———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLScm(-3.2D)と同じ焦点の条件で,絞り(瞳孔径)を2mmから5mmに変化した場合に得られる網膜像のシミュレーションを行った.その結果を供覧しながら,回折型の特徴を単焦点レンズ,屈折型と比較しながら説明する.その際に,角膜およびIOLの正の球面収差4)(簡単にいえば,この収差特性はレンズの周辺にいくに従って,焦点が短くなるものである)を考慮した場合,それを補正した場合および回折型にアポダイゼーション(瞳孔が大きくなると遠方にエネルギーが多くいくような設計)を付加した場合についても検討を行った.図1にシミュレーションの条件を示す.シミュレーションでは波長が550nmの単波長のもので,可視光のはじめに近年開発された回折型多焦点眼内レンズ(IOL)であるAcrySof?ReSTOR?(米国アルコン社)やTECNISTMZM900(米国AMO社)は初期の回折型のファルマシア社製の811Eに比べて,光学特性が優れ,ハロー,グレアが少なくなり,実用の域に達してきているといわれている1).また,これまで多焦点IOLで主流であった屈折型2,3)と比較して,優れていると思われる臨床上の特性は,瞳孔が小さいときでも,遠近にフォーカスが合うことである.つまり,瞳孔径を気にしないで,手術ができることである.一方,欠点は,その構造上から散乱光があるので,すべての光を有効に利用することができない点である.これは,レンズ表面に微細な加工を施し,その部分で光がいろいろな方向に回折し,特定の2点で光が強め合うように作製するのであるが,どうしても,それ以外の方向へいく光を0になるようにすることがむずかしいためである.このため,入射してきた光の約8割しか結像に使用できず,残りの2割が散乱光となって眼球全体へと広がることになる.これが,ハロー,グレアの問題であり,これは夜間の見え方に影響してくる.確信はもてないが,昨年の第60回日本臨床眼科学会での諸先生の発表を伺うと,それも解決の域にきているようである.今回,筆者は,波面を用いて網膜上の光学像を計算するソフトを開発し,そのソフトを使って,回折型と屈折型で遠方の焦点を2m(-0.5D)に,近方の焦点を31.25(3)???*KazuhikoOhnuma:千葉大学工学部メディカルシステム工学科〔別刷請求先〕大沼一彦:〒263-8522千葉市稲毛区弥生町1-33千葉大学工学部メディカルシステム工学科特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):137~146,2007回折型多焦点眼内レンズの光学特性????????????????????????????????????????????????????????大沼一彦*図1シミュレーションの条件術後の焦点位置を0.5Dと3.2Dとし,Landolt環視標を無限遠から-3.75Dまで,0.25Dずつ移動させて,瞳孔径を2mmから5mmまで変化させたときの網膜上の光学像を求める.DCBAシミュレーションに用いた視標2つの焦点位置角膜とIOLの合成レンズ網膜-0.5DAperturesize(2,3,4,5mmF)0.25Dずつ視標を移動無限遠から-3.75DまでR0.10.40.20.0-0.10.3———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007すべての領域を使う白色光のシミュレーションではない.そのため,色収差による影響は今回扱っていない.シミュレーションに使った視標は自作のLandolt環の画像で,logMARで,-0.1から0.4までのものである.また,視標位置は無限遠から26.7cm(-3.75D)まで,0.25Dごとに行った.ここで示すものはあくまでも網膜上の光学像であり,知覚される像ではない.実際に知覚される像は,もう少し良いコントラスト像になると思われる.I単焦点IOLはじめに,比較のために単焦点IOLのシミュレーションの結果を示す.IOL挿入後の遠方焦点を2m(-0.5D)とした場合で,球面収差がない場合と,ある場合について示す.ここでは角膜+IOLの球面収差量は,平均的な角膜の球面収差量が0.27?mであるので,角膜+IOLの球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径,アメリカンスタンダード表示)とした.最近は非球面IOLがあり,角膜の球面収差を補正して0にするものがあり,この場合も示す.このとき,瞳孔径を2mmから5mmまで1mmおきに変化させた.結果を図2a,b~5a,bに示す.aは球面収差なし,bは球面収差ありである.この結果から球面収差なしの場合では,瞳孔が2mmの場合,近方-1.25Dから無限大まで解像した像が見られることがわかる.もし,術後の遠方焦点を無限遠にしてしまうと,無限遠から近方1.7m(-0.6D)までとなる.一方,1m(-1.0D)に術後の遠方焦点をするようにすれば,無限遠は見えづらくなるが,近方が1.75Dまで見えるようになる.瞳孔が3mmから6mmと増大するに従って,解像した像が見られる範囲が狭くなることがわかる.(4)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図2単焦点IOLの網膜像術後の焦点位置を(2m)0.5Dとし,瞳孔径2mmの場合の無限遠から57cmまでの網膜像.a:球面収差なし,b:球面収差あり.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図3単焦点IOLの網膜像(瞳孔径3mm)a:球面収差なし,b:球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???6mmでは,2mのところだけがよく見えるようになる.球面収差ありの場合では,瞳孔径を2mmと3mmに変化させた場合では,球面収差なしの場合とほとんど差が認識できないが,4mmから5mmと大きくなるに従って,その差が明確となる.つまり,球面収差があることで,解像した像が見られる範囲が広くなるのである.そして,近方にコントラストの良い像が移ってくるのである(=近視化).しかし,そのコントラストは低下していくのがわかる.II屈折型多焦点IOL今回シミュレーションを行った屈折型多焦点IOLのデザインを図6に示す.このレンズデザインは,遠方と近方2つにフォーカスが合うデザインとし,中心のゾーンを遠用としている.