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妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1407.1412,2014c妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例笠原純恵*1,2市邉義章*2清水公也*2*1独立行政法人地域医療機能推進機構相模野病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasethatDevelopedLaterinPregnancyandImprovedwithoutTreatmentSumieKasahara1,2),YoshiakiIchibe2)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:妊娠29週でVogt-小柳-原田病(原田病)を発症し無治療で改善した1例を報告する.症例:36歳,女性.妊娠29週に右眼の視力低下を自覚し受診.矯正視力は右眼0.7,左眼1.2,両眼の虹彩炎,漿液性網膜.離を認め,発症前に感冒様症状,頭痛を認めた.妊婦のため蛍光造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行せず,Readらの診断基準をもとに不全型原田病と診断し経過観察を開始.発症2日目,両眼ともに網膜.離は増悪し,矯正視力は右眼0.4,左眼0.5まで低下.しかし,発症7日目より無治療で網膜.離は改善傾向となり,矯正視力も上昇した.発症57日目,妊娠37週目に正常児を出産.発症65日目,矯正視力は両眼ともに1.2,網膜.離は消失したままで,眼底は夕焼け状を呈していた.発症から5年現在再発はない.結論:妊娠後期に発症し,無治療で改善した原田病の1例を経験した.妊娠が漿液性網膜.離の早期改善に好影響を及ぼした可能性がある.Purpose:ToreportacaseofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH)thatdevelopedat29weeksofgestationandimprovedwithouttreatment.Case:A36-yearoldfemalenoticedlossofvisioninherrighteyeat29weeksofgestationandconsultedourclinic.Bestcorrectedvisualacuities(BCVA)ofrightandlefteyeswere0.7and1.2,respectively.Shehadthebinoculariritisandserousretinaldetachmentandhadhadcommoncoldsymptomsandheadachebeforeonsetoftheaboveocularsymptoms.Inviewofthesesymptoms,wediagnosedincompleteVKHbasedonthereviseddiagnosticcriteriawithoutfluoresceinangiographyorcerebrospinalfluidexamination,duetohergravidstatus,andmonitoredherdiseaseconditionwithnomedicaltreatment.AlthoughthebinocularserousretinaldetachmentsprogressivelydeterioratedandtheBCVAoftherightandlefteyesdecreasedto0.4and0.5,respectivelyattheseconddayafteronset,thesesymptomsshowedimprovingtendencyattheseventhdayafteronset.Atthe57thdayafteronset,shesuccessfullygavebirthafter37weeksofpregnancy.AlthoughBCVAofbotheyesimprovedto1.2andtheserousretinaldetachmentsdisappeared,sunsetglowfunduspresentedatthe65thdayafteronset.Therehasbeennorecurrence,asof5yearsthusfar.Conclusions:WeexperiencedapatientwithVKHthatdevelopedlaterinpregnancy,inwhichthediseasesymptomsimprovedwithoutmedicaltreatment.Thereisapossibilitythatthegravidconditioninfluencedtheearlyimprovementofretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1407.1412,2014〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,妊娠,ステロイド,光干渉断層計,漿液性網膜.離.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,pregnancy,steroid,OCT(opticalcoherencetomography),serousretinaldetachment.はじめにされており,投与の要,不要は最終結論が出ていない.まVogt-小柳-原田病(原田病)はメラノサイトに対する自己た,原田病に対するステロイド全身投与中は,その副作用に免疫性疾患と考えられており,ステロイド治療によく反応すは十分な配慮,対策が必要である.妊娠中に発症した原田病る.一方,ステロイドの全身投与なしでの視力回復例も報告の報告はいくつかあるが,ステロイドの使用の有無,投与〔別刷請求先〕笠原純恵:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(159)1407 法,使用量などはさまざまである.今回,筆者らは点眼薬も含め無治療で視力の回復を認めた妊娠後期である妊娠29週目で発症した原田病の1例を経験したので報告する.I症例症例は36歳,女性.既往歴は特記すべきことはない.右眼2002年8月に女児出産歴がある.2008年11月12日,妊娠29週3日目(発症0日),右眼の視力低下を自覚し近医を受診.両眼の網膜浮腫を指摘され,同日に北里大学病院眼科を紹介受診した.視力は右眼0.4(0.7×+0.75D),左眼0.15(1.2×.2.25D).眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なし.両眼の前房は深く,左眼発症0日目発症2日目acd発症65日目egf発症282日目図1眼底写真発症0日目(a,b).両眼性の漿液性網膜.離を認める.発症2日目(c,d).両眼ともに漿液性網膜.離発症の増悪を認める.発症65日目(e,f).漿液性網膜.離の消失と軽度夕焼け状眼底の所見を認める.発症282日目(g,h).眼底は夕焼け状を呈し,写真には写っていないが,眼底周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮が認められた.bh1408あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(160) 28270635649423528211470軽度の炎症細胞と,少量の豚脂状角膜後面沈着物を認めたが,Koeppe結節は認めなかった.中間透光体に異常はなく,眼底には両眼に軽度乳頭発赤と,両眼の上側アーケード近傍に限局性の漿液性網膜.離を認め,右眼は黄斑にも網膜.離が及んでいた(図1).受診時,妊娠29週3日目であり,妊娠中の合併症もなく妊娠経過は良好であった.妊娠中のためフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行しなかったが,発症2週間前に感冒様症状と2日前に頭痛,耳鳴りの既往があり,眼底所見とあわせ,Readらの診断基準1)をもとに不完全原田病と診断し経過観察を始めた.視力検査のほかに侵襲の少ない前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC)(図2),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(図3)検査を行いながら臨床経過を観察した.ACD,OALはIOLMasterTM(CarlZeiss)を,FIACはLaserFlareMeter(KowaFM-500Ver1.4)を,OCTはOCT3000(CarlZeiss)を用いて測定した.発症2日目,漿液性網膜.離は両眼ともに悪化し,矯正視力も右眼(0.4×+1.50D),左眼(0.5×+1.00D(cyl.1.00DAx90°)と低下した.この時期に頭痛の症状も悪化したため,ステロイドの全身投与も念頭に入れ産科にステロイドの使用の可否,また使用した場合の母体,胎児の管理につき相談をした.しかし,発症7日目,前房内フレア,細胞数は増加したものの,網膜.離は明らかに改善したため,そのまま無治療で経過観察を続ける方針となった.その後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,発症42日後には黄斑部の漿液性網膜.離は消失した.矯正視力も右眼(0.7×.2.00D),左眼(0.8×.2.25)と改善した.発症57日目,妊娠37週と4日で通常の経腟分娩で2,516gの女児を出産した.出生後の検査で女児に心室中隔欠損がみつかったが,程度は軽度であり小児科で経過観察を行っている.発症65日目,矯正視力は右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.2.25D)まで改善した.両眼ともに前房内に軽度炎症細胞は残存したものの,OCT上,黄斑部の漿液性網膜.離は消失したままであった.発症155日目,両眼の前房内の炎症細胞,豚脂状角膜後面沈着物は消失した.発症282日目,眼底は夕焼け状を呈し(図1),周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮がみられた.経過観察中の血圧に問題はなかった.採血検査は血算,生化学に異常所見はなく,血清梅毒反応陰性,ウイルス検査ではアデノウイルス,インフルエンザB,サイトメガロウイルス,帯状疱疹ウイルス,麻疹,風疹のCF抗体価は<4×,インフルエンザAは8×,単純ヘルペスウイルス16×,HLA検査ではDR4が陽性であった.出産後5年が経過した現在,再発はない.(161):右眼:左眼FIAC(photoncounts/msec)OAL(mm)ACD(mm)対数視力282706356494235282114702827063564942352821147010.13.653.63.553.53.453.43.353.33.253.2262827063564942352821147025.52524.52423.52322.52221.5302520151050経過日数(日)図2経過観察上から対数視力,前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC).横軸は発症からの経過日数.ACDは最も視力が低下した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなった.その後,正常化へ向かった.それに対しFIACは発症初期には軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなり,その後は急速に減少し,ACD,OALの変化とは異なる変化を示した.II考按原田病は全身のメラノサイトに対する自己免疫疾患といわれている.病初期には髄膜のメラノサイトの障害で頭痛や感冒様症状を引き起こし,内耳では耳鳴り,難聴を生じ,その後に眼球のメラノサイトの傷害でぶどう膜炎が生じる症例が多い.本症例は感冒様症状から始まり,頭痛や耳鳴りを伴った両眼性のぶどう膜炎,胞状の漿液性網膜.離が認められた.妊娠中であることから,侵襲性のある蛍光眼底造影検査や髄液検査は行っていないが,臨床所見,経過,採血上のHLA-DR4陽性,後期の夕焼け状眼底所見から最終的に不完全型原田病と診断した.原田病に対してはステロイドの大量投与療法2)やパルス療法3)が行われており,一般的にステロあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141409 右眼左眼発症0日目発症2日目発症7日目発症14日目発症30日目発症42日目発症57日目分娩発症65日目図3OCT所見経時的に漿液性網膜.離の改善がみられる.出産8日目(発症65日目)以降,漿液性網膜.離の再発は認めていない.イドは奏効する.その一方,ステロイドの全身投与を行わずに改善した報告4,5)や,ステロイド全身大量投与中の死亡事例6)も報告されており,ステロイドの要否は最終的な結論は出ていない.過去に本例のように妊娠中に発症した原田病の報告も散見されるが,その多くがステロイドの全身投与が行われている7.12).ステロイドを使用しても出生児には問題がなかったという報告が多いが,低体重,小奇形の報告13)もある.さ1410あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014らに,本症とほぼ同時期に発症した妊婦に対しプレドニゾロン200mg/日からの大量療法を行い,18日後に胎児が死亡した症例が1例報告されている14).一方,全身投与を行わずに,局所療法(点眼,結膜下,Tenon.下注射)で改善したという報告もある.佐藤らは妊娠10週で発症した26歳の症例に対し,アトロピンの点眼とコルチコステロイドの点眼と結膜下注射を行い,原田病が治癒し正常児を出産した1例を報告している15).田口らは「妊娠がぶどう膜炎に好影響を(162) 与えたと考えられた2例」として原田病とBehcetdisease妊婦2例を報告している.原田病の症例は妊娠10週0日の30歳であり,コルチコステロイドの点眼加療のみで漿液性網膜.離は消失し,夕焼け状眼底を呈したものの視力は回復し,正常児出産に至っている16).松本らは妊娠12週で発症した31歳の症例に対し,トリアムシノロンのTenon.下注射のみの治療で治癒した1例を報告している17).SnyderやLanceも同じように妊娠が原田病の経過によい影響を与えた例を報告している18,19).さらに,妊娠12週で発症した原田病に対し,ステロイドの局所も全身投与も行わずに視力が回復した24歳の日本人の1例も報告されている20).しかし,本症のように妊娠29週という妊娠後期に発症し,無治療で改善した報告は筆者の知るところではない.本症例の改善の基準としては,①視力改善,②前房内炎症の消失,③漿液性網膜.離の消失,④前房深度の回復の4項目のすべてを満たすものとしている.また,無治療にもかかわらず比較的早期に漿液性網膜.離の改善が認められた.その要因は明らかではないが,妊娠により増加した内因性ステロイド16)や血液中免疫担細胞が好影響15,21,22)を及ぼした可能性が示唆される.妊娠中の内因性ステロイドは妊娠末期まで増加していき,分娩とともに急速に減少するとされている.本症例の発症は妊娠により内因性ステロイドが増加している時期であり,比較的早期に無治療で漿液性網膜.離が改善し,視力も回復したものと考えられる.しかし,分娩後の再発には十分注意する必要があり,本症例も分娩後に入念に経過観察を行ったが,発症から5年が経過した現在再発はない.本症例の再発の基準としては,①視力低下,②前房内炎症の再出現,③漿液性網膜.離の再出現,④前房深度の浅前房化の4項目のうち1つでも認めるものとしている.本症例は経過中に改善が認められなかった場合,ステロイドの局所投与(トリアムシノロンのTenon.下注)を選択肢として考えていた.産科医からはステロイドの全身投与の許可は得ていたが,妊娠後期のステロイド投与は胎盤を通過し胎児の下垂体に作用し,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌低下による副腎萎縮をきたす可能性も指摘されており,妊娠後期のステロイドの全身投与は慎重であるべきであると考える.さらに,妊娠中は侵襲的な検査による妊婦,胎児への影響も考慮しなくてはならない.本症例ではフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査は行わず,経過中は視力,眼底検査(写真)の他に,侵襲性の少ないACD,OAL,FIAC,OCTを用いて観察を行った.大槻らはIOLMasterTMを用いてACD,OALを測定し,原田病の病状評価に対する有用性を報告している23).本症例ではACDは最も症状が悪化した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなったが経過とともに正常化していった.それに対しFIACは発症初期は軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなりその(163)後に急速に減少し,ACD,OALとは異なる変化をした.Blood-aqueousbarrierが破壊されてから前房中に蛋白が出現するまでのタイムラグが生じた可能性が考えられた.OCTが今回の経過観察に最も役立ったことはいうまでもないが,薬剤を使用せず,ACD,OALなどの侵襲性の少ない検査での病状の評価は,妊婦には有用だと考える.文献1)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:Reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20012)増田寛次郎,谷島輝雄:原田氏病初期の治療.臨眼23:553-555,19693)小竹聡,大野重昭:原田病におけるステロイド剤のパルス療法.臨眼38:1053-1058,19844)山本倬司,佐々木隆敏,斉藤春和ほか:原田病の経過と予後.副腎皮質ホルモン剤の全身投与を行わなかった症例について.臨眼39:139-144,19855)吉川浩二,大野重昭,小竹聡ほか:ステロイド剤の局所治療を行った原田病の2症例.臨眼83:2493-2496,19866)岩瀬光:原田病ステロイド治療中の成人水痘による死亡事例.臨眼55:1323-1325,20017)瀬尾晶子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討.臨眼41:933-937,19878)FriedmanZ,GranatM,NeumannE:ThesyndromeofVogt-Koyanagi-Haradaandpregnancy.MetabPediatrSystOphthalmol4:147-149,19809)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.臨眼85:52-55,199110)渡瀬誠一,河村佳世子,長野斗志克ほか:妊娠に発症しステロイド剤の全身投与を行った原田病の1例.眼紀46:1192-1195,199411)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TreatmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,200112)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:12291234,201213)DoiM,MatsubaraH,UjiY:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeinapregnantpatienttreatedwithhigh-dosesystemiccorticosteroids.ActaOphthalmolScand78:93-96,200014)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,200715)佐藤章子,江武瑛,田村博子:妊娠早期に発症し,ステロイド局所療法で軽快した原田病不全型の1例.眼紀37:46-50,198616)田口千香子,池田英子,疋田直文ほか:妊娠がぶどう膜炎に好影響を与えたと考えられた2症例.日眼会誌103:66-71,199917)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141411 トニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,200618)LancePS:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeandpregnancy.AnnOphthalmol22:59-62,199019)SnyderDA,TesslerHH:Vogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol90:69-75,198020)NoharaM,NoroseK,SegawaK:Vogt-Koyanagi-Haradadiseaseduringpregnancy.BrJOphthalmol79:94-95,199521)PascaAS,PejtskiB:Impairmentofimmunityduringpregnancyandantiviraleffectofamnioticfluid.Lancet1:330-331,197722)TomodaY,FumaM,MiwaTetal:Cell-mediatedimmunityinpregnantwomen.GynecolInvest7:280-292,197623)OtsukiT,ShimizuK,IgarashiAetal:UsefulnessofanteriorchamberdepthmeasurementforefficacyassessmentofsteroidpulsetherapyinpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthalmol54:396-400,2010***1412あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(164)

スペクトラルドメイン光干渉断層計による裂孔原性網膜.離術後の視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の経時的変化

