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硝子体手術のワンポイントアドバイス60.角膜混濁例に対する硝子体手術(その2)(中級編)

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086730910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに前号からの続きで,今回は一時的人工角膜を用いた角膜移植と眼内内視鏡について述べる.角膜混濁が認められる症例でも,単純硝子体切除のみであれば,通常の眼内照明による硝子体手術で治療できる場合が多いが,複雑な手術操作が必要な症例では,この2つの方法が有用である.時的人工角膜を用いた角膜移植術一時的人工角膜には,Eckardt一時的人工角膜(図1)とLanders一時的人工角膜(図2)があり,前者のほうが視野は広く有用であるが,残念ながら現在入手しにくい状況となっている.Eckardt一時的人工角膜はシリコーンでできているため,適度な軟らかさがあり,角膜組織への侵襲も少ない.Landers一時的人工角膜はPMMA(ポリメチルメタクリレート)でできていて硬く,角膜にねじ込むように装着するため侵襲がやや大きい.眼底周辺部の視認性もEckardt一時的人工角膜のほうが優れている(図3).本術式の最大の問題点は術後の角膜の透明性維持である.硝子体手術後は術後炎症が高度で,拒絶反応のリスクが高いだけでなく,種々のタンポナーデ物質により角膜移植片への障害が生じやすい.しかし,最近では免疫抑制剤を適宜併用し,角膜専門医と網膜硝子体専門医が密接に協力しあいながら術後の経過観察を厳重に行うことで,治療成績は向上している.内内視鏡による硝子体手術最近は眼内照明機能を有する非常に解像度の良い眼内内視鏡が入手可能で,硝子体手術に盛んに応用されている.特に通常の硝子体手術では観察困難な眼底最周辺部の観察が確実に施行できる利点は大きい.眼内内視鏡の欠点は立体視ができないことであるが,硝子体手術に習熟した術者であれば,モニターをみながらすべての操作を内視鏡下で施行することも可能である(図4).(97)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載60角膜混濁例に対する硝子体手術(その2)(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図3Eckardt一時的人工角膜を用いた硝子体手術眼底周辺部の視認性も優れている.図4眼内内視鏡を用いた硝子体手術良好な視認性が得られるが,立体視ができないのが欠点である.図1Eckardt一時的人工角膜シリコーンでできているため,適度な軟らかさがあり,角膜組織への侵襲は少ない.図2Landers一時的人工角膜PMMAでできていて硬く,角膜にねじ込むように装着するため侵襲がやや大きい.

眼科医のための先端医療89.前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086690910-1810/08/\100/頁/JCLS神経堤細胞んのとお前眼部部とのをるるを路とすのと神経神経堤細胞神経細胞とのの細胞群でににを与とでに形成すので神経堤細胞とを部分の前眼部の形成にをす神経堤細胞と神経の部に形成る細胞で化するとで細胞の発ににすの後にグ細胞細胞細胞にに細胞に分化するをとのをすで眼での神経堤細胞の分ととをグで内一子の分すとるでにに分前眼部発に与す神経堤細胞の分化に関与する因子と発達緑内障をとにする神経堤細胞で分化後のとお発で発部との分化です前眼部神経堤細胞の発とを発達緑内障をわわ眼にるとす前眼部神経堤細胞の分化に関わる因子群分にんのる因子ので発達緑内障に関する因子群をにす因子でる前眼部形成にをとすののと子群の因子とですと眼発に眼のに発すににの発部に部に発すので内の形成との分を前形成と前眼部形成に因子でるとわすでのの発神経堤細胞を分化にととるを化を化成にす神経堤細胞の分化をする分子ルととグ成因子b(TGF-b)があげられます(図1).TGF-bスーパーファミリーは細胞の増殖・分化・アポトーシスのみならず,(93)◆シリーズ第89回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊岩尾圭一郎(熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学)前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障図1前眼部神経堤細胞におけるシグナル経路神経堤細胞は,TGF-bスーパーファミリー(TGF-b2やBMP4)の刺激を受けると,SMAD経路を経て,FOXC1やPITX2などの転写因子を発現し,活性レベルや時期によりさまざまな前眼部組織へと分化していく.角膜実質や角膜輪部などでは活発にコラーゲンなどの細胞外マトリックスを産生する.PITX2PloPitx2SMADFoxH1SMAD2/3FOXC1CMSMADPLODSMAD1/5/8Foxc1細胞質内細胞外マトリックスBMP4TGF-b2———————————————————————-Page2670あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008細胞外基質の産生,免疫系の制御など多岐にわたる役割を担っています.和歌山県立医科大学の雑賀司珠也先生7)のマウスを用いた研究で,そのなかのアイソフォームのなかでも特にTGF-b2が重要であることが報告されています.前述のFoxc1やPitx2の発現も,その上流でTGF-b2の制御を受けていることが知られています8).TGF-b2やそのレセプターをKOしたマウス実験でも,Foxc1やPitx2をKOした際と同様に,角膜や隅角に分化・増殖異常が生じ,Axenfeld-Rieger症候群やPeters奇形に類似した眼所見を呈することが証明されています7,8).このほかの前眼部形成に必要な分子に,CYP1B1(cytochromeP-450,family1,subfamilyb,polypeptide1)9)やtyrosinase10)があります.Cyp1b1は発達緑内障の原因遺伝子として有名ですが,CYP1B1はtrans-retinolの酸化,TCFAP2Aを介し,tyrosinehydroxy-laseを調節している可能性が示されています11).Tyrosinehydroxylaseもtyrosinaseも,メラニン代謝に重要な酵素であり,隅角形成に関与している可能性がトランスジェニックマウスを用いた実験から示唆されています10)が,その代謝産物であるL-dopaがどのような経路を経て,前眼部形成に関与しているかについては,まだ詳細は不明です.今後の展望神経堤細胞前眼部形成におをす細胞群です今因子群神経堤細胞の分化にわるに因子にのですお山の一でのに因子群にを形成るとすの分のにとで前眼部形成にる眼ルの緑内障の因子発発達緑内障群と神経堤細胞関与するのとす文献1)CreuzetS,VincentC,CoulyG:Neuralcrestderivativesinocularandperiocularstructures.IntJDevBiol49:161-171,20052)GagePJ,RhoadesW,PruckaSKetal:Fatemapsofneu-ralcrestandmesoderminthemammalianeye.InvestOphthalmolVisSci46:4200-4208,20053)KidsonSH,KumeT,DengKetal:Theforkhead/winged-helixgene,Mf1,isnecessaryforthenormaldevelopmentofthecorneaandformationoftheanteriorchamberinthemouseeye.DevBiol211:306-322,19994)HjaltTA,SeminaEV,AmendtBAetal:ThePitx2pro-teininmousedevelopment.DevDyn218:195-200,20005)GagePJ,SuhH,CamperSA:DosagerequirementofPitx2fordevelopmentofmultipleorgans.Development126:4643-4651,19996)HjaltTA,AmendtBA,MurrayJC:PITX2regulatespro-collagenlysylhydroxylase(PLOD)geneexpression:implicationsforthepathologyofRiegersyndrome.JCellBiol152:545-552,20017)SaikaS,SaikaS,LiuCYetal:TGFbeta2incornealmor-phogenesisduringmouseembryonicdevelopment.DevBiol240:419-432,20018)IttnerLM,WurdakH,SchwerdtfegerKetal:CompounddevelopmentaleyedisordersfollowinginactivationofTGFbetasignalinginneural-creststemcells.JBiol4:11,20059)StoilovI,AkarsuAN,SarfaraziM:IdenticationofthreedierenttruncatingmutationsincytochromeP4501B1(CYP1B1)astheprincipalcauseofprimarycongenitalglaucoma(Buphthalmos)infamilieslinkedtotheGLC3Alocusonchromosome2p21.HumMolGenet6:641-647,199710)LibbyRT,SmithRS,SavinovaOVetal:Modicationofoculardefectsinmousedevelopmentalglaucomamodelsbytyrosinase.Science299:1578-1581,200311)ChenH,HowaldWN,JuchauMR:Biosynthesisofall-trans-retinoicacidfromall-trans-retinol:catalysisofall-trans-retinoloxidationbyhumanP-450cytochromes.DrugMetabDispos28:315-322,2000(94)☆☆☆———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008671(95)「前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障」を読んで今回は熊本大学視機能病態学の岩尾圭一郎先生による神経堤細胞の前眼部形成の分子メカニズムと前眼部の先天性疾患病態についてのわかりやすく明快な解説です.前眼部の発生はダイナミックにいろいろの組織が形成されていき,きわめて複雑な期間が形成されていくことは神秘的でさえあります.発達の過程と,その障害によるAxenfeld-Rieger症候群,発達緑内障,ICE(iridocornealendothelial)症候群などの病態を「神秘」で片づけないで,分子レベルでメカニズムを解明する研究がきわめて進歩していることが岩尾先生の解説でとてもよくわかりました.現時点でも,FOXC1,PITX2,TGF-b2,CYP1B1といった種々の因子が神経堤細胞の前眼部形成への関与に関連する機能を制御していることが明らかにされ,Axenfeld-Rieger症候群,発達緑内障の病態への関与のメカニズムも解明されつつあるということがわかります.ただ,最後に述べておられるように「このほかにもさまざまな因子群が複雑に絡み合うネットワークを形成」していることが考えられ,現状の把握も困難です.これはゲノムプロジェクトが終了したいわゆるポストゲノムの時代といわれる現代生命科学の重大なテーマとなると考えられます.ヒトの遺伝子の塩基配列はすべて明らかになりました.ゲノムのなかでの遺伝子としての暗号の解読,その遺伝子としての暗号の解読,つまり,どのように読んだらヒトという生命体の発生,成長,老化などの生命現象を支え機能している幾つもの遺伝子を取り出せるのか,その遺伝子がコードしている蛋白質はどのような構造,機能をもっているかを研究することが生命科学の重大な課題です.たとえば,今回のテーマである神経堤細胞がどのように前眼部の形態形成に関与するかという研究を細胞,分子のレベルだけで積み上げていくことはとても気が遠くなるような作業です.しかし,大切な情報をわれわれ臨床医はもっています.いろいろな疾患を治療するために綿密に患者さんを診察し,治療することを体系的に積み上げて臨床医学としての眼科学という知恵と情報の集積をもっています.Foxc1とPitx2遺伝子の機能がおかしくなるとAxenfeld-Rieger症候群を起こすということから,生体のなかでの遺伝子の動きを予測することができますし,ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスなどの手法を用いた動物モデルをつくって検証するときにはそのゴールドスタンダードは臨床医学の情報です.われわれ臨床医は患者さんを最善の方法で治療するという目的のためにこれらの情報を利用していますが,臨床医学のなかで解決できない問題の解決には基礎医学での研究の成果を利用したいと考えています.つまり,臨床医学は研究という大きな戦略のなかの入り口であり,かつ出口であり,またそうあらねばなりません.このように,われわれ臨床医がもっている情報を提供してよりよい研究が進行するようにすることが社会から求められていると考えます.生命科学は近年長足の進歩をして,研究の倫理的な面での規制(再生医療などで顕著ですが)も出てきつつあります.健全で自由で有益な生命科学の研究を遂行していくためには,研究の目的として臨床的な意義をはっきりさせていく努力がわれわれ臨床医には課せられているようです.それはわれわれ臨床医の義務であり,かつ権利でもあるかもしれません.そして,基礎的な生命科学と臨床医学をつなぐ岩尾先生のようなclinicalsci-entistが多く活躍できる研究環境を整備することが,社会的にわれわれに課され期待されていることにこたえる重要な戦略であろうと考えます.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ182.若年白内障に対する多少点眼内レンズ

