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大阪大学病院での近視性中心窩分離症における中心窩形態の特徴

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(137)739《原著》あたらしい眼科28(5):739.741,2011cはじめに中心窩分離症(myopicfoveoschisis:MF)は中高年女性に好発し,強度近視に伴う後極部の非裂孔原性網膜分離,.離を主徴とする疾患で,最初Phillipsらによって1953年,黄斑円孔のない近視性後極部網膜.離として報告された1).その後光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達によって,より詳細な観察が可能となり2),今では多くの形態的なサブタイプがあることが報告されている.Benhamouらは中心窩分離症の中心窩形態として,中心窩.離型(fovealdetachment),分層円孔型(lamellarhole),そして.胞型(cystic)の3種があると報告した3).中心窩分離に対して硝子体手術が有効であることはすでに報告されている4.7)が,筆者らは手術成績を基に視細胞が網膜色素上皮より.離している中心窩.離型(fovealdetachment)とまだ.離していない網膜分離型(retinoschisis)の2つに分類し,前者のほうが硝子体手術による視力改善が大きく,より手術に適するのではないかと考察した8).中心窩分離の成因として,硝子体牽引,黄斑前膜の形成,内境界膜や網膜血管の非伸展性や後部ぶどう腫の形成が考えられている9,10).また,放置すると黄斑円孔を形成したり網〔別刷請求先〕十河薫:〒665-0832宝塚市向月町15-9宝塚第一病院眼科Reprintrequests:KaoriSoga,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Takarazuka-DaiichiHospital,15-9Kozuki-cho,Takarazuka,Hyogo665-0832,JAPAN大阪大学病院での近視性中心窩分離症における中心窩形態の特徴十河薫佐柳香織生野恭司大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室FovealAnatomicalProfileofMyopicFoveoschisisinHighMyopiaClinicofOsakaUniversityHospitalKaoriSoga,KaoriSayanagiandYasushiIkunoDepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine強度近視に続発する中心窩分離症症例の形態的特徴を検討した.対象は2000年から2005年の間に大阪大学病院強度近視外来を受診している強度近視に続発した中心窩分離症症例52例63眼である.強度近視の定義は等価球面屈折値が.8ジオプトリー以上または眼軸長26mm以上とした.症例の内訳は男性8例10眼,女性44例53眼で,どの年齢層でも女性が多かった.平均年齢は62.1歳で,60歳代が最も多かった.平均眼軸長は28.9mmであった.両眼性は11例,片眼性は41例で,形態分類の内訳は中心窩.離型が34眼(65%)で最も多く,続いて分層円孔型20眼(38%),.胞型9眼(17%)であった.視力は中心窩.離型が最も悪く,続いて分層円孔型,.胞型の順であったが,眼軸長については3者で大きな差はみられなかった.外来受診する中心窩分離症の多くは60歳代の女性かつ,中心窩.離型が多い.ThefovealanatomicalprofileofmyopicfoveoschisiswasinvestigatedatthehighmyopiaclinicofOsakaUniversityHospitalbetween2000and2005.Subjectscomprised63eyesof52patients(8male,44female;meanage,62.1years;meanaxiallength,28.9mm).Theconditionwasbilateralin11patientsandunilateralin41patients.Ofthe63eyes,18(28%)werefovealdetachmenttype,29(46%)wereretinoschisistypeand16(25%)weremacularholetype.Visualacuitywasworstinmacularholetype,althoughtheaxiallengthwassimilar.About80%ofmacularholeandfovealdetachmenttypeeyesunderwentvitrectomy,ascomparedto50%ofretinoschisistypeeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):739.741,2011〕Keywords:強度近視,中心窩分離症,硝子体手術,光干渉断層計.highmyopia,myopicfoveoschisis,vitrectomy,opticalcoherencetomography.740あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(138)膜.離に至る11)ことから,それ以前に予防的に硝子体手術が盛んに行われている.黄斑円孔を併発していない場合,手術予後はおおむね良好であるが,黄斑円孔を併発してしまった場合,閉鎖率が低いことから,手術成績は著しく悪い12).中心窩分離症は網膜分離から中心窩.離を併発し,最終的に中心窩が菲薄化して黄斑円孔になると考えられているが,これらの事情から黄斑円孔になるまでに手術を行うのが理想とされている9).中心窩分離症はこのように強度近視にとって大きな脅威であるが,頻度が低いことから疾患の詳細な情報は得られていない.本稿では,大阪大学病院(以下,当院)強度近視外来を受診した中心窩分離症症例を分析しその傾向を検討した.I対象および方法対象は2000年から2005年の間に当院強度近視外来を初診で受診している強度近視に続発した中心窩分離症症例52例63眼である.すでに他院で手術や光線力学的療法など加療をされているもの,脈絡膜新生血管など他の黄斑疾病を合併しているもの,そして極度の網脈絡膜萎縮をきたしている症例は除外した.強度近視の定義は等価球面屈折値が.8ジオプトリー以上または眼軸長26mm以上とした.これら症例の視力や症例の状態を後ろ向きに診療録やOCTイメージを調査,検討した.中心窩分離症は,中心窩のOCTイメージの状態からBenhamouの分類に従い,以下のように分類した.中心窩.離をきたしているもの(fovealdetachment:FD),分層円孔となっているもの(lamellarhole:LH),.胞様変化をきたしているもの(cystic:CT)とした.また,血管アーケードを超えるような網膜.離および明らかな黄斑前膜症例は除外した.II結果症例の内訳は男性8例10眼,女性44例53眼であった.平均年齢は62.1歳で,平均眼軸長は28.9mmであった.年齢別にみると40歳代は6例(12%),50歳代は13例(25%),60歳代は22例(42%),70歳代は11例(21%)であった.両眼性は11例,片眼性は41例で,形態分類の内訳は中心窩.