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1070.1074,2014cスペクトラルドメイン光干渉断層計による裂孔原性網膜.離術後の視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の経時的変化後藤克聡*1,2水川憲一*1今井俊裕*1山下力*1,3渡邊一郎*1三木淳司*1,3桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室*2川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*3川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科TimeCourseofDistancebetweenPhotoreceptorInner/OuterSegmentJunctionandRetinalPigmentEpitheliumafterRhegmatogenousRetinalDetachmentSurgeryUsingSpectral-DomainOpticalCoherenceTomographyKatsutoshiGoto1,2),KenichiMizukawa1),ToshihiroImai1),TsutomuYamashita1,3),IchiroWatanabe1),AtsushiMiki1,3)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DoctoralPrograminSensoryScience,GraduateSchoolofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,3)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:中心窩.離を伴う裂孔原性網膜.離(macula-offRRD)術後における視細胞外節の厚みを二次的に定量するために視細胞内節外節接合部(IS/OS)から網膜色素上皮までの厚み(TotalOS&RPE/BM)を定量し,経時的変化を検討した.対象および方法:対象はmacula-offRRD術後の30例30眼.方法は術前と術後1,3,6カ月のlogMARとスペクトラルドメイン(spectral-domain)光干渉断層計で中心窩下のTotalOS&RPE/BMを測定した.結果:IS/OSを連続的あるいは部分的に確認できた群の平均logMARは,術前0.77,術後1カ月0.14,3カ月0.02,6カ月.0.03と術後から有意な改善が得られた(p<0.000001).平均TotalOS&RPE/BMは術後1カ月65.2μm,3カ月77.1μm,6カ月81.8μmと術後1カ月(p<0.0001)と比べて術後3,6カ月(p<0.00001)で有意差があった.術後6カ月でのTotalOS&RPE/BMは,以前に筆者らが正常人で定量した値と同等であった.結論:TotalOS&RPE/BMは術後3カ月から有意な増加を認め,視細胞外節の再生による可能性が示唆された.Purpose:Toquantifythedistancebetweenphotoreceptorinner/outersegmentjunction(IS/OS)andretinalpigmentepithelium(TotalOS&RPE/BM)aftersurgeryformacula-offrhegmatogenousretinaldetachment(RRD).CasesandMethod:Examinedwere30eyesof30patientswithmacula-offRRD;logMARwasexaminedpreoperativelyandat1,3and6monthspostoperatively.TotalOS&RPE/BMunderthefoveawasalsoexaminedusingspectral-domainopticalcoherencetomography.Results:ThemeanlogMARinthecontinuousorirregularIS/OSlinegroupwas0.77preoperatively,0.14at1monthpostoperatively,0.02at3monthspostoperativelyand.0.03at6monthspostoperatively,asignificantimprovementfrompostoperatively(p<0.000001).ThemeanTotalOS&RPE/BMwas65.2μmat1monthpostoperatively,77.1μmat3monthspostoperativelyand81.8μmat6monthspostoperatively.TotalOS&RPE/BMat1monthpostoperativelyshowedsignificantdifferenceascomparedwith3and6monthspostoperatively(p<0.0001,p<0.00001,respectively).TotalOS&RPE/BMat6monthspostoperativelywasequaltothenormalvaluewepreviouslyreported.Conclusion:TotalOS&RPE/BMshowedsignificantincreaseafter3monthspostoperatively,possiblyduetorestorationofthephotoreceptoroutersegment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1070.1074,2014〕Keywords:裂孔原性網膜.離,視細胞外節,光干渉断層計,中心窩網膜厚,視力予後.rhegmatogenousretinaldetachment,photoreceptoroutersegment,opticalcoherencetomography,centralretinalthickness,visualacuityoutcome.〔別刷請求先〕後藤克聡:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室Reprintrequests:KatsutoshiGoto,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN107010701070あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(144)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY はじめに中心窩.離を含む裂孔原性網膜.離(macula-offrhegmatogenousretinaldetachment:RRD)では,手術により網膜が復位しても視力回復に時間を要す場合や改善が不良な症例をたびたび経験する.網膜復位後,視力不良例の多くに視細胞内節外節接合部(photoreceptorinner/outersegmentjunction:IS/OS)ラインの断裂が認められ,断裂部位に一致してマイクロペリメトリーによる網膜感度が低下することが報告されている1,2).また,macula-offRRD復位後の視力は修復したIS/OSラインの状態と相関し3),近年では外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)も術後視力の予測因子となることが示唆されている4,5).しかし,過去の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による報告では,術後視力と網膜外層の関連はIS/OSやELMの有無による定性的評価が主であり,定量的評価を行った検討は少ない6).視力の根源とされている視細胞外節の厚みを測定することは網膜層の自動セグメンテーションや解像度の問題から困難であり,定量するためにはhigh-speedultrahigh-resolutionOCT(UHR-OCT)7)が必要となる.そのため以前に筆者らは,視細胞外節の厚みを二次的に定量するために,spectral-domainOCT(SD-OCT)を用いてIS/OSから視細胞外節の代謝に重要である網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)までの厚み(TotalOS&RPE/BM7))を正常眼で定量した8).そこで今回,続発性の視細胞外節病であるmacula-offRRDに対して術後のTotalOS&RPE/BMを定量し,経時的変化および視力との関連を検討した.I対象および方法対象は2008年8月.2010年10月までに川崎医科大学附属病院眼科を受診し,RRDと診断された179例のうち,本研究に対してインフォームド・コンセントが得られ,macula-offRRDに対して初回手術を施行した30例30眼であった.男性21例,女性9例.平均年齢は56.3±15.5歳(15.86歳),術前平均屈折度数は.2.63±2.60D(+2.50..6.75D),術前平均眼軸長は25.07±1.43mm(22.76.28.13mm),平均黄斑部.離期間は6.4±4.2日(1.16日),平均経過観察期間は4.5±1.5カ月であった.術後にOCTが未施行であった症例,再.離例,残存中心窩.離や黄斑浮腫をきたした症例,増殖硝子体網膜症は除外した.術式の内訳は硝子体手術27眼(白内障手術併用19眼),強膜内陥術3眼であった.方法は術前と術後1,3,6カ月に視力を測定し,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)にて評価を行った.また,SD-OCT(RTVue-100R;Optovue社,Fremont,CA,USA)を用い,スキャンパターンとして6.0mmlinescanで測定した.本機の仕様は,解像度5.0μm,26,000A-scan/second,256.4,096A-scan/Frameである.中心窩を通る水平断面をスキャンし,術後1,3,6カ月における中心窩下のTotalOS&RPE/BMおよび中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁からRPE外縁,CRTは内境界膜からRPE外縁と定義し,同一検者がRTVue-100Rに内蔵されているソフトを用いてキャリパー計測を行った(図1).また,術後1カ月のOCT所見からIS/OSラインが連続して確認できるものをIS/OS(+),確認できるが一部断裂や不整なものをIS/OS(±),確認できないものをIS/OS(.)と定義した.OCTデータは,signalstrengthindexが50以上得られたデータとし,固視不良の場合は複数回の測定を行い,最も信頼性のあるデータを採用した.検討項目は,IS/OS(+)(±)群とIS/OS(.)群におけるlogMARの経過とCRTの推移,TotalOS&RPE/BMの推移,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量,視力とTotalOS&RPE/BMおよびCRTとの相関である.TotalOS&RPE/BMの検討については,術後1カ月のOCT所見からELMを認め,さらにIS/OS(+)(±)群のみを対象とした.TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量は,術後1カ月から3カ月,術後3カ月から6カ月,それぞれの厚みの増減を変化量とし,増加をプラス,減少をマイナスとして算出した.統計学的検討は,logMARの経過,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの推移については一元配置分散分析を行い,Scheffeによる多重比較で検定した.IS/OS(+)(±)群と図1TotalOS&RPE.BMおよびCRTのセグメンテーション上段:TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁.RPE外縁とした.下段:CRTは内境界膜.網膜色素上皮外縁とした.TotalOS&RPE/BMおよびCRTのセグメンテーションは,内蔵ソフトで計測した.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み,CRT:centralretinalthickness,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Burchmembrane.(145)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141071 IS/OS(.)群における各項目,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量についてはMann-WhitneyUtestを用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は川崎医科大学倫理委員会の承認を得て行った.II結果1.IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるlogMARの経過とCRTの推移IS/OS(+)(±)群とIS/OS(.)群の患者背景は,両群で年齢と術前屈折度数に有意差がみられた(表1).平均logMARは,IS/OS(+)(±)群で術前:0.77,術後1カ月:0.14,術後3カ月:0.02,術後6カ月:.0.03,IS/OS(.)群で術前:1.20,術後1カ月:0.56,術後3カ月:0.54,術後6カ月:0.40であった.両群とも術後1カ月の早期から有意な改善が得られ,術後6カ月が最も良好であった〔IS/OS(+)(±)群:p<0.000001,IS/OS(.)群:p<0.01〕.また,両群間において,経過を通して有意差がみられた(術前:p=0.0366,術後1カ月:p=0.0003,術後3カ月:p=0.0002,術後6カ月:p=0.0273,図2).CRTは,IS/OS(+)(±)群で術後1カ月:243.0μm,術後3カ月:255.5μm,術後6カ月:264.0μm,IS/OS(.)群で術後1カ月:206.3μm,術後3カ月:219.4μm,術後6カ月:220.4μmで両群とも経過を通して有意な変化はなかった.両群間においては,経過を通して有意差がみられた(術後1カ月:p=0.0081,術後3カ月:p=0.0436,術後6カ月:p=0.0149,図3).2.IS.OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMの推移TotalOS&RPE/BMは術後1カ月:65.2μm,術後3カ月:77.1μm,術後6カ月:81.8μmと経時的に増加し,術後1カ月と比べて術後3,6カ月で有意差を認め,術後6カ月で最も厚かった(術後3カ月:p<0.0001,術後6カ月:p<0.00001)(図4).3.IS/OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMおよびCRTの変化量TotalOS&RPE/BMの変化量は術後1カ月から3カ月で表1IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群の患者背景IS/OS(+)(±)群(n=21)IS/OS(.)群(n=9)p値年齢(歳)50.5±13.769.9±10.20.0017黄斑部.離期間(日)6.5±3.86.4±5.20.7121術前屈折度数(D).3.35±2.49.0.57±1.610.0137術前眼軸長(mm)25.39±1.3224.30±1.400.1021IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction.11.7μm,術後3カ月から術後6カ月で2.76μm,CRTの変化量は術後1カ月から3カ月で10.8μm,術後3カ月から術後6カ月で2.47μmであった.術後1カ月から3カ月,術後3カ月から6カ月ともに両者の変化量に有意差はなかった(p=0.7146,p=0.5882)(図5).4.IS.OS(+)(±)群における視力とTotalOS&RPE.BMおよびCRTとの相関TotalOS&RPE/BMは,術後1カ月において視力と正の相関があった(r=0.5179,p=0.0162,図6).しかし,術後3,6カ月ではいずれも相関はなかった(術後3カ月:r=0.1335,p=0.5857,術後6カ月:r=0.2094,p=0.5136).CRTは,術後の経過を通して視力との相関はなかった(術後1カ月:r=0.1193,p=0.6065,術後3カ月:r=0.2662,p=0.2706,術後6カ月:r=0.4454,p=0.1105).III考按本研究では,SD-OCTを用いて術後のTotalOS&RPE/BMの測定を行うことで,網膜外層の回復過程を経時的に捉えることができた.そして,術後1カ月の早期のみ視力とTotalOS&RPE/BMが相関していたこと,ELMを認めたIS/OS(+)(±)群の視力はIS/OS(.)群よりも有意に良好な経過であったことから,IS/OSの修復後,術後早期ではTotalOS&RPE/BMの増加によりさらに視力が改善して(logMAR)-0.200.000.200.400.600.801.001.201.40******:IS/OS(+)(±)群:IS/OS(-)群術後1カ月3カ月6カ月***術前図2IS.OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるlogMARの経過IS/OS(+)(±)群は術前:0.77,術後1カ月:0.14,術後3カ月:0.02,術後6カ月:.0.03で,IS/OS(.)群は術前:1.20,術後1カ月:0.56,術後3カ月:0.54,術後6カ月:0.40で両群とも術後1カ月の早期から有意な改善が得られ,術後6カ月が最も良好であった.また,経過を通して両群間で有意差がみられた(術前:p=0.0366,術後1カ月:p=0.0003,術後3カ月:p=0.0002,術後6カ月:p=0.0273,Mann-WhitneyUtest).**:有意差あり(p<0.000001),*:有意差あり(p<0.01),one-wayANOVA.IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction,logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.1072あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(146) (μm)280260240220200(μm)14121086420図3IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるCRTの推移IS/OS(+)(±)群は術後1カ月:243.0μm,術後3カ月:255.5μm,術後6カ月:264.0μm,IS/OS(.)群は術後1カ月:206.3μm,術後3カ月:219.4μm,術後6カ月:220.4μmで,両群とも経過を通して有意な変化はなかった.また,経過を通して両群間で有意差がみられた(術後1カ月:p=0.0081,術後3カ月:p=0.0436,術後6カ月:p=0.0149,Mann-WhitneyUtest).IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction,CRT:centralretinalthickness.:IS/OS(+)(±)群:IS/OS(-)群■3カ月6カ月術後1カ月p=0.7146:TotalOS&RPE:CRTp=0.5882術後1カ月→3カ月術後3カ月→6カ月図5IS/OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMおよびCRTの変化量術後1カ月から3カ月の変化量はTotalOS&RPE/BM:11.7μm,CRT:10.8μm,術後3カ月から術後6カ月の変化量はTotalOS&RPE/BM:2.76μm,CRT:2.47μmであった.両群の変化量に有意差はなかった(p=0.7146,p=0.5882,MannWhitneyUtest).くると考えられた.SD-OCT所見と術後視力との検討については,Shimodaら3)は網膜復位後にIS/OSが徐々に回復し,IS/OSの状態が視力と相関したと報告している.Wakabayashiら4)は,術後のIS/OSとELMシグナルの完全性は術後最高視力と相関し,術後ELMの状態から視細胞層の回復を予測できる可能性があるとしている.川島ら5)は,視力改善はIS/OS断裂の減少と強く相関し,ELM断裂の消失がIS/OS改善の前提であると述べている.また,Gharbiyaら6)はIS/OSやELMに加えて,外顆粒層厚やCOSTの状態が視力予後に最(147)(μm)9080706050***術後1カ月3カ月6カ月図4IS.OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMの推移TotalOS&RPE/BMは術後1カ月:65.2μm,術後3カ月:77.1μm,術後6カ月:81.8μmで,術後1カ月と比べて術後3,6カ月で有意差を認め,術後6カ月で最も厚かった.**:有意差あり(p<0.00001),*:有意差あり(p<0.0001),one-wayANOVA.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Burchmembrane.(μm)30405060708090100-0.200.000.100.200.300.400.500.60(logMAR)y=-23.247x+68.434r=0.5179,p=0.0162-0.10図6IS/OS(+)(±)群における視力とTotalOS&RPE/BMの相関(術後1カ月)術後1カ月において,TotalOS&RPE/BMは視力と正の相関があった(r=0.5179,p=0.0162,Spearman順位相関係数).も重要であると報告している.このように,IS/OSやELMの状態は術後視力と相関し,視力予後を予測できる重要な因子であるため,網膜復位後における術後視力の改善にはELMおよびIS/OSの修復が必須であり,さらなる術後早期の視力改善にはTotalOS&RPE/BMの増加が関連していると考えられた.しかしながら,術後3カ月以降でTotalOS&RPE/BMと視力に相関がなかった理由として,今回の検討ではELM(+)およびIS/OS(+)(±)の網膜外層の形態が比較的良好な症例を対象としたため,視力は術後1カ月の早期から有意に改善し,視力の改善は頭打ちの状態に近づいていたことが影響したと考えられる.TotalOS&RPE/BMは,術後3カ月から有意な増加を認め,術後6カ月で最も厚かった.一方,CRTは経過を通しあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141073 て有意な変化はみられなかった.術後1カ月のTotalOS&RPE/BMは平均65.2μmと筆者らが正常人で報告した平均値81.3μm8)よりも薄く,術後6カ月では81.8μmとほぼ同じであった.よって,今回の結果は復位後に残存している視細胞内節から外節が徐々に再生されたことを意味していると考えられる.つまり,網膜復位後におけるTotalOS&RPE/BMの増加は,視細胞外節の再生過程を捉えている可能性がある.動物モデルやヒトの眼における実験的研究では,網膜.離後,急速に視細胞のアポトーシスを起こすことがわかっている9,10).Lewisら11)は,実験的網膜.離の復位直後において視細胞外節長が減少することを報告している.また,組織学的研究における視細胞外節の再生については,復位後3カ月で視細胞外節の長さはほぼ回復したという報告や正常な外節長の約70%まで達したという報告がある12,13).Guerinら14)の検討では,復位後5カ月での視細胞外節長は正常値と比べて統計的に差はみられなかった.今回の結果は,これらの組織学的な報告と同様の結果であり,TotalOS&RPE/BMを測定することで視細胞外節の再生過程を二次的に定量することができたと考えられる.また,SD-OCTを用いた本研究では,視細胞外節長の増加は復位後6カ月まで続いていることも明らかとなった.本研究の問題点としては,症例数の少なさ,復位後にIS/OSが確認できない症例や術後に網膜下液が残存している場合には,TotalOS&RPE/BMを定量することがむずかしいため症例が限定されることが挙げられる.今後は,症例数を増やしてさらに詳細な検討が必要であり,純粋な視細胞外節厚の定量方法が課題である.続発性の視細胞外節病であるmacula-offRRDに対して,術後の視細胞外節を含めたTotalOS&RPE/BMを定量し,視力との関連を検討した.その結果,経時的に網膜外層の回復過程を捉えることができ,TotalOS&RPE/BMは術後1カ月の早期のみ視力と相関した.また,ELMを認めたIS/OS(+)(±)群の視力はIS/OS(.)群よりも良好な経過であった.よって,術後早期においてはELMおよびIS/OSの修復を前提として,TotalOS&RPE/BMの増加によりさらに視力が改善してくると考えられた.また,TotalOS&RPE/BMは術後3カ月から有意な増加を認め,視細胞外節の再生が示唆された.今後は,TotalOS&RPE/BMの機能評価を併せての検討や侵達性の高いswept-sourceOCTを用いて検討する予定である.文献1)SchocketLS,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahighresolutionopticalcoherencetomographyinpatientswithdecreasedvisualacuityafterretinaldetachmentrepair.Ophthalmology113:666-672,20062)SmithAJ,TelanderDG,ZawadzkiRJetal:High-resolutionFourier-domainopticalcoherencetomographyandmicroperimetricfindingsaftermacula-offretinaldetachmentrepair.Ophthalmology115:1923-1929,20083)ShimodaY,SanoM,HashimotoHetal:Restorationofphotoreceptoroutersegmentaftervitrectomyforretinaldetachment.AmJOphthalmol149:284-290,20104)WakabayashiT,OshimaY,FujimotoHetal:Fovealmicrostructureandvisualacuityafterretinaldetachmentrepair:imaginganalysisbyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:519-528,20095)川島裕子,水川憲一,渡邊一郎ほか:裂孔原性網膜.離復位後における視細胞外節の回復過程の検討.日眼会誌115:374-381,20116)GharbiyaM,GrandinettiF,ScavellaVetal:Correlationbetweenspectral-domainopticalcoherencetomographyfindingsandvisualoutcomeafterprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentrepair.Retina32:43-53,20127)SrinivasanVJ,MonsonBK,WojtkowskiMetal:Characterizationofouterretinalmorphologywithhigh-speed,ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:1571-1579,20088)後藤克聡,水川憲一,山下力ほか:スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼での視細胞内節外節接合部網膜色素上皮間距離の定量.あたらしい眼科30:17671771,20139)CookB,LewisGP,FisherSKetal:Apoptoticphotoreceptordegenerationinexperimentalretinaldetachment.InvestOphthalmolVisSci36:990-996,199510)ArroyoJG,YangL,BulaDetal:Photoreceptorapoptosisinhumanretinaldetachment.AmJOphthalmol139:605-610,200511)LewisGP,CharterisDG,SethiCSetal:Theabilityofrapidretinalreattachmenttostoporreversethecellularandmoleculareventsinitiatedbydetachment.InvestOphthalmolVisSci43:2412-2420,200212)今井和行,林篤志,deJuanEJr:網膜.離─復位モデルの作製と評価.日眼会誌102:161-166,199813)SakaiT,CalderoneJB,LewisGPetal:Conephotoreceptorrecoveryafterexperimentaldetachmentandreattach-ment:animmunocytochemical,morphological,andelectrophysiologicalstudy.InvestOphthalmolVisSci44:416425,200314)GuerinCJ,LewisGP,FisherSKetal:Recoveryofphotoreceptoroutersegmentlengthandanalysisofmembraneassemblyratesinregeneratingprimatephotoreceptoroutersegments.InvestOphthalmolVisSci34:175-183,1993***1074あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(148)

