———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYが異なり,捉えられる病態も異なる.検査法に応じた部位診断の仕方を理解する必要がある.II視野の見方の基本視野は網膜座標上の各点の種々の視覚刺激に対する感度の空間的分布である.初診時,視野検査は,網膜座標上の感度低下した領域(=視野異常)を拾い出して,その空間的な広がり方から,視路の障害部位を推定するために利用する.結果の解析には,検査の対象となる視覚路の網膜部位再現性(retinotopy)注1)を知る必要がある.1.視野検査の基本原理:網膜部位再現性外界から投影された網膜上の像は,隣り合う空間的なつながり(retinotopy)を保ったまま,視神経から視皮質へと網膜部位再現的に投射される.視路を構成する各部位において,その解剖学的構造が網膜部位を再現しているので,障害された解剖学的部位に応じて,特徴的な視野欠損が生じる.これが視野解析の基本原理である.2.視野を構成する2つの座標軸地図は基準となる座標軸を知る必要がある.視野の原点は,検査の際に固視させる固視点(網膜の中心窩)である.この固視点(中心窩)を通る水平線と垂直線によって張られた座標軸をもとに視野を分析する.原点(固視点)を通る水平線は,網膜の上下の耳側網膜神経線維はじめに視野の定義は検査法によって異なり,その結果,視野異常も「あれこれ」異なる.検査法に応じて,その意味を理解していないと「あれこれ」悩むだけで正しく部位診断ができない.視野は,初診時,部位診断のために検査する場合とすでに診断が確定し視野障害の経過を定量的に評価する再診時に用いるが,本稿では,前者の視野検査から網膜一次視覚野(V1)間の視路の障害部位の推定方法について概説する.なお,自動視野計についての記述では,経験のあるHumphrey自動視野計(HFA)を用いて解説した.用語の違いはあってもOctopusでも基本的には同じである.筆者とCarlZeissMeditec社とは利益供与関係はない.I視野のあれこれもともと視野は見える範囲を意味した.定量的に,視線を固定して光刺激を与えて見える範囲を検査する動的視野計測法(kineticperimetry)によって等感度線(isopter)が導入され,見える範囲が視覚化され,種々の形状の視野異常が“見える”ようになった.その後,コンピュータを用いた自動視野計の発達によって,見える範囲の検査ではなく,視野の各部位における種々の視感覚を定量的に検査する静的視野計測法(staticperime-try)が急速に普及し,自動視野計が提供するGrayscaleや確立プロット図から視野異常を“思い描かない”といけないようになった.検査法に応じて視野の表現の仕方(3)1579atosiasii543855553特集●視野が欠けるあたらしい眼科26(12):15791587,2009視野異常のあれこれHowtoSystematicallyEvaluateVisualFieldDefects柏井聡*———————————————————————-Page21580あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009(4)末梢性の障害が示唆される.3.視路を構成する4つの主領域の網膜部位再現性視野検査の結果から,障害部位を推定するには,(1)網脈絡膜レベルの障害による網膜視細胞障害型,(2)網膜神経節細胞から視神経のレベルの網膜神経線維束障害(NFBD)型,(3)視交叉の障害による異名半盲型,(4)視束から視皮質までの障害による同名半盲型の4つのパターンに整理すると良い(図1).束が縫線を成して接する境界線を反映し,視野の水平の基準線を構成している.原点(固視点)を通る(正中)垂直線は,中心窩に立てた垂直線を境に,耳側と鼻側の網膜神経線維束が視交叉で左右に分かれて,同側および反対側視索へ,それぞれ投射されていく分かれ目を反映する基準線である.したがって,感度低下した領域の広がり方が垂直経線を守れば視交叉から後方の中枢性欠損が疑われ,一方,鼻側水平線を決して越えない欠損は,左右同名性に認められる場合を除いて,網膜神経線維束の耳側縫線に沿う両耳側半盲両鼻側半盲下垂体腫瘍頭蓋咽頭腫内頸動脈瘤眼病変半盲型欠損正中線を守っているか?同名性か?同名半盲側頭葉/視放線病変頭頂葉/視放線病変上1/4盲下1/4盲完全型か?視交叉後方病変(局在性なし)一致性か?