———————————————————————-Page1(1)????I主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とHLA主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompati-bilitycomplex:MHC)はマウスの皮膚移植をしたときに,系統が異なると拒絶反応をひき起こす原因として発見されたH2遺伝子1,2)をはじめとする遺伝子群の総称である.つまり,MHCは自己と他者を認識する際に働く遺伝子群の総称といえる.MHCはヒト,ブタ,マウスなどの哺乳類のみならず,ニワトリ,サメなどの非哺乳類にも存在することが報告されている.しかし,非哺乳類のMHCは単純な構造となっており,さらに,非脊椎動物には存在しない.このため,軟骨魚類が他の脊椎動物と進化的に分かれる以前,おそらく5億年以上前にもともと異なる機能を果たしていた蛋白分子の遺伝子が,遺伝子重複で二つ(またはそれ以上)に重複し,そのうちの一つが進化し,MHCになったと考えられている3~5).脊椎動物の非哺乳類から哺乳類への進化とともにMHC領域ではその後も遺伝子重複が続き,その構造は複雑化したと考えられる.マウスのMHC遺伝子がH2遺伝子とよばれるのと同様に,ヒトのMHC遺伝子はHLA遺伝子とよばれている.HLA遺伝子は,妊婦や輸血を受けた患者の血液中で発見された抗白血球抗体が認識する抗原を規定する遺伝子として発見されたため,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)遺伝子と命名された.しばしば同義語のように使われることのあるMHCとHLAであるが,MHCは通常,脊椎動物以上の生物すべてに共通した内容に関して用いられ,HLAはヒトに限定した内容を示す場合に用いられることが多い(図1).その働きから,いまでは免疫における三大主要分子(Ig:免疫グロブリン,TCR:T細胞受容体,HLA)の一つと考えられている.IIHLA分子の分類HLA遺伝子の規定する分子(ヒト白血球抗原分0910-1810/06/\100/頁/JCLS*YukoTakemoto&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野●序説あたらしい眼科23(12):1515-1519,2006HLAとは????????????????????????????????竹本裕子*大野重昭*図1MHCとHLAMHCは通常,脊椎動物以上の生物すべてに共通した内容に関して用いられ,HLAはヒトに限定した内容を示す場合に用いられることが多い.ALHCHM———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006子)はその構造と機能によって大きく二つに分類され,HLAクラスI分子とHLAクラスII分子とよんでいる(図2).HLAクラスI分子のうち,ほとんどの有核細胞と血小板の細胞膜上に発現しているものを古典的HLAクラスI分子,特定の分化段階の組織や細胞のみに発現しているものを非古典的HLAクラスI分子と分類している.古典的HLAクラスI分子にはHLA-A,-B,-Cの3種類が,非古典的クラスI分子にはHLA-E,-F,-Gが属する.同様に,HLAクラスII分子は古典的クラスII分子とよばれるHLA-DR,-DQ,-DP分子の3種類と,非古典的HLAクラスII分子とよばれるHLA-DM,-DO分子の2種類が存在する.古典的HLAクラスII分子はマクロファージ,樹状細胞といった抗原提示細胞とB細胞などの限定された細胞のみに発現している.非古典的HLAクラスII分子であるHLA-DM分子は古典的HLAクラスII分子と同様に抗原提示細胞とB細胞に発現しているが,HLA-DO分子は成熟B細胞と胸腺上皮細胞のみに発現が限定されている.HLAは免疫学的に自己と他者(細菌や腫瘍細胞,ウイルス感染細胞など)を認識し,免疫応答を制御しているが,発現部位の異なるそれぞれの分子はその機能も少しずつ異なっている.たとえば,古典的HLAクラスI分子は細胞内のウイルス,細菌や腫瘍抗原に由来するペプチドと結合し,キラーT細胞に提示したり,ナチュラルキラー(NK)細胞と結合し,その細胞障害活性を抑制する.また,自己抗原ペプチドを未成熟胸腺細胞上のTCRに提示することで自己抗原に反応してしまうT細胞を除去し,高い応答性を示すT細胞のみを末?へ送り出すためのT細胞の教育も行っている.多型性の比較的少ない非古典的HLAクラスI分子は妊娠時に胎児(非自己)が母体(自己)から拒絶されないように働いていると考えられている.一方,古典的HLAクラスII分子は細胞外の抗原ペプチドをヘルパーT細胞に提示する.