———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療これまでの動物実験・組織学的研究・薬剤の臨床効果から滲出型加齢黄斑変性の病態にVEGF-Aが関与していることは間違いないでしょう.欧米では抗VEGF治療薬として滲出型加齢黄斑変性に対してpegaptanib(Macugen?)1),ranibizumab(Lucentis?)2)が承認されています.VEGF-Aは種々のアイソフォームをもっています.Pegaptanibはアプタマーとよばれるオリゴヌクレオチド製剤であり,VEGF165には結合しますが,VEGF121には結合しないため,作用が弱い反面,安全性が高いと推測されてきました.一方,bevacizumab(Avastin?)はマウス由来の抗ヒトVEGF中和抗体として転移性大腸癌・結腸癌に対して国内でも承認されています.しかし,全長の抗体であるbevacizumabは硝子体内注入した場合の網膜内移行性が悪いと推測され,抗VEGF中和抗体のFabフラグメントからつくられたより小さな分子量の誘導体としてranibizumabが開発されました.VEGFアイソフォームに対する特異性はなく,すべてのアイソフォームのVEGF-Aを阻害します.さらに,アミノ酸配列を少し変え,VEGFへの親和性はbevaci-zumabよりも高められています.また,最近bevaci-zumabもranibizumabと同等か,それ以上の加齢黄斑変性に対する治療効果があるのではないかと考えられ盛んに臨床使用されています3).VEGFTrap滲出型加齢黄斑変性に対してpegaptanib,ranibi-zumabにつづく第3の抗VEGF製剤として期待されているのがa?ibercept(VEGFTrap)4~6)です.VEGFTrapはVEGFreceptor1(FLT1)の細胞外イムノグロブリンドメイン2とVEGFreceptor2(KDR)の細胞外イムノグロブリンドメイン3とをヒトIgG1Fcとに結合させた可溶性融合蛋白で,胎盤成長因子(PIGF),すべてのアイソフォームのVEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,VEGF-Dと結合します(図1)6).VEGFTrapのVEGF-Aとの結合能はKd<1pmol/?と非常に高いと報告されています4).また,VEGF165とのみ結合するpegaptanib,VEGF-Aとのみ結合するranibizumabと比べて,VEGFTrapはすべてのアイソフォームのVEGF-Aと結合するだけではなく,血管増殖作用のあるPIGFなどとも結合することにより,これまでの製剤と比べて高い血管新生抑制効果が期待されています.さらに,Fcフラグメントで結合されていることにより,半減期が長くなっています.これまで,進行卵巣癌に対して,phaseII臨床試験が行われ,有効性・安全性が報告されています.眼科領域ではレーザーを用いた脈絡膜新生血管モデルにおいて,マウス,サルでの有効性が示されています.投与方法としては全身投与(VEGFTrap)と硝子体内投与(VEGFTrap-Eye)があります.VEGFTrap治療成績2006年,滲出型加齢黄斑変性に対するVEGFTrapの静脈内投与のphaseI(無作為,多施設,プラセボコントロール)臨床試験の結果が報告されました5).0.3~(75)◆シリーズ第81回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊辻川明孝(京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学)加齢黄斑変性に対する最新抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)療法─A?ibercept(VEGFTrap-Eye)─図1VEGFTrapの構造(文献6より)ヒトVEGFR1(FLT1)の細胞外イムノグロブリンドメイン2とVEGFR2(KDR)の細胞外イムノグロブリンドメイン3とをヒトIgG1Fcとに結合させた融合蛋白.VEGF:vascularendothelialgrowthfactor.VEGFR1:VEGFreceptor1.VEGFR2:VEGFreceptor2.①②③④⑤⑥⑦VEGFR1KinaseKd10~20pMKd<1pMKinaseKd100~300pMVEGFTrap②③Fc①②③④⑤⑥⑦VEGFR2②③———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,20073.0mg/kgのVEGFTrapを滲出型加齢黄斑変性19症例に対して静脈内投与し,視力改善効果,網膜厚減少効果はいずれの濃度でも認められました.しかし,高濃度では高血圧,蛋白尿などの副作用がみられたため中止に至っています.一方,滲出型加齢黄斑変性に対するVEGFTrap-Eyeの硝子体内投与に関してはphaseII(無作為,多施設)臨床試験が行われており,中間解析の結果が2007年のARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)で報告されました.滲出型加齢黄斑変性150例に対してVEGFTrap-Eye硝子体内投与を行い,12週間の経過観察を終えた78例に関する中間解析です.この試験では,0.5mgまたは2.0mgのVEGFTrap-Eyeの4週間間隔での硝子体内投与および0.5mg,2.0mgまたは4.0mgのVEGFTrap-Eyeの単回投与後の12週間での有効性,安全性について評価を受けています.