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小児白内障手術と術後視力

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS例示しながら,以下に要点をまとめて述べたい.1.形態覚遮断弱視弱視のなかでも最も重篤で,いったん成立すると治療困難な病型が形態覚遮断弱視である.一般に弱視とは器質病変のないものを指すが,白内障などの眼疾患は視性刺激遮断の原因となり,その結果,形態覚遮断弱視を形成する.視性刺激遮断の感受性は出生時から8歳頃まで続くが,特に生後2カ月から2歳頃までがピークであり1),遮断の起こった時期が生後早期であるほど重篤な弱視を形成する.形態覚遮断弱視の成立の有無と重症度は,白内障の起こった時期(先天白内障か発達白内障か),白内障のタイプと混濁の程度(完全遮断か不完全遮断か),両眼性か片眼性か(左右差があるか)によって異なる.両眼に比べて片眼の遮断では健眼からの抑制が加わるたはじめに小児白内障に対する手術手技や器具の進歩は,良好な術後視力を獲得するために不可欠である.眼内レンズ挿入術の乳幼児への適応も広がってきているが,さらに侵襲が少なく,合併症を生じない手術技術を開発することが,治療の長期予後を左右する重要な課題である.一方,成人と異なり,視力の発達途上に起こる小児白内障の治療予後には,手術や術後管理以外に,弱視治療の成否が大きく関与する点を忘れてはならない.ことに,先天白内障や乳児期に起こった白内障の治療の本質は,形態覚遮断弱視の治療そのものである.本稿では,小児白内障の術後視力を決める因子について取り上げ,術前評価と手術適応についての基本的な考え方,弱視治療の実際の進め方について述べたい.また合併症のある難治例の治療など今後の課題について述べる.I小児白内障の術後視力を決める因子小児白内障の術後視力を決める因子は術前,手術,術後に大別される(表1).すなわち,術前の白内障による形態覚遮断弱視の程度,眼・全身合併症の有無,手術侵襲と合併症の有無,術後の合併症の有無,屈折矯正と弱視訓練の成否である.小児では,これらの因子すべてが揃ってはじめて良好な視機能が得られる点が特徴であり,成人に比べて格段に治療がむずかしい.それぞれの因子について,当院での治療の進め方と長期治療成績を(19)??表1小児白内障の術後視力を決める因子術前形態覚遮断弱視の有無と重症度・白内障の発症時期・白内障のタイプと混濁の程度・片眼性/両眼性,左右差の有無眼合併症:小角膜,第一次硝子体過形成遺残など全身合併症:Down症候群,Lowe症候群など手術手術侵襲・合併症術後合併症:緑内障,網膜?離,後発白内障,斜視など屈折矯正:眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズ弱視訓練:健眼遮閉*SachikoNishina:国立成育医療センター眼科〔別刷請求先〕仁科幸子:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療センター眼科特集●小児眼科の新しい考え方あたらしい眼科23(1):19~24,2006小児白内障手術と術後視力?????????????????????????????????????????????????????????????仁科幸子*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(20)めきわめて重症となる.生直後から高度の水晶体混濁を生じた先天完全白内障では,片眼白内障や左右差の著しい例では生後1~2カ月以内に,両眼白内障でも生後3カ月以内に手術を行わないと良好な視機能は望めない2).Gregg,Wrightは片眼性の先天白内障において術後に両眼視機能を獲得した例をはじめて報告しているが,それぞれ生後1日,生後5週以内の超早期に手術を行って,コンタクトレンズの装着とparttimeocclusionによる弱視訓練を行っている3,4).一方,生後2歳以降に進行した発達白内障や層間白内障などの不完全白内障の場合には,術前に遮断弱視があっても軽度であるため,一般に視力および両眼視機能の予後は良好である.当院で6歳未満で手術を行い4年以上経過観察した小児白内障95例のうち,視力測定できた例の結果を両眼性,片眼性,先天白内障,発達白内障(生後4カ月以降に発症または進行),眼・全身合併症の有無に分けて図1,2に示す.術式は経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術と,5歳以上の発達白内障では眼内レンズ挿入術を行った.図1に示すように,合併症のない両眼発達白内障は予後良好で,多くが0.8以上の視力と両眼視機能を獲得した.両眼先天白内障では生後3カ月以内の手術例で0.8以上の視力,生後2カ月以内の手術例では両眼視機能を獲得したが,生後4カ月~1歳の手術例では全例術前に眼振を認め0.3~0.7の視力となった.一方,図2のように,片眼白内障は,発達白内障では0.8以上の視力と両眼視を獲得する例があったが,先天白内障では早期手術例でも0.3~0.7の視力予後であった.また合併症のある例や手術時期が遅い例では多くが0.08以下と視力予後不良であった.2.眼・全身合併症先天白内障や乳幼児期の発達白内障には眼・全身異常に伴うものが少なくない.重篤な中枢神経系疾患や後眼部疾患を伴っているもの,また高度の眼合併症を伴う片眼白内障で僚眼が正常なものは,視力の発達が望めないため手術適応とはならない.しかし,軽度の眼・全身合併症のあるもの,眼合併症が高度でも両眼性のものは,早期手術を検討することとなる.Down症候群,Lowe症候群など種々の全身疾患の検索に加えて,発達の評価,自傷行為の有無や療育状況などを調べておくことは,術後の屈折矯正手段の選択や合併症の管理の面でも非常に大切である.眼合併症としては小角膜・小眼球,虹彩低形成,第一次硝子体過形成遺残,コロボーマ,網膜ひだ,視神経低形成,黄斑低形成などがあげられる.その程度はさまざまであり,視力予後を大きく左右することとなる.軽症例であっても術中合併症や,緑内障や網膜?離などの重篤な術後合併症の頻度が高くなるため,十分な検索が必要である.当院で治療を行った先天白内障のうち何らかの眼・全身合併症を伴う患児は両眼性66%,片眼性45%と高率であった.発達白内障においても両眼性18%,片眼性20%に合併症を認めた.図1,2に示すように眼・全身合併症を伴う患児の視力予後は一般に不良である.051015:先天(合併症-):発達(合併症-):先天(合併症+):発達(合併症+)≧0.80.3~0.70.1~0.2<0.02両眼視(+)(n=47)例数視力0.02~0.08図1両眼白内障の治療結果05:先天(合併症-):発達(合併症-):先天(合併症+):発達(合併症+)≧0.80.3~0.70.1~0.2<0.02両眼視(+)(n=33)例数視力0.02~0.08図2片眼白内障の治療結果———————————————————————-Page3(21)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??3.手術と合併症近年の手術器具や手技の進歩によって,従来に比べて術中・術後合併症の頻度が減り,良好な術後視力を獲得できる例が増加した.近年確立された水晶体切除・前部硝子体切除術に対して,現在では,より低年齢児に対しても眼内レンズの適応が広がってきているが,乳幼児に対する眼内レンズの術式と長期的な安全性は確立していない5~7).慎重に適応例を選んで,十分なインフォームド・コンセントを得ること,術後管理を行えることが眼内レンズ挿入術の施行に際し最低限必要である.術後早期の合併症は,経角膜輪部法か経毛様体法か,眼内レンズ挿入術か,術式によって頻度が異なるが,小児の場合,特に角膜浮腫,前房・硝子体出血,フィブリン析出,術後炎症の遷延,縫合不全による低眼圧などに注意が必要である.4.術後合併症の管理8)重篤な術後合併症として後発白内障,緑内障,網膜?離があげられる.後発白内障を生じた場合には高度の弱視となるため迅速な再手術が必要である.乳児では成人と異なり厚い線維性膜組織を形成していることが多く,硝子体カッターや剪刀による処理が必要である.緑内障は,特に小角膜や虹彩低形成,第一次硝子体過形成遺残(persistenthyperplasticprimaryvitreous:PHPV)などの眼異常を伴う白内障眼に頻度が高いが,正常眼においても長期経過後に発症することがしばしばある.乳幼児のうちは発見が遅れがちとなるため,定期的に全身麻酔下検査を行うのが望ましい.外来では正確な眼圧を測定することは困難なため,角膜や前房所見,視神経乳頭所見,屈折変化などに注意して早期発見につとめる.眼圧下降薬の点眼のみで眼圧コントロール可能な例では一般に予後が良いが,先天異常眼ではしばしば隅角異常を合併し重篤な緑内障をきたす.薬物治療が奏効しない場合にはトラベクロトミー,トラベクレクトミーによる手術治療を行うが,難治性であり,視力予後不良となる.乳幼児期の網膜?離は最も重篤な術後合併症である.高度の増殖性変化をきたし硝子体手術を必要とする例が多いが,残存硝子体を完全に処理することは困難であり予後不良である.網膜?離は特に全身合併症を伴う発達遅延の患児に多い.目押しや眼球打撲に十分注意を払うよう家族に説明し,自傷行為や多動の目立つ患児にはヘルメットや保護眼鏡の装着を勧める.5.