———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI角膜乱視の分類強度角膜乱視の形状をビデオケラトスコープPR-7000(サンコンタクトレンズ社製)にて撮影・解析しカラーコードマップにて表示すると,角膜乱視は以下の3つのタイプに分類できることが明らかになった.ここでは角膜乱視が角膜周辺部にまで及んでいるタイプを周辺部型(タイプⅠ,図1),中心部に限局しているタイプを中心部型(タイプⅡ,図2),両者が混在したタイプを混合型(タイプⅢ,図3)とする.小玉眼科医院およびウエダ眼科においてベベルトーリックHCLを処方した15名27眼(男性8名16眼,女性7名13眼,年齢13~53歳・平均26.5歳,角膜乱視1.75~9.77D・平均4.38D)を解析した結果では,タイプⅠが15眼,タイプⅡが5眼,タイプⅢが7眼であった.IIベベルトーリックHCLのデザイン軽度円錐角膜にバランスよく3点接触法でHCLを処方した場合,涙液交換が良好で矯正視力もよく,自覚的にも他覚的にも問題がないという症例を多く認めることができることに注目して,通常の屈折異常眼に,よりソフトな装用感と良好な涙液交換をもたらすことを目指して,筆者らは新しい多段カーブデザインのHCLを試作した2).現在,このレンズはツインベル?Ⅱとして市販されているが,この多段カーブをなす二重のベベル部分をトーリック状にデザインしたレンズがベベルトーリッはじめに3ジオプトリー(以下,D)までの乱視であれば,乱視矯正用ソフトコンタクトレンズ(以下,トーリックSCL)でも対応することができるが,それより軽度の乱視であってもハードコンタクトレンズ(以下,HCL)のほうが球面ソフトコンタクトレンズ(以下,SCL)やトーリックSCLに比較して視力の質は光学的に良好であり,HCLの装用を好む使用者も多い.3D以上の乱視になるとHCLによる矯正に頼らざるをえないが,乱視が強度になるにつれ,視力が不安定になったり,装用感が悪くなるという欠点が出ることが多く,それらの症例に対してはバックトーリックHCLやラージサイズ球面HCLによって対処せざるをえなかった1).しかし,強度乱視においてはバックトーリックHCLやラージサイズ球面HCLを使用しても対処しきれない場合もしばしば認められた.レンズの静止位置や動きの不安定さが視力の不安定さや装用感の悪さをもたらし,それらのおもな原因としては,弱主経線におけるベベル幅が極端に狭くなることや強主経線でのエッジの浮き上がりが過度になるということが考えられる.この問題を解決するために,多段カーブを有するツインベル?Ⅱ(サンコンタクトレンズ)の2つのベベル部分にトーリック差を設けて,レンズ全周におけるベベル幅をできるだけ均一にするというコンセプトで試作されたのが,ベベルトーリックハードコンタクトレンズ(以下,ベベルトーリックHCL)である.(19)???*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院特集●新しいコンタクトレンズの展望あたらしい眼科23(7):861~865,2006ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介?????????????????????-???????????????????????小玉裕司*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006クHCLである(図4).強度乱視では直乱視の場合,水平方向のベベル幅が狭く,垂直方向のエッジの浮き上がりは過度になる.そこで,ツインベル?Ⅱのデザインをベースとして,垂直方向と水平方向のベベル形状に差をトーリック状にもたせた(図5).たとえば,ベースカーブ(以下,BC)が8.00mmでトーリック差を0.4にした場合,水平方向はBC8.00mmのツインベル?Ⅱのベベル形状となり(図5における薄い色の部分),垂直方向のベベル形状は8.00mmより0.4mm小さいBC7.60mmのときのベベル形状となる(図5における濃い色の部分).(20)図1周辺部型(タイプⅠ)図3混合型(タイプⅢ)図4ベベルトーリックHCLのシェーマ図5ベベルトーリックHCLのベベルデザインBC:ベースカーブ.IC:中間カーブ.PC:周辺カーブ.PCPCIC3IC3IC1IC1BCIC2IC2図2中央部型(タイプⅡ)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???IIIベベルトーリックHCLの処方1.球面HCLによる軽度角膜乱視矯正3Dまでの軽度角膜乱視に対しては通常サイズの球面HCLで十分に対応できる(図6).ベベル幅は全周にわたって均一であり,静止位置やレンズの動きも良好で,安定した矯正視力と快適な装用感を与えることが可能である.2.ラージサイズ球面HCLによる強度角膜乱視矯正角膜乱視が強度になり,通常サイズの球面HCLでは視力の安定や快適な装用感が得られない場合は,レンズサイズを大きくすることによって対応することができる場合がある(図7).3.ベベルトーリックHCLによる強度角膜乱視矯正症例(図8)はタイプⅠの周辺部型で,自覚的屈折値はVS=0.3p(1.2p×sph-4.0Dcyl-2.5DAx180?),角膜曲率半径は8.40mm(40.17D)3?,7.42mm(45.48D)93?