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原発閉塞隅角緑内障の新しい分類:国際分類と新緑内障ガイドラインについて

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSのスクリーニング能力が向上してきていることにある.以前からアジア諸国にPACG患者が多いことは知られていたが,残念ながらこれらの国々における緑内障診療レベルはこれまで必ずしも高くなかった.近年これら諸国の社会構造が近代化し,社会福祉体制が改善するに従って,近代的な眼科診療が可能となりPACGに対する欧米諸国の注目が上昇するようになったことも理由の一つである.以上のような背景から,PACGに関する国際的な興味が急速に増加したが,その際に問題になったことはPACGの疾患定義に世界基準がないことであった.表1に,これまで報告されたPACGに関する主要な疫学調査とそのなかで用いられている診断基準を示す.表1からは各報告間において診断基準が,特に視神経障害の有無に関して,大きく異なることがわかる.したがって,I新しい原発閉塞隅角緑内障分類の背景原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglauco-ma:PACG)に関する話題が最近賑やかである.日本人眼科医にとって,学問的には終わったかのように思われていたPACGであるが,実は世界的に現在非常に注目されている.その理由に関しては,本特集の序説でも述べられていると思われるが,緑内障のなかでは重篤化症例が多いこと(統計によると緑内障の病型別患者数は全体からみれば少ないが,緑内障による失明者の約半数はPACGである),原発開放隅角緑内障と異なり,予防的レーザー虹彩切開術や水晶体摘出術により多くの症例で発症そのものを予防することが可能であること,さらに超音波生体顕微鏡や非接触型の前眼部解析装置などの検査機器の開発が急速に進んで病態解明や危険眼・潜在眼(9)???*KenjiKashiwagi:山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座〔別刷請求先〕柏木賢治:〒409-3898山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1110山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):993~997,2007原発閉塞隅角緑内障の新しい分類:国際分類と新緑内障ガイドラインについて??????????????????????????????????????????-????????????????:??????????????????????????????????????????????????????????柏木賢治*表1各種閉塞隅角緑内障疫学調査の診断基準の比較国眼症状眼圧上昇隅角鏡視神経乳頭評価視野評価負荷試験発作歴グリーンランド++全例--++アラスカ++全例++(眼圧)--中国++一部----チベット++一部---+日本-+眼圧上昇例----南アフリカ++全例++(視神経)--モンゴル++全例++(視神経)--台湾-+全例--++これまでに報告されている主要な閉塞隅角緑内障の疫学調査結果を示す.調査によって,診断基準が異なることがわかる.特に下線で示すように視野障害や視神経障害など緑内障性視神経障害の有無の診断基準への採用が研究によって異なることが重要なポイントである.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007これらの調査結果から得られた有病率などを互いに比較検討することが困難であり,このことはPACGの実態の理解や適切な診療方針を決定するうえで大きな支障となった.PACGに関する世界共通の診断基準を作成し情報の共有化を高める必要性が求められたため,国際的な眼科疫学研究組織であるInternationalSocietyofGeographicandEpidemiologicalOphthalmology(ISGEO)が中心となり新しい診断基準の作成が積極的に進められた.その結果,PACGに関する新しい分類や診断基準などがFosterらによって2002年に疫学調査研究結果として報告されるに至った1).この基準に対しては,諸意見が残ってはいるが現在PACG診断の世界的標準となりつつある.アジア諸国の一員でもあり,眼科診療先進国である日本は,PACGの国際標準化に関しても,深く参加すべきであったと思われるが,レーザー虹彩切開術の普及に伴い,疾患としての興味が薄れていたこと,塩瀬スタディや多治見スタディの結果に代表されるように,原発開放隅角緑内障,特に正常眼圧緑内障がその興味の中心となっていたこと,ISGEOの定めるPACGの定義そのものに対する考え方の違いなどからか,この流れから遅れた感は残念ながら否めない.その結果,日本緑内障学会が2003年に発表した緑内障ガイドライン2)におけるPACGの理解や定義は,ISGEOのものとは大きく乖離する結果となった.そこで病態理解のグローバル化が求められる現在において,その問題点を解決するために,日本緑内障学会は,ISGEO分類を考慮した緑内障ガイドライン第2版を発表し3),世界認識との格差を解消することとなった.II新しい原発閉塞隅角緑内障に関するISGEO診断基準ISGEOではPACGを表2に示すように大きく3つに分類している.すなわち,機能的な隅角閉塞が隅角全体の3/4以上に認められるが,眼圧上昇や眼圧上昇の既往を疑わせる所見ならびに緑内障性視神経障害を有さないものを原発閉塞隅角眼疑い(primaryangle-closuresuspect:PACS)とした.ついで,PACSの所見に加え,周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,虹彩や線維柱帯の異常,glaucoma?eckenの存在など眼圧上昇もしくは眼圧上昇発作の既往を疑わせる所見を有するものを原発閉塞隅角眼(primaryangle-closure:PAC)と定義した.さらに,これらの所見に加え,緑内障性視神経障害の存在,もしくはそれを強く疑わせる所見を有するものを原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)と定義した.米国眼科学会の2005年のPreferredPrac-ticePatternにもこの基準は採用されている.前述したように,現在このPACG診断が世界の標準になってきており,今後,PACGを診断する際にはこの基準に則る必要がある.III従来の日本におけるPACGの定義とISGEOのPACGに関する定義の違い2003年の緑内障ガイドラインにおいては,PACGの定義として,“他の要因なく,隅角閉塞により眼圧上昇を来す疾患である”とされ,“原発閉塞隅角緑内障では眼圧上昇あるいは視神経の変化は隅角閉塞が証明されながら眼圧上昇あるいは視神経の変化を来していない初期症例を含めてすべて原発閉塞隅角緑内障とする”とされた.すなわち,緑内障性視神経障害(GON)の有無はPACGの診断に必須ではないとされた.上記の診断基準をISGEOの基準に当てはめると,PACもしくはPACSとなり,大きく異なる.さらに,ISGEOではいわゆる緑内障急性発作を起こしてもGONのない症例は“原発閉塞隅角眼(PAC)もしくは急性原発閉塞隅角眼(acuteprimaryangle-closure)と診断されるが,従来の日本のガイドラインではこのような場合も“原発閉塞隅角緑内障”と定義している.(10)表2ISGEOによる原発閉塞隅角緑内障分類?原発閉塞隅角眼疑い(primaryangle-closuresuspect:PACS)・隅角の3/4周以上において,線維柱帯後部が観察されない?原発閉塞隅角眼(primaryangle-closure:PAC)・PACS+線維柱帯閉塞所見(周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,虹彩や線維柱帯の異常所見,glaucoma?eckenなど)?原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)・PAC+緑内障性視神経障害———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007???IVわが国における新しい閉塞隅角緑内障の定義前述したように,PACGの世界的定義の見直しを受けて,日本緑内障学会でも,先頃新しいPACGの定義に関するガイドラインをまとめ発表した3).主要な改定部分を表3に示す.重要な点としては,“狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞を来しながら,緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primaryangle-closure)”と定義したこと,従来の定義でいう閉塞隅角緑内障の急性発作眼の場合,発作寛解後,緑内障性視神経障害を有さない場合を“急性原発閉塞隅角症”とした点である.さらに付記として“狭隅角は隅角が狭いという状態を表現するに過ぎず,隅角閉塞機序が存在することを意味しない”こと,“狭隅角の原発開放隅角緑内障はありうるので,狭隅角緑内障の用語は用いるべきではない”が加えられた.ここで,閉塞隅角眼と狭隅角眼の使用が日本においては曖昧であることに注意する必要がある.まだ十分にコンセンサスは得られていないが閉塞隅角はoccludableangleとほぼ同義で隅角の機能的閉塞が起こっていることを意味しているが,狭隅角はnarrowangleと訳され,単に前房深度が浅いだけで機能的閉塞を起こしてはいない状態と考えられる.したがって,ISGEOに基づく隅角の閉塞を評価する場合は閉塞部の表現は閉塞隅角:occludableangleと表現し,narrowangleと表現しないようにすべきであると考える.さらに間違えやすい表現として,PACG疑いとPACSの違いにも注意する必要がある.PACSは前述したように,隅角の一定範囲以上が機能的に閉塞しているが,眼圧上昇などの機能的異常や周辺虹彩前癒着や神経障害などの器質的障害をきたしていない状態を示すのに対し,PACG疑いは,閉塞隅角眼で緑内障性視神経障害の存在が証明されないが,存在する可能性が高い状態を示している.このような新しい閉塞隅角緑内障の定義を用いてわが国で初めて行われた大規模な疫学調査が多治見スタディである4).従来の日本の定義と新しい定義で判定した場合の有病率の違いを表4に示す.従来の定義の場合,PACGの有病率は1.3%であるが,ISGEO基準に基づいた新しい判定基準によると,PACGの有病率は0.6%,PACは0.5%となり大きく異なる.VISGEO診断基準の特徴と問題点ISGEO診断基準には,いつくかの特徴がある.まず,ISGEOではPACGの診断基準を策定するにあたっての基本的な考え方として図1に示すような,PACGの発症機転を想定している.すなわち,原発閉塞隅角眼疑い(11)表3閉塞隅角緑内障に関するわが国における新しい緑内障ガイドラインの特徴?狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞を来しながら,緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primaryangle-clo-sure)と定義する.?急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure)・急性発作寛解後,緑内障性視神経障害を有さない.?原発閉塞隅角症は原発閉塞隅角緑内障の前段階であり,無治療では原発閉塞隅角緑内障に進展する.(付記)?狭隅角は隅角が狭いという状態を表現するに過ぎず,隅角閉塞機序が存在することを意味しない.?狭隅角の原発開放隅角緑内障はありうるので,狭隅角緑内障の用語は用いるべきではない.表4多治見スタディにおける原発閉塞隅角緑内障の有病率従来定義新定義PACG1.3%0.6%PACG疑い*─0.2%PAC**─0.5%**:視神経障害の確認精度が低い.**:確定的な視神経障害を認めないPAC.注記:診断基準はISGEOにほぼ準拠.PACG疑い≠PACS.図1原発閉塞隅角緑内障の発症・進展の考え方原発閉塞隅角眼疑い(primaryangle-closuresuspect)原発閉塞隅角眼(primaryangle-closure)原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma)急性原発閉塞隅角眼(acuteprimaryangle-closure)10~20%/10~20年後25~30%/5年後———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007の一部が原発閉塞隅角眼に移行する.さらにその一部は眼圧上昇発作を起こす急性原発閉塞眼を介して,他の一部は,急性の眼圧上昇なく慢性的に眼圧上昇から緑内障性視神経症を示し,PACGに移行するとした.しかしながら,臨床において本当にこの定義のように進行するかはいまだ証明されていない.たとえば,機能的閉塞隅角がどこまで進むと虹彩前癒着や眼圧上昇が起こるのか,機能的閉塞隅角を経ずに,PACGを発症する症例は存在しないのかなどに関しては不明である.前房深度や隅角開度だけがPACG発症のパラメータだけでなく,これらの状態が同じようであってもPACGの発症頻度が人種などによって異なることが最近明らかになっており,隅角所見以外にPACG発症に関与する因子の存在も指摘されている.現在の診断は隅角検査の結果によるが,隅角検査は主観的検査であるために診断がどのくらいの精度を有しているか疑問である.これらの点に関しては今後前向き調査などで検討することが強く求められている.最近は無侵襲で定量性が高い検査機器や毛様体の観察が可能な超音波生体顕微鏡など新しい検査機器が開発されている.今後このような機器を積極的に用いて,閉塞隅角緑内障の発症機序を解明するとともに,発症の危険性を判定するパラメータを増やし,より精度の高い判定基準を作成することが重要である.現在,世界的な流れとして,“緑内障”と診断する根拠として表5に示すような緑内障性視神経症の存在を証明する必要があるが,視神経乳頭の形態は多彩で現在の判定基準では十分に高い診断能力はなく診断が曖昧になる点も問題である.特に日本人の場合,近視眼などでは視神経乳頭の変形が強く判定に苦慮する症例も少なくない.以上からより普遍性や信頼性が高い緑内障性神経障害の判定基準が必要である.VI原発閉塞隅角緑内障診断上の注意点これまでの診断基準に代わり今後,ISGEOや新しい緑内障ガイドラインに基づき閉塞隅角緑内障を診断することが重要である.特に,診断では正しい隅角所見を得ることが従来に増し要求されているため,眼科医は隅角鏡の使い方に熟練する必要がある.隅角検査の詳細に関しては他書に譲るが,ポイントとしては,視軸に対して平行に観察できるように隅角鏡を当て患者には正面を直視するように指導すること,強く圧迫して眼球の変形をきたさないこと,部屋の照明は可能な限り落とすこと,細隙灯の光をできるだけ細く短くし,瞳孔領に光が入光しないように注意することが重要である.また通常の隅角検査では,周辺虹彩前癒着(PAS)の有無を判定することがしばしば困難である.圧迫隅角検査はPASの判定に有用であるため,圧迫隅角検査に習熟する必要もある.おわりにわが国ではかつて閉塞隅角緑内障眼やその危険眼に対してはレーザー虹彩切開術(LI)を行うことで治療が完了すると捉えられてきたふしがあるが,最近LI後の水疱性角膜症が問題視されるようになっている.LIにより発症した水疱性角膜症で全層角膜移植手術が必要となった症例のうち,急性発作後にLIを施行した症例と予防的にLIを施行した症例はほぼ同数であるとの報告がある.LIの有用性を考えた場合,むやみにLIを恐れる心配はないが,施行にあたっては術前に安全性や必要性を十分に検討する必要がある.閉塞隅角の治療として水晶体摘出術を勧める眼科医もいるが,過剰な患者への負荷は避けるべきであることは明白である.LIで閉塞隅角の急性発作を解消した症例でも長期的には慢性閉塞隅角緑内障に移行し,その予後は開放型よりも悪いことも報告されている.有効な予防的治療をもつ原発閉塞隅角緑内障の場合,どのような症例が本当に治療を要するの(12)表5緑内障性視神経障害分類?分類①:視神経障害+視野障害・正常の97.5%域を超えるC/D比もしくはC/D比の左右差・もしくは耳側辺縁のC/D0.1以下の狭小化・かつ明らかでかつ恒常的な視野障害?分類②:進行した視神経障害・正常の99.5%域を超えるC/D比もしくはC/D比の左右差?分類③:視神経障害,視野障害とも証明不可能・高度視力障害(3/60未満)と正常の99.5%範囲を超える眼圧上昇・高度視力障害(3/60未満)と緑内障手術歴もしくは,緑内障視機能障害を証明する医学記録ただし,分類①と②の場合,他の原因が除外できること.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007???か,発症機序解明という医学的興味に加えきちんとした治療基準を確立することが急務である.このためには世界的統一基準で客観的なデータを集めることが重要で,閉塞隅角緑内障の診療に関しては今回紹介したような,診断基準に基づいた診療を行うことが求められる.文献1)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thede?nitionandclassi?cationofglaucomainprevalencesurveys.???????????????86:238-242,20022)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-157,20033)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:778-814,20064)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.?????????????112:1661-1669,2005(13)眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

