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眼科医のための先端医療99.細胞死と生体反応―Danger associated molecular patterns(DAMPs)―

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093530910-1810/09/\100/頁/JCLS個体にとっての細胞死と生体反応生体での原因で細胞死り生に生のにの反応にの個体死とり細胞死個体のでり生細胞死細胞での生のでり個体の生にとってと細胞死わりで細胞死てお反応のりととでの原因で生細胞死に生体反応とて死細胞の細胞の反応結末(図1).この細胞死後の生体反応には,免疫が関与し,炎症反応の一つととらえることができます1).Dangerassociatedmolecularpatternsと細胞死反応とollliereceptors(s)本64(ol2o4)s生と体s生pathogenassociatedmolecularpatterns(PAMPs)とと細胞死生体反応体体生と細胞死反応とPAMPsdangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)とDAMPsalarminsendoinesdangersignalsと細胞死細胞と2)(表1).Highmobilitygroupbox1proteinHighmobilitygroupbox1protein(HM1)DAと細胞死細胞ととDAMPsHM1細胞DAMPsと細胞HM1体とreceptororadancedglycationendproducts(A)24Aadancedglycationendproducts100bなどとともにHMGB1を認識するパターン認識受容体です.(71)表1DAMPsとその受容体DAMPs受容体HMGB1RAGE,TLR2,TLR4尿酸TLR2,TLR4,CD14DNATLR9ヒートショックプロテインCD14,CD40,CD91,TLR2,TLR4ATPP1受容体,P2X/P2Y受容体S100プロテインRAGEヒアルロン酸CD44,TLR2,TLR4ヘパラン硫酸TLR4ATP:アデノシン三リン酸.(文献2より抜粋)◆シリーズ第99回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊有村昇(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学)細胞死と生体反応―Dangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)―図1細胞死の原因と結末生反応死細胞反応反応細胞死———————————————————————-Page2354あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009臨床的には,敗血症患者の血中でHMGB1が高値であり,敗血症モデルマウスにおいて抗HMGB1抗体を投与すると敗血症死が抑制できることから,敗血症の治療標的として注目されています.関節リウマチ患者の関節液中や,心筋梗塞,脳梗塞患者の血清中でも高値となることが知られ,現在さまざまな疾患におけるHMGB1の機能について研究が進められています.眼科領域では,増殖糖尿病網膜症患者,眼内炎患者3),網膜離患者4)の眼内液中でHMGB1が高値を示すことが報告されています.放出されたHMGB1は,状況に応じて,創傷治癒反応へかかわったり,他の炎症誘導物質と協働して炎症を増強したり,樹状細胞の成熟化やT細胞の活性化を促す免疫アジュバントとして働くなど,さまざまな機能をもっていることが報告されています5).おわりにDAMPsの眼疾患への関与はまだ十分に検討されていません.一方で,網膜神経節細胞死,視細胞死,網膜色素上皮細胞死など,細胞死とそれに伴う生体反応は多くの眼疾患において病態の中心となるものであり,網膜光凝固や冷凍凝固といった手術加療に伴っても生じる臨床的にもありふれた現象です.緻密に制御された眼内環境において,DAMPsがどのように機能しているかを探ることは,眼疾患のさらなる病態理解と治療の進歩につながる可能性があり,細胞死と生体反応は,眼科領域においても今後注目すべき研究分野といえます.文献1)MedzhitovR:Originandphysiologicalrolesofinamma-tion.Nature454:428-435,20082)KonoH,RockKL:Howdyingcellsalerttheimmunesys-temtodanger.NatRevImmunol8:279-289,20083)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:High-mobilitygroupbox1proteininendophthalmitis.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1053-1058,20084)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:Intraocularexpressionandreleaseofhigh-mobilitygroupbox1pro-teininretinaldetachment.LabInvest89:278-289,20095)BianchiME,ManfrediAA:High-mobilitygroupbox1(HMGB1)proteinatthecrossroadsbetweeninnateandadaptiveimmunity.ImmunolRev220:35-46,2007(72)細胞死と生体反応Dangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)―」を読んでの有村昇生の細胞死のでての生体生てにとををってととをてにをってとでわっておそ生体の()をりての生ので有村生てっのとにてそのの因にて受容体てをわりてにりとのにてとのとでわわでってのにをて細胞死にととのとででののとのでと体の()をにでりそののをりんでをのにに細胞とりわ細胞死にてのをてそののをわてとのとで有てとでとでと有村生でのにりんでととでのでをとのをりにとてており山山下英俊

サプリメントサイエンス:ビタミンCと眼科

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1OOOHHOOHCH2OHHあたらしい眼科Vol.26,No.3,20093510910-1810/09/\100/頁/JCLSビタミンCの構造式ビタミンC(L-アスコルビン酸:VC)の構造式を図1に示す.VCは分子式C6H8O6のラクトン環構造を有する化合物である.サプリメントとして市販されるVCは淡黄色を帯びていることが多い.しかし,純粋なVCは白色の結晶である.VCは固体で安定であるため,サプリメントに含まれる固体のVCも比較的安定である.ビタミンCの薬理,生理作用VCは活性酸素を消去して酸化ストレスを軽減することが知られる.また,VCはコラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の補因子として働く.コラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の反応にはFe2+など2価の金属イオンを必要とする.酵素反応の結果,2価の金属イオンは酸化される.VCは酸化された金属イオンをすみやかに還元して,コラーゲンの重合やカテコールアミンの合成を円滑に進める.ビタミンCの1日必要量(最低必要量と最適量)日本の食事摂取基準による1日当たりのVCの推奨摂取量は100mgである.しかし,100mgが本当に最適な摂取量であるかは明らかではない.冠動脈疾患の患者ではVCを1日に500mg摂取することにより血管内皮機能に改善効果が認められている1).イギリスのビタミン・ミネラル専門家委員会ではVCの過剰摂取による影響を包括的に検証した結果,VCの1回の過剰摂取による影響はほとんど認められないが,1日に1,000mg以上のVCを継続的に摂取すると悪影響を及ぼす可能性も否定できないと報告している2).このことから,VCの摂取は食品もしくはサプリメントによって,100mgのVCを1日に数回程度摂取することが効果的であると考えられる.食品中に含まれるビタミンC量五訂増補日本食品成分表に収載されている食品について,可食部100g中に含まれるVC含有量が多い食品を表1に示した.VCはアセロラに最も多く含まれており,そのつぎに乾燥パセリ,緑茶に多く含まれる.しかし,乾燥パセリや緑茶を1回に100g食べるのはむずかしい.一方,ジャガイモはVCを効率的に摂取できる.ジャガイモにはVCが可食部100g中35mg含まれており,デンプンを多く含むため調理による損失を受けにくいこと(69)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑩監修=坪田一男10.ビタミンCと眼科佐藤安訓*1丸山直記*2石神昭人*1*1東邦大学薬学部生化学*2東京都老人総合研究所ビタミンCは抗酸化作用のほか,コラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の補因子として働く.眼科領域において,ビタミンCの摂取は白内障の発症リスクを軽減し,加齢黄斑変性の進行を抑制することが報告されている.また,ビタミンCは1日に100mg以上1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的である.表1五訂増補日本食品成分表に収載されている食品中のビタミンC含有量(抜粋)食品名ビタミンC含有量(mg/可食部100g)アセロラ乾燥パセリ緑茶グァバ焼きのり赤ピーマン芽キャベツイチゴレモン(果汁)ジャガイモ1,700820260220210170160625035図1ビタミンCの構造式———————————————————————-Page2352あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009が知られる3).1日1個のジャガイモ(約150g)を摂取することで,1日のVC推奨摂取量のうち,約50%を満たすことができる.摂取カロリーもジャガイモ1個当たり約125kcalと低いため,食品からのVC摂取源として適している.VCの摂取には,VC含有量の多い食品から摂取するのがよい.眼科領域におけるビタミンCの効果1日に150~250mgのVC摂取は,眼球のVC濃度を高い状態に維持する4).Jacquesらは,1日に400mg以上のVCサプリメントを10年以上使用していた人は,使用していない人に比べて白内障(cataract)の発症リスクが77%も少なかったと報告している5).また,Lyleらは1日に摂取した食事から総カロリー摂取量を計算して,1,000kcal当たりのVC摂取量で白内障の発症リスクを比較している.その結果,喫煙者でVCを多く摂取している集団(1,000kcal当たりVCは236mg摂取)はVC摂取量の少ない集団(1,000kcal当たりVCは19mg摂取)に比べて白内障の発症リスクが70%も少ないと報告している6).日本では食事からのVC摂取と白内障発症との関係について,約35,000人を対象とした5年間にも及ぶ大規模な追跡調査が行われた.その結果,食事から1日に平均211mgのVCを摂取した集団は,平均52mgのVCを摂取した集団に比べて,白内障の発症リスクが男性で35%,女性で41%も少なかった7).その一方でVCの摂取と白内障の発症には相関性がないという報告もある8).このように,白内障の予防についてVCの摂取が有効かどうかははっきりとした結論は出ていない.しかし,VCの摂取により白内障発症リスクが増加したという報告はない9).アメリカで加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration)に対して行われた多施設無作為化対照試験の結果から,VCを500mg,ビタミンEを400IU,b-カロテンを15mg,亜鉛を80mg含むサプリメントの長期投与により加齢黄斑変性の進行度が非投与群に比べて低下するとの報告がある10).(70)このように,VCは白内障や加齢黄斑変性に対してよい効果がいくつか報告されていることから,眼科領域におけるサプリメントとして有効であると考えられる.VCは1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的である.摂取すべきかのエビデンスレベルA:摂取すべき(1日に100mg以上1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的).文献1)GokceN,KeaneyJFJr,FreiBetal:Long-termascorbicacidadministrationreversesendothelialvasomotordys-functioninpatientswithcoronaryarterydisease.Circula-tion99:3234-3240,19992)ExpertGrouponVitaminsandMinerals:Safeupperlim-itsforvitaminsandminerals.Availableat:www.food.gov.uk/multimedia/pdfs/vitmin2003.pdf20033)HanJS,KozukueN,YoungKSetal:Distributionofascorbicacidinpotatotubersandinhome-processedandcommercialpotatofoods.JAgricFoodChem52:6516-6521,20044)CarrAC,FreiB:TowardanewrecommendeddietaryallowanceforvitaminCbasedonantioxidantandhealtheectsinhumans.AmJClinNutr69:1086-1107,19995)JacquesPF,TaylorA,HankinsonSEetal:Long-termvitaminCsupplementuseandprevalenceofearlyage-relatedlensopacities.AmJClinNutr66:911-916,19976)LyleBJ,Mares-PerlmanJA,KleinBEetal:Antioxidantintakeandriskofincidentage-relatednuclearcataractsintheBeaverDamEyeStudy.AmJEpidemiol149:801-809,19997)YoshidaM,TakashimaY,InoueMetal:ProspectivestudyshowingthatdietaryvitaminCreducedtheriskofage-relatedcataractsinamiddle-agedJapanesepopula-tion.EurJNutr46:118-124,20078)VitaleS,WestS,HallfrischJetal:Plasmaantioxidantsandriskofcorticalandnuclearcataract.Epidemiology4:195-203,19939)TaylorA,HobbsM:2001assessmentofnutritionalinuencesonriskforcataract.Nutrition17:845-857,200110)AREDSResearchGroup:Arandomized,placebo-con-trolled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,2001☆☆☆