光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例

2014年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科31(5):763.768,2014c光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例荒木俊介*1後藤克聡*1水川憲一*1三木淳司*1,2山下力*1,2仲河正樹*1桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室1*2川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科ACaseofPediatricTraumaticOpticNeuropathywithThinningofGanglionCellComplexandCircumpapillaryRetinalNerveFiberLayerThicknessUsingOpticalCoherenceTomographySyunsukeAraki1),KatsutoshiGoto1),KenichiMizukawa1),AtsushiMiki1,2),TsutomuYamashita1,2),MasakiNakagawa1)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:小児の外傷性視神経症(TON)において,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)を用いて神経節細胞複合体(GCC)厚および乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚の経時的変化を観察できた1例を報告する.症例:11歳,男児.左眼窩縁付近を打撲後に視力低下を自覚.左眼視力0.1,相対的瞳孔求心路障害と中心フリッカー値低下を認め,左眼TONと診断.ステロイドパルス療法後,視機能が改善したにもかかわらず,GCC厚およびcpRNFL厚は,受傷後から不可逆的な菲薄化が進行した.結論:小児のTONにおいて,受傷後から経時的に神経節細胞や神経線維の萎縮を捉えることができた.自覚的検査の信頼性が低い幼小児において,SD-OCTを用いたGCC厚やcpRNFL厚の測定は,短時間で容易に構造的変化を捉えることができ,病態把握や経過観察およびTON診断の一助としても有用であると考えられる.Purpose:Wereportachildwithtraumaticopticneuropathy(TON)inwhichthetimecourseofganglioncellcomplex(GCC)andcircumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thinningwereobservedusingspectral-domainopticalcoherencetomography(SD-OCT).Case:An11-year-oldmalerealizedvisuallossinhislefteyeaftertraumaticinjurytothelateralorbitalmargin.Correctedvisualacuitywas0.1.RelativeafferentpupillarydefectOSanddecreasedcriticalflickerfrequencyOSwerenoted,andhewasdiagnosedwithTONOS.Althoughvisualfunctionimprovedaftersteroidpulsetherapy,GCCandcpRNFLthinningsubsequentlyprogressed.Conclusion:WewereabletodetectlongitudinalchangesinganglioncellandretinalnervefiberatrophyinpediatricTON.Inyoungchildrenwithlowreliabilityinsubjectivetesting,SD-OCTcaneasilydetectstructuralchange,soisconsideredusefulforpathologicalassessment,follow-upanddiagnosisofTON.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):763.768,2014〕Keywords:外傷性視神経症,小児,光干渉断層計,神経節細胞複合体厚,乳頭周囲網膜神経線維層厚.traumaticopticneuropathy,child,opticalcoherencetomography,ganglioncellcomplexthickness,circumpapillaryretinalnervefiberlayerthickness.〔別刷請求先〕荒木俊介:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室1Reprintrequests:SyunsukeAraki,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(137)763 はじめにスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)では,スキャンスピードと空間解像度の向上に伴い,網膜各層のセグメンテーションが可能となった.RTVue-100R(Optovue社)では網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)・神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)・内網状層の3層をまとめて神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)として測定することが可能である.GCC厚の菲薄化は,網膜神経線維と軸索輸送障害に伴う網膜神経節細胞の障害を反映していると考えられており,緑内障性視神経症ではGCC厚が菲薄化するとされている1).また,GCC厚測定における緑内障の診断力は乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の測定に匹敵すると報告されており2),その有用性は高い.神経眼科領域においても多発性硬化症や視神経炎において,脱髄や炎症に伴う網膜神経線維や神経節細胞の萎縮を経時的に捉えるために,SD-OCTを用いてGCC厚やcpRNFL厚の検討がなされている3,4).以前に,筆者らは小児の視神経乳頭炎において治療により視機能が改善したにもかかわらずGCC厚が不可逆的に菲薄化したことを報告した5).外傷性視神経症(traumaticopticneuropathy:TON)においては,これまでtime-domeinOCTやscanninglaserpolarimeterを用いて黄斑部網膜厚やcpRNFL厚の菲薄化が報告されているが6.8),SD-OCTを用いたGCC厚やcpRNFL厚の経時的変化に関する報告は少なく9),小児での報告は筆者らの知る限りではない.今回,SD-OCTを用いてGCC厚およびcpRNFL厚の経時的変化を観察できた小児のTONの1例を報告する.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ており,また,患者の同意を得て実施した.I症例患者:11歳,男児.主訴:左眼視力低下.既往歴,家族歴:特記事項なし.現病歴:2011年12月25日,サッカー中に友人の頭部で左眼窩縁付近を打撲し,視力低下を自覚したため近医を受診した.左眼のTONを疑われ,その翌日に川崎医科大学附属病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼1.5(矯正不能),左眼0.1(矯正不能),眼圧は右眼15mmHg,左眼15mmHgであった.対光反射は左眼の直接反射が弱く,相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)が陽性,ハンディフリッカHFR(NEITZ)による中心フリッカー(criticalflickerfrequency:CFF)値は右眼41Hz,左眼15.20Hzで764あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014あった.Goldmann視野検査では,右眼は正常,左眼は中心10°以内の中心暗点および下方の水平半盲傾向を認めた(図1a).前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなく,磁気共鳴画像検査,コンピュータ断層撮影法検査においても眼窩および視神経に異常を認めなかった.以上の結果より,左眼TONと診断した.経過:即日入院とし,ソル・メドロールR1,000mgによるステロイドパルス療法を2クール施行した.左眼視力の経過は受傷後翌日で(0.1),1カ月で(0.5),3カ月で(0.6),8カ月で(0.5),12カ月で(0.4)であった.CFF値は受傷後翌日で15.20Hz,1カ月で25Hz,3カ月で33Hz,8カ月で38Hz,12カ月で36Hzであった.また,12カ月後のGoldmann視野検査では,中心暗点の改善および下方視野の拡大を認めたが,下方の暗点は残存した(図1b).SD-OCT(RTVue-100R,Optovue社)による平均GCC厚は,受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,右眼でそれぞれ,96.63μm,97.06μm,97.18μm,98.13μm,99.13μm,左眼で95.28μm,72.95μm,72.67μm,64.44μm,64.08μmであった(図2a).左眼の平均GCC厚は,健眼である右眼と比較し,受傷後翌日で1.4%,1カ月で24.8%,3カ月で25.2%,8カ月で34.3%,12カ月で35.4%減少していた.GCCThicknessMapでは,右眼は経過を通じて明らかな変化はみられなかったが,左眼では経過とともに中心窩周囲,特に鼻側と上方で菲薄化が進行した(図2b).平均cpRNFL厚は受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,右眼でそれぞれ116.35μm,113.67μm,114.54μm,118.17μm,114.12μm,左眼で108.86μm,81.3μm,67.85μm,61.12μm,64.25μmであった(図3a).左眼の平均cpRNFL厚は,健眼である右眼と比較し,受傷後翌日で6.4%,1カ月で28.5%,3カ月で40.8%,8カ月で48.3%,12カ月で43.7%減少していた.cpRNFLThicknessMapでは,右眼は経過を通じて明らかな変化はみられなかったが,左眼では,経過とともに菲薄化が進行し,特に上方および耳側で顕著であった(図3b).さらに,平均cpRNFL厚を視神経乳頭上方,耳側,下方,鼻側の4象限に分けた象限別平均cpRNFL厚は,受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,それぞれ上方が右眼で145μm,146μm,138.5μm,151.5μm,138μm,左眼で127.5μm,96μm,70μm,74μm,80.5μmであった.耳側が右眼で82μm,94.5μm,97.5μm,103μm,93.5μm,左眼で87.5μm,44μm,39μm,35.5μm,41μmであった.下方が右眼で157μm,145μm,150μm,147.5μm,153.5μm,左眼で152μm,117μm,98μm,89μm,93μmであった.鼻側が右眼で81.5μm,69.5μm,72.5μm,70μm,71μm,左眼で68.5μm,67.5μm,63.5μm,(138) ab図1左眼Goldmann視野所見の経過a:受傷後翌日.中心10°以内の中心暗点および下方の水平半盲傾向を認めた.b:受傷後12カ月.中心暗点の改善および下方視野の拡大を認めたが下方の暗点は残存した.a1051009590858075706560受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月:右眼GCC厚:左眼GCC厚GCC厚(μm)b:GCCThicknessMap右眼左眼図2平均GCC厚の経時的変化a:平均GCC厚の経時的変化.左眼の平均GCC厚は受傷後1カ月で右眼に比べ急激な菲薄化を認め,その後,経過とともに減少傾向にあった.b:GCCThicknessMap.左眼において,経過とともに中心窩周囲,特に鼻側と上方で菲薄化が進行した.GCC:ganglioncellcomplex.(139)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014765 cpRNFL厚(μm)a1251151059585756555:右眼cpRNFL厚:左眼cpRNFL厚受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月b:cpRNFLThicknessMap右眼左眼図3平均cpRNFL厚の経時的変化a:平均cpRNFL厚の経時的変化.左眼の平均cpRNFL厚は平均GCC厚と同様に,受傷後1カ月で右眼に比べ急激な菲薄化を認め,その後,経過とともに減少傾向にあった.b:cpRNFLThicknessMap.左眼において,経過とともに菲薄化が進行し,特に上方および耳側で顕著であった.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer,GCC:ganglioncellcomplex.46μm,42μmであった(図4).解析に用いたデータは,SignalStrengthIndexが50以上得られたデータとし,固視不良やセグメンテーションエラーがある場合は複数回の測定を行い,最も信頼性のあるデータを採用した.受傷後翌日では,平均GCC厚および平均cpRNFL厚ともに右眼(健眼)と左眼(患眼)で大きな差がみられなかったが,その後,受傷後1カ月で左眼視力は改善を認めたにもかかわらず,平均GCC厚および平均cpRNFL厚はともに減少した.また,象限別平均cpRNFL厚では受傷後翌日において,欠損のあった下方視野に対応する上方cpRNFL厚は右眼に比べて左眼で軽度減少していた.その後,12カ月後では右眼に比べて左眼は全象限においてcpRNFL厚の減少を認めた.766あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014II考按小児のTONにおいて視力やCFF値などの視機能が改善したにもかかわらず,GCC厚やcpRNFL厚は経過とともに急速に菲薄化が進行し,受傷後12カ月においても菲薄化が残存した.TONは,広義にはいくつかの分類に分けられるが,眉毛部外側の鈍的打撲により介達性に同側の視神経機能が急激に障害されるものが一般的である.その病態は,衝撃が眼窩上壁の骨を経由して介達性に視神経管に到達した際,視神経管内視神経部で浮腫や出血が生じ,視神経を圧迫することが主たるものと考えられている10).本症例では,左眼窩縁付近の鈍的衝撃の直後に,同側の急激な視神経機能の低下を認めた.また,開放性の損傷はなく,視神経管骨折や眼球直後に生じる視神経乳頭離断も認めなかったことから,眼窩後方の(140) 右眼160140120cpRNFL厚100:上方:耳側80:下方:鼻側604020受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月160140120cpRNFL厚100:上方:耳側80:下方:鼻側604020図4象限別平均cpRNFL厚の経時的変化受傷後翌日において,上方cpRNFL厚が右眼に比べて左眼で軽度減少していた.その後,左眼は受傷後12カ月では全象限においてcpRNFL厚の減少を認めた.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.視神経管近傍に生じたいわゆる狭義の介達性TONであったと考えられる.TONにおけるSD-OCTを用いたGCC厚およびcpRNFL厚の検討については,Kanamoriら9)が成人例においてGCC厚およびcpRNFL厚は,受傷後2週目から健眼に比べて有意に減少しはじめ,20週間後には頭打ちになることを報告し,機能検査でしか捉えられなかった受傷後の経過を構造的に評価している.本症例においても治療後に視力や視野などの視機能が改善したにもかかわらず,受傷後1カ月からGCC厚およびcpRNFL厚の減少が認められた.TONにおけるGCC厚とcpRNFL厚の菲薄化は,浮腫や出血による視神経圧迫に伴う軸索損傷が原因の不可逆的なGCLやRNFLの萎縮を捉えたものと考えられる.しかし,本症例では受傷後翌日から受傷後1カ月までGCC厚およびcpRNFL厚の評価が行えておらず,菲薄化が検出されはじめる詳細な期間については検討できていない.また,cpRNFL厚の象限別検討では,受傷後翌日で健眼に比べて,患眼の上方cpRNFL厚が軽度減少していた.これまで,TONでは急性期におけるcpRNLF厚は正常か網膜神経線維の増大による肥厚を示す11)とされている.しかし,(141)cpRNFL厚(μm)cpRNFL厚(μm)左眼受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月受傷後早期にcpRNFL厚の有意な変化が捉えられるかどうかについては,今後症例数を増やし詳細な検討が必要である.これまで視神経炎においてcpRNFL厚の減少と視力や視野の障害に相関があると報告されている12,13)が,TONではGCC厚およびcpRNFL厚と視機能の相関についての報告はない.しかし,乳頭黄斑線維がおもに障害される視神経炎と異なり,TONでは視神経実質内の浮腫の部位により,さまざまな視野変化が起こりうることから視力や中心視野との相関は一様でないことが推察される.本症例では,GCC厚やcpRNFL厚の菲薄化が進行したにもかかわらず視力や視野が保持されていた.その理由として,Quigleyら14)はGoldmann視野計では網膜神経節細胞の約50%が障害されないと中心視野の異常を検出できないと報告しており,本症例でも視力検査やGoldmann視野検査ではGCC厚やcpRNFL厚の形態的変化が網膜神経節細胞の余剰性により機能異常として検出できなかった可能性が考えられる.TONの診断は,眉毛部外側の打撲の既往と視力・視野障害,RAPDの存在があれば,診断は比較的容易であるが,幼小児においては自覚的な訴えが曖昧なことが多く,外傷による皮下出血や挫滅創のない場合には診断が困難である15).このような場合,swingingflashlighttestによるRAPDの検出がほとんど唯一の他覚的所見であるとされてきたが,GCC厚やcpRNFL厚の測定は他覚的にGCLやRNFLの萎縮を捉えることができ,自覚的検査の信頼性が低い幼小児において,病態把握や経過観察に有用であると考えられる.また,幼小児のTONにおいて鑑別すべき疾患としては,外傷をきっかけとした心因性視覚障害16)や弱視17)などがあげられる.弱視眼ではGCC厚の菲薄化は認めないと報告されており18),弱視や心因性視覚障害とTONをはじめとする視神経疾患との鑑別の一助としてもGCC厚およびcpRNFL厚の測定は有用であると思われる.今回,小児のTONにおいて,SD-OCTを用いたGCC厚およびcpRNFL厚の測定により,不可逆的なGCLやRNFLの萎縮を捉えることができた.SD-OCTは,短時間の固視や座位の保持が可能であれば幼小児でも比較的容易に撮影が可能であるため,GCC厚やcpRNFL厚の測定が幼小児の視神経疾患における病態把握,経過観察および診断の一助としても有用であると考えられる.今後,TONにおけるGCC厚およびcpRNFL厚の減少と視機能との相関について,症例数を増やしてさらに詳細な検討を行う予定である.文献1)MorookaS,HangaiM,NukadaMetal:Wide3-dimensionalmacularganglioncellcompleimagingwithspectral-domainopticalcoherencetomographyinglaucoma.Investあたらしい眼科Vol.31,No.5,2014767 OphthalmolVisSci53:4805-4812,20122)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20103)FjeldstadC,BembenM,PardoG:Reducedretinalnervefiberlayerandmacularthicknessinpatientswithmultiplesclerosiswithnohistoryofopticneuritisidentifiedbytheuseofspectraldomainhigh-definitionopticalcoherencetomography.JClinNeurosci18:1469-1472,20114)SycSB,SaidhaS,NewsomeSDetal:Opticalcoherencetomographysegmentationrevealsganglioncelllayerpathologyafteropticneuritis.Brain135:521-533,20125)後藤克聡,水川憲一,三木淳司ほか:神経節細胞複合体の急激な菲薄化を認めた小児視神経炎の2例.日眼会誌117:1004-1011,20136)VessaniRM,CunhaLP,MonteiroML:Progressivemacularthinningafterindirecttraumaticopticneuropathydocumentedbyopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:697-698,20077)MedeirosFA,MouraFC,VessaniRMetal:Axonallossaftertraumaticopticneuropathydocumentedbyopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol135:406-408,20038)MiyaharaT,KurimotoY,KurokawaTetal:Alterationsinretinalnervefiberlayerthicknessfollowingindirecttraumaticopticneuropathydetectedbynervefiberanalyzer,GDx-N.AmJOphthalmol136:361-364,20039)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Longitudinalstudyofretinalnervefiberlayerthicknessandganglioncellcomplexintraumaticopticneuropathy.ArchOphthalmol130:1067-1069,201210)河合一重:外傷.眼科診療プラクティス12やさしい神経眼科(安達惠美子編),p60-63,文光堂,199411)藤本尚也,横山暁子:視神経疾患のOCTとHumphrey静的視野検査.あたらしい眼科29:743-749,201212)NovalS,ContrerasI,RebolledaGetal:Opticalcoherencetomographyversusautomatedperimetryforfollow-upofopticneuritis.ActaOphthalmolScand84:790-794,200613)CostelloF,HodgeW,PanYIetal:Trackingretinalnervefiberlayerlossafteropticneuritis:aprospectivestudyusingopticalcoherencetomography.MultScler14:893-905,200814)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWR:Opticnervedamageinhumanglaucoma.III.Quantitativecorrelationofnervefiberlossandvisualfielddefectinglaucoma,ischemicneuropathy,papilledema,andtoxicneuropathy.ArchOphthalmol100:135-146,198215)三村治:眼のかすみを起こす疾患視神経疾患.あたらしい眼科27:191-195,201016)鈴木利根,瀬川敦,杉谷邦子ほか:中学・高校の運動部活動に関連し外傷を契機とした心因性視力障害.眼臨101:708-711,200717)波田順次,中筋康夫,中村誠ほか:健眼遮閉により視力改善をみた小児外傷性視神経症の1例.眼臨93:204-206,199918)FiratPG,OzsoyE,DemirelSetal:Evaluationofperipapillaryretinalnervefiberlayer,maculaandganglioncellthicknessinamblyopiausingspectralopticalcoherencetomography.IntJOphthalmol6:90-94,2013***768あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(142)

レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト

2014年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科31(4):615.619,2014cレバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト井上康*1越智進太郎*1山口昌彦*2大橋裕一*2*1井上眼科*2愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野TearClearanceEvaluationwithOCT,Using2%RebamipideOphthalmicSuspensionasTracerYasushiInoue1),ShintaroOchi1),MasahikoYamaguchi2)andYuichiOhashi2)1)InoueEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity目的:光干渉断層計(OCT)を用い,レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚製薬,以下rebamipide)をトレーサーとして涙液クリアランスを検討した.対象および方法:健常ボランティア28名56眼を対象とした.OCTはRS-3000R(NIDEK)を用い,rebamipide10μl点眼後の涙液メニスカス高(TMH),涙液メニスカス断面積(TMA)および涙液メニスカス内の平均輝度を1分ごとに測定限界まで測定した.ImageJ(NIH)を用い,平均輝度から算出されたrebamipide濃度の経時変化より涙液クリアランス率および涙液量を求めた.結果:点眼5分後までの測定が可能であり,涙液量は9.0±7.0μlであった.TMHとTMAの有意な上昇が点眼直後と点眼1分後に認められたため(p<0.01),点眼直後から点眼2分後を反射分泌による量的負荷状態の急速相,点眼後2.5分後を量的負荷のない緩徐相と仮定した.点眼直後から5分後までの涙液クリアランス率は63.7±17.3%/min,急速相では99.3±49.3%/min,緩徐相では45.1±23.8%/minであった.従来,基礎分泌下として報告されている5分以降の涙液クリアランス率を今回の結果から予測した値は23.3%/minであった.結論:Rebamipide濃度変化を指標にOCTを用いて涙液クリアランスを評価することが可能であったが,基礎分泌下の涙液クリアランス率を測定するためにはより長時間の測定が必要とされる.Purpose:Toevaluatetearclearanceusingopticalcoherencetomography(OCT),followinginstillationof2%rebamipideophthalmicsuspensionasatracer.MethodsandParticipants:EnrolledinthisstudyusingtheRS-3000R(NIDEK,JAPAN)were56eyesof28volunteers.Afterinstillationof10μlof2%rebamipideophthalmicsuspension,tearmeniscusheight(TMH),tearmeniscusarea(TMA)andmeangrayvalue(MGV)ofthetearmeniscusweremeasuredeveryminute,tothedetectionlimit.TearclearancerateandtearvolumewerecalculatedfromthesequentialchangeinrebamipideconcentrationobtainedfromMGV,asanalyzedbyImageJ1.47v(NIH).Results:Measurementswerepossiblefor5minutesafterinstillation.Tearvolumewas9.0±7.0μl.TMHandTMAincreasedsignificantlyjustafterandat1minuteafterinstillation,sothistimewedefinedthetearclearanceat0-2minutesafterinstillationastheacutephaseunderreflectivehypersecretionandthetearclearanceat2-5minutesafterinstillationastheslowphasewithoutquantitativeload.Tearclearanceratesat0-5,0-2and2-5minutesafterinstillationwere63.7±17.3%/min,99.3±49.3%/minand45.1±23.8%/min,respectively.Theestimatedtearclearancerateat5-15minutesafterinstillation,previouslyreportedasthebasaltearclearancerate,was23.2%/min.Conclusion:TearclearancecanbeexaminedusingOCTwithrebamipideconcentrationasaparameter,butmeasurementoveramoreextendedtimeisnecessaryinordertoevaluatebasaltearclearancerate.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):615.619,2014〕Keywords:光干渉断層計,レバミピド懸濁点眼液,涙液クリアランステスト,涙液量.opticalcoherencetomography,2%rebamipideophthalmicsuspension,tearclearancetest,tearvolume.〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科Reprintrequests:YasushiInoue,M.D.,InoueEyeClinic,1-14-31Uno,TamanoCity,Okayama706-0011,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(137)615 はじめに流涙症とはさまざまな要因により,涙液の分泌過多あるいは排出障害を生じる疾患の総称であり,眼不快感や視機能異常を伴うと定義されている1).流涙症を生じる原因疾患は多様であり,その病態を把握するために涙液の動態解析は重要な要素である.涙液動態を解析するための一つのアプローチとして,涙液クリアランスの測定を試みた報告はこれまでに数多くある.Mishimaら2)は,蛍光光度計を使用して点眼後のフルオレセインナトリウム濃度を経時的に測定し,その結果から得られた涙液のクリアランス率や涙液量について詳細に報告している.その後にも同様の報告は多数みられるが,肝心のフルオロフォトメータが現在市販されていないという難点がある.小野ら3)は,Schirmer試験紙に吸収されたフルオレセインナトリウムの色調の濃淡を比色表で比較することによって涙液クリアランス測定を試みているが,Schirmer試験の際に使用するSchirmer紙による刺激分泌のため,基礎分泌下での涙液クリアランスを正確に反映しているとは言い難い.近年,普及が進んでいる光干渉断層計(OCT)を用いた低侵襲での定量的な評価の試みとして,Zhengら4)は生理食塩水点眼直後から30秒後までの量的負荷状態での涙液クリアランスを評価している.今回,筆者らはOCTにより懸濁性点眼液の粒子を撮影することが可能である点に着目し,涙液メニスカス内の粒子の平均輝度をもとに算出した粒子濃度を用いて,涙液クリアランス測定を試みた.懸濁性点眼液として,粒子径が2μmと最も小さく,単位当たりの粒子数が最も多いレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚製薬,以下rebamipide)を用いた.I対象および方法本研究は川崎医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て行われた.ドライアイ,角膜疾患,涙道通水障害を有さない健常ボランティアに対し,十分な説明を行い,インフォームド・コンセントの得られた28名56眼(男性11名,女性17名),年齢39.0±11.8歳(範囲:22.58歳)を対象とした.OCTはRS-3000R(NIDEK)を用いた.涙液メニスカスの水平方向の測定幅はRS-3000Rでは2.1mmに設定されている.上下涙液メニスカスを同時に撮影することは不可能であったため,下方涙液メニスカスのみを高解像度で測定するため垂直方向の測定幅は2mmに設定した.前眼部アダプターを装着し,オートコントラストをオフにして撮影を行った.健常ボランティアに対する測定を行う前に,平均輝度とrebamipide濃度の相関を確認する目的で,rebamipideおよび倍量希釈したrebamipide希釈液の平均輝度測定を行った.オートレフラクトメータ(KR-8900R,TOPCON)のキャリブレーション用模擬眼にrebamipide原液および生理食塩水で希釈した1%,0.5%,0.25%,0.125%,0.0625%,0.03125%,0.015625%,0.0078125%のrebamipide希釈液10μlをマイクロピペットにて点眼し,前眼部アダプターを装着したRS-3000Rにて撮影を行った.健常ボランティアにおける涙液メニスカスの撮影は,自然瞬目下にて,涙を拭うなど眼瞼に触れないよう指示したうえで行った.Rebamipide点眼は両眼にマイクロピペットを用いて10μl点眼した.点眼前と点眼直後から1分間隔で平均輝度の測定限界まで撮影を行った.撮影した画像を,画像加算は行わずにパーソナルコンピュータに取り込み,ビットマップに変換し,画像処理ソフトウェアImageJ1.47v(アメリカ国立衛生研究所)を用いて平均輝度,涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)および涙液メニスカス断面積(tearmeniscusarea:TMA)を算出した.平均輝度の測定範囲は模擬眼による結果から平均輝度とrebamipide濃度の相関が最も高い測定幅を選択した.測定幅の設定はビットマップ画像であるためpixel数で決定した.また,rebamipide粒子の涙液中での溶解率を知るために,pH7.2.8.2であるビーエスエスプラスR500眼灌流液0.0184%日本アルコン(BSS)200μlにrebamipide100μlを混合し,平均輝度の経時的変化を測定した.II結果模擬眼におけるOCT画像を図1に示す.液面に近い画面上方で反射強度が強く,下方では反射が減衰していた.rebamipideの濃度が高いほどこの傾向が著明に認められた.測定範囲を図2に示す.Y軸方向の測定幅は平均輝度に影響を認めなかった.Z軸方向の測定幅と平均輝度との関係を図3に示す.測定幅を20pixelに設定した場合の平均輝度とrebamipide濃度の相関が最も高かった.これに従うと,rebamipide濃度と平均輝度の相関は,rebamipide濃度=0.000055207718215e0.02992313134691×平均輝度(r2=0.993)で表すことができる.健常ボランティアにおけるrebamipide濃度の測定は点眼5分後まで可能であった.TMHとTMAは点眼直後と点眼1分後に有意な増加を示した(p<0.01).点眼2分後以降は点眼前との間に有意差は認められなかった(図4).この結果より,点眼直後から点眼2分後までを反射分泌および量的負荷状態における急速相,点眼2.5分後を量的負荷のない緩徐相と仮定した.模擬眼で得られた計算式を用いて涙液メニスカス内の平均輝度からrebamipide濃度を算出した.下方涙液メニスカス内のrebamipide濃度の経時変化を図5に示す.616あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(138) 2%1%0.5%0.125%0.0625%0.03125%0.015625%0.0078125%図1Rebamipide原液および生理食塩水で希釈したムコスタ希釈液とOCT像上:Rebamipide原液および生理食塩水で希釈した各ムコスタ希釈液.下:RS-3000Rで撮影したOCT像.1TMA(mm2)測定範囲Y軸Z軸Rebamipide濃度(mg/μl)y=0.0000552e0.0299×平均輝度r2=0.99350100150200:20pixel:40pixel:60pixel:80pixel:100pixel0.10.010.0010.00010.000010図2平均輝度の測定範囲の設定平均輝度**図3Rebamipide濃度とZ軸幅との相関******:TMH:TMA0.80.090.70.07-30.6-90min1min2min3min4min5min緩徐相急速相ln(rebamipide濃度)THM(mm)-40.50.05-50.40.030.3-60.010.2-7-0.010.1-80BL0min1min2min3min4min5min-0.03経過時間経過時間図4TMH,TMAの経時変化図5健常人ボランティアにおけるrebamipideKruskalWallistest多重比較:Steel:*p<0.05,**p<0.01濃度の経時変化(139)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014617 250200150100500-50涙液クリアランス率(%/min)経過時間y=121.76x-0.725r2=0.98730~1min1~2min2~3min3~4min4~5min図6点眼直後から5分間の涙液クリアランス率の経時変化点眼直後のrebamipide濃度から涙液量は,涙液量(μl)=10μl×点眼したrebamipide濃度/点眼直後rebamipide濃度.1で表すことができる.健常ボランティアの涙液量は9.0±7.0μl(平均値±標準偏差)であった(表1).涙液クリアランス率は,涙液クリアランス率(%/min)=ln(slope)×100を用いて算出した.点眼直後から5分後までの涙液クリアランス率は63.7±17.3%/min,点眼2分後までの,急速相における涙液クリアランス率は99.3±49.3%/min,点眼2分後から5分後までの緩徐相における涙液クリアランス率は45.1±23.8%/minであった(表1).5分間の涙液クリアランス率の経時変化から近似式を求めるとy=121.7611x(.0.7246)(r=0.987)が得られ(図6),この式により5.15分後の涙液クリアランス率を予測すると23.3%/minであった.III考按今回,測定された涙液量は9.0±7.0μlでありMishimaら2)や清水ら5)の報告とほぼ同様であった.このことから,結膜.内のrebamipide懸濁粒子は瞬目により涙液中に均一に配分されていることが予想される.一方,点眼直後から5分後までの涙液クリアランス率は63.7±17.3%/minであり,Mishimaら2)52%/min,清水ら5)31.5±14.45/minの報告と比べて高値を示していた.清水ら5)は点眼量と刺激分泌に関する検討を行っており,同一濃度であっても,1μl点眼よりも5μl点眼したほうが涙液量,点眼直後から5分後までの涙液クリアランス率は有意に高値を示したと報告している.健常者に対する10μl点眼後のrebamipide濃度の測定限界は5分と短く,点眼量を少なくすると5分以内に測定可能範囲(2%.0.0078125%)下限以下となるため,今回の測定ではムコスタ点眼量を10μlとした.この点が今回測定された涙液クリアランス率が高値を示した原因の一つと考えられる.さらに,rebamipide懸濁粒子の涙液中での溶解も考慮す618あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014表1涙液量と,点眼直後から5分後,急速相および緩徐相の涙液クリアランス率涙液量(μl)9.0±7.0涙液クリアランス率(%/min)点眼直後から5分後63.7±17.3急速相(点眼直後から2分後)99.3±49.3緩徐相(点眼2分後から5分後)45.1±23.8る必要がある.Rebamipideは点眼ボトル内ではpH5.5.6.5に調整されており溶解しないが,涙液のpHに近いと考えられるBSS中では7.89±1.77%/minの溶解が起こっている.したがって,今回の結果については,真の涙液クリアランス率にrebamipideの溶解率を加えたものを測定している可能性がある.また,今回の検討ではTMH,TMAが点眼前に戻る2分後以降を緩徐相とし,量的負荷がなく基礎分泌下における涙液クリアランス率に近い値が得られることを予測していた.しかし,涙液クリアランス率は2分以降も漸減していることから,緩徐相においては反射分泌の亢進が導涙の予備能により代償されており,反射分泌の減少とともに涙液クリアランス率が低下してきていると考えられる.涙液クリアランスに関する従来の報告では,点眼後5分以降の値を基礎分泌下でのクリアランスと定めているものが多い.基礎分泌下での涙液クリアランス率を知るためにはより長時間の測定をする必要があること,そのためには涙液中でも溶解しない,より濃度の高い懸濁液が必要とされることが改めて確認された.今回の測定値から推定された5分後以降の基礎分泌下における涙液クリアランス率は3.3%/minであり,従来の点眼5分後以降の涙液クリアランス率を測定した報告10.7.30.0%/min2,5.10)にはほぼ一致していた.一般臨床への応用を考えると,短時間の測定結果から基礎分泌下の涙液クリアランス率を予測する手法も今後の検討に値すると考えられる.文献1)横井則彦:巻頭言─流涙症の定義に想う─.眼科手術22:1-2,20092)MishimaS,GassetA,KlyceSDetal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmol5:264-275,19663)小野眞史,坪田一男,吉野健一ほか:涙液のクリアランステスト.臨眼45:1143-1147,19914)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearly-phasetearclearancebyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol2013Sep11.doi:10.1111/aos.12260[Epubaheadofprint]5)清水章代,横井則彦,西田幸二ほか:フルオロフォトメト(140) リーを用いた健常者の涙液量,涙液turnoverrateの測定.日眼会誌97:1048-1052,1996)XuKP,TsubotaK:Correlationoftearclearancerateandfluorophotometricassessmentoftearturnover.BrJOphthalmol79:1042-1045,19957)WebberWR,JonesDP,WrightP:Fluorophotometricmeasurementsoftearturnoverrateinnormalhealthypersons:evidenceforacircadianrhythm.Eye1:615620,19878)SahlinS,ChenE:Evaluationofthelacrimaldrainagefunctionbythedroptest.AmJOphthalmol122:701708,19969)VanBestJA,BenitezdelCastilloJM,CoulangeonLM:Measurementofbasaltearturnoverusingastandardizedprotocol.Europeanconcertedactiononocularfluorometry.GraefesArchClinExpOphthalmaol233:1-7,199510)OcchipintiJR,MosierMA,LaMotteJetal:Fluorophotometricmeasurementofhumantearturnoverrate.CurrEyeRes7:995-1000,1988***(141)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014619

糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術を施行した部位の網膜感度の検討

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):289.294,2014c糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術を施行した部位の網膜感度の検討荻原彩子*1,2稲垣圭司*1箕輪有子*1藤谷周子*1,2大越貴志子*1村上晶*2*1聖路加国際病院眼科*2順天堂大学医学部眼科学教室RetinalSensitivityofMaculaafterGridPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaAyakoOgiwara1,2),KeijiInagaki1),YukoMinowa1),ShukoFujitani1,2),KishikoOhkoshi1)andAkiraMurakami2)DepartmentofOphthalmology,1)St.Luke’sInternationalHospital,2)JuntendoUniversitySchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術施行部位の網膜感度を評価した.方法および対象:対象は閾値凝固を行った糖尿病黄斑浮腫症例,男性5例5眼,女性6例7眼の計11例12眼,年齢は52.78歳.マイクロペリメーター1(NIDEK社)を用い術前,術後早期(1週.1カ月),3カ月,7.20カ月の照射部網膜感度をフォローアップモード測定し比較検討した.結果:12眼全体の平均網膜感度(dB)は術前,術後早期,3カ月,7カ月以降の最終網膜感度(7.20カ月)においてそれぞれ10.88,9.81,10.32,11.69で有意な低下は認めなかった.各症例の平均網膜感度の変化が2dB以上を有意とすると,術後早期で11眼中改善2眼(18%),不変4眼(36%),悪化5眼(45%)となった.最終網膜感度は7眼中改善2眼(29%),不変3眼(43%),悪化2眼(29%)となり,術後早期よりも改善している割合が増加した.結論:格子状光凝固術後の凝固部位の網膜感度は凝固後1週.1カ月には低下傾向であったが,それ以降は回復傾向となった.Purpose:Toassess,viafundus-relatedmicroperimetry,changesinretinalsensitivityfollowinggridphotocoagulationfordiabeticmacularedema(DME).Methods:DiabeticpatientswithdiffuseDME(11patients,12eyes)weretreatedwithgridphotocoagulation.Postoperativeretinalsensitivity(1week.20months)wascomparedtopreoperativeretinalsensitivityasmeasuredbymicroperimeter-1(MP-1,NidekTechnologies).Results:Meanretinalsensitivitydidnotdecreasesignificantlybefore(10.88dB)orafter(1week.1month:9.81dB,3months:10.32dB,7.20months:11.69dB)gridphotocoagulation.Therewasatendencytowardtemporaryretinalsensitivitydecreaseaftergridlasertreatment,butsensitivitygraduallyrecovered.Conclusion:Itseemedthatretinalsensitivityinitiallydecreasedbetween1weekand1monthaftergridlaserphotocoagulation,andgraduallyrecoveredafterward.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):289.294,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,黄斑感度,マイクロペリメトリ,格子状光凝固,光干渉断層計.diabeticmacularedema,macularsensitivity,microperimetry,gridphotocoagulation,opticalcoherencetomography.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症による視力障害の主たる原因の一つである.1985年にEarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)1)がclinicallysignificantmacularedema(CSME)に対する光凝固術の視力維持効果を証明し,また1986年Olk2)によってびまん性黄斑浮腫に対する格子状光凝固術の有効性が報告された.しかしその後,凝固斑の進行性拡大3)や暗点4),網膜下線維増殖5)などレーザーによる組織障害に起因する合併症が報告され,より低侵襲に行える凝固条件や適応などが見直されてきた.また,近年DMEの浮腫の程度,視力,網膜感度の関係を検討している報告6,7)や,格子状光凝固術前後の黄斑部感度を測定した報告8)が散見される.しかし,それらは黄斑部全体の網膜感度を測定しており,凝固〔別刷請求先〕荻原彩子:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakoOgiwara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)289 部に限定した網膜感度を術前後で検討した報告はない.そこで今回筆者らはDMEに対し格子状光凝固術を行った部位の凝固術前後の網膜感度をマイクロペリメーター1を用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は,ETDRSのCSMEに該当するDMEを有する11例12眼である.除外基準は1カ月以内のトリアムシノロン後部Tenon.下投与,4カ月以内の白内障手術後症例,6カ月以内の硝子体手術後症例とした.症例の内訳は,男性5例5眼,女性6例7眼,年齢は52.78歳(66.1±7.6歳:平均値±標準偏差,以下同様)であった.平均血清Hb(ヘモグロビン)A1C値は8.7±1.9%,網膜症分類は増殖前網膜症6眼,増殖網膜症6眼であった.腎症を有する7眼は,透析症例ではなかった.また,術前視力は0.1以下が3眼,0.2.0.5が3眼,0.6.0.9が6眼であった.DMEに対して治療歴のある症例は12眼中7眼(58%)で,内訳は硝子体手術3眼,トリアムシノロン後部Tenon.下投与5眼であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)所見でびまん性漏出を認め,かつ浮腫が存在する部位に格子状光凝固術を行った.10眼はマルチカラーレーザーイエロー561nm(ルミナス社,NOVUSVARIA),2眼はパターンスキャンレーザー532nm(トプコン社,PASCAL)を使用した.マルチカラーレーザーはスポットサイズ100μm,凝固時間0.1秒,スペーシング1.5.パターンスキャンレーザーはスポットサイズ100μm,凝固時間0.01秒,スペーシング1.0.凝固出力はマルチカラーレーザーは0.08.0.1W,パターンスキャンレーザーは0.15.0.2Wで,それぞれ凝固斑が観察される最低条件で照射した.また,FAで毛細血管瘤からの蛍光漏出の強い症例3眼には毛細血管瘤への直接凝固も併用した.光凝固術前,術後1,2,3,6,12カ月の視力,中心窩網膜厚,黄斑体積および術後早期1週.1カ月,3カ月,7カ月以降(7.20カ月)の最終網膜感度の凝固部網膜感度を測定した.中心窩網膜厚,黄斑体積の測定はOCT3000(CarlZeissMeditecDublin,CA,USA)を用い,中心6mmの範囲をファーストマクラモードにて測定し黄斑体積とし中心窩1mmの範囲の平均網膜厚を自動計測し評価に用いた.また,各症例ごとに厚さの測定基点がずれていないことを確認した.網膜感度はマイクロペリメーター1(microperimetor-1:MP-1)(Nidektechnologies,Padova,Italy)を用いた.MP-1の指標はGoldmannIII,閾値ストラテジーは4-2,固視標は1mmのシングルクロスを用いた.マニュアルモードで1×1mm内0.5°間隔,49ポイントのグリッドパターンを作成し,びまん性蛍光漏出を伴い浮腫を認め,毛細血管瘤290あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014がない部分の凝固予定部位の網膜感度を測定し,眼底写真と対比させながらその部位が確実に照射されるように格子状光凝固術を行った.その後フォローアップモードで同部位の網膜感度を測定した.光凝固術前後の視力,OCTで測定した中心窩網膜厚,黄斑体積および凝固部網膜感度の変化をWilcoxon符号付順位和検定で検討した.視力は少数視力で測定し,logarithmoftheminimalangleofresolution(logMAR)値に換算して統計処理を行った.網膜感度の変化は49ポイントの感度の平均値にて評価した.II結果平均視力(logMAR値±SD)は術前0.43±0.41(n=12),術後1カ月では0.41±0.38(n=12),2カ月では0.32±0.36(n=11),3カ月では0.27±0.44(n=12),6カ月では0.29±0.28(n=10),12カ月では0.27±0.28(n=10)であり,術後3カ月で術前と比較し有意に改善していた(p=0.044,Wilcoxon符号付順位和検定)が,その後は有意な変化は認めなかった(図1).平均中心窩網膜厚は術前396.3±164.0μm(n=12),術後1カ月では337.3±79.8μm(n=12),2カ月は357.8±139.1μm(n=12),3カ月は338.4±113.2μm(n=12),6カ月は281.3±91.3μm(n=9),12カ月は290.4±73.9μm(n=11)であり,有意な変化は認めなかった(Wilcoxon符号付順位和検定)(図2).12例全例の平均黄斑部体積は術前10.50±1.64mm3,術後1カ月では10.42±1.89mm3,2カ月は9.90±1.83mm3,3カ月は10.25±1.94mm3,6カ月は9.71±1.55mm3,12カ月は9.91±2.07mm3であり,術後6カ月で術前と比較し有意に減少していた(p=0.033,Wilcoxon符号付順位和検定)が,12カ月では有意な減少は認めなかった(図3).平均網膜感度は術前10.88±2.08dB(n=12),術後早期(1週.1カ月)では9.81±2.65dB(n=11),3カ月では10.32±2.03dB(n=7),7カ月以降の最終網膜感度は11.69±2.98dB(n=7)で有意な低下は認めなかった(Wilcoxon符号付順位和検定)(図4).各症例の平均網膜感度を,2dB以上の増減を有意とすると,術前と比較し術後早期は11眼中改善2眼(18%),不変4眼(36%),悪化5眼(45%)であった.また最終網膜感度は術前と比較し7眼中改善2眼(29%),不変3眼(43%),悪化2眼(29%)であった(表1).Wilcoxon符号付順位和検定では,術後早期は11眼中改善3眼(27%),不変1眼(9%),悪化6眼(55%)となり,最終網膜感度は7眼中改善4眼(57%),不変1眼(14%),悪化2眼(29%)であった(表2).ともに術後早期より改善している症例の割合が上昇していた.代表的な症例を以下に提示する.(130) 0-0.05450400350-0.1300-0.150術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月*平均中心窩網膜厚(μm)logMAR視力250-0.2-0.25-0.3-0.3520015010050-0.4-0.45観察期間-0.5術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月図2平均中心窩網膜厚の推移観察期間術前と比較し有意な変化は認めなかったが減少傾向だ図1平均logMAR視力の推移った.p=NS(Wilcoxon符号付順位和検定)術前との比較では,術後3カ月でのみ有意に改善した.*p<0.05(Wilcoxon符号付順位和検定)*1210.611.5平均黄斑部体積(mm3)10.4平均網膜感度(dB)1110.2109.810.5109.69.59.499.2術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月8.5術前1週~3カ月7~観察期間(n=12)1カ月(n=7)20カ月図3平均黄斑部体積の推移術後6カ月で術前と比較し有意な減少を認めたが,12カ月では有意な変化は認めなかった.*p<0.05(Wilcoxon符号付順位和検定)表1平均網膜感度の術前との比較術後早期最終網膜感度改善2眼(18%)2眼(29%)不変4眼(36%)3眼(43%)悪化5眼(45%)2眼(29%)2dB以上の変化を有意とした.78歳,女性.OCTで中心窩に漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫があり,FAでは黄斑部にびまん性の漏出を認めた.そこでマルチカラーレーザーを用いて格子状光凝固術を施行した.凝固条件は波長561nm,スポットサイズ100μm,凝固時間0.1秒,スペーシンング1.5,凝固出力は凝固斑がわずかに残る程度の凝固とした.小数点視力は術前0.4,術後2週以降は0.6であった.中心窩網膜厚は術前390μm,術後2週も390μmと浮腫の改善はなかったが,術後3カ月で240μmに減少,術後4カ月は229μmとなり浮腫はほぼ消失した.凝固部網膜感度は術前13.63dB,浮腫の引かない(131)(n=11)(n=7)観察期間図4平均網膜感度の推移術前と比較し有意な変化は認めなかった.p=NS(Wilcoxon符号付順位和検定)表2平均網膜感度の術前との比較術後早期最終網膜感度改善3眼(27%)4眼(57%)不変1眼(9%)1眼(14%)悪化6眼(55%)2眼(29%)Wilcoxon符号付順位和検定による.術後2週は9.84dBに低下,浮腫が引くのに伴って術後3カ月は13.22dBに上昇,術後7カ月には14.78dBと術前よりも改善した(図5,6).III考察DMEと網膜感度の相関を検討する報告は数多い.2006年Okadaら6)は,DMEで中心窩網膜厚と黄斑部網膜感度(中心10°,24ポイント:MP-1)は有意な関係があり,さらに網膜感度はDMEの予後測定因子となりうると報告していあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014291 BAD図5症例(78歳,女性):術前検査所見A:術前のカラー眼底写真.硬性白斑を伴う黄斑浮腫を認める.B:術前のフルオレセイン蛍光眼底造影撮影.黄斑部にびまん性漏出を認める.C:術前の光干渉断層計写真.漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認める.中心窩網膜厚は390μmであった.D:術前のマイクロペリメーター1.平均感度は13.63dBであった.る.2011年Hatefら7)がDMEの中心窩網膜厚(中心12°,28ポイント:OPKO/OTI)は280.320μmで最も感度が高く,それより低値あるいは高値であるほど感度は低下すると報告した.一方,DMEに対する黄斑光凝固術は,直接凝固と格子状凝固がある.ETDRS1)は1985年に黄斑局所凝固(直接凝固と格子状凝固)が視力維持に有効であることを報告し,それ以降,今日まで,エビデンスレベルの高い治療法として広く用いられてきた.しかしながら,黄斑部という最も視機能に直結する部位をレーザーにて破壊する治療であるため,黄斑機能がレーザーにより損なわれる可能性が懸念されている.このため,視力の評価はもとより,網膜感度に代表される黄斑機能評価は不可欠である.特に格子光凝固術は黄斑部全体または4分の1の範囲といった比較的広い範囲の網膜に凝固斑を置くため,今日まで光凝固術前後の感度変化を評価するためのさまざまな研究がなされてきた.格子状光凝固術前後の網膜感度はこれまでHumphrey視野計9,10),走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)4,8),highcontrastvisualdiscriminatoryfunction11)などで測定し報告されてきた.2005年Klausら8)は,DMEに対する閾値凝固術前後の黄斑部網膜感度(SLO)は1dB以上の変化を有意とすると30眼中改善15眼,不変7眼,悪化7眼だったと報告している.また,辻本ら4)は,黄斑光凝固の凝固斑を走査レーザー検眼鏡で感度を測定し,術直後,絶対暗点になることを報告している.また,Sinclairら11)は,閾値レベルの凝固は,従来のETDRS凝固に比較して網膜感度への影響が少ないことを報告している.しかし,これまでの報告では,黄斑全体の感度を評価,またはマニュアルにて凝固斑の1点のみを評価するなど,厳密に格子状凝固そのものの黄斑感度への影響を評価する方法ではなかった.その理由はこれまでの機器は同一箇所の感度を測定するのは事実上不可能であり,臨床上評価に値する治療前後のデータを得ることは不可能であったからである.一方,今回使用したMP-1はトラッキング機能による固視ずれの補正やフォローアップ機能をもち,同一箇所を測定できる網膜感度測定機器である.この利点を生かし,純粋に光凝固部位に合わせ,1×1mm内0.5°間隔,49ポイントと小さいグリットパターンをマニュアルモードで作成し,凝固部そのものの感度の術前後の変化を経時的に測定することができた.また,MP-1の網膜感度の変化については,評価の方法が確立されていないため,今回2dB以上による評価と,ポイントに対応するWilcoxon符号付順位検定を用いた.292あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(132) EFGHIJ図6症例(78歳,女性):術後検査結果E:術後2週の光干渉断層計写真.中心窩網膜厚は術前と変化なく390μmだった.F:術後2週のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は9.84dBに低下した.G:術後3カ月の光干渉断層計写真.中心窩網膜厚は240μmに減少した.H:術後3カ月のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は13.22dBに上昇した.I:術後7カ月の光干渉断層計写真.黄斑浮腫はほぼ消失している.J:術後7カ月のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は術前より改善し14.78dBとなった.今回DMEに対する格子状光凝固術は,術後早期では45%の症例で凝固部の網膜感度が低下したが,術後3カ月以降は回復傾向にあった.症例数が少なく有意な黄斑部体積減少を認めたのは6カ月の時点のみであり12カ月では有意な減少は認めなかったが,平均値では減少しており,凝固部を含めた黄斑部全体の浮腫が減少傾向に転じたことに起因するものと推定される.レーザーによる網膜の障害は凝固直後から1,2カ月で形態的変化が最も強く,その後術後約2カ月で視細胞内節外節接合部(IS-OSライン)の修復が始まることをInagakiら12)が報告しており,また動物実験でも同様の報告13)がある.今回はOCTによる凝固斑の観察はしていないが,既報告におけるレーザー後の網膜障害と回復の過程が,感度の回復の過程に類似した経過をたどった.そして,黄斑部全体の浮腫が減少するにつれて凝固部局所の感度が改善し,術前より感度が改善する症例があったことを考慮すると,光凝固による障害が黄斑感度に与える影響が,浮腫改善による黄斑機能の回復で相殺され,その結果感度上昇に転じたものと推定された.今回の検討では,視力の有意な変化の時期と黄斑部体積の有意な変化の時期がずれていた.視力の変化は主として中心窩の機能を反映しているが,黄斑部体積は黄斑部全体の浮腫の評価になり視力の変化と一致しなかった可能性が考えられる.また,OCT3000では,6本のラインを用いた疑似体積での評価になり,実際の体積の評価にはなっていないことが原因とも推定される.今回の結果を,他のレーザー治療法と比較すると,同様な凝固部位の感度測定方法でマイクロパルス閾値下凝固の術前後の感度を星川らが報告しており14),術後早期に2dB以上(133)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014293 の感度低下を示した症例はなかった.また,2009年に中村ら15)は,硬性白斑が集積するDMEに対するマイクロパルス閾値下凝固前と術後3カ月で黄斑部全体の網膜感度を測定し有意な改善はみられなかったと報告している.2010年Vujosevicら16)は,DMEに対するマイクロパルス閾値下凝固,modifiedETDRS凝固を比較検討し,両者において術後12カ月の中心窩網膜厚は有意な変化を認めなかったが,黄斑部感度(中心4°,12°:MP-1)はマイクロパルス閾値下凝固では有意に改善しmodifiedETDRS凝固では有意に低下したと報告している.このように,黄斑感度の変化から推定すると,今回の調査で対象となった従来の格子状凝固より,マイクロパルス閾値下凝固のほうが低侵襲であることが考えられる.近年,選択的色素上皮凝固可能なマイクロパルス閾値下凝固術が浮腫減少に有効であることが報告されている17).従来の格子状凝固は視細胞層の破壊を免れえないが,マイクロパルスは視細胞層を破壊せず,色素上皮層に修復可能なレベルの障害を与えるのみでレーザーの効果を発揮するため,感度の変化が少ないのではないかと推定される.今回の検討は12眼と症例数が少なく,そのうち2眼は他と異なるレーザーを使用していることが検討課題としてあげられる.光凝固の効果と侵襲のバランスは今後の検討課題である.本稿の要旨は第17回日本糖尿病眼学会(2011)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)OlkRJ:Modifiedgridargon(blue-green)laserphotocoagulationfordiffusemacularedema.Ophthalmology93:938-950,19863)SchatzH,MadeiaD,McDonaldRetal:Progressiveenlargementoflaserscarsfollowinggridlaserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol109:1549-1551,19914)辻本元一,斉藤喜博,井上智之ほか:格子状光凝固術のSLOMicroperimetryによる検討.眼紀47:37-41,19965)GuyerDR,D’AmicoDJ,SmithCW:Subretinalfibrousafterlaserphotocoaglationfordiabeticmacularedema.AmJOphthalmol113:652-654,19926)OkadaK,YamamotoS,MizunoyaSetal:Correlationofretinalsensitivitymeasuredwithfundus-relatedmicroperimetryandretinalthicknessineyeswithdiabeticmacularedema.Eye20:805-809,20067)HatefE,ColantuoniE,WangJetal:Therelationshipbetweenmaculasensitivityandretinalthicknessineyeswithdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol152:400405,20118)KlausR,StefanB,RolandGetal:Scanninglaserophthalmoscopefundusperimetrybeforeandafterlaserphotocoagulationforclinicallysignificantdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol129:27-32,20059)OlkRJ,StriphGG,HertWM:Modifiedgridlaserphoto-coagulationfordiabeticmacularedema.Theeffectforthecentralvisualfield.Ophthalmology95:1673-1679,198810)大越貴志子,草野良明,四蔵裕美ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固.視力良好例に対する予防的照射の検討.臨眼48:676-678,199411)SinclairSH,AlanizR,PrestiP:Lasertreatmentofdiabeticmacularedema:ComparisonofETDRS-leveltreatmentwiththreshold-leveltreatmentbyusinghighcontrastdiscriminantcentralvisualfieldtesting.SeminOphthalmol14:214-222,199912)InagakiK,OhkoshiK,OhdeS:Spectraldomainopticalcoherencetomographyimageofretinalchangesafterconventionalmulticolorlaser,subthresholdmicropulsediodelaser,orpatternscanninglasertherapyinJapanesewithmacularedema.Retina32:1592-1600,201213)PaulusYM,JainA,GarianoRFetal:Healingofretinalphotocoagulationlesions.InvestOphthalmolVisSci49:5540-5545,200814)星川有子,大越貴志子,山口達夫:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固後の網膜感度の短期的検討.日眼会誌115:13-19,201115)中村洋介,辰巳智章,新井みゆきほか:硬性白斑が集積する糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス・閾値下凝固の治療成績.日眼会誌113:787-791,200916)VujosevicS,BottegaE,MarghweitaCetal:Microperimetryandfundusautofluorescenceindiabeticmacularedema.Retina30:908-916,201017)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemaforJapanese.AmJOphthalmol149:133-139,2010***294あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(134)

スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼での視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の定量

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1767.1771,2013cスペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼での視細胞内節外節接合部.網膜色素上皮間距離の定量後藤克聡*1,2水川憲一*1山下力*1,3今井俊裕*1渡邊一郎*1三木淳司*1,3桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室*2川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*3川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科QuantifyingDistanceJunctionbetweenInnerandOuterSegmentsofPhotoreceptor-RetinalPigmentEpitheliuminNormalEyesUsingSpectralDomainOpticalCoherenceTomographyKatsutoshiGoto1,2),KenichiMizukawa1),TsutomuYamashita1,3),ToshihiroImai1),AtsushiMiki1,3),IchiroWatanabe1)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DoctoralPrograminSensoryScience,GraduateSchoolofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,3)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の自動セグメンテーション機能を用いて視細胞外節を含めた視細胞内節外節接合部(IS/OS)から網膜色素上皮までの厚み(TotalOS&RPE/BM)を測定し,正常眼における定量および検討を行った.対象および方法:正常眼160眼に対し,SD-OCTで中心窩網膜厚(CRT)および中心窩下のTotalOS&RPE/BMを測定し,年齢や屈折度数との相関,性差について検討した.結果:CRTは平均228.7±16.6μm,TotalOS&RPE/BMは平均81.3±4.1μmであった.TotalOS&RPE/BMは,屈折度数と正の相関を認め(r=0.2160,p=0.0061),CRTは男性が女性よりも有意に厚かった.他のパラメータに関して相関はみられなかった.結論:TotalOS&RPE/BMは屈折度数の近視化に伴い減少し,CRTは性別が関与していることがわかった.Purpose:Toquantifythedistancejunctionbetweeninnerandoutersegmentsofphotoreceptor-retinalpigmentepithelium(TotalOS&RPE/BM)innormaleyes,usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SDOCT).CasesandMethods:Centralretinalthickness(CRT)andTotalOS&RPE/BMunderthefoveawereexaminedbySD-OCTin160normaleyes.Wealsoinvestigatedtherelationshipofage,refractionandgenderwithCRTandTotalOS&RPE/BM.Results:MeanCRTwas228.7±16.6μm;meanTotalOS&RPE/BMwas81.3±4.1μm.TotalOS&RPE/BMshowedsignificantpositivecorrelationwithrefraction(r=0.2160,p=0.0061).CRTwassignificantlygreaterinmalesthaninfemales.Therewasnocorrelationwithotherparameters.Conclusion:TotalOS&RPE/BMdecreasedwithmyopia,andCRTwasassociatedwithgender.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1767.1771,2013〕Keywords:光干渉断層計,視細胞外節,網膜色素上皮,中心窩網膜厚,屈折.opticalcoherencetomography,photoreceptorofoutersegment,retinalpigmentepithelium,centralretinalthickness,refraction.はじめに視細胞外節は光を電気信号に転換する働きを持ち視力の根源をなしているため,外節の障害は視機能に鋭敏に反映される.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)の出現により視細胞内節外節接合部(junctionbetweenphotoreceptorinnerandoutersegment:IS/OS)を明瞭な高反射ラインとして観察が可能となり,IS/OSを指標に外節障害を評価できるようになった.現在,網膜疾患においてIS/OSの有無と視力の関連が数〔別刷請求先〕後藤克聡:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室Reprintrequests:KatsutoshiGoto,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)1767 多く報告されている1.3).しかし,それらはIS/OSの有無による定性的な評価のみで,視細胞外節の厚みによる定量的評価の報告は少ない4,5).これまでSD-OCTで視細胞外節の厚みを定量することは,網膜層の自動セグメンテーションや解像度の問題から困難であり,正確にセグメンテーションが可能な解析ソフトを有するhigh-speedultrahigh-resolutionOCT(UHR-OCT)5)や特別な境界セグメンテーションアルゴリズム6)が必要であったが,より高性能なSD-OCTの登場により自動セグメンテーションが可能となってきた.そこで今回筆者らは,自動セグメンテーション可能なSD-OCTを用いて,IS/OSから視細胞外節の代謝に重要である網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)までの厚み(totaloutersegmentandRPE/Bruchmembrane:TotalOS&RPE/BM)5)を定量し,正常眼において検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は研究に対してインフォームド・コンセントを行い同意が得られ,眼科疾患の既往はなく,検眼鏡や眼底写真,光干渉断層計による所見が正常で,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない160例160眼(男性78例,女性82例),矯正視力は1.0以上で中心固視が可能であったものとした.平均年齢は50.2±20.6歳(12.89歳)で,年齢の内訳は10代3例,20代35例,30代18例,40代15例,50代30例,60代28例,70代21例,80代10例であった.平均屈折度数は.1.79D±3.13D(+3.50D..10.25D)で,白内障手術の既往のある症例は除外した.使用器機はSD-OCT(RS-3000R,NIDEK)を用い,スキャンパターンとして6.0mmの黄斑ラインスキャンで測定した.本機の仕様は,解像度7.0μm,53,000A-scan/secondの高速スキャン,highspeedaveragingによる最大50枚加算が可能である.方法はSD-OCTを用いて中心窩を通る水平断面をスキャンし,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)および中心窩下のTotalOS&RPE/BMを測定した.検討項目は屈折度数との相関,年齢との相関および性差である.CRTは内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)からRPE外縁とし,TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁からRPE外縁とした.CRTとTotalOS&RPE/BMのセグメンテーションは,内蔵ソフトの層境界検出アルゴリズムにより自動で行われた(図1).層境界の検出が不正確な場合は再測定を行い,画質を示すsignalstrengthindex(SSI)は7以上の信頼性のある結果を採用した.統計学的検討は,屈折度数や年齢との相関に対してSpearman順位相関係数,男女比に対してMann-WhitneyUtestを用いて危険率5%未満を有意とした.1768あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013図1CRTおよびTotalOS&RPE.BMのセグメンテーション上段:CRTはILM(矢印).RPE外縁(矢頭)とした.下段:TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁(矢印).RPE外縁(矢頭)とした.セグメンテーションは,内蔵ソフトにより自動で行われた.CRT:centralretinalthickness,ILM:internallimitingmembrane,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Bruchmembrane,IS/OS:junctionbetweenphotoreceptorinnerandoutersegment.なお,本研究は川崎医科大学倫理委員会の承認を得て行った.II結果CRTは平均228.7±16.6μm(195.271μm),TotalOS&RPE/BMは平均81.3±4.1μm(70.91μm)であった.屈折度数との相関では,TotalOS&RPE/BMは屈折度数の近視化に伴い減少し,遠視化に伴い増加する正の相関を認めた(r=0.2160,p=0.0061).CRTは屈折度数との相関がなかった(r=.0.0007,p=0.9930)(図2).年齢との相関では,CRTおよびTotalOS&RPE/BMともに相関はなかった(図3).性別による各パラメータでの比較では,男女間で年齢,屈折度数,TotalOS&RPE/BMに有意差はなかったが,CRTでは男性が平均231.1μm,女性が226.3μmと男性が有意に厚かった(p=0.0309)(表1).屈折度数と相関のあったTotalOS&RPE/BMに関して,さらに性別で相関をみたところ,男性では相関はなかったが(r=0.1178,p=0.3074),女性では屈折度数の近視化に伴い厚みが減少し,遠視化に伴い増加する正の相関が認められた(120) (121)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131769(r=0.3023,p=0.0058)(図4).III考按1.CRTおよびTotalOS&RPE.BM今回のSD-OCTによる検討では,CRTはILMからRPE外縁までの厚みを測定し,平均228.7±16.6μmであった.Ootoら7)は,3DOCT-1000を用いて248眼を対象に日本人の正常黄斑部網膜厚を検討し,1mm直径のCRTは221.9±18.8μm(178.3.288.0μm)であったと報告している.今回の結果は,既報と比べても大差なく,異なったSD-OCT間でも数値の比較が可能であり,日本人における正常中心窩網膜厚を定量することができたと考えられた.TotalOS&RPE/BMは,IS/OS内縁からRPE外縁までの厚みを測定し,平均81.0±4.1μm(70.91μm)であった.CRT年齢(歳)160180200220240260280300y=0.0765x+224.84r=0.0864,p=0.2772厚み(μm)102030405060708090TotalOS&RPE/BM60708090100y=-0.0038x+81.47r=-0.0476,p=0.5503年齢(歳)厚み(μm)100102030405060708090図3年齢との相関CRTおよびTotalOS&RPE/BMともに年齢との相関はなかった(r=0.0864,p=0.2772)(r=-0.0476,p=0.5503).CRT:centralretinalthickness,TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み.CRT160180200220240260280300y=-0.0127x+228.66r=-0.0007,p=0.9930屈折度数(D)厚み(μm)-12-10-8-6-4-2024厚み(μm)TotalOS&RPE/BM屈折度数(D)60708090100y=0.3388x+81.888r=0.2160,p=0.0061-12-10-8-6-4-2024図2屈折度数との相関CRTは屈折度数との相関がなかったが(r=-0.0007,p=0.9930),TotalOS&RPE/BMは正の相関を認めた(r=0.2160,p=0.0061).CRT:centralretinalthickness,TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み. 表1性別による検討男性(n=78)女性(n=82)p値年齢(歳)51.1±21.449.2±19.80.5497屈折度数(D).2.08±3.17.1.50±3.070.2455CRT(μm)231.1±15.4226.3±17.30.0309TotalOS&RPE/BM(μm)80.7±3.881.8±4.30.1957CRT:centralretinalthickness.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み.男性女性1001009090y=0.171x+81.096r=0.1178,p=0.3074厚み(μm)y=0.4864x+82.498r=0.3023,p=0.0058厚み(μm)80807070-6012-10-8-6-4-2024-6012-10-8-6-4-2024屈折度数(D)屈折度数(D)図4性別における屈折度数とTotalOS&RPE.BMとの相関男性では相関はなかったが(r=0.1178,p=0.3074),女性では屈折度数と正の相関を認めた(r=0.3023,p=0.0058).TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み.Srinivasanら5)は,UHR-OCTを用いて網膜外層の形態を検討し,TotalOS&RPE/BMは平均72.7±1.8μmであったと報告している.Srinivasanら5)よりも厚い結果となった理由としては,OCTによる解像度やセグメンテーションの精度,人種による違いが影響していると考えられた.2.屈折度数および年齢との相関CRTは屈折度数との相関がなかったが,TotalOS&RPE/BMは屈折度数の近視化に伴い減少し,遠視化に伴い増加した.また,CRTおよびTotalOS&RPE/BMともに年齢による影響はなかった.屈折度数との関連について,timedomainOCTを用いた検討では,CRTは屈折の近視化に伴いfovealminimumは厚くなるとの報告8,9)や屈折度数と相関がなかったとの報告10,11)もあり,一定の見解はなかった.しかし,解像度やセグメンテーションの精度がより高いSD-OCTを用いた本研究では,CRTは屈折度数と相関がなく,他のSD-OCTによる報告7,12)でも同様の結果であった.一方,TotalOS&RPE/BMと屈折度数との関連についての報告はなく,今回の検討によりTotalOS&RPE/BMは屈折度数と相関することが明らかとなった.病理組織学的に強度近視の初期には,RPEが菲薄化することが報告されている13).つまり,TotalOS&RPE/BMではRPEの占める割合が大きいため近視化によるRPEの菲薄化の影響が大きく,一方,CRTではRPEの占める割合が少なくRPEの菲薄化の影響を受けにくいため,屈折度数との相関がなかったと考えられた.年齢との関連については,CRTとの相関はみられず,既報と同様の結果であった7,8,11,12,14).網膜厚減少の約80%は網膜神経線維層の減少によるものとされており15),CRTはほぼ外顆粒層で構成されているため加齢による影響を受けないと考えられる.また,TotalOS&RPE/BMについても,年齢との相関はみられなかった.Srinivasanら5)は,加齢に伴いTotalOS&RPE/BMが減少する負の相関があったと報告しているが,この検討では43例70眼という対象眼の少なさや同一被検者で両眼測定している症例も含まれていることが結果に影響している可能性がある.そのため,より多数例で片眼データのみを用いた本研究は,Srinivasanら5)よりも年齢によるTotalOS&RPE/BMの詳細な変化を捉えており,信頼性も高いと思われる.1770あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(122) 3.性差による検討CRTは男性が女性よりも有意に厚く,性差は平均4.8μmであった.CRTの性差については多数の報告7,8,10,12)があり,本研究も既報と同様の結果であった.Ootoら4)は,外網状層+外顆粒層厚は男性が女性よりも厚いことが,CRTにおける性差の理由かもしれないと報告しているが,性差の原因については今後もさらなる検討が必要と思われる.また,TotalOS&RPE/BMについては性差の報告がなされていない.今回の検討では,TotalOS&RPE/BMの性差は認められなかったが,女性で屈折度数と正の相関があったことは興味深い結果であり,今後さらなる検討を重ねていく予定である.今回筆者らは,SD-OCT(RS-3000R)を用いて日本人の正常眼におけるCRTおよびTotalOS&RPE/BMの定量を行った.CRTは男性が女性よりも厚く,性別が関与しており,TotalOS&RPE/BMは屈折度数の近視化に伴い減少し,加齢による変化はなかった.しかし,本研究では各年齢層の症例数にばらつきがあったため,さらに対象を増やして各年齢において詳細な検討が必要である.今後は視細胞外節病におけるTotalOS&RPE/BMを定量し,臨床的意義や視機能との関連を検討する予定である.文献1)MatsumotoH,SatoT,KishiS:Outernuclearlayerthicknessatthefoveadeterminesvisualoutcomesinresolvedcentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol148:105-110,20092)WakabayashiT,FujiwaraM,SakaguchiHetal:Fovealmicrostructureandvisualacuityinsurgicallyclosedmacularholes:spectral-domainopticalcoherencetomographicanalysis.Ophthalmology117:1815-1824,20103)ShimodaY,SanoM,HashimotoHetal:Restorationofphotoreceptoroutersegmentaftervitrectomyforretinaldetachment.AmJOphthalmol149:284-290,20104)OotoS,HangaiM,TomidokoroAetal:Effectsofage,sex,andaxiallengthonthethree-dimensionalprofileofnormalmacularlayerstructures.InvestOphthalmolVisSci52:8769-8779,20115)SrinivasanVJ,MonsonBK,WojtkowskiMetal:Characterizationofouterretinalmorphologywithhigh-speed,ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:1571-1579,20086)YangQ,ReismanCA,WangZetal:AutomatedlayersegmentationofmacularOCTimagesusingdual-scalegradientinformation.OptExpress18:21293-21307,20107)OotoS,HangaiM,SakamotoAetal:Three-dimensionalprofileofmacularretinalthicknessinnormalJapaneseeyes.InvestOphthalmolVisSci51:465-473,20108)LamDS,LeungKS,MohamedSetal:Regionalvariationsintherelationshipbetweenmacularthicknessmeasurementsandmyopia.InvestOphthalmolVisSci48:376382,20079)髙橋慶子,清水公也,柳田智彦ほか:光干渉断層計による黄斑部網膜厚─屈折,眼軸長の影響─.あたらしい眼科27:270-273,201010)WakitaniY,SasohM,SugimotoMetal:Macularthicknessmeasurementsinhealthysubjectswithdifferentaxiallengthsusingopticalcoherencetomography.Retina23:177-182,200311)金井要,阿部友厚,村山耕一郎ほか:正常眼における黄斑部網膜厚と加齢性変化.日眼会誌106:162-165,200212)SongWK,LeeSC,LeeESetal:Macularthicknessvariationswithsex,age,andaxiallengthinhealthysubjects:aspectraldomain-opticalcoherencetomographystudy.InvestOphthalmolVisSci51:3913-3918,201013)BlachRK,JayB,KolbH:Electricalactivityoftheeyeinhighmyopia.BrJOphthalmol50:629-641,196614)KakinokiM,SawadaO,SawadaTetal:ComparisonofmacularthicknessbetweenCirrusHD-OCTandStratusOCT.OphthalmicSurgLasersImaging40:135-140,200915)AlamoutiB,FunkJ:Retinalthicknessdecreaseswithage:anOCTstudy.BrJOphthalmol87:899-901,2003***(123)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131771