術後の屈折矯正と弱視訓練術後は速やかに屈折矯正および健眼遮閉による弱視訓練を開始することが大切である.超早期に適切な手術を行っても,弱視訓練のコンプライアンスが悪いと視力予後不良となる.乳幼児では近見に焦点を合わせて屈折矯正を行う.屈折矯正手段として両眼性では眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズ,片眼性ではコンタクトレンズ,眼内レンズが用いられるが,それぞれ利点,欠点がある(表2)9,10).変化の著しい小児の屈折状態に合わせて正確な屈折矯正を行うこと,コンプライアンスの良い矯正法を用いることが,視力予後を左右する.したがって年齢や合併症の有無,両親の管理の問題などを考慮して,個々の症例に対して最適の矯正法を選択する必要がある.成長に伴う屈折の変化は,視覚の感受性の高い0~2歳で特に著しく,この期間に頻回に検査を行って度数や規格を調整することが大切である.4歳以降になっても近視化は続き,しかも症例によるばらつきが大きいため,屈折の変化を予測することは非常にむずかしい(図3).乳幼児期に眼内レンズ挿入術を行う場合には,眼鏡による追加矯正が必要であるが,著しい近視化や不同視表2術後の屈折矯正法の特徴眼鏡コンタクトレンズ眼内レンズ適応症例両眼のみ両眼,片眼両眼,片眼乳幼児の適応○○?眼・全身合併症例の適応○○×光学的欠点あり少ないなし取り扱い容易困難─コンプライアンス比較的良好不良─処方変更容易容易困難眼合併症なしありあり眼外傷に対する危険性少ない少ない多い長期的安全性○△?———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(22)を生じることがあり問題となる.図4は当院で眼内レンズ挿入術を行った例の屈折変化を示したものであるが,5歳以降でも著しい近視化をきたす例があり,視力0.3未満の予後不良例で,より屈折の変化が大きい傾向であった.健眼遮閉は,片眼性や左右差のある白内障の場合には,視力向上に必須の因子である.アイパッチによる完全遮閉が原則であり屈折矯正と同時に開始する.1日の遮閉時間は,年齢や術前の左右差に応じて開始し,固視・追視反応および選択視法(preferentiallooking:PL法)やTellerAcuityCardsを用いて左右差をみながら調整する.一般に片眼先天白内障では覚醒時間の50~80%の遮閉が必要であるが,超早期に手術を行った場合には,両眼視機能の獲得のために生後6カ月までは月齢相当時間,すなわち生後2カ月では2時間,3カ月では3時間の遮閉時間とする3,4).図2の片眼白内障における視力予後良好例は,全例屈折矯正と健眼遮閉のコンプライアンスが良好であった.コンプライアンス不良例は先天白内障では0.04以下,発達白内障では0.1未満の視力であった.II術前評価と手術適応の決め方小児白内障手術の術後視力は,前述のようにさまざまな因子が関与するため,手術適応の決め方も成人と異なる.術前評価の第一のポイントは,遮断弱視の程度の評価であり,第二のポイントは眼・全身異常の検索である.高度の形態覚遮断弱視が確立すると手術は無効となり,いたずらに術後合併症の危険を増加させるだけである.また眼・全身異常を伴う例が高率のため,手術や全身麻酔に伴うリスク,術後合併症の長期管理が不可欠であることなどを十分に家族に説明して,手術適応を決めることが大前提である.遮断弱視の形成の有無と程度を評価する具体的なポイントは,前述のように,両眼性か片眼性か(左右差があるか),白内障の形態と混濁の程度,白内障の起こった時期をよく調べることである.生後早期から高度の水晶体混濁があり,斜視や眼振・異常眼球運動が顕性となっていれば,通常は高度の遮断弱視が形成されており,手術を行っても視力予後不良である.一方,眼底が観察できる程度の左右差のない層間白内障や核白内障で,ski-ascopyで十分な徹照が得られる場合には,遮断弱視は形成されないため,早期手術は不必要である.PL法やTellerAcuityCardsを用いた視力検査を取り入れながら経過観察する.手術適応を決めるうえで特に問題となるのは発症・進行時期が不明の片眼白内障である.弱視や視路の評価には視覚誘発電位(visualevokedpotential:VEP)が最も有用である.VEPで患眼の反応が健眼に比してきわめて不良であれば,すでに高度の遮断弱視が形成されており,手術は無効である.当院では,VEPで反応が弱くてもある程度得られる例は,十分な説明をしたうえで両親の希望があれば手術を行っているが,VEPでまったく反応が得られなかった例は手術適応としていない.図5に当院片眼白内障治療例の術前VEPの結果と視力予後について示す.先天,発達白内障ともに術前VEP良好例に視力予後良好例が多い.発達白内障では術前VEP不良例は全例0.08以下の視力であった.先天白内障ではVEP測定困難例が含まれたため,術前VEP不良でも早期手術により0.3以上の視力を得た例があっ0~22~44~66~8:両眼先天:両眼発達:片眼先天:片眼発達年齢(歳)近視化(D)-5-10図3術眼の年齢による屈折変化(各群の平均値)-10-505567891011121314151617181920屈折変化(D)年齢(歳)(n=18)図4眼内レンズ挿入眼の屈折変化———————————————————————-Page5(23)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??た.VEPは正確に検査できる年齢では非常に有用であるが,乳児期では1回の検査で視力予後を断定することはできない.眼・全身異常の有無を調べるには,はじめに患児の発達状態をよく観察して,必要な全身の検査を迅速に進めることが大切である.中枢性視覚障害や重篤な全身疾患の合併例では手術の適応とはならない.また散瞳下細隙灯検査や双眼倒像鏡眼底検査を行って白内障の形態や合併症の有無を調べる.水晶体を含めた前眼部の形成異常について,すなわち小角膜・角膜混濁の有無,前房の深さ,虹彩と隅角所見,散瞳の良否,水晶体の形状(膨隆,菲薄化,硬化,膜状,球状,偏位)をよく観察する.また,必ず超音波検査を行って後眼部の異常の有無,すなわち小眼球,コロボーマ,網膜ひだや網膜?離,PHPV,視神経低形成などを検出する(図6).必要に応じて頭部および眼窩CT(コンピュータ断層撮影)検査を行う.高度の眼合併症のある片眼白内障で,僚眼が正常の場合には,一般に手術適応とはならない.最終的に眼合併症の有無につき術直前に全身麻酔で検査を行う.III今後の課題1.合併症のある白内障の手術8)乳幼児の白内障には何らかの眼・全身合併症を伴う例が高率で,依然として合併症のある例の多くは視力予後不良である.このような難治例に対する低侵襲で安全な早期手術の手技,術後合併症の管理の点が今後の課題としてあげられる.当院では,ことに眼合併症のある白内障の早期手術においては,眼内レンズは挿入せず,経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術を基本術式としている.経毛様体扁平部・皺襞部法に比べて角膜や虹彩・隅角への侵襲が大きいが,一方発達途上の毛様体や硝子体基底部を損傷する危険性がない.PHPVをはじめ,予期せぬ周辺部網膜や毛様体の構造異常が存在する可能性があり,経毛様体法では術中鋸状縁断裂や晩期合併症としての網膜?離を誘発するおそれがある.小角膜は頻度の高い眼合併症であるが,高度の小角膜眼ではPeters奇形,虹彩低形成,虹彩コロボーマ,水図5片眼白内障の術前VEPと視力予後05:先天(VEP良好):発達(VEP良好):先天(VEP不良):発達(VEP不良)≧0.80.3~0.70.1~0.2<0.02(n=19)例数視力0.02~0.08図6前部型PHPVを伴う先天白内障図7虹彩前・後癒着,後部胎生環,角膜混濁,石灰化を伴う白内障(左)に対する25ゲージ硝子体カッターを用いた経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術(右)の施行———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(24)晶体形態異常など種々の前眼部形成異常を認め,隅角形成異常による重篤な緑内障の発症が多い11).このような例では両眼性の場合のみ手術適応となるが,虹彩や隅角への侵襲を最小限にとどめ,角膜混濁が増強しないように,25ゲージの硝子体カッターを使用している(図7).2.眼内レンズの適応乳幼児に適応が広がっている眼内レンズの長期予後はいまだ不明である.生後2,3カ月以内に早期手術を行う必要がある先天完全白内障や,合併症のある白内障は眼内レンズの適応外である.乳幼児期に進行した発達白内障への眼内レンズの適応が問題となるが,急速に眼球が成長する2歳までは,各組織の形態変化が大きく,予測不能の著しい屈折変化を生じる.また視覚の感受性期間のピークであるため,ひとたび合併症を起こすときわめて視力予後不良となる.3歳以降を適応とする考え方,さらに低年齢にも適応を広げる考え方があるが,著しい屈折変化に対応した正確な屈折矯正の問題,早期および晩期合併症の問題と視力予後について今後十分な検討が必要である.一方,遮断弱視の形成されない層間白内障などは乳幼児期に急いで眼内レンズ挿入術を行うべきではない.3.術後合併症の問題手術手技の進歩にもかかわらず,術後合併症の問題は,依然として重篤な視力障害を招く重大な因子である.