したがって瞳孔径が2mmの場合,近方にフォーカスは合わず,単焦点IOLと同じ結果となることがわかる.ここでは,球面収差なしとありについて瞳孔が2mmから5mmと変化した場合を示す.(5)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図5単焦点IOLの網膜像(瞳孔径5mm)a:球面収差なし,b:球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図4単焦点IOLの網膜像(瞳孔径4mm)a:球面収差なし,b:球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合.2.13.43.94.66.0mm:近用:遠用図6屈折型の多焦点眼内レンズのデザイン(中心遠用型の5ゾーン)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,20071.球面収差なしの場合術後の遠方焦点が2m(-0.5D),近方焦点が31.25cm(-3.2D)となり,球面収差をIOLが補正して0になる場合の結果を図7~11に示す.瞳孔径が2.0mmの場合,単焦点と同様の結果が得られた.瞳孔径を3mm,4mm,5mmと変化させると,遠方での解像の範囲が近方に比べて広いのがわかる.その広さは,単焦点の3mm瞳孔のときよりも広く,優れた特性である.これは,3mm瞳孔径でも,3mm全体が遠方の結像に使われているのではなくて,第1ゾーン(2.1mm)が使われているためである.一方,近方の像は瞳孔が4mm,5mmでは,その範囲は少し狭くなる.このように2つの焦点距離が離れている場合,中間距離のボケが大きいこともわかる.これらの結果より,瞳孔径が3mm以下の眼には,このレンズは単焦点レンズとして働くことがわかり,術前に瞳孔径の計測が必須であり,3mm以上の瞳孔径を常にもたない眼には多焦点レンズの機能は働かず,意味のないものになる.(6)図7屈折型多焦点眼内レンズで,球面収差なし,瞳孔径2mmの場合の無限遠から27cmまでの網膜像∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図9屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図8屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径3mmの場合———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???2.球面収差ありの場合単焦点レンズと同様に,球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合を図11~14に示す.球面収差の影響は,3mmから5mm瞳孔径において,球面収差なしの場合と比較して遠方および近方の焦点が近方へずれている(=近視化).さらに,像のコントラストが,3mm瞳孔から5mm瞳孔へと大きくなるに従って低下している.球面収差があっても,瞳孔径が3mm以下の眼では多焦点効果が得られにくいと考える.III回折型多焦点IOL今回シミュレーションを行った回折型多焦点IOLのデザインは,現在欧米などにて販売されている回折型多焦点IOLと同一ではなく,屈折型の比較を行うため,近用加入度を3.4D(眼鏡度数換算で加入度2.7D)のレンズとした.加入度が大きい場合は,中間の領域が広がるものと想像していただきたい.アポダイゼーションについてシミュレーションを行うときは,レンズの周辺部(7)にいくに従って遠方のエネルギーが増大するもの,つまり,瞳孔が開いたときに遠方重視になるようにした.1.球面収差なしの場合術後の遠方焦点が2m(-0.5D),近方焦点が31.25cm(-3.2D)となり,球面収差をIOLが補正して0になる場合の結果を図15~18に示す.この結果から,遠方の見え方が単焦点IOLと同様の結果となった.近方の見え方は,単焦点の見え方が近方にシフトしているだけで同じであることがわかる.つまり,2つの焦点距離の異なるレンズの像が重なっているのである.このことより,回折型では瞳孔径のサイズによる解像の差が少なく,瞳孔径を考慮する必要がないと考えられる.ただ,屈折型と比較すると,瞳孔が開いていくと,遠方で解像している範囲が狭くなり,特定の距離のコントラストが高くなるのがわかる.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図10屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径5mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図11屈折型多焦点眼内レンズで,球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径2mmの場合の無限遠から27cmまでの網膜像———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(8)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図12屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径3mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図13屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図14屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径5mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図15回折型多焦点眼内レンズで,球面収差なし,瞳孔径2mmの場合の無限遠から27cmまでの網膜像———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(9)2.球面収差がある場合単焦点レンズと同様に,球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合を図19~22に示す.これは,単焦点IOLの球面収差ありとまったく同様に,遠方と近方の焦点付近に,球面収差の影響で近視化と解像する範囲の広がり,コントラストの低下がみられる.3.