日本人と原発閉塞隅角緑内障:PACGの人種差,地域差

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI原発閉塞隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障あるいはその予備軍である浅前房,狭隅角眼は比較的眼軸の短い遠視眼や小眼球に高頻度に発症する.このような眼ではもともと隅角が狭いうえに,(1)相対瞳孔閉鎖,(2)プラトー虹彩形状が重なり,さらに(3)加齢による水晶体厚みの増加がいっそう隅角を狭細化し,最終的には隅角閉塞を生じ発症する.本症は中~高齢の女性に頻度が高く,さらに東アジア系人種で頻度が高い特徴がある.II原発閉塞隅角緑内障のわが国における頻度わが国においてこれまで行われた疫学調査には,日本全国を対象としたShioseらの1991年の報告2)と,Iwaseら(2004),Yamamotoら(2005)の多治見スタディ(2000~2001)1,3)がある.Shioseらの報告では全緑内障有病率は3.56%であり,そのうち原発閉塞隅角緑内障と診断された症例は0.34%であった2).多治見スタディでは全緑内障有病率は5%であり,そのなかで原発閉塞隅角緑内障と診断された症例は0.6%であった.なお,Shioseらの全国調査では参加者は40歳以上の成人で対象者16,078人中8,126人が受診し,受診率は50.54%であった.一方,多治見スタディでは40歳以上の成人の78.1%,3,021人が受診している.閉塞隅角の所見の判定はShioseらはvanHerick法で狭隅角眼をスクリーニングしその後,隅角鏡検査を行っはじめに多くの疾病の発症頻度,有病率には性差,年齢差だけでなく人種差や民族差,さらには同一民族においても地域差があることが知られている.たとえば,胃癌は日本において頻度が高く,大腸癌は欧米においてより頻度が高いことが知られている.眼科疾患に関して,加齢黄斑変性症は欧米では頻度が高く,成人の失明原因の主要な疾患であることはよく知られているが,一方で最近までわが国ではまれな疾患であったとされていた.しかし環境,特に食生活の欧米化や長寿社会の到来により,日本においても加齢黄斑変性症の頻度は急速に増加している.緑内障は房水の流出抵抗の機序から,開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障の2大病型に分類されているが,その発症頻度に民族差や人種差があることが報告されている.さらに開放隅角緑内障においても原発開放隅角緑内障の頻度と正常眼圧緑内障の頻度には明らかな人種差が認められることがこれまでの多くの疫学調査で報告された.特に,わが国においてはこの正常眼圧緑内障が諸外国に比べ際立って高頻度であることが2000~2001年に行われた多治見スタディにより証明された1).もう一つの病型である閉塞隅角緑内障に関してはどうであろうか.本稿では,これまでに報告された緑内障疫学調査を中心に各国における閉塞隅角緑内障の発症頻度の違いについてまとめてみる.(3)???*ShoichiSawaguchi,HiroshiSakai&YukoNakamura:琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):987~992,2007日本人と原発閉塞隅角緑内障:PACGの人種差,地域差?????????????-????????????????????????????????:??????????????????????????????澤口昭一*酒井寛*仲村優子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007ている.Becker-Sha?er分類で2度以下を狭隅角と分類し,grade1以下をclosedあるいはoccludableとしている.多治見スタディではスクリーニングは同様にvanHerick法で行い,vanHerick2度以下に関しては二面鏡で隅角を観察し,隅角を4分割して3象限以上の隅角線維柱帯色素帯が観察できない場合(Sha?er分類で2度以下の狭隅角)をoccludableangleと定義している.この結果,多治見スタディではvanHerick法でgrade2以下は4.5%(女性が6.5%,男性は1.9%)であった.このvanHerick分類で2度以下の4.5%のうち,Sha?er分類では69.8%がSha?er2度以下のoccludableangleであったとも述べている.この結果から,vanHerick法は臨床的には狭隅角のスクリーニングとして十分機能していることが改めて示された.Shioseらの報告を注意してみてみると,全体(全国平均)の原発閉塞隅角緑内障の頻度は0.34%であるが,北海道ではその頻度は非常に高く0.86%であった.それに対し受診率が高く,多治見市の住民に背景が近い愛知,山梨ではそれぞれ0.34%,0.32%であり,このことから国内においても原発閉塞隅角緑内障の発症頻度に非常に大きな地域差があることが推定された.ちなみに岩手のそれはその中間の0.49%であった.Shioseらの隅角所見の基準は多治見スタディのそれに比べ厳しく設定されており,一方,Yamamotoらの基準は最近の疫学調査の基準に沿っていることがこの差につながっている可能性がある.実際にYamamotoらはShioseらと同様の判定基準を用いた場合,多治見スタディにおける原発閉塞隅角緑内障の発症頻度は0.23%になると述べている.III原発閉塞隅角緑内障の人種差,民族差における発症頻度原発閉塞隅角緑内障の有病率はすでに述べたように人種,民族,さらには地域差があることが知られている.たとえば原発閉塞隅角緑内障はヨーロッパやアメリカの白人には少なく,南アフリカの黒人においてもその頻度は白人より若干高いものの低頻度の範疇に入ることが報告されてきた.ここではこれまでのおもな疫学調査の報告についてまとめる(表1).1.原発閉塞隅角緑内障が低有病率(0.5%以下)(1)アメリカのウィンスコンシン州の疫学調査4):43~84歳,5,925人の対象者で4,926人の受診.おもに白人で原発閉塞隅角緑内障は2名で,有病率は0.04%.(2)オーストラリアのメルボルンの疫学調査5):40歳以上,3,271人の参加者で受診率は83%.おもに白人(97%)で原発閉塞隅角緑内障は2名で,有病率は0.1%未満.(3)アメリカのアリゾナ州のヒスパニックの疫学調査6):40歳以上,4,774人の受診者で受診率は72%.原発閉塞隅角緑内障は5名で,0.1%の有病率.(4)南アフリカの黒人における疫学調査7):Zulu地方で行われた調査で,受診者は1,005人で受診率90.1%.原発閉塞隅角緑内障の有病率は0.1%未満.(5)南インド地方,TamilNaduにおける疫学調査8):40歳以上の5,150人が受診.原発閉塞隅角緑内障は0.5%.2.原発閉塞隅角緑内障の発症頻度が中等度(0.5~1.0%以下)(1)北イタリアの白人での疫学調査9):40歳以上の対象者5,816人中,4,297人が受診し,受診率は73.9%.全緑内障有病率5.0%のうち原発閉塞隅角緑内障の有病率は0.6%.ただし,Sha?ergrade1,2の狭隅角でも隅角閉塞の既往がない症例は開放隅角緑内障に分類.(2)東アフリカのTanzaniaで行われた疫学調査10):対象者3,641人中,3,268人が受診し,受診率は90%.全緑内障有病率は4.16%で,原発閉塞隅角緑内障は0.59%.注目すべきは診断基準が変わると有病率も変化するという趣旨が記載された.(3)シンガポールにおける中国系住民の疫学調査11):40歳以上の1,717人中,1,232人が受診し,受診率は71.8%.緑内障有病率3.2%のうち原発閉塞隅角緑内障は1%.(4)日本における疫学調査・多治見スタディ3):3,021人の住民の受診(78.1%の受診率)で,全緑内障有病率5%のうち原発閉塞隅角緑内障有病率は0.6%.(4)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007???3.原発閉塞隅角緑内障の発症が高頻度(1.0~2.0%)(1)北モンゴルにおけるモンゴル人の疫学調査12):40歳以上の住民1,000人中,942人が受診(受診率94.2%).原発閉塞隅角緑内障は14名で,有病率は1.4%.Occludableangleの頻度は6.4%〔PACG(原発閉塞隅角緑内障):1.4%+PAC(原発閉塞隅角症):1.9%+PACS(原発閉塞隅角疑い):3.1%〕であった.また原発閉塞隅角緑内障の14症例は全例,無症状であった.(2)南インドのハイデラバードで行われた疫学調査13):30歳以上の2,522人が受診し,受診率は85.4%.40歳以上に換算すると原発閉塞隅角緑内障の有病率は1.08%,原発閉塞隅角緑内障を含まないPACは2.21%.(3)グリーンランドのエスキモーの調査14):原発閉塞隅角緑内障は1.5%の頻度.疫学調査ではない.地域の病院受診者で原発閉塞隅角緑内障と診断された患者数と背景人口で推定された値.(4)南中国のリアン地方の疫学調査15,16):50歳以上の1,504人の参加(75.3%の受診率)で,全緑内障は3.8%,原発閉塞隅角緑内障は1.5%.注目すべきは全例に隅角鏡検査を施行し,PACSは11.0%,PACは2.4%.4.原発閉塞隅角緑内障の発症がきわめて高頻度(2.0%~)(1)北西アラスカのエスキモーでの疫学調査17):2,500人の対象者で受診者は1,923人,受診率は84%(内1,686人のエスキモーが検討対象).40歳以上の2.65%が原発閉塞隅角緑内障.Occludableangleは全体では2.8%だが,50歳以上では17%に達する.(2)南アフリカ,西ケープタウンのMamre地区の疫学調査18):40歳以上の1,194人中,987人(受診率82.7(5)表1閉塞隅角緑内障の有病率人種/民族報告者報告年国・地方対象年齢(歳)受診者数(受診率)PAC(PACS)AACGPACGアジアShiose2)1991日本40~8,126(50.5%)男性0.64%女性1.79%─0.34%Yamamoto3)2005日本多治見40~3,021(78.1%)1.3%(3.4%)─0.6%Foster11)2000シンガポール中国系40~1,232(71.8%)─61%Foster12)1996モンゴル40~942(94.2%)(6.4%)21.4%Dandona13)2000南インド30~2,522(85.4%)2.21%─1.08%He15)2006中国50~1,504(75.3%)2.4%81.5%Salmon18)1993南アフリカインド系混血40~987(82.7%)(9.0%)02.3%Ramakrishnan8)2003南インド40~5,150──0.5%ヒスパニックQuigley6)2001アリゾナ州40~4,774(72%)──0.1%白人Wensor5)1998オーストラリア─3,271(83%)──0.06%Boromi9)1998イタリア40~4,297(73.9%)──0.6%Klein4)1992ウィスコンシン州43~844,9260.9%20.04%黒人Rotchford7)2002南アフリカZulus1,005(90.1%)──<0.1%Buhrman10)2000東アフリカTanzania40~3,268(90%)──0.59%イヌイットArkell17)1987北西アラスカ40~1,923(84%)(17%)82.65%Cox19)1984アラスカ40~34,144(全住民)─422.12%Drance20)1973カナダ40~377──2.9%Alsbirk14)1971グリーンランド40~──1.5%PAC(PACS):原発閉塞隅角症(原発閉塞隅角疑い),AACG:急性閉塞隅角緑内障(症),PACG:原発閉塞隅角緑内障.