非古典的HLAクラスII分子の一つであるHLA-DM分子はHLA-DR分子への抗原ペプチド結合を促進する触媒作用をもっている.HLA-DO分子はHLA-DM分子によるこの触媒作用を抑制していると考えられているが,その機序や調節機構についてはいまだ不明な部分が多い(表1).このほか,HLA領域にコードされているが,HLAクラスI分子およびHLAクラスII分子以外のもの,つまり「その他」といった意味で,HLAクラスIII分子が定義されている.そのなかには補体の構成成分や熱ショック蛋白(HSP70),腫瘍壊死因子(TNF),細胞内抗原の輸送に携わるLMP(lowmolecularmasspolypeptide),TAP(transporter-associatedwiththeantigenprocessing)などの生体防御や個体のホメオスタシスに関する蛋白質をコードする遺伝子が含まれている.(2)図2HLA分子とその分類HLAHLA-AHLA-BHLA-CHLA-EHLA-FHLA-GHLA-DRHLA-DQHLA-DPHLA-DMHLA-DOHLAクラスIHLAクラスII古典的HLAクラスI非古典的HLAクラスI古典的HLAクラスII非古典的HLAクラスII———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????IIIHLA分子の多様性HLA分子が自己と他者(細菌や,腫瘍細胞,ウイルス感染細胞など)を認識し,免疫機能を働かせる際に重要な役割を果たすことはすでに述べた.非常に多様な他者に対して,自己を維持するためには,非常に多様な対応を迫られる.そのために重要な免疫の多様性は,先に述べた免疫の三大主要因子(Ig,TCRそしてHLA)の多様性によって規定されている.IgやTCRはゲノム上に多数の遺伝子が存在し,その再構成で莫大な多様性を出現させる機能をもっている(図3)6).一方,HLAはそのアリル(対立遺伝子;同じHLA-B遺伝子にもHLA-B51やHLA-B27といった異なるアリルが存在する)の種類を増やすことで多様性を得てきた.HLAアリルの多様性は,多くが「非同義置換(アミノ酸変異を伴う塩基置換)」で,その変異は抗原ペプチドとHLA分子が結合する「溝」(抗原ペプチドを選択できる部位)やTCRの受容部位に多発している(図4,5)7).このため,HLAの多型によりHLAのペプチド収容溝の形状を変化させ,HLA結合ペプチドのモチーフを変化させることで,特定のペプチドに対する免疫応答に起因する免疫疾患への感受性の個体差を形成する.また,HLA多様性はHLA遺伝子からHLA分子への転写・翻訳を量的に制御する「プロモーター領域」にもみられる.これらの多様性をもっていることで,特定の他者に対し,ほかのアリルをもつ個体よりも進化上有利に働いたと考えられる.(3)図3TCRの遺伝子再構成可変部遺伝子V,D,J領域で複数個の遺伝子からおのおの1個ずつが選び出され,連続することによりTCR分子の多様性が生まれる.VDJCAAA胚細胞型DNA再構成DNA転写RNAmRNA転写スプライシング表1HLA分子の発現と機能発現機能HLAクラスI古典的ほとんどの有核細胞と血小板細胞内ウイルスや細菌,腫瘍由来ペプチドをキラーT細胞に提示したり,NK細胞の細胞障害活性を抑制胸腺におけるT細胞の教育非古典的胎盤など特定の分化段階の組織や細胞妊娠の維持などHLAクラスII古典的抗原提示細胞とB細胞細胞外抗原ペプチドをヘルパーT細胞に提示非古典的抗原提示細胞とB細胞HLA-DM:HLA-DRへの抗原ペプチド結合を促進HLA-DO:HLA-DMの作用を抑制———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006IVHLA領域の遺伝子構造HLA抗原をコードするHLA遺伝子は,第6染色体短腕部のp21.3の約4,000kb内に存在する.このHLA領域は,テロメア側にクラスI遺伝子領域と,セントロメア側にクラスII遺伝子領域,これらの間には免疫機能を有するがクラスIやクラスII遺伝子とは構造的な類似性をもたない補体成分(C2,C4,Bf)や腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子と,免疫とは無関係な機能をもつと考えられる遺伝子(21-ヒドロキシラーゼなど)を支配するクラスIII遺伝子領域が存在する8).HLA遺伝子領域は,(1)遺伝子密度がヒトゲノムの平均よりも約4倍高い,(2)遺伝的多型性が高い,(3)遺伝子重複の痕跡が多くみられる,(4)GC(DNAにおけるグリシンとシトシン)含量の高い領域と低い領域が混在する,(5)高度反復配列の豊富な領域が存在する,(6)さまざまな疾患に対する疾患感受性を規定している,などの特徴がある.