離型が34眼(65%)で最も多く,続いて分層円孔型20眼(38%),.胞型9眼(17%)であった.また,初診時すでに黄斑円孔を併発していたものが26眼(50%)あった.年代別の男女構成を図1に示す.40歳代を除き男性の割合は10.20%であった.これは年齢にかかわらず,症例のほとんどを女性が占めるということである.つぎにFD,LH,およびCTの各タイプ別における視力の分布を図2に示した.FDが最も悪く,0.1未満の症例が40%前後と最も多くを占め,また0.4以上の症例が20%前後と3タイプのなかで最も少なかった.最も良好であったのはCTタイプで,ほとんどの症例が0.4以上の視力を有していた.LHタイプはFDとCTの中間のような視力分布であった.つぎに眼軸長が測定可能であった29眼について,タイプTotaln=5270~n=1160~69n=2250~59n=1340~49n=60%20%40%60%80%100%■:男性■:女性図1年齢別にみた男女の比率Totaln=29CTn=3LHn=10FDn=16■:28mm未満■:28mm以上30mm未満■:30mm以上0%20%40%60%80%100%図3FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の眼軸長分布Totaln=63CTn=9LHn=20FDn=34■:0.1未満■:0.1~0.3■:0.4以上0%20%40%60%80%100%図2FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の矯正視力分布Totaln=63CTn=9LHn=20FDn=34■:手術施行例■:手術非施行例0%20%40%60%80%100%図4FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の手術施行例.非施行例の割合(139)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011741別にその分布を調査した(図3).FD,LHタイプともに眼軸長28mm未満の症例が50%程度,30mmを超える症例が30%程度でその分布は非常に類似していた.CTは唯一30mm以上の症例がなかったが,今回は3症例の検討であった.手術の施行と非施行の割合を調査したところ,FDが最も手術されている割合が高く約70%の症例に手術が施行されていた(図4).一方でLHとCTには40.50%前後にしか手術は施行されていなかった.III考按今回は当院強度近視外来を受診中の中心窩分離症症例の特に中心窩の形態を検討した.今までに病院ベースで中心窩分離のプロファイルを調査した統計はなく,そのため詳細な比較検討はむずかしいが,FD,LH,CTの3群に分類した場合,Benhamouら3)はCTが10眼,LHが6眼そして,FDが6眼と報告している.今回は少しこれらと異なるが,当院でみられる中心窩分離のほとんどがFDであった.FDは,視力改善という点では,中心窩分離のなかでも最も硝子体手術に適するとされており,このように手術が必要とされるサブタイプであるFDが多く来院することは眼科医として肝に銘じておくべきである.中心窩分離症を放置した場合,2,3年のうちに約半数が黄斑円孔や網膜.離を発症するとされている11).強度近視における黄斑円孔は,特に網膜分離を伴った場合,予後が悪いため12),黄斑円孔が生じる前に硝子体手術を行い,その予防的措置を行うことが重要である.特にFDでは,網膜.離のために,中心窩が薄くなっており,経過観察中に黄斑円孔発症の可能性が高いと考えられる.したがって外来診療においては,このように黄斑円孔のリスクの高い患者が多く診療に訪れることを知っておくべきであろう.今回の調査では中心窩分離の症例は40歳代から70歳代に分布していた.中心窩分離は後部ぶどう腫の発症に従って生じるとされていることから,ある程度近視が進行して後部ぶどう腫が形成される年齢に達していることが必須であると考えられる.どの年齢においても女性が優位であったが,40歳代のみやや男性が多い傾向があった.近視も一般に女性が多いとされている.しかしながら,この場合40歳代が6例と少ないため,40歳代だけ比率が異なるか否かの判断は注意を要すると考えられる.FDで視力が一番不良であったのは,網膜.離に伴う視細胞の障害が最も顕著であるからと考えられる.LH,CTともに視力の低下している症例はあったが,FDほどの低下はみられなかった.中心窩分離においては,分離でも網膜障害が生じるが,視力という面ではやはり,中心窩視細胞の.離の有無が大きく関係するものと考えられる.実際筆者らの検討でも,中心窩.離がある症例のほうが,ない症例よりも視力が悪い8).また,硝子体手術においても,中心窩.離がある症例のほうが,ない症例よりも視力の回復が良好であることが報告されており8),治療では視細胞の救済が非常に重要であることを示唆するものである.これと関連して,手術された症例の割合はFDが最も高かった.これはFDが最も手術的に回復することが可能であること,視力不良の症例が多くを占め,手術を勧めやすいことが考えられる.最後にこれはあくまで病院における後ろ向き検討であるので,必ずしも疫学ベースでの結果と異なる可能性がある.特に視力が良好な間は,中心窩分離症例はなかなか病院を受診しないことも考えられる.本格的な疫学調査に関しては,今後の検討が待たれるところである.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.BrJOphthalmol42:749-753,19582)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol128:472-476,19993)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:Macularretinoschisisinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol133:794-800,20024)石川太,荻野誠周,沖田和久ほか:高度近視眼の黄斑円孔を伴わない黄斑.離に対する硝子体手術.あたらしい眼科18:953-956,20015)KobayashiH,KishiS:Vitreoussurgeryforhighlymyopiceyeswithfovealdetachmentandretinoschisis.Ophthalmology110:1702-1707,20036)IkunoY,SayanagiK,OhjiMetal:Vitrectomyandinternallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol137:719-724,20047)HirakataA,HidaT:Vitrectomyformyopicposteriorretinoschisisorfovealdetachment.JpnJOphthalmol50:53-61,20068)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Fovealanatomicalstatusandsurgicalresultsinvitrectomyformyopicfoveoschisis.JpnJOphthalmol52:269-276,20089)生野恭司:強度近視眼に続発した中心窩分離症の病因と治療.日眼会誌110:855-863,200610)BabaT,Ohno-MatsuiK,FutagamiSetal:Prevalenceandcharacteristicsoffovealretinaldetachmentwithoutmacularholeinhighmyopia.AmJOphthalmol135:338-342,200311)GaucherD,HaouchineB,TadayoniRetal:Long-termfollow-upofhighmyopicfoveoschisis:naturalcourseandsurgicaloutcome.AmJOphthalmol143:455-462,200712)IkunoY,TanoY:Vitrectomyformacularholesassociatedwithmyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol141:774-776,2006