眼感染アレルギー:ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093490910-1810/09/\100/頁/JCLS眼瞼,結膜にはブドウ球菌を主として常在菌が存在する.これらの菌は眼表面に侵入,定着,増殖し,感染症の原因となるが,たとえ侵入しなくとも,その菌体外毒素によって角膜に免疫反応を生じる.これがブドウ球菌による周辺部角膜浸潤である.菌体としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ほか,黄色ブドウ球菌,アクネ菌,コリネバクテリウムがある.従来さまざまな疾患名でよばれており,ブドウ球菌性周辺部角膜浸潤以外に,たとえば,カタル性角膜辺縁潰瘍,カタル性潰瘍,辺縁部潰瘍など混沌としている.名称はさまざまであっても,すべて同様の病態と考えられる.一般外来にて最も多く遭遇する細菌性角膜炎は,この疾患であると思われる.それほど馴染み深いものであるが,実はその治療にはいくつかの落とし穴が存在する.態病態としては,角膜と接したブドウ球菌をはじめとする眼瞼常在菌の菌体成分あるいは外毒素が抗原となり,輪部血管からの抗体と抗原抗体複合体を形成する.これを受けて補体の古典経路が活性化され,多核白血球,リンパ球が遊走する.この細胞浸潤の状態から,さらに多核白血球から蛋白分解酵素が分泌されて潰瘍を生じる場合もある.いわゆるIII型アレルギーの病態を呈する.床所見中高年女性に好発するといわれている.角膜が眼瞼と接する2時,4時,8時,10時に円形の白色浸潤として観察される.典型所見を図1に示す.同部の軽度毛様充血を伴うが,輪部血管からの抗体が反応しているため,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.侵入,定着,増殖した感染症と違い,その場での細菌増殖に伴う外毒素の加速度的産生は少ないので,びまん性の角膜浮腫は認めにくい.数回にわたり再発をくり返すことが多いため,患眼,僚眼ともに以前の浸潤によると思われる小円形の白濁を認めることがあり,鑑別の一助となる.眼瞼縁の炎症も併発していることが多い.意すべき鑑別周辺部に存在することから,いわゆるリウマチ,膠原病,Mooren潰瘍などの免疫原性角膜潰瘍と鑑別が必要である.①輪部との間に透明帯が存在すること,②自己免疫疾患などの既往がない,③潰瘍形状が深彫れしていない,などのポイントが免疫原性角膜潰瘍の否定とな(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑮監修=木下茂大橋裕一15.ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤佐々木香る出田眼科病院感染には生体防御という免疫反応が必ず伴う.この両者のバランスを考えたとき,ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤は,最も生体防御側に偏った状態である.病態としては,ブドウ球菌の菌体あるいは外毒素に対するⅢ型アレルギー反応である.重要な点は2つ.①治療にステロイドが必須であること,②非典型的な緑膿菌感染症との鑑別,である.図12WDSCL装用者(24歳,女性)角膜が眼瞼と接する8時方向に円形の白色浸潤を認める.同部の軽度毛様充血を伴い,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.びまん性の角膜浮腫は認めず,その他の部位の角膜は透明である.さらに,マイボーム腺の閉塞も認める.———————————————————————-Page2350あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009る.また,上皮欠損が線状に存在することも多いため,ヘルペスとの鑑別を要されることもある.本疾患では,①terminalbalbがないこと,②眼瞼常在菌の慢性刺激が存在するため,広い範囲で微少な血管侵入を認めることが鑑別となる.さらに,近年特に増加している2週間頻回交換型コンタクトレンズ(2WDSCL)装用者における緑膿菌性角膜感染症が本疾患の鑑別対象となりうる.従来,緑膿菌性角膜潰瘍は輪状膿瘍を中心として高度な角膜浮腫,前房蓄膿など比較的特徴的な所見を呈するとされてきた(図2a).ところが,2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍はその病態が修飾される.円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,前房炎症も軽く,全体に臨床所見が軽症化し,ブドウ球菌による周辺部潰瘍に類似した所見を呈する(図2b).その軽症化の機序は不明であるが,コンタクトレンズ装用による低酸素状態も一因であると思われる.療治療は抗菌薬点眼とステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点)である.コンタクトレンズ装用による緑膿菌感染症との鑑別が困難な症例もあるので,まず抗菌薬の加療を先行させて,その後ステロイドを追加するのが(68)安全であると思われる.再発予防として眼瞼縁清拭指導などのマイボーム腺のケアが必要となる.マイボーム腺機能不全(MGD)が高度な場合には,ステロイドや抗菌薬(ミノサイクリンやテトラサイクリン)の内服投与を考慮する.ミノサイクリンに関しては文献的には23カ月の内服投与が推奨されているが,膀胱炎症状を呈する場合も多く,テトラサイクリンは小児では,歯芽の着色も報告されているので,眼科単独で処方する場合には注意を要する.文献1)北川和子,浅野浩一,佐々木一之:カタル性角膜辺縁潰瘍の臨床像.臨眼46:720-721,19922)佐々木香る:カタル性角膜浸潤.眼科インストラクションコース16アレルギー性眼疾患とドライアイ(高松悦子,前田直之編),p118-121,メジカルビュー社,20083)山田利津子,栗山茂,久志本晋ほか:移行性角膜浸潤を伴うカタル性角膜潰瘍.あたらしい眼科15:109-112,19984)庄司純,伊藤眞由美,稲田紀子ほか:カタル性角膜潰瘍における結膜内検出菌.あたらしい眼科10:247-251,1993図2a典型的な緑膿菌角膜感染症(18歳,男性)輪状膿瘍を認め,周辺部角膜を含めた高度な角膜浮腫,前房蓄膿が特徴的である.図2b2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍(24歳,男性)円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,また前房炎症も軽い.病巣部の角膜擦過物から緑膿菌が検出された.☆☆☆

