———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS焦点P(0,0,R)を中心とする球面となる.式で表すと,Rを中心にした半径Rの球の式である.x2+y2+(zR)2=R2(1)この式を書き直すと,つぎのようになる.x2+y2+z22zR=0(1¢)この式で,R,x,yに比べて,zが小さい場合を考えると,現実は,x,yがmmの単位で,zがμmのレベルなので,1,000分の1の世界であるので,z2を無視すると,つぎに示すようになる.x2+y2z=───2R(2)これが波面の式となる.波面の式として表すと,w(x,y)=x2+y2───2R=A(x2+y2)(3)はじめに眼光学の多くの書籍では,収差が起きる原因とその呼び方をSeidelの表現によって分類している.そこでは,収差は光線の表現で行われていて,波面の形の表現は用いられていない.最近,qualityofvision(QOV)が叫ばれ,波面センサー13)が世の中にでてきて,いきなりZernike多項式による収差の表現がこれに付随してでてきたものだから,非点収差,球面収差と聞いただけで,Seidelのと同じと思っている方が大半ではないかと思われる.非点収差,コマ収差,球面収差でもZernikeとSeidelとには違いがある.その違いをここでは,まず,Seidelの収差を光線での説明から波面での説明へ直し,Zernike多項式による波面収差の表現の考え方を示し,最後にSeidelとZernikeの表現の関係を示す.結論から述べれば,Zernikeの収差は光が入射してきた方向のみを扱い,Seidelの収差は,入射方向のみのものもあれば,像面弯曲,歪曲収差などの入射方向が異なる収差をまとめたものもあるという違いがあり,Zernikeの個々の波面はSeidelの波面の組み合わせからできているということである.ISeidelの5収差と波面はじめに,理想的なレンズの光線と波面について述べる.図1には無限遠から発する光が無収差レンズを通過して,点像を作っている様子が示してある.図に示すように波面は光線に垂直な面である.その面をつなぐと,(9)1419*KazuhikoOhnuma:千葉大学大学院工学研究科〔別刷請求先〕大沼一彦:〒263-8522千葉市稲毛区弥生町1-33千葉大学大学院工学研究科特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):14191425,2007Seidel収差とZernike多項式の関係RelationbetweenSeidelAberrationandZernikePolynomial大沼一彦*波面光線光軸フォーカス(光線に垂直)P焦点Pを中心とする球面xyzR図1理想レンズの波面———————————————————————-Page21420あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007となる.つまり,波面は出射瞳面でのzの値で表される.ここで,A=1/2Rの関係がある.つまり,Aがわかると,Rがわかり,どこに収束する(焦点を結ぶ)波面であるかがわかる.何らかの要因で,Aが少し変化したとしよう.そうすると,Rが変わるということは,焦点が移動することになる.つまり,(デ)フォーカスである.(デ)とつけたのは,フォーカス(焦点を結ぶ)と同じ波面であるからだ.つぎに,ティルトの波面を示す.図2上部に示すようにレンズが傾くと光軸からずれたところに光が収束する.これは,図2下部に示すように,レンズにプリズムが付加されたとみることができる.プリズムの底辺を通過した光は頂点を通過した光よりも遅れるために折れ曲がることになる.つまり,波面はxに比例して遅れていることを示している.そのため,傾いた平面となる.このときの点像は形を変えないで,移動することになる.さて,つぎからが,Seidelの5収差と波面である.1.球面収差図3には一般的な両凸レンズの光軸に平行な平行光が入射したときに,レンズの周辺を通過した光が光軸に早く交わる様子が示してある.図の右側には,入射高とその交わる点の位置の関係が示されている.光が一番収束するところは最小錯乱円の位置として示してある.従来のテキストではここまでであった.それでは波面の考え方でみてみよう.レンズを通過した直後での光線に垂直な面をみると,無収差の場合よりも,周辺部が急峻であるのがわかる.これは,無収差の場合の球面に新たに,波面が加わったとみることができる.実は,図上部に描いてあるように,2つの波面の合成である.もう一つの波面の形状はレンズの中心からの距離(半径rとすると)の4乗ar4である.ここで,aは定数,これがSeidel4)の球面収差の波面である.この図におけるaは正で正の球面収差とよぶ.この球面収差のために,一点に集まらないのである.