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086670910-1810/08/\100/頁/JCLS術前遠方視力右眼=0.06(0.6×5.0D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.5DAx180°)術前近方視力右眼=0.1(0.6×4.5D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)新しい治療と検査シリーズ(91)バックグラウンド最近登場した回折型多焦点レンズは,良好な術後の遠近視力を提供できるようになった.白内障摘出による調節力の喪失が問題となる若年者の白内障治療に大変有効である1,2).実際の使用法多焦点眼内レンズは角膜乱視の少ない患者に有効であるといわれている.本レンズが有用であった症例を提示する.〔症例1〕28歳,男性,若年者の両眼白内障.術前遠方視力右眼=0.4(0.4×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.1(0.1×cyl+1.0DAx90°)28歳であるので老視もなく,遠方も近方も眼鏡装用の経験はない.当然のことながら従来の単焦点レンズでは術後の近方視力が問題になる.本人の希望により回折型多焦点眼内レンズを挿入した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.8(1.2×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.9(1.2×cyl+1.25DAx90°)術後近方視力右眼=0.7(1.0×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.6(0.9×cyl+1.25DAx90°)この症例では角膜乱視が少ないため,裸眼での遠近視力が良好であった.さらに,特筆すべき点は,遠方矯正度数の装用によって近方視力も向上する点である.このことは,白内障手術術後の屈折誤差に対しても一つの眼鏡で遠近両方の視力に対応できることと,さらには片眼の手術にも適応できることを意味しているからである.〔症例2〕35歳,男性,近視眼の片眼(右眼)白内障.182.若年白内障に対する多焦点眼内レンズプレゼンテーション:大木孝太郎大木眼科コメント:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科図1わが国で臨床治験の終了している回折型多焦点眼内レンズ左側がReSTORR(アルコン社),右側がTECNISTMMultifocal(AMO社).図2内固定された回折型多焦点眼内レンズレンズ表面の同心円状の回折構造が観察できる.———————————————————————-Page2668あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008右眼が白内障で視力低下をきたしているが,遠方矯正時の左眼の近方視力は良好で,まだ老視年齢ではない.パソコン業務が多く,自覚的には片眼で作業をしている感じがして眼精疲労が強いことが主訴である.眼鏡使用者でコンタクトレンズの使用はまったく希望しない.したがって,左眼の近視状態に合わせて右眼の術後屈折値を45Dに設定して眼内レンズを挿入することになるが,単焦点レンズを用いた場合,遠方用の眼鏡を装用した状態では,調節力を喪失した右眼近方視力は当然不良となる.その結果,近方作業は片眼だけで行うことになり,それでは術前の片眼視による眼精疲労という本来の訴えを改善することがむずかしい.まだ調節力のある年齢であるので,右眼に対し正視を狙って白内障手術を行い,左眼はLASIK(laserinsitukeratomileusis)によって近視矯正を行うというオプションも考えられるが,本人がそれは望まず希望により,右眼に回折型眼内レンズを左眼の近視度数に合わせて使用した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.08(1.2×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.0DAx180°)術後近方視力右眼=0.1(0.8×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)右眼の近方視力が遠方矯正度数で非常に良好であり,遠方用の眼鏡一つで,違和感なくデスクワークが行えるようになり,高い満足を得られている.本治療法の利点白内障手術の大きな弱点は術後の調節力の喪失である.多くの白内障患者は高齢者であり,通常は術後の眼鏡使用に問題を感じない.しかし今回提示した若年者の症例では,老視眼鏡の使用は生活上の問題になることも多く,本レンズは非常に効果的である.1)大木孝太郎:AMOTecnis回折型多焦点眼内レンズ.IOL&RS21:227-229,20072)清水直子:回折型眼内レンズ─症例報告.あたらしい眼科24:169-175,2007(92)☆☆☆本方法に対するコメント従来,若年者の白内障手術については,水晶体摘出後に調節力を失うことが大きな問題であった.そのため,白内障で視力が低下していても,水晶体を温存することで調節力を保てる利点を考慮し,手術時期をなるべく延ばす例も少なくなかった.多焦点眼内レンズ,特に本稿で紹介された回折型多焦点眼内レンズは,術後に良好な近方視力が期待できるため,若年例でも調節機能障害によるハンディーがかなり軽減された.症例1のような両眼手術例では,術後の屈折値を悩まず正視にすることができるが,問題は症例2のような片眼性白内障で,かつ,もう片眼の屈折が遠視や近視例である.従来の単焦点眼内レンズでは,迷うことなく健眼の屈折が近視であれば,不同視を生じない程度の近視狙いで眼内レンズ度数を選択した.多焦点眼内レンズ挿入希望例で,コンタクトレンズは使えず眼鏡装用の場合は,担当医とじっくり話し合い,本症例のような選択も多焦点レンズの恩恵といえるであろう.筆者(ビッセン)はエキシマレーザーによる屈折矯正手術を同施設で行っているため,眼鏡への依存度を減らす多焦点眼内レンズの利点を最大限に生かすよう,術後屈折は正視目標とし,健眼にはコンタクトレンズ装用,あるいは屈折矯正手術を行い,非常に高い満足度を得ている.