緑内障:トリアムシノロンと眼圧上昇

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093470910-1810/09/\100/頁/JCLS慢性関節リウマチ患者に対する最初のステロイドの臨床治療が行われてから5年後にはすでに,Sternによってステロイドによる続発性の眼圧上昇(ステロイド緑内障)が報告されており1),ステロイド緑内障は非常に古くから知られている代表的なステロイドの副作用であるといえる.ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には,細胞外マトリックスの異常沈着がみられることから,ステロイドが線維柱帯細胞からの細胞外マトリックスの産生を異常亢進させたり,線維柱帯細胞の貪食機能を低下させたりして,細胞外マトリックスが線維柱帯組織に蓄積し房水流出抵抗が低下してしまうことが,ステロイドによる眼圧上昇機序であると考えられている.ステロイドによって眼圧が上昇しやすい素因がある人(ステロイドレスポンダー)が知られている.ステロイドレスポンダーの素因として,年齢が大きく寄与しており,若年者にステロイドレスポンダーが多く,小児にステロイドを点眼するときは,眼圧上昇が高頻度にみられるため注意が必要である2).Garbeらによると,ステロイドの投与量が多くなればなるほど,投与期間が長くなれば長くなるほど,眼圧上昇のリスクが上がることが示されており,休薬すれば眼圧上昇のリスクがなくなる,つまり,ステロイドによる眼圧上昇は可逆性であることがわかる3).しかし,一方で,長期間投与すると眼圧が正常化しない,不可逆な変化を起こすという症例も報告されている4).リアムシノロン誘発性眼圧上昇の点2000年代に入ってから,徐放性のステロイド薬トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-AR)が,硝子体手術における硝子体の可視化に用いられ,トリアムシノロンの使用が,硝子体手術における合併症の減少に有効であることや,黄斑浮腫の軽減や脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることが知られ,網膜硝子体疾患の治療薬としてや手術補助薬としてトリアムシノロンが広く用いられるようになった.トリアムシノロンは,長期間の効果の持続が長所である反面,いったん眼圧上昇が起こってしまうと,点眼薬のようにすぐに休薬することができず,眼圧上昇が遷延してしまうのが難点である.トリアムシノロン誘発性眼圧上昇多施設調査でわかったこと筆者らは,全国6施設で,過去にトリアムシノロンを投与された患者を対象に眼圧上昇のリスクファクターを(65)●連載105緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也105.トリアムシノロンと眼圧上昇稲谷大熊本大学医学部附属病院眼科徐放性ステロイド薬トリアムシノロンは,硝子体手術時の合併症減少や黄斑浮腫の治療のために,網膜硝子体疾患で近年広く用いられるようになった.しかし,長期間の効果の持続性の反面,眼圧上昇が遷延し,ステロイド緑内障になる症例がある.若年者,高いベースライン眼圧値,硝子体内注射,大量のトリアムシノロンの注射は高頻度に眼圧上昇を合併する.くり返し注射のときは,1回目に眼圧上昇した症例(ステロイドレスポンダー)は避けるべきである.表1トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)硝子体内注射ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.950.98)1.89(1.412.52)1.15(1.051.27)<0.0001<0.00010.003(文献5より)表2トリアムシノロンTenon下注射による眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)用量(mg)ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.940.99)1.07(1.031.12)1.31(1.131.52)0.0030.00060.0003(文献5より)———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009解析した5).ステロイドレスポンダーとして過去に指摘されていた報告どおり,若年者が眼圧上昇しやすいことが確認された.また,もともと眼圧が高めの患者は眼圧上昇をきたしやすい(表1).さらに,多量のトリアムシノロンの投与(表2)や,Tenon下注射よりも硝子体内注射を行うことが眼圧上昇の頻度を上げることがわかった.黄斑浮腫の再発に対して,トリアムシノロンの投与をくり返す場合も,大量のトリアムシノロンをくり返したり,硝子体内注射をくり返したりすると,眼圧上昇を合併しやすい.1回目の投与の際に,眼圧上昇した症例は,ステロイドレスポンダーなので,2回目の投与のときも眼圧上昇しやすい.眼圧上昇の頻度とトリアムシノロンの薬効とのバランスを考えると,硝子体内注射では4mg,Tenon下注射では20mgが適量と考える.テロイド緑内障の治療ステロイドによる眼圧上昇がみられた場合は,すみやかにステロイドの投薬を中止する.膠原病などの全身疾患でステロイドを中止できない患者やトリアムシノロン誘発性眼圧上昇がみられた患者の場合は,緑内障点眼薬を処方し,眼圧下降を試みる.眼圧上昇が遷延し,視神経障害が出現した場合は,観血治療が必要になる6).ス(66)テロイド緑内障には,トラベクロトミーが効きやすい.筆者らのグループでステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの術後成績は,5年生存率(21mmHg以下)で83.6%であった7).海外では,トラベクレクトミーが選択されることが多く,その術後経過も良好であるので,トラベクレクトミーも有効な選択肢である.文献1)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19532)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,19913)GarbeE,LeLorierJ,BoivinJFetal:Riskofocularhypertensionoropen-angleglaucomainelderlypatientsonoralglucocorticoids.Lancet350:979-982,19974)EspildoraJ,VicunaP,DiazE:Cortisone-inducedglauco-ma:areporton44aectedeyes.JFrOphtalmol4:503-508,19815)InataniM,IwaoK,KawajiTetal:Intraocularpressureelevationafterinjectionoftriamcinoloneacetonide:amulticenterretrospectivecase-controlstudy.AmJOph-thalmol145:676-681,20086)稲谷大:ステロイド緑内障.眼科手術20:41-43,20077)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabecu-lotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,2000☆☆☆図140mgのトリアムシノロンTenon下注射で眼圧上昇した胞様黄斑浮腫の27歳,男性の患者もともと正常視野であったのにもかかわらず(A),眼圧値が30mmHg以上で遷延し,注射後10カ月目には緑内障視神経障害と視野障害を出現したため(B),トラベクロトミーを行い(C),眼圧を下降させた.(文献6より)ABC