視束病変後頭葉病変神経線維束の走行に従っているか?NFBD型欠損視神経病変NoesNoesesNoNoesNoes図1診断の進め方視野欠損の分布を見る.垂直正中線を尊重すれば,半盲性欠損が示唆される.左右の視野を見比べて,異名性なら視交叉病変が示唆される.両耳側半盲は下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫,両鼻側半盲は内頸動脈の巨大動脈瘤を除外する.同名半盲は,視交叉から後方の病変が示唆される.視野検査では,視束から後方を,原則これ以上細かく区別できない.対光反射を参考にする.同名半盲で視力低下がある場合,大きな腫瘤が視神経から視束を障害する場合と両側後頭葉の梗塞による中枢盲(両側同名半盲)がある.視力低下を伴わない同名半盲に対側RAPD(相対的瞳孔求心路障害)を認めれば脳梗塞や脱髄病変が多い.左右網膜の対応点からの投射は,視皮質へ行くにつれ,近づき,左右の視野欠損の形状が一致してくる.完全な同名半盲では局在診断できない.不全同名半盲は,障害部位が後方になるにつれ左右の視野欠損が一致し,後頭葉病変では視野欠損の形状が近似する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091581(5)低下を伴う.ミトコンドリアの呼吸鎖が障害される遺伝性,栄養障害性や中毒性の病態(表1)では,選択的にP細胞を障害し両眼性に特徴的な乳頭黄斑線維束障害型の欠損となる.2)弓状線維束障害型(図3)緑内障性視神経症では特徴的に弓状線維束が障害され(図3a),Bjerrum暗点(図3b)や(Ronne)鼻側階段(図3c)として親しまれている.非動脈炎性前部虚血性視神経症は,鼻側の水平線を守る水平視野欠損(図3d)が生じやすい.3)鼻側放射状線維束障害型(図4)先天性乳頭低形成では盲点とつながる楔状形の耳側視野欠損を生じることがある.欠損が垂直正中線を無視しa.網脈絡膜レベル:網膜視細胞障害型網膜深層の視細胞が障害されると,視野欠損は網膜上の病変の位置,形状に応じた文字通り網膜部位再現性の欠損となる.一方,網膜表層の網膜神経節細胞層が障害されると,病変の大きさや形状とは一致しない.視野検査では,網膜神経節細胞の網膜上の解剖学的な空間分布ではなく,受容野を検査している.周辺網膜では,1個の網膜神経節細胞は,1千個以上の視細胞からの入力を反映するが,中心窩周囲の網膜神経節細胞は,2,3個ないしは時に1個の視細胞からの情報を伝達する.このため,網膜の深層が障害された網脈絡膜瘢痕病巣は検眼鏡的所見に対応した部位に視野欠損が生じるが,網膜表層の網膜神経線維層が障害されると通過線維の障害に伴う網膜神経節細胞死が加わり,検眼鏡的病変の広がりをはるかに越えた視野欠損となる.ただ,この網膜神経節細胞の“巻き添え死”による視野欠損は,視神経乳頭に近いほど著明だが,遠ざかるほど,目立たなくなり,網膜最周辺では,そうした欠損がわからなくなる.このレベルの視野の特徴は,MEWDS(多発性消失性白点症候群)のような例外はあるものの,検眼鏡所見と見比べて評価すると病巣と視野との対応関係を認める点にある.ただ,検眼鏡的に正常だからといって網膜病変を除外することはできない.網膜電図など補助的な検査が必要である.b.網膜神経節細胞から視神経レベル:網膜神経線維束障害(NFBD)型視神経の障害は,おおもとの網膜神経節細胞の機能障害を反映している.ATP(アデノシン三リン酸)要求性の高いP細胞は,網膜神経節細胞の80%を構成し,解剖学的には網膜全体に分布している.しかし,遺伝性や中毒性などP細胞が選択的に障害されると,視野検査では周辺視野は保存され,その入力系の錐体細胞の障害を反映した中心暗点盲中心暗点を呈する(図2).一方,篩板から後方の視神経は,神経線維“束”単位に栄養されるので,障害された神経線維“束”が受け持つ受容野の広がりに応じた欠損となり,神経線維束の走行に沿った特徴的なパターンを呈する(図3).1)乳頭黄斑線維束障害型(図2)乳頭黄斑線維束の障害は,盲中心暗点を作り,視力のab図2中心暗点(a)および盲中心暗点(b)図3下方弓状NFBD型欠損(a)および,Bjerrum暗点(b),(Ronne)鼻側階段(c),下方水平性視野欠損(d)表1ATP欠乏性視神経症Leber遺伝性視神経症ビタミンB12欠乏性視神経症葉酸欠乏性視神経症メタノール視神経症———————————————————————-Page41582あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009(6)て広がるところが正中線を守る耳側半盲と異なる.c.