眼感染アレルギー:Propionibacterium acnesによる前眼部感染アレルギー

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086650910-1810/08/\100/頁/JCLS眼表面の炎症と眼瞼縁の炎症はしばしば密接につながっている.眼瞼縁の,特にマイボーム腺そのものの炎症とそれに伴う角結膜上皮障害を総称して「マイボーム腺炎角膜上皮症」とよぶ1).その病型は,角膜に結節性細胞浸潤と血管侵入を伴う「フリクテン型」(図1)と,点状表層角膜症を主体とした「非フリクテン型」の二つに大別できる.ここでは,感染アレルギーによって生じる「フリクテン型」(いわゆる角膜フリクテン)について述べる.膜フリクテンの病因1950年代より以前には,結核菌蛋白に対する遅延型アレルギー反応(DTH)が疾患の本体であると考えられていた.その後,結核患者の減少とともに,ブドウ球菌性眼瞼炎との合併が報告されるようになり,家兎動物モデルが報告されて以来,この疾患の本体は,おもに黄色ブドウ球菌の菌体成分に対するDTHであると考えられてきた.近年,真菌や寄生虫,クラミジアなどによると考えられるものも報告されているが,実際の臨床の現場では,患者の結膜や眼瞼縁の培養を行ってもこられの病原体を検出することはまれである.マイボーム腺分泌物(meibum)の培養による検討では,ほとんどの患者からPropionibacteriumacnes(P.acnes)が検出され,健常者に比べて有意に検出率が高かったことから,P.acnesが本疾患の起炎菌として重要であると考えられている.P.acnesとはP.acnesは,嫌気性のグラム陽性無芽胞桿菌であり,皮膚,腸管に常在している.本来ヒトに対する病原性は低いと考えられていたが,ニキビ(acne)の発症には中心的な役割を果たしており,慢性感染症の起炎菌としての報告もみられる.マイボーム腺は生体内で最大の皮脂腺であるが,ニキ(89)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑤監修=木下茂大橋裕一5.Propionibacteriumacnesによる前眼部感染アレルギー鈴木智京都市立病院眼科マイボーム腺炎角膜上皮症では,腺内で増殖するPropionibacteriumacnesに対する遅延型アレルギー反応(DTH)によって角膜に細胞浸潤(フリクテン)を生じる.治療は,ステロイド薬でDTHを抑えるのみならず,抗菌薬で腺内の除菌を行うことが重要である.図1マイボーム腺炎角膜上皮症フリクテン型角膜上の結節病変の延長線上の眼瞼縁に,マイボーム腺炎を認める.図2P.acnesを注入後48時間のラット角膜P.acnesで免疫したラットの角膜実質にP.acnesを注入すると,48時間後に強い細胞浸潤が認められる.———————————————————————-Page2666あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008ビを生じる皮脂腺とは「毛がない」という点で大きく異なっている.通常の皮脂腺は一つの腺房が毛包管内の毛根部へ開放しているのに対し,マイボーム腺は多数の腺房が一つの導管に開放しその導管が眼瞼縁で開口している.このように構造は異なっているが,皮脂腺では導管上皮の角化が毛包管の角化へと進行することがニキビ発症機序であるのと同様に,マイボーム腺の導管上皮の角化がマイボーム腺機能不全の発症機序であると考えられている.P.acnesは,免疫系に対して①補体を活性化する,②多核白血球の走化性因子を産生する,③多核白血球による酵素の放出を誘発する,④選択的にサプレッサー/キラーT細胞を阻害するなどの強い免疫作用を有している.肝臓や肺の実験的肉芽腫形成には,P.acnesによる前感作が必要であり,生菌,死菌のいずれの再感作においても肉芽腫が形成されたことから,肉芽腫形成はP.acnesの曝露に対する宿主のDTHの結果と考えられている.P.acnesで免疫したラットの角膜実質にP.acnesを注入すると,注入した部位に旺盛な細胞浸潤と角膜浮腫が認められる(図2).皮膚のDTHと同様に,6時間後には好中球が侵入し,48時間後にはマクロファージやリンパ球などの単核球が増加していくという変化が認められる(図3).また,浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞がCD8陽性T細胞に比べ有意であり,P.acnesは角膜にDTHを生じうる.皮脂腺に存在するP.acnesの増殖がニキビの発症に深く関与しているのと同様に,マイボーム腺におけるP.acnesの増殖がマイボーム腺炎および角膜フリクテンの原因となっている可能性が推測される.P.acnesが常在菌であるにもかかわらず,特定の患者にしか発症しないことについては,宿主側の抗原に対する反応性の違いが関与すると考えられている2).マイボーム腺炎角膜上皮症(フリクテン型)の治療細菌増殖によるマイボーム腺炎が疾患の原因であるため,その治療を基本とする.すなわち,眼瞼縁の清拭やマイボーム腺内のmeibum圧出とともに,マイボーム腺内で増殖しているP.acnesに対して適切な抗菌薬を投与する.重症例および難治例にはマイボーム腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で点滴を行うことも効果的である.ステロイド薬については,初期に眼表面の炎症が強い場合には短期的な投与が必要になる場合があるが,眼表面の炎症が改善した時点で中止すると再発しやすい.これは,マイボーム腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.マイボーム腺炎の改善は,眼表面の炎症の沈静化より少し遅れることを覚えておかなければならない.感染アレルギーとしての角膜フリクテンを,アレルギーの立場からでなく,感染の立場から治療し,起炎菌を除去することが治療上重要である.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisassociatedwithmeibomitis.AmJOphthalmol140:77-82,2005(90)☆☆☆図3P.acnesを注入後48時間のラット角膜のヘマトキシリンエオジン染色所見48時間後には,実質浮腫とともにマクロファージやリンパ球といった単核球を中心とした細胞浸潤が認められる.