自然寛解したMacular Microhole の1 例

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)297《原著》あたらしい眼科28(2):297.299,2011cはじめにMacularmicroholeとは中心窩に小さいhole様の赤色点が認められる病態であり1988年に最初に報告された1).急に発症するが進行せず円孔の大きさは変わらないことより特発性黄斑円孔とは別の疾患と考えられている2).特発性黄斑円孔に比べてまれな疾患であるが光干渉断層計(OCT)の進歩,普及により黄斑の形態が微細に観察可能になったため近年報告が増加している.今回筆者らは経過観察により自然寛解したmacularmicroholeを経験したので報告する.I症例53歳女性,ハンダ付けの仕事をしている.左眼中心部の見えにくさを主訴として2009年9月に当院初診した.右眼視力1.5(矯正不能),左眼視力1.2(矯正不能),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHgであった.両眼の前眼部に異常なく,検眼鏡で両眼底に異常を認めなかった.Spectraldomain方式のOCT(3DOCT-1000,TOPCON,以下SDOCT)でも黄斑に特に異常を認めなかったが,中心窩周囲に硝子体の付着を認め中心窩陥凹は平坦で少し浅くなっていた(図1A).1カ月後左眼の中心窩にoperculumを伴わない黄色の輪状の変化が出現し,SD-OCTでは中心窩の陥凹がさらに減少していた.視細胞内節外節接合部(IS/OS)は保たれているがその下の層が不整になっていた(図1B).初診時より5カ月後には左眼の中心暗点を自覚するも視力1.5で検眼鏡所見は変化なかった.SD-OCTでは網膜内層面の平坦化はやや改善し外境界膜は正常であるが約100μmのIS/OSとその外層の裂隙が観察された(図1C).その2カ月後にはわずかなIS/OSの挙上は残っているが,網膜外層の裂隙は消失して中心窩の陥凹は正常化した.中心窩の硝子体の付着は明らかではなかった(図1D).自覚症状は改善し中心窩の〔別刷請求先〕原和之:〒730-8518広島市中区基町7-33広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:KazuyukiHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital,7-33Motomachi,Naka-ku,Hiroshima-shi730-8518,JAPAN自然寛解したMacularMicroholeの1例原和之寺田佳子細川海音難波明奈広島市立広島市民病院眼科ACaseofSpontaneousResolutionofMacularMicroholeKazuyukiHara,YoshikoTerada,MioHosokawaandAkinaNambaDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital今回,光干渉断層計(OCT)により黄斑外層に小さい裂隙を認めるmacularmicroholeを経験した.53歳女性が左眼の見えにくさを自覚して受診した.検眼鏡では中心窩に黄色の輪状変化を認めた.Spectral-domainOCTで網膜内層面の平坦化と網膜外層に小さい裂隙を認めた.経過観察により網膜外層の裂隙は消失し自覚症状は改善した.硝子体牽引の減少により自然寛解したmacularmicroholeと診断した.今回の症例にみられたmacularmicroholeは黄斑円孔と同様に硝子体の牽引が関与した疾患であると考える.Weexperiencedacaseofspontaneousresolutionofamacularmicroholeintheouterretina.Thepatient,a53-year-oldfemale,presentedwithblurredvisioninherlefteye.Biomicroscopyoftheeyedisclosedayellowringinthefovea.Spectral-domainopticalcoherencetomograph(OCT)revealedasmalldefectintheouterretinaandflatteningoftheinnersurfaceofthefovea.Twomonthslater,thedefectintheouterretinahadresolvedspontaneouslyandvisualsymptomshadimproved.Wesurmisethatthemacularmicroholeseeninourpatientmayhavebeenduetovitreoustraction,likeamacularhole.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):297.299,2011〕Keywords:macularmicrohole,光干渉断層計,fovealredspot.macularmicrohole,opticalcoherencetomograph(OCT),fovealredspot.298あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(144)輪状変化は消失した.II考按Macularmicroholeは以前より知られていた病態であるがOCTによる観察は最近になって散見される.Zambarakjiらは臨床的にmicroholeの形態を認める症例をtime-domain方式のOCTで観察すると18眼中15眼で網膜外層または色素上皮層の欠損を認め,全層の円孔を認める症例はなかった3)としている.OCTの出現前にmicroholeとされていた病態が全層の網膜欠損であったのか不明であり,初期の報告のような全層の欠損とZambarakjiらの報告した網膜外層だけの欠損が同じ疾患であるかは疑問である.全層の欠損を伴わないmicroholeをfovealredspotとよび,その多くはmacularmicroholeの治癒した状態ではないかという意見もある4).Macularmicroholeの定義は混乱した状態であり,いくつかの疾患が含まれている可能性がある.今回の症例は網膜全層ではなく網膜外層のIS/OSの裂隙であった.Microholeの発生前のSD-OCTでは異常が認められなかったので以前に特発性黄斑円孔のような全層の欠損があり,その治癒過程で網膜外層の裂隙が残っていた可能性は否定的である.