屈折矯正手術:術前・術後の収差の評価-種類の数値の見方など- 

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093450910-1810/09/\100/頁/JCLS高次波面収差を測定する機器として,ニデック社製のOPD-Scanはユニークな特徴をもっている1).まず,全眼球の屈折度マップを測定して,その後にZernike多項式を用いて波面収差を計算する(図1).角膜輝点を測定中心にしているのもユニークな点である.OPD-Scanの良い点は,収差変化の大きい眼でもほとんどの場合測定が可能な点である.Hartmann-Shackセンサーは現在の高次収差測定のスタンダードといえる方法で,トプコン社のKR-9000PW,AMO社のWavescan,ボシュロム社のZywaveなどのメーカーがこの方法を採用している.図2のごとく,レンズレットアレイで波面の歪みを直接測定しているので,レンズを細かくすることで細密な収差変化まで計測できる.測定時間が短いので,1回の測定で複数回計測を行い平均化することが可能である.測定の参照軸は照準線(瞳孔中心を測定中心とする)のことが多い.常OPD-Scanで解析径6mmの高次収差を測定しようとすると5.5mm程度の瞳孔径は必要となる.自然瞳孔で5.5mm以上瞳孔径があった症例のみを対象として,屈折矯正術前の高次収差を測定すると約0.4μmRMS(rootmeansquare)wavefronterrorの高次収差が認められた2).瞳孔径6mmであれば,RMSwavefronterror×0.7がdefocus換算されるので,0.4μmは0.28Dとなり,トライアルレンズの最も薄い1枚分である.正視の定義が±0.5Dであることを考えると,この高次収(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載106監修=木下茂大橋裕一坪田一男106.術前・術後の収差の評価―種類や数値の見方など―稗田牧バプテスト眼科クリニック波面収差とはプリズム,近視,乱視などを含む屈折異常の総称である.このうち高次収差は眼鏡で矯正できないより細かい屈折異常で,以前は不正乱視とよばれていたものである.高次収差の自覚的視機能に与える影響は不明な点が多いが,高次収差が多い眼では原因が水晶体にあるのか角膜にあるのか見きわめて術式を決定する必要がある.屈折度マップ波面収差変換図1波面収差とは瞳孔内の屈折度分布である屈折度マップが作成できれば波面収差に変換可能である.図2HartmannShack型波面センサー黄斑部からランダム反射された光が眼外に出て形成する波面を直接計測する.———————————————————————-Page2346あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009差が視機能に与える影響は少ないと考えられる.LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術を行うと,Munnerlynフォーミュラを使ったスタンダード照射では,おおよそ1Dにつき瞳孔径6mmにおいて0.1μmRMSwavefronterrorの高次収差が増加し,球面収差が主体である.Wavefront-guidedablation全眼球の波面収差から,それを打ち消すような切除プロフィールでレーザー照射するのが,wavefront-guid-ed(W-G)ablationである3).眼球の高次収差が矯正されれば,視機能は飛躍的に改善するものと期待されたが,角膜を切除することによる誘発高次収差が大きく,現時点では高次収差を減少させることはできないが,コマ収差の増大は抑えられる.球面収差も矯正していないわけではないので,著しく術前に球面収差が大きければ,それがさらに大きくなることは防げる.ーザー照射(laserablation)の使い分け図3に現時点で筆者が考える高次収差による照射方法の選択基準を示す.角膜高次収差よりも全眼球高次収差が著しく大きい場合以外はW-Gablationで対応可能である.1.全眼球高次収差が多い場合角膜高次収差,全眼球高次収差とも大きい眼の場合では,角膜高次収差で矯正(topography-guidedablation)すると症例ごとに高次収差は過・低矯正になってしまう可能性がある.できれば全眼球収差について矯正を行う4).つぎに,角膜高次収差が小さく,全眼球高次収差が大きい場合には,水晶体の収差が大きいのであるから,少しでも白内障があり,調節力が低下していれば非球面眼内レンズを用いたrefractivelensexchange,もしくは多焦点眼内レンズを使用した老視矯正手術を行い,必要があればLASIKを追加する.2.全眼球高次収差が少ない場合非球面照射は術前高次収差に関係なく,球面収差誘発を抑制する照射方法である.高次収差の増加量だけでみれば,矯正量が5Dより多い場合では非球面照射が有利といえる.ただレーザー機種によっては,厳密なレジストレーションがW-Gablationでしか使えない.W-Gablationでも照射径を広くすれば球面収差の誘発は抑制できる.現時点ではW-Gablationで瞳孔中央部のコマ収差の増大を抑制しておいたほうが良い影響があるものと考えて,全例にW-GablationによるカスタムLASIKを行っている.おわりに筆者自身LASIKを受けてみた.約3年たって,すでに眼鏡での見え方や生活をすっかり忘れている.角膜・全眼球高次収差は増大しているが,波面センサーで出てくるシミュレーションほどには,見えている像はぼやけていない.屈折矯正術後眼に関して,高次収差の自覚的視機能に与える影響の評価方法が確立されていないのは確かである.文献1)HiedaO,KinoshitaS:MeasuringofocularwavefrontaberrationinlargepupilsusingOPD-Scan.SemininOph-thalmol18:35-40,20032)稗田牧:屈折矯正手術(LASIK)と高次収差.あたらしい眼科24:1455-1460,20073)稗田牧:ウェーブフロント・レーシック(wavefront-guidedLASIK).IOL&RS18:394-399,20044)稗田牧:トポガイドレーシック(CornealTopography-GuidedLASIK).IOL&RS19:162-167,2005(64)Topography-guidedWavefront-guidedWavefront-guided非球面照射非球面照射Wavefront-guidedRefractivelensexchange角膜高次収差大角膜高次収差小眼球高次収差大眼球高次収差小図3高次収差を考えた術式選択Wavefront-guidedablationによる角膜屈折矯正手術の適応範囲が最も広い.

眼内レンズ:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093430910-1810/09/\100/頁/JCLS本稿では,1994~1995年当時に勤務していた施設(国立療養所多摩全生園)で経験したことをおもにまとめて述べる.前のック目Hansen病の基礎知識まずスタート地点に立つ前に,本疾患をある程度知る必要がある1~3).施設の医療設備などの充実度最新の装置・器具の有無,スタッフの数など.1994年当時,筆者が勤務していた施設では手術時,医師は1人で,助手・外回りは眼科外来の看護師がすべて担当した.今ある手持ちのコマで何とかする.年齢高齢の場合,水晶体の核硬化が進行し手術の難易度が増す.極端な小瞳孔のため事前に核の硬化度がわかりにくい.(61)角膜混濁の範囲・程度(図1,2)角膜混濁は,部位により大まかに上方,下方,中央,全体の4つのタイプに分類できる.各タイプの混濁の範上甲覚武蔵野赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎271.Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎一般の白内障手術は,陸上競技にたとえると「100メートル競走」,ぶどう膜炎併発白内障手術は「障害物競走」といえる.ゴール地点(目的)は同じでも険しい障害を乗り越える必要がある.ただし,Hansen病の場合,小瞳孔や虹彩後癒着のみではなく,強い虹彩萎縮・Zinn小帯脆弱,さらには高率に角膜混濁も合併.技術的難易度は高い.「急がば回れ」,まずは術前の基礎について述べた.図2角膜混濁が全体に強い症例白内障手術単独では改善が困難.Hansen病は高率に角膜疾患も合併する.図3極端な小瞳孔・虹彩萎縮がみられる症例車軸状の虹彩萎縮とよばれている.この症例の手術の結果は実践編で解説する.図1下方の角膜混濁が強い症例どのような術式を選択したか,実践編で解説する.———————————————————————-Page2囲や強さが,白内障手術単独あるいは外科的角膜治療を優先するべきか,術式選択の重要な判断材料となる.また,角膜厚にも注意が必要である.図2の症例は,白内障手術単独では視力の改善は無理である.くれぐれも現実を見据えた対処が望まれる.眼内炎症の術前鎮静期間一般のぶどう膜炎同様,3カ月は鎮静期間を置いて手術を行った.この場合,絶対的基準はない.Hansen病のぶどう膜炎は,ステロイドの反応に良好なので,炎症の再燃が心配な場合は,抗消炎症薬の点眼回数を最小限にして長期に継続する.ただし,角膜疾患にも十分注意して使用する必要がある.虹彩の癒着,小瞳孔,虹彩萎縮の有無(図3)極端な小瞳孔と強い虹彩萎縮の症例が多い.Hansen病性ぶどう膜炎の好発部位は,虹彩と毛様体である.Zinn小帯は脆弱と予測して手術に臨むのがよい.転ばぬ先の杖.備えあれば憂いなし?(続発)緑内障の有無将来の緑内障手術も考慮して,切開創をどうするかの判断材料の一つ.兎眼(閉瞼不全)の有無兎眼があると高率に角膜病変を併発する.術後の角膜疾患の管理は大切である.感染性角膜炎で失明した症例の報告がある.その他:一般の白内障手術と同様の術前チェック高齢者が多いので,全身状態も十分考慮する.手術中は,何が起こるかわからない.当時,術中に抗精神薬を筋注した患者,ショックを起こした症例などを経験した.次回は,実践編を紹介する.文献1)上甲覚:Hansen病の眼合併症と今日的意義について教えてください.あたらしい眼科15(臨増):67-69,19982)上甲覚:ハンセン病のぶどう膜炎.新図説臨床眼科講座─感染症とぶどう膜炎(望月學編),p124-125,メジカルビュー社,19993)井上慎三,上甲覚:眼科.ハンセン病医学─基礎と臨床(大谷藤郎監),p251-264,東海大学出版会,19974)吉野真未:一人勤務医の悩み.日本の眼科76:1331-1332,20055)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌65:170-173,19966)小郷卓司,渡邊正樹,大月洋ほか:らい患者における白内障手術の検討.眼臨88:859-862,1994

コンタクトレンズ:強度乱視眼へのハードコンタクトレンズ処方(1)

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093410910-1810/09/\100/頁/JCLS3つのタイプ軽度乱視眼に対してはやや広めのベベル幅を有するハードコンタクトレンズ(HCL)をフラットめに合わせれば,ほぼ問題なく良好なフィッティングが得られる(図1)が,中程度以上の乱視眼においては,角膜形状を考慮してHCLの種類を選択する必要性に迫られることが多い.角膜乱視をフォトケラトスコープにて撮影し,カラーコードマップにてその角膜乱視の及ぶ範囲によって分類すると,乱視が角膜周辺部まで及んでいる周辺部型(タ(59)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1軽度乱視眼へのHCL処方ややベベル幅の広いデザインをもったHCLをフラットめに処方する.図2周辺部型(タイプI)角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図5倒乱視周辺部型(タイプIt)倒乱視で角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図3中央部型(タイプII)角膜乱視が中央部に限局している.図6倒乱視中央部型(タイプIIt)倒乱視で角膜乱視が中央部に限局している.図4混合型(タイプIII)角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.図7倒乱視混合型(タイプIIIt)倒乱視で角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)イプⅠ,図2),角膜中央部に限局した中央部型(タイプⅡ,図3),その2つが混じった混合型(タイプⅢ,図4)の3つのタイプに分けることができる1).その割合は27眼中,タイプⅠが15眼,タイプⅡが5眼,タイプⅢが7眼であった.このような分類は直乱視のみに限らず倒乱視においても認められる.これらを倒乱視周辺部型(タイプⅠ-t,図5),倒乱視中央部型(タイプⅡ-t,図6),倒乱視混合型(タイプⅢ-t,図7)とよぶことにする.中央部型倒乱視中央部型に対するHCL処方以前,強度乱視眼にサイズの大きいHCLを処方して装用感,矯正視力とも満足のいく結果を得られたことがあり,漠然と強度乱視眼にはラージサイズHCLを処方したほうが上手くいくのだという印象をもっていた.しかし,実際はラージサイズHCLを処方しても上手くいかないケースも多々あり,そのような症例には後面トーリックHCLを処方して対応していた.角膜形状をカラーコードマップにて分類することによって,中央部に乱視が限局したタイプⅡやタイプⅡ-tにおいては,乱視の及んでいない部位にベベル部分が存在するようなサイズを選択すれば,良好な装用感を得られることが判明した(図8,9).このような症例では,ラージサイズHCLを処方することによって,ベベル幅が全周で均一となり,良好な装用感が得られる.文献1)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,20068タイプIIに対する通常サイズHCLの処方サイズ8.5mmのHCLを処方.水平方向のベベル幅が狭く,機械的刺激により良好な装用感が得られなかった.9タイプIIに対するラージサイズHCLの処方サイズ9.2mmのHCLを処方.ベベル部分が角膜乱視の及ぶ範囲の周囲に存在し,全周のベベル幅が均一になり,良好な装用感が得られた.