両眼先天性鼻側視神経低形成の2例

2013年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(11):1639.1643,2013c両眼先天性鼻側視神経低形成の2例山下真理子*1湯川英一*1,2西智*1大萩豊*3,4緒方奈保子*1*1奈良県立医科大学眼科学教室*2ゆかわ眼科クリニック*3西の京病院眼科*4おおはぎ眼科クリニックTwoPatientswithCongenitalBilateralNasalOpticNerveHypoplasiaMarikoYamashita1),EiichiYukawa1,2),TomoNishi1),YutakaOhagi3,4)andNahokoOgata1)1)DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,2)YukawaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,NishinokyoHospital,4)OhagiEyeClinic両眼先天性鼻側視神経低形成の2例を経験した.これまでにわが国において松本らが視神経小乳頭の先天性鼻側視神経低形成を報告しているが,今回の症例は2例4眼中3眼で視神経乳頭サイズは正常であり,動的視野検査では両眼とも光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で得られた鼻側網膜神経線維層の菲薄化に一致して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられた.2症例とも数年にわたり視野に変化はなく,OCTが本症の補助診断に有用であった.視神経低形成は元来,視神経線維数が減少しているため,将来緑内障を合併しやすいことも考えられる.わが国では正常眼圧緑内障の有病率が高いことも考え合わせると今後も定期的な観察が必要と思われた.Weencountered2patientswithbilateralnasalopticnervehypoplasia.Matsumotoetal.reportedcongenitalnasalopticnervehypoplasiawithsmallopticdiscinJapan,butdiscsizewasnormalin3ofthe4eyesofourpatients.Moreover,dynamicperimetrydisclosedawedge-shapeddefectofthetemporalvisualfieldtowardtheMariotteblindspot,bilaterally,thatcorrespondedtonasalretinalnervefiberlayerthinningobservedonopticalcoherencetomography(OCT).Thevisualfieldsofthepatientshadnotchangedforseveralyears,andOCTwasusefulintheauxiliarydiagnosisofthisdisease.Sincethenumberofopticnervefibersisoriginallydecreasedinopticnervehypoplasia,thecomplicationofglaucomaislikelytooccurinthefuture.Periodicexaminationmaybenecessaryinthesecases,sincetheprevalenceofnormal-pressureglaucomaishighinJapan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1639.1643,2013〕Keywords:先天性鼻側視神経低形成,楔状耳側視野欠損,乳頭サイズ,網膜神経線維層厚,光干渉断層計.congenitalbilateralnasalopticnervehypoplasia,wedge-shapedtemporalvisualfielddefect,opticdiscsize,retinalnervefiberlayerthickness,opticalcoherencetomography.はじめに視神経低形成は網膜神経節細胞と視神経線維が正常人より減少していることで生じる先天異常であるが1),視神経部分低形成では一般に視力は良好であり,局在的な視野欠損が認められる2,3).そしてこれまでにMariotte盲点に向かう楔状下方視野欠損を示す上方視神経低形成については比較的多くの報告がなされているものの4.7),先天性鼻側視神経低形成についての報告は少ない8.10).今回筆者らは両耳側視野欠損を示し,乳頭サイズが正常な先天性鼻側視神経低形成の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕31歳,女性.主訴:視神経乳頭の精査希望.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:コンタクトレンズ作製時に視神経乳頭の腫れを指摘されたため,精査目的にて平成21年7月に奈良県立医科大学眼科外来を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.5×sph.3.00D),左眼(1.2×sph.2.25D)であり,眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常は認められ〔別刷請求先〕湯川英一:〒635-0825奈良県北葛城郡広陵町安部236-1-1ゆかわ眼科クリニックReprintrequests:EiichiYukawa,M.D.,YukawaEyeClinic,236-1-1Abe,Koryo-cho,Kitakatsuragi-gun,Nara635-0825,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(147)1639 ab右眼左眼右眼左眼c左眼右眼図1症例1a:眼底写真.DM/DD比は右眼2.8,左眼2.8であり,右眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈している.b:光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見.両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められる.c:動的視野結果.両眼ともにMariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損が認められる.なかった.眼底所見では右眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳として測定するDM/DD(distancebetweenthecentersof頭浮腫を呈していた(図1a).視神経乳頭サイズの評価法とthediscandthemacula/discdiameter)比については,右してWakakuraら11)の提唱した乳頭径を横径と縦径の平均眼2.8,左眼2.8であった.光干渉断層計(opticalcoherence1640あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(148) ab右眼左眼右眼左眼c左眼右眼図2症例2a:眼底写真.DM/DD比は右眼3.0,左眼3.4であり,両眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈している.b:光干渉断層計(OCT)所見.両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められる.c:動的視野結果.両眼ともにMariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損が認められる.tomography:OCT)にて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層は両眼ともOCTで得られた網膜神経線維層の菲薄化に一致厚を測定したところ,両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられ化が認められた(図1b).同時期に施行した動的視野検査でた(図1c).頭部磁気共鳴画像(magneticresonanceimag(149)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131641 ing:MRI)では視交叉の低形成や透明中隔欠損は認めなかった.経過:その後,約4年にわたって経過観察しているが,初診時と比較して視野に変化はなく,これらの所見から先天性鼻側視神経低形成と診断した.〔症例2〕52歳,女性.主訴:眼圧の精査希望.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:検診にて眼圧が高いことを指摘され,精査目的にて平成20年1月に西の京病院眼科外来を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2×sph.5.00D(cyl.1.00DAx180°)左眼(1.2×sph.5.75D(cyl.1.00DAx10°)であり圧は右眼20mmHg,左眼21mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常は認められなかった.眼底所見では両眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈していた(図2a).DM/DD比は右眼3.0,左眼3.4であった.OCTにて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を測定したところ,両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められた(図2b).同時期に施行した動的視野検査では両眼ともOCTで得られた網膜神経線維層の菲薄化に一致して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられた(図2c).頭部MRIでは視交叉の低形成や透明中隔欠損は認めなかった.経過:その後,5年にわたって経過観察しているが,初診,眼(,)時と比較して視野に変化はなく,これらの所見から先天性鼻側視神経低形成と診断した.II考按視神経低形成は先天的に網膜神経節細胞と視神経線維が減少しており1),小乳頭と高度な視機能障害を示す先天異常とされ,小児の視力障害となる原因疾患の一つではあるが,なかには視力が良好で視野が局在的に欠損する視神経部分低形成が存在する.視力が良好な先天性視神経乳頭鼻側低形成についてはBuchananら8)が耳側視野欠損を示す先天性視神経乳頭低形成として報告し,さらに松本ら9)は視神経乳頭サイズが小さな3症例を報告している.今回,筆者らが示した症例は,Wakakuraらが提唱するDM/DD比をみると3.2以上を小乳頭,2.2以下を巨大乳頭としており,2例4眼中3眼で視神経乳頭サイズは正常であった.そして高木ら12)は視神経低形成と乳頭低形成は異なる疾患単位であることを強調している.すなわち前者は視神経軸索が生来欠落し,その部位が視野検査にて視野欠損として検出される一方で,後者は検眼鏡的に小乳頭など視神経乳頭の形成不全として観察される.そのため両者は合併することも単独で生じることもあると述べている.今回筆者らが提示した2例でも乳頭サイズが正常であった3眼中2眼で軽度ではあるが鼻側に偽乳頭浮腫がみられた.このことはたとえ乳頭サイズが正常であったと1642あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013しても網膜神経節細胞や視神経線維の先天的な形成異常が生じている結果であるとも考えられる.今回の2例はともに両耳側視野欠損が認められた.鑑別診断として視交叉付近の病変が考えられたが,動的視野検査からはMariotte盲点に向かう視野欠損であり,OCTで得られた鼻側網膜神経線維層の菲薄化所見が補助診断に有用であった.また橋本ら13)は両耳側視野欠損を示し,頭部MRIにて著明に菲薄化した視交叉と透明中隔欠損がみられたseptoopticdysplasiaを先天性視交叉低形成として報告しているが,筆者らの症例ではともにそれらの所見は認めなかった.ただし症例1では左後頭葉白質に頭部MRIにて高信号領域を認めており,神経内科にて膠原病,代謝性疾患,ミトコンドリア関連疾患などが疑われ,精査されるも現在のところ明らかな異常は認めず,経過観察中である.視神経部分低形成の一つである上方視神経低形成についてはわが国では正常眼圧緑内障の有病率が高いことから,緑内障検診の普及とともにその鑑別が重要となっている.さらに視神経低形成は元来,視神経線維数が減少しているため,将来緑内障を合併しやすいことも考えられる14).またOhguroら10)は鼻側視神経低形成症例,緑内障を伴った鼻側視神経低形成症例,および耳側視野欠損を示す緑内障症例を詳細に検討した結果,鼻側視神経低形成症例では緑内障合併の有無にかかわらず,12眼中11眼で小乳頭が認められた一方で,耳側視野欠損を示す緑内障症例では3眼すべてで乳頭サイズは正常であったことを報告している.このことを考えると,耳側視野欠損を示す症例に対しては乳頭サイズが鼻側視神経低形成なのかあるいは緑内障であるのかを判断する一つの指標となりうるのかもしれない.そして今回の症例1では緑内障性乳頭陥凹は認められないものの,両眼とも乳頭サイズは正常であることから,さらなる長期経過により耳側視野欠損が進行する可能性も否定できない.さらに症例2において初診時眼圧はGoldmann圧平眼圧計にて右眼20mmHg,左眼21mmHgであり,その後は両眼とも17mmHgから22mmHgにて推移している.現在のところ先天性鼻側視神経低形成に高眼圧症が合併しているということになるが,両症例とも今後も定期的に動的視野検査とHumphrey視野検査を組み合わせて測定することで緑内障の発症につき十分に注意を払っていく必要があると思われた.文献1)WhineryR,BlodiF:Hypoplasiaoftheopticnerve:Aclinicalandhistopathologicalcorrelation.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol67:733-738,19632)GardnerHB,IrvineA:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuity.ArchOphthalmol88:255-258,19723)BjorkA,LaurellC,LaurellU:Bilateralopticnervehypoplasiawithnormalvisualacuity.AmJOphthalmol86:(150) 524-529,19784)PurvinVA:Superiorsegmentalopticnervehypoplasia.JNeuro-Ophthalmol22:116-117,20025)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomographyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol86:910-914,20026)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiawithfoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20047)小澤摩記,平野晋司,藤津揚一朗ほか:上方視神経低形成の5例.あたらしい眼科24:115-120,20078)BuchananTAS,HoytWF:Temporalvisualfielddefectsassociatedwithnasalhypoplasiaoftheopticdisc.BrJOphthalmol65:636-640,19819)松本奈緒美,橋本雅人,今野伸介ほか:先天性視神経乳頭鼻側低形成の3例.あたらしい眼科22:1009-1012,200510)OhguroH,OhguroI,TsurutaMetal:Clinicaldistinctionbetweennasalopticdischypoplasia(NOH)andglaucomawithNOH-liketemporalvisualfielddefects.ClinOphthalmol4:547-555,201011)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia.Thedisc-maculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).ActaOphthalmolScand65:612-617,198712)高木峰夫,阿部春樹:視神経部分低形成の概念.神眼24:379-388,200713)橋本雅人,鈴木康夫,大塚賢二:先天性視交叉低形成の1例.あたらしい眼科19:249-251,200514)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神眼24:426-432,2007***(151)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131643

