———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSたころには別の施設ないしは別の主治医にフォローされていることが多いはずである.一方,角膜専門医としてはいろいろな施設から水疱性角膜症に至った症例を紹介していただくために,LI後の水疱性角膜症が強く印象付けられる.昨今学会などで本疾患が取り上げられることが多くなり,この意識のギャップは次第に埋まりつつあると思うが,今回の企画もその一助になればと筆者も願っている.IILI後水疱性角膜症症例の臨床的特徴1.浮腫はさまざまな部位から発症する角膜全面に浮腫をきたした状態で紹介受診されることも多いが,ときに浮腫が限局した症例に出くわすことがある.LI切開窓付近から角膜浮腫ははじまる症例(図1)もあれば,逆に上方に作製された切開窓から離れた下方から発症する症例(図2)もある.ほとんどの場合,次第に浮腫の範囲は拡大し全角膜に及ぶのであるが,局所的に発症するさまは本疾患の発症機序を考えるうえで興味深い.2.前房が極端に浅い症例が多いLI術後に前房深度は改善するが,浅前房が続く症例も少なくない.今後慎重に検討していく必要があるが,浅前房そのものも角膜内皮に対してなんらかの影響を与える可能性があるのではないだろうか.図3は本題からそれるがLI施行眼ではなく,単なる浅前房眼の症例ではじめにレーザー虹彩切開術(LI)は非観血的で比較的簡便に施行することが可能である.瞳孔ブロックをバイパスするという大変わかりやすい奏効機序と緑内障発作に対する不安も手伝って,必要以上の症例に施行されてきた感がある.1988年にSchwartzらはLI後の重篤な合併症として水疱性角膜症をあげているが,わが国においてもLIは水疱性角膜症の原因として白内障手術後についで2番手に位置している1,2).この日本の現状については別項に譲るが,LIが水疱性角膜症の原因のトップに躍り出るのも時間の問題かもしれない.LIがどのような機序で水疱性角膜症の発症に関与するのか不明な点は多い.諸説入り乱れている感があるが,これについても別項で詳しく取り上げられている.本項では角膜専門医の立場で,また臨床現場からの視点でLI後の水疱性角膜症を概観してみたい.I角膜専門医の立場緑内障専門医とLI後の水疱性角膜症の話をすると,意識のギャップを感じることがある.これはLI術後に角膜内皮障害をきたす症例は全体のごくわずかであることと,LI後数年以上経過して発症することがその理由の一つに思える.緑内障専門医は,「自分の施行した症例に内皮障害を起こしたことはない」という立場であろう.一般の眼科医にとってもLI後数年以上自分で経過を追っていける状況は少なく,水疱性角膜症が顕在化し???(12)*ToshihikoUno:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕宇野敏彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)特集●レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症を解剖する!あたらしい眼科24(7):860~862,2007レーザー虹彩切開術の適応と限界─角膜専門医の立場から─??????????????????????????????宇野敏彦*———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???ある.4時方向の周辺部角膜に対し虹彩が一部接触しているようにもみえるが,この部位から角膜浮腫が生じていた.浅前房特有の房水動態やときには眼球運動や体動などによって間歇的に虹彩が角膜に接触しているといった機械的な刺激も機序の一つにあげられるのかもしれない.3.角膜移植の手術中の炎症が強いLI施行眼における角膜移植では金井らも指摘しているように,術中,術直後の前房内フィブリン形成を含めた炎症反応が強い3).詳細は本特集の東原氏の項に譲るが,LI施行眼の前眼部では虹彩血管の透過性が亢進しており,炎症を促進するようなサイトカイン・ケモカインなどのケミカルメディエーターの作用が及びやすくなっていることが想像される.LI直後にレーザー照射により炎症が惹起されることは理解できるが,LI後数年以上経過しても炎症を起こしやすい状態が継続していることは非常に興味深く,持続的に前眼部を修飾しつづける因子の解明が待たれる.4.角膜移植術後の経過は良好なことが多い術中,術後の炎症は強いが,これを乗り切ればその後の経過は他の水疱性角膜症に対する角膜移植と比較して術後成績が悪いという印象はない.有水晶体眼であれば全層角膜移植術の際に水晶体再建術を同時施行することが多い.水晶体摘出により深い前房深度を確保できること,房水動態が通常の偽水晶体眼とほぼ同じになることが関係しているように思えるが,これについては今後の検討が必要であろう.IIILI後水疱性角膜症の予防に向けて1.角膜内皮障害の可能性を説明する緑内障発作に対応する際,角膜内皮障害の可能性についての説明も忘れないようにする.