特に無水晶体緑内障は術後長期にわたり高頻度に起こるため,その検出と管理には生涯留意すべきである.近年は閉塞隅角緑内障の発症は減り,大部分が晩期発症の開放隅角緑内障であるが,その機序はいまだ不明である12).乳幼児の眼内レンズ挿入眼では,前述の屈折の問題のほか,後発白内障やレンズ偏位による光学的な問題が生じやすいため,高度な手術手技が要求されるとともに,長期にわたる慎重な術後管理が必要である.また術後に網膜?離が起こった場合はきわめて難治性となり,これを十分に治療できる網膜手術医は少ない.乳幼児に眼内レンズを適応とする場合,術後の緑内障や網膜?離に対する予防や治療法も,十分検討すべき今後の課題となる.文献1)粟屋忍:形態覚遮断弱視.日眼会誌91:519-944,19872)BirchEE,StagerD,Lef?erJetal:Earlytreatmentofcongenitalunilateralcataractminimizesunequalcompeti-tion.?????????????????????????39:1560-1566,19983)GreggFM,ParksMM:Stereopsisaftercongenitalmonoc-ularcataractextraction.???????????????114:314-317,19924)WrightKW,MatsumotoE,EdelmanPM:Binocularfusionandstereopsisassociatedwithearlysurgeryformonocu-larcongenitalcataracts.???????????????110:1607-1609,19925)SharmaN,PshkerN,DadaT:Complicationsofpediatriccataractsurgeryandintraocularlensimplantation.????????????????????????25:1585-1588:19996)山本節:小児眼内レンズ挿入症例の長期観察.眼科手術13:39-43,20007)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringthe?rstsixmonthoflife.???????5:70-75,20018)仁科幸子,東範行:先天白内障.臨眼58(11):264-267,20049)三宅三平:無水晶体眼.眼科診療プラクティス9,屈折異常の診療,p82-85,文光堂,199410)野田英一郎,仁科幸子:小児白内障術後の屈折矯正法.眼科診療プラクティス95,屈折矯正法の正しい選択,p118-122,文光堂,200311)WallaceDK,PlagerDA:Cornealdiameterinchildhoodaphakicglaucoma.???????????????????????????????33:230-234,199612)ChenTC,WaltonDS,BhatiaLS:Aphakicglaucomaaftercongenitalcataractsurgery.???????????????122:1819-1825,2004

両眼視機能の発達と内斜視の早期手術

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS像力欠損のためであり両眼視機能を得ることも困難であるという感覚異常説,Chavasse7)は輻湊機能の過剰反応による交叉固視から乳児内斜視は生じるとの運動異常説をそれぞれ述べ,両眼視機能回復は困難であると結論付けている.20世紀後半にはCostenbader8),Taylor9)らが2歳までの早期手術によって10Δ以内の眼位に矯正すれば立体視と融像の獲得は可能であると報告し,1981年Ing10)は10Δ以内の術後眼位を少なくとも6カ月間維持した乳児内斜視106例の術後結果より,手術時期2歳までの早期手術が両眼視機能の獲得に有効であることを証明した(図1).1988年vonNoorden11)も同様の報告をし,乳児内斜視の手術は2歳までに行われることが主流となっていた.しかし,1994年Wrightら12)が生後6カ月以内の超はじめに斜視治療の目的は,眼位の正位化と良好な両眼視機能の獲得であることは言うまでもない1).術前より比較的良好な両眼視機能を有している間欠性外斜視や後天内斜視と異なり,乳児(先天)内斜視は発症時期が早いため,眼位矯正手術を行っても良好な両眼視機能を獲得することはむずかしく,斜視学者にとっては乳児内斜視における良好な両眼視機能の獲得は大きな宿題として立ちはだかっている.しかし,今世紀に入って正常立体視の獲得が生後6カ月以内の超早期手術によって可能となりうるとの報告が数多く発表されるようになってきた2~5).わが国においても2005年の日本弱視斜視学会総会で「乳児内斜視の超早期治療」とのシンポジウムが開催され,両眼視機能,特に立体視の獲得には生後6カ月以内の超早期手術が有用であることが確認された.本稿では,乳児内斜視の手術時期の変遷,ヒトの両眼視の発達に関する最近の知見,サルの第一次視覚野における内斜視の両眼視発達への影響,筆者が報告した内斜視手術時期と両眼視機能との関係,などについて解説を進めたい.I乳児内斜視の手術時期の歴史20世紀前半には,乳児内斜視の手術は2歳以後の晩期手術が主流であり,手術によって良好な眼位が得られても両眼視機能は不良であることがほとんどであった.Worth6)は,乳児内斜視は遺伝に基づく中枢神経系の融(11)??*TeijiYagasaki:眼科やがさき医院〔別刷請求先〕矢ヶ﨑悌司:〒494-0001一宮市開明字郷中62-6眼科やがさき医院特集●小児眼科の新しい考え方あたらしい眼科23(1):11~18,2006両眼視機能の発達と内斜視の早期手術?????????????????????????????????????????????????????????????矢ヶ?悌司*0~67~1213~24眼位矯正月齢25~79両眼視機能の頻度(%)1007550250:FusionorStereopsis:FusionandStereopsis図1眼位矯正時期と両眼視機能(Ing,198110)より改変)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(12)早期手術によって正常立体視を獲得した症例を報告して以来,21世紀になり立体視の獲得には生後6カ月以内の乳児内斜視超早期手術が有用である結果が数多く発表されてきている2~5).IIヒトの両眼視の発達正常立体視の獲得可能な限界時期はいつなのであろうか.その前にヒトの両眼視の発達について解説してみたい.ヒトの両眼視の発達は,生後2カ月から4カ月頃より萌芽しはじめ,2歳までに正常成人の80%のレベルに達し,5歳までにほぼ完成するといわれている(図2)13).ヒトの視覚情報は,網膜?外側膝状体?大脳皮質に連結されている小細胞系(parvocellularpathway:P系)と大細胞系(magnocellularpathway:M系)の独立した2つの神経機構によって処理され,両眼視機能もこの2つの神経機構のいずれかに属する.両眼視のうち60?より良好な正常静的立体視はP系によって処理されて成立し,大まかな静的立体視,動的立体視や融像などはM系によって処理されて成立する(表1)14).P系とM系の発達には差がある15).M系の視覚反応は生直後より明らかに存在し,生後2カ月から4カ月頃より急速に発達し生後6カ月頃には最大の視覚反応を示す.その後反応はやや低下するものの,すでに成人の視覚反応レベルには到達している.それに対しP系の視覚反応は生直後にはほとんどなく,M系の発達に遅れて出現し,1歳の終わり頃までに徐々に増大する.その後も視覚反応の発達は継続し,4歳過ぎに成人の反応レベルまでに到達する.両眼視もM系機能とP系機能に分けられるが,P系機能の発達はM系機能の発達に続いて生じてくると考えられ,乳児内斜視における両眼視治療の第一目的は,まずM系機能を発達させて両眼視細胞を視覚中枢に存在させることに他ならない.IIIサルを用いた超早期手術の実験的考察ヒトの両眼視の発達に最も近い動物はサルであり,一次視覚中枢(V1)における両眼視ニューロンの発達と両眼視の成熟との関連を検討することに最も適した実験モデルである.正常アカゲザル(rhesusmonkey)の立体視の発達(図3)は,生後6日目にはすでに一次視覚中枢(V1)に存在している視差感受性細胞を介して生後2週から4週頃に急速に現れ,生後6週から8週頃には成人サルのレベルにほぼ到達している16).サルにおける週単位を月単位に置き換えるとほぼヒトの立体視の発達に一致する.プリズムレンズによって斜視を作製したサルの実験結果17~20)について解説を進めるが,週単位を月単位に変換してお読みいただくとより理解しやすい.表1両眼視に関する視覚情報処理機構小細胞系(Parvocellularpathway:P系)?60?より良好な正常静的立体視大細胞系(Magnocellularpathway:M系)?大まかな静的立体視?動的立体視?融像02468101214週齢立体視の頻度(%)100806040200:立体視≦1780?:立体視<88?