‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス55.赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(上級編)

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716410910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症の線維血管性増殖膜は,通常後部硝子体皮質前ポケットの辺縁に沿って形成されるので,視神経乳頭から血管アーケードに沿った形状を呈することが多い.しかし,なかには赤道部近傍に線維血管性増殖膜を有する症例に遭遇することがある1,2).赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症の臨床的特徴このような症例は,一般に中間周辺部から赤道部にかけて後部硝子体剥離はまったく生じておらず,硝子体が広範囲かつ面状に網膜と癒着している.軽症例では,網膜血管に沿って島状の増殖膜が孤立性に認められるが,重症例では円周状に増殖膜が融合する.このような症例では,往々にして眼底後極部の増殖性変化が軽度で,一見硝子体手術の難易度が低いと判断しがちであるが,実際には後部硝子体剥離作製が困難で,かつ赤道部の増殖膜の癒着も強固であり,手術の難易度はきわめて高い(91)(図1a,b).術後にも,硝子体再出血や血管新生緑内障をきたす頻度が高く注意が必要である.赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術のポイント初回硝子体手術時に確実な増殖膜処理と人工的後部硝子体剥離作製が必須であるが,周辺部の牽引が残存する場合には輪状締結術が有効な場合もある1).増殖膜処理時の視認性の確保がむずかしく,十分な散瞳を得ておく必要がある.また,周辺部の増殖膜を確実に処理するためには水晶体を摘出したほうが有利である.増殖膜はしばしば網膜と面状の強固な癒着を形成しており,一手法での膜処理は困難なことが多く,適宜双手法を併用する.後合併症のと対このような症例は,見かけ上網膜症の活動性が高くなくても,術後に再出血や血管新生緑内障を併発することが多い.初回手術時に十分な眼内光凝固を施行することが重要であるが,必要に応じてシリコーンオイルタンポナーデも考慮する.文献1)HanDP,PulidoJS,MielerWFetal:Vitrectomyforpro-liferativediabeticretinopathywithsevereequatorialbrovascularproliferation.AmJOphthalmol119:563-570,19952)澤浩,池田恒彦:前部硝子体線維血管性増殖と赤道部増殖:病態と対処法.眼科手術11:335-341,1998硝子体手術のンポイントアドイ●連載赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症例a:後極部眼底写真.活動性の低下した増殖膜を後極に認め,一見手術の難易度は低いと判断しがちである.b:耳側周辺部眼底写真.ほぼ全周にわたって赤道部に円周方向の増殖膜を認める.後部硝子体剥離は生じておらず,膜処理の難易度は高い.ab

眼科医のための先端医療84.日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特徴

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716370910-1810/07/\100/頁/JCLS加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は先進国,特に西欧諸国の失明の主要な原因で,全世界に約2,500~3,000万人の患者が存在し,アメリカ合衆国だけでも約1,700万人の患者が存在し,毎年約15.5万人が新たに罹患しています.特にアメリカ合衆国では約116,000人がすでに法律的に失明し,毎年約1,600人が新規に失明しています.欧米人(白色人種)はAMDに罹患した患者のほとんどが,地図状萎縮といわれるdrytypeのAMDに罹患し,10%が,より視力予後の悪い,脈絡膜新生血管(choroidalneovasculari-zation:CNV)を伴うwettypeのAMDに罹患します1).それに対して,日本人は多くがCNVを伴うwettypeのAMDに罹患します.日本人のAMDの疫学調査(久山町スタディ)では,wettypeの罹患率は0.67%,drytypeの罹患率は0.2%と全人口のうち約1%弱にAMDの患者を認めました.AMDの眼底所見における危険因子に関しても欧米人ではドルーゼン(特に軟性)の集積が重要な危険因子であるのに対し,日本人ではドルーゼンの集積(18%)よりも漿液性網膜色素上皮離(58%)のほうがより主要な危険因子となっています2).このように,欧米人と日本人においては一口にAMDといってもその表現型に大きな違いをみるわけです.世界の加齢黄斑変性の遺伝的特家族や双児を対象とした研究などにより,以前からAMDは網膜視細胞,網膜色素上皮,Bruch膜が環境因子に加えて遺伝的異常にも影響を受けて発症する疾患と考えられてきました1).近年の統計的な解析手法の進歩により,染色体上の1番長腕31(1q31),3番短碗13(3p13),4番長腕32(4q32),9番長腕33(9q33),10番長腕26(10q26)が遺伝的危険因子の候補部位とされ3),その後の研究で,そのなかでも特に,1q31と10q26にAMDとの強い相関がみられることがわかり,ついに2005年,1q31に位置し,補体経路に関与するcomplementfactorH(CFH)のY402H遺伝子多型が白色人種のAMDの危険因子として報告されました4).この事実は,現在までdrytypeとwettype双方のAMDにおいて12以上の異なった白色人種で確認されています.続いて2006年DeWanらが香港人において10q26に位置し,humanhigh-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1)のプロモーター部位に存在するHTRA1-512(HTRA1の512b上流)とその近傍のLOC387715の一塩基多型をwettypeのAMDの危険因子として報告し5),ほぼ同時期にYangらは,白色人種でも同様の事実を確認し6),加えて,同遺伝子多型が地図状萎縮の危険因子でもあることを報告しました.日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特一方,日本人においてCFHY402H遺伝子多型は,リスクアレル(C)をもつホモ個体(2%),ヘテロ個体(9%)はわずかにしか存在せず,AMDとの関連性は証明されませんでしたが,2007年,筆者らは,日本人においてもHTRA1-512とLOC387715の遺伝子多型をwettypeのAMDの危険因子として報告し7),それ以降,多施設で同様の報告が続いています.Humanhigh-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1)HTRA1は10q26に存在するheatshockserinepro-teasesの一つで,1~4まで確認されているHTRAfamilyの一員です.細胞ストレスで惹起され,発生段階でtransforminggrowthfactor(TGF)bのシグナルを阻害し,妊娠および卵巣や子宮の腫瘍にも関与が示唆されており,その蛋白は比較的ユビキタスに,全身に発現しています5,7).ヒトとマウスの網膜への発現も確認されていますが,眼の発生や機能との関係はほとんど知られていません.DeWanらはHTRA1-512の遺伝子変異がHTRA1の転写活性を増強するとも報告しています5)が,それが,網膜および脈絡膜でどのような生理活性をもつかは不明です.(87)シリー第84回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(東京医療センター感覚器センター)日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特徴———————————————————————-Page21638あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007まとめと今後も,たとえば,さまざまな施設で行われているDNAチップを用いた新しい原因遺伝子の探索法の導入などにより,CFHY402H,HTRA1-512遺伝子多型に続き,新たな遺伝的危険因子が報告される可能性は高いと思われます.それは,たとえば,早期の遺伝子診断により疾患の発生を予測し,経過観察を行うことにより,適切な時期での治療が可能になるなどのメリットをわれわれに供与することになるかも知れません.同様にまた,それはAMDという難治性の疾患に対して,疾患原因遺伝子に対する遺伝子治療など,新たな治療法の可能性も切り開くことになるかも知れません.余談になりますが,CFHに続いて,factorB(BF)やcomplementcomponent2および3(C2,C3)などの補体経路の諸因子がAMDに関与しているという報告を受けて,筆者らの研究施設では,遺伝的に黄斑部にドルーゼンが集積し,drytypeのAMDに類似した病態を起こすカニクイザルに対し,霊長類において補体経路(C3)を,特異的に抑制する薬剤を硝子体に投与し,その病態に対する影響を評価中です.文献1)SchollHP,FleckensteinM,CharbelIssaPetal:Anupdateonthegeneticsofage-relatedmaculardegenera-tion.MolVis13:196-205,20072)UyamaM,TakahashiK,IdaNetal:ThesecondeyeofJapanesepatientswithunilateralexudativeagerelatedmaculardegeneration.BrJOphthalmol84:1018-1023,20003)MajewskiJ,SchultzDW,WeleberRGetal:Age-relatedmaculardegeneration─agenomescaninextendedfami-lies.AmJHumGenet73:540-550,20034)KleinRJ,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.Sci-ence308:385-389,20055)DewanA,LiuM,HartmanSetal:HTRA1promoterpolymorphisminwetage-relatedmaculardegeneration.Science314:989-992,20066)YangZ,CampNJ,SunHetal:AvariantoftheHTRA1geneincreasessusceptibilitytoage-relatedmaculardegeneration.Science314:992-993,20067)YoshidaT,DeWanA,ZhangHetal:HTRA1promoterpolymorphismpredisposesJapanesetoage-relatedmacu-lardegeneration.MolVis13:545-548,2007(88)白色人種Drytype>Wettype日本人Drytype<Wettype表現型ドルーゼンの形成を認めることが多く,地図状萎縮(geographicatrophy:GA)をきたすdrytypeのAMD患者が多い.ドルーゼンが少ないもしくはまったくない“wet”typeAMDに罹患する.ドルーゼンは脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)発生の中等度リスク(18%)でしかないが,漿液性網膜色素上皮離は高いリスクである(58%).民族によって,表現型に加え,遺伝的リスクも大きな違いがある.ComplementfactorH(CFH)Y402H遺伝子多型と加齢黄斑変性(AMD)CFHY402H遺伝子多型とAMD=地図状萎縮(GA)および脈絡膜新生血管(CNV)との関連が12以上の異なった白色人種で示されている.CFHY402H遺伝子多型とAMDの関連性は証明されず,リスクアレル(C)をもつホモ(2%),ヘテロ(9%)はわずかにしか存在しなかった.Humanhigh-temperaturerequire-mentfactorA1(HTRA1)近傍のHTRA1-512およびLOC387715遺伝子多型と加齢黄斑変性(AMD)HTRA1のプロモーター部位に存在するHTRA1-512とその近傍のLOC387715の一塩基多型がwettype(CNV),drytype(GA)のAMDの危険因子として報告された.HTRA1のプロモーター部位に存在するHTRA1-512とその近傍のLOC387715の一塩基多型がwettype(CNV)のAMDの危険因子として報告された.図1加齢黄斑変性(AMD)の表現型と遺伝的リスク<complementfactorH(CFH)1q32およびhumanhightemperaturerequirementfactorA1(HTRA1512)10q26>***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071639(89)☆☆☆■「日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特徴」を読んで加齢黄斑変性のに的に本文にるよに人と日本人で(表現)遺伝るとま特に人で遺伝型と加齢黄斑変性ののに日本人で遺伝と加齢黄斑変性とののよとま加齢黄斑変性とのる遺伝のとま現まで遺伝にのののまま遺伝ま遺伝と遺伝けでのにるのと人まの人に遺伝「遺伝にびとる世のにのでにおまでの性る性る」とま本でる()まに「遺伝によるの」のので現吉田統彦をにるによる加齢黄斑変性のにると遺伝の性のとに遺伝にとまののでのるののよで坂本泰二