写真:糸条角膜炎

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093390910-1810/09/\100/頁/JCLS(57)御宮知達也鶴見大学歯学部眼科学講座写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦298.糸条角膜炎図2図1のシェーマ①:糸状物.②:点状表層角膜炎.①②①図3図1と同一症例の細隙灯顕微鏡写真症例のような比較的大きい糸状物は見落とす可能性が少ないが,フルオレセイン染色により確実に診断できる.図4ドライアイに生じた軽度の糸状角膜炎(55歳,男性)初期段階の糸状物で,染色することで発見された.未治療のドライアイであり,糸状物の除去後ヒアルロン酸点眼と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼にて経過観察中である.図1薬剤起因性角膜上皮障害に生じた糸状角膜炎(48歳,女性)ドライアイの診断に対してヒアルロン酸点眼を使用していたが,異物感,眼痛の症状が悪化するため当科受診となった.保存液による上皮障害を疑い,糸状物を除去した後,保存液を含まない人工涙液の頻回点眼にて改善し,再発していない.———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)糸状角膜炎は角膜に付着する変性上皮や粘液からなる糸状物であり,瞬目により眼痛,流涙,異物感,羞明をきたす.慢性にくり返すことが多く,従来の灌流液点眼のみの治療では不十分となることがあった.細隙灯顕微鏡検査にて容易に診断できる(図3)が,フルオレセイン染色にてよりはっきりと観察できる(図1).糸状物の長さは0.510mmと幅があり,はじめ短く細い糸状物が瞬目によりさらに長く絡みついた構造となる.糸状物の付着する角膜の上皮下には顆粒状混濁がみられることがある.ドライアイが主要な原因となる(図4)が,兎眼・上輪部角膜炎・角膜浮腫や,屈折矯正手術・白内障手術・角膜移植手術などの各種手術に伴うこともある.その発生機序は明らかにはされていない.上皮基底膜やBowman膜へのダメージが瞬目により局所の上皮基底膜の離を生じ,糸状物の付着する足場になるといわれている1).糸状物の存在が強い自覚症状をもたらし,より強い炎症を惹起して悪性サイクルに陥る可能性がある.治療として筆者はすべての糸状物を機械的に除去するようにしている.このとき糸状物を引き抜いてしまうと,糸状物の付着部位となる上皮離をさらに拡大させ,また上皮欠損をひき起こす可能性もあるので注意が必要である.機械的除去は糸状角膜炎を悪化させるだけであるとの意見もある.しかし適切な除去により,速やかな症状の改善が得られ,患者の満足とともに瞬目の軽減,炎症の改善は再発防止にもつながると考えている.先の鋭い鑷子(Jeweler鑷子が一般的に用いられる.筆者はミクラの無鈎を愛用している)にて,接線方向のみに力を加え,つまみ切るようにする綿棒などによる擦過では上皮障害が生じる可能性があると考えている.糸状物の除去とともに原因疾患に対する治療および再発防止に努める.人工涙液の点眼に加え,必要に応じてヒアルロン酸点眼,涙点プラグ,自己血清点眼などのドライアイ治療をする.人工涙液は頻回点眼が必要なことが多く,防腐剤の添加されていないものが望ましい.血清点眼は適切な使用により重症なドライアイに対しても劇的な効果をもたらすことがあるが,感染症の危険性を認識する必要がある.医療用コンタクトレンズの使用は,症状の軽減および上皮のバンデージ効果が期待できる.機械的除去をしなくても使い捨てコンタクトレンズの装用のみで完全に消失することがあり,試してみる価値はあると思われる.ただし,常に感染症には注意が必要で,一時的な治療法ととらえるべきである.筆者には使用経験がないが5%の高浸透圧食塩水の点眼は,脱水効果により上皮の接着を補強し,再発の予防効果が報告されている2).糸状物の付着部には炎症細胞や線維芽細胞が存在し,これらがBowman膜に浸潤し上皮基底膜を破壊する.糸状角膜炎の増悪機序には炎症も考えられている1).このためステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の点眼の効果が確認されており,難治症例に対しては検討されるべきである.ステロイド点眼は慢性の経過をたどる本疾患の性質上,長期使用には白内障,感染症,高眼圧に対する注意が必要であり,急性期の短期治療での使用がすすめられる.一方で,ジクロフェナクの長期投与による糸状角膜炎の消失および再発予防の報告がある3).近年入手が容易となったシクロスポリン点眼もドライアイ治療として使用される国もあり,糸状角膜炎に対しても効果的であると考えられる4).文献1)ZaidmanGW,GeeraetsR,PaylorRRetal:Thehistopa-thologyoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol103:1178-1181,19852)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmol93:466-469,19823)GrinbaumA,YassurI,AnviI:Thebenecialeectofdiclofenacsodiuminthetreatmentoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol119:926-927,20014)PerryHD,Doshi-CarnevaleS,DonnefeldEDetal:Topi-calcyclosporineA0.5%asapossiblenewtreatmentforsuperiorlimbickeratocinjunctivitis.Ophthalmology110:1578-1581,2003

時の人

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009337(55)高知大学医学部眼科学教室は開講27年という若い歴史ではあるが,現在,高知県に最先端の「眼科情報」を提供している.本教室は1976(昭和51)年に開設の(旧)高知医科大学に,1981(昭和56)年に開講され,初代の教授として玉井嗣彦先生が就任された.1981年10月に医学部附属病院が開院し,眼科は15床をもって診療を開始した.その後,1982年に20床,翌年には30床に増床された.1986年には第83回中国四国・第35回四国合同眼科学会を主催された.1990年,第2代教授として上野脩幸先生が就任された.2003(平成15)年に国の方針「国立学校設置法改正案」に従って,高知大学と統合され現在に至っている.そして,今回福島敦樹先生が第3代教授として就任された.福島先生は「本教室は歴史が浅いので,玉井先生・上野先生が築かれたベースを元に伝統と呼べるものを造っていきたい.毎日が伝統造りです.」と述べておられる.教室の歴史を振り返ると,玉井教授時代には「電気生理」,上野教授時代は「眼病理」が主な研究テーマであり,大学院生は,以前は基礎の講座において「生理・病理・免疫」の勉強を重ねておられたが,最近の10年位は眼免疫研究室で研鑽を積み,医学博士号を取得してこられたという.現在,臨床的には網膜硝子体領域に興味をもつ医師が多く,先端医療や高知県の地域医療の分野で活躍しておられる.研究ではここ10年来「眼免疫」が中心となっており,なかでも「アレルギー性結膜疾患の発症メカニズムに関する研究」は国際的な評価を得ている.*福島先生は,私立土佐高校を卒業後,1990年に高知医科大学を卒業された生粋の土佐っ子である.その後,199395年の米国国立眼研究所免疫学部門への留学ののち,19962004年に当教室の助手を務められたが,その間,再度の米国国立眼研究所免疫学部門への留学のほか,ジョージア医科大学分子医学遺伝学研究所への留学を経験されている.そして2004年の助教授就任(2007年准教授)を経て,今回,2008年8月に第3代教授に就任された.この間,日本眼科学会学術奨励賞,日本眼炎症学会学術奨励賞,ロートアワード,日本アレルギー学会学術大会賞など,数々の賞を受けられた.福島先生は大学院時代に免疫学教室の藤本重義教授に免疫反応における特異性の重要性を学ばれ,その時の感動が今に続いていると言われ,また留学中にはIgalGery博士,岩島牧夫博士というキャラクターの異なる師匠のもとで多くのことを学ぶことができたと言われた.福島先生の研究テーマは,眼免疫疾患発症機序の解析,特に「T細胞が難治性眼免疫疾患発症においてどのように関与しているか」である.その研究成果の一つとして「アレルギー性結膜疾患重症化のメルクマールである結膜好酸球浸潤にT細胞が重要である」ことを証明された.この事実は実際の臨床においても,シクロスポリンやタクロリムスといったT細胞を選択的に抑制する点眼薬が春季カタルに奏効することを裏付けるものである.今後は,動物モデルでの実験からヒトへの展開を進め,臨床に直結する研究への展開を目指されているとのことである.*福島先生の信念・信条は,大阪大学(故)田野保雄先生から頂いた言葉「継続は力なり」を実証すること,また,留学中の師匠である岩島牧夫先生から頂いた言葉「常にBigPictureを意識せよ」を肝に銘じて研究を続けることであるという.最後に,地方大学である高知大学からでも,世界に向けてキラリと光るような仕事を発信していきたいと力強く述べられた.0910-1810/09/\100/頁/JCLS人の時高知大学医学部眼科学教室・教授福ふく島しま敦あつ樹き先生

