———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS非点収差像面弯曲歪曲先の4種類がおもにボケ(blur)として,最後の1つがゆがみとして認識されるが,通常はすべての収差が複合して発生する.収差に影響を及ぼす要因として,たとえばLASIKのような屈折矯正手術,白内障,調節,眼内レンズなどがあげられ,それぞれ角膜,水晶体の厚み,眼内レンズの球面性に由来し,おもに球面収差が増大する.IIPSFについて上述のように,点像を光学系により結像させる場合,無収差光学系では点光源は点像となるが,実際は,回折が生じるため,点像は広がりをもつ.この光学的強度分布がPSFである.PSFを規定する因子としては,屈折異常,回折,収差,散乱,瞳孔径などがある1).IIIPSFの測定本稿では,若年眼,老視眼,LASIK眼,眼内レンズ眼を対象として測定したPSFにつき概説する.若年眼とLASIK眼は,20代女性で裸眼視力は1.2であった.老視眼と眼内レンズ眼は,近方矯正下で測定した.PSFの測定は,PSFAnalyzerPSF-1000(TOPCON社,図1)を用いて行った.本来,網膜上のPSF(sin-gle-passPSF)を測定できればよい(図2)が,実際にはじめに視野検査は,視覚の感度分布(閾値)を測定する検査である.一般的に視野検査は,被検者の眼から30~33cm前方に設置された視野計の投射面の中央を固視しながら測定を行う.よって検査は,投射面が明瞭に見える視力矯正下で行われる.ここで,調節力がある若年者とない中高年者では,明視域が異なり,閾値に差がでることが予想される.さらに,周辺視野では,収差の影響により,網膜上に形成される点像が大きくなり,測定される閾値にも差を生じる原因となることが予想される.そこで本稿では,若年眼,老視眼,laserinsitukeratomi-leusis(LASIK)眼,眼内レンズ眼の中心ならびに周辺視におけるpointspreadfunction(PSF)を提示し,異なる眼球光学系における各視野測定部位の収差の影響につき概説する.I収差小さい点像を光学系により結像させる場合,無収差光学系では点光源は点像となる.しかし,実際は,点像は広がりをもち一点に収束しない.このずれを収差という.収差の詳細な説明は他項に譲るが,特にSeidel収差は,レンズなどで像をつくるときに,像にボケ(blur)やゆがみを生じることを説明したものであり,以下の5種類に分類される.球面収差コマ収差(69)1479*GenichiroTakahashi:東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科〔別刷請求先〕高橋現一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):1479~1487,2007視野検査と眼球光学系の収差VisualFieldandAberration高橋現一郎*———————————————————————-Page21480あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007は網膜裏面にCCDカメラを置くことは不可能である.したがって,眼底からの反射光を眼外で測定することになる.この方法は,眼球光学系を2回通過するためdouble-passPSFとよばれる1)(図3).今回は,入射径1.3mm,出射径3.0mmおよび4.0mmの異径double-passPSFを0.25Dステップで測定し,single-passPSFを求めた.測定部位は,中心,水平方向の耳側および鼻側の10°,20°,30°,40°,45°とした.周辺視(中心外)の測定は,自作の固視点を設けて前述の角度における測定を可能とした.結果から,PSFの広がりと球面度数を検討した(図4).LASIK眼,眼内レンズ眼では,視力が良好であるにもかかわらず,周辺部で非点収差とコマ収差が若年者,老視眼に比べて明瞭に大きく検出された(図5~15).さらに,LASIK眼,眼内レンズ眼では最小錯乱円が得られる物体距離が,耳側では遠方になっていた(図16).以上より,LASIK眼,眼内レンズ眼では周辺視で,非点収差とコマ収差がみられ,網膜に投影される点像自体が測定部位により異なることが確認された.周辺視野においては,収差が閾値測定結果に影響を及ぼすことが示唆された.(70)図1PSFAnalyzerPSF1000(TOPCON社)図2SinglepassPSF点光源ここにCCDを置きたいPSF(点像)図3DoublepassPSFとsinglepassPSF大きな開口MTF(正確)小さな開口大きな開口大きな開口MTF(低周波)正しくないPTF(低周波)高周波の位相回復Single-passPSF①②③———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071481(71)最小錯乱円前焦線後焦線球面度数,乱視度数と角度が視覚的に読み取れる.物体の距離図4測定によって得られるPSF図5若年者(21歳,女性):鼻側40°のPSF図6老視眼(54歳,男性):鼻側40°のPSF———————————————————————-Page41482あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(72)図7眼内レンズ眼:鼻側10°のPSF図8眼内レンズ眼:鼻側20°のPSF図9眼内レンズ眼:鼻側30°のPSF———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071483(73)図10眼内レンズ眼:鼻側40°のPSF図11LASIK眼(26歳.女性):0°のPSF図12LASIK眼(26歳,女性):耳側10°のPSF———————————————————————-Page61484あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(74)図13LASIK眼(26歳,女性):耳側20°のPSF図14LASIK眼(26歳,女性):耳側30°のPSF図15LASIK眼(26歳,女性):耳側40°のPSF———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071485(75)IV周辺視における収差とStilesCrawford効果上記のPSFの測定結果から,周辺視野において感度低下がみられることが予想されるが,今回はLASIK眼,眼内レンズ眼を含めてすべての対象で視野は正常であった.