新しい治療と検査シリーズ177.開放隅角緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716350910-1810/07/\100/頁/JCLS条件はスポットサイズ400μm(固定),照射時間は3nsec(固定),照射出力は0.8mJから開始し,わずかに気泡が生じる最小の出力とする.照射範囲は隅角半周照射(50~60発)の報告が多いが,近年は隅角全周照射(100~120発)の報告も散見される.当施設でも隅角半周照射と全周照射で眼圧下降効果の比較検討を行ったが全周照射のほうが優れており3),現在は全周照射で施行している(表1).術後は炎症による眼圧上昇を防ぐ目的で,非ステロイド性消炎剤を1週間点眼する.合併症は術後一過性の眼圧上昇が生じることがあるが,特に問題になる症例は経験したことはない.効果の判定時期は術後1~3カ月に行う.1カ月後に眼圧が下降しない症例も2~3カ月後に徐々に眼圧が下降する症例を経験する.有効率は約70~80%で,無効例も約20~30%存在するが術前の予測は困難である.このため効果が出現するまで最低でも1カ月程度は要するので,緑内障の末期で眼圧が高い症例は適応から除外したほうがいい.術後成績はアルゴンレーザーとほぼ同等との報告が多い.SLTの術後成績を表2にまとめた.再照射に関しては,初回治療で有効であった症例のみに限定している.なお,いたずらに再照射をして手術の時期を逃さないことも肝要である.新しい治療と検ーズ(85)バックグラウンド開放隅角緑内障に対するレーザー線維柱帯形成術は1979年のアルゴンレーザーが最初である1).眼圧下降機序としては線維柱帯の熱凝固による瘢痕形成,収縮による線維柱帯組織間隙の開大に伴う房水流出の増加と考えられている.合併症としては約30~50%の症例で周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)をきたすことがあり,反復照射は逆に眼圧レベルを上昇する可能性があった.術後成績は1年で約70%,5年で約50%が有効とされており年数が経過するごとに低下する.新しい治療法1995年になり線維柱帯組織の破壊を伴わない新しいレーザー治療である選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が開発された2).Qスイッチ半波長Nd:YAGレーザー(波長:532nm)を用いることで線維柱帯の色素顆粒をもつ細胞のみに選択的に作用し,線維柱帯の房水流出率を改善する治療法である.線維柱帯の熱変性やSchlemm管の破壊をきたさないことが特長で,理論上くり返し照射可能と考えられている.奏効機序は不明な点が多いが,レーザーによる炎症反応の過程で線維柱帯細胞が活性化し房水流出が増加することが想定されている.治療の実際SLTには専用のレーザー装置が必要である.最近はYAGレーザーと機能を一体化したものもある.治療の実際は,術直後の眼圧上昇を抑える目的でアプラクロニジンを照射1時間前と直前に点眼し,点眼麻酔後にGoldmann三面鏡や隅角鏡を用いて線維柱帯幅全体にスポット間隔を空けずに重ならないように照射する.照射177.開放隅角緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術プレゼンテーション:菅野誠山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野コメント:千原悦夫千原眼科表1SLTの照射条件照射部位線維柱帯幅全体スポット間隔を空けずに重ならないように照射スポットサイズ400μm(固定)照射時間3nec(固定)出力0.8mJから開始しわずかに気泡が生じる最小出力照射範囲全周(360°)照射数100~120発———————————————————————-Page21636あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007本方法の利点SLTの利点はレーザー照射による線維柱帯組織の破壊を伴わない点である.このため,術後PAS形成などの合併症もなく,くり返し照射できる点が優れている.効果としては,点眼薬1本分で永続的な効果はないが,点眼コンプライアンスの悪い症例や点眼薬アレルギーのある症例には,積極的に考慮していいと考えられる.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma.Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)LatinaM,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmesh-workcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinter-actions.ExpEyeRes60:359-371,19953)菅野誠,永沢倫,鈴木理郎ほか:照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.臨眼61:1033-1037,2007(86)☆☆☆表2SLTの成績表照射野治菅野菅野ののののの文献本方法に対するコメント隅角に対するレーザー光凝固は1970年の初め頃線維柱帯(TM)を焼灼して眼圧を上げ,実験的緑内障を誘発する手段であったが,1973年KrasnovがTMにレーザーで開口すると眼圧が下がることを報告し,1979年Wiseらは開口ではなくアルゴンレーザー凝固によりTMを収縮させれば房水透過性が向上し,眼圧が下がることを発表した(argonlasertrabeculo-plasty:ALT).ALTは眼圧下降,点眼薬数の減少や日内変動の縮小に寄与することが多くの追試によって確認されたが,治療後眼圧が一過性に上昇すること,組織学的にTMに凝固瘢痕や周辺虹彩前癒着(PAS)が形成され,眼圧下降効果が長期的に減弱することが問題となった.選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は菅野先生が記載されているように選択的に色素を含む細胞に作用し,ALTより組織破壊が少なく,くり返し凝固治療ができるという長所がある.しかしながら,眼圧の下降効果はプロスタグランジン剤1剤とほぼ同等で,効果は持続性がなく次第に減衰する.したがって,現在のSLTの適応は,薬剤副作用によって点眼治療が困難な人,点眼のコンプライアンスが悪い人などに限られると考えてよいであろう.

