———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS関係するかについて,眼科医として知っておくべきことを述べる.I網膜像の劣化の原因網膜像の劣化をきたす原因には回折,散乱,高次収差がある(図2).回折は光が波の性質をもつことにより,スリット状の細い部分を通過したあとに回り込むため像がぼけるというものであるが,瞳孔径が2mm以下で影響が出る.散乱には霧視を生じる前方散乱と網膜照度の低下をきたす後方散乱がある.後方散乱は,Scheimp-ugカメラで臨床的に評価されてきた.単眼複視などを生じる高次収差は,瞳孔が大きくなると増大する.これは散瞳すると見にくくなる原因でもある(図3).逆にいはじめに眼科学は臨床医学であり,眼科医は患者の見え方の質を向上させることが務めである.一方,波面光学は精密科学で,有効数字は数桁になる.眼科学では有効数字はせいぜい2桁で,強度の乱視でも眼鏡処方時には,乱視軸は5°きざみとなる.この違いは一つには,眼鏡はフレームのフィッティングの変化で数度の軸ずれが起こる可能性があるという外的要因であり,もう一つは中枢神経系の適応が働くという内的要因である(図1).本稿では,有効数字2桁の眼科臨床に,波面光学がどのように(3)1413*TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):14131418,2007眼科学と波面光学OphthalmologyandWavefrontOptics不二門尚*図1見え方の質に関係する要素眼球光学系と網膜内情報処理系,視覚中枢の情報処理系の総和が見え方の質に関係する.眼球光学系網膜視覚中枢**視覚系のMTF図2網膜像劣化の原因となる因子瞳孔による回折,前方散乱,後方散乱,高次収差が網膜像劣化の原因となる.後方散乱はScheimpug像で,高次収差はHartmann像から評価される.前方散乱高次収差後方散乱回折———————————————————————-Page21414あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007えば,瞳孔の小さな条件(たとえば高齢者が昼間見るときなど)では高次収差の影響は少なく,散乱の影響が大きくなると考えられる.II波面センサーの原理高次収差は波面センサーの開発で,定量的に評価することが可能になった1).Hartmann-Shack波面センサーは,中心窩からの反帰光を瞳孔面と共役の位置においたCCDカメラに,100個以上配した小さなレンズを通して集光させることにより,眼球の局所の屈折状態が把握できる装置である.Hartmann像の各spotのずれから波面関数を求め,Zernike多項式で展開し,その係数から収差が求められる2).古典的収差として有名なコマ収差や球面収差などが定量的に求められる.波面関数を瞳関数に変換した後,Fourier変換するとPSF(pointspreadfunction)が求められる(図4).眼球全体の収差は,角膜前面,角膜後面,水晶体の各部位の収差から構成されるが,角膜後面の影響は小さいので,主として角膜前面の収差と水晶体の収差からなると考えられる.円錐角膜などの角膜前面の高次収差は,(4)図3網膜像と瞳孔径の関係45歳の正常人の波面収差から計算された,瞳孔径を変えた場合の高次収差値(rootmeansquare値)および網膜像.高次収差は,瞳孔の大きさが大きくなると増加する.網膜像は瞳孔1mmでは回折の影響で劣化する.2mmでは高次収差の影響がほとんど現れず良好な網膜像となる.瞳孔が大きくなるにつれ,網膜像が劣化することが示される.1mm(0.02μm)瞳孔径(高次収差量)2mm(0.04μm)3mm(0.09μm)0.51.0PSF6mm(0.57μm)7mm(0.76μm)4mm(0.19μm)視標瞳孔径(高次収差量)0.51.0PSF視標図4Hartmann像からZernike係数およびPSFを求める方法———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071415角膜形状解析装置で測定できるが,水晶体に起因する高次収差は,波面センサーによる全収差と角膜の収差を比較して初めて評価できる.波面センサーには,角膜形状解析装置も装備されているものがあり,全収差と角膜収差を比較検討できる.III眼球光学系の加齢変化と波面光学加齢とともに視覚の質(qualityofvision)の低下が自覚される.視力検査はコントラストの強い視標を使用しているので,軽度白内障の場合視力低下はみられないが,コントラスト感度の低下が認められるケースがある.このようなケースでは,細隙灯顕微鏡検査で,水晶体に混濁はないが,皮質部位が光学的に不均一になっている像がしばしばみられる.網膜像の劣化は,水晶体の混濁に起因する散乱と水晶体の不均一な屈折率に起因する不正乱視(高次収差)によりもたらされ,これは波面センサーで定量的に評価される.加齢により高次収差は増加するが,角膜においては主としてコマ収差が増大し3),眼球全体では球面収差が増大する4)(図5A).眼球全体における球面収差の増大は,老視年齢の50歳代で急に起こることが特徴で,これは主として水晶体の変化に起因すると考えられる.