また,日光網膜症でも同様のOCT所見を示すことが知られているが,日光を注視した既往はなかった.同様に網膜外層だけの欠損を両眼に認めた報告5)があるが,視力は低下しており1年後にも欠損は残っていた.この文献の症例では中心窩の陥凹は正常であったので硝子体の牽引が病態に関与しているとは考えにくく,網膜外層の欠損をひき起こす原因がほかにもある可能性がある.Microholeの寛解時にはWeissringの形成は確認できなかったが硝子体の変性は進行していた.SD-OCTでは判別困難であったが図1C,Dでは硝子体面は確認できず硝子体.離が疑われた.中心窩内面の平坦化がmicroholeの寛解とともに減少して正常な陥凹に改善していることより,今回の症例では中心窩への硝子体牽引の減少が網膜外層の裂隙の寛解に寄与していると考えた.過去の報告でも,Laiらは全層の網膜欠損であるmicroholeが自然に閉鎖した症例を報告しており,硝子体の中心窩への牽引の解除が関与しているとしている6).黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群もmicroholeと同様に中心窩への硝子体の牽引が発症に関与していると考えられるが,最終的に網膜の形態に差ができる原因は不明である.Stage1の黄斑円孔の形成過程をOCTで連続的に観察した報告では,最初に中心窩で網膜内層,外層間に分離が生じその後,小さい三角形の中心窩.離が形成されるとしている7).網膜が分離したために中心窩が挙上されやすくなり残った中心窩下の円柱状の構造物(Mullercellcone)に牽引が集中して外層だけではなく全層の裂隙に進行した可能性がある.硝子体の牽引力,付着部位の差だけではなく最初に網膜分離が起こるかどうかで最終的な形態に差が出るのかもしれない.硝子体の牽引の軽減により自然寛解したと思われる網膜外層のmacularmicroholeを経験した.Macularmicroholeの発症機序の一つとして硝子体の中心窩への牽引が考えられるが,黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群と相違をもたらす原因については不明である.さらに高解像度のOCTによる発症初期の連続的観察が望まれる.文献1)CarinsJD,McCombeMF:Microholesofthefoveacentralis.AustNZJOphthalmol16:75-79,19882)ReddyCV,FolkJC,FeistRMetal:Microholesofthemacula.ArchOphthalmol114:413-417,19963)ZambarakjiHJ,SchlottmannP,TannerVetal:Macularmicroholes:pathogenesisandnaturalhistory.BrJOphthalmol89:189-193,20054)JohnsonMW:Posteriorvitreousdetachment:Evolutionandcomplicationsofitsearlystages.AmJOphthalmol149:371-382,2010図1SD.OCT所見A:初診時.B:1カ月後.中心窩の陥凹が減少している.C:5カ月後.網膜外層に裂隙を認める.D:7カ月後.裂隙は消失した.ABCD(145)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112995)照井隆行,近藤峰生,杉田糾:Macularmicroholeが疑われた症例の他局所網膜電図所見.眼臨紀2:739-742,20096)LaiMM,BresslerSB,HallerJAetal:Spontaneousresolutionofmacularmicrohole.AmJOphthalmol141:210-212,20067)TakahashiA,NagaokaT,IshioSetal:Fovealanatomicchangesinaprogressingstage1macularholedocumentedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology117:806-810,2010***

乳頭浮腫型Vogt-小柳-原田病の1 例

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)293《原著》あたらしい眼科28(2):293.296,2011cはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)は全身のメラノサイトに対する特異的な自己免疫疾患であり,ぶどう膜炎などの眼症状と感音性難聴,無菌性髄膜炎などの眼外症状を呈する1).交感性眼炎との相違は穿孔性眼外傷,あるいは内眼手術の既往の有無のみである2).国際診断基準として,両眼性であり,病初期にはびまん性脈絡膜炎を示唆する所見,すなわち限局性の網膜下液あるいは胞状滲出性網膜.離が示されている.これが明確でない場合にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FAG)による限局性の脈絡膜還流遅延,多発性点状漏出や大きな斑状過蛍光,網膜下蛍光貯留または乳頭蛍光染色,および超音波によるびまん性脈絡膜肥厚が眼所見として必要である.今回,早期に視神経乳頭の発赤・腫脹は明らかであったが眼底検査では滲出性網膜.離はみられず,後に著明となりVKHと確定診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:糖尿病.〔別刷請求先〕平田菜穂子:〒232-8555横浜市南区六ツ川2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:NaokoHirata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama-city,Kanagawa232-8555,JAPAN乳頭浮腫型Vogt-小柳-原田病の1例平田菜穂子*1林孝彦*2山根真*3水木信久*4竹内聡*2*1横浜南共済病院眼科*2横須賀共済病院眼科*3横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科*4横浜市立大学附属病院眼科ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasewithPapillitisNaokoHirata1),TakahikoHayashi2),ShinYamane3),NobuhisaMizuki4)andSatoshiTakeuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokosukaKyosaiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter,4)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityHospitalVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)の典型例では頭痛や内耳症状などの全身症状,両眼性の汎ぶどう膜炎,滲出性網膜.離,視神経乳頭浮腫がみられる.しかし,乳頭浮腫型VKHは視神経所見の出現後数週間を経た後に前房内の炎症所見や滲出性網膜.離が出現するので病初期には確定診断が困難であることが多い.