眼感染症:エビデンスに基づく点眼薬の使い分け

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716310910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに細菌性眼感染症の多くは,臨床所見と塗抹標本のグラム染色結果により起因菌推定と点眼薬選択が可能であるが,臨床の現場ではほとんど行われていない.この理由としては,①幅広い抗菌力を有するキノロン点眼薬が汎用されていること,②診療中に行うグラム染色が煩雑で熟練が必要であることがあげられる.しかし,有効な点眼薬も検査を行わずに長期集中的に使用されると耐性菌出現は避けることができない.ここでは,日常診療で使用されている市販点眼薬の主要な角膜炎起因菌に対するpostantibioticbactericidaleect(PABE)を測定した砂田ら1)のデータをエビデンスとして菌種・菌群別に対する市販点眼薬の有効性を検証するが紙面の都合上,実験の詳細は砂田らの論文を参照していただきたい.また,PABEとは,細菌に抗菌薬を短時間接触させた後,抗菌薬を取り去っても持続される殺菌効果を意味する.PABE測定法の概要1.対象菌株2003年1月から12月に施行された感染性角膜炎サーベイランスに参加した24施設において分離された133株のうち,分離頻度の低い菌および感受性測定困難な菌を除いた9菌種,計93株(表1)を対象とした.2.測定市販抗菌点眼薬スルベニシリン(SBPC),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB),ミクロノマイシン(MCR),クロラムフェニコール/コリスチン(CP/CL),エリスロマイシン/コリスチン(EM/CL),レボフロキサシン(LVFX)およびガチフロキサシン(GFLX)の8種類の市販点眼薬を用いた.3.PABE測定法一定高濃度の菌液10μlに点眼薬原液を約50μl添加・混和後4分間室温にて作用させた後,滅菌生理食塩水にて2,000倍希釈しその菌浮遊液50μlをスパイラルシステムにて定量培養後,コントロール(点眼薬無添加)と比較しその発育阻止率(,±,+,2+,3+)を求めPABEとした.種点眼薬のPABE図1に被検菌種に対する点眼薬のPABEを3+と1+~2+の2群に分けて示し,その内訳を下記に示した.7菌種・群に対して最も強い3+のPABEを示したのはMCRで,以下TOB,SBPC,GFLX,LVFX,CL,CMX,CPの順であった.1.ブドウ球菌群に対するPABETOBは97.5%,MCRは80%,SBPCは55%の株に対し3+のPABEを示した.CMX,CP/CL,EM/CL,LVFX,GFLXは87.5%以上の株に対し~1+の(81)眼感染症セミークライシスコントロール●連載(最終回)監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一55.エビデンスに基づく点眼薬の使い分け浅利誠志*1井上幸次*2大橋裕一*3*1大阪大学医学部附属病院感染制御部/臨床検査部*2鳥取大学医学部眼科*3愛媛大学医学部眼科点眼薬選択の基本は,臨床所見および塗抹染色結果より起因菌を推定し適正に各種点眼薬を使い分けることにある.しかし,実際には広域抗菌スペクトルを有するキノロン薬の汎用に偏り,塗抹・培養検査,使い分けも軽視されている.そこで,適正治療を目的に各種起因菌に対する市販点眼薬有効性のエビデンスを紹介する.表1使用菌種と菌株数菌種菌株数()()ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌———————————————————————-Page21632あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007PABEを示した.また,メチシリン耐性ブドウ球菌群(MRS)とメチシリン感受性ブドウ球菌群(MSS)の2群においてPABEに差はみられなかった.2.溶血性レンサ球菌群に対するPABESBPC,TOB,MCRは全株に対し,CMXは50%の株に対し3+のPABEを示した.CP/CL,EM/CL,LVFX,GFLXは66.7%以上の株に対し~1+のPABEを示した.3.緑膿菌に対するPABELVFX,GFLXは全株に対し,TOB,MCRは87.5%,EM/CLは75%,SBPC,CP/CLは50%の株に対し3+のPABEを示した.CMXはすべての株に対し~1+のPABEを示した.4.GNFNB(ブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌)に対するPABETOBは全株に対し,SBPCは92.9%,MCRは71.4%の株に対し3+のPABEを示した.LVFXは1+~2+に92.9%,GFLXは1+に44.4%,3+に33.3%のPABEを示した.CMX,CP/CL,EM/CLはすべての株に対し~1+のPABEを示した.5.セラチアに対するPABEMCRは75%,GFLXは66.7%,LVFXは50%の株に対し3+のPABEを示した.SBPCは50%の株に対し~±,残りの50%の株に対し2+~3+のPABEを示した.CMX,TOB,CP/CL,EM/CLはすべての株に対し~1+のPABEを示した.6.コリネバクテリウム群に対するPABE(図1には示していない)SBPC,TOB,MCRはすべての株に対し,LVFXは57.1%,EM/CLは42.9%の株に対し3+のPABEを示した.CMXは~3+に,CP/CLは±~3+に幅広いPABEを示した.GFLXは33.3%の株に3+のPABEを示したが,66.7%の株に対しのPABEを示した.因菌種と点眼薬選択角膜炎のおもな起因菌に対するPABE(3+)を基に点眼薬の選択順位を表2に示した.ただし,このデータは,invitroの水溶性の高い条件下での結果であるため,実際の点眼抗菌薬選択に際しては,この表と感染部位への薬物動態薬力学(PK/PD),細胞毒性などを考慮して(82)表2角膜炎起因菌に対する点眼薬のPABE分布菌群()ブドウ球菌群溶血性レンサ球菌群緑膿菌セラチアコリネバクテリウムブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌0%20%40%60%80%100%3+0%20%40%60%80%100%:GlucosenonfermenterGFLXLVFXCLCPMCRTOBCMXSBPCGFLXLVFXCLCPMCRTOBCMXSBPC:??????????????:?????????????:?????????:??????????????spp?:?????????????:?????????????2+1+~図1角膜炎起因菌に対する点眼薬のPABE分布———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071633(83)決めていただきたい.特に,分子量が500以上の点眼剤(CMX,MCR,CL,EM)では組織透過性が悪い2)ため感染部位によっては良好な治療成績が得られないこともある.一方,多くの菌種に対して良好なPABEが得られたアミノ配糖体系薬(TOB,MCR)は,術前の減菌化にも効果的であるが,頻回点眼により細胞毒性が増すため点眼回数と投与期間を控えることが重要である.また,アミノ配糖体系薬は血中有効濃度から考慮した場合,溶血性レンサ球菌群には無効なため通常治療薬としては用いないが,ペニシリン系薬およびキノロン系薬との併用により優れた殺菌効果が得られることが知られている.事実,Streptococcussanguis,Streptococcussalivariusなどの溶血性レンサ球菌群による感染性心内膜炎の治療薬は,ペニシリンGとゲンタマイシンの2剤併用治療3)が世界標準とされている.この併用療法は,眼感染症治療においても治療効果が期待できるものと思われる.さらに,術後眼内炎では,房水内最高濃度値(AQCmax)に優れた薬剤が第一選択となるが,福田らの報告4)では6種汎用点眼薬のAQCmaxはLVFX,CP,EM,CMX,MCR,SBPCの順に高かったとされている.このためPABEは1+と弱くてもAQCmaxの高い薬剤も選択肢の一つとなる.治療開始後の注意としては,同一点眼薬使用後5~7日以上治療効果が得られない状態で培養検査を行った場合,菌交代現象によりその薬剤に耐性を示す菌種に変わっている5)ことが多いため単純に起因菌と判断してはならない.また,術前と術後に系統の異なる抗菌薬を用いることも菌交代現象を阻止するために重要である.まとめ耐性菌の出現が抗菌薬開発を凌駕している現在,限られた点眼薬を適正に使用することが結果的に耐性菌防止に繋がる.このためには,臨床所見より推定される起因菌と塗抹結果に基づきPABEの優れた薬剤を選択し,さらに治療開始後3日前後で治療効果が認められない場合は,培養結果,感受性結果およびPK/PDに応じて適切な点眼薬の使い分けを心掛ければ耐性菌の出現を効果的に抑えることは可能である.また,今後,非常に危惧される事項としては,溶血性レンサ球菌や腸球菌に対する第一選択薬であるペニシリン系点眼薬のサルペリンが2006年11月に製造中止となったことがあげられる.なぜなら,最も汎用されているキノロン系薬の弱点は溶血性レンサ球菌および腸球菌感染症だからである.適正な点眼薬の使い分けが行われていない施設では,今後,治療期間の延長,難治性感染症の増加,菌交代現象に伴う真菌・腸球菌の分離頻度の増加および薬剤高度耐性菌の分離頻度が一層増加するものと考えられる.点眼薬の使い分けにより優れた抗菌薬を長期有効に使用したいものである.文献1)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeectの比較.日眼会誌110:973-983,20062)新家眞:点眼薬の吸収と動態(眼内移行,流出など).眼科診療プラクティス11:387-392,19943)サンフォード感染症治療ガイド,37版,p45-50,20074)福田正道,佐々木一之:あたらしい薬動力学的指標maxi-mumconcentrationintheaqueousによる汎用抗菌点眼薬の評価.日眼会誌106:195-200,20025)浅利誠志:耐性菌感染症.臨眼57(増刊号):66-74,2003☆☆☆