緑内障:各種眼圧計の測定原理

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086630910-1810/08/\100/頁/JCLSSchiotz眼圧計は代表的な圧入眼圧計である.仰臥位で角膜に垂直にのせて,可動杆によって角膜が圧入される程度から眼圧を測定する.目盛りの読みは眼圧ではなく,可動杆の圧入量である.換算表を用いて,目盛りの読みと用いた重錘から眼圧を求める.平眼圧計内圧Pをもつ球体を平面により力Wで圧平すると,圧平面積AとW,Pとの間にはW=P×Aの関係が成立する(Imbert-Fickの法則)(図1).ただし,球体が完全な球状で,球体を構成する膜が柔軟で,無限に薄く,かつその表面が乾燥しているという条件が必要となる.Imbert-Fickの法則が眼球にあてはまるとすれば,WまたはAのいずれかを一定にして他方を測定することにより,Pを求めることができる.圧平眼圧計ではこの法則が応用されており,臨床的にはおもにAを一定としてWを測定する眼圧計が用いられている.1.Goldmann圧平眼圧計臨床的に精度が高く,緑内障診療において標準的に使用されるべき眼圧計である.圧平プリズムにより角膜を圧平(直径3.06mm)して眼圧を測定する(図1)1).圧入眼圧計とは異なり,測定時の眼球容積の変動がきわめて少なく,測定値は眼球壁硬性の影響を受けにくい.しかしながら,他の圧平眼圧計と同様に,本眼圧計においても測定値は中心角膜厚の影響を受ける.Ehlersら2)のマノメトリーを用いた検討では,中心角膜厚が520μmの場合に最も真の眼圧を反映し,中心角膜厚が厚く(薄く)なると眼圧は高く(低く)測定される.2.MackayMarg型眼圧計本眼圧計では可動杆に加わる力を電気信号に変換して眼圧を測定する3).先端に可動杆があり,周囲のスリーブよりわずかに突出している.角膜を圧平すると,可動杆に加わる力が増加する.さらに角膜を圧平すると,スリーブが角膜に接触するため,可動杆に加わる力が減少しトラフを示す.このトラフ時の可動杆に加わる力から眼圧を求める.Tono-PenはMackay-Marg型眼圧計の原理を応用した眼圧計である.3.空気眼圧計圧搾空気を用いて角膜を圧平して眼圧を測定する4).シリコーン膜で覆われたプローブを角膜にあて,角膜が圧平されると,プローブの内圧は眼圧と等しくなり,この内圧が電気信号に変換され記録される.4.非接触眼圧計眼球に直接接触させず,空気を角膜に噴射して眼圧を測定する5).角膜形状の変化が光学的にモニターされる.空気の噴出によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間あるいはその際の空気圧から眼圧を求める.新しい非接触眼圧計ocularresponseanalyzer6)では,角膜の生物化学的特性を補正した眼圧測定が可能であり,円錐角膜眼やレーザー角膜内切削形成(LASIK)眼における(87)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄95.各種眼圧計の測定原理八百枝潔白柏基宏新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野臨床的に,眼球に一定の力を加えて生じるその変形の程度,あるいは眼球に一定の変形を起こす力を測定することにより,眼圧を求めることができる.眼圧計は圧入眼圧計と圧平眼圧計の2つに大別される.本稿では,両眼圧計を中心に,各種眼圧計の測定原理につき概説する.図1圧平眼圧計による眼圧測定の原理内圧Pの球体を平面により力Wで圧平すると,圧平面積AとW,Pとの間にはW=P×Aの関係が成立する(Imbert-Fickの法則).Gold-mann圧平眼圧計ではこの法則が応用されており,Aを一定(直径3.06mmの円)にしてWを測定することによりPを求めている.———————————————————————-Page2664あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008眼圧測定に有用であるとされている.の他の眼圧計Pressurephosphenetonometerでは,眼瞼上から眼球を圧迫した際に自覚される光視現象を応用して眼圧を測定する7).携帯型で電源が不要であり,自己測定が可能であるという特徴を有する.Impacttonometerではプローブを角膜に衝突させ,衝突時間や減速速度から眼圧を測定する(図2)8).Dynamiccontourtonometerではチップ先端に組み込まれている圧センサーにより眼圧を測定するが,先端が凹型であり,測定値は圧平眼圧計に比して角膜の性状(角膜厚など)による影響を受けにくいとされている(図3)9).(88)眼圧を連続測定する方法として,眼内レンズ10)やコンタクトレンズ11)にセンサーを内蔵した装置が開発されているが,現在のところ実用化されていない.文献1)GoldmannH,SchmidtT:UberApplanationstonometrie.Ophthalmologica134:221-242,19572)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Applanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol(Copenh)53:34-43,19753)MackayRS,MargE:Fast,automatic,electronictonome-tersbasedonanexacttheory.ActaOphthalmol37:495-507,19594)DurhamDG,BiglianoRP,MasinoJA:Pneumaticapplana-tiontonometer.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol69:1029-1047,19655)GrolmanB:Anewtonometersystem.AmJOptomArchAmAcadOptom49:646-660,19726)LuceDA:Determininginvivobiomechanicalpropertiesofthecorneawithanocularresponseanalyzer.JCataractRefractSurg31:156-162,20057)FrescoBB:Anewtonometer-thepressurephosphenetonometer:ClinicalcomparisonwithGoldmanntonome-try.Ophthalmology105:2123-2126,19988)KontiolaAI:Anewelectromechanicalmethodformea-suringintraocularpressure.DocOphthalmol93:265-276,19979)KanngiesserHE,KniestedtC,RobertYC:Dynamiccon-tourtonometry:Presentationofanewtonometer.JGlau-coma14:344-350,200510)SvedberghB,BacklundY,HokBetal:TheIOP-IOL.Aprobeintotheeye.ActaOphthalmol(Copenh)70:266-268,199211)LeonardiM,LeuenbergerP,BertrandDetal:Firststepstowardnoninvasiveintraocularpressuremonitoringwithasensingcontactlens.InvestOphthalmolVisSci45:3113-3117,2004図3Dynamiccontourtonometerの外観図2Impacttonome-terの外観☆☆☆

