‘アンケート調査’ タグのついている投稿

眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説明

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):613〜618,2016©眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説明吉崎美香*1安田万佐子*1大須賀敦子*1井出明美*1荒井桂子*1大音清香*2井上賢治*2堀貞夫*1*1医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院*2医療法人社団済安堂井上眼科病院Nurses’ExplanationtoDiabeticPatientsIsEffectiveinEducationRegardingSeverityStageofDiabeticRetinopathyMikaYoshizaki1),MasakoYasuda1),AtsukoOosuga1),AkemiIde,KeikoArai1),KiyokaOohne2),KenjiInoue2)andSadaoHori1)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)を活用し,看護師が糖尿病網膜症(以下,網膜症)病期の説明を行うことにより,患者の網膜症に対する知識を高め,定期受診を促す効果を調べること.対象および方法:平成26年6~10月に当院を受診し同意の得られた糖尿病患者で,医師が記載した眼手帳をもとに看護師が網膜症について説明した946名と,再診時(説明後1~4カ月後)に看護師により再度アンケートを実施した199名に対して聞き取り調査を行い,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と比較した.対象者は外来を受診した糖尿病患者を無作為に抽出し,医師が記載した糖尿病眼手帳を基に同意の得られた患者とした.井上眼科病院倫理委員会の承認を得て実施した.結果:眼手帳説明時の調査で,当院の患者は,罹病期間は6年以上が77.3%を占め,5年未満の患者は22.2%で長期間罹病患者が多かった.手帳に関して内科用手帳(連携手帳)に比べ眼手帳を知っていると回答した患者は19%と少なかった.自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は20.8%で,医師の所見と一致したのは18%であった.説明後再診時の調査が行えた199名のうち,自分の網膜症病期を覚えていた患者は53.7%,医師の所見と一致した患者は38.2%であった.このうち,眼手帳説明時に自分の病期を知っていたのは31名,再診時に病期を覚えていたのは80.6%,医師の所見と一致したのは71.0%,説明時に自分の病期を知らなかった168名のうち,再診時に覚えていたのは48.8%であった.医師の所見と一致したのは33.3%であった.また,自分の患者が網膜症病期を理解していると推測している医師は少なかった.結論:看護師による眼手帳を用いた網膜症病期の説明は,患者に自分の病期に対する関心をもたせる効果があることが示唆された.しかし,一度の説明では理解がむずかしいこともわかった.今後は再診時の調査を行い,再度の説明が必要になると思われた.Purpose:Toevaluatetheeffectofthediabeticeyenotebook(DEN)indeepeningdiabeticpatients’knowledgeofdiabeticretinopathy(DR)andencouragingthemtoreceiveperiodicophthalmicexaminations.SubjectsandMethods:Aninitialquestionnairesurveybynurseswasconductedon946consecutivediabeticpatientswhovisitedourhospitalbetweenJuneandSeptember2014.SeveritystageofDRandophthalmologicalinformation,includingvisualacuityandintraocularpressure,wereconcurrentlydescribedintheDENbyophthalmologists,andnursesexplainedtheseverityofDRineachpatient.After1-4months,asecondsurveywasperformedon199patientswhohadundergonetheinitialsurvey.Theywereaskedtheirseveritystageandwerecomparedtothosediagnosedbyophthalmologists.Results:DRdurationexceeded6yearsin77.3%ofpatients;20.8%ofpatientsansweredthattheyknewtheirownstage,and18.0%agreedwiththestagediagnosedbyophthalmologistsatthetimeofinitialsurvey.Aftertheexplanationbynurses,53.7%ofpatientsansweredthattheyrememberedtheseveritystageatthetimeofsecondsurvey,andtheansweragreedwiththatdiagnosedbyophthalmologistsin38.2%.TheexplanationbynurseswaseffectiveforthepatientsinunderstandingtheirDRstage,thoughitwasnotsatisfactoryenoughforidealpatienteducation.Conclusion:TheexplanationofDRandseveritystagewaseffectiveinenhancingpatients’interestintheirownDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):613〜618,2016〕Keywords:糖尿病網膜症,糖尿病眼手帳,アンケート調査,病期説明,患者教育.diabeticretinopathy,diabeticeyenotebook(DEN),questionnairesurvey,explanation,patienteducation.はじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)の発症・進展予防には,内科・眼科の連携,患者自身の病識と定期的な受診が必要である.地域密着型眼科単科の中核病院である西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,糖尿病の患者が多く,緊急を要する場合,内科でのコントロール状況が把握できない状況で手術を行う場合がある.このような状況のなか,眼底検査をして初めて糖尿病と判明する患者や,術前検査で糖尿病が見つかる患者もおり,治療に当たり予期しない全身合併症を発症する場合がある.そこでコメディカルがチーム医療に貢献する準備として,前回,筆者らは当院を受診する糖尿病患者の実態調査を行った1).その結果,①眼合併症の詳しい知識をもつ患者は少なく,自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は15%と少なかった.②糖尿病手帳を持っていて内科受診時に利用していた人は42%,眼科受診時に利用していた人は17%と少なかった.③手帳を利用していて自分の網膜症病期を正確に知っていたのは,知っていると回答した患者の30%(全体の約5%)ということがわかった.この結果を踏まえて,今回,医師が記載した糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)をもとに,看護師が患者に網膜症病期の説明を行い,その後の再受診時に説明した内容を覚えているか,アンケート調査をしたので報告する.I対象および方法対象:平成26年6~10月に当院を受診し,医師が記載した眼手帳をもとに看護師が網膜症について説明した946名(男性:542名,女性:404名)で,年齢は65.9歳±11.4歳(平均年齢±標準偏差)であった.このうち199名に対し,再受診時(説明後1~4カ月)に看護師により再度アンケート調査をした.また,当院の医師10名に対し,眼手帳配布状況について調査した.調査項目:医師が記載した眼手帳をもとに看護師が説明を行ったときのアンケート(10項目)(表1)と再診時に行ったアンケート(5項目)(表2)の回答を患者から聞き取り,回答欄に看護師が記入した.また,当院の医師10名に対して6項目のアンケート(表3)を行った.さらに,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と患者のアンケート調査の結果を比較したII結果1.眼手帳説明時のアンケート調査(表4)罹病期間は6年以上が77.3%,5年未満は22.2%で,長期間罹病患者が多かった.自分が糖尿病であることを認識していないと思われる患者も含まれていた.糖尿病罹患後眼科受診までの期間は1年以内がもっとも多かったが,10年以上を過ぎて初受診する患者も15%にみられた.眼科を受診して糖尿病を診断された患者が6.9%含まれていた.糖尿病と診断されてから眼科を受診し,今でも継続して受診している患者は90.4%であった.内科の糖尿病治療を中断したことのある患者は12.7%で,大部分は継続して治療を受けていた.眼手帳を知っていたのは19.0%,糖尿病連携手帳(以下,連携手帳:内科用)を知っていたのは46.1%,連携手帳を持っていたのは44.3%,このうち診察時に医師に見せていたのは75.2%(全体の33.3%)であった.また,自分の網膜症病期を知っていたのは20.8%,医師から自分の病期の説明を聞いたことがあるのは23.3%であった.2.説明後再診時の調査(表5)帰宅後眼手帳を見た患者は77.3%,自分の網膜症病期を理解できたのは69.8%,自分の病期を覚えていたのは53.7%,今後定期的に眼科受診をすると答えたのは99.0%であった.説明を受けた後の感想では,自分の病期に対する理解と今後の通院に対する積極性がみられた.3.当院の医師に対する質問(表6)眼手帳・連携手帳を活用しているのは9名(90.0%)で,全員に渡しているのは1名だけであった.網膜症が出たときに渡す場合が多く,眼手帳を必ず記入しているのは7人だった.自分の患者が網膜症病期を理解していると推測している医師は少なかった.自分の患者が網膜症病期を理解していないと思う理由として,①人によるが,糖尿病患者は糖尿病の病態をしっかりと理解できていない方が多い.②定期的に受診に来る患者が少ない.③自ら再来時期を指定してきてしかも○年後という患者もいる.という意見があった.4.網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断との比較(表7)眼手帳説明時の調査で,自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は946人中197人(20.8%)で,医師の眼底所見と一致したのは173人(18%)であった.説明後再診時の調査が行えた199人では,自分の網膜症病期を覚えていると回答した患者は199人中107人(53.7%)で,医師の所見と一致したのは78人(38.2%)であった.手帳説明時に自分の病期を知っていると回答したのは再調査の行えた199人中31人,そのなかで再診時に病期を覚えていると回答したのは25人(80.6%),さらに医師の所見と一致したのは22人(71.0%)であった.説明時に自分の病期を知らなかった168人のうち,再診時に覚えていたのは82人(48.8%),さらに医師の所見と一致したのは56人(33.3%)であった.III考按眼手帳と連携手帳の併用により,患者にも参加してもらう内科・眼科連携が可能であり,それが網膜症の管理につながる.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用して経過観察すべきである7).といわれている.1.眼手帳説明時のアンケート調査今回の調査で,糖尿病罹病期間は6年以上が77.3%を占め,5年未満の患者は22.2%で長期間罹病患者が多かったが,内科用の手帳を知っていた患者437名(46.2%)に対して,眼手帳を知っていた患者は179名(18.9%)と少なかった.また,手帳を持っていた患者も半数以下と少なかった.網膜症病期の説明を聞いたことがある患者は,23.3%と少なかった.このことからも患者が眼手帳や連携手帳を利用する率は少なく病期を正しく理解できていなかったのではないかと推測される.2.説明後再診時の調査手帳説明後,99%の患者が,今後定期的に眼科を通院しようと思うと回答したことから,定期的な眼科受診の必要性は理解されたと思われ,放置中断を防止するきっかけになるのではないかと思われる.3.当院の医師に対する質問当院の医師に対する調査で,患者の眼手帳を渡しているかの調査で,8割の医師がA1以上になったときに渡すと回答し,また,自分の患者は網膜症病期を理解していないと思っている医師が7割で,医師に対する調査で理解していないと思う理由として,①人によるが,糖尿病患者は糖尿病の病態をしっかりと理解できていない方が多い.②定期的に受診に来る患者が少ない.③自ら再来時期を指定してきて,しかも○年後という患者もいる.という意見であった.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用してフォローすべきであるという既報の結論からすると,当院では実施できていなかったことから,正しい知識をもっていた患者が少なかったのではないかと推測される.4.網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断との比較眼手帳を活用した網膜症病期の説明後,医師の所見と患者の回答した網膜症病期が一致したのは39.1%,最初自分の網膜症病期を知らないと回答した患者の48.8%が自分の病期を覚えていると回答し,医師の所見と一致した患者は56名,網膜症病期を知らないと回答した患者の33.3%が医師の所見と一致した結果であった.手帳を用いて説明を行ったことにより,自分の病期を知らないと回答した患者の33.3%が医師の所見と一致した病期を覚えていたことから,手帳を用いた説明は患者に関心をもたせるきっかけになったと思われる.今回手帳を配布するに当たり,眼手帳にカバーを付けて配布した.内科用の連携手帳を持っている患者には,眼手帳と内科用の手帳をカバーに挟んで合体させ,これを内科・眼科両方の医師に見せるように指導を行った.このようにして配布したことにより,連携手帳を持っていなかった患者のなかには,眼手帳を内科医に見せたことにより,内科医で連携手帳をもらった患者もいた.眼手帳に内科医がHbA1C値を記入してくれていた患者もみられた.このことからも眼手帳が内科・眼科の連携につながるきっかけになっていると思われた.以上の結果より,眼手帳と連携手帳の併用により,患者にも参加してもらう内科・眼科連携が可能であり,それが網膜症の管理につながると考えられる.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用してフォローすべきであるという既報の結論と一致する7).網膜症を診察していくうえで,内科医とは常に連絡が必要であり,連携手帳・眼手帳を持つ患者については眼科の診察結果を記録する.なかでもとくに密接な連携を必要とするのは,2型糖尿病の初診時,入院して血糖のコントロールをつけるとき,腎症悪化時,眼科手術時である.2型糖尿病の初診時は眼底検査が必要である.罹病期間が特定できないことも多く,内科初診時すでに増殖網膜症となっている場合も珍しくない.当院の調査でも,視機能低下の自覚があり眼科を受診して糖尿病と診断された患者が6.9%いた1).また,すでに重症単純網膜症や増殖前網膜症をきたしている場合は,血糖の急速な正常化により,網膜症の重篤な進行をきたすことがあるといわれている8).眼科医が眼手帳に記入し,内科医に見せてもらうことで,内科医での血糖コントロール時の指標になると思われ,正確に眼所見が内科医に伝わり連携をとれると考える.IV結論看護師による糖尿病眼手帳を用いた網膜症病期の説明は,患者教育に効果があることが示唆された.また,定期的な眼科受診の必要性も理解できた.しかし,一度の説明ではなかなか理解されないこともわかった.今回の調査は,まだ途中経過なので,今後病期説明後再診時の調査を長期にわたり繰り返し行い,再度の説明により患者教育の達成をめざしたい.本稿の要旨は第20回日本糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)吉崎美香,安田万佐子,大須賀敦子ほか:眼科単科病院を受診する糖尿病患者実態調査.あたらしい眼科32:269-273,20152)若江美千子,福島夕子,大塚博美ほか:眼科外来に通院する糖尿病患者の認識調査.眼紀51:302-307,20003)菅原岳史,金子能人:岩手糖尿病合併症研究会のトライアル2.眼紀55:197-201,20044)小林厚子,岡部順子,鈴木久美子:内科糖尿病外来患者の眼科受診実態調査.日本糖尿病眼学会誌8:83-85,20035)船津英陽,宮川高一,福田敏雄ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)中泉知子,善本三和子,加藤聡:患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について─患者アンケート調査から─.あたらしい眼科28:113-117,20117)大野敦:糖尿病眼手帳を活用した糖尿病網膜症の管理.日本糖尿病眼学会誌19:32-36,20148)有馬美香,松原央:糖尿病網膜症の管理における病診連携.眼紀51:283-286,2000〔別刷請求先〕吉崎美香:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3丁目12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:MikaYoshizaki,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(131)613表1糖尿病眼手帳説明時アンケート調査調査日年月日NO.()ID氏名年齢()男・女担当医()1.糖尿病罹病期間2.糖尿病罹患後眼科受診したか3.罹病後眼科受診までの期間4.内科治療を1年以上放置したことがあるか5.糖尿病眼手帳を知っていたか6.糖尿病手帳(内科用)を知っていたか7.糖尿病手帳は持っていたか8.「7」で手帳を持っていると回答した方は,診察時に見せていたか9.自分の網膜症病期を知っていたか10.医師から自分の網膜症の病期の説明を聞いたか表2糖尿病眼手帳を説明し,次回受診後のアンケート調査調査日年月日手帳説明時からアンケート調査までの期間(週・カ月)医師の次回診察の指示は(週・カ月)指示通りに来院しているか1.帰宅後眼手帳を見たか2.自分の網膜症病期が理解できたか3.自分の網膜症病期を覚えていたか4.説明を受けて(手帳をもらって)どのように感じたか(複数回答)5.今後定期的に眼科を受診するか表3医師に対するアンケート調査1.糖尿病手帳・糖尿病眼手帳を活用しているか2.眼手帳を渡しているか3.2.で渡すと回答された方は,どのような患者に渡すか4.どのような時に渡していますか?5.眼手帳を記入するか6.自分の患者が網膜症病期を理解しているか614あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(132)表4眼手帳説明時の調査罹病期間人(%)21年以上26127.611~20年26227.76~10年208222~5年15616.51年以内545.7わからない40.4糖尿病ではない10.1はい(人)(%)いいえ(人)(%)2糖尿病罹患後に眼科受診・治療したか現在も通院中85590.4過去に自己中断歴があるか21525.164074.94内科放置したことがあるか1258215糖尿病眼手帳を知っていたか17919767816糖尿病手帳(内科)を知っていたか43746.150953.87糖尿病手帳を持っていたか41944.352755.78診察時に見せていたか31575.210424.89自分の網膜症病期を知っていたか19720.874979.110医師から自分の病期の説明をきいたか22023.372676.7罹病後眼科受診までの期間人(%)1年以内34538.22~5年17919.86~10年位12013.311~20年位13515覚えていない60.6眼科受診してわかった626.9糖尿病かどうかまだわからない161.8糖尿病ではない242.7(133)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016615表5説明後再診時の調査はい(人)(%)いいえ(人)(%)1帰宅後眼手帳を見たか15477.34522.62自分の網膜症病期が理解できたか13769.86231.13自分の網膜症病期を覚えているか10753.79246.24今後定期的に眼科受診するか1979920.1手帳の説明を受けてどのように感じたか(複数回答)人眼の状況が把握でき良かった111詳しいことがわかり不安になった28血糖のコントロールを頑張ろう86内科・眼科をきちんと通院しよう113表6当院の医師に対する質問はい(人)(%)いいえ(人)(%)1糖尿病眼手帳・連携手帳を活用しているか10100002糖尿病眼手帳を渡しているか9901103眼手帳を記入するか101004自分の患者が網膜症病期を理解しているか330770どのような時に眼手帳を渡すか人%初診時110網膜症発症時660患者にいわれた時330どのような時に手帳記入するか(複数回答あり)人%毎回記入763.6患者から提示された時327.2内科医に伝えたいとき10.9表7網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断比較再診時に病期を覚えていた人医師の診断と一致した人人(%)人(%)説明時に自分の病期を知っている31人2580.62271説明時に自分の病期を知らない168人8248.85633.3計199人10753.87839.2616あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016617618あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(136)