緑内障:今後発売が予測される緑内障新薬

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716270910-1810/07/\100/頁/JCLS平成19年10月現在,日本では15種類の緑内障点眼薬が発売されている(表1).多くの緑内障治療薬が発売されている現在,新たな治療薬の開発の余地がないように思われるが,今なお厳しい開発競争が行われている.本稿では,欧米と日本における緑内障点眼薬を比較しながら,今後日本で発売が予測される緑内障新薬を紹介する.(77)連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄90.今後発売が予測される緑内障新薬池田博昭*1塚本秀利*2*1広島大学病院臨床研究部*2高山眼科国内で今後発売が予測される緑内障新薬の候補として,プロスタグランジン関連薬は配合薬を含めて3種類,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬1種類,Rho-キナーゼ阻害薬3種類,a刺激薬1種類,カルシウムチャネルブロッカーは点眼および内服各1種類の計10種類があげられる.これら新薬の開発が順調に進めば,数年後には日本も欧米と同等以上の医療環境になると期待される.表1緑内障点眼薬の欧米と日本の発売状況の比較欧米日本交感神経動薬ロカルンカルール×コリンエステラーゼ阻害薬ジスチグミン×○交感神経刺激薬ab刺激薬ジピベフリン○○エピネフリン○×a刺激薬ブリモニジン○×アプラクロニジン○×交感神経遮断薬b遮断薬チモロール○○チモロールゲル○○ベタキソロール○○カルテオロール○○メチプラノロール○×ab遮断薬ニプラジロール×○レボブノロール○○a遮断薬ブナゾシン×○プロスタグランジン関連薬ウノプロストン○○ラタノプロスト○○ビマプロスト○×トラボプロスト○○炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド○○ブリンゾラミド○○2種類の薬剤を配合b遮断薬とプロスタグランジン関連薬チモロールとラタノプロスト○×b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬チモロールとドルゾラミド○×○:発売,×:未発売.平成19年10月現在.———————————————————————-Page21628あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007■米と日本における緑内障点眼薬の比較(表1)欧米と日本で発売されているおもな緑内障点眼薬を表1に示した.欧米で発売されていない点眼薬はジスチグミン,ニプラジロール,ブナゾシンの3種類であるが,日本では,カルバコール,エピネフィリン,ブリモニジン,アプラクロニジン(レーザー前後の使用は可能),メチプラノロール,ビマプロスト,配合薬(チモロール+ラタノプロスト,チモロール+ドルゾラミド)の8種類が発売されていない(表1).本における緑内障治療薬の開発の動向(表2)日本において新たに開発される治療薬は,欧米で最初に開発された新薬が日本へ技術提携される場合と,逆に,まず日本で開発されその後欧米へ技術提携される場合に大別される(表2).欧米から日本へ導入された治療薬のほとんどは欧米ではすでに発売されており,逆に日本から欧米へ導出された治療薬は日本が先行している.しかし,今後の治療薬は開発期間の短縮やコスト削減を目的に欧米および日本で同時に行う傾向であることから,欧米との医療環境は類似するであろう.後発売が予測される緑内障新薬(表3)プロスタグランジン関連薬欧米ではウノプロストン,ラタノプロスト,ビマトプロスト,トラボプロストの4種類が使用可能であるのに対し,日本では平成19年10月よりトラボプロストが発売となりウノプロストン,ラタノプロストの3種類が処方できるようになった.ビマトプロストは治験を終了している.5番目のプロスタグランジン関連薬となるタフルプロストが日本と欧米において開発中で,これが日本で先行発売されると,米国を追い越しプロスタグランジン関連薬5種類が選択できる時代になる.配合薬日本は今まで配合薬を承認しない傾向にあったが,現在,すでに発売されている2種類の薬剤を配合した製剤(78)表2新薬開発の動向従来欧米から日本へ導入欧米で開発され承認を得た薬を欧米データを利用して治験を実施日本から欧米へ導出日本で開発した薬を技術提携により欧米で治験を実施↓今後日本と欧米で同時開発日本・欧米データの同時相互利用による開発期間の短縮・費用の削減表3日本で開発中の緑内障治療薬(平成19年10月現在)点眼薬開発中の新薬成分名製薬会社国内開発状況*プロスタグランジン関連薬ビマトプロスト千寿製薬治験終了医薬品製造販売承認申請中タフルプロスト参天製薬治験終了医薬品製造販売承認申請中プロスタグランジン関連薬+b遮断薬配合薬ラタノプロスト+チモロールファイザー第Ⅱ/Ⅲ相アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬オルメサルタン参天製薬第Ⅱ相(パイロット試験準備中)Rho-キナーゼ阻害薬未公表参天製薬米国第Ⅰ相千寿製薬第Ⅱ相準備中興和第Ⅰ相a刺激薬ブリモニジン千寿製薬第Ⅲ相カルシウムチャネルブロッカーイガニジピン千寿製薬第Ⅱ相経口薬ロメリジン参天製薬第Ⅱ相*:日本製薬工業会の新薬・治験情報および各製薬会社のホームページに記載された内容とした(第Ⅱ相の前期・後期,実施中・終了などの詳細情報は不明).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071629(79)時間間隔の点眼が必要で,1525℃の保管温度が記載されているが日本ではどうなるであろうか.カルシウムチャネルブロッカーイガニジピンはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で正常眼圧緑内障治療点眼液として欧米と日本で開発中である.ロメリジンは片頭痛の適応で発売されているテラナスR錠は視野欠損の進行を抑制する適応症の拡大として開発が進められている.おわりに以上,欧米と日本における緑内障点眼薬を比較しながら,今後日本で発売が予測される緑内障新薬を紹介した.これら新薬の開発が順調に進めば,数年後には日本においても欧米と同等の薬物療法が行える環境になることが期待できる.出典:本稿で取り上げた国内開発状況は,日本製薬工業会の新薬・治験情報および製薬会社のホームページを参照した.の開発が進行している.配合薬は,患者の点眼コンプライアンスの向上や医療経済的なメリットを考えて認可される可能性がある.アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬作用機序は,アンジオテンシンⅡタイプ1受容体拮抗作用により,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進とされる.Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬ROCKはさまざまな細胞において,その基質をリン酸化することによりアクトミオシン依存の収縮を制御している.そのためROCK阻害薬は,線維柱帯の収縮を用量依存的に抑制すると考えられている.つまり眼房水の流出とそれに伴う眼圧を制御し,房水の主要流出経路からの流出を促進することで眼圧を持続的に低下させ,かつ網膜の血液の流れを良くすることが期待される.ROCK阻害薬の開発は,論文を見る限り日本が先行している.交感神経a2刺激薬ブリモニジンの米国の添付文書によれば1日3回,8☆☆☆

屈折矯正手術:Q値を考慮したAspheric ablation

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716250910-1810/07/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,Pallikarisらの最初の報告1)からすでに10年以上経ち安定した成績が報告2)され,現在最もポピュラーな屈折矯正手術として認識されている.その一方で,術後のグレアやハロー,夜間視力の低下などが,変わらぬ問題として残されている.その理由の一つとして考えられるのはLASIK後の角膜形状変化に伴う球面収差の増加である3).通常,健常眼はprolateshapeとよばれ,角膜の中央部分がsteepで周辺部分がatな形状をしている.しかし,近視あるいは近視性乱視に対してLASIKを行った結果,角膜中央部はatで周辺部分がsteepなoblateとよばれる非生理的な形状へ変化する.この変化は角膜における球面収差の増加をもたらし,術後の不定愁訴の原因になると考えられる(図1).こうした非生理的な変化をできるだけ減らすべく開発された照射方法が,Bausch&Lomb社製エキシマレーザー装置,Technolas217z100におけるAsphericabla-tion(非球面照射)である.この照射法は,術前にOrb-scanⅢTM(Bausch&Lomb社)にて角膜の非球面性の指標であるQ値を測定する(図2).そしてその術前のQ値をもとに,角膜形状が極端なoblate化にならないようにアルゴリズムが作成される.実際の臨床結果を検討したところ,図3のように6.0D以内の軽度・中等度近視群において,球面収差は術前後で有意な変化を認めなかった.また同群では,図4のように術前後でコントラスト感度の低下も認めなかった.このように,新しいAsphericablationではLASIK術後の球面収差の増加を抑えることで,術後コントラスト感度の低下を抑え,良好な視機能を得ることに成功していると考えられる.一方,このAsphericablationには,2つの問題点が残されている.1つは,図3のように術前後で球面収差の増加抑制が認められる反面,コマ収差は有意に増加している点である.このコマ収差は図5のように矯正量に(75)屈折矯正手術ースキルア●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男91.Q値を考慮したAsphericablation五十嵐章史小松真理山王病院眼科近視矯正laserinsitukeratomileusis(LASIK)の術後,眼球形状はoblate化し,その結果,球面収差が増加し,夜間視力低下やハロー・グレアをひき起こすと考えられている.これに対し,術前の角膜の非球面性の指標であるQ値に基づき,術後の球面収差の増加を抑制するAsphericablationが臨床で可能になった.図2Q値の測定術前にOrbscanⅢTM(Bausch&Lomb社)により角膜の非球面性の指標であるQ値を測定する.多くの場合,健常眼ではQ値は負の値をとることが多い.EllipseabROpt.axisQ=negative(b<a)ProlateshapeQ=positive(b>a)OblateshapeQ=zero(b=a)Sphericalshape-1=?2?2?図1Oblate化に伴う球面収差の増加近視・近視性乱視に対して,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)といった角膜屈折矯正手術を施行すると角膜中央はat化し,oblate化する.このoblate化により球面収差は増加する.ProlateshapeOblateshape球面収差増加ELASIK後中央steep,周辺?atQ値<0中央?at,周辺steepPositiveQ———————————————————————-Page21626あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007比例して増加する傾向があるため,強度近視群には不適応であり,不正乱視例や追加矯正例のような特にコマ収差が大きい例においても薦められない.2つめは,図3でもみられるように6.0D以上の強度近視群では,Asphericablationを施行しても術前後で球面収差の増加を認めることである.そしてこの影響はコントラスト感度にも及び,図4のように同群では術後コントラスト感度の低下を認めた.前述のようにエキシマレーザーによる近視矯正は,角膜中央をatになるように切除するため矯正量依存的に球面収差の増加をきたす4).それゆえ,いかに優れたアルゴリズムでも球面収差の抑制には限界があると考えられる.今回の結果から,6.0D以内の軽度・中等度近視群までは良い適応であるが,これ以上はアルゴリズムの限界と考えられる.今後,コマ収差に対する改善も加わったAsphericablationが開発されれば,よりよいqualityofvisionが獲得できるものと期待される.文献1)PallikarisIG,PapatzanakiME,StathiEZetal:Laserinsitukeratomileusis.LasersSurgMed10:463-468,19902)KymionisGD,TsiklisNS,AstyrakakisNetal:Eleven-yearfollow-upoflaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:191-196,20073)SeilerT,ReckmannW,MaloneyRK:Eectivesphericalaberrationofthecorneaasaquantitativedescriptorincorneatopography.JCataractRefractSurg19:155-165,19934)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefrac-tivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmol-ogy109:1154-1158,2002(76)図4術前後のコントラスト感度(AULCSF:areunderthelogcontrastsensitivityによる評価)AsphericLASIKでは軽度・中等度近視群において,術前後でAULCFSは不変であった.しかし,強度近視群では術後AULCSFの低下を認めた.12AULCSF:術前:術後-6.0D以下の軽度・中等度近視群-6.0D以上の強度近視群NSWilcoxon符号付順位和検定*n=34n=11*p<0.05AULCSF図3術前後の高次収差(解析径4mmにおける眼球全体の高次収差)AsphericLASIKでは軽度・中等度近視群において,球面収差は術前後で有意な増加を認めなかった.しかし,強度近視群では球面収差の増加を認めた.00.3コマ高次収差(μm):術前:術後-6.0D以下の軽度・中等度近視群-6.0D以上の強度近視群NSWilcoxon符号付順位和検定**********n=34n=11全収差球面コマ全収差球面***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05図5矯正量に対するコマ収差の変化横軸に矯正量を,縦軸にコマ収差の変化量(術後コマ収差術前コマ収差)を示す.矯正量に比例し,コマ収差は増加する傾向にあった.y=0.019x-0.0392r2=0.2813-0.100.10.20.30矯正量(D)p<0.001108642コマ収差(μm)Δ☆☆☆

