠損(a)および,Bjerrum暗点(b),(Ronne)鼻側階段(c),下方水平性視野欠損(d)表1ATP欠乏性視神経症Leber遺伝性視神経症ビタミンB12欠乏性視神経症葉酸欠乏性視神経症メタノール視神経症———————————————————————-Page41582あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009(6)て広がるところが正中線を守る耳側半盲と異なる.c.視交叉レベル:異名半盲型視神経の網膜部位再現性は,乳頭黄斑線維束を中心に整理するとよい.乳頭黄斑線維束は視神経乳頭上では,網膜中心血管の外側1/3から1/4に楔形に分布する.眼球を出た直後は視神経の外側に位置し,後方へ行くに従い,乳頭黄斑線維束は,視神経の中心に移動する.こ図4上方鼻側放射状NFBD型欠損LRadbcLRLRLR図5(両側性)下方水平半盲+右上1/4盲片側あるいは両側性下方水平半盲は視交叉前方を下方から押し上げ視神経が視神経管の上壁ないしは動脈硬化した前大脳動脈に押しつけられると生じる.視神経の梗塞では盲点の耳側の水平線は守らない(図3d).両側性水平半盲の鑑別に,ごくまれに外傷や出血によって両側性に鳥距溝の上唇あるいは下唇が障害されると二重同名下1/4盲,二重同名上1/4盲がある.a:HFA:SITAstandard24-2.両眼ともに水平線を守る下方半盲を認め,右眼は耳側上1/4盲を伴っている.b:Gd造影T1強調MRI傍正中矢状断像.Gd造影される斜台から拡大する腫瘍の先端(黒矢印)が視神経から視交叉の前端を持ち上げ視交叉前端が白矢印の部で下方に屈曲している.視交叉の前端が上方から圧迫され下方水平半盲を作る.c:Gd造影T1強調MRI冠状断像.右視神経の視交叉の接合部を腫瘍が内側から圧迫し(黒矢印)右上耳側1/4盲を伴う.d:HFA:SITAstandard30-2.腫瘍切除術後,圧迫が解除され視野欠損は消失した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091583(7)(dorsomesially)に位置するようになり,後方へ行くにつれさらに(鼻側)内方への回転を続け,下方からの線維は背外側に向かって回転し,外側膝状体に到達する前には,完全に網膜上方(12:00)は内側(鼻側)視索に,下方(6:00)網膜は外側(耳側)視索に位置する.したがって,網膜の水平縫線は外側膝状体では垂直方向に投射されることになる.外側膝状体と1次視中枢(V1)をつなぐ視放線の網膜部位再現性の特徴は,視束で網膜神経線維束が鼻側に90°回転し,外側膝状体の直前で網膜の水平線が上下方向の12:00方向(上方)を指すようになっていたが,視放線で逆回転することによって再び解剖学的『上下関係』としての網膜の上下関係を鳥距溝を挟んだ上下の対応に取り戻すところにある.V1の網膜部位再現性の特徴は,前後に伸びる鳥距溝を水平軸とした直交座標系にある.網膜は球面なので黄斑部を原点とした極座標で表す.網膜上の各位置は,中心窩からの距離と,水平線からの角度によって表され,それを球面視野計のドームに投射して表示したのが視野である.網膜座標系は時計に見立てるとわかりやすい.V1では,目の前の時計を見ると,中心から右半分は左V1,左半分は右V1で処理される.網膜座標の3:00─9:00方向の水平線は,前後方向に伸びる鳥距溝上に展開する.一方,網膜座標の中心窩からの距離,つまり,時計の中心から同心円に半径を広げて網膜の周辺に向かって画いた半径は,後頭極を中心窩に,鳥距溝上を前方に向かって展開される.したがって,鳥距溝の前方に網膜周辺部が分布し,頭頂後頭溝(POS)の真後ろに耳側半月が広がる.後頭極(中心窩)から前方のPOSに至る網膜最周辺部れに伴い中心窩を通る垂直線から耳側に位置する網膜神経節細胞からきた非交叉性線維は,当初は,砂時計のように上・下に分かれているが,黄斑線維束が視神経の中心に移動するに伴い,視神経の耳側で接するようになり網膜部位再現的に水平線を構成するようになる.このため,視交叉の接合部付近の障害によっては水平半盲(図5)が生じる.中心窩を通る垂直線から鼻側半分に分布する網膜神経節細胞からの軸索は,視交叉後方で交叉して反対側視束に入る交叉性線維となる.一方,前述の中心窩の耳側半分からの非交叉線維は同側視束に入る.この視神経から視交叉の接合部で,交叉性,あるいは,非交叉性の線維を選択的に障害するとそれぞれ単眼性の耳側半盲,あるいは,鼻側半盲となる.Traquairは,視神経から視交叉の接合部の交叉性線維の選択的な障害による単眼性の耳側半盲をTraquairの接合部暗点(Traquair’sjunctio-nalscotoma)とよんだ(図6a).一方,視交叉周囲病変で同側性の視神経障害に反対側上耳側視野欠損を生じることがある.接合部暗点(図6b)とよばれることがあるが,視交叉接合部における交叉性線維の走行は議論15)が分かれている注2).下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫が視交叉正中部を圧迫すると,交叉して対側へ行く鼻側線維を両眼同時に障害するので両耳側半盲となる.d.視束から視皮質レベル:同名半盲型乳頭黄斑線維束は視束に入った直後は,視束の中心に位置しているが,後方へ行くにつれ背側に移動し網膜上方線維と下方線維の間に割り込み上方に広がる楔形をなして外側膝状体の後上方域に終止する.網膜上方からの神経線維は視束に入るにつれ背内側??LRRabL図62つの接合部暗点a:Traquair接合部暗点は,交叉性線維の障害による単眼性視野欠損.b:接合部暗点は,右視神経の障害で同側性の中心暗点視野障害に加えて,反対側の左眼の上耳側視野欠損の組み合わせを言う.?はWilbrand’sknee注2).———————————————————————-Page61584あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009(8)る点(孤立点)だけでは局所的視野欠損とはいわない.これは,確率プロット図で真っ黒のp<0.5%でも,正常眼でも0.5%でそうした感度低下を示すことがある.見えないのではなく,気がつかなかったのである.自動静的視野検査では,パターン偏差の確率プロット図において,隣り合う2つ以上のp<5%以下のシンボルマークが塊(cluster)をなしているとき,局所的視野欠損と考える(下記IV-3参照).パターン偏差のプロット図で視野欠損を疑うには,必ず“お隣さん”が必要である6).IV視野異常の定義視野は網膜座標を水平面x-y軸に視感度(閾感覚)をz軸として3次元表現した視感度の空間的な分布で表せる.視野検査はこの閾感覚(刺激閾値の逆数)の山の測量に該当する注5).視野異常は,一般に,狭窄(contrac-tions),沈下(depressions),暗点(scotomas)の3つに分類できる.視野の山の外縁がすっぱりと削り取られて断崖絶壁で囲まれたのが狭窄.沈下には,山全体が地盤沈下した全般的沈下と山の表面の一部がへこんだ局所的沈下がある.通常,局在診断に役立つ視野欠損はこの局所的沈下で,その位置,形状が手がかりとなる.暗点は,山の表面に開いた穴である.これらの異常の検出には,検査法に応じて検出力に差があり,それぞれの定義の仕方も異なる.目的に応じて,適切な測定法を選択する.1.対座法対座視野検査は,すべての視野検査の基本である.小児やベッド安静の患者には唯一の検査法である.提示した指の指数弁による静的検査と指や手の動きを用いた動的視野検査によって患者の視線(中心窩)を原点に上下水平に分けた1/4象限の絶対欠損の有無がわかる.幼児では患児の示すsaccadesをもとに評価する.半盲のスクリーニングには最も効率がよく,有効な検査である.1/4盲や半盲が疑われれば,Goldmann動的視野検査で定量的に評価する.また,ヒステリーの管状視野の証明に適している.までの広がり方は,後頭極(中心窩)からの距離に反比例する.鳥距溝の最先端約810%が反対側眼(不対網膜神経線維)由来の耳側半月を表す.一方,中心視野10°が鳥距溝の約60%を占め,さらに中心窩からの投射は,鳥距溝の最後端で終わらず,外側に伸びて後頭葉の表面を1cm横に広がっている.この結果,黄斑回避や同名性傍中心暗点や耳側半月症候群といったV1ならではの視野障害が生じる.III検査結果が異常かどうか視覚は,個人の感覚的体験である.感覚を定量化する視野検査では,結果をうのみにせず,まず,患者のできばえ(performance)を評価する.対座法やGoldmann視野検査では,患者の示す反応が信頼できるかどうか,常に注意し,必ず,検査員は測定用紙にその印象を書く.自動視野計では,定量的にデータの信頼性(固視不良,偽陽性,偽陰性)や再現性が印字されるので,結果の分析にあたって,得られた結果の信頼性を頭に入れたうえで,データを評価する.どんな検査も,異常と決めつける前に,検査が検出できる感度と検査結果の特異度を理解したうえで,結果を評価しないと正確な分析ができない.動的視野検査では,測定点1点の特異度は低いが,欠損が疑われる場合は,予想されるisopterに直交するように視標を移動させ,測定点を増やすことによって,データが群としてつながると信頼性が増す.動的視野検査の精度は,測定点の個数に反映される.スクリーニングでは,視野の基準の水平(盲点鼻側),垂直軸を挟んで対をなす部位でステップの有無を調べ,それぞれ末梢性,中枢性の欠損の検出感度を高める.測定の際のポイントであるとともに,結果を読むポイントでもある.静的自動視野計(HFA)では,各測定点の正常値からの感度低下をトータル偏差注3)として算出し,確立プロット図上に,正常眼の感度分布でそうした値をとる確率をシンボルマークでp<5%,2%,1%,0.5%と灰色4段階表示される.シンボルマークが黒くなるほど,その値以下の全体に占める割合は低くなり,異常値である可能性が大きくなる.しかし,パターン偏差注4)の確率プロット図上,シンボルマークがたった1つ孤立してい———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091585(9)2.動的視野検査動的視野検査は,視標を動かして見える領域と見えない領域の境界(動的閾値)を曲線でつないだisopterによる同心円状の動的閾値の等高線注6)で地図表示する.動的視野検査では,視野欠損はisopterが内向きに偏位している領域と定義される.中心暗点が疑われる患者には平面視野計による中心視野計測が原理的に最もすぐれている.また,管状視野の診療録上の記録に用いる.Goldmann動的視野検査は,検査員が迅速に広い範囲を検査できる柔軟性が特徴である.広範囲な視野欠損が疑われる患者や自動静的視野検査がむずかしい患者に用いる.視野欠損がある程度の広がりをもち,感度低下のはっきりした進行例に適しているが,半盲の初期診断には静的視野検査のほうが感度が良い.したがって,一般的に動的視野検査は広範囲の欠損を検出するのに適し,静的視野は小さな欠損を見つけるのに向いている.3.自動静的視野検査自動静的視野検査は網膜上の一定の場所の視感度を測定し網膜座標上に表示する.検査が正確にできれば,初期の感度低下を検出するにはすぐれた検査で,また,その後の経過をソフトによって統計学的に評価できる.自動視野計では,視野欠損は以下の定義従って,NFBD型,半盲型,非局在型の3つに分けられる6).a.神経線維束障害(NFBD)型パターン偏差のプロット図上,p<5%以下のシンボル点が3つ以上隣り合って塊をつくり,そのうちの1つがp<1%の深い感度低下を示す“核(nucleus)”が,神経線維束の走行に沿ってあればNFBD型欠損(図7b)を疑う(Andersonの定義)6).パターン偏差のプロット図の最周辺部は測定点間のバラツキが大きいので3つの数の勘定には入れないが,他の低下部位の3つと連続性を保っているときは有意と取る.NFBD型欠損を疑えば,GlobalIndexのPSD(パターン標準偏差)がp<5%以下であるか,裏づけを取る.さらに,Humphrey視野計では,網膜神経線維束の走行を考慮した緑内障半視野テストが用意されており,異常と表示されれば緑内障性NFBD型欠損が示唆される(Andersonの3徴)6).なお,言うまでもなく,検眼鏡的に対応する緑内障性陥凹など診断にあたっては他の臨床所見が必要である.NFBD型欠損は,さらに弓状神経線維束欠損型,水平視野欠損型,鼻側階段型,中心暗点,傍中心暗点に分類され,自動視野計による各定義がある)6).b.半盲型パターン偏差のプロット図において,半盲ではシンボルマークが正中垂直線を越えることなく,正中線の上下方向に強く執着して分布する.一方,NFBD型など非半盲性欠損では,正中線を無視して左右のつながりに連関して広がる.半盲が明らかな患者に自動静的視野検査は時間の浪費である.初期半盲の診断こそ,自動視野計の適応で,自動視野計でしか検出できない.初期半盲,すなわち,垂直ステップは実測値をもとに定義(Mills)される6).測定感度値マップの正中線を挟む左右の対の数値を比較する(図8b).左右差が2dB以上あれば有意と考え,正中線に沿って比較していく.正中線に沿って上下に連続して3個以上,一方が高ければ,すべて高いとき,さらにその横(正中線から2番目の縦の列)の数値の対を比べる(図8b).それらの対の閾値も,同様の極性を示し,一方が閾値が高ければ,すabパターン偏差図7自動視野計のNFBD型欠損の定義(HFA:全点閾値30-2)a:Grayscaleは,プリンターの関係で感度を8階調の白黒の濃淡に置き換えて,計測していない部分を数学的に補間し見た目に一様になるように,灰色の濃度で表示される.全体的なイメージをつかむ程度で,自動視野計の視野欠損はパターン偏差のプロット図(b)で決める.b:シンボルマークは連続して3個以上集まって塊をなし,盲点につながるように分布し,p<1%の核をもっていることからNFBD型欠損といえる(Andersonの定義).———————————————————————-Page81586あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009べてにわたって,他側の閾値より高いとき,正中線を境に有意の垂直ステップがある(Millsの定義)6)と考える.なお,極性は無視して,正中線間の対のみの比較で,耳側半盲の早期診断をするために,正中線に沿って耳側が2dB以上の低下が連続4対,あるいは3dB以上の低下が連続3対あれば有意とする見方もある7).垂直ステップと診断できたら,頭部画像検査を,必ず,行い,視路病変を除外する(図8c).トータル偏差やパターン偏差の確率プロット図では垂直ステップの早期診断はできない.正中線に沿って,実際のデータの左右を比較して初めて早期診断が可能となる.なお,半盲型視野欠損は,頻度的には視路の障害による中枢性の原因が多いが,末梢性には緑内障が多く,まれに網膜色素変性症でも認められる.c.非局在型局所的欠損がNFBDや半盲にあてはまらない場合,病巣の局在診断はできない.患者の検査のできばえをみて,検査の方法やプログラムを変えて再検してみる.パターン偏差の確率プロット図上,孤立点は診断的意義はなかった.スクリーニングで用いる中心24°や30°自動静的視野検査では,固視点の周りの4点は,特異点とよんで,この原則の例外となる.固視点周囲の4点は,単一プリントアウトでは単独の孤立点のように見えても,左・右眼のプリントアウトを見比べて同一象限の測定点が対をなして感度低下(p<0.5)していれば,同名半盲性傍中心暗点が示唆され,有意な欠損と考える6).後頭極の画像検査を行う.(10)図8自動視野計の半盲型欠損の定義(HFA:SITAfast30-2)a:Grayscaleでは上耳側周辺部辺縁に濃く輪状に辺縁に沿って鼻下側にかけて感度低下トーンを認めるが,パターン偏差では鼻側辺縁を除いて対応するシンボルマークは認められず,鼻側辺縁の低下閾は部位診断には役立たず非特異的欠損である.一方,盲点につながるシンボルマークは3個以上集簇し,なかにp<1%の核を認めNFBD型と言えないことはない(許可を得て文献6より転載).b:正中線をはさむ各対(赤枠)について,2dB以上の差がないか左右を比べる.囲まれた3つの組ですべて左のdB値が大きく感度が高い.さらに,それを挟む隣の左右の対(青枠)を比較する.いずれも左側の感度が対する右側の感度より2dB以上大きく,極性が保持されていることからVerticalStepである(Mills定義).盲点(△印)の位置から右眼の耳側半盲とわかる(許可を得て文献6より転載).c:(Gd造影T1強調MRI冠状断像)下垂体腫瘍が右視神経-視交叉接合部を内側から圧迫(黒矢印)している.パターン偏差abc———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091587おわりに視野異常の診断は,検査法によって異なり,視野欠損の定義も,それに応じて異なる.それぞれをきちんと理解することが大切である.文献1)HortonJC:Wilbrand’skneeoftheprimateopticchiasmisanartefactofmonocularenucleation.TransAmOph-thalmolSoc95:579-609,19972)KaranjiaN,JacobsonDM:Compressionoftheprechias-maticopticnerveproducesajunctionalscotoma.AmJOphthalmol128:256-258,19993)HortonJC:Compressionoftheprechiasmaticopticnerveproducesajunctionalscotoma.AmJOphthalmol129:826-828,20004)SchieferU,IsbertM,MikolaschekEetal:Distributionofscotomapatternrelatedtochiasmallesionswithspecialreferencetoanteriorjunctionsyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol242:468-477,20045)LeeJH,TobiasS,KwonJTetal:Wilbrand’sknee:doesitexistSurgNeurol66:11-17,20066)柏井聡:自動静的視野検査の読み方─ハンフリーに隠された5つのリング:“TheLordoftheRings”.神経眼科26:243-260,20097)FujimotoN,SaekiN,MiyauchiOetal:Criteriaforearlydetectionoftemporalhemianopiainasymptomaticpitu-itarytumor.Eye16:731-738,2002(11)語解説注1)Retinotopy:視覚路の各部位における,網膜地図上の各点の再現の仕方をretinotopyという.日本眼科学会の用語集では網膜投射部位と訳されているが,正確には,網膜の光刺激に対して,網膜上の空間的な位置関係を,その解剖学的構造に保持して反応を示すニューロンの空間的な分布の仕方を指す.神経眼科学会の用語集では対網膜部位再現と訳されている.注2)Wilbrand’sknee:古典的に,視交叉では鼻下側の網膜神経線維は,対側の視神経・視交叉接合部に,一旦,前方に弧を描いてWilbrand’sknee(図6の印)を形成してから,対側の視索に入ると考えられていた.臨床的に,視交叉につながる視神経の単独部位の障害で,同側性の視神経障害だけでなく反対眼にも上耳側視野欠損を作り,両眼性の視野異常となるため,その特異な機序から,接合部暗点とよばれてきた.その後,サルのトレーサーを用いた組織化学的研究から,Wil-brand’skneeは眼球摘出によって交叉性線維が変位してしまったアーチファクトで生体での存在を疑問視する論文が発表された1).臨床例からの接合部暗点の合理性を唱える報告24)や,疑問視する報告5)など,混乱しているのが現状である.注3)トータル偏差(Totaldeviation):各測定点における測定値を同年齢の正常群の中央値から引いた差.注4)パターン偏差(Patterndeviation):視野のおおよその高さ(generalheightofthevisualeld)として,測定点のなかで盲点近傍の3点を除いた測定値のうち85%点(percentile)の値,つまり,最も感度の良い点から7番目の感度を示した測定点で代表させる.この点の正常値からの差を,患者の視野のおよその高さ(gen-eralheight)と決め,正常視野から,その高さ分,全体的な沈下あるいは上昇しているとみなす.この全体的な沈下量あるいは上昇量を各トータル偏差値に加えあるいは差し引いて地図表示したのがパターン偏差である.白内障などの影響で全体的に地盤沈下して隠れてしまった局所的な欠損を引き出す工夫である.注5)Traquair’sislandofvision:視野をTraquairは暗黒(blindness)の海に囲まれた島として,DouglasAndersonはHillofvisionに喩えた.注6)Isopterの表示法:一定の視覚刺激(視標)を移動させて求めた動的閾値(dB表示では感度)による等高線をisopter(ギリシャ語でequalvision)という.平面視野計では,視標の大きさと検査距離で表し分数表示する.直径1mmの白色視標を1mで検査した場合,Isopter1/1,000Wと表示する.57.3(=180°/p)をかけると視角となり,I1/100Wは0.0573°である.Goldmann視野計では,検査距離が33cmと一定なので,isopterは大きさと視標の輝度で表す.視標の大きさはローマ字数字表示で0(1/16mm2),I(1/4mm2)と4倍間隔,輝度は5dB感覚のアラビア数字と1dB感覚のアルファベット文字を組み合わせて,I4eのように表示する.視標面積を表す数字と輝度を表す数字の和が等しい視標どうしは同様に感覚され同一isopterとなる(調和現象).I4eはII3eやIII2eと同一isopterである.Isopterの概念はRonneが創始した.