硝子体手術後の続発緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSまった可能性もあり,これらをすべて術後に発症した続発緑内障と区別することはむずかしい.近年は緑内障性視神経症の存在をもって緑内障と診断するといわれているが,続発緑内障の場合,緑内障性視神経症の存在を確認することがむずかしい場合も多い5~7)ので,ここでは,硝子体手術後の眼圧上昇に対してどう治療するかを考えることとする.I治療の前に考えることは?まず,なぜ眼圧が上昇して下がらないのかを考えなければならない(表1).硝子体手術後の眼圧上昇は,血液や充物質による直接的な房水流出障害や,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の形成などによる隅角の閉塞と,明らかな隅角の閉塞がみられない,いわゆる開放隅角によるものがある.房水流出のメカニズムによって対処方法も異なるため,細隙灯顕微鏡による前眼部・中間透光体・眼底の観察だけでなく,よほど角膜の状態が悪くなければ,隅角検査も行っておくはじめに近年の硝子体手術の進歩あるいは変化はめざましく,総じて手術侵襲は低減し,術後の眼圧上昇の頻度も低くなってきたように感じられる.しかし,ここ数年トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)の硝子体注入が頻繁に行われるようになり,2005年に行われた全国調査1)をみると,硝子体手術時にTAを硝子体内に注入された26,819眼のうち,眼圧コントロールが不良となり,最終的に濾過手術を施行されたのは0.56%にあたる32眼であったと報告されている.また,難治例にはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)を使わざるをえない症例も多く,それに伴う術後の眼圧上昇もある一定の頻度で認められるようである.全国調査2)では,1年間に行われた2,170眼のSO使用例のうち,眼圧上昇は18.4%,緑内障は5.6%と報告されている.一方,硝子体手術後の開放隅角緑内障に関する検討3)によれば,緑内障の進行や発症に関して硝子体手術が不利に働く可能性は少なからずあり,硝子体手術の前には緑内障の合併の有無を確認しておく必要があると思われる.また,硝子体手術において水晶体を温存するか否かに関して,摘出した場合のほうが緑内障発症までの期間が短かったことも報告され,水晶体の存在が硝子体手術後の緑内障発症に抑制的な役目を果たしている可能性を示唆している3,4).このように,硝子体手術後の眼圧上昇例のなかには,術前から緑内障が隠れていたり,手術によって発症が早(49)331b2288111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):331~336,2009硝子体手術後の続発緑内障はこう治すManagementofEyeswithSecondaryGlaucomaafterVitrectomy庄司信行*表1治療の前に考えること1.なぜ眼圧が上昇したのか?つまり,房水流出障害の原因は何か?2.なぜ眼圧が下がらないのか?つまり,房水流出障害の原因は今後も残るのか?取り除く方法は何か?3.緑内障は進行するのか?緑内障の病期は?今の眼圧でどのくらい待てるのか?進行の速度は?など———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(50)眼圧を一定に保つことがむずかしい場合も多い.続発緑内障の場合は正常値を超えた高眼圧が視神経障害の原因と考えられるので,ひとまず正常眼圧の範囲内に収めることを目指す.1.原因別にみた対処法原因として考えられる病態を表2に示した.所見から考えられる鑑別診断に関しては表3に示した.外傷や何らかの原因によって房水流出不全が術前から存在している場合や,硝子体手術前に緑内障の診断で治療を受けていた症例もありうるが,その場合は通常の緑内障治療に準じると思われる.先に引用したChangらの報告3)にもあるように,すでに緑内障の治療が行われていた場合は,硝子体手術後に治療の強化が必要になることが多く,可能な限り視神経の状態や普段の眼圧の経過を術前に評価しておいたほうがよい.血管新生緑内障に関しては,前項を参照していただきたい.a.出血が原因と考えられるときの対処外傷や術中操作による虹彩・毛様体の損傷,隅角離開などで前房出血が残存する場合,通常は1週間程度で吸収し眼圧上昇も一過性のことが多いが,ときに吸収が遅れたり,再出血をくり返して高眼圧が持続することがある.まずは安静と抗炎症薬の点眼で自然吸収を待つ.吸必要がある(表2).当然,経過によって隅角閉塞が進行してくる場合(たとえば血管新生緑内障や炎症に伴う場合など)もあるので,一度の隅角検査だけで隅角の状況を決めつけてはいけない.いわゆる原発開放隅角緑内障の場合,現在の眼圧で進行していく可能性が高いのかどうかを予測し,目標眼圧を一つの目安にして治療を開始する.そして,視野検査をくり返して進行の有無を確認しながら治療内容を調整していく.硝子体手術後の眼圧上昇の場合も,本来なら十分な眼底検査と視野検査を行うべきである.眼圧の割に視神経乳頭のrimの状態がまだ保たれていることもある.しかし,硝子体出血や角膜の混濁・浮腫などで眼底の詳細が不明なことも多い.また,視野検査で異常が認められても,網膜の状態(光凝固も含めて)や硝子体の混濁などの影響と考えられる場合もあり,厳密に緑内障性視神経障害とこれに対応する視野障害を見きわめることはむずかしい.したがって,硝子体手術後の眼圧上昇に対しては,眼圧上昇の程度と期間によって治療方針を立てなければならないことも多い.IIどのように治療方針をたてるか治療の原則はあくまでも原因除去である.眼圧下降療法を行っていても原疾患に伴う炎症や出血などの影響で表2硝子体手術後の眼圧上昇の原因A.隅角が開放している場合1.術前から存在していた開放隅角緑内障2.術前から存在していた房水流出障害(外傷の既往や隅角形成不全など)3.血管新生緑内障(いわゆる第2期くらいまで)4.水晶体に起因するもの(残留皮質による炎症)5.炎症の遷延化6.術中・術後のステロイドによるもの7.その他(上強膜静脈圧の亢進,房水産生の亢進など)B.隅角が閉塞している場合1.術前から存在していた閉塞隅角緑内障2.出血に起因するもの3.血管新生緑内障(いわゆる第3期)4.水晶体に起因するもの(残留皮質による隅角閉塞)5.眼内充物質が直接原因となるもの(粘弾性物質,ガス,シリコーンオイル,パーフルオロカーボンなどの残留)6.眼内充物質による間接的な隅角閉塞7.炎症に伴う隅角の閉塞,瞳孔縁の癒着(瞳孔ブロック)表3所見から推測する眼圧上昇の病態1.前房内に残留物が明らかな場合フィブリン,出血,ガス,シリコーンオイルなどによる房水流出障害.ガスは前房内に迷入しても数日で吸収される.シリコーンオイルは吸収されにくい.2.瞳孔ブロックが認められる場合術後の炎症が高度な場合,またはシリコーンオイルなどの硝子体充物質による水晶体あるいは眼内レンズの前方偏位による場合などがある.3.隅角が狭い場合水晶体損傷による膨化や偏位などの他,過量なガスやシリコーンオイル,注入ガスの膨張などでも狭隅角化は生じる.4.隅角が広い場合前房内の炎症が高度な場合や線維柱帯炎を生じているときなど.ステロイドの点眼・内服,トリアムシノロンの硝子体注入後に生じるステロイド緑内障の場合もある.粘弾性物質やパーフルオロカーボンなどの残留など.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009333(51)も,まず抗炎症薬とともに眼圧下降点眼薬を併用するが,いわゆる縮瞳薬は炎症を増悪させる可能性があるので避ける.薬物に抵抗する場合には,残留皮質を取り除くために前房洗浄を行う.水晶体を温存した場合には,水晶体の損傷による水晶体過敏性緑内障と,Zinn小帯断裂による水晶体形態性の流出障害(水晶体の偏位に伴う浅前房化や瞳孔ブロック)を考える.前者の場合は,抗炎症薬と眼圧下降薬の点眼を併用し,不十分なら炭酸脱水酵素阻害薬内服を併用するが,損傷が高度であれば白内障の進行も速いため,水晶体摘出を行ったほうがよい.後者の場合も,レーザー虹彩切開術を行うより水晶体摘出を考えたほうがよい.c.眼内充物質による眼圧上昇が疑われる場合の対処1)術終了時の除去が不十分で残存した場合術中に併用した粘弾性物質やパーフルオロカーボンなどの洗浄・除去が不十分な場合に生じるので,眼圧上昇が高度であれば,洗浄・除去を試みる.2)充物質の量が多すぎる場合網膜裂孔の閉鎖や網膜のタンポナーデを目的としてガスやシリコーンオイルが注入されるが,過量の場合は眼圧上昇が生じる.