———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの値は陰性化する症例が多いのであるが,円錐角膜では下方が急峻化しているため下方でより波面が遅くなり,上方で波面が早くなるということが原因と推測される.その他,報告では,矢状収差(C33,C33)や球面収差(C04)も正常者と比べ特徴があり,矢状収差とコマ収差を合わせた3次の高次収差や,球面収差を含む4次の高次収差も正常者より高値であると報告されている4).さらに円錐角膜は比較的若年者に多いことから,水晶体の収差の影響は少ないと考えられ,角膜の高次収差のみならず,眼球の高次収差も同様の傾向となる.IIZernikeベクトル解析現在,波面収差解析はZernike多項式が用いられているが,Zernike多項式はペアとなる係数(項)が多く,また,その符号は正負となるため,統計処理をするにはパラメータが多すぎて複雑であるという欠点がある(図3).2003年,CampbellはZernike多項式のペアの項同士をベクトル合成し,1つの収差と軸とに表示するZernikeベクトル解析を報告した5).さらに筆者らは,このZernikeベクトル解析を導入した波面センサーを開発し,円錐角膜の高次収差の特徴について報告した1).現在,市販されているトプコン社製の波面センサー(KR-9000PW)には,同プログラムが導入されており,Zernikeベクトル解析によって,本来,9係数ある3次と4次の高次収差は5係数になり,ペアでない球面収差(C04)以外はその符号も正のみの値で表示できる(図4).はじめに円錐角膜は,その特異な角膜形状から,不正乱視を起こす疾患で,進行すると眼鏡では完全には矯正できず,ハードコンタクトレンズの装用が基本となる.現在,波面光学の表示式であるZernike多項式において3次以降は高次収差とよばれ,眼鏡の装用をもってしても矯正できないと定義されており,不正乱視の指標と考えられている.しかしながらZernike多項式は多数の係数があり,統計処理するには難解であるという欠点があった.よって,筆者らはZernike多項式の係数をベクトル合成し,簡略化したZernikeベクトル解析を用いて円錐角膜症例の高次収差について報告した1).この項については,円錐角膜の高次収差について,従来のZernike多項式による高次収差解析,および筆者らが開発したZernikeベクトル解析についても解説したい.I円錐角膜の角膜形状と高次収差円錐角膜の形状の特徴は,角膜が菲薄化を伴い前方に突出し,その急峻化の部位は,局在しているということである.特に角膜が急峻化している部位は中央やや下方に多く,最も角膜が菲薄化している中心も下方もしくは耳下側にある症例が多いと報告されている2,3)ことから,不正乱視を起こす原因はその上下非対称性であり,角膜の高次収差の係数のなかでも,軸に対して非対称な収差を表す代表であるコマ収差,特に垂直コマ収差(C31)に特徴がみられる(図1,2).実際には,垂直コマ収差(63)1473*RyoKosaki:湖崎眼科〔別刷請求先〕湖﨑亮:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):14731477,2007円錐角膜と高次収差Higher-OrderAberrationsinKeratoconus湖亮*———————————————————————-Page21474あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(64)図135歳,女性:右眼円錐角膜の実際の波面センサーのデータ(トプコンKR-9000PW)Axialpowerマップで典型的なボウタイパターン,また,角膜高次収差はコマ収差が強く,全眼球の高次収差は,角膜の高次収差の影響をうけていることがわかる.全収差,全眼球の高次収差より,裸眼,矯正とも視力が不良であることが推測される.網膜イメージのように,本症例は裸眼で光が下方へ流れると訴えた.Axialpower???琢赭?楮肬?磆歔杢?????離滉??離滉?瓷????????????????????????瓶?????皙??琢赭??畧軻????評離滉??磔遅???????堀鐸?評?????離滉??離滉?瓷????堀鐸?Hartmann畑濯琢?梏????図2提示症例の全眼球と角膜の瞳孔径4mmの各係数のデータとグラフ全眼球の垂直コマ収差(Z3-1と表示)が,陰性で0.881μmと高値であり,球面収差も陰性化している.