その原因として,瞳孔径や網膜特性などの関与が考えられる.本稿では,網膜特性について考察してみる.眼球に入射した光は,光学的な因子の他に網膜の視細胞の大きさや配列などの特性によって,視覚として認識される.そのような特性のなかで,本稿では,Stiles-Crawford効果につき概説する.Stiles-Crawford効果とは,網膜の光受容体(視細胞)の方向感受性に基づき,瞳孔の中心部を通る光と周辺部を通る光は,同じエネルギーであっても,周辺部を通る光のほうが,暗く感じるという現象である2).これは眼内に入る平行光線のうち,瞳孔の中央を通る光(放射エネルギー)が最も効果的に視細胞を刺激し,瞳孔の周辺部を通る光は斜めに視細胞を刺激し効果が落ちる現象であり,Stiles-Crawfordeectoftherstkind(SCEⅠ)とよばれている(図17).また,瞳孔の中央と周辺部を通る光により色相も変化し,Stiles-Crawfordeectofthesecondkind(SCEⅡ)という.視細胞,特に錐体細胞はその長軸方向に対して方向感受性があるため,最初の「光子が到達する方向」は重要である.光子は錐体細胞の内節から,光を捕捉する視色素がある外節へと誘導される3)(図18).この過程は光図16測定部位と焦点位置40若年者鼻側0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0角度老視眼眼内レンズ眼LASIK眼焦点位置(D)耳側200204040鼻側1.00-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0角度焦点位置(D)耳側200204040鼻側0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0角度焦点位置(D)耳側2002040鼻側0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0-6.0角度焦点位置(D)耳側2002040図17StilesCrawford効果1.00.90.80.70.60.50.40.30.20.1054321012345瞳孔上の入射位置?(mm)方向効率?/?鼻側耳側———————————————————————-Page81486あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007領域に入った光子は約90%が内節から外節へと通過する.一方,瞳孔縁では,比視感度は0.2~0.4に落ちる.この部分は瞳孔面積の36%に相当し36%の光子を含み,この領域では約30%の光子のみが外節に運ばれる.結局,約50%の光子が錐体細胞の外節に運ばれ,そこで視色素に吸収される.理想的な眼では,あらゆる映像のどんな点に対してもボケ(blur)が起こらない.このような完璧な像を得るためには,外界からの波面を捉え,完全に網膜上に焦点を結ばなければいけない.理想的な眼では,外界からの球面な波を眼内でも球面の波に変換する.この変換した波が完璧な像になるには,2つの条件が求められる.第1には,変換した波が完璧な球面であること,第2には,波面が網膜上のある点に集光することである.もし,集光した点が網膜上でずれていたら,ボケ(blur)が起こることになる.しかし,実際に眼では,網膜へ向かう変換された波面は完璧な球面ではありえず,完璧な像はありえない.このような完璧な球面からのずれが収差であり,光が瞳孔縁を通過するときに起こる回折も完璧な網膜像を妨げる一因である.よって,SCEⅠは網膜において,収差の影響を減弱する効果がある.つまり,球面から逸脱した波面でも瞳孔中心を通る部分は球面に近い形をしているが,瞳孔縁に向かうに従いさらに球面から逸脱した形になる.しかし,SCEⅠによりこの逸脱した形状は減弱して伝わることになる.おわりにLASIK眼や眼内レンズ眼では,周辺視において非点収差とコマ収差がみられ,網膜に投影される点像自体が(76)子が到達した方向性に依存し,錐体細胞の長軸方向に平行に入ったときに,最も効果的である.中心窩の錐体細胞は,瞳孔中心に向かって整列しており,瞳孔中心を通ってきた光子に対して最も感受性がある.一方,瞳孔縁を通った場合は,感受性は約80%減弱する3)(図19).この方向感受性のために,錐体細胞はあたかも小さな瞳孔を通して物を見ているかのようである.瞳孔の中心を通った光子は最もシャープなイメージをつくる,つまり方向感受性により,錐体細胞の外節に入ったイメージのうち一部がシャープになる,という効果の配分が行われていることになる.ここで,SCEⅠと瞳孔の関係を概説する3).中心から1.4mmの部分は,比視感度の0.8~1.0の間にある.これは瞳孔面積の16%に相当し16%の光子を含む.この図18錐体細胞への光の入射中心窩の錐体細胞へ異なった方向から光が入る.(文献3より改変)瞳孔縁を通る光線瞳孔中心を通る光線内節外節中心窩錐体細胞×1×1,000図19StilesCrawford効果と瞳孔(文献3より改変)1.00.80.60.40.20.0相対感度-4-3-2-101234瞳孔上の光線入射位置(mm)7mm瞳孔×10———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071487(77)測定部位により異なることが確認された.しかし,SCEなどの網膜特性や瞳孔系などにより,網膜に投影された点像のボケ(blur)は減弱されている可能性がある.今後,網膜特性も加味した,周辺視と収差の検討が必要であると思われる.文献1)野田徹,小林克彦:MTF,PSF,角膜トポグラフィーと波面センサー(前田直之ほか編),p200-210,メジカルビュー,20022)StilesWS,CrawfordBH:Theluminouseciencyofraysenteringtheeyepupilatdierentpoints.ProcRSocLondBBioSci112:428-450,19333)RodieckRW:TheCaptureofPhotonsbyConesDependsuponTheirDirectionandFrequency,TherstStepsinSeeing.p82-84,SinauerAssociatesInc,Massachusetts,1998