また,SF6(六フッ化硫黄)などの膨張性ガスの場合は,術後の膨張による眼圧上昇に注意する.なかには,網膜中心動脈閉塞症を発症して失明した症例も報告されているので,眼圧チェックは重要である.眼圧が上昇している場合,上昇の程度が軽度であれば,まずは点眼薬のみで様子をみる.不十分であれば点眼の併用や炭酸脱水酵素阻害薬の内服,高浸透圧薬の点滴などを行う.眼圧上昇が長期に続き,視神経乳頭障害が進行する場合はこれらの充物質の除去を行うが,タンポナーデ効果を期待して充した物質であるので,完全に除去してよいのか,それとも多少残存させるのがよいのかの判断が必要である.また,大量に抜去すると,急激な眼圧下降により網膜・脈絡膜からの出血をきたすことがある.実際には,無水晶体眼の場合は仰臥位で前房穿刺を行えばよい.人工水晶体挿入眼の場合は,瞳孔領からの除去が行えないので,球後麻酔後,毛様体扁平部から針を刺入し,針先をみながら注射器で吸引し,圧収が遅く眼圧上昇が持続する場合には,眼圧下降薬とともに出血の吸収促進効果を目指してtissueplasminogenactivator(t-PA)を前房内投与することがある.しかし,再出血をきたすこともあるので適応は慎重に考えるべきであり,使用にあたっても十分注意する必要がある.前房出血が前房容積の1/3以上の場合や,受診時すでに眼圧上昇がみられる場合は再出血率が高いといわれる.したがって,これらの危険因子を有する場合には,早期からaminocaproicacid(アミノカプロン酸,ACA)8)やtranexamicacid(トラネキサム酸,TXA)9)などの止血剤の使用が有効であるといわれ,外傷性の前房出血や糖尿病網膜症による硝子体出血の治療などに試みられている.出血の吸収が遅く,角膜染血症や高度な眼圧上昇が持続する場合には,手術による出血塊の除去が必要となる.硝子体出血に対する処置が不十分な場合,変性した赤血球による泡沫細胞緑内障(ghostcellglaucoma)や溶血性緑内障(hemolyticglaucoma)が生じることもある7).この場合,前房内の浮遊細胞に対して抗炎症療法を行っても炎症反応ではないので効果はほとんどない.眼圧のコントロールが不良な場合には,診断を兼ねて前房洗浄を行う.再び変性した赤血球が出現するようなら,硝子体手術で徹底的に細胞を取り除く.それでも眼圧下降が得られない場合には,濾過手術または毛様体破壊術が試みられることもある.b.水晶体に起因する眼圧上昇と考えられる場合の対処は?水晶体摘出術を併用した場合には,まず粘弾性物質の残留を考える.多くは72時間程度で分解され,徐々に眼圧は下降してくるので点眼薬と炭酸脱水酵素阻害薬内服で経過をみることが多いが,あまりにも眼圧が高く視神経への影響が大きいと考えられる場合や頭痛などの症状が強い場合は,前房洗浄を行う.前房内の温流が確認される場合には残留皮質による眼圧上昇も考える.残留皮質に対する炎症反応によって眼圧上昇が生じた場合は,隅角は開放していることが多い.皮質自体で隅角を閉塞することもあり,その場合は吸収後も周辺虹彩前癒着(PAS)を形成し,房水流出不全をもたらす.水晶体過敏性の眼圧上昇が生じることもある.いずれの場合———————————————————————-Page4334あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(52)みながら,たとえばデキサメタゾンからフルオロメトロンへ変更したり,回数を減らすなどして判断する.しかし,ステロイドを減らすことによって炎症の遷延化による隅角の閉塞や瞳孔ブロックなどが生じることを考えれば,あまり安易にステロイド誘発性の眼圧上昇と決めつけて中止することは望ましくない.一般に,虹彩炎による続発緑内障に対して行う線維柱帯切除術の成績はあまり良好とはいえず,結膜も瘢痕化しやすい.一方で,術後の低眼圧による視力低下が生じることも多く眼圧コントロールはむずかしい.炎症の遷延化で生じた眼圧上昇に対して濾過手術を行う場合は,薬物でできる限り炎症を抑えてから計画するほうがよい.e.ステロイドによる眼圧上昇硝子体手術において,硝子体の可視化や炎症の軽減,胞様黄斑浮腫軽減のために,TAを硝子体に投与することが多くなり,それに伴ってステロイド誘発性の眼圧上昇も多く報告されている1).術後のステロイド点眼・内服により眼圧上昇が生じることがあるが,ステロイドによるものか前房内炎症によるものかの区別はむずかしいことが多い.したがって,投与量と炎症の関連から判断するしかないが,ステロイドを中止することがむずかしい症例も多く,眼圧下降薬の点眼や内服では不十分であれば,結局,外科的処置を行わざるを得ない場合も多い.術式としてはステロイド緑内障の場合は線維柱帯切開術がより安全で効果的といわれている硝子体手術後の線維柱帯切除術では濾過胞の維持がむずかしく,糖尿病をはじめとする全身疾患の合併により,濾過胞感染の可能性が高いことを考えれば,まず線維柱帯切開術を最初に試みてもよいのではないだろうか.2.治療薬についてa.点眼薬について現在,緑内障点眼薬で眼圧下降効果が最も高いものはプロスト系点眼薬と考えられるが,炎症の強い眼に同薬剤を使用してよいのかどうかに関しては,多少意見が分かれるようである.自験例では幸いラタノプロストで明らかに炎症が増悪したと考えられる症例はない.新たなプロスト系,つまりトラボプロストやタフルプロストでを調整する.3)炎症などによって瞳孔ブロックやPASを生じた場合シリコーンオイルによる瞳孔ブロックを予防するため,術中に下方の周辺虹彩切除術を行うが,炎症が高度だとフィブリン膜などによって閉塞することがある.また,ガスやシリコーンオイルは比重を利用して効果を発揮するので,体位を守らず仰向けになっていた場合など,水晶体や眼内レンズ,虹彩を後房側から押し上げることによって瞳孔ブロックやPASを生じる.この場合は,隅角癒着解離術を施行することで眼圧下降を得ることは可能であるが,炎症が高度であったり,体位が守れなかったりすると再癒着して眼圧が再び上昇し,結局濾過手術を行わなければならないことも多い.4)長期間留置されていたシリコーンオイルによって隅角が閉塞した場合長期間眼内に留置されると乳化し,シリコーンオイル滴が前房内に入り込むことによって隅角を覆い閉塞することがある.このような場合は前房洗浄を行っても容易には除去できないので,眼圧下降を目的とした手術が必要になる.しかし,どのような術式を選択するかはあまり報告されておらず,術者の経験によって選択されるのではないだろうか.原理的には,シリコーンオイル滴によって覆われるのは上方の線維柱帯であるので,下方の線維柱帯切開術は有効ではないかと思われる.海外では,下方のインプラント手術を薦める論文10)もある.d.炎症の遷延化炎症細胞やフィブリンにより隅角が閉塞したり,その結果として広範囲に生じたPASや瞳孔ブロックによって眼圧上昇が生じる.特に糖尿病患者の場合は術後炎症が強くフィブリンも析出することが多い.瞳孔管理をしっかり行わないと虹彩後癒着を生じる可能性が高い.線維柱帯炎が起こると,周辺虹彩後癒着はほとんどみられないものの,房水流出不全による眼圧上昇が生じることがある.炎症が治まらない場合,ステロイド薬の頻回点眼や結膜下注射を併用し,可能なら全身投与も検討する.しかし,ステロイド誘発性の眼圧上昇がみられることもあり,鑑別はむずかしいことも多い.炎症の程度と眼圧を———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009335(53)は,やむをえず緑内障手術を行わなければならないことも多い.このとき,線維柱帯切除術を選択するか,それとも線維柱帯切開術を選択するかは議論が分かれるところであろう.すでに一度手術(硝子体手術)を受けているので,もうこれ以上手術は勘弁して欲しいという患者の前では,より確実な眼圧下降を目指して線維柱帯切除術を選ぶことが多いだろうし,硝子体手術後の結膜の状態や,濾過胞感染のリスクを考えると,線維柱帯切開術をまず行ってみるほうが安全だと考える術者もいるだろう.筆者の場合は,線維柱帯切除術を行うほうが圧倒的に多いが,硝子体手術後の続発緑内障では目標とする眼圧がそれほど低くないことを考えると,開放隅角であり,切開部位に閉塞するような要因がない場合には,もう少し線維柱帯切開術で対応してもよいのではないかと考えている.ところで,硝子体手術で切開した結膜がどんな状態であるかは,線維柱帯切除術における結膜切開部位や強膜弁作製部位の選択という点で大きな問題となる.