序説:「視野が欠ける」患者への対応

2009年12月31日 木曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYく伝えられる特集にしたいと考えた.視野に関する学問の進歩を概観すると,1945 年の Goldmann 視野計の開発,1976 年の Octopus 視野計の登場を契機として,視野学が発展してきたことがよくわかる.それぞれ,動的視野計測,静的視野計測に関する革命が起こったわけである.Hum-phrey Field Analyzer は 1982 年に登場して以来,国際的に最も頻用される視野計となり,IT テクノロジーの進歩ともあいまって,他の視野計も含めて自動視野計の視野測定法や経過観察プログラムが長足の進歩を遂げている.計測ストラテジーの進歩による測定の正確性の向上,測定時間の短縮,視野信頼性指標の充実などが図られるとともに,経過観察プログラムの信頼性向上が,患者管理をあるべき方向に導いているのである.こうした視野学の進歩に関しては,専門家には理解されているものの,初学者や実地医家の先生方には必ずしも理解していただけていない部分があるようにも思える.視野の臨床応用に必要な現代的知識に関しても十分に理解していただけるようにしたいと考えた.そこで,本誌では,視野の理論ならびに臨床応用に詳しい専門家にご執筆いただき,現代の視野を特に疾患との兼ね合いで理解できる特集を組むこととした.特集の前半では視野検査と視野異常に関する総論を扱い,後半では視野異常をきたす疾患を取り本誌では「眼の症状シリーズ」として,眼科疾患の代表的な主訴を取り上げ,その主訴に対する対処法や主訴に関連した疾患の診断と治療の特集を組むことになった.今回はその第 2 弾として,「視野が欠ける」をお届けする.各執筆者には,基本的事項に力点を置いていただくよう,特にお願いした.視野欠損はそれほど頻繁に耳にする主訴ではないものの,重要な主訴である.網膜,視神経疾患が原因であることが多く,また,きわめて重篤で手術や入院が必要な患者が多いことも特徴である.「視野が欠ける」という眼科医にわかりやすい訴えとなることは比較的少なく,「物にぶつかりやすくなった」とか「道路の窪みに足を取られる」といった周辺視野の異常を示唆させる表現がされたり,「見ようとするところがぼける」とか「真ん中が白く見える」のような中心視野の障害を疑わせる表現がされることが多い.眼科医にはそうした訴えから視野異常を疑い,適切な視野検査のプログラムを指示する能力が問われる.もう一つの代表的な視機能指標である視力が日常的に測定されるのに対して,視野測定は眼科医の指示がなければ測定されないことが多い.このことは,視野情報さえあれば見逃されることのない,いくつかの疾患の診断や進行の判断が時として遅れる可能性を示すものであり,われわれ自身の責任は大変に重い.そうした実践的な事柄が,正し(1)ツ黴€ 1577 1ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 2ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ●序説 あたらしい眼科 26(12):1577 1578,2009「視野が欠ける」患者 の対応Management of Patients with Visual Field Abnormality山本哲也*1松本長太*2———————————————————————- Page 21578あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(2)上げた.まず,総論では,柏井聡氏(大阪赤十字病院)に,視野異常の種類,部位診断の基本についての解説をしていただいた.また,企画編集者の一人でもある松本が,最近の視野検査の進歩とその具体的利用法について解説を加えた.最も普及している自動視野計である Humphrey 視野計の基本的な読み方に関して,鈴村弘隆氏(中野総合病院)に解説していただいた.福地健郎氏と芳野高子氏(新潟大学)には,視野の信頼性の確認やアーティファクトなど,視野の解釈の際,斟酌すべき点を中心にまとめていただいた.どの総説も力作であり,視野に関する知識を飛躍的に増やすと確信している.各論として,診断や経過観察に視野検査を利用することの多い,網膜疾患,緑内障,視神経/中枢性異常,ヒステリーを取り上げることとした.網膜疾患による視野異常に関しては飯島裕幸氏(山梨大学)に解説をお願いした.飯島氏は,網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性症などの網膜疾患においても,管理に視野を応用すると病態や視機能をより明確に把握できることを強調されている.緑内障による視野異常は澤田明氏(岐阜大学)に,緑内障を除く視神経疾患と中枢性の視野異常は西村雅史氏と三村治氏(兵庫医科大学)が解説されている.加えて,視野に関連して臨床医が悩むことの多い状況として,ヒステリーなどの心因性疾患および詐病で認められる視野異常があげられる.このことに関して,基本解説と他科受診を含む対処法について,松下賢治氏(大阪大学)に依頼した.各論に関しても,目から鱗の落ちる新鮮な筆さばきが随所に認められる.各執筆者のご努力により,簡潔にして,完結した,現代の眼科医が知るべき視野に関する良い読みものができた.読者諸氏の熟読に期待したい.

成人斜視の手術成績と術後の満足度

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(127) 15670910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1567 1571,2009cはじめに斜視の存在が両眼視機能の喪失や複視など視機能に影響を及ぼすことや,眼精疲労,整容面での問題をひき起こすことは,広く知られている.これらに加えて,欧米では,斜視は自尊心や自信の喪失など心理学的に負の影響を与えるという報告1 4)や,他人から低く評価されやすく,雇用の機会においても不利な影響があり,斜視を有さない人と比較して平均年収が低いという報告もある5 7).一方,斜視手術を行うと,外見に対する自信の回復,精神的ストレスの軽減に効果があり,心理学的側面において改善がみられたという報告もあ る3,8).斜視に起因する機能面・整容面の問題は,患者の精神心理面のみならず社会経済学的側面にも悪影響を及ぼす可能性があり,斜視手術の効用は眼科的検査所見だけでなく,日常生〔別刷請求先〕藤池佳子:〒152-8902 東京都目黒区東が丘 2-5-1国立病院機構東京医療センター・感覚器センターReprint requests:Keiko Fujiike, C.O., National Institute of Sensory Organs, National Hospital Organization Tokyo Medical Center, 2-5-1 Higashigaoka, Meguro-ku, Tokyo 152-8902, JAPAN成人斜視の手術成績と術後の満足度藤池佳子勝田智子水野嘉信羽藤晋山田昌和国立病院機構東京医療センター・感覚器センターSurgical Results of Strabismus Surgery in AdultsKeiko Fujiike, Tomoko Katsuta, Yoshinobu Mizuno, Shin Hato and Masakazu YamadaNational Institute of Sensory Organs, National Hospital Organization Tokyo Medical Center2004 年 1 月から 2005 年 12 月に東京医療センターで斜視手術を施行した 16 歳以上の 52 例〔年齢:16 81 歳(平均 43.5±19.8 歳),性別:男性 23 例,女性 29 例〕を対象に,その手術成績と患者の満足度について評価を行った.症例の内訳は共同性外斜視 23 例,共同性内斜視 9 例,麻痺性斜視 16 例,機械的斜視 4 例であった.治癒判定は,手術目的により,他覚的斜視角が水平 15Δ・上下 10Δ以内または,第一位眼位または日常よく使う眼位での複視の消失とし,アンケート調査結果も含めて手術目的と術後の満足度について検討した.手術目的は「複視」27 例,「整容面」20例,「眼精疲労」5 例で,術後に治癒基準に達したのは 52 例中 39 例(75.0%)であり,一方で自覚的満足が得られたのは 42 例(80.7%)であった.治癒基準と自覚的満足の関係をみると 41 例(78.9%)では両者が一致したが,11 例(21.1%)では不一致となった.成人の斜視手術では,機能的効用とともに,精神的ストレスの軽減や性格面での変化など手術による精神心理的効用が大きいことが示唆された.We assessed the results of strabismus surgery and patient satisfaction in 52 adults who underwent corrective surgery at Tokyo Medical Center, Department of Ophthalmology, between January 2004 and December 2005. The patients comprised 23 males and 29 females, age 16 to 81 years(mean age:43.5±19.8 years), comprising 23 cases of exotropia, 9 of esotropia, 16 of paralytic squint and 4 of mechanical strabismus. On postsurgery we evaluated eye position and diplopia reduction. Deviation of postsurgery was within 15 prism diopters at horizontal and 10 prism diopters at vertical;the reduction of diplopia in the primary position was deemed a good result. We sent the patients a questionnaire regarding their satisfaction with the surgery, and examined the purpose and utility of strabismus surgery. The purposes of the surgery had been diplopia in 27 cases, cosmetic in 20 and asthenopia in 5. In 39 patients(75.0%), eye position and diplopia were improved;42 patients(80.7%)were satis ed. The objective evaluation of surgery did not match the subjective satisfaction in approximately 20% of cases. We show that stra-bismus surgery in adults not only improves visual function, but also confers psychosocial bene ts, such as stress reduction and emotional change.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1567 1571, 2009〕Key words:成人,日常生活機能,手術,斜視.adults, quality of life, surgery, strabismus.———————————————————————- Page 21568あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(128)活機能や精神心理面など患者側の視点からも評価されるべきと考えられる.今回,成人斜視症例の手術成績を後ろ向きに検討し,術後の手術成績と患者側の満足度との関係についても評価を試みたので報告する.I対象および方法1. 対象対象は 2004 年 1 月から 2005 年 12 月の間に東京医療センターで斜視手術を施行した 16 歳以上の斜視症例 52 例である.年齢は 16 81 歳(平均 43.5±19.8 歳)で,性別は男性23 例,女性 29 例であった.斜視のタイプの内訳は,共同性外斜視が 23 例と最も多く,ついで麻痺性斜視 16 例,共同性内斜視 9 例,機械的斜視 4例であった.共同性外斜視では間欠性外斜視が 16 例を占め,術後外斜視が 3 例,残余外斜視,廃用性外斜視が各 2 例であった.共同性内斜視では,後天性内斜視が 7 例,術後内斜視,廃用性内斜視が各 1 例であった.麻痺性斜視では,上斜筋麻痺が 11 例,動眼神経麻痺が 3 例,外転神経麻痺と上直筋麻痺が各 1 例で,機械的斜視では,網膜 離術後の癒着性斜視が 3 例,固定内斜視が 1 例であった.また,斜視手術の既往のある再手術症例は 52 例中 13 例であり,共同性外斜視 5 例,共同性内斜視 5 例,麻痺性斜視 3 例(上斜筋麻痺 2例,外転神経麻痺 1 例)であった.2. 方法術前術後の眼位・眼球運動などの検査所見や手術の内容,経過については診療録から後ろ向きに調査した.診療録の記載に基づき,手術を受けたおもな動機を,複視,眼精疲労,整容面の 3 つに大きく分け,術後の診療録から患者の満足度を評価した.術後の自覚的満足度については,診療録の記録を補完するために 2006 年 3 月に郵送によるアンケート調査を依頼し,手術を受けて良かったこと,良くなかったこと,手術を受けて日常生活で変化したことなどを自由記載で回答してもらい,郵送で回収した.手術からアンケートまでの期間は症例により異なっており,術後 3 26 カ月(平均 14.2±6.7 カ月)とかなりの幅が生じた.アンケートは,転居先不明などで配送できなかった例が 5 例あり,アンケートが回収できたのは 47 例中 24 例,回収率は 51.1%であった.術後 3 カ月の時点で検査所見からの治癒の判定を行った.治癒の基準は,日本弱視斜視学会による斜視の治癒基準9)に準拠し,手術の目的に応じて,整容面の改善または眼精疲労の軽減を手術目的とした症例では「他覚的斜視角が水平 15Δ・上下 10Δ以内」,複視の軽減,解消を手術目的とした症例では「第一眼位または日常よく使う眼位での複視の消失」とした.II結果1. 手術を受けた動機手術の目的は,複数の要因が存在する症例も少なくなかったが,診療録とアンケートの記載からおもな目的を判断し,いずれかに分類した.手術を受けた目的は「複視」が 27 例(51.9%)と最も多く,ついで「整容面」が 20 例(38.5%),「眼精疲労」が 5 例(9.6%)であった.眼精疲労を手術目的とする症例は 5 例中 4 例が男性であったが,「複視」では男性 11 例,女性 16 例,「整容面」では男性 8 例,女性 12 例で,女性がやや多い結果であった(表 1).年齢による手術目的は,30 歳未満の若年層では「整容面」が 19 例中 14 例(73.7%)で他の手術目的に比べ最も多かったのに対し,50 歳以上の症例では「複視」が 23 例中 17 例(73.9%)と圧倒的に多くみられた(図 1).30 歳未満の若年層で,「整容面」を手術目的とする 14 例は,男性,女性とも各 7 例で,性差はみられなかったが,50 歳以上の症例では「整容面」を目的とする 4 例はすべて女性であった.斜視のタイプ別にみた手術目的は,機械的斜視では 4 例中3 例(75.0%)が「複視」であり,麻痺性斜視でも「眼精疲労」を訴えた代償不全型の上斜筋麻痺の 1 例と,先天性動眼神経麻痺で「整容面」を目的とした 1 例を除き,16 例中 14表 1手術の目的手術の目的男性女性計複視11 例(21.1%)16 例(30.8%)27 例(51.9%)整容面 8 例(15.4%)12 例(23.1%)20 例(38.5%)眼精疲労 4 例(7.7%) 1 例(1.9%) 5 例(9.6%)計23 例(44.2%)29 例(55.8%)52 例(100%)16 2930 3940 49年齢層(歳):眼精疲労:整容面:複視例数50 5960 6970 861432121117383620151050図 1年齢による手術の目的20 歳代以下の若年層では「整容面」が 19 例中 14 例(73.7%)で他の手術目的に比べ最も多かったのに対し,50 歳代以上の症例では「複視」が最も多く 23 例中 17 例(73.9%)であった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091569(129)例(87.5%)が「複視」であった.それに対し,共同性外斜視では 23 例中 14 例(60.9%)が「整容面」で,他の手術目的に比較し多く,共同性内斜視では 9 例中 4 例(44.4%)が「整容面」で,共同性外斜視・内斜視症例を合わせると 32例中 18 例(56.3%)で,過半数を占めた.「眼精疲労」は 5例中 4 例が間欠性外斜視で,1 例は後天性上斜筋麻痺の症例であった(図 2).2. 手術成績(客観的治癒と自覚的満足度)手術後に眼位および複視,眼精疲労の状態が客観的な治癒基準に達した症例は,52 例中 39 例(75.0%)であった.客観的治癒に達しなかった 13 例(25.0%)の内訳は,麻痺性斜視が 5 例,ついで共同性外斜視 4 例,共同性内斜視 3 例,機械的斜視 1 例であり,斜視のタイプによる差はみられなかった.手術目的別にみると,「整容面」が 7 例と半数以上を占め,「複視」が 4 例,「眼精疲労」が 2 例であった.一方,手術後に自覚的満足が得られたと判定されたのは52 例中 42 例(80.8%)であった.「整容面」では 20 例中 16例(80.0%),「複 視」 で は 27 例 中 24 例(88.9%)と, 自 覚的満足が得られた症例の割合が多かったのに対し,「眼精疲労」では 5 例中 2 例(40.0%)のみで,「複視」「整容面」に比較して自覚的満足が得られにくい結果となった.自覚的満足と客観的治癒評価が一致した症例は 52 例中 41例(78.8%)で,このうち,客観的治癒が達成され,かつ自覚的満足が得られた症例は 35 例(67.3%)(表 2)に対し,自覚的な満足は得られたものの客観的治癒が達成されなかった症例が 7 例(13.5%),逆に客観的治癒が達せられたにもかかわらず自覚的満足が得られなかった症例が 4 例(7.7%)あり,合わせて 11 例(21.2%)の症例で自覚的満足と客観的治癒の判定結果が一致しない結果となった.自覚的満足と客観的治癒の判定結果が一致しなかった症例のうち,客観的治癒基準に達しないのに自覚的満足が得られた 7 症例は,手術目的が「整容面」の症例が 5 例,「複視」の症例が 2 例で,年齢や性別はさまざまであった.斜視のタイプについても,麻痺性斜視が 3 例(上斜筋麻痺 2 例,先天性動眼神経麻痺 1 例),廃用性斜視 2 例(内斜視 1 例,外斜視 1 例),後天性内斜視 1 例,術後内斜視 1 例で一定の傾向はなかった.一方,治癒基準に達しているのに自覚的満足が得られなかった 4 症例は,いずれも共同性外斜視で,整容面を手術目的とする症例が 2 例,複視と眼精疲労を手術目的とする症例が1 例ずつで,手術目的による差はみられなかった.整容面を目的とする 2 症例のうち,術後外斜視の症例では 8Δの上下斜視の残存を認め,残余外斜視の症例は術後に眼位はほぼ外斜位になったもののときどき外斜視が顕性化する症例であった.複視を手術目的とする間欠性外斜視の症例では,第一眼位での複視は消失したものの,側方視時に複視が残存し,眼精疲労を主訴とした間欠性外斜視の症例では眼精疲労自体は緩和されたものの,整容面がまだ気になると訴えた症例であった.3. 術後アンケートの結果術後アンケートの内容は,手術を受けて良かったこと,良くなかったこと,日常生活での変化について自由記載方式で回答してもらった.手術を受けて良かったことについては,アンケートの回収が可能であった 24 例中,複視の消失や軽減など視機能の改善をあげた例が 6 例(25.0%),車の運転や裁縫が可能になったと社会生活機能の改善をあげた例が 6例(25.0%),目の疲れの軽減をあげた例が 7 例(29.2%)あった.しかし,それ以上に最も多かった回答は,これらの機能面での効用ではなく,精神的ストレスが軽減したという例で 16 例(66.7%)にのぼった.また 7 例(29.2%)の症例が「気持ちが明るくなった」「積極的になった」などの性格面での前向きな変化を報告していた.