今回,初診時の眼底検査では網膜下液が明らかではなく眼外の自覚症状もなかったが,約2週間後に網膜下液がみられたことから乳頭浮腫型VKHと考えられる症例を経験した.ただし,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)ではわずかな網膜下液や脈絡膜皺襞を認めていたことから,従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例でもOCTでは初期より網膜・脈絡膜に変化がみられる可能性があり,早期診断・治療に有用と考えられる.IntheclassictypeofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH),headache,innerearsymptom,panuveitis,exudativeretinaldetachmentandneuritisaresystemicallymanifested.InthistypeofVKH,becauseanteriorchamberinflammationandexudativeretinaldetachmentoccurtwoweeksaftertheappearanceofneuritis,definitediagnosisisdifficultinthefirststageofthesickness.WesawthetypeofVKH.However,slightexudativeretinaldetachmentandchoroidwrinklingappearunderopticalcoherencetomography(OCT)inthefirststage;therefore,thetypereportedinthepasthasthesamepossibility.ThesefindingsthereforeshowthatOCTisusefulforearlydiagnosisandtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):293.296,2011〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,乳頭炎,うっ血乳頭,滲出性網膜.離,光干渉断層計.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,papillitis,chokeddisk,exudativeretinaldetachment,opticalcoherencetomography.294あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(140)現病歴:平成20年4月末に左眼視力低下を自覚し4月28日に近医を受診した.視力は右眼(0.8×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.2×.2.0D(cyl.3.00DAx120°),特記すべき所見はなかった.5月16日,視力変化はなかったが両視神経乳頭からの出血・発赤腫脹が出現したため,横須賀共済病院眼科(以下,当院)へ紹介され,5月20日受診となった.初診時所見:視力は右眼0.5(0.7×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼0.3(0.4×.2.0D(cyl.3.00DAx120°),眼圧は右眼11mmHg,左眼11mmHgであった.両眼に相対的瞳孔求心路障害はなく,中心フリッカー値(criticalflickerfrequency:CFF)は右眼35Hz,左眼34Hz,前房内炎症細胞は右眼±,左眼±,両眼視神経乳頭からの出血・発赤腫脹があり,Goldmann視野検査では両眼にMariotte盲点が拡大していた.うっ血乳頭の可能性も考え,頭部computedtomography(CT)を施行したが特記すべき所見はなかった.翌日21日,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では両眼にわずかな網膜下液の貯留や脈絡膜皺襞があり,視神経乳頭が腫脹していた(図1).FAGでは早期より両眼の視神経乳頭から漏出を認め,視神経乳頭炎を考えたABCD図1初診翌日の眼底写真とOCT所見A:5月21日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.視神経乳頭からの出血・発赤腫脹(破線矢印)を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.視神経乳頭の腫脹(破線矢印),網膜下液の貯留(実線矢印)を認めた.ABCD図2初診翌日,10日後のFAG所見A:5月21日右眼のFAG.B:同日左眼のFAG.視神経乳頭からの漏出(実線矢印)を認めた.C:5月30日右眼のFAG.D:同日左眼のFAG.さらに後極に蛍光漏出・貯留(破線)を認めた.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011295(図2A,B).VKHも疑われたが所見が強くないことから経過観察とした.経過:5月23日,自覚症状に変化はなく,視力は右眼(0.8×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.5×.2.0D(cyl.3.00DAx120°)と改善し,所見に変化はなかった.しかし5月30日,右眼(0.3×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.4×.2.0D(cyl.3.00DAx120°)と低下,CFFは右眼32Hz,左眼33Hz,前房内炎症細胞は右眼±,左眼+と若干増加,視神経乳頭からの出血・発赤腫脹は変わらず,後極に滲出性網膜.離が出現した.OCTでは網膜下液が増加し(図3),FAGでは後期に後極の網膜下に蛍光漏出・貯留が出現した(図2C,D).VKHが強く疑われ,髄液検査を行ったところ,細胞数6/μl,単核球6/μl,多形核球1/μl以下と単球優位の細胞数が増加しており,VKHと診断した.なお,採血検査にて炎症反応はなかった.同日よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン点滴500mg/日3日間,以後プレドニゾロン内服40mg/日から漸減),および局所療法(ベタメタゾンリン酸エステルナABCD図3初診時より10日後の眼底写真とOCT所見A:5月30日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.さらに滲出性網膜.離(破線)を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.網膜下液(実線矢印)の増加を認めた.ABCD図4初診時より20日後の眼底写真とOCT所見A:6月10日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜下液の改善傾向を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.