視交叉レベル:異名半盲型視神経の網膜部位再現性は,乳頭黄斑線維束を中心に整理するとよい.乳頭黄斑線維束は視神経乳頭上では,網膜中心血管の外側1/3から1/4に楔形に分布する.眼球を出た直後は視神経の外側に位置し,後方へ行くに従い,乳頭黄斑線維束は,視神経の中心に移動する.こ図4上方鼻側放射状NFBD型欠損LRadbcLRLRLR図5(両側性)下方水平半盲+右上1/4盲片側あるいは両側性下方水平半盲は視交叉前方を下方から押し上げ視神経が視神経管の上壁ないしは動脈硬化した前大脳動脈に押しつけられると生じる.視神経の梗塞では盲点の耳側の水平線は守らない(図3d).両側性水平半盲の鑑別に,ごくまれに外傷や出血によって両側性に鳥距溝の上唇あるいは下唇が障害されると二重同名下1/4盲,二重同名上1/4盲がある.a:HFA:SITAstandard24-2.両眼ともに水平線を守る下方半盲を認め,右眼は耳側上1/4盲を伴っている.b:Gd造影T1強調MRI傍正中矢状断像.Gd造影される斜台から拡大する腫瘍の先端(黒矢印)が視神経から視交叉の前端を持ち上げ視交叉前端が白矢印の部で下方に屈曲している.視交叉の前端が上方から圧迫され下方水平半盲を作る.c:Gd造影T1強調MRI冠状断像.右視神経の視交叉の接合部を腫瘍が内側から圧迫し(黒矢印)右上耳側1/4盲を伴う.d:HFA:SITAstandard30-2.腫瘍切除術後,圧迫が解除され視野欠損は消失した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091583(7)(dorsomesially)に位置するようになり,後方へ行くにつれさらに(鼻側)内方への回転を続け,下方からの線維は背外側に向かって回転し,外側膝状体に到達する前には,完全に網膜上方(12:00)は内側(鼻側)視索に,下方(6:00)網膜は外側(耳側)視索に位置する.したがって,網膜の水平縫線は外側膝状体では垂直方向に投射されることになる.外側膝状体と1次視中枢(V1)をつなぐ視放線の網膜部位再現性の特徴は,視束で網膜神経線維束が鼻側に90°回転し,外側膝状体の直前で網膜の水平線が上下方向の12:00方向(上方)を指すようになっていたが,視放線で逆回転することによって再び解剖学的『上下関係』としての網膜の上下関係を鳥距溝を挟んだ上下の対応に取り戻すところにある.V1の網膜部位再現性の特徴は,前後に伸びる鳥距溝を水平軸とした直交座標系にある.網膜は球面なので黄斑部を原点とした極座標で表す.網膜上の各位置は,中心窩からの距離と,水平線からの角度によって表され,それを球面視野計のドームに投射して表示したのが視野である.網膜座標系は時計に見立てるとわかりやすい.V1では,目の前の時計を見ると,中心から右半分は左V1,左半分は右V1で処理される.網膜座標の3:00─9:00方向の水平線は,前後方向に伸びる鳥距溝上に展開する.一方,網膜座標の中心窩からの距離,つまり,時計の中心から同心円に半径を広げて網膜の周辺に向かって画いた半径は,後頭極を中心窩に,鳥距溝上を前方に向かって展開される.したがって,鳥距溝の前方に網膜周辺部が分布し,頭頂後頭溝(POS)の真後ろに耳側半月が広がる.後頭極(中心窩)から前方のPOSに至る網膜最周辺部れに伴い中心窩を通る垂直線から耳側に位置する網膜神経節細胞からきた非交叉性線維は,当初は,砂時計のように上・下に分かれているが,黄斑線維束が視神経の中心に移動するに伴い,視神経の耳側で接するようになり網膜部位再現的に水平線を構成するようになる.このため,視交叉の接合部付近の障害によっては水平半盲(図5)が生じる.中心窩を通る垂直線から鼻側半分に分布する網膜神経節細胞からの軸索は,視交叉後方で交叉して反対側視束に入る交叉性線維となる.一方,前述の中心窩の耳側半分からの非交叉線維は同側視束に入る.この視神経から視交叉の接合部で,交叉性,あるいは,非交叉性の線維を選択的に障害するとそれぞれ単眼性の耳側半盲,あるいは,鼻側半盲となる.Traquairは,視神経から視交叉の接合部の交叉性線維の選択的な障害による単眼性の耳側半盲をTraquairの接合部暗点(Traquair’sjunctio-nalscotoma)とよんだ(図6a).