屈折矯正手術:ケラテクタジアに対するリボフラビン・UVA治療

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086610910-1810/08/\100/頁/JCLSPhotorefractivekeratectomy(PRK)やlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などのエキシマレーザーを用いた角膜屈折矯正手術は,その誕生からすでに20年近くが経過し,現在では有効性と安全性が認められた術式となった1,2).しかし,これらの手術での安全性が保証されるのは,手術適応を厳密に守った場合のみである.手術適応を見誤った場合に発症しうる最も重篤かつ不可逆的な合併症の一つに角膜拡張症(ケラテクタジア,keratectasia)がある.ケラテクタジアは,医原性円錐角膜ともよばれ,角膜屈折矯正手術後の角膜の前方突出を特徴とする疾患である.ケラテクタジアの発症要因は,大きくわけて二つあるとされている.一つ目は,術前に円錐角膜があったにもかかわらず,それを見逃して角膜屈折矯正手術を行ってしまった場合である.そして,二つ目は,手術時に過剰な実質切除を行ってしまったために術後の残余角膜厚が基準値を下回ってしまった場合である.いずれも,過度に脆弱となった角膜実質が眼内圧に負けて前方に突出すると考えられている.PRKやphototherapeutickera-tectomy(PTK)の術後にも発生しうるが,角膜フラップを作製することにより前二者に比べて角膜実質の深い層を切除するLASIKで最も発生しやすい.手術直後にはいったん裸眼視力が回復するが,数カ月で近視性乱視の急激な再発と進行がみられ,場合によっては術前より悪い状態になることもある.角膜形状解析では,原発性の円錐角膜に類似した特徴的な菲薄部の前方突出がみられる(図1).ケラテクタジアの治療は,円錐角膜と同様,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正である.しかし,それでは十分な視力が得られない場合には角膜移植術を行うしかないとされてきた.リボフラビン・UVA治療は,角膜実質にリボフラビン(ビタミンB2)を浸透させてから長波長紫外線(UVA)を照射することにより,角膜実質のコラーゲン線維を架橋し脆弱性を改善する方法であり,円錐角膜やケラテクタジアの治療法として開発された3,4).リボフラビンが光増感性物質として働き,紫外線を照射されることによりフリーラジカルを生じ,それがコラーゲン線維の架橋を強めると考えられている(図2).さらに,リボフラビンが紫外線を吸収することにより,前房より後方の眼組(85)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男96.ケラテクタジアに対するリボフラビン・UVA治療加藤直子南青山アイクリニック慶應義塾大学医学部眼科ケラテクタジアは医原性円錐角膜ともよばれ,円錐角膜眼に角膜屈折矯正手術を行った場合や,実質を基準値以上に切除した場合に発症する.リボフラビン・UVA治療は,角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して角膜の脆弱性を改善させる治療で,円錐角膜やケラテクタジアの進行を防止することができる点で着目されている.2リボフラビン・UVA治療による角膜架橋の効果未処置の角膜(透明)に比べ,リボフラビン・UVA治療を施した角膜(黄色)は硬度が増加していることがわかる.(文献5,Figure1より転載)1ケラテクタジア症例の角膜形状解析原発性の円錐角膜に類似した,角膜下方部の前方突出がみられる.———————————————————————-Page2662あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008織を紫外線障害から守る役割も果たすともいわれている.1990年代から基礎実験や動物実験の成果が報告されてきたのに続き,2003年に初めてヒトの円錐角膜眼での成果が報告された5).それによれば,リボフラビン・UVA治療を行うことにより,円錐角膜の進行が抑制され,症例によっては角膜屈折力の若干の減少と裸眼・矯正視力の向上が得られ,重篤な合併症は認められなかったとされている.その後,数多くの臨床調査の結果が報告されているが,2008年1月現在大きな問題点は指摘されておらず,全世界ですでに1,000例以上の施術が行われていると推測される.実際の施術の方法は,角膜上皮を直径79mmで離した後,リボフラビンを35分ごとに30分間点眼する.その後,370nmのUVAを30分間角膜実質上に照射する(図3).角膜実質のコラーゲンの架橋は,UVA光源に近い表層で強固に起こり,深層へいくに従って弱まる.また,表層から400μmまでは,紫外線の影響で角膜の構成細胞がアポトーシスになる可能性がある4)ため,角膜内皮細胞の保護を考えて,上皮を除く角膜厚が400μm以上の症例を選んで施行する必要がある4,5).筆者らは,2007年2月より南青山アイクリニックにて,円錐角膜に対するリボフラビン・UVA治療を開始している.その結果,屈折度数,角膜形状解析検査などのデータには大きな変化はみられなかったものの,コンタクトレンズ装用状況が改善する症例がみられた.他の施設からの報告と同様,重篤な合併症は現時点までは1例も経験していない.リボフラビン・UVA治療は,裸眼視力や屈折度数の大幅な改善をもたらすものではないため,進行してしまった円錐角膜やケラテクタジア眼では大きなメリットを享受できない.むしろ,前方突出が進行する前の段階での予防的な施術に意義が認められる.実際,欧米では,安全性が確認されるに伴い対象となる症例が低年齢化しており,12歳前後の症例にも行われるようになってきている.角膜屈折矯正手術後のケラテクタジアに対しても,発症してから行うよりも,危険因子をもつ症例に対して予防的に処置を行うほうが理にかなっている.そのためにも,初期の円錐角膜やケラテクタジアを確実に診断し,さらにはこれから進行する症例を正確に見分ける方法の開発が望まれる.また,すでに進行してしまった症例に対しては,角膜厚400μm以下の症例へ適応を拡大するための治療法の改良や,PRKや角膜内リングなど他の術式との組み合わせ手術などが求められるであろう.文献1)KatoN,TodaI,Hori-KomaiYetal:Five-yearoutcomeofLASIKformyopia.Ophthalmology,inpress2)AmbrosioRJr,WilsonS:LASIKvsLASEKvsPRK:advantagesandindications.SeminOphthalmol18:2-10,20033)WollensakG:Crosslinkingtreatmentofprogressivekera-toconus.CurrOpinOphthalmol17:356-360,20064)WollensakG,SpoerlE,ReberFetal:CornealendothelialcytotoxicityofRiboavin/UVAtreatmentinvitro.Oph-thalmicRes35:324-328,20035)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/Ultraviolet-A-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkera-toconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003(86)☆☆☆図3角膜に長波長紫外線を照射しているところ上皮を離し,リボフラビンを30分間点眼した後に,長波長紫外線を30分間角膜に照射する.