網膜下液(実線矢印)の減少を認めた.296あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(142)トリウム点眼両眼4回/日,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼両眼3回/日)を開始した.6月2日(治療開始3日目)には視神経乳頭の腫脹・黄斑部の網膜下液が減少した.6月10日(11日目)には右眼(0.6×.2.00D(cyl.2.50DAx30°),左眼(0.5×.3.00D(cyl.2.25DAx145°),視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜下液は著明に改善した(図4).6月25日(26日目)には右眼(0.6×.2.50D(cyl.1.50DAx25°),左眼(0.5×.3.00D(cyl.2.25DAx150°),視神経乳頭の腫脹は消失し,網膜下液はわずかになった.8月8日(70日目)には右眼(0.9×.2.50D(cyl.1.50DAx25°),左眼(0.8×.2.75D(cyl.2.00DAx150°),視神経乳頭の発赤はさらに低下,前房内炎症細胞と網膜下液は消失した.経過中,眼外症状は出現しなかった.II考按VKHに対するステロイド大量療法(プレドニゾロン点滴200mg/日2日間,150mg/日2日間,100mg/日2日間と漸減)とパルス療法(メチルプレドニゾロン点滴1,000mg/日3日間投与後,プレドニゾロン内服40mg/日14日間,30mg/日14日間と漸減)の比較では治療後の視力・炎症は同等であり,再発,遷延例の頻度に有意差はなかった3)が,大量療法では夕焼け状眼底を呈する頻度が有意に高く4),この場合コントラスト感度の低下傾向や色覚異常の出現報告がある5).また,ステロイドパルス1,000mgと500mg投与例ではその後消炎に要したステロイド内服投与期間,総投与量に有意差がなかったとの報告6)があり,今回ステロイドパルス療法(点滴500mg/日3日間の後内服漸減投与)を施行した.VKHの典型例では頭痛や内耳症状などの全身症状,両眼性の汎ぶどう膜炎を起こし,乳頭浮腫,虹彩炎,滲出性網膜.離,視神経乳頭浮腫が出現する.乳頭浮腫型と後極部型に分類され,乳頭浮腫型では頭痛,髄液細胞数増多,難聴を伴う例が多く7),視神経所見の出現後数週間を経て前房内の炎症所見や滲出性網膜.離が出現するので,全身症状が明確でない場合は,特に病初期での確定診断は困難であることが多い8,9).乳頭浮腫型VKHの鑑別疾患として,頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭があげられる.この原因としては,脳腫瘍などの頭蓋内占拠性病変だけではなく,静脈洞血栓症や肥厚性硬膜炎などがあげられる.前者の診断にはmagneticresonanceangiographyやvenography,後者には冠状断での造影magneticresonanceimagingを行う必要がある.その他,髄膜炎後の頭蓋内圧亢進や,肥満や薬剤による良性頭蓋内圧亢進も原因となりうる10)が,これらを鑑別するための必要な検査を即座にすべて行うことは困難である.本症例では早期に視神経乳頭の発赤・腫脹が明らかであったため,最も頻度の高い頭蓋内占拠性病変の可能性を考え頭部CTを行ったが,特記すべき所見はなかった.翌日OCTで網膜下液の貯留があり,VKHの可能性が高いと判断できた.初診時の細隙灯顕微鏡検査も用いた詳細な眼底検査では滲出性網膜.離は明らかでなく,約2週間後に網膜下液が出現したことから,従来の考えでは乳頭浮腫型VKHに分類される.ただし,後極部型を含めた急性期のVKHに対するOCTで脈絡膜皺襞の報告があるように11),本症例のOCTでもわずかな網膜下液や脈絡膜皺襞を認めていることから,従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例でもOCTでは網膜・脈絡膜に変化を生じていた可能性が考えられた.また,今回の症例では網膜下液や脈絡膜皺襞は消失したが,最終的に残存していながら視力が改善した報告もある12)ことから,VKHの経過中に生じる視力低下の原因は脈絡膜皺襞ではなく,網膜下液貯留によるものだと考えられた.OCTにより従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例も非侵襲的に滲出性網膜.離などの網膜・脈絡膜の変化を捉えることが可能であり,早期診断・治療に役立つと考えられる.文献1)杉浦清治:Vogt-小柳-原田病.臨眼33:411-421,19792)北市伸義,北明大州,大野重昭ほか:交感性眼炎.臨眼62:650-655,20083)赤松雅彦,村上晶,沖坂重邦ほか:最近6年間に経験した原田病の臨床的検討.臨眼39:169-173,19974)北明大州,寺山亜希子,南場研一ほか:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,20045)瀬尾亜希子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討─特に夕焼け状眼底との関連.臨眼41:933-937,19876)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科25:851-854,20087)大出尚郎:視神経炎と誤りやすい網膜症・視神経網膜症.あたらしい眼科20:1069-1074,20038)峠本慎,河原澄枝,木本高志ほか:乳頭浮腫型原田病の臨床的特徴.日眼会誌107:305,20039)RajendramR,EvansM,KhranaRNetal:Vogt-Koyanagi-Haradadiseasepresentingasopticneuritis.IntOphthalmol27:217-220,200710)中村誠:乳頭が腫れていたら.あたらしい眼科24:1553-1560,200711)GuptaV,GuptaA,GuptaPetal:Spectral-domaincirrusopticalcoherencetomographyofchoroidalstiriationsseenintheacutestageofVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol147:148-153,200912)NodaY,SonodaK,NakamuraTetal:AcaseofVogt-Koyanagi-Haradadiseasewithgoodvisualacuityinspiteofsubfovealfold.JpnJOphthalmol47:591-594,2003***