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007%)が受診.原発閉塞隅角緑内障の頻度は2.3%(定義は異なる,視神経・視野の障害は必須でない).Sha?ergrade1は9%.この地区はほとんどが南東アジア人種(南インド)およびその混血.(3)アラスカにおけるエスキモーの閉塞隅角緑内障の調査19):40歳以上の閉塞隅角緑内障患者(急性,慢性,間歇性,閉塞隅角眼を含めているが,視神経・視野障害の記載なし)から発症頻度を推定.有病率は2.12%.アラスカに住む34,144人のエスキモー住民のなかで閉塞隅角緑内障の病歴・通院歴のある患者を調べた.(4)カナダにおけるエスキモーの閉塞隅角緑内障頻度20):40歳以上の377人の調査で原発閉塞隅角緑内障有病率は2.9%.視神経・視野障害は含まれない.眼圧上昇あるいはその既往のある患者のみ対象.IV同一民族,人種における原発閉塞隅角緑内障の発症頻度の地域差閉塞隅角緑内障の発症頻度にこれまでの報告から人種差,民族差があることは明らかである.しかしながら同一の民族や人種のなかでの地域的な差はあるのであろうか.ここではいくつかの同一民族あるいは人種で行われた調査の結果についてまとめてみる.(1)イヌイット:Dranceによりカナダにおけるエスキモーの原発閉塞隅角緑内障の発症頻度は40歳以上では2.9%と報告された20).アラスカのエスキモーではCoxは同様に2.12%と報告している19).Alsbirkはグリーンランドエスキモーは40歳以上の女性で2.1%,40歳以上の男性で0.9%,全体で1.5%であったと報告した14).しかしながら本格的な疫学調査として行われたArkellの北西アラスカの調査では原発閉塞隅角緑内障は2.65%の有病率が報告されており17),グリーンランドエスキモーを除いては2%以上の非常に高い有病率であることが改めて明らかとなった.(2)アフリカ黒人:黒人を比較した検討としてZuluとTanzaniaで行われている.南アフリカのZuluでは原発閉塞隅角緑内障の有病率はきわめて低く,0.1%未満で7),一方,東アフリカのTanzaniaでは中等度の発症頻度である0.59%であった10).(3)インド:南インドではTamilNadu7)では0.5%,ハイデラバード13)では1.08%であった.興味深い点は民族的に近縁の南アフリカ西ケープでは2.1%の有病率が報告された点である18).原発閉塞隅角緑内障の有病率が民族差ばかりでなく地域的な違いがあることが明らかである.(4)白人:一般に白人は原発閉塞隅角緑内障の発症頻度が低く,ほとんどの報告では0.1%以下である4).しかし北イタリアでの疫学調査では0.6%と報告されている9).地中海地方のラテン系の白人と北方のゲルマン,アングロサクソン系の白人では原発閉塞隅角緑内障の有病率に違いがあるかどうか,今後の検討が注目されている.(5)日本人:Shioseらの報告2)では日本全国の平均は0.34%である.注目すべきは北海道における原発閉塞隅角緑内障の発症頻度は0.86%であり,一方,熊本では0.12%と単純に比較しても約7倍程度北海道のほうが高頻度であった.多治見スタディ3)では原発閉塞隅角緑内障の頻度は0.6%であったが,これをShioseらの診断基準に準拠すると0.23%の頻度であったと述べられており,逆に多治見スタディの基準(新しい基準)で北海道の原発閉塞隅角緑内障の有病率を推計すると約2.24%となり,北海道はエスキモーと同程度の原発閉塞隅角緑内障の好発地域となる(もっとも現在の診断基準で判定すればエスキモーはいっそう高い有病率になることは疑いもない).V急性閉塞隅角緑内障の頻度急性閉塞隅角緑内障の発症頻度はその実数が比較的把握しやすく,精度も高いと考えられる.いくつかの報告を述べる.Arkellら17)の1,686人のエスキモーの調査では8人が急性発作を起こしていた.Coxの報告19)では住民34,144人のなかで42名が急性発作を起こしていた.モンゴルにおける調査12)では942人の受診者のうち原発閉塞隅角緑内障は1.4%であったが,急性閉塞隅角緑内障は2名であった.南アフリカMamreでの987人の調査18)では原発閉塞隅角緑内障は2.3%と高頻度であるにもかかわらず急性発作はいなかった.シンガポールの中国系人種1,232人のなかで急性発作は4名であった11).Heらの南中国地方では1,804人の受診者のうち(6)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007???8名が発作眼であった15).多治見スタディでは3,021人の受診者で8名が急性発作を起こしていた3).年間で人口比当たりの急性閉塞隅角緑内障の発症頻度に関しては,Erieらのミネソタでの検討(96%が白人)では年間10万人で3.6人の発症頻度であったと報告した21).Seahらはシンガポールで1年間の急性発作の頻度を前向き調査で行い,発症者数189人,計208眼であり,人口10万人に12.2の高頻度であり,特に中国系で有意に高頻度であったと報告している22).沖縄では年間約200人弱が発作を起こしていることがアンケート調査で推計されており(人口130万人),人口10万人に15.4の高頻度であった23).VI疫学調査の問題点東アフリカのTanzaniaにおける緑内障の疫学調査で,それまで原発閉塞隅角緑内障の頻度が低いと考えられてきたアフリカの黒人で0.59%とかなり高い発症頻度が報告された.そのなかで著者らはこの結果について緑内障の有病率や病型は診断基準にかなり影響を受けると述べている.一方で,開放隅角緑内障の頻度はアフリカ系のアメリカ人であまり大きな変化がなかったとも記載している.緑内障の診断基準はFosterらにより2002年に定義され,閉塞隅角緑内障においてもその詳細が記載された24).これ以降は最近の疫学調査で用いられている原発閉塞隅角緑内障の分類,すなわち,PACS,PACとPACGの概念が用いられている15,16,24,26).この定義でFosterらは東アジア人種のなかで,中国系シンガポール人およびモンゴル人でoccludableangle(PACS)の頻度,周辺虹彩前癒着の頻度,およびGON(視神経障害)の有無との関連を報告した25).閉塞隅角緑内障の病因については初めに示したように相対瞳孔閉鎖とプラトー虹彩形状が関与し,最終的には白内障の進行(水晶体厚みの増加)が引き金となり発症する.しかしながらプラトー虹彩形状に関してはこの定義では触れられていない.今後,原発閉塞隅角緑内障を定義する際に考慮する必要がある.特にこれまでの多くの疫学調査における隅角検査は細隙灯顕微鏡検査で周辺前房が狭い対象のみ(vanHerick2度あるいは1度以下)を隅角検査の対象としており,プラトー虹彩形状はその多くが見逃されている可能性もある.実際,モンゴルでの全例で隅角鏡検査を行ったFosterらの報告12)では,64人のoccludableangleのうち5名がプラトー虹彩形状であるとされた.南中国で同様に施行されたHeらの報告では,調査した50歳以上の1,330人のうち,狭隅角(PACS)が11%に観察され,そのうち10.1%がプラトー虹彩であったとしている16).多治見スタディではvanHerick法での狭隅角眼を対象として隅角鏡検査を行っており,そのなかで原発閉塞隅角緑内障と診断のついた症例にプラトー虹彩形状はなかったと報告された3).今後,緑内障の疫学調査は原発閉塞隅角緑内障の病態を考えた場合,病型を確定するうえで対象者全例に隅角鏡検査を行うことが求められる.疫学調査の対象者のなかに調査中に新たに緑内障と診断される症例が非常に多いことが明らかにされてきており,今後の疫学調査では受診者数と受診率はこれまで以上に非常に重要となってくる.多くの疫学調査では,開放隅角緑内障のみならず閉塞隅角緑内障に関しても病歴がなく,調査によって初めて診断されることが圧倒的に多いという事実がある.今後,これまでの報告に比べ閉塞隅角緑内障の有病率,さらにPACSやPACの有病率がいっそう高頻度となる可能性がある.おわりに緑内障の診断基準にGON(緑内障性視神経障害)という概念が不可欠なものであり,原発閉塞隅角緑内障についてもその概念,診断基準も含め多くの修正が行われた.緑内障疫学調査においては,この新しい閉塞隅角緑内障の診断基準の下に,病型を正確に判定するために隅角鏡検査を対象者全員に行うことが求められる.沖縄県は急性閉塞隅角緑内障の発症頻度が高く,この点からも多治見スタディに引き続き日本人における緑内障の病型別有病率を含めた地域差を検討するうえで疫学調査のフィールドとしては非常に適した地域と考えられる.沖縄県の有人離島である久米島町で2005~2006年に日本緑内障学会,久米島町役場の共催で行われた久米島スタディは,参加した対象者全員に隅角鏡検査を行っており,新しい診断基準と定義の下に行われた大規模な疫学(7)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007調査である.多治見スタディとの比較,国際的なデータとの比較を通じて新たな閉塞隅角緑内障の疫学と病態の解明への発展が期待される.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleinJapanese:theTajimistudy.??????????????111:1641-1648,20042)ShioseY,KitazawaY,TsukaharaSetal:EpidemiologyofglaucomainJapan─Anationwideglaucomasurvey─.????????????????35:133-155,19913)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:Tajimistudyreport2.Prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.?????????????112:1661-1669,20054)KleinBEK,KleinR,SponselWEetal:Prevalenceofglaucoma.TheBeaverDamEyeStudy.?????????????99:1499-1504,19925)WensorMD,McCartyCA,StanislavskyYLetal:TheprevalenceofglaucomaintheMelbourneVisualImpair-mentProject.?????????????105:733-739,19986)QuigleyHA,WestSK,RodriguezJetal:Theprevalenceofglaucomainapopulation-basedstudyofHispanicsub-jects.???????????????119:1819-1826,20017)RotchfordAP,JohnsonGJ:GlaucomainZulus:apopula-tion-basedcross-sectionalsurveyinaruraldistrictinSouthAfrica.???????????????120:471-478,20028)Ram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序説:原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジ

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(1)???1980年代以降,すなわちレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)の普及後に眼科医になった世代にとって,原発閉塞隅角緑内障は解決済み疾患のリストに入っていたといえる.眼科医が一般に共有していた原発閉塞隅角緑内障診療の原則とは,まず第一に,原発閉塞隅角緑内障における隅角閉塞のメカニズムはほとんど瞳孔ブロックによっており瞳孔ブロック以外のメカニズムが問題となるのは例外と考えること.第二に,瞳孔ブロックを解除するためにLIを施行すれば基本的には治療完了するはずであり,LIを行っても眼圧が下降しない症例はすでに広範な周辺虹彩前癒着が生じているなどの進行例であるか開放隅角緑内障とのcombinedmecha-nismと考えること.そして,その場合にはやむをえないので濾過手術などを行う,というものであった.しかし,このような考え方は後述するような理由から改変を迫られており,原発閉塞隅角緑内障は現在の眼科学における重要なトピックスとなっている.前世紀末から今世紀初頭にかけてアジアでの緑内障疫学調査が進み,東アジアおよび南インド地域では欧米に比べて原発閉塞隅角による緑内障の頻度が非常に高く,予後も大変に悪いことが報告された.たとえば,北モンゴルの蒙古系民族とシンガポールの漢民族での調査結果を基にメタアナライシスを行ったFosterらは,中国の170万人の両眼失明者のうち91%が原発閉塞隅角緑内障によるものであり原発閉塞隅角緑内障の失明率は原発開放隅角緑内障の約3倍に上ると推計し,原発閉塞隅角緑内障は東アジアにおける失明の最大原因疾患であるとした.同時に,こうしたショッキングな調査結果を公衆衛生上のインフラやシステムの問題に帰せるのか,原発閉塞隅角緑内障を医学的にも解決済みの疾患とはできないのではないかとの疑念も上がってきた.すなわち,欧米と東アジアでは原発閉塞隅角緑内障の頻度も深刻さも大きく異なるが,隅角閉塞の病型そのものが大きく異なっていることが明らかになってきたのである.欧米における原発閉塞隅角緑内障の隅角閉塞のメカニズムについては,Ritchらは隅角閉塞の90%は瞳孔ブロックに起因すると見積もっており,こうした考え方が世界標準としてわが国にも導入された.しかし,近年,東アジアにおける原発閉塞隅角緑内障の隅角閉塞は瞳孔ブロック以外のメカニズムも大きく関与していると理解されるようになってきた.中国では原発閉塞隅角緑内障の約60%が瞳孔ブロックメカニズムにプラトー虹彩メカニズムや水晶体因子などを加えたマルチメカニズムによる隅角閉塞0910-1810/07/\100/頁/JCLS*1YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科*2HidenobuTanihara:熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学●序説あたらしい眼科24(8):985~986,2007原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジ?????????????????????????????????-????????????????栗本康夫*1谷原秀信*2———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007と報告されており,日本人を対象にした筆者らの検討結果もこれにほぼ一致する.欧米では,瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障のみを“primaryangle-closureglaucoma”とし,プラトー虹彩によるものは“primaryangle-closureglaucoma”とは分別する立場をとる成書もあるが,これは少なくとも東アジアにおいては不適切である.くり返しになるが,東アジアの原発閉塞隅角緑内障は瞳孔ブロックだけでなくプラトー虹彩や水晶体因子が複合的に絡んでおり,純粋に瞳孔ブロックのみによる隅角閉塞はむしろまれといえる.原発閉塞隅角緑内障とは線維柱帯の閉塞という?nalcommonpathwayを有するいくつかの異なる病態を含むと考えるべきであろう.原発閉塞隅角緑内障の治療においては,冒頭に述べたように,隅角閉塞の機序は瞳孔ブロックによるという考え方を基にLIが第一選択治療とされてきた.LIは瞳孔ブロックを少ない侵襲で解除できる優れた治療方法であるが,最近,LI後長期間を経て発症する水疱性角膜症がわが国では大きな問題となっている.また,LIは慢性の原発閉塞隅角緑内障に対しては従来考えられていたほどの治療効果はなく,多くの症例では追加治療が必要となることもわかってきた.特に東アジアにおいては瞳孔ブロック以外のメカニズムの関与が大きいので,LIの治療効果は欧米よりも低いと考えるべきであろう.こうした事情をうけて,瞳孔ブロックだけでなくプラトー虹彩や水晶体因子にも治療効果を有する白内障手術を原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択にするという考え方も出てきた.隅角閉塞のメカニズムの理解と併せて,治療方針の立て方についてもさらなる検討を要する課題である.わが国を含む東アジアの原発閉塞隅角緑内障については,欧米で確立された考え方をそのままあてはめるわけにはゆかない.われわれは,東アジアの実状に即した原発閉塞隅角緑内障診療の方法論を構築する必要があろう.本特集では,「原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジ」と題して,原発閉塞隅角緑内障に関する最新の論点を各分野に造詣の深い先生方にわかりやすく解説していただいた.また,症例に応じた最適の治療方針を立てるうえで,LIと白内障手術の得失を異なる立場から論じていただき,閉塞隅角緑内障の診療において必須な術式でありながら必ずしも十分に普及していない周辺虹彩切除術と隅角癒着解離術については実戦的な解説もお願いした.本特集が,変革期にある原発閉塞隅角緑内障診療の現状を理解する一助になると同時に,明日からの診療のお役にたてれば,企画者として幸甚の至りである.(2)

