———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.1,2010650910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに今年(2009年)で第10回を迎える眼科DNAチップ研究会が第63回日本臨床眼科学会にて2009年10月9日に行われた.一般演題4題,教育講演1題,そして特別講演1題と内容の豊富なプログラムであり,バイオインフォマティクスに関する高度な研究内容を聞くことができた.本研究会は発足当時に眼科DNAチップ研究会と名づけられ,研究会では毎回高度な研究内容が発表されてきた.現在に至るまでにバイオインフォマティクス的研究手法は進化しており,対象は初期には遺伝子が主であったが,現在ではトランスクリプトーム解析,プロテオーム解析,グライコーム解析,メタボローム解析などに拡大発展している.本研究会では「DNAチップ」に限らずに幅広く研究会を発展させたいと考えており,幅広いバイオインフォマティクス分野における演題を募集している.一般講演京都大学の中西秀雄先生は「DNAチップを用いた変性近視感受性遺伝子へのアプローチ」について発表された.強度近視は環境因子とともに遺伝因子の関与が指摘されており,家系を用いた連鎖解析によってこれまで多数の近視感受性領域が報告されているが,現時点では具体的な近視感受性遺伝子は明らかになっていない.近年の科学技術・バイオインフォマティクスの進歩ならびに公的データベースの充実に伴い,一塩基多型(SNP)を用いた大規模な全ゲノム関連解析(GWAS)が可能となり,眼科領域でも加齢黄斑変性症,落屑症候群における遺伝子多型の強い関連が明らかになっている.本講演ではアジア人において特に重要な疾患である強度近視の感受性遺伝子を明らかにすべく,演者らが行ったGWASの具体例を示しながら,今後の方針とともにその理想と現実を概説された.京都府立医科大学の上田真由美先生は「Steavens-Johnson症候群(SJS)とEP3遺伝子多型の相関ならびにEP3機能の解析」について発表された.全遺伝子アプローチによる遺伝子解析(GWAS)にて,SJSにおいてEP3遺伝子領域との相関が確認され,iselectカスタムチップとダイレクトシークエンスにてEP3遺伝子領域の6SNPsとの相関が確認された.遺伝子機能解析においては,結膜上皮にEP3遺伝子の発現が確認され,またEP3アゴニストはpolyIC刺激下の結膜上皮細胞のCXCL11,CCL20,IL6の産生を抑制し,さらに結膜弛緩症や翼状片患者の結膜上皮に発現していたEP3蛋白が慢性期SJS患者の結膜では消失していた.以上よりEP3が眼表面炎症制御に関与している可能性があることを示された.京都府立医科大学の池田陽子先生は「原発性開放隅角緑内障(POAG)の疾患マーカー解析」について発表された.POAG症例と緑内障専門医が判定した正常者を500KAymetrixチップにて解析し,得られた一塩基多型(SNPs)と既報の緑内障遺伝子情報を踏まえて作成したカスタムチップにて別集団POAG,正常者間を解析し,結果をマンテルヘンゼル法で統合解析を行って最終的に6個の有意なSNPsを得た.これらのSNPsはPOAGの発症関連マーカーになる可能性があることを示された.山形大学の柏木佳子先生は「コチレニンA投与した網膜芽細胞腫細胞株における網羅的遺伝子発現解析」について発表された.分化誘導および増殖抑制効果をもつ新しい抗腫瘍薬として考えられているコチレニンAを網膜芽細胞腫細胞株WERI-Rb-1に投与したのちにマイクロアレイ解析を行った結果,TNF(腫瘍壊死因子)シグナル関連因子,細胞周期を抑制するp21・Cip1遺伝子,および視細胞特異的発現遺伝子であるphospho-deesterase6AのmRNAの発現が上昇した.一方で,(65)第10回眼科DNAチップ研究会報告西塚弘一*1山下英俊*1木下茂*2*1山形大学医学部眼科学講座*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学第63回日本臨床眼科学会専門別研究会2009年10月9日(金)福岡国際会議場———————————————————————-Page266あたらしい眼科Vol.27,No.1,2010神経芽腫マーカーであるN-myc遺伝子のmRNAの発現は減少した.また,WERI-Rb-1にコチレニンAを投与することにより細胞増殖抑制およびアポトーシス誘導,細胞形態変化が観察された.これらの結果より,コチレニンAが網膜芽細胞腫細胞株において細胞周期を抑制しアポトーシスを誘導することが確認され,抗腫瘍薬への応用の可能性があることを示された.教育講演山形大学の田宮元先生は「ヒト疾患感受性遺伝子同定のためのバイオインフォマティクス手法」について講演された.現在,最も広く行われている一定の統計尺度を閾値としてゲノム全体をカバーする高密度一塩基多型(SNP)を用いたケース・コントロール関連解析(SNP-GWAS)において,解析に必要な遺伝統計処理・情報処理を解説された.つぎにSNP-GWASデータは直ちに集団ベース連鎖解析に適用可能であることを示され,最終的にはSNP間の相互作用モデルや環境との相互作用モデルに基づく解析をゲノムワイドに行うための新しい遺伝統計手法である罰則付回帰解析について紹介していただいた.一方で,最近明らかにされつつあるSNP-GWASの前提とされていたCDCV(CommonDisease/CommonVariant)仮説がなかなか成立し得ないことを集団遺伝学的な側面からわかりやすく解説され,また新しい遺伝モデルとしてCDRVs(CommonDisease/RareVariant)仮説とそこから導かれる研究戦略といった最(66)新のバイオインフォマティクス手法について概説していただいた.特別講演九州大学の秦淳先生は「久山町研究を基盤とした脳梗塞のゲノムワイド関連遺伝子研究」について講演された.脳梗塞関連遺伝子の探索のために,九州大学病院を含む7つの医療機関を受診した脳梗塞患者群と久山町住民検診から選択した対照群を用いて大規模な患者対照研究を行った.ゲノムワイド関連解析および連鎖不均衡解析の結果2つの脳梗塞関連遺伝子が同定された.一つ目はプロテインキナーゼCエータ(PKCh)をコードするPRKCH遺伝子で,PKChのアミノ酸置換をもたらすSNP(Val374Ile)は脳梗塞のうちラクナ梗塞との有意な関連が示され,機能解析においてもPKChはヒト冠動脈の動脈硬化巣に発現し,アミノ酸置換によりその酵素活性が変化した.二つ目はアペリン受容体(APJ)をコードするAGTRL1遺伝子で,プロモーター領域に位置するSNP(-154/A)は脳梗塞と関連し,invitro実験により塩基の違いによりプロモーター活性が変化した.さらに1988年の循環器健診を受診した久山町住民を14年間追跡した成績においてもPRKCHのIle/Ile型,AGTRL1のGG型では他の型と比べて脳梗塞の発症リスクが有意に高いことが示された.以上のような久山町研究における疫学データを基盤としたゲノムワイド関連遺伝子研究について講演された.☆☆☆