表 2客観的治癒と自覚的満足度の関係客観的治癒(+)客観的治癒( )計自覚的満足(+)35 例(67.3%)7例(13.5%)42 例(80.8%)自覚的満足( )4例(7.7%)6例(11.5%)10 例(19.2%)計39 例(75.0%)13 例(25.0%)52 例(100%)客観的治癒基準:(1)他覚的斜視角が水平 15Δ,上下 10Δ以内.(2)第一眼位または,よく使う眼位での複視の消失.自覚的満足:診療録の記載とアンケートから総合的に判断.図 2斜視のタイプによる手術の目的斜視のタイプによる手術目的は,機械的斜視や麻痺性斜視では「複視」が多かったのに対し,共同性外斜視・共同性内斜視の症例では「整容面」が比較的多くみられた. (図中の数字は例数を示す):複視:整容面:眼精疲労0%20%40%60%80%100%514454141131共同性外斜視共同性内斜視麻痺性斜視機械的斜視———————————————————————- Page 41570あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(130)なお,手術を受けて良くなかったことについては,「複視の残存」をあげた例が 7 例(29.2%)で最も多く,ついで「整容的に不満足」,「手術時の痛み,恐怖感」と答えた例が各 2例(8.3%)みられた.III考察一般に,小児における斜視の手術は,主として正常な両眼視機能の獲得や保持を目的に,機能的な治癒を目指して施行され,将来的に正常両眼視機能の獲得,構築がなされれば,治療は奏効したといえる.これに対し,成人斜視においては,手術の目的も複視や眼精疲労の軽減,解消といった機能的側面から整容面での改善などの心理,社会的な側面まで多様である.また,多くの場合,患者自らが希望して手術治療が行われる点も小児とは大きく異なる点と思われる.したがって,いかに術前の主訴が改善されたかという患者の自覚的な満足度は治療の評価のうえで重要な事項と考えられる.今回の結果では,成人斜視患者の手術目的は,「複視」が全体の半数以上を占め最も多く,ついで「整容面」,「眼精疲労」の順であった.「複視」の症例では,麻痺性斜視や機械的斜視が多く,「眼精疲労」「整容面」の症例では共同性外斜視が多い傾向にあった.小花らは,成人斜視患者のうち,外斜視患者では整容的な改善を手術目的とする症例が最も多く,内斜視患者では複視が多いと報告し10),大淵らは成人外斜視患者で手術を受けた理由は「外見上」と「疲れる」が多かったと報告している11).今回の結果も共同性外斜視症例では同様で,23 例中 14 例(60.9%)が整容面での改善を手術目的とし,他の手術目的と比較し多く,共同性内斜視症例では 9 例中 5 例(55.6%)が複視の解消を目的としていた.今回の結果において,共同性外斜視症例で複視を主訴とするものが少なかったのは,23 例中 16 例(69.6%)が間欠性外斜視であったこと,逆に共同性内斜視症例で複視の訴えが多かったのは,廃用性内斜視の 1 例を除き,すべて後天性であったことが,その要因と推察された.共同性内斜視以上に複視の訴えが多くみられたのは麻痺性斜視であり,16 例中 14 例(87.5%)と大多数を占めていた.客観的治癒と自覚的満足との関係では,客観的治癒基準の達成が自覚的満足の獲得につながる症例が多い一方で,全体の約 2 割の症例では自覚的満足度と客観的治癒の判定が一致しない結果となった.篠原らは,成人斜視症例において眼位の改善率と自覚的満足は必ずしも一致せず,自覚的満足が得られるかどうかには複視の有無が大きく関与し,視方向により複視の残存する麻痺性斜視では自覚的満足が低かったと報告している12).今回の結果においても,自覚的満足が得られなかった 10 症例のうち,客観的治癒の達せられなかった 6例中 3 例は複視を主訴とする症例で,客観的治癒の達せられた 4 例は,いずれも術後に側方視時の複視を訴えた症例であり,複視の有無が自覚的満足に大きく寄与しているものと推察された.客観的治癒と自覚的満足が一致しなかった症例のうち,客観的治癒基準に達しないものの自覚的満足が得られた 7 症例は,年齢,性別,および手術目的はさまざまで,斜視のタイプについても,共同性内斜視,共同性外斜視,麻痺性斜視が混在しており,特徴的な傾向は認められなかった.客観的治癒基準に達しないのに自覚的満足が得られた理由として,先天性動眼神経麻痺の症例では,整容面の改善を目的として手術を受けたところ,複視も軽減し追加の効用があったことが推測された.廃用性斜視 2 例と後天性内斜視 1 例では,術前に 50Δ以上の大きな斜視角があり,術後に斜視角が半分以下に減少し,整容的にあまり目立たなくなったことが理由として考えられた.また,上斜筋麻痺の 2 例と術後内斜視の 1例では,斜視になってから治療に至るまでの期間が長く,手術を受けたこと自体への満足感,達成感が自覚的満足につながったものと推察された.逆に治癒基準を達成しているのに自覚的満足が得られなかった 4 症例は全例が共同性外斜視であった.外斜視は運動面と感覚面とで多彩な病態と自覚症状を呈するが,術後にもさまざまな愁訴を訴えることが多いため,自覚的満足が得られにくいことが推察された.術後アンケートによる,手術を受けて良かった点,日常生活での変化したことという観点からみた手術の効用は,複視の消失や立体感の獲得など視機能の改善,車の運転や裁縫などの社会生活機能の改善,眼の疲れの軽減という回答があった一方,最も多かった回答は精神的ストレスが軽減したという回答であり,また,明るくなった,積極的になった,など性格面での前向きな変化の報告が多くみられた.成人斜視に対する手術は機能面での改善以上に,精神心理面での効用が大きいことが示唆された.ただし,今回のアンケート調査は手術からの期間が症例により異なっており,術後 3 26 カ月とかなりの幅があった.転居などでアンケートが配送できなかった症例や回収できなかった症例がかなりあり,回収率は 51.1%にとどまった.自由記載という形式も患者の満足度の評価方法としては問題があると思われた.今後は,患者の満足度・不満足度の評価には,日常生活機能の調査票など定量性・妥当性が確立した一定のフォーマットを用い,術後の時期を合わせて検討する必要があると考えられた.文献 1) Satter eld D, Keltner JL, Morrison TL et al:Psychosocial aspects of strabismus study. Arch Ophthalmol 111:1100-1105, 1993 2) Paysse EA, Steele EA, McCreery KM et al:Age of the emergence of negative attitudes toward strabismus. J ———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091571(131)AAPOS 5:361-366, 2001 3) Menon V, Saha J, Tandon R et al:Study of the psychoso-cial aspects of strabismus. J Pediatr Ophthalmol Strabis-mus 39:203-208, 2002 4) Hatt SR, Leske DA, Kirgis PK et al:The e ects of stra-bismus on quality of life in adults. Am J Ophthalmol 144:643-647, 2007 5) Olitsky SE, Sudesh S, Graziano A et al:The negative psychosocial impact of strabismus in adults. J AAPOS 3:209-211, 1999 6) Coats DK, Paysse EA, Towler AJ et al:Impact of large angle horizontal strabismus on ability to obtain employ-ment. Ophthalmology 107:402-405, 2000 7) Uretmen O, Egrilmez S, Kose S et al:Negative social bias against children with strabismus. Acta Ophthalmol Scand 81:138-142, 2003 8) Jackson S, Harrad RA, Morris M et al:The psychological bene ts of corrective surgery for adults with strabismus. Br J Ophthalmol 90:883-888, 2006 9) 植村恭夫,筒井純,丸尾敏夫ほか:斜視の治癒基準.眼臨 72:1408-1414, 1978 10) 小花佐代子,福井優子,中岸裕子ほか:成人斜視の手術成績.日本視能訓練士協会誌 29:153-158, 2001 11) 大淵有里,高島愛由美,小倉央子ほか:成人外斜視における手術成果と満足度について.日本視能訓練士協会誌 33:153-159, 2004 12) 篠原隆紀,橋本禎子,八子恵子:成人斜視手術の検討.眼臨 96:328-330, 2002***

長期間経過観察を行った遅発性中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィと考えられた1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(121) 15610910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1561 1565,2009cはじめに中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ(central areolar choroi-dal dystrophy:CACD)は比較的まれな黄斑ジストロフィである.一般に,常染色体優性や常染色体劣性の遺伝形式を示す疾患であるが,孤発例もあるとされている1 8).病巣部の脈絡膜毛細血管板,ついで色素上皮(RPE)から障害が始まるとされ,黄斑部の RPE と脈絡膜毛細血管板の萎縮をきたすものの,病変部の脈絡膜中大血管は障害されないことが特徴とされる4,7).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)で,境界明瞭な低蛍光や虫食い状の低蛍光がみられる.また,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の window defectと IA 後期の低蛍光の範囲を比較すると,同じ程度のものとFA より IA のほうが大きいものがあるとされる7).一般に30 歳代に発症するとされている4,8)が,遅発性の CACD もあ〔別刷請求先〕奥野高司:〒569-8686 高槻市大学町 2-7大阪医科大学眼科学教室Reprint requests:Takashi Okuno, M.D., Department of Ophthalmology, Osaka Medical College, 2-7 Daigaku-machi, Takatsuki, Osaka 569-8686, JAPAN長期間経過観察を行った遅発性中心性輪紋状脈絡膜 ジストロフィと考えられた 1 例奥野高司*1,2奥英弘*2佐藤文平*2,3菅澤淳*2池田恒彦*2*1 香里ヶ丘有恵会病院眼科*2 大阪医科大学眼科学教室*3 大阪回生病院眼科Features after a Long Period in Late-Onset Central Areolar Choroidal DystrophyTakashi Okuno1,2), Hidehiro Oku2), Bumpei Sato2,3), Jun Sugasawa2) and Tsunehiko Ikeda2)1)Department of Ophthalmology, Korigaoka-Yukeikai Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Osaka Medical College, 3)Department of Ophthalmology, Osaka Kaisei Hospital萎縮型加齢黄斑変性(AMD)に類似した遅発性の中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ(CACD)と考えられる 1 例につき長期間の経過観察を行ったので,その特徴と経過について報告する.症例:63 歳,男性.左眼視力低下のため大阪医科大学附属病院に紹介受診し,当初は萎縮型 AMD と診断されていたが,10 年以上の長期間にわたり経過観察を行ったところ,疾患の進行に伴い,左右差があるものの両眼に境界明瞭な網脈絡膜萎縮をきたした.高齢発症のCACD は比較的まれな疾患であり,萎縮型 AMD と鑑別が困難な場合がある.しかし,ドルーゼンがないこと,脈絡膜の大血管が温存されていること,インドシアニングリーン蛍光眼底造影とフルオレセイン蛍光眼底造影にて,脈絡膜毛細血管に虫食い状の障害があり,その範囲は網膜色素上皮の障害より先行していること,さらに眼球電図や網膜電図が軽度障害されていることなどより本症例は遅発性の CACD と考えられた.We report clinical features and progression in a case of late-onset central areolar choroidal dystrophy(CACD), which is similar to a dry type age-related macular degeneration(AMD)with geographic atrophy. The patient, a 63-year-old male, was referred to our hospital for visual disturbance in his left eye. The rst diagnosis was dry type AMD. However, after more than 10 years’ follow-up, well-demarcated chorio-retinal atrophy appeared in both eyes. Late-onset CACD is rare disease, and in some cases is di cult to clearly di erentiate from dry type AMD with geographic atrophy. However, the patient’s fundus showed relatively preserved choroidal large vessels with-out drusen. Indocyanine green angiography and uorescein angiography disclosed moth-eaten pattern atrophy in choroidal capillary vessels, the damaged area being larger than that of damaged retinal pigment epithelium. Addi-tionally, the electroretinogram and electrooculogram revealed mild attenuation. We therefore made a diagnosis of late-onset CACD.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1561 1565, 2009〕Key words:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ,萎縮型加齢黄斑変性,地図状萎縮,長期経過.central areolar choroidal dystrophy, dry type age-related macular degeneration, geographic atrophy, long period follow-up.———————————————————————- Page 21562あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(122)るとされている9).一方,萎縮型の加齢黄斑変性(AMD)は,ドルーゼンが兆候となり,RPE,Bruch 膜,脈絡膜毛細血管が障害される疾患である10).今回,60 歳代に発症し,片眼の萎縮型 AMD と考えられたが,10 年以上の長期間にわたり経過観察を行ったところ,両眼に CACD と考えられる眼底所見が出現し,遅発性の CACD と考えられた 1 例を経験した.今回,その臨床的特徴と経過について報告する.I症例呈示患者:63 歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.現病歴:平成 7 年 8 月末頃に左眼視力障害に気づいたため近医を受診し,左眼眼底の異常精査のため平成 7 年 8 月 31日に大阪医科大学附属病院眼科(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼 1.0,左眼 0.3(0.4×cyl 0.75 D Ax90°),眼圧は左右眼とも 13 mmHg であった.左眼の黄斑部に RPE の萎縮があり(図 1-A),FA では両眼の黄斑部に顆粒状の window defect がみられた(図 1-B).ドルーゼンはなかったが,萎縮型 AMD と考え,近医にて経過観察した.経過:左眼視力は次第に低下し,平成 12 年 12 月 14 日の当院再受診時,視力は右眼 1.0,左眼 0.02(n.c.),眼圧は右眼 13 mmHg,左眼 11 mmHg であった.右眼黄斑部にも軽度に顆粒状の RPE の萎縮がみられた.左眼黄斑中央の萎縮は癒合し,円盤状の萎縮巣となっていた.両眼ともドルーゼンはなかった.FA では右眼は平成 7 年と同様に顆粒状にwindow defect がみられた.左眼は前回に比べ病変部位は拡大,癒合し,円盤状の萎縮部は FA の初期に充盈欠損,後期に組織染があり,その周辺部に window defect がみられた(図 1-C).IA で両眼とも脈絡膜大血管は温存されていた(図1-D).左眼の IA の背景蛍光に虫食い状の低蛍光があった(図 1-D).FA での左眼の window defect の領域に比べ IA後期の低蛍光は耳側に大きく,より広い範囲であった(図1-D). 眼 球 電 図(EOG)で は Arden 比 が 右 眼 1.43, 左 眼1.42 と当院の正常値下限の 1.8 以下に減弱していた(図2-A).網膜電図(ERG)は正常範囲内であった(右眼,a 波:486 μV,b 波 569 μV,左眼,a 波:431 μV,b 波 547 μV).以上より,CACD の可能性も考え経過観察した.平成 16 年7 月 14 日には,視力は右眼 1.0,左眼 0.07(n.c.),眼圧は左右眼とも 10 mmHg であった.右眼の RPE の萎縮は癒合し,左眼の RPE の萎縮も進行した(図 1-E).平成 17 年 7 月 7日 に は, 視 力 は 右 眼 1.0, 左 眼 0.06(n.c.), 眼 圧 は 右 眼9 mmHg,左眼 10 mmHg であった.FA では眼底所見に一致して病巣の拡大を認めた.右眼は平成 12 年に比べ病巣部が癒合し,左眼に比べると小さいものの,左眼と同様に初期には境界明瞭な円盤状の充盈欠損がみられ,後期には境界明瞭な円盤状の組織染を伴う過蛍光がみられた(図 1-F).IAでは平成 12 年と同様に,両眼とも脈絡膜大血管は温存されていた.平成 19 年 11 月 22 日には,視力は右眼 0.5p(0.5×sph+0.25 D(cyl 0.5 D Ax120°), 左 眼 0.05(0.06×cyl 1.25 D Ax75°),眼圧は右眼 10 mmHg,左眼 12 mmHg であった.両眼 RPE の萎縮がさらに進行し,右眼も円盤状の境界明瞭な萎縮部を認めた(図 1-G).最大の刺激光量(30 cd sec/m2)で 測 定 し た bright ash ERG は, 右 眼 は a 波:370 μV,b 波 450 μV, 左 眼 は a 波:285 μV,b 波 355 μVとやや減弱しており,他の刺激方法による ERG とともに,右眼に比べ左眼の振幅減弱を認めた(図 2-B).II考按CACD と鑑別を要する疾患として,錐体ジストロフィやStargardt 病があげられる11,12).