そのため,網膜上の点像はボケることになる.この場合,最小錯乱円の位置がレンズに近づくことがわかり,近視化することがわかる.しかし,レンズの前に絞りをおけば,これは瞳孔が小さいことに対応するが,この影響はなくなることがわかる.このことは,昼間は遠くにフォーカスが合っているが,夜,瞳孔が開くと,近方にずれることを示している.これがないようにするのが,非球面眼内レンズということになる.2.コマ収差図4にはレンズの光軸から外れたところにおかれた点光源からの像を表している.像は彗星が尾を引いた形をしているので,コマ(coma)収差とよばれている.これは,レンズの周辺を通過した光が大きな円としての像を作る.その半径はレンズの中心からの距離に依存している.波面で表すと,図の右上に示すように,上が凸で,(10)H:入射高最小錯乱円H波面光線光軸+フォーカス球面収差の波面図3球面収差プリズムプリズム成分の波面(ティルト)レンズが傾くx進んでいる図2ティルトの波面─プリズム通過後の波面,レンズが傾くと発生する収差の一つ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071421下が凹んだ形をしている.フォーカス成分に,このような波面が付加されたためである.この波面を式で示すと,x0r3cosqとなる.つまり,レンズの半径rの3乗に比例して,また,像面の位置x0に比例してその値が大きくなり,これにcosqがかかっているので,qが90°から90°までは正の値でそれ以外は負の値となる.このような状態は,斜めから光が入る周辺視,LASIK(laserinistukeratomileusis)で軸が外れて削った場合,眼内レンズ(IOL)が傾いた場合,IOLが軸ずれを起こした場合に発生する収差である.それは,点光源とレンズの関係をみれば,これらの場合には光源が光軸から離れた関係になるからである.コマ収差があると,像のコントラストは低下するが,偽調節の効果があり,瞳孔が開いても,それなりに解像してみえる.3.非点収差図5にはこれもレンズの光軸からはずれたところにおかれた点光源からの像を表している.2カ所で焦線がみられる非点収差の例である.タンジェンシャル面とサジタル面で焦点が変わっている.この場合の波面は図の右下に示すように,焦点を結ぶフォーカス成分に加えて,平面を一方向に押し付けたような波面が加わり,タンジェンシャル面が進んでいるような波面である.式でみるとx20r2cos2qとなる.つまり,レンズへの入射角度が大きくなり,x0が大きくなると,その2乗に比例して波面の曲がり具合も大きくなることを示している.この収差もコマ収差と同様に,周辺視,LASIKで軸が外れて削った場合,IOLが傾いた場合,また,IOLが軸ずれを起こした場合に発生する.この収差があると,網膜上の点像はぼけることになる.4.像面弯曲この波面は,(3)式で示したフォーカスの波面である.式をみると,ax20r2となっている(aは定数)ので,像面での位置x0の2乗に比例して,その量が変わる(デ)(11)レンズ点光源TangentialSagittal光軸前焦線(Tangentialimage)後焦線(Sagittalimage)x0このような波面が加わった図5非点収差方向ごとにフォーカス量が異なる瞳ペッツバール面ガウス像面231231図6像面弯曲図4コマ収差SPaabbba物体は光軸上にないこのような波面が加わったx0———————————————————————-Page41422あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007フォーカスの波面である.つまり,像面において,光軸の中心から離れると,焦点が短くなることを示している.像ができる場所がレンズのほうへ近づいてくることになる.その様子を図6に示す.この面をペッツバール面とよんでいる.非点収差の波面の式とよく似ている.cosの項だけが違う.非点収差が像面弯曲に加わると,タンジェンシャル面とサジタル面のフォーカスがずれることになる.この収差は,レンズへの入射光線の角度違いをまとめて扱っている.後ほど述べるZernikeにはこのような表現はない.そこで,Zernike多項式でこれらを表す場合は,角度ごとに表すことになり,角度ごとにフォーカス波面の収差となり,その波面の量が角度を増すごとに,大きくなることになる.5.歪曲収差この波面は図2で説明したティルトの波面が,角度ごとに異なる場合である.式で示すとax30xであるので,ティルトの量が,像面の位置x0の3乗に比例して変わることを示している.つまり,中心から離れていくと,大きくティルトの量が変わる.図には入射角度,1,2,3,で入射した光が入射角度で変わるプリズム成分によって角度を変えている様子が示してある.このようなときはaの量が正で,樽のように膨れる.一方,負のときは糸巻きのようになる.