眼科医にすすめる100冊の本-6月の推薦図書-

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSつい先日の勉強会でのこと,香港貿易発展局日本主席代表古田茂美さんの講演で,『孫子』(そんし)の兵法について演者が触れました.日本でも『孫子』はよく知られており,最近ではNHKの大河ドラマ「風林火山」の中で武田軍の旗印として登場します.風林火山は『孫子』の「軍争篇」の要約であり,他には「刑篇」「勢篇」「地形篇」「九地篇」などがあります.『孫子』は,中国春秋時代の思想家孫武の作とされる兵法書.武経七書の一つであり,戦略論としての評価は非常に高く,中国人はこれを「孫子以前に兵書無く,孫子以降に兵書無し」とまで評しています.さて,その講演会で演者は,中国の教科書には『孫子』の兵法があり,子どもから大人までみんなそれを知っている,日本でもよく使われる「三十六計逃げるにしかず」は,まさに『孫子』に書かれている36の兵法を意味していると話しました.「三十六計逃げるにしかず」の意味を私はそれまで知りませんでした.先日来日した温家宝首相もこれまでの中国の対日政策とは違った印象を日本人に与えましたが,それもまさに『孫子』の兵法の中にあるものであると,演者はその兵法を紹介してくださいました.この時代に『孫子』かと思われる向きもあるかもしれませんが,実は『孫子』の兵法をよく理解しているわけではなく,『孫子』はもう古い考えだと思い込んでいるだけです.実は,戦略に関して古今東西の最良の書が『孫子』であると考えられています.クラウゼヴィッツの『戦争論』も孫子にはおよばない.ナポレオンは『孫子』を読み,実戦で生かしていたという記録があるそうです.中華的戦略戦術を知らずに,中国と付き合うのはむずかしいかもしれません.さて,本書の著者である山本七平氏は1943年に22歳で徴兵され,陸軍将校としてルソン島の攻防戦に参加,そこで終戦を迎えています.1956年「山本書店」を創立し,1970年には大ベストセラーである「日本人とユダヤ人」をイザヤ・ベンダサンの名前で出版しています.氏の思考の根底には「人間とはなにか」「日本人とはなにか」そして「日本人のつくった組織とはなにか」という問いかけが流れています.日本人のつくった組織,特に日本の軍隊,また戦争の指導者への厳しい批判があります.本書には『孫子』の兵法はお隣りの韓国では盛んに学ばれており,秀吉の朝鮮出兵の頃には,韓国のおもだった部将のほとんどは兵法のすべてを諳んじていたようです.もちろん,実践は兵法のとおりに展開するわけではありませんが,それでも秀吉が朝鮮半島から引き上げることになる背景には,日本の戦略の稚拙さ,特に海軍の整備などほとんど考えられていなかったことがあげられるでしょう.また,明の参戦も想定されていなかった.トータルに,秀吉は兵法を理解していなかった,または,「読み役,解説役」といわれる「物読み僧侶」がいなかったか,使いこなせなかったのかも知れません.家康も勉強家で兵法は学んでいたが,韓国の部将のレベルには至らなかったであろうと,氏は述べています.本書は単に『孫子』の兵法を紹介しているだけではなく,太平洋戦争における日本軍のありかたを企業のあり方と比較しています.たとえば,当時の日本軍が勝利の必須の条件としていた「愛国心」も「滅私奉公」も「必勝の信念」も,孫子はまったく触れていない.国境に近く逃げやすい地形に兵をおけば,兵はすぐに逃げて故郷に帰れるので,敵が来れば散り散りになって逃げてしまう.敵を撃滅しなければ必ず全滅してしまう位置におけば,兵は死に物狂いで戦う.『孫子』の兵法は,ある種(75)■7月の推薦図書■「孫子」の読み方山本七平著(日経ビジネス人文庫)シリーズ─75◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007エネルギーのマネジメントであり,そこには不確実な精神論は含まれません.まして,リーダーがそのあいまいな感情に浸るなど微塵もないわけです.それは,会社組織にもあてはまります.「当たって砕けろ」とか「やればできる」,これらは根拠のない精神論であり,兵法の欠落した指導者の責任逃れにすぎません.『孫子』の兵法によれば,「愛社精神」も「企業への忠誠」も求めていない.はじめからそんなことは念頭にない.孫子は,部下に対して超人的な自発的努力や能力の発揮,さらに,度はずれた勤勉さも要求していない.そんなことはあてにもしない.部下が新人類であろうがなかろうが,必ず目的を達成するのが兵法であると孫子は考えているのです.『孫子』の思想の全般的特徴?非好戦的であること…戦争を簡単に起こすことや,長期戦による国力消耗を戒める.この点について老子思想との類縁性を指摘する研究もある.「百戦百勝は善の善なるものに非ず.戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」(謀攻篇)?現実主義に立脚していること…緻密な観察眼に基づき,戦争のさまざまな様相を区別し,それに対応した記述を行う.「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」(謀攻篇)?戦争における主導性の重視…「善く攻むる者には,敵其の守る所を知らず.善く守る者は,敵,其の攻むる所を知らず」(虚実篇)そのほかに,計篇─的確な見通しの立て方作戦篇─的確な収束をこころがける謀攻篇─戦わずに勝て刑篇─敵の崩れを待つ勢篇─組織力で勢いに乗れ虚実篇─戦いは変化自在に軍争篇─相手の油断を誘え九変篇─臨機応変に対応する行軍篇─敵情をどう探るか地形篇─組織の統一に意を用いよ九地篇─部下のやる気を引き出す火攻篇─目的の達成は慎重に用間篇─諜報活動に力を入れる何千年も前につくられ,だれでも知っている孫子の兵法ですが,実のところ旧日本軍の戦争指導者は兵法を理解していなかったと氏は指摘します.孫子の兵法には,だれでも一度はどこかで触れたことがあるでしょう.日本の経営者はよく戦国時代の武将から経営のヒントを得るようですが,実はその背景には,『孫子』の兵法の思想が流れています.『孫子』の兵法がそのまま企業経営に使えるわけではありませんが,視点を変えてみれば,ずいぶん参考になる部分もあります.人生を設計するうえでも参考になると思います.これまでも『孫子』についての解説書は多々でていますが,本書は『孫子』を身近に理解できる一冊です.☆☆☆(76)

硝子体手術のワンポイントアドバイス50.ガス白内障(初級編)

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに有水晶体眼の硝子体手術時にガスタンポナーデを施行した場合,術後にガスによる一過性の後?下白内障(ガス白内障)をきたすことがある.最近では硝子体と白内障の同時手術を選択する術者が増えているので,ガス白内障の発生頻度は減少しているものと思われるが,その臨床的特徴については理解しておく必要がある.●ガス白内障の臨床的特徴ガス白内障は有水晶体眼に対して硝子体手術とガスタンポナーデを施行した後に高率にみられる.原因としては,眼内の気体によって後?下に浸透圧の変化が生じるためではないかと推測されている.よって,SF6(sulfurhexa?uoride)ガスやC3F8(per?uoropropane)ガスによる特異的なものではなく,通常の100%空気でも生じうる.臨床的特徴としては,羽毛様(図1)あるいは魚鱗状(図2)の空胞形成が後?下に生じ,ガスの減少とともに4~5日で消失することが多い(図3).一般に,水晶体後面の残存硝子体皮質量が少なかったり,術後に十分な伏臥位が保持できなかった場合に顕著となることが多い.●ガス白内障の予防水晶体後面の残存硝子体皮質量を多くすること,長期滞留ガスの使用を控えること,厳重な伏臥位を保持することなどが考えられるが,あくまでも網膜の復位を優先すべきである.伏臥位がほとんど保持できない症例では不可逆性の後?下白内障に進行することもある.●ガスタンポナーデ眼の再手術時の注意点有水晶体眼でガスタンポナーデ中に再?離などをきたし再手術を施行する場合,眼内の気体を灌流液に交換した途端に,上記のような後?下白内障が出現することがある.また,硝子体手術中に頻回に液?空気置換を施行するときにも同様の現象が生じる.しばらく待てば混濁(73)は軽減することもあるが,眼底の視認性が不良の場合には水晶体摘出を余儀なくされることもあるので,小児の硝子体手術などでは注意を要する.文献1)池田恒彦,田野保雄,細谷比左志ほか:ガス白内障.臨眼43:956-959,1989硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?50ガス白内障(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1ガス白内障(羽毛様混濁)の細隙灯顕微鏡所見図2ガス白内障(魚鱗状混濁)の細隙灯顕微鏡所見図3図2の症例の4日の細隙灯顕微鏡所見ガスの減少とともに下方からガス白内障が減少してきている.術8日後には混濁は完全に消失した.