眼内レンズ:プリセットインジェクター

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086590910-1810/08/\100/頁/JCLS(83)石井清さいたま赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎261.プリセットインジェクタープリセットインジェクターには,foldable眼内レンズ(IOL)が,カートリッジとインジェクターを一体型にしたケースにあらかじめ装されている.本稿ではプリセットインジェクターの種類と使用方法を紹介する.図1プリセットインジェクターa:シングルピース型.b:3ピース型.c:3ピース型の先端構造の模式図.①:IOL,②:プランジャー,③:プラグ.③②①abcabc図2実際のIOL挿入装行程a:粘弾性物質をIOL全体が浸る程度に注入する.b:IOLの前方側をカートリッジ内で固定しているプラグの脱着.c上:プランジャーの押し込み,中:人差し指と中指に挟まれたスライダーを先端部へ押し進める,下:プランジャーの押し込み.———————————————————————-Page2インジェクターを用いることにより,挿入切開創の小切開化が図られ1),さらにインジェクターに装する手間と手技の煩雑さの克服と,汚染機会の減少を目指し,すでにインジェクターにあらかじめ眼内レンズ(IOL)が装されたプリセットインジェクターが登場し使用されている.FoldableIOLが装されたプリセットインジェクターは,わが国で2002年に市販が開始された2,3).現在わが国で発売されているプリセットIOLの種類は,シングルピース型と3ピース型がある.挿入行程においてインジェクター内部でIOLが折りたたまれるため,特殊な構造を有している.プランジャー先端がIOLの後方を挟み,先端の部分は取り外し可能なプラグがIOLの光学部とloopを挟んだ状態で出荷される(図1a,b,c).あらかじめセットされているため,従来の挿入方法に比べ利点がいくつかあげられる.1.カートリッジ,インジェクターへのIOL装行程が省略挿入に際して必要な行程は,①カートリッジへの粘弾性物質の充(図2a),②IOL固定用のプラグの取り外し(図2b),③プランジャーの押し込み(IOLの挿入)である(図2c).特にワンピース型は,プラグ取り外し後の挿入が1行程である点が,後述の3ピース型IOLより簡略化されているところである.2.準備,器具の簡略化IOLとケースが一体型であるため,①IOLをケースから取り出す鑷子,②インジェクター,③カートリッジが不要となる.特に①,②は通常使用後,洗浄・滅菌が必要であるが,不必要となれば,器具の保守管理上非常に有用であると考えられる.3.汚染機会の減少以前小松ら4)は種々のfoldableIOLを鑷子およびインジェクターで挿入操作を行った場合の菌の持ち込み(Staphylococcusepidermidis)をinvitroにて検討を行い,インジェクターのほうが,鑷子による挿入よりも菌の持ち込みが少ないと報告している.IOLが創口に直接しないのが最大の理由と思われる.プリセットインジェクターはIOLが外界に接するのは眼内であるため,コンタミネーションはさらに最小限であると考えられる.4.その他インジェクターにIOL度数がラベリングされているため,一目でIOL度数の確認が容易である(図1a,b).インジェクター先端は従来のカートリッジと同様の設計であるため,切開創の変更は必要ない.現在のfoldableIOLがさまざまな仕様,機能を備え,さらには2.0mm程度の極小切開に対応してきたように5),今後はプリセットインジェクターも同様に種類が増加し,さまざまな症例選択に対応可能となると考えられる.文献1)KassarBS,VarnellED:EectofPMMAandsiliconelensmaterialsonnormalrabbitcornealendothelium:aninvitrostudy.JAmIntraoculImplantSoc6:344-346,19802)清水公也:プリセットIOLインジェクター.IOL&RS16:79-81,20023)清水公也:シリコーン眼内レンズの最新情報.あたらしい眼科20:571-575,20034)小松真理:新しいフォールダブルIOLの臨床評価インジェクター.IOL&RS17:259-262,20035)石井清:極小切開用眼内レンズ.IOL&RS21:540-545,2007図33ピース型IOLの挿入従来のインジェクターと同様なIOL挿入が可能.

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(5)-Descemet膜破裂例への処方-

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086570910-1810/08/\100/頁/JCLS円錐角膜のDescemet膜破裂例とオルソケラトロジー東京医科歯科大学附属病院円錐角膜外来では,円錐角膜のDescemet膜破裂例に対して,圧迫眼帯や前房中へのガス注入といった治療方法をとらず,ただちにハードコンタクトレンズ(HCL)処方を行い,変形した角膜に対してオルソケラトロジーを行っている(図1).いわば,圧迫眼帯の代わりに,直径の大きなHCLを用いて変形した角膜形状を整えるギプスのようなイメージである.筆者らは,断裂したり伸びきった膠原線維が修復に向かうこの時期を,角膜形状改善の大チャンスととらえており,角膜形状をできるだけ,正常に近い状態で固定することを目的にHCLを装用させている.酸素の供給量も閉瞼を強いる圧迫眼帯に比べて良好であり,Desce-met膜の断裂部位は大きさにもよるが,ほぼ2~3週間ほどで閉鎖し,浮腫も軽減されてゆく.HCL単独か,ピギーバックレンズか図2は,近医で圧迫眼帯を1週間ほど続けた後,浮腫(81)がひどくなってきたとのことで当院へ紹介された症例である.角膜実質が浮腫で真っ白に混濁して,角膜形状は圧迫眼帯によって肉眼でも,はっきりとわかるほど圧迫扁平化している.筆者らは基本的にピギーバックレンズを用いてHCLから角膜局所への圧力を分散するようにしているが,こうした扁平化した角膜形状では,HCLの下に装用させる使い捨てSCLの選択に苦慮し,なかなかうまくフィットするキャリアーレンズがみつからないことが多い.本症例に対してはオフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏をレンズ内面に塗布した後,HCL単独装着させたところ,翌日から浮腫は改善しはじめ,最終的に角膜形状は球面化した.Descemet膜破裂例に用いるHCL当院ではDescemet膜破裂例に対し,円錐角膜形状をコニコイド曲線に近似させて内面デザインに反映して切削した直径9.6mmのTMDコニレンズなる非球面HCLを用いている.9.6mmの直径は相当大きいが,Desce-黒石川誠佐野研二東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1円錐角膜のDescemet膜破裂例に対するピギーバックレンズ処方圧迫眼帯の代わりに,直径の大きなHCLを用いて変形した角膜形状を整える.断裂したり,伸びきった膠原線維が修復に向かうこの時期を角膜形状改善の大チャンスと筆者らはとらえている.図2圧迫眼帯を1週間装着後,当院外来へ送られてきた症例本症例に対してはタリビッドR眼軟膏をレンズ内面に塗布した後,HCL単独装着させたところ(下段),翌日から浮腫は改善しはじめた.———————————————————————-Page2658あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(00)met膜破裂により飛び出した円錐角膜を押さえ込むには適当なレンズである.本レンズの代わりに非球面デザインのメニコンZを代用しても十分対応できる.直径は大きめにオーダーできるが,製作範囲が限られているので注意されたい.また,どうしても角膜にHCLが載らないときにはメニコンE1ZやローズKを試してもよい.また,数々の円錐角膜用HCLをデザインしてきた,サンコンタクトレンズに相談するのもよいかと思う.ィッティングチック基本的にHCLは3点接触法で処方する.本連載の,「円錐角膜へのHCL処方(その2)─HCL単独処方のフィッティングフィロソフィー─」を読んでいただきたい.注意するべき点は,角膜形状の変化によってHCLのベースカーブを少しずつ大きくしていくことである.はじめは曲率の小さなHCLしかうまく載らなかった症例でも,しだいに眼圧が落ち着き,角膜形状も球面化して大きなベースカーブのレンズがフィットしてくれるようになる.最終的な角膜形状はかなり球面化すると思ってよいが,もちろん個々の症例によって差がみられる.図3はDescemet膜破裂部位が中央部からかなりずれている症例で,治癒後も角膜形状は不正である.図4は破裂部位が中央部であり,治癒後の角膜形状はかなり整っている.図5になると,破裂部が中央部でさらに大きく,最終的な角膜形状はさらに整っている.このように,Descemet膜の破裂部位が大きく中央に位置しているほど,角膜形状の球面化は良好な傾向が認められるが,一方で治癒後の混濁も大きく中央部に位置することになる.以上,5回にわたって,東京医科歯科大学円錐角膜外来でのHCL処方のこだわりについて,私見を交えながら解説してきた.読者のみなさんの診療の一助になれば幸甚である.3Descemet膜破裂部位が中央部からかなりずれている症例治癒後も角膜形状はやや不正である.図4Descemet膜破裂部位が中央部にある症例治癒後の角膜形状はかなり整っている.図5Descemet膜破裂部位が中央部でさらに大きな症例最終的な角膜形状は非常に整っている.Descemet膜の破裂部位が大きく中央に位置しているほど,角膜形状の球面化は良好な傾向が認められるが,一方で治癒後の混濁も大きく中央部に位置することになる.