眼内レンズ:虹彩支持型有水晶体眼内レンズ

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716230910-1810/07/\100/頁/JCLS強度近視の人にとって,眼鏡やコンタクトレンズでの矯正は決して快適なものとはいえない.このような強度近視の人こそ屈折矯正手術の適応となるべきであるが,エキシマレーザーを用いた角膜での屈折矯正手術の矯正限界は,LASIK(laserinsitukeratomileusis)で8.0D,PRK(photorefractivekeratectomy),LASEK(laserepithelialkeratomileusis),Epi-LASIKでも10.0D程度である.限界を超えた無理な矯正をしようとして照射径を小さくすることは,手術後にグレアやハローを生じる原因となる.また,角膜を薄くし過ぎるとkeratectasiaをひき起こすことも報告されている1).有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlenses:PIOL)挿入による屈折矯正手術は,角膜になんら影響を与えずに近視,遠視を矯正できるという点で今後のさらなる発展が期待されている手術といえる.ARTISANRPIOL(OPHTECBV社,Groningen,Netherlands)は現在世界中で最も多く使用されている有水晶体眼内レンズである(図1).ARTISANRPIOLは1978年にPaulU.Fechner(Ger-many)とJanG.F.Worst(Netherlands)により白内障手術後の無水晶体眼に挿入される目的で考案された虹彩支持型眼内レンズの“IrisClawR”レンズが原型となっ(73)ている.1986年にWorstはこのレンズをbiconcave型の近視用有水晶体眼内レンズに改良し,Fechnerが最初の症例に挿入した2).1991年からARTISANRPIOLのヨーロッパ多施設試験が行われ,1997年にARTISANRPIOLはヨーロッパでCEマークを取得した.米国FDA(食品医薬品局)は1997年からARTISANRPIOLの臨床試験を行い,2004年にARTISANRとAMO社から併売となるVerisyseTMを認可した.2003年からヨーロッパにおいて,折りたたみ型PIOLであるARTI-FLEXRPIOLの多施設試験が行われ,2005年に発売が開始された.ARTISANRPIOLはPMMA(ポリメチルメタクリレート)製の虹彩支持型のレンズであり,近視用PIOLには光学部径5.0mmと6.0mmの2タイプがある.ARTIFLEXRPIOLは光学部径6.0mmのシリコーン素材の折りたたみ型PIOLであり,2.8mmの切開創から挿入できる(図2).いずれのレンズも,専用のレンズ固定鑷子でレンズを保持しつつ,カニのつめのような形状をしたレンズ支持部に鑷子またはフックで中間周辺部虹彩を挟み込む(enclavation)ことによって虹彩上に固定する(図3).この固定法によりレンズの光学部は水晶体と角膜内皮に触れることなく虹彩面より前方の前房内に山口雅之山口眼科医院眼内レンズー監修/大鹿哲郎256.虹彩支持型有水晶体眼内レンズエキシマレーザーを用いた角膜での屈折矯正手術の適応外となる症例に対して有水晶体眼内レンズを挿入する手術が注目されている.現在,後房型と前房型の有水晶体眼内レンズが臨床使用されており,前房型の代表的レンズが虹彩支持型のARTISANRPIOL(OPHTECBV社,Groningen,Netherlands)である.図2ARTIFLEXRPIOLの挿入3ARTIFLEXRPIOLの固定ARTISAN?&VerisyseTM56%その他8%ICL36%AMO20051PIOLの市場(文献4より)———————————————————————-Page21624あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(00)位置し,散瞳検査も可能となる(図4).1991年から行われたARTISANRPIOLのヨーロッパ多施設試験において,518例の近視症例に対する3年間の手術成績が検討された3).米国FDAは1997年からARTISANRPIOLの臨床試験を行い,662例についての手術成績が検討された(ARTISANRMyopiaLensUSClinicalInvestigation.Groningen,Netherlands,Ophtec,2003).筆者がエキシマレーザー手術適応外となった症例にARTISANRPIOLを挿入し,6カ月以上の経過をみた59例の結果では,54例(91.5%)が裸眼視力1.0以上であった(図5).手術後屈折値は98.3%が±1.0D以内,91.5%が±0.5D以内であった4).手術後の屈折値は安定しており,手術前後での角膜内皮細胞密度の変化もわずかであった4).強度近視眼に対するARTISANRPIOLの挿入には多くの利点がある.このレンズは取り外すことが可能であり,必要であれば入れ替えることもできる.また,光学部径6.0mmは現在臨床使用されている有水晶体眼内レンズのなかで最も大きな光学径である.これは手術後のグレアの発生を防ぐためにも重要な点となる.見え方の質を比較してみると,LASIKよりARTI-SANRPIOLのほうが良いと感じる患者の割合が多い傾向があるという報告が出されている5).瞳孔領の角膜に影響を与えないことは,見え方の質に取って大きなアドバンテージがあるといえる.しかし実際に手術を行ってみると,有水晶体眼における前房内操作は予想以上に神経を使う手技であることがわかる.手術後の角膜内皮細胞への影響や白内障の発生に関しても,これから長期にわたる経過観察が必要である.安易にこの手術に取り組むのではなく,いかに最良の方法で患者の屈折異常を治すかを考えて,エキシマレーザー手術を含めた複数の選択肢のなかから術式を決定すべきであろう.文献1)SeilerT,KoufalaK,RichterG:Iatrogenickeratectasiaafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg14:312-317,19982)FechnerPU,StrobelJ,WiechmannW:CorrectionofmyopiabyimplantationofaconcaveWorst-iris-clawlensintophakiceyes.RefractCornealSurg7:286-298,19913)BudoC,HessloehlJC,IsakMetal:MulticenterstudyoftheArtisanphakicintraocularlens.JCataractRefractSurg26:1163-1171,2000.4)山口雅之:虹彩支持型有水晶体眼内レンズ(ARTISANRPIOL)の臨床成績.IOL&RS21:182-189,20075)MalecazeFJ,HulinH,BiererPetal:Arandomizedpairedeyecomparisonoftwotechniquesfortreatingmoderatelyhighmyopia:LASIKandArtisanphakiclens.Ophthalmology109:1623-1630,20024光学部径6mmARTISANR近視用PIOL散瞳前(左),散瞳後(右).(文献4より)5手術後裸眼視力(文献4より)0%20%40%60%80%100%1.0以上裸眼視力0.70.8

コンタクトレンズ:遠近両用ハードコンタクトレンズの処方方法(2)