健常人を対象とした1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関する二重盲検比較試験

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1191.1195,2015c健常人を対象とした1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関する二重盲検比較試験木村聡木村亘木村眼科内科病院EfficacyandImpressionofBrinzolamide1%/Timolol0.5%FixedCombinationVersusDorzolamide1%/Timolol0.5%inHealthyVolunteers:ARandomized,Double-BlindComparativeStudySatoshiKimuraandWataruKimuraKimuraEye&Int.Med.Hospital目的:ブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)の眼圧下降効果および点眼使用感をドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)と比較検討する.対象および方法:健常人45例45眼を対象とした前向き無作為化二重盲検クロスオーバー比較試験.対象を2群に分け,眼圧測定後にアゾルガR点眼液またはコソプトR点眼液を片眼に二重盲検にて点眼し1時間後に眼圧測定,24時間以上間隔を空けて逆の点眼液を点眼した.試験終了後に使用感に関してのアンケート調査を行った.結果:眼圧下降量に関しては両群間に有意差は認められなかった.使用感に関してはアゾルガR点眼のほうが有意にかすみ感と苦味が強く,コソプトR点眼のほうが有意に刺激感が強かった.結論:アゾルガR点眼液とコソプトR点眼液の眼圧下降効果に差は認められなかった.アゾルガR点眼液は「かすみ感」「苦味」が強かった.コソプトR点眼液は「刺激感」が強かった.Background:Thepurposeofthisstudywastocomparetheintraocularpressure(IOP)loweringefficacyandoculardiscomfortof2fixedcombinationeyedrops,brinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsolution(Brinz/Tim)anddorzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsolution(Dorz/Tim).Subjectsandmethods:Thisstudyinvolvedhealthyvolunteersubjectswhowererandomlydividedinto2groups.EachgroupinstilledBrinz/TimorDorz/Timinadouble-blindmanneraftertheirIOPwasmeasured,and1-hourlatertheirIOPwasmeasuredagain.Onanotherday,wemeasuredeachsubject’sIOPusingthefirst-dayprotocol,yetwiththesolutioninstillationineachgroupbeingreversed.Finally,eachsubjectwasaskedtocompleteaquestionnairesurveytoconfirmwhetherornottheyhadexperiencedanyspecificsideeffects,andanumericalcomparisonbetweenthetwotypesofinstillationswasthenmade.Results/Conclusion:NosignificantdifferenceintheamountofIOP-loweringeffectwasfoundbetweenBrinz/TimandDorz/Tim.Asforthesideeffects,Brin/Timwasfoundtocausemore“blurredvision”and“bittertaste”,whileDorz/Timwasfoundtocauseincreased“eyeirritation”.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1191.1195,2015〕Keywords:緑内障,ブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液,点眼使用感,アンケート調査.glaucoma,brinzolamide/timololophthalmicsolution,dorzolamide/timololophthalmicsolution,oculardiscomfort,questionarysurvey.〔別刷請求先〕木村聡:〒737-0046広島県呉市中通2丁目3-28木村眼科内科病院Reprintrequests:SatoshiKimura,KimuraEye&Int.Med.Hospital,2-3-38Nakadori,Kure-shi,Hiroshima737-0046,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1191 はじめに緑内障はガイドラインによると「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている1).近年緑内障に対する治療法として神経保護・眼血流改善・遺伝子治療など新たなアプローチが着目されているが,現在確実な治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法として薬物治療が広く行われており,近年いくつかの緑内障配合点眼薬が開発された.配合薬点眼の利点として,①金銭的負担の軽減化・点眼液の容器の取り違え機会の減少といった患者負担の軽減化,②保存材として汎用されているベンザルコニウム塩化物の曝露量を減らすことによる眼表面障害リスクの軽減化,③点眼薬併用に伴う洗い流し效果の回避,④1日の点眼回数減少に伴う点眼コンプライアンスの向上,などがあげられ,配合点眼液は臨床的有用性が高いと考えられる.今回筆者らは健常人に対してb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合点眼薬である1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)の眼圧下降量および点眼表1選択基準および除外基準1)選択基準①20歳以上の男性および女性②細隙灯顕微鏡検査にて前眼部疾患を認めない③眼底検査にて視神経乳頭陥凹拡大を認めない④過去1カ月以上市販薬も含めて点眼薬を使用していない⑤眼圧測定時に眼圧が21mmHg以下2)除外基準①眼科現病歴および手術歴がある②気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患・心疾患などの全身疾患を有する③試験責任医師が本試験の対象として不適当と判断した者④眼圧測定時に眼圧が22mmHg以上使用感に関して無作為化二重盲検平行群間比較試験を実施したのでその結果を報告する.I対象および方法1.対象対象は表1に示された選択基準を満たす健康ボランティア45名〔男性11名,女性34名,平均年齢36.1±11.2歳(平均偏差±標準偏差)〕である.なお,本研究は当院臨床倫理員会で承認された同意説明文を対象者に渡し,文章および口頭による十分な説明を行い,書面による同意を得て行われた.2.試験方法試験デザインの概略を図1に示す.本試験は無作為割付による実薬を対象とした二重盲検平行群間試験で,試験期間は2日間を設定.1日目に両眼の眼圧測定後,二重盲検下でアゾルガR点眼液もしくはコソプトR点眼液を同一の検査員が片眼に点眼(点眼時に涙.の圧迫は行わず),1時間後に眼圧を測定し終了.24時間以上間隔を空けた後に同様に眼圧を測定し1日目に使用していない点眼液を1日目と同じ眼に対して点眼.1時間後に眼圧測定および点眼使用感に関するアンケート調査を行った.対象眼は点眼開始前の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.眼圧測定に関してはノンコンタクトトノメーター(NT530,NIDEK社,日本)を使用し両眼の眼圧を3回測定,平均値を眼圧値と設定した.3.評価方法点眼による眼圧下降の評価として,各点眼1時間後の眼圧変化量および1日目,2日目各点眼前のベースライン眼圧の比較を行った.点眼使用感に関する評価として,2日目眼圧測定終了後に刺激感・かすみ感・充血・苦味・良い印象の5項目を1日目の点眼と2日目の点眼を比較して図2に示す選択式アンケー片眼にコソプトR点眼液(orアゾルガR点眼液)点眼1時間後眼圧測定眼圧測定1日目と同一眼にアゾルガR点眼液(orコソプトR点眼液)点眼1時間後眼圧測定アンケート回答2日目眼圧測定1日目図1試験デザイン1192あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(126) 点眼の使用感に関してのアンケート調査①刺激感(最初のほうがかなり強い最初のほうが少し強い同程度後のほうが少し強い後のほうがかなり強い)②かすみ感(最初のほうがかなり霞む最初のほうが少し霞む同程度後のほうが少し霞む後のほうがかなり霞む)③充血(最初のほうがかなり赤い最初のほうが少し赤い同程度後のほうが少し赤い後のほうがかなり赤い)④苦味(最初のほうがかなり苦い最初のほうが少し苦い同程度後のほうが少し苦い後のほうがかなり苦い)⑤印象(最初のほうがかなり良い最初のほうが少し良い同程度後のほうが少し良い後のほうがかなり良い)図2点眼使用感調査(検査終了時に実施)トで回答してもらった.4.統計解析アゾルガR点眼液群とコソプトR点眼液群での眼圧下降量比較を対応のあるt検定で検討した.点眼使用感に関しては「同程度」の場合加算なし,1日目の点眼液が2日目の点眼液に比べて「少し強い」場合は1日目使用点眼液に対して1ポイントの加算,「少し弱い」場合は2日目の点眼液に対して1ポイントの加算を,同様に大変強い(弱い)場合は2ポイントの増減と設定して項目ごとに集計しMann-WhitneyU検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.II結果1.眼圧下降効果アゾルガR点眼群,コソプトR点眼群それぞれのベースラインからの眼圧変化量を図3に示す.アゾルガR点眼液による眼圧変化量(平均±標準偏差)は1.84±1.30mmHgであり,コソプトR点眼液による眼圧変化量は1.82±1.81mmHgで有意差を認めなかった(p=0.94pairedt-test).また,1日目の点眼前眼圧ベースラインはアゾルガR点眼群(n=22)が13.2±2.4mmHg,コソプトR点眼群(n=23)が14.2±2.8mmHgであり,2日目点眼開始前のベースライン眼圧はアゾルガR点眼群(n=23)が11.7±13.1mmHg,コソプトR点眼群(n=22)が12.8±2.6mmHgで1日目,2日目ともに眼圧ベースラインに有意差を認めなかった(p=0.30,0.12Mann-WhitneyU検定).2.アンケート調査(刺激感・かすみ感・充血・苦味・総合的な印象)各項目の人数分布を図4に示す.アゾルガR点眼液のほうが刺激感を感じたのは45人中11人(「少し」9人,「大変」2人),コソプトR点眼液のほうが刺激感を感じたのは45人2.001.95NS(p=0.94pairedt-test)1.901.841.851.821.801.751.70アゾルガRコソプトR図3ベースラインからの点眼毎の眼圧下降量(n=45前向き二重盲検比較試験)25454912581642427281416484614150%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%刺激かすみ感充血苦味印象■アゾルガが大変強い(良い)■アゾルガが少し強い(良い)差がない■コソプトが少し強い(良い)■コソプトが大変強い(良い)図4項目毎人数分布(n=45)中30人(「少し」16人,「大変」14人)であった.アゾルガR点眼のほうがかすみ感を感じたのが45人中17人(少し12人,大変5人),コソプトR点眼のほうがかすみ感を感じたのは4人(すべて「少し」で「大変」は0人)であった.アゾルガR点眼のほうが充血を感じたのが45人中9人(少し5人,大変4人),コソプトR点眼のほうが充血を感じた(127)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151193 1.2p<0.01■アゾルガ1.0刺激かすみ充血苦味印象■アゾルガ0.290.490.220.400.53■コソプト0.980.090.290.090.360.00.20.40.60.8■コソプトp<0.001NSNSp<0.05図5項目毎平均スコア(n=45)のは9人(「少し」8人,「大変」1人)であった.アゾルガR点眼のほうが苦味を感じたのが45人中13人(少し8人,大変5人),コソプトR点眼のほうが苦味を感じたのは4人(すべて「少し」で「大変」は0人)であった.アゾルガR点眼のほうに良い印象を感じたのが45人中20人(少し16人,大変4人),コソプトR点眼のほうに良い印象を感じたのは11人(「少し」6人,「大変」5人)であった.「少し」を1点,「大変」を2点と設定した場合の各項目スコア分布を図5に示す.刺激感のスコア(平均±標準偏差)はアゾルガR点眼液が0.29±0.55点,コソプトR点眼が0.98±0.81点で,コソプトR点眼液はアゾルガR点眼液よりも有意に高かった(p<0.01).かすみ感のスコアはアゾルガR点眼液が0.49±0.69点,コソプトR点眼液が0.09±0.29点で,アゾルガR点眼液がコソプトR点眼液よりも有意に高かった(p<0.001).充血のスコアはアゾルガR点眼液が0.22±0.47点,コソプトR点眼液が0.29±0.62点で,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.87).苦味のスコアはアゾルガR点眼液が0.4±0.69点,コソプトR点眼液が0.09±0.29点で,アゾルガR点眼液がコソプトR点眼液よりも有意に高かった(p=0.01).良い印象のスコアはアゾルガR点眼液が0.53±0.66点,コソプトR点眼液は0.36±0.68点で,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.09).III考察今回,日本人の健常者を対象としてブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)とドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)の眼圧下降効果と点眼使用感を比較した.現在発売されているb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合薬点眼はアゾルガR点眼液とコソプトR点眼液の2種類である.ただしコソプトR点眼液に関しては,日本で使用されている点眼液と海外で使用されている点眼液では含有されて1194あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015いるドルゾラミド点眼液の濃度が異なっており,日本では1%なのに対して海外では2%となっている.この2%ドルゾラミドを含んだコソプトR点眼液とアゾルガR点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関しては海外での報告がある.眼圧下降効果に関しては海外の文献でもアゾルガR点眼液とコソプトR点眼液との間に有意差は認められていない1.3).本研究でも有意差は認められなかった.点眼使用感に関して眼の不快感の平均スコア比較をVoldは平行群間試験で,Mundortは交叉試験でそれぞれ行いともに有意差を認めた4,5).GrahamはコソプトR点眼液からアゾルガR点眼液への切り替えを行い点眼ごとに刺激感・かすみ感・充血・苦味の各項目を検討した結果,刺激感はコソプトR点眼液のほうが有意に強く,かすみ感に関してはアゾルガR点眼液のほうが有意に強かったと報告している6).これらの報告のスコアの基準や含有ドルゾラミドの濃度が異なるため本研究と海外の報告を単純に比較することはできないが,「コソプトR点眼液のほうが刺激感が強い」「アゾルガR点眼液のほうがかすみ感が強い」傾向はあると思われる.点眼による刺激感に関して,本研究ではコソプトR点眼液のほうが有意に高いスコアを示した.添付文書によるとコソプトR点眼液のpHは5.5.5.8であるのに対してアゾルガR点眼液のpHは6.7.7.7となっている.以上より,点眼による刺激感には点眼液のpHの差が関係していると考えられる.本研究の結果もpHが中性に近いアゾルガR点眼液のほうがより刺激が少なく感じられた結果と考えられる.点眼後の霧視・かすみ感に関してはアゾルガR点眼液のほうが有意に高いスコアを示した.アゾルガR点眼液中に含有されている1%ブリンゾラミドは白色の懸濁液であり,コソプトR点眼液中に含有されている1%ドルゾラミドは無色の水溶液である.このため点眼液の性状の差により霧視・かすみ感を感じたと考えられる.ドルゾラミドも無色水溶液であるが粘稠であるため霧視感が出現し,コソプトR点眼液の副作用として霧視・かすみ感の報告されることや,ブリンゾラミド点眼液とドルゾラミド点眼液のそれぞれでの霧視感の有無を検討した結果,統計学的に有意差がない報告も出ている.しかし,本研究でアゾルガR点眼が有意に高いスコアが示したのは,アゾルガR点眼液とコソプトR点眼液のかすみ感を直接比較したためと考えられる.点眼時の苦味に関してはアゾルガR点眼のほうが有意に高いスコアを示した.添付文章によると,国内第II相試験においてブリンゾラミドの眼局所以外の副作用として味覚異常(苦味・味覚倒錯など)が7.9%に認められている.ドルゾラミドでも副作用として苦味の報告はあるが,その頻度は0.1%未満となっている.そのためブリンゾラミドを含有しているアゾルガR点眼液がドルゾラミドを含有しているコソプトR点眼液よりも苦味を感じる可能性は高いと考えられる.(128) 本研究では対象中に正常眼圧緑内障が入っている可能性はあるが,正常人と無加療の正常眼圧緑内障眼とでは点眼使用感に差はほとんどないと思われる.次に眼圧下降効果に関しては通常眼圧下降の評価は点眼2時間後から行っているが,本研究では点眼1時間後の測定値を使用している.そのために眼圧下降効果に関しては誤差が生じている可能性も考えられる.次に点眼使用感としての苦味に関しては点眼液が鼻涙管を通じて口腔内に入るためと考えられる.本研究では涙.圧迫は行わなかったが,行った場合は有意差はつかない可能性も考えられる.最後に臨床的にはコソプトR点眼液,アゾルガR点眼液はともに2剤目,3剤目として使用されることが一般的である.つまり臨床的には緑内障点眼薬を1剤以上使用している状況下でコソプトR点眼液あるいはアゾルガR点眼液を開始することになるが,本研究では対象を「過去1カ月以上市販薬も含めて点眼薬を使用していない」と規定しており,臨床的な使用状況とは異なる状態での点眼使用感を確認したこととなる.このため本研究での結果と臨床的な評価は異なる可能性はある.しかし,純粋なコソプトR点眼液とアゾルガR点眼液のみの評価も個々人に合わせた緑内障点眼治療を行う際に必要と考える.今回,健常人においてコソプトR点眼液はアゾルガR点眼より刺激性が強く,アゾルガR点眼液はコソプトR点眼液よりもかすみ感・苦味が強い,という結果となった.コソプトR点眼液とアゾルガR点眼液の選択を行う際にこれらの要素が点眼コンプライアンスに与える影響も考慮する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)AlezzandriniA,HubatschD,AlfaroRetal:Efficacyandtolerabilityoffixed-combinationbrinzolamide/timololinlatinamericanpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionpreviouslyonbrimonidine/timololfixedcombination.AdvTher31:975-985,20143)SezginAkcayB.,GuneyE,BozukurtKTetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher29:882-886,20134)VoldSD,EvansRM,StewartRHetal:Aone-weekcomfortstudyofBID-dosedbrinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsuspensionfixedcombinationcomparedtoBID-doseddorzolamide2%/timolol0.5%ophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher24:601-605,20085)MundorfTK,RauchmanSH,WilliamsRDetal:ApatientpreferencecomparisonofAzargaTM(brinzolamide/timololfixedcombination)vsCosoptR(dorzolamide/timololfixedcombination)inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol2:623-628,20086)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,2012***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151195

京都府立医科大学における日帰り硝子体手術の患者満足度調査

2015年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科32(5):749.754,2015c京都府立医科大学における日帰り硝子体手術の患者満足度調査村上怜永田健児米田一仁小森秀樹木下茂京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学SatisfactionSurveybyQuestionnaireofPatientswhoUnderwent25-GaugeParsPlanaVitrectomyasOutpatientSurgeryatKyotoPrefecturalUniversityofMedicineReiMurakami,KenjiNagata,KazuhitoYoneda,HidekiKomoriandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:患者満足度調査により日帰り硝子体手術の適応を再考した.対象および方法:京都府立医科大学眼科の硝子体術者3人が平成23年11月1日から平成24年12月31日の間に日帰り硝子体手術を施行した230症例にアンケートを送付し,結果をまとめた.結果:169例(73.4%)の回答を得,平均満足度は5段階中4.2であった.通院距離を3群に分類すると距離による満足度に有意差はなかった.しかし,通院時間が60分以内である患者では有意に満足度が高かった.結論:京都市という規模において日帰り硝子体手術は,患者満足度の点からは通院距離にかかわらず,通院時間60分以内の患者がよい適応である.Purpose:Toevaluatepatientsatisfactionbyadministeringaquestionnairetopatientswhounderwentvitrectomyasoutpatientsurgery.PatientsandMethods:Weadministeredasatisfactionquestionnaireto,andcollectedresponsesfrom,230patientswhounderwentparsplanavitrectomyasoutpatientsurgerybetweenNovember1,2011andDecember31,2013atKyotoPrefecturalUniversityofMedicine.Results:Themeansatisfactionindexwas4.2/5in169(73.4%)ofthe230patients.Althoughnosignificantdifferencewasfoundbetweenthedistancethatthepatienthadtotraveltoarriveatthehospital(.10km,11-20km,or.21km)andthesatisfactionindex,satisfactionwassignificantlyhigherinpatientswhoarrivedatourhospitalwithin60minutesfromtheirpreviouslocationthaninthosewhotookmorethan60minutestoarrive.Conclusions:Thefindingsofthisstudyshowthatalthoughthedistancetoourhospitalisnotextremelyimportantforpatientsundergoingoutpatientvitrectomysurgery,patientslivingwithina60-minutecommutefromthehospitalaremoresuitablecandidatesforthesurgery.arashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):749.754,2015〕Keywords:25G硝子体手術,日帰り手術,患者満足度,アンケート調査.25Gparsplanavitrectomy,daysurgery,patientsatisfaction,questionnaire.はじめに近年,極小切開硝子体手術(MIVS)システムと広角観察系の開発により,低侵襲で安全な硝子体手術を行うことが可能になってきた.諸施設で種々の疾患に対するMIVSの適応の検討がなされ,MIVSは20ゲージ硝子体手術よりも手術時間,安全性の面で優れていると報告されている1,2).これらの手術システムの進歩に伴い,諸外国では一般的に行われている日帰り硝子体手術が日本国内でも行われ始めている3.5).術後体位制限の必要な疾患についても日帰り硝子体手術を施行する施設が存在し,黄斑円孔や,増殖糖尿病網膜症といった疾患でも結果は良好であることが報告されている6,7).現在すでに日帰り手術が一般的となっている白内障手術と比較すると,硝子体手術は手術侵襲がやや大きく,術後体位が制限される場合もあり,患者側の不安あるいは不満が危惧されるところである.また,日帰り手術を選択する患者の背景はさまざまで,やむなく日帰り手術を選択した患者もいる.20ゲージ硝子体手術時代に日帰り手術を施行し,満足度が8割以上と良好な結果であったとする報告8)がある〔別刷請求先〕村上怜:〒780-0935高知県高知市旭町1-104町田病院Reprintrequests:ReiMurakami,M.D.,Machidahospital,1-104,Asahi-machiKochicity,Kochi780-0935,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(139)749 が,これまで多数の疾患に対し,通院時間,距離,年齢,性別,疾患別といったものによって,日帰り硝子体手術において十分な満足度が得られているかどうかを詳細に検討した報告はない.今回,筆者らは日帰り硝子体手術を施行した患者に対し,アンケート形式で満足度調査を行い,今後の改善点などの検討を行った.I対象および方法京都府立医科大学眼科のおもな硝子体術者3人が2011年11月1日から2012年12月31日に日帰りで施行した256件の硝子体手術を対象として日帰り手術の満足度調査を行った.日帰り手術の適応は基本的に患者の全身状態や環境を含めて術者が日帰り手術可能と判断したものであるが,疾患としては黄斑上膜や黄斑円孔,黄斑浮腫といった黄斑疾患,増殖の軽度な糖尿病網膜症,網膜.離を伴わない硝子体出血,表1日帰り硝子体手術を行った疾患の内訳疾患症例数(例)割合(%)黄斑上膜9336増殖糖尿病網膜症4016硝子体出血3815黄斑浮腫2911裂孔原性網膜.離125特発性黄斑円孔73その他3714表2年齢別満足度満足度54321平均30,40歳代222013.650歳代633114.360歳代27147214.270歳代29134314.3原因裂孔が下方にない裂孔原性網膜.離がおもな適応基準であった.調査の方法は,対象症例に対してアンケートを送付し,返信の結果をまとめた.アンケートの内容は病院までの距離,時間,手術日前後に宿泊施設を利用したか,日帰りを選択してよかったか,また,満足度,安心感,家事,仕事,入浴・トイレ,術後点眼,体位制限,翌日の通院については5段階で評価した.さらに困った点,要望を調査した.II結果2011年11月1日.2012年12月31日に日帰り手術を施行した256件の内訳は,黄斑上膜93件,増殖糖尿病網膜症40件,硝子体出血38件,黄斑浮腫29件,裂孔原性網膜.離12件,黄斑円孔7件,他37件であった(表1).裂孔原性網膜.離の初回復位率は100%,黄斑円孔の初回閉鎖率は100%であった.術後眼内炎は認めなかった.アンケート回収率は230例中169例(73.4%)であった.両眼の手術を施行した症例は1通のアンケートでまとめて調査したため,アンケートの送付数は256件よりも少なくなっている.男性は88例(52.1%),女性は77例(45.6%),名前の記載がなく性別不明が4例(2.3%),平均年齢は65.7(例)403020100~9km10~19km20~29km30~39km40~49km50~59km60~69km70~79kmm~80歳代320004.6(自宅と病院の距離)5:満足,4:やや満足,3:どちらでもない,2:やや不満,1:不満.図1自宅から病院までの距離やや不満不満3%やや不満4%満足59%やや満足24%どちらでもない14%4%満足52%やや満足28%どちらでもない12%満足48%やや満足28%どちらでもない24%~9km(37例)図2自宅から病院までの距離別満足度3群間で満足度に有意差はなかった.10~19km(21例)20km~(25例)750あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(140) ±10.2歳で,全体的な平均満足度は5段階中4.2であった.男性では平均満足度は4.3,女性では4.2で,性別による有意差はなかった(p=0.47).宿泊施設を利用したのは7例(4.1%),全体で満足,やや満足と答えたのは136例(80.5%).日帰りで手術をしてよかったと答えた患者は71%,つぎも日帰りでと答えた患者は73.4%であった.年齢別満足度は30歳代と40歳代は合わせて7例で平均満足度は3.6,50歳代では14例で4.3,60歳代では31例で4.2,70歳代では50例で4.3,80歳代では5例で4.6であった(表2).自宅から病院までの距離は平均18kmで,0.3.120kmの患不満(例)9080706050403020100~30分31~60分61分~(通院時間)図3自宅と病院までの通院時間不満不満やや不満満足58%やや満足25%やや不満満足50%やや満足30%どちらでもない14%やや不満満足27%やや満足29%どちらでもない29%4%4%5%2%9%6%どちらでもない9%~30分(75例)31~60分(64例)61分~(34例)NS***p<0.01図4自宅と病院までの通院時間別満足度通院時間60分以内でとくに満足度が高かった.者が存在し(図1),9km以内,10.19km,20km以上と距離により分類してみると,平均満足度はそれぞれ4.4,4.2,4.2で有意差はなかった.満足あるいはやや満足と答えた患者の合計数とそれ以外を答えた患者の割合に有意差はなかった(p=0.73)(図2).一方,通院時間は平均48分で,6分.3時間の患者が存在し(図3),通院時間を30分以内,31.60分,61分以上の3群に分類してみると,平均満足度はそれぞれ4.3,4.2,4.1で有意差はなかった.30分以内と31.60分以内の満足あるいはやや満足と答えた患者の合計数とそれ以外を答えた患者の割合に有意差はなく(p=0.71),30分以内と61分以上には有意差があり(p=0.003),31.60分と61分以上にも有意差があり(p=0.002),通院時間60分以内でとくに高い満足度が得られた(図4).安心感に関しては満足,やや満足を合わせると75%,以下同様に入浴・トイレに関しては49%.仕事に関しては45%,家事に関しては42%であった(図5).術後点眼は,できた,大体できた,は合わせて96%であった(図6).体位制限があった患者に関しては,できていない,ややできていないがそれぞれ1例(1%),5例(6%)と体位制限が守られていない患者が(141)安心感入浴・トイレ不満無回答不満無回答5%1%1%8%やや不満10%どちらでもない8%満足47%やや満足28%やや不満12%満足31%やや満足18%どちらでもない32%仕事家事無回答無回答不満6%不満7%6%6%満足やや27%やや満足どちら18%でもない27%不満16%満足24%やや満足18%どちらややでもない30%不満16%図5安心感,入浴・トイレ,仕事,家事についての満足度あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015751 ややできて(169例)いない1%無回答どちら2%でもない1%(169例)いない1%無回答どちら2%でもない1%図6術後点眼ができたかできたできた62%大体34%黄斑上膜(52例)不満やや不満4%8%どちらでもない13%満足46%やや満足29%増殖糖尿病網膜症(20例)ややできてできた29%大体できた60%できて(79例)いないいない6%1%満足やや30%やや満足どちら17%でもない22%不満22%不満無回答(169例)どちら6%3%でもない4%○できていない黄斑上膜1例○ややできていない黄斑上膜3例増殖糖尿病網膜症1例疾患不明1例図7術後体位制限が守れたか図8翌日外来受診について硝子体出血(20例)どちらでもない15%満足やや満足60%25%黄斑浮腫(11例)やや不満やや不満5%9%満足でもない40%やや満足35%どちら20%満足73%やや満足18%図9疾患別満足度存在したが,93%の患者では守られていた(図7).体位制限ができていないと答えたのは黄斑上膜1例,ややできていないと答えたのは黄斑上膜3例,増殖糖尿病網膜症1例,名前の記載がなく疾患不明が1例あった.翌日受診に関しては満足,やや満足と回答していた患者は47%と半数以下であった(図8).疾患別満足度では,黄斑上膜52例中では満足,やや満足を合計すると39例(75%)で,不満と答えた患者が2例(4%)いた.不満の理由として見にくい,通院が辛かったと回答していた.硝子体出血20例中では満足,やや満足を合計すると17例(85%)で,増殖糖尿病網膜症20例中では満足,やや満足を合計すると15例(75%),やや不満と回答した患者が1例(5%)存在した.黄斑浮腫11例中では,満足,やや満足を合計して10例(91%)であり,やや不満と答えた1例(9%)の患者は片眼が見にくいことを理由とし752あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015ていた(図9).不満と答えた患者の意見の多くは,予想より通院が大変,交通面での不安などで,十分に説明しているはずであるが,術後片眼が見にくいことを訴える患者もいた.その他,体位の取り方,自宅での過ごし方がわからないといった術後の生活に関するものも多かった.術後疼痛を不満の理由として回答する患者はいなかった.III考按日帰り硝子体手術の成績として,術後眼内炎は認めず,裂孔原性網膜.離の初回復位率100%,黄斑円孔の初回閉鎖率が100%と,術後の体位制限が重要な疾患でも良好な成績を得ることができた.過去にも日帰り硝子体手術の成績が良好であることは報告されているが3,4,7),患者側からの実際の意見を詳細に調査した報告はなく,患者満足が得られているか不明なまま今後日帰り手術が増加していく可能性がある.どのような患者で日帰り手術が適しているかを調査し,適応を適切に選択する必要がある.今回の検討では,日帰り硝子体手術の全体的な満足度は高く,自宅から病院までの距離は患者満足度に相関せず,通院時間60分以内でとくに満足度が高いという結果であった.60分以上の通院時間を要する患者にはよく説明し,場合によっては1泊の入院もしくはホテルなどでの宿泊を検討に入れる必要があると考えられた.通院時間は通院方法とも関係しており,今回質問事項には入れていなかったが,通院方法や家族の協力が得られるかどうかも重要であると考えられる.また,80.5%の患者が満足,やや満足と答えているものの,次も日帰りでと答えた患者は73.4%と,80.5%よりも少なかった.日帰り手術で満足はしているものの,次回があるならば入院手術を希望している患者がいることを示す.日帰り手術を選択した理由が独居で家をあけられない,仕事や家事,家族の世話があるといった患者に上記の傾向があり,このような家庭の事情以外にはやはり通院が辛かったという意見があった.片眼での生活,通院の不便さが患者の想定を超えていた可能性が考えられ,今後はより術後の生活が想像しやすい絵などを用いたパンフレッ(142) トなどの活用を検討している.安心感に関しては術後の不安が想定されるにもかかわらず良好な回答を得ており,自宅という安心感は予想以上に高いようであった.入浴・トイレに関しては普段使っている自宅の設備なので不満はないと思われたが,片眼が見えないことが日常生活に大きく影響することが示唆される.仕事,家事については日帰り手術の後,自宅に帰ってから仕事,家事をいつもどおり継続するつもりであった患者にとっては,やはり片眼が眼帯,もしくは見にくい状況では不満を感じると考えられた.術前に術後眼内炎についてはよく説明しており,術後点眼はほとんどの患者で重要性を理解されているようであった.体位制限に関しては空気注入予定のない患者でも術中所見により空気を注入して手術を終了する場合があり,その場合には数日間の体位制限を行っている.昨今は黄斑円孔の術後でも体位制限の期間を1日と短く設定しても,閉鎖率は腹臥位による体位制限をした場合と変わらないとする報告や9.11),広範囲の内境界膜.離を施行して術後は読書位で3.5日間過ごす従来よりも緩和した体位制限で閉鎖率は100%であったとする報告もある12).現在,特発性黄斑円孔の術後は一定期間腹臥位による体位制限を施行している施設が多いと思われるが,このように従来の長期間の体位制限は不要であるとする報告が増えてきており,厳格に体位制限をしなくてもよいという点では,十分に日帰り手術で対応できる可能性がある.しかし,体位制限をすることが決まっている症例や,その可能性が高い症例に関して日帰り手術を行う際は,事前に体位制限の重要性をよく説明し理解を得て,決められた時間は体位制限の遵守が重要である.筆者らは裂孔原性網膜.離については,原因裂孔が上方にあり厳格な体位制限が必要ない症例には患者の希望に沿って日帰り手術も選択可能としている.しかし,満足度の観点からみると,体位制限による不安が満足度に影響している可能性があり,体位保持用のマットの貸し出しなど,体位保持の方法がわかりやすくなる工夫も今後検討が必要である.術翌日の外来受診に関しては,多くの患者のなかで負担となっているようであり,通院時間,交通手段,家族の協力の有無が重要な因子となっていると考えられた.疾患別満足度では,黄斑上膜では不満が2例(4%),やや不満が4例(8%)存在したが,これは黄斑上膜の術後の視力改善が速やかに得られないという疾患の性質上,治療の実感がわかず,満足度に影響した可能性がある.逆に術後の視力回復が速やかな硝子体出血では満足度が高い傾向にあった.黄斑浮腫や増殖糖尿病網膜症では手術に至るまでの経過や,視力不良の期間が長く,術後の視力に関しては術前の説明でよく理解が得られており,満足度が良好であったと考えた.また,過去の報告で日帰り手術を選択したが術後疼痛があり,入院したかったと後に回答した患者が存在している8).満足度に大きく影響すると考えられる術後の疼痛が少ないことは,やはりMIVSによる大きなメリットであると考えられる.患者背景では,透析を理由に日帰り硝子体手術を選択する患者が3例存在した.透析患者にとってかかりつけ透析施設で通常どおり透析を受けられるという安心感は大きく,硝子体手術施行に際し全身状態が問題ないと判断されれば透析患者は日帰り硝子体手術の良い適応と考えられる.このように日帰り硝子体手術を希望する患者の背景はさまざまで,低侵襲手術により早期の日常生活への復帰,社会復帰が可能となっており,さらには医療費軽減の点からも日帰り手術への患者ニーズは高まってくると思われる.日帰り硝子体手術が安全で成績もよく,かつ患者満足度も高いものになるには術者が自らの力量をふまえ,適切に適応を判断しなければならない.また,合併症出現時の対応を施設ごとに明確にしておく必要があるが,筆者らの施設では,24時間365日救急対応可能な体制をとっている.硝子体手術に限らず日帰り手術を行ううえでは緊急時の対応の整備が重要である.京都市という都市の規模では,通院距離によらず,通院時間60分以内の患者でとくに高い日帰り硝子体手術の満足度が得られた.それ以上の通院時間の症例に対しては,疾患の説明と同様に,事前に十分な説明を行うことで,良好な術後成績だけでなく,高い患者満足度を得ることも重要である.文献1)GuptaOP,WeichelED,RegilloCDetal:Postoperatvecomplicationsassociatedwith25-gaugeparsplanavitrectomy.OphthalmicSurgLasersImaging38:270-275,20072)YanyaliA,CelikE,HorozogluF,etal:25-Gaugetrans-conjunctivalsuturelessparsplanavitrectomy.EurJOphthalmol16:141-147,20063)李才源,島田宏之:25ゲージシステムを用いた日帰り硝子体手術.臨眼63:1125-1129,20094)李才源,島田宏之:25ゲージシステムを用いた日帰り硝子体手術の術後合併症.臨眼66:827-830,20125)竹内忍:日帰り硝子体手術の注意点.日の眼科81:3132,20106)西村哲哉:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.日の眼科84:1017-21,20137)吉澤豊久,白鳥敦:特発性黄斑円孔の日帰り硝子体手術.臨眼64:695-698,20108)松坂京子,山西珠代:網膜・硝子体手術は日帰りで行えるか.当院の患者へのアンケートより考察..眼科ケア2:69-74,20009)IsomaeT,SatoY,ShimadaH:Shortningthedurationofpronepositioningaftermacularholesurgery-comparisonbetween1-weekand1-daypronepositioning.JpnJOphthalmol46:84-88,2002(143)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015753 10)SatoY,IsomaeT:Macularholesurgerywithinternal2009limitingmembraneremoval,airtamponade,and1-day12)IezziR,KapoorKG:Noface-downpositioningandbroadpronepositioning.JpnJOphthalmol47:503-506,2003internallimitingmembranepeelinginthesurgicalrepair11)MittraRA.KimJE,HanDPetal:Sustainedpostopera-ofidiopathicmacularholes.Ophthalmology120:1998tiveface-downpositioningisunnecessaryforsuccessful2003,2013macularholesurgery.BrJOphthalmol93:664-666,***754あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(144)