眼科医のための先端医療79.幹細胞にかかわるシグナル伝達

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに再生医療は不可逆的機能喪失に陥った重篤な疾患に対する根本的治療として研究が進められ,その臨床応用の確立が大いに期待されています.その一つのキーポイントとなるのが幹細胞研究です.生体には,発生過程から成体に至るまで,自己複製能,分化能をもった多種の幹細胞が存在しています.成体の臓器における機能,恒常性を維持する自己修復能を担っているのが組織幹細胞(臓器幹細胞)とよばれる細胞群からなるシステムです.幹細胞の維持,分化・増殖についての研究は,移植再生治療の基礎研究という位置づけからも,近年,急速に進められ,これまでに幹細胞の複製に関してNotch,Wnt,BMP,Shh,LIF,FGFなどのシグナルが広く複数の幹細胞システムに共通した重要な分子機構であることが知られています1).幹細胞の分化に関してもさまざまな分子の報告がなされています.幹細胞を利用する再生治療ではこれらの分化増殖にかかわるシグナルを応用制御することでより有効な移植細胞の獲得,機能発現が試みられています.本稿では,筆者らの試みと最近の知見を併せて紹介します.網膜幹細胞とWntシグナル幹細胞の特質を利用して傷害された組織を再構築させ,機能を取り戻す幹細胞移植は,角膜上皮幹(前駆)細胞で,すでに臨床応用され,成果をあげています.哺乳類の成体網膜では幹細胞となりうる細胞の存在が示唆されているものの,再生を証明する報告はなく,再生を担う幹細胞システムの働きが非常に抑制された状態にあると考えられています2).網膜移植再生治療としては胎児より得られた網膜シートを網膜色素変性症患者に移植する試みがごく限られた施設でなされていますが,その有効例はわずかな数の報告にとどまっています3).胎児組織の使用は供給や倫理的面で問題があり,これを解決しうる移植細胞源として,網膜に分化しうる幹細胞の探索が行われてきました.成体毛様体色素上皮組織に存在する細胞は,成体内で傷害された組織を補?する組織幹細胞としてのふるまいを示す報告はありませんが,単離し,増殖因子下で浮遊培養すると,増殖能,神経網膜への多分化能を有する網膜幹細胞としての性質を示す細胞を得ることができます4,5).マウスやラット,ヒト眼球にも存在し6),自己の眼球やアイバンクに提供された眼球から網膜幹細胞を得ることが可能です.しかしながら毛様体由来網膜幹細胞の増殖能は他の幹細胞に比べて低いこと,自己毛様体組織から得られる細胞の数には制限があることから,移植再生治療に応用するには細胞数を増やす手段が必須です.Wntは,ショウジョウバエの体節形成にかかわる遺伝子Winglessとマウス乳癌の原因遺伝子???-?のアミノ酸配列の相同性が高いことから命名された分泌型糖蛋白で,体軸形成,中枢神経発生,器官形成,発癌などに関与しています7).そのシグナル(69)◆シリーズ第79回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊福島美紀子(熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学分野)幹細胞にかかわるシグナル伝達図1Wnt-bカテニン経路の模式図Wntの刺激のない状態では,細胞内のb-カテニンはGSK3の複合体によりリン酸化を受けて,ユビキチン化され,分解される.転写因子Lef/Tcfはb-カテニンの代わりにGrgと結合し,標的遺伝子の転写が抑制される(図左).Wntがレセプターに結合するとb-カテニンは分解が抑制され,核内へ移行する.Lef/Tcfはb-カテニンと結合することで????????や?-???などの標的遺伝子の転写を促進し,細胞周期を進行させる(図右).———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007の一つであるWnt-bカテニン経路(図1)は造血幹細胞をはじめさまざまな幹細胞の自己複製や成体海馬脳における神経再生を促進すること8)が知られています.さらにWnt分子が発生過程の網膜における未分化維持機構にかかわっていることも明らかにされていました9,10).筆者らはこれらの知見から増殖環境下の毛様体由来網膜幹細胞においてb-カテニン経路を活性化したところ,未分化性を維持したまま,増殖が促進されることを見いだしました11).b-カテニン経路の活性化は移植に十分な数の細胞を得るために???????で網膜幹細胞を増殖させる際の有用な手段の一つになることが期待されます.さらに,このWntシグナルと網膜幹細胞の組み合わせによる臨床応用可能な新しい治療として,M?llerグリアによる成体網膜幹細胞治療が開発され,期待されています12).M?llerグリアは網膜固有のグリア細胞で,ニワトリ成体網膜ではM?llerグリアが網膜幹細胞として再生にかかわることが報告されていました13).マウスやラットにおいても網膜に傷害を与えると限られた数であるもののM?llerグリアが分裂開始し,神経網膜への分化能を獲得することが示され,M?llerグリアが哺乳類の成体網膜で幹細胞の性質をもつ細胞であることが明らかにされました14).この実験系においてb-カテニン経路を活性化したところ,M?llerグリアの分裂が亢進し,これをレチノイン酸添加により視細胞に分化誘導すると外顆粒層に遊走する視細胞の数が著しく増加することが明らかにされました.この現象は網膜変性モデルの??マウス網膜においても観察され,さらに下流のシグナルを促進するGSK3b(glycogensynthasekinase3b)阻害薬投与でも同様の結果が得られました.GSK3b阻害薬は低分子化合物で薬として期待できることから難治性神経変性疾患の予防・治療薬の開発に重要な知見が得られたものとしても非常に期待されています12).網膜再生治療の今後の課題幹細胞治療の今後の課題としては,増殖させた網膜幹細胞をいかに傷害網膜内で適切に分化,統合させ,機能回復させるかという点にあります.網膜内に移植された幹細胞の分化が生体の宿主傷害網膜由来のシグナルに影響されることを筆者らも明らかにしています15)が,再生にかかわるさまざまなシグナルを明らかにし,それをいかに制御できるかが,臨床応用に向けた重要な研究課題と考えています.これまで,解析困難であったシナプス形成に関する重要な知見も,最近,網膜変性モデルでの網膜細胞移植実験で得られてきています16).網膜再生治療の臨床応用にはいまだ解決すべき問題が多く残されていますが,実現の可能性が少しずつ広がってきていることは間違いなく,今後さらに臨床応用に向けた研究の進展が望まれています.文献1)MimeaultM,BatraSK:Concisereview:recentadvancesonthesigni?canceofstemcellsintissueregenerationandcancertherapies.??????????24:2319-2345,20062)MoshiriA,CloseJ,RehTA:Retinalstemcellsandregeneration.??????????????48:1003-1014,20043)RadtkeND,AramantRB,SeilerMJetal:Visionchangeaftersheettransplantoffetalretinawithretinalpigmentepitheliumtoapatientwithretinitispigmentosa.???????????????122:1159-1165,20044)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Retinalstemcellsintheadultmammalianeye.???????287:2032-2036,20005)AhmadI,TangL,PhamH:Identi?cationofneuralpro-genitorsintheadultmammalianeye.??????????????????????????270:517-521,20006)ColesBL,AngenieuxB,InoueTetal:Facileisolationandthecharacterizationofhumanretinalstemcells.??????????????????????101:15772-15777,20047)HopplerS,KavanaghCL:Wntsignalling:varietyatthecore.??????????120:385-393,20078)LieDC,ColamarinoSA,SongHJetal:Wntsignallingregulatesadulthippocampalneurogenesis.??????437:1370-1375,20049)KuboF,TakeichiM,NakagawaS:Wnt2binhibitsdi?er-entiationofretinalprogenitorcellsintheabsenceofNotchactivitybydownregulatingtheexpressionofpro-neuralgenes.???????????132:2759-2770,200510)KuboF,TakeichiM,NakagawaS:Wnt2bcontrolsretinalcelldi?erentiationattheciliarymarginalzone.????????????130:587-598,200311)InoueT,KagawaT,FukushimaMetal:ActivationofcanonicalWntpathwaypromotesproliferationofretinalstemcellsderivedfromadultmouseciliarymargin.??????????24:95-104,200612)OsakadaF,OotoS,AkagiTetal:Wntsignalingpro-motesregenerationintheretinaofadultmammals.???????????27:4210-4219,200713)FischerAJ,RehTA:M?llergliaareapotentialsourceofneuralregenerationinthepostnatalchickenretina.????????????4:247-252,200114)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:Potentialforneuralregenerationafterneurotoxicinjuryintheadultmamma-lianretina.??????????????????????101:13654-13659,200415)MawatariY,FukushimaM,InoueTetal:Preferentialdi?erentiationofneuralprogenitorcellsintothegliallin-(70)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???repairbytransplantationofphotoreceptorprecursors.??????444:203-207,2006eagethroughgp130signalinginN-methyl-D-aspartate-treatedretinas.?????????1055:7-14,200516)MacLarenRE,PearsonRA,MacNeilAetal:Retinal(71)☆☆☆■「幹細胞にかかわるシグナル伝達」を読んで■現在,治療が最も困難な眼科領域の疾患は,緑内障や網膜変性などの神経(網膜)が傷害される疾患です.それらの治療法開発のため,遺伝子治療,人工視覚など,多くの研究がなされていますが,特に注目されているのが,網膜再生治療です.2000年に網膜幹細胞の存在が報告されて以来,網膜再生は,網膜変性疾患治療の切り札と考えられてきました.しかし,いざ臨床応用するには,治療に必要な幹細胞の量と質を得る方法が不十分,幹細胞が視細胞に分化してネットワークをつくるかどうか不明などの大きな問題がありました.そのため,網膜再生治療の実現は,当分先になるという悲観的な見方がされるようになりました.そのようななかで,最近,きわめて重要な報告がありました.一つは,2006年MacLarenらによる,視細胞前駆細胞移植によりシナプス形成を伴う網膜修復が可能であったという報告,もう一つは,本文でも紹介されている,OsakadaらによるWntシグナル調節による網膜再生亢進の報告です.網膜細胞の増殖・分裂を亢進させる因子は,今までにもFGF(?broblast-growthfactor)やインスリンなど,多くのものが知られていました.しかし,これらは,網膜細胞を増殖させるだけではなく,線維芽細胞など非網膜細胞も増殖させて,眼内増殖性病変をひき起こすので,網膜再生治療には使えませんでした.それに比べ,Wntシグナル経路の活性化は,網膜内の網膜幹細胞のみの選択的増殖が可能なので,網膜再生治療に用いることが可能です.この方法で,幹細胞が増えれば,数少ない網膜幹細胞を探し求めたり,それを移植したりする必要はありません.さらに,Wntシグナル経路の活性化は,薬物投与により可能であり,細胞移植,遺伝子治療の際に大きな問題となる外科的侵襲が不要です.これは,実際の治療では,大きなメリットとなります.本稿を書かれた福島美紀子先生たちのグループは,網膜幹細胞におけるWntシグナルの重要性を最初に見いだしました.Wntシグナルが,ヒトにおいても,網膜幹細胞再生のキーであることが証明されたら,網膜再生治療の実現は,もうすぐそこかもしれません.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

新しい治療と検査シリーズ173.円錐角膜に対する角膜リング移植

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS下でセグメントを一つずつ挿入していく.通常は,無縫合で手術を終了する.?本法の利点角膜リング移植術は角膜中央部に侵襲を加えない手術である.低矯正や過矯正が生じたときは,厚みの異なるセグメントに変更が可能である.セグメントをすべて抜去した場合,角膜形状はほぼ元の状態に戻るため,「後戻り」のできる手術でもある.コンタクトレンズ不耐症などの円錐角膜症例に対し,完全に裸眼で生活できるようになるとは限らないものの,装用時間の延長や眼鏡矯正視力の向上をはかるものである.長期にわたって安定した効果が得られ,角膜移植術の必要性を軽減させると新しい治療と検査シリーズ(67)?バックグラウンド角膜リング移植術とは,PMMA(ポリメタクリレート)製のリングを半分に分割したもの(セグメント)を角膜周辺部実質内に挿入する手術であり,角膜形状を整えることにより円錐角膜を治療する(図1).現在,表1に示すように製品の違いにより直径の異なる3種類のものが使用可能であり,それぞれについて複数の厚みが選択できる.セグメントは厚いほど,そして直径が小さいほど角膜をフラット化する効果が強く現れると同時に,セグメント同士の間隙を結ぶ軸方向(図1の症例の場合は90?方向)におけるフラット化の効果が強くなる.角膜リングはもともと近視矯正手術用として開発された歴史があるが,1997年からColinが円錐角膜への応用を試みた1).角膜を削らずに屈折矯正を行うだけではなく,その構造を強化すると期待されるため,性格上,円錐角膜治療によくマッチしているといえる.前述した,セグメントの存在しない軸方向におけるフラット化は,近視矯正時には乱視の惹起という弱点と認識されたが,円錐角膜治療時には挿入軸をうまく選べば乱視に対する治療効果を発揮する.特に直径の最も小さいケラリングはこの特徴を最大限に利用するものである2).?実際の手術法セグメントを挿入するための角膜切開および実質内のトンネルは,これまではダイアモンドメスと専用器具によりマニュアルで作製する方法が用いられ,やや煩雑であったが,近年フェムトセカンドレーザー(FS60,AMO社製)の登場により,角膜リング専用プログラムを用いて片眼約10秒で可能になった.特に角膜の薄い症例が多い円錐角膜の治療において,トンネルの深さが均一で精度の高いフェムトセカンドレーザーの使用は安全面からも有効である.実質内トンネル作製後は手術用顕微鏡173.円錐角膜に対する角膜リング移植プレゼンテーション:伊藤光登志品川近視クリニックコメント:水流忠彦自治医科大学移植・再生医療センター,眼科学講座表1角膜リングの種類と特徴製品名インタクスインタクスSKケラリング内径/外径(mm)6.8/8.16.0/6.84.7/5.3厚み(mm)0.21~0.450.40,0.450.15~0.35メーカーAdditionTechnology社AdditionTechnology社Mediphacos社図1角膜リング(ケラリング)手術後の前眼部写真———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007考えられる3).また円錐角膜以外に,ペルーシド角膜変性症4),角膜屈折矯正手術後のエクタジアへの応用も試みられ5),良好な成績が得られている.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nuswithintracornealrings.???????????????????????26:1117-1122,20002)KwitkoS,SeveroNS:Ferraraintracornealringsegmentsforkeratoconus.???????????????????????30:812-820,20043)KymionisGD,SiganosCS,TsiklisNSetal:Long-termfollow-upofIntacsinkeratoconus.???????????????143:236-244,20074)ErtanA,BahadirM:Intrastromalringsegmentinsertionusingafemtosecondlasertocorrectpellucidmarginalcornealdegeneration.???????????????????????32:1710-1716,20065)KymionisGD,TsiklisNS,PallikarisAIetal:Long-termfollow-upofIntacsforpost-LASIKcornealectasia.??????????????113:1909-1917,2006(68)?本方法に対するコメント?円錐角膜は角膜中央部の実質の菲薄化ならびに前方への突出を特徴とする原因不明の非炎症性・進行性疾患である.現在のところ円錐角膜の発症や進行を防止する確実な治療法はなく,疾患の進行状況に応じて眼鏡矯正,ハードコンタクトレンズ処方,角膜熱形成術などが行われ,無効の場合には最終的に角膜移植を行うより他ないのが現状である.角膜リングは角膜実質にPMMA製のリングセグメントを挿入し,角膜形状を機械的に補正するもので,角膜実質を構造的に補強する効果が期待できる.本法は,円錐角膜で最も脆弱な角膜中央部に侵襲を加えることがなく,抜去可能な可逆性の手術で,手術時間も比較的短時間であり患者への負担が少ないことが特徴である.円錐角膜のどの時期に挿入すれば最も有効であるかや長期的な予後については,今後多数例での長期的な臨床評価が必要である.その結果によっては本法は円錐角膜に対する画期的な治療法となりうる.また,円錐角膜では実質コラーゲン線維やプロテオグリカンの代謝異常も指摘されていることから,将来的には本法のような構造的治療法と生化学的な治療法との組み合わせも検討する必要があると思われる.☆☆☆