脈絡膜血管萎縮を伴う錐体ジストロフィとは検眼鏡的に鑑別が困難な場合もあるが,錐体 ERG の反応があり,他の杆体系や混合 ERG と同程度の障害であったことより鑑別できた.後極部に病変が限局している Stargardt 病の I 型との鑑別が検眼鏡的には困難な場合があり,特に,初診時の右眼のように比較的初期の CACDでは検眼鏡所見のみによる鑑別はできないと思われるが,蛍光眼底造影で dark choroid がないことより鑑別できた.しかし,今回の症例は高齢発症であり,孤発例のため,萎縮型AMD による地図状脈絡膜萎縮を除外することは困難であった.しかし,ドルーゼンがないこと,疾患の進行に伴い他の部位にびまん性の脈絡膜萎縮がほとんどないにもかかわらず境界明瞭な網脈絡膜萎縮をきたしていること,脈絡膜の大血管を温存した状態で萎縮が進んでいること,IA と FA にて,脈絡膜毛細血管に虫食い状の障害があり,その範囲は網膜色素上皮の障害より先行していること,EOG が軽度障害されていること,ERG が錐体系のみならず杆体系や混合反応も軽度障害されていることなどより,CACD と診断した.近年,CACD の病因となる遺伝子変異が次々に明らかになっている9,13 17).CACD の原因遺伝子についての最初の報告は,ペリフェリン・RDS 遺伝子の 172 番目のアミノ酸残基であるアルギニンがトリプトファンやグルタミンへの置換(Arg172Trp,Arg172Gln)であり13),その後,CACD の原因 遺 伝 子 と し て ペ リ フ ェ リ ン・RDS 遺 伝 子 の 142 番 目,172 番目,195 番目のアミノ酸残基であるアルギニンの変異が報告されている14,16,17).近年では,常染色体優性遺伝形式の CACD の原因遺伝子としてペリフェリン・RDS 遺伝子は代表的なものとなっており,日本人家系でもコドン 172 や195 の変異をもつ家系が報告されている14,17).本症例のよう———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091563(123)図 1眼底写真および蛍光眼底写真A,B:平成7年8月31日〔A:眼底写真,B:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)〕,C,D:平成12年12月14日〔C: F A( 上段:初期,下段:後期),D:インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)(上段:初期,下段:後期),E:平成16年7月14日の眼底写真,F:平成 17 年 7 月 7 日の FA(上段:初期,下段:後期),G:平成 19 年 11 月 22 日の眼底写真.平成 7 年には右眼の病変は不明瞭で,左眼に RPE の萎縮があり,FA で window defect に伴う顆粒状の過蛍光があるのみであった(A,B).平成 12 年には左眼の病巣部は癒合した.IA では新生血管は認められず,脈絡膜の大血管は比較的温存され,脈絡膜毛細血管に虫食い状の障害があり,その範囲は網膜色素上皮の障害より先行していた(C,D).平成 16 年には右眼にも RPE の萎縮があり,左眼は境界明瞭な円盤状の萎縮巣を示した(E).平成 17 年からは左眼と同様に,比較的小さいものの右眼にも境界明瞭な円盤状の萎縮を認めた(F,G).AEGCDFB———————————————————————- Page 41564あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(124)な遅発性の CACD の原因遺伝子としては 307 番目のペリフェリン・RDS 遺伝子フレイムシフトが報告されている9).今回の症例でもこれらの遺伝子変異が確認できればより正確な診断をつけることが可能と考えられるが,遺伝子検査を行っても,視力改善の見込みのある治療を受けることができないことから,遺伝子検査の同意を得ることができなかった.図 2電気生理学的検査結果A:眼球電図(EOG),B:網膜電図(ERG).EOG の Arden 比は減弱していた(A).最大の光量による ERG は軽度減弱していた(B).また,すべての ERG で右眼に比べ左眼の振幅が減弱していた(B).右眼左眼52035(分)右眼暗順応15分明順応15分左眼900800700600500A?V200msec正常症例200?VScotopic 3.0 ERG(Standard ?ash)RLRLRLRLRLScotopic 30.0 ERG(Bright ?ash)Scotopic 0.01 ERGPhotopic 3.0 ERGPhotopic 3.0 ?icker200msec200?V40msec200?V20msec100?V20msec100?VB———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091565(125)一方,AMD は多因子疾患であるが,ABCA4 遺伝子との関連が報告されている18).しかし,日本人家系においては否定的な報告もあり19),他に関連する遺伝子がある可能性も考えられる.今回の症例のように CACD と AMD との鑑別が困難な場合もあることから考えると,それぞれの関連遺伝子が近傍にある可能性も考えられる.Krill20)による CACD の病期分類によると,I 期は傍中心窩の RPE にわずかな変化があり,II 期は中心窩を取り囲むように輪状の RPE のまだらな変化があり,III 期は脈絡膜血管板の萎縮を伴うものの,中心窩病変はなく,IV 期は III 期の所見に中心窩病変を伴うものとしている.したがって,今回の症例では,平成 7 年の初診時の右眼が I 期,左眼が II期,平成 12 年には右眼が II 期,左眼 IV 期,平成 19 年には右眼が III 期と考えられた.このように,両眼とも眼底の障害は次第に悪化しているにもかかわらず,左眼の矯正視力は,平成 7 年の初診時の(0.4)が平成 12 年には 0.02 まで低下した後,0.06 0.07 に改善している.平成 12 年には左眼黄斑部の網脈絡膜障害が悪化したため急激に視力が低下したものの,その後,萎縮部以外での偏心固視が確立したため,視力が改善したものと考えられる.今回の症例では平成 12 年より平成 19 年の ERG の反応が小さく,平成 19 年の ERG は比較的進行程度の強い左眼の反応が減弱していた.CACD の大家族例での検討では,病期の進行に伴い ERG,EOG や視力が障害されており21),萎縮型 AMD での検討でも,ドルーゼンのみの場合に比べ地図状萎縮では ERG が障害されており14),平成 12 年と平成 19年は ERG 装置が異なるため直接の比較はできないが,今回の症例でも病状の進行に伴い ERG が減弱したと考えられる.一方,左眼の ERG は病状が右眼より進行しているため,右眼の ERG より減弱したものと考えられる.一般に高齢発症の CACD は比較的まれな疾患であり,萎縮型 AMD と鑑別が困難な場合がある.しかし,本症例をまとめると,ドルーゼンがないこと,脈絡膜の大血管が温存されていること,左眼の IA の背景蛍光に虫食い状の低蛍光があったこと,FA での左眼の window defect の領域に比べIA 後期の低蛍光は耳側に大きく,より広い範囲であったこと,さらに EOG や ERG が軽度障害されていることなどより,本症例はまれな遅発性の CACD と考えられた.文献 1) Nettleship E:Central areolar choroidal dystrophy. Trans Ophthalmol Soc UK 4:165-166, 1884 2) Carr RE:Central areolar choroidal dystrophy. Arch Oph-thalmol 73:32-35, 1965 3) Noble KG:Central areolar choroidal dystrophy. Am J Ophthalmol 84:310-318, 1977 4) 湯沢美都子,若菜恵一,松井瑞夫:中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の病像の検討.臨眼 37:453-459, 1983 5) 内海隆,井村尚樹,菅澤淳ほか:1 家系にみられたCentral Areolar Choroidal Atrophy における諸種視機能の検討.眼紀 34:2035-2041, 1983 6) 大久保裕史,谷野洸:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの 1 例.臨眼 41:383-386, 1987 7) 平田乃里子,湯沢美都子,川村昭之:中心性輪紋状脈絡膜萎縮症のインドシアニングリーン蛍光眼底造影.臨眼 50:815-819, 1996 8) 奥野高司,奥英弘,菅澤淳ほか:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィの親子例.日眼会誌 112:688-694, 2008 9) Keilhauer CN, Meigen T, Stohr H et al:Late-onset cen-tral areolar choroidal dystrophy caused by a heterozygous frame-shift mutation a ecting codon 307 of the peripher-in/RDS gene. Ophthalmic Genet 27:139-144, 2006 10) 竹田宗泰:萎縮型加齢黄斑変性.NEW MOOK 眼科 9:43-53, 2005 11) 和田千穂里,清水暢夫:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの 1 症例.眼臨 87:584-588, 1993 12) 岡本史樹,木内貴博,武井一夫ほか:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの長期観察例.臨眼 50:1621-1624, 1996 13) Wroblewski JJ, Wells JA 3rd, Eckstein A et al:Macular dystrophy associated with mutations at codon 172 in the human retinal degeneration slow gene. Ophthalmology 101:12-22, 1994 14) Nakazawa M, Wada Y, Tamai M:Macular dystrophy associated with monogenic Arg172Trp mutation of the peripherin/RDS gene in a Japanese family. Retina 15:518-523, 1995 15) Hoyng CB, Heutink P, Testers L et al:Autosomal domi-nant central areolar choroidal dystrophy caused by a mutation in codon 142 in the peripherin/RDS gene. Am J Ophthalmol 121:23-29, 1996 16) Piguet B, Heon E, Munier FL et al:Full characterization of the maculopathy associated with an Arg-172-Trp mutation in the RDS/peripherin gene. Ophthalmic Genet 17:175-186, 1996 17) Yanagihashi S, Nakazawa M, Kurotaki J et al:Autosomal dominant central areolar choroidal dystrophy and a novel Arg195Leu mutation in the peripherin/RDS gene. Arch Ophthalmol 121:1458-1461, 2003 18) Allikmets R:Further evidence for an association of ABCR alleles with age-related macular degeneration. The International ABCR Screening Consortium. Am J Hum Genet 67:487-491, 2000 19) Fuse N, Miyazawa A, Mengkegale M et al:Polymor-phisms in complement factor H and Hemicentin-1 genes in a Japanese population with dry-type age-related macu-lar degeneration. Am J Ophthalmol 142:1074-1076, 2006 20) Krill AE:Hereditary Retinal and Choroidal Disease. p939-961, Harper and Row, 1977 21) Lotery AJ, Silvestri G, Collins AD:Electrophysiology ndings in a large family with central areolar choroidal dystrophy. Doc Ophthalmol 97:103-119, 1998-1999

経瞳孔温熱療法が著効したvon Hipple-Lindau 病による網膜毛細血管腫の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(117) 15570910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1557 1560,2009cはじめに網膜毛細血管腫の治療の第一選択は流入血管に対する光凝固であり,光凝固の適応にならない症例に対しては,冷凍凝固,ジアテルミー凝固,硝子体手術が選択されてきた1).経瞳孔温熱療法(transpupillary thermotherapy:TTT)は1992 年に脈絡膜悪性黒色腫に対する保存的治療法としてOosterhuisら2)が報告した.その後,脈絡膜新生血管に対し適応が拡大し,さらに 1999 年には脈絡膜血管腫に対するTTT の有効性が報告3,4)されたが,その後,筆者らの調べる限りでは 7 例が報告されているにすぎない1,5 7).今回,von Hipple-Lindau 病に伴う網膜毛細血管腫の 1 例を経験し,レーザー光凝固や網膜冷凍凝固に抵抗性を示したものの TTTが著効を示したので報告する.〔別刷請求先〕木本龍太:〒260-8677 千葉市中央区亥鼻 1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学Reprint requests:Ryuta Kimoto, M.D., Department of Ophthalmology and Visual Science, Chiba University Graduate School of Medicine, 1-8-1 Inohana, Chuo-ku, Chiba-shi, Chiba 206-8677, JAPAN経瞳孔温熱療法が著効した von Hipple-Lindau 病による 網膜毛細血管腫の 1 例木本龍太新井みゆき山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学A Case of Retinal Capillary Hemangioma with von Hipple-Lindau Disease Successfully Treated by Transpupillary ThermotherapyRyuta Kimoto, Miyuki Arai and Shuichi YamamotoDepartment of Ophthalmology and Visual Science, Chiba University Graduate School of Medicinevon Hipple-Lindau 病の網膜毛細血管腫に経瞳孔温熱療法(transpupillary thermotherapy:TTT)が著効した症例を経験した.症例は 33 歳,男性で,14 歳時に von Hipple-Lindau 病と診断されている.視力低下を主訴に当科受診.初診時,右眼矯正視力 0.4,右眼眼底の下耳側周辺部に 5 乳頭径大の網膜毛細血管腫を認めた.冷凍凝固,レーザー光凝固を施行したが血管腫は縮小せず,滲出性網膜 離は眼底全体に拡大した.しかし TTT を施行したところ,滲出性変化は著しく軽減し網膜 離も消失した.その後 2 回の TTT の追加により,血管腫は大幅に縮小し滲出性変化もほぼ完全に消失した.3 回目の TTT から 3 カ月後,冷凍凝固瘢痕内の裂孔による網膜全 離が生じ,硝子体手術を行った.術後 2 カ月後の時点で,網膜はシリコーンオイル下で復位しており,血管腫の再燃はみられていない.本症例では,冷凍凝固,流入血管に対する光凝固に抵抗性を示したが,TTT が有用であった.冷凍凝固瘢痕内の裂孔から網膜 離をきたしたことから,大きな網膜血管腫では冷凍凝固の適応を慎重に考慮すべきであろう.A 33-year-old male who had been diagnosed with von Hippel-Lindau disease noticed visual acuity loss in his right eye;visual acuity in the eye was 0.4. Funduscopic examination revealed a retinal capillary hemangioma(RCH)5 disc-diameters in size in the inferonasal periphery of the eye. After unsuccessful treatments with cry-oretinopexy and laser photocoagulation, transpupillary thermotherapy(TTT)was performed. After TTT, serous retinal changes diminished and retinal detachment disappeared. After the second TTT the RCH became very small and serous changes were almost absorbed. Three months after the third TTT, the right eye developed total retinal detachment due to a retinal tear at a scar lesion from the previous cryoretinopexy, and pars plana vitrecto-my was performed. Two months after that surgery the retina was reattached under silicone oil;RCH has not recurred.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1557 1560, 2009〕Key words:経瞳孔温熱療法,網膜毛細血管腫,網膜冷凍凝固,網膜 離.transpupillary thermotherapy, retinal capillary hemangioma, cryoretinopexy, retinal detachment.———————————————————————- Page 21558あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(118)I症例患者は 33 歳,男性で,右眼視力低下を主訴に 2007 年 9月千葉大学病院眼科を受診した.13 歳時に頭痛を契機に,頭部 X 線 CT(コンピュータ断層撮影)で後頭蓋窩に多発性腫瘍を指摘され von Hipple-Lindau 病と診断された.14 歳時に右小脳半球の実質性腫瘍を摘出し,放射線照射が施行された.さらに 21 歳時に小脳半球の 胞性腫瘍,小脳正中部の実質性腫瘍を全摘出,22 歳時には両側腎腫瘍を摘出した.今回,2007 年 7 月頃から右眼視力低下を自覚していた.家族歴では父が両側腎腫瘍で他界している.