一方,視交叉周囲病変で同側性の視神経障害に反対側上耳側視野欠損を生じることがある.接合部暗点(図6b)とよばれることがあるが,視交叉接合部における交叉性線維の走行は議論15)が分かれている注2).下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫が視交叉正中部を圧迫すると,交叉して対側へ行く鼻側線維を両眼同時に障害するので両耳側半盲となる.d.視束から視皮質レベル:同名半盲型乳頭黄斑線維束は視束に入った直後は,視束の中心に位置しているが,後方へ行くにつれ背側に移動し網膜上方線維と下方線維の間に割り込み上方に広がる楔形をなして外側膝状体の後上方域に終止する.網膜上方からの神経線維は視束に入るにつれ背内側??LRRabL図62つの接合部暗点a:Traquair接合部暗点は,交叉性線維の障害による単眼性視野欠損.b:接合部暗点は,右視神経の障害で同側性の中心暗点視野障害に加えて,反対側の左眼の上耳側視野欠損の組み合わせを言う.?はWilbrand’sknee注2).———————————————————————-Page61584あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009(8)る点(孤立点)だけでは局所的視野欠損とはいわない.これは,確率プロット図で真っ黒のp<0.5%でも,正常眼でも0.5%でそうした感度低下を示すことがある.見えないのではなく,気がつかなかったのである.自動静的視野検査では,パターン偏差の確率プロット図において,隣り合う2つ以上のp<5%以下のシンボルマークが塊(cluster)をなしているとき,局所的視野欠損と考える(下記IV-3参照).パターン偏差のプロット図で視野欠損を疑うには,必ず“お隣さん”が必要である6).IV視野異常の定義視野は網膜座標を水平面x-y軸に視感度(閾感覚)をz軸として3次元表現した視感度の空間的な分布で表せる.視野検査はこの閾感覚(刺激閾値の逆数)の山の測量に該当する注5).視野異常は,一般に,狭窄(contrac-tions),沈下(depressions),暗点(scotomas)の3つに分類できる.視野の山の外縁がすっぱりと削り取られて断崖絶壁で囲まれたのが狭窄.沈下には,山全体が地盤沈下した全般的沈下と山の表面の一部がへこんだ局所的沈下がある.通常,局在診断に役立つ視野欠損はこの局所的沈下で,その位置,形状が手がかりとなる.暗点は,山の表面に開いた穴である.これらの異常の検出には,検査法に応じて検出力に差があり,それぞれの定義の仕方も異なる.目的に応じて,適切な測定法を選択する.1.対座法対座視野検査は,すべての視野検査の基本である.小児やベッド安静の患者には唯一の検査法である.提示した指の指数弁による静的検査と指や手の動きを用いた動的視野検査によって患者の視線(中心窩)を原点に上下水平に分けた1/4象限の絶対欠損の有無がわかる.幼児では患児の示すsaccadesをもとに評価する.半盲のスクリーニングには最も効率がよく,有効な検査である.1/4盲や半盲が疑われれば,Goldmann動的視野検査で定量的に評価する.また,ヒステリーの管状視野の証明に適している.までの広がり方は,後頭極(中心窩)からの距離に反比例する.鳥距溝の最先端約810%が反対側眼(不対網膜神経線維)由来の耳側半月を表す.一方,中心視野10°が鳥距溝の約60%を占め,さらに中心窩からの投射は,鳥距溝の最後端で終わらず,外側に伸びて後頭葉の表面を1cm横に広がっている.この結果,黄斑回避や同名性傍中心暗点や耳側半月症候群といったV1ならではの視野障害が生じる.III検査結果が異常かどうか視覚は,個人の感覚的体験である.感覚を定量化する視野検査では,結果をうのみにせず,まず,患者のできばえ(performance)を評価する.対座法やGoldmann視野検査では,患者の示す反応が信頼できるかどうか,常に注意し,必ず,検査員は測定用紙にその印象を書く.自動視野計では,定量的にデータの信頼性(固視不良,偽陽性,偽陰性)や再現性が印字されるので,結果の分析にあたって,得られた結果の信頼性を頭に入れたうえで,データを評価する.どんな検査も,異常と決めつける前に,検査が検出できる感度と検査結果の特異度を理解したうえで,結果を評価しないと正確な分析ができない.