である.この症例にラージサイズ球面HCLを処方してみると,異物感が強くHCLの装用は不可能であった(図9).フルオレセインパターンで水平方向のベベル幅が極端に狭いことがわかる.つぎに,この症例にバックトーリックHCL(7.45/8.45/±0/9.0)を処方してみると,水平方向のベベル幅はかなり広くなり異物感も減少したが,それでもレンズの装用には不安があるとのことであった(図10).そこで,この症例にベベルトーリックHCLを処方してみた.まだ耳側のベベル幅は少し狭いものの,全周のベベル幅はほぼ均一となり,異物感は激減しレンズの装用が可能となった(図11).フルオレ(21)図8タイプⅠの強度角膜乱視眼図7ラージサイズ球面HCLによる強度角膜乱視矯正全周のベベル幅が均一に出ている.図6通常サイズ球面HCLによる軽度角膜乱視矯正全周のベベル幅が均一に出ている.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006セインパターンはツインベル?Ⅱと同じ様相を呈す.ベベルトーリックHCLを処方しても残余乱視が出た症例に対して,フロントトーリックを施したレンズを製作して処方し,良好な矯正視力が得られた.本症例の自覚的屈折値はVS=0.08(0.6×sph+2.5Dcyl-6.0DAx180?),角膜曲率半径は8.42mm(40.10D)170?,7.23mm(46.65D)であった.ベベルトーリックHCLによる視力はVS=(0.6×8.30/+2.25/9.0:ベベルトーリック)であったが,このレンズにフロントトーリックで-1.0DAx180?を加えることによってVS=(1.0×8.30/+2.5D/9.0:ベベルトーリックcyl-1.0DAx180?)の視力を得た.ベベルトーリックHCLは瞬目によるレンズの回転が生じることがなく,このようなフロントトーリックデザインを付加することが可能である.IV角膜乱視のタイプとベベルトーリックHCLの適合性1.75D以上の角膜乱視をもつ15名27眼にベベルトーリックHCLを処方する機会を得たが,中止・変更例は1例1眼が異物感と視力不良で元のバックトーリックHCLへ変更し,1例2眼が視力不安定で装用を中止した.残る13例24眼については全例1.0以上の視力が得られた.元のバックトーリックHCLへ変更した1例はタイプⅢであった.この症例についても,トーリック差を少し減らすことなどのデザイン変更をすることで装用(22)が可能であったかもしれないが,ベベルトーリックHCLの処方初期にはまだそのようなノウハウがなく,結果的に他レンズへの変更となった.装用中止の1例2眼はペルーシド角膜変性と思われる強い倒乱視の症例で,このような症例に対しては,ベベルトーリックHCLの処方はむずかしいものと思われる.経過観察中,レンズの静止位置が下方にずれ,MZ(溝付き)加工を施したものがタイプⅠに5眼,タイプⅢに1眼認められた.逆に,上方にずれ,フロントカットを施したものがタイプⅡに2眼認められた.角膜周辺部における軽度の変形(図12)が,タイプⅠとタイプⅡでそれぞれ1眼ずつ認められたが,ブレンド追加とトーリッ図12ベベルトーリックHCLの装用による角膜形状変形図9図8の症例にラージサイズ球面HCLを処方水平方向のベベル幅が極端に狭くなっている.図10図8の症例にバックトーリックHCLを処方水平方向のベベル幅の狭さはかなり改善されたが,まだ異物感は残存した.図11図8の症例にベベルトーリックHCLを処方全周のベベル幅がほぼ均一になり異物感は激減した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???(23)ク差を減らすことで解消できた.角膜乱視が周辺部まで及んでいるタイプⅠと片方が周辺部まで及んでいるタイプⅢは,ベベルトーリックHCLのデザインコンセプトから考慮して,このレンズの最も良い適応といえる.特に,タイプⅠはベベルトーリックHCLのみが対応できるものと思われる.タイプⅡはラージサイズ球面HCLにてこれまで対応してきたわけであるが,やや小さなサイズのベベルトーリックHCLにすると上手く処方することができる.おわりに強度角膜乱視の矯正にはHCLが不可欠であるが,角膜乱視のタイプによって処方するHCLの種類を選択する必要がある.角膜乱視が角膜中央部に限局しているタイプⅡはラージサイズ球面HCLによっても対応できるが,乱視が限局している領域に応じたやや小さいサイズのベベルトーリックHCLによっても対応できる.角膜乱視が中央部に限局した部位と周辺部まで及んだ部位とが混在するタイプⅢでは,バックトーリックHCLにても対応できるが,ベベルトーリックHCLのほうがレンズ全周のベベル幅を均一にして装用感とレンズの動きをよくするといった意味では有利であるように思われる.角膜乱視が周辺部まで及んだタイプⅠはベベルトーリックHCLの最もよい適応だと考える.いずれにしても,ベベルトーリックHCLの登場は,強度角膜乱視矯正に苦慮する眼科医にとって,大いなる救いになるものと期待できる.文献1)小玉裕司:ハードコンタクトレンズ.日コレ誌47:256-260,20052)植田喜一,山本達也,小玉裕司ほか:新しい多段カーブハードコンタクトレンズの試作.日コレ誌46:31-34,2004