———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS起こる自己免疫性局所炎症である.また,涙腺や外眼筋など眼球周囲の眼付属器に局所的に炎症が生じても眼球突出が起こる.眼窩部の感染も眼球突出をひき起こす原因の一つであり,この場合は眼窩部痛を伴うことが多い.細菌感染のほかに真菌もあり,副鼻腔からの波及が多い.眼窩部に腫瘍が発生するときも眼球突出を生じることがある.特に眼球球後や涙腺部に発生するものでは眼球への圧迫効果(masseect)が強いため,眼球突出の出現頻度は高い.さらに頸動脈海綿静脈洞瘻や海綿静脈洞血栓症のような眼窩静脈還流障害でも眼球突出が起こる.II眼の飛び出し方の違い眼球の出かたは疾患によって異なる.それは数日の間はじめに眼球突出は日常の外来診療でそれほど多く遭遇するわけではないが,眼球突出が生じる背景には全身疾患や脳外科的疾患が隠されていることもあるため,その取り扱いには十分注意が必要である.眼球突出はおもに眼窩部あるいは海綿静脈洞病変で生じる症候であり,異常の判定は19mm以上の突出か,2mm以上の左右差で判断する.また,原因疾患の診断にはCT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)などの画像診断が不可欠である.I眼が飛び出る原因眼球突出の原因を表1に示す.眼球球後あるいは眼球周囲に炎症が起こると,眼窩部脂肪組織の腫大が生じその結果として眼球突出が起こる.最も多いのは甲状腺眼症であり,これは眼窩脂肪組織および外眼筋に特異的に(57)1607*MasatoHashimoto:札幌医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学眼科学教室特とっても身な神経眼科あたらしい眼科24(12):16071612,2007飛び出た眼の取り扱いClinicalEvaluationofExophthalmos橋本雅人*表1眼球突出の原因炎症:甲状腺眼症眼窩炎症性偽腫瘍(狭義)涙腺炎(Sjogren症候群,Mikuliz病)眼窩筋炎後部強膜炎感染:眼窩蜂窩織炎眼窩膿瘍真菌(アスペルギローマ,mucormycosisなど)圧迫効果(masseect):眼窩部腫瘍眼窩静脈還流障害:頸動脈海綿静脈洞瘻海綿静脈洞血栓症表2眼球突出発症のタイプ急性型:眼窩蜂窩織炎眼窩膿瘍真菌(アスペルギローマ,mucormycosisなど)眼窩炎症性偽腫瘍(狭義)涙腺炎(Sjogren症候群,Mikuliz病)眼窩筋炎後部強膜炎眼窩部悪性腫瘍眼窩静脈瘤破裂出血性リンパ管腫(出血時)外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻(直接型)慢性型:甲状腺眼症眼窩部良性腫瘍硬膜枝型頸動脈海綿静脈洞瘻———————————————————————-Page21608あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(58)に急激に眼が飛び出してくる急性型と,患者本人が自分では気づかないほどゆっくりと進行して飛び出してくる慢性型の二つに大きく分けられる(表2).急性のタイプには細菌感染が原因で生じる眼窩蜂窩織炎や眼窩膿瘍,さらには炎症性偽腫瘍,眼窩悪性腫瘍などがあげられる.良性の眼窩部腫瘍でも,小児にみられる出血性リンパ管腫や眼窩静脈瘤破裂時も急激な眼球突出が生じ,悪性腫瘍と間違われることがあるので注意を要する.また頭部外傷後などに起こるhigh-owタイプの頸動脈海綿静脈洞瘻(直接型)も充血を伴った急激な眼球突出を示す.一方,眼球突出が慢性のタイプには甲状腺眼症,眼窩良性腫瘍があげられ,他にlow-owタイプである硬膜枝型の頸動脈海綿静脈洞瘻も比較的緩徐な眼球突出を示す.III各疾患の特徴と治療方針1.甲状腺眼症本疾患の9割は女性であり,甲状腺機能亢進症に多くみられるが,機能低下や機能正常でも起こる.初期の眼図1甲状腺眼症の顔写真a:軽度の左眼球突出と左上眼瞼後退(lidretraction)がみられる.b:下方視時の左瞼裂開大(lidlag)がみられる.ab図2眼窩静脈瘤のCT所見a:仰臥位,b:腹臥位.