一方,乱視に関しては,全乱視は水晶体による代償機構により全乱視は角膜乱視より少ないが,加齢とともに全乱視は倒乱視化する.これも水晶体の加齢性変化と考えられる4)(図5B).核白内障では,近視化が進むことが知られているが,このような症例のHartmann像は,中央にspotが集まる凹レンズ型の配列となる(図6A)5).これは核の部分の屈折力が増すことにより,負の球面収差が増大することに起因する(図6I).このような症例に眼内レンズ挿入術を行うと,Hartmann像はほぼ格子状で,やや凸レンズ状になる(図6C).これは眼内レンズが正の球面収差をもっていることに起因し,これを補正する非球面の眼内レンズが現在市販されている.皮質白内障では,このような負の球面収差は起こらず,むしろ正の球面収差が増大する5).収差と視機能の関係を白内障症例で検討すると,全高次収差と,中高空間周波数領域でのコントラスト感度の低下が比較的よく相関することが示された5).コントラスト感度の低下は,Scheimpug像から求めた後方散乱とも相関するが,散乱強度と全高次収差は相関しない.したがって白内障の見にくさは,散乱による網膜像の劣化と収差による網膜像の歪みが両方に起因すると考えられる.若年者の核白内障では,三重視を訴える場合がある6).これまで単眼多重視を他覚的に証明することができなかった.波面センサーで,三重視の症例を解析すると,負の球面収差と3次の収差がともに増大することがわかり(図6I),また網膜像のシミュレーションで三重視がみられた(図6J)6).三重視の症例は,視力が良好なことが多い(混濁による散乱が少なく,収差による像の重なりが主になる)が,読書が困難になるので手術の適応と考えられる.軽度白内障にoccultmaculardystrophyなどの網膜疾患の合併が疑われた場合,視力低下が白内障によるも(5)図5球面収差(A)および乱視(B)の加齢変化50歳代で著明に眼球全体の球面収差が増加する(A).乱視は直乱視が50歳代で倒乱視化する(B).*p<0.01:Pairedt-test,†p<0.05:OnewayANOVA.00.050.10.150.20.250.3A1020304050(年齢:歳):眼球:角膜1020304050(年齢:歳):眼球:角膜***†††††-2.5-2-1.5-1-0.500.511.5*B****††球面収差μmRMS直乱視(D)———————————————————————-Page41416あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(6)図6単眼三重視を訴えた症例の波面解析(右眼)A,C:術前後のHartmann像,B,D:術前後の細隙灯顕微鏡像,E,G:術前後の角膜高次収差マップ,I,K:術前後の眼球全体の高次収差マップ,F,H:視力0.1の視標の網膜像シミュレーション,J,L:視力1.0の視標の網膜像シミュレーション.細隙灯顕微鏡像では初期の核白内障が観察された.波面センサーによる検査では,角膜の高次収差は軽度であったが,眼球全体の高次収差は,中央の波面が遅れ周辺にクローバー型の波面が速い部分が認められた.Landolt環の網膜像のシミュレーションでは,三重視が示された.術後自覚的な三重視は消失し,網膜像のシミュレーションでも三重視は消失した.(文献6より許可を得て転載)ACDEFHIJKLBG図7球面収差の大きいソフトコンタクトレンズ(SCL)装用後の順応A:SCL装用後の高次収差マップ(左)と網膜像シミュレーション,B:コントラスト感度の時間経過.C:10%および100%コントラスト視力表(CSV-1000)による視力値の時間経過.時間経過とともにコントラスト感度および視力が改善した(n=4).0.000.501.001.502.002.503.0空間周波数(cycles/degree)logコントラスト感度:0:30:60:90:120-0.400-0.300-0.200-0.1000.0000.1000.2000.300時間(分)logMAR:100%:10%VA20/10020/4020/20ABC18.0012.06.0306090120———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071417(7)のか否か,苦慮する場合がある.波面センサーによる収差測定は,白内障による網膜像の劣化を知るうえでよい指標となる.IV収差と中枢神経系の適応乱視の眼鏡をかけた直後には像が弯曲して見えるが,時間経過とともに気にならなくなる.これは中枢神経系の適応効果(adaptation)と考えられる.このようなadaptationは,高次収差に対しても生じる7).実験的に球面収差の大きいソフトコンタクトレンズを負荷してコントラスト感度および視力をみると,時間経過とともにコントラスト感度および視力の改善傾向がみられる(図7).ゆっくり進行する白内障の患者が,あまり見え方の不便を訴えないのは,このような中枢の適応機構が働いている可能性がある.V補償光学:波面光学の応用近年,天体望遠鏡で使用されている補償光学(adap-tiveoptics)の技術を用いると,視細胞を生体で2次元的に画像化できるという報告がRoordaA,WilliamsDら8)により報告された.