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071621(アイミーサプリームバイフォーカル)使用眼鏡度数R:3.50DL:3.25D使用中の遠近両用HCLのフィッティングは,レンズの動きが遅く上方停止傾向で,センタリングが不良であった.患者はHCLへの装用感に不満をもっていたため,センタリングと装用感を重視し,実際のCLでテスト装用が可能な頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)を処方することにした.頻回交換型遠近両用SCLの処方規格R:8.70/3.50add+2.00/14.4DタイプL:8.70/3.00add+2.00/14.4Dタイプ(ロートi.Q.14バイフォーカル)遠方視力VD=1.0×SCL近方視力VD=0.5×SCLVS=0.5×SCLVS=0.6×SCLBVD=1.0×SCLBVD=0.6×SCL遠方および近方の見え方に患者の満足は得られたが,両眼に痒みの症状が出現し,両眼のレンズが球結膜に固着する傾向を認めたため,他のタイプの頻回交換型遠近両用SCLをテスト装用することにした.頻回交換型遠近両用SCLの処方規格R:8.60/2.25/14.0L:8.60/2.00/14.0(フォーカスプログレッシブ)遠方視力VD=0.4×SCL近方視力VD=0.6×SCLVS=0.4×SCLVS=0.6×SCLBVD=0.7×SCLBVD=0.8×SCL遠方の見え方に満足が得られなかった.球面度数を調整したが改善がみられず,同時視型の後面非球面型遠近両用HCLを処方することにした.遠近両用HCLの処方規格R:7.40/6.00/9.2L:7.50/5.75/9.2(シードマルチフォーカルO2)遠方視力VD=0.9×HCL近方視力VD=0.6×HCLVS=1.0×HCLVS=0.6×HCLBVD=1.0×HCLBVD=0.6×HCL装用開始直後から,近方とも見え方に満足が得られ,0910-1810/07/\100/頁/JCLS遠近両用ハードコンタクトレンズ(HCL)には交代視型と同時視型があるが,コンタクトレンズ(CL)の処方経験が少ない処方者には,処方が容易な同時視型に慣れてから,他のタイプの処方を試みることをお勧めする.ここでは同時視型の非球面型遠近両用HCLと,交代視型に一部同時視型の機能を有する同心円型遠近両用HCLの処方例をあげて解説する.時視型非球面型遠近両用HCLの処方例同時視型のなかでも非球面型遠近両用HCLは,パラメータがベースカーブと遠方度数だけであり,処方が最も容易である.また,レンズのセンタリングの見え方への影響が比較的少ないため処方成功率が高い.以下はその処方例である.処方方法を習得するためには,最終処方レンズの規格を決定するまでの経過を知ることも重要であることを理解してもらいたい.〔症例〕64歳,女性,主婦.4年前に他医にて交代視型のセグメント型遠近両用HCLを処方されていたが,見え方と装用感に満足できず,1年に一度の割合で規格を変更して処方を受けていた.遠近両用CLの処方を希望して当院を受診した.遠方視力VD=0.3(1.2×4.00D)VS=0.1(1.0×3.50D)近方視力VD=1.5(n.c.)VS=1.0(1.5×+0.75D)角膜曲率半径R:7.70mm20°/7.62mm110°(中間値7.66mm)L:7.71mm161°/7.78mm71°(中間値7.75mm)遠方視利き目:右眼.CL使用経験:HCL31年,遠近両用HCL4年.使用CL規格R:7.80/3.00add+2.00/9.4セグメント位置1.0L:7.85/2.75add+2.00/9.4セグメント位置0.5(71)塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズセミー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純.遠近両用ハードコンタクトレンズの処方方法(2)———————————————————————-Page21622あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(00)その後の経過も良好である.ここで処方のコツは,ベースカーブをマニュアルより,ややフラット側のものを第一選択し,加入度数が弱めとなることに対しては,遠方度数を低矯正にすることで対応することにある.そしてトライアルレンズのフィッティングと追加矯正の遠方と近方の視力のバランスから最終的な処方規格を決定することにある.交代視型(一部同時視型)同心円型遠近両用HCLの処方例同心円型遠近両用HCLは,一般的に機能的な分類では交代視型であるが,同じ交代視型であるセグメント型と異なり同時視型の機能も有する.レンズのセンタリングの見え方への影響は非球面型より大きいが,それでも同時視型の機能があるために近方視への影響は許容できる範囲に留まることが多い.以下に処方例を示し解説する.〔症例〕51歳,女性,小学校教師.単焦点HCLを他医にて処方されていたが,近方の見え方に満足できなくなったため,HCLの処方を希望して当院を受診した.遠方視力VD=0.04(1.2×6.25D(cyl1.50DAx90°)VS=0.04(1.2×6.50D(cyl0.50DAx90°)近方視力VD=0.1(1.5×3.75D(cyl1.50DAx90°)VS=0.1(1.5×3.75D(cyl0.50DAx90°)角膜曲率半径R:7.53mm20°/7.66mm110°(中間値7.60mm)L:7.49mm143°/7.60mm53°(中間値7.55mm)遠方視利き目:左眼.CL使用経験:HCL25年.使用CL規格R:7.50/6.25/8.8L:7.50/6.25/8.8(メニコンEX)軽度の閉瞼不全があったが,使用中のHCLのセンタリングは良好であり,遠近両用HCLの適応と考えられた.職業上,近業時の見え方を重視する必要があるため交代視型(一部同時視型)同心円型遠近両用HCLを処方することにした.遠近両用HCLの処方規格R:7.60/6.00add+1.50/9.8L:7.60/5.75add+1.50/9.8(メニフォーカルZ)遠方視力VD=0.9×HCL近方視力VD=0.5×HCLVS=1.2×HCLVS=0.5×HCLBVD=1.2×HCLBVD=0.6×HCL装用を開始して2週間後,遠方,近方とも見え方に問題はなかったが,長時間装用すると,それまで使用していたHCLより違和感が強くなるとの訴えがあった.そこで右眼のCLのベースカーブを変更し,両眼のCLのサイズを変更して処方した.遠近両用HCLの処方規格R:7.50/6.25add+1.50/9.6L:7.60/5.75add+1.50/9.6(メニフォーカルZ)遠方視力VD=0.9×HCL近方視力VD=0.7×HCLVS=1.0×HCLVS=0.5×HCLBVD=1.0×HCLBVD=0.7×HCL処方規格の変更後,見え方と装用感に患者の満足が得られた.以後3年間経過したが,装用を継続している.以上のように遠近両用HCLの処方は単焦点HCLの処方と比べて,特に技術を要するところはない.処方を成功させるためには,遠近両用HCLはフィッティングの見え方への影響が大きいこと,近視の過矯正は加入度数が適正であっても近方視への患者の満足は得がたいことを理解し,それに対して,どのように対応すべきかを考慮しながら処方することが重要である.

写真:サイトメガロウイルス角膜内皮炎

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716190910-1810/07/\100/頁/JCLS(69)小泉範子同志社大学再生医療研究センターセー監修/島﨑潤横井則彦283.サイトメガロウイルス角膜内皮炎1サイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎(51歳,男性)上方周辺部から中央へと進行する角膜浮腫を認める.透明角膜側には複数のコインリージョンが存在する.前房水PCRでCMVDNAを検出した.3図1の症例のフルオレセイン染色角膜浮腫の範囲はフルオレセイン染色でも明瞭に認められる.2図1のシェーマ①:角膜周辺部から中央へ向かって進行する浮腫.②:円型に配列する角膜後面沈着物(コインリージョン).①②図4角膜移植後に発症したサイトメガロウイルス角膜内皮炎(78歳,女性)水疱性角膜症に対する角膜移植5カ月後に,下方から中央へ進行する角膜浮腫と,浮腫に一致した範囲の角膜後面沈着物を認めた.ステロイド治療には反応せず,前房水からCMVDNAを検出した.———————————————————————-Page21620あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(00)角膜内皮炎は角膜内皮細胞に首座をもつ炎症性疾患で,進行すると角膜内皮細胞の脱落による水疱性角膜症を生じる.ヘルペスウイルス角膜炎の一病型とされており,アシクロビルやバラシクロビルによる治療が行われるが,これらの抗ヘルペス治療に抵抗性で,水疱性角膜症へと至る難治症例があることが知られている.最近になってこれらの角膜内皮炎のなかに,サイトメガロウイルス(CMV)が関与する症例が存在することが報告され,注目されている14).CMV角膜内皮炎の臨床所見はヘルペス性Ⅰ型角膜内皮炎に類似している.細胞浸潤や血管侵入を伴わない限局性の角膜浮腫が特徴で,病変は角膜周辺部から中心に向かって進行する(図1,3).浮腫の範囲に一致して角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)を認め,ときに拒絶反応線に類似した線状のKPsや,KPsが円形に配列した衛星病巣(coin-shapedlesion:コインリージョン)を伴う.虹彩毛様体炎や眼圧上昇を伴うことが多い.角膜内皮障害が進行すると,角膜内皮細胞密度が低下する.診断には,前房水を用いたウイルスPCR(polymerasechainreaction)が有用であり,臨床経過およびCMVDNAの同定をもってCMV角膜内皮炎と診断する.抗ヘルペス治療が奏効せずに角膜内皮障害が進行する症例では,前房水PCRによるCMVDNAの検索を行うことが望ましい.CMV角膜内皮炎と確定診断された症例では,CMV網膜炎に準じた方法によりガンシクロビルの全身投与による抗サイトメガロウイルス治療を行う4).これまでの症例では,発症後早期にガンシクロビル投与を行うことによって,角膜浮腫やKPsが速やかに改善され,角膜内皮機能を維持することができた.さらに再発予防を目的として,自家調整したガンシクロビル点眼液の使用を試みている.CMVは,AIDS(後天性免疫不全症候群)患者などの免疫不全患者における日和見感染症の原因ウイルスであり,眼科領域では網膜炎を発症することが知られている.一方,CMV角膜内皮炎は,全身的な免疫機能が正常な患者で発症している点でCMV感染症としては特殊な病態と考えられる.ヘルペス性角膜内皮炎の発症にはACAID(anteriorchamber-associatedimmunedevia-tion:前房関連免疫偏位)が関連していることが実験的に示されている5)が,CMV角膜内皮炎においても,前房内という免疫抑制環境が角膜内皮炎の発症に関与していることが推測される.CMV角膜内皮炎と診断された症例のなかには,原因不明の水疱性角膜症に対して複数回の角膜移植を施行されていたものがあり,このような症例では,ヘルペスウイルスのみならず,CNVも念頭においたウイルス検査と早期治療が必要である.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendothe-liitis.AmJOphthalmol141:564-565,20062)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20073)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“Owl’sEye”patternbyconfocalmicroscopyinpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol114:715-717,20074)KoizumiN*,SuzukiT*,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology,inpress(*co-rstauthors)5)ZhengX,YamaguchiM,GotoTetal:Experimentalcor-nealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisSci41:377-385,2000