北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1579.1585,2012c北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査一色佳彦森哲大久保朋美宮原晋介小倉記念病院眼科SurveyofTransscleralSutureFixationofIntraocularLensinKitakyushuCityYoshihikoIsshiki,SatoshiMori,TomomiOkuboandShinsukeMiyaharaDepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital目的:北九州市における眼内レンズ(IOL)縫着術の実態調査.対象および方法:北九州市の眼科医に対し,IOL縫着術に関するアンケート調査を行い,27名から回答を得た.結果:眼内レンズ縫着糸通糸法は,abexterno法が多く(17名,63.0%),右眼手術時の縫着糸の通糸方向は,2-8時(11名,40.7%),4-10時(9名,33.3%)が多かった.縫着糸の輪部からの通糸位置は,2mm(12名,44.4%),1.5mm(11名,40.7%)が大半を占めた.IOLへの縫合糸結紮方法は,カウヒッチ縫合(10名,37.0%)が最も多く,3-1-1縫合(9名,33.3%)と続いた.縫着糸の強膜結紮固定方法は,三角フラップ(12名,44.4%)が最も多かった.創口の幅が4mm以下で施行する術者は10名,37.0%であった.結論:IOL縫着術は,使用IOLや手術器具などが施設によりさまざまであった.また,小切開手術を選択する術者もみられた.Purpose:Tosurveytransscleralsuturefixationofintraocularlenses(IOL)inKitakyushuCity.Methods:OftheophthalmologistsinKitakyushuCity,27respondedtoourquestionnaireregardingtransscleralsuturefixationofIOL.Result:TheabexternomethodwasmostcommonlyusedintransscleralsuturefixationofIOLby17surgeons(63.0%).Thetransscleralsuturewasmadeatthe2and8o’clockpositionsby11surgeons(40.7%),andthe4and10o’clockpositionsby9surgeons(33.3%).Thetransscleralsuturewasfixedat2mmfromthesurgicallimbusby12surgeons(44.4%),and1.5mmfromthesurgicallimbusby11surgeons(40.7%).Themostcommonlyusedtransscleralsuturewoundwasthetriangularflap,usedby12surgeons(44.4%).ThesuturemethodsateachIOLhapticscomprisedthecowhitchmethod,usedby10surgeons(37.0%),andthe3-1-1suture,usedby9surgeons(33.3%).ThesizeoftheIOLimplantationincisionwas4mmorsmallerfor10surgeons(37.0%).Conclusions:RegardingtransscleralsuturefixationofIOL,varioussurgicalmethods,IOLtypesandsurgicalinstrumentswereselectedbythesurgeons.TransscleralsuturefixationofIOLviathesmall-incisionapproachisincreasinglyused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1579.1585,2012〕Keywords:眼内レンズ縫着術,アンケート調査,白内障手術,小切開手術,北九州市.transscleralsuturefixationofintraocularlens,questionnaire,cataractsurgery,smallincisionsurgery,KitakyushuCity.はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術が一般的な術式となったのは1980年代であり,それ以後白内障手術時には可能な限りIOLが.内もしくは.外固定で挿入されている.しかしZinn小帯脆弱例や破.例などIOL固定に水晶体.を使用することができない症例にIOLを挿入する場合は,IOL縫着術が選択されることが多い.このように重要な術式であるIOL縫着術だが,手術手技や使用器具は施設あるいは術者によって異なる.筆者らが調べた限りでは,これまでにそのような多様性についての報告はなされていない.今回筆者らは,福岡県北九州市という一地域におけるIOL縫着術についての実態を調査するためアンケートを行い,使用IOL,IOL縫着創作製方法,硝子体処理方法など18項目を調査し検討したので報告する.〔別刷請求先〕一色佳彦:〒802-8555北九州市小倉北区浅野3丁目2番1号小倉記念病院眼科Reprintrequests:YoshihikoIsshiki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,3-2-1Asano,Kokurakita-ku,KitakyushuCity,Fukuoka802-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(129)1579 I対象および方法IOL縫着術を行っている福岡県北九州市の眼科医を調査対象とした.方法は,2011年1月初旬に21項目の設問からなるアンケート調査表を郵送した.取得した情報を集計・分析し,個人が特定できない統計データに加工し集計データのみを第三者に開示(学会発表・論文投稿)すること,学会発表・論文投稿を除き収集した情報を第三者に開示・提供することはないことを注記した.上記に同意し2011年3月末までに回答があった15施設27名の眼科医からの回答を有効対象とした(アンケート発送数34,回収率79.4%).有効対象とした27名の眼科医の背景は,日本眼科学会専門医取得者は24名,指導者が必要な術者は4名(3名は眼科専門医未取得者)であった.なお,本調査は,水晶体脱臼やZinn小帯脆弱,過去の白内障.内摘出術による人工無水晶体眼など,白内障手術で水晶体を除去したもののIOLを.内・.外固定することが不能であった場合のみのIOL縫着術を対象とし,水晶体核落下した場合やIOL摘出が必要な場合(IOL亜脱臼,IOL脱臼など),また.内もしくは.外に固定されていたIOLをそのまま使用した場合のIOL縫着術は除外した.II結果(表1,2)1.過去3年間のIOL縫着術件数術者あたりの過去3年間のIOL縫着術件数は,1.5例が10名(37.0%),6.10例が7名(25.9%),10.20例,20例以上がそれぞれ5名(18.5%)ずつであった.【眼内レンズ縫着術】2.IOL縫着糸の通糸法IOL縫着糸の通糸法は,abexterno法が17名(63.0%),abinterno法が7名(25.9%),abexterno変法(abinternowithabexterno法)3名(11.1%)であった.3.使用するIOL縫着糸使用するIOL縫着糸は,10-0ポリプロピレン糸(直・曲)(ペアパック含む)が16名(52.3%),10-0ポリプロピレン表1IOL縫着術のアンケート結果(単位:人)①[過去3年間の眼内レンズ縫着手術件数]④[縫着糸の通糸位置方向(右眼)]⑤[縫着糸の輪部からの通糸位置(距離)]1.5例102-8時112mm126.10例74-10時91.5mm1110.20例53-9時52.2.5mm120例以上55-11時11mm14-10時もしくは2-8時12mm以上1②[眼内レンズ縫着糸の通糸法]その他1Abexterno法17(Abexterno法)Abinterno法72-8時6(Abexterno法)Abexterno変法34-10時82mm63-9時21.5mm9③[使用する眼内レンズ縫着糸]5-11時12.2.5mm010-0ポリプロピレン(直・曲)164-10時もしくは2-8時11mm110-0ポリプロピレン(両端ループ)102mm以上19-0ポリプロピレン(直・曲)1(Abinterno法)その他02-8時4(abexterno法)4-10時1(Abinterno法)10-0ポリプロピレン(直・曲)163-9時22mm410-0ポリプロピレン(両端ループ)05-11時01.5mm39-0ポリプロピレン(直・曲)14-10時もしくは2-8時02.2.5mm11mm0(Abinterno法)(Abexterno変法)2mm以上010-0ポリプロピレン(直・曲)02-8時0その他010-0ポリプロピレン(両端ループ)74-10時29-0ポリプロピレン(直・曲)03-9時1(Abexterno変法)5-11時02mm2(Abexterno変法)4-10時もしくは2-8時01.5mm010-0ポリプロピレン(直・曲)02.2.5mm010-0ポリプロピレン(両端ループ)31mm09-0ポリプロピレン(直・曲)02mm以上0その他11580あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(130) 糸(両端ループ針)が10名(37.0%),9-0ポリプロピレン糸(直・曲)が1名(3.7%)であった.IOL縫着糸の通糸法別に検討すると,「abexterno法」は,すべてポリプロピレン糸(直・曲)であったが,「abinterno法」「abexterno変法」は,すべてポリプロピレン糸(両端ループ針)であった.4.縫着糸の通糸方向右眼手術を想定し回答を得た.「2-8時方向」が11名(40.7〔表1つづき〕%)「4-10時方向」が9名(33.3%)「3-9時方向」が5名(18「5-11時方向」が1名(3「4-10時もしく.5%)(,).7%),(,)は2-8時方(,)向」が1名(3.7%)であった.IOL縫着糸の通糸法別でも検討したが,「abexterno変法」以外は「2-8時方向」が多かった.5.縫着糸の外科的輪部からの通糸位置(距離)縫着糸の輪部からの通糸位置は,「2mm」が12名(44.4(単位:人)⑥[縫着糸の強膜結紮固定方法]⑨[眼内レンズ挿入創の幅]三角フラップ122mm以上3mm未満7強膜ポケット作製63mm以上4mm未満22本の縦切開作製24mm以上6mm未満61本の縦切開作製26mm以上7縫合糸を長くし結膜下に置く26mm以上もしくは3mm以上4mm未満22本の縦切開もしくはポケット作製26mm以上もしくは2mm以上3mm未満2三角フラップもしくはポケット作製13mm以上4mm未満もしくは2mm以上3mm未満1⑦[眼内レンズへの縫着糸結紮方法]⑩[縫着時使用の眼内レンズ](複数回答あり)カウヒッチ縫合(2重縫合:内2名)10VA70AD(HOYA株式会社,東京)123-1-1縫合9P366UV(Bausch&Lombジャパン,東京)102-1-1縫合3YA65BB(HOYA株式会社,東京)83-1-1-1縫合2CZ70BD(AlconLaboratories,Inc.,USA)53-2-1-1縫合1VA65BB(HOYA株式会社,東京)33-3縫合1NR-81K(株式会社NIDEK,愛知)13-1-1縫合もしくはカウヒッチ縫合1⑪[IOL.内固定時と比較した縫着IOLの屈折度数]⑧[眼内レンズ挿入創の作製方法].1.0D14強角膜三面切開法21同じ7強角膜一面切開法6.0.5D5+1.0D1⑫[周辺虹彩切除もしくは周辺虹彩切開術の有無]施行しない23症例による4表2IOL縫着術(硝子体処理)のアンケート結果(単位:人)⑬[IOL縫着手術を一次的に行うか]⑯[硝子体処理を行う機器]原則一次10硝子体手術機器22原則二次10白内障手術機器5症例による7⑰[硝子体切除範囲]⑭[インフュージョンポートの設置位置]Anteriorvitrectomyのみ23毛様体扁平部から12Subtotalvitrectomy2角膜サイドポートから9Totalvitrectomy2つけない5バイマニュアルinfusin/aspirationを灌流に使用1⑱[硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージ]23ゲージ9⑮[硝子体カッター挿入位置]25ゲージ9角膜サイドポート1920ゲージ1毛様体扁平部325ゲージもしくは23ゲージ3角膜サイドポートもしくは毛様体扁平部3強角膜創(眼内レンズ挿入創)2(131)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121581 %)「1.5mm」が11名(40.7%),「2.2.5mm」が1名(3.7%)「(,)1mm」が1名(3.7%),「2mm以上」が1名(3.7%),「その(,)他」1名(3.7%)であった.「その他」と回答した術者は,abexterno変法で内視鏡で眼内より毛様溝を確認し通糸しているため,輪部からの距離は症例により異なるとのことであった.IOL縫着糸の通糸法別でも検討したが,すべての方法で2mmの位置が多かった.6.縫着糸の強膜結紮固定方法縫着糸の強膜結紮固定方法は,「三角フラップ」が12名(44.4%)「強膜ポケット」が6名(22.2%)「2本の縦切開線」が27.4%)「1本の縦切開線」が2(7.4%),「縫合糸を長くして結に置く」が2名(7.4%),「2本の縦切開作製もしくは強膜ポケット」が2名(7.4%),「三角フラップもしくは強膜ポケット」が1名(3.7%)であった.片側は名((,)名(,)膜下(,)上記だが,対側の固定方法は,IOL挿入創内に縫合するという回答(1名)もあった.7.IOLへの縫合糸結紮方法IOLへの縫合糸結紮方法は,「カウヒッチ縫合」が10名(37.0%)「3-1-1縫合」が9名(33.3%)「2-1-1縫合」が3名(11「3-1-1-1縫合」が2名4%)「3-2-1-1縫合」が1.7%)「3-3縫合」が1名(3.7「3-1-1.1%)(,)(7.(,)名(3(,)%),(,)縫合もしくはカウヒッチ(,)縫合」が1名(3.7%)であった.カウヒッチ縫合10名のうち,2名は2重縫合であった.8.IOL挿入創の作製方法IOL挿入創の作製方法は,「強角膜三面切開法」が21名(77.7%),「強角膜一面切開法」が6名(22.2%)であった.角膜切開法を選択する術者はいなかった.9.IOL挿入創の幅IOL挿入創の幅は,「6mm以上」が7名(25.9%),「4mm以上6mm未満」が6名(22.2%)「3mm以上4mm未満」が2名(7.4%),「2mm以上3mm未(,)満」が7名(25.9%)であった.使用するIOLによって創を調整している術者もおり,「6mm以上,もしくは3mm以上4mm未満」が2名(7.4%),「6mm以上,もしくは2mm以上3mm未満」がZinn小帯離断など一期的にコンバートする緊急時に用いるIOLが異なる術者(2名)もいた.11.縫着IOLの屈折度数の決定縫着IOLの屈折度数は,「.内固定時より.1.0D」が14名(51.9%),「.内固定時と同じ」が7名(25.9%),「.内固定時より.0.5D」が5名(18.5%),「.内固定時より+1.0D」が1名(3.7%)であった.12.周辺虹彩切除もしくは周辺レーザー虹彩切開術の施行の有無手術時周辺虹彩切除もしくは術後周辺レーザー虹彩切開術を施行するか否かは,「施行しない」が23名(85.2%),「症例によっては施行する」が4名(14.8%)であった.【硝子体処理】13.IOL縫着術を一次的に行うか白内障手術時起こった破.・Zinn小帯離断時などに,IOL縫着術を一次的に行うか,二次的に行うかは,「原則一次」「原則二次」が各10名(37.0%)「症例による」が7名(25.9%)であった.「症例による」と答した術者は,破.の範囲,眼底疾患の有無,手術経過時間,患者の状態などにより決定(1名),硝子体処理終了後の患者の状態による(2回(,)名),術前にIOL縫着を予測できる場合は一次的に施行(2名)とのことであった.14.インフュージョンポートの設置位置インフュージョンポートの設置位置は,「毛様体扁平部」が12名(44.4%)「角膜サイドポート」が9名(33.3%)「インフュージョン(,)ポートは設置しない」が5名(18.5%),(,)「バイマニュアル灌流を使用」が1名(3.7%)であった.15.硝子体カッター挿入位置硝子体カッター挿入位置は,「角膜サイドポート」19名(70.3%)「毛様体扁平部」3名(11.1%)「角膜サイドポー毛様体扁平部」3名(11.1%「IOL挿入創」2トもしくは(,))(,)名(7.4%)であった.「毛様体扁平部」を選(,)択した術者で,縫着用の強膜ポケット部に硝子体カッターポートを作製する.7名(24%),「3mm以上4mm未満,もしくは2mm以上3mm未満」が1名(3.7%)であった.10.縫着時使用するIOLの種類術者が1名いた.16.硝子体処理を行う機器硝子体処理を行う機器は,「硝子体手術機器」22名(81.5縫着時使用するIOLの種類は,眼状態などによって選択するIOLを変更している施設・術者もおり複数の回答があった.最も多かったのが「VA70ADR(HOYA株式会社,東京)」で12名(44.4%),続いて「P366UVR(Bausch&Lombジャパン株式会社,東京)」で10名(37.0%),ほか「YA65BBR(HOYA株式会社,東京)」8名(29.6%)「CZ70BDR(AlconLaboratories,Inc.,USA)」5名(18.5%)(,),「VA65BBR(HOYA株式会社,東京)」3名(11.1%),「NR-81KR(株式会社NIDEK,愛知)」1名(3.7%)であった.予定縫着時と,1582あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012%),「白内障手術機器」5名(18.5%)であった.17.硝子体切除範囲硝子体切除範囲は,「anteriorvitrectomyのみ」23名(85.2%),「subtotalvitrectomy」2名(7.4%),「totalvitrectomy」2名(7.4%)であった.18.硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージ硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージは,「23ゲージ」9名(33.3%),「25ゲージ」9名(33.3%),「20ゲージ」1名(3.7%),「25ゲージもしくは23ゲージ」3名(132) (11.1%)であった.III考按白内障手術や,屈折矯正手術などの前眼部手術については,米国では,1985年以降AmericanSocietyofCataractSurgery(ASCRS)の学会員を対象に調査が毎年行われており1,2),2004年以降は米国会員を対象に継続調査され報告されている.欧州3.5)ならびに最近ではアジア,豪州など諸外国においても同様な調査が開始され,国際比較を検討する試みもされている6,7).日本でも,日本眼内レンズ屈折手術学会会員を対象とした同様なアンケート調査が18年間行われている8)が,IOL縫着術についての調査報告はされていない.平成24年6月現在,北九州市で白内障手術を行っている術者は約82名であり,またIOL縫着術を行っている術者は約30名である.今回,福岡県北九州市という一地域におけるIOL縫着術についての実態を調査した.IOL縫着糸の通糸法は,abexterno法(Lewis法)9),abinterno法10),さらに眼外から強膜にお迎え針を挿入し,強膜切開創や角膜サイドポートから弱弯針を入れお迎え針に挿入するabexterno変法11)がある.Abexterno法は,眼内操作や創口を通した操作が少なく,縫着部位を眼外から設定できる.眼内操作が多くなると糸が絡んだり,眼内組織を損傷したりする危険性が高くなり,また創口を通した操作が多くなると,眼内圧の急激な変動により重篤な合併症をひき起こす危険性があるため,abexterno法は,安全性の高い手術方法といわれている.Abinterno法は,強膜固定時に2本の糸が使用できる,IOLの支持部への結紮に断端が発生しないカウヒッチ縫合を容易に行えるという利点があるが,眼内から非直視下で針をさす手技上の問題がある.Abexterno変法は,両者の利点を取り入れた方法である.本調査では,abexterno法を選択する術者が2/3を占めた.Abexterno変法を選択している術者で,眼内内視鏡を用い,毛様溝を確認して通糸する術者がいたが,眼内内視鏡を用いることにより,安全かつ正確に毛様溝に通糸でき,またブラインド操作を少なくすることが可能となる12,13).使用するIOL縫着糸は,10-0ポリプロピレン糸が多かった.最近は,糸の強度などから9-0ポリプロピレン糸を使用する報告もある14).IOL縫着糸は,生体内劣化を防止するためポリプロピレン糸もしくはマーシリン糸が使用される.これらの糸は非常に硬く,縫着糸を強膜創に埋没しないと結膜を突き破る可能性が高い.縫着糸が結膜を突き破ると糸を伝って眼内まで細菌が侵入する可能性があり,ときに眼内炎を起こす原因にもなる15).このように縫着糸縫合はIOL縫着手術のなかでも重要なポイントといえる.本調査では,強膜フラップ作製が最も多く,強膜ポケット作製,強膜溝作製,埋没させず縫着糸を長く残し結膜下に置くなどさまざまな方(133)法が選択されていた.近年強膜創を作製せず,ジグザグに5回強膜を通糸することにより結び目を作らないZ-sutureの報告16)もあり,現在も縫着糸縫合の研究がなされている.縫着糸の通糸方向は,2-8時方向,4-10時方向が多かった.前毛様動脈眼筋枝は3,6,9,12時,長後毛様動脈は3,9時に位置するため,3-9時方向への通糸は硝子体出血17)などの出血の危険性が高くなる.本調査でも3-9時を選択している術者も散見したが,合併症を考えると避けるべきと考えている.縫着糸の外科的輪部からの通糸位置は,毛様溝固定9.11),毛様体扁平部固定18,19)のどちらを目的とするかにより変わる.本調査では,毛様溝縫着を目的とする術者が大半を占めた.毛様溝固定は,毛様体皺襞による支えがあるためIOLの術後安定性が優れており,輪部後端から強膜に垂直に穿刺する場合で0.5.1.0mm20),虹彩に平行に穿刺する場合で1.5mmが目安といわれている9).しかし,前述のとおり盲目的であり,症例により毛様溝の位置に差があるため,実際は目的の部位への穿刺成功率は高くないとの報告がなされている12).内視鏡を用いて毛様溝を確認し穿刺する報告もある13)が,高度な技術が必要であり器具を所持しない施設も多い.一方,毛様体扁平部固定の場合は,輪部後端から約3.5mmと幅広く位置するため盲目的操作でも穿刺成功率はほぼ100%である.IOLの虹彩への接触による炎症も少なく,それによるぶどう膜炎の発症も少ない19,21).しかし,IOLを支える組織がないため縫着糸のみでIOLを支えることになり,また毛様体扁平部の長径は通常使用するIOLより大きいため,特に眼球が大きい場合などはIOLの位置移動や傾斜が起こりやすい19).縫着用IOLは,縫着糸を通すアイレット付きタイプ(CZ70BDR,P366UVRなど),縫着糸の結び目のズレを防止するディンプルタイプ(NR-81KRなど),支持部端を太くして縫着糸が抜けないタイプ(VA-70ADR,VA/YA-65BBR22)など)がある.IOL挿入創の切開幅は,使用するIOLによって決定されるのでIOLの選択は重要である.近年IOLの多様化が進み,日本では2008年から7.0mm光学径のアクリル製フォーダブルIOLが発売された.このIOLは,インジェクターを用いると切開幅2.4.3.0mm,折りたたみ法を用いると約3.75.4.0mmで挿入できるため,IOL縫着手術時に使用する術者もいる23.25).小切開法でのIOL縫着術はさまざまな利点がある.第1の利点は,術後惹起乱視が少ない25,26)ことである.大光学径のIOLをそのまま挿入するためには6mm以上の強膜切開が必要となるので,術後惹起乱視が大きくなり早期の視力回復が期待できにくい.第2の利点は,より安定したclosedeyesurgeryが可能なことである.無水晶体眼や無硝子体眼では,切開創からの出し入れが多いIOL縫着術においてはあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121583 容易に眼球虚脱に陥りやすい.しかし,小切開法では,切開創が小さいため眼内灌流をつけると硝子体切除などの眼内操作時も眼球が虚脱することは少なくなる.6mm以上の大きな切開創では,眼内灌流の流れにより切開創からの虹彩脱出,それによる瞳孔偏位や虹彩損傷,術後炎症の増大をきたすこともあるが,3mm以内の小切開法ではそのような合併症を起こすことはほぼない.IOL縫着が必要な症例は,硝子体脱出を伴っている場合が多く,IOLの固定位置に水晶体遺残物や前部硝子体が残存していると,術後にIOLの位置異常や偏位をきたしやすくなる27).IOL縫着術の術後合併症として硝子体出血や網膜.離もあるが,それらも眼内で縫着糸を通糸する際に硝子体が絡み,術後の硝子体牽引によってひき起こされることが多いと考えられている28).そのため,最周辺部まで硝子体切除している術者もいる.近年硝子体の処理法は,23ゲージや25ゲージの小切開硝子体手術が普及してきており,IOL縫着術でも使用されている24).本調査でも前部硝子体切除のみ行う術者が多いが,小切開硝子体手術にて容易に周辺部まで硝子体処理ができるようになった現在,合併症予防として最周辺部まで硝子体処理をしたほうがいいのかもしれない.急速な高齢化社会によるqualityoflifeを重要視する傾向であるなか,眼科領域でもqualityofvisionを軽視できない環境となっており,IOL縫着術においてもより良い術後視力が期待されるようになってきた.小切開法から挿入できる縫着用IOLが開発され,術後惹起乱視は大幅に解決されてきた.白内障手術は現在までいくつもの時代の波によって変化してきた.IOL縫着術もさらなる発展により,低侵襲で合併症が少なく早期の視機能回復を得られる手術にならなければならないと考えている.今回の調査は,北九州市という一地域の小規模な調査であった.今後さらなる大規模な調査が望まれる.本論文の要旨は,第65回日本臨床眼科学会にて発表した.文献1)KraffMC,SandersDR,KarcherDetal:Changingpracticepatterninrefractivesurgery:resultsofasurveyoftheAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery.JCataractRefractSurg20:172-178,19942)LeamingDV:PracticestylesandpreferencesofASCRSmembers-2003survey.JCataractRefractSurg30:892900,20043)WongD,SteeleADM:AsurveyofintraocularlensimplantationintheUnitedKingdom.TransOphthalmolSocUK104:760-765,19854)Ninn-PedersonK,SteneviU:CataractsurgeryinaSwedishpopuration:Observationsandcomplications.JCataractRefractSurg22:1498-1505,19961584あたらしい眼科Vol.29,No.11,20125)SchmackI,AuffarthGU,EpsteinDetal:RefractivesurgerytrendsandpracticestylechangesinGermanyovera3-yearperiod.JRefractSurg26:202-208,20106)NorregaadJC,ScheinOD,AndersonGF:Internationalvariationinophthalmologicmanagementofpatientswithcataracts.ArchOphthalmol115:399-403,19977)NorregaardJC,Bernth-PetersonP,BellanLetal:IntraoperativeclinicalpracticeandriskofearlycomplicationsaftercataractextractionintheUnitedStates,Canada,Denmark,andSpain.Ophthalmology106:42-48,19998)佐藤正樹,大鹿哲郎:2009年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS24:462-485,20109)LewisJS:Abexternosulcusfixation.OphthalmicSurg22:692-695,199110)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorchamberintraocularlensimplantationintheabsenceofposteriorcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,198811)德田芳浩:毛様体溝固定3)通糸法の工夫─対面通糸法変法.臨眼64(増刊号):235-240,201012)ManabeS,OhH,AminoKetal:Ultrasoundbiomicroscopicanalysisofposteriorchamberintraocularlenseswithtransscleralsulcussuture.Ophthalmology107:2172-2178,200013)SasaharaM,KiryuJ,YoshimuraN:Endscope-assistedtransscleralsuturefixationtoreducetheincidenceofintraocularlensdislocation.JCataractRefractSurg31:1777-1780,200514)DickHB,AugustinAJ:Lensimplantselectionwithabsenceofcapsularsupport.CurrOpinOphthalmol12:47-57,200115)HeilskovT,JoondephBC,OlsenKRetal:Lateendophthalmitisaftertransscleralfixationofaposteriorchamberintraocularlens.ArchOphthalmol107:1427,198916)SzurmanP,PetermeierK,AisenbreySetal:Z-suture:anewknotlesstechniquefortransscleralsuturefixationofintraocularimplants.BrJOphthalmol94:167-169,201017)HeidemannDG,DunnSP:Visualresultandcomplicationsoftranssclerallysuturedintraocularlensesinpenetratingkeratoplasty.OphthalmicSurg21:609-614,199018)TeichmannKD:Parsplanafixationofposteriorchamberintraocularlenses.OphthalmicSurg25:549-553,199419)門之園一明:毛様体扁平部縫着術眼内からの刺入による毛様体扁平部縫着.IOL&RS21:323-326,200720)DuffeyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,198921)MiyakeK,AsakuraM,KobayashiH:Effectofintraocularlensfixationontheblood-aqueousbarrier.AmJOphthalmol98:451-455,198422)YaguchiS,YaguchiS,NodaYetal:Foldableacrylicintraocularlenswithdistendedhapticsfortransscleralfixation.JCataractRefractSurg35:2047-2050,200923)SzurmanP,PetermeierK,JaissleGBetal:Anewsmallincisiontechniqueforinjectorimplantationoftranssclerallysuturedfodablelenses.OphthalmicSurgLasersImag(134) ing38:76-80,2007術後成績─シリコーン眼内レンズとpolymethyl-methacry24)塙本宰:インジェクターを用いた7.0mmフォーダブル眼late眼内レンズの比較─.日眼会誌98:362-368,1994内レンズの毛様溝縫着術.IOL&RS24:90-94,200927)種田人士,大島佑介,恵美和幸:自己閉鎖創による眼内レ25)金高綾乃,柴琢也,神前賢一ほか:小切開眼内レンズ縫ンズ毛様溝縫着術の手術成績の検討.眼紀49:218-222,着術を施行した水晶体亜脱臼の1例.眼科手術24:339-1998343,201128)安田秀彦,鈴木岳彦,矢部比呂夫:後房レンズ毛様溝縫着26)大鹿哲郎,坪井俊児,谷口重雄ほか:小切開白内障手術の術後に生じた網膜.離の2症例.臨眼50:53-56,1996***(135)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121585

緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):993.997,2012c緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子兵頭涼子林康人鎌尾知行南松山病院眼科FactorsAffectingTherapyAdherenceinPatientsUsingGlaucomaEyedropsRyokoHyodo,YasuhitoHayashiandTomoyukiKamaoDepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital高眼圧は緑内障進行の一つの要因であり,眼圧を下げるためには点眼治療のアドヒアランスが重要である.筆者らは緑内障点眼治療のアドヒアランスを調査する目的で,緑内障点眼治療を受けている患者84名(27.90歳,平均67.6±12.7歳)を対象として,聞き取り調査を実施した.84名中68名が月1回以上「点眼忘れ」があると回答した.アドヒアランスの悪い患者はアドヒアランスの良い患者に比べ,治療月数が有意(対応のないt検定:p<0.0001)に短かった.「点眼忘れ」の状況を主治医に正確に伝えている患者は1名もいなかった.73.8%の患者が理想の点眼剤数を1本と答え,96.4%の患者が理想の点眼回数を1日1回と回答した.これらの結果より,アドヒアランスの向上のためには可能なかぎり点眼剤数を減少させ,緑内障点眼処方直後は「点眼忘れ」がないよう,頻回に確認する必要があると考えられる.Elevatedintraocularpressure(IOP)isaknownriskfactorforglaucomaprogression.ForIOPreduction,adherencetoeyedroptherapyisimportant.Tosurveyadherencetoglaucomaeyedroptherapy,weinterviewed84patients(agerange:27-90years;averageage:67.6±12.7years)whohadbeenprescribedglaucomaeyedrops.Ofthe84,68hadmissedtakingtheprescribedeyedropatleastonceamonth.Poor-adherencepatientsthushadasignificantlyshorterperiodofmedicationthandidexcellent-adherencepatients(unpairedt-test:p<0.0001).Nopatientsinformedtheirphysicianofhaving“missedeyedrops.”Ofallpatients,73.8%answeredthattheidealnumberofeyedropswas1;96.4%answeredthattheidealadministrationratewasonceperday.Theseresultsuggestthatthemedicationrateshouldbereducedasmuchaspossibleforgoodadherence,andthatjustafterprescriptionofglaucomaeyedrops,wemustaskpatientsnottoforgettoinstillthem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):993.997,2012〕Keywords:点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス,緑内障.eyedroptherapy,questionnaires,adherence,glaucoma.はじめに緑内障治療における眼圧コントロールのための点眼治療の重要性1.3)は明らかであるが,その成否にはアドヒアランスが関わる4,5).医師は患者が処方された点眼剤を処方通りに点眼していることを前提として,治療方針を立て,効果が不十分であると判断すれば,変更や追加を迫られる.ところで実際患者は処方通りに点眼できているのであろうか.そこで今回,緑内障点眼治療患者に対して点眼実施状況のアンケート調査を実施したところ,今後医療従事者が注意すべき点が明らかになったので報告する.I対象および方法今回の臨床研究を実施するに際し,事前に南松山病院臨床研究審査委員会(IRB)の承認を受けた.書面による同意が得られた,27歳から90歳までの緑内障点眼治療患者84名(男性44名,女性40名,平均67.6±12.7歳)を対象とした(図1a).今回の調査内容は主治医には伝えないことを事前に説明し,表1に示す内容を1名の看護師による面接法により調査した.統計解析は,JMPVer9.0(SASInstitute,NC,USA)を用い,対応のないt検定,Fisherの正確確立検定も〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒790-8534松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime790-8534,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)993 表1アンケート調査の内容年齢:性別:男女お勤め:有無職種:勤務体系:定期(時間帯:.)不定期点眼治療年数:点眼剤数:点眼内容:1.過去1カ月間で緑内障点眼液の点眼を忘れたことはありますか?:□ある□ない(点眼を忘れたことがある場合)2.忘れる頻度は?:□1カ月に1回□1カ月に2.3回□1週間に1.2回□1週間に3回以上3.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前4.点眼を忘れたことを,医師に伝えていますか?:□正確に伝えている□あまり伝えていない□全く伝えていない5.伝えていない理由を教えてください.□注意されるから□聞かれなかったから□眼圧が変化していなかったから□その他()6.理想の点眼回数は何回ですか?:□1日1回□1日2回□1日3回□1日4回以上□2日に1回□3日に1回□1週間に1回7.可能な点眼本数は何本ですか?:□1本□2本□3本□4本以上8.点眼習慣を妨げる要因は何ですか?(複数回答可):□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□点眼液のさし心地□点眼瓶の操作性□点眼液の副作用□その他()abc305050人数人数人数2030405060708090(歳)050100150200250300350(月)1剤2剤3剤4剤図1アンケート調査対象の背景a:年齢分布のヒストグラム.b:点眼治療月数.c:点眼治療剤数.しくはWilcoxon検定を用いて有意差検定を行い,p<0.05を有意差ありと判定した.II結果緑内障点眼治療期間は1カ月から25年までの平均5.3±4.5年であった(図1b).緑内障点眼治療剤数は1剤から4剤までの平均1.6±0.8剤であった(図1c).「点眼忘れ有り」と答えた患者は84名中68名(90.0%)であった.「点眼忘れ」の有無と年齢分布には一定の傾向はなく(図2a),「点眼忘れ」の有無と性別との関係では女性で「点眼忘れ」が多い傾向があったが,統計学的に有意ではなかった(表2,Fisherの正確確立検定:p=0.1728).仕事の有無と「点眼忘れ」の有無は今回の調査では一定の傾向が得られなかった(表3,Fisherの正確確立検定:p=0.3945).治療点眼剤数と「点眼忘れ」の有無についても一定の傾向はなかった(表4,Wilcoxon検定:p=0.1445).一方,「点眼忘れ有り」の患者は有意に治療月数が短く(図2b,対応のないt検定:p<0.0001),忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短い(図2c)という結果が得られた.点眼を忘れる時間帯は眠前が31名と最も多く,朝が18名,夕方が16名で昼は4名と少なかった(図3).「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対しては「正確に伝えている」と回答したものはなく「全く伝えていない」が85.3%,「あまり伝えていない」が14.7%であった(図4a).伝えていない理由については,「聞かれなかったから」が最も多く(75.0%),つぎに「注意されるから」が多かった(図4b).理想の点眼回数はほぼすべての患者が1日1回を選択し,1日3回以上を選択するものはいなかった(図5a).点眼可能な点眼剤数は1剤が73.8%,2剤が21.4%と2剤までで大半を占めた(図5b).患者が考える点眼を妨げる要因(複数回答)では本数(76.2%),時間帯(72.6%),回数(53.6%),操作性(42.9%)が上位を占めた.994あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(118) abc100350p<0.0001200治療月数p=0.0006p=0.000390NS30080250治療月数年齢(歳)15070200601001505010040503050200忘れ無し忘れ有り忘れ無し忘れ有り0月1回以内月2~3回週1~2回図2点眼忘れの関連要因a:点眼忘れの有無と年齢分布(NS:有意差無し).b:点眼忘れの有無と点眼治療月数の分布.c:点眼忘れの頻度と点眼治療月数の分布.表2点眼忘れの有無と性別朝(18名)夕方(16名)眠前(31名)昼(4名)図3点眼を忘れる時間帯点眼忘れ無有計性別女53540男113344計166884Fisherの正確確立検定:p=0.1728.表3点眼忘れの有無と仕事の有無ab眼圧が変化してない(5.9%)あまり伝えていない(14.7%)全く伝えていない(85.3%)その他注意される(14.7%)聞かれなかったから(75.0%)点眼忘れ無有計仕事無124254有42630計166884Fisherの正確確立検定:p=0.3945.表4治療点眼剤数と点眼忘れの有無図4点眼状況の主治医への情報提供a:点眼状況を主治医に伝える頻度.b:点眼状況を主治医に伝えなかった理由.a1日2回2日に1回b3剤(4.8%)(2.4%)(1.2%)1日1回(96.4%)1剤(73.8%)2剤(21.4%)点眼剤数1234計点眼忘れ無817016有40216168計482213184Wilcoxon検定:p=0.1445.III考按当院では緑内障点眼を開始する以前に数回眼圧を測定し,片眼トライアルをスタートする段階で,点眼の重要性,効果や副作用について患者に説明したうえで,十分に時間をかけ図5理想の点眼回数と点眼可能な点眼剤数て点眼指導を行い,患者のライフスタイルに合わせた点眼方a:理想の点眼回数.b:点眼可能な点眼剤数.法を提案するようにしている.にもかかわらず,予想外にア(119)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012995 ドヒアランスが悪く,「点眼忘れ有り」と答えた患者は90.0%おり,今回の結果は驚くべきものであった.その理由として,今回の調査では,看護師が結果を医師に伝えないという条件で聞き取り調査をしているため,主治医に対する気遣いによるバイアスを最小限に抑え,患者の本音が引き出せていた可能性がある.従来の研究でも,診療に携わっている医師が直接調査したと考えられる研究6)では「点眼忘れ」が少なく,薬剤師や看護師が調査した研究7.9)では「点眼忘れ」が多い結果が出ており,診療に携わっている医師が直接調査した研究では点眼の状況を正確に捉えきれていなかった可能性がある.以上より,本来正確に点眼状況を調査するためには電子媒体で記録すべきである10,11)が,残念ながらメーカーの協力は得られなかった.今回の調査では忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短いということが明らかとなった(図2b,c).Nordmannら11)がTRAVALERTRDosingAidを使用して調査した報告でも最初の週は「点眼できている」が平均で50%を切っており,それ以降の60%前後の値と比較すると,極早期でより「点眼忘れ」が多いという結果を得ている.その理由として,点眼をする習慣化をあげているが,筆者らの研究では点眼開始後の平均期間が長く,その間の受診時の教育効果も結果に影響していると考えられる.やはり,点眼を忘れずに行う習慣ができるまでは,毎回点眼状況を確認する必要がある.一方,点眼を忘れる時間帯では夕方と眠前で全体の61.8%を占めた(図3).この理由として,当院ではプロスタグランジンの処方割合が多く,その副作用から,入浴前の点眼を勧めることが多いことが影響したと考えられる.また,夕方と眠前に点眼を忘れる患者は就労世代の男性に多い傾向があり,飲食と「点眼忘れ」が関連している可能性が考えられた.一方,朝の「点眼忘れ」は主婦に多い傾向にあり,個人のライフスタイルに合わせた点眼指導が必要であることがわかる.一方,「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対して,「正確に伝えている」と回答したものがいなかったのは特筆すべきことである.さらに,伝えなかった理由については「聞かれなかったから」が最も多かったが,実際には「注意されるから」という心理がその裏には隠れている可能性がある.医療従事者は患者の心理状態を推し量り,患者自身にとって不利と感じられることは話さないということを考慮する必要がある.理想の点眼回数(図5a)と点眼可能な点眼剤数(図5b)の結果から,多くの患者は1日1回1剤が理想的であると考えているようである.今回の研究では点眼剤数による「点眼忘れ」への影響は明らかとはならなかったが,池田らの研究9)では点眼剤数が増えるとアドヒアランスが低下するという結果を得ている.点眼を妨げる要因(図6)でも点眼本数,点眼回数が上位を占めていることも,近年登場した合剤への移行を後押しするものと996あたらしい眼科Vol.29,No.7,201210076.272.653.642.98.37.10図6点眼を妨げる要因(複数回答,全体に占める%で表示)考えられる.今回のアンケート調査を通じて,点眼指導の問題点や日々の診療時における患者とのコミュニケーションの取り方についての問題点を明らかにすることができた.今後,点眼治療アドヒアランス向上を目指して,診療のさまざまな場面から患者との信頼関係を築き,治療状況を把握して,患者の生活に合った無理のない点眼方法を提案することが重要であると考えた.IV結論多くの緑内障患者は点眼のみで一生視機能で不自由することがないよう治療することができるようになった.その前提として,良好な点眼治療アドヒアランスは不可欠である.そのためには,医療従事者が点眼の重要性について患者に理解できるように説明し,日々の生活のなかで無理なく,忘れることなく継続できる方法を提案し,処方後は点眼の実施状況を確認する必要がある.本数時間帯回数操作性差し心地副作用利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeskeMC,HymanL,HusseinMetal:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:625-626,19992)DaniasJ,PodosSM:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:623-625,19993)RossettiL,GoniF,DenisPetal:Focusingonglaucomaprogressionandtheclinicalimportanceofprogressionratemeasurement:areview.Eye(Lond)24(Suppl1):(120) S1-S7,20104)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)SchwartzGF,QuigleyHA:Adherenceandpersistencewithglaucomatherapy.SurvOphthalmol53(Suppl1):S57-S68,20086)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20117)森田有紀,堀川俊二,安井正和:緑内障患者のコンプライアンス点眼薬の適正使用に向けて.医薬ジャーナル35:1813-1818,20108)山本由香里,嶋津みゆき,鶴田千明ほか:点眼薬のコンプライアンスについての検討─眼科診療補助員の立場から─.眼臨101:794-798,20079)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,200110)RegnaultA,Viala-DantenM,GiletHetal:ScoringandpsychometricpropertiesoftheEye-DropSatisfactionQuestionnaire(EDSQ),aninstrumenttoassesssatisfactionandcompliancewithglaucomatreatment.BMCOphthalmol10:1,201011)NordmannJP,BaudouinC,RenardJPetal:Measurementoftreatmentcomplianceusingamedicaldeviceforglaucomapatientsassociatedwithintraocularpressurecontrol:asurvey.ClinOphthalmol4:731-739,2010***(121)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012997