2 種類の光干渉断層計を用いて観察した外傷性低眼圧黄斑症の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(117)1170910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):117120,2009cはじめに鈍的外傷や濾過手術後などに低眼圧が持続すると,網脈絡膜皺襞や低眼圧黄斑症をはじめとするさまざまな病態が生じ,続発して視力の低下や歪視が出現し,低眼圧黄斑症とよばれる1).低眼圧黄斑症に関する報告は,これまでに数多くみられるものの27),光干渉断層計(opticalcoherencetomo-graphy:OCT)を用いて黄斑形態を検討した報告は比較的少なく2,3),また網膜外層のOCT所見に着目した報告は,調べた限りでは存在しない.今回筆者らは,Time-DomainOCT(TD-OCT),Spectral-DomainOCT(SD-OCT)の2種類の光干渉断層計を用いて,黄斑形態,特に網膜外層所見を観察した低眼圧黄斑症の1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕大井城一郎:〒890-8520鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座眼科学Reprintrequests:JouichirouOoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalScience,8-35-1Sakuragaoka,Kagoshima890-8520,JAPAN2種類の光干渉断層計を用いて観察した外傷性低眼圧黄斑症の1例大井城一郎山切啓太園田恭志坂本泰二鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座眼科学ACaseofTraumaticHypotonyMaculopathyEvaluatedbyTwoKindsofOpticalCoherenceTomographyJouichirouOoi,KeitaYamakiri,YasushiSonodaandTaijiSakamotoDepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalScience目的:Time-Domain(TD),Spectral-Domain(SD)形式の2種類の光干渉断層計(OCT)を用いて評価した外傷性低眼圧黄斑症の1例を報告する.症例:49歳,女性.右眼を殴られ受傷し視力低下を主訴に受診した.右眼矯正視力は(0.2),眼圧は6mmHgであり,浅前房で白内障があった.乳頭は浮腫状で網膜血管の蛇行と黄斑周囲に放射状の皺襞がみられ,外傷性白内障,低眼圧黄斑症と診断した.TD-OCTでは網脈絡膜の皺襞による蛇行所見があり,中心窩の視細胞内節外節境界部(IS/OSライン)は低反射であった.経過:白内障手術後眼圧は回復し,SD-OCTでIS/OSラインも描出されたが,再び低眼圧となり視力も低下した.硝子体手術を施行したが眼圧,視力は回復していない.結論:再手術後のOCTでIS/OSラインが不連続であったことから,低眼圧黄斑症では網膜外層が障害され視力が低下している可能性が示唆された.Wereportacaseoftraumatichypotonymaculopathythatwasevaluatedusingtwokindsofopticalcoherencetomography(OCT):Time-DomainOCT(TD-OCT)andSpectral-DomainOCT(SD-OCT).Therighteyeofa49-year-oldfemalewashitbyaccident,thevisualacuityoftheeyesubsequentlydecreasing.Visualacuityatrstpresentationwas(0.2);intraocularpressure(IOP)was6mmHgintherighteye,withnarrowanteriorchamberangleandcataract.Therewasopticdiscswelling,vesseltortuosityandstellatefoldingoftheretinaaroundthefovea,compatiblewithhypotonymaculopathy.TD-OCTdisclosedirregularsurfaceofretinaandchoroid,andinnerandoutersegmentjunction(IS/OS)wasfoundtobeobscureatthefovea.IOPtemporarilyreturnedtothenormalrangeandIS/OSreappearedclearly,buthypotonyandvisualacuitydecreasehadrecurredintherighteye.IS/OSdetectedbybothTD-OCTandSD-OCTmightbethecauseofvisualacuitydecreaseinhypotonymaculopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):117120,2009〕Keywords:低眼圧黄斑症,光干渉断層計,視細胞内節外節境界部.hypotonymaculopathy,Time-Domainopticalchoerencetomography(OCT),Spectral-DomainOCT,innerandoutersegmentjunction(IS/OS)line.———————————————————————-Page2118あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(118)I症例患者:49歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2006年7月に右眼を殴られ受傷し,同年10月に近医を受診した.右眼の浅前房,軽度の白内障の診断を受けたが,その後放置していた.2007年4月に視力低下を強く自覚し,同院を再診した.右眼視力が(0.2)で,外傷性白内障の診断で同年6月5日に鹿児島大学病院眼科を紹介受診した.初診時視力は右眼(0.3),左眼(1.2),眼圧は右眼8mmHg,左眼13mmHgであった.右眼は浅前房であり,水晶体の亜脱臼が考えられたため,手術が必要であったが,家庭の事情のため8月20日に当科に入院した.入院時所見:視力は右眼(0.4),眼圧は6mmHgと低下していた.眼底所見を示す(図1).視神経乳頭は浮腫状で,網膜血管の蛇行ならびに黄斑周囲の網膜に放射状の皺襞がみられたことから,外傷性白内障による低眼圧黄斑症と診断した.また,右眼は中心フリッカー値が2630Hzとやや低下していて,Goldmann視野検査では,Mariotte盲点が拡大し,中心感度が低下していた.TD-OCTでは(図2)網膜内層の構造はよく保たれていたが,網脈絡膜皺襞のために,全体が波打っていた.中心窩では,視細胞内節外節境界部(IS/OSライン)とされる高反射帯が波打った部分では低反射となり追えなくなるのに対して,網膜色素上皮-Bruch膜とされる高反射帯は明瞭であった.経過:外傷性白内障に対して,8月28日に右眼水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術を施行した.術後1日目には,視力図2入院時TDOCT所見低眼圧による網脈絡膜皺襞のために,全体が波打っている.中心窩下では,視細胞内節外節境界部(IS/OSライン)とされる高反射帯が波打った部分では低反射となり追えなくなる(*)のに対して,網膜色素上皮-Bruch膜とされる高反射帯(↑)は明瞭である.図3白内障手術後SDOCTIS/OSラインはきれいに描出されている.図1入院時眼底所見視神経乳頭は浮腫状で,網脈絡膜皺襞に伴う網膜血管の蛇行ならびに黄斑周囲の網膜に放射状の皺襞がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009119(119)が矯正(0.9)まで改善し,眼圧も12mmHgに回復した.術後1日目のSD-OCT(図3)では,網膜皺襞の影響のためか,正常眼であればIS/OSライン,網膜色素上皮-Bruch膜,両者の間にみられるまだ同定されていない層の通常3層に描出される8)中心窩の高反射帯は,IS/OSラインはきれいに描出されるものの,残りの2層は判別できず,全体で2層となっていた.