図3サルの立体視の発達(O?Dellら,199716)より改変)0246810121416月齢立体視の頻度(%)100806040200:正位:内斜視図2ヒトの立体視の発達(Birch,199313)より改変)———————————————————————-Page3(13)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??1.立体視感受性期間のはじまり生後2週(ヒトの生後2カ月であり立体視発達前モデル)から2週間プリズム装用したサル,生後4週(ヒトの生後4カ月であり立体視発達開始モデル)から2週間プリズム装用したサル,生後6週(ヒトの生後6カ月であり立体視発達中モデル)から2週間プリズム装用したサルの一次視覚中枢(V1)ニューロンを正常サルと比較すると,3群とも正常サルより視差感受性ニューロンは減少し両眼抑制相互作用が認められた(図4)19).しかし,生後4週および生後6週から2週間プリズム装用したサルは,生後2週から2週間プリズム装用したサルと比較し,視差感受性ニューロンは減少と両眼抑制相互作用の程度は強く,特に生後6週から2週間プリズム装用したサルは,生後2週から2週間プリズム装用したサルの3倍の視差感受性ニューロンの減少(図5)と2倍の両眼抑制ニューロンが存在していた(図6)20).これらの結果は,斜視が立体視発達開始期(生後4週から6週,ヒトの生後4カ月から6カ月に相当)に存在すると一次視覚中枢(V1)に視差感受性の減少と抑制の発生が生じることを証明している.これらは立体視発達開始期の眼位正常化が必要因子であることを示唆している.2.斜視の立体視感受性への影響立体視発達の開始時期である生後4週(ヒトの生後4カ月)に,それぞれ2週間,4週間,8週間プリズム装用したサルの一次視覚中枢(V1)ニューロンを比較すると,すべてにおいて視差感受性ニューロンの高度の減少(図7)との高頻度の両眼抑制相互作用が認められた(図8)20).8週間プリズム装用したサルで視差感受性ニューロンの高度の減少との両眼抑制相互作用が最も強く認められたが,2週間プリズム装用したサルと比較しても大きな差はなく,視差感受性ニューロンの減少との両眼抑制相互作用の発生は,プリズム装用期間に相関したものではなく,立体視発達開始から2週間(ヒトの2カ月に相当)の短期間で急速に生じている.斜視の影響は立体視発達開始時期に最も感受性が高いことが証明されたものと考えられる.3.立体視感受性期間の終わり生後4週(ヒトの生後4カ月であり立体視発達開始モデル)から4週間(ヒトの4カ月)プリズム装用したサ00.10.20.30.4010203040週齢出生468:プリズムレンズ装用期間2~4W(n=2)4~6W(n=2)6~8W(n=2):V1ニューロン測定時期88107119:Proportiom:Bll両眼相互作用指数Bllが低いほうが抑制が強い視差感受性ニューロンの比率(%)図4サルの第一次視覚野における斜視の影響(1)立体視感受性開始時期の検討.(Moriら,200219)より改変)図5サルの第一次視覚野における斜視の影響(2)立体視と斜視時期の検討?視差感受性ニューロンについて.(Kumagamiら,200020)より改変)0124810011988948584:Normal:Prism週齢視差感受性ニューロン(%)1008060402000124810011988948584:Normal:Prism週齢両眼相互作用指数(低いほうが抑制的)0.60.50.40.30.20.1図6サルの第一次視覚野における斜視の影響(3)立体視と斜視時期の検討?両眼抑制相互作用について.(Kumagamiら,200020)より改変)———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(14)ルと8週間(ヒトの8カ月)プリズム装用したサルについて,生後8週目および12週目(ヒトの生後8カ月および12カ月)時と生後2歳(ヒトの生後8歳)時の一次視覚中枢(V1)ニューロンを比較し,斜視矯正後の一次視覚中枢(V1)の視差感受性と両眼抑制の可逆性について検討した(図9)19).プリズムを除去して眼位矯正がなされた生後8週目(ヒトの生後8カ月)時と生後12週目(ヒトの生後12カ月)時の視差感受性ニューロンの減少との両眼抑制相互作用の増加はともに認められた.生後4週(ヒトの生後4カ月であり立体視発達開始モデル)から4週間プリズム装用(ヒトの斜視期間4カ月)したサルにおいては,2歳時(ヒトの8歳時)の視差感受性障害と両眼抑制の程度は生後8週時(ヒトの生後8カ月)と比較しわずかであるものの改善していたのに対し,8週間プリズム装用(ヒトの斜視期間8カ月)したサルにおいては,このような視差感受性障害と両眼抑制の程度の改善はまったく認められていない.以上の結果は,立体視の可逆性は,生後8週(ヒトの生後8カ月)には程度は弱いなりに残存しているが,生後12週(ヒトの生後12カ月)における立体視の可逆性はほとんど消失していることを証明している.IVヒトの乳児内斜視の超早期手術と両眼視1981年Ing10)は,10Δ以内の術後眼位を少なくとも6カ月間維持した乳児内斜視106例を検討し,Worth四灯試験による近見融像,またはTitmusStereoTests(TST)による立体視を獲得したものは生後6カ月までに手術された群では100%,7カ月から12カ月までに手術された群では91%,13カ月から24カ月までに手術された群では92%であったのに対し,25カ月以後に手術された群では31%のみで,手術時期24カ月に両眼視機能の獲得に有意差(p<0.001)があることを証明した(図1).しかし,60?未満の正常立体視を得ることはむずかしく,正常対応であり周辺立体視や融像を獲得できるsubnormalbinocularvisionの状態や8Δ以内の微小斜視の状態を獲得することが限界であった11).この限界に一石を投じたものが1994年のWrightら12)の報告Birth1241286100111133107103948584:Normal:Prism週齢視差感受性ニューロン(%)100806040200図7サルの第一次視覚野における斜視の影響(4)立体視への斜視期間の検討?視差感受性ニューロンについて.(Kumagamiら,200020)より改変)Birth124121086100111133107103948583:Normal:Prism週齢両眼抑制ニューロン(%)6050403020100図8サルの第一次視覚野における斜視の影響(5)立体視への斜視期間の検討?両眼抑制ニューロンについて.(Kumagamiら,200020)より改変)8WNormal4週齢から8週齢まで4週間プリズム装用4週齢から12週齢まで8週間プリズム装用AdultInfantAdultInfant両眼相互作用指数(低いほうが抑制的)0.70.60.50.40.30.20.10図9サルの第一次視覚野における斜視の影響(6)眼位矯正期と視覚発達終了期における抑制の可塑性.(Moriら,200219)より改変)———————————————————————-Page5(15)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??であった.生後13週から19週の間に内斜視手術を行った7症例において,2例がTSTによる立体視力40?,1例が100?,2例が400?を,3例がRandotStereoTests(RST)による250?の立体視力を獲得したと報告し,その後に6カ月以内の超早期手術による正常立体視の獲得の可能性が論じられるようになってきた.その代表的な報告について解説する.1.Birchら(2000年)の報告2)生後2歳以内に手術を行った後,5年以上8Δ以内の安定眼位を得ていた129例の立体視の予後について報告している.RSTで500?以上の立体視は21.7%,TSTで3000?の立体視は14.7%,全体で36.4%の症例で立体視が獲得されていた.さらにこれらの症例を,内斜視発症時期,眼位矯正時期,眼位未矯正期間と立体視の予後との関係について詳細に検討している.生後2カ月から6カ月までの内斜視発症時期の違いは,立体視獲得率および立体視力へ有意な影響を与えていなかった.眼位矯正時期とRST立体視の関連については(図10),生後6カ月未満の眼位矯正時期群では100%の症例に獲得されていたが,生後1歳半以降に矯正された症例では8%にまで有意に低下し,立体視力値も生後6カ月未満に矯正された症例のほうがそれ以降に眼位矯正された症例より有意に良好であった.眼位未矯正期間とRST立体視については,未矯正期間3カ月未満の症例では65%に立体視が獲得されていたが,眼位矯正が発症より1年以上遅れた群では立体視は4%でしか獲得されておらず(図11),立体視力についても眼位未矯正期間が3カ月未満の症例においては有意に良好であった.8Δ以内の安定した術後眼位を得る超早期手術は,乳児内斜視における良好な立体視獲得の条件であり,手術が遅れても眼位未矯正期間は内斜視発症から3カ月までである,と結論づけている.2.Ingら(2002年)の報告3)生後24カ月以内の手術後,少なくとも6カ月以上の間継続して眼位が10Δ以内に矯正された90例のTST立体視を検討している.全症例の74%にTST立体視が認められていた.