後ほど述べるZernikeにはこのような表現はない.そこで,Zernike多項式でこれらを表す場合は,角度ごとに表すことになり,角度ごとにプリズム波面の収差となり,その波面の量が角度を増すごとに,樽歪みの場合大きく,糸巻き歪みのときは小さくなることになる.以上,Seidelの収差の波面について述べてきたが,像面での位置x0に依存している項がいくつもあったのをみてきた.つまり,レンズへの入射角度によって収差量が変わることを示している.これまで,光線として考えてきたこれらの収差がレンズを通過した後,どのような波面となるかを理解されたと思う.それではつぎにZernike多項式との関係を説明する.IIZernike多項式による収差の表現Zernike多項式が扱うのは,入射光線の方向の収差のみを表す.つまり,Seidelでは,像面の座標x0も収差の表現にあったが,Zernike多項式にはない.すでに述べてきたが,光軸に平行に入射したときにもコマ収差,非点収差は発生する.眼球光学系において,角膜,水晶体を一つのレンズと考えると,その形状が回転対称でなくなるとこれらは発生する.Zernike多項式による収差の表現を図8に示す.これらはZernikeの基本波面で,1次,2次,3次,4次の波面である.これらの波面では座標軸x,y,zは右,奥,上の各方向であり,それらを左斜め上から見たときの形(12)樽歪み像面112233プリズム成分が方向で異なるx0糸巻き歪み図7歪曲収差———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071423である.1次はSeidelの収差のところで触れたプリズムによるティルトの波面で方向の異なるのが2つあり,x方向とy方向に傾いた平面の波面である.この波面に垂直な光線を考えると,どんなふうに光が振る舞っているのかが想像できよう.ここで,Z22とZ22が非点収差の波面とよばれている.Z20は(デ)フォーカスである.Z31とZ31はコマ収差,Z33とZ33とはトレフォイル,Z40は球面収差とよばれている.それではSeidelの収差のところで述べた波面と見比べてみると,似ているけれど,(デ)フォーカスの波面以外は少しずつ違うことに気づかれたと思われる.その違いはつぎのところで述べることにする.Zernikeの基本的考え方はある複雑な波面が与えられたときに,そこに,基本波面がどのくらい含まれているかを計算する.基本波面はすべて,半径1mmの範囲で定義されていて,zの値が1から1の値をとる.(デ)フォーカスで,収差1μmの場合を図9に示す.これが,2mm半径,3mm半径では,つまり4mm瞳孔,6mm瞳孔では図に示すように,最大値が1のまま,広げた形となる.ちなみに,1μm(4mm瞳孔)のフォーカスの波面は1Dの近視に対応する.このように単純に値が増大するような波面であれば,瞳孔径の変化に対応して,換算できるが,複雑な場合は4mm瞳孔の値から6mm瞳孔の値を計算することはできない.逆は可能である.(13)2次3次4次1次Z3-1Z2-2Z1-1Z11Z3-3Z4-4Z4-2Z31Z33Z40Z42Z44Z20Z22図8Zernikeの波面─1次から4次の波面xy1z-11-1-1-0.8-0.6-0.4-0.200.20.40.60.81-3中心からの距離(mm)波面(μm):基本波面:6mm瞳孔:4mm瞳孔3210-1-2図9(デ)フォーカスの波面の数値表現———————————————————————-Page61424あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(14)さて,SeidelとZernikeの違いであるが,非点収差,コマ収差,球面収差も異なっている.なぜ,このようなことになるのか,それはZernikeが,基本波面は互いに独立した波面を選んだからである.互いに独立とは,ちょうど,x,y平面のようなもので,この平面上の点と原点を結ぶ直線のベクトルが,x成分とy成分に分けられて,それぞれがどれくらい含まれているかを調べるのと同じである.このとき,xとyは独立である.独立であるとは,xの値をyで表すことはできないということである.このように,複雑な波面を独立した基本波面の重み付け和で表現しようとしたのが,Zernikeである.これは,波面センサーで測定された波面を独立した波面に分解してみて,どのような波面が含まれているかを調べるということに結びつく.独立した波面を求めたため,これまで,中心対称のレンズ系ばかり扱ってきたSeidelに加えて,新しい形の波面があることに注目されたい.たとえば,3次収差のZ33とZ33はトレフォイルとよばれるものである.これらは,加齢とともに現れるもので,三重視の原因である.