術後経過観察中に,徐々に眼圧,視力が再び低下してきた.超音波生体顕微鏡(UBM)で,全周の毛様体解離が確認されたため,2008年1月8日に前房内粘弾性物質注入,同年1月15日には硝子体手術を行い,ガスタンポナーデを施行した.術後の眼底写真(図4),TD-OCT(図5)ならびにSD-OCT(図6)を示す.初回手術後にはみられなかった網膜皺襞が中心窩に出現してきたために,いずれもOCTでは網膜内層にも高反射がみられる.TD-OCTでは,中心窩下で網膜色素上皮-Bruch膜ラインに比べIS/OSラインの描出が劣るのに比べ,SD-OCTでは,網膜外層の描出が改善されている.そのため,IS/OSラインが不連続であることが,より明瞭に描出されている.術後3カ月が経過し,視力,眼圧とも回復傾向ではあるが不十分である.しかし,患者本人が追加加療を希望しないため,経過を観察中である.II考察低眼圧によって視力が低下する理由として,眼圧の低下によって二次的に生じる黄斑症,角膜症,白内障の進行,脈絡膜滲出,視神経乳頭浮腫,不整乱視などがあげられてい図4硝子体手術後の眼底写真網脈絡膜皺襞があり,網膜血管の蛇行が目立つ.中心窩には網膜皺襞(↑)もみられる.図5硝子体手術後TDOCT上図:TD-OCTの黄斑の拡大像.網膜皺襞に一致する内層の高反射帯(*)がみられる.IS/OSラインは判別しづらい(↓).下図:TD-OCTの全体像.網脈絡膜皺襞がみられる.図6硝子体手術後SDOCT上図:SD-OCTの黄斑の拡大像.網膜皺襞のために,本来網膜内層が描出されないはずの中心窩であたかも描出されているようにみえる(*).IS/OSラインは破線状に描出されている(↓).下図:SD-OCTの全体像.網脈絡膜皺襞がみられる.———————————————————————-Page4120あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(120)る14).本症例では,中心フリッカー値の低下は軽度であり,視神経障害が視力低下の主因とは考えにくく,黄斑症が視力低下の主因と考えられた.低眼圧黄斑症については,SD-OCTを用いた評価を行った報告は,調べる限り存在しなかったが,TD-OCTを用いた報告では,網脈絡膜皺襞を描出しえたものや,網膜浮腫が改善されたというもので,網膜外層の異常がみられなかったとする報告と,網膜外層の所見については特に言及していない報告もある2,3).低眼圧黄斑症では,強膜壁の虚脱によって網脈絡膜に皺襞が生じ,この変化に続発する変化が黄斑部網膜に生じる.すなわち,視細胞のレセプターの蛇行による機能低下や血管透過性の亢進による胞様黄斑浮腫などである1,3).本症例では,明らかな黄斑浮腫をいずれのOCTでも捉えることができなかった.しかし,術後1日目のSD-OCTでは,中心窩の高反射帯は2層であったものの,IS/OSラインはきれいに描出されていて,視力の改善とも一致している.それに対して,再手術後視力が回復していない状態では,中心窩で網膜内層の皺襞による高反射がみられている.網膜のひずみによる変形が視力の低下をひき起こした可能性も考えられるものの,皺襞は中心窩から少し外れている.中心窩では,むしろIS/OSラインの不連続所見を比較的明瞭に捉えることができた.これは,視細胞の蛇行による障害の結果生じたと思われ,視力低下の原因の一つとして,網膜外層の異常が関与している可能性を示すものである.ただし,OCT所見でIS/OSラインが描出されなくなる理由について,Hoangら9)は,視細胞層が網膜色素上皮の接線方向から大きく偏位する病変では,光学的反射率の急峻な変化が後方反射の低下の原因である可能性があると報告している.板谷ら8)は,黄斑疾患でIS/OSの信号が低下する場合は,視細胞障害の有無にかかわらず光学的な理由によるものであり,視細胞障害そのものを必ずしも描出できるわけではないと述べている.すなわち,IS/OSラインが描出されないことは,必ずしも視細胞の器質的異常を意味しないことになる.ただし,層の同定は,あくまでも組織標本に対比させたものにすぎない10).すなわち,IS/OSラインとよばれる高反射帯は,内節,外節の接合部のみではなく,おそらくどちらかもしくは両方の一部を含んでいる可能性がある.したがって,今回のSD-OCTの所見は必ずしも障害の存在を特定できないが,網膜外層の異常が関与している可能性はある.以上から,網脈絡膜皺襞によってOCT像が修飾された可能性は否定できないものの,IS/OSラインの描出が低下していることから,本症例でみられた低眼圧黄斑症における視力低下の機序に網膜外層の異常が関与している可能性がある.今後,低眼圧黄斑症のSD-OCT所見が蓄積されていけば,その真偽が明らかになるであろう.文献1)CostaVP,ArcieriES:Hypotonymaculopathy.ActaOph-thalmolScand85:586-597,20072)BudensDL,SchwartzK,GeddeSJ:Occulthypotonymaculopathydiagnosedwithopticalcoherencetomogra-phy.ArchOphthalmol23:113-114,20053)KokameGT,deLeonMD,TanjiT:Serousretinaldetachmentandcystoidmacularedemainhypotonymac-ulopathy.AmJOphthalmol131:384-386,20014)FanninLA,SchimanMS,BudenzDL:Riskfactorsforhypotonymaculopathy.Ophthalmology110:1185-1191,20035)OyakhireJO,MoroiSE:Clinicalandanatomicalreversaloflong-termhypotonymaculopathy.AmJOphthalmol137:953-955,20046)TakayaT,SuzukiY,NakazawaM:Fourcasesofhypoto-nymaculopathycausedbytraumaticcyclodialysisandtreatedbyvitrectomy,cryotherapy,andgastamponade.GraefesArchClinExpOphthalmol244:855-858,20067)松永裕史,西村哲哉,松村美代:前房内粘弾性物質注入が有効であった硝子体手術後の低眼圧黄斑症の1例.臨眼55:1203-1206,20018)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエ光干渉断層計による中心窩病変描出力の検討.日眼会誌111:509-517,20079)HoangQV,LinsenmeierRA,ChungCKetal:Photore-ceptorinnersegmentsinmonkeyandhumanretina:Mitochondrialdensity,optics,andresionalvariation.VisNeurosci19:395-407,200210)ZawadzkiRJ,JonesSM,OlivierSSetal:Adaptive-opticsopticalcoherencetomographyforhigh-resolutionandhigh-speed3Dretinalinvivoimaging.OptExpress13:8532-8546,2005***