眼位矯正時期で分類して検討すると,3~56~89~1112~1819~24眼位矯正月齢RST立体視の頻度100806040200図10眼位矯正時期とRST立体視(Birchら,20002)より改変)3~50~26~89~1112~1819~24眼位未矯正期間(月)RST立体視の頻度100806040200図11眼位未矯正期間とRST立体視(Birchら,20002)より改変)16例/20例37例/46例14例/24例0~6カ月7~12カ月13~24カ月80%80%58%眼位矯正月齢TST立体視の頻度(%)1009080706050403020100図12眼位矯正時期とTST立体視(Ingら,20023)より改変)38例/74例4例/16例0~12カ月13~21カ月51%25%眼位未矯正期間(月)800″以下の立体視の頻度(%)1009080706050403020100図13眼位未矯正期間とTST立体視(Ingら,20023)より改変)———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(16)生後6カ月以内に眼位矯正された症例と生後7~12カ月間に眼位矯正された症例ではともに80%にTST立体視が認められていたのに対し,生後13~24カ月間に眼位矯正された症例では58%と有意に低下していた(図12).眼位未矯正期間とTST立体視については,眼位の未矯正が12カ月以内症例の51%が800?またはより良好な立体視力値を獲得したのに対し,眼位矯正が発症より12カ月以上遅れた症例ではわずか25%であった(図13).以上の結果より,立体視を獲得するためには10Δ以内の眼位矯正が遅くとも生後12カ月以内に得られることが必要であると結論づけている.3.わが国における超早期手術の報告Shirabeら4)が生後8カ月までに手術を行い,術後4年以上の経過観察を行った9症例のうち5症例(55.6%)でTSTの立体視が確認でき,立体視の獲得には生後8カ月以内の超早期~早期手術と8Δ以内の安定した術後眼位の必要性を報告している.4.矢ヶ?ら(2005年)の報告21)2005年の日本弱視斜視学会総会におけるシンポジウムで筆者らが報告した結果について解説する.43症例を対象として手術時期によって,生後6カ月以内である超早期群の9症例(20.9%),生後6カ月以降から2歳以内の早期群の21症例(48.8%),2歳以降の晩期群の13症例(30.2%)の3群に分類し,両眼視機能の予後などについて検討をした.全症例中29症例(67.4%),超早期群は9例中8例(88.9%),早期群は21例中13例(61.9%),晩期群は13例中8例(61.5%)でBagolini線条レンズ検査による近見融像が認められたが,3群間に統計学的有意差は認められなかった.しかし,遠見融像は超早期群は9例中8例(88.9%),早期群は21例中10例(47.6%),晩期群は13例中4例(30.8%)で,遠見融像の獲得と手術時期との間には統計学的に有意な関連が認められた.TST立体視は全症例中13症例(30.2%)であり,超早期群は9例中6例(66.7%),早期群は21例中5例(23.8%),晩期群は13例中2例(15.4%)で(図14),RST立体視も全症例中11症例(25.6%)に認められ,超早期群は9例中7例(77.8%),早期群は21例中3例(14.3%),晩期群は13例中1例(7.7%)で(図15),超早期手術はTST立体視およびRST立体視の獲得に統計学的に非常に有用であることが認められた.以上の臨床報告をサルの実験結果を加味して考察すると,1)乳児内斜視に対する早期手術のなかでも,生後12カ月以後の早期手術では術後に立体視を獲得する可能性は非常に低いこと,2)生後6~12カ月の早期手術でも,斜視が発症し手術までの眼位未矯正期間が短いほど獲得できる立体視力は良好で,特に眼位未矯正期間が3カ月以内であることが非常に有利であること,3)生後6カ月の超早期手術は早期手術と比較して良好な立体視獲得に非常に有利であること,4)生後6カ月の超早期手術でも正常立体視の獲得はむずかしく,立体視発達開始の生後4カ月までの眼位矯正が必要と推定されるこ6例5例2例超早期手術9例200″が最良早期手術21例手術時期晩期手術13例100%75%50%25%0%p=0.026,Kruskal-WallisのH検定:Stereo(-):Stereo(+)図14手術時期とTST立体視(矢ヶ﨑ら21))7例3例1例超早期手術9例200″が最良早期手術21例手術時期晩期手術13例100%75%50%25%0%p=0.0003,Kruskal-WallisのH検定:Stereo(-):Stereo(+)図15手術時期とRST立体視(矢ヶ﨑ら21))———————————————————————-Page7(17)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??と,などが結論づけられる.しかし,立体視感受性期間までの眼位の正位化が理想であることは言うまでもないが,生後4カ月までの内斜視では,斜視角の経時的変動が大きく22,23),生後4カ月は安定した手術量の決定という点でやや早いと思われる.現時点での超早期手術の時期は,正常立体視の獲得はむずかしいものの正常に近い立体視は獲得可能である生後5~6カ月が最も適切な手術時期と考えられる.V術後眼位は8Δ~10Δ以内サルの乳児内斜視モデルの実験やヒトの臨床的検討より,生後6カ月以内の超早期手術が立体視獲得に有用であることはほぼ解明された.サルの実験ではプリズムレンズ装用によって光学的内斜視を作製したが,ヒトの内斜視手術に相当するものはプリズムレンズの除去である.サルの実験ではプリズムレンズの除去によって眼位は正位となるため,同様に効果をヒトの臨床上で得るためには,内斜視術後の眼位が正位であることが理想となる.それでは,両眼視の発達に必要な術後眼位がどの程度であろうか.1982年Zakら24)は,24カ月以内に手術を行い5年以上経過観察を行った105症例を,術後眼位が10Δ以内の61症例と11Δ以上の44症例に分類して両眼視機能の結果について検討している(表2).術後眼位11Δ以上群ではBagolini線条レンズ試験による融像は70%,Worth四灯試験による近見融像は14%,TSTによる立体視は7%に認められたのに対し,術後眼位10Δ以内群ではそれぞれ93%,61%,38%とすべて危険率0.1%以下で統計学的に有意差を示し,10Δ以内の術後眼位は両眼視機能の獲得に必要であることを報告している.正常立体視に先行する大まかな立体視や周辺融像などのsubnormalbinocularvisionを獲得するためには,超早期手術においても8Δ以内の微小斜視11)や10Δ以内のmono?xationsyndrome26)に持ち込むことが最低条件と考えられる.このように安定した眼位を得るためには,術前の斜視角測定には正確な検査方法が必要であることは言うまでもない.おわりに乳児内斜視の超早期手術によって良好な両眼視,特に困難と考えられていた立体視の獲得に有用であることが解明された.しかし,臨床的に獲得された立体視はM系機能である大まかな立体視であり,P系機能である60?未満の正常立体視にはいまだ到達してはいない.今後の課題はM系機能の両眼視の発達に追随して生じるP系機能の両眼視の発達をいかに正常発達に近づけるか,多くの実験的考察や臨床的検討の蓄積が必要であると考えられる.文献1)矢ヶ﨑悌司:両眼視機能獲得を目的とした乳児内斜視の手術時期.あたらしい眼科21:1179-1185,20042)BirchEE,FawcettS,StagerDR:Whydoesearlysurgicalalignmentimprovestereoacuityoutcomesininfantileeso-tropia????????4:10-14,20003)IngMR,OkinoLM:Outcomestudyofstereopsisinrela-tiontodurationofmisalignmentincongenitalesotropia.???????6:3-8,20024)ShirabeH,MoriY,DogruMetal:Earlysurgeryforinfantileesotropia.???????????????84:536-538,20005)矢ヶ﨑悌司,松浦葉矢子,鈴木瑞紀ほか:早期手術をおこなった乳児内斜視の検討.眼臨98:307-312,20046)WorthC:Squint:ItsCauses,Pathology,andTreatment.p55,JohnBaleSonsandDanielsson,Ltd,London,UK,19057)ChavasseFB:Worth?sSquint,p519,BlakistonCo,Phila-表2内斜視術後眼位と両眼視機能の関係(Zakら,198224)より改変)最終眼位≦10Δ10Δ<最終眼位有意差(61例)(44例)(χ2-test)融像Bagolini線条レンズ試験57例(93%)31例(70%)p<0.001Worth四灯試験37例(61%)6例(14%)p<0.001立体視TitmusStereoTests23例(38%)3例(7%)p<0.001———————————————————————-Page8??