———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSのスクリーニング能力が向上してきていることにある.以前からアジア諸国にPACG患者が多いことは知られていたが,残念ながらこれらの国々における緑内障診療レベルはこれまで必ずしも高くなかった.近年これら諸国の社会構造が近代化し,社会福祉体制が改善するに従って,近代的な眼科診療が可能となりPACGに対する欧米諸国の注目が上昇するようになったことも理由の一つである.以上のような背景から,PACGに関する国際的な興味が急速に増加したが,その際に問題になったことはPACGの疾患定義に世界基準がないことであった.表1に,これまで報告されたPACGに関する主要な疫学調査とそのなかで用いられている診断基準を示す.表1からは各報告間において診断基準が,特に視神経障害の有無に関して,大きく異なることがわかる.したがって,I新しい原発閉塞隅角緑内障分類の背景原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglauco-ma:PACG)に関する話題が最近賑やかである.日本人眼科医にとって,学問的には終わったかのように思われていたPACGであるが,実は世界的に現在非常に注目されている.その理由に関しては,本特集の序説でも述べられていると思われるが,緑内障のなかでは重篤化症例が多いこと(統計によると緑内障の病型別患者数は全体からみれば少ないが,緑内障による失明者の約半数はPACGである),原発開放隅角緑内障と異なり,予防的レーザー虹彩切開術や水晶体摘出術により多くの症例で発症そのものを予防することが可能であること,さらに超音波生体顕微鏡や非接触型の前眼部解析装置などの検査機器の開発が急速に進んで病態解明や危険眼・潜在眼(9)???*KenjiKashiwagi:山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座〔別刷請求先〕柏木賢治:〒409-3898山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1110山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):993~997,2007原発閉塞隅角緑内障の新しい分類:国際分類と新緑内障ガイドラインについて??????????????????????????????????????????-????????????????:??????????????????????????????????????????????????????????柏木賢治*表1各種閉塞隅角緑内障疫学調査の診断基準の比較国眼症状眼圧上昇隅角鏡視神経乳頭評価視野評価負荷試験発作歴グリーンランド++全例--++アラスカ++全例++(眼圧)--中国++一部----チベット++一部---+日本-+眼圧上昇例----南アフリカ++全例++(視神経)--モンゴル++全例++(視神経)--台湾-+全例--++これまでに報告されている主要な閉塞隅角緑内障の疫学調査結果を示す.調査によって,診断基準が異なることがわかる.特に下線で示すように視野障害や視神経障害など緑内障性視神経障害の有無の診断基準への採用が研究によって異なることが重要なポイントである.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007これらの調査結果から得られた有病率などを互いに比較検討することが困難であり,このことはPACGの実態の理解や適切な診療方針を決定するうえで大きな支障となった.PACGに関する世界共通の診断基準を作成し情報の共有化を高める必要性が求められたため,国際的な眼科疫学研究組織であるInternationalSocietyofGeographicandEpidemiologicalOphthalmology(ISGEO)が中心となり新しい診断基準の作成が積極的に進められた.その結果,PACGに関する新しい分類や診断基準などがFosterらによって2002年に疫学調査研究結果として報告されるに至った1).この基準に対しては,諸意見が残ってはいるが現在PACG診断の世界的標準となりつつある.アジア諸国の一員でもあり,眼科診療先進国である日本は,PACGの国際標準化に関しても,深く参加すべきであったと思われるが,レーザー虹彩切開術の普及に伴い,疾患としての興味が薄れていたこと,塩瀬スタディや多治見スタディの結果に代表されるように,原発開放隅角緑内障,特に正常眼圧緑内障がその興味の中心となっていたこと,ISGEOの定めるPACGの定義そのものに対する考え方の違いなどからか,この流れから遅れた感は残念ながら否めない.その結果,日本緑内障学会が2003年に発表した緑内障ガイドライン2)におけるPACGの理解や定義は,ISGEOのものとは大きく乖離する結果となった.そこで病態理解のグローバル化が求められる現在において,その問題点を解決するために,日本緑内障学会は,ISGEO分類を考慮した緑内障ガイドライン第2版を発表し3),世界認識との格差を解消することとなった.II新しい原発閉塞隅角緑内障に関するISGEO診断基準ISGEOではPACGを表2に示すように大きく3つに分類している.すなわち,機能的な隅角閉塞が隅角全体の3/4以上に認められるが,眼圧上昇や眼圧上昇の既往を疑わせる所見ならびに緑内障性視神経障害を有さないものを原発閉塞隅角眼疑い(primaryangle-closuresuspect:PACS)とした.ついで,PACSの所見に加え,周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,虹彩や線維柱帯の異常,glaucoma?eckenの存在など眼圧上昇もしくは眼圧上昇発作の既往を疑わせる所見を有するものを原発閉塞隅角眼(primaryangle-closure:PAC)と定義した.さらに,これらの所見に加え,緑内障性視神経障害の存在,もしくはそれを強く疑わせる所見を有するものを原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)と定義した.