———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●前眼部OCTへの期待近年,網膜の断層像を高解像度で非侵襲的にかつ簡便に得られる診断装置として,光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)が普及してきた.おもに眼底疾患の診断に用いられてきたOCTであるが,緑内障の分野では,網膜神経線維層(RNFL)の解析だけでなく,隅角の観察や濾過手術後の濾過胞形状など,前眼部の観察にも応用されるようになってきた.これまでは,隅角の画像解析にはPavlinらによって開発された超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicro-scope:UBM)が一般的に用いられてきた.しかし,UBMは被検者を仰臥位にさせ,検査眼にアイカップを装着後,生理食塩水を介して検査を行うなど煩雑な操作が要求されるとともに,接触型の検査であるがゆえ感染症などに注意が必要であった.したがって,非接触,座位にて検査が可能であること,手術直後から非侵襲かつ短時間で行うことができ,患者の負担も軽いことなどから,隅角や濾過胞を観察するためにはOCTを用いることのメリットは大きい.また,解像度もUBMが50?mに対し,OCTでは垂直方向で10~20?mと格段に優れており,UBMに比べて有利な点が多い.最近では,前眼部専用のOCTが開発され,細隙灯顕微鏡に接続されたOCTにより診察を行いながら前眼部のOCT断層像を得ることができるものもあり,今後臨床での応用が期待されている.●従来のOCDR方式と新しいOFDR方式のOCT従来の眼底観察用OCTでは,opticalcoherencedomainre?ectometry(OCDR)とよばれる方式が採用され,820nmの近赤外光を参照ミラーを移動させることにより画像を取得している.一方,北里大学眼科学教室では,本学物理学教室(大林康二教授)とopticalfre-quencydomainre?ectometry方式(以下,OFDR方式)による新しいOCTを共同開発した1,2).これは,1,540~1,570nmのsuperstructuredgratingdistributedBraggre?ector(SSG-DBR)レーザー光を用いたもので,レーザー光を密に幅広く高速で変化させることによって,前眼部画像は短時間かつ高解像度で取得できるよ(53)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄77.新しい方式による前眼部光干渉断層計(OCT)鈴木宏昌1)中西基2)庄司信行1)清水公也1,2)1)北里大学大学院医療系研究科臨床医科学群眼科学2)北里大学医学部眼科従来の光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)と異なり,レーザーの波長を高速で変化させて画像を取得する新しい方式のOCT(OFDR-OCT)を用い,緑内障術後の隅角・濾過胞を観察した.術直後から房水流出経路の経時的変化が観察できるだけでなく,濾過胞内部の観察によってneedlingの適応を決定するなど,治療面も含めたさまざまな応用が期待される.図2トラベクロトミー後の線維柱帯部の内部突出とDescemet膜?離図1狭隅角図3濾過胞の一例———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006うになった.今回筆者らは,このOFDR-OCTにより得られた前眼部画像をいくつか紹介したい.●臨床応用前眼部OCTでの臨床応用ではおもに,角膜,結膜,濾過手術後の濾過胞の内部情報,虹彩形状,隅角などの観察があげられる.狭隅角の診断法として,UBMにおいてangleopeningdistance(AOD)やtrabecularirisangle(TIA)などが知られている3,4)が,OFDR-OCTにても同様の隅角像を得ることが可能である(図1).解像度の点でも優れており,線維柱帯切開術後の切開部位や合併症として生じたDescemet膜?離も詳細に捉えることができる(図2).一方,濾過手術における濾過胞所見については,従来のOCDR-OCTを応用し,その得られた内部所見に関する報告がすでにいくつか散見されるようになってきている5)が,本装置(OFDR-OCT)でも,濾過胞内部の房水流出路の観察(図3)や,線維化,癒着の程度まで観察が可能であり,また手術直後からの検査が可能である点など,得られる情報は多い.●OCTの限界と問題点OCTは,測定光を観察組織に照射し,戻ってきた反射光を検出して画像として描出している.そのため,深部組織や高反射の組織の後部では観察が困難となる.一般的にOCT画像は強反射では暖色系,低反射では寒色系として描出される.角膜などの弯曲した組織では,測定場所によって反射強度が異なってくる(図4).そのため,病変と表示色は必ずしも一致しないこともあり注意が必要である.現在のところ,前眼部OCTでは解像度の関係からSchlemm管の観察は困難であり,また観察光の到達距離が虹彩裏面までであるため,毛様体の観察は困難である.よって現時点では隅角と濾過胞の観察が主となるが,将来的には,Schlemm管の大きさや位置の確認,あるいは,毛様溝の観察を可能にすることによって眼内レンズの位置確認などに応用できるよう改良が必要と考えている.濾過手術直後に厚い出血などがあると,より深部組織の情報が得られにくくなるなどの欠点がある.画像取得速度がUBMに比べて遅いこともあり(UBM10枚/秒,OCT約1枚/秒),リアルタイムで濾過胞の全体像を把握するにはまだまだ改良の余地があるが,画像処理の高速化に関してはコンピュータ上の問題でもあり,近いうちに解決可能であると考えている.おわりに緑内障診療からみた前眼部OCTの魅力は,UBMと違って非接触型であり,術直後からの観察が可能なことにより,術直後からの房水流出経路の確認や,癒着・瘢痕の過程が観察できることである.また,座位でも検査が可能なため,将来的には一連の診察の流れで観察が可能になり,診療時間の短縮や効率化が得られる点も魅力である.さらに,needlingを予定した場合の濾過胞内部あるいは瘢痕部位の確認など,治療面も含め,さまざまな応用が期待される.文献1)AmanoT,Hiro-OkaH,ChoiDHetal:Opticalfrequency-domainre?ectometrywitharapidwavelength-scanningsuperstructure-gratingdistributedBraggre?ectorlaser.????????44:808-816,20052)NakanishiM,AmanoT,Hiro-OkaHetal:Anteriorseg-mentoptical-frequency-domain-re?ectometeropticalcoherencetomographyusingSSG-DBRlaser(2ndreport),ARVO2006annualmeeting,program#3293/Poster#B826,2006/4/30-5/4,FortLauderdale,Florida3)PavlinCJ,HarasiewiczK,FosterFS:Ultrasoundbiomi-croscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.???????????????113:381-389,19924)佐野令奈,黒川徹,栗本康夫ほか:うつむき試験陰性狭隅角患者の仰臥位と伏臥位における隅角開度および前房深度の比較.日眼会誌105:388-393,20015)SaviniG,ZaniniM,BarboniP:Filteringblebsimagingbyopticalcoherencetomography.???????????????????????????33:483-489,2005(54)図4レーザー虹彩切開術後角膜中央,濾過胞表面および周辺虹彩切除部付近の虹彩表面で高反射を示す部位がみられる.