動的視野検査では,測定点1点の特異度は低いが,欠損が疑われる場合は,予想されるisopterに直交するように視標を移動させ,測定点を増やすことによって,データが群としてつながると信頼性が増す.動的視野検査の精度は,測定点の個数に反映される.スクリーニングでは,視野の基準の水平(盲点鼻側),垂直軸を挟んで対をなす部位でステップの有無を調べ,それぞれ末梢性,中枢性の欠損の検出感度を高める.測定の際のポイントであるとともに,結果を読むポイントでもある.静的自動視野計(HFA)では,各測定点の正常値からの感度低下をトータル偏差注3)として算出し,確立プロット図上に,正常眼の感度分布でそうした値をとる確率をシンボルマークでp<5%,2%,1%,0.5%と灰色4段階表示される.シンボルマークが黒くなるほど,その値以下の全体に占める割合は低くなり,異常値である可能性が大きくなる.しかし,パターン偏差注4)の確率プロット図上,シンボルマークがたった1つ孤立してい———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091585(9)2.動的視野検査動的視野検査は,視標を動かして見える領域と見えない領域の境界(動的閾値)を曲線でつないだisopterによる同心円状の動的閾値の等高線注6)で地図表示する.動的視野検査では,視野欠損はisopterが内向きに偏位している領域と定義される.中心暗点が疑われる患者には平面視野計による中心視野計測が原理的に最もすぐれている.また,管状視野の診療録上の記録に用いる.Goldmann動的視野検査は,検査員が迅速に広い範囲を検査できる柔軟性が特徴である.広範囲な視野欠損が疑われる患者や自動静的視野検査がむずかしい患者に用いる.視野欠損がある程度の広がりをもち,感度低下のはっきりした進行例に適しているが,半盲の初期診断には静的視野検査のほうが感度が良い.したがって,一般的に動的視野検査は広範囲の欠損を検出するのに適し,静的視野は小さな欠損を見つけるのに向いている.3.自動静的視野検査自動静的視野検査は網膜上の一定の場所の視感度を測定し網膜座標上に表示する.検査が正確にできれば,初期の感度低下を検出するにはすぐれた検査で,また,その後の経過をソフトによって統計学的に評価できる.自動視野計では,視野欠損は以下の定義従って,NFBD型,半盲型,非局在型の3つに分けられる6).a.神経線維束障害(NFBD)型パターン偏差のプロット図上,p<5%以下のシンボル点が3つ以上隣り合って塊をつくり,そのうちの1つがp<1%の深い感度低下を示す“核(nucleus)”が,神経線維束の走行に沿ってあればNFBD型欠損(図7b)を疑う(Andersonの定義)6).パターン偏差のプロット図の最周辺部は測定点間のバラツキが大きいので3つの数の勘定には入れないが,他の低下部位の3つと連続性を保っているときは有意と取る.NFBD型欠損を疑えば,GlobalIndexのPSD(パターン標準偏差)がp<5%以下であるか,裏づけを取る.さらに,Humphrey視野計では,網膜神経線維束の走行を考慮した緑内障半視野テストが用意されており,異常と表示されれば緑内障性NFBD型欠損が示唆される(Andersonの3徴)6).なお,言うまでもなく,検眼鏡的に対応する緑内障性陥凹など診断にあたっては他の臨床所見が必要である.NFBD型欠損は,さらに弓状神経線維束欠損型,水平視野欠損型,鼻側階段型,中心暗点,傍中心暗点に分類され,自動視野計による各定義がある)6).b.半盲型パターン偏差のプロット図において,半盲ではシンボルマークが正中垂直線を越えることなく,正中線の上下方向に強く執着して分布する.一方,NFBD型など非半盲性欠損では,正中線を無視して左右のつながりに連関して広がる.半盲が明らかな患者に自動静的視野検査は時間の浪費である.初期半盲の診断こそ,自動視野計の適応で,自動視野計でしか検出できない.初期半盲,すなわち,垂直ステップは実測値をもとに定義(Mills)される6).測定感度値マップの正中線を挟む左右の対の数値を比較する(図8b).左右差が2dB以上あれば有意と考え,正中線に沿って比較していく.正中線に沿って上下に連続して3個以上,一方が高ければ,すべて高いとき,さらにその横(正中線から2番目の縦の列)の数値の対を比べる(図8b).