米国眼科学会の2005年のPreferredPrac-ticePatternにもこの基準は採用されている.前述したように,現在このPACG診断が世界の標準になってきており,今後,PACGを診断する際にはこの基準に則る必要がある.III従来の日本におけるPACGの定義とISGEOのPACGに関する定義の違い2003年の緑内障ガイドラインにおいては,PACGの定義として,“他の要因なく,隅角閉塞により眼圧上昇を来す疾患である”とされ,“原発閉塞隅角緑内障では眼圧上昇あるいは視神経の変化は隅角閉塞が証明されながら眼圧上昇あるいは視神経の変化を来していない初期症例を含めてすべて原発閉塞隅角緑内障とする”とされた.すなわち,緑内障性視神経障害(GON)の有無はPACGの診断に必須ではないとされた.上記の診断基準をISGEOの基準に当てはめると,PACもしくはPACSとなり,大きく異なる.さらに,ISGEOではいわゆる緑内障急性発作を起こしてもGONのない症例は“原発閉塞隅角眼(PAC)もしくは急性原発閉塞隅角眼(acuteprimaryangle-closure)と診断されるが,従来の日本のガイドラインではこのような場合も“原発閉塞隅角緑内障”と定義している.(10)表2ISGEOによる原発閉塞隅角緑内障分類?原発閉塞隅角眼疑い(primaryangle-closuresuspect:PACS)・隅角の3/4周以上において,線維柱帯後部が観察されない?原発閉塞隅角眼(primaryangle-closure:PAC)・PACS+線維柱帯閉塞所見(周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,虹彩や線維柱帯の異常所見,glaucoma?eckenなど)?原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)・PAC+緑内障性視神経障害———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007???IVわが国における新しい閉塞隅角緑内障の定義前述したように,PACGの世界的定義の見直しを受けて,日本緑内障学会でも,先頃新しいPACGの定義に関するガイドラインをまとめ発表した3).主要な改定部分を表3に示す.重要な点としては,“狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞を来しながら,緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primaryangle-closure)”と定義したこと,従来の定義でいう閉塞隅角緑内障の急性発作眼の場合,発作寛解後,緑内障性視神経障害を有さない場合を“急性原発閉塞隅角症”とした点である.さらに付記として“狭隅角は隅角が狭いという状態を表現するに過ぎず,隅角閉塞機序が存在することを意味しない”こと,“狭隅角の原発開放隅角緑内障はありうるので,狭隅角緑内障の用語は用いるべきではない”が加えられた.ここで,閉塞隅角眼と狭隅角眼の使用が日本においては曖昧であることに注意する必要がある.まだ十分にコンセンサスは得られていないが閉塞隅角はoccludableangleとほぼ同義で隅角の機能的閉塞が起こっていることを意味しているが,狭隅角はnarrowangleと訳され,単に前房深度が浅いだけで機能的閉塞を起こしてはいない状態と考えられる.したがって,ISGEOに基づく隅角の閉塞を評価する場合は閉塞部の表現は閉塞隅角:occludableangleと表現し,narrowangleと表現しないようにすべきであると考える.さらに間違えやすい表現として,PACG疑いとPACSの違いにも注意する必要がある.PACSは前述したように,隅角の一定範囲以上が機能的に閉塞しているが,眼圧上昇などの機能的異常や周辺虹彩前癒着や神経障害などの器質的障害をきたしていない状態を示すのに対し,PACG疑いは,閉塞隅角眼で緑内障性視神経障害の存在が証明されないが,存在する可能性が高い状態を示している.このような新しい閉塞隅角緑内障の定義を用いてわが国で初めて行われた大規模な疫学調査が多治見スタディである4).従来の日本の定義と新しい定義で判定した場合の有病率の違いを表4に示す.従来の定義の場合,PACGの有病率は1.3%であるが,ISGEO基準に基づいた新しい判定基準によると,PACGの有病率は0.6%,PACは0.5%となり大きく異なる.VISGEO診断基準の特徴と問題点ISGEO診断基準には,いつくかの特徴がある.まず,ISGEOではPACGの診断基準を策定するにあたっての基本的な考え方として図1に示すような,PACGの発症機転を想定している.すなわち,原発閉塞隅角眼疑い(11)表3閉塞隅角緑内障に関するわが国における新しい緑内障ガイドラインの特徴?狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞を来しながら,緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primaryangle-clo-sure)と定義する.?急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure)・急性発作寛解後,緑内障性視神経障害を有さない.?原発閉塞隅角症は原発閉塞隅角緑内障の前段階であり,無治療では原発閉塞隅角緑内障に進展する.(付記)?狭隅角は隅角が狭いという状態を表現するに過ぎず,隅角閉塞機序が存在することを意味しない.?狭隅角の原発開放隅角緑内障はありうるので,狭隅角緑内障の用語は用いるべきではない.表4多治見スタディにおける原発閉塞隅角緑内障の有病率従来定義新定義PACG1.3%0.6%PACG疑い*─0.2%PAC**─0.5%**:視神経障害の確認精度が低い.**:確定的な視神経障害を認めないPAC.注記:診断基準はISGEOにほぼ準拠.PACG疑い≠PACS.