角膜も同様の傾向があり,全眼球の各係数の値は,角膜の影響が大きいことがわかる.トプコンKR-9000PWでは,瞳孔径6mmの全眼球,角膜のデータも表示される.緑Zernike踏豁?離滉?2???4??評????畋痳4mm)??霄????畋痳4mm)??霄壜???離滉??磔?彖??離滉??磔???壜???離滉??磔?彖??離滉??磔———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071475Zernikeベクトル解析を用いることで,各々の収差を視覚的にもイメージしやすく,統計学的解析も行える利点がある.IIIZernikeベクトル解析による円錐角膜のパターンZernikeベクトル解析プログラムを導入したトプコン社製波面センサー(KR-9000PW)を用いて,円錐角膜群76眼(平均年齢28.5±7.6歳,定義;細隙灯検査にて菲薄化,Fleischer’sring,Vogt’sstriaeのいずれかを認める),円錐角膜疑い群58眼(平均年齢28.4±7.0歳,定義;細隙灯検査で一見正常だが,トポグラフィーにて円錐角膜パターンを認める)と正常者105眼(平均年齢29.3±7.2歳)の全眼球の高次収差(瞳孔径4mm)を比較した場合,円錐角膜群,円錐角膜疑い群は,正常群より,全高次収差(3次+4次高次収差),矢状収差(C33+C33),コマ収差(C31+C31),tetrafoil(C44+C44),sec-ondaryastigmatism(C42+C24)の収差が上昇しており,さらに,その値は,円錐角膜群が円錐角膜疑い群よりさらに高いという結果を得た.また,球面収差(C40)においては,円錐角膜群のみ陰性の値となった(図5).以上の結果より,3次,4次の高次収差においては,円錐角膜,円錐角膜疑い症例で,正常者と比べ有意に各Zernikeベクトル係数が上昇しており,そのため全高次収差も高値になったといえる.また,球面収差においては,原因は不明であるが,陰性化する症例が多かった.つぎにZernikeベクトル解析で特徴的な各ベクトル係数の軸であるが,矢状収差とコマ収差で正常群と違いを認めた.矢状収差では,正常群は30°あたりに分布している症例が多く(平均35.3°;波面の早い部分が90°,210°,330°になるパターン,グラフ左上のマップ),一方,円錐角膜,円錐角膜疑い群では,90°あたりに分布を示す症例を多く認め(平均93.8°,100.6°;波面の遅い部分が90°,210°,330°になるパターン,グラフ右下のマップ),その軸のパターンは反転していた(図6).また,コマ収差においては,正常群が90°もしくは270°あたりに分布する症例が多く,平均すると253.7°(上方の波面が遅いパターン,グラフ右下のマップ)で,円錐角膜群,円錐角膜疑い群では,ほとんどが90°あたりに分布し,同様に軸が反転していた(平均82.5°,91.0°;上(65)図3Zernike多項式(2次から4次)3次,4次の高次収差には9係数(項)があるが,そのうち球面収差(C04)を除く8係数のすべてがペアの項である.さらに,すべてのデータは正か負の値で表示される.cylinderdefocusC3-3C3-1C31C33C4-4C4-2C40C42C443次4次2次ペアの項:矢状収差(C3-3,C33)Tetrafoil(C4-4,C44)コマ収差(C3-1,C31)2ndastigmatism(C4-2,C42)図4Zernikeベクトル解析ペアの項同士をベクトル合成することで,1つの収差(RMS)と軸で表示されるZernikeベクトル係数に変換できる.これにより3次,4次の高次収差は9係数から5係数に減り,ベクトル合成されない球面収差以外はすべて正の値のみで表示される.Zernikeベクトル係数従来のZernike係数(3次と4次)RMS@axisRMS矢状コマTetrafoilSecondaryastigmatism球面———————————————————————-Page41476あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007方の波面が早いパターン,グラフ左上のマップ)(図7).以上の結果より,円錐角膜においては,正常者と比較して高次収差が高くなるだけでなく,矢状収差,コマ収(66)差においてZernikeベクトル解析の軸パターンが逆転していることが判明した(図8).