それらの対の閾値も,同様の極性を示し,一方が閾値が高ければ,すabパターン偏差図7自動視野計のNFBD型欠損の定義(HFA:全点閾値30-2)a:Grayscaleは,プリンターの関係で感度を8階調の白黒の濃淡に置き換えて,計測していない部分を数学的に補間し見た目に一様になるように,灰色の濃度で表示される.全体的なイメージをつかむ程度で,自動視野計の視野欠損はパターン偏差のプロット図(b)で決める.b:シンボルマークは連続して3個以上集まって塊をなし,盲点につながるように分布し,p<1%の核をもっていることからNFBD型欠損といえる(Andersonの定義).———————————————————————-Page81586あたらしい眼科Vol.26,No.12,2009べてにわたって,他側の閾値より高いとき,正中線を境に有意の垂直ステップがある(Millsの定義)6)と考える.なお,極性は無視して,正中線間の対のみの比較で,耳側半盲の早期診断をするために,正中線に沿って耳側が2dB以上の低下が連続4対,あるいは3dB以上の低下が連続3対あれば有意とする見方もある7).垂直ステップと診断できたら,頭部画像検査を,必ず,行い,視路病変を除外する(図8c).トータル偏差やパターン偏差の確率プロット図では垂直ステップの早期診断はできない.正中線に沿って,実際のデータの左右を比較して初めて早期診断が可能となる.なお,半盲型視野欠損は,頻度的には視路の障害による中枢性の原因が多いが,末梢性には緑内障が多く,まれに網膜色素変性症でも認められる.c.非局在型局所的欠損がNFBDや半盲にあてはまらない場合,病巣の局在診断はできない.患者の検査のできばえをみて,検査の方法やプログラムを変えて再検してみる.パターン偏差の確率プロット図上,孤立点は診断的意義はなかった.スクリーニングで用いる中心24°や30°自動静的視野検査では,固視点の周りの4点は,特異点とよんで,この原則の例外となる.固視点周囲の4点は,単一プリントアウトでは単独の孤立点のように見えても,左・右眼のプリントアウトを見比べて同一象限の測定点が対をなして感度低下(p<0.5)していれば,同名半盲性傍中心暗点が示唆され,有意な欠損と考える6).後頭極の画像検査を行う.(10)図8自動視野計の半盲型欠損の定義(HFA:SITAfast30-2)a:Grayscaleでは上耳側周辺部辺縁に濃く輪状に辺縁に沿って鼻下側にかけて感度低下トーンを認めるが,パターン偏差では鼻側辺縁を除いて対応するシンボルマークは認められず,鼻側辺縁の低下閾は部位診断には役立たず非特異的欠損である.一方,盲点につながるシンボルマークは3個以上集簇し,なかにp<1%の核を認めNFBD型と言えないことはない(許可を得て文献6より転載).b:正中線をはさむ各対(赤枠)について,2dB以上の差がないか左右を比べる.囲まれた3つの組ですべて左のdB値が大きく感度が高い.さらに,それを挟む隣の左右の対(青枠)を比較する.いずれも左側の感度が対する右側の感度より2dB以上大きく,極性が保持されていることからVerticalStepである(Mills定義).盲点(△印)の位置から右眼の耳側半盲とわかる(許可を得て文献6より転載).c:(Gd造影T1強調MRI冠状断像)下垂体腫瘍が右視神経-視交叉接合部を内側から圧迫(黒矢印)している.パターン偏差abc———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.12,20091587おわりに視野異常の診断は,検査法によって異なり,視野欠損の定義も,それに応じて異なる.それぞれをきちんと理解することが大切である.文献1)HortonJC:Wilbrand’skneeoftheprimateopticchiasmisanartefactofmonocularenucleation.TransAmOph-thalmolSoc95:579-609,19972)KaranjiaN,JacobsonDM:Compressionoftheprechias-maticopticnerveproducesajunctionalscotoma.AmJOphthalmol128:256-258,19993)HortonJC:Compressionoftheprechiasmaticopticnerveproducesajunctionalscotoma.AmJOphthalmol129:826-828,20004)SchieferU,IsbertM,MikolaschekEetal:Distributionofscotomapatternrelatedtochiasmallesionswithspecialreferencetoanteriorjunctionsyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol242:468-477,20045)LeeJH,TobiasS,KwonJTetal:Wilbrand’sknee:doesitexistSurgNeurol66:11-17,20066)柏井聡:自動静的視野検査の読み方─ハンフリーに隠された5つのリング:“TheLordoftheRings”.神経眼科26:243-260,20097)FujimotoN,SaekiN,MiyauchiOetal:Criteriaforearlydetectionoftemporalhemianopiainasymptomaticpitu-itarytumor.Eye16:731-738,2002(11)語解説注1)Retinotopy:視覚路の各部位における,網膜地図上の各点の再現の仕方をretinotopyという.日本眼科学会の用語集では網膜投射部位と訳されているが,正確には,網膜の光刺激に対して,網膜上の空間的な位置関係を,その解剖学的構造に保持して反応を示すニューロンの空間的な分布の仕方を指す.神経眼科学会の用語集では対網膜部位再現と訳されている.注2)Wilbrand’sknee:古典的に,視交叉では鼻下側の網膜神経線維は,対側の視神経・視交叉接合部に,一旦,前方に弧を描いてWilbrand’sknee(図6の印)を形成してから,対側の視索に入ると考えられていた.臨床的に,視交叉につながる視神経の単独部位の障害で,同側性の視神経障害だけでなく反対眼にも上耳側視野欠損を作り,両眼性の視野異常となるため,その特異な機序から,接合部暗点とよばれてきた.その後,サルのトレーサーを用いた組織化学的研究から,Wil-brand’skneeは眼球摘出によって交叉性線維が変位してしまったアーチファクトで生体での存在を疑問視する論文が発表された1).臨床例からの接合部暗点の合理性を唱える報告24)や,疑問視する報告5)など,混乱しているのが現状である.注3)トータル偏差(Totaldeviation):各測定点における測定値を同年齢の正常群の中央値から引いた差.注4)パターン偏差(Patterndeviation):視野のおおよその高さ(generalheightofthevisualeld)として,測定点のなかで盲点近傍の3点を除いた測定値のうち85%点(percentile)の値,つまり,最も感度の良い点から7番目の感度を示した測定点で代表させる.この点の正常値からの差を,患者の視野のおよその高さ(gen-eralheight)と決め,正常視野から,その高さ分,全体的な沈下あるいは上昇しているとみなす.この全体的な沈下量あるいは上昇量を各トータル偏差値に加えあるいは差し引いて地図表示したのがパターン偏差である.白内障などの影響で全体的に地盤沈下して隠れてしまった局所的な欠損を引き出す工夫である.注5)Traquair’sislandofvision:視野をTraquairは暗黒(blindness)の海に囲まれた島として,DouglasAndersonはHillofvisionに喩えた.注6)Isopterの表示法:一定の視覚刺激(視標)を移動させて求めた動的閾値(dB表示では感度)による等高線をisopter(ギリシャ語でequalvision)という.平面視野計では,視標の大きさと検査距離で表し分数表示する.直径1mmの白色視標を1mで検査した場合,Isopter1/1,000Wと表示する.57.3(=180°/p)をかけると視角となり,I1/100Wは0.0573°である.Goldmann視野計では,検査距離が33cmと一定なので,isopterは大きさと視標の輝度で表す.視標の大きさはローマ字数字表示で0(1/16mm2),I(1/4mm2)と4倍間隔,輝度は5dB感覚のアラビア数字と1dB感覚のアルファベット文字を組み合わせて,I4eのように表示する.視標面積を表す数字と輝度を表す数字の和が等しい視標どうしは同様に感覚され同一isopterとなる(調和現象).I4eはII3eやIII2eと同一isopterである.Isopterの概念はRonneが創始した.