疾患感受性は患者群と健康対照群との間でHLA対立遺伝子の頻度を比較することにより,その疾患の感受性遺伝子の存在を検定する.眼科領域でも,Beh?et病とHLA-B*51019,10),Vogt-小柳-原田病とHLA-DRB1*040511~13),HLA-B*27関連ぶどう膜炎とHLA-B27などが,HLAと強い相関を示すことが知られているが,その発症機序はいまだに不明な点が多い.そこで,次章からはこの(4)図4HLAクラスI抗原の立体構造(大野重昭:日眼会誌96:1558-1579,1992より一部改変)aヘリックスaヘリックスaヘリックスa2b2ma1a3bシートbシートNNNCC図5HLAクラスII抗原の立体構造aへリックスからなる溝に抗原が結合し,T細胞に提示される.(大野重昭:日眼会誌96:1558-1579,1992より一部改変)NN9aヘリックスbシートb1a113707157———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(5)ようなHLAと疾患との関係について,疾患ごとに最新の知見を交えて解説してみたい.文献1)GornerPA:Thedetectionofantigenicdi?erencesinmouseerythrocytesbyemploymentofimmunesera.?????????????17:42,19362)SnellGD:Histocompatibilitygenesofthemouse.II.Pro-ductionandanalysisofisogenicresistantlines.??????????????????21:843,19583)KleinJ,FigueroaF:Evolutionofthemajorhistocompati-bilitycomplex.????????????????6:295-386,19864)HughesAL,NeiM:EvolutionaryrelationshipsofclassIImajor-histocompatibility-complexgenesinmammals.?????????????7:491-514,19905)HughesAL,NeiM:Evolutionaryrelationshipsoftheclassesofmajorhistocompatibilitycomplexgenes.???????????????37:337-346,19936)BernierGM:Structureofhumanimmunoglobulins:myelomaproteinsasanaloguesofantibody.?????????????14:1-36,19707)大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,19928)ShiinaT,InokoH,KulskiJK:AnupdateoftheHLAgenomicregion,locusinformationanddiseaseassocia-tions.???????????????64:631-649,20049)MizukiN,OtaM,KatsuyamaYetal:HLA-B*51alleleanalysisbythePCR-SBTmethodandastrongassocia-tionofHLA-B*5101withJapanesepatientswithBeh?et?sdisease.???????????????58:181-184,200110)MizukiN,OtaM,KatsuyamaYetal:Sequencing-basedtypingofHLA-B*51allelesandthesigni?cantassociationofHLA-B*5101and-B*5108withBeh?et?sdiseaseinGreekpatients.???????????????59:118-121,200211)ShindoY,InokoH,YamamotoT,OhnoS:HLA-DRB1typingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199412)KimMH,SeongMC,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,200013)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleinBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????59:183-188,1998