光線力学的療法を施行したラニビズマブ反応不良ポリープ状脈絡膜血管症7例

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):276.281,2013c光線力学的療法を施行したラニビズマブ反応不良ポリープ状脈絡膜血管症7例井尻茂之杉山和久金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)PhotodynamicTherapyforPolypoidalChoroidalVasculopathyRefractorytoRanibizumabShigeyukiIjiriandKazuhisaSugiyamaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)に反応不良であったポリープ状脈絡膜血管症(PCV)7例に対し光線力学的療法(PDT)を施行したので治療経過を報告する.対象および方法:対象は,IVR単独治療を施行するも光干渉断層計(OCT)上反応不良にてPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例7眼である.6例は,導入期の連続3回投与後もOCTにて滲出性変化が悪化または残存したためIVR反応不良と判断した.1例は,維持期に再発した滲出性変化が計3回の投与後も残存したためIVR反応不良と判断した.7例ともポリープ状病巣は残存し,初回IVR時から視力またはOCT所見が経時的に悪化したためPDTを施行した.PDT後の平均観察期間は11.0±2.0カ月であった.PDT前後の視力,OCT所見,蛍光眼底造影所見,再治療,合併症について検討した.結果:7例中6例は,ポリープ状病巣が閉塞しPDT後6カ月までに滲出性変化の消失または改善を認めた.6例中3例は滲出性変化が再発し,3例中2例は残存異常血管網からの漏出に対しIVR単独で再治療を行い,2例とも1カ月後に滲出性変化は消失した.もう1例は,中心窩外に再発したポリープ状病巣に対し光凝固を施行し,光凝固3カ月後で滲出性変化は消失した.7例中1例は,ポリープ状病巣が閉塞せず滲出性変化も悪化した.再治療としてIVR併用PDTを施行したが,ポリープ状病巣および滲出性変化は残存した.本症例のみ,視力はPDT後3カ月までに悪化したが,最終的には全症例が維持または改善した.合併症については,1例のみPDT後に1乳頭径未満の出血性網膜色素上皮.離を生じたが,出血は自然吸収され最終観察時まで再治療なく視力を維持できた.結論:解剖学的にIVRに反応不良なPCVに対するPDTは有効であった.Purpose:Toreport7casesofpolypoidalchoroidalvasculopathy(PCV)thatunderwentphotodynamictherapy(PDT)becausetheywererefractorytointravitrealranibizumab(IVR)monotherapy.SubjectsandMethods:Weinvestigated7casesofPCVthatunderwentPDTbecausetheywererefractorytoIVRmonotherapy.Exudativechangesasevaluatedbyopticalcoherencetomography(OCT)increasedorremainedunchangedinallcases,despite3consecutivemonthlyIVRinjections.Themeanfollow-upperiod(±standarddeviation)afterPDTwas11.0±2.0months.Patientdataretrievedincludedbest-correctedvisualacuity(BCVA),OCTfindings,fluoresceinangiographicfindings,indocyaninegreenangiographic(IA)findings,re-treatmentsandcomplications.Results:IAperformedat3-monthintervalsafterPDTrevealeddisappearedpolypoidallesionsin6of7cases.ExudativechangesasevaluatedbyOCTdisappearedorresolvedby6monthsafterPDTinthese6cases,butrecurredin3ofthe6.In2ofthose3,recurringexudationswerethecauseofresidualbranchingvascularnetworkvessels.These2caseswerere-treatedwithIVR;theexudativechangeshadcompletelydisappearedat1monthafterre-treatment.Theothercasewasre-treatedwithphotocoagulation(PC)forrecurrentextrafovealpolypoidallesions;theexudativechangeresolvedby3monthsafterPC.Inoneofthe7cases,polypoidallesiononIAdidnotdisappearandexudativechangeonOCTgraduallyincreasedafterPDT.Thiscasewasre-treatedwithPDTcombinedwithIVR.Thepolypoidallesiondidnotdisappearafterre-treatment,andexudativechangeremained.BCVAdeterioratedat3monthsafterPDTin1casewithoutthepolypoidallesiondisappearing,butimprovedorwasmaintainedatfinalvisitsinall7cases.Hemorrhagicretinalpigmentepithelialdetachmentsmallerthan1discdiameter〔別刷請求先〕井尻茂之:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)Reprintrequests:ShigeyukiIjiri,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa-shi920-8641,JAPAN276276276あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(142)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY wasseenat1monthafterPDTin1case.Thehemorrhagedisappearednaturally,andvisualacuitywasmaintainedatfinalvisitwithoutre-treatment.Conclusion:PDTwaseffectiveforcasesofPCVthathadpooranatomicresponsetoIVRmonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):276.281,2013〕Keywords:光線力学的療法,ラニビズマブ,ポリープ状脈絡膜血管症,滲出型加齢黄斑変性,光干渉断層計.photodynamictherapy,ranibizumab,polypoidalchoroidalvasculopathy,exudativeage-relatedmaculardegeneration,opticalcoherencetomography.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体であるラニビズマブ(ルセンティスR,ノバルティスファーマ)硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)は,2009年に臨床使用が開始され,現在AMD治療の主要な治療法として確立されている.国内外の臨床試験では,平均視力は投与開始後から急速に改善し,1カ月毎連続3回の導入期終了までにプラトーに達するという良好な結果である1.3).しかしながら,AMDに対するIVR単独治療には,約3割で解剖学的反応不良例が存在することが報告されており4,5),抗VEGF単独治療に抵抗性を示すAMDにはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)や網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)主体のoccult脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)例が多いことが報告されている6.8).実際の臨床でも導入期の投与に解剖学的に反応しない症例や,導入期の投与には反応したものの維持期での追加投与に反応が不良になってくる症例を経験し,近年,このようなIVR単独治療に抵抗性を示すAMD症例への対応が問題となってきている.IVR以外のAMDに対する治療としては,ベルテポルフィン(ビスダインR,ノバルティスファーマ)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)があり,2004年にわが国で臨床使用が可能となっている.PDTは,IVR治療と比較し視力に関してはその長期成績は劣るものの1),解剖学的所見の改善や視力維持効果が多数報告されており,特にPCVで有効とされている9.12).近年,抗VEGF抗体の硝子体内注射単独治療に抵抗性を示すAMDに対するPDTの有効性が報告されている7).今回,筆者らはIVR単独治療を行うも光干渉断層計(OCT)にて解剖学的に改善が得られないためPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例の経過を報告する.I対象および方法対象は,2009年3月から2011年3月の間に,金沢大学附属病院眼科で初回治療としてIVR単独治療を施行するもOCT上反応不良にてPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例7眼である.PDT後の平均観察期間は11.0±2.0カ月であった.PCVの診断は,日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会による診断基準の確実例を満たすものとした13).症例2を除く6例は,ラニビズマブ0.5mg/0.05mlを導入期として1カ月毎連続3回投与したにもかかわらず,OCTにて網膜下液(subretinalfluid:SRF)または漿液性PEDが悪化または残存したためIVR反応不良と判断した.症例2は,導入期の連続3回投与にてSRFは消失したが,維持期に再発したSRFが計3回の投与でも消失しなかったためIVR反応不良と判断した.7例ともインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)でIVR開始前に認めたポリープ状病巣はPDT前に増減なく残存し,初回IVR時から視力またはOCT所見が経時的に悪化したためPDTを施行した.各症例の治療前の背景を表1に示す.PDTは,標準の条件で施行した(ベルテポルフィンを体表面積当たり6mg/m2で10分かけて点滴静注,エネルギー50J/cm2,波長689nm,照射時間83秒).最大病変直径はIAで決定し,照射径は,病変最大直径に1mm(周囲に500μm)の縁取りをつけたものとした.全症例,PDT前とPDT後1カ月毎に小数視力(3mまたは5mで測定)とOCT(トプコン社製,3DOCT-1000MARKII)を測定し,PDT前とPDT後3カ月以降にフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)およびIA(ハイデルベルグ社製,ハイデルベルグスペクトラリスHRA+OCTで撮影)を施行した.再治療は,初回PDT後3カ月以降にOCTにて滲出性変化の残存または悪化を認めた場合に施行した.再治療は,中心窩下にポリープ状病巣を認める場合にはPDTを施行し,中心窩外にポリープ状病巣を認める場合は網膜光凝固を施行した.ポリープ状病巣を認めず異常血管網のみから漏出している場合は,IVRを施行した.検討項目は,①視力およびOCT所見(PDT前,PDT1カ月後,3カ月後,6カ月後,最終観察時),②ポリープ状病巣閉塞の有無(PDT前とPDT3カ月以降に施行したIAを比較し評価),③再治療について,④合併症について,である.(143)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013277 表1各症例のPDT前背景IVR前IVR前IVR最終IVR.PDT前PDT前PDT前のPDT前PDT前ポリPDT照射症例年齢(歳)・性BCVACFT(μm)回数PDT期間(月)BCVACFT(μm)OCT所見FA分類ープ状病巣径(μm)166・男性1.02403170.5295SRF,sPEDOccultsub4,800283・男性0.327862.50.5224SRFOccultsub6,000362・女性0.619336.00.8193sPEDOccultextra4,000466・男性0.823933.00.3557SRF,sPEDOccultsub,extra3,850573・男性0.635833.80.15422SRF,sPEDOccultsub4,200680・男性0.730632.30.7424SRFOccultsub,extra5,500767・女性0.817034.10.5147SRFOccultsub2,700PDT:photodynamictherapy,IVR:intravitrealranibizumab,BCVA(小数視力):bestcorrectedvisualacuity,CFT:centralfovealthickness,OCT:opticalcoherencetomography,SRF:subretinalfluid,sPED:serousretinalpigmentepithelialdetachment,FA:fluoresceinangiography,Occult:occultwithnoclassic,sub:subfovea,extra:extrafovea.表2各症例のPDT後の経過症例PDT前1MBCVA3M6M最終PDT前CFT(μm)1M3M6M最終ポリープ状病巣再治療合併症観察期間(月)10.50.60.30.50.7295*352*355*221*238*残存IVR併用PDTなし820.50.50.50.60.6224*175*153137132閉塞なしhPED1030.80.80.81.01.0193126107104135閉塞なしなし1240.30.30.30.70.6557*305*238215*241*再発光凝固なし1150.150.70.90.91.0422*173*188*151152閉塞IVR1回なし1360.70.80.90.90.7424*165*196166160閉塞IVR1回なし1370.50.60.70.90.9147*139150176156閉塞なしなし13PDT:photodynamictherapy,IVR:intravitrealranibizumab,BCVA(小数視力):bestcorrectedvisualacuity,CFT:centralfovealthickness,hPED:hemorrhagicretinalpigmentepithelialdetachment.*:光干渉断層計にてsubretinalfluidを認めるもの.II結果各症例のPDT後の経過を表2に示す.7例中6例(症例2,3,4,5,6,7)は,IAでポリープ状病巣が閉塞した.ポリープ状病巣が閉塞した6例のうち,PDT前にSRFのみを認めた3例(症例2,6,7)はPDT後3カ月までにSRFが消失した.PDT前に漿液性PEDのみを認めた症例3はPDT後1カ月で漿液性PEDは消失した.PDT前にSRFと漿液性PEDの両者を認めた2例のうち,症例5はPDT後1カ月までに漿液性PEDが,PDT後2カ月までにSRDが消失した.もう1例の症例4は,PDT後2カ月で一旦SRFは消失したが,PDT後6カ月でSRFが再発し,漿液性PEDは残存した.本症例は,IAでPDT前に認めた中心窩下のポリープ状病巣は閉塞していたが,中心窩外(異常血管網の末端)にポリープ状病巣が再発していた.再発したポリープ状病巣に対し光凝固を施行したところ3カ月後までにSRFは消失した.再治療については,症例5がPDT後3カ月で,症例6がPDT後11カ月でSRFが再発したが,IAではポリープ状病巣の再発は認めず異常血管網のみであった.2例ともIVRで再治療を行い,IVR1カ月後にSRFは消失した.症例1278あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013は,PDT後もSRFおよび漿液性PEDは悪化し,IAでもポリープ状病巣が残存した.再治療として初回PDTから4カ月後にIVR併用PDTを施行した(PDT7日前にIVR1回,PDT後2カ月後にIVRを2回連続施行).再治療後,SRFは減少し漿液性PEDは縮小したがいずれも残存し,ポリープ状病巣も閉塞しなかった.症例2,3,7は,初回PDT後SRFの再発は認めず,再治療は施行しなかった.視力については,ポリープ状病巣が残存しOCT所見が悪化した症例1のみPDT後3カ月までに悪化したが,最終的には全症例が維持または改善した.小数視力をlogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)値に換算し,logMAR値0.3以上の変化を改善または悪化とすると,7眼中2眼(28.6%)が改善,7眼中5眼(71.4%)が不変であった.合併症については,症例2がPDT後1カ月時に中心窩下に1乳頭径未満の出血性PEDを認めた.PDT後6カ月までに出血は吸収され,ポリープ状病巣は閉塞し,最終観察時まで再治療なく視力を維持できた.全身的合併症は1例も認めなかった.代表例(症例7)を図1に示す.67歳女性で,中心窩下に橙赤色隆起性病巣を認め,IAで異常血管網とポリープ状病(144) BCDABCDA図1症例7(67歳,女性)A:PDT前のFA・IA同時撮影像(後期像).IAで中心窩下に異常血管網とポリープ状病巣を認めた.点線丸で病変最大長径を,実線丸で照射径(2,700μm)を示した.FAでは点状の漏出点を2カ所認めた.B:PDT前のOCT所見.中心窩下にノッチサインを伴う網膜色素上皮の隆起とSRFを認めた.C:PDT3カ月後のFA・IA同時撮影像(後期像).IAで異常血管網の縮小とポリープ状病巣の閉塞を認め,照射野に一致して低蛍光領域を認めた.FAでは蛍光漏出点は消失していた.D:PDT3カ月後のOCT所見.網膜色素上皮の隆起とSRFの消失を認めた.(145)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013279 巣を認めた.導入期に連続3回のIVRを施行したがSRFは残存し,視力が徐々に低下するため最終IVRから4カ月後にPDTを施行した.PDT1カ月後の時点でSRFは完全に消失し,PDT3カ月後のIAで異常血管網の縮小とポリープ状病巣の閉塞を認めた.PDT後観察期間13カ月でOCT上滲出性変化の再発は認めず,視力は0.5から0.9に改善した.III考按AMDに対するIVR反応不良の治療前因子として,正らは61眼のAMD例を対象に検討を行い,年齢,男女比,治療歴,視力,病変最大直径,病型,FAによる病変タイプのすべての項目について滲出消失群(69%)と残存群(31%)に有意差を認めなかったと報告している5).一方,抗VEGF単独治療に抵抗性を示すAMDにはPCV例やPED主体のoccultCNV例が多いことが報告されている6.8).また,Koizumiらは,PCVに対するIVR反応不良の治療前因子として大きなポリープ状病巣とPEDの存在を報告している4).本報告におけるIVR反応不良PCV7例も,全例がFAでocculttypeのCNVであり,7例中4例で漿液性PEDを認めた.PCVでは抗VEGF単独治療よりも,PDTを併用したほうがポリープ状病巣の閉塞が得られやすいことが報告されている.Choらは,抗VEGF単独治療が無効のPCV9例に抗VEGF療法併用PDTを行い,8例(89%)がIAとOCTで完全寛解が得られたと報告している7).また,EVERESTstudyによると,PCVにおけるポリープ状病巣の完全閉塞率はIVR単独では28.6%,PDTを併用すれば77.8%,PDT単独でも71.4%である14).本報告でもPDTを施行することで,IVR単独では閉塞が得られなかったポリープ状病巣が7例中6例(85.7%)で閉塞した.AMDに対するPDTは長期的には再発が多いことが報告されている11,12,15).本報告でも7例中3例が再発し,再治療を必要としなかったのは2例のみであった.また,症例1は初回PDTが無効のため再治療としてIVR併用PDTを施行したが,ポリープ状病巣は閉塞せず滲出性変化が残存した.症例1は,PDT前の中心窩網膜厚や病変面積が他症例と比較し著しく大きくはなかったが,最終IVRからPDTまでの期間が顕著に長かった(症例1は17カ月,他症例は6カ月以内).今後は,長期的な再発を減らせるような治療法や,症例1のようなIVR単独にもPDT単独にもIVR併用PDTにも抵抗性を有するAMD例の治療法が課題である.PCVに対するPDT後の残存異常血管網からの漏出に対しては抗VEGF薬単独治療が有効との報告がある16,17).Saitoらは,残存異常血管網からの漏出に対する治療でIVR単独治療を施行した群はPDT単独を施行した群よりも視力予後が良好であったと報告している17).本報告でも,症例5と症280あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013例6はポリープ状病巣が閉塞したが,PDT後3カ月以降に異常血管網からの漏出によるSRFの再発を認め,IVRを施行した.2例ともIVR後1カ月でSRFは完全に消失し,良好な視力を維持できた.PDT後に約4.5%の割合で重篤な視力低下をきたすという報告9)や,PDT後にVEGF産生が亢進するとの報告があること18)から,ポリープ状病巣が閉塞したあとの残存異常血管網からの漏出に対する再治療は,PDTではなく抗VEGF単独治療を行うべきと考えられる.AMDに対するPDTの国内臨床試験の結果に基づいて作成された日本版PDTガイドラインでは,治療前視力が0.5よりも良好な患者は12カ月後の視力が有意に低下していたという結果から,視力が0.5よりも良好な症例には「推奨」または「モニタリング」とされている19).本報告では,PDT前視力が0.5よりも良好な症例は2症例存在した(症例3が0.8,症例6が0.7).症例3は,中心窩下の漿液性PEDにより強い歪視の訴えがあったためPDTを施行した.症例6は,導入期中も最終IVR後も比較的急速にSRFが増加したため速やかにPDTを施行した.本報告のまとめとして,IVR反応不良PCV例にPDTを施行した.その結果,7例中6例はポリープ状病巣が閉塞し,OCT上滲出性変化の消失と視力の改善を認めた.解剖学的にIVRに反応不良なPCVに対するPDTは有効であった.文献1)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal;ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65,20092)RosenfeltPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)TanoY,OhjiM;EXTEND-IStudyGroup:EXTENDI:safetyandefficacyofranibizumabinJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol88:309-316,20104)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Predictivefactorsofresolvedretinalfluidafterintravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol95:1555-1559,20115)正健一郎,尾辻剛,津村晶子ほか:ラニビズマブ硝子体注射における反応不良例の検討.眼臨紀4:782-784,20116)ArosaS,MckibbinM:One-yearoutcomeafterintravitrealranibizumabforlarge,serouspigmentepithelialdetachmentsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Eye25:1034-1038,20117)ChoM,BarbazettoIA,FreundKB:Refractoryneovascularage-relatedmaculardegenerationsecondarytopoly(146) poidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol148:70-78,20098)StangosAN,GandhiJS,Nair-SahniJ:Polypoidalchoroidalvasculopathymasqueradingasneovascularage-relatedmaculardegenerationrefractorytoranibizumab.AmJOphthalmol150:666-673,20109)BresslerNM;TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photodynamictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithverteporfin:two-yearresultsof2randomizedclinicaltrials-tapreport2.ArchOphthalmol119:198-207,200110)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:PhotodynamictherapywithverteporfininJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration(AMD):resultsoftheJapaneseAMDTrial(JAT)extension.JpnJOphthalmol52:99-107,200811)TsuchiyaD,YamamotoT,KawasakiRetal:Two-yearvisualoutcomesafterphotodynamicinage-relatedmaculardegenerationpatientswithorwithoutpolypoidalchoroidalvasculopathylesions.Retina29:960-965,200912)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamictherapyinage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.Ophthalmology115:141-146,200813)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:日本ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-427,200514)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:14531464,201215)AkazaE,YuzawaM,MoriR:Three-yearfollow-upresultsofphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.JpnJOphthalmol55:39-44,201116)WakabayashiT,GomiF,SawaMetal:Intravitrealbevacizumabforexudativebranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol96:394-399,201217)SaitoM,IidaT,KanoM:Intravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathywithrecurrentorresidualexudation.Retina31:1589-1597,201118)TatarO,AdamA,ShinodaKetal:ExpressionofVEGFandPEDFinchoroidalneovascularmembranesfollowingverteporfinphotodynamictherapy.AmJOphthalmol142:95-104,200619)TanoY;OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,2008***(147)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013281