緑内障発作自体でも内皮障害が大きいこと,LIあるいは外科的虹彩切除によっても一定の内皮障害の可能性は避けられないこと,(13)図3狭隅角眼の水疱性角膜症4時方向を中心に虹彩と角膜内皮がほぼ接触している症例.同部位から発症した角膜浮腫はその後全面に拡大した.本症例はLIを施行されていない.図2LI部と離れた下方から水疱性角膜症を発症した症例10時方向のLI切開窓と離れた下方に限局した角膜浮腫を認める.図1LI部から水疱性角膜症を発症した症例LI切開窓付近から限局的な角膜浮腫が生じている.———————————————————————-Page3???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007将来的に水疱性角膜症に移行しうることなどがおもなポイントであろう.予防的LIを行う場合は十分時間をかけて説明する必要があるであろう.2.角膜内皮を観察する角膜内皮の状態を可能な範囲で把握する必要がある.緑内障発作による角膜浮腫で内皮が観察できない場合は僚眼の角膜内皮の所見を参考にする.スペキュラーマイクロスコープによる検査とともにスリットの鏡面法による観察で細胞密度,大小不同などとともに滴状角膜様の所見の有無を確認する.3.過剰凝固を避けるレーザーによる過剰凝固は水疱性角膜症発症の大きなリスクファクターである.YAGレーザーを併用し,照射するエネルギーを小さくすることを心がける4).ただし,YAGレーザーで施行すれば水疱性角膜症が発症しないと考えるのは早計である.なぜならばどのような種類のレーザーを用いようとも,虹彩切開により術前にはなかった異常な房水動態が生じることには変わりがないからである.角膜浮腫が強くLI施行が困難であれば外科的虹彩切除も選択肢に入れる.4.狭隅角の改善を目的とした白内障手術ピロカルピン点眼などメディカルな治療で緑内障発作を切り抜けた場合,LIの代わりに,あるいはLI後しばらくして白内障手術を行うことも提唱されている.水晶体を摘出すれば狭隅角の問題は根本的に解決する.さらに多くは遠視眼でもあり,白内障がない場合でも視機能の改善に寄与するという理由も成り立つ.角膜内皮の慎重な評価を行い,術中は内皮保護に努めることはいうまでもない.術中の前房形成不良やZinn小帯の脆弱化している可能性にも配慮して手術に臨む.LI後内皮障害が進行している症例に白内障手術を施行することにより内皮減少が停止したという報告がある5).この報告のなかで園田らは,水晶体摘出により後房から前房への房水の流れはLI切開窓からではなく,瞳孔領域から行われることになり,房水動態の正常化が図れると考察している.今後症例の蓄積をしていかないと確かなことはいえないが,LI施行後であっても水晶体摘出は内皮保護に有利に働く可能性を示唆するものである.IVLI後水疱性角膜症に対する角膜移植から考えられること水疱性角膜症の治療は角膜移植術である.治療の詳細は別項に譲るが,LI後水疱性角膜症特有の病態に関連する点についてのみ若干触れてみたい.くり返しになるが,本疾患の角膜移植の特徴として術中,術後の炎症が強いことがあげられる.浅前房,あるいは散瞳不良などのために虹彩への機械的侵襲が多くなるということもあろうが,LI施行眼は術中のフィブリン形成など,他疾患に対する角膜移植ではほとんどみられないような強い炎症反応を術中から起こしてくることが少なくない.金井らが指摘するように3),術前にメチルプレドニゾロン125mg程度の投与をあらかじめ行っておくと,術中のフィブリン形成などの問題点は大きく改善するので非常に有用である.上記の手術所見から明らかにいえることとしてLI施行眼はproin?ammatoryな状態であることであろう.LI施行時のレーザー照射そのものによる炎症が数年以上持続していると考えることは不自然であり,LI施行を契機として持続的な炎症を起こすなんらかの因子の関与があるはずである.その因子の候補について本特集ではこのあと複数の先生方により提示いただけるものと思われる.文献1)荒木美治,小室青,外園千恵ほか:水疱性角膜症の病因とその発生頻度.あたらしい眼科16:1563-1565,19992)池間宏介,松本光希,筒井順一郎ほか:熊本大学医学部眼科における水疱性角膜症の現況.臨眼59:735-738,20053)金井尚代,外園千恵,小室青ほか:レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症に関する検討.あたらしい眼科20:245-249,20034)SchwennO,SellF,Pfei?erNetal:ProphylacticNd:YAG-laseriridotomyversussurgicaliridectomy:aran-domized,prospectivestudy.????????????????4:374-379,19955)園田日出男,中枝智子,根本大志:白内障手術により進行が停止したレーザー虹彩切開術後の角膜内皮減少症の1例.臨眼58:325-328,2004(14)