眼底に光を投影した後,網膜から反射され眼外に射出された光は,眼球光学系の収差により歪んだ波面をしている.これを波面センサーにより実時間で測定し,収差を補正する信号を可変鏡に送ることにより,眼底カメラに送られる光の波面を補正することが可能となる(図8).これは補償光学眼カメラとよばれている装置である.6mmの瞳径で収差を0.1μmroot図8補償光学眼底カメラの原理図網膜から反射され眼外に射出された光は,眼球光学系の収差により歪んだ波面をしている.これを波面センサーにより実時間で測定し,収差を補正する信号を可変鏡に送ることにより,眼底カメラに送られる光の波面を補正することが可能となる.(収差測定)波面センサー可変鏡(収差補正)眼底カメラ歪んだ波面補正された波面図9補償光学眼底カメラによる錐体の描出正視30歳,女性の眼底,錐体のモザイクがみられる.図10近視眼における眼軸(A)および屈折度(B)と錐体間距離の関係眼軸長の延長に比例し,屈折度に反比例して錐体間距離は延長する.ABy=-2.47+0.27xr=0.77,p=0.001y=3.98-0.13xr=0.76,p=0.0026543Conespacing(μm)Axiallength(mm)22242628306543Conespacing(μm)Refraction(D)-14-10-12-8-6-4-220———————————————————————-Page61418あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(8)meansquare(RMS)程度以下にまで補正すると,得られた眼底像は,理論的に錐体を弁別可能な分解能をもつことになる.Roordaらにより最初に報告された装置は大変大きく,臨床的に使用することは困難なため,筆者らは液晶可変ミラーを用いて小型化することにより,臨床で使用可能になることを目指した装置を開発した.正視の正常人の眼底で,中心窩より2°乳頭側の部位の網膜を,補償光学系による補正をして撮ると,錐体のモザイクが示された(図9)9).近視眼で視細胞間の距離と眼軸長および屈折度の関係をみると,近視度が強くなるに従って,視細胞間の距離が大きくなることが示された10).視細胞間の距離が延長すると,網膜像の大きさが同じでも分解能が落ちることになる.このことは強度近視眼で視力低下することの一因となる可能性がある.Knappの法則では,軸性近視による不同視では眼鏡による矯正を行うと,網膜像の大きさが変わらないので,不等像は生じないことになるが,実際は視細胞の間隔が近視眼では伸びているので,この因子も考慮する必要が生じることになる.このように補償光学眼底カメラの開発により,これまで生体眼では十分検討できなかった視細胞レベルの変化も定量的に解析できるので,視機能解析の有力なtoolとなる可能性がある.文献1)LiangJ,GrimmB,GoelzSetal:ObjectivemeasurementofwaveaberrationsofthehumaneyewiththeuseofaHartmann-Shackwave-frontsensor.JOptSocAm11:1949-1957,19942)前田直之,大鹿哲郎,不二門尚(編):角膜トポグラファーと波面センサー.メジカルビュー社,20023)OshikaT,KlyceSD,ApplegateRAetal:Changesincor-nealwavefrontaberrationswithaging.InvestOphthalmolVisSci40:1351-1355,19994)FujikadoT,KurodaT,NinomiyaSetal:Age-relatedchangesinocularandcornealaberrations.AmJOphthal-mol138:143-146,20045)KurodaT,FujikadoT,MaedaNetal:Wavefrontanalysisineyeswithnuclearorcorticalcataract.AmJOphthalmol134:1-9,20026)FujikadoT,KurodaT,KimAetal:Wavefrontanalysisofmonoculartriplopiaintheeyeofnuclearcataract.AmJOphthalmol137:361-363,20047)ArtalP,ChenL,FernandezEJetal:Neuralcompensa-tionfortheeye’sopticalaberrations.JVis4:281-287,20048)RoordaA,WilliamsDR:Thearrangementofthethreeconeclassesinthelivinghumaneye.Nature397:520-522,19999)不二門尚:眼科検査診断法─新しい視機能評価システムの開発.日眼会誌108:809-835,200410)KitaguchiY,FujikadoT,BesshoKetal:Invivomea-surementsofconephotoreceptorspacinginmyopiceyesfromimagesobtainedbyadaptiveopticsfunduscamera.JpnJOphthalmol,inpress