眼窩上方の腫瘍陰影がbのほうがaよりも大きく,体位によって異なる特徴を有する.ab図3出血性リンパ管腫のMRI所見T2強調画像において筋円錐内に多数の小腫瘤(葡萄の房様陰影)を認める(冠状断:a,水平断:b).矢印は液面形成(uid-uidlevel)を示す.ab←———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071609(59)2.眼窩部腫瘍良性,悪性,さらに転移性も含めると数十種類の腫瘍が眼窩部には発生する1).確定診断はあくまでも外科的腫瘍摘出あるいは部分生検による病理診断であるが,CT,MRIなどの画像検査においてきわめて特徴的な所見を有し,画像診断で確定診断が可能なものもある.以下に画像上特徴的な所見を有する眼窩部腫瘍をいくつか症状は上眼瞼の炎症性浮腫が主体で,ステロイドの全身投与が著効する.進行性のものでは外眼筋の炎症性肥厚に伴う眼球運動障害が生じる.重篤なものでは眼窩先端部において全外眼筋肥厚(特に内直筋肥厚の強いもの)による圧迫性視神経症が起こり視力低下をひき起こす.このようなものに対してはステロイドパルス療法や放射線治療を行う.眼球突出の特徴は,その多くが両眼性で慢性的であり,自分では気づかず他人に指摘されて受診するケースも少なくない.また眼瞼後退,瞼裂開大は眼球突出に伴う特徴的な眼症状である(図1).眼球突出に対しては眼窩減圧術を,外眼筋肥厚の結果として残存した眼位ずれに対しては斜視手術を行うこともある.また,喫煙が眼症悪化の最大要因といわれており,禁煙の指導も十分行う必要がある.図5視神経膠腫(neurobromatosis1)のMRI所見T1強調画像連続矢状断画像(上段から下段に向かい1mmずつ外側へ)において視神経の拡大と下方へ屈曲,変位がみられる.図4海綿状血管腫のdynamic造影MRI所見左上段が造影3分後で同スライス面を20秒ごとに連続撮影した.造影開始4分20秒後にようやく腫瘍内造影がみられ(矢印),その後造影効果は徐々に拡大した.———————————————————————-Page41610あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007じる.b.出血性リンパ管腫10歳以下の小児に多くみられる良性腫瘍で,出血時には急性の眼球突出をひき起こす.MRIにて多房性の“葡萄の房様陰影”を示し,腫瘍内陰影ではリンパ液と出血による液面形成(uid-uidlevel)をみる(図3).(60)紹介する.a.眼窩静脈瘤眼窩静脈圧によって腫瘤の大きさが変化するため,仰臥位と腹臥位におけるCT所見が異なる(図2).通常は姿勢によって変化する間歇性眼球突出を示し,突出していないときはむしろ健眼に比べて眼球陥凹を示していることが多い.また静脈瘤破裂時には急激な眼球突出を生b??adcChurg-Strauss症候群(ANCA関連血管炎)の顔写真(c)とMRI所見(d).著明な結膜浮腫を伴った眼球突出を示し,T1強調画像では全外眼筋の腫脹と副鼻腔に広がる腫瘍陰影を認める.図6眼窩炎症性偽腫瘍(広義)のMRI所見a:後部強膜炎.後部強膜およびそれに連なる視神経鞘の造影効果(白矢印)を示す.b:眼窩筋炎.左上眼瞼挙筋および上直筋は腫脹しT2強調画像において高信号を示す(白矢印).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071611診断可能である(図6).狭義の眼窩炎症性偽腫瘍は,病巣が眼窩脂肪であるため画像では境界不鮮明な陰影を示す.したがって眼窩蜂窩織炎との鑑別が最も問題となる.治療はステロイドの全身投与であるが,再発する場合が多いので漸減には注意を要する.4.眼窩感染症細菌感染の場合,眼瞼や副鼻腔からの感染の波及が一般的であり,眼球突出時に眼痛,眼瞼腫脹を伴うことが多い.治療は抗生物質の全身投与であるが,膿瘍を形成した場合は外科的な排膿が必要となる.真菌は眼窩先端部や海綿静脈洞に発症しやすく,ステロイド長期使用者や糖尿病を有する高齢者に多く発症する.