術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績

2013年1月31日 木曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(1):89.92,2013c術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績水流宏文中村裕介大矢佳美安藤伸朗済生会新潟第二病院眼科AssociationbetweenPreoperativeFovealPhotoreceptorLayerandOperationOutcomesinDiabeticMaculopathyHirofumiTsuru,YusukeNakamura,YoshimiOyaandNoburoAndoDepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital目的:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術において,術前の網膜外層構造と術後成績との関連を検討する.方法:済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に対し硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月)について術前,術後1年または最終観察時に,視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.また,術前に外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)をOCTで観察し,水平断画像で中心窩を中心とした1,000μm内にELM,IS/OSの連続性が50%以上あるものをELM,IS/OS陽性とした.A群:ELM・IS/OSともに陽性,B群:ELM陽性かつIS/OS陰性,C群:ELM・IS/OSともに陰性の3群に分類(A群8眼,B群9眼,C群19眼)し,各群の視力,CRTの術後変化を検討した.結果:術後logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA,B,C群いずれも有意に改善.CRTはB,C群で有意に減少.小数視力0.7以上を視力良好,0.7未満を不良とすると術後良好眼はA群8眼中5眼,B群9眼中4眼,C群19眼中1眼でC群に比べA,B群では有意に術後視力良好眼が多かった.結論:術前網膜外層構造が保たれている例では,術後視力成績が良好であった.Purpose:Toassesstherelationbetweenpreoperativephotoreceptorlayerandpostoperativeresultsindiabeticretinopathytreatedwithparsplanavitrectomy.Methods:Weretrospectivelystudied36eyesof32patientswithdiabeticmaculopathyonwhomwehadperformedparsplanavitrectomy(PPV).Weassessedvisualacuity(VA)andcentralretinalthickness(CRT),usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),beforeandafterPPV.Wemeasuredthepreoperativeintegrityphotoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS)andexternallimitingmembrane(ELM)within1,000μmatthecenterofthefovea.Morethan50%existenceof1,000μmwasdefinedas“positive”;lesswasdefinedas“negative.”Wecategorizedthe36eyesinto3groupsaccordingtointegrityofELMandIS/OS:(1)theAgroup,withELMandIS/OSpositive,(2)theBgroup,withELMpositiveandIS/OSnegative,and(3)theCgroup,withELMandIS/OSnegative.Weestimatedthecorrelationbetweenthegroupsandthesurgicalresults.Results:GroupsA,BandCcomprised8,9and19eyes,respectively.AfterPPV,theVAofall3groupswassignificantlyimprovedandtheCRTofgroupsBandCwassignificantlyreduced(B:p<0.05,C:p<0.01).Theproportionofeyeswithdecimalvisualacuityequaltoorgreaterthan0.7wassignificantlyhighingroupswithpreservedphotoreceptorlayer(AandBgroups),comparedwithCgroup(Agroup:p<0.01,Bgroup:p<0.05).Conclusion:EyeswithpreoperativelypreservedphotoreceptorlayerachievebetterVApostoperativelythandoeyeswithoutpreservedphotoreceptorlayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):89.92,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,光干渉断層計,外境界膜,視細胞内節外節接合部,網膜外層構造,経毛様体扁平部硝子体切除術.diabeticmaculopathy,opticalcoherencetomography(OCT),externallimitingmembrane(ELM),photoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS),photoreceptorlayer,parsplanavitrectomy.〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒950-1104新潟市西区寺地280-7済生会新潟第二病院眼科Reprintrequests:NoburoAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital,280-7Terachi,Nishi-ku,NiigataCity950-1104,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(89)89 はじめに1990年代,Lewisら1)やTachiら2)により糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が有効であることが報告されて以来,硝子体手術は糖尿病黄斑症の治療法の一つとして,わが国では多数施行されている.その後,opticalcoherencetomography(OCT)の登場により形態的な評価が可能となり,大谷ら3)は糖尿病黄斑浮腫を基本型に分類した.糖尿病黄斑浮腫の形態と硝子体手術後の視力との関連性が検討されてきたが,浮腫形態に基づく硝子体手術の効果予測には限界があり,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)が登場し,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)や視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)などの網膜外層構造の詳細な評価が可能となり,各種疾患で網膜外層構造と視力との有意な相関が報告されるようになった4,5).糖尿病黄斑浮腫においても,Maheshwaryら6),Murakamiら7),Yanyaliら8)が中心窩のIS/OSやELMの連続性と視力とが相関すると報告している.今回,筆者らは新たな試みとして,糖尿病黄斑症の術前の網膜外層構造が硝子体手術後の成績を反映する指標となりうるのではないかと考え,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討した.I対象および方法対象は2008年1月から2011年3月の間に,済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月).症例の1,000μmABLogMAR視力図1OCTにおけるELM・IS/OS評価トプコン社3DOCT-1000MARKIIの白黒表示を用いて,中心窩を中心とした1,000μm内のELM・IS/OSを計測した.A:IS/OS742μmで50%以上の連続性を認める.B:ELM1,000μmで50%以上の連続性を認める.内訳は男性18例21眼,女性14例15眼,Davis分類では増殖前網膜症17眼,増殖網膜症19眼であった.36眼中22眼に白内障手術を施行し,11眼に内境界膜.離を併用した.血管新生緑内障を合併していた4眼および術後網膜.離で追加手術を要した2眼は本検討から除外した.OCTの解析にはトプコン社3DOCT-1000MARKIIを用い,白黒表示にて術前網膜外層を評価し,色素上皮の高反射ラインの直上のラインをIS/OS,その直上のラインをELMと定義した.中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した(図1).ELM,IS/OSの連続性から,ELM・IS/OSともに陽性のA群,ELM陽性・IS/OS陰性のB群,ELM・IS/OSともに陰性のC群に分類した.A,B,Cの3群において術前および術後1年(または最終観察時)に視力と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定し,その結果を各群で比較検討を行った.II結果OCT所見からA群8眼,B群9眼,C群19眼に分類された.なお,ELM陰性・IS/OS陽性の例は認めなかった.術前logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA群0.36,B群0.60,C群0.83で,A群とC群間で有意差を認めた(p<0.01,Mann-Whitney検定).術後logMAR視力はA群0.14,B群0.40,C群0.70であり,いずれの群も術前に比べて有意に改善を認めた(それぞれp<0.05,対応のあるt検定).A群とC群間では術前後のいずれにおいても有意差を認めた(p<0.01,術前はMannWhitney検定,術後はWelchのt検定)(図2).視力評価はlogMAR視力で術前後0.2以上の変化を視力0術前術後*0.1:A群0.20.36A群0.14ELM(+)IS/OS(+)0.3:B群0.40.60B群*0.40**ELM(+)IS/OS(-)0.5:C群0.6**0.70ELM(-)IS/OS(-)0.70.83C群*p<0.050.8**p<0.010.9*図2術前後のlogMAR視力術前logMAR視力A群:0.36,B群:0.60,C群:0.83.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Mann-Whitney検定).術後logMAR視力A群:0.14,B群:0.40,C群:0.70.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Welchのt検定).術後視力はA,B,C群いずれも有意に改善した(p<0.05対応のあるt検定).90あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(90) 20600550ELM(+)IS/OS(+)15500ELM(+)IS/OS(-)4眼5眼7眼4眼4眼9眼0眼0眼3眼A群B群C群:改善■:不変■:悪化:A群:B群:C群*p<0.05**p<0.01349.5332.3495.4353.8529.6401.3術前術後*******A群B群C群CRT(μm)450400350300250視力改善度10ELM(-)IS/OS(-)50図4術前後のCRT図3術後視力改善度LogMAR視力0.2以上の変化を改善,悪化とした.A群:改善4眼,不変4眼.B群:改善5眼,悪化4眼,C群:改善7眼,不変9眼,悪化3眼.A,B,C群いずれの群においても改善眼を得た.ELM陽性であるA,B群では,ELM陰性のC群に比べて改善眼の割合が高かった.悪化眼はELM陰性のC群のみで認められ,ELM陽性のA,B群では認めなかった.改善・悪化として検討し,全体では改善16眼,不変17眼,悪化3眼であった.各群での検討では,A,B群において改善眼の占める割合がC群より高く,悪化眼はみられなかった.C群では改善眼が19眼中7眼のみであり,3眼の悪化を認めた(図3).術後小数視力0.7以上を良好眼,0.7未満を不良眼に分類して比較したところ,A群では8眼中5眼が良好眼,B群では9眼中4眼が良好眼であるのに対し,C群では19眼中1眼のみが良好眼であり,C群に比べA,B群で有意に視力良好眼が多かった(A群C群間p<0.01,B群C群間p<0.05,Fisherの直接確率計算法).術前CRTはA群349.5μm,B群495.4μm,C群529.6μmで,A群とB群間およびA群とC群間で有意差を認めた(それぞれp<0.01,Studentのt検定).術後CRTはA群332.3μm,B群353.8μm,C群401.3μmであり,B群とC群において術後有意に減少した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった(図4).術後の網膜外層構造の変化では,A群は全例でELM,IS/OSともに保たれており,B群ではIS/OS回復例が2眼,不変例が3眼,ELM消失例が4眼であり,C群ではELM回復例が2眼,不変例が17眼でありIS/OS回復眼は得られなかった.III考按Diabeticmacularedema(DME)に対して.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離などの浮腫形態に基づいて硝子体手術成績が検討されてきたが,硝子体手術効果の予測には限界があ(91)術前A群:349.5μm,術前B群:495.4μm,術前C群:529.6μm.A・C群間,A・B群間で有意差を認めた(A・C群間,A・B群間p<0.05Studentのt検定).術後A群:332.3μm,術後B群:353.8μm,術後C群:401.3μm.B群,C群において術後有意にCRTが低下した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった.り,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,SD-OCTの登場で網膜外層構造の評価が可能となり,各種疾患において網膜外層構造と視力との相関が強いとの報告が多数出てきており,DMEにおいても同様の関連性が報告されている6.8).筆者らは黄斑円孔の硝子体手術後の視力を検討し,ELM,IS/OSとの関連性が強いという知見を得た9).今回,DMEにおける硝子体手術後の視力予測因子として網膜外層構造に注目し,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討を行った.Oishiら5)は加齢黄斑変性症において,疾患重症度とELM,IS/OSの関係を検討し,まずIS/OSが消失し,さらに重症化するとELMも消失すると述べている.今回のDMEに関する検討でも加齢黄斑変性症と同様の結果を得た.硝子体手術後の視力はいずれの群でも有意に改善を認めたが,術前に網膜外層破綻が少ないA群では,破綻の進んだC群に比べて有意に術後視力が良好であった.網膜外層破綻が進む前に手術治療を行うことで視力回復が大きくなることを示唆しており,ELMの存在が術後良好な視力を目指す硝子体手術を行ううえで重要である.本検討では網膜外層の評価にOCTを用い,中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した.OCTによる網膜外層の評価に際しては,OCTのshadowingによる検出不能例が問題となり,shadowingにより実際には保たれているIS/OS,ELMを消失と評価してしまう可能性がある.そのため,今回筆者らは網膜浮腫や硬性白斑による局所のshadowingにより,ELM,IS/OSが陰性と誤評価あたらしい眼科Vol.30,No.1,201391 されないように50%以上連続していれば外層構造が保たれていると基準を少し緩く定めることでshadowingの影響を最小限にするよう配慮した.しかし,それでも黄斑浮腫による網膜肥厚の著しい症例では,OCTの機能・特性上,shadowingによる検出不能例は少なからず存在するはずであり,現時点でのOCTの性能の限界である.今後のOCTの性能向上に期待したい.ELMは漿液性網膜.離を伴う例においても判別可能であるという点で有用である.板谷ら10)は漿液性網膜.離を伴う中心性漿液性脈絡網膜症において,IS/OSは網膜色素上皮との正確な判別が困難である一方で,ELMは評価が可能であると報告している.漿液性網膜.離を伴うDME眼においても,IS/OSの同定は困難である一方でELMは判別可能であった.網膜外層構造の破綻が強く,漿液性網膜.離を含めた多形態を示すDMEにおいて,より多くの症例で網膜外層構造を評価しうる点でELMは優れた指標と考えられる.今回,少数例の検討ではあったがIS/OS,ELMが術後視力の予測因子として利用可能であり,特にELMは有用性が高い指標である可能性が示唆された.今後,OCTの進化による分解能,描出力向上により,さらに正確な評価が可能となるはずである.さらなる症例検討を重ねたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753759,19922)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordiffusemacularedemaincasesofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol122:258-260,19963)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphtalmol127:688-693,19994)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20085)OishiA,HataM,ShimozonoMetal:Thesignificanceofexternallimitingmembranestatusforvisualacuityinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol150:27-32,20106)MaheshwaryAS,OsterSF,YusonRMetal:Theassociationbetweenpercentdisruptionofthephotoreceptorinnersegment-outersegmentjunctionandvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol150:63-67,20107)MurakamiT,NishijimaK,SakamotoAetal:Associationofpathomorphology,photoreceptorstatus,andretinalthicknesswithvisualacuityindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol151:310-317,20118)YanyaliA,BozkurtKT,MacinAetal:Quantitativeassessmentofphotoreceptorlayerineyeswithresolovededemaafterparsplanavitrectomywithinternallimitingmembraneremovalfordiabeticmacularedema.Ophthalmologica226:57-63,20119)中村裕介,安藤伸朗:特発性黄斑円孔の術後閉鎖過程の光干渉断層計による観察.臨眼64:1677-1682,201010)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエドメイン光干渉断層計による中心窩病変出力の検討.日眼会誌111:509-517,2007***92あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(92)

急速に改善したAcute Zonal Occult Outer Retinopathyの1例

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1426.1428,2012c急速に改善したAcuteZonalOccultOuterRetinopathyの1例原和之寺田佳子秋元悦子柴田貴世広島市立広島市民病院眼科ACaseofAcuteZonalOccultOuterRetinopathywithRapidImprovementKazuyukiHara,YoshikoTerada,EtsukoAkimotoandKiyoShibataDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital今回,急速な改善を認めたacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)を経験した.45歳,女性が左眼の暗点を自覚して受診した.眼底に異常はみられなかったが,左眼のMariotte盲点の拡大を認めた.頭部磁気共鳴画像法(MRI),full-fieldelectroretinographyで異常なく光干渉断層計(OCT)で乳頭近くの視細胞内節外節接合部(IS/OS)が不整であることよりAZOORと診断した.その後盲点は拡大,視力が低下したが初診時より1.5カ月で自然に暗点は縮小して視力は改善した.OCTでIS/OSは改善していた.急速に改善したAZOORの1例と考えた.Weexperiencedacaseofacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)withrapidimprovement.Thepatient,a45-year-oldfemale,presentedwithscotomainherlefteye.Noabnormalfindingwaspresentintheanteriorsegment,ocularmediaorfundus.Perimetryshowedanenlargedblindspot.Opticalcoherencetomography(OCT)revealedlossoftheinnersegment-outersegment(IS/OS)junctionintheareacorrespondingtothescotoma.By6weekslater,thescotomahadresolvedspontaneouslyandvisualacuityhadimproved.TheIS/OSjunctionwasalsorestored.WesurmisethatthiswasacaseofAZOORwithrapidimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1426.1428,2012〕Keywords:急性帯状潜在性網膜外層症,光干渉断層計,視細胞内節外節接合部.acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR),opticalcoherencetomography(OCT),innersegment-outersegment(IS/OS)junction.はじめにAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)は1993年にGassが提唱した疾患概念であり,眼底所見は正常であるにもかかわらず視野障害,視力障害をひき起こす網膜疾患である1,2).網膜外層の機能低下が本疾患の機序と考えられていたが,光干渉断層計(OCT)により視細胞内節外節接合部(IS/OS)の不整,欠損が報告され3,4),この仮説が正しいことが証明された.OCTが診断に有用な疾患として注目されている5.7).視野障害は急速に進行するが回復はさまざまとされている2).今回,約1カ月半の間に視力障害,視野障害が進行,改善したAZOORと思われる症例を経験したので報告する.I症例患者:45歳,女性.主訴:左眼の暗点およびその内部の光視症.既往歴:3年前にLASIK(laserinsitukeratomileusis)を受けているほか特記すべきことなし.現病歴:3日前に左眼の暗点に気づき,前日より暗点の拡大を自覚して当院受診.初診時所見:視力はVD=0.5(1.2×.0.75D),VS=0.15(1.2×.1.25D),眼圧は右眼7mmHg,左眼9mmHg,対光反射は正常,前眼部,中間透光体に異常なく炎症細胞を認めなかった.眼底検査,蛍光眼底撮影で異常を認めなかった.Goldmann視野検査で左眼のMariotte盲点の拡大を認めた(図1A).限界フリッカ値は両眼約30Hz,頭部CT(コン〔別刷請求先〕原和之:〒730-8518広島市中区基町7-33広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:KazuyukiHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital,7-33Motomachi,Naka-ku,Hiroshima-shi730-8518,JAPAN142614261426あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(110)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY ABC図1左眼Goldmann視野A:初診時視野.絶対暗点の周囲に比較暗点が広がっている.B:2週間後.暗点は拡大.C:6週間後.初診時と同程度の暗点となった.ABCDEピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)で視神経,頭蓋内に異常を認めなかった.採血検査では特に異常を認めなかった.FullfieldERG(網膜電図)では振幅は保たれており大きい左右差は認められなかった.OCT(3DOCT-1000,トプコン)の水平断で乳頭付近のIS/OSが不鮮明となっていた図2左眼OCT水平断A:初診時,視力(1.2).矢印の間はIS/OSが不鮮明となっている.B:1週間後,視力(0.8).不鮮明な部分が拡大.C:2週間後,視力(0.6).鼻側のIS/OSはほとんど観察されない.D:6週間後,視力(1.0).IS/OSは不明瞭ながら連続的に観察される.E:6カ月後,視力(1.2).正常となっている.(図2A).経過:初診時より1週間後に見にくい部分が中心に近づくのを自覚し左眼視力(0.8)となった.Mariotte盲点はより拡大していた.OCTでIS/OSの不鮮明部分が拡大して中心窩下では不鮮明となっていた(図2B).その1週間後にはさらに盲点が拡大して視力(0.6)となった(図1B).IS/OSはさらに不整となり中心窩より鼻側では部分的に確認できるだけとなった(図2C).外顆粒層は保たれていたが,外境界膜は確認できなくなった.その後特に治療は行わなかったが,初診時より6週間後に光視症は減少して左眼視力(1.0)となった.Mariotte盲点は初診時程度まで縮小し(図1C),中心窩のIS/OSは不明瞭ながら連続的に観察されるようになった(図2D).その後初診時より6カ月後には視力(1.2)で盲点は正常となっていた.眼底に異常は認められずIS/OSは正常であった(図2E).II考按本症例は当初,進行性のMariotte盲点の拡大を認めたことより視神経炎を疑った.しかし,限界フリッカ値は左右差がなくMRIで異常ないこと,本症例では暗さは自覚せず光視症を自覚していたことより視神経炎は否定的であった.また,腫瘍関連網膜症も考慮したがERGの振幅が保たれていること,急速に進行したことより否定的と考えた.本症例では初診時にMariotte盲点の拡大部分に相当する領域,乳頭(111)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121427 中心窩の間の乳頭側1/3の領域でIS/OSの不整,欠損を認め,その後視野障害の進行とともに欠損部分が拡大した.乳頭耳側のOCTは評価しておらず多局所ERGは行っていないが,OCTで進行性の網膜外層の障害があることよりAZOORと診断した.AZOORでは60.88%に光視症を自覚する2)とされており本症例の暗点の中がキラキラするという自覚症状に合致すると考える.ほかにMariotte盲点が拡大する疾患としてMEWS(multipleevanescentwhitedotsyndrome)がある.急速に改善することが知られているが,本症例では初診時より眼底に白点状変化を認めなかった点より否定される.しかしMEWSはAZOORの関連疾患であるとされており2,4),発症より約1カ月ほどで視野が著明に回復した点からするとMEWSに近い症例であったのかもしれない.AZOORは78%が発症後6カ月で症状が安定して進行が停止するが,改善するのは約1/4であり,眼底に異常のないAZOORは視力改善しやすいことが知られている2).今回の症例は比較的短期間の間に悪化と改善が観察され,AZOORとしては経過が良好であった.日本人のAZOORは欧米より軽症である可能性が指摘されている5).また,OCTの普及により網膜外層の障害が検出されやすくなり,本症例のような軽症のAZOORの発見が増加している可能性があると考える.Spaideらの報告4)と同様に今回の症例でもIS/OSの修復とともに視力,視野は改善した.しかしIS/OSが改善しても視野,ERGは改善しない症例の報告8)がある.近年OCTによる網膜構造の評価の指標としてIS/OSの他にCOST(coneoutersegmenttip)が注目されている9).黄斑円孔の術後ではIS/OSよりも遅れて修復され,IS/OSより視力に相関する10)とされている.AZOORについては発症時にIS/OS,COSTが障害されるが,回復期でCOSTが障害されているにもかかわらず視機能が改善している報告がある11).このようにAZOORの回復期ではOCTで観察した網膜外層構造の回復と視機能の回復に乖離がある.最近,補償光学を使った観察によりAZOORでは杆体ではなく錐体の障害が観察されたとの報告12)がある.明るいところで視野障害,光視症が悪化する2)とのAZOORの症状に相当する所見の可能性がある.錐体と杆体で障害されやすさに差があるのかもしれない.今後の課題として注目される.文献1)GassJD:Acutezonaloccultouterretinopathy.DondersLecture:TheNetherlandsOphthalmologicalSociety,Maastricht,Holland,June19,1992.JClinNeruroophthalmol13:79-97,19932)GassJD,AgarwalA,ScottIU:Acutezonaloccultouterretinopathy:along-termfollow-upstudy.AmJOphthalmol134:329-339,20023)LiD,KishiS:Lossofphotoreceptoroutersegmentinacutezonaloccultouterretinopathy.ArchOphthalmol125:1194-1200,20074)SpaideRF,KoizumiH,FreundKB:Photoreceptoroutersegmentabnormalitiesasacauseofblindspotenlargementinacutezonaloccultouterretinopathy-complexdiseases.AmJOphthalmol146:111-120,20085)近藤峰生:AZOORとその近縁疾患.臨眼65:1077-1017,20116)岸章治:AZOOR,MEWS,OMD.臨眼65:1774-1783,20117)MonsonDM,SmithJR:Acutezonaloccultouterretinopathy.SurvOphthalmol56:23-35,20118)水口忠,谷川篤宏,堀口正之:Acutezonaloccultouterretinopathyにおける光干渉断層計所見の経時変化.眼臨紀2:735-738,20099)SrinivasanVJ,MonsonBK,WojtkowskiMetal:Characterizationofouterretinalmorphologywithhigh-speed,ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:1571-1579,200810)ItoY,InoueM,RiiTetal:Significantcorrelationbetweenvisualacuityandrecoveryoffovealconemicrostructuresaftermacularholesurgery.AmJOphthalmol153:111-119,201211)SoK,ShinodaK,MatsumotoCDetal:Focalfunctionalandmicrostructuralchangesofphotoreceptorsineyeswithacutezonaloccultouterretinopathy.CaseReportOphthalmol2:307-313,201112)MkrtchyanM,LujanBJ,MerinoDetal:Outerretinalstructureinpatientswithacutezonaloccultouterretinopathy.AmJOphthalmol153:757-767,2012***1428あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(112)