輪部付近の結膜が被覆されていなかったり菲薄化している場合は,結膜切開の位置やマイトマイシンC(MMC)の使い方などがむずかしくなることがあり,結膜が術中にちぎれたり穿孔することもまれではない.また,硝子体手術直後の,たとえば結膜充血が残存している時期は創傷治癒が盛んで,MMCを併用しても瘢痕化する可能性が高い.他の原因が明らかであれば,これに対処しながら薬物治療を併用しつつ,炎症反応などが治まって少しでも良い状態になってから手術を行いたい.最近の25ゲージ針を用いた硝子体手術ではほとんど結膜を切らなくてすむため,結膜への侵襲も最小限となり,緑内障手術も施行しやすくなったが,その部位で結膜との癒着が強かったり,強膜弁作製が制限されたりすることは,従来の手技のときと同様である.硝子体手術後に線維柱帯切除術を行う際に最も注意すべき点として,術中の眼球虚脱があげられる.急激な低眼圧や眼球の虚脱によって駆逐性出血を生じるリスクが高く,予防的に前房あるいは強膜にポートを作製し,灌流チューブを留置して眼圧をなるべく下げすぎないようにする工夫が必要である.どちらがよいかは術者の好みによって分かれる.いずれにしても,濾過が得られ,眼炎症が増悪するかどうかに関しては今後の報告待ちではあるが,筆者は禁忌とは考えていない.注意して使用すればよいのではないかと考えている.眼圧上昇の原因のほとんどが房水流出障害によるので,房水産生の抑制を目指してb遮断薬を開始し,不十分であれば他剤を追加するという方針でもよい.眼圧が高いからといって複数を同時に追加すると,果たして効果があるのかどうかが判断できず,かえって角膜障害の出現や悪化を招き,点眼を中止しなければならなくなることもある.コンプライアンスが悪くなり,結局点眼していない可能性もある.角膜上皮障害が高度な場合は,点眼をなるべく少なくし,最初から炭酸脱水酵素阻害薬の内服を行ってもよい.角膜内皮細胞が著しく減少している場合は,内皮にも炭酸脱水酵素が存在するので,これを阻害する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼は内皮障害を悪化させることもありうるので慎重に行う.b.炭酸脱水酵素阻害薬内服について先述したように,硝子体手術後の角膜上皮障害が高度な場合は,いたずらに眼圧下降点眼薬を増やすより,最初から炭酸脱水酵素阻害薬の内服を処方したほうがよい.通常はアセタゾラミド250mgを朝晩1錠ずつから始め,眼圧に応じて朝昼晩1錠ずつ,あるいは朝晩2錠ずつなどで管理する.炎症や出血などとの兼ね合いで,眼圧上昇が一時的だと考えられる場合や,手術までの数日間という短期間であれば1日量で6錠まで処方することがある.どの程度の期間使用できるかどうかは全身状態によるが,原疾患によっては腎機能が低下していることもあり,あまり長期に使えない場合も多い.血清電解質など全身状態をチェックしながら用いるようにする.なお,カリウム製剤は炭酸脱水酵素阻害薬内服に併用することがなかばルーチンになっているが,心疾患などの合併症を有する患者も多いことから,やはり血中カリウム濃度を確認しながら投与量を調節したほうがよいと思われる.いずれにしても,漫然と長期に使用することは避ける.3.観血的治療についてa.濾過手術か流出路手術か?各種薬物治療で眼圧コントロールが得られない場合———————————————————————-Page6336あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(54)房内に再出血する場合や,穿刺部に虹彩の一部や硝子体が嵌頓してしまう場合もある.多くの場合一過性であり,1,2時間して測定すると眼圧はまた上昇していることが多いため,あくまでも緊急避難的な処置と考えるべきである.根本的な解決とはならない.おわりに硝子体手術後の続発緑内障に対する治療法をまとめた.眼圧上昇の原因に応じて対策が異なるため,房水流出障害がどこにあるのかをしっかり見定めることが重要である.また,無硝子体眼に線維柱帯切除術を行う場合,眼球虚脱に伴う駆逐性出血のリスクが高く,その予防には細心の注意を払わなければならない.文献1)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20072)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるシリコーンオイル使用状況全国調査結果.日眼会誌112:790-800,20083)ChangS:LXIIEdwardJacksonlecture:openangleglau-comaaftervitrectomy.AmJOphthalmol141:1033-1043,20064)LukFO,KwokAK,LaiTYetal:Presenceofcrystallinelensasaprotectivefactorforthelatedevelopmentofopenangleglaucomaaftervitrectomy.Retina29:218-224,20095)澤田明,山本哲也:続発緑内障~硝子体手術後の緑内障.緑内障(北澤克明監修),p276-282,医学書院,20046)庄司信行:硝子体手術後の続発緑内障の病態と治療.みんなの硝子体手術~緑内障と硝子体.眼科プラクティス17,p160-165,文光堂,20077)庄司信行:眼内出血に伴う緑内障.緑内障診療の実際~続発緑内障.眼科プラクティス11,p79-81,文光堂,20068)PieramiciDJ,GoldbergMF,MeliaMetal:AphaseIII,multicenter,randomized,placebo-controlledclinicaltrialoftopicalaminocaproicacid(Caprogel)inthemanagementoftraumatichyphema.Ophthalmology110:2106-2112,20039)RamezaniAR,AhmadiehH,GhaseminejadAKetal:Eectoftranexamicacidonearlypostvitrectomydiabetichaemorrhage;arandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1041-1044,200510)Al-JazzafAM,NetlandPA,CharlesS:Incidenceandmanagementofelevatedintraocularpressureaftersiliconeoilinjection.JGlaucoma14:40-46,2005圧が下がったら,むやみに眼球を動かして虚脱したりしないようにし,ただちに強膜弁を縫合し,なるべく低眼圧の状態を短くするような注意が必要である.なお,眼圧が低すぎる状態で強膜弁を縫合すると,強く縫合しすぎることも多い.濾過量をみながら縫合を追加していく必要がある.線維柱帯切除術を行う際の注意点を表4にまとめた.なお,海外では難治例の濾過手術ではインプラント手術を選択する場合もあり,下方からのインプラント手術を進めているものもある10)が,わが国ではまだインプラントが認可されていないので,慎重な判断が必要である.b.毛様体破壊術濾過手術をくり返しても,どうしても眼圧のコントロールが困難であり,痛みを伴う場合は毛様体破壊術が選択される場合もあるが,眼球癆に陥る可能性も少なくなく,視機能温存という点から考えると,適応は慎重にすべきである.c.前房穿刺は有効か?どうしてもすぐに眼圧を下げる必要がある場合には前房穿刺を行うことがある.外来で,ピンセットと鋭針,シリンジがあればできるので,感染に注意して行えば,比較的手軽に行える手技である.硝子体手術時に角膜にポートが作製されていればここを利用できるので良いが,作製されていない場合には27ゲージ鋭針を用いて穿刺しなければならない.顕微鏡下で行うが,いくら手軽な処置といわれていても,穿刺時にうまく刺入できず,眼球を押しすぎてトンネルが長くなってしまったり,力が入りすぎて針先が虹彩まで到達して出血してしまったりする場合もある.確かに穿刺直後には眼圧はよく下がるが,なかには,眼圧が下がりすぎてしまって前表4無硝子体眼における線維柱帯切除術施行時の注意点1.硝子体手術時の結膜切開や瘢痕部位の把握と濾過胞作製部位のイメージ2.強膜の観察(ポート作製部位の確認)と強膜弁作製部位の選定3.低眼圧・眼球虚脱の予防4.強膜縫合時の濾過量確認5.結膜創の完全な閉鎖の確認