当科初診時,視力は右眼 0.06(0.4× 2.25 D(cyl 1.75 D Ax90°),左眼 0.06(1.0× 5.00 D(cyl 0.75 D Ax155°)であった.両眼とも角膜は透明で,前房中に細胞微塵は認めないものの,右眼に虹彩後癒着がみられた.右眼硝子体は areが高度であり,右眼眼底には視神経乳頭の発赤腫脹,下耳側周辺部に拡張・蛇行した血管を伴った 5 乳頭径大の網膜毛細血管腫,その周囲に網膜下出血と滲出斑がみられた.左眼眼底には視神経乳頭の発赤腫脹,下耳側周辺部に 2 カ所に 1 乳頭径大の網膜毛細血管腫がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,両眼の血管腫に一致して造影早期から過 1初診時右眼眼底写真視神経乳頭の発赤腫脹,下耳側周辺部に,拡張・蛇行した血管を伴った 5 乳頭径大の網膜毛細血管腫,その周囲に網膜下出血と滲出斑がみられた. 3TTT 3回施行後の右眼眼底写真(2008年6月24日)網膜毛細血管腫は右眼下方最周辺に残存するも著しく縮小し,滲出性変化もほぼ完全に消失していた. 2初診時フルオレセイン蛍光眼底造影(右眼)血管腫に一致して造影早期から過蛍光がみられ,後期には旺盛な蛍光漏出を認めた. 42008年6月20日の右眼眼底写真右眼網膜はほぼ全 離となっている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091559(119)蛍光がみられ,後期には旺盛な蛍光漏出を呈した.右眼の血管腫は 5 乳頭径大と大きく滲出性変化も強いため,光凝固は困難と判断し,2007 年 10 月に経強膜的に網膜冷凍凝固を施行した.冷凍凝固は,腫瘍本体とその周囲が白色に軽度変色するまで施行した.また,冷凍凝固 3 日後,流入血管に対し光凝固(yellow,200 μm,240 mW,0.2 sec,310 shots)を施行した.しかしその後 2 週間を経過しても,右眼の血管腫は縮小せず,乳頭上には増殖性変化が出現し,滲出性網膜 離は眼底全体に拡大して,右眼視力は 0.02 に低下した.そこで 11 月 2 日,810 nmの半導体レーザー(IRIDEX社)を用いて,TTT(照射径3 mm,出力 800 mW,照射時間 60 sec,2 回)を行った.TTT の 2 週間後には,血管腫の大きさはほぼ不変ながらも,滲出性変化は著しく改善し網膜 離も消失,視力は 0.2 に改善した.しかし血管腫の活動性は依然として高いため,初回 TTT から 2 週間後と 3 カ月後に TTT を追加した.その後,網膜毛細血管腫は右眼下方最周辺に残存するもかなり縮小し,滲出性変化もほぼ完全に消失していた.しかし 2008 年 6 月の再診時には右眼視力は 0.05 に低下しており,右眼網膜はほぼ全 離の状態となっていた.FA では血管腫の活動性は沈静化していたため,裂孔原性網膜 離を疑い,7 月 7 日,白内障手術と硝子体手術を行った.術中,耳下側の冷凍凝固瘢痕内に網膜裂孔が同定された.赤道部輪状締結とシリコーンオイルタンポナーデを併用して網膜復位を得た.硝子体手術の 2 カ月後の段階で,網膜はシリコーンオイル下で復位しており,網膜血管腫の再燃はみられていない.II考按今回経験した症例は,von Hipple-Lindau 病に伴う網膜毛細血管腫であり,網膜冷凍凝固や光凝固に抵抗性を示し,TTT を 3 回行うことで血管腫の沈静化を得た.しかし後に,冷凍凝固の瘢痕部分に網膜裂孔が生じ,網膜 離をきたしたものである.網膜毛細血管腫に対する TTT は報告が少なく,照射条件は現時点では確立していない.Parmar ら5)は視神経乳頭周囲の血管腫に対し,TTT を 350 500 mW,60 72 sec で複数回照射している.これは,筆者らの報告も含めた近年の報告に比べて出力が低いが,血管腫が乳頭近くにあり,視神経への影響をより考慮したためだと考えられる.Mochizuki ら6)は赤道部の 1.5 2 乳頭径大の 2 症例に対し,TTT を400 500 mW,60 360 sec で複数回照射しており,照射時間と回数で凝固反応を調節している.田邊ら1)の報告では,滲出性網膜 離を伴う周辺部の 0.5 2 乳頭径大の血管腫に対し,700 1,000 mW,一定時間(60 sec),単発照射しており,照射時間と回数は一定にし,出力を徐々に強くすることで凝固反応を調節している.今回の症例では滲出性網膜 離を伴う周辺部の 5 乳頭径大の血管腫に対し,800 mW,60 72 sec の条件で複数回照射した.この条件は閾値下凝固よりも凝固といえる条件である.通常の光凝固と異なる点は,TTT は長波長であり組織深達性が良いという点にあり,大きな血管腫に対する治療として有効であると考える.今回の症例を含めいずれの報告でも血管腫の沈静化には成功しており,TTT の有効性が明らかであるが,今後さらに症例数を重ねて TTT の照射条件を検討していく必要があると思われる.また今回の症例では,TTT と網膜冷凍凝固を施行した部位の瘢痕内に裂孔を生じ裂孔原性網膜 離に至った.血管腫の大きさが 5 乳頭径大と大きな場合には,冷凍凝固による瘢痕もより広範囲となり,そこに裂孔を生じる危険性も自ずと高くなると考えられる.網膜毛細血管腫に対して TTT が施行できない場合,網膜冷凍凝固を選択するのもやむをえないが,大きな血管腫では冷凍凝固の適応を慎重に考慮すべきであろう.また,まれではあるが TTT 後に裂孔原性網膜 離が生じたという報告もある8).今後 TTT と裂孔原性網膜 離の関係についても検討が必要である.文献 1) 田邊ひな子,石田政弘,竹内忍:経瞳孔温熱療法が奏効した網膜血管腫の 2 例.日眼会誌 110:525-531, 2006 2) Oosterhuis JA, Journee-de Kover HG, Keunen JE:Trans-pupillary thermotherapy. Arch Ophthalmol 116:157-162, 1998図 5硝子体手術後の右眼眼底写真(2008年10月3日)網膜はシリコーンオイル下で復位しており,血管腫の再燃もみられない.———————————————————————- Page 41560あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(120) 3) Othmane IS, Shields CL, Shields JA et al:Circumscribed choroidal hemangioma managed by transpupillary thermo-therapy. Arch Ophthalmol 117:136-137, 1999 4) Rapizzi E, Grizzard WS, Capone A Jr:Transpupillary thermotherapy in the management of circumscribed chor-oidal hemangioma. Am J Ophthalmol 127:481-482, 1999 5) Parmar DN, Mireskandari K, McHugh D:Transpupillary thermotherapy for retinal capillary hemangioma in von Hippel-Lindau disease. Ophthalmic Surg Lasers 31:334-336, 2000 6) Mochizuki Y, Noda Y, Enaida H et al:Retinal capillary hemangioma managed by transpupillary thermotherapy. Retina 24:981-984, 2004 7) 野田佳宏,江内田寛,望月泰敬ほか:Retinal Capillary Hemangioma に対する TTT 治療.眼科手術 18:47-51, 2005 8) Mashayekhi A, Shields CL, Lee SC et al:Retinal break and rhegmatogenous retinal detachment after transpupil-lary thermotherapy as primary or adjunct treatment of choroidal melanoma. Retina 28:274-281, 2008***

初診時眼底に異常を認めなかった網膜中心動脈閉塞症の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(113) 15530910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1553 1555,2009cはじめに網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)は,網膜中心動脈が閉塞し,急激で重篤な視力障害をきたす疾患である.この疾患は,高齢者では動脈硬化,糖尿病が多くみられ,若年者では全身性の血管炎や血液疾患などの特殊な基礎疾患が存在する1).通常の CRAO であれば眼底所見として桜実紅斑という特徴的な所見を示すことにより診断は容易である.不完全なCRAO の場合でも,軽度の網膜混濁と散在する軟性白斑が認められるとされる2,3).しかし,桜実紅斑を呈していない場合は,診断は決して容易ではない.今回,筆者らは初診時眼底に桜実紅斑がみられず,CRAO の確定診断が遅れた症例を経験したので報告する.I症例患者:70 歳,男性.初診日:2005 年 10 月 20 日.主訴:急激な右眼視力低下.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒663-8501 西宮市武庫川町 1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprint requests:Norio Okamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Hyogo College of Medicine, 1-1 Mukogawa-cho, Nishinomiya-city, Hyogo 663-8501, JAPAN初診時眼底に異常を認めなかった網膜中心動脈閉塞症の 1 例岡本紀夫大野新一郎大出健太鈴木克彦三村治兵庫医科大学眼科学教室A Case of Central Retinal Artery Occlusion with Normal Fundus Appearance on First ExaminationNorio Okamoto, Shinichirou Oono, Kenta Oode, Katsuhiko Suzuki and Osamu MimuraDepartment of Ophthalmology, Hyogo College of Medicine背景:初診時に桜実紅斑を呈しなかった網膜中心動脈閉塞症を経験したので報告する.症例:70 歳,男性.主訴は右眼の視力低下.視力は初診時指数弁で,対光反応は消失していた.眼底検査では特に異常を認めなかった.夜間であり,全身合併症を複数有していたため,翌朝に内科医と相談のうえで精査,加療をすることになった.しかし,11時間後の翌朝に再診したときには明らかな桜実紅斑を呈する網膜中心動脈閉塞症であった.結論:明らかな桜実紅斑がある場合は診断が容易であるが,網膜中心動脈閉塞症の極早期にはこの所見を呈しない可能性がある.さらに,急激な視力低下をきたし,かつ,既往歴に動脈硬化や糖尿病,心疾患などを有する場合は,たとえ眼底検査で桜実紅斑がなくても網膜中心動脈閉塞症を疑うべきであることが示唆された.Background:We report a case of central retinal artery occlusion(CRAO)in which no cherry red spot was observed at initial examination. Case:The patient, a 70-year-old male, complained mainly of poor vision in his right eye. At the initial examination, on the basis of nger counting it was found that the eye had lost reaction to light. Fundus examination did not show any speci c abnormalities. Because it was night and the patient had multi-ple systemic complications, we decided to examine him closely and provide treatment on the following morning, after consulting with an internal medicine specialist. However, when we examined the patient again 11 hours after his initial visit, a clear cherry red spot was visible as part of CRAO. Conclusion:It is easy to diagnose CRAO when a clear cherry red spot is evident, but some cases may not present with this symptom at a very early stage of the condition. It is suggested that when sudden visual degradation occurs and multiple systemic complications are present in the medical history, CRAO should be suspected, even if no cherry red spot is evident during fundus examination.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1553 1555, 2009〕Key words:網膜中心動脈閉塞症,極早期.central retinal artery occlusion, very early stage.———————————————————————- Page 21554あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(114)現病歴:2005 年 10 月 13 日頃より右眼の眼鏡が合わないことを自覚していたが,顎を上げることにより見えていたので放置していた.しかし,2005 年 10 月 20 日昼頃より顎を上げても右眼が見えにくくなり,20 時半頃入浴中にさらに急激かつ高度な右眼の視力低下を自覚したため,兵庫医科大学病院眼科を 21 時 50 分に受診した.既往歴:ぶどう膜炎(1998 年),高血圧症,完全房室ブロック,右頸動脈狭窄(73%),拡張型心筋症,ペースメーカー.家族歴:特記すべきことなし.初 診 時 所 見: 視 力 は 右 眼 指 数 弁, 左 眼 0.2(1.0×sph+2.00 D)で,右眼の直接対光反射は消失していた.眼圧は右眼16 mmHg,左眼 15 mmHg.限界フリッカ値は右眼測定不能,左眼 41 46 H zであった.細隙灯顕微鏡所見で両眼とも水晶体の軽度の混濁がみられた.眼底検査では網膜血管に異常を認めず,視神経乳頭の色調も正常であった(図 1).高齢であり後部虚血性視神経症の発症などを疑ったが,夜間であり重篤な全身疾患があるので CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)などの検査を行うにあたって内科医の許可が必要と考え,翌日に再診させ精査することになった.経過:翌日の 10 月 21 日午前 10 時の視力は右眼眼前手動弁,左眼(1.0×sph+2.00 D)であった.眼底検査で右眼は網膜静脈の蛇行・拡張を認め,桜実紅斑を呈していた(図2).左眼は軽度の網膜動脈硬化症を認めるのみであった.蛍光眼底検査で腕網膜循環時間は 40 秒と遅延していた(図 3).右眼の CRAO と診断し,ただちに入院のうえ,ウロキナーゼの点滴加療を行うため内科医に相談したところ右頸動脈狭窄,拡張型心筋症に対してパナルジンR 200 m g/日とドルナーR 60 μg/日内服中であると指摘されたので予定していた線溶療法を中止した.そこで眼球マッサージと星状神経節ブロックの治療を考え,ペインクリニック科に星状神経節ブロックを依頼したところ,パナルジンR, ドルナーRの内服があるので施行できないとのことであったので,最終的に眼球マッサージのみを実施した.10 月 28 日に脳外科で頸部を再度精査したところ内頸動脈狭窄率が 80%であったため頸部手術が必要であるとの連絡があった.10 月 31 日に退院となり,そのときの視力は眼前手動弁のままであった.11 月 4日の再診時の右眼視力は 0.01(矯正不能),12 月 1 日の再診時は 0.02(矯正不能),この翌日に内頸動脈狭窄に対してステント術が行われる予定であったが心疾患のため中止となった.2007 年 3 月 25 日再診時の右眼視力は 0.03(矯正不能)図 110月20日の右眼眼底写真桜実紅斑はみられない.網膜血管,視神経に異常を認めない.図 210月21日の右眼眼底写真網膜静脈の蛇行・拡張と桜実紅斑を認める.図 310月21日の右眼蛍光眼底写真40 秒以上経って造影が開始されている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091555(115)であった.2009 年 2 月 23 日に心不全にて永眠された.II考按CRAO のは動脈硬化を基盤として発症する疾患である1).代表的な基礎疾患をあげると,高血圧,糖尿病,高脂血症,虚血性心疾患,脳血管障害などがある.本症例は高血圧症,完全房室ブロック,右頸動脈狭窄(73%),拡張型心筋症があり,CRAO のハイリスクの患者であった.眼底検査で桜実紅斑があれば診断は容易であるが,不完全型 CRAO ではまだらな網膜白濁を認める3).最近では高度近 視 眼 に CRAO を 発 症 し た 症例4)や,脈絡膜萎縮眼にCRAO を発症した症例では明らかな桜実紅斑を呈しないことが報告されている5).渡辺は CRAO の極早期には桜実紅斑を呈しないと報告している6).本症例は近視ではないことと,臨床経過から初診時の眼底所見で異常がないことから極早期の CRAO と診断した.また,後部虚血性視神経症が先行して発症し,その後 CRAO をきたした可能性は動脈系が異なることから可能性としてはきわめて低いと考えた.初診時の 10 月 20 日の時点で CRAO での確定診断を行うには蛍光眼底検査が有用であったと考えられるが,高度の全身合併症があり,受診が夜間であったため蛍光眼底検査を施行できなかった.眼底に変化がみられなくとも蛍光眼底検査を施行していれば腕網膜循環時間は遅延していた可能性がある.つぎに,なぜ初診時に桜実紅斑を呈しなかったか,その理由について検討する.Hayreh ら7)はサル 26 眼に対し網膜動脈の血流を 7 分から 113 分間遮断後の眼底所見について報告しており,70 分以上遮断したものではほとんどが重度の網膜白濁をきたしたとしている.しかし,本症例は発症から受診まで約 80 分であったにもかかわらず桜実紅斑を呈していなかった.これは Hayreh らの報告はあくまでも動物実験でありクランプによる完全な血流遮断であるのに対し,ヒトの通常の CRAO であればどこからか血栓,塞栓が飛来し不完全なかたちで網膜動脈を閉塞させている可能性がある.池田ら8)も CRAO では完全閉塞例が少ないことを示唆している.本症例の CRAO の発症原因としては心臓からの血栓の飛来か,頸動脈からの塞栓が考えられた.患者の心臓は拡張型心筋症のため血栓ができやすい環境であり,内頸動脈の狭窄も 80%と高度の狭窄が塞栓源となっている可能性がある.しかし,今回の症例ではどちらが原因であるとは断定できなかった.森本ら9)は,全身合併症の数と視力の改善度との間に相関があると報告している.彼らは 2 つ以上の全身合併症を有する症例は視力予後が不良であると述べている.実際,本症例では循環器系に複数の全身合併症が存在した.石田ら10)は,腕網膜循環時間の著明な延長が認められた症例は初診時視力が不良で,治療にも反応せず,視力予後も不良であったと記載している.本症例の腕網膜循環時間は 40 秒以上と遅延し,右眼視力は最終的に 0.03 に留まった.本症例では複数の全身合併症を有し,網膜の循環不全もあったため,きわめて予後不良であったといえる.本症例は発症して極早期に来院し,眼底は桜実紅斑の所見がみられなかったことから CRAO の確定診断が遅れ,さらに,全身合併症のため積極的な治療の介入ができなかった.今後,このようなハイリスクの症例に遭遇した場合の治療法の検討が必要である.文献 1) 張野正誉:網膜動脈閉塞症.眼科診療プラクティス 85,眼疾患診療ガイド,p38-41,文光堂, 2002 2) Matsuoka Y, Hayasaka S, Yamada K:Incomplete occlu-sion of central retinal artery in a girl with iron de ciency anemia. Ophthalmologica 210:358-360, 1996 3) 上田美子,木村徹,岡本紀夫ほか:視力良好な網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼科 51:443-446, 2009 4) 井上亮,生野恭司,沢美喜ほか:強度近視眼に発症した網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼紀 58:549-552, 2007 5) 松葉真二,岡本紀夫,三村治:桜実紅斑を呈しなかった網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼臨紀 2:140-142, 2009 6) 渡辺博:高齢者に多い眼疾患─診断と治療,予防─.7)-2 網膜動脈閉塞症.Geriat Med 44:1256-1257, 2006 7) Hayreh SS, Weingeist TA:Experimental occlusion of the central artery of the retina. I. Ophthalmoscopic and uo-rescein fundus angiographic studies. Br J Ophthalmol 64:896-912, 1980 8) 池田誠宏,佐藤圭子:新鮮な網膜動脈閉塞症に対する処置.臨眼 45:198-199, 1991 9) 森本健司,福本光樹,吉井大ほか:10 年間に経験した網膜動脈閉塞症の治療経過.眼科 38:825-830, 1996 10) 石田みさ子,沖坂重邦:網膜中心動脈閉塞症の視力予後.眼臨 80:495-498, 1986***