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(18)delphia,Pa,USA,19398)CostenbaderFD:Clinicalcourseandmanagementofeso-tropia.StrabismusOphthalmologySymposium(edbyAllenJH),p325-353,CVMosbyCo,StLouis,Mo,USA,19589)TaylorDM:Howearlyisearlysurgeryinthemanage-mentofstrabismus????????????????70:752-756,196310)IngMR:Earlysurgicalalignmentforcongenitalesotro-pia.???????????????????????????????20:11-18,198311)vonNoordenGK:Areassessmentofinfantileesotropia.XLIVEdwardJacksonmemoriallecture.????????????????105:1-10,198812)WrightKW,EdelmanPM,McVeyJHetal:High-gradestereoacuityafterearlysurgeryforcongenitalesotropia.???????????????112:913-919,199413)BirchEE:Stereopsisanditsdevelopmentalrelationshiptovisualacuity.EarlyVisualDevelopment:NormalandAbnormal(edbySimonsH),p224-236,OxfordUniversi-tyPress,NewYork,199314)HowardIP,RogersBJ:BinocularVisionandStereopsis.p187-191,OxfordUniversityPress,NewYork,199515)HammarrengerB,Lepor?F,Lipp?Setal:Magnocellularandparvocellulardevelopementalcourseininfantsduringthe?rstyearoflife.??????????????107:225-233,200316)O?DellC,BootheR:Thedevelopmentofstereoacuityininfantrhesusmonkeys.??????????37:2675-2684,199717)CrawfordML,vonNoordenGK:Opticallyinducedcon-comitantstrabismusinmonkeys.?????????????????????????19:1105-1109,198018)ChinoYuzo:霊長類における視覚中枢の正常発達と異常発達.眼臨94:490-500,200019)MoriT,MatsuuraK,ZhangBetal:E?ectsofthedura-tionofearlystrabismusonthebinocularresponsesofneuronsinthemonkeyvisualcortex(V1).??????????????????????????43:1262-1269,200220)KumagamiT,ZhangB,SmithEL3rdetal:Effectofonsetageofstrabismusonthebinocularresponsesofneuronsinthemonkeyvisualcortex.?????????????????????????41:948-954,200021)矢ヶ﨑悌司:乳児内斜視の手術時期と両眼視機能.眼臨100:35-41,200622)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Theclinicalspectrumofearly-onsetesotropia:experienceoftheCon-genitalEsotropiaObservationalStudy.???????????????133:102-108,200223)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Spontaneousresolutionofearly-onsetesotropia:experienceoftheCongenitalEsotropiaObservationalStudy.????????????????133:109-118,200224)ZakTA,MorinJD:Earlysurgeryforinfantileesotro-pia:resultsandin?uenceofageuponresults.?????????????????17:213-218,1982

弱視治療と三歳児健診

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSとつ視力と字づまり視力を測定した結果,両種の視力に統計的有意の差が8歳の終わりまで認められたこと2),つまり,「読み分け困難現象」がこの年齢まで存在することから,ヒトの視覚の発達はほぼ8歳の終わりころまで続くのではないかと結論している.IV弱視の分類視機能は,生後すぐから「鮮明な像」を見ることによって発達する.視覚の発達期に黄斑部にピントの合った像を結ぶことができなかった場合,弱視となる.弱視は,その原因によって大きく4つに分類される.1.形態覚遮断弱視視覚の感受性期間内に中心窩への視覚刺激が遮断されI弱視とは「弱視」という語には,①社会的弱視と②医学的弱視の状態の意味がある.①社会的弱視眼や視路に障害があり視覚障害によるlowvisionの状態.低下した生活の質をできるだけ高めるために拡大鏡などの補助具を用いてlowvisioncareを行う.②医学的弱視視覚の発達期(感受性期間)に視覚刺激が不十分であったために起こった視機能の未発達の状態(amblyo-pia).早期発見・治療が重要である.II小児眼科領域での「弱視」一般に,小児眼科で「弱視」といえば②医学的弱視amblyopiaをさすが,一般の人々(保護者の方々)は「弱視」といえば①社会的弱視の状態を連想することが多い.このことを踏まえ,弱視児の保護者にはまず,「弱視とは」という説明から始めなければ,誤解が生じる原因となる.III視覚の感受性期粟屋の報告1)では,ヒトの視覚の感受性は,出生直後の1カ月は低く,生後3カ月ころから上昇し,1歳6カ月ころが最も高く,その後は徐々に減衰して8歳までは残存する(図1).これは,3歳児から10歳児まで字ひ(3)?*YoshikoTakihata:川崎医療福祉大学感覚矯正学科〔別刷請求先〕瀧畑能子:〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学感覚矯正学科特集●小児眼科の新しい考え方あたらしい眼科23(1):3~9,2006弱視治療と三歳児健診??????????????????????????????????????????????????-????-????????????瀧畑能子*図1視覚の感受性期間出生直後の約1カ月間は低く,以後しだいに高くなり,1歳6カ月くらいまでが最も高く,しだいに減衰して8歳の終わりころまで続くものと考えられる.(文献1より)03182430カ月8歳??月(年)齢感受性の強さ———————————————————————-Page2?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(4)たこと(形態覚遮断)により生じる片眼性または両眼性の弱視.形態覚遮断の時期や期間によって程度は異なる.図2は,片眼遮閉の既往のある191例の弱視発生状況を示す1).1週間程度の片眼遮閉で弱視となったのは71例であったが,そのうち68例(95.8%)は生後18カ月までに片眼遮閉の既往があった.片眼遮閉の期間が長くなると児の年齢が大きくなっても弱視発生がみられる.原因としては,先天眼瞼下垂,眼瞼血管腫,医原性(眼帯,健眼遮閉),先天白内障,硝子体混濁,角膜混濁などがある.2.斜視弱視斜視眼が固定していると斜視眼への形態覚刺激が抑制され,視力発達が障害されることによって起こる.しかし,固視交代可能であっても左右差がある場合や,間欠性の斜視であっても斜視弱視は発生することがある.斜視弱視では,偏心固視,固視持続不良がある.固視検査では,児の眼前33cmにペンライトの光源を置き,片眼ずつ遮閉して角膜反射が瞳孔中心からずれていないかを見る.角膜反射が瞳孔中心からずれていれば,偏心固視である.3.不同視弱視左右眼の屈折値に違いがあるものを不同視という.左右眼の屈折値がまったく等しい眼はまれであり,2D程度の差を不同視として扱うことが多い.小児では,遠視性不同視が多い.ものを鮮明に見ようとしたとき,調節は左右眼に等しく行われるので,遠視度の小さい眼が黄斑部中心窩にfocusが合っている状態で,他眼(遠視度図2片眼性視性刺激遮断の既往のある191例における弱視の発生状況1週間程度の短期間完全遮断群の弱視のうち,18カ月までに遮断を受けた例が95.8%であった.(文献1より改変)024681012141618202224303歳6歳9歳12歳カ月遮閉を開始した年齢≦12年≦10年≦8年≦6年≦4年≦3年≦2年≦1年9カ月≦1年6カ月≦1年3カ月≦1年≦10カ月≦8カ月≦6カ月≦5カ月≦4カ月≦3カ月≦2カ月≦1カ月2週≦≦3週1週間遮閉した期間●:弱視になった例○:弱視にならなかった例———————————————————————-Page3(5)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006?