《原著》あたらしい眼科29(10):1426.1428,2012c急速に改善したAcuteZonalOccultOuterRetinopathyの1例原和之寺田佳子秋元悦子柴田貴世広島市立広島市民病院眼科ACaseofAcuteZonalOccultOuterRetinopathywithRapidImprovementKazuyukiHara,YoshikoTerada,EtsukoAkimotoandKiyoShibataDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital今回,急速な改善を認めたacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)を経験した.45歳,女性が左眼の暗点を自覚して受診した.眼底に異常はみられなかったが,左眼のMariotte盲点の拡大を認めた.頭部磁気共鳴画像法(MRI),full-fieldelectroretinographyで異常なく光干渉断層計(OCT)で乳頭近くの視細胞内節外節接合部(IS/OS)が不整であることよりAZOORと診断した.その後盲点は拡大,視力が低下したが初診時より1.5カ月で自然に暗点は縮小して視力は改善した.OCTでIS/OSは改善していた.急速に改善したAZOORの1例と考えた.Weexperiencedacaseofacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)withrapidimprovement.Thepatient,a45-year-oldfemale,presentedwithscotomainherlefteye.Noabnormalfindingwaspresentintheanteriorsegment,ocularmediaorfundus.Perimetryshowedanenlargedblindspot.Opticalcoherencetomography(OCT)revealedlossoftheinnersegment-outersegment(IS/OS)junctionintheareacorrespondingtothescotoma.By6weekslater,thescotomahadresolvedspontaneouslyandvisualacuityhadimproved.TheIS/OSjunctionwasalsorestored.WesurmisethatthiswasacaseofAZOORwithrapidimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1426.1428,2012〕Keywords:急性帯状潜在性網膜外層症,光干渉断層計,視細胞内節外節接合部.acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR),opticalcoherencetomography(OCT),innersegment-outersegment(IS/OS)junction.はじめにAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)は1993年にGassが提唱した疾患概念であり,眼底所見は正常であるにもかかわらず視野障害,視力障害をひき起こす網膜疾患である1,2).網膜外層の機能低下が本疾患の機序と考えられていたが,光干渉断層計(OCT)により視細胞内節外節接合部(IS/OS)の不整,欠損が報告され3,4),この仮説が正しいことが証明された.OCTが診断に有用な疾患として注目されている5.7).視野障害は急速に進行するが回復はさまざまとされている2).今回,約1カ月半の間に視力障害,視野障害が進行,改善したAZOORと思われる症例を経験したので報告する.I症例患者:45歳,女性.主訴:左眼の暗点およびその内部の光視症.既往歴:3年前にLASIK(laserinsitukeratomileusis)を受けているほか特記すべきことなし.現病歴:3日前に左眼の暗点に気づき,前日より暗点の拡大を自覚して当院受診.初診時所見:視力はVD=0.5(1.2×.0.75D),VS=0.15(1.2×.1.25D),眼圧は右眼7mmHg,左眼9mmHg,対光反射は正常,前眼部,中間透光体に異常なく炎症細胞を認めなかった.眼底検査,蛍光眼底撮影で異常を認めなかった.Goldmann視野検査で左眼のMariotte盲点の拡大を認めた(図1A).限界フリッカ値は両眼約30Hz,頭部CT(コン〔別刷請求先〕原和之:〒730-8518広島市中区基町7-33広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:KazuyukiHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital,7-33Motomachi,Naka-ku,Hiroshima-shi730-8518,JAPAN142614261426あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(110)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYABC図1左眼Goldmann視野A:初診時視野.絶対暗点の周囲に比較暗点が広がっている.B:2週間後.暗点は拡大.C:6週間後.初診時と同程度の暗点となった.ABCDEピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)で視神経,頭蓋内に異常を認めなかった.採血検査では特に異常を認めなかった.FullfieldERG(網膜電図)では振幅は保たれており大きい左右差は認められなかった.OCT(3DOCT-1000,トプコン)の水平断で乳頭付近のIS/OSが不鮮明となっていた図2左眼OCT水平断A:初診時,視力(1.2).矢印の間はIS/OSが不鮮明となっている.B:1週間後,視力(0.8).不鮮明な部分が拡大.C:2週間後,視力(0.6).鼻側のIS/OSはほとんど観察されない.D:6週間後,視力(1.0).IS/OSは不明瞭ながら連続的に観察される.E:6カ月後,視力(1.2).正常となっている.(図2A).経過:初診時より1週間後に見にくい部分が中心に近づくのを自覚し左眼視力(0.8)となった.Mariotte盲点はより拡大していた.OCTでIS/OSの不鮮明部分が拡大して中心窩下では不鮮明となっていた(図2B).その1週間後にはさらに盲点が拡大して視力(0.6)となった(図1B).IS/OSはさらに不整となり中心窩より鼻側では部分的に確認できるだけとなった(図2C).外顆粒層は保たれていたが,外境界膜は確認できなくなった.