治療は抗真菌薬による速やかな全身投与が必要となる.5.頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)頸動脈(多くは内頸動脈硬膜枝)の血管破綻が原因で海綿静脈洞との間に瘻孔を形成する.結果的に眼窩静脈還流障害が生じ,眼球突出が起こる.外傷でみられるhigh-owタイプ(直接型)と高齢者にみられるlow-owタイプ(硬膜枝型)では眼球の出かたが異なるが,どちらも上強膜静脈の怒張と眼圧上昇を伴い,ダイナミックCT,MRIで確定診断が可能である5)(図7).治c.海綿状血管腫中年女性に多くみられる良性腫瘍で,緩徐な眼球突出で気づかれることが多い.画像所見では造影剤の濃染遅延を特徴とするため,ダイナミックMRIによる連続撮影が診断に有用である2)(図4).d.視神経膠腫Neurobromatosistype1にみられる視神経膠腫は視神経の拡大と下方への屈曲を特徴とする3)(図5).眼球突出は慢性的である.e.蝶形骨縁髄膜腫中年女性に多くみられ,慢性視力低下,眼球突出を臨床的特徴とする.特に蝶形骨外縁に生じるタイプでは眼窩骨の肥厚と変形が生じ眼球突出が生じやすい.3.眼窩炎症性偽腫瘍広義の眼窩炎症性偽腫瘍は,眼窩内に生じる非特異的炎症全体をさし,部位によって後部強膜炎,眼窩筋炎,涙腺炎などに分かれる.Wegener肉芽腫やChurg-Strauss症候群に代表されるANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎や,Sjogren症候群,慢性関節リウマチといった膠原病に関連して生じる場合もあるため,自己抗体のチェックが必要である4).眼球突出時には結膜浮腫や充血を伴うことが多く,CT,MRIの画像検査にて(61)ab?図7頸動脈海綿静脈洞瘻の前眼部所見とdynamicMRI所見a:前眼部所見.角膜輪部における上強膜静脈の蛇行拡張がみられる.b:DynamicMRI所見.動脈相において右上眼静脈が造影され(白矢印),動静脈シャントが証明される.———————————————————————-Page61612あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(62)における眼窩腫瘍172例の統計学的検討.眼紀51:163-167,20002)OhtsukaK,HashimotoM,AkibaH:Serialdynamicmag-neticresonanceimagingoforbitalcavernoushemangioma.AmJOphthalmol123:396-398,19973)ImesR,HoytWF:Magneticresonanceimagingsignsofopticnervegliomainneurobromatosis1.AmJOphthal-mol111:729-734,19914)TakanashiT,UchidaS,AritaMetal:Orbitalinamma-torypseudotumorandischemicvasculitisinChurg-Strausssyndrome.Reportoftwocasesandreviewoftheliterature.Ophthalmology108:1129-1133,20015)OhtsukaK,HashimotoM,ImaiYetal:Theresultsofserialdynamicenhancedcomputedtomographyinpatientswithcarotid-cavernoussinusstulas.JpnJOph-thalmol43:559-564,1999療は瘻孔に対して脳外科的塞栓術を行う.おわりにひとくちに眼球突出といっても多彩な原因で起こり,眼の出かたもさまざまである.眼球突出をひき起こしている眼窩部病変をより正確に捉えるために,われわれ眼科医はCT,MRIなどの画像検査に精通することが重要であり,そして今後さらなる新たな画像検査が眼球突出の病態解明に臨床応用されていくことを期待したい.文献1)橋本雅人,大塚賢二,中川喬:札幌医科大学過去17年間