眼感染症:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌(ESBLs)

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■肺炎球菌とは肺炎球菌(????????????????????????)はヒトの口腔内・上気道に常在し,大葉性肺炎,中耳炎,髄膜炎などを起こす病原性の強い細菌である.以前はペニシリン系薬,セファロスポリン系薬に感受性を示していたが,近年耐性を示す株が分離されるようになってきた.これが,ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant?????????????:PRSP)である.耐性機構はペニシリン結合蛋白(PBP)における結合親和性の低下であり,これはPBPの変異に由来している1).さらに,排出機構による耐性遺伝子(????)とリボソームの修飾により薬剤との結合をなくさせる遺伝子(????)の2種類の遺伝子1)によるマクロライド系薬耐性やDNAgyraseおよびDNAtopoisomeraseⅣの変異2)によるフルオロキノロン系薬耐性を示す多剤耐性肺炎球菌が分離され3),大きな問題となっている.■肺炎球菌の特徴本菌は検査材料の塗抹検査において,グラム陽性ラン(65)50.ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一宮本仁志愛媛大学医学部附属病院診療支援部臨床検査技術部門肺炎球菌は,大葉性肺炎,中耳炎,髄膜炎などを起こす病原性の強い細菌である.近年,ペニシリン系薬やセファロスポリン系薬に耐性を示すペニシリン耐性肺炎球菌が分離され注目されている.さらに,マクロライド系薬やフルオロキノロン系薬にも耐性を示す多剤耐性肺炎球菌が分離され,大きな問題となっている.図1肺炎球菌のグラム染色像中央にグラム陽性ランセット状の双球菌を認める(矢印).菌体の周囲に明るく見える莢膜をもつ.図2血液寒天培地上の肺炎球菌のコロニーヒツジ血液寒天培地でa溶血を示し,中央部が凹状を呈するのが特徴である(矢印).図3血液寒天培地上の肺炎球菌のコロニー(ムコイドタイプ)ヒツジ血液寒天培地でムコイド状のコロニーを示した肺炎球菌.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007セット状の双球菌で,莢膜をもつ形態を示すのが特徴である.莢膜が存在すると菌体の周囲が明るく見える(図1).またコロニーは,ヒツジ血液寒天培地でa溶血を示し中央部が凹状を呈することが多い(図2)が,ムコイド状のコロニーを示す場合もある(図3).本菌は自己融解を起こし死滅しやすいので,検体採取後速やかに培養する必要がある.培養は5~10%の炭酸ガス濃度で行う.■PRSPの判定法1.MICによる判定PRSPの判定は,ペニシリンのMIC(最小発育阻止濃度)を測定し0.06?g/m?以下をpenicillin-susceptible?????????????(PSSP),0.125~1?g/m?をpenicillin-intermediate?????????????(PISP),2?g/m?以上をPRSPと表す.通常,ペニシリン耐性肺炎球菌はPISP,PRSPのことを表し,同時にセファロスポリンにも耐性を示す.また,ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は5類感染症の基幹定点把握疾患に指定されているため,基幹定点病院に勤務する医師が本菌による「感染症」と診断したケースでは保健所への届出が必要である.2.KBディスク法による測定Oxacillin(MPIPC)ディスクを用い,阻止円直径が20mm以上を感性(PSSP)と判定する.なお,19mm以下の場合はペニシリンのMICを測定し,PISP,PRSPの判定を行う.■治療薬使用抗菌薬使用抗菌薬は軽症例に対してはペニシリン系薬投与(中等量~大量)で効果がみられるが,中等症~重症例においては慎重に抗菌薬を選択する必要がある.b-ラクタム系薬としては第三世代セフェム系薬,カルバペネム系薬の抗菌効果が強い.また,グリコペプチド系薬のバンコマイシンやテイコプラニン,ニューキノロン系薬なども有効である.最近,使用可能となったケトライド系薬のテリスロマイシンはマクロライド耐性の肺炎球菌に対しても有効な薬剤である.注射・経口薬はpenicillinG(ベンジルペニシリン),vancomycin(バンコマイシン).注射薬はpanipenem/betamipron(パニペネム),piperacillin(ピペラシリン),teicoplanin(テイコプラニン),ceftriaxone(セフトリアキソン),cefotaxime(セフォタキシム),cefpirome(セフピロム).経口薬はcefditorenpivoxil(セフジトレン),cefcap-enepivoxil(セフカペン),spar?oxacin(スパルフロキサシン),tosu?oxacin(トスフロキサシン),gati?oxa-cin(ガチフロキサシン),telithromycin(テリスロマイシン)などである.文献1)紺野昌俊,生方公子:b-ラクタム系薬とマクロライド系薬耐性機構.改訂ペニシリン耐性肺炎球菌(梅田春男編),p97-133,協和企画,19992)宮本仁志,村瀬光春:????????????????????????における????遺伝子および????遺伝子の遺伝子変異について.感染症誌77:133-137,20033)宮本仁志,村瀬光春:????????????????????????における耐性遺伝子の解析.感染症誌78:508-513,2004(66)◎検査室から眼科医へ◎眼科の感染症(角膜炎など)で起因菌が肺炎球菌と他のa溶血レンサ球菌とでは,病態に違いがあるのでしょうか?また,検査室からグラム染色所見を報告する場合に区別可能ならば推定菌種まで報告することが診療上有用ですか?◎眼科医から検査室へ◎肺炎球菌は角膜炎起因菌の嫡流で,戦前は,角膜感染症全体の7~8割を占める勢いでした.頻度こそ低下したとはいえ,現在もその重要性に揺らぎはありません.肺炎球菌は角膜実質内に膿瘍を形成し,輪部(免疫系)を回避するかのような動き(匐行性角膜潰瘍)を示すのが特徴です.炎症所見は緑膿菌についで強く,角膜穿孔に至ることもあります.これに対して,他のaレンサ球菌属の角膜に対する病原性は格段に低く,限局性の弱々しい表層性浸潤を呈することが大半です.同じグラム陽性球菌でも,ブドウ球菌属とレンサ球菌属とでは,前者がニューキノロン系,後者がβラクタム系と,主力となる治療抗菌薬が異なるため,「スメアで肺炎球菌が見つかりました」との情報提供は,眼科医にとって有難い限りです.なお,本稿のテーマのPRSPですが,幸いなことに,菌の分離状況をみる限りにおいては,眼科領域ではいまだ大きな脅威とはなっていません.愛媛大学医学部眼科大橋裕一