写真:抗癌薬TS-1Rによる角膜上皮障害

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086550910-1810/08/\100/頁/JCLS(79)吉田絢子国立病院機構東京医療センター感覚器センター写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦288.抗癌薬TS-1Rによる角膜上皮障害図2図1のシェーマ①:縞状の角膜上皮障害.②:比較的上皮障害の軽い部分.②①図1TS1Rによる角膜上皮障害(66歳,男性)TS-1R内服開始後7カ月のフルオレセイン染色像.角膜輪部から中央部に向かって縞状に染色されている.特に上方に障害が強く,瞼裂部に一致する中央やや下方の障害は軽度である.図4角膜移植眼の上皮治癒過程のvortexパターン輪部から渦巻状に染色されている.図3図1の症例の内服中止後1カ月目上皮障害は改善してきており,偽樹枝状を呈している.———————————————————————-Page2656あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(00)図1は,1カ月ほど前から生じた両眼の流涙と視力障害の訴えで受診した症例である.初診時,写真のような渦巻き状の角膜上皮障害と涙小管狭窄を両眼に呈しており,視力も右眼0.6,左眼0.5と低下していた.いわゆるハリケーン角膜炎の状態であり,点眼薬による薬剤起因性角膜上皮障害によくみられるパターンである.しかし,この症例では点眼薬の使用歴はなく,しばらくは原因不明で診断がつかなかった.その後,詳細な問診により,胃癌切除術後の化学療法としてTS-1Rの内服を行っていることが明らかとなった.外科担当医や本人と相談のうえ,TS-1Rの化学療法は継続し,眼科で経過をみることにした.経過中一時視力は両眼(0.3)まで低下したが,TS-1R内服中止とともに上皮障害は改善し,視力も右眼0.8,左眼0.9まで回復した(図3).TS-1Rとは,5-フルオロウルシル(5-FU)のプロドラッグであるテガフール(FT)に2つのモジュレーター,ギメラシル(CDHP)とオテラシルカリウム(Oxo)が配合された経口抗悪性腫瘍薬である.経口投与後の抗腫瘍効果はFTから体内で徐々に変換された5-FUの活性代謝物である5-フルオロヌクレオチドに基づいている.CDHPは5-FUの代謝酵素を選択的に阻害(可逆的)することによって,FTより派生する5-FU濃度を上昇させ抗腫瘍効果を増強する.Oxoは経口投与による消化管障害を軽減すると考えられている.TS-1Rは通常4週間投与後2週間休薬するのを1クールとして使用される.1999年発売時は胃癌のみの適応であったがその後拡大し,結腸・直腸癌,頭頸部癌,非小細胞肺癌,手術不能または再発乳癌,膵癌,胆道癌などに幅広く用いられるようになってきている.TS-1Rの眼副作用に関する報告はいまだ少ないが,最近,角膜上皮障害が起こりうることが知られてきている1,2).一般にTS-1Rによる角膜上皮障害は,内服開始後数カ月で両眼性に発症し,中等度の視力低下をきたす例が多いようである.角膜輪部から中央部に向かって上皮障害は進行し,重篤な症例では角膜中央部にびらんを形成する.充血はほとんど伴わない.TS-1Rの角膜上皮障害の頻度や発現機序の詳細については不明の点が多いが,涙液中の5-FUにより角膜輪部幹細胞に何らかの障害が起こっている可能性が示唆される.TS-1Rの投与によって涙小管狭窄や鼻涙管閉塞が生じるという報告もあり,増悪因子として働いている可能性もある3).鑑別として,図4に示すような上皮びらんの治癒過程,角膜ヘルペスによる樹枝状病変や点眼薬による角膜上皮障害などが考えられる.経口剤であるために,患者は病院ではなくクリニックを受診することがある.この場合には問診でTS-1Rを服用していることを聞き出すことが重要であり,知っていないと診断できない疾患である.治療としては,本質的にはTS-1R内服中止しかなく,内服中止により眼症状は改善する.中止が無理な場合には人工涙液やヒアルロン酸点眼など上皮障害への対症療法を行うしかないが効果は少ない.涙点プラグの使用は涙液中の5-FU濃度を上昇させる可能性があるので,勧められないと筆者は考えている.文献1)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤S-1による角膜障害の3例.日眼会誌110:919-923,20062)細谷友雅,外園千恵,稲富勉ほか:抗癌薬TS-1Rの全身投与が原因と考えられた角膜上皮障害.臨眼61:969-973,20073)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnasolacrimalblockage:anocularsideeectassociatedwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmol140:325-327,2005