の大きい眼)はまだdefocusの状態である.遠視度の強い眼は,つねにdefocusの状態であり,弱視となる(図3,4).不同視弱視の原因になる不同視の程度を表1に示す3~5).4.屈折異常弱視両眼にある程度以上の強い屈折異常があると,黄斑部中心窩にはつねにdefocusの像しか結ばれない.両眼性の弱視である.小児では,遠視性の屈折異常弱視が多い(図5,6).屈折異常弱視の原因になる屈折異常の程度を表2に示す4,5).-10D以上の強度近視では,視性刺激の不足により屈折異常弱視になることもあるが,頻度は少ない6).図3遠視性不同視:調節安静時図4遠視性不同視:調節努力時遠視度の強い眼はdefocusである.図5遠視性屈折異常弱視における調節安静時図6遠視性屈折異常弱視における調節努力時両眼ともにdefocusである.表1不同視弱視をきたす屈折値遠視性不同視遠視+2.0D以上,かつ不同視1.0~2.0D以上乱視性不同視遠視性乱視混合乱視乱視度の差1.0~2.0D以上乱視度の差2.0~2.5D以上近視性不同視近視-4.0~5.0D以上,かつ不同視5.0D以上この表より小さい不同視であっても弱視となることがある.症例ごとに対応する必要がある.表2屈折異常弱視をきたす屈折値遠視+3.0D以上遠視性乱視遠視+2.0D以上,かつ乱視1.0D以上混合乱視乱視2.0D以上———————————————————————-Page4?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(6)V弱視の治療1.形態覚遮断弱視原因(疾患)の治療と健眼遮閉である.(片眼)先天眼瞼下垂は,下方視で十分に両眼視を維持できているから弱視にはなりにくいとされている6)が,嫌悪反射やpreferentiallooking(PL)視力法などで左右眼の視力差が明らかである児や眼位異常が出現した児には,眼瞼下垂に対する手術を積極的に行っている.片眼先天白内障術後の無水晶体眼に対する屈折矯正は,眼鏡では不等像が大きくなるため,コンタクトレンズによる屈折矯正が適応となるうえ,3歳ころまでは屈折の変化が大きいため,コンタクトレンズの度数の交換を頻回に行わなければならない.形態覚遮断弱視は,視力0.2未満,外斜視の合併が多く,他の弱視より治療に抵抗性で予後不良である.2.斜視弱視健眼遮閉にて,中心固視の獲得と視力発達を行う.健眼遮閉は,まずは1日3~6時間程度の部分時間遮閉からはじめるが,治療困難な場合は起床から就寝までの全覚醒時間を遮閉する終日遮閉を行うこともある.間欠性の斜視に部分時間遮閉を行う場合は,遮閉していないときには両眼視を積極的に行うように指導する.終日遮閉を行う場合は,健眼の弱視化を監視することが重要であり,1歳未満の乳児では1週ごと,1歳児では1~2週ごとの経過観察が必要である.3.不同視弱視および屈折異常弱視屈折異常が原因で起こる弱視であるから,治療は,視覚の感受性期間内に,網膜中心窩に鮮明な像を得るために完全屈折矯正を行うことが第一である.a.小児の屈折検査小児は調節力が大きい.オートレフラクトメータなどで他覚的屈折検査を行った結果,その屈折値が安定していたとしても,必ず調節の介入を考慮しなくてはならない(図7).つまり,非調節麻痺下での測定値で眼鏡処方すると,かなり近視側の屈折値となり,遠視の矯正をしては低矯正であり,弱視の治療用眼鏡としては不適切なものとなる.小児では,必ず調節麻痺薬を点眼して他覚的屈折検査を行う.調節麻痺効果が最も大きいのは,アトロピンであるが,最大効果を得るまでに約1週間かかる,効果持続が長い,発熱などの全身副作用がある,などの理由から,シクロペントレート(サイプレジン?)の点眼を用いることが多い.表3に調節麻痺薬の特徴を示す.しかし,眼鏡装用していても視力の向上が不十分な児には,アトロピンでの調節麻痺下の屈折検査を行う7).遠視性弱視の屈折矯正の基本は,調節麻痺下での他覚的屈折検査で得られた屈折値をそのまま眼鏡の度とする「完全屈折矯正」である.他覚的屈折検査の方法としては,乳幼児では検影法が最も良い方法である(図8).しかし,成人と同様に据え置き型オートレフラクトメータも用いられる.4歳未満の児では,手持ち式オートレフラクトメータも使われる(図9).図74歳児の非調節麻痺下での屈折検査手持ち式オートレフラクトメータで測定した値は,近視でほぼ安定していても,4分後には,近視度数が減少した値となっている.4分後表3調節麻痺薬の比較麻痺効果効果最大効果持続副作用アトロピン完全5日3週間発熱顔面紅潮サイプレジン?(1.0%シクロペントレート)不完全0~+1.5D(AT値と比べて)60~120分2日幻覚一過性運動失調———————————————————————-Page5(7)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006?b.不同視弱視の眼鏡・健眼遮閉乳幼児の不同視は,軸性の不同視であるため,Knappの法則より眼鏡による不等像視は生じにくく装用可能である8).6D程度の不同視であっても眼鏡装用可能である.乱視も6D程度であれば装用可能で,乱視軸が左右で異なる場合も特に調整は必要ない.屈折矯正だけでは,弱視眼の視力の発達があまり望めない場合は健眼遮閉も併用する.健眼遮閉は,通常2~6時間/日の部分時間遮閉を行う.遮閉治療中は両眼視機能(立体視)や眼位の増悪がないか注意しなければならない.視力がある程度(1.0以上)発達したら,30分/日として遮閉治療中に細かい字拾いなどを行うこともある.弱視眼の視力向上が十分となり,遮閉治療を中止して1カ月後に視力を確認すると低下している場合は,健眼遮閉を再開する.c.屈折異常弱視弱視のなかでは,最も速やかに視力の向上が得られる.治療としては,完全屈折眼鏡を処方する.VI弱視治療のヒヤリハット屈折異常や斜視が認められた場合でも,視力不良のおもな原因がほかにあることがある.つまり,眼底疾患や前眼部疾患を見逃さないようにしなくてはならない.特に,弱視治療になかなか反応せず視力の改善がほとんどみられない場合は視神経,脳を含む視路の異常,網膜疾患や角膜疾患も念頭において,見落としはないか,もう一度,視力障害の原因検索を行うことが重要である.VII三歳児健康診査の歴史三歳児健診は,1961年に母子保健法に基づき厚生省児童局および医務局からの通達で実施となったが,眼科は,「目の疾病および異常の有無」とされ,問診・視診で発見可能な異常に限られていた.湖崎らは,1970年に大阪市内保健所の三歳児健診にLandolt環字ひとつ視力検査を2.5mの距離で行い,スクリーニング基準として0.5が適当であると報告した9).1990年,三歳児健診に視力検査が導入された.その後,厚生省心身障害研究「小児の視覚発達の評価法に関する研究」の一環として,丸尾らが三歳児健康診査のガイドラインを作成した10).1997年度から三歳児健診の実施主体が都道府県から市町村へ委譲された.VIII三歳児健診の流れ三歳児健診の流れを図10に示す.一次健診は,家庭に問診(アンケート),Landolt環視標(0.1と0.5)と視力検査の方法の説明書が送付され,家庭で保護者が視力検査と眼に関するアンケートの回答を行う.アンケートの回答で眼疾患が疑われるか,視力検査の結果片眼でも0.5未満か視力検査ができなかった場合は,保健所での二次健診として,保健師の視力検査と小児科医の眼異常チェックを受ける.二次健診でも視力が片眼でも0.5未満か,眼異常が疑われる児は,精密健診を眼科で受ける.各市町村では,このガイドラインをもとに工夫,アレ図9手持ち式オートレフラクトメータ(レチノマックス:JFC社製)図8検影法乳幼児の屈折検査としては最も良い方法である.調節の介入状態,角膜の状態,中間透光体の状態なども把握できる.———————————————————————-Page6?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(8)ンジしている.IX三歳児健診の実施年齢神田らは3,4歳児の月齢ごとのLandolt環字ひとつ視力検査(検査距離5m)の検査可能率を,3歳0カ月では73.3%であるが,3歳6カ月では95%になると報告している(図11)11).また,神田らは正常3,4歳児の月齢ごとの平均視力を3歳0カ月で0.55,3歳6カ月で0.82と報告している(表4)11).現行のシステムでは3歳6カ月で実施すると効率がよい.X視力測定ができなかった児の対処野山らは三歳児健診でLandolt環での視力測定不能で精密健診として眼科初診したときの屈折検査,細隙灯検査,眼底検査の検査可能率はそれぞれ91.2%,88.6%,84.2%であり,保健所で視力検査をくり返さず眼科受診することによって他覚的検査を行うことにより,早期発見・早期治療が可能となると報告している12).XI日本小児眼科学会の三歳児健診検討会2001年に三歳児健診検討会が発足し,2002年から保図10三歳児健康診査の流れ一次健診は家庭で保護者が行う.アンケート記入・視力検査nononononoアンケート○なし家庭視力0.5以上二次検査視力0.5以上眼異常なし3歳児精密検査受診票発行処理可専門医療機関終了終了終了終了家庭保健所眼科図113,4歳児の月齢ごとの視力検査可能率Landolt環字ひとつ視力検査(5m)での検査可能率は,3歳6カ月では95%となる.