ルベオーシスを合併した内因性真菌性眼内炎に対し両眼の硝子体手術を施行した1症例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(109) 15490910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1549 1552,2009c〔別刷請求先〕 董震宇:〒060-8638 札幌市北区北 15 条西 7 丁目北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座 眼科学分野Reprint requests:Zhenyu Dong, M.D., Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine, N-15, W-7, Kita-ku, Sapporo 060-8638, JAPANルベオーシスを合併した内因性真菌性眼内炎に対し両眼の硝子体手術を施行した 1 症例董震宇*1,3村松昌裕*1,3中村佳代子*1,3福原淳一*3横井匡彦*2田川義継*3*1 KKR札幌医療センター眼科*2 手稲渓仁会病院眼科 *3 北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野Diferent Vitrectomy Outcomes for Bilateral Rubeotic Endogenous Ophthalmitis in a Patient with Severe CandidemiaZhenyu Dong1,3), Masahiro Muramatsu1,3), Kayoko Nakamura1,3), Junichi Fukuhara3), Masahiko Yokoi2) and Yoshitsugu Tagawa3)1)Department of Ophthalmology, KKR Sapporo Medical Center, 2)Department of Ophthalmology, Teine Keijinkai Hospital, 3)Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine緒言:S 状結腸切除後にルベオーシスを伴う両眼の真菌性眼内炎を発症し,菌血症改善の前後で硝子体手術を施行した 1 症例を経験したので報告する.症例:63 歳,男性.平成 19 年 7 月腸穿孔のため腸切除術を受けた.術後に腹腔膿瘍を生じ中心静脈留置カテーテルからカンジダが検出されたためフルコナゾール全身投与を開始,8 月上旬ミカファンギンナトリウムに変更されたがb-d-グルカン値は測定限界以上であった.8 月中旬に両眼の視力低下が出現し KKR札幌医療センター眼科初診.矯正視力右眼 0.1,左眼 0.06,線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症と隅角血管新生が両眼にみられた.両眼底に類円形白色滲出斑が散在したが硝子体混濁はなかった.初診 2 日後両眼硝子体混濁が出現し左眼は眼底透見困難となったため 6 日後に硝子体手術を行った.術直前に全身投与をボリコナゾールに変更したが術時b-d-グルカンは測定限界値以上のままであった.左眼は術後も消炎せず網膜 離に至ったが全身状態不良のため再手術は行えなかった.右眼はその 1 カ月後に全網膜 離を生じたが,b-d-グルカン値と全身状態が改善した状態で硝子体手術を行い,復位と消炎が得られ視力も改善した.考察:両眼の予後の違いから,真菌性眼内炎の手術適応の決定には従来の眼所見の分類に加え菌血症の状態を考慮する必要があると考えられた.ルベオーシスを伴う症例は進行が速く予後不良の可能性があり,手術時期について慎重な検討を要すると思われる.A 63-year-old male presented with blurred vision after S-colon resection. Subsequent ophthalmologic exami-nation revealed in ammation of anterior chamber with iris rubeosis at his rst visit and vitreous opacity in both eyes 2 days later. Despite severe candidemia, vitrectomy was performed on the left eye because of white retinal lesion and signi cant worsening of vitreous opacity. However, total retinal detachment ultimately occurred, due to strong postoperative in ammation. An additional operation was considered, but consent could not be obtained;sight was eventually lost in the left eye. However, vitrectomy was performed on the right eye after the ameliora-tion of candidemia, even though retinal detachment had been con rmed before the operation. The result was reti-nal restoration and postoperative best-corrected visual acuity of 0.52(converted to the logarithmic minimum angle of resolution). Endogenous fungal ophthalmitis with iris rubeosis can progress rapidly;not only the condition of the eye, but also the general condition, particularly that of candidemia, should be considered prior to vitrectomy.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1549 1552, 2009〕Key words:ルベオーシス,カンジダ血症,内因性眼内炎,硝子体手術.rubeosis, endogenous ophthalmitis, candi-demia, vitrectomy.———————————————————————- Page 21550あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(110)はじめに内因性真菌性眼内炎は消化管術後や,経中心静脈栄養(IVH)の普及により近年増加している1).真菌性眼内炎は従来の病期分類により抗真菌薬の全身投与,眼局所投与がまず行われ,高度の硝子体混濁や網膜 離などをきたした場合にはさらに硝子体手術が行われている2 5).しかし手術の適応を決める際には眼局所の状態が重視され,全身状態,特に真菌感染症そのものの状態にはほとんど言及されていない.また,筆者らの知りうる限り,虹彩ルベオーシスを伴う真菌性眼内炎の報告はない.今回,S 状結腸切除後にルベオーシスを伴う両眼の真菌性眼内炎を発症し,菌血症改善の前に左眼,改善後に右眼の硝子体手術を施行したところ,左右で異なる結果となった 1 例を経験したので報告する.I症例患者:63 歳,男性.主訴:両眼のかすみ.現病歴:2007 年 7 月 4 日原因不明の S 状結腸穿孔に対し近医外科で腸切除と人工肛門増設術を受け,術創離開のため再手術も施行された.その後消化管出血を生じたが,保存的治療で経過した.しかしその後熱発し,7 月 23 日の血液培養から Candida albicans が検出され,抗菌薬(詳細不明)と抗真菌薬フルコナゾールが全身投与された.状態が改善しないため 8 月 9 日に KKR 札幌医療センター(以下,当院)外科 に 転 院 し た. 血 液 検 査 の 結 果 CRP(C 反 応 性 蛋 白)が17.44 m g/dl,b-d-グルカンが測定限界値(300 p g/ml)以上であった.抗真菌薬はフルコナゾールからミカファンギンナトリウムに変更され,当院外科での腹腔ドレナージなどの治療により全身状態は一時的に改善したが,前医の術後で 7 月中旬頃より出現した両眼のかすみが増悪したため,8 月 15日に当院眼科初診となった.既往歴:気管支喘息.プレドニゾロン5 m g/day を内服していたが,外科術後より中止.家族歴:特記事項はなし.初診時所見:視力は右眼 0.1,左眼 0.06(ともに矯正不能),眼圧は両眼とも 10 mmHg,前房内は両眼とも線維素析出,虹彩後癒着と隅角新生血管がみられた.両眼底は網膜に小類円形白色滲出斑が散在したが,網膜出血や硝子体混濁はなかった.経過:臨床経過および眼所見から内因性真菌性眼内炎が疑われ,さらに硝子体混濁が両眼に生じたため,抗真菌薬を眼内移行性がよいとされるボリコナゾールに変更した.しかしb-d-グルカンが依然測定限界値(300 p g/ml)以上であり,硝子体混濁もさらに増強し,8 月 20 日視力は右眼 0.06,左眼光覚弁(ともに矯正不能)に低下した.特に左眼は前房出血および眼底透見困難な硝子体混濁がみられたため,8 月21 日左眼水晶体摘出術(後 切除含む)と硝子体手術を行った.術中所見として,下方網膜に白色滲出斑が多数みられ,菌塊と考えられる小さなやや隆起性の病変が多数散在していた(図 1).後部硝子体 離(PVD)は完成しており,術中に医原性裂孔は生じなかった.しかし高熱など全身状態不良のため全身麻酔は不可とされ,局所麻酔で手術を行ったが,疼痛と安静困難に加えて前房出血,散瞳不良などの視認性不良のため,周辺部硝子体は可及的な切除にとどめた.手術中,抗真菌薬と抗菌薬を灌流液に添加し,手術終了時,両眼硝子体腔内および結膜下にバンコマイシン,セフタジジム,フルコナゾール,アムホテリシン B を注入した.術翌日は前房内線維素析出および前房出血がみられ,硝子体混濁のため眼底が透見不能であった.超音波検査で網膜 離はみられなかった.左眼硝子体サンプルおよび右眼前房水の培養の結果,真菌は陰性であった.その後 IVH 抜去と腹腔ドレナージにより一時全身状態が改善し,8 月 28 日b-d-グルカンが 237 p g/ml,CRP が 5.92 m g/dl と改善傾向がみられたが,視力は右眼 0.04,左眼手動弁(ともに矯正不能)となった.8 月 31 日より抗真菌薬はボリコナゾール内服に変更されたが,嘔吐などの副作用が強く,9 月 4 日より再び点滴に変更された.9 月 7 日視力は右眼 0.01,左眼は手動弁のまま(ともに矯正不能)であったが,超音波検査で左眼後極に限局性の網膜 離が確認され,前房蓄膿もみられた.左眼再手術も検討したが,依然として全身状態不良で全身麻酔が不可であり,再手術の同意も得られなかったため,硝子体腔内にバンコマイシン,セフタジジム,フルコナゾール,アムホテリシン B,ミコナゾールを注入した.同時に右眼にフ図 1術中所見下方網膜に白色滲出斑が多数みられ,また菌塊と考えられる小さな隆起性病変が多数散在していた.後部硝子体 離は完成しており,術中に医原性裂孔は生じなかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091551(111)ルコナゾール,ミコナゾールおよびアムホテリシン B を結膜下注射した.この結果,右眼は前房炎症と硝子体混濁および網膜上の白色滲出斑が徐々に軽減した.その後も全身状態不良が続き,9 月 19 日抗真菌薬が全身副作用が少ないとされるイトラコナゾールに変更され,再度IVH が挿入された.9 月 26 日b-d-グルカンは 97.6 p g/mlと下降したが,CRP は 12.44 m g/dl と逆に悪化し,血液培養よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため,テイコプラニン点滴が併用された.右眼はイトラコナゾール点滴開始以降,視力が矯正 0.02 前後で推移しており,硝子体混濁がやや改善傾向にあったが,9 月 27 日視力が矯正 0.01 に低下し,鼻上側網膜に裂孔と網膜 離がみられた.全身状態が不良などの理由で手術は行わず,MRSAに対してタゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウムを追加,抗真菌薬はイトラコナゾール内服に変更されたが,右眼全網膜 離となり,視力がさらに手動弁に低下した.その後解熱や,嘔吐の軽減など,全身状態が改善し手術の同意が得られたため,10 月 5 日に全身麻酔で右眼水晶体摘出術と硝子体手術を行った.術中所見として PVD は耳側のみであり,線維増殖膜が鼻側および下方網膜に強固に癒着しており,内上方に原因裂孔がみられた.左眼と違い,菌塊と考えられる白色の隆起病変は周辺部網膜に数カ所のみであった.徹底した周辺部硝子体切除と増殖膜処理を行い,術中網膜復位が得られ,術後腹臥位が困難と予想されたためにシリコーンオイルを注入した.術後は外科治療の効果もあり,b-d-グルカンと CRP が漸減し,b-d-グルカンが 11 月 15 日に26.1 pg/ml,CRP が 11 月 7 日に 0.28 mg/dl にそれぞれ改善した.右眼術後は速やかな消炎が得られ,視力は 11 月 15日に右眼 0.04(0.3)まで上昇した.左眼は全網膜 離で視力が光覚弁のままであった.その後イトラコナゾール内服で経過 を み て い た が, 右 眼 真 菌 性 眼 内 炎 の 再 発 は な か っ た.2008 年に入り,右眼に黄斑浮腫を伴う黄斑前膜が出現し,視力が再び低下したため,5 月 9 日に硝子体手術および眼内レンズ挿入術を行い,シリコーンオイルと黄斑前膜を除去した.II考按今回の症例は前医で抗真菌薬の投与が開始されていたこともあり,硝子体や前房水からは菌が検出されず,カテーテル,ドレーンの先端や,腹水,腹腔膿瘍の培養からも真菌血症の原因菌を検出することができなかった.しかし,前医での血液培養より Candida albicans が検出されたこと,血液検査でb-d-グルカンが測定限界値以上の高値を示していたこと,臨床経過と典型的な眼所見などから,内因性真菌性眼内炎と診断した.真菌性眼内炎に対する病気分類はいくつか提案されており,一般的に眼底透見困難となるような高度の硝子体混濁を生じた場合は,抗真菌薬の全身投与に加え硝子体手術による治療が必要とされている2 5).硝子体手術により抗真菌薬の硝子体腔への移行が促進されるだけでなく,硝子体中や網膜上の菌塊を直接除去することにより,治療効果を高めることができる6,7).本症例も左眼は眼底透見不能な硝子体混濁がみられた時点で,右眼は全網膜 離が生じた後でそれぞれ硝子体手術を行ったが,術前の眼底の状態は左眼が右眼より良好であったにもかかわらず,術後成績は左眼のほうが不良であった.左眼の手術時はb-d-グルカンが測定限界値以上で,眼局所以外の感染巣がはっきりせず,抗真菌薬全身投与下でも菌血症自体が沈静化していなかった.また手術中は高熱,手術操作に伴う強い疼痛,視認性不良,さらに呼吸苦により,手術を短時間にとどめざるをえず,最周辺部までの徹底した硝子体の郭清ができなかった.その結果,手術侵襲による網膜血管透過性が亢進し,抗真菌薬の全身投与下でも液体に置き換わった硝子体腔へ,残存硝子体ゲルや網膜血液柵が破綻した血管から真菌の進入が容易になり,術中および術後の抗真菌薬の硝子体腔内への注入と全身投与にもかかわらず術後の強い炎症と全網膜 離につながったと考えられる.それに対して右眼は真菌血症に加え MRSA 菌血症がある状態で,かつ網膜 離発生後の手術ではあったが,手術時b-d-グルカンが 84.2 p g/ml と真菌血症の状態が左眼の手術時よりもかなり改善した状態であった.さらに,全身麻酔で手術を行ったため,徹底した硝子体および線維増殖膜の処理ができた.その結果,術前の状態が不良であったが,治療成績が良好であったと考えられた.両眼とも眼科初診時にすでに隅角新生血管がみられ,このときは硝子体混濁はなかったものの,すでに真菌の毛様体への浸潤による強い炎症の存在および速い進行を示唆していたと考えられる.しかし,本症例は全身状態および菌血症の状態がきわめて不良であったため,早期に硝子体手術を行っても結果は同様であったと推測される.今回の症例では,真菌性眼内炎が確認されるまではフルコナゾール,ついでミカファンギンナトリウムの全身投与が行われたが,眼局所以外に全身の明らかな深在性真菌感染巣は不明であったため,より強力かつ眼内移行性がよいとされるボリコナゾールに変更した.確かに IVH 抜去やドレーン抜去などの外科処置もあり,ボリコナゾール変更後はb-d-グルカン値が低下し,右眼硝子体混濁の軽減もみられた.しかし,ボリコナゾールは嘔吐などの強い消化管症状をひき起こし,全身状態が悪化したため長期投与を行えず,やむをえずイトラコナゾールに変更され,IVH も再挿入された.イトラコナゾール変更後も硝子体混濁が徐々に改善したが,網膜上の線維増殖膜形成と PVD が引き続き進行し右眼網膜 離を生じたと考えられた.本症例の経過から,ルベオーシスを伴う真菌性眼内炎は進———————————————————————- Page 41552あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(112)行が速く予後不良の可能性があり,より短い期間での慎重な経過観察が必要である.また,硝子体手術を検討する際は,眼局所の所見に加え,b-d-グルカン値,CRP 値など菌血症と全身の状態も十分に考慮すべきである.菌血症が改善していない状態で硝子体手術を行っても,本症例の左眼のように良好な結果が得られない可能性があり,逆に本症例の右眼のように眼局所の状態が悪化していても,ある程度菌血症などの全身状態が安定した状態で手術を行ったほうが良好な結果が得られる可能性がある.どの時期に手術をすべきかに関しては,さらに多数例を集めた報告が必要であり,全身状態に注意し患者への十分な説明のうえで,より慎重に検討すべきであると考えられた.文献 1) 石橋康久,本村幸子,渡辺亮子:本邦における内因性真菌性眼内炎─ 1986 年末までの報告例の集計.日眼会誌 92:952-958, 1988 2) 石橋康久:内因性真菌性眼内炎の病気分類の提案.臨眼 47:845-849, 1993 3) 宇山昌延:眼内炎(2)真菌性眼内炎.ぶどう膜炎,p198-202,医学書院, 1999 4) 草野良明,大越貴志子,佐久間敦之ほか:真菌性眼内炎の起因菌におけるフルコナゾール耐性の Candida 属の増加.臨眼 54:836-840, 2000 5) 大西克尚:真菌性眼内炎.眼科診療プラクティス 47,感染性ぶどう膜炎の病因診断と治療(臼井正彦編),p32-35,文光堂, 1999 6) Zhang YQ, Wang WJ:Treatment outcomes after pars plana vitrectomy for endogenous endophthalmitis. Retina 25:746-750, 2005 7) Chakrabarti A, Shivaprakash MR, Singh R et al:Fungal endophthalmitis:fourteen years’ experience from a cen-ter in India. Retina 28:1400-1407, 2008***