Patient-Centered Communication(PCC)Tool としての緑内障点眼治療アンケート

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):969.974,2012cPatient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート末武亜紀福地健郎田中隆之須田生英子中枝智子若井美喜子芳野高子原浩昭田邊朝子栂野哲哉関正明阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野GlaucomaTopicalMedication-relatedInterviewasPatient-CenteredCommunicationToolAkiSuetake,TakeoFukuchi,TakayukiTanaka,KiekoSuda,TomokoNakatsue,MikikoWakai,TakaikoYoshino,HiroakiHara,AsakoTanabe,TetsuyaTogano,MasaakiSekiandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:患者ごとの緑内障薬物治療を構築し,患者中心の治療(Patient-CenteredMedicine)を行うために,患者と医療者の情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は重要である.その手段の一つとして緑内障点眼治療に関する聞き取りアンケートを実施した.方法:対象は新潟県内10施設(すべて一般病院)で緑内障点眼治療中の患者182名.平均年齢は67.3±12.7歳,男性92名,女性90名.1剤点眼の患者が60%,2剤36%,1回点眼が49%,2回25%,3回18%と相対的に点眼薬数・回数が少なめの患者が対象となった.結果:年間の処方本数が不適切な患者はプロスタグランジン(PG)製剤39%,b-blocker35%,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)57%であった.年代別で若い患者は処方が過少,高齢者は過剰であった.点眼薬の名前を記憶している患者は21%,使用点眼薬数の間違いが8%の患者にみられ,点眼治療の理解は不良であった.患者自身による点眼治療の問題点は,しみる・かすむなどの点眼薬の使用感に関するものが最も多く,ついで点眼がうまくできない,点眼薬がよく見えないなどの点眼方法に関するものが多かった.治療が孤独,診療施設が遠く通院困難,点眼薬が高額で負担などの問題もみられた.緑内障点眼治療に関して,さまざまなネガティブ意見を抱えていた.結論:点眼治療に関するアンケートは全体の傾向だけでなく,アドヒアランス不良につながる個々の問題点を抽出することが可能であり,PCCの手段として有用であった.Adherencemeansagreatdealinglaucomatreatment.Toimproveglaucomapatients’adherence,Patient-CenteredCommunication(PCC)isconsideredthekeypoint.Weinterviewedpatientswhowereusingeyedropsforglaucoma,toassesseyedroptherapyforquestionnaires.Weinterviewedatotalof182patients,ranginginagefrom29to89years(average:67years).Weinquiredastotheirknowledgeofglaucoma,andfactorsthatinfluencetheiradherence.Wealsocheckedthewaysinwhichtheyusedeyedrops.Thepercentageofpatientsusingonetypeofeyedropforglaucomacomprised60%;thoseusingtwotypescomprised36%.Thoseusingeye-dropsonceadaycomprised49%,twiceaday25%andthreetimes18%.Wethentotaledtheannualnumberofeyedrops;unnecessarymedicationwasnotable.Rateofimproperuseofeyedroptypeswasasfollows:prostaglandinanalog39%,beta-adrenergicagonist35%andsystemiccarbonicanhydraseinhibitor57%.Olderpatientsusedeyedropstoexcess.Attheotherextreme,youngerpatientsusedeyedropstoolittle.Only21%ofthepatientsansweredcorrectlyanameofeyedrop;8%didnotevenknowwhicheyedropwasforglaucomatreatment.Theproblemswitheyedroptherapyarevarious.Somepatientsdonotknowhowtoproperlyuseeyedrops.Theyalsohavemanynegativeopinionsthatcanleadtonon-adherence.Theinterviewisveryuseful,notonlyasaPCCtool,butalsotoidentifyfactorsthatinfluencenon-adherence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):969.974,2012〕Keywords:緑内障,点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,eyedroptherapy,questionnaires,adherence.〔別刷請求先〕末武亜紀:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野(眼科)Reprintrequests:AkiSuetake,DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachi-dori,Chuou-ku,NiigataCity951-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)969 はじめに近年,緑内障点眼治療に関してコンプライアンスからアドヒアランスへと概念が変化し,そしてアドヒアランスの重要性が注目されている.コンプライアンスは医師の服薬指示に患者がどの程度従っているかを評価する服薬遵守を意味する.コンプライアンスの良否の判断は医療者側によってなされ,指示どおり服薬できない場合は患者の問題として判断し,指導・説得によりコンプライアンスを高める.一方,アドヒアランスは患者が積極的に治療方針の決定に参加し,納得した治療を受けることを意味する.服薬率を高めるためには,薬剤・患者・医療者側のそれぞれの因子を総合的に考え,患者が参加し実行することが必要である.医師は患者の疑問・不安などの情報を収集し,治療を修正していく必要がある1,2).つまり,治療は患者が主体的に自身のために行うものであり,治療の中心は患者自身であるというPatient-CenteredMedicine(PCM)がアドヒアランスの基本である.アドヒアランスを向上させ患者ごとの緑内障薬物治療を構築するために,患者を中心とした医療者との情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は非常に重要となる3,4).患者がどのような意見や問題点を抱えているかを抽出し,どの程度治療状況を理解しているか客観的に調べるため,PCCの一つの手段として緑内障点眼治療に関する聞き取り型アンケート調査を行った.I対象および方法対象は新潟県内10病院(小千谷総合病院,木戸病院,新潟南病院,新潟県立六日町病院,新潟県済生会三条病院,中条中央病院,柏崎中央病院,信楽園病院,新潟医療センター,豊栄病院)のいずれかの眼科において1種類以上の緑内障点眼薬を使用して治療および経過観察中の緑内障患者182名である.研究に先立って新潟大学およびすべての病院において倫理委員会の承認を受け,各患者からアンケートの同意をいただいた.患者は男性92名,女性90名,平均年齢は67.3±12.7歳(29.89歳)であった.59歳以下48例(26%),60.69歳43例(24%),70.79歳57例(31%),80歳以上34例(19%)であった.緑内障の病型は,開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障52例・正常眼圧緑内障94例・発達緑内障1例・落屑緑内障9例)156例,原発閉塞隅角緑内障8例,ぶどう膜炎による緑内障6例,血管新生緑内障4例,ステロイド緑内障2例,その他7例であった.外来診察や視野検査後などに,医療者(看護師または視能訓練士)により,以下の内容について個別に質問・記入し,最終的に医師が評価した.アンケートの内容を表1に示した.使用中の緑内障点眼薬の数,名前,点眼の確実さ,点眼手技や方法,その他の治療状況について口頭で質問した.さらに緑内障点眼治療についての各自の感想や意見,困っている点などについて聴取した.アンケートの後に,医師がアンケート時の年齢,病型,表1緑内障点眼治療に関する患者さまへのアンケート1)緑内障点眼薬をどなたが点眼していますか?答患者自身・家族()・その他()2)点眼薬の管理(数や量の確認,保管など)はどなたがされていますか?答患者自身・家族()・その他()3)点眼薬は確実に点眼していますか?どのくらい忘れますか?答忘れない・時々忘れる・よく忘れる・つけていない全体として何パーセントくらい点眼していると思いますか?答()%4)どのような時に忘れますか(複数可)?答忙しい・旅行・仕事中・なんとなく・つけたくない・その他()5)現在,緑内障の治療のために何種類の点眼薬を使っていますか?答()種類6)薬の名前を覚えていますか?答はい:名前を教えてくださいいいえ:どのように区別していますか?キャップの形・キャップの色・袋の色・その他①()②()③()④()7)それらの点眼薬はどこに保管していますか?(番号は6に同じ)①室内・冷所・その他()②室内・冷所・その他()③室内・冷所・その他()④室内・冷所・その他()8)点眼のタイミングは時間で決めていますか,イベントで決めていますか?答時間・イベント時間の方:何時にしていますか?()イベントの方:いつしていますか?()9)(2剤以上点眼している方に)同じ時間に点眼することがありますか?間隔はどのくらいあけていますか?答はい・いいえ()分くらい10)点眼した後に瞼を閉じていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい11)点眼した後に目頭をおさえていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい12)緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていることを教えてください答しみる・かすむ・ゴロゴロする・充血する・うまく点眼できない・点眼薬がよく見えない・よく忘れる・必要性がわからない・治療が面倒・治療したくない・治療が孤独・家族が非協力的・薬の数が多い・薬の価格が高い・その他:13)以下,自由記入欄970あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(94) 緑内障に関する点眼薬の種類,一日当たりの点眼回数などについて確認した.また,カルテの記録上で1年間の点眼薬処方本数を計算した.最近1年以内に処方薬が変更になっている症例に関してはこの検討から除外した.点眼薬の1滴の容量は30.50μlと銘柄間に差があるが,1滴容量が15.20μlの点眼で通常は十分であること5,6)と添付文書上の使用可能期間から1カ月に1本を点眼薬の適正使用本数とし,最近1年間のそれぞれの点眼薬の適切な処方本数を12.14本として,9本以下を少ない,10.11本をやや少ない,15.17本をやや多い,18本以上を多いと,5群に分け検討した.なお,アンケート対象患者182名のうち片眼のみ緑内障点眼を使用している患者は25名(14%),点眼数では33例であった.実際の点眼使用量は片眼と両眼で差があるが,冨田らは代表的な緑内障点眼薬の1滴容量や使用期間などを調査した結果,開封から1カ月の使用期間を目安とし,長期間点眼が可能な品目を処方する場合,1カ月を目処に新しい製品に切り替える指導が特に必要と述べている7).適正な使用期間で点眼していれば両眼あるいは片眼で顕著な差は生じないこと,使用期間の適切さも緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わることを考慮し,今回のアンケートでは上記のように処方本数を決定した.点眼薬処方本数を70歳未満と70歳以上で分け,「多い」,「やや多い・適当・やや少ない」,「少ない」の3つの基準で多層のk×2表検定(Mantel-extension法)を用いて統計学的に検討した.II結果対象のうち,緑内障の点眼薬数は1剤点眼の患者は(実数)60%,同2剤点眼が同36%,点眼回数では1回点眼が同49%,2回同25%,3回同18%であった(図1).内訳は1剤点眼でプロスタグランジン製剤(以下,PG)69例,b遮断薬(以下b)37例,炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)3例であった.2剤点眼では,PG+b38例,PG+CAI18例,b+CAI8例,CAI+a1遮断薬1例であった.年間の点眼薬処方本数に関して点眼薬の系統別(図2),年齢別(図3)に示した(直前1年に処方変更がある例は除外した結果,対象は計237例,点眼薬別ではPG119例,b83例,CAI35例,年齢別では20.50歳代51例,60歳代53例,70歳代84例,80歳代46例という内訳であった).年齢別では処方本数が少ないまたは多い患者を処方不適切とした場合,PGが同39%,bが同35%,CAIが同57%であった.年齢別には処方不適切の症例は20.50歳代同41%,60歳代同23%,70歳代同44%,80歳代以上同52%であった.PG製剤の年間点眼薬処方本数は,70歳以上の高齢群で統計学的に有意に過剰であった(p=0.040).CAIの処方本数(95)■:1剤点眼薬数■:2剤:3剤0%20%40%60%80%100%■:4剤■:1回点眼回数■:2回:3回0%20%40%60%80%100%■:4回■:5回図1緑内障の点眼薬数と一日当たりの総点眼回数■:多いPG■:やや多い:適切b■:やや少ない■:少ないCAI0%20%40%60%80%100%図2年間の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)20~50歳代■:多い60歳代■:やや多い:適切70歳代■:やや少ない■:少ない80歳代0%20%40%60%80%100%図3年齢別の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)も同様に,高齢群で過剰であった(p=0.021).点眼を誰がしているか,点眼薬の名前を知っているかなど点眼治療の理解に関する質問や点眼精度や手技を確認する質問への結果を表2に示した.緑内障点眼薬や点眼治療について困っていることを聴取した結果を表3に示した.III考按緑内障は眼科臨床のなかでも,特にアドヒアランスを意識した対応が必要な疾患であり1),正確に点眼してこそ真の治療効果を期待できるが,その一方でアドヒアランスを維持することはきわめてむずかしい疾患ともいえる.良好なアドヒアランスを継続しさらに向上するためには,患者の不安や疑問を傾聴し,情報収集しながら治療を修正し継続していくことが重要であるが,実際の日常診療では非常に困難といえる.髙橋らのアンケート結果では,大学病院通院中の368名を対象とし,医師の説明について半数近くのあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012971 表2アンケート結果.点眼はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼の管理(数の確認や保管)はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼薬は確実に点眼しているか?忘れない:115名(63%),時々忘れる:64名(35%),よく忘れる:1名(0.5%),つけていない:0名.全体として何%くらい点眼しているか?100%点眼:88名(48%),90%以上点眼:160名(88%),80%以上90%未満:14名(8%),70%以上80%未満:2名(1%),70%未満:3名(2%).どのような時に忘れるか?(複数回答可)なんとなく:29名,忙しい:21名,旅行:17名,仕事中:7名,飲み会:6名,外出時:4名,他眠い時,運動中など.点眼薬の名前は?正しく答えた方:38名(21%).緑内障の治療のための点眼は何種類使っているか?正解:168名(92%),不正解:14名(8%).点眼はどのように区別しているか?キャップの色:42名(回答者97名のうち43%),袋の色:41名(同42%),キャップの形:10名(同10%),容器色:2名(同2%),置き場所:2名(同2%).点眼のタイミングは?時間:31名(17%),イベント(食事や就寝など):150名(82%).(2剤以上を)同じ時間に点眼する場合,間隔をあけているか?あける:62名(回答者79名のうち78%)→5分以上あける:49名(同62%)間隔あけない:17名(同22%).点眼したあとに瞼を閉じているか?閉じる:119名(65%)→1分以上閉じる:64名(35%)閉じない:63名(35%).点眼したあと,涙.部圧迫をしているか?圧迫している:57名(31%)→1分以上圧迫:34名(19%)圧迫しない:125名(69%)表3緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていること使用感.しみる:35人.かすむ:34人.充血する:17人.ゴロゴロする:10人.かゆい:2人.睫毛がのびる:1人方法・手技.うまく点眼できない:27人.点眼薬がよく見えない:21人.よく忘れる:8人治療の目的・意味.必要性わからない:18人.治療が面倒:12人.治療したくない:10人.進行が止まっているか不安:4人.緑内障のほかに白内障といわれ不安:1人点眼薬.薬の価格が高い:26人.薬の数が多い:7人.1カ月で1本使用が面倒.点眼薬の冷蔵保存を忘れる.容器の固さが違い点眼しづらい環境.治療が孤独:6人.家族が非協力的:3人.通院が困難.診察間隔を延ばしてほしい.経済的に負担回答なし:7人患者が説明不足と感じていた8).今回,患者のアドヒアランス不良因子はどういったものか,緑内障点眼治療にどのようなネガティブな意見を抱えているか,PCCツールの一つとしてアンケート調査を行った.今回のアンケート調査はすべて一般病院で行ったことから,点眼薬数は2剤まで95%,点眼回数は3回まで92%と相対的に点眼薬数および点眼回数が少なく,緑内障薬物治療の形態としては比較的プライマリーでシンプルな患者が対象となった.つまり,医師の立場で考えた場合には,患者にとってはまだ負担も軽くわかりやすい治療の状況にある方々が対象になった.逆に緑内障専門施設に通院している患者の場972あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012合には,薬剤数は多く,そのコンビネーションは複雑であるが,緑内障に対する病識は高くアドヒアランスはより良好であることが推測される.このようなアンケート調査の結果というのは,対象の選択方法,治療・管理を行っている施設・医師によって大きく異なる.同施設であっても質問者が医師かあるいは看護師や視能訓練士かによって結果にバイアスは生じると考えられる.したがって,結果を評価する場合には,実数は単に傾向を示すだけで,重要なのは抽出された問題点の項目である.さらに,患者の自己申告の多くは,実際の治療状況と異なるという点においても評価には限界がある.Norellらは,面(96) 接によるコンプライアンス不良は3%であったが,客観的な点眼モニターでの調査では49%を占めたと報告している9).わが国では塚原が,面接ではコンプライアンス不良が18%と自己申告では良好であっても10),同施設で点眼モニターを用いた佐々木はコンプライアンス不良が41%であったと報告している11).患者の自己申告は正しくないことがほとんどで,問診によっても医療者は正確に把握できない.今回のアンケート調査においても,患者の半数近くが点眼の確実さは100%と自己申告は過剰に良好であった.患者の自己申告をもとにした統計学的な解析はあまり意味をなさないと考えられる.自己申告は良好であってもアンケート結果には,確実な自己点眼のむずかしさ,点眼治療における理解の不良さが如実に表れている.たとえばその一つが年間処方本数である.年間の点眼処方本数が不適切な患者は,最も少ないbブロッカーで35%,CAIでは57%であった.CAIは,2剤目,3剤目に追加で処方されるケースが多く,一日2回または3回点眼で回数が他の点眼群より多いことも影響していると考えられた.60歳代が最も的確に緑内障に対する点眼治療を行っていると考えられ,より若い患者では点眼治療が過少,より高齢の患者では過剰な傾向にあった(図3).若い世代では仕事が忙しい,飲み会などで点眼を忘れるという回答が目立っていた.高齢者では加齢による物忘れや自己管理不十分などによってアドヒアランスが悪化するケースが考えられる.60歳代の結果は,退職などを契機に治療に関わる時間的余裕ができ,アドヒアランスが改善,より的確に点眼治療が実施される傾向を表しているものと考えられた.さらに,点眼薬の名前は正答率21%とおよそ5人に1人しか正確に名前を把握しておらず,どの点眼薬が緑内障のためのものかを8%の患者が理解していなかった.点眼薬数・回数が相対的に少ない患者が対象であったにもかかわらず,名前の正答率や緑内障の点眼薬数を理解している患者は小数であった.小林らが大学病院通院中の開放隅角緑内障患者168名を対象とした面接法によるアンケートでも使用中の薬剤名を正解した患者は19%とほぼ同等の結果であった12).患者の治療に対する理解はきわめて心許ないといえる.点眼薬の名前を覚えていない患者は,キャップの色もしくは袋の色で区別するものがほとんどであった.しかし,実際には袋の入れ間違いやキャップを閉める際の取り違いなどにより,間違いが起こる可能性も否定できない.点眼手技においても,同じ時間に点眼する場合間隔をあけることや,涙.圧迫,閉瞼も患者ごとに自己流で長年続けている者が多かった.点眼治療自体はシンプルに感じても,「正しく確実な」点眼はとてもむずかしい.問診だけでは十分に把握することは困難で,ときには実際に医療者の前で人工涙液の点眼をさせ,点眼手技を確認するなどの工夫も必要(97)である.池田らは,59歳以下はアドヒアランスが良好な傾向を示すのに対し,60歳以上は不良傾向であること,60歳以上の高齢者には積極的な点眼指導を行う必要性を指摘している5).緑内障薬物治療に関する各患者の意見や問題点を調査した結果(表3)では,日常の診療中には気付かないさまざまな項目がピックアップされた.患者の多くは使用感など点眼薬そのものに対する不満をもっており,しみる,かすむ,充血する,ゴロゴロするなどと回答した患者が多かった.手技に関して,27名の患者は点眼がうまくできない,21名は点眼薬がよく見えないと回答していた.誰が点眼しているか,誰が点眼薬の管理をしているかという問いに対していずれに対しても96%の患者は自分自身で行っていると答えていた.ほとんどすべての患者が自己点眼・管理をしている.つまり手技的に問題があることを本人が自覚していても,自己修正は困難で,しかも家族などの協力は頼めず,医療者に相談していない,という実態が明らかになった.治療の目的や意味がよくわからない,治療が面倒という意見も当然のことではあるがみられた.一般に薬剤の価格について医師に不満を訴える患者は少ないが,実際には価格や治療の負担などに対する不満を感じている患者も多いことがわかった.緑内障治療はアドヒアランスがより重要な疾患であるにもかかわらず,アドヒアランス不良をひき起こすさまざまな原因があり,このような聞き取り型アンケート調査は個々の問題点を抽出する有効な手段であると考えられた.今後は,このアンケート結果も踏まえたうえでの対策が課題となる.まず,結果からも明らかなように医療者が,患者は処方した点眼薬を正確に使用しているという誤解を解消すること,個々の患者がアドヒアランス不良の因子を抱えていることを認識する必要がある.主治医のみでアドヒアランスを改善させることは不可能であり,非効率的である.池田らは点眼の説明を医師が関与した場合にアドヒアランスがむしろ不良となるという興味深い結果を指摘している.医師が診察中に説明する場合は診断や治療方針の説明が中心となり,点眼薬についての時間が短くなること,点眼指導は薬剤師が行うことを期待し簡単な説明に留まっているためと池田らは考えている5).緑内障診療において,良好なアドヒアランスとさらなるアドヒアランス向上のために医師・薬剤師・看護師・視能訓練士がチームを構築し,チーム内で協力・分担・コミュニケーションを進めながら診療にあたることが重要と考えられる.当院での実践例としては,専任の看護師による外来点眼指導を開始した.その際,アンケート結果から高齢者自身での理解や点眼手技の正確さには限界があると考え,家族も同伴で受講してもらって,その際にサポートを依頼している.今回は一般病院通院中の比較的点眼処方本数・回数が少なあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012973 い患者が対象であり,大学病院通院中の多剤併用している患者や視野障害が高度の患者を対象としアンケートを比較検討することも今後の課題の一つである.前述したように,緑内障診療はチームとして定期的な情報収集と個別の対策,修正を繰り返しながら継続することが重要である.緑内障点眼治療アンケートは,アドヒアランス改善を目指したPCCツールとして有用であり,全体の問題点とともに個々の患者の問題点も把握することができる.そして,このようなアンケートは繰り返すことも有用である.定期的に行うことによって,個々の患者のアドヒアランスの問題点が改善したか,維持されているか,などを確認していくことも必要である.追記:アンケートの実施と収集にご協力いただきました以下の視能訓練士の皆様にこの場を借りて感謝申しあげます.渡邊順子,吉原美和子(小千谷総合病院),石井康子,渡邉彩子(木戸病院),山田志津子,遠藤昌代,斉藤麻由美(新潟南病院),町田恵子(新潟県立六日町病院),寺下早苗,川又智美(新潟県済生会三条病院),池田豊美(中条中央病院),渡邊幸美(柏崎中央病院),羽賀雅世,風間朋子(信楽園病院),宮北結花,貝沼真由美(新潟医療センター).(敬称略)利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)内藤知子,吉川啓司:コンプライアンス(アドヒアランス)の実際とその向上法.臨眼63:262-263,20092)森和彦:治療に対するアドヒアランス向上のためのコミュニケーション学.眼科52:401-406,20103)HahnSR:Patient-centeredcommunicationtoassessandenhancepatientadherencetoglaucomamedication.Ophthalmology116:S37-S42,20094)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnoadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,20105)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.藥學雜誌121:799-806,20016)池田博昭,塚本秀利,三嶋弘ほか:点眼液1滴あたりの容量の違いとその影響.眼科44:1805-1810,20027)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20068)髙橋雅子,中島正之,東郁郎:緑内障の知識に関するアンケート調査.眼紀49:457-460,19989)NorellSE,GranstormPA,WassenR:Amedicationmonitorandfluoresceintechniquedesignedtostudymedicationbehavior.ActaOphthalmol58:459-467,198010)塚原重雄:緑内障薬物治療法とcompliance.臨眼79:9-14,198511)佐々木隆弥:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198612)小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼60:37-41,2006***974あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(98)