(文献11より)年齢1009080700(%)3歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月11カ月4歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月表43,4歳児の月齢ごとの平均視力年齢平均視力3歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月11カ月4歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月11カ月0.550.660.820.790.790.780.820.820.820.860.870.880.880.870.900.890.990.960.970.931.001.081.15─3歳0カ月では0.55,3歳6カ月では0.82となる.(文献11より改変)———————————————————————-Page7(9)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006?護者向けの「三歳児健診で弱視の早期発見を」というタイトルのパンフレットを作成・配布している(図13).XII弱視治療用(視力発達促進用)眼鏡に対する療養費の給付小児の弱視治療用眼鏡は,治療具であるが医療装具に対する療養給付の対象となっていない.しかし,弱視児をもつ保護者や眼科医などの努力により,2004年,厚生労働省社会保険審査会での公開審査において,「弱視治療用の眼鏡と遮閉具(アイパッチ?)は療養費の支給要件に該当し,家族療養費の支給対象となるものを認めるのが相当である」という結果が出され,療養給付されるケースが増えてきている.文献1)粟屋忍:形態覚遮断弱視.日眼会誌91:519-544,19872)神谷貞義,西岡啓介,西信元嗣ほか:視力の統計的考察─NonParametricTestを用いての字づまり視力と字ひとつ視力の差の検定.臨眼23:511-515,19693)初川嘉一:不同視.屈折異常の診療,眼科診療プラクティス9,p70-73,文光堂,19944)加藤和男:弱視と屈折異常.眼臨81:2001-2006,19875)矢ヶ﨑悌司:弱視.小児眼科プライマリ・ケア.眼科診療プラクティス100,p24-28,文光堂,20036)安間正子,粟屋忍:片眼性先天眼瞼下垂の視機能に関する研究.眼紀36:1510-1517,19857)八子恵子:弱視・斜視の眼鏡.あたらしい眼科21:1435-1440,20048)粟屋忍:不同視の矯正法.眼臨77:1407-1416,19839)湖崎克,内田晴彦,三上千鶴:3歳児健康診査における視力検査の検討.臨眼24:211-217,197010)丸尾敏夫,神田孝子,久保田伸枝ほか:三歳児健康診査の視覚検査ガイドライン.眼臨87:73-77,199311)神田孝子,山口直子,川瀬芳克:保育園における3,4歳児の視力検査.眼臨87:288-295,199312)野山規子,及川幹代,瀧畑能子ほか:滋賀県三歳児健康診査視力スクリーニングにおける測定不能児への対処.日本視能訓練士協会誌27:169-173,1999図12日本小児眼科学会の三歳児健診検討会が作成した保護者向けのパンフレット必要な方は,瀧畑能子(〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学感覚矯正学科)宛にご請求ください(無料).

序説:視機能発達と小児眼科

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS最近,“小児医療が危うい”といった新聞記事やテレビ番組を目にする機会が多いと思われるが,眼科でも“小児眼科が危うい”と思っておられる方が多いのではないであろうか.小児科と同様に,眼科でも小児眼科を志す若手医師が決して多くないということは大きな問題である.伝え聞くところによると都内の大学では小児眼科を担当する医師がおらず,斜視手術をほとんど行っていないところもあるそうである.原因はどこにあるのだろうか.少子化が最大の要因であることは間違いないであろう.対象患者数が減少すれば,それに対するサービス提供者である医療側もスリム化が要求されるのは当然である.しかし,それ以外での最大の要因は診療報酬の問題ではないであろうか.小児患者の診察には時間と人手が成人患者よりはるかに多くかかるのに診療報酬は成人例とほぼ同じ設定になっているため,眼科内での不採算分野になってしまっていることである.しかし,光明は射しつつある.政府も遅きに失した感は否めないが,最近になってやっと少子化問題や小児医療に関して真剣に取り組む姿勢がみえてきた.2003年9月22日に発足した第二次小泉内閣で初めて青少年育成及び少子化対策担当の内閣府特命担当大臣というポストが新設されたし,2005年10月31日の内閣改造でも少子化・男女共同参画担当と名は変わったが特命担当大臣というポストがあ(1)?り,少子化問題は政府の重要な政策課題として認識されている.医療分野での具体的な話では平成18年の診療報酬改訂において,昨今,医療費抑制の圧力が強いなか,6歳未満の小児に対する診療報酬は従来に比し,やや手厚い内容になることが予想されている.これからは小児眼科が決して“不採算”部門ではなく,収益的にみて有利な部門となる時代がやってくると期待している.今回の特集では「小児眼科の新しい考え方」をテーマとした.小児眼科は眼科の他の領域に比して進歩が遅い,新しいことがないといった誤った印象をもっておられる方が多いのではないかと思われる.本特集では各分野で活躍されている先生方に新しい話題を中心にして執筆をお願いした.まず,弱視治療と3歳児検診に関しての現況と問題点について瀧畑能子先生に解説をお願いした.斜視の分野では早期手術,あるいは生後6カ月以内に行われる超早期手術の評価が話題になっているが,これについて多数の治療経験をお持ちの矢ヶ?悌司先生に執筆をお願いした.小児白内障に関しては眼内レンズの適応年齢,狙い度数,術式をどうするか,術後経過,特に視機能の発達はどうなのかなどわれわれの知識はまだまだ不十分で,解決できていない問題は山積している.この領域については仁科幸子先生にご執筆をお願いした.未熟児網膜症の分野では周産期医療レベルの向上により,従来では生存が*ShunjiKusaka&TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形態学●序説あたらしい眼科23(1):1~2,2006視機能発達と小児眼科???????????????????????????????????????????????????????日下俊次*不二門尚*———————————————————————-Page2?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006困難であった在胎週数が22,23週で出生時体重が600gにも満たない低出生体重児が増加しており,これにつれて重症型(厚生省分類でⅡ型あるいはaggressiveposteriorretinopathyofprematurity)が増加している.以前にはまれであったこのような重症型に対する対応も迫られているが,この分野で活躍されている平岡美依奈先生にこのように変遷をとげる未熟児網膜症とそれに対する光凝固治療の最近の動向を解説していただいた.網膜?離をきたした未熟児網膜症に対する硝子体手術に関しても最近はより良い術後視力の獲得を目指して,水晶体を温存しての早期手術が試みられているが,これに関して小生らが解説させていただいた.また,初川嘉一先生には網膜芽細胞腫に対する治療法について最新の化学療法を含めて解説をお願いした.最後に,ときどき遭遇するがその対処に苦慮することが多い小児のデルモイドについて最新の知見を治療経験が豊富な古城美奈先生らにわかりやすく解説していただいた.いずれも力作揃いで,この特集を読めば小児眼科のトレンドの概略が理解できるのではないかと自負している.この特集を読んでいただいておわかりのように,小児眼科分野はまだまだ未解決の問題が多く残されているし,未来ある小児の診療に携わるのは非常にやりがいのあることである.今後,さらに採算性も改善されれば言うことはない.一人でも多くの若手眼科医が小児眼科を目指していただけることを期待している.(2)下記の要項にて,平成17年度須田記念緑内障治療研究奨励基金助成対象者の募集を行います.当基金の趣旨をご理解頂き,優れた助成対象論文のご応募を御願い致します.1.助成対象緑内障に関する研究全般を対象とし,申請者の申請した研究課題に助成する.2件(各100万円)予定2.応募資格①緑内障臨床と研究を継続する意志がある②年齢45歳以下③緑内障治療研究に実績がある④日本国籍を有する⑤自薦・他薦は問わない3.審査方法2005年1月1日から2005年12月31日までの1年間に発表された論文を同基金運営委員会選定委員において審査し決定する.4.応募方法及び応募締切助成金交付申請書に必要事項を記入し,主な業績一覧(1部),論文別刷(17部)を添付の上,下記宛に2006年2月13日までに提出する.尚交付申請書は,各大学教授及び緑内障学会評議員へ,事務局より送付する.〔提出及び問い合わせ先〕〒150-0041東京都渋谷区神南1丁目22番3号住友信託銀行渋谷支店内公益信託須田記念緑内障治療研究奨励基金事務局担当:佐々木TEL:03-3463-7121《公益信託須田記念緑内障治療研究奨励基金助成対象者募集》のご案内