眼の奧の痛みへの対応

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSって診て貰ったがどこも異常はないと言われた.けれども良くならない」とか「眼科では異常がないと言われたので,内科に行って頭のMRIを調べてもらった.けれでも問題ないと言われた」といったような患者がよく訪れる.特にしかるべき施設で,しかるべき検査をされていたりすると,さらに自分は何を検査をすればいいのか考えてしまうようような場合もある.本稿では「眼の奥の痛みへの対応」ということなので「眼痛」をきたす疾患の鑑別よりも,「眼の奥の痛みを訴えて来院し,明らかな眼科的異常所見が認められないような症例に遭遇したときに,その症例に対してどのようにアプローチをし,どのように接すればいいか」といったことに重点を置いて述べ,読者諸氏の日常の診療の一助になれば幸いである.I診察の手順1.アプローチその1表1に「眼の奥の痛み」と表現される原因となる病態を示した.「眼の奥の痛み」を訴える症例に対して眼科医がまず最初にとるアプローチは眼疾患の有無である.まずは表1の1)4)までを念頭においてチェックする.緑内障の有無,ぶどう膜炎や虹彩炎などの眼球の炎症所見の有無,屈折異常や眼位異常,調節機能異常などによる眼精疲労やドライアイの有無などに留意し検査を行い,原因と考えられる所見が認められればそれに対するはじめに日々の外来診療において「眼の奥の痛み」はきわめてありふれた主訴であるが,いちばん眼科医を悩ませる主訴の一つでもある.視力検査,細隙灯検査による前眼部・中間透光体所見や眼底検査において,原因となる所見が認められればいいが,標準的な眼科検査で異常が見つからないと単なる眼精疲労やドライアイと診断して様子をみてしまうケースが少なくないのではないだろうか.実際「眼の奥の痛み」を主訴に来院される多くの症例で眼精疲労やドライアイが認められるのも事実である.しかしながら,「眼の奥の痛み」を訴えて来院される症例のなかには,視神経炎による眼球運動痛であることもあれば眼窩内に炎症が認められる場合や蓄膿症が原因であることもある.まれではあるが動脈瘤など重大な病気が潜んでいる場合もあり注意が必要である.さらに診断をむずかしくする要因としては,眼痛の訴えに対して痛みの度合いを客観的に評価する手段がないうえに,訴えの程度も個々の症例の主観に大きく左右されるため,病的な所見ととっていいのかどうか判断がむずかしい.痛みを訴える症例の全例において心配だからといって動脈瘤の可能性まで考えてMRA(磁気共鳴血管撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)を検査することは現実的な問題として無理がある.したがって個々の症例に対しどこまで検査をすればいいのか専門家でも迷ってしまうのではないだろうか.神経眼科の外来を行っていると,「眼の奥に痛みがあ(63)1613*HisaoOhde:鴨下眼科クリニック〔別刷請求先〕大出尚郎:〒106-0032東京都港区六本木7-15-14塩業ビル4階鴨下眼科クリニック特集とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):16131617,2007眼の奥の痛みへの対応ManagementofDeepOcularPain大出尚郎*———————————————————————-Page21614あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(64)の場所と範囲は眼の奥の比較的限局した範囲で側頭部や後頭部などに及ぶことはない.眼球を動かすと増強する眼球運動痛は比較的特徴的な所見である.視力低下や視野欠損などの症状より何日か先行して起こるが,痛みの訴えとほぼ同時にMarcusGunn瞳孔/RAPD(relativeaferentpupillarydefect)が認められる.痛みの程度はマイルドであるが非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)の効果は不十分で,ステロイドにはよく反応する.眼球運動痛を認めるが視力低下や視野障害が認められない段階での対応MarcusGunn瞳孔が陽性であれば,視神経炎をはじめ視神経障害があると判断して説明をする.視力低下や視野障害がなくても,数日中に急激に見えなくなることがあるため,説明なしで様子を見ましょうとすると信頼を失うことがある.1.視神経の炎症が起こっている可能性が高く,12週間以内に視力低下や視野障害をきたす可能性があることを説明する.2.視神経への障害の原因を調べるため脳波(VEP)やMRIなどの検査を行ったほうがよいと説明する.3.開業であれば,検査できる施設へ紹介すると説明する.筆者はこの時点で検査入院を勧めるが,「この程度で入院なんて」と感じる患者もいるため,「視力低下などがまだないうえ,安静にしているだけで良くなってしまうこともあるので,通院で検査予定を組みましょうか」と促すことが多い.その際,「経過中に視力低下が認められれば様子をみずにすぐに連絡をして欲しい」と付け加えておく.この場合,視神経の造影MRI検査を対策や加療を行うのが通常であろう.この場合,その後の経過において治療効果の確認を必ず行うことが大切である.たとえば,ドライアイに対してヒアルロン酸点眼液を処方して,その後の経過にて眼痛の訴えがなくなったかどうかを確認することが大切である.特に眼精疲労によると思われる眼痛の場合など,眼精疲労の原因は一つであることよりもいくつかの原因が複合的に重なってひき起こされていることが多いからである.2.アプローチその2標準的な眼科検査(視力検査,眼圧検査,細隙灯検査による前眼部・中間透光体所見,眼底検査など)において原因となる異常が認められない場合は,外眼筋炎や視神経炎や副鼻腔炎などの球後における病変の有無や表1の5)7)の病態を想定して検査を進めていくことになるが,実際の検査の予定を立てる前に改めて「痛みの特徴」につき詳細な問診を行い,病態の把握に努め検査の項目と優先順位を決めていく.表2は,「眼の奥の痛み」を訴える場合の問診事項を示した.ここに示した1)7)の事項は痛みの原因となる病態の把握と緊急性の有無の判断を行ううえでいずれも重要な要素となる.以降,具体的な疾患をあげその痛みの特徴と対応について示す.II球後視神経炎球後視神経炎ではその半数以上で眼痛を訴える.痛み表1「眼の奥の痛み」と表現される原因となる病態)眼圧(内障))眼球およ眼球の炎症(炎,膜炎,眼炎,眼炎,副鼻腔炎))眼精労(,,眼およ眼球運動,症候群))ア)神経症状による頭痛眼痛(視神経炎,三叉神経痛,帯状疱疹による神経痛,症候群))脳血管障害による頭痛(動脈瘤,くも膜下出血,動静脈(),脳血発,側頭動脈炎))一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛))心因性,精神神経性,ストレス,過労,不眠表2「眼の奥の痛み」を訴える場合の問診事項)痛みの場と)痛みの性(い痛み,い痛み,るよな痛み,眼球運動痛,動性な))痛みのト(急性性,以らっ痛み,近起こっ痛みな))痛みの続(一過性続性,続な))痛みの性の)痛みの因の(運動,事,過労な))痛み以の症状(,力,,しれ,めい,り,こりな)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071615(65)V副鼻腔炎慢性的な眼窩深部痛の原因として鑑別上重要な疾患の一つである.非ステロイド系の消炎鎮痛剤や抗生物質の内服が一時的に奏効するが,くり返すことが多い.ときに吐き気を伴うほどの激しい眼窩深部痛を訴えることがある.眼窩,副鼻腔のCT(コンピュータ断層撮影)をとれば副鼻腔炎の存在を確認することができる.注意すべき点は,眼痛を含め鼻性視神経症や鼻性眼球運動障害など眼症状を呈する副鼻腔炎は,副鼻腔内に占めるボリュームの大きさが問題となるのではなく,どこにあるかが重要である.非常に小さな病変でも眼窩壁に接して後部篩骨洞や蝶形骨洞に存在する場合は原因となることが多い.