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):555.561,2012c緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:SecondReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)KeijiYoshikawa6)and1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因を調査するため,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症を対象にアンケートを実施した.同時に年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.236例(男性106例,女性130例),平均年齢65.1±13.0歳が対象となった.点眼忘れは男性(p=0.0204),若年(p<0.0001),薬剤変更歴がない症例(p=0.0025)に多くみられた.点眼回数に負担は感じないと回答した症例では,眼圧が高く(p=0.0086),MDが低い(病期進行例)(p=0.0496)ほど点眼忘れは少なかった.しかし,薬剤数が増加すると,点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え(p<0.0001),点眼を忘れる頻度は高くなった(p=0.0296).薬剤数ならびに点眼回数の増加は,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性がある.Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Eyedropinstillationwasneglectedmoreinmalesthaninfemales(p=0.0204),youngerpatients(p<0.0001)andpatientswithnohistoryofdrugchanges(p=0.0025).Inpatientswhodidn’tfeelburdenedduringtimesofeyedropuse,eyedropinstillationwaslessneglectedinthosewithhigherIOP(p=0.0086),andlowerMD(p=0.0496).Withincreasingnumberofeyedropinstillations,thosewhofeltburdenedduringtimesofeyedropuseincreased(p<0.0001)andmorefrequentlyneglectedeyedropinstillation(p=0.0296).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):555.561,2012〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence.はじめに緑内障治療においてエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降のみである1).最近ではその進歩により有意な眼圧下降が得られるようになったため,緑内障点眼薬が治療の第一選択となっている.一方,緑内障は慢性進行性であるため,点眼薬は長期にわたり使用する必要がある.しかし,自覚症状に乏しい緑内障では点眼の継続は必ずしも容易ではない.ここで,最近,慢性進行性疾患の治療の成否に影響する要因として,患者の積極的な医療への参加,すなわち,アドヒアランスが注目されている.緑内障点眼治療においてもアドヒアランスが良好であれば治療効果に直結しうる2,3).さて,アドヒアランスを確保するための第一段階は患者の病態理解だが,このためには医療側から患者への情報提供が〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)555 必要である.ここで,情報提供の具体化にはアドヒアランスに関連する要因の分析が求められる.そこで,筆者らは緑内障点眼薬使用に関するアンケート調査を行い,「指示通りの点眼の実施」をアドヒアランスの目安とした際に,65歳以上の男性で「眼圧を認知」していれば「指示通りの点眼」の実施率が高く,他方,若年の男性では「指示通りの点眼」の実施率が低値に留まることを報告した4).すなわち,アドヒアランスには病状認知や性別,年齢などが影響する可能性が示唆された.一方,使用薬剤数5.8)などの点眼薬に関わる要因や緑内障の重症度8)もアドヒアランスに関連することが報告されている.そこで,今回,アンケート調査時に調べた症例ごとの使用薬剤数別に「指示通りの点眼」との関連を調べ,さらに,アドヒアランスの一面を反映すると考えられる「点眼の負担」や「点眼忘れ」に関するアンケート結果と,眼圧や視野障害の程度など背景因子の影響についても検討したので報告する.I対象および方法緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過した,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設においてアンケート調査を施行した.なお,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は対象から除外した.調査方法は既報4)のごとく,診察終了後にアンケート用紙を配布,無記名式とし,質問項目への記入を求めた.性別,年齢,眼圧,使用薬剤などは,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,両眼で使用薬剤が異なる場合は,薬剤数が多い側の情報を選択した.また,緑内障点眼薬以外の点眼薬使用の有無についても調べた.さらに,アンケート調査日前6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)Standardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例のうち,少なくとも3回以上の視野検査経験があり,信頼性良好な検査データ(信頼度視標の固視不良が20%未満,偽陽性15%未満,偽陰性33%未満9))が入手可能な症例では,その平均偏差(meandeviation:MD)も調査した.なお,罹患眼が両眼の場合は,MDが低いほうの眼の値を解析データとした.一方,罹患眼が両眼の症例で,組み入れ基準を満たした検査データが片眼のみだった場合は,解析の対象から除外した.データ収集施設において,回収したアンケートの記載内容に不備がある症例を除外し,あらかじめ作成したデータ入力用のエクセルシートに結果を入力した.入力結果はデータ収集施設とは別に収集し(Y.K.),さらに,アンケートの質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?),質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)および質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)のそれぞれの回答結果と薬剤数,MDなど背景因子との関連をJMP8.0(SAS東京)を用い,c2検定,t検定,分散分析,Tukey法により検討した.有意水準は5%未満とした.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.II結果1.背景因子と薬剤関連要因アンケートに有効回答が得られた236例(男性106例,女性130例)の平均年齢は65.1±13.0(22.90)歳であった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0.23.0)mmHgであったが,男性は14.3±2.9mmHgで女性の13.4±2.9mmHgに比べ有意に高かった(p=0.0267)(表1).信頼性のある視野検査結果が得られたのは236例中226例(95.8%)で,その平均MDは.10.08±8.29(.33.00.0.99)dBであった(図1).なお,平均MDは性別(男性:.11.03±8.39dB,女性:.9.27±8.14dB,p=0.1127)や年齢層(65歳未満:.9.39±7.83dB,65歳以上:.10.61±8.62dB,p=0.2720)間で明らかな差は認めなかった(表1).対象の平均緑内障点眼薬剤数は1.7±0.8剤〔1剤:120例(50.8%),2剤:62例(26.3%),3剤:53例(22.5%),4剤:1例(0.4%)〕であった.また,緑内障以外の点眼薬剤を使用していたのは55例(23.3%)であった.平均緑内障点眼回数は2.3±1.5(1.6)回/日(図2)で,薬剤追加歴のある症例は96例(40.7%)であった.なお,平均緑内障点眼薬剤数と性別・年齢との関連はなかった(男性:1.8±0.8剤,女性:1.7±0.8剤,p=0.1931,65歳未満:1.6±0.8剤,653102029374674807060504030201007症例数(例)-35-30-25-20-15-10-505MD(dB)図1MDの分布556あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(122) 表1性別・年齢層別比較性別年齢層別背景因子男性(n=106)女性(n=130)p値65歳未満(n=102)65歳以上(n=134)p値眼圧14.3±2.9mmHg13.4±2.9mmHg0.0267*13.8±2.8mmHg13.7±3.1mmHg0.7822*MD.11.03±8.39dB※1.9.27±8.14dB※20.1127*.9.39±7.83dB※3.10.61±8.62dB※40.2720*緑内障点眼薬剤数1.8±0.8剤1.7±0.8剤0.1931*1.6±0.8剤1.8±0.8剤0.2074*緑内障点眼回数2.4±1.5回/日2.2±1.4回/日0.3229*2.1±1.4回/日2.4±1.5回/日0.0884*薬剤追加歴有42例(39.6%)無64例(60.4%)有54例(41.5%)無76例(58.5%)0.7657**有31例(30.4%)無71例(69.6%)有65例(48.5%)無69例(51.5%)0.0050**※1:n=104,※2:n=122,※3:n=99,※4:n=127.5回/日6回/日23例(9.7%)3例(1.3%)3回/日24例(10.2%)図2緑内障点眼回数1回/日109例(46.2%)2回/日45例(19.1%)4回/日32例(13.6%)歳以上:1.8±0.8剤,p=0.2074).薬剤追加歴がある症例は65歳以上134例中65例(48.5%)で,65歳未満102例中31例(30.4%)に比べ有意に高率であった(p=0.0050)(表1).2.アンケート質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)との関連236例中236例(100%)で,アンケート質問5に対し回答が得られた.236例中185例(78.4%)が,指示通りに点眼できないことは「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」は47例(19.9%),「しばしばある」は4例(1.7%)であった.すなわち,「ほとんど指示通りに点眼できていた」のは236例中185例(78.4%),「指示通りに点眼できないことがあった」のは51例(21.6%)であった(図3).緑内障点眼薬剤数と指示通りの点眼の関連を検討した.「ほとんど指示通りに点眼できていた」185例における薬剤数は1剤:98例(53.0%),2剤:44例(23.8%),3剤以上:43例(23.2%)に対し,「指示通りに点眼できないことがあった」51例では1剤:22例(43.1%),2剤:18例(35.3%),3剤以上:11例(21.6%)で,両群間に有意差はなかった(p=0.2434)(表2).「指示通りに点眼できないことがあった」のは薬剤変更歴がある103例中18例(17.5%),変更歴がなかった133例中33例(24.8%)で,両群間に明らかな差はなかった(p=0.1745).同様に,薬剤追加歴がある96例中25例(26.0%),追加歴がなかった140例中26例(18.6%)が「指示通りに点(123)*:t検定,**:c2検定.時々ある47例(19.9%)ほとんどない185例(78.4%)指示通りに点眼できないことがあった51例(21.6%)ほとんど指示通りに点眼できていた185例(78.4%)しばしばある4例(1.7%)図3質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)への回答結果表2緑内障点眼薬剤数と「指示通りの点眼」の関連薬剤数ほとんど指示通りに点眼できていた(n=185)指示通りに点眼できないことがあった(n=51)p値1剤98例(53.0%)22例(43.1%)0.24342剤44例(23.8%)18例(35.3%)3剤以上43例(23.2%)11例(21.6%)c2検定.:ほとんど指示通りに点眼できていた■:指示通りに点眼できないことがあった薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)75.224.882.517.5薬剤追加歴なし(n=140)薬剤追加歴あり(n=96)050100(%)81.418.674.026.0図4薬剤変更・追加歴と「指示通りの点眼」の関連あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012557 眼できないことがあった」が,有意差はみられなかった(p=0.1708)(図4).3.アンケート質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)との関連アンケート質問6に対し回答が得られた236例中「負担は感じない」は196例(83.1%),「どちらともいえない」は28例(11.9%),「負担を感じる」は12例(5.1%)であった(図5).「負担は感じない」と回答した196例の使用薬剤数は1剤:112例(57.1%),2剤:49例(25.0%),3剤以上:35例(17.9%)であり,「どちらともいえない」と回答した28例では1剤:8例(28.6%),2剤:11例(39.3%),3剤以上:9例(32.1%)であった.これに対し,「負担を感じる」と回答した12例中には,3剤以上使用者が10例(83.3%)負担を感じる12例(5.1%)どちらともいえない28例(11.9%)負担は感じない196例(83.1%)図5質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)への回答結果:負担は感じない■:どちらともいえないを占め,1剤使用で負担を感じた症例はなかった.薬剤数が増えるほど有意に「負担を感じる」症例は増加した(p<0.0001)(表3).一方,薬剤変更歴と点眼負担に有意な関連はみられなかった(p=0.5286)(図6).薬剤追加歴がある96例中「負担を感じる」と回答したのは11例(11.5%)で,追加歴がなかった症例140例中1例(0.7%)に比べ有意に高率であった(p=0.0002)(図6).4.アンケート質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)との関連アンケート質問8に対し回答が得られたのは236例中233例(回答率98.7%)で,そのうち127例(54.5%)が「忘れたことはない」と回答した.一方,「忘れたことがある」と回答した106例(45.5%)に対する付問(どの程度忘れられましたか?)については,「3日に1度程度」8例(3.4%),「1週間に1度程度」22例(9.4%),「2週間に1度程度」26例(11.2%),「1カ月に1度程度」50例(21.5%)であった(図7).緑内障点眼薬剤数と点眼忘れの有無には有意な関連はなかった(p=0.1587).しかし,「点眼忘れ」の頻度が「週1回以上」の30例の使用薬剤数は1剤:11例(36.7%),2剤:10例(33.3%),3剤以上:9例(30.0%)であったのに対し,「2週間に1回以下」の76例では1剤:47例(61.8%),23日に1度程度1週間に1度程度8例(3.4%)■:負担を感じる2週間に1度程度*p=0.0002:c2検定3.826例(11.2%)1カ月に1度程度50例(21.5%)22例(9.4%)忘れたことはない127例(54.5%)忘れたことがある106例(45.5%)薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)85.011.380.612.66.80.7薬剤追加歴なし(n=140)90.09.372.915.611.5*忘れたことはない薬剤追加歴あり127例(54.5%)(n=96)050100(%)図7質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことが図6薬剤変更・追加歴と「点眼負担」の関連ありませんか?)への回答結果表3緑内障点眼薬剤数と「点眼負担」の関連薬剤数1剤2剤3剤以上負担は感じない(n=196)112例(57.1%)49例(25.0%)35例(17.9%)どちらともいえない(n=28)8例(28.6%)11例(39.3%)9例(32.1%)負担を感じる(n=12)0例(0.0%)2例(16.7%)10例(83.3%)p値<0.0001c2検定.558あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(124) 剤:20例(26.3%),3剤以上:9例(11.8%)であり,薬剤数が増えるほど有意に「点眼忘れ」の頻度は増加した(p=0.0296)(表4).薬剤変更歴がない131例中「忘れたことがある」と回答したのは71例(54.2%)であり,変更歴があった症例102例中35例(34.3%)に比べ有意に高率であった(p=0.0025).一方,薬剤追加歴との有意な関連はなかった(p=0.8377)(図8).5.背景因子との関連(p<0.0001),眼圧低値(p=0.0086),MD高値(p=0.0496)の症例は点眼忘れが多かった(表5).点眼負担の回答別にも背景因子との関連を検討したが,性別(p=0.6240),年齢(p=0.4672)との関連は明らかでなかった.一方,「負担を感じる」と回答した症例のMD(.:忘れたことはない■:忘れたことがある*p=0.0025:c2検定薬剤変更歴なし「点眼忘れ」は,男性(p=0.0204)および若年(p<0.0001)(n=131)45.854.265.734.3*で有意に高率に認めたが,眼圧(p=0.0536)やMD(p=薬剤変更歴あり0.2368)との間に有意な関連は認めなかった(表5).(n=102)点眼回数に「負担は感じない」と回答した196例中,質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)薬剤追加歴なし(n=139)に対する回答が得られた194例(回答率99.0%)のうち,84薬剤追加歴あり例(43.3%)が点眼を「忘れたことがある」と回答した.点(n=94)54.046.055.344.7眼忘れの有無により分けて背景因子を比較したところ,若年050100(%)図8薬剤変更・追加歴と「点眼忘れ」の関連表4緑内障点眼薬剤数と「点眼忘れ」の関連点眼忘れ忘れる頻度薬剤数忘れたことはない忘れたことがある2週間に1回以下週1回以上(n=127)(n=106)p値(n=76)(n=30)p値1剤61例(48.0%)58例(54.7%)0.158747例(61.8%)11例(36.7%)0.02962剤31例(24.4%)30例(28.3%)20例(26.3%)10例(33.3%)3剤以上35例(27.6%)18例(17.0%)9例(11.8%)9例(30.0%)c2検定.表5「点眼忘れ」と背景因子の関連全症例「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例背景因子忘れたことはない忘れたことがある忘れたことはない忘れたことがある(n=127)(n=106)p値(n=110)(n=84)p値性別男性49例(38.6%)男性57例(53.8%)0.0204*男性43例(39.1%)男性44例(52.4%)0.0652*女性78例(61.4%)女性49例(46.2%)女性67例(60.9%)女性40例(47.6%)年齢69.4±11.0歳59.8±13.3歳<0.0001**69.9±10.8歳59.6±13.7歳<0.0001**眼圧14.1±3.0mmHg13.4±2.9mmHg0.0536**14.2±3.1mmHg13.0±2.8mmHg0.0086**MD.10.72±8.48dB※1.9.40±8.11dB※20.2368**.10.46±8.63dB※3.8.12±7.18dB※40.0496**※1:n=120,※2:n=103,※3:n=104,※4:n=83.*:c2検定,**:t検定.表6「点眼負担」と背景因子の関連負担は感じないどちらともいえない負担を感じる背景因子(n=196)(n=28)(n=12)p値性別男性87例(44.4%)男性12例(42.9%)男性7例(58.3%)0.6240*女性109例(55.6%)女性16例(57.1%)女性5例(41.7%)年齢65.6±13.1歳62.5±12.0歳63.8±12.9歳0.4672**眼圧13.7±3.0mmHg14.4±2.7mmHg14.1±2.3mmHg0.4789**MD.9.38±8.06dB※1.10.25±6.68dB※2.20.77±7.93dB<0.0001**※1:n=189,※2:n=25.*:c2検定,**:分散分析.分散分析で有意差がみられた項目については,Tukey法により多重比較を行った.(125)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012559 20.77±7.93dB)は「負担は感じない」,「どちらともいえない」と回答した症例のMD(.9.38±8.06dB,.10.25±6.68dB)に比べ有意に低値であった(p<0.0001,p=0.0006)(表6).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わる要因について多施設でアンケート調査を行い,病状認知度を高めることが良好なアドヒアランスを確保するうえで有用であることを前報で報告した4).患者の病状認知度を高めるにはask-tell-ask(聞いて話して聞く)方式により10)患者の理解度を確認しながら医療側から情報提供を行うが,その前提となるのがアドヒアランスに関わる諸要因の客観的な評価と考えられる.さて,アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数報告されている4.8,11.16)が,点眼薬剤数も重要な要因の一つとしてあげられる.そこで,今回,まず点眼薬剤数とアンケート質問中,アドヒアランスの現状を反映すると考えられる「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」および「今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?」,「緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?」の各項目との関連を検討した.その結果,薬剤数が増えるほど,点眼回数に負担を感じ,また,点眼を忘れる頻度は有意に高かった.このことから,薬剤数の増加により「患者負担」が増し,「点眼忘れ」の頻度も増加する可能性が示唆された.アンケート調査結果を評価・解釈するにあたっては,バイアスを考慮に入れる必要がある.まず,本研究は同意を得られた症例を対象としたため,調査に協力的な,比較的アドヒアランスの良い症例が抽出された可能性(抽出バイアス)が否めない.また,アンケートによるアドヒアランス評価は自己申告となるため,報告バイアスにより点眼遵守率が高値を示すことが報告17)されている.これは調査を無記名式で行うことにより,その影響を低減するよう企図した.さらに,点眼忘れを申告した症例は確実に「点眼忘れ」があると思われたため,今回はそのなかで解析し,薬剤数と点眼忘れの頻度の相関は確かであると考えた.一方,薬剤数の増加とアドヒアランスの関連は必ずしも直線関係にはないことが報告されており5.8),今回の検討でも,3剤以上の点眼使用例では「点眼忘れ」が少ない傾向にあった.これは,3剤以上処方する症例は眼圧高値,病期進行例が多く,結果的に「病状の認知」が高まり,アドヒアランスに反映されたものと考えた.しかし,「点眼回数に負担を感じる」と回答した症例のMDはそれ以外の症例に比べ有意に低値を示し,病期の進行に伴う薬剤数の増加が「患者負担」となっていることも確かであった.背景因子のうちで,性別,年齢がアドヒアランスに影響す560あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012る可能性についてはすでに報告した4).今回の結果でも「点眼忘れ」は男性,若年に有意に多かったが,眼圧,MDとの関連はみられなかった.しかし,「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例に限ると「点眼忘れ」の有無に性別による差はなく,一方で,眼圧が高く,MDが低い症例(視野進行例)ほど有意に「点眼忘れ」は少なかった.すなわち,少なくとも「患者負担」が少なければ「病状の認知」は「点眼忘れ」を減少させ,アドヒアランスに好影響を与える可能性が示された.ここで,興味深かったのは薬剤変更歴がある症例は「点眼忘れ」が有意に少なかったことである.指示通りの点眼に関しても,統計学的な有意差はなかったが,薬剤変更歴がある症例は変更歴がない症例に比べ,「ほとんど指示通りに点眼できていた」症例の割合が高かった.同等の眼圧下降効果を有する点眼薬間の前向き薬剤切り替え試験で,切り替えにより眼圧が下降し18,19),さらに元薬剤に戻しても眼圧下降は維持された19)ことが報告されている.「前向き試験」では対象患者には特別な注意が向けられ,これを反映して患者自身の行動が変化し,薬効が過大評価される傾向がある(ホーソン効果:Hawthorneeffect)20,21)ためと考えられている.今回は後ろ向きに調査した結果であるが「薬剤変更」が治療に対して積極的に取り組む動機付けとなり,アドヒアランスにも好影響を及ぼしたものと考えた.一方,眼圧上昇や視野進行のために薬剤を切り替えた場合も多く,病状の進行が治療への前向きな取り組みを促進した可能性も否定できない.しかし,薬剤の追加群では「患者負担」が有意に増加し,アドヒアランスの改善もなかったことから,薬剤数の増加はアドヒアランスに対する阻害要因であることが推察された.さて,前報4)において高齢者のアドヒアランスは良好であるとの結果を得ているが,今回の検討では薬剤追加歴が65歳以上で65歳未満に比べ有意に多く,薬剤追加歴がある症例のアドヒアランスが過大評価されている可能性も考慮すべきと考えられた.しかし,薬剤追加によるアドヒアランスの改善はみられず,つまり,薬剤数の増加による「患者負担」の増加が影響を及ぼしたことは確実と考えた.点眼モニターを用いた過去の研究においても,プロスタグランジン製剤単剤投与でのアドヒアランス不良が3.3%であったのに対し,追加投与でアドヒアランス不良が10.0%に増加した6)と報告されている.薬剤の追加,薬剤数の増加はアドヒアランスを低下させる可能性があるため,慎重を期するべきと考えた.今回の検討により,薬剤数の増加ならびに点眼回数の増加が,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,良好なアドヒアランスが保たれている症例のなかにも負担を感じながら点眼している症例がみられたことも軽視できない.視機能障害は患者のQOL(qualityoflife)を大きく損なうことになるが,他方,QOLを保つために行う薬物治(126) 療がQOLを低下させる原因ともなりかねない.今回の結果から,薬剤追加の前にはまず薬剤の変更を試みる原則1)を踏まえることの必要性が再確認され,また,追加投与の際にも薬剤数の増加を伴わない配合剤などを選択することが良好なアドヒアランスの確保につながる可能性が示唆されたため報告した.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:14-46,20122)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20033)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20084)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20115)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533540,20077)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20098)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20039)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:SITA-Standardプログラムの信頼度指標.あたらしい眼科27:95-98,201010)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnonadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,201011)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200312)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200613)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200714)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:10971105,200915)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200916)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:11071111,201017)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NovackGD,DavidR,LeePFetal:Effectofchangingmedicationregimensinglaucomapatients.Ophthalmologica196:23-28,198819)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,200520)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,197821)FletcherRH,FletcherSW,WagnerEH(福井次矢監訳):臨床疫学.p148-149,医学書院,1999***(127)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012561

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”

2011年8月31日 水曜日

1166(10あ6)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1166?1171,2011cはじめに慢性疾患である緑内障治療において,点眼の継続性すなわちアドヒアランスの良否が治療効果に及ぼす影響は大きい1,2).一方,自覚症状に乏しく,長期的な点眼使用を余儀なくされる緑内障において良好なアドヒアランスを確保するには,医療側からの積極的対応が求められる.医療側からの対応はしかし,客観性に基づく必要があり,その第一段階としてアドヒアランスに関わる要因のデータ調査と収集が位置づけられる.アドヒアランスに関わるデータは,主としてインタビューやアンケートなどにより調査,収集されている3~9).一般的なデータ調査において,調査者が直接説明し回答を記録するインタビューは,質の高い調査を行うことができる利点があり,調査対象者に質問内容の理解を促すことで,回答の精度〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:FirstReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)andKeijiYoshikawa6)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因について調査するために,緑内障点眼治療開始後3カ月以上を経過した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に,2010年3月から5カ月間に5施設でアンケートを実施した.同時に,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.男性106例,女性130例,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳が対象となった.202例(85.6%)が最近の眼圧を認知し,185例(78.4%)がほとんど指示通りに点眼できていると回答した.指示通りの点眼に関わる因子について検討したところ,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028),指示通りの点眼ができていなかった.また,65歳以上の男性は,眼圧を認知している症例ほど有意に指示通りの点眼を行っていた(p=0.0081).Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,overaperiodoffivemonthsfromMarch2010weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Responsesindicatedthat202(85.6%)patientswereawareoftheirrecentIOP,andthat185(78.4%)patientsinstilledtheireyedropsinaccordancewithmostinstructions.Whenweexaminedfactorsrelatingtoeyedropinstillationinaccordancewithinstructions,malesmorethanfemales(p=0.0101),andpatientsofyoungerage(p=0.0028),couldnotadheretotheirregimen.Moreover,malesoverage65adheredbetterwhentheywereawareoftheirIOP(p=0.0081).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1166?1171,2011〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス,眼圧.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence,intraocularpressure.(107)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111167や回答率,回収率の向上が期待できる10~13).反面,調査者の恣意的な回答の誘導や,その対応の回答への影響もありうる10,12,13).特に,アドヒアランス調査は医師やスタッフとの対面調査となるため,自己防衛反応から実質的な回答の引き出しが叶わない可能性が否定できない3,10).それに対し,アンケートに自己記入で回答を求める方法は,回答漏れや誤記入,回収率の低下が危惧されるものの,回答における自己開示度は高い12,13).インタビューやアンケートは,その信頼性や実行性から単独施設で施行されることが多い.筆者らもすでに,点眼容器の形状とアドヒアランスとの関連についてインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングを通じて使用性に関わり,アドヒアランスに影響する可能性があることを報告した9).しかし,単独施設における症例収集では偏りなく多数例を収集するのは困難である.そこで,今回,筆者らは緑内障点眼薬使用のアドヒアランスに関連する要因について多施設共同でアンケート調査を行いその結果を解析した.本報では,病状認知度とアドヒアランスの関連を中心に述べ,次報以後では薬剤数や視野障害との関連などについて報告する予定である.I対象および方法2010年3月から5カ月間に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設の外来を受診した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過し,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象とした.一方,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで実施した.アンケートはあらかじめ原案を作成したうえで,調査参加表1アンケート内容質問1)ご自分の最近の眼圧をご存じですか?(○は1つ)1.知っている2.聞いたが具体的な値は忘れた3.眼圧値は聞いていないと思う質問2)全部で何種類の目薬(メグスリ)をお使いですか?眼科で処方されたもの以外も含めた数を教えてください.(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問3)緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問4)〔緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2剤以上ご使用される方〕(一度に1剤のみご使用の方は質問4はとばしてください)緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2種類以上点眼する時の間隔を教えてください.(○は1つ)1.すぐつける2.1分程度あける3.3分程度あける4.5分以上あける質問5)緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?(○は1つ)1.ほとんどない2.時々ある3.しばしばある質問6)今の緑内障の目薬(メグスリ)の回数にご負担を感じますか?(○は1つ)1.負担を感じる2.どちらともいえない3.負担は感じない質問7)緑内障の目薬(メグスリ)を使っている印象を教えてください.(○は1つ)1.点眼には慣れた2.治療なので仕方ない3.目を守るために頑張っている質問8)緑内障の目薬(メグスリ)をさすのを忘れたことはありませんか?(○は1つ)1.忘れたことはない2.忘れたことがある忘れたことがある方質問8?付問)どの程度忘れられましたか?(○は1つ)1.3日に1度程度2.1週間に1度程度3.2週間に1度程度4.1か月に1度程度質問9)緑内障の目薬(メグスリ)をさす時刻がずれやすいのはどの時間帯でしょうか?(○はいくつでも)1.時刻がずれることはない2.朝3.昼4.夜5.寝る前6.その他()7.さす時刻は決めていない(だいたい夜とか,だいたい寝る前にさすなど)質問9?付問)目薬(メグスリ)をさす時刻がずれる理由を教えてください.(○はいくつでも)1.仕事2.外出3.家事の都合4.休日5.旅行6.外食・飲酒など7.その他質問10)今後,緑内障の目薬(メグスリ)を続けていくことについてどのように思われますか?(○は1つ)1.頑張ろうと思う2.仕方ないと思う3.特になんとも思わない4.その他質問11)もし,緑内障の目薬(メグスリ)が1剤増えるとすれば,これまでの目薬(メグスリ)と一緒に続けられますか?(○は1つ)1.大丈夫2.多分大丈夫3.ちょっと心配4.多分無理だと思う1168あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(108)全施設の担当者とともに質問・回答項目の設定およびアンケートの体裁について十分に検討し,内容を決定した.なお,回答方法は多肢選択法とし,該当する選択肢の番号を○で囲む方式とした.アンケート用紙(表1)は診察終了後に配布,無記名式で行い,回収は回収箱を使用した.原則的に,患者本人が記入する自記式としたが,視力不良により記入困難な場合は,付き添いの家族にアンケートへの記入を求めた.アンケート用紙にはあらかじめ番号を付けて配布し,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(meandeviation:MD)などの背景因子は,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,MDはアンケート調査日6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITAStandardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例(230例)の結果を調査データとした.回収されたアンケート用紙は各施設において確認し,記載内容に不備がある症例を除外したうえで,あらかじめ作成し各施設に配布されたデータ入力用のエクセルシートに,その結果を各施設において入力した.なお,質問ごとの回答内容が無回答のものは欠損値として扱った.入力結果は独立して収集し,JMP8.0(SAS東京)を用い,t検定,c2検定,Fisherの正確検定により解析した(YK).有意水準は5%未満とした.II結果1.対象および背景因子アンケートを施行し,回収し得たのは237例(回収率100%)だった.アンケート記載は237例中235例(99.2%)が自己記載,家族による記載は2例(0.8%)だった.一方,237例中1例(0.4%)は,後半分の回答欄が空白となっていたためアンケートは無効と判断され,236例の結果が解析対象となった(有効回答率:99.6%).解析対象の性別は男性106例,女性130例で,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳だった.緑内障病型は正常眼圧緑内障115例(48.7%),原発開放隅角緑内障109例(46.2%),高眼圧症12例(5.1%)だった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0~23.0)mmHg,平均緑内障点眼薬数1.7±0.8(1~4)剤,平均通院頻度8.4±3.5(2~20)回/年で,緑内障点眼治療歴は1年未満7.2%,2年以上3年未満20.3%,4年以上5年未満16.9%,5年以上55.5%だった.2.アンケート回答結果全設問の回答結果を表2に示す.表2アンケート回答結果質問1)回答数236例(回答率100%)1.202例(85.6%)2.25例(10.6%)3.9例(3.8%)質問2)回答数236例(回答率100%)1.72例(30.5%)2.77例(32.6%)3.65例(27.5%)4.22例(9.3%)質問3)回答数236例(回答率100%)1.124例(52.5%)2.56例(23.7%)3.50例(21.2%)4.6例(2.5%)質問4)回答数92例(回答率39.0%)1.4例(4.3%)2.8例(8.7%)3.16例(17.4%)4.64例(69.6%)質問5)回答数236例(回答率100%)1.185例(78.4%)2.47例(19.9%)3.4例(1.7%)質問6)回答数236例(回答率100%)1.12例(5.1%)2.28例(11.9%)3.196例(83.1%)質問7)回答数236例(回答率100%)1.96例(40.7%)2.31例(13.1%)3.109例(46.2%)質問8)回答数233例(回答率98.7%)1.127例(54.5%)2.106例(45.5%)質問8?付問)回答対象者106例中,回答数106例(回答率100%)1.8例(7.5%)2.22例(20.8%)3.26例(24.5%)4.50例(47.2%)質問9)回答数209例(回答率88.6%)1.72例(34.4%)2.16例(7.7%)3.6例(2.9%)4.50例(23.9%)5.35例(16.7%)6.3例(1.4%)7.28例(13.4%)質問9─付問)回答対象者137例中,回答数121例(回答率88.3%)1.14例(11.6%)2.23例(19.0%)3.27例(22.3%)4.6例(5.0%)5.11例(9.1%)6.14例(11.6%)7.29例(24.0%)質問10)回答数236例(回答率100%)1.142例(60.2%)2.58例(24.6%)3.35例(14.8%)4.1例(0.4%)質問11)回答数236例(回答率100%)1.112例(47.5%)2.96例(40.7%)3.27例(11.4%)4.1例(0.4%)(109)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111169質問1)「ご自分の最近の眼圧をご存じですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち202例(85.6%)が「知っている」と回答した.一方,「聞いたが具体的な値は忘れた」25例(10.6%),「眼圧値は聞いていないと思う」9例(3.8%)を合わせた34例(14.4%)が眼圧値を認知していなかった(図1).質問3)「緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,このうちカルテより調査した緑内障点眼薬数と一致したのは224例(94.9%)だった.質問5)「緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち185例(78.4%)が「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」47例(19.9%),「しばしばある」4例(1.7%)を合わせた51例(21.6%)が指示通りに点眼できていなかった(図2).3.指示通りの点眼の有無と背景因子の関連質問5)において,指示通りに点眼できないことが「ほとんどない」と回答した群を「ほとんど指示通りに点眼できている」群,「時々ある」あるいは「しばしばある」と回答した群を「指示通りに点眼できないことがある」群とし,背景因子を比較した(表3).この結果,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028)指示通りの点眼ができていなかった.眼圧,MD,緑内障点眼薬数,通院頻度については,両群間に有意差はなかった.4.眼圧の認知と指示通りの点眼の関連質問1)において,自分の最近の眼圧を「知っている」と回答した群を「眼圧値を認知している」群,「聞いたが具体的な値は忘れた」あるいは「眼圧値は聞いていないと思う」と回答した群を「眼圧値を認知していない」群とし,指示通りの点眼との関連について検討したところ,統計学的に明らかな関連はなかったが,眼圧を認知している症例ほど指示通りの点眼を行っている可能性(p=0.0625)が推察された(図3a).さらに,性別・年齢層別に検討を行った結果,65歳以上の男性は眼圧を認知している症例ほど有意に(p=0.0081)指示通りの点眼を行っていた.一方,65歳未満の男性および女性では有意な関連は認めなかった(図3b).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスの良否に関連する要因について,多施設でアンケート調査を行った.アンケート内容が多岐にわたるため,今回は病状認知度のアドヒアランスへの影響について検討した.アドヒアランスの評価方法としては,インタビュー,アン表3指示通りの点眼の有無と背景因子の関連背景因子ほとんど指示通りに点眼できている指示通りに点眼できないことがあるp値性別男性75例(40.5%)女性110例(59.5%)男性31例(60.8%)女性20例(39.2%)0.0101*年齢66.4±12.1歳60.3±15.0歳0.0028**眼圧13.9±3.0mmHg13.3±2.6mmHg0.2158**MD?10.16±8.14dB?9.80±8.86dB0.7902**緑内障点眼薬数1.7±0.8剤1.8±0.8剤0.5593**通院頻度8.6±3.6回/年7.7±3.2回/年0.1193***:c2検定,**:t検定.眼圧値を知らない14.4%眼圧値は聞いていないと思う3.8%聞いたが具体的な値は忘れた10.6%眼圧値を知っている85.6%知っている85.6%図1質問1)回答結果時々ある19.9%ほとんど指示通りに点眼できている78.4%指示通りに点眼できないことがある21.6%ほとんどない78.4%しばしばある1.7%図2質問5)回答結果1170あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011ケートにより患者から直接的に使用状況を調査する方法と,点眼モニター,血中・尿中薬剤濃度測定,薬剤使用量・残量調査,薬剤入手率調査などにより客観的に評価する方法がある.点眼モニターによる評価は信頼性が高い14~17)が,装置の大きさや費用,煩雑さなどの点があり調査対象が限定される.このため,主観的評価に留まるものの,インタビューやアンケート法が頻用されている3~7).同一施設のなかで,インタビューあるいはアンケートと点眼モニターの2種類の方法で点眼遵守率を調査した報告によると,Kassら16)はインタビュー97.1%,点眼モニター76.0%,Okekeら17)はアンケート95%,点眼モニター71%と,調査方法により結果にかなり差があることが示されている.今回,主観的評価による影響を最少化するため,調査方法やアンケート内容について事前に検討した.まず,単独施設での症例収集はデータの普遍化・標準化が達成しにくいと考え,多施設共同研究を選択した.また,調査方法は多施設研究においても調査者によるバイアスが生じない自記式アンケート法を採用した.自記式とすることで医師やスタッフの関与をできるだけ排除し,さらに,無記名式として少しでも薬剤使用状況の実態を引き出せるよう企図した.アンケートを○×の二者択一式で回答するclosedquestionで行った場合,その実態を引き出すことがむずかしく,他方,freequestionは自記式においては回答者の負担が大きく,多数例の解析を行ううえでも実行性に問題が残る.そこで,今回は短時間で少ない負担での回答が可能なように,網羅的に回答選択肢を設けた多肢選択法とし,原則的に該当する番号を○で囲んで回答する方式を採用した.これに加えて,アンケート項目の絞り込みと簡潔化にも努めた.質問内容および質問項目数は,回答率,回収率に大きく影響する10,13)からである.たとえば,病状認知は最近の眼圧を認知しているか否かに代表させ,また,点眼がされているか否かの質問もわかりやすさを重視して,今回は「指示通り」の言葉を使用した.この際,質問の言い回し(wording)にも注意した.回答者は一般に質問に対して,潜在的に「はい(Yes)」と答える傾向(yes-tendency)や,調査者の意向を推測し,無意識のうちにその方向に答えようとする傾向がある10,11).このため,「指示通りに点眼できていますか?」と質問するよりも,「指示通りに点眼できないことがありますか?」としたほうが,点眼ができていない場合でも円滑な回答が得られやすいと考えた.さらに,質問文は理解しやすいように要点に下線を引き,選択肢は分離して枠で囲みわかりやすくした.文字の大きさや用紙サイズ,余白の取り方などレイアウトにも配慮し,調査への協力が得られるよう工夫した.また,質問数も11問に絞り込んだ.アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数あるが3~9,18~21),疾患理解度,病状認知度もその重要な要因の一つと考えられる.今回の調査では,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけ,これと指示通りの点眼の関連について検討した.その結果,指示通りの点眼については236例中236例から回答が得られ(回答率100%),そのうち21.6%が時々あるいはしばしば指示通りに点眼できないことがあると回答した.ここで,指示通りの点眼の有無と背景因子との関連を検討したところ,女性より男性,年齢が若いほど指示通りの点眼の実施率が低く,年齢,性別がアドヒアランスに影響する可能性が示された.このため,病状認知度と指示通りの点眼の関連については,性別,年齢層別に分けて検討を行った.なお,年齢は高齢者の公的定義22)を参考に,65歳を境とした2群に分けた.この結果,女性は眼圧の認知にかかわらず,約85%が指示通りの点眼を行っていたのに対し,男性のうち65歳未満では指示通りの点眼実施率は約60%に留まった.一方,65歳以上の男性においては,眼圧を認知している症例では指示通りの点眼の実施率が有意に高く,病状認知度が指示通りの点眼に影響を及ぼす可能性が示唆さ(110)図3眼圧の認知と指示通りの点眼質問5)「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対する回答■:ほとんどない■:時々ある■:しばしばあるa:全症例80.2%61.7%60.0%男性65歳未満眼圧値を知っている(n=202)眼圧値を知っている(n=47)眼圧値を知らない(n=5)眼圧値を知らない(n=13)眼圧値を知らない(n=2)眼圧値を知らない(n=14)87.8%*53.8%38.3%40.0%12.2%14.6%2.1%12.1%1.5%*p=0.0081(Fisherの正確検定)15.4%30.8%男性65歳以上眼圧値を知っている(n=41)83.3%100%女性65歳未満眼圧値を知っている(n=48)86.4%78.6%21.4%女性65歳以上眼圧値を知っている(n=66)18.8%眼圧値を知らない67.6%(n=34)26.5%5.9%1.0%b:性別・年齢層別解析あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111171れた.今回,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけたが,年齢が若いほど眼圧値を知っていると回答した症例が多く,眼圧の認知が必ずしも病状認知を反映していない可能性も考えられた.しかし,65歳以上の男性で眼圧の認知と指示通りの点眼に有意な関連が認められたことは,少なくとも高齢者においては病状認知をある程度反映しており,眼圧の認知の有無が病状把握の程度を知るうえで一つの指標となりうると考えた.一方,65歳未満の男性は眼圧を認知していても指示通りの点眼実施率が低く,点眼治療継続の妨げとなる要因についてのさらなる検討が必要と思われた.アンケート調査結果の評価・解釈においては,バイアスの影響を十分考慮しておく必要がある.回収率が低い調査や,無回答者が多い質問では,質問に対する回答者と無回答者の傾向が異なることによって発生する無回答バイアスが生じ,アンケート調査の結果が真実を反映しない可能性がある13).このため,回収率,回答率を高めるべく調査方法やアンケート内容を工夫し,今回は高い回収率,回答率を得た.しかし,同意の得られた症例をアンケート調査対象としたことで,抽出バイアスが生じた可能性があり,結果の評価にも限界があることは否定できない.次報以後に予定している他要因の解析の際にも,バイアスによる影響を留意したうえでの評価を考慮したい.一方,今回の調査の第一段階で病状認知がアドヒアランスに関連することが示唆されたことは興味深い.自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障治療において,アドヒアランスは治療成功の鍵を握る要因である.今回の結果は眼圧の認知をはじめとする病状認知度を高めることが,アドヒアランス向上の第一歩として重要であることを示唆したため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)阿部春樹:薬物療法─コンプライアンスを良くするには─.あたらしい眼科16:907-912,19994)平山容子,岩崎直樹,尾上晋吾ほか:アンケートによる緑内障患者の意識調査.あたらしい眼科17:857-859,20005)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,20036)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20037)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20068)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20079)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:1107-1111,201010)大谷信介,木下栄二,後藤範章ほか:社会調査へのアプローチ?論理と方法.p.89-119,ミネルヴァ書房,200511)盛山和夫:社会調査法入門.p.88-89,有斐閣,200812)鈴木淳子:調査的面接の技法.p.42-44,ナカニシヤ出版,200913)谷川琢海:第5回調査研究方法論~アンケート調査の実施方法~.日放技学誌66:1357-1361,201014)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:1097-1105,200915)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198616)KassMA,MeltzerDW,GordonMetal:Compliancewithtopicalpilocarpinetreatment.AmJOphthalmol101:515-523,198617)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200519)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200620)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,200721)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200922)伊藤雅治,曽我紘一,河原和夫ほか:国民衛生の動向.厚生の指標57:37-40,2010(111)***