回折型多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患治療を要した4例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(103) 15430910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1543 1547,2009cはじめに白内障手術は眼科手術のなかで最も件数が多く,近年,眼内レンズ(IOL)の光学系に非球面,着色,多焦点機能1)が加わったものが普及している.なかでも,遠方と近方の 2 カ所に焦点が合うようにデザインされた多焦点 IOL は 2008 年に先進医療として認められ2),いずれ保険適用となれば,症例数の増加が予想される.多焦点 IOL そのものが,網膜硝子体疾患の発症に関与することは考えにくいが,挿入例が増えれば,術後経過観察中に網膜硝子体疾患を発症する例が出てくることは避けられない.遠方と近方の 2 カ所に入射光を配分する回折型多焦点 IOL 挿入眼においては,単焦点 IOL と光学デザインが異なるため,詳細な眼科検査や治療への影響が危惧されている.筆者らは回折型多焦点 IOL 挿入眼に硝子体手術を行い,硝子体の可視化に用いたトリアムシノロン〔別刷請求先〕吉野真未:〒101-0061 東京都千代田区三崎町 2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprint requests:Mami Yoshino, M.D., Department of Ophthalmology, Tokyo Dental College Suidobashi Hospital, 2-9-18 Misaki-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0061, JAPAN回折型多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患 治療を要した 4 例吉野真未*1ビッセン宮島弘子*1鈴木高佳*1川村亮介*2井上真*1,3*1 東京歯科大学水道橋病院眼科*2 慶應義塾大学医学部眼科学教室*3 杏林大学アイセンターFour Cases Requiring Treatment for Vitreoretinal Disorders after Difractive Multifocal Intraocular Lens ImplantationMami Yoshino1), Hiroko Bissen-Miyajima1), Takayoshi Suzuki1), Ryosuke Kawamura2) and Makoto Inoue1,3)1)Department of Ophthalmology, Tokyo Dental College Suidobashi Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Keio University School of Medicine, 3)Kyorin Eye Center, Kyorin University School of Medicine目的:回折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後に網膜硝子体疾患を発症し,治療を要した症例を検討した.対象:回折型多焦点 IOL が挿入された 341 眼中,術後に良好な視力が得られたものの網膜硝子体疾患を発症した 4 眼(1.2%)で,裂孔原性網膜 離,黄斑前膜,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症が 1 眼ずつであった.治療前後の検査所見,術中所見,視力を検討した.結果:倒像鏡眼底検査は単焦点 IOL 挿入眼同様に問題なく,光干渉断層計のモニター画像で 3 眼中 3 眼に水平ノイズが観察された.硝子体手術を要した 2 眼にトリアムシノロン粒子のゴースト像が観察されたが,手術は問題なかった.トリアムシノロンの Tenon 下投与を 2 眼に,ベバシズマブ硝子体内投与を 1眼に行い,視力は改善した.結論:回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患は,一部の検査や術中所見で IOL の光学特性が出ることを理解していれば安全に治療が行えると思われた.We retrospectively evaluated cases that required treatment for vitreoretinal diseases following di ractive mul-tifocal intraocular lens(IOL)implantation. Of 341 consecutive eyes, 4 developed vitreoretinal diseases:one case each of retinal detachment, epiretinal membrane, central retinal vein occlusion and branch retinal vein occlusion. Vitrectomy was performed in 2 eyes and ghost images were observed in both those eyes. Spectral-domain optical coherence tomography was performed in 3 eyes and horizontal noise was observed in all 3 eyes. Subtenon injection of triamcinolone was performed in 2 eyes and intravitreal injection of bevacizumab in 1 eye. Visual acuity improved in all cases. When the eye develops vitreoretinal disease after di ractive multifocal IOL implantation, examination and treatment can be performed safely in consideration of the optical design, which may a ect visibili-ty to the examiner or evaluation by digital equipment.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1543 1547, 2009〕Key words:回折型多焦点眼内レンズ,眼内レンズ,網膜硝子体疾患,硝子体手術.di ractive multifocal intraocu-lar lens, intraocular lens, vitreoretinal disease, vitrectomy.———————————————————————- Page 21544あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(104)粒子が硝子体内でゴースト像を呈すること3),回折型多焦点IOL 挿入眼では,Carl Zeiss Meditec 社製スペクトラルドメイン光干渉断層計(opitcal coherence tomography:OCT)に内蔵された眼底モニター画像である LSO(line scanning ophthalmoscope)画像で,波面状の水平ノイズが観察されることを報告した4).今回,回折型多焦点 IOL 挿入例で網膜硝子体疾患を発症し,治療を要した症例の網膜硝子体の検査や治療への影響を総合的に検討した.I対象および方法対象は,東京歯科大学水道橋病院において,2005 年 6 月から 2008 年 8 月までに白内障手術時に回折型多焦点 IOL が挿入された 341 眼である.挿入された回折型多焦点 IOL は,AMO 社製テクニスマルチフォーカル ZM900,アルコン社製 ReSTORR SA60D3 で,厚生労働省承認前の使用にあたっては,大学倫理委員会の承認を得て,多焦点 IOL を希望する患者に十分な説明の後,同意を得たうえで挿入を行った.また,適応については,術前に視力に影響する眼疾患を合併していない白内障例とした.341 眼について,IOL 挿入後に網膜硝子体疾患を発症した例を後ろ向き調査したところ,4 眼に発症し治療を要していた.これらの症例の眼底所見,蛍光眼底所見,OCT 所見(Carl Zeiss Meditec 社製 Spec-tral-domain OCT, Cirrus HD-OCT, OCT4000),および硝子体手術を要した例における術中所見,治療後の視力予後を検討した.II結果多焦点 IOL 挿入術後の網膜硝子体疾患の発症率は 1.2%(341 眼中 4 眼)で,いずれの症例も,術中合併症はなく,術後に良好な視力が得られた後に網膜硝子体疾患を発症した.4 例の疾患の内訳は,裂孔原性網膜 離,黄斑前膜,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症がそれぞれ 1 眼ずつで,各症例の年齢,性別,使用した多焦点 IOL,発症までの期間,経過観察期間を表 1 に示す.白内障術前,多焦点 IOL 挿入後,網膜硝子体疾患発症時,治療後の視力の変化を表 2 に示す.全例,多焦点 IOL 挿入後良好な視力が得られていたが,網膜硝子体疾患の発症とともに視力が著明に低下,治療後視力は改善し,自覚的な満足度が得られている.近方視力も同様に網膜硝子体疾患治療後,ほぼ多焦点 IOL 挿入後の視力まで回復している.つぎに,術前後の検査所見であるが,倒像鏡による眼底検査,OCT 画像,LSO 画像,蛍光眼底造影所見を表 3 にまと表 1各症例における網膜疾患症例1234年齢56 歳70 歳79 歳54 歳性別男性女性男性女性左右眼左左右左使用した多焦点 IOLZM900ZM900SA60D3SA60D3IOL 度数+15.0 D+21.0 D+20.5 D+17.5 D網膜硝子体疾患網膜 離黄斑前膜網膜中心静脈閉塞網膜中心静脈分枝閉塞発症までの期間1週24 カ月2 カ月6 カ月治療後観察期間26 カ月14 カ月12 カ月8 カ月表 2各症例における視力の変化症例1234遠方視力裸眼(矯正)術前0.04(0.5)0.6(0.6)0.5(0.7)0.3(04)IOL 挿入後最高0.5(1.0)0.8(1.0)1.2(1.2)1.2(1.5)網膜疾患発症時手動弁0.4(0.5)0.3(0.3)0.5(0.5)治療後1.0(1.2)0.8(0.8)0.8(0.8)1.2(1.5)近方視力裸眼(矯正)IOL 挿入後最高未施行0.5(0.7)0.7(1.0)0.9(1.0)治療後未施行0.4(0.7)0.7(0.7)0.7(0.8)表 3各症例における検査所見症例1234眼底検査問題なし問題なし問題なし問題なしOCT 画像未施行問題なし問題なし問題なしLSO 画像未施行水平ノイズ水平ノイズ水平ノイズ蛍光眼底造影未施行問題なし未施行未施行 OCT:optical coherence tomography,LSO:line scanning ophthalmoscope.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091545(105)める.疾患の種類により施行した検査内容が異なるが,眼底撮影画像は単焦点 IOL 挿入眼と差がなく,診断に影響を及ぼす問題はなかった(図 1, 2).ただし,LSO 画像においては,施行した 3 例全例に波面状の水平ノイズが認められた(図 1d,f).多焦点 IOL 挿入眼の硝子体手術への影響は,手術を要した症例 1,2 で,硝子体手術用コンタクトレンズを用いた手術顕微鏡下では,網膜血管,黄斑前膜のコントラストが単焦点 IOL 挿入眼に比べてやや低下して観察された(図 3a).硝子体を観察するためにトリアムシノロン粒子(ケナコルトR,ブリストルマイヤーズ,東京)を硝子体腔に注入したところ,硝子体腔内に浮遊するトリアムシノロン粒子は,消えたり現れたりして見え,粒子そのものがだぶった像として観察された(図 3b).同様に眼内器具も顕微鏡の焦点の合わせ具合にacdefb図 1症例3の眼底写真とOCT所見網膜中心静脈閉塞症発症時の眼底写真(a)と OCT 画像(c)では多発する網膜出血と著明な黄斑浮腫がみられる.治療 7 カ月後の眼底写真(b)と OCT 画像(e)では網膜出血も減少し黄斑浮腫も軽快した.OCT でのモニター画像(LSO)(d,f)では波状の水平ノイズ(矢印)が認められるが,OCT 画像では認められない.———————————————————————- Page 41546あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(106)より滲んで見えたが,手術操作は問題なく行えた.III考按回折型多焦点 IOL は,その利点を生かすために,網膜感度が良好で,中心窩機能が保たれていることが好ましいため,白内障手術前の検査で,視力に影響を及ぼす可能性がある眼底疾患が存在すれば適応としないのが一般的である.症例 1 は,術後早期に網膜 離を発症しているが,術前検査では眼底に異常所見は観察されなかったため多焦点 IOL の適応とし,術 1 週後に硝子体出血を伴う急激な視力低下をきたし,この時点で裂孔原性網膜 離を発症した可能性が高いと考えている.白内障手術の年齢層から,多焦点 IOL 挿入後に加齢性変化による網膜硝子体疾患を発症する可能性は十分考慮すべきである.その際問題になるのが,良好な裸眼視力を目的として挿入された症例における視力予後,光学デザインによる診断への影響,手術を要する例での手術の難易度で図 2症例4の眼底写真とOCT所見網膜中心静脈閉塞症増悪時の眼底写真(a)と OCT 画像(c)では多発する網膜出血と黄斑浮腫がみられる.治療 4 カ月後の眼底写真(b)と OCT 画像(d)では網膜出血も減少し黄斑浮腫も軽快した.acbd図 3症例1の術中写真網膜血管,黄斑前膜のコントラストがやや低下し(a),トリアムシノロン粒子はだぶった像(b)として観察されたが,手術は問題なく施行できた.ab———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091547(107)ある.まず,視力予後については,疾患や重篤度によって異なるが,今回の 4 症例では,多焦点 IOL 挿入後裸眼視力 0.5 以上,矯正視力 1.0 以上と良好であった.しかしながら,網膜硝子体疾患により視力は著明に低下し,治療を要した.4 例とも疾患が異なり治療法も異なるが,全例視力は改善した.多焦点 IOL は先進医療として認められ,術前後の検査は保険適用だが,手術費が自費のため,術後の見え方に対する患者の期待度は高い.網膜硝子体疾患を併発した場合,単焦点IOL 挿入後に比べ,治癒後に視力がある程度回復しても,高価な手術費を支払った結果として不満をいだく可能性があり,今後,症例数が増えるにつれ,十分な術前説明の必要性が認識されるべきである.つぎに,検査所見についてであるが,回折デザインによる影響が危惧されている.回折型多焦点 IOL 挿入眼の自覚的な見え方に不満をもつ例が検討されており5,6),代表的な見え方の表現に,回折リングが見える,waxy vision,ゴースト像がある.同様の問題が検査に出るかどうかであるが,倒像鏡による眼底検査,眼底写真,蛍光眼底造影といったある位置に焦点を合わせる条件では,単焦点 IOL 挿入例と差がなく施行でき,診断への影響はなかった.近年,網膜診断に用いる OCT 画像について,筆者らは,回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患のない例において,Cirrus HD-OCT の LSO 画像で水平ノイズがみられるが,OCT 画像そのものには水平ノイズに相当する像はみられず,また,SLO でも水平ノイズに相当する像がみられないことを報告した4).今回の回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患例でも,測定した全例に同様の水平ノイズがみられ,この機序としては,LSO が完全な共焦点方式ではなく,画像検出を短波長のスリット照明と横方向に移動するスリット状の検出装置(linear detector)で行うため,一方向のみの水平ノイズが検出され,一方,完全な共焦点方式であるSLO ではピンホール状の検出装置を用いているため,水平ノイズが除去されていたと推測している.今後,新しい診断装置が開発されると,回折型多焦点 IOL 挿入眼において単焦点 IOL 挿入眼でみられない微細な影響が出る可能性はあるが,診断を左右するような状況が出ることは考えにくい.硝子体手術中所見として,すでに症例 1 のケナコルト粒子のゴースト像を報告した3)が,症例 2 でも同様の所見が観察され,回折型多焦点 IOL 挿入眼における特徴的な見え方と考えられた.今後,網膜硝子体手術が必要な症例では,術者がこの現象を把握しておくことが必要と思われた.術者の自覚的判断になるが,多焦点 IOL を通しての網膜所見は,レンズ特有の収差のなかでの手術となり,単焦点 IOL を通してよりコントラストが弱く感じられる.収差については,IOL 以外に顕微鏡や硝子体手術用コンタクトレンズの影響もあり,さらに検討が必要だが,IOL 収差への対応策として,欧米で硝子体手術における使用率が高い広角観察システムは,多焦点 IOL の収差の影響を受けにくいため,今後,硝子体手術時の有用性について評価が望まれる.検査所見で,回折型多焦点 IOL 挿入後の自覚的な見え方で問題になる回折リング像や waxy vision の影響がなかったことを述べたが,硝子体手術中に焦点をずらすと,回折リングが視野に広がり,全体がゆらゆらした,英語の表現で waxy vision を想像させる映像が確認された.この現象は,焦点を合わせる場所によって変化し消えるので,手術操作に影響はないが,患者の見え方を理解するうえで興味深い所見である.以上,回折型多焦点 IOL 挿入後に網膜硝子体疾患の治療を要した 4 例で,検査および治療において IOL の光学デザインによる特徴的な所見が認められたが,治療は安全に行われ,良好な視力回復が得られた.今後,多焦点 IOL 挿入例数が増えるに伴い眼底疾患発症率が増えることが予想されるが,眼底検査や手術時に単焦点 IOL との違いを理解しておくことが必要と思われた.文献 1) ビッセン宮島弘子:視機能を考えた眼内レンズ選択法.IOL&RS 20:209-212, 2006 2) ビッセン宮島弘子:眼科と医療問題多焦点眼内レンズと評価療養.IOL&RS 22:384-385, 2008 3) Kawamura R, Inoue M, Shinoda K et al:Intraoperative ndings during vitreous surgery after implantation of di ractive multifocal intraocular lens. J Cataract Refract Surg 34:1048-1049, 2008 4) Inoue M, Bissen-Miyajima H, Yoshino M et al:Wavy horizontal artifacts on optical coherence tomography line-scanning images caused by di ractive multifocal intraocu-lar lenses. J Cataract Refract Surg 35:1239-1243, 2009 5) Woodward MA, Randleman JB, Stulting RD:Dissatisfac-tion after multifocal intraocular lens implantation. J Cata-ract Refract Surg 35:992-997, 2009 6) Castillo-Gomez A, Carmona-Gonzalez D, Martinez-de-la-Casa JM et al:Evaluation of image quality after implan-tation of 2 di ractive multifocal intraocular lens models. J Cataract Refract Surg 35:1244-1250, 2009***

