———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS「失敗学」の勧めで有名な畑村洋太郎先生が技術を正しく,発展するように伝えていくためにはどうするかを体系的にわかりやすく解説したすばらしい本です.われわれ眼科医は眼科という一種の技術を発展させていくことにより国民の視覚をまもることが仕事の使命です.この際に大切なことは次世代を育成し,われわれが解決できなかった問題を解決していってくれるシステムを構築することです.時代は厚生労働省が新臨床研修制度を導入して,新しい眼科医をどのようにして育成していくかに大きな関心が高まっています.本書ではおもに伝える側の視点にたって,どのようにして伝えるべきものを正しく伝えていくかを豊富な事例と多角的な視点からわかりやすく解説しています.伝えるべき技術は,眼科でいうと白内障の手術のやり方とか,網膜光凝固のやり方といった狭い範囲のものではなく(これは技能に属するとしています),「知識やシステムを使い,他の人と関係しながら全体を作り上げていくやり方」と定義しています.伝えるべきはそれぞれの知識を有機的な意義を考えられる能力を指しているように捉えました.畑村先生は回転ドアの事例を出しておられます.回転ドアに子供さんが挾まれて亡くなるという痛ましい事故の経緯を調べると,「回転ドアは軽くなければ危ない」という大切な知識が伝わらず,とぎれたまま設計がなされたそうです.軽いドアであれば挾まれても軽い怪我ですみます.その意味づけがうまく伝わらなかった.眼科学を含む臨床医学でも多くの知識が蓄積されていますが,その多くに意義,意味があるはずです.それを理解して新しい診断,治療の技術を開発することが臨床医学の進歩ということになります.進歩を支えるのも技術の正しい伝達ということになります.われわれが新人を教育するときには上記の文章「知識やシステムを使い,云々」の上に「眼科学の」とつければいいことになります.うまく技術が伝わるうえで一番大切なことは受け入れる側にその素地をつくること,受け入れの動機づけがうまくできていることと畑村先生は説きます.そのために大切なポイントとして5項目をあげておられます.1)まず体験させろ2)はじめに全体を見せろ3)やらせたことの結果を必ず確認しろ4)一度に全部を伝える必要はない5)個はそれぞれ違うことを認めろです.一つひとつが腑に落ちる内容のある言葉です.動機づけの観点からいいますと,まずは体験させ,失敗の体験を含めて今後の眼科医としての向上のやる気につなげてやります.失敗といってももちろん患者さんに迷惑を絶対にかけないように指導医が入念にチェックしつつ,ある部門での仕事を責任をもってやらせることが大切であるということです.そして,全体像を見せることで,眼科学の面白さ,難しさ,一生をかける価値のある学問であり仕事であることを示すことができます.あとの3項目についてはそれぞれ読んで字のごとくです.このような教育の場での理想的な環境として「でき上がった形をそのまま伝えるのではなく,欲しい人が自分でむしり取る」のが大切と述べられています.臨床医学の教育で指導医について一日中診療をみながら1対1での教育をしていることも多いと考えますが,それがこれにあたると考えます.ただ,むしり取る側の意欲は特に大切ということに変わりはありません.最後にこのような教育の現場となる組織について『とくに伝達することを意識していないものの,すべての活動を通じて自然に伝わったり,伝わってほしいものもあ(81)■2月の推薦図書■組織を強くする技術の伝え方畑村洋太郎著(講談社現代新書)シリーズ─70◆山下英俊山形大学医学部視覚病態学———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007ります.それは「価値観」や「信頼感」「責任感」といった「企業文化」「気」です』という記述があります.これは眼科を含めて臨床医学におけるまさに医局の果たしてきた役割ではないかと考えます.多くの優れた先輩が営々として築き上げてきた大切な価値観(「責任感」や「信頼感」)を伝えていく母体が必要です.これは上記の1対1の人間関係でもできる場合と不幸にしてできない場合があるでしょう.それをかなりの確率で伝達可能にしていく場が教育の安定的な継続を生み出し,これが優秀な医師を陸続として世の中に送り出す教育機関が存在し続ける礎になると考えます.本書は指導的な立場にたつ眼科医が読むと必ず自分の教育について深く考え,検証して今後の指導に役立つと考えます.また,これから指導を受ける眼科医もどのような方針で教育をうけるかという,自分のうける教育のチェックポイントを教えられたようなものなので,ぜひ読んでみては如何でしょうか?指導を受ける側も必ず指導する側に回ります.その際によりよい教育をしてすぐれた医師を育てるときの大きな参考になるでしょう.(82)☆☆☆眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■