治療は副鼻腔内の掻爬であるが,この部分を残すと症状の改善が得られない.しかしながら,この位置の掻爬は,手術に伴うリスクも大きいため副鼻腔を専門とする耳鼻科医と十分に連携をとって行うほうがよい.VI海綿静脈洞炎,TolosaHunt症候群亜急性,慢性の眼窩深部痛を主訴に受診する.多くの場合は眼球運動障害を伴う.動脈瘤との鑑別が重要である.VII脳血管障害による頭痛動脈瘤,くも膜下出血突然の頭痛または眼痛,眼瞼下垂,瞳孔不同,眼球運動障害などを認めた場合は,まず最初に動脈瘤の存在を疑うべきである.訴えとしては,「何月何日何時に何をしているときに起こった」といった具合にオンセットがかなりはっきりしていることが特徴である.なかでも動眼神経麻痺による瞳孔不同が認められる場合は,その時点で脳外科医にコンサルトするべきである.むずかしいのは頭痛や眼痛のみの場合である.動脈瘤によるくも膜下出血は本格的な発作を起こす数日前に,前兆となる軽い頭痛がくり返されることがある.後頭部を拳で軽くぶたれたような痛みで,しばらくすると治ってしまう.強いて特徴をあげるとすれば,断続的にくり返して起こるため,片頭痛と間違われることがある.最も優先して考えるとよい.実際,ステロイドパルス療法の適否を決めるにあたり画像検査,髄液検査,採血はぜひ行っておきたい検査で,視神経炎の発作が明らかとなれば入院加療に切り替える.III帯状疱疹ヘルペス片側の三叉神経の支配領域に一致した範囲で押さえつけられるような痛みを訴える.痛みの程度は激しいものから軽度なものまでさまざまである.典型的な発疹に数日先行して痛みを訴える.眼窩周囲のみならず頭皮まで観察し発疹が発見できれば診断は可能であるが,発疹が認められなければ診断はむずかしい.ときに発疹より先に眼瞼の浮腫だけが認められるような時期があり麦粒腫や眼瞼炎と誤診されることがある.よく診察を行うと麦粒腫の場合は主として圧痛が目立ち,痛みの範囲も浮腫の範囲に限局しているのに対し,ヘルペスの場合は眼窩上縁や眼の奥など必ずしも浮腫の部分と一致しない.しかしながら,わかっていながら気がつかないことがあるのがヘルペスである.数日以内の経過で片側の三叉神経支配領域の痛みを訴える症例への対応1.ヘルペスも,その可能性について説明がなされていたかどうかで,診察医に対する信頼度が大きく変わる疾患である.2.ほんの少しでも可能性が疑われる場合,抗ウイルス薬を使わずともヘルペスの可能性について一言でも触れておけば,その後の医師患者関係は非常に良好な関係が保たれる.この場合,患者には発疹が少しでも出てくるようであればすぐに受診するように伝え,“ヘルペスのお薬は診断が確実になったらすぐに使いましょう”と説明しておけばよい.IV原田病原田病はぶどう膜炎,難聴,頭痛が有名であるが,頭皮の異常感覚で受診することがある.具体的には頭ないしは髪の毛をさわられると痛いとか,ピリピリするといった症状であるが,患者の訴えとしては頭が痛いといって受診する.———————————————————————-Page41616あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(66)機能性の頭痛であるので,MRIなどの画像検査では異常を示さない.1.片頭痛(図1)3日から30日の間隔で間欠的に起こるズキズキとした脈打つような痛み.痛みの持続は数時間から3日.頭痛の範囲は頭の片側に偏って起こる.頭痛が起こる前兆として閃輝性暗点を認める.眼科には眼痛よりも閃輝性暗点で受診することが多い.誘発因子:光刺激,騒音,人ごみ,寝不足,過労,食べ物(赤ワイン,チーズ,チョコレートなど).2.緊張性頭痛(図2)頭全体ないしは後頭部を締め付けられるような持続性の痛み.肩こりや眼精疲労などを伴うことが多い.誘発因子:精神的ストレス,肉体的ストレス,VDT(visualdisplayterminal)作業,過労など.3.群発頭痛(図3)12カ月の間ほぼ毎日集中して起こる.1年間のうち最近になって断続的に頭痛がくり返されるといった場合は,動脈瘤も念頭におく必要があると心得ておいたほうがよい.動脈瘤だけは,明日破裂するのか1カ月後に破裂するのか予測することは困難で,もし可能性を疑った場合は眼科医が抱え込まずに脳外科の手にゆだねたほうがよい.急性発症で断続的にくり返し起こる後頭部痛を訴える症例への対応瞳孔異常や複視の有無,眼球運動障害などの有無は必ず確認をして,もし異常所見が認められれば,まずは脳外科への受診を勧め動脈瘤の有無につきコンサルトする.動脈瘤が否定的であれば眼科的な原因精査に努めるようにしましょうと説明する.眼痛以外に症状が認められない場合でも,情報として頻度は高くないかもしれないが動脈瘤の可能性は否定できないことを伝え,患者の希望に沿って脳外科へコンサルトするようにしている.VIII一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛)一次性頭痛は慢性の頭痛で,器質的な疾患を有さない1カ月図1片頭痛1カ月の間に数回の間隔で頭痛をくり返す.片側の頭痛.1カ月図2緊張性頭痛頭全体を締め付けられるように持続性の痛みがある.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071617つ病などから「眼の奥の痛み」を感じる症例がある.眼精疲労とは違い眼を使わなくても症状は改善されない.元の原因が解決されないとなかなか症状の改善が得られない.診断は除外診断で器質的疾患や機能的頭痛ではないことを確認する.詳細な問診は問題発掘の一助になる.このような症例に対しては,眼には心配な病気はないことを伝え,十分に休養をとることが大切であろうと説明をする.このような症例のなかには,頸椎症,頸椎捻挫,低髄圧症候群などの器質的疾患を合わせもつものがある.特に事故や第三者行為などによる場合は,心的なストレスと重なって訴えが増強されてしまうことがある.このような症例では器質的な障害をきちんと評価してあげることにより,心的なストレスを軽減できることがあり,症状が緩和されることがある.おわりに以上のように「眼の奥の痛み」という訴えは非常にポピュラーでありながら,その原因は多岐にわたり,心配のないものから重大な疾患が隠れている場合までさまざまである.なかでも動脈瘤の切迫破裂など緊急性の高い状態が紛れている場合があるため,安易な説明をしていると後に痛い目に遭うことがある.かといって全例にシビアな説明をするわけにもいかず,われわれ診察医にとって対応のむずかしい訴えの一つであろう.筆者がいつも心がけていることは,問診のなかで患者の訴えが「痛みを治してほしい」ということに重きがあるのか,「痛みの原因を調べてほしい」ということに重きがあるのかを考えるようにしている.後者の場合,重大な病気が隠れているのではないかという不安から受診しているものと察し,「ひと言添える」だけでも良好な医師患者が築けるものではないかと思う.参考文献1)日本頭痛学会新国際頭痛分類普及委員会編:国際頭痛分類第2版日本語版.日本頭痛学会誌31:46-51,2004(67)発作が起こる時期は個々の症例でだいたい決まっている.痛みの持続は15分から3時間.頭痛の範囲は,片側の眼球の奥の激しい痛みとともに充血,流涙,鼻水を伴う.時期が過ぎれば自然に消失する.アルコールは頭痛発作を誘発する.一次性頭痛は,前述したとおり眼の症状を訴えて眼科を訪れることもしばしばである.このため,眼科医も各々の頭痛の特徴につき理解しておくとよいであろう.頭痛のパターンを把握する目的で患者に頭痛が起こった日時や持続時間,特徴など日記(頭痛日記)をつけてもらうようにしている.これをすることにより,診察医が頭痛のパターンをより把握しやすくなると同時に,患者自身も誘発因子やどんな体調のときに起こるかなど自分の頭痛のパターンを理解することができる.IX心因性,精神神経性,ストレス,過労,不眠,その他(頸椎症,頸椎捻挫,低髄圧症候群)心的なストレスや肉体的なストレス,過労や不眠,う1年図3群発性頭痛年に23回,集中的に毎日頭痛がくり返される.片側の眼球の奥の激しい痛みと充血,流涙,鼻水を伴う.