緑内障検査とOCT検査機器の使用経験

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS業貿易),HRT(Heidelbergretinatomography)II(Heidelberg),GDxVcc(CarlZeissMeditec)を施行し,狭隅角の患者にはUBM(超音波生体顕微鏡)(TOMEYCORPORATION)を施行し,それに加えてOCTを撮影している.OCT3000では検査可能な被検者の最小瞳孔径が3.2mmとなったため,無散瞳でも検査可能ではあるが他の網膜疾患同様に狭隅角眼を除いて散瞳下での撮影を行っている.緑内障診断プログラムとしては,視神経乳頭解析(opticnerveheadanalysis),網膜神経線維層厚(RNFLthickness)およびRNFL厚マップ(RNFLthicknessmap)がある.そのなかで筆者らはFastRNFLthick-ness3.4を使用している.この解析プログラムは,乳頭中心から3.4mmの位置での視神経乳頭周囲のサークルスキャンによって得られ,視神経乳頭の耳側,上方,鼻側,下方の順で網膜神経線維の厚みが展開され表示される.RNFLthicknessaverage解析を使用すると,被検者の年齢に相当する正常者のRNFL厚の平均値との比較により視覚的に正常範囲内・境界域・異常を判別できる.黄斑部のOCTの撮影にも同様にいえることであるが,固視が不良である患者の画像を撮影しようとすると解析に耐えうる画像が時として得られないことがある.また,再現性をみるために複数回の撮影を終えていざ解析をしてみると案外再現性の低い印象をもつ結果しか得られないこともあるのが難点と考えられる.そのため,前述の他の機器の解析結果を参考にすることもある.こはじめに2006年に改訂された緑内障診療ガイドライン(第2版)では,緑内障を緑内障性視神経症として定義している.また,補足資料として緑内障性視神経乳頭・網膜神経線維層変化判定ガイドラインが追加された.このことから,緑内障の診断に関して視野の結果とそれに一致した視神経乳頭所見はもとより網膜神経線維層の変化をいかに的確に捉えて,緑内障性視神経症を確実に検出するかがよりいっそう重要とされる.熟練した緑内障専門医の主観的判定に頼らずとも,多様な診断機器を駆使し,その客観的なデータに基づいて一般の眼科診療医でも客観的に確定診断を下せる状況を整備することが望ましい.光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)は網膜疾患を中心に診断する目的でOCT2000(CarlZeissMeditec)が導入されたが,より優れた画質と黄斑部網膜厚,視神経乳頭周囲線形線維厚,視神経乳頭形状解析などの緑内障診断に対応できる解析ソフトが標準装備されたOCT3000が普及した.さらに最近では,今後のOCT診断装置の中心とも目されるスペクトラルドメインが登場し,業界各社がより精度を高めるべくしのぎを削っているようである.今回はOCTのバイヤーガイドの一端に緑内障検査とOCT検査機器の使用経験を書かせていただく.当科では来院した緑内障の初診患者には視力・眼圧および一般的な検眼鏡検査に加え,単純眼底写真(広角),ステレオ眼底写真,ペンタカム(オクルス社製,中央産(71)647HsashTaedaauhsaSuyama9208641131特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):647654,2008緑内障検査とOCT検査機器の使用経験ExperienceofOpticalCoherenceTomographyinGlaucomaExamination武田久*杉山和久*———————————————————————-Page2648あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(72)の点ではOCT単独での診断は他の診断機器同様あくまでも診断補助としての有効性があるが,経過観察装置としては結果のばらつきを十分に考慮する必要がある.症例〔症例1〕患者は37歳,男性.アトピー性皮膚炎でステロイドの皮膚軟膏の使用に伴う右眼ステロイド緑内障疑いで当院を紹介受診.初診時右眼眼圧は45mmHgで,精査後に右眼のトラベクロトミーを施行し,眼圧は点眼のみで1315mmHgに安定した.その際の術前検査および術後3カ月の検査の比較をした.眼底写真では明らかな視神経乳頭陥凹は認めず,網膜神経線維層欠損(nerveberlayerdefect:NFLD)も図1初診時の右眼眼底写真全周のリムは保たれており,明らかなNFLDや乳頭出血は認めない.図2術前(a)および術後2カ月(b)のHRTII画像a:術前のHRTII画像では,高眼圧により視神経乳頭陥凹の拡大があるため,鼻側に正常範囲外の判定(印),耳下側で境界域の判定となっている.b:術後2カ月のHRTII画像では鼻側,鼻上側で境界域の判定となっている.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008649(73)図3初診時(a)および術後2カ月(b)のGDxVcc画像a:初診時のGDxVcc画像では鼻上側および耳下側に正常範囲外の判定(矢印)となっている.b:術後2カ月のGDxVcc画像では上下象限で正常範囲外の判定.初診時に比較してややRNFL圧の菲薄化の悪化が認められる(赤の円の部分).ab———————————————————————-Page4650あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(74)図4初診時(a)および術後2カ月(b)のStratusOCT画像a:初診時のStratusOCT画像では鼻上側に正常範囲外の判定,それ以外の象限では境界域の判定となっている.b:術後2カ月のStratusOCT画像では上下象限で正常範囲外の判定.初診時に比較してややRNFL厚の菲薄化の悪化が認められる.ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008651(75)は上方から鼻上側および下方のRNFL厚の菲薄化が示された(図3a).StratusOCTの結果は右眼で上方のRNFL厚の菲薄化が示され,他の診断補助装置の結果と同様であった(図4a).約3カ月後の各検査の結果を比認めなかった(図1).術前のHRTIIではrimarea,rimvolumeおよびmeanRNFLthicknessが正常範囲外と判断され,Moorelds解析では鼻側が正常範囲外,耳下側が境界域と判断されている(図2a).GDxVccで図5初診時(a)および術後2カ月(b)のHamphrey静的視野検査結果a:初診時のHamphrey静的視野検査結果では高眼圧のためか全領域での感度低下を認める.b:術後2カ月のHamphrey静的視野検査結果では上下の鼻側比較暗点を認める.初診時に比較して視野の改善が認められる.ab図6初診時(a)および術後2カ月(b)のGoldmann動的視野検査結果a:初診時のGoldmann動的視野検査結果では鼻下側および耳下側で感度低下を認める(白矢印).b:術後2カ月のHamphrey静的視野検査結果では初診時同様に鼻下側および耳下側で感度低下を認め(白矢印),さらに鼻上側に感度低下域(黒矢印)を認める.ab———————————————————————-Page6652あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008較したところ,HRTIIの結果は初診時と比較して軽快しており,Moorelds解析でも正常範囲外の判定は認めなかった(図2b).それに対して,GDxVccおよびStratusOCTの結果は初診時に比較して視神経乳頭上方および下方のRNFL厚の菲薄化がより進行している結果となった(図3b,4b).視野検査はHamphrey静的視野結果を術前と術後で比較したところ術前の高眼圧の影響もあるせいか,術後で改善している(図5a,b)が,Goldmann動的視野では術前には認めなかった絶対暗点や上方の視野の感度低下領域の出現が認められ(図6a,b),StratusOCTおよびGDxVccの時間経過の結果を反映していると考えられた.StratusOCTに加えて現在当院外来にはTOPCON社製の3DOCT-1000(3Dスキャン)があり,黄斑部疾患(76)図7眼底写真耳上側および耳下側にNFLDを認める(矢印).図8HRTIIの画像耳上側および耳下側のリムの菲薄化を認める.図9Hamphrey静的視野結果下方に視野異常が強く,上方視野ではわずかに閾値低下を認める.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008653(77)のみならず緑内障症例の視神経乳頭およびNFLDを含むアーケード内の神経線維層の解析を行っている.撮影する固視位置の違いでDisk(視神経乳頭部),Fovea(中心窩)およびCenter(老人保健法の位置)と設定区分があるが,視神経乳頭の観察や乳頭周囲の神経線維層厚の測定はDiskで,NFLDの状態はFoveaまたはCenterで行い解析に利用している.〔症例2〕つぎに3Dスキャンで撮影された症例を呈示する.患者は58歳,女性.眼底写真上(図7)で耳上側および耳下側にNFLDを認める正常眼圧緑内障である.この症例のHRTII(図8)およびHamphrey静的視野結果(図9)とGoldmann動的視野(図10)と3Dスキャン(図11)を呈示する.眼底写真上のNFLDに一致してHRTIIで耳上側および耳下側のリムの菲薄化を認める.Hamphrey静的視野で下方に視野異常が強く,上方視野ではわずかに閾値低下を認める(図9).Gold-図10Goldmann動的視野結果下方視野に鼻側階段を認め,上方視野では中心視野に感度低下領域の出現が認められる.図113Dスキャンの画像a:3Dスキャンのディスプレイ画像.b:網膜断面でNFLDが明瞭に観察でき(赤の楕円),網膜面でもNFLDの走行が描出されている(矢印).c:NFLDの走行が黄斑付近まで明瞭に描出されている(矢印).d:NFLD(赤の楕円)や中心窩が立体的に描出されている.acbd———————————————————————-Page8654あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(78)mann動的視野でも下方視野に鼻側階段を認め,上方視野では中心視野に感度低下領域の出現が認められる(図10).NFLDの同部位の3Dスキャンでは得られた画像をマウスでいろいろな方向から確認できるためNFLDの位置や深さまで確認できる.図11aは3Dスキャンの解析結果の画面である.立体解析画像に注目すると図11bに示すようにNFLDの部位を網膜断面で観察したところNFLDが明瞭に認められ(赤の楕円),同一画像で網膜面に注目するとNFLDの走行が立体的に描出されている(矢印).図11cのように観察する方向を変えてみると,NFLDが黄斑部付近まで描出されている(矢印).さらに図11dのようにNFLD(赤の楕円)同様に中心窩の様子も明瞭に観察できる.また,モードを変更することでよりNFLDを鮮明にすることも可能である.この製品には緑内障診断ソフトなどの充実が今後期待される.