図1原発閉塞隅角緑内障の発症・進展の考え方原発閉塞隅角眼疑い(primaryangle-closuresuspect)原発閉塞隅角眼(primaryangle-closure)原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma)急性原発閉塞隅角眼(acuteprimaryangle-closure)10~20%/10~20年後25~30%/5年後———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007の一部が原発閉塞隅角眼に移行する.さらにその一部は眼圧上昇発作を起こす急性原発閉塞眼を介して,他の一部は,急性の眼圧上昇なく慢性的に眼圧上昇から緑内障性視神経症を示し,PACGに移行するとした.しかしながら,臨床において本当にこの定義のように進行するかはいまだ証明されていない.たとえば,機能的閉塞隅角がどこまで進むと虹彩前癒着や眼圧上昇が起こるのか,機能的閉塞隅角を経ずに,PACGを発症する症例は存在しないのかなどに関しては不明である.前房深度や隅角開度だけがPACG発症のパラメータだけでなく,これらの状態が同じようであってもPACGの発症頻度が人種などによって異なることが最近明らかになっており,隅角所見以外にPACG発症に関与する因子の存在も指摘されている.現在の診断は隅角検査の結果によるが,隅角検査は主観的検査であるために診断がどのくらいの精度を有しているか疑問である.これらの点に関しては今後前向き調査などで検討することが強く求められている.最近は無侵襲で定量性が高い検査機器や毛様体の観察が可能な超音波生体顕微鏡など新しい検査機器が開発されている.今後このような機器を積極的に用いて,閉塞隅角緑内障の発症機序を解明するとともに,発症の危険性を判定するパラメータを増やし,より精度の高い判定基準を作成することが重要である.現在,世界的な流れとして,“緑内障”と診断する根拠として表5に示すような緑内障性視神経症の存在を証明する必要があるが,視神経乳頭の形態は多彩で現在の判定基準では十分に高い診断能力はなく診断が曖昧になる点も問題である.特に日本人の場合,近視眼などでは視神経乳頭の変形が強く判定に苦慮する症例も少なくない.以上からより普遍性や信頼性が高い緑内障性神経障害の判定基準が必要である.VI原発閉塞隅角緑内障診断上の注意点これまでの診断基準に代わり今後,ISGEOや新しい緑内障ガイドラインに基づき閉塞隅角緑内障を診断することが重要である.特に,診断では正しい隅角所見を得ることが従来に増し要求されているため,眼科医は隅角鏡の使い方に熟練する必要がある.隅角検査の詳細に関しては他書に譲るが,ポイントとしては,視軸に対して平行に観察できるように隅角鏡を当て患者には正面を直視するように指導すること,強く圧迫して眼球の変形をきたさないこと,部屋の照明は可能な限り落とすこと,細隙灯の光をできるだけ細く短くし,瞳孔領に光が入光しないように注意することが重要である.また通常の隅角検査では,周辺虹彩前癒着(PAS)の有無を判定することがしばしば困難である.圧迫隅角検査はPASの判定に有用であるため,圧迫隅角検査に習熟する必要もある.おわりにわが国ではかつて閉塞隅角緑内障眼やその危険眼に対してはレーザー虹彩切開術(LI)を行うことで治療が完了すると捉えられてきたふしがあるが,最近LI後の水疱性角膜症が問題視されるようになっている.LIにより発症した水疱性角膜症で全層角膜移植手術が必要となった症例のうち,急性発作後にLIを施行した症例と予防的にLIを施行した症例はほぼ同数であるとの報告がある.LIの有用性を考えた場合,むやみにLIを恐れる心配はないが,施行にあたっては術前に安全性や必要性を十分に検討する必要がある.閉塞隅角の治療として水晶体摘出術を勧める眼科医もいるが,過剰な患者への負荷は避けるべきであることは明白である.LIで閉塞隅角の急性発作を解消した症例でも長期的には慢性閉塞隅角緑内障に移行し,その予後は開放型よりも悪いことも報告されている.有効な予防的治療をもつ原発閉塞隅角緑内障の場合,どのような症例が本当に治療を要するの(12)表5緑内障性視神経障害分類?分類①:視神経障害+視野障害・正常の97.5%域を超えるC/D比もしくはC/D比の左右差・もしくは耳側辺縁のC/D0.1以下の狭小化・かつ明らかでかつ恒常的な視野障害?分類②:進行した視神経障害・正常の99.5%域を超えるC/D比もしくはC/D比の左右差?分類③:視神経障害,視野障害とも証明不可能・高度視力障害(3/60未満)と正常の99.5%範囲を超える眼圧上昇・高度視力障害(3/60未満)と緑内障手術歴もしくは,緑内障視機能障害を証明する医学記録ただし,分類①と②の場合,他の原因が除外できること.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007???か,発症機序解明という医学的興味に加えきちんとした治療基準を確立することが急務である.このためには世界的統一基準で客観的なデータを集めることが重要で,閉塞隅角緑内障の診療に関しては今回紹介したような,診断基準に基づいた診療を行うことが求められる.文献1)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thede?nitionandclassi?cationofglaucomainprevalencesurveys.???????????????86:238-242,20022)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-157,20033)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:778-814,20064)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.?????????????112:1661-1669,2005(13)眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■