アポダイゼーションのある場合今回,遠方重視になるように設計したアポダイゼーションを図23に示す.もちろん,これらは,夜間における遠方のコントラストの重視を狙っている.球面収差なしの場合で,瞳孔径が4mmと5mmのシミュレーションの結果を図24,25に示す.瞳孔径が2mm,3mmではアポダイゼーションの効果はほとんどなく,4mmを超えると,遠方のコントラストが良くなり,近方のコントラストが低下するのがわかる.ここには示さないが,球面収差ありの場合は,さらに近方のコントラストが低下してしまい,クリアに解像した像は得られなかった.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図16回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径3mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図17回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図18回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径5mmの場合———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(10)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図19回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径2mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図20回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径3mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図21回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図22回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径5mmの場合———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(11)おわりに今回,回折型多焦点IOLの光学特性について,距離ごとの網膜像を用いて単焦点IOL,屈折型多焦点IOLと比較して,その特徴を検討した.今回のシミュレーションでわかったのは,瞳孔の小さい場合でも回折型は適応可能であることである.しかし,瞳孔が開くと,球面収差なしの場合は,解像している範囲が狭くなり,屈折型のほうがその点は優れているように思われる.今回のシミュレーションはあくまでも網膜のうえの光学像であり,実際の昼間の見え方では,もう少しコントラストは良いと思われる.しかし,夜間の見え方では,ぼぁーとしたハロー,グレアがさらに強調されて見えることになるものと思われる.収差については,球面収差のほかに非点収差,コマ収差の存在も無視できないが,今回は紙面の都合上示さなかった.多焦点IOLの特性で一番気になるのは,中間の見え方が悪いことである.これは加入度が高いためである.少し加入度を下げて,中間の見え方を良くすることも考えられる.加入度を下げることにより無限遠から近方が50cmくらいまで見えるようになれば,生活に不自由はないと思われる.ただ,そのときに,2つの焦点による像が重なり,コントラストが低下し,特に近方の見え方が悪くなるようでは困るので,レンズにはなにか工夫がいるように思われる.これは,余談であるが,「人間は2つの像のどちらかを選択してみている」という話があるが,これらのシミュレーションの結果をみると,遠方や近方の像は選択∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図24回折型多焦点眼内レンズの網膜像アポダイゼーションあり,球面収差なし,瞳孔径4mmの場合43210レンズ中心からの距離(mm):近用:遠用強度透過率1.00.80.60.40.20図23シミュレーションにおけるアポダイゼーションレンズ中心から周辺に向かうにつれて,遠方へエネルギーが集中するようになっている.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図25回折型多焦点眼内レンズの網膜像アポダイゼーションあり,球面収差なし,瞳孔径5mmの場合———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(12)する必要はないし,中間の距離での像はどちらを選択するのであろうか?仮にどちらかを選択できても(そんな方法は思いもつかないが)ボケた像である.最後に,一般的に多くの近用視力表の測定距離は30cmとなっているが,患者のQOL(qualityoflife)を考慮し,今後は柔軟な近方視の評価方法を検討する必要があるのではないだろうか.文献1)LaneSS,MorrisM,NordanLetal:Multifocalintraocularlenses.????????????????????????19:89-105,20062)KawamoritaT,UozatoH:Modulationtransferfunctionandpupilsizeinmultifocalandmonofocalintraocularlensesinvitro.???????????????????????31:2379-2385,20053)LeeES,LeeSY,JeongSYetal:E?ectofpostoperativerefractiveerroronvisualacuityandpatientsatisfactionafterimplantationoftheArraymultifocalintraocularlens.???????????????????????31:1960-1965,20054)HalladayJT,PiersPA,KoranyiGetal:Anewintraocu-larlensdesigntoreducesphericalaberrationofpseudo-phakiceyes.??????????????18:683-691,2002