光線力学的療法(PDT):治療の実際:ポリープ状脈絡膜血管症

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は日本人に多く,滲出型加齢黄斑変性(AMD)と診断されてきた症例にかなりの頻度で含まれていると考えられる.Chanら1)はPCVに対する光線力学的療法(PDT)に対する前向きな検討をしており,照射範囲をフルオレセンイ蛍光眼底造影(FA)を用いるのでなく,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)で決めるIA-guidedPDTを施行し,12カ月の観察で良好な成績を報告した.しかし,臨床の場では必ずしも経過が良好な症例だけではない.今回Chanら1)の方法に準じたIA-guidedPDTを施行して,異なる経過をたどった2症例を提示して,その臨床像を検討する.●PDTに奏効しなかった症例患者:68歳,男性.主訴:1カ月前からの左眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.右眼PCVで瘢痕化視力不良.PDT照射前矯正視力0.8.眼底所見:黄斑部に約3乳頭径大の網膜色素上皮?離(PED)内に出血によるニボーがあり,下方に鮮赤色のポリープ状病巣2)がある(図1左上).FA所見:下方出血にブロックされたPED内に色素貯留している(図1右上).IA所見:拡張した異常血管網(矢頭)の先端のブドウの房状のポリープ3)(矢印)から旺盛な蛍光漏出をしている.この病巣を含む範囲IA-guidedで病巣径3,484?mとした(図1右下).光干渉断層計(OCT)所見:背の高いPEDとその周囲に漿液性網膜?離が検出されている(図1左下).他眼が同様の経過で視力不良になったことより,病変50%以上の出血,大きなPEDがあったが他に有効な治療法がなく,照射径4,500?mでPDTを施行した.PDT照射後1週間矯正視力0.4.眼底所見:血管アーケイドを超える網膜出血が増加している.上方に網膜色素上皮裂孔が生じている(図2左上).OCT所見:PEDの背が低くなり,網膜色素上皮裂孔(矢頭)部は網膜色素上皮の高反射帯が欠損(矢印)している(図2左下).PDT照射後12カ月矯正視力0.1.眼底所見:上方の網膜色素上皮裂孔(矢頭)が明瞭になり,黄斑部は瘢痕化してきている(図2右上).(63)佐藤拓群馬大学医学部眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子10.治療の実際:ポリープ状脈絡膜血管症ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する光線力学的療法(PDT)の治療効果は狭義の加齢黄斑変性症(AMD)に対するものより有効性が高いとの報告が多数ある.しかし,視力予後不良例も存在し,治療の適応には慎重を要する.今回経過の異なる2症例を提示し治療のポイントをまとめる.提供図1PDTに奏効しなかった症例(1)(図説明は本文参照)nim5nim51TCOAFAITCOTCO図2PDTに奏効しなかった症例(2)(図説明は本文参照)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007OCT所見:扁平なPED上に?胞様黄斑浮腫(矢印)が生じている(図2右下).PDT照射直後に出血の増大,網膜色素上皮裂孔が生じ,1回の照射で病巣の沈静化が得られたが,視力予後不良となりPDTが奏効しなかった症例であった.<PDTが奏効しなった症例のポイント>?照射前視力0.8と良好.?大きなPEDや出血が主体であり,鮮赤色ポリープ2)がある.?IAで太い異常血管網と旺盛な漏出を示すブドウの房状ポリープ3)が存在する.●PDT奏効症例患者:64歳,男性.主訴:2カ月前から視力低下.既往歴:特記すべきことなし.PDT照射前矯正視力0.4.眼底所見:約2乳頭径大の漿液性網膜?離内に2個の橙赤色隆起病巣(矢印)網膜下出血がある(図3左上).FA所見:橙赤色病巣部が淡い顆粒状蛍光漏出している(図3右上).IA所見:2個のポリープ状病巣(矢印)が検出され,この病巣を含む範囲IA-guidedで病巣径3,470?mとした(図3右下).光干渉断層計(OCT)所見:ポリープ部が急峻な隆起性病変として検出されている(図3左下).以上より活動性のあるPCVとして照射径4,500?mでPDTを施行した.PDT照射後12カ月矯正視力1.2.眼底所見:橙赤色病巣や出血,網膜?離が消失してい(64)る(図4上).OCT所見:退縮したポリープが軽度の隆起病変として検出されている(図4下).PDT照射1回にて眼底病変の沈静化を得られ,12カ月間で再発なく経過良好のPDT奏効例であった.<奏効例のポイント>?照射前視力0.5近辺.?漿液性網膜?離主体であり,鮮赤色ポリープがなくPEDや出血が少ない.?IAでブドウの房状ポリープや太い異常血管網がない.PCVに対するPDTは,多くの報告で狭義のAMDより効果的であるとされ,臨床の現場でも実感されるところであるが,ときに今回の奏効しなかった症例のように術後大量網膜下出血などがあった場合は必ずしも良好な予後を得られないこともある.照射前の臨床所見でPDTの効果を予測することは現時点では困難であるが,照射前の眼底所見の広範な出血,大きなPED,鮮赤色ポリープ,IA所見でのブドウの房状のポリープや拡張した異常血管網がPCVに対するPDTの予後不良因子である可能性があると考えられ,これらの所見がみられた場合は注意が必要である.文献1)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepor?nforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-culopathy:one-yearresultofaprospectivecaseseries.?????????????111:1576-1584,20042)高橋牧,佐藤拓,萩村徳一ほか:ポリープ状脈絡膜血管症における巨大血腫の前兆としての鮮赤色ポリープ.臨眼58:741-746,20043)UyamaM,WadaM,NagaiYetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:NaturalHistory.???????????????133:639-648,2002図3PDT奏効症例(1)(図説明は本文参照)nim5nim7TCOAFAITCO図4PDT奏効症例(2)(図説明は本文参照)

緑内障:緑内障の動物モデル(1)-霊長類モデル,ラットモデル-

2007年7月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに動物モデルの利点は,隅角や視神経・網膜における変化を発症過程に沿って詳細に解析できること,さらに新薬の評価を行えることである.これまでにも複数の哺乳類やその他の種で動物モデルの探索や開発が行われてきた1).利用目的に応じて1)ヒトとの視覚形態の類似性,2)発症までの時間,3)遺伝子操作の可能性,4)モデル動物作製に必要な技術,5)眼球の大きさ,6)解析に必要な技術,7)モデル動物の有効性,8)動物の維持費用などの検討が必要である.これまでにも異なる種で自然発症した緑内障モデル動物が紹介されているが,一般的には手術的あるいは遺伝子改変によって作製されたモデル動物が利用されている.●霊長類モデルすべての動物モデルのなかで隅角や視神経乳頭の構造がヒトと最も類似する霊長類モデルが研究に適していることはいうまでもないことである.特に房水流出機構に関する研究においては貴重な存在である.しかし,1頭当たりの維持費用がマウスの約100倍かかることや,飼育・管理に高度な知識・技術が必要であることから,多くの研究では利用されていない.房水流路の遮断にはおもに線維柱帯の光凝固が利用される2,3).この手法によって手術後数日間で25~60mmHgの眼圧上昇が期待できる.その他の手法としては前房内に赤血球4),ラテックス5),ポリアクリルアミドゲル6),ステロイド7)を注入することによって眼圧上昇を促す方法が報告されているが,光凝固によって最も安定した眼圧上昇が得られている8).霊長類における眼圧上昇は視神経乳頭,網膜神経線維,網膜神経節細胞層に障害9)をもたらし,ヒトと同様な病理学的所見が再現されることが確認されている.また,霊長類モデルを利用した,光凝固後30日における網膜内の遺伝子発現の研究も報告されており10),この情報は新しい治療薬の開発にも利用されている.●ラットモデル動物モデルを用いて薬効評価を行う場合,実験には多数の動物が必要になる.このような場合にラットは有効である.ラットは簡単に飼育でき,性質もおとなしく,眼球も手ごろな大きさであることから,市販の機器を使って麻酔なしで眼圧測定ができる11).ラットの眼球には緑内障に関係する部位がすべて存在する.ラットにおける眼圧上昇は強膜静脈への生理食塩水の注入12),インドインクを使った線維柱帯の光凝固13),線維柱帯の光凝(61)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄85.緑内障の動物モデル(1)─霊長類モデル,ラットモデル─岩田岳独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)分子細胞生物学研究部門緑内障研究において動物モデルの存在はきわめて重要である.現在はおもに霊長類に加えてラットやマウスなどの齧歯(げっし)類が利用されている.本セミナーでは緑内障で利用されている動物モデルについて,2回シリーズで紹介したい.AB図1カニクイザルとマウスの視神経乳頭の比較カニクイザル(A)の視神経乳頭の構造はヒトときわめて類似しており,マウス(B)のそれとは大きく異なる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007固14),強膜静脈の焼灼15)などの方法が用いられるが,研究者には高い技術が求められる.この方法によって最大約2倍眼圧上昇を急激に起こすことができる.眼圧上昇は通常数週間持続し,さらに2回目の光凝固が行われると,3週間以上の持続も可能である.眼圧上昇によってヒトに類似する網膜神経線維の萎縮や視神経乳頭の変化が観察できる16,17).ラットモデルの登場によって,眼圧上昇に伴う電気生理学的な研究や神経保護薬の開発,豊富な網膜の材料を使った遺伝子解析なども可能になった.眼圧が25~45mmHgに上昇するRCS(RoyalCol-legeofSurgeons)ラットも発見されており,網膜神経節細胞死や視神経乳頭陥凹などが観察されている.しかし残念ながらRCSラットにはチロシンキナーゼ遺伝子に変異があり,視細胞の変性が起こることから,緑内障モデルとしては敬遠されている.次回は,マウスモデルとその他の動物モデルについて述べる.文献1)RitchR,ShieldsMB,KrupinT:Animalmodelsofglauco-ma.TheGlaucomas(2nded),p55-69,Mosby-YearBook,StLouis,19962)GaasterlandD,KupferC:Experimentalglaucomaintherhesusmonkey.??????????????????????????13:455-457,19743)QuigleyHA,HohmanRM:Laserenergylevelsfortra-becularmeshworkdamageintheprimateeye.??????????????????????????24:1305-1307,19834)QuigleyHA,AddicksEM:Chronicexperimentalglauco-mainprimates.I.Productionofelevatedintraocularpres-surebyanteriorchamberinjectionofautologousghostredbloodcells.?????????????????????????19:126-136,19805)WeberAJ,ZelenakD:Experimentalglaucomainthepri-mateinducedbylatexmicrospheres.???????????????????111:39-48,20016)KaufmanPL,L?tjen-DrecollE,HubbardWCetal:Obstructionofaqueoushumorout?owbycross-linkedpolyacrylamidemicrogelsinbovine,monkey,andhumaneyes.?????????????101:1672-1679,19947)ArmalyMF:Aqueousout?owfacilityinmonkeysandthee?ectoftopicalcorticoids.?????????????????3:534-538,19648)RasmussenCA,KaufmanPL:Primateglaucomamodels.??????????14:311-314,20059)QuigleyHA,NickellsRW,KerriganLAetal:Retinalgan-glioncelldeathinexperimentalglaucomaandafteraxoto-myoccursbyapoptosis.?????????????????????????36:774-786,199510)MiyaharaT,KikuchiT,AkimotoMetal:Genemicroar-rayanalysisofexperimentalglaucomatousretinafromcynomologousmonkey.?????????????????????????44:4347-4356,200311)MooreCG,MilneST,MorrisonJC:Noninvasivemeasure-mentofratintraocularpressurewiththeTono-Pen.?????????????????????????34:363-369,199312)MorrisonJC,MooreCG,DeppmeierLMetal:Aratmodelofchronicpressure-inducedopticnervedamage.???????????64:85-96,199713)UedaJ,SawaguchiS,HanyuTetal:Experimentalglau-comamodelintheratinducedbylasertrabecularphoto-coagulationafteranintracameralinjectionofIndiaink.????????????????42:337-344,199814)Levkovitch-VerbinH,QuigleyHA,MartinKRetal:Translimballaserphotocoagulationtothetrabecularmeshworkasamodelofglaucomainrats.??????????????????????????43:402-410,200215)ShareefSR,Garcia-ValenzuelaE,SaliernoAetal:Chron-icocularhypertensionfollowingepiscleralvenousocclu-sioninrats[letter].???????????61:379-382,199516)Garcia-ValenzuelaE,ShareefS,WalshJetal:Pro-grammedcelldeathofretinalganglioncellsduringexperi-mentalglaucoma.???????????61:33-44,199517)JohnsonEC,MorrisonJC,FarrellSetal:Thee?ectofchronicallyelevatedintraocularpressureontheratopticnerveheadextracellularmatrix.???????????62:663-674,1996(62)☆☆☆