すべてのグループの総計で網膜厚は平均135?m減少し(p<0.0001),視力も平均5.9文字増加しています(p<0.0001).また,糖尿病網膜症に対しても,phaseI臨床試験が行われ,VEGFTrap-Eyeの単回投与の安全性が報告されています.加齢黄斑変性に対する今後の治療VEGFTrap-EyeのphaseIII臨床試験は2007年秋頃からの実施に向け,滲出型加齢黄斑変性に対して,4週間,8週間間隔でのVEGFTrap-Eye投与と4週間間隔でのLucentis?投与との治療効果を比較することが計画されています.VEGFTrap-Eyeの治療効果が,pegaptanib,ranibizumab,bevacizumabより高いかどうかは現時点では不明です.しかし,たとえ効果が高かったとしても,視力改善効果が極端に違うことはないでしょう.いったん,中心窩下にtype2脈絡膜新生血管が生じてしまうと完全に消失することはまれで,治療を行ってもあまり良い視力は期待できません.しかし,治療間隔を長くできるという点では大いに期待をもつことができます.1カ月に1回の硝子体内注射は現実的には治療を行う側にとっても,受ける側にとっても大変なものがあります.2カ月に1回,できれば3カ月に1回でしたらかなり負担は違ってくるでしょう.文献1)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJretal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.????????????351:2805-2816,20042)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1419-1431,20063)AveryRL,PieramiciDJ,RabenaMDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.?????????????113:363-372,20064)HolashJ,DavisS,PapadopoulosNetal:VEGF-Trap:aVEGFblockerwithpotentantitumore?ects.??????????????????????99:11393-11398,20025)NguyenQD,ShahSM,Ha?zGetal:AphaseItrialofanIV-administeredvascularendothelialgrowthfactortrapfortreatmentinpatientswithchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegeneration.?????????????113:1522-1532,20066)RiniBI,RathmellWK:Biologicalaspectsandbindingstrategiesofvascularendothelialgrowthfactorinrenalcellcarcinoma.???????????????13:741s-746s,2007(76)■「加齢黄斑変性に対する最新抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)療法」を読んで■今回は辻川明孝先生による,VEGFの作用の制御のための新しい薬物の解説です.血管新生が病態の本態である加齢黄斑変性の治療薬として,これまでのpegaptanib(Macugen?),抗VEGF中和抗体と比較しつつ大変わかりやすく解説していただきました.1回の硝子体内注射での効果に差があるかどうかは今後の詳細な検討を待ってということですが,「Fcフラグメントで結合されていることにより,半減期が長くなっています.」とのアドバンテージがあり,今後の治療薬として臨床の現場での有効性が期待されます.VEGFは眼科領域では循環障害などの病態に伴って発生する血管新生,血管の透過性亢進に伴う網膜の浮腫といった病態に中心的な役割をはたしていることが,分子細胞生物学的,???????での研究などにより明らかにされてきました.今回紹介のあった種々のVEGFの作用の抑制により上記の病態が抑制,治癒させられることが明らかになり,VEGFの病態における位置づけが科学的にきちんと確立されたことにな─A?ibercept(VEGFTrap-Eye)─———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(77)☆☆☆ります.今後ますます種々の薬物がVEGFの作用をターゲットとして開発されると考えられます.その際に,どのような時期にこれらの薬物を使うかという臨床医としては最も重要な問題を今後解決していく必要があります.まずは加齢黄斑変性のようにきわめて長期にわたって進行する疾患のどの時期にどのような薬物をどのようなツールで(ドラッグデリバリー)使用するかを明らかにする必要があります.また,長期にわたって使用した場合の予期せぬ副作用にも注意が必要です.そして,種々の抗VEGF薬が開発されたときにそれぞれの効果の比較検証を誰がやるかという問題もあります.辻川先生もそのような観点で総説をわかりやすく書いていただきました.学会でもトピックスになっている最先端の治療法の基礎をまとめて理解する良い機会を与えていただいたことに感謝します.山形大学医学部視覚病態学山下英俊