円錐角膜症例では,像が下ににじむ,もしくは光が下に流れるように見えると訴図6矢状収差の各症例の散布図(3倍角表示)と典型的なマップパターン正常群では30°あたりに分布する症例を多く認めたが,円錐角膜群,円錐角膜疑い群では90°あたりに分布する症例を多く認めた.30°(左上のマップ)と90°(右下のマップ)のパターンは正反対である.(文献1より改変)円錐角膜円錐角膜疑い正常矢状収差RMS(μm)図7コマ収差の各症例の散布図と典型的なマップパターン正常群では90°もしくは270°あたりに分布する症例を多く認めた(平均253.7°)が,円錐角膜群,円錐角膜疑い群ではほとんどの症例が90°あたりに分布していた.90°(左上のマップ)と270°(右下のマップ)のパターンは正反対である.(文献1より改変)円錐角膜円錐角膜疑い正常コマ収差RMS(μm)1.41.21.00.80.60.40.20-0.2RMS(μm)全高次収差矢状コマTetrafoilSecondaryastigmatism球面****************NSNS:円錐角膜:円錐角膜疑い:正常図5平均の全高次収差とZernikeベクトル係数の各群間比較*p<0.05,Kruskall-Wallisone-wayANOVAonranks(Dunnmethod).NS:有意差なし.(文献1より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071477(67)える症例が多い.波面センサーの網膜イメージのシミュレーションでもLandolt環の像が,彗星のように下ににじんでいる(彗星パターン)症例が多く(図1),Zernikeベクトル解析で,矢状収差,コマ収差の軸パターンが,正常者と反転していることが,このような症状をひき起こしていると考えられる.おわりにこの項では円錐角膜の従来のZernike多項式を用いた高次収差の特徴と,Zernikeベクトル解析を用いた場合の正常者との比較について述べた.近年,屈折矯正手術の進歩とともに,波面収差解析が応用され,さらに,非球面の眼内レンズが開発されたことで,視機能と収差についての解析は,ますます注目を浴びている.しかし従来のZernike多項式は,その係数が多すぎて,難解であるというイメージがあった.Zernikeベクトル解析を応用すると,より簡単に各収差の特徴が捉えられ,統計学的解析も容易となる.Zernikeベクトル解析をいかに臨床治療に役立てるかは,今後の課題ではあるが,難解な波面収差解析を理解する突破口となることを希望する.文献1)KosakiR,MaedaN,BesshoKetal:Magnitudeandorien-tationofZerniketermsinpatientswithkeratoconus.InvestOphthalmolVisSci48:3062-3068,20072)WilsonSE,LinDT,KlyceSD:Cornealtopographyofker-atoconus.Cornea10:2-8,19913)RabinowitzYS:Keratoconus.SurvOphthalmol42:297-319,19984)MaedaN,FujikadoT,KurodaTetal:Wavefrontaberra-tionsmeasuredwithHartmann-Shacksensorinpatientswithkeratoconus.Ophthalmology109:1996-2003,20025)CampbellCE:Anewmethodfordescribingtheaberra-tionsoftheeyeusingZernikepolynomials.OptomVisSci80:79-83,2003図8提示症例のZernikeベクトル解析の実際のデータ(トプコンKR-9000PW)各Zernikeベクトル係数の値が高く,球面収差は陰性であり,円錐角膜の典型的なマップパターンとなっている.網膜イメージのシミュレーションでは,コマ収差の影響を強くうけて彗星パターンがひき起こされていると推測される.Zernike????????皙??90??????Zernike????????皙??90??????緑離滉???????畧軻???????離滉?疽?彖緑Zernike????踏豁?離滉彖??離滉??磔??離滉??????????