Epipolis Laser In Situ Keratomileusis(Epi-LASIK)の臨床成績

2009年11月30日 月曜日

上眼瞼に発生したSteatocystoma Simplex の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(91) 15310910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1531 1534,2009cはじめにSteatocystoma は毛包脂腺系から発生する皮下腫瘍であり,steatocystoma multiplex と steatocystoma simplex の 2種類の形態がある1).Steatocystoma multiplex と steatocys-toma simplex は病理組織学的には同一であるが,常染色体優性遺伝形式をとり,腫瘍が多発する場合を steatocystoma multiplex,遺伝傾向がなく,腫瘍が単発である場合を ste-atocystoma simplex とそれぞれ呼称する1).Steatocystoma simplex は,steatocystoma multiplex の単発型として,Brownstein によって 1982 年に初めて報告された1).発生頻度,好発年齢や性差などは明らかではないが,Brownstein が 10 年間で合計 30 症例を経験していること1),また,現在まで悪性転化に関する症例報告はないため,まれな良性皮下腫瘍として扱われている2 5).臨床所見は,弾性硬の皮下腫瘍であり,油性ないしはクリーム状の内容物を有するため,臨床症状から epidermal cyst と診断されることが多い1 5).Steatocystoma simplex の好発部位は顔面であり1),特に前額部に多く認められる1,3,5).しかし,現在まで眼瞼に発生した steatocystoma simplex の報告は 2 例のみであり6,7),わ〔別刷請求先〕木下慎介:〒509-9293 岐阜県中津川市坂下 722-1国民健康保険 坂下病院眼科Reprint requests:Shinsuke Kinoshita, M.D., Department of Ophthalmology, Sakashita Hospital, 722-1 Sakashita, Nakatsugawa-shi, Gifu 509-9293, JAPAN上眼瞼に発生した Steatocystoma Simplex の 1 例木下慎介*1新里越史*1雑喉正泰*2岩城正佳*2*1 国民健康保険 坂下病院眼科*2 愛知医科大学眼科学講座A Case of Steatocystoma Simplex in the Upper EyelidShinsuke Kinoshita1), Etsushi Shinzato1), Masahiro Zako2) and Masayoshi Iwaki2)1)Department of Ophthalmology, Sakashita Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Aichi Medical UniversitySteatocystoma simplex はまれな良性皮下腫瘍である.好発部位は顔面であるが,現在まで眼瞼に発生した報告は2 例のみである.今回,筆者らは眼瞼に発生した steatocystoma simplex の 1 例を経験した.症例は 55 歳,男性で,主訴は右上眼瞼に腫瘤を触知することであった.皮膚側からの視診では右上眼瞼に病変は認めず,触診で病変の触知が可能であった.上眼瞼を翻転すると眼瞼結膜側に境界明瞭な隆起性病変を認めた.霰粒腫を疑い摘出術を行ったが,術中に薄い被膜を認めたため,被膜を全摘出した.病理組織診断の結果は,steatocystoma であった.眼瞼に生じた ste-atocystoma simplex の臨床所見は,霰粒腫に類似していた.そのため,霰粒腫の治療を行う場合は,steatocystoma simplex の可能性も考慮する必要がある.Steatocystoma simplex, a rare subcutaneous benign tumor, commonly a ects the face, though 2 cases of its occurrence in the eyelid have been reported. We experienced a case of steatocystoma simplex in the upper eyelid. The patient, a 55-year-old male, complained of a palpable lump in his right upper eyelid, but the lump could not be detected on ocular inspection. When we everted the upper eyelid, however, we observed a well-demarcated tumor in the palpebral conjunctiva, which we diagnosed as a chalazion and surgically removed. During the opera-tion we discovered that the tumor was encapsulated, so complete decapsulation was performed. Histopathological evaluation of the tumor led to the diagnosis of a steatocystoma. Since the clinical characteristics of patients with steatocystoma simplex mimic those of patients with chalazion, in cases of suspected chalazion it is advisable to include steatocystoma simplex in the di erential diagnosis, so as ensure a correct diagnosis and, consequently, an appropriate treatment plan.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1531 1534, 2009〕Key words:steatocystoma simplex, 眼 瞼, 眼 瞼 結 膜, 霰 粒 腫,steatocystoma.steatocystoma simplex, eyelid, palpebral conjunctiva, chalazion, steatocystoma.———————————————————————- Page 21532あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(92)が国における症例報告はない.そこで今回,筆者らは,眼瞼に発生した steatocystoma simplex の 1 例を経験したので報告する.I症例患者:55 歳,男性.主訴:右上眼瞼の違和感.既往歴:50 歳,高血圧症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成 19 年 9 月頃より,右上眼瞼に違和感を自覚していた.同年 10 月頃に右上眼瞼に腫瘤を触知することを自覚したため愛知医科大学病院眼科を受診した.初 診 時 所 見: 視 力 は 右 眼 0.2(0.8×+1.5 D(cyl 0.75 D Ax0°),左眼 1.0(1.2×+1.25 D(cyl 0.25 D Ax55°)で,眼圧は右眼 11 mmHg,左眼 13 mmHgであった.両眼ともに前眼部,中間透光体,眼底に異常は認められなかった.眼瞼部所見:眼瞼皮膚側からの視診では,右上眼瞼に病変は認められなかったが,触診で眼瞼の中央付近に弾性硬の病変が確認できた.右上眼瞼を翻転すると眼瞼結膜側に境界明瞭な隆起性病変を認めた(図 1).臨床検査所見:血液検査で異常は認められなかった.治療経過:臨床経過,臨床所見より霰粒腫を疑い,局所麻酔下に経皮的摘出術を行った.腫瘍直上で皮膚切開を行い,眼輪筋を圧排し瞼板前面を露出したところ,病変と一致する部分に瞼板の隆起を認めた.瞼板隆起部の切開を行ったところ,黄色クリーム状の内容物が認められた.鋭匙で内容物の郭清後,同部分を観察すると虚脱した薄い被膜を認めた.そのため,霰粒腫ではなく何らかの貯留 腫であると判断し,被膜を周囲組織から丁寧に 離し全摘出した.眼瞼結膜側は,眼瞼結膜と被膜の 離は困難であったため,眼瞼結膜を含めて摘出した.病理組織診断:上皮で裏打ちされた 胞状構造とその周囲に脂腺が認められたため,steatocystoma と診断された(図2).術後経過:眼瞼以外に腫瘍を認めない単発型であり,家族歴もないことから,steatocystoma simplex と診断した.術後 30 日で再発はなく,被膜と一塊に切除した眼瞼結膜の瘢痕は軽微である(図 3).また,眼瞼結膜側の瘢痕による眼表面の違和感や角膜上皮障害は認めていない.II考察本症例における steatocystoma simplex の術中所見は,瞼板内に生じた被膜を有する腫瘍であり,腫瘍の内容物は黄色クリーム状であった.この被膜は steatocystoma simplex の 腫壁であるが,他の症例報告6,7)においても 腫壁は瞼板と強固に癒着しており,本症例の術中所見と同様の所見である(表 1).そのため,瞼板と強固に癒着している 腫壁が,図 1初診時所見右上眼瞼結膜に球状の隆起性病変を認める.図 2病理組織学所見ケラトヒアリン顆粒をもたない上皮成分の 腫壁(矢頭)と脂腺(矢印)を認める.bar=100 μm.図 3術後所見眼瞼結膜の瘢痕は軽微である.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091533(93)眼瞼に発生する steatocystoma simplex の特徴的な所見であると考えられる.その一方で,本症例では,視診と触診,術中所見を含め,霰粒腫と類似する所見が多く,術中に 腫壁を発見できなければ霰粒腫との鑑別は非常に困難であったと考えられる.また,他の症例報告おいても術前の臨床診断は霰粒腫であった6,7)ことを考慮すると,霰粒腫の臨床診断で手術を行う際は,術中に 腫壁の有無を注意深く観察することが重要であると考えられる.Steatocystoma simplex は貯留 腫であるため, 腫壁の全 摘 出 が 根 治 的 治 療 で ある1 5). こ れ は,steatocystoma simplex に限らず,貯留 腫は摘出の際に 腫壁を取り残すと,残存した 腫壁から貯留 腫が再発するためである8). 腫壁を残存させないためには, 腫壁を損傷することなく一塊に摘出することが望ましいが,本症例では瞼板前面の所見が霰粒腫と類似しており,霰粒腫の手術方法9)に準じて瞼板前面を切開したため,腫瘍を一塊として摘出することは不可能であった.しかし,貯留 腫の摘出術のなかには,あえて 腫壁の切除または切開を行い,内容物を脱出させた後に 腫壁を摘出する術式がある10).本症例では 腫壁を損傷したが,同様の術式を用いることで, 腫壁を全摘出することが可能であった.したがって,霰粒腫の臨床診断で手術を行い, 腫壁を損傷した場合であっても,術式を変更することで, 腫壁の全摘出は可能であると考えられる.Steatocystoma simplex と鑑別が必要になる疾患は,epi-dermal cyst と subcutaneous dermoid cyst である1 5).しかし,epidermal cyst と subcutaneous dermoid cyst はともに貯留 腫であるため,治療は 腫壁を含めた全摘出であ り8),steatocystoma simplex と臨床的に鑑別する意義は少ないと考えられる.また,subcutaneous dermoid cyst は生下時から存在することが多いため11),問診で鑑別することが可能であると考えられる.病理組織学的には,steatocysto-ma はケラトヒアリン顆粒をもたない上皮成分の 腫壁に脂腺を有する貯留 腫である1).そのため,同じ貯留 腫であってもケラトヒアリン顆粒を有し, 腫壁に脂腺をもたないepidermal cyst や脂腺以外の皮膚付属器をもつ subcutane-ous dermoid cyst との鑑別は容易である12).本症例における病理組織像は典型的な steatocystoma であり,epidermal cyst や subcutaneous dermoid cyst との鑑別は容易であり,また,上皮成分を含む 腫壁が確認できたため,脂肪肉芽腫である霰粒腫9)との鑑別も容易であった.Steatocystoma simplex は,毛包脂腺系の毛包脂腺導管開口部から毛隆起部までの部分である毛包峡部から発生するとされている13).しかし,瞼板内には睫毛根は存在せず14),また,瞼板内の脂腺であるマイボーム腺は,睫毛と連絡のない独立脂腺であるため15),瞼板内には毛包脂腺系は存在しない.そのため,本症例における steatocystoma simplex は,睫毛重生で生じるように16),マイボーム腺の形質変化によって,瞼板内に形成された毛包脂線系から発生したと考えられる.一方,本症例以外にも,マイボーム腺と同様の独立脂腺であり,毛包脂腺系が存在しない口腔内にも steatocystoma simplex が発生している17)ことを考慮すると,実際は steato-cystoma simplex の発生に毛包の関与はなく,脂腺のみが関与している可能性も否定できない.しかし,どちらの場合であっても steatocystoma simplex の発生には脂腺が強く関与していると考えられる.したがって,steatocystoma sim-plex の発生起源は毛包峡部のような部分ではなく,脂腺導管開口部など脂腺が存在する部位であると考えられる.眼瞼に生じた steatocystoma simplex の臨床所見は,霰粒腫に類似していた.そのため,霰粒腫の臨床診断で手術を行う場合は,steatocystoma simplex の可能性も念頭において,術中の注意深い観察が必要である.文献 1) Brownstein MH:Steatocystoma simplex. Arch Dermatol 118:409-411, 1982 2) Nakamura S, Nakayama K, Hoshi K et al:A case of Ste-atocystoma simplex on the head. J Dermatol 15:347-348, 1988表 1眼瞼に発生したsteatocystoma simplexの報告例報告者年齢(歳)性別部位臨床診断治療内容術中所見Tirakunwichcha et al6)47女性左上眼瞼霰粒腫脂腺系の腫瘍摘出術瞼板と挙筋腱膜に強固に癒着摘出後,瞼板にボタンホール形成あり黄色クリーム状の内容物Procianoy et al7)68女性右上眼瞼霰粒腫脂腺 腫切除生検瞼板に強固に癒着霰粒腫に類似術中に灰色の油性内容物の流出自験例55男性右上眼瞼霰粒腫摘出術瞼板に強固に癒着黄色クリーム状の内容物眼瞼結膜を含めて切除———————————————————————- Page 41534あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(94) 3) Saravanan K, Akthar S:Interesting Case:steatocystoma simplex of the forehead. Br J Oral Maxillofac Surg 45:196, 2007 4) 山本聡,相原道子,中嶋弘:Steatocystoma simplex の1 例.皮膚 38:434-436, 1996 5) 寺内雅美,中束和彦,中村潔:Steatocystoma simplex の2 症例.形成外科 47:529-532, 2004 6) Tirakunwichcha S, Vaivanijkul J:Steatocystoma simplex of the eyelid. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:49-50, 2009 7) Procianoy F, Golbert MD, Duro KM et al:Steatocystoma simplex of the eyelid. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:147-148, 2009 8) Zuber TJ:Minimal excision technique for epidermoid(sebaceous)cysts. Am Fam Physician 65:1409-1412, 2002 9) Shields JA, Shields CL:Chalazion. Atlas of Eyelid and Conjunctival Tumors 2nd ed. p208-211, Lippincott Wil-liams & Wilkins, Philadelphia, 2008 10) Kanekura T, Kawamura K, Nishi M et al:A case of ste-atocystoma multiplex with prominent cysts on the scalp treated successfully using a simple surgical technique. J Dermatol 22:438-440, 1995 11) Koreen IV, Kahana A, Gausas RE et al:Tarsal dermoid cyst:Clinical presentation and treatment. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:146-147, 2009 12) Jenkins JK, Morgan MB:Dermal cysts a dermatopatho-logical perspective and histological reappraisal. J Cutan Pathol 34:815-829, 2007 13) 幸田弘: 腫について.皮膚臨床 31:115-129, 1989 14) 木下慎介,柿崎裕彦,雑喉正泰ほか:大部分の睫毛根は瞼板に付着しているため,睫毛乱生手術において瞼板前組織を完全切除すべきである.眼紀 57:10-13, 2006 15) Nelson BR, Hamlet KR, Gillard M et al:Sebaceous carci-noma. J Am Dermatol 33:1-15, 1995 16) Monshizadeh R, Cohen L, Golkar L et al:Perforating folli-cular hybrid cyst of the tarsus. J Am Acad Dermatol 48:33-34, 2003 17) Olsen DB, Mosto RS, Langrotteria LB:Steatocystoma simplex in the oral cavity;A previously undescribed con-dition. Oral Surg Oral MED Oral Pathol 66:605-607, 1988***