収差の量の表現には,3次の収差であるトレフォイルとコマ収差をひとまとめにして,その量の2乗和のルート(rootmeansquear:RMS)で,コマ様収差,同様に4次の収差をひとまとめにして球面様収差ととして扱う場合がある.IIISeidelとZernikeの関係非点収差や,球面収差は名前だけが同じで,SeidelとZernikeでは違いがあるのを理解されたと思う.そこで,その違いを詳細に調べてみよう.まずは,非点収差である.図10に示すように,Zernikeの非点収差の波面は鞍のような形をしてZ22,Z22として2つある.式で表すと,√6 ̄a2sin2qと√6 ̄a2cos2q(√6 ̄は係数で,標準化のためにつけてある)である.これらは,回転すると重なる波面である.さて,2番目の式を展開すると,√6 ̄a2cos2q=√6 ̄a2(2cos2q1)=2√6 ̄a2cos2q√6 ̄a2となり,これはSeidelの非点収差の波面マイナス(デ)フォーカスの波面という形である.そのため,(デ)フォーカスの波面をひっくり返して図には示してある.つまり,光学系の焦点を求めるときにもここに含まれる(デ)フォーカス成分を考慮することになる.それでは,像面での点像はどうなるかというと,デフォーカス分移動したところでは,焦線となり,Seidelの収差の像と同じである.デフォーカス分も入ったままでは,丸い形の点像である.そのつぎは,コマ収差の波面である.図11に示すように,Zernikeの基本波面ではZ31とZ31と2つある.その波面の式はa√8 ̄(3s32s)sinq,a√8 ̄(3s32s)cosqである.これは,図11に示すように,Seidelのコマ収差とプ図10SeidelとZernikeの非点収差波面の関係rは半径方向の長さ,qは回転方向.〔非点収差〕〔非点収差〕〔(デ)フォーカス〕ZernikeSeidelr2cos2qZ2-2√6 ̄r2sin2qZ22√6 ̄r2cos2qr2図11SeidelとZernikeのコマ収差波面の関係〔コマ収差〕〔コマ収差〕〔ティルト〕ZernikeSeidelr3sinqrcosq(-2r+3r3)cosq(-2r+3r3)sinqZ3-1Z31———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071425(15)リズムからできている.プリズムの波面は像を移動させるだけなので,点像はSeidelでもZernikeでも同じである.最後は球面収差Z40である.図12に示すように,中心が盛り上がっている形をしている.これはSeidelの球面収差と(デ)フォーカスの波面からできている.式で示すと,a√5 ̄(6s46s2+1)であり,rの4乗がSeidelの球面収差であり,rの2乗がSeidelの(デ)フォーカスである.つまり,(デ)フォーカス成分がここにもあるので,焦点を求めるときには,球面収差の係数も考慮することになる.しかし,(デ)フォーカス成分は,焦点移動なので,その分だけ移動したところでの点像はSeidelも,Zernikeも同じである.(デ)フォーカス成分を入れたままでの点像は,もちろん異なる.これは,焦点移動が加わったときの球面収差の点像であり,大きな同心円の点像となる.プラス1が気になる方がいらっしゃると思う.これは個々の波面は積分すると0になるように作ってある.プラス1はそのためである.おわりに今回は,Seidelの収差とZernikeの多項式の関係を述べた.結論から言えば,焦点移動や,プリズム分が異なるだけで,その分を取り除いてみれば網膜上の点像の形には変化はない.ここでは紹介しなかったが,角度を変えると重なる波面がZernikeの波面にはある.これらの係数と角度という表現の方法5)もあるので,その方法も興味のある方は参考にしていただきたい.なお,ここで用いた多くの図は雑誌,視覚の科学第28巻第1号(2007年3月)から許可を得て一部改編して転載した.文献1)稗田牧:Hartmann-Shackセンサー.前田直之,大鹿哲郎,不二門尚編集;角膜トポグラファーと波面センサー.p120-125,メジカルビュー社,20022)藤枝正直:OPDスキャン.前田直之,大鹿哲郎,不二門尚編集;角膜トポグラファーと波面センサー.p126-131,メジカルビュー社,20023)黒田輝仁:Tschernign収差計.前田直之,大鹿哲郎,不二門尚編集;角膜トポグラファーと波面センサー.p132-134,メジカルビュー社,20024)http://www.optics.arizona.edu/jcwyant/5)CampbellCE:Anewmethodfordescribingtheaberra-tionsoftheeyeusingZernikepolynomials.OptomVisSci80:79-83,2003図12SeidelとZernikeの球面収差波面の関係Zerniker2r4〔球面収差〕Seidel〔球面収差〕Z40〔(デ)フォーカス〕√5 ̄(6r4-6r2+1)