その後特に治療は行わなかったが,初診時より6週間後に光視症は減少して左眼視力(1.0)となった.Mariotte盲点は初診時程度まで縮小し(図1C),中心窩のIS/OSは不明瞭ながら連続的に観察されるようになった(図2D).その後初診時より6カ月後には視力(1.2)で盲点は正常となっていた.眼底に異常は認められずIS/OSは正常であった(図2E).II考按本症例は当初,進行性のMariotte盲点の拡大を認めたことより視神経炎を疑った.しかし,限界フリッカ値は左右差がなくMRIで異常ないこと,本症例では暗さは自覚せず光視症を自覚していたことより視神経炎は否定的であった.また,腫瘍関連網膜症も考慮したがERGの振幅が保たれていること,急速に進行したことより否定的と考えた.本症例では初診時にMariotte盲点の拡大部分に相当する領域,乳頭(111)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121427中心窩の間の乳頭側1/3の領域でIS/OSの不整,欠損を認め,その後視野障害の進行とともに欠損部分が拡大した.乳頭耳側のOCTは評価しておらず多局所ERGは行っていないが,OCTで進行性の網膜外層の障害があることよりAZOORと診断した.AZOORでは60.88%に光視症を自覚する2)とされており本症例の暗点の中がキラキラするという自覚症状に合致すると考える.ほかにMariotte盲点が拡大する疾患としてMEWS(multipleevanescentwhitedotsyndrome)がある.急速に改善することが知られているが,本症例では初診時より眼底に白点状変化を認めなかった点より否定される.しかしMEWSはAZOORの関連疾患であるとされており2,4),発症より約1カ月ほどで視野が著明に回復した点からするとMEWSに近い症例であったのかもしれない.AZOORは78%が発症後6カ月で症状が安定して進行が停止するが,改善するのは約1/4であり,眼底に異常のないAZOORは視力改善しやすいことが知られている2).今回の症例は比較的短期間の間に悪化と改善が観察され,AZOORとしては経過が良好であった.日本人のAZOORは欧米より軽症である可能性が指摘されている5).また,OCTの普及により網膜外層の障害が検出されやすくなり,本症例のような軽症のAZOORの発見が増加している可能性があると考える.Spaideらの報告4)と同様に今回の症例でもIS/OSの修復とともに視力,視野は改善した.しかしIS/OSが改善しても視野,ERGは改善しない症例の報告8)がある.近年OCTによる網膜構造の評価の指標としてIS/OSの他にCOST(coneoutersegmenttip)が注目されている9).黄斑円孔の術後ではIS/OSよりも遅れて修復され,IS/OSより視力に相関する10)とされている.AZOORについては発症時にIS/OS,COSTが障害されるが,回復期でCOSTが障害されているにもかかわらず視機能が改善している報告がある11).このようにAZOORの回復期ではOCTで観察した網膜外層構造の回復と視機能の回復に乖離がある.最近,補償光学を使った観察によりAZOORでは杆体ではなく錐体の障害が観察されたとの報告12)がある.明るいところで視野障害,光視症が悪化する2)とのAZOORの症状に相当する所見の可能性がある.錐体と杆体で障害されやすさに差があるのかもしれない.今後の課題として注目される.文献1)GassJD:Acutezonaloccultouterretinopathy.DondersLecture:TheNetherlandsOphthalmologicalSociety,Maastricht,Holland,June19,1992.JClinNeruroophthalmol13:79-97,19932)GassJD,AgarwalA,ScottIU:Acutezonaloccultouterretinopathy:along-termfollow-upstudy.AmJOphthalmol134:329-339,20023)LiD,KishiS:Lossofphotoreceptoroutersegmentinacutezonaloccultouterretinopathy.ArchOphthalmol125:1194-1200,20074)SpaideRF,KoizumiH,FreundKB:Photoreceptoroutersegmentabnormalitiesasacauseofblindspotenlargementinacutezonaloccultouterretinopathy-complexdiseases.AmJOphthalmol146:111-120,20085)近藤峰生:AZOORとその近縁疾患.臨眼65:1077-1017,20116)岸章治:AZOOR,MEWS,OMD.臨眼65:1774-1783,20117)MonsonDM,SmithJR:Acutezonaloccultouterretinopathy.SurvOphthalmol56:23-35,20118)水口忠,谷川篤宏,堀口正之:Acutezonaloccultouterretinopathyにおける光干渉断層計所見の経時変化.眼臨紀2:735-738,20099)SrinivasanVJ,MonsonBK,WojtkowskiMetal:Characterizationofouterretinalmorphologywithhigh-speed,ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:1571-1579,200810)ItoY,InoueM,RiiTetal:Significantcorrelationbetweenvisualacuityandrecoveryoffovealconemicrostructuresaftermacularholesurgery.AmJOphthalmol153:111-119,201211)SoK,ShinodaK,MatsumotoCDetal:Focalfunctionalandmicrostructuralchangesofphotoreceptorsineyeswithacutezonaloccultouterretinopathy.CaseReportOphthalmol2:307-313,201112)MkrtchyanM,LujanBJ,MerinoDetal:Outerretinalstructureinpatientswithacutezonaloccultouterretinopathy.AmJOphthalmol153:757-767,2012***1428あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(112)