患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について ─患者アンケート調査から─

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)113《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):113.117,2011c〔別刷請求先〕中泉知子:〒153-8934東京都目黒区中目黒2-3-8東京共済病院眼科Reprintrequests:TomokoNakaizumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoKyosaiHospital,2-3-8Nakameguro,Meguro-ku,Tokyo153-8934,JAPAN患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について─患者アンケート調査から─中泉知子*1善本三和子*2加藤聡*3*1東京共済病院眼科*2東京逓信病院眼科*3東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学DirectionofDiabetesMellitusEducationIntendedtoChangePatientAttitudes:BasedonPatientSurveyTomokoNakaizumi1),MiwakoYoshimoto2)andSatoshiKato3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:内科主導の糖尿病教室において,糖尿病患者教育に必要なことをアンケート調査にて調べた.対象および方法:三郷中央総合病院通院中の糖尿病(DM)患者のうち,DM教室出席者185名(教室群)と,眼科外来受診患者170名(外来群)を対象に,病識に関するアンケート調査(計25項目)を筆記にて行った.結果:教室群では外来群に比較して年齢が若く,DM罹病期間が短いものが多かった.DM発見契機は,両群ともDM以外の疾患の発見を契機にDMが発見された患者が半数以上を占め,最も多かった.教室群患者のDM内科以外の他科受診状況では,循環器内科を受診している患者が全体の44%を占めていた.教室群では,自分の血糖コントロール状態や,食事への配慮などDMに関する病識が乏しく,眼合併症に関する認知度も低かった.さらに,教室群の67%が眼科未受診で,そのうち18%が眼科的自覚症状(+)でも未受診であった.患者の疾病に対する意識としては,DM治療に対して,教室群のほうが積極的な関わりをもちたいと考える者が多かった.結論:教室群患者は,DMに対して危機感をもち積極的に関わろうとしているにもかかわらず,通常の入院および通院治療における関与だけでは,教育が不十分であることがわかった.合併症予防のためには,より密接な連携に基づく教育システムの構築が必要であると考えられた.Aquestionnairesurveyexaminedthenecessarycomponentsofdiabetesmellitus(DM)patienteducationwithregardtoacourseonDM.OfDMpatientswhowerevisitingMisatoCentralGeneralHospital,surveysubjectscomprised185attendeesofaDMcourse(course-attendinggroup)and170outpatientsseenbyOphthalmology(outpatientgroup).Subjectscompletedaquestionnairesurveyregardingdiseaseawareness(totalof25items).Thecourse-attendinggroupwasoftenyoungerandhadsufferedfromDMforashorterperiodoftime.RegardingtheimpetusforDM’sdetection,inmostpatientsinbothgroupstheirDMwasfoundbecauseaconditionotherthanDMhadbeendetected.OftheDMcourse-attendingpatientswhowereseenbyadepartmentotherthantheDepartmentofDiabeticMedicine,44%wereseenbyCardiovascularMedicine.Thecourse-attendinggrouphadlimitedawarenessofdealingwithDMintermsofsuchaspectsasbloodglucosecontrolanddietaryconsiderations,andhadlittleawarenessoftheocularcomplicationsassociatedwithDM.Moreover,67%ofthecourse-attendinggrouphadnotbeenseenbyOphthalmology.Ofthese,18%hadnotbeenseenbythatdepartmentdespitehavingsubjectiveophthalmicsymptoms(+).Asasignofpatients’awarenessoftheirillness,manyinthecourse-attendinggroupwishedtoplayanactiveroleintheirownDMtherapy.DespitetheiralarmathavingDM,andtheirdesiretobeactivelyinvolvedinitstreatment,patientsinthecourse-attendinggroupwerefoundtohavereceivedinadequateeducationthroughregularadmissionsandoutpatientcarealone.Sucheducationmustbebasedonclosertiesbetweendepartments,inordertoavoidcomplicationsassociatedwithDM.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):113.117,2011〕Keywords:糖尿病教室,アンケート調査,病識.diabetesmellituscourse,questionnairesurvey,diseaseawareness.114あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(114)はじめに近年,糖尿病(diabetesmellitus:DM)患者における大血管障害の重要性が論じられている1~3).それには,循環器疾患を契機とする眼科受診患者に多くの糖尿病内科未受診患者が含まれていること2)や,増殖糖尿病網膜症患者のなかに無症候性心筋虚血患者が多く存在することなどがある3,4).そこで今回循環器救急患者,なかでも虚血性心疾患患者を多く受け入れている地域循環器疾患中核病院である三郷中央総合病院において,糖尿病患者教育に何が必要であるのかを知ることを目的として,内科主導の糖尿病教室受講患者と眼科外来通院患者に対して,患者背景,糖尿病についての基礎知識などの患者アンケート調査を行ったので,その結果を報告する.I対象および方法三郷中央総合病院の通院患者のなかで自主的に内科主催の糖尿病教室に参加した患者185名(以下,教室群),眼科外来に糖尿病および糖尿病網膜症の診断で通院している患者170名(以下,外来群)を対象とした.教室群,外来群ともに無記名でアンケート〔質問項目:25項目(表1)〕用紙に回答を依頼した.アンケート内容は,性別,年齢,罹病期間などの背景因子と,糖尿病についての理解・イメージ,内科および眼科治療に対する理解などである.なお,教室群は教室終了時に回答を依頼,その後回収し,外来群は眼科外来を受診した再診患者のうち,DMの診断が明らかな患者に対し,無作為に看護師から調査票を渡して回答を依頼し,診察時に回収した.なお,複数回受診の者は1回目を採用した.アンケート実施期間は平成19年11月から平成21年3月までとし,教室参加患者の特徴を知るためにアンケート質問項目のなかの19項目(表1の*印)について,回答結果を教室群と外来群とに分けて統計学的に検討を行った.検定方法はc2検定およびt検定を用いた.表1アンケート調査用紙アンケート調査の設問を内容別に3つのグループに分け,1~9を背景因子,10~22を病識,そして設問23および24は別枠として23については統計処理上①~④を危機感あり,⑤~⑧を危機感なしに分け,設問24については①~③を積極的回答,④~⑧を消極的回答に分けた.………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………*:統計的に検討を行った項目.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011115II結果アンケートの回収率は教室群で63%,外来群で91%であった.アンケート調査結果を表2a~cに示した.1.対象の背景因子(表2a)教室群は外来群より年齢が若く,DM罹病期間も短い者が多かった.DM発見契機は両群ともDM以外の主訴での受診が半数を超えて最も多かった.教室群のなかで糖尿病内科以外の受診状況では,循環器・心臓血管外科受診,および循環器内科を含む複数科受診が最も多く(44%)(図1),当院の循環器救急病院という特徴から,虚血性心疾患などを発見契機とするDM患者が対象患者のなかに多く含まれていることが考えられた.表2a背景因子教室群(n=185)外来群(n=170)p値1.年齢(歳)60.6±9.863.9±8.30.01*2.性別(男性/女性)(人)88/73(不明24)82/880.24**3.DM罹病期間(年)8±4.413±6.5<0.01*4.DM治療内容(複数回答可)(人)食事・運動内服インスリン63242411479580.09**5.DM発見契機〔人(%)〕健診・ドックDM以外の主訴その他46(28)102(61)18(11)57(35)84(52)21(13)0.21**8.DM内科以外の他科受診〔人(%)〕あるない103(61)66(39)111(69)51(31)0.15**9.眼の自覚症状〔人(%)〕あるない41(43)54(57)86(53)76(47)0.1**(*はt検定,**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)表2b病識教室群(n=185)外来群(n=170)p値10.他科受診図1に記載11.レーザー既往既治療未治療不明19(22)64(72)5(6)65(40)92(58)4(2)0.01**12.糖尿病眼手帳持っている持っていない8(9)82(91)53(32)111(68)0.00003**13.血糖値・HbA1C知っている知らない120(71)48(29)140(85)25(15)0.003**14.食事に…気をつけている気をつけていない144(85)26(15)157(94)10(6)0.006**15.DM合併症知っている知らない134(76)43(24)152(90)17(10)0.0005**16.糖尿病眼手帳知っている知らない17(18)77(82)69(42)96(58)0.00001**18.糖尿病網膜症知っている知らないわからない67(74)19(21)5(5)121(77)27(17)9(6)0.8**19.糖尿病網膜症(設問15で『知っている』の人)失明する失明しないわからない56(89)4(6)3(5)107(91)5(4)6(5)0.8**〔人(%)〕(**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)116あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(116)2.教室群患者の眼科受診状況と病識(表2b)教室群患者のうちの67%が眼科未受診で,そのうち18%の患者は眼科的自覚症状があるにもかかわらず眼科未受診であった(図2).循環器・心臓血管外科を受診している教室群患者には,レーザー既治療者が多く(p=0.0008)(表3),糖尿病網膜症の重症度と虚血性心疾患などの大血管障害との関連が示唆された.一方,自分の血糖コントロール状態や,食事への配慮,DM合併症,糖尿病眼手帳の認知度などはいずれも外来群よりも低い者が多く,教育の必要性を痛感した(表2b,設問13~16).3.糖尿病との関わり方とイメージ(表2c)表1にあるアンケート質問項目の設問23および24のDMという病気のイメージ,およびDM治療に対する考え方を問うものについて設問23は①~④を危機感あり,⑤~⑧を危機感なしの2つに分け,設問24は①~③を積極的回答,④~⑧を消極的回答に分けて統計学的に検討した.教室群では外来群に比べてDMという病気に対し危機感をもち(p=0.01),積極的にDM治療に関与しようとする回答が多かった(p=0.04).図2眼科未受診者のなかの自覚症状の有無教室群の67.0%が眼科未受診で,そのうち自覚症状があるにもかかわらず眼科未受診者は18%であった.眼科受診者33%眼科未受診者67%自覚症状あり18%自覚症状なし36%不明46%循環器科44%脳外科10%眼科34%腎臓・透析0%整形外科6%その他3%耳鼻科2%皮膚科1%眼科のみ30%眼科+脳外科4%循環器のみ18%循環器+眼科17%循環器+脳外科2%循環器+脳外科+眼科5%循環器+透析+眼科1%循環器+脳内科1%図1教室群でのDM患者の内科以外の他科受診状況教室群では循環器内科を含む複数科受診が最も多かった.表2cDMとの関わり方とイメージ教室群(n=185)外来群(n=170)p値23.DMという病気のイメージ(複数回答可)(人)危機感あり怖い病気治療が難しい家族の協力が必要わかりにくい病気14683885913390102610.01**危機感なしそんなに怖くない簡単な病気なんとも思わないその他41071724624.DMに対して自分では(複数回答可)(人)積極的治したい家族の協力が必要病気を知りたい123403714058360.04**(p<0.05)消極的放置で治る治らなくても食べたい現状維持できれば通院で治るその他04197501138124(**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)表3循環器・心臓血管外科受診の有無と背景因子教室群(n=185)循環器p値受診循環器未受診9.レーザー既往(人)既治療未治療不明794125510.0008**(p<0.01)(**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)(117)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011117III考按今回の調査対象病院は地域の循環器中核病院であり,その特徴としては虚血性心疾患をはじめとする循環器救急患者を多く受け入れているため,重症の循環器疾患を抱えるDM患者が多いという点があげられる.このような背景をもつ患者に対するアンケート調査である本調査は,過去の報告5~8)と比べて以下のような特徴があると思われた.まず第一に,内科主導のDM教室受講患者は,年齢が若く,DM罹病期間が短い患者が多かったが,そのなかの半数近くを占める循環器・心臓血管外科受診者では,眼科レーザー既治療患者が多かったということである.これらの患者では,虚血性心疾患などの疾患が発見されるまでDM発見が遅れ,知りえた罹病期間よりも実際の罹病期間が長いために網膜症が重症である可能性が考えられた.つぎに,教室群患者では,眼科的自覚症状があるにもかかわらず眼科未受診者が多く,さらにDM合併症,糖尿病眼手帳などに対する認知度が低い者が多かった.これは,DM発見契機が他科疾患である場合,他疾患の治療が優先されるために,DM,DM合併症,特に眼合併症に対する知識が少ない可能性を示していると考えられた.DMはDM内科のみではなく,循環器内科,眼科,腎臓内科など複数の科にまたがる疾患であり,患者教育を担う担当科相互のDMに対する認識を共有し,院内の連携をスムーズに行い,かつ患者に対して十分な教育を行う必要があると考えられた.過去の報告のなかには,眼科医と内科医の間で網膜症の管理に対する認識の差を認めるもの9)もあり,DM教室がたとえ内科主導で行われていても,眼科医が積極的に介入していく必要性があると考えられた.三郷中央総合病院でのDM教室では,眼科医も参加して糖尿病眼合併症についての講義を担当していたが,教室受講患者や家族の態度からも,病気について学び理解し,積極的に病気にかかわろうという姿勢がみられた.このように前向きに病気と向き合い,積極的に治療にかかわろうとするときこそが,DMという病気や合併症を正しく知る最も良いチャンスであると思われた.地域循環器中核病院に通院するDM患者のなかには,虚血性心疾患などの他の疾患の受診を契機にDMが発見された患者が多く,それを契機にDMに対し危機感をもつ患者が多いことがわかった.しかし糖尿病網膜症を含むDM合併症に関する教育は十分とはいえない結果であり,DMが発見された段階から各科との院内連携により合併症検索,DM教室受講という一連の流れをチーム医療としてやり遂げていく必要があると思われた.今後は院内だけでなく院外での病診連携をさらに密にし,DM教室を早期に,そしてくり返し受講することにより,医療者側と患者・家族側がしっかりと向き合って病気に取り組み,DM合併症発症予防を目指すシステムを構築していくことが非常に重要であると考えられた.文献1)大野貴之,小野稔,本村昇ほか:糖尿病網膜症患者におけるCABGの生命予後改善効果.日心臓血管外会誌35(Supple):251,20062)OnoT,TakamotoS:Diabeticretinopathyasaguidefortreatmentstrategyincoronaryrevascularization:Fromtheperspectiveofcardiacsurgeons.JCardiol49:259-266,20073)木下修,大野貴之,益澤明広ほか:東大病院における糖尿病網膜症患者を対象とした冠動脈専門外来─糖尿病網膜症患者には無症状の重症冠動脈疾患が多数潜んでいる─.糖尿病51(Supple):S255,20084)木下修,大野貴之,益澤明広ほか:周術期危険因子としての糖尿病網膜症─糖尿病網膜症患者には無症状の重症冠動脈疾患が多数潜んでいる─.日外会誌110:353,20095)菅原岳史,金子能人:岩手糖尿病合併症研究会のトライアル2─糖尿病網膜症教室におけるアンケート結果─.眼紀55:197-201,20046)菊池美知代,沢野昌子,藤川美穂:糖尿病で治療を受けている患者の眼科の定期受診行動の実態調査─受診率に影響する要因とは─.日本看護学会論文集:成人看護II(38):317-319,20087)大野敦,旭暢照,佐藤知也ほか:糖尿病指摘時からの眼科フォロー状況についてのアンケート調査.眼紀47:1372-1375,19968)飯野矢住代,井上浩義:糖尿病診断後の網膜症治療状況の実態調査─糖尿病網膜症患者の受診行動に影響を及ぼす要因.日本糖尿病教育・看護学会誌11:150-156,20079)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査─眼科医と内科医の調査結果の比較─.眼紀58:616-621,2007***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(97)97《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):97.102,2011cはじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立させ,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998八王子市館町1163番地東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji,Tokyo193-0998,JAPAN多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移大野敦梶邦成臼井崇裕田口彩子松下隆哉植木彬夫東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科ChangesinQuestionnaireSurveyResultsamongTamaAreaOphthalmologistsRegardingtheOphthalmologicalNotebookofDiabeticsAtsushiOhno,KuniakiKaji,TakahiroUsui,SaikoTaguchi,TakayaMatsushitaandAkioUekiDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的:2002年に発行された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査を発行7年目に施行し,発行半年目と2年目の調査結果と比較した.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳の配布状況,2)眼手帳配布に対する抵抗感,3)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,4)受診の記録で記入しにくい項目,5)受診の記録に追加したい項目,6)眼手帳を配布したい範囲,7)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか,8)眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか,9)内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会,10)眼手帳の広まりについて調査し,各結果を3群間で比較した.結果・結論:眼手帳の配布率はこの5年間で10%上昇し,配布に対する抵抗感は有意に減少し,眼手帳を配布したい範囲は広がる傾向を認め,他院発行の眼手帳を見る機会は有意に増えているが,眼手帳の広まりに対する評価は厳しかった.Purpose:TheOphthalmologicalNotebookofDiabeticswasfirstissuedin2002;sevenyearshavepassedsincethen.Inthisstudy,weexaminedophthalmologistsregardingtheirawarenessoftheNotebook,andcomparedtheresultstothoseofsimilarsurveysconductedsixmonthsandtwoyearsaftertheNotebook’sfirstissuance.Methods:ThesubjectswereophthalmologistsintheTamaarea.Thesurveyitemswere:1)currentstatusofNotebookdistribution,2)senseofresistancetoprovidingtheNotebook,3)clinicalappropriatenessofthedescriptionof“guidelinesforthoroughfunduscopicexamination”,4)fieldsintheNotebookthataredifficulttocomplete,5)itemsthatshouldbeaddedtotheclinicalfindingsfield,6)areainwhichtheNotebookshouldbedistributed,7)whetherornottheNotebookcostnotcoveredbymedicalinsuranceisanobstacletoitspromotion,8)whetherornottheNotebookshouldbeprovidedtopatientsbyophthalmologists,9)frequencyofseeingtheNotebookissuedbyotherhospitals(includingattendingphysicians),and10)promotionoftheNotebook.Wecomparedtheresultsamongthethreegroups.ResultsandConclusion:TherateofNotebookdistributionhasincreasedby10%overthepastfiveyears,andthelevelofresistancetoprovidingithasmarkedlydecreased.ThemajorityofophthalmologistscommentedthattheNotebookshouldbedistributedoverawiderarea,andthefrequencyoftheirseeingitissuedbyotherhospitalshasincreased.Ontheotherhand,theyviewedthepromotionoftheNotebookasbeinginsufficient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):97.102,2011〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,眼科・内科連携.OphthalmologicalNotebookofDiabetics,questionnairesurvey,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist.98あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(98)またこの活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから7年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4~7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目に施行したので,本稿では発行7年目の結果を半年目8),2年目9)の結果と比較した.I対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医で,発行半年目96名〔男性56名,女性24名,不明16名,眼科経験年数19.0±11.6(M±SD)年〕,2年目71名(男性43名,女性28名,眼科経験年数20.3±12.9年),7年目68名(男性38名,女性22名,不明8名,眼科経験年数20.6±8.5年)である.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が面接方式で行ったため,回収率はほぼ100%であった.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会等で発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます.」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.回答者のプロフィールを表1に示すが,年齢は40歳代が最も多く,3群間に有意差を認めなかった(c2検定:p=0.27).勤務施設は診療所がいずれも70%台で,3群間に有意差を認めなかった(c2検定:p=0.64).定期受診中の糖尿病患者数は,半年目に比べて2年目,7年目の患者数が増加していたが,有意差は認めなかった(c2検定:p=0.13).以上の背景ももつ対象において,問1.眼手帳の利用状況についてお聞かせ下さい問2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことに抵抗がありますか問3.眼手帳の1ページの「精密眼底検査の目安」の記載があることは,臨床上適当とお考えですか問4.眼手帳の4ページ目からの受診の記録で,記入しにくい項目はどれですか問5.眼手帳の4ページ目からの受診の記録に追加したい項目はありますか問6.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいですか問7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことは,手帳の普及の妨げになりますか問8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいとお考えですか問9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳を御覧になる機会がありますか問10.【半年目・2年目】眼手帳は広まると思いますか【7年目】眼手帳は広まっていると思いますか上記の問1~10に関するアンケート調査を行い,各問のアンケート結果の推移を検討した.3群間の回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳の利用状況(図1)発行半年目の調査時は質問項目として未採用のため,発行2年目と7年目で比較した.その結果,眼手帳の利用状況に有意差はなかったが,7年目の回答において,「積極的または時々配布している」を合わせると63.2%を認め,発行2年目より約10%増加していた.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳配布に対する抵抗感は,「全くない」がこの5年間表1回答者のプロフィール回答者年齢構成年齢半年目(96)2年目(71)7年目(68)20歳代3.1%(3)5.6%(4)1.5%(1)30歳代28.1%(27)21.1%(15)14.7%(10)40歳代33.3%(32)38.0%(27)38.2%(26)50歳代17.7%(17)16.9%(12)29.4%(20)60歳代11.5%(11)9.9%(7)11.8%(8)70歳代3.1%(3)8.5%(6)2.9%(2)未回答3.1%(3)1.5%(1)回答者勤務施設施設半年目(96)2年目(71)7年目(68)開業医75.0%(72)71.8%(51)76.5%(52)大学病院9.4%(9)9.9%(7)10.3%(7)総合病院7.3%(7)11.3%(8)5.9%(4)一般病院7.3%(7)5.6%(4)2.9%(2)その他2.9%(2)未回答1.0%(1)1.4%(1)1.5%(1)糖尿病患者数患者数半年目(96)2年目(71)7年目(68)10名未満8.3%(8)11.3%(8)8.8%(6)10~29名31.3%(30)16.9%(12)19.1%(13)30~49名19.8%(19)19.7%(14)23.5%(16)50~99名14.6%(14)14.1%(10)14.7%(10)100名以上10.4%(10)29.6%(21)23.5%(16)未回答15.6%(15)8.5%(6)10.3%(7)(99)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201199で14%増加し,「ほとんどない」と合わせて約9割に達し,3群間で有意差を認めた(c2検定:p<0.05).3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図1)目安があることおよび記載内容ともに適当との回答が3群とも80%前後を占め,目安の記載自体混乱の元で不必要との回答は4~10%台,目安はあったほうがよいが記載内容の修正は必要との回答は4~7%台にとどまり,3群間に有意差を認めなかった.7年目の回答者において,修正点として「目安としてはこう書くしかないと思うが,増殖前と増殖に関しては参考にならない」「コントロール状態と眼のステージで決めている」「黄斑症についての記載が必要だと思う」の記載があった.4.受診の記録の中で記入しにくい項目(図2)記入しにくい項目を選択した回答者の割合は,半年目47.9%,2年目42.3%,7年目51.5%で,3群間に有意差を認めなかった.7年目の回答者が選択した記入しにくい項目としては,福田分類,変化,白内障が10%を超えており,福田分類は増加傾向を認めた.一方,次回受診予定日,糖尿病網膜症,黄斑症は減少していた.問1.眼手帳の利用状況問2.眼手帳を糖尿病患者へ渡すことへの抵抗感問3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%□積極的に配布している■時々配布している■必要とは思うが配布していない■必要性を感じず配布していない■眼手帳を今回はじめて知った■その他の配布状況■未回答□全くない■ほとんどない■多少ある■かなりある■未回答□適当■不必要■修正が必要■未回答2年目7年目半年目2年目7年目半年目2年目7年目c2検定:p<0.05c2検定:p値0.86c2検定:p値0.55図1問1~3の回答結果問4.受診の記録の中で記入しにくい項目■特にない■ある■未回答■半年目■2年目■7年目0%0%5%10%15%20%25%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目問5.受診の記録の中で追加したい項目の有無c2検定:p値0.46(未回答を除く)糖尿病黄斑症福田分類変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受信予定日図2問4,5の回答結果100あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(100)5.受診の記録の中で追加したい項目の有無(図2)追加したい項目は「特にない」が3群とも大多数を占め,「ある」は半年目7.3%,2年目9.9%,7年目14.7%にとどまり,3群間に有意差を認めなかった.追加したい項目があると回答した者において,具体的にはHb(ヘモグロビン)A1Cを記載したものが最も多かった.6.眼手帳を渡したい範囲(図3)発行7年目において眼手帳を渡したい範囲は,すべての糖尿病患者との回答が半年目より18.5%,2年目より5%増加傾向,一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目の6割台が2年目と7年目では4割台に減少傾向を認めた.7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか(図3)全くならないが半年目28.1%,2年目21.1%,7年目33.8%,あまりならないが38.5%,43.7%,33.8%,多少なるが19.8%,22.5%,23.5%,かなりなるが5.2%,8.5%,8.8%で,3群間に有意差は認めなかった.8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか(図3)眼科医が渡すべきであるが半年目40.6%,2年目36.6%,問6.眼手帳を渡したい範囲問7.文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか問8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか0%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目■全ての糖尿病患者■網膜症が出現してきた患者■正直あまり渡したくない■その他■未回答■全くならない■あまりならない■多少なる■かなりなる■未回答■眼科医が渡すべき■内科医でも良い■どちらでも良い■未回答c2検定:p<0.10%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目c2検定:p値0.260%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目c2検定:p値0.51図3問6~8の回答結果問9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会問10.眼手帳の広まり■かなりある■多少ある■ほとんどない■全くない■未回答■【半年・2年目】かなり広まると思う【7年目】かなり広まっていると思う■【半年・2年目】なかなか広まらないと思う【7年目】あまり広まっていないと思う■どちらともいえない■未回答c2検定:p<0.052年目7年目c2検定:p<0.0050%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%2年目半年目7年目図4問9,10の回答結果(101)あたらしい眼科Vol.28,No.1,20111017年目36.8%,内科医が渡してもかまわないが30.2%,28.2%,23.5%,どちらでも良いが26.0%,32.4%,39.7%で,3群間に有意差は認めなかった.9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会(図4)半年目は質問項目として未採用のため,2年目と7年目で比較した.その結果,他院で発行された眼手帳をみる機会は,かなりあると多少あるが増加し,ほとんどないと全くないが減少して,2年目より7年目においてみる機会が有意に増えていた(c2検定:p<0.05).10.眼手帳の広まり(図4)この設問において,半年目と2年目は眼手帳の広まりに対する予想を,一方,7年目は現在の広まりに対する評価を質問した.その結果,眼手帳はかなり広まる・広まっているとの回答は20%台で推移しているが,あまり広まらない・広まっていないが倍増し,一方,どちらともいえないが減少して,3群間に有意差を認めた(c2検定:p<0.005).III考按1.眼手帳の利用状況眼手帳の存在自体を今回はじめて知ったとの回答は2年目4.2%,7年目4.4%にとどまり,眼手帳の認知度は約95%であった.船津らにより行われた全国9地域,10道県の眼科医を対象にした,発行1年目の調査5)における認知度は88.6%,6年目の調査7)では95.3%であり,ほぼ同等の結果と思われる.一方,眼手帳の活用度は,積極的と時々配布を合わせて63.2%で,2年目より10%増加していたが,先の発行1年目5)と6年目7)の調査における活用度60.5%,71.6%と比べると,かなり低かった.診療が忙しくてほとんど配布していないとの回答が15~20%,あまり必要性を感じないので配布していないとの回答が10%前後認めており,今後活用度を上げるには「記入すべき項目数の限定」「コメディカルによる記入の協力」など,より利用しやすい方法を考える必要がある.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感配布に対する抵抗感は,「全くない」がこの5年間で14%増加し,ほとんどないと合わせて約9割に達しており,時間的余裕と配布の必要性が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果であった.3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度「精密眼底検査の目安」の記載が臨床上適当であるとの回答は,3群とも8割前後の高い回答率であったが,一方,目安の記載自体混乱の元で不必要との回答も4~10%台認めた.この結果は,糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を改めて示している.4.受診の記録の中で記入しにくい項目7年目の回答において,福田分類,変化,白内障が10%を超えており,特に福田分類は増加傾向を示した.眼手帳とほぼ同じ項目で作成された「内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書」の改良点に関する調査においても,削除希望項目として福田分類の希望が多かった1).また筆者が,非常勤医師として診療に携わっている病院における眼手帳の記入状況において,福田分類は最も記載率が低かった10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるためぜひ記入していただきたい項目であるが,その記入のためには蛍光眼底検査が必要な症例も少なくなく,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).一方,次回受診予定日は,記入しにくいと回答する者が減少していたが,眼科受診放置を防ぐためには,まず次回の受診時期を患者本人および内科主治医に知らせることが重要であり,今回の結果は望ましい方向に進んでいることを示している.5.受診の記録の中で追加したい項目の有無追加したい項目は特にないとの回答が約80~90%であったが,追加希望の項目としてはHbA1Cが多かった.HbA1Cが併記されれば,血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連がみやすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待される.6.眼手帳を渡したい範囲すべての糖尿病患者との回答は,半年目で27.1%にとどまり,船津らの発行1年目の調査5)での24.8%との回答結果に近似していた.しかし2年目40.8%,7年目45.6%と増加傾向を示し,6年目の調査7)での31.8%を上回っていた.一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目の60%が2年目と7年目は40%強に減少傾向を認めたが,6年目の調査7)での39.6%と近似した結果を示した.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる5).7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか普及の妨げに全く・あまりならないとの回答が計67.6%で,有意差は認めなかったが前者の比率がやや増えていた.従来連携に用いてきた情報提供書は,医師側には文書料が保険請求できるメリットがあるものの,患者側からみると記載内容を直接見ることができないデメリットもある.今回の結果は,「患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」という眼手帳の目的を考えると,望まし102あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(102)い方向性を示している.8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか眼科医が渡すべきは比較的横ばいであったのに対し,有意差は認めなかったものの,内科医から渡してもかまわないが減少し,一方,どちらでも良いは増加していた.先に触れたように,精密眼底検査の受診間隔や眼手帳を渡す範囲などには眼科医によって差異があり,その点からも内科医からの配布には慎重な姿勢がみられたと思われる.9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会かなりあると多少あるが増加し,ほとんどないと全くないが減少していたが,眼手帳配布の協賛企業から日本糖尿病眼学会事務局への報告資料によると,東京都における眼手帳の医療機関への配布部数は2003年末で43,833部,2008年末で137,232部,眼手帳の申し込み件数は2003年末で656件,2008年末で2,099件と増加しており,この結果を支持していた.10.眼手帳の広まり眼手帳はあまり広まらない・広まっていないが倍増し,どちらともいえないが著減しており,前項の眼手帳をみる機会の増加と矛盾する結果であった.眼手帳の医療機関への配布部数ならびに眼手帳の申し込み件数は,先に示したように2003年末に比べて2008年末はそれぞれ3.1倍,3.2倍の増加を示しているが,同じく日本糖尿病眼学会事務局資料で東京都の眼科施設における配布率の推移をみると,病院の配布率が2003年末38%,2008年末62%で1.6倍,開業医の配布率が2003年末22%,2008年末30%で1.4倍の増加にとどまっている.すなわち,すでに利用している医療機関での各配布数の伸びが全体の配布部数の増加を支えており,利用施設数はパラレルに増加していないことになり,これが今回の眼手帳の広まりに対する実感につながっている可能性が考えられる.以上のアンケート結果の推移により,眼手帳の配布率はこの5年間で10%上昇し,配布に対する抵抗感は有意に減少し,眼手帳を配布したい範囲は広がる傾向を認め,他院発行の眼手帳をみる機会は有意に増えているが,眼手帳の広まりに対する評価は厳しかった.今後は,さらに多くの医療機関で眼手帳を利用してもらうために,眼手帳の目的を理解してもらうための啓蒙活動ならびに眼手帳のより利用しやすい方法の提案が必要と思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の利用状況と意識調査.日本糖尿病眼学会誌9:140,20049)大野敦,粂川真理,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における発行2年目の糖